『補充療法とケア』

『補充療法とケア』
名古屋大学医学部血液内科講師
松下 正
こんにちは。今日は「血友病患児の補充療法とケア」と言うことでお話します。患児
とは子供の患者という意味です。これは(スライド)年代別の名大病院に来ている患者
さんの数をこのように棒グラフにしているものです。近年子供の患者さんがたくさんい
らっしゃる事が多くて、少し小児血友病の体制を強化というか、もう少し子供さんが受
診しやすいようにしようということで、今年の四月から外来棟の4階の小児科の外来に
自己注射指導外来ということで、主に子供さん達、お母さん(お父さん)達が自己注射
の指導を受けられるように外来の枠を作りました。この外来は特に曜日は決まってお
りません、不定期です。月曜から金曜日の日中の不定期で(無い日もありますが)小
児科外来で実施します。血液内科の医師、私とか鈴木先生が診察とか検査をし、診
断をします。次に治療方針を決めましたということで、その後は看護師さんによる自己
注射指導ケアを行う為の枠です。今回、今井看護師さんが小児科病棟・小児科外来
の方に異動になりまして、小児科外来を基地として行っています。必要に応じて私とか
鈴木先生が臨時に診察することもあります。これから徐々に立ち上がって行く訳です
が、一方小児科病棟というのは、先ほど挨拶をされた小林看護師長さんが3月まで師
長をされていました小児科病棟ですが、名大の小児科は割と血友病でない血液疾患
(白血病とか貧血とか)を診ていることが多いのですが、新たにその病棟の看護師さ
んのスタッフのメンバーと一緒になって、血友病の専門的というか非常に詳しい看護
師さんを養成していこうと言うことが一つあります。もちろん子供さんがより受診し易い
雰囲気作りを(これまでは内科の大人の患者さんがいる横で行っていたのですが)もう
少し良くして行こうということです。勿論、成人の患者さんもたくさんいるわけですから
今井さんなり専門看護師さんが成人患者をカバーしながら、将来的には(遠い将来的
には)小児、成人にかかわらず、血友病をある程度詳しく診る看護師さんをチーム化し
複数メンバーで行っていく形にしていこうとしています。ということで目的は患者さんの
自立を目指すということなのです。自分でケアをして、究極的には『自分が自分の主治
医である』という形にもっていきたい。看護師さんによって最適なケアのために出きる
事は何かということを患者さんや親御さんと一緒になって整理してもらう、そして家庭
輸注や自己注射の指導とか色々な日常生活上、学校生活上の問題点、注意点とか
のアドバイスを行っていく。これらのことを含めて子供さんたちがごくごく普通な子ども
として健全な発育をサポートできたらいいなと考えています。これまでは血液内科の2
階の外来で血液内科の医師と内科外来の看護師さんと、或いは血液内科病棟から応
援で来ている病棟看護師といっしょになって主に内科をベースに指導し、勿論、小嶋
先生の所の整形外科、歯科の先生が各外来から来ていただいて包括的に第二、第四
月曜日の午後から診察を行っていたのですけれども、そこに新たに小児科外来という
基地をもう一つ作りまして、とりあえず今は子供さんたちを中心に小児科病棟看護師、
外来看護師で小さなチームができつつあります。勿論、子供さんなので普通の小児科
の疾患もあるわけで、例えば風邪とか、(風邪くらいなら私が処方しますが)肺炎とか
髄膜炎とか子供が一般的になる病気があるが、こういう場合は適切な時に小児科の
先生に血友病以外の病気の相談をしながら子供さんのケアをここでもやっていける形
になればいいなと思います。
ゆくゆくは血友病看護師チームを病院全体に広めていきたい、年齢に係わりなくケア
できるようにしていきたいと考えています。と言うことで今までは宣伝というか紹介で
す。
血友病関節症は会員の皆様はご存じのように、出血を繰り返すとどんどんと進行し
てしまう。その時は止まるのだが、(出血する、止まる、また出血・・・)これらを繰り返す
ことによって徐々に慢性的な関節症が進行して行く訳です。勿論、皆さんは補充療法
をされているわけですし、定期補充をされているかたが多いと思われますが、このよう
な慢性的な関節症はどれだけ治療が進歩してもやはり血友病の診療の最大の課題
