平成 27 年度 卒業論文 SNS 発信者の印象に絵文字と顔写真が与える影響 大正大学 人間学部 1201535 指導教員 西 犬塚 教育人間学科 翔太 美輪 先生 目次 I 問題と目的. . . . . . . . . . . . . . . . . . . .... .... .... .... . ...... .... .... .... .... . .....1 (1) 顔認知における印象形成. . ..... .... .... .... .... . ...... .... .... .... .... . .1 ① 美人について. . . . . . . . .. . ...... .... .... .... .... . ...... .... .... .... ..2 ② 笑顔について. . . . . . . . .. . ...... .... .... .... .... . ...... .... .... .... ..3 ③ 顔や表情が与える印象について.... .... .... .... . ...... .... .... .... ...3 ④ まとめ. . . . . . . . . . . . . ... . ...... .... .... .... .... . ...... .... .... .... ..4 (2) 文字による印象形成. . . . . . ..... .... .... .... .... . ...... .... .... .... .... . .4 ① 感情表現のテキストメッセージによる印象形成.. . ...... .... .... .... ...4 ② 文字タイプによる印象形成.... .... .... .... .... . ...... .... .... .... ...5 (3) 目的と仮説. . . . . . . . . . . . . . ..... .... .... .... .... . ...... .... .... .... .... . .6 II 研究 1.. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .... .... .... .... . ...... .... .... .... .... . .....7 (1) 対象者. . . . . . . . . . . . . . . . . . ..... .... .... .... .... . ...... .... .... .... .... . .7 (2) 材料. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . ..... .... .... .... .... . ...... .... .... .... .... . .7 (3) 手続き. . . . . . . . . . . . . . . . . . ..... .... .... .... .... . ...... .... .... .... .... . .8 (4) 結果. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . ..... .... .... .... .... . ...... .... .... .... .... . .8 ① 顔写真と絵文字による被験者内 2 要因分散分析. .. ...... .... .... .... ...8 ② 感情表現による分散分析. ...... .... .... .... .... . ...... .... .... .... ..9 ③ 感情表現と顔写真による被験者内 2 要因分散分析. ...... .... .... .... ...9 ④ 絵文字と感情表現による被験者内 2 要因分散分析. ...... .... .... .... .. .10 ⑤ まとめ. . . . . . . . . . . . . . .. . ...... .... .... .... .... . ...... .... .... .... ..10 (5) 考察. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . ..... .... .... .... .... . ...... .... .... .... .... . .11 III 研究 2.. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .... .... .... .... . ...... .... .... .... .... . .....11 (1) 対象者. . . . . . . . . . . . . . . . . . ..... .... .... .... .... . ...... .... .... .... .... . .12 (2) 材料. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . ..... .... .... .... .... . ...... .... .... .... .... . .12 (3) 手続き. . . . . .. . . . . . . . . . . . ..... .... .... .... .... . ...... .... .... .... .... . .12 (4) 結果. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . ..... .... .... .... .... . ...... .... .... .... .... . .12 (5) 考察. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . ..... .... .... .... .... . ...... .... .... .... .... . .13 IV 総合的考察. . . . . . . . . . . . . . . . . . . .... .... .... .... . ...... .... .. .. .... .... . .... .14 (1) 総合的考察. . . . . . . . . . . . . . ..... .... .... .... .... . ...... .... .... .... .... . .14 (2) 仮説の検討. . . . . . . . . . . . . . ..... .... .... .... .... . ...... .... .... .... .... . .14 (3) 総括. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . ..... .... .... .... .... . ...... .... .... .... .... . .15 引用文献 謝辞 Ⅰ問題と目的 電車の中や公共施設などでツイッターやフェイスブックなどの SNS を利用している人を 目にすることは少なくない。また、芸能人や企業が PR 活動として SNS を利用しているこ ともある。