認知リハビリテーションのためのゲーム集試作プロジェクト Project to

社団法人 電子情報通信学会
THE INSTITUTE OF ELECTRONICS,
INFORMATION AND COMMUNICATION ENGINEERS
信学技報
IEICE Technical Report
TL2010-1(2010-05)
認知リハビリテーションのためのゲーム集試作プロジェクト
亀田 弘之†
税田 竜一††
久保村 千明††††
原田 俊信††
服部 峻†
石鍋 仁††
池淵 恵美†††††
伊藤 憲治†††
DYCSS3 グループ
†
††
東京工科大学コンピュータサイエンス学部 〒192-0982 東京都八王子市片倉町 1404-1
日本工学院八王子専門学校クリエイターズカレッジ 〒192-0983 東京都八王子市片倉町 1404-1
†††
東京大学大学院医学系認知言語医学講座 〒113-8655 東京都文京区本郷 7-3-1
††††
山野美容芸術短期大学美容保健学科 〒192-0396 東京都八王子市鑓水 530
†††††
帝京大学医学部精神神経科学教室 〒173-8605 板橋区加賀 2-11-1
†
E-mail:
{kameda, hattori}@cs.teu.ac.jp, ††{saitaryuic, tharada, ishinabe}@neec.ac.jp,
†††
[email protected], ††††[email protected], †††††[email protected]
あらまし 統合失調症をはじめ、認知機能障害が基盤にあると考えられる精神障害は多くみられ、その早期発見・
早期治療が望まれている。本研究では、その一環として近年注目されているゲームによる認知リハビリテーション
とその開発プロジェクトについて報告する。具体的には、従来の認知リハビリテーション用ゲームの分析、それに
基づき筆者らが制作したゲームの紹介を行うとともに、今後の計画、すなわちユーザ適応型認知リハビリテーショ
ン用ゲーム等について述べる。
キーワード 認知リハビリテーション,ゲーム,福祉,医療,脳のモデル,心のモデル
Project to Make a Collection of Prototype Game Software
for Cognitive Rehabilitation
Hiroyuki KAMEDA†
Ryuichi SAITA††
Toshinobu HARADA††
Kenji ITOH††† Chiaki KUBOMURA††††
and
Shun HATTORI†
Jin ISHINABE††
Emi IKEBUCHI†††††
DYCSS3
†
School of Computer Science, Tokyo University of Technology 1404-1 Katakura, Hachioji, Tokyo, 192-0982 Japan
††
Creative Field, Nihon Kogakuin College of Hachioji 1404-1 Katakura, Hachioji, Tokyo, 192-0983 Japan
†††
Graduate School of Medicine and Faculty of Medicien, Speech and Cognitive Neuroscience, University of Tokyo
7-3-1 Hongo, Bunkyo-ku, Tokyo 113-8655 Japan
††††
Beauty and Health Science, Yamano College of Aesthetics 530 Yarimizu, Hachioji, Tokyo, 192-0396 Japan
†††††
Teikyo University 2-11-1 Kaga, Itabashi, Tokyo, 173-8605 Japan
†
E-mail:
{kameda, hattori}@cs.teu.ac.jp, ††{saitaryuic, tharada, ishinabe}@neec.ac.jp,
†††
[email protected], ††††[email protected], †††††[email protected]
Abstract Recently the number of cases of functional disability in brain has been growing in Japan. Schizophrenia, which
is one of such diseases attributed to deficits of cognitive functions in brain, strongly requires prevention, early detection and
