報告書 - 先端医療振興財団

平成 27 年度
経営計画中間評価にかかる
外部評価報告書
外部評価委員会
平成 28 年 3 月 28 日
公益財団法人
先端医療振興財団
1.はじめに
(公財)先端医療振興財団(以下「財団」という。
)は平成 12 年 3 月の設立から平成 27
年 3 月には 15 年経過の節目を迎えた。この中で、平成 27 年 7 月には新たに本庶佑理事長が
就任され、今年度の外部評価委員会はこの新理事長からの要請により招集された。
今回の外部評価については、平成 25 年に策定された第 3 期経営計画(計画期間:平成 25
年 4 月 1 日~平成 30 年 3 月 31 日)が平成 27 年度をもって計画の中間年度にあたることか
ら中間評価の位置付けとなるが、財団が新体制となったこともあり、今後の財団運営に向け
た提案や助言を多く含むものとなった。
個別の事業の評価については、内部評価において詳細に点検されており、適切に行われた
ものととらえている。よって、この外部評価においてはより俯瞰的な各委員の専門分野から
述べられた意見を中心に取りまとめを行うこととし、将来に向けた提案や助言についてはで
きる限り調整無く提示している。
この報告が財団の今後の発展に少しでも寄与することができれば幸いである。
2.外部評価の⽅法
1)外部評価事前説明(H27.8~9)
外部評価委員への就任依頼と併せ、財団の組織・事業概要等について説明を受けた。
配布資料
・中間評価について(概要)
・第 3 期経営計画、第 2 期経営計画、前回外部評価委員会報告書
・平成 26 年度年次報告書
ほか
2)財団内部評価報告(H28.1~2)
財団内部で自己点検し、評価を行った内部評価報告書の提出を受けた。
3)外部評価委員会 開催概要
①外部評価委員会構成(別紙1)
②開催日時:平成 28 年 2 月 16 日 15:00~19:30
③実施概要
・財団各部門からの事業説明・プレゼンテーション
・質疑応答
・総合討議
4)外部評価委員会報告書
外部評価委員会の討議及び各委員からの個別意見書を取りまとめ作成した。
3.評価の結果
1)総括
個々の事業・プロジェクトにおいては、適切に内部評価を行っている。研究・事業など
順調に展開しており、一定の成果に結びつけているものも多くみられた。研究プロジェク
トにおいて多くの研究費助成を得ている面も評価される。
一方で、財団としての全体像の確立、統合性や最適化のプランが見えにくくなっている
こと、部門間の横断的つながりの面でガバナンス機能の一層の強化が求められる。
また、財団の事業・プロジェクトが様々な広がりを見せるなか、神戸医療産業都市全体
の目的のうち、中核機関として財団が果たすべき役割を改めて整理し、焦点を絞り込んで
いくことも必要ではないかと考えられる。
一例としては、病院経営とトランスレーショナルリサーチ(TR)を財団が両立していく
ことが財団の規模から今後も可能かどうか、研究が一定の進捗を見せたのちは適切に企業
等へ引き継いでいくべきではないか、といったことについては検討を進めるべきであろう。
収支においても、収入源の多くが短期の財源と思われる研究費助成や補助金によって構
成されており、中長期の事業継続を見据えていくのであれば、研究成果の移転、知的財産
への転換、中間派生物の商業化、技術指導サービスの提供など収入基盤の強化を図ってい
くことも重要になってくる。
このほか、財団で行われている研究・事業・プロジェクトの成果は神戸医療産業都市の
成果でもあり、積極的に市民に公開・情報発信がなされるべきものである。他方、神戸は
国際都市であり場所的にもアジアの中心になりうるポテンシャルを持っており、グローバ
ルな視点を持つべきでもある。これらから、ビジネス面でのアピールとも合わせ、戦略的
な広報・情報収集を行っていくことが必須である。
財団設立から 16 年を経過することとなり、医療・研究を取り巻く環境は大きく変化し
ている。新理事長を迎える中で、新時代の発展のため財団の存立ミッション、コンセプト
を再興する時期を迎えているのではないか。
今後の中長期ビジョンを検討していくうえでは、研究・事業の方向や領域だけでなく、
財団ミッションの再興や組織再編も視野に議論を深めていくことが必要だろう。
2)主な意見・コメント
(1) 全体
① 事業進捗の評価について
・個々の事業に関して、適切な内部評価が行われている。
・ほとんどの領域で研究プロジェクトは順調に推移しており、高い成果を挙げているもの
が多い。
・全体的によく努力し十分な成果を挙げているところは評価できる一方で財団としての全