総務省の統計調査では、10 代と 20 代でメールの利用率を SNS の利用率が上回 り、30 代、40 代でも差が縮まっていることから、SNS はメールに代わる通信手段となっ てきている。 SNS やメール以外にもオンラインでのコミュニケーションツールには様々なものが挙げ られる。ジョインソン(2004)によるとメールやチャット、掲示板、バーチャルワールドなど ある。それらは、同期型か非同期型の時間を共有しているかどうかや双方向性といった一 方的にメッセージを送るだけでなく互いにメッセージを送りあうことができるかどうかと いうように見ることができる。 具体的には、バーチャルワールドはアバターと呼ばれる画像キャラクターを用いたコミ ュニケーションであることから、ミクシィを思い浮かべるだろう。他にも SNS には、ツイ ッターやフェイスブックなどもあるが、アバターは用いておらず、どちらかというと電子 メールに近いものではないかと思われる。電子メールとは非同期型でテキストベースのコ ミュニケーションであるがファイルなどの添付も可能となっている。しかし、電子メール と違う点としては、電子メールでは送る相手を知っていることと相手が限定されることで あるが、ツイッターやフェイスブックではブログのような日記に近いものであり、送る相 手は知らず、相手も限定されず誰もが見ることができるというものである。 実際にツイッターを見てみると、芸能人などは自分のプロフィールやアイコンには顔写 真などを使用し、公表している。さらに、一般の芸能人ではない人でもツイッターのアイ コンに自分の顔写真が写っているものやツイート内容に写真を添付していることもある。 また、実際のツイート内容には顔文字や絵文字と呼ばれているものなども見られる。一般 の人も自分自身の写真を載せているものを見ると、個人が特定されることが怖くないのか と思うが、何もない画像よりは良い印象を受ける。絵文字や顔文字が使われているのを見 ると、ツイート内容の感情がより伝わってくるような気がする。しかし、良い印象を受け ないツイートも中にはある。良い印象を受けるツイートはどのようなものなのか、悪い印 象を受けるツイートはどのようなものなのか疑問に思った。 このことから、SNS の利用で相手に与える印象は大きく変化すると考えられる。しかし、 これまで SNS での課題や性質の相違点といった研究はされてきたが、印象形成を検討して いる研究はほとんどなかったため、SNS を利用した印象形成を検討する必要があるだろう。 そこで、本研究では SNS での印象に文字と顔写真がどのように影響しているかについて ツイッターを使用して検討を行うこととした。 (1) 顔認知における印象形成 印象形成とは、シュナイダー(1979)によると、他者に対するパーソナリティ認知の過程の 一つで、いくつかの断片的情報(容貌・声・身振り・風評など)を統合して全体的イメージを 形成したり、相手の人物の好ましさなどに関した一般的な評価・判断がなされることとし ている。 印象形成のなかでも、顔についての印象形成の研究は多くなされている。Albert(1986) 1 によると、人と人とが直接顔を合わせてコミュニケーションを取るフェイス・トゥー・フ ェイス・コミュニケーションには、①言語、②声のトーン(聴覚)、③身体言語=ボディーラ ンゲージ(視覚)の 3 つの要素があるとしている。また、彼によると、これらの要素が矛盾し た内容を送っている状況下において、言葉がメッセージ伝達に占める割合は 7%、声のトー ンや口調は 38%、身体言語=ボディーランゲージは 55%であったと報告されている。 これらのことから、印象形成において、容貌や身振りなどの身体言語は重要な役割を果 たしていることが分かった。しかし、SNS では身体言語というのは写真などのより限定さ れた断片的情報でしか分からない。同じようなことを言っている内容のものでも写真の容 貌が良ければ良い印象を受けるだろうし良くなければそれなりの評価になってしまうだろ う。容姿や容貌に関係なく印象が高くなるものにはなにがあるのか分からなかった。ただ、 これらの研究は 1980 年前後と比較的古い研究であった。新しい研究では顔や表情に限定し ての研究が進められてきた。 ①美人について 「美人・ハンサムとはなにか」ということについては多くの研究者によって研究が行わ れている。このことについて、最初に研究したのがゴールトン(1879)である。彼は、殺人や 強盗を犯した犯人たちの写真を瞳の位置で重ね合わせて合成写真を作り出した。結果とし て、多くの写真を合体させるほど、 「ハンサム」になっていった。何人もの写真を重ね合わ せることで、それぞれの共通する部分は濃くなり、共通しない部分は薄くなっていく。結 果として、個性は消失し、平均的な部分が強調される。彼は、このことから、人間の顔は 平均化するほど「ハンサム・美人」になっていくという「平均顔仮説」を提唱した。 この仮説を検討したのがラングロワとログマン(1990)である。彼女らは、男女 96 人ずつ の顔写真をコンピュータに取り込み、それぞれの写真を 512×512 のマトリクスに区切った 後、複数の写真のそれぞれのセルを平均化するという方法で平均顔を作った。平均顔は 2 枚、4 枚、8 枚、16 枚、32 枚の写真を平均化したものが作られた。これらの写真を大学生 の男女に見せて評定させた。その結果として、重ね合わせる顔が多くなればなるほど、魅 力度評定が高くなっていることが分かった。また、日本人を対象にしてこの実験を行った ものとして、ローズら(2002)の研究がある。ローズら(2002)は、個人の顔と 2 人、5 人、10 人、20 人、30 人の日本人女性の平均顔の魅力度を日本人の実験参加者に評定させた。この 結果としても、何人もの顔を重ねていくほど魅力度が高くなっていることが分かった。 しかし、これらの研究で言われている「平均顔仮説」は、平均化されていくことでよく 目にする顔になっていくことであると考えられている。よく目にするものはただそれだけ でポジティブな印象を受けやすくなるという「単純接触効果」が示されているがその 1 例 だといえるだろう。 では、初対面で「ハンサム・美人」と思われる人はどういう特徴があるのだろうか。リ トルとハンコック(2002)は、平均顔を作っていくと肌が滑らかになっていくことに着目し、 「平均顔仮説」と「お肌すべすべ仮説」を分離して魅力度を評定させる実験を行った。結 果として、 「平均顔仮説」の方が「お肌すべすべ仮説」より魅力度は高く評定されたが、そ こに大きな違いはなかったということが分かった。ただ、この研究で肌を滑らかにするこ とはコンピュータ処理を行ってできたものである。そのため、普段私たちが肌を滑らかに 2 するには化粧を行ったり、手術でしみやほくろなどを取り除いたりと手間がかかってしま う。もっと、一瞬で魅力度を上げる要素として表情があり、特に笑顔が魅力度を上げるこ とがこれまでの研究で分かってきた。 ②笑顔について 2000 年代になり、身体言語、特に顔や表情についての研究が進められてきた。特に笑顔 に重点が置かれ、笑顔の魅力や効果についての研究は多くなった。 