early treatment medically. This paper reports an on-going project to provide tailor-made game software to support new style of
cognitive rehabilitations. Previous games used for cognitive rehabilitation on personal computers were analyzed from various
viewpoints to make specifications clearer. A collection of games are made and shown in an omnibus style. Games for
user-adaptive, i.e., tailor-made cognitive rehabilitation are also described in some detail as our future goal.
Keyword cognitive rehabilitation, computer games, welfare, health care, model of brain, model of mind
1. は じ め に
日本においては、とりわけ尐子化とともに高齢化が
急 速 に 進 ん で お り 、 統 合 失 調 症 ( Schizophrenia) や ア
が基盤にあると考えられる精神障害を患っている人は
多数おり、その予防・早期発見・早期治療(進行抑制
お よ び 軽 減 ) が 望 ま れ て い る 。 [1-3]
一方、医療保険制度の改革なども関連し、従来医師
ル ツ ハ イ マ ー 病( AD)を は じ め と す る 、認 知 機 能 障 害
― 1 ―
により行われていた「患者を診察し、その病名を認定
す る 」医 療 か ら 、「 患 者 を 診 断 し 、ど の 機 能 が ど の 程 度
損傷しているかを明確にする」医療へと変革していく
ことが望まれ始めている。このためには、脳のモデル
あるいは心のモデルの確立とそれを前提とする診断方
法を整える必要がある。さらには、これらの機能モデ
ルによって、患者がどの機能の回復を目指してどのよ
うなリハビリテーションを行えばよいのかも明確に定
ま っ て く る 。 [4-6]
図2
このような状況から、筆者らは、認知機能障害が基
CogPack の ゲ ー ム 選 択 画 面
2.2. CET
盤にあると考えられる精神障害においては、社会機能
CET( Cognitive Enhancement Therapy)は ア メ リ カ の
( social functioning)の 障 害 へ の 対 応 も 問 題 と な る と 考
Gerard E.Hogarty,Deborah P.Greenwald ら に よ っ て 開 発
えており、社会脳のモデル構築が必要であると考えて
された認知リハビリテーションプログラムとそのため
いる。
の Windows 用 ソ フ ト ウ ェ ア で あ る 。社 会 認 知 機 能 と 神
また、認知リハビリテーションの手法は様々であ る。
近年では集団リハビリテーションやインタラクティブ
経 認 知 機 能 の 改 善 に 効 果 が あ る と さ れ て い る 。 [13]
2.3. Cogmed
リハビリテーション,ゲームソフトウェアによるリハ
この種のソフトウェアの中では最も成功を収めた
ビリテーションなどが提案されているが、これらは未
トレーニングソフトウェアであり、科学的なデータに
だ 試 行 段 階 で あ る と い え る 。 [7]
基づいた分析の結果ワーキングメモリの強化、特に記
こ の よ う な 状 況 に 鑑 み 、筆 者 ら は DYCSS3 グ ル ー プ
憶容量の増加において有意な効果があったとの報告が
(帝京大学精神医学教室)に参画し、認知リハビリテ
あ る 。 本 研 究 で は こ の Cogmed の よ う な ゲ ー ム 形 式 ト
ーション関連の研究に従事しており、その一環として
レーニングソフトウェアの実現を1つの目標として想
認知リハビリテーションのためのゲームの開発を行っ
定 し て い る 。 [14]
て い る 。 [8-11]
2.4. ゲーム利 用 の効 用 に関 する研 究 例
本稿では、従来の認知リハビリテーション用ゲーム
近年、欧米やわが国でゲームを利用したリハビリテ
とその分析について述べ、それに基づき筆者らが試作
ーションの研究等が積極的に行われている。一例を挙
したゲームの紹介を行うとともに、今後の計画、すな
げる。
わちユーザ適応型認知リハビリテーション用ゲームな
A)
どについて述べる。
コンピュータによる認知リハビリテーション
の ア ル ツ ハ イ マ ー 病 で の 有 効 性 [15]
