『携帯電話が開く新しいビジネスとマーケット ―「生活インフラ」への進化を

第18期
情報化推進懇談会
第3回例会:平成16年12月14日(火)
『携帯電話が開く新しいビジネスとマーケット
―「生活インフラ」への進化を遂げる携帯電話』
講
師
株式会社
NTTドコモ
取締役広報部長
鈴木
正俊
氏
財団法人 社会経済生産性本部
情報化推進国民会議
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『携帯電話が開く新しいビジネスとマーケット
−「生活インフラ」への進化を遂げる携帯電話』
―
プロフィール ―
株式会社
NTTドコモ
取締役広報部長
鈴木
◆略
正俊
氏
歴◆
昭和50年3月
東北大学経済学部
卒業
4月
日本電信電話公社
入社
昭和55年2月
日経連(現日本経団連)
出向
平 成 元 年3月
NTT四国支社
平 成 4 年7月
NTT移動通信網株式会社(NTTドコモ)
企画総務部長
企画部担当部長
平 成 6 年7月
NTT
人事部
担当部長
平成11年7月
NTT東日本
企画部
平成14年7月
NTT東日本
理事
平成16年6月
株式会社
企画部門長
宮城支店長
エヌ・ティ・ティ・ドコモ
取締役広報部長
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『携帯電話が開く新しいビジネスとマーケット
‐「生活インフラ」への進化を遂げる携帯電話』
世界の携帯電話加入数
現在、携帯電話は世界で 13 億 5600 万台使われており、1995 年には1億しかなかっ
たものが8年間で 14 倍と、急速な進歩を遂げました。その中で、アジア・大洋州は
4割弱と、ヨーロッパに比肩するほど普及しており、北米・南米のマーケットは意外
と小さく、携帯電話の数は経済力というよりは人口に比例しているといえます。
国別加入数・普及率
国別の普及状況を見ると、中国が3億 1000 万強で、現在も月に 500 万台ずつ増え
ています。ただ、それは沿岸部だけに限られ、中国全体の普及率は 23.4%です。日本
は 11 月時点で 8500 万台、人口普及率 66.5%と、アメリカを上回る高い普及率です。
ヨーロッパではドイツ 80%、英国 95.9%、イタリア 102.9%と非常に高い普及率です
が、プリペイド携帯電話も多いことから、イタリアなどは携帯電話の数というよりは
SIM カード(携帯電話を利用する時に電話機に差込んで利用する契約の情報が記録さ
れた IC カード)の枚数を示した数字ともいえます。
携帯電話のインターネット対応比率
iモードが 1999 年にスタートしてから4年間で急速に増え、携帯電話を持つ人の
9割が何らかの形でインターネットにアプローチできます。携帯電話のインターネッ
ト対応比率は韓国と日本が群を抜いており、最近ヨーロッパとの技術面での提携が、
増えてきています。
日本の通信市場−競争の状況
携帯電話の数は、2000 年に固定電話を超えました。国内に限ると、ドコモの場合、
現在 4700 万のお客様がいて、年間の純増(新規加入者から解約者を引いた数)は約
200 万ですが、携帯電話機の販売は 2700∼2800 万台あり、ほとんどが取り替え需要と
いえます。
純増では、今年はKDDIが多く、ドコモは2位に甘んじています。1997∼1998 年
には、PHSも含めて9地域で6∼7事業者あったものが、再編統合する中で現在は
携帯電話ではドコモ、KDDI、ボーダフォンの3グループに収斂されてきた歴史が
あります。
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日本の携帯市場の特長
日本の携帯市場の特長は、世界有数の市場規模と高い人口普及率です。台数は人口
の多い中国・インドのほうが圧倒的に多いのですが、普及が均質的に進んでおり、モ
バイル・インターネットの世界では群を抜いています。携帯電話機自体は売れていま
すが、量的な伸びは少なく、市場は成熟期を迎えているといえます。
ドコモの業績の推移
37 社の連結決算で、営業収益は 2000 年度が 4 兆 1781 億、2001 年度が4兆 6593 億、
2002 年度が4兆 8091 億、昨年度が5兆 481 億と増えてきましたが、今年は4兆 8200
億と、約 2000 億ダウンする見込みです。これは主に割引関係の値下げによるもので
す。
FOMAサービスエリアの拡大
FOMAは新しい第3世代の電話機で、4700 万台あるドコモの携帯電話の中で 800
万ですが、第2世代の電話機とほぼ同程度のエリアカバレッジを実現しており、魅力