であることは言うまでもないことです。皆さんが行っている補充療法はただ単に注射を
うつということではなく、もう少し目的に応じて整理すると、例えば出血があった時にそ
の都度注射を打つという方を英語でオン・デマンド(on demand)と言います。この『デ
マンド』とは『需要』という意味で、需要に応じて注射しますということで、昔からある注
射の方法です。また、予備的補充療法というのはオン・デマンドで行っているけど、(今
日は)出血は無いが、ちょっと明日(のイベント)用に注射しておこうということです。次
の段階として定期補充療法があります。定期補充療法のうち、一次定期補充療法で
最初の関節出血が起こってすぐ予防する、若しくは一回か二回出血が起きてから予
防するというもの。二次定期補充療法は、ある程度関節障害が進んでから予防を開
始するということです。この辺も行っている人はよくご存じだと思いますが、出血への
補充療法は欠乏した第Ⅷ因子や第Ⅸ因子を補充して充分な止血をおこなうことがあり
ますが、オン・デマンド投与の場合のポイントは出血に対してできるだけ早期に輸注す
る必要があります。これから少し説明しますが、部位とか程度とかその出血の種類に
応じた投与法、投与量があります。ある程度どんな出血にでも同じ投与量ということで
はありません。皆さんもよく聞くと思いますが、補充する因子には半減期というものが
あり、注射した製剤は血液の中で必ず消えてしまいますので、どれくらい経つと消えて
しまうのかよく理解して(輸注を)行う必要があります。第Ⅷ因子の場合ですと、このよう
なグラフになります。100%の活性を得られるようにするには、だいたい体重(kg)あた
り50単位必要です。大人の人ですと2000単位とか2500単位を注射すると、10分
から15分で100%になる訳ですが、その後時間を経るごとに血中半減期はこの様に
なっていきます。したがって第Ⅷ因子の活性は徐々に低下していきます。これはかな
り個人差があり、全員がこの様になる訳ではなく、平均するとだいたい10時間未満で
半分位になってしまう。この事をよく理解した上で注射をしなければならない。それで
関節出血や筋肉内出血が起きた場合に「どういう風に補充療法してもらうか?」と言う
事について、もうすぐ学会から、主に他の科の先生達や一般の病院の小児科の先生
達向けにガイドラインが発表されます。このガイドラインが発表された時に、ある程
色々な病院の先生達が専門科でなくても補充療法ができるように、ガイドライン(大ま
かな治療指針)を整えていく様に今後は進んで行く訳ですが、そこには関節出血と筋
肉内出血の治療法としてこの様に記載されています。「関節出血の場合は前兆や非
常に出血し初めの場合には目標とするピーク因子レベルを20~40%で一回注射し
てください。ただし重症出血の場合はその倍の量(40~80%)を選択して一回投与し
て下さい。そして12時~24時間後の間隔で追加投与をした方が宜しい。」と記載され
ています。それで主に関節出血に従って(説明していくと)、出血時の投与というものは
子供さん、或いは大人にも関わることですが、一般的にオン・デマンド投与では、だい
たいには初回投与が重要であるとよく言われています。初回投与(の時期)は血友病
患者さんの出血は思い当たる原因が無い事が多い訳ですから、(例えば)膝の違和感
を覚えたといったような事があった時にはすぐに投与しましょうと言うことです。(この関
節出血を)止血する為には凝固因子量を一定以上のレベルに上昇させる必要があり
ます。だいたい一定年齢以上の人ですと痛みが出たり、腫れたりする前の違和感を自
覚する事があるので、この時に補充療法を行うと一回で止血することができます。しか
し関節出血が重症になった場合はなかなか一回では止まらないと言うことになります。
では重症の出血とは何かと言うと、ちょっと気付くのが遅れた場合や時間がなくて(注
射が)その時に打てなかった場合もそうですが、三番目として頻繁に出血を繰り返す場
所に出血が連続して起きた場合のこともこの中に含まれています。これを専門的用語
でいいますと『ターゲット・ジョイント』と言い、日本語では『標的関節』と言います。同じ
場所に何回も出血するような場合の方には、初期投与の量では不十分な場合がある。
