Lesson 3 契約(1)

 Lesson 3 契約(1)
teller machine)でローンを申し込む(行為による契約)などがその例
契約は最も基本的な法律関係であり、ビジネスの基礎として大きな意味をもちます。 Lesson 3
から Lesson 6 では英米法における契約理論について学びましょう。
■約因(consideration)
契約上の債務の対価として供される「見返り」のことをいう語で、英米法に特有の概念です。
左記の例では B が A に 50 万円支払うことが約因に該当しますが、これは A の B に対する債
契約とは
務(車を引き渡すこと)の代わりに B から A に移動するお金のため見返りになっているわけ
英米法における契約(contract)とは、
「(1)法律的に能力(capacity)のある当事者(party)
です。この例では「現金の支払い」ですが、
「支払いの約束」
(例、クレジットカード払い)でも
による、
(2)約因(consideration)という見返りをともなう、
(3)有効な(valid)意思表示
「サービスの提供」
(例、A の家の芝刈りをする)でもよく、
「代替品の提供」
(例、テレビをあ
(declaration of intention)により交わされた、
(4)合法的な(legal)約束(promise)」と定義す
げる)でもかまいません。しかし、
「ただで車をあげる」という約束は約因を欠くことになるた
ることができます。似た言葉に合意(agreement)がありますが、この語は単に当事者間
め契約としては無効とされます(もちろんこれは法律行為として保護されないというだけで、
の意思の合致状態を指す一般語で、契約の(1)∼(4)のように厳密な条件を必要とする
このような約束をしてはいけないということではありません。もしこのような約束を契約に
ものではありません。
したい場合には、捺印証書による契約という方法をとります)。
次のような具体例で考えてみましょう。A が自分の車を 50 万円で B に売ろうと持ち
かけたとします。A、B が普通の判断能力のある成人であれば、
(1)の条件を満たしま
例文
す。しかし、未成年者(minor)や心神喪失者(insane person)
の場合は(1)の条件を満たし
Once a contract has been made, that contract is as binding upon the parties
as any statute or any other law, and one party cannot withdraw without
additional agreement by the other party or parties.
ません。
(2)
の約因にあたるのは、車と引き替えに B が A に 50 万円を払うことです。ま
た、両者が内容をよく理解して平穏に合意がなされた場合は(3)の条件を満たしますが、
そうでない場合の意思表示は当事者の真の意思を表現していないため、無効(invalid)に
binding 拘束する / withdraw 撤回する
なります。さらに、売買の対象がコピー商品のような場合、売り買いすること自体が
訳例 いったん契約が締結されれば、あらゆる制定法やその他の法律と同じくそれは両当事者を
違法なため(4)に抵触します。これらの有効な契約のための条件については、引き続き
拘束する。このため、一方の当事者は他方の当事者(単数または複数)の合意がなければ、
Lesson 4 で扱います。
契約を撤回することはできない。
Point ● and one party cannnot ... の and は「それゆえ」(therefore)、
「それで」(so) の意味です
Terms □ contract 契約 ref. covenant (捺印証書による)契約
● additional は、
「契約の締結時と同様、撤回時においても」という意味で使われている形
□ capacity 法(律)的能力 ref. competency (証言)能力
□ party (契約・訴訟の)当事者
容詞ですが、訳文ではむしろ省いた方がすっきりします ● the other party or parties は、
単数・複数どちらの場合にも記述が適用されるようにするための法律文によくある書き方
➥party には個人も会社等の法人も含まれる
です。ここではかっこ書きしましたが、省略してもかまいません
□ consideration 約因、対価
➥
「約因」
は契約の原因という意味でつくられた造語
□ intention = intent 意思 cf. declaration of intention 意思表示
!「意志」
と書き間違えないように注意。法律用語としては「意思」が用いられる
□ legal 合法的な ⇔ illegal 非合法の、違法の
cf. lawful 適法の ⇔ unlawful 不法の
➥illegal は内容的なこと、lawful は形式面を示すことが多い
□ agreement 合意 cf. promise 約束
□ minor 未成年者 a. 未成年の ⇔ legal[full]age 成年
□ insane person 心神喪失者
□ invalid 無効な cf. valid 有効な
□ obligation 債務
□ deed 捺印証書
□ express contract 明示の契約
口頭(oral)や書面(written)による意思表示に基づく契約のこと。たとえば電話で
カードローンを申し込む(口頭による契約)、書類に記入してローンを申し込む(書
面による契約)などがある
□ implied contract 黙示の契約 行動(action)や行為(act)による意思表示に基づく契約のこと。ATM(automatic
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UNIT 1
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Lesson 4 販売店契約
翻訳のポイント
Lesson 3 では製造ライセンス契約について学びましたが、ここではメーカーなどの海外進出に
ともなって現地販売店との間で交される販売店契約の一例を訳してみましょう。
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DISTRIBUTORSHIP AGREEMENT
海外の一定地域において、特定の製品や商品を拡販するための特約店を一般に販売代理
店と呼びます。実際には販売店と代理店とを兼ねている場合が多いのですが、代理店に
は法的な意味が付与されています。したがって、agency agreement(代理店契約)とは本人
DISTRIBUTORSHIP AGREEMENT
(principal)と代理人(agent)との間の授権・内部関係を規定したもので、商品の売買は行
THIS DISTRIBUTORSHIP AGREEMENT made and entered into this
