コレクション欲求を喚起する心理的要因の解明

コレクション欲求を喚起する心理的要因の解明
目次
①―――はじめに
1. 研究動機
2. 研究意義
②―――定義
③―――現状分析
1. コレクションの変遷
2. コレクションが関わる市場
④―――プレ調査
1. 調査概要
2. 調査結果
⑤―――既存研究レビュー
1. 社会活動の欲求としての蒐集欲求
2. コレクションの達成
3. ツァイガルニック効果
4. サンク・コスト効果
5. 衝動買いに関する研究
6. ヴェブレンの顕示的消費
7. スノッブ効果
8. 既存研究のまとめ
⑥―――仮説立案
⑦―――仮説検証・考察
1. 検証方法
2. 検証結果
3. 検証結果の考察
⑧―――実務的インプリケーション
1. 既存商品に対する考察
2. 新規提案
⑨―――結論
⑩―――今後の展望
⑪―――おわりに
このようにコレクションという行動は、多くの人が経験して
おり、決して珍しい行動ではない。人々は何らかの趣味や興味
関心をもつものに対して、コレクションという行動をとってし
まう可能性がある。本研究では、そのような人間の普遍的な習
性に着目し、どのような要因がコレクションという行動、ある
いは欲求につながるのかを明らかにし、マーケティングに生か
す方法を検討していこうと考えた。
2. 研究意義
日本は先進国でありながらも、1990 年代のバブル崩壊以降長
期的な不況やデフレーションに頭を悩ませてきた。2003 年の為
替介入の後も国内のインフレーションを喚起することができず、
さらに 2008 年にはサブプライムローン問題を発端とした世界
的な金融危機まで起こった。そんな経済情勢の中で、人々は消
費を抑え、低価格商品を好むような節約志向になっていった。
しかし人々は日々の支出を減らす傾向にある一方で、自身がこ
だわりを持つ分野の商品に対しては、それが自分にとって高額
であろうと、他の商品やサービスへの支出とは区別して支出す
る傾向があることが明らかになっている。この自身がこだわり
を持つ分野こそが、コレクションの対象となりうるのである。
したがって、人々は節約志向でありながらもコレクションには
投資するという可能性があると言える。
このことから、本研究で、コレクションをしたいという欲求
(以下コレクション欲求とする。詳しい定義は第 2 章で行うこととする)
に働きかける要因を明らかにすることで、節約志向にある消費
者の支出額を増加させることができる。またさらに、
「コレクシ
ョン」という行為で特筆すべきこととして、
「買う」という一つ
の購買行動で完結させず、連続した購買行動を引き起こすこと
ができるということがあげられる。以上より、消費を拡大し、
停滞していた経済の活性化につなげることが出来るのではない
かと考えた。
また我々は、前節で述べたようにコレクション欲求を刺激し
たマーケティングが行われている商品が存在するにも関わらず、
コレクション欲求の詳しい発生要因や増長要因が明らかになっ
ていないことに着目した。本研究は、そのような要因を明らか
にすることで、未だ曖昧だったコレクション欲求を用いたマー
ケティングに新たな提案をすることを目指すものである。
毎熊一樹
石毛優樹
内川実咲
内海理子
太田佳織
②―――定義
①―――はじめに
「コレクション」とは一般に、収集されたもののこと、その
集合であるが、前提として収集されたものにはある一貫性を持
つものとする。本章では、我々が本研究で扱う「コレクション」
を、
(1)主体、
(2)手段、
(3)目的という 3 つの側面から定義
付けを行う。
第一に主体であるが、コレクションを保持する主体には、博
物館や美術館なども存在する。しかし、個人の欲求がダイレク
トに影響しないという点において正確な研究結果が得られない
ものと考え、博物館や美術館が個人所有であるものを除き、本
研究の対象からは除外する。よって、コレクションを行う主体
を「一個人」と定義する。
次に、手段について考える。本研究における研究意義は、コ
レクションをしたいという欲求の発生要因や増長要因を解明し、
購買行動につなげるための新規提案をすることにある。したが
って、一般的なコレクションには購買行動を介さないものもあ
るが、本研究ではそのようなものは対象に含めない。つまり、
購買行動という手段を用い所有することによってのみ行われる
コレクション行動を対象とする。
1. 研究動機
「コレクション」という言葉を聞いて何を思い浮かべるだろ
うか。思い浮かぶのは、骨董品の収集家や、
「萌え」という言葉
に代表される「オタク」と呼ばれる人々、あるいはフィギュア
や模型を何十体も集め飾っているような人々かもしれない。し
かし、特定のものをコレクションするという行動をとる人は稀
ではない。誰しも、好きなキャラクターのグッズを集めたり、
小さい頃、飲料についている数種類のおまけを揃えたくて何度
も購入してしまったりした経験があるだろう。
また、近年に見る新たな現象として、実物として存在するこ
とのないものをコレクションするという行為もある。一つの例
として、
「釣り★スタ」という、GREE が提供する携帯電話用の
Flash ゲームがあげられる。
釣りをして魚図鑑を完成させること
を目指すゲーム上で、実際に物体としてそこに魚図鑑はしない
