指導室の窓からno7 クーデターとスマホ

「指導室の窓から」2016
No.7
「トルコ・クーデター未遂事件」から見えるもの
皆さんが「クーデター」という言葉ですぐに思い付くのは、
「五・一五事件」
「二・二六事件」ではないでしょうか。一つは
1932 年(昭和 7 年)5 月 15 日、武装した海軍の青年将校たちが総理大臣官邸に乱入し、内閣総理大臣犬養毅を殺害した
事件。もう一つは、1936 年(昭和 11 年)2月 26 日、陸軍皇道派の影響を受けた青年将校らが 1,500 名余りの下士官兵
を率いて起こしたクーデター未遂事件です。
簡単には、議会制民主主義が根付き始めた頃、ロンドン海軍軍縮条約を締結した事や政府に丌満を持っていた天皇親政の実
現を図る陸軍の若き将校達が中心となって起こした反乱。若さは、時に暴走するという象徴のような事件でしたね。
2016・7/15、トルコ共和国で軍の一部が反乱を起こして早い段階で鎮圧された事件がメディアで報じられました。
大統領レジェップ・タイイップ・エルドアンが大統領権限の強化を目指して独裁的な傾向を強めていく中、トルコのイスラ
ム化政策に対して、政教分離を重視していたトルコ軍がそれに丌満を募らせ、軍の一部
が反乱を起こした事件です。終結後、関不した者に対して、死刑制度の復活を求める声
が強くなりました。トルコは死刑制度を2002年に廃止(EU 加盟を望むトルコに対
し死刑制度を EU が問題視。EU 正式加盟申請中で廃止は加盟目的も一つの理由)して
いますが、大統領は今回のような政変抑止のため復活を示唆しました。
【トルコ政治予備知識】
★トルコは世俗主義(政権・政策・政府が特定の宗教に支配されない。また、宗教に特権的地位・優遇しない)
★三権分立 しかし、軍が実質の「第4権」と考えられている。
★軍の指揮権は、「平時=大統領」、「戦時=参謀総長」。※現実的には文民統制は弱い。
★国旗は「新月旗」または「月星章旗」と呼ばれる。三日月と星は、イスラム教のシンボル。
<死刑制度について>
日本の死刑制度は、記述に残るものとしては平安時代にまでさかのぼるようです。古くから死刑制度は日本に存在し、社会
防衛上の理由から現在も執行されています。戦争を放棄している日本では、国の名の下に許されている殺人が死刑です。
死刑廃止を訴える声も多いが、被害者及び被害者遺族の権利や心情を重視する考え方や、厳罰化による犯罪の抑止を求める
考え方などにより現在も存続している。
世界においては、過去に強権国家として国の名のもとに、自国民を大量に死刑というよりは虐殺した例もある。毛沢東、ス
ターリンなど。
因みに世界の死刑制度は以下のとおり、廃止・存続・凍結・復活など様々です。また、死刑制度を廃止した国々では、それ
に代わる最高刑として、終身刑を導入しています。
■あらゆる犯罪に対する死刑を廃止(97国)
2012年1月時点(Wik より)
■戦時の逃走、反逆罪などの犯罪は死刑あり。それ以外は死刑を廃止(7国)
■法律上は死刑制度を維持。ただし、死刑を過去 10 年以上実施していない。もしくは、死刑を執行しないという公約をしている国(48国)
■過去 10 年の間に死刑の執行を行ったことのある国(42国)
◆スマホの功罪◆
トルコ共和国のクーデターが早い段階で鎮圧された大きな要因は、「スマホ」だったと言われています。
以下、北陸中日新聞報道内容より。
15 日夜から 16 日未明にかけてのクーデターは当初、計画通りに進み、首都アンランとイスタンブールと主要道路を占拠。
国営放送も押さえ、テレビを通じて反乱軍が全権を掌握したと報じられました。しかし、リゾート地にいたエルドアン大統領
が、民営放送局と連携してスマホのテレビ電話機能を使った国民に向けてのメッセージやユルドゥム首相のツイッターを使っ
た呼びかけ、ほか前大統領や前首相も同様に民営放送局を利用したテレビ電話でクーデターの失敗を訴え、反乱軍を非難した。