2. 従 来 の 認 知 リ ハ ビ リ テ ー シ ョ ン 用 ゲ ー ム
B)
計 算 障 害 へ の 専 用 ゲ ー ム ソ フ ト 開 発 例 [16]
C)
統合失調症の認知療法へのコンピュータ支援
2.1. CogPack
の 有 効 性 [17]
CogPack は 、 ド イ ツ の Maker Software 社 に よ っ て 開
D)
発 さ れ た Windows 用 ソ フ ト ウ ェ ア で あ る 。 認 識 ・ 記
ど こ で も 認 知 リ ハ ( kokorogaku.net) [18]
2.5. 脳 トレゲーム
憶・言 語・知 識 な ど に 関 す る 68 種 類 の ト レ ー ニ ン グ の
近 年 で は 特 に わ が 国 に お い て 、「 脳 ブ ー ム 」 と 称 し
ためのゲーム集であり、それぞれ必要に応じて実行順
た 、「 ボ ケ 防 止 」「 脳 ト レ ー ニ ン グ 」 な ど の た め の ゲ ー
番 を 組 み 合 わ せ る こ と が で き る 。こ の ソ フ ト ウ ェ ア は 、
ムソフトウェアが多く開発されている。これらはプレ
これまで臨床的な観察や研究・教育等で利用されてい
イによって脳になんらかの効果をもたらすとされてい
る。特に欧州では、認知リハビリテーションに積極 的
る。しかしながら、実際に前頭葉の血流が現象として
に 利 用 さ れ て い る 。 [12]
増えてはいるが、それがボケ防止やリハビリテーショ
ンに有意に有効性であるかは学術的に必ずしも十分解
明されておらず、それどころかこれらについて根拠が
明確ではないなどの意見も出ているため、さらなる慎
重 な 検 討 が 必 要 と 考 え ら れ る 。 [19, 20]
図1
CogPack の タ イ ト ル 画 面
― 2 ―
ハビリテーションゲームの臨床検証
3. 認 知 リ ハ ビ リ テ ー シ ョ ン 用 ゲ ー ム 制 作 プ ロ
ジェクト
[ゲームソフトウェア開発上流工程部門]
[担 当 ]東 京 工 科 大 学 コ ン ピ ュ ー タ サ イ エ ン ス 学 部 ,
3.1. プロジェクトの発 足 の背 景 と目 的
山野美容芸術短期大学など
これまで述べたように、ゲームを認知リハビリテー
[タ ス ク ]コ ン ピ ュ ー タ サ イ エ ン ス 学 的 観 点 か ら の 要
ションに応用する試みは、国内外を問わず行われてい
求定義,および従来のゲームの分析,新認知
るが、わが国の現状に鑑みて、認知機能障害が基盤に
リハビリテーションゲームの企画立案,仕様
あると考えられる精神障害から予防・発見・治療・リ
決定,開発プロジェクトマネジメント
ハビリテーションの研究を可及的速やかに推進する必
要がある。また医療の現場における変革という点から
[ゲームソフトウェア開発下流工程部門]
[担 当 ]日 本 工 学 院 八 王 子 専 門 学 校 ク リ エ イ タ ー ズ カ
も必要であり、その際に得られる「脳あるいは心の機
レッジゲームクリエイター科・クリエイティ
能モデル」によってもリハビリテーションの高度化が
ブラボ科など
期待できると考えている。
[タ ス ク ]新 認 知 リ ハ ビ リ テ ー シ ョ ン ゲ ー ム の 開 発 お
また、認知リハビリテーションにおいてはその継続
よび検証
性が重要視されるが、ゲームによるリハビリテーショ
ンにおいては、ゲームのクオリティが患者の継続性を
左右するといっても過言ではない。すなわち、認知リ
4. プ ロ ジ ェ ク ト の 進 捗 状 況
ハビリテーションゲームには、それを手軽に楽しく継
4.1. 従 来 の認 知 リハビリテーションゲームの問 題 点
分析
続的に行えるようなクオリティが必要である。現在市
販されているゲームの多くはグラフィカルで操作性の
認知リハビリテーションの現場で利用されている
よいものが多いが、その一方で認知リハビリテーショ
ゲームの多くは認知リハビリテーションが目的で制作
ンに用いられるゲームには開発から幾年となく経過し
されたという経緯は持っていない。それらのゲームの
ているものや,ゲームと呼ぶに耐えないものも尐なく
多くは複数の種類の異なるミニゲームが集まったゲー
なく、そのクオリティの差は歴然であると言える。
ム 集 で あ る 。先 に 紹 介 し た 、CogPack や CET も そ う で
上述の背景をふまえ、筆者らは以下の点に特に重点
あ る 。CogPack や CET の ゲ ー ム 内 容 を 見 る と 、単 純 な
をおいて認知リハビリテーション用ゲーム開発プロジ
ゲームがほとんどである。例えば、指定時刻通りに針
ェ ク ト「 DS プ ロ ジ ェ ク ト 」を 発 足 し 、研 究・開 発 を 行
を進めるゲーム(図3)であったり、バーを動かしボ
っている。
ールを9回受けるだけのゲーム(図4 )であったり、