にも関わらず、課金をしてまで図鑑のコンプリート(完全収集)
を目指す人たちまで多数現れるようになったのである。
1
最後に、目的を考える。コレクションとは、集める、保持す
る、または実用する目的のために取得されるものであり、売り
物として書籍を所持している書店など、販売のためにその品物
を所持していることはコレクションとは言わない。よって、販
売という目的をもつ場合を除くこととする。
以上(1)主体、
(2)手段、
(3)目的という 3 点の視点より、
本研究におけるコレクションを、
「一個人が、購買行動を通して
得た所有物の中で、一貫性を持った所有物の集合であり、販売
という目的の場合を除いて保持されているものである」と定義
する。したがって、本研究において消費者自身がコレクション
をしているという意識の有無は考慮しない。また、今回はその
ものの実用性は問わないものとする。
また、収集したい、コレクションしたいという欲求のことを
「コレクション欲求」とし、本研究を進める。
上記では、コレクションの主体の変遷について述べたが、コ
レクションはまた、その形も多様化してきた。
コレクション文化として長い歴史を持つ切手を例に出して考
えると、切手は切手という「物体」そのものがコレクションの
対象とされていた。
しかし、近年のオタク市場に見られるようなコレクションに
代表されるコミックやアニメのグッズは、登場するキャラクタ
ーという「モチーフ」やそのアニメの「世界観」に対する好意
が、それに関連するグッズのコレクションにつながっている。
その為、ある1つのこだわりに対するコレクションであるとし
ても、そのコレクションされる対象は、特定の物体に限らず、
多岐にわたっている。
「アイドル」という特定のこだわりに対す
るコレクションでも、音声系グッズの CD や出版系グッズの写真
集、コンサートグッズであるタオルなどコレクションされるも
のが様々であることを例とすれば、理解が容易であろう。
このことから、コレクションのあり方は、
「物体」そのものか
ら「モチーフ」
「世界観」をコレクションするものへと多様化し
てきたといえる。
③―――現状分析
1. コレクションの変遷
2.コレクションが関わる市場
野村総合研究所(2005)と高萩徳宗(2007)とを参考にコレク
ションの変遷を考察しまとめると以下のようになった。
人は自身が強い興味をもった対象、あるいはその関連アイテ
ムを購入してコレクションするため、コレクションされるもの
は、人々のこだわりの数だけ存在することになる。
コレクションされているものには様々なジャンルのもの
があり、時代によってもそれらは変化してきた。コレクション
の歴史の長いものに 1840 年イギリスで初めて発行された切手
や、コインなどがあげられる。これらは、切手ならば、郵便物
を郵送する為に製造され、コインもまた貨幣経済の道具として
製造されている。すなわち従来、切手やコインの価値はコレク
ションすることではない。しかし、消費者自らが切手やコイン
に魅力を見出し、コレクションをするようになっていった。1861
年には切手コレクターの為の切手カタログが登場したが、これ
は切手をコレクションしたいと考える人が無視できない規模に
なっていたことを表しているといえる。
その後、お得感を出すためにおまけという文化が生まれた。
「おまけ」とは従来、
「御負け」という文字通り、販売者が消費
者との駆け引きに負けて値を下げる行為を指す言葉であったが、
のちに商品以外の物品を追加する行為などの事も言うようにな
った。後者の意味での日本で最も古いおまけ文化は 1882 年にタ
バコにベースボールカードを同封して販売したものであるが、
その後も 1927 年江崎グリコが食玩付きキャラメルを、1971 年
には、カルビー製菓が仮面ライダースナックとライダーカード
販売するなど様々なおまけ文化が広まっていった。当初は、1
つの商品にお得感を出すための販売促進として行われたが、消
費者の射幸心を煽り爆発的なブームを発生させ、おまけのコレ
クションが目的化したとされる。すなわち、1つの商品のリピ
ート購入を促進する方法として、その商品の付属品をコレクシ
ョンさせるというプロモーションが確立されていった。
さらには、1988 年にバンダイが自動販売機にてコミックやア
ニメのキャラクターのカードを販売するカードダスを販売開始
した。それに伴い米国からトレーディングカードという言葉も
輸入されたが、トレーディングカードは米国ではコレクティン
グカードとも呼ばれ、その名の通り交換したり、収集したりす
ることを目的として製造されたものである。また 1998 年に創刊
された分冊百科のデアゴスティーニのようにコレクションする
ことで商品の価値が高まるような商品も販売されるようになっ
ていった。すなわち、販促方法としてのコレクションから、コ
レクションされることを目的として製造、販売され商品の価値
がコレクションされることによって見出されるようになってい
った。
このように、コレクションの主体は、消費者自身が対象に魅
力を感じ自発的にコレクションする、というような消費者主体
のコレクションから、製造者が意図的に消費者にコレクション
をされることを目的に商品が製造する生産者主体のコレクショ