的な機能を搭載した新機種の登場により、ここへきて第2世代から第3世代への移行
が急速に進んでいます。
FOMAiモード利用パケット数の推移
定額制で周波数を固定するとほかの人が利用できないということで、携帯電話の世
界では定額制がタブーとされてきましたが、高額利用者もいることから、今年6月か
ら定額制を導入しました。そのとたんにパケット数が急速に上がり、定額制のニーズ
が大きいことが示されました。
mova新ラインナップ
iモード対応端末で世界最小の携帯電話の premini、超薄型の Prosolid、音楽も聞
くことができる MusicPORTER など、携帯電話も機能の時代からデザインの時代に入り、
競争はアイデア勝負の世界になってきました。
今後の端末の展開
2004 年は、FOMAの 900 シリーズで、なおかつ、現金決済機能を持つ FeliCa、
あるいは外国でも通話可能な国際ローミング機能搭載の端末も出てきました。来期以
降は、3.5 世代といわれるHSDPAというハイスピードの端末が出てきます。
携帯電話の進化∼通信インフラ→ITインフラ→生活インフラ∼
携帯電話事業が本格化した 1992 年から 98 年ごろまでは、通信機能に主力を置いた、
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通信インフラとしての携帯電話という世代でした。
99 年にiモードが始まったことで、インターネットにつなぐ携帯電話が情報インフ
ラとして利用されるようになり、2003 年までの4年間で急速に立ち上がって1兆円の
市場が生まれましたが、今はこれもほぼ頭を打った状態です。
現在、チャレンジとして始めているのが、携帯電話に端末としていろいろな機能を
果たす生活インフラとしての携帯電話です。
「安心」してご利用いただくために
日本の携帯料金は世界的に見てそれほど高くありません。事業者間の競争の中で、
高額利用者には定額制パケ・ホーダイが開始され、低額利用者にはパック割引の料金
体系がとられています。また、無料通話の2か月繰り越し・家族間の共有といったサ
ービスが始まり、ドコモの場合、これだけをみても実質年間 400∼500 億の値下げに
なっています。
セキュリティ面では、認証機能、位置情報、アンチウィルス、ウィルス対策、エア
ダウンロード、迷惑メール対策、災害伝言版などの機能が搭載されています。
新しい価値の創出を目指して
これからの携帯電話の方向として、ドコモでは「ユビキタス」「マルチメディア」
「グローバル」という三つのキーワードを設定し、携帯電話事業者の夢である、世界
中で「いつでも、どこでも、だれとでも」の実現を目指しており、そのベースとして、
セキュリティは必須条件として担保していかなければならないと考えています。
映像コミュニケーションの普及促進
映像系のFOMAは 800 万台普及しており、オーディオ・ビジュアルの機能を利用
し、双方向のテレビ電話、遠隔からの業務監視はもちろん、ペットや赤ちゃん、お年
寄りまでの監視といったサービスが始まっています。現在のところ、利用者数の2割
が使ったことがあるという状態で、まだこれからのサービスです。
映像配信型サービスは、テレビ番組や映画、中継など、パブリックにもプライベー
トにも使えるエンターテイメント系のサービスです。また、通販の映像カタログにも
使えます。
映像コミュニケーションの例∼Viewer Port∼
Viewer Port は、FOMA と組み合わせて利用することで、テレビ電話機能による遠隔
監視ができる製品で、これを設置しておくと、店舗の監視、家庭の見守りなどもカメ
ラを通じて携帯電話に映し出すことができ、テレビ会議に外から携帯電話で参加する
こともできます。
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移動通信と固定通信の融合
1台の携帯電話で、社内では内線電話、外に出れば移動通信端末という移動通信と
固定通信の融合が始まっています。
グローバル事業の推進−海外iモードの展開
iモードの提携は世界で進んでおり、現在、ヨーロッパを中心に 16 の国および地
域で実現する運びとなっています。そのため、国内のコンテンツ制作会社にも、ヨー
ロッパなどからの引き合いが出てきています。日本の電話機は非常に精度の高い端末
機なので、これからはこの分野も国際的に発展していくと思います。
ローミングサービスの推進
ローミングサービスで通常の国際電話ができる携帯は、110 の国および地域で通話
でき、これからは日本の電話機を持って海外に行っていただける時代になります。