井上(2004)は、身体言語の一つである笑顔は、「感謝」「承諾」 「許可」などの他「戦わな い」 「敵意を持っていない」など様々な意味を持っており、コミュニケーションの中に笑顔 があるかないかは、関係を築いていく上で重要な要素となるとしている。 武川ら(2002)は、視線や顔の向き、表情などのノンバーバル・コミュニケーションの変化 による凝視量や印象形成について検証しており、顔の向きが斜めよりも正面に、無表情よ りも笑顔に変化するときに、友好性が高いことを検証している。 ゲゲン(2008)は、笑顔条件と統制条件で「笑顔による魅力増進効果」を検証している。 これらの研究で、笑顔でいることで、良い関係を構築することができたり、魅力度が増 したりすることが分かった。しかし、笑顔以外の表情やどの部分が魅力的かについて、研 究されたのは最近のことである。 ③顔や表情が与える印象について 井上(2014)は、同一人物(面識のない女子大学生)の微笑み顔(口を開けない笑い)・笑い顔 (口を開けての笑い)・真顔・しかめ顔(眉間にしわを寄せた顔)の 4 種類の顔写真を呈示し、 好ましい印象を表す形容詞 8 項目について評価を求めた。実験の結果、微笑み顔と笑い顔 では「明るい」 「親しみやすい」 「親切な」という印象を受けるものが多いことが分かった。 真顔では、 「落ち着いた」 、 「意志が強い」 、「自信のある」という印象を受けるものが多いこ とが分かった。しかめ顔では、 「意志が強い」という良い印象を受けるが、暗く、親しみづ らく、不親切な悪い印象を受けると考えられることが分かった。このことから、笑顔とし かめ顔では反対の印象を受けるのではないかということが考えられる。 同様に、イギリスの York 大学の Richard ら(2014)は、インターネットから 1000 人分の 写真を用いた。参加者に第一印象を評価してもらった結果、①親しみやすさ、②若々しい 魅力、③頼りがいの 3 要素が第一印象の形成に大きく影響していることが分かった。また、 どういった顔の特徴が上記の 3 要素に影響するかを 65 ものカテゴリーに分けて分析した。 大きな笑みを浮かべた顔と男性的な顔がそれぞれ親しみやすさと頼りがいの面で高得点を 得たことから、その部分を強調し顔写真風のイラストを作成した。再び参加者に第一印象 について評価してもらった。その結果、研究者が想定した大きな笑みを浮かべた顔が親し みやすさの評価を高くし、男性的な顔が頼りがいの評価で高いという答えが返ってきた。 これらの研究では、初対面の相手の笑顔、真顔、しかめ顔など表情の違いによる印象の 違いや、どのような部分が第一印象に影響するのかということは分かった。しかし、対人 コミュニケーションにおいての印象であった。オンライン上の SNS では、初対面の相手と もコミュニケーションをとることができるが、オンライン上での初対面の印象については 着目されていなかった。 3 ④まとめ フェイス・トゥー・フェイスのコミュニケーションにおいて、ボディーランゲージがメ ッセージ伝達に重要であることは分かった。特に、美人な人や笑顔の人が良い印象を受け ることが分かった。また、初対面において、表情によって受ける印象が変化することや、 ①親しみやすさ、②若々しい魅力、③頼りがいの 3 要素が第一印象に影響することについ ても分かった。しかし、SNS などのオンライン上での印象についての研究は見つけること ができなかった。そこで、本研究では表情による印象の違いについて見ていくが、自分の 顔を SNS 上で使用するときに、しかめ顔はほとんどしないと思われる。そのため、笑顔と 真顔の違いについて見ていくこととする。 (2) 文字による印象形成 オンライン上でのコミュニケーションは文字を使用して行われることから、文字も印象形 成において重要な要素と考えられる。 ①感情表現のテキストメッセージによる印象形成 石川(2011)は、テキストメッセージによる電子メールにおける受け手と送り手の理解につ いて検討を行った。メッセージ内容を感情表現によって、快・不快表現に分け、それぞれ について、送り手と受け手の立場からどの程度理解しているかについて回答させた。また、 社会的スキル測定を行い、社会的スキルや性差に着目した。その結果として、快表現では 男性より女性の方が、送り手と受け手の両方において有意に理解していることが示された。 また、社会的スキルの低い方が、高い方よりも送り手と受け手の両方において有意に理解 していることが示された。不快表現では男性よりも女性の方が送り手と受け手の両方にお いて有意に理解していることが示された。また、社会的スキルにおいては受け手の方が送 り手よりも理解の程度が高いことが示された。 石川(2012)では、感情表現によって、『喜びを伝える表現』、『怒りを伝える表現』、『悲し みを伝える表現』 、 『楽しさを伝える表現』の 4 項目に分けた。受け手の立場では理解度を 送り手の立場では伝達度を評価してもらった。さらに、メッセージを受け取った場合と書 く場面を設定し、4 種類の感情表現を一対比較した場合、どちらの方がより相手の姿や表情 を思い浮かべるかについて回答させた。結果として、受け手では社会的スキルの高い方が 低い方よりも理解していることが示された。また、感情表現によって、理解の程度に違い があることが示された。送り手では、社会的スキルによっては、伝達度について違いはな かったが、感情表現によっては、伝達度に違いがあることが示された。また、相手の存在 感に対する認知の傾向としては、社会的スキルの違いが及ぼす影響については明らかにさ れなかったが、ポジティブな感情表現(喜び、楽しさ)の方がネガティブな感情表現(怒り、 悲しみ)よりも相手の存在感が強いことが示された。 これらの研究では、喜怒哀楽や快、不快といった感情表現の種類によって性別や受け手 と送り手で伝達と理解の精度に違いがあることが分かった。しかし、その感情表現のテキ ストメッセージによってどのくらい印象が変わるかということは研究されていなかった。 また、オンライン上での既知の相手とのテキストメッセージのやり取りについてメールに 4 着目して、送り手と受け手の両方について伝達と理解の精度について研究を行っていたが、 既知の相手であり、初対面の相手に対する印象形成は研究されていなかった。SNS におい ては、初対面の相手ともテキストメッセージのやり取りを行うことができる。そこで、本 研究では、初対面の相手であると思われる人物が発信した感情表現のテキストメッセージ に対して、受け手としてどのくらい良い印象を受けたかを尋ねる実験を行う。 ②文字タイプによる印象形成 SNS でのコミュニケーションには文字だけでなく記号や顔文字、絵文字も使用すること ができる。その中でも、顔文字や絵文字は感情を表現するものと考えられ、印象形成に関 わっていると思われる。顔文字と絵文字の違いについては、五十嵐・糸井(2004)では、顔文 字をパソコンによるメールでも使用される文字や記号を組み合わせて人の顔や表情、ジェ スチャーを表現するものとし、絵文字を携帯電話会社が独自に用意した特殊文字と定義し ている。 五十嵐・糸井(2004)は、メールでの謝罪として、目上の人(教員)と友達で絵文字・顔文字 の利用状況に差があることを示した。