『ターゲット・ジョイント』はアメリカで生まれた言葉で、過去6か月で4回以上出血した
関節だとか一生で20回以上出血した関節と本には書かれていますが。大雑把にはよ
く出血する関節のことを一般的に呼んでいます。だいたい肘とか膝とか足関節が多い
とされています。ここの出血をきちんと止めないと血友病性関節症が進行してしまいま
す。その時に治療の目的に応じて凝固因子の量をどれくらいにするのか、どれくらい
にしたいのか決めてから注射するのが理論的です。つまり関節出血の前兆とかの割
と軽めの場合なら20%から40%で良い。しかし、先ほど述べた『ターゲット・ジョイン
ト』の出血ならその倍くらいは考えておかなければならない。当然、大出血、脳出血や
頭部打撲などの場合はもっとたくさんの量がいることになります。その辺の加減をある
程度自分の体が解ってやっていく必要がある。そのためには計算方法を知る必要が
あります。皆さんもご存じだと思いますが、第Ⅷ因子の投与量を考える時は[必要パー
センテージ]×[自分の体重]×[1/2]となります。血友病 B の方への投与量は[必要パ
ーセンテージ]×[自分の体重]ということで簡単に計算できます。体重50kg の人が4
0%の活性が必要であれば50(kg)×40(%)×1/2で1000単位となります。そういう
所から1000単位というのは来ており、どんな時でも1000単位と言うわけではなく、
ひょっとすると2000単位が必要な時もある、逆に1000単位も必要ない場合もあり得
えます。それはだいたい自分の体重によりますので体重が増えてくればたくさん必要
になってくるし、当然10kg の子供さんが20kg になれば倍必要になってきます。だか
ら盲目的に私は昔から何単位だからというのではなく、体重の増減とかを考えることと、
症状を考えることが補充療法の場合は重要です。とは言うものの実際にはバイアル
は250、500、1000単位の 3 種類しかないので、それを組合せていくことになると、
例えば、計算とおりに行くと1250とか850とかになった場合ですと、残りを捨てること
は普通しないのでどちらかに振り分けて投与するのが一般的です。20から40%必要
なら10kg の子供なら250単位を 1 本で良いが15kg ぐらいを越えてくると500単位
は必要かもしれません。もしくは、250単位を 2 本とかでもよい。だから15kg を超えた
ら500単位でいいかもしれないということがありますし、また40から80%必要な時は
その倍を考えなければならない。15kg の子供でも場合によっては1000単位必要に
なってくることがあります。だから自分の体重から何%上昇するということを知るという
ことと、関節も幾つかありますのでそれぞれの関節の状況をよく理解しておくこと、この
二つのことを頭に入れておいて必要な量をバイアルの規格に応じて輸注するというの
が正しい方法です。皆さんは在宅自己注射療法で出血時の治療をされていると思い
ますが、疼痛の軽減とか通院の煩わしさが在宅によって軽減されて来た訳ですが、在
宅で上手く行っていれば良いのかとなると、全員の患者さんでやはり慢性的な関節症
というのは完璧には防止することはできない。やはり徐々に関節が悪くなって行く場合
があります。今でも学校生活や社会生活の質は100%改善されているとは言えない
かもしれません。さらに自分たちの生活のクオリティーを高めていくにはどうしたらよい
かということになりますが、その場合に定期補充療法についてどう考えていくことにな
ります。定期補充療法には先ほどでも述べたように一次と二次があります。まずこれ
を行うことがなぜ良いのかという理論的根拠は、血友病には重症、中等症、軽症があ
り、中等症の患者さんは重症の患者さんよりも症状が軽い傾向があります。年間の出
血回数は1、2回程度の方が多い。となると重症の患者さんの活性を最低1%以上に
保っておくことはある程度意味があると思われます。つまり血友病性関節症は関節出
血の結果なので、この出血を予防して関節症を防止するということを、重症型の人を
定期補充療法により中等症化するというのが、この治療の目的であります。そのこと
が端的に示されたのが、去年『New England Journal of Medicine』という有名な医