体像が見えない。
② ガバナンスについて
・財団の全体像、横断的事業間のつながり等、全体マネジメントについて言及が少ない。
・各部門間の連携、ネットワークがみられない。
・全体の統合性や最適化などのプランが見えなかった。
・経営企画部を中心に研究開発のガバナンスの体制を強化し、研究開発業務から得られる
研究費収入を用いた独自の技術を、病院や関連機関を通じた治験を通じて、データ実装
を行い、付加価値を高めて、クラスター推進センター等を通じて、内外の企業機関への
紹介を行い、そことの提携を強めて、収入基盤を強化した方がよいと思われる。
③ 役割について
・神戸医療産業都市の全体像と財団事業の関係を明らかにしてほしい。
・財団は、神戸医療産業都市の中核機関であり、クラスター内の研究機関・企業等を結び
つけることで、クラスター内の相乗効果を拡大する役割も重要である。
・病院経営と先端医療の提供(特に TR 推進)というミッションとの両立が図れるか。
・基礎研究、応用研究、TR(臨床研究も含む)
、医療(病院)と事業範囲が幅広になって
いる。今後の事業について、どのようなバランスで進めていこうとしているのか明らか
にしてほしい。
・中央市民病院と連携し、治験病床とするなどの方向が考えられる。
④ 収支構造について
・技術移転に伴う多角化を進め、研究成果の移転、知的財産への転換、中間派生物の商業
化、技術指導サービス等の面での収入を増やした方が日本産業への貢献になる。
・収入面では、研究費助成と補助金が収入源の多くを構成している面は見直しが必要だろ
う。
・建物の賃借料が経営を圧迫していると思われる。これを建物は財団所有とし、借地料だ
けを支払う仕組みに変えることができれば、事業責任者は冒険的な事業まで手がだせる
ようになるのではないか。
⑥ 情報発信について
・医療・研究等の供給サイドの事業は着実にすすめられているが、需要(消費者、患者、
市民)の側からの視点はあまりない。財団でおこなっている研究や臨床の内容を市民向
けに積極的に公開、情報発信することも必要である。
・神戸の持つポテンシャルを活かし、グローバルな視点で発信することも必要。
⑦ 今後の経営計画策定に向けて
・研究方向、領域のみならず、組織の再編を考慮することを望む。
・全体の長期ビジョン、中期ビジョンの検討が必要である。
(2) 先端医療センター
【研究所】
① 役割
・PET 関連研究および Vero4DRT 放射線治療研究は、病院への移管が望ましい。
・探索臨床ができるセンターにしてはどうか。
・研究が具体的なビジネスに結びつく構図が見えると良い。
・プロジェクトの進捗・管理の仕組み作りをした方が良い。
・研究所から病院への切れ目ない橋渡しや移管を行い、研究所は常に時期新テーマに挑戦
できる体制を作る必要がある。
・病院との連携や成果の活用が可視化されるような姿があると市民にとってわかりやすい。
・地域経済との強い連携性を勘案すると地元への経済波及効果は大きい。
② 研究・事業
・疾患の本態解明と創薬支援ネットワ-クのコラボレーションを考えてはどうか。
・ASPD の研究を重点化してほしい。
・新研究部門(分子病態研究部)設立にあたり、病院との連携により、患者由来の試料や
患者の医療情報を利用しやすい組織を構築する。
再生医療分野
・脳梗塞は重要な unmet medical needs なので研究を強力に進めたらどうか。
・再生では軟骨再生が重要。
・再生医療の認可を受けるに必要なレギュラトリーサイエンス研究をしているか。
映像医療分野
・アルツハイマーの診断は現在行われている以上の精度が必要かどうか。
・国家プロジェクト、第 2 期 J-ADNI のリーダーとなり、画像診断評価法を確立して
欲しい。
③ 予算・収支
・知的財産化を通した収入確保、技術指導や研究コンサルティングで収入確保した方が良
い。
【病院】
① 役割
・60 床では黒字化は難しい
・中央市民と連携し、治験病床とするなどの方向が考えられる
・対象とする治療範囲を絞り込む
・研究部門と関連性の少ない赤字の診療科(歯科、耳鼻科等)は近隣病院に移管して
はどうか。
・病院とアイセンターを中央市民病院に引き取ってもらい財団と切り離す。
② 予算・収支
・高額リース機器を他の研究プロジェクトで利用し、機械稼働率を上げて、その使用料収
入を得る等、診療以外の収入を増やす。
(3) 臨床研究情報センター
① 役割
・AMED 以降、TR の HQ 機能について次期計画に向けスタンスを定めるべきである。
・CRO として独自の機能強化を図ってはどうか
・TRI は独立して、アカデミア創薬の促進をしてほしい。
