●第 45 回日本人工臓器学会大会 論文賞(代謝領域)受賞レポート Intercellular localization of occludins and ZO-1 as a solute transport barrier of the mesothelial monolayer * 1 三重大学大学院工学研究科分子素材工学専攻,* 2 同 医学部附属病院血液浄化療法部 金田 健一* 1,宮本 啓一* 1,の村 信介* 2,堀内 孝* 1 Ken-ichi KANEDA, Kei-ichi MIYAMOTO, Shinsuke NOMURA, Takashi HORIUCHI 1. 目 的 長期腹膜透析に合併する腹膜機能劣化は溶質透過性の亢 進としてとらえられる場合が多いが,多層構造である腹膜 各層の構造変化やそれに伴う機能劣化を in vivo の情報か ら言及することは極めて困難である。本研究では,溶質透 過には細胞間結合装置の一つである tight junction1) に重要 ( ( ) 4V Ca0 − 4Cb4 (m/s) K =− ln Δ t・A Ca0 − 4Cb2 ) V: basal 側体積(m3),A: 膜面積(m2), Δ t: 時間変化(s) , , Ca0 : apical 側初期濃度(μg/ml) , Cb2 : 2 時間後の basal 側濃度(μg/ml) Cb4 : 4 時間後の basal 側濃度(μg/ml) な役割があると考え,腹膜中皮細胞(human peritoneal 測定は 37℃で行い,蛍光測定装置(F-2000, HITACHI, mesothelial cell, HPMC)を膜支持体上に培養した腹膜透過 Tokyo, Japan)を用いた。また,1 mM,0.1 mM の過酸化水 モデルを作成し,その透過特性と細胞間結合分子との関係 素を含む培地で 30 分インキュベートし,過酸化水素の溶質 を調べることを目的とした。 透過性へ与える影響を調べた。 3)免疫染色 2. 方 法 細胞間結合蛋白オクルディン,ZO-1 を免疫染色し共焦点 1)膜間電気抵抗測定 レーザー顕微鏡(FV1000, Olympus, Tokyo, Japan)を用い ヒト大網から単離,培養した HPMC を孔径 0.4 μm ポリ てその分布を観察した。一次抗体には rabbit anti-ZO-1 エ ス テ ル 膜(Transwell, Costar, MA, USA)上 に 5 × 10 4 antibody と rabbit anti-occludin antibody(Zymed Laboratries cells/cm2 の密度で播種し,10% FCS/M199 で培養した。 Inc., CA, USA)を用い,二次抗体には polyclonal swine anti- 細胞間の結合状態は 2 本の電極対で構成されている STX-2 rabbit immunogloblins labeled with FITC(Dako, Glostrup, 電 極 と EVOMボ ル ト オ ー ム メ ー タ ー(World Precision Denmark)を使用した。また,0.1 mM の過酸化水素を含む Instruments)を用いて測定した。電圧検知用± 20 μA の交 培地で 30 分インキュベートし,過酸化水素の細胞間結合蛋 流矩形波電流を 12.5 Hz の低周波で印加し,両端の電圧測 白の局在化へ与える影響を調べた。 定から,オームの法則 R = V / I より抵抗値を算出した。膜 間抵抗値が一定となった時点を,confluent とした。 2)溶質透過性試験 3. 結 果 図 1a に HPMC 播種後の膜間電気抵抗の変化を示す。本 confluent 後の HPMC 単層を腹膜透過モデルとして,蛍光 実験条件下では,ほぼ 3 日でプラトーに達した。この細胞 ラベルした分子量 4,10,70,150 kDa のデキストランの溶 間結合状態は 0.1 mM の過酸化水素曝露により,30 分以降 質透過係数 K を以下の式より求めた。 に有意な減少が示された(図 1b) 。 図 2 に溶質透過性の結果を示した。ポリエステル膜のみ ■著者連絡先 三重大学工学部分子素材工学科生体材料化学研究室 (〒 514-8507 三重県津市栗真町屋町 1577) E-mail. [email protected] (blank)に比べると,HPMC 単層(control)では溶質透過性 が低下し,物質移動の抵抗として働いていることが認めら れた。その透過性には分子量依存性が見られ,過酸化水素 人工臓器 37 巻 1 号 2008 年 17 (a) (b) 図 1 Changes in TER (a)Development of TER in the HPMC monolayer cultured on a polyester membrane support. (b)Change in TER of the HPMC monolayer due to exposure to 0.1 mM H2 O2 . TER, transepithelial electrical resistance; HPMC, human peritoneal mesothelial cell. 図 2 Solute permeability coefficient of polyester membrane for each molecular marker with and without the HPMC monolayer HPMC, human peritoneal mesothelial cell. 添加により溶質透過性は亢進した。また,特に 4 kDa デキ ストランにおいて,過酸化水素による透過性亢進に濃度依 図 3 E f f e c t o f 0.1 m M H 2 O 2 e x p o s u r e o n i n t e r c e l l u l a r localization of occludins and ZO-1 存性が見られた。 図 3 に免疫染色による蛍光画像を示す。細胞間隙部位に オクルディン,ZO-1 が局在していることが確認できた。ま た,過酸化水素添加によりオクルディンの間隙部での局在 化の著しい低下が見られ,ZO-1 においても一部局在化の低 5. 独創性 腹膜は多層の複合膜であり,その透過性の亢進を個々に 把握するためには単層培養系を用いる以外手段は無い。特 下が見られた。 に,HPMC 単層の溶質透過性を取り扱った先行研究は無い 4. 結 論 が可能となる本実験法は,腹膜透析における溶質透過性亢 ため,同一実験条件下で血管内皮細胞単層との透過性比較 以上の結果より,過酸化水素が HPMC 単層の溶質透過性 亢進の一因になることが認められた。また,透過性亢進は, 結合タンパクの構造変化などにより分子間の結合が弱ま り,間隙部の非局在化が起こることが原因であると考えら れる。 18 進のメカニズムを解明するための強力なツールとなり得る。 文 献 1) Harhaj NS, Antonetti DA: Regulation of tight junctions and loss of barrier function in pathophysiology. Int J Biochem Biol 36: 1206-37, 2004 人工臓器 37 巻 1 号 2008 年
© Copyright 2024 Paperzz