学雑誌に発表された血友病の子供の関節障害を予防していくことに関して、定期補充
療法と出血時補充療法(オン・デマンド療法)をくじ引試験で比較を行い、どちらが予防
効果が得られたのか厳密に比較した臨床試験の結果です。定期補充療法のやり方は
一日おきに行うことがこの研究では選択されました。一日おきに注射すると、このよう
に(スライド)これだけ上昇しますが、徐々にさがり48時間後には1%切りそうなので
また注射するというかたちで、週3回よりも少し多めの一日おきで定期補充します。こ
のやりかたと普通の出血時補充療法の患者さんとどこが違うかをくじ引き試験で比較
しました。くじ引き試験とはあなたはこちら、あなたはそちらという風に先生が決めるの
ではなく、完全にくじ引きで決定して平等に決めていくことです。だからどちらかの患者
さんが良いかということに関して科学的に平等と考えられているのです。発表された結
果をみますと定期補充療法をしていた患者さんの93%の方が関節の障害が全く無か
った、正常だったという結果になってしまった。つまり、残り7%の関節には何らかの異
常があった訳だが9割3分の関節は6歳児にて正常だったということです。これに対し
て出血時補充療法の方は55%位の方の関節は正常だったけれども、残りの45%位
の方の関節には何らかの異常があったということに結果が分かれました。この障害の
割合は普通のレントゲンだけでなく MRI という非常に感度の良い方法で検討しています
ので、6歳児の段階で全く障害の無い方がこれだけいるということです。これはアメリ
カの臨床試験の結果ですが、この様に欧米の成績が出てきたことによっておそらく血
友病の重症型に対する定期補充療法によって関節症の防止ができるであろうと考え
られます。しかし定期補充療法を関節障害が出てくる前に開始することによって最大
の効果が得られる可能性があるだろうが、ある程度関節障害が進んでから始めたの
ではひょっとすると完全な効果が期待できないかもしれません。だから治療を始める
なら障害が起こる前、出血が繰返される前に始めると関節症の防止がより完全にでき
ることになると現時点で欧米では考えられている、という訳です。名大病院でも、いわ
ゆる一次定期補充療法として出血があってから数回以内の患児さんたちに現在定期
補充療法を実施していますが、だいたい早い方は6か月からで、遅い方ですと4歳か
ら始めているのですが、年間の関節出血回数がこの4人の方はまだ0回で治療を始
めてからまだ一回も出血していない、後の方も2回以下ということで関節出血が非常
に少なくなります。今日は説明しませんがこの様な小児の方に週3回とかという形で定
期補充をしていくにはポートとかブロビアックといったようなルートが必要なこともあり
ます。ルートが抜けたり、(子供が成長して)大きくなってくると末梢静脈に徐々に移行
していくことになります。ということで一次定期補充に関しては、たぶん欧米の成績も
あって関節症の予防効果があるということになります。次に二次定期補充療法ですが、
ある程度大人の患者さんも含めて関節症はあるが定期補充療法をしていく意味があ
るのかどうかということです。これに関しては非常によく出血される患者さんだと月4回
くらい出血する方もいますが、一回出血するたびに2回くらい(製剤を)使用しているの
で月で10回くらい注射を使用するわけです。そのうち2回くらいは仕事を休んでいる
かもしれません。このような患者さんが居るとしますと、これに対して週3回の定期補
充療法を行って(3回×4週で)月12回の注射をして出血とか痛みとかが全く無かった
ら、どちらの方が結局良かったのかという比較になります。つまり、普通の出血時の補
充療法とほぼ同じ量の製剤の輸注量、注射回数をただ単に予防に的に使うのか、出
血時に使うかの違いによってかなり得られる結果に差が出て来るということです。どう
考えても痛みとか出血が無い方が良いに決まってますので、ただ全員にということで
はないが、場合によっては二次定期補充療法を勧めた方が製剤の使用療法がほとん
ど変わらない状態でより日常生活のクオリティーが向上していくだろうと考えた場合は
勧めることもあります。これは子供さんだけの(データーを)採って、3歳以上の方で二