② 予算・収支
・臨床研究支援手法の高度化の成果について、技術コンサルティング、企業との共同研究、
技術指導、データ・マネジメントの仕組み作りを通じて、収益源づくりを検討してはど
うか。
(4) クラスター推進センター
① 役割
・広報活動する部門がない。もっと情報発信し、財団の認知度を高める。その結果、クラ
スターが推進される。
・神戸の医療技術を内外に展開する営業拠点として活動するべき。
・神戸クラスターの推進からクラスター経営に視野を移した組織で活動してはどうか。
・財源が神戸市であることからクラスター全体図とクラスター推進センターの役割を明示
すべきである
② 研究・事業
・どのような企業のどのような技術が他の企業と結びついたとき最大の力をだすのか幅広
い情報収集が必要である。
・医療産業を育てるためには潜在的な、あるいは水面下の需要を掘り起こしていくくらい
の姿勢が必要である。
・将来的には海外でのビジネス創出を視野に入れた活動は不可避である。
(5) 細胞療法研究開発センター
① 予算・収支
・細胞療法に関する研究開発成果、品質管理マネジメント手法について、産業界への知識・
技術移転をより展開して、収入基盤の強化を進めた方が良い。
・民間企業等との共同研究を進める培養装置事業について、長期的な収入基盤の強化を進
めた方が良い。
・知識移転については、技術コンサルティングやライセンスアウトを含めて、事業収入の
拡大を検討すべきである。
(6) 国際医療開発センター事業推進室
① 役割
・インシリコ創薬拠点等での需要があるのであれば、センターの経営を継続する必要があ
る。
・財団の強みである医療機器・再生医療のインキュベーターとして活用してはどうか。
② 研究・事業
・戦略的に企業を呼び込んで行える事業を立案する必要性を感じた
③ 予算・収支
・入居率 70%~80%水準で、単年度で収支均衡するようにコスト管理を見直した方が良
い。
(7) ICR・臨床開発戦略室
① 役割
・病院における治験収入において、正当な報酬を設定して治験事業収入を拡大、財団内で
の取引制度や移転価格制度を設定して、治験収入の移転を進めた方が良い。
(8) 経営企画部・監査室
① 役割
・当病院と同規模病院のケースを調査し、効率的病院運営を行う.
・外部評価委員の病院経営のプロから学び、かつ、同規模の経営をしている優良経営病院
を紹介してもらいベンチマークする。
② コーポレート・ガバナンスの強化に向けた取り組み
・財団が競争力を持つ分野の技術に関する研究開発を強化するとともに、その分野に関す
る知識移転もしくは技術移転に関する共同研究事業、技術コンサルティング、データ・
マネジメント、研修事業、知財の開発などの形で、収入基盤の多角化・強化を進める方
向性を整理した方が良い
③ 財団全体の予算・収支
・神戸クラスターの発展に向けて PPP の視点から民間資金導入も検討してはどうか。
・内部取引制度の整備を含め、その収入基盤の多角化と強化に努めた方が良い。
(9) アイセンター準備室
① 役割
・中央市民病院に立上げ運営を行ってもらわない限り、財団が運営して利益を上げること
は極めて難しい事業である。
・診療収入に頼るだけでなく、治験事業収入も含めて新規事業の収入管理を考えた方が良
い。
4.おわりに
今後に向けては、財団全体としての発展を目指す長期ビジョンを検討していくことも必要
である。
外部委員による評価、提案、助言はあくまでも評論的・監査的な側面を持っており、本報
告書が財団の今後を縛るものではない。
組織を活性化できるのは内部のマンパワーであり、財団内部での議論を活発に行い、次世
代の戦略策定を進めていただきたい。
別
紙
公益財団法人先端医療振興財団「経営計画中間評価にかかる外部評価委員会」委員
五十音順・敬称略
氏 名
所属・役職
早稲田大学 特命教授
委員長
池田 康夫
委員
内海 英雄
委員
加藤 恵正
委員
後藤 俊男
委員
清水 孝雄
国立研究開発法人国立国際医療研究センター 研究所長
委員
竹中 登一
公益財団法人ヒューマンサイエンス振興財団 会長
委員
藤井 信吾
委員
藤林 靖久
委員
武藤 徹一郎
委員
若林 直樹
慶應義塾大学 名誉教授
九州大学先端融合医療レドックスナビ研究拠点
特任教授・研究統括
兵庫県立大学政策科学研究所 所長兼教授
独立行政法人理化学研究所
創薬・医療技術基盤プログラム プログラムディレクター
公益財団法人田附興風会 医学研究所 北野病院
理事長・病院長
国立研究開発法人放射線医学総合研究所
分子イメージング研究センター長
公益財団法人がん研究会有明病院 名誉院長
京都大学経営管理大学院 教授