ンへと、時代と共に変化していったと言える。
近年、スマートフォンの普及により様々なオンラインゲーム
が話題となっている。その火付け役ともなったのが、ガンホー・
オンライン・エンターテイメントから配信されているゲームア
プリ「パズル&ドラゴン」である。2012 年 2 月に iOS 版をリリ
ースして以来、
2013年10月までで2000万ダウンロード突破と、
多くの反響を得ている。このパズドラ人気の理由として、パズ
ルをクリアしていくというゲームの内容はもちろん、レアなキ
ャラクターが欲しい、などといったコレクション欲求によるも
のも大きいと思われる。
コレクションするものは人によってそれぞれであり、切手や
絵葉書、お菓子のおまけなどといった安価なものから、フィギ
ュアや鉄道模型などの高価なもの、漫画や文房具などの実用的
なもの、好きなキャラクターのグッズやアイドルのグッズまで
様々である。またコレクションする理由やきっかけも、元々好
きだから集める、誰か周りの人に影響されて集め始める、気づ
いたら集めていた、などこちらも様々である。
コレクションに関するある調査では、何かをコレクションし
たことがあるのは全体の 6 割以上であった。
(図表 1)コレクショ
ンの経験があると回答した人のなかでも、集めたものは「漫画」
が最も多く、
「CD・レコード」
、
「切手」と続いた。
(図表 2)男女
別でみると、女性は「キャラクターグッズ」が男性に比べて多
く、
「CD・レコード」に続いて 3 番目であるのが特徴的である。
(図表 3)
■図表―――1
コレクション経験の有無
2
■図表―――2
しょん」というゲームの愛称で、第二次世界大戦期の大日本帝
国海軍の艦隊(軍艦)をキャラクターに擬人化し、それらのカ
ードをゲーム中で集め、強化しながら勝利を目指すといった内
容である。現在ではユーザーの超過により、新規でゲームを始
められないほどの人気であるが、ゲーム上だけでなく数多くの
種類の「艦これ」グッズが販売されており、自分の好きなキャ
ラクターのグッズを集めているファンが多いようだ。
また、書籍の分野では、1988 年に日本へ進出したデアゴステ
ィーニも、コレクション欲求を利用していると思われる。デア
ゴスティーニは、単なる冊子がメインの分冊百科だけでなく、
毎号付録されるパーツを組み上げると最終的に模型等が出来上
がる趣向のシリーズも刊行しており、全国で発売されたシリー
ズだけでも、現在までで 200 種類以上にもなる。各シリーズは
20 号~100 号以上までと様々であるが、パーツを組み立てるシ
リーズでは、模型を完成させるのにおよそ 2,3 年、10~20 万円
を要するものが多い。これほどまでの労力と費用を要する商品
であるが、すべて完成させたいと思う心を上手く刺激している
のだといえる。
また、長瀬(2010)を参考にデアゴスティーニの特徴を述べ
ると、次の 4 つのことがいえる。第一に、デアゴスティーニは、
数十冊の書籍がシリーズとなっているものの、1 冊ずつ定期的に
発売される。その中でも、特に創刊号を逃すと、買いそろえる
のが困難になるという「入手の希少性」の原理により、今しか
手に入らないというイメージを与える。このような発行形態が
「希少性」を生み出し、購入を決断させるということがいえる。
二つめに、デアゴスティーニの場合、1 冊の値段、特に創刊号特
別定価の価格が「アンカー(基準)
」になり、全巻を揃える場合
の高額さを合理的に計算できなくなってしまうということがい
える。次に、人間は、自分の持ち物が可愛いという特性を持っ
ていて、これを授かり効果という。この効果により、1 冊だけ購
入しても、手元の 1 冊が価値のあるものに無意識に感じてしま
い、ついつい 2 冊目以降も買い続けてコンプリートを目指すよ
うな人が増えるということが考えられる。最後に、数冊購入し
てしまえば、サンク・コスト効果(効果の詳しい概要については第
5 章で説明することとする)により、購入をやめることができなく
なるということも特徴として挙げられる。以上のような特性か
らも、デアゴスティーニをコレクションしているという人は多
いと考えられる。
さらに、江崎グリコの玩具付きキャラメル「グリコ」も例と
して挙げられる。グリコは 1922 年から販売されており、1927
年からは玩具を同梱しての販売を開始した。2001 年に第一弾が
発売された「タイムスリップグリコ」シリーズや「ぐりこえほ
ん」シリーズ、
「木のおもちゃ」シリーズなど、数多くのシリー
ズのおまけが存在する。これらのシリーズは各全 10 種類程度で
比較的集めやすく、また安価であるため、多くの人が集めてい
るようだ。中にはインターネットオークションで非常に高い値
が付いているものまであり、マニアも多く存在するほどである。
食玩に関するアンケートによると、今まで食玩を集めたことが
あるという人 3793 人の中で、
「今まで一番熱心に集めたもの
は?」という質問に対してとびぬけて多かった回答が「グリコ
のおまけ」であった。
(図表 5)また、現在食玩を集めている人は、
「どのくらいまで集めるつもりか?」という質問に対して、
25.1%の人が「必ず全部集める」28.4%の人が「8~9 割集める」
と回答している。