認知機能リハビリテーションとともに社会機
初等教育の算数の問題を解くゲームであったりする。
能リハビリテーションも視野に入れる
これらのゲームを認知リハビリテーションの現場では、

リハビリテーション理論に基づく
認 知 機 能 の 検 査・回 復 に 有 効 で あ ろ う と 理 由 を 後 付 し 、

脳あるいは心の計算論的モデルを仮定 する
利用しているのが現状である。したがって、現場の経

リハビリテーションプログラムと連携したも
験を基にした認知リハビリテーションゲームが望まれ
のとする
る。

患者に合わせたチューニングが容易にできる

より多くのコンピュータ上で稼動する

グラフィカルでかつ操作性の高いインターフ
ェースを備える

病気の早期発見にも使える

病気の予防にも使える

原則オープンソースとする
3.2. プロジェ クト 推 進 の 手 順 ( 部 門 お よ び 担 当 と そ
のタスク)
[医学関連部門]
[担 当 ]DYCSS3 グ ル ー プ ( 帝 京 大 学 , 福 島 県 立 医 科
大学,東京大学医学部,慶應大学医学部,国
図3
立精神・神経センター精神保健研究所など)
[タ ス ク ]医 学 的 観 点 か ら の 要 求 定 義 お よ び 新 認 知 リ
― 3 ―
CogPack の ゲ ー ム Clock
ければならないのかが分からないという問題があった。
また、ゲームの状況設定も西洋文化を理解している人
を前提とした内容であり、患者の知的レベルによって
難易度が全く異なり、それが、モチベーションの低下
へとつながっていた。したがって、個々の患者の事情
にあわせた利用が困難であるという問題もある。
4.2. 日 本 語 化 作 業 の経 過
日 本 人 に あ っ た 、CogPack や CET を 凌 駕 す る 新 し い
認知リハビリテーションゲームを作るには、ゲーム作
りに関するノウハウが必要であった。日本工学院八王
子専門学校にはゲームソフト科・ゲームソフト科 3 年
制(現、ゲームクリエイター科・クリエイティブラボ
図4
CogPack の ゲ ー ム Ball
ラトリー科)があり、税田の呼びかけで有志数名を募
ることができた。
CogPack や CET に 含 ま れ る ゲ ー ム は Windows 上 で 動
ま ず 始 め に で き る こ と は CogPack の ゲ ー ム を 真 似 し 、
作 す る PC ゲ ー ム で 、 CogPack と CET は 開 発 さ れ て か
日本語化したゲームシステムを作ることであった。こ
ら と も に 約 10 年 以 上 た っ て い る 。CogPack は OS が メ
の よ う な 経 緯 か ら 、2006 年 に 柳 生 に よ っ て ボ ー ル を 受
ジャーバージョンアップするごとに更新されているが、
け る ゲ ー ム が 作 成 さ れ た 。2007 年 に は 西 村 に よ っ て 立
CET は 更 新 さ れ て お ら ず 、Windows Vista 以 降 の OS で
体相似ゲームと関口によって神経衰弱ゲームが作成さ
は ゲ ー ム を 起 動 す る こ と が で き な い 。 CogPack は シ ス
れ た 。 [9]
テ ム が 更 新 さ れ て い る も の の 、 ゲ ー ム を 選 択 す る GUI
2008 年 ま で は 草 の 根 運 動 の よ う に 、ゲ ー ム 作 り を 行
やゲーム中のリソースの更新はほとんどされておらず、