また、友達から来た謝罪メールで絵文字や顔文字の 有無によっての印象を尋ね、絵文字や顔文字無しより絵文字や顔文字が有るほうが印象と して寛容になれるということを示した。この研究では、絵文字と顔文字と通常の文字をあ わせたテキストメッセージの印象についての研究はされてきた。しかし、五十嵐・糸井(2004) で言及しているように、謝罪以外の感情を伝えなければならない場面についての調査が今 後の課題であると述べていた。加えて、絵文字と顔文字の両方を使用している印象のため、 絵文字だけの印象、顔文字だけの印象というそれぞれの印象については示されていなかっ た。絵文字と顔文字の両方において影響がありそうだが、SNS を使用する際には、スマー トフォンなどで行う場合が多いと考えられる。そのため、絵文字に焦点を当てていく。 石川(2011)は、テキストメッセージで使用する文字タイプとして(a)情報を表す絵文字、(b) 面白さ・遊びとしての絵文字、(c)感情を表現する絵文字、(d)通常の文字の 4 種類を取り上 げた。その内容については明記されていなかったが、情報を表す絵文字とは学校や犬など の動物、食べ物など絵文字自体がそのものを表す絵文字と考えられる。面白さ・遊びとし ての絵文字とはキラキラ輝いているように見えるものなどの飾りのような絵文字と考えら れる。感情を表現する絵文字とは顔が笑っていたり泣いていたりなどの絵文字と考えられ る。通常の文字とは「あいうえお」などの文字と考えられる。4種類の文字タイプにおい て、送り手としてどれだけ相手に伝わっているか(伝達の精度)、受け手としてどれだけ理解 しているか(理解の精度)を回答してもらった。その結果として、情報を表す絵文字において は、女性よりも男性の方が伝達の精度が高いことが示された。また、面白さ・遊びとして の絵文字においては、男性よりも女性の方が受け手として理解の精度が高いことが示され た。 また、受け手としてどの部分から快・不快を感じ取ったか、送り手としてどのような形 で伝えるかを 6 種類の文字等(メッセージ内容、単語、擬態語・擬音語、絵文字、記号、そ の他)を用意しておき、関わりの高い順序を回答させた。その結果として、メッセージ理解 に関わる文字の優先度としては、受け手と送り手、快・不快表現のどの場合においても、 メッセージ内容>絵文字>単語>記号>擬態語・擬音語の順となっていることが分かった。 5 このことから、絵文字がメッセージ理解において重要な要素となっていることが分かる。 しかし、石川(2011)で言及しているように、選択肢に文字以外の「メッセージ内容」とい う項目については検討する必要があること、絵文字自体が何らかの意味を持ち、ある種の 単語が置き換えられたものと考えられると述べている。また、通常の文字と絵文字だけを あわせたテキストメッセージの印象についても研究されていなかった。 五十嵐・糸井(2004)では、謝罪の場面で絵文字を使用したことによって、相手に与える印 象が良くなることが分かったが、絵文字と顔文字の両方を使用したテキストメッセージで あった。また、石川(2011)では、受け手としてメッセージ理解をするときに絵文字を理解の 拠り所としている傾向が高いことが分かった。しかし、絵文字を使用した印象についての 研究は見つけることができなかった。そのため、本研究では、受け手としてテキストメッ セージに絵文字を含めたものが送られてきた場合についての印象を尋ねる実験を行う。五 十嵐・糸井(2004)では、謝罪という場面に着目していたが、彼女らが言及しているように謝 罪以外の場面にも着目する必要があると考えられる。 (3)目的と仮説 先行研究において、顔の表情についての印象が笑顔と真顔としかめ顔で受ける印象が違 うことや喜怒哀楽、快不快のテキストメッセージが送り手と受け手の伝達と理解の精度に ついて差があること、絵文字が受け手にとって拠り所となっていること、絵文字を使用し たテキストメッセージが相手に与える印象について着目した研究は見つけることができた。 しかし、近年の SNS では、顔写真などの写真だけでなく、一緒にメッセージが見られるも のがほとんどである。また、テキストメッセージに絵文字を含めることも可能となってい る。それらの顔写真と絵文字が含まれた感情表現のテキストメッセージが組み合わされた 研究は少ないということがいえる。そこで、表情の違いから印象にどのような影響が出る かを絵文字の有無による感情表現のテキストメッセージを用いて検討する必要がある。そ のため、本研究では受け手に着目して印象形成について検討する。 これらを踏まえた上で、本研究では、①顔写真の使用と表情(真顔・笑顔)、②感情表現に よるテキストメッセージ、③絵文字の有無をそれぞれ独立的に操作し、それぞれが受け手 の印象形成にどのように関わっているかを検討していく。 仮説としては、次のことが考えられる。 顔写真について見たときには、顔写真を使用した方が受け手に対して存在感を与えるこ とができるため良い印象になると考えられる。また、井上(2014)で真顔よりも笑顔の方が印 象は高く評価されていたことから、本研究でも同様に真顔よりも笑顔の方が印象は良くな ると考えられる。 絵文字について見たときには、石川(2011)で絵文字がメッセージ理解の拠り所となってい ることから、絵文字を使用した方が印象は良くなると考えられる。 感情表現について見たときには、石川(2011,2012)で感情表現のポジティブ表現において 受け手の理解度が高かったことから、印象においても高く評価されると考えられる。 顔写真と絵文字の組み合わせについて見ると、笑顔で絵文字を使用した時には、真顔で 絵文字を使用した時や笑顔で絵文字を使用しなかった時と比べてより良い印象になるだろ うと考えられる。 6 顔写真と感情表現のテキストメッセージの組み合わせについて見ると、真顔よりも笑顔 の方が感情表現に関係なく印象は良くなると考えられ、ネガティブ表現よりもポジティブ 表現の方が印象は良くなると考えられる。 絵文字と感情表現のテキストメッセージの組み合わせについて見ると、ポジティブ表現 の方が良い印象にはなるが、ネガティブ表現でも絵文字を使用した方が良い印象になると 考えられる。 Ⅱ研究 1 (1)対象者 2015 年 10 月下旬から 11 月上旬に大正大学生を対象に、自分の友人や在籍するサークル の学生たちなどに協力をお願いし、55 人(男 29 人、女 26 人)に実験を実施した。 (2)材料 実験の内容として、テキストメッセージには、電子メールでは既知の相手とのみ行って いると考え、電子メールのようなコミュニケーションツールであること、初対面の相手と 接触する機会が多いと思われることからツイッターを利用した。また、実際にあったツイ ッターのツイート内容から個人が特定されないようなツイート内容へ書き換えたものを筆 者が作成した。 ツイート内容は様々な感情を出すため、喜怒哀楽の 4 種類になるようにした。喜では、 「お 昼に友達とラーメン食べてきた」 「彼女(彼氏)と水族館に行ってきた」の 2 パターン用意し た。怒では「マジむかつく」の 1 パターン用意した。哀では「飼ってたペットがいなくな るとやっぱり悲しい」 「レポート終わらない」の 2 パターン用意した。楽では「今日のドラ マ楽しみ」の 1 パターン用意した。