(図表 6)食玩を集める人の多くに高いコンプリ
ート願望が見受けられ、もはやおまけ目当てで食品が買われて
いるということが分かる。グリコは、おまけをつけることでそ
れに働くコレクション欲求を利用し、購買へと導く良い例だと
いえる。
コレクションの対象について
■図表―――3
コレクションの対象について(男女別)
また、現役コレクターの 1 番長いコレクション歴は「15 年以
上」が 42.4%ととびぬけて多く、愛着のあるコレクションは長
く続ける人が多いようだ。
(図表 4)
■図表―――4
コレクション歴について(現役コレクターを対象)
このように、多くの人に何かしらのコレクションの経験があ
り、我々の身の回りには、このコレクション欲求を利用してい
ると考えられる商品が多く存在する。先ほど取り上げた「パズ
ドラ」もその一例であるといえる。この他にも、
「艦これ」とい
うゲームが例として挙げられる。
「艦これ」とは、
「艦隊これく
3
■図表―――5
■図表―――7
今まで一番熱心に集めたもの(上位 10 項目)
プレ調査の概要
調査手法
パーソナル・インタビュー
調査対象
機縁法により抽出した
コレクションをする 10~20 代の男女
サンプルサイズ
8
有効回答数
8
調査期間
10 月 9 日~10 月 17 日
2. 調査結果
プレ調査の目的は、コレクション欲求を引き起こすと考えら
れる要因の抽出であり、現在(もしくは過去に)コレクションし
ているものがある(あった)8 名を対象にインタビュー形式で自
由に話してもらった。8 名のコレクションはそれぞれ「女性アイ
ドルグッズ」
「マイメロディのグッズ」
「帽子」
「漫画」
「男性ア
イドルグッズ」
「特撮アニメのグッズ」
「ハローキティのご当地
キーホルダー」
「ヘアバンド」といったものであった。
質問項目は図表 8 の通りであるが、これらを中心に、コレク
ションについての自慢やエピソードなども自由に話してもらっ
た。
DIMSDRIVE「食玩」に関するアンケート(2005)
■図表―――6
食玩をどのくらいまで集めるか
■図表―――8
プレ調査の質問項目
1
コレクションしているものは何か
2
コレクションしている期間・金額
3
7
n=51
4
DIMSDRIVE「食玩」に関するアンケート(2005)
5
このように、現在の市場にはコレクション欲求を上手く刺激
して購買を促す商品が数多く存在しており、それはゲーム上の
キャラクターから書籍、食品など、様々なジャンルに渡ってい
る。しかし、コレクションしたいと思わせる要因は様々なもの
が考えられ、何が有効的な要因なのかははっきりしない。そこ
で我々は、本研究で人々のコレクション行為を研究し、どのよ
うな要因がコレクション行動に働いているのかを明らかにし、
それを有効的に用いたマーケティング方法を考えていくことと
する。
6
コレクションにかけた
期間や金額に対する後悔の有無
コレクションしている時の気持ち
コレクションしているものを
他人に見せたいか自己満足か
コレクションしているものは
飾ったり整理したりしているか
7
自分はコレクターであるという意識があるか
8
集め終わったらどうするか
インタビューの中で興味深かったのは、コレクションという
購買行動が行われる際、消費者と商品との一対一の関係ではな
く、ファンサイトやイベントを媒体として形成されたコミュニ
ティーや友人の存在が自身のコレクション行動に影響を与えて
いるという事実である。同じ趣味を持つ仲間と自身のコレクシ
ョンを褒めてもらうことや、相手のコレクションを見せてもら
うことに喜びを感じ、それがさらに自身のコレクション欲求を
助長しているという事実である。
コレクションに投資した時間や金額に対する後悔はあるか、
という質問には、驚くことに現在コレクションを継続している
人も含め、ほとんどが後悔する瞬間がある(あった)と答えた。し
かし、辞めようとは思わないのか、という問いには、
「コレクシ
ョンしたものがズラっと並んでいるのを見ると後悔より幸福感
の方が勝る」
「捨てるのがもったいない」と、後悔という感情は
あるもののコレクションを続けてしまう(続けたいと思う)と
いう回答が得られた。
④―――プレ調査
1. 調査概要
まず我々は、仮説立案のため、実際にコレクションをする消
費者の実態や心理状況を探るプレ調査を行った。
プレ調査は、パーソナル・インタビューを行い、調査対象は
機縁法により抽出したコレクションをしている、またはしてい
た経験のある 10~20 代の男女である。調査期間は、10 月 9 日
~10 月 17 日の 9 日間で、サンプルサイズ・有効回答数ともに 8
名であった(図表 7)
。
4
■図表―――8
(e)集団成員の精神的条件をたかめる活動→精神文化の体系
これらの具体的実現のために、人間が今まで工夫してきた欲求
を、
(1)労働と協力、
(2)集合、
(3)集団性、
(4)競争、
(5)
攻撃、
(6)蒐集、
(7)名誉、
(8)自我実現、
(9)自我優越、
(10)
自我拡大の 10 項目に分けている。蒐集とは、ものを集め貯蔵す
ることであるとされ、
「収集」と同義で用いられている。
蒐集欲求は、人間に生まれつきそなわる欲求であるというこ
とが、子どもが 10 歳ごろ示す、いわゆる蒐集の時期の存在を根