ユビキタス∼動くものすべてに∼
携帯電話、メール、テレビ電話など、現在は人と人が通信の基本ですが、そこから
人対機械(位置情報、電子新聞、音楽配信、電子決済等)、機械対機械(環境監視、
遠隔監視・制御、テレマティクス等)へと進みつつあります。
ユビキタス時代のテレマティクス
これからは車両関係のテレマティクス、ITSの世界が進んでくるのではないかと
思います。これにはトヨタ、日産、ホンダなど全自動車メーカーが取り組んでおり、
車の製造過程からその機能を組み込む時代になってきています。
この分野では、無線LAN、あるいはホットスポットにおいて注目されていた
Bluetooth 通信が、携帯電話とカーナビゲーションの技術の中で、ハンズフリーで対
応していくところが非常に便利だということで着眼されてきています。
さらに、自動車の位置検索やメールによる異常通知といったセキュリティの分野が
車の中では出てくると思います。
生活・ビジネスに役立つケータイ
パケット通信を 3900 円以上ご利用されている方は、現在はまだ 15%程度しかいま
せん。通信料でいうと大半が定額制の 3900 円以下のかたなのです。その方たちにも
っと便利に使っていただくために、いわゆるおサイフケータイやチケットの購入など、
関連する他企業とのアライアンスによって、現実の端末としてカード代わりに使って
いただくビジネス分野がこれから広がっていきます。
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外部インターフェースとの連携
そのツールとして、一つはQRコード、2次元バーコードがあります。都内のスー
パーでは、生鮮食料品に生産者情報が入ったバーコードがついていることが多くなっ
てきました。また、ポスターなどにつけて、それを携帯電話で写すとホームページに
アプローチできたりします。現在、ドコモの端末でいうと 1400 万台のお客様がこの
サービスを利用できる状態となっています。
赤外線通信は、例えば自動販売機で携帯電話をピッとやると、その分料金が落ちて
商品が買えるというサービスです。これを会員証や身分証明書代わりにすることもで
きます。ドコモでこの機能が使える携帯は、現在、2700 万台あります。
非接触ICで、ドコモが提供しているのは Edy というシステムです。いわゆるタイ
プA、B、Cの中でいうと、今、タイプCでスイカを進めており、ゆくゆくはJRや
私鉄の全ゲートが携帯電話で通過できるようになります。現在はコンビニでの決済で
非接触ICを使っていますが、まだ数は 60 万台しかありません。しかし、新しい機
種が出たので、今後、急速に増えると思います。
先ほどの Bluetooth は、携帯電話とパソコンの接続、自動車の組み込み機との通信
などで新しいツールとして使われます。
このようにインターフェースが増えてきたことで、生活ケータイのベースができつ
つあります。
リアル携帯ビジネスの展開−おサイフケータイはじまる!
iモード FeliCa は、おサイフケータイとして「ケータイ・デ・ピッ!と」という
宣伝をしています。今いちばん大きいのは電子マネーとしての利用で、自動販売機、
コンビニの決済などがあります。ほかにマイレージカードと連携し、飛行機の搭乗券
の代わりとしてスルーパスで通っていける機能や、クレジットカード、社員証の入退
室管理、電車やバスの定期券・乗車券、チケットもすでに「ぴあ」と連携が進んでい
ます。福岡では、マンションのかぎの代わりに使い、かぎ穴をなくして侵入を防止す
るサービスも始まっています。
携帯電話は、クレジットカードに画面とキーがついているものですから、クレジッ
トカードの機能はすべて可能です。そこにさらに画面や通信機能がついているので、
この機能をどう組み合わせて、何に役に立てるかを考えていく時代になっています。
iモード FeliCa のメリット
FeliCa は、ピッとかざすだけで機能を果たし、スピーディなデータ送受信が可能で
す。さらに、暗号等でセキュリティも非常に高くなっています。それをiモードに搭
載することで、いろいろな機能を果たすときに画面で確認したり、ネットワークを利
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用したり、非常に利便性の高いものになります。
今のネット決済は、ほとんどがチャージしたものから落としていくプリペイドの形
ですが、最近は後払いもできるようになってきています。QUICPay は、クレジットカー
ド代わりに使い、後から引いていくもので、今はJCBとイオンだけですが、徐々に
広がっていくと思います。