その他に、「海外に行きたい」「かっこいい(かわいい) 服が似合う男(女)になりたい」の快表現 2 パターンと「バイト疲れた」 「つまらない 1 日だ った」と不快表現の喜怒哀楽に入らないだろうと考えた 4 パターンを用意して合計 10 パタ ーン作成した(表 1)。 「彼女(彼氏)と水族館に行ってきた」 「かっこいい(かわいい)服が似合う 男(女)になりたい」に関しては、男女のツイート内容を用意した。 アイコンに使用した顔写真には、大正大学に在籍していない筆者の友人(男 1 人、女 1 人) に協力をお願いし、武川ら(2002)による、顔の向きが斜めよりも正面の方が友好性が高いこ とから正面の向きで撮影した。表情は、井上(2014)による、4 種類の表情の中から、微笑み 顔と笑い顔の平均値上位 3 項目では順位に差があったものの同様の 3 項目であり、平均値 が高かったということと Richard ら(2014)の第一印象を高くする要因であった大きな笑み ということから、笑い顔を用いて行うものとした。また、写真でしかめ顔はほとんどない と判断したため、しかめ顔は使用せず、口を開けての笑い顔(笑顔)と真顔を採用し、男女そ れぞれの笑顔と真顔の写真の 4 パターンとツイッターの初期画像の 1 パターンの計 5 パタ ーン作成した(図 1)。 絵文字は、五十嵐・糸井(2004)の文字や記号を組み合わせて人の顔や表情、ジェスチャー を表現する顔文字とし、携帯電話会社が独自に用意した特殊文字を絵文字として分け、絵 文字を使用した。どの絵文字を使うかに関しては、ツイッターを利用し、また、絵文字も 7 利用している友人に協力してもらい、ツイート内容に合うような感情の絵文字を 2 人で考 え作成した(図 2)。また、文中に絵文字を入れる場合には一つ、文末には絵文字を強調する ために 3 つ同じものをつなげた。 ツイート内容 10 パターン、アイコンの画像 5 パターン、さらに、絵文字の有無の 2 パタ ーンを加え、すべてを掛け合わせて 100 項目であるが、アイコンの画像がないものは男女 の区別がつかないため、「彼女(彼氏)と水族館に行ってきた」「かっこいい(かわいい)服が似 合う男(女)になりたい」の 2 パターンの文章に関しては男女で分かれるよう両方作成した。 2 パターンの文章と絵文字の有無とを掛け合わせて 4 項目追加し、計 104 項目とした。回 答は「1.まったく良い印象を受けない」 「2.あまり良い印象を受けない」 「3.どちらでもない」 「4.少し良い印象を受ける」 「5.とても良い印象を受ける」の 5 件法で求めた。 (3)手続き 実験はパソコンの画面を見てもらい評価してもらうため、周囲の影響を受けないように 個室を用意した。 また、 機器の都合で協力をお願いした学生に 1~3 人ずつ行ってもらった。 実験に使用したソフトは Peirce(2007,2009)の「PsychoPy」を使用した。ツイート内容を パソコンで表示する際に、実際の大きさであるスマートフォンのサイズでは見えにくく評 価しにくいと判断し、パソコンの画面のサイズに合うように縦横の比率を変えずに拡大し た。実験を開始する前に、本研究の意義とプライバシーの保護を説明した上で実験を行っ てもらった。最初の画面で「ツイッターのツイート画像をみてもらい、それについてどれ くらい良い印象を受けたか」ということ、評価については 1~5 段階で行ってもらうこと、 評価方法についてはキーボードの「1,2,3,4,5」にそれぞれ対応していることを説明した。 実験の途中で評価を忘れてしまわないように、個室のホワイトボードにも評価の番号と 内容を書いておいた。本実験を行う前に練習を 3 項目用意して行ってもらった。練習が終 了した後に、本実験に移ることを提示し、画面の指示にしたがって行ってもらった。本実 験は、104 項目すべてをランダムで表示するように設定し、途中に休憩を挟まず評価しても らった。所要時間は 5~15 分程度であった。 (4)結果 回答してもらった 55 名すべてを分析に用いた。 ①顔写真と絵文字による被験者内 2 要因分散分析 顔写真無し、男性の顔写真(真顔・笑顔)と絵文字の有無による回答の平均値(SD)は、①顔 写真無‐絵文字無で 2.435(0.632)、②顔写真無‐絵文字有で 2.743(0.722)、③真顔‐絵文字 無で 2.733(0.598)、④真顔‐絵文字有で 3.058(0.777)、⑤笑顔‐絵文字無で 2.776(0.627)、 ⑥笑顔‐絵文字有で 3.107(0.805)となった(表 2)。 次に、顔写真無し、女性の顔写真(真顔・笑顔)と絵文字の有無による回答の平均値(SD) は、①顔写真無‐絵文字無と②顔写真無‐絵文字有は男性と同様で、③真顔‐絵文字無で 2.682(0.596)、④真顔‐絵文字有で 2.962(0.769)、⑤笑顔‐絵文字無で 2.709(0.606)、⑥笑 顔‐絵文字有で 3.020(0.814)となった(表 3)。 続いて、写真と絵文字による印象の差異を検討するために、それぞれについて写真(真顔・ 8 笑顔・写真無)と絵文字の有無を要因とする 3×2 の被験者内 2 要因分散分析を行った。 まず、男性の顔写真については、写真の主効果(F(2,108)=22.287,p<.01)と絵文字の主効 果(F(1,54)=7.491,p<.01)が有意であった。写真と絵文字の交互作用効果は有意ではなかっ た。写真要因において Holm 法による多重比較を行ったところ、真顔と笑顔については有 意な差は認められなかった。したがって、絵文字があったほうが印象は高くなり、写真が あったほうが印象は高くなるが、写真の真顔か笑顔ということは関係しないということが いえた(表 4)。 女性の顔写真についても同様に、写真の主効果(F(2,108)=11.129,p<.01)と絵文字の主効 果(F(1,54)=7.246,p<.01)が有意であった。写真と絵文字の交互作用効果については有意で はなかった。写真要因において Holm 法による多重比較を行ったところ、真顔と笑顔につ いては有意な差は認められなかった。男性と同様に、絵文字があったほうが印象は高くな り、写真があったほうが印象は高くなるが、写真の真顔か笑顔かということは関係しない ことがいえた(表 4)。 ②感情表現による分散分析 次に、実際の文章における、石川(2012)の研究の再検討を行った。ツイート内容を作成す る際の喜怒哀楽と快不快表現を「喜」「楽」「快」表現と「怒」「哀」「不快」表現の 2 つに 分けた。「喜」「楽」「快」表現をポジティブ表現、「怒」「哀」「不快」表現をネガティブ表 現とした。ポジティブ表現の平均値(SD)は 2.988(0.549)、ネガティブ表現の平均値(SD)は 2.625(0.509)であった。平均値を t 検定した結果、t(54)=5.312,p<.01 となった(表 5)。し たがって、ポジティブ表現とネガティブ表現では有意な差が見られた。このことから、ポ ジティブ表現の方がネガティブ表現より良い印象を与えることが分かった。 また、項目ごとで差があるかどうかを検討した。喜怒哀楽表現と快不快表現の平均値(SD) をまとめた(表 6)。 その後、平均値を用いて 6 水準の被験者内 1 要因分散分析を行った(表 7)。