拠として示されている(C.F. Burk, 1990)
。この蒐集の時期は、経
済状態や知能、余暇、交友などの要因によって存在や強さが左
右される社会的欲求であり、たとえば、Mead(1930)によれば、
ニュー・ギニアのマヌス族の子どもの観察によれば、蒐集の時
期に相当する期間はなかった。南博は、おとなのあいだで強い
私有欲がみられる資本主義社会の産物であると述べている。
また蒐集欲求は、学問や、実用の目的、あるいは趣味だけが
動機であるとは限らず、自我拡大の欲求の一つであるという見
方がなされる場合もある。自我拡大の欲求とは、自我のたしか
さを保つために、なにかのかたちで拡大した自我の意識を持と
うとする方法から生まれる欲求である。自我は、自分に関する
あらゆるものごとを含むことができるため、自分の所有物も自
我の意識に含むことができる。
以上の研究から、収集欲求は人間に先天的に備わる欲求であ
り、現代日本の社会においては十分に顕在化しうる環境である
といえる。
コレクションの要因
2. コレクションの達成
また、全員に共通して、現在一程度の金額をコレクションに
費やしているが、
「お金があれば今の度合いよりも、もっとコレ
クションしたい」という意見がみられ、自身のコレクションに
決して満足しておらず、個人の資金力がコレクションの障壁に
なっていることがわかった。
さらに、コレクションの保存方法だが、ほこりや汚れなどが
付かないように、部屋に飾らず、ファイルやバインダーに入れ、
綺麗に整理整頓して保管している人と、部屋の一角にコレクシ
ョンしたものを飾るスペースを設け、いつでも見られるように
しておきたいと考える人に二分された。しかし、どちらも自身
のコレクションに対する愛情ゆえの行動であると考えられる。
また、男性アイドルのグッズをコレクションしている人は、
そのアイドルが出演していれば DVD の内容は特に興味がなく
ても買うと回答したのに対して、特撮アニメのフィギュアなど
を集めている人は、主演の役者が出演している他の作品には興
味がなくあくまで特撮アニメに関するものだけをコレクション
すると答えた。すなわち、本人の中には自分なりにコレクショ
ン達成が可能な範囲が設定されており、その目標に対しコンプ
リートを目指していることが分かった。
このようなプレ調査の中から、我々はコレクション欲求を刺
激する要因と考えられるものとして 10 項目を抽出した。次の図
表 8 がピックアップしたコレクション行動の要因である。
1
コレクションしているものが好き
2
コレクションすることに達成感を感じる
3
完璧に揃えたい
4
今までコレクションに費やしてきた
投資額を考えると今更やめられない
5
コレクションしているものを見かけると
つい衝動的に買ってしまう
6
シリーズものである
7
自分のコレクションを他人に見せたいと思う
8
同じものを集めている人に負けたくない
9
たくさん持っていることに優越感を感じる
10
レアものである
野村総合研究所によれば、コレクションにおいて 1 つの理想
としてあげられるのが、コンプリート(完全収集)である。たく
さん集めるほどコンプリートという理想像には近づくものと考
えられるが、たいていの場合は対象となるアイテムが多すぎる
ため、コンプリートするには資金力や時間の限界が存在する。
そのため、収集する対象を絞り込むための条件を設定し、課題
を縮小することによってコンプリートが達成可能な範囲に持ち
込むことが必要になる。課題を縮小せずコレクションを開始し
た場合、対象の膨大さによってコレクション行動から離脱して
しまうことが多い。達成可能な範囲に課題を縮小しコンプリー
トした場合、その後対象を他に切り替えて新たに収集にとりか
かるという行動が見られる。
達成可能な課題というのは、コレクション行動を継続させる
上で重要となるが、だからといって課題は簡単に達成できるも
のがよいとは限らない。困難さがコンプリート達成時の喜びを
増幅させるからである。このように、適切な達成課題は個人の
資金力や時間によって変化するものであり、消費者だけでなく
生産者側も考慮する必要があると言える。
本研究においては、プレ調査で判明したコレクションの要因
のうち、
「コレクションすることに達成感を感じる」という項目
に関係していると考えられる。
3. ツァイガルニック効果
⑤―――既存研究レビュー
高橋(1989)によると、ドイツのゲシュタルト心理学者であ
る Kurt Lewin は、人間の記憶について、
「達成された課題より
も、達成されなかった課題や中断している課題の方が記憶に残
りやすい」と提唱した。この Lewin の考えに基づいて、旧ソビ
エト連邦の心理学者 Bluma Zeigarnik が実験を行い提唱したも
のがツァイガルニック効果である。
このツァイガルニック効果とは、目標が達成されない未完了
課題についての記憶は、完了課題についての記憶に比べて想起
されやすいという、認知心理学における効果のことである。ま
た、中断効果とも呼ばれている。人は課題を達成しなくてはい
けないという場面において心理的緊張状態となり、課題が達成
されるとこの緊張は解消される。すなわち、課題に取り組んで
いる間は、その課題に対して集中しているが、達成した課題に