っ て き た 。 2009 年 に DS プ ロ ジ ェ ク ト が 正 式 に 発 足 さ
一 昔 前 の DOS 上 で 動 く ゲ ー ム の よ う で あ り 、現 在 市 販
れ、日本工学院八王子専門学校クリエイ ターズカレッ
されているゲームとは見栄えという面で大きな違いが
ジが認知リハビリテーションゲームの制作に携わるこ
あり、利用者がなじめないという問題がある。
と と な り 、11 名 の メ ン バ ー が 集 ま っ た 。そ こ で 、2009
また、そのゲームの内容も単純であり、短時間で終
年 度 は CogPack と 同 等 の ソ フ ト ウ ェ ア の 開 発 検 証 の た
了するものがほとんどで、ゲーム内容も一昔前のゲー
め、ライブラリ開発グループとシステム開発グループ
ムと感じさせられる。短時間で結果が得られるという
に分け制作をおこなった。ライブラリ開発グループで
利点はあるけれども、何が向上したかが分からなかっ
は 、描 画 の ベ ー ス ラ イ ブ ラ を OpenGL ベ ー ス で 作 成 し 、
たり、モチベーションが維持できなかったりという患
入 力 に 関 し て は DirectInput ベ ー ス で 作 成 し た 。シ ス テ
者からの不満の声がでていたという問題がある。
ム開発グループでは、東京工科大学院生チームが行な
この問題を解決する方法として、最新のゲームは認
った、翻訳成果とライブラリ開発グループによるライ
知リハビリテーションを行えばよいという考えが浮か
ブ ラ リ を 用 い 開 発 を 行 っ た 。そ の 結 果 、25 本 の ゲ ー ム
ぶが、最新のゲームでは認知リハビリテーションには
が完成した。ゲームの一例、人口記憶を図5、図6,
向 か な い 。最 新 の ゲ ー ム で は 画 面 内 の 情 報 量 が 多 す ぎ 、
図7に示す。
注意を向ける要素が多すぎたりするといった問題があ
る。
認 知 リ ハ ビ リ テ ー シ ョ ン を 受 け て い る 患 者 は 10 代
の若者から高齢者までと年齢層は幅広い。先にも述べ
た が 、CogPack と CET は パ ソ コ ン 上 で 動 く ゲ ー ム で あ
る。ゲームをする場合、マウス操作とキーボード操作
が 必 要 と な る 。 若 者 は 近 年 の IT 教 育 に よ り 、 PC に す
く な か ら ず 慣 れ て は い る が 、 お 年 寄 り は PC の 操 作 が
苦手な方も多い。したがって、マウスなどの入力機器
の操作性に関する問題もある。
CogPack や CET を 日 本 人 が 利 用 す る 場 合 、英 語 の 問
題 が あ る 。CogPack や CET は 操 作 説 明 文 や 設 問 が 日 本
語非対応であるため、日本人の患者の多くは何をしな
図5
― 4 ―
タイトル画面
な の は 、そ れ が 正 し い 意 味 で の 認 知 リ ハ ビ リ テ
ー シ ョ ン が 行 え る か と い う 点 で あ る 。単 な る ゲ
ー ム で は な く 、認 知 リ ハ ビ リ テ ー シ ョ ン 用 の ゲ
ー ム と し て 、効 果 が 得 ら れ る よ う 医 学 関 連 部 門
の ス タ ッ フ と 協 議 を 重 ね 、具 体 的 機 能 に つ い て
の検討を身長に行う必要がある。
4.4. 新 認 知 リハビリテーションゲームの要 件 分 析
現在、医学関連部門のスタッフからの要求として下
記が挙げられている。