その結果、感 情表現の要因による効果(F(5,270)=33.285,p<.01)は有意であった。また、Holm 法による 多重比較を行ったところ、喜‐怒間で t(54)=7.122,p<.01、喜‐哀間で t(54)=3.139,p<.05、 喜‐快間で t(54)=2.804,p<.05、喜‐不快間で t(54)=3.959,p<.01、怒‐哀間で t(54)=- 6.218,p<.01、怒‐楽間で t(54)=-7.887,p<.01、怒‐快間で t(54)=-6.309,p<.01、怒 ‐不快間で t(54)=-6.064,p<.01、哀‐楽間で t(54)=-4.439,p<.01、楽‐快間で t(54) =4.670,p<.01、楽‐不快間で t(54)=5.711,p<.01、快‐不快間で t(54)=2.913,p<.05 で 有意であった。喜‐楽間、哀‐快間、哀‐不快間では有意な差が得られなかった。 ③感情表現と顔写真による被験者内 2 要因分散分析 さらに、ポジティブ表現とネガティブ表現に顔写真の表情が影響しているかどうかにつ いて検討した。男性の顔写真(真顔・笑顔)とポジティブ表現、ネガティブ表現による回答の 平均値(SD)は、①男性真顔‐ポジティブ表現で 3.053(0.560)、②男性真顔‐ネガティブ表現 で 2.733(0.627)、③男性笑顔‐ポジティブ表現で 3.253(0.758)、④男性笑顔‐ネガティブ表 現で 2.631(0.584)であった。女性の顔写真(真顔・笑顔)とポジティブ表現、ネガティブ表現 による回答の平均値(SD)は、①女性真顔‐ポジティブ表現で 2.965(0.582)、②女性真顔‐ネ 9 ガティブ表現で 2.678(0.584)、③女性笑顔‐ポジティブ表現で 3.153(0.766)、④女性笑顔‐ ネガティブ表現で 2.576(0.570)であった(表 8)。 続いて、男性と女性でそれぞれ平均値を用いて顔の表情と感情表現による 2×2 の被験者 内 2 要因分散分析を行った(表 9)。この結果として、男性の顔写真と感情表現では、感情表 現による主効果(F(1,54)=29.365,p <.01)と感情表現と表情の交互作用効果 (F(1,54)= 14.026,p<.01)は有意であった。この結果から、笑顔では感情表現の印象に大きく影響を与 えているが、真顔では感情表現の印象に笑顔よりも影響を与えていないことが分かった。 女性の顔写真と感情表現では、感情表現による主効果(F(1,54)=35.169,p<.01)と感情表現 と表情の交互作用効果(F(1,54)=10.547,p<.01)は有意であった。この結果から、笑顔では 感情表現の印象に大きく影響を与えているが、真顔では感情表現の印象に笑顔よりも影響 を与えていないことが分かった。このことから、男性でも女性でも真顔より笑顔の方が感 情表現の印象に大きく影響を与えているといえる。 ④絵文字と感情表現による被験者内 2 要因分散分析 その後、絵文字の有無と感情表現が影響しているかについて検討した。絵文字の有無と 感情表現による平均値(SD)は、①絵文字無‐ポジティブ表現で 2.793(0.585)、②絵文字無‐ ネガティブ表現で 2.513(0.611)、③絵文字有‐ポジティブ表現で 3.219(0.877)、④絵文字有 ‐ネガティブ表現で 2.700(0.665)であった(表 10)。 続いて、それぞれの平均値を用いて絵文字の有無と感情表現による 2×2 の被験者内 2 要 因分散分析を行った(表 11)。この結果として、絵文字の主効果(F(1,54)=7.226,p<.01)と感 情表現の主効果(F(1,54)=30.627,p <.01)、絵文字と感情表現の交互作用効果(F(1,54)= 13.077,p<.01)のすべてにおいて有意であった。この結果から、絵文字を使用した方が感情 表現の印象に大きく影響を与えているが、絵文字を使用していない時には絵文字を使用し た時より感情表現の印象に影響を与えないことが分かった。このことから、絵文字を使用 しないよりも使用した方が感情表現の印象に大きく影響を与えているといえる。 ⑤まとめ 顔写真と絵文字による分散分析による結果として、顔写真と絵文字による主効果が見ら れたことから、顔写真を使用した方が、また、絵文字を使用した方が印象は良くなること がいえる。しかし、真顔と笑顔では差がないことがいえる。 感情表現のテキストメッセージのみについて検討した結果として、ポジティブ表現の方 がネガティブ表現より良い印象を与えるといえる。 感情表現と顔写真による分散分析の結果として、感情表現の主効果と感情表現と顔写真 の交互作用効果が見られたことから、笑顔の時にポジティブな感情表現をすると良い印象 を受け、ネガティブな感情表現をするとあまり良い印象にならないことが分かった。真顔 ではポジティブ表現の時とネガティブ表現の時で笑顔の時のような差は見られなかった。 このことから、笑顔の表情では感情表現の印象に大きな影響を与えるといえる。 絵文字と感情表現による分散分析の結果として、絵文字と感情表現の主効果と交互作用 効果のすべてで有意であったことから、ポジティブ表現での絵文字の使用は、印象に大き な影響を与えるが、ネガティブ表現での絵文字の使用は、ポジティブ表現よりも印象に影 10 響を与えていないといえる。 (5)考察 まず、感情表現に着目する。喜怒哀楽、快、不快表現のテキストメッセージでの印象の 結果では、 「喜」 「楽」 「快」によるポジティブ表現と「怒」「哀」 「不快」によるネガティブ 表現に分けた場合に、有意な差が見られ、ポジティブ表現の方がネガティブ表現よりも良 い印象を受けることが分かった。その後、各表現による分散分析を行ったところ、喜‐楽 間、哀‐快間、哀‐不快間以外のすべての表現間において有意な差が見られた。石川(2012) では、すべての表現間において有意な差が見られたが、それと似たような結果を得ること ができたと考えられる。また、平均値が高い順に楽>喜>快>哀>不快>怒であった。こ の結果から、楽表現や喜表現、快表現といったポジティブ表現の方が哀表現や不快表現、 怒表現といったネガティブ表現よりも良い印象を受けることが分かった。これらのことか ら、感情表現のテキストメッセージを送る際には、楽しいことや喜ばしいこと、快いこと といったポジティブ表現のテキストメッセージを送った方が良い印象を受けるといえる。 次に、仮説ごとに見ていく。 顔写真と絵文字については、双方の主効果に有意な差が見られた。この結果から、アイ コンに顔写真を用いたとき、絵文字を使用すると良い印象を受け、アイコンに顔写真を使 用しないで絵文字も使用しないとあまりよい印象を受けないということが分かった。また、 顔写真の真顔か笑顔かということは関係がないことが分かった。そのため、テキストメッ セージを送る際には、アイコンには表情に関係なく顔写真を使用し、絵文字を使用するこ とで良い印象を受けるといえるだろう。仮説では、真顔よりも笑顔の方が印象は高くなる と考えられたが、本研究では、表情によっての違いはなかった。 顔写真と感情表現については、顔写真の表情による主効果はなかったが、感情表現の主 効果、交互作用効果に有意な差が見られた。