これらに呼応した国民が、各地で反乱軍の戦車・車両などを取り囲み、国民を攻撃できない軍のクーデターは沈静化された。
中東での SNS が政変に大きな影響力を与えた先の例としては、民主化運動「アラブの春」が挙げられる。チュニジアから
端を発し、周辺諸国に民主化運動が広がったのは、民衆が利用したスマホによる SNS が大きな役割を果たしている。
今回は、逆に権力者がスマホの情報伝達手段を利用して、反乱の実力行使を阻止することができた。このことでスマホなど
を評価する声もあるが、権力者の政治的武器になることを懸念する専門家もいる。
メディア専門家・アリゾナ大学准教授エド・フィンは「SNS などで誰もが発信手段を持つようになったが、発信力は等し
くない。賢い政治家は、メディアのフィルターを通さずに、じかに情報を届けることで強力な影響力を行使出来ることに気付
いている。功罪両面を意識すべきだ」と論考を述べている。
上記の世界的な事件や日本の災害時の非常連絡手段として、SNS の有効利用という点で高く評価されています。しかし、
一方で気になる状況として、誰でもが気軽に情報発信できるということから、安易な投稿が問題にもなっています。
プライバシーを侵害する事件が発生したり、デマが飛び交い社会問題となった例など数多くあります。例えば「リベンジポ
ルノ」や最近では「熊本地震でライオンが逃げ出したという虚偽の内容の文章と画像をインターネットのサイトに投稿し、偽
計業務妨害容疑で逮捕」
「震源地に近いショッピングモールで火災発生」など。そのほか、授業「社会と情報」において、問題
となった事件などは学んでいると思います。特に最近問題となっているのは、写真の投稿です。所かまわずスマホで写真を撮
り、SNS 等に投稿する行為です。SNS は拡散の容易性から、目立つ目的での画像の投稿が広がっています。しかし、人が特
定できる状態で、映った人の許可無く写真をネット上に載せることは肖像権やプライバシー権を侵害する恐れのある行為(民
事触法)になります。人を勝手に撮影すること自体も侵害行為とされ、公開目的として違法性が高くなります。
撮影者は『気軽』でも『迷惑・嫌悪』を感じる人もいます。一般人であれば,撮影されることに心理的な負担を覚え、写真
撮影・ウェブサイトへの掲載を望まないのが普通です。しかし、巷では溢れているのではないでしょうか!?
皆さんは本校に入学する際に、学校から配布された「写真掲載許可依頼」に同意していることを知っていますか?
学校の教育活動における皆さんの姿を外部向けに写真で紹介することが想定されるため、事前に皆さんの氏名と保護者の署
名・捺印で同意書を提出してもらっています。また、グーグルストリートなどでは、映っている人が特定できないようにもな
っています。
SNS への投稿では、背後にある『リスク』を十分に意識しない傾向が強くなるようです。そして、それが安易に写真など
を投稿する傾向を強めます。その心理的な傾向は次のような点からだと言われます。
①文章の分量が少ない(単文の簡単な文章)。
②アプリ・プラウザから直接入力できる(投稿ボタンだけ)。
③流通量が膨大(多くのユーザーの投稿が常時流れている。感覚が麻痺。)
④投稿を読んだユーザーが送信することが容易(リツイート・シェア)。
⑤2次的拡散を忘れがち。
いつものフォロワーとの相互コミュニケーションからその先の拡散(転送:リツイート・検索)まで意識していない。
※投稿の削除は簡単でも、拡散した情報は消せない。半永久的にオンライン上に存続。
これにより、一般人の人物写真を勝手に掲載し、訴訟により損害賠償が成立した裁判事例有り。
⑥責任追及を受けないだろうという根拠なき感覚。
法的責任発生で特定可能。
⑦肖像権・プライバシー権などの人権に関する知識の欠如・意識の希薄さ。
などです。
スマホは道具の一つ。車と同じで使い方次第では凶器ともなる。
これからの時代は、適正な「メディアリテラシー」をしっかり自分のものとすることが必要丌可欠です。