打撃時における手の衝撃比較

打撃時における手の衝撃比較
9班
1.はじめに
昔から野球は,世界中で人気のスポーツだ.魅力
の 1 つはバッターのホームランだろう.現在の高校
野球では,ほとんどの選手が金属バットを使用して
いる.それと比べ,プロ野球では金属バットの使用
は禁止されており,木製バットの使用が一般的だ.
そのため金属バットから木製バットへの変化に対応
することも,プロで成功するカギと一般に考えられ
ている.
今回は金属バット及び木製バットの打撃時におけ
る性質の違いについて比較し,特に手の衝撃の大き
さに着目し,違いを明らかにする.
2.打撃時のバットの動きの原理
バットとボールの衝突後の動きに関して,下図に原
理を示す.
並進運動
図1
回転運動
打撃時のバットの動きの原理説明図
田中佑弥
図 1 のように,並進運動と回転運動の重ね合わせ
で,ボールと衝突後のバットは運動する。そのとき,
並進運動と回転運動が重なり合い,ボールを打った
前後で静止している点がバットに存在する.図 1 に
おいては青丸がその点といえる.ボールを打った前
後において,バットを手で握っている部分(以下グリ
ップ部分とする)が静止していれば,手は衝撃を感じ
ずに打撃することが可能である.そこは打撃の中心,
いわゆる撃心と呼ばれ,そこがスウィートスポット
と呼ばれることもある.ただスウィートスポットに
関しては諸説あるため,これについては考察のとこ
ろで詳しく考える.まずはスウィートスポット=撃
心と定義して,その点を実際のバットを用いた実験
により明らかにする。
3.実験
まず,テープでバットの太い方の先端から 4 cm
間隔で印を付けた.そのバットを糸で吊り下げた.
そして目印をもとに,太い方の先端から順番に木の
ハンマーでバットを叩いた.そのときのバットの動
きを三脚で固定したハイスピードカメラで撮影した.
グリップ位置がハンマーで叩いても動かない点を,
映像でコマ送りしながら特定した.このときグリッ
プ位置は,バットを一番長く持つ場合の位置とした.
下の写真が,木製バットを吊り下げたときの写真
である.カメラで撮影した映像を,パソコンでコマ
送り再生してグリップ部分の様子を観察した.太い
方の先端から 4 cm~32 cm まで記録を取った.スウ
ィートスポット付近は 2 cm 間隔で細かく取った.
図2
バットを吊り下ろした様子
金属,木製それぞれ同じ方法で行った.実験に用
いたバットの長さは,金属バットが 83 cm,木製バ
ットが 84 cm でどちらも硬式用バットであった.
4.結果
まず動画から観察されたバットの動きの特徴とし
て,次のことが挙げられる.バットの太い先端から
スウィートスポット部分くらいまでを叩いたとき,
バットの動きは回転運動の動きが主に見られ,それ
を超えて叩く位置がグリップ部分に近づくと,バッ
トの動きは並進運動を主にしているように観察する
ことが出来た.
実験結果を下の図 3 に示す.横軸が叩いた位置を
バットの長さで割った無次元長さで,縦軸がグリッ
プ位置の横の変位を表している.
図 3 から読み取れることは主に 2 点ある.1 つ目
は,どちらのバットもスウィートスポットはおよそ
太い先端から 1/5 の位置にあるということである.
もう 1 つは,スウィートスポットの範囲に関しては,
金属の方が木製よりも広いということである.
図3
衝撃を与えた位置とグリップの変位の関係
5.考察
今回の実験では,スウィートスポットの位置を突
きとめたが,どれだけ正確な実験が行えたかを検討
する.
今回の実験ではハンマーでバットを叩いた.しか
し実際は,20 m ほど離れたところから投げられる回
転しているボールをバットで打つため,今回の実験
とは状況が異なる.ボールの回転の影響により,ス
ウィートスポットの位置も変わるかもしれない.
また先ほど理論のところで述べたが,スウィート
スポットの定義には曖昧なところがあり,今回は撃
心=スウィートスポットと定義して,それを特定す
る実験を行った.しかし一般には,スウィートスポ
ットの定義として『最も打球が飛んでいく打点』と
いう認識もあり,今回調べた点が最も飛ぶ位置と同
じであるということは,今回の実験では必ずしも正
しいとは言いきれない.あくまで今回の目的は,手
の衝撃が最も小さい点と定義されたスウィートスポ
ットの特定であり,飛距離となるとさらに振動やモ
ードといったことも関係してくるようである.
また今回の実験は,試行がそれぞれ 1 回分しかデ
ータを取れなかった.またハンマーは自分の手で扱
ったため,力の強さも完全に同じではない.そのた
め正確性という面で少し物足りないデータとなった.
バットの動きに関して,バットの重心でボールを
打つとバットは回転運動を全くせず,完全な並進運
動を行う.並進運動の変位は,ボールがバットのど
の部分に当たろうが変わらない.回転運動について
は,ボールが当たる位置が重心から離れる分だけ大
きくなる.太い方の先端にボールが当たったときは,
回転運動の影響が並進運動よりも大きく,グリップ
は回転運動の動きを見せ,回転運動の変位を示した
のだと考えられる.ボールが当たる位置が,太い方
の先端からバットの重心へ向かうにつれて,グリッ
プ部分の回転運動による変位と,並進運動による変
位の差が小さくなる.そしてスウィートスポット(撃
心)では,グリップ部分の回転運動と並進運動による
変位が,逆方向で大きさが同じになり互いに打ち消
し合い,全体としてグリップ部分が動かないという
結果となる.叩く位置がスウィートスポットを超え
ると,グリップ位置では並進運動の変位が回転運動
の変位よりも大きくなり,グリップ部分の動きは並
進運動が主に見られたのだと考えられる.
6.まとめ
バットのスウィートスポットは,およそバットの
太い先端から 1/5 ほどの位置にあることが分かった.
またその範囲は,金属バットの方が木製バットより
も広いということが分かった.はじめに触れた,金
属バットから木製バットへの対応が上手くいかない
選手というのは,このスウィートスポットの範囲の
違いに苦しんでいるという面もあるのだと分かる.
この実験からは,金属バットの方が打ちやすいとい
うことが結論として言えた.
参考文献
1) 安藤義人(2012 年度) 「野球のバントにおけ
る打球速度を最小化させるインパクトパラメ
ータ」
<http://www.waseda.jp/sports/supoken/res
earch/2012_2/5011A006.pdf>