ついては忘却してしまうことが多いということである。反対に、
途中で課題が中断されたり、課題を達成できなかったりすると、
本章では、我々が研究を行う上で参考にした既存研究につい
て概観していく。
1. 社会活動の欲求としての蒐集欲求
南博(1957)によれば、人間には個体保存の欲求、種保存の
欲求、そして社会活動の欲求がある。社会行動の欲求とは、複
雑な社会活動を通じて社会の中に生きていたいという欲求のこ
とである。人間の社会活動は次のような体系として組み立てら
れる。
(a)個体と集団成員の生命の維持→経済の体系
(b)集団成員の行動の維持→統制の体系
(c)集団成員の再生産→性、家族などの体系
(b)集団成員の物質的条件をたかめる活動→生活文化の体系
5
緊張状態が持続してしまうことになるため、未完の課題は記憶
に強く残ることになる。また、人は未完の課題による緊張を取
り除くため、無意識に課題を完了させようと行動するのである。
さらに、未完成なものが出来上がっていく過程を楽しむといっ
た心理もツァイガルニック効果の一種であるとされている。
本研究においては、プレ調査で判明したコレクションの要因
のうち、
「完璧に揃えたい」という項目が、このツァイガルニッ
ク効果にあたると考えられる。
ヴェブレンはこの研究において、有閑階級の人々が自らの帰
属している身分や、金銭的能力を示すために、一般的に認めら
れているぜいたく品や特別なサービスを消費していると述べた。
所属する社会において希少性のあるもの、高価であるものを消
費することが必要なのである。
コレクションという視点からこの顕示的消費を考えてみると、
同じものをコレクションするという人々が存在し、それを社会
とすれば、自らのその社会における優位性を示すために消費、
すなわちコレクションすることは十分に考えられる。レーは、
ある程度の顕示的消費はもっともよく統合ざれた社会において
もつねに存在していると述べている。しかし、キースビー(1903)
によると、名声という社会価値は、社会それ自体が消失すると、
跡形もなく消え去るだけである。同じものをコレクションする
社会、すなわちコミュニティーの中では顕示的消費によって自
らの優位性を示すことができるものの、逆に言えば、その社会
の外では名声という社会価値が消失し、自己の優位性は確立で
きないということとなる。したがって、顕示的消費をコレクシ
ョンという分野で行っているとすると、同じものを集めている
人々に対する自己顕示のみが可能であるということが言える。
本研究においては、プレ調査で判明したコレクションの要因
のうち、
「自分のコレクションを他人に見せたいと思う」
「同じ
ものを集めている人に負けたくない」「たくさん持っているこ
とに優越感を感じる」という項目が、この顕示的消費にあたる
と考えられる。
4. サンク・コスト効果
サンク・コスト効果(the sunk cost effect)とは、回収不可能な
過去の投資(サンク・コスト)が将来の投資を左右することであ
る。コンコルドの誤謬(mistake of Concord)とも呼ばれ、英仏が
共同開発した旅客機コンコルドの事例に由来する。開発の途中
で完成しても採算がとれないことが予測されたにも関わらず、
それまでに投資した開発費が巨額だったために開発を止めるこ
とはせず、結局赤字がさらに膨らんでしまった。このコンコル
ド機の事例ように、経済実験においてサンク・コストが被験者
の意思決定に影響を及ぼすことが、Arkes and Blumer(1985)
によって明らかにされた。
また、野村総合研究所による『オタク市場の研究』
(2005)に
よると、収集におけるサンク・コスト効果として、収集する人
の多くは、投入した資金だけでなく収集したアイテム数が多く
なるほど対象への愛着が強くなり、収集を打ち切りがたくなる。
本研究においては、プレ調査で判明したコレクションの要因
のうち、
「今までコレクションに費やしてきた投資額を考えると
今更やめられない」という項目が、このサンク・コスト効果に
あたると考えられる。
7. スノッブ効果
アメリカの経済学者、Leibenstein(1950)は、自らの対人効
果の分析をもとに、需要に対する重要な社会的影響力である消
費外部性理論を提唱した。その中のひとつであるバンドワゴン
効果とは、
「時勢」に付いて行ったり、連想をつうじて結びつき
たいと欲した人々に順応したり、さらには上流社会風になった
り、流行を満たしたり、あるいはまた「同好の士」であるよう
に見せかけたりするために、商品を購入しようする大衆の願望
のことである。これと反対に、スノッブ効果とは、他人と違っ
て唯一無二でありたいという願望を表しており、他人と同じも
のは消費したくない、他人とは違うものが欲しいという心理が
作用する効果である。またこのような願望を持つ人自身を「一
般大衆」から分け隔てておこうとするもの、とみなされている。
ここでは、スノッブ志願者が、他人も同じ商品を消費している
とか、他人もその消費を増やしつつあると認識した場合には、
財に対する需要は減少する。つまり、同じような製品が氾濫す
ると、自分を他人から差別化するために希少性に対する欲求が
高まり、限定品、プレミア品、一般的な人が所有していない製