fourth day of July, 1994 by and between MOONTORY LIMITED, a Japanese
corporation having its principal office at 8-15, Azabu-dai 1-chome, Minato-ku,
Tokyo, Japan (hereinafter referred to as “Moontory”), and Delta Corporation, a
Delaware corporation having its principal office at 30 Avenue of the Americas,
New York, New York 10012, U.S.A. (hereinafter referred to as the “Distributor”),
WITNESSETH:
われません。これに対し、販売店(distributor)は、自己の計算とリスクでメーカーや輸出
業者から商品を買い、一定地域内で再販します。この売主との間の取決めが distributorship
agreement に表示されています。
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3
made and entered into …
契約書に頻出する類義語の反復表現です。
「締結された」
(○)と訳します。
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hereinafter referred to as …
これも契約書に多く見られる表現です。
「以下∼という」
(○)と訳します。
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a Delaware corporation
デラウェアは米国東部の小さな州ですが、ニューヨーク証券取引所の株式上場会社で、合
衆国の各州会社法に基づいて設立されたもののうち半数近くがデラウェア法人となってい
ます。他の州法に比べ、会社設立手続が簡素化され、規制も少なく、また州に支払う税金
WHEREAS, the Distributor wished to furnish Moontory with its marketing
expertise for the development and promotion of the sale of the Products
(hereinafter defined) in the Territory (hereinafter defined); and
や手数料が低く抑えられていることなどがその人気の秘密です。この「デラウェア法人」は
覚えておくとよいでしょう。
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WHEREAS, Moontory has appointed its distributors on the basis of their having
properly trained sales staff to serve the customers within their respective market
areas, as well as their acceptable financial status and effective facilities; and
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WITNESSETH:
訳例では WITNESSETH を「∼締結された。記」
(○)と訳していますが、Lesson 3 のように
「∼締結され、以下のことを証する」
(○)と訳してもかまいません。
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the Products(hereinafter defined)
このかっこ内の言葉は、契約の対象となる製品の説明で、
「まだ定義はされていないがこれ
から定義される」という意味です。契約書の場合は、かっこ内を Products の前にもってき
WHEREAS, the Distributor has demonstrated to Moontory its capability to
meet the qualifications set out above;
て「以下に述べられた製品」
(△)と訳すより、
「製品」
(下記に定義)
(○)と訳すのが一般的
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です。この場合、製品は契約の対象となる製品なので「 」をつけるとよいでしょう。
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この地域も契約の対象となる地域のことなので、
「 」をつけて「契約対象地域」
(○)と訳し
NOW, THEREFORE, the parties hereto hereby agree as follows:
ます。
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distributorship agreement 販売店契約
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principal office 主たる営業の場所
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distributor 販売店
acceptable financial status
acceptable は一般的に、
「受け入れられる」、
「容認できる」といった意味ですが、このまま
financial status にかけて「容認できる(財政状態)」
(△)と直訳すると、日本語として不自然
な訳になってしまいます。ここでいう「容認できる(財政状態)」とはどのような状態かを具
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expertise 専門知識、専門技術 / Products「(契約)製品」
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Territory「(契約対象)地域」
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financial status 財政状態
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the Territory
体的に表し、
「良好な(財政状態)」
(○)などと訳すと意味が通るようになります。
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