医学としての測定ソフトウェアであるととも
に 、患 者 と し て の リ ハ ビ リ テ ー シ ョ ン ソ フ ト ウ
ェ ア で あ り 、や っ て い て 楽 し く 、何 度 も 挑 戦 し
図6
人口の提示画面
たくなるもの。

ゲ ー ム の 結 果 だ け で は な く 、患 者 が 何 を や っ た
か 、過 去 と 比 べ 今 回 の 成 果 が ど の 程 度 だ っ た か
を示すためのログをとれるもの。

ミッションクリア型でミニゲームを何個かク
リ ア し 、ア イ テ ム を 取 る と 次 の 難 易 度 へ 進 ん だ
り、シナリオが進んだりするもの。

日常生活にマッチした立場や環境などを導入
したもの。

図7
出題の画面
リ ハ ビ リ テ ー シ ョ ン 期 間 と し て 、 100 時 間 程 度
できる、飽きのこないもの。

情 報 過 多 に な ら な い 範 囲 で 、グ ラ フ ィ カ ル で か
つ操作性の高いインターフェースをもったも
4.3. 新 認 知 リハビリテーションゲームの構 想
の。

第 42, 43 回 DYCSS3 グ ル ー プ の 研 究 会 で 来 年 度 か
ゲ ー ム の 内 容 、難 易 度 や 構 成 を ユ ー ザ 毎 に 適 応
ら導入し、臨床検証する新しい認知リハビリテーショ
で き る よ う 、コ ン フ ィ ギ ュ レ ー シ ョ ン 機 能 を 追
ン ゲ ー ム の 構 想 を DS プ ロ ジ ェ ク ト メ ン バ ー で 話 し 合
加 し た も の 。問 題 文 や キ ャ ラ ク タ の フ レ ー ズ な
いをおこなった。
ど は 「 文 字 + 音 声 」、「 文 字 の み 」、「 音 声 の み 」
先に述べた従来のゲームの問題点およびゲーム開
とコンフィグできるようにして欲しい。

発のノウハウから得た、新認知リハビリテーションゲ
ームの構想を述べる。

マ ウ ス 、キ ー ボ ー ド の 扱 い に 慣 れ て い な い 人 に
対応したもの。

[カスタマイズできるゲーム]
利 用 者 に 応 じ た カ ス タ マ イ ズ ( tailor-made) が
同じ問題を何度でも繰り返しプレイできるよ
うな簡易リスタート機能が付いたもの。
重 要 で あ る と 考 え て い る 。具 体 的 に は 、利 用 者
の症状や状態に応じて、画面表示,音声出力,
5. 今 後 の 計 画
操 作 方 法 ,難 易 度 な ど が 自 由 に 設 定 可 能 で な け

来年度からの臨床検証のために、早急な仕様の決定
ればならない。
と試作をしていく。医学関連部門では、現在の検証方
[モチベーションが維持できるゲーム]
法にあわせたゲームの選定を行ない、ゲームソフトウ
利用者のモチベーションが維持できることも
ェア上流開発部門ではそれに基づいた仕様の決定を行
重 要 で あ る と 考 え て い る 。 具 体 的 に は 、単 な る
ない、ゲームソフトウェア下流開発部門ではコンフィ
作 業 で は な い こ と ,効 果 を 明 確 に 感 じ ら れ る こ
ギュレーションやログ情報の保存ができ、モチベーシ
と 、ス ト ー リ ー 性 が あ る こ と ,見 た 目 が よ い こ
ョンが維持できるゲームを作り上げる。
と ,音 が よ い こ と ,な ど が 必 要 で あ る と 考 え て