品、一般的な人が所有したがらない製品、といったものに価値
を見出し、購買を行うことによって、希少性に対する欲求を満
たす。持つ者と持たざる者の違いにより優越感を得たいといっ
た心理が購買行動に表れていると考えられる。
本研究においては、プレ調査で判明したコレクションの要因
のうち、
「レアものである」という項目が、このスノッブ効果に
あたると考えられる。
5. 衝動買いに関する研究
Sheth and Mittal(2004)によれば、衝動買いとは、非計画
購買の極端な場合で突然の衝動に見舞われて行う購買行動であ
り、必要性の評価は問われないものである。非計画購買とは、
店頭の品や店内販売促進活動などによって引き起こされる事前
の計画なしの購買行動を指す(Blackwell. Miniard and Engel,
2001)
。さらに、Rock and Hoch(1985)は衝動買いに次のよう
な特徴があると述べている。
(1)突発的かつ自発的な購買欲求
が起こり、すぐに購買行動が生じる。
(2)心理的不均衡が生じ
一時的に自分をコントロールできなくなる。
(3)心的葛藤と無
性に欲しいという気持ちが起こるが、すぐその後に続く行動に
より解決される。
(4)客観的な評価活動は最小限にしか行われ
ず、感情的な思念が支配的になる。
(5)購買の結果がどうなる
かということに注意がいかない。
本研究においては、プレ調査で判明したコレクションの要因
のうち、
「コレクションしているものを見かけるとつい衝動的に
買ってしまう」という項目が、この衝動買いに関係していると
考えられる。
6. ヴェブレンの顕示的消費
8. 既存研究のまとめ
Thorstein Veblen(1899)によれば、人々は消費財としてのも
のを、それがもたらす具体的な有用性や使用価値ゆえにのみ消
費するのではない。人々にとって、さまざまのものは有用物、
使用価値として存在していると同時に、それらのものを消費す
る人間の、その社会的な地位や経済力などを表示する社会的指
標としても存在する。ヴェブレンはこうしたものの社会的地位
表示の機能を、
「消費財の間接的・第二次的効用」と呼んだが、
顕示的消費とは、ものの「間接的・第二次的効用」が人々の主
要な動機として作用している消費のことであり、すなわち見せ
びらかしのための消費行動のことを言う。また、ヴェブレンは、
「自己保存の本能を除けば、最強にして最も機敏であり、しか
も最も持続的な経済的動機は、おそらく競争心である」と述べ
ている。
まず、社会活動の欲求としての蒐集欲求についての研究によ
り、収集の欲求が人間に先天的に備わっているものだというこ
とを述べた。その上で、プレ調査においてコレクション欲求に
関わっていると考えられた要因について深く掘り下げた。
これらの既存研究及びプレ調査をもとに、次章で具体的に仮
説を立証する。
⑥―――仮説立案
前章までで述べたプレ調査、既存研究の結果を踏まえ、我々
はコレクション行動には、
「達成感」
「完璧」
「サンク・コスト効
6
果」
「衝動買い」
「シリーズ性」
「自己顕示欲」
「競争心」
「優越感」
「希少性」という 9 つの要因があると考察する。
■図表―――9
コレクション行動モデル
したがって以下のように 9 つの要因がコレクション行動に影響
を与えることを仮説とする。
⑦―――仮説検証・考察
1. 検証方法
仮説 1:
「達成感」は「コレクション行動」に正の影響を与える
仮説 2:
「完璧」は「コレクション行動」に正の影響を与える
仮説 3:
「サンク・コスト効果」は「コレクション行動」に正の影
響を与える
仮説 4:
「衝動買い」は「コレクション行動」に正の影響を与える
仮説 5:
「シリーズ性」は「コレクション行動」に正の影響を与え
る
仮説 6:
「自己顕示欲」は「コレクション行動」に正の影響を与え
る
仮説 7:
「競争心」は「コレクション行動」に正の影響を与える
仮説 8:
「優越感」は「コレクション行動」に正の影響を与える
仮説 9:
「希少性」は「コレクション行動」に正の影響を与える
我々は、前章で仮説として提唱したコレクション行動モデル
の検証を行うために web アンケートと紙媒体を用いて、本調査
を行った。図表 10 は本調査の概要である。
本調査は、Web アンケートと紙媒体を用いて行った。調査対
象は 10 代〜40 代の男女とし、現在または過去においてコレク
ションしたものについて回答してもらった。調査期間は 10 月
24 日から 10 月 31 日の 7 日間で、サンプル数は 154 であり、重
複や無効回答を除くと有効回答数は 151 であった。質問内容は、
前章のコレクション行動モデルを検証するために図表 1 のよう
に設定した。図表の質問内容にある問 1 と問 2 の設定意図とし
ては、より母集団集団を適切な変数で分割していく事で傾向が
似通っていき、より効果的なインプリケーションが出せるので
はないかと考えたため設定した。このデータを基に共分散構造
分析をして、前章の仮説として提唱したコレクション行動モデ
ルの因果関係を探る。使用した分析ツールは、株式会社 IBM の
統計パッケージ「Amos 18.0」である。
なお、補禄として巻末に紙媒体で用いたアンケート用紙が