この結果から、笑顔の顔写真においてポジテ ィブなテキストメッセージを送ると良い印象を受けるが、ネガティブなテキストメッセー ジを送るとあまり良い印象を受けないことが分かった。また、真顔の顔写真にはポジティ ブ表現とネガティブ表現の時には印象にあまり差がないことが分かった。仮説では、感情 表現に関係なく真顔よりも笑顔の方が印象は良くなり、ネガティブ表現よりもポジティブ 表現の方が印象は良くなると考えていた。しかし、本研究では、笑顔の時には感情表現に よって印象が大きく変化し、ポジティブ表現で良い印象になり、ネガティブ表現であまり 良い印象にならなかった。真顔の時にはポジティブ表現の方が良い印象にはなったが笑顔 よりも感情表現は印象にあまり影響せず、ネガティブ表現は笑顔よりも印象が良かった。 絵文字と感情表現については、絵文字、感情表現の主効果、絵文字と感情表現の交互作 用効果すべてに有意な差が見られた。この結果から、ポジティブ表現のときに絵文字を使 用するとより良い印象を受け、ネガティブ表現でも絵文字を使用した方が良い印象を受け ることがいえ、仮説通りの結果であった。 Ⅲ研究 2 研究 1 で、真顔か笑顔による効果はなかったことから、顔写真がどのような印象を与え ていたかを確認するために、実験を行った。 11 (1)対象者 2015 年 11 月下旬から 12 月初めに大正大学正を対象に、自分の友人や在籍するサークル の学生で本実験を行っていない学生たちなどに協力をお願いし、12 人(男 6 人、女 6 人)に 実験を実施した。 (2)材料 実験は、本実験で用いた男性と女性の真顔と笑顔の写真の 4 パターンを使用した(図 1)。 質問内容は、井上(2014)を参考に、 「明るい」 「親しみやすい」 「親切な」 「自信のある」 「落 ち着いた」 「素直な」 「意欲的な」 「意志が強い」という 8 パターンに、魅力度を評定しても らうため「魅力的な」の 1 パターンを加えて全 9 パターンであった。 写真 4 パターン、質問内容 9 パターンすべてを掛け合わせて計 36 項目とした。回答は「1. 思わない」 「2.あまりそう思わない」 「3.どちらでもない」 「4.やや思う」「5.思う」の 5 件法 で求めた。 (3)手続き 実験はパソコンの画面を見てもらい評価してもらうため、周囲の影響を受けないように 個室を用意した。また、機器の都合で協力をお願いした学生に 1 人ずつ行ってもらった。 実験を開始する前に、本研究の意義とプライバシーの保護を説明した上で実験を行って もらった。実験に使用したソフトは Peirce(2007,2009)の「Psychopy」を使用した。最初の 画面で「男性と女性の表情が違う写真について評価してもらいます」ということ、その評 価は 1~5 段階で行ってもらうこと、評価方法についてはキーボードの「1,2,3,4,5」にそれ ぞれ対応していることを説明した。 評価項目については、写真の上部に表示されることを説明した。 実験の途中で評価を忘れてしまわないように、写真の左側に評価の番号と内容を表示し ておくように設定した。練習は入れず、本実験を行ってもらった。本実験は、男性の真顔 について「明るい」「親しみやすい」 「親切な」「自信のある」「落ち着いた」「素直な」「意 欲的な」 「意志が強い」「魅力的な」の順番に表示するように設定し、男性の笑顔、女性の 真顔、女性の笑顔という順で同様に評価してもらった。途中に休憩を挟まず評価してもら った。所要時間は 5 分程度であった。 (4)結果 回答してもらった 12 名の回答すべてを分析に用いた。男女の真顔と笑顔の顔写真の 9 項 目についての得点を「思わない」1 点、 「あまり思わない」2 点、 「どちらでもない」3 点、 「やや思う」4 点、 「思う」5 点として、各項目で平均値と標準偏差を求めた(表 12)。顔写 真ごとに 9 項目で信頼性係数を求めた(表 13)。男性真顔は Cronbach のα係数から見ると -.101 となり、信頼性分析がとても低かった。男性笑顔で.712、女性真顔では.691、女性 笑顔では.866 であった。そのため、項目ごとによる性別と表情の 2×2 の被験者内 2 要因分 散分析を行った(表 14)。この結果、「明るい」では、性別と表情の主効果が有意であった。 「親しみやすい」では、性別と表情の主効果と交互作用効果が有意であった。「親切な」で 12 は、性別と表情の主効果が有意であった。「素直な」では、性別と表情の主効果と交互作用 効果が有意であった。「落ち着いた」では、表情の主効果が有意であった。「自信のある」 では、性別の主効果が有意傾向であった。 「意欲的な」では、表情の主効果が有意であった。 「意志が強い」では、性別の主効果が有意で、交互作用効果が有意傾向であった。「魅力的 な」では表情の主効果が有意であった。このことから、性別については、女性より男性の 顔写真の方が明るくて、親しみやすくて、親切で、素直で、意志が強いという印象を受け、 男性より女性の方が自信のある印象を受けていることが分かった。表情については、真顔 より笑顔の方が明るくて、親しみやすくて、親切で、素直で、自信があって、意欲的であ るという印象を受けることが分かった。笑顔より真顔の方が落ち着いているという印象を 受けることが分かった。交互作用効果に有意差が見られた「親しみやすい」では男女とも に笑顔の方が良い印象を受けることが分かった。 「素直な」では、女性においてのみ真顔よ り笑顔の方が良い印象を受けていることが分かった。 (5)考察 研究 1 で、顔写真の真顔か笑顔かによる印象形成に影響がなかったため、顔写真につい てどのような印象を受けるかを見るために、追実験を行った。 各項目で検討を行った結果として、平均値の高い 3 項目を順に見てみると、真顔の男性 では「素直な」 「親切な」 「親しみやすい」、笑顔の男性では「明るい」 「親切な」「親しみや すい」、真顔の女性では「意志が強い」「自信のある」「落ち着いた」、笑顔の女性では「明 るい」 「自信のある」 「意欲的な」という項目の得点が高かった。井上(2014)では、女子大学 生についての印象では、真顔では「落ち着いた」「意志が強い」「自信のある」という項目 の得点が高く、笑顔では「明るい」「親しみやすい」「親切な」という項目で得点が高かっ た。このことから、笑顔の男性と真顔の女性の写真については、平均値の高い 3 項目が井 上(2014)の結果と多少順番は違うものの同様の項目の得点が高かったことが分かった。また、 男性の顔写真については平均値の高い 3 項目のうち、「親しみやすい」 「親切な」の 2 項目 が同じであり、真顔でも笑顔でも親しみやすく親切な印象を受けることがいえる。女性の 顔写真については平均値の高い 3 項目のうち、 「自信のある」の 1 項目が同じであり、真顔 でも笑顔でも自信のある印象を受けることがいえる。 次に、各項目で性別と表情による被験者内 2 要因分散分析を行った結果として、女性よ り男性の方が明るくて、親しみやすくて、親切で、素直で、意志が強いという印象を受け、 男性より女性の方が自信のある印象を受けていることが分かった。また、真顔より笑顔の 方が明るくて、親しみやすくて、親切で、素直で、自信があって、意欲的であるという印 象を受け、笑顔より真顔の方が落ち着いた印象を受けることが分かった。