また、ゲームのクオリティの向上のための方策とし
いる。
て、視覚面での向上においては日本工学院八王子専門
[真の認知リハビリテーション用ゲーム]
学校クリエイターズカレッジのマンガ・アニメーショ
認知リハビリテーション用ゲームとして重要
ン 科 , CG ク リ エ イ タ ー 科 へ の 協 力 を 、 ま た 音 声 面 で
― 5 ―
の向上においては同校の声優・俳優科,ミュージック
アーティスト科への協力を依頼する予定である。
幅 広 い 年 齢 層 に 対 応 す る た め 、PC ゲ ー ム だ け で は な
く 、 iPhone/iPod touch/iPad や Android 携 帯 端 末 、 そ し
て NINTENDO DSiLL な ど の 新 し い ハ ー ド ウ ェ ア を 視
野にいれ、開発を行っていく予定である。
6. お わ り に
本稿では、認知リハビリテーションゲームについて
の現状,筆者らのプロジェクトとその進捗状況,新認
知リハビリテーション用ゲームの構想,今後の計画に
ついて述べた。
謝
辞
2009 年 度 、認 知 リ ハ ビ リ テ ー シ ョ ン ゲ ー ム の 制 作 に
携わった、日本工学院八王子専門学校クリエイターズ
カ レ ッ ジ の 学 生 、畦 浦 龍 ,杉 本 翔 ,陳 延 兆 ,堀 切 隆 史 ,
山下祐也,蔦本晃敏,松井陽平,八木亮,堤創太,山
口正太,水谷洋輔諸氏に感謝するとともに 、プロジェ
クトマネジメント及び翻訳作業に協力していただいた
東京工科大学大学院の千頭真八、山岸優也両君にも感
謝します。さらにこの活動に賛同し、今後開発に携わ
ってくれる、日本工学院八王子専門学校クリエイター
ズカレッジの学生、篠田直樹,松島智史,小宮山啓太
郎,小宮山勇人諸氏、土田悠貴先生にも感謝申し上げ
ます。最後に認知リハビリテーションゲームの制作に
関 し て 多 く の 助 言 を し て く だ さ る DYCSS3 グ ル ー プ に
感謝申し上げます。
なお本研究の一部は厚生労働省こころの健康科学
研究事業の支援を受けている。
文
献
[1] 原 寛 美 :“ 痴 呆 性 疾 患 に 対 す る 認 知 リ ハ ビ リ テ ー
シ ョ ン ”, Geriatric Medicine , Vol.41 , No.11 ,
pp.1693-1699(2003).
[2] 水 野 雅 文 ・ 根 本 隆 洋 ・ 茅 野 分 :“ 統 合 失 調 症 の 認
知 機 能 障 害 と 社 会 機 能 の 回 復 ”, 臨 床 精 神 医 学 ,
34(6), pp.791-795(2005).
[3] 池 淵 恵 美 :“ 統 合 失 調 症 の リ ハ ビ リ テ ー シ ョ ン と
認 知 機 能 障 害 ”, 臨 床 精 神 医 学 , 34(6) ,
pp.769-774(2005).
[4] 丸 山 哲 弘 :“ 認 知 リ ハ ビ リ テ ー シ ョ ン の 理 論 的 背
景 ”, Cognition and Dementia , Vol.2 , No.2 ,
pp.83-96(2003).
[5] John Jonides and Derek Evan Nee, “Assessing
Dysfunction Using Refined Cognitive Methods ”,
Schizophrenia Bulletin vol.31 no.4 pp.823 -829,
(2005).
[6] 池 淵 恵 美 :“ 統 合 失 調 症 へ の ア プ ロ ー チ ”,星 和 書
店 ,(2006)
[7] 橋 本 優 花 里 ・ 澤 田 梢 :“ 認 知 リ ハ ビ リ テ ー シ ョ ン
の 現 状 と 課 題 ”, 福 山 大 学 人 間 文 化 学 部 紀 要 8 ,
pp.117-127(2008).
[8] 亀 田 弘 之・税 田 竜 一・久 保 村 千 明・伊 藤 憲 治:
“認
知リハビリテーション用ゲーム制作プロジェク
ト の 提 案 ”, 電 子 情 報 通 信 学 会 , TL2006-67 ,
SP2006-155, WIT2006-99, pp.61-66(2007).
[9] 柳 生 広 樹 ・ 関 口 紋 美 ・ 西 村 健 太 郎 ・ 陣 内 茂 ・ 税 田
竜 一 ・ 亀 田 弘 之 ・ 伊 藤 憲 治 :“ 認 知 リ ハ ビ リ テ ー
シ ョ ン ゲ ー ム の 制 作 ”, 電 子 情 報 通 信 学 会 , 2007
ソ サ エ テ ィ 大 会 論 文 集 , A-13-17(2007).
[10] Hiroyuki