次定期補充療法を行っている患者さんをまとめてみましたが、だいたい週3回くらいと
いう方がメインです。中には量を増やさないと関節の出血回数が減らない方もいますが、
適切な量を止血していく事で、ある程度年間の出血回数が2回未満に抑えていくこと
ができる様になります。ということなので、既にある程度(十数回)以上出血が起こって
しまって、関節出血が頻繁に起こっている患者さんについても、場合によっては二次
定期補充療法を導入することによってかなり軽減することもできるという期待をもって
行っている。もう一つの定期補充療法の大きな利点は頭蓋内出血のリスクをたぶん減
らすことができるということで、もともとそれほど頭蓋内出血は頻繁に起こる出血では
ないが、定期補充療法を行うことによってリスクがもう一段減らすことができるだろうと
いう利点もあります。そういうことで血友病治療の方向性は、従来は出血に対する止
血治療ということで凝固因子の補充療法を行ってきたが、今後のトレンドとしては欠損
した因子を補って、出血させない治療に向かっていくのではないのだろうか。これが定
期補充療法を徐々に取り入れていく大きな理由の一つです。
あと残りの時間は去年の半日交流会の時に少しお話をした頭蓋内出血の、主に子
供さんへの頭蓋内出血の注意点というかポイントを少しだけお話して終わりたいと思
います。一般の人は頭蓋内出血につながらないが血友病患者では頭蓋内出血に発
展してしまうことが必ずでは無いがあり得ます。当然脳出血というのは一般の人でも
起こります。一般の人が早期に死亡してしまうような重症な頭蓋内出血で、例えばクモ
膜下出血だとか高血圧脳内出血だとかが血友病患者さんにも当然起こるわけです。
それが起きた場合には血友病の補充療法だけでは治療することはもちろんできない。
しかし、早期の予防輸注が効果的なことが血友病患者さんにはいくつかあります。子
供さんで明らかに頭部打撲した後で病院に行く訳ですが、病院に着く迄に注射してお
くと軽くすむ場合があるかもしれないということと、主に子供さんの血友病患者さんに
見られる特に頭を打った覚えもないのにという、要因がはっきりしない頭蓋内出血に
対して早期の予防輸注はやはり効果的であると言われています。明らかな頭部打撲
とは何なのか。頭を打ったかどうかはなかなか子供の場合ですと判断しにくいことが
あり、その場に親がいないこともある訳ですが、ある程度身近な人が判断して明らか
に頭部打撲であると判断される場合には予備的な輸注をお勧めするというのが昨年
少しお話したことです。それで予防輸注をしていただいて病院に来ていただく、勿論家
庭輸注が確立されている方についての話ですけれども、受診して帰宅後危険のサイ
ンがあればもう一度来ていただくという手順が必要です。頭蓋内出血の原因は一般人
に起こる(私でも転んだり、落ちたりして事故になれば、当然出血します)高血圧性と
かクモ膜下出血とかもあります、それ以外で血友病患者さんにみられる誘因のわから
ない脳出血の場合にも予防輸注が有効です。特に乳児の方、1歳未満の方や時には
1歳を過ぎているが非常に小さいお子さんに時々ですが誘因のはっきりしない頭蓋内
出血が起こることがあります。どちらかと言うと急に発症するというより、ある程度時間
をかけて発症することの方が多いような気がします。機嫌が悪いとか微熱があるなど
の症状からスタートする様なこともあります、だから最初は風邪みたいに見えたりする
こともあります。実際には誘因がはっきりしないといえどもちょっとした頭部打撲がきっ
かけになってその時はたいした事がなくても少しずつ出血増えるということもあります。
このようになんとなく様子がおかしいと頭蓋内出血を疑うような場合には、まずは予防
輸注をしていただいて様子を見てもかまわないし、危険のサインがあれば受診すると
いう形で頭蓋内出血への対応をお勧めしたいと思います。そのような症状があっても、
何でもかんでも頭蓋内出血なのかということになると、ほとんどの場合が胃腸風邪だ
ったりすることもありますし、単なる風邪のことも多いです。だからといって結果的に注
射しなくてもよかったから別に(これ位は)良いじゃないかとは考えないでください。結