交互作用効果に おいて親しみやすさでは、男女ともに真顔より笑顔の方が良い印象を受け、素直さでは女 性のみ真顔より笑顔の方が良い印象を受けていることが分かった。これらのことから、男 性では、真顔より笑顔の方が明るくて、親しみやすくて、親切で、意志が強いという印象 を受け、笑顔より真顔のほうが落ち着いているという印象を受けるといえる。女性では、 真顔より笑顔の方が明るくて、親しみやすくて、親切で、素直で、意欲的であるという印 象を受け、笑顔より真顔の方が落ち着いているという印象を受けるといえる。 以上のことから、真顔と笑顔では表情によって与えている印象に違いがあることがいえ 13 る。 Ⅳ総合的考察 研究 1 では、大正大学に在籍する大学生を対象に、SNS で初対面の相手から感情表現の テキストメッセージが送られてきたときに、絵文字の有無と顔写真の表情、感情の内容に よって印象形成に影響を与えるかについて実験を行った。 研究 2 では、大正大学に在籍する大学生の中で、研究 1 の実験に参加しなかった学生を 対象に、顔写真の表情による印象にどのような違いがあるかについて実験を行った。 (1)総合的考察 研究 1 では、感情表現と絵文字の有無において主効果、交互作用効果すべてに有意な差 が見られた。また、感情表現と顔写真の時の感情表現の主効果、感情表現と顔写真の交互 作用効果に有意な差が見られた。さらに、絵文字の有無と顔写真において絵文字と顔写真 の主効果に有意な差が見られた。しかし、顔写真の表情についての効果は分からなかった。 そこで、研究 2 を行い、顔写真の印象を確認したところ、真顔と笑顔の印象でほとんどの 項目において有意な差が見られた。そのため、研究 1 で真顔と笑顔の表情によって印象に 違いがなかった理由としては 2 つ考えられる。 1 つ目は、テキストメッセージの印象評定の際の顔写真が小さかったのではないかと考え られる。スマートフォンで閲覧する場合も小さく感じられるが、その場合には画像を大き く表示することも可能である。ただ、今回はパソコンの画面でツイートが表示されるとき のものをパソコンのサイズに合わせただけなので、画像が小さくアイコンに顔写真が使用 されていることは認識できるが、それが真顔か笑顔かということに意識が向かなかったの かもしれない。 2 つ目は、笑顔による印象が大きいと考えられる。男女ともに真顔より笑顔の方がいくつ かの項目で良い印象を受けている。研究 1 では、質問項目が 104 項目と多く、男女ともに 笑顔の顔写真を用いた項目が 20 項目ずつあったため、協力者の印象に残ったことが考えら れる。真顔においても 20 項目ずつあったが、笑顔の印象に意識がいってしまい、真顔と笑 顔の違いが分からなかったと考えられる。 感情表現を表すテキストメッセージに関しては、石川(2012)のようにすべての表現間に有 意な差があるとはいかなかったが、比較的に近い結果を得ることができた。このことから、 感情表現に関するテキストメッセージはうまく分けることができたのではないかといえる。 絵文字に関しては、絵文字の有無と感情表現のテキストメッセージにおいて絵文字の効 果が見られた。この結果から、絵文字を使用することによってネガティブな表現でも良い 印象を受けることがいえる。五十嵐・糸井(2004)の研究で、絵文字の使用が心の余裕を持た せ、良い印象にしていると考えられる。このことから、絵文字の使用においても感情表現 の内容に適切な絵文字であったのではないかといえる。 (2)仮説の検討 実験の結果を、仮説に沿って検討していく。 顔写真と絵文字については、顔写真を使用した方が良い印象となり、絵文字を使用した 14 方が良い印象となった。しかし、真顔と笑顔の表情の違いはなかったため、顔写真の表情 についての印象を確認した。その結果として、真顔と笑顔の表情の違いはあったが、アイ コンに顔写真を使用したとき、表情による違いはなかった。このことから、仮説通りの結 果は得られなかったといえる。 顔写真と感情表現については、真顔よりも笑顔の方が感情表現に関係なく印象は良くな ると考えられ、ネガティブ表現よりもポジティブ表現の方が印象は良くなると考えられた が、笑顔の顔写真においてポジティブなテキストメッセージを送ると良い印象を受けるが、 ネガティブなテキストメッセージを送るとあまり良い印象を受けないことが分かった。ま た、真顔の顔写真にはポジティブ表現とネガティブ表現の時には印象にあまり影響がなく、 真顔でネガティブ表現の方が笑顔でネガティブ表現よりも印象が高かった。このことから、 仮説通りの結果は得られなかったといえる。 絵文字と感情表現については、ポジティブ表現のときに絵文字を使用するとより良い印 象を受け、ネガティブ表現でも絵文字を使用した方が良い印象を受けることがいえ、仮説 通りの結果であった。 (3)総括 研究 1 では、顔写真と絵文字の使用による感情表現のテキストメッセージが印象形成に 与える影響についての検討を行った。実験の結果、絵文字の効果と写真の使用の効果には 差が見られたが、写真の表情が与える影響については分からなかった。そこで、写真につ いての検討として研究 2 を行った。写真については、真顔と笑顔で印象の違いに差が見ら れたが、研究 1 において有意な差が得られなかった。その理由として、テキストメッセー ジに用いたアイコンが小さかったことや笑顔の印象が残っていたことが考えられる。しか し、感情表現のテキストメッセージにおいて、笑顔が感情表現の印象に大きく影響を与え るのに対し、真顔では感情表現の印象には笑顔ほど影響していないということが分かった ことは本研究の大きな収穫といえるだろう。 感情表現のテキストメッセージに関しては、ほとんどの項目間で有意な差が見られたこ とは十分なテキストメッセージを作成できていたといえるだろう。ただ、石川(2012)のよう にすべての表現間において有意な差が得られなかったこととして、筆者が作成した内容の 具体性が感情表現ごとであいまいであったことが考えられる。「怒」の内容は抽象的である のに対し、 「哀」の内容は具体的であった。その具体性が相手に与える印象に関わっている と考えられる。このことに関しては、同じ感情表現でも具体的であるかどうかによって相 手に与える印象は変わるのではないかという新たな仮説が考えられる。 五十嵐・糸井(2004)では、謝罪の場面に着目し絵文字や顔文字の使用が受け手に対して心 の余裕を持たせると示されていたが、謝罪以外の場面の感情表現において、絵文字の使用 がポジティブ表現だけでなくネガティブ表現においても良い印象を受けると分かったこと は、本研究の収穫といえるだろう。 研究 1 では、どれくらい良い印象を受けるかであったため、感情表現のネガティブ表現 に対する評価は低くなったことが考えられる。しかし、絵文字の使用によってネガティブ 表現でも良い印象になるという結果を得られたということは収穫であったといえる。 本研究では SNS の中でもツイッターに焦点を当てて検討した。他にもフェイスブックや 15 ラインといった SNS での印象形成があるが、同様の形式であるため印象形成も似たような 結果になると考えられる。 16
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