KAMEDA,
Kenji
ITO,
Chiaki
KUBOMURA, Ryuichi SAITA and Toshinobu
HARADA, Computer Game Development for
Cognitive Function Rehabilitation - Report of
Ongoing cross-disciplinary Project- , ITCA(2009).
[11] 亀 田 弘 之 ・ 伊 藤 憲 治 :“ 認 知 機 能 リ ハ ビ リ テ ー シ
ョ ン に 用 い る コ ン ピ ュ ー タ ソ フ ト の 開 発 ,「 認 知
機能リハビリテーション」に 用いるコンピュー
タ ソ フ ト「 Cogpack」の 開 発 と こ れ を 用 い た 「 認
知 機 能 リ ハ ビ リ テ ー シ ョ ン 」 の 実 施 お よ び Breif
Assessment of Cognition in Schizophrenia 日 本 語 版
等 の 神 経 心 理 検 査 を ア ウ ト カ ム と す る「 認 知 機 能
リ ハ ビ リ テ ー シ ョ ン 」の 効 果 検 討 に 関 す る 研 究 ”,
平 成 20 年 度 総 括・分 担 研 究 報 告 書 , 厚 生 労 働 科 学
研究費補助金(こころの健康科学研究事業), 分
担 課 題:認 知 機 能 リ ハ ビ リ テ ー シ ョ ン に 用 い る コ
ン ピ ュ ー タ ソ フ ト 開 発 , pp.55-60(2008) .
[12] maker
software
COGPACK,
http://www.markersoftware.com/, 2010.5.8 .
[13] Cognitive
Enhancement
Therapy,
http://www.cognitiveenhancementtherapy.com/,
2010.5.8.
[14] エ ビ デ ン ス( 科 学 で 証 明 さ れ た 事 実 )に 基 づ く ワ
ー キ ン グ メ モ リ ト レ ー ニ ン グ (コ グ メ ド ワ ー キ
ン グ メ モ リ ト レ ー ニ ン グ ),
http://www.cogmed-japan.com/, 2010/05/08.
[15] Cipriani G, Bianhetti A, and Trabucchi M ,
“ Outcomes of a computer-based cognitive
rehabilitation program on Alzheimer's disease
patients compared with those on patients affected by
mild cognitive impairment”,Arcives of Gerontology
and Geriatrics, 43, pp.327-335(2006).
[16] Wilson AJ, Dehaene S, Pnel P, Revkin SK, Cohen L,
and Cohen D, “ Principles underlying the design of
The Number race, an adaptive computer game for
remediation of dyscalculia ”, Behavioural Brain
Functions, 2, pp.19(2006).
[17] Kurtz MM,Seltzer JC,Shagan DS,Thime WR,and
Wexler
BE , “ Computer-assisted
cognitive
remediation in schizophrenia: What is the active
ingredient? ”, Schizophrenia Research , 89 ,
pp.251-260(2006).
[18] ど こ で も 認 知 リ ハ , http://www.kokorogaku.net/,
2010.5.8.
[19] No
gain
from
brain
training,
http://www.nature.com/news/2010/100420/pdf/46411
11a.pdf, 2010.5.8.
[20] 脳 ブ ー ム に「 待 っ た 」 学 会「 根 拠 示 す 配 慮 を 」,
http://www.asahi.com/culture/news_culture/ TKY201
004200165.html, 2010.5.8 .
― 6 ―