局その時はそうじゃなくても、血友病患者さんが身体的危機に陥った時に、先ず注射
してあげることは非常に重要なことです。その為にはできるだけ家庭輸注を確立して
自分たちでケアできるような方向性にご家庭を持ていっていただけるとよいのではな
いかと思います。ということで先ほど説明したガイドラインでは乳幼児の頭部打撲があ
ったときに医師はどう対処すべきか書いてあります。『速やかに目標因子レベルをでき
るだけ高く上げて行くように一回注射してください。その後 CT 検査で出血が否定され
た場合でも経過観察を行ってもらう。乳幼児の頭蓋内出血の処置は典型的な症状が
ないこともありますので十分に注意してください』ということが一般の先生方向けのガ
イドラインにも記載されて行きますので、もう少し頭蓋内出血に対するケアが日本でも
進むであろうという風に思います。と言うことで乳幼児の頭部打撲に対しては予防輸
注を中心に行っていただきたいと思います。家庭輸注ができる方は一回輸注を実施し
ていただけるとよろしいですし、できない方はなるべくできるようにしていっていただけ
れば大変有り難いと思います。以上で前半と後半少し短かったですが子供さんに関す
る話題ということで提供させていただきました。ありがとうございました。
以後質疑回答
質疑 1 (血友病 B 5歳の男の子の家族より質疑)
生後3か月の時に頭蓋内出血しておりまして、その時は熱もあり風邪だと思われて
いたのですが、実際は頭蓋内出血を起こしていると言われ、現在は障害が結構出て
いますが、最近はちょっと行動が激しくなって頭とかをぶつけることがあるのですが、
たんこぶができたくらいでも注射した方が良いのでしょうか?通院先が自宅から少し
遠いのでどうしたらいいのでしょうか?
回答
今、申し上げたように色々な理由で家庭輸注に持って行けないことがあるのですが、
家庭輸注にもっていけるのなら間違いなくもっていった方が良いです。たんこぶの時
はどうしたらよいのかは、これは by chance の問題というか、たんこぶができると、た
んこぶに出血しているので頭の中には出血しないとかよく言われるものの、実際そう
でない場合もあります。骨折を伴ったりすると硬膜外出血に進展することがありますの
で、そういう場合はたんこぶと言えども注射した方が良い。たんこぶは頭の皮膚の下
の血管からの血腫が多いので、それだけでも放置しておくと大きくなり顔面血種みた
いに発疹することがありますので、一応治療が必要になってくると思います。ある程度
障害が発生してしまった後で、よく頭をぶつけるとか、転びやすいとか稀に転換発作
が起きるケースは先生と相談されてヘッドギアなどをつけて不用意な頭部打撲からあ
る程度守ると言うのも一案ではないかと思います。ただヘッドギアを嫌がる子も多いの
で何とも言えませんが。今つけてますか?外出時だけのケースもありますし、家の中
でははずしている方もいます。
やはりすぐ注射が打てるようにしておいた方がよいです。
質疑 2 (血友病 B 4歳の男の子の家族より質疑)
現在は家庭の方で静脈注射を500単位で週に2回しているのですが、もらっている
バイアルは500単位だけです。もし頭をぶつけたときは500単位を打ってから病院へ
行くのが良いのか、それとも1000単位も貰っておいてそれを打ってからいった方が
良いのでしょうか。
回答
血友病 B の方は理論的には A の方の倍いるはずなので、日常500単位で行って
いる人でもどうせ打つのなら1000単位を打ってから病院へ行く方がよりベターだと思
います。その場に500単位しかなければ500を2本打つのでも良いです。
2本打つ場合は一つの注射器に2回吸い取ればよいのか、それとも2本の注射器
を使用した方が良いのか。
ノバクトの場合は1本の注射器に結構たくさんの液が入るので、1本の注射器で2
本分の製剤が入らない場合があります。注射器が大きければ入りますが・・・。
一応単位的には2本分の液が入る注射器が入っていますが(混ぜて入れても大丈
夫ですか?)
その場合は2本分入れてもかまいません、病院でもそのようにしておりますし、
たまたま2本になっても根元のところで繋ぎ変えれば打てます。ただ他に誰かいないと
うまくできないですけど。ただし1本しか無かったらそれだけでも打ってから病院へ行く
方が良いです。