現在、もろもろのサービスを合わせると1万 2000 店舗で FeliCa が使われています。
この1年ほどでそこまで広がったので、これからはもっと広がっていくと思います。
移動通信システムの発展
1980 年の終わりから出ていたのは、アナログ方式という通信関係の機能です。それ
が 90 年代になってデジタル方式になりますが、このときは 9600bps 以下でした。2000
年代になると、FOMAのW-CDMAというヨーロッパ・日本方式と、KDDIのc
dma2000 というアメリカ方式の第3世代が出てきました。最近は、3.5 世代といわ
れる、速度が最大 14Mbps のHSDPAの開発が進められています。
第4世代移動通信方式の目標
2010 年に向かっては、最大 100Mbps の第4世代が開発されつつあります。ただ、第
1世代から第2世代、第3世代への変化は、単にスピードだけでなく、音声からデー
タ、映像へとサービス内容が大きく変化しています。したがって、第4世代もスピー
ドが速くなって何ができるかを考えていく必要があります。これまでは固定通信のほ
うが携帯よりはるかにスピードが速かったのですが、第4世代になると速度的に同じ
レベルになりますので、固定と携帯がシームレスになる姿が現れてくると考えられま
す。
したがって、次世代インターネットのサポートや、固定網と自営網とのサービスの
シームレス化が進んできます。コストも第3世代の 10 分の1以下になります。さら
に、テレビ番組を第3世代でダウンロードすると 45 分の番組で7時間もかかるもの
が、来年から始まるHSDPAでは 22 分、第4世代になると9分になります。音楽
も、現行では 60 分のCDで 13 分かかるものが 16 秒でできるようになります。こう
した高速のメリットだけでなく、それを利用した使い方を考える時代に入っています。
新たなコミュニケーション形態の創出
当社では、将来型を絶えず探求していく中で、生体情報の解析技術を進めています。
まず、生体系のインターフェースとして、声を出さずに言葉を伝える信号系の認識機
能を持つ携帯が考えられます。
また、パーベイシブインターフェースといって、次から次に情報が追いかけてくる
ので、情報を持たなくても動けるようになります。分身インターフェースを使えば、
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例えば体の不自由なかたが病院から出られなくても、自分のダミーを音楽ホールに置
いておくと、その音を体感できます。そして、ゆくゆくはウェアラブルコンピュータ
として人の動きと一体になった通信ができてくるだろうと考えています。
また、生体解析技術の一つとして、手首を返すと信号が送れるといった人間の動作
を携帯の操作性に応用する研究もしています。
FOMA端末用マイクロ燃料電池の試作
携帯のアキレス腱は、電池です。来年から地上波デジタルが始まり、テレビが見ら
れる携帯電話が続々出てきますが、実は今の携帯電話で映像を映すと2時間弱しかも
ちません。考えられるのは、持ち運びのできる補助電源で4倍ぐらいもたせる方法で
す。さらに、電池を燃料カプセルにして携帯電話に埋め込めば、映像でも7∼8時間
もつようになって汎用性が高くなります。いずれにしても、燃料電池をどうするかが
携帯電話の将来に向けたブレークスルーになってきます。
災害への取り組み(iモード災害用伝言板サービス)
中越地震のときには、iモード災害用伝言板へのメッセージの登録が 10 万 8000 件
あり、そのメッセージを 14 万人のかたにご確認いただきました。これからもこのよ
うな災害時の対処を万全にしていかなければいけません。
携帯電話の負の側面とドコモの取り組み
携帯電話の普及とともに、迷惑メール問題、携帯電話のマナー問題、ワン切り問題、
パケットの高額請求、架空請求(オレオレ詐欺)など、負の側面が多くなっているこ
とも事実です。それについて、私どもで全部できるわけではありませんが、事業者と
して何ができるか考えていく必要があります。そこで、4月にモバイル社会研究所を
立ち上げて、負の側面についてのハード的な対処だけでなく、根源的に考える研究を
行っていくことにしました。
携帯は、これから通信だけでなく生活のツールとして活用する分野にチャレンジし
ていくことになります。ドコモでは、「ユビキタス」「マルチメディア」「グローバル」
という三つのキーワードと、それを担保する「セキュリティ」について、さらに発展
させていきたいと考えています。
以
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上