添付してあるので参照して頂きたい。
仮説で示した 9 つの要因は他者を必要としない自分だけで成
立する「自己満足要因」と、他者の存在により成立する「競争
要因」の 2 つの要因に分類可能であると考察する。そこで、我々
はこれらの要因がコレクション行動に与える影響をあらわすモ
デル(図表 9)を構築した。このモデルでは、コレクション行動
を消費行動に絡めていくために、コレクション実施期間とコレ
クション金額の 2 つに分割して考える。
図表 9 を踏まえて、新たに仮説を提唱する。
仮説 10:
「自己満足要因」は「コレクション行動」に正の影響を
与える
仮説 11:
「競争要因」は「コレクション行動」に正の影響を与え
る
7
(2) 仮説検証
図表の標準化係数を見ると「達成感」は 0.42、
「完璧」は 1.33、
「シリーズ性」は 0.20、
「サンク・コスト効果」は 0.18 となっ
ており、
「自己満足要因」との間には正の因果関係がある事が分
かる。ここで、
「完璧」の標準化係数が 1 を超えてしまっている
が、一般的にしばしば起こり得る現象であり、適合していると
考えても差し支えないと考える。次に「自己満足要因」の標準
化係数は 0.18 であり、
「コレクション行動」との間に正の因果
関係がある事が分かる。これらの結果から、
仮説 1:
「達成感」は「コレクション行動」に正の影響を与え
る
仮説 2:
「完璧」は「コレクション行動」に正の影響を与える
仮説 3:
「サンク・コスト効果」は「コレクション行動」に正
の影響を与える
仮説 5:
「シリーズ性」は「コレクション行動」に正の影響を
与える
仮説 10:
「自己満足要因」は「コレクション行動」に正の影
響を与える
が、立証された。
また、
「コレクション行動」から「期間」へのパスの標準化係数
は 0.66、
「コレクション行動」から「金額」へのパスの標準化係
数は 0.79 となったので、
「コレクション行動」との間には正の
因果関係がある事が分かる。
一方、
「衝動買い」の標準化係数は−0.05 であり、
「自己満足要
因」との間に負の因果関係がある事が分かる。この結果から、
仮説 4:
「衝動買い」は「コレクション行動」に正の影響を与
える
は、棄却された。
■図表―――10
本調査の概要
調査手法
Web アンケート、紙媒体
調査対象
10 代〜40 代の男女
サンプルサイズ
154
有効回答
151
調査期間
10 月 24 日~10 月 31 日
質問内容
問 1. あなたが現在および過去において
コレクションしている(していた)もの
は何ですか?
問 2. 問 1 において過去にコレクション
していた方は、なぜ集めるのをやめたの
ですか?
問 3. 問 1 で回答したものをどのくらい
の期間コレクションしています(してい
ました)か?
問 4. 問 1 で回答したものにおよそどの
くらいの費用をかけています(いました)
か?
問 5. 問 1 で回答したものをコレクショ
ンしている(していた)理由として以下
の項目はどの程度当てはまりますか?
(3)母集団の分割・検証
全体でのモデルは検証する事が出来たので、次に図表の質問
内容における問 1 によって、現在もコレクションを継続してい
るか否か、つまり「コレクション継続の有無」という変数を設
定した。また、問 2 によって辞めた理由が外部の影響なのか内
部の影響なのか、つまり「コレクション辞退理由」という変数
を設定した。この 2 つの変数を使い、共分散構造分析をしたと
ころ、どちらとも回転が収束せずに結果を得る事が出来なかっ
た。
2. 検証結果
共分散構造分析の結果は以下の図表である。
(1) モデル適合度と有意水準の検証
モデルの適合度を示す指標である GFI、AGFI、CFI、RMSEA
を見ていく。GFI:0.898、AGFI:0.835、CFI:0.843、RMSEA:
0.095 である。本来モデル適合度が良いとされるのは、GFI、
AGFI、CFI が 0.9 以上であり、RMSEA は 0.01 以下の場合
である。今回、GFI、AGFI、CFI、はその基準値は満たしてい
ないものの、その値に非常に近い数値を示している。よってこ
のモデルの適合度はほぼ良いと差し支えないと考え、採択する
事にする。
次に、図表にあるように、
「自己満足要因」から「コレクショ
ン行動」へのパスは有意確率が 0.048 であるので有意水準 5%で
支持となり、
「競争要因」から「コレクション行動」のパスは有
意確率が 0.708 であり棄却される。このことから、
競争要因の潜在変数である「自己顕示欲」
「競争心」
「優越感」
「希
少性」と「競争要因」を含む仮説である、
仮説 6:
「自己顕示欲」は「コレクション行動」に正の影響を
与える
仮説 7:
「競争心」は「コレクション行動」に正の影響を与え
る
仮説 8:
「優越感」は「コレクション行動」に正の影響を与え
る
仮説 9:
「希少性」は「コレクション行動」に正の影響を与え
る
仮説 11:
「競争要因」は「コレクション行動」に正の影響を
与える
は棄却された。
8
■図表―――11
検証モデルの潜在変数と観測変数
潜在変数
コレクション行動
自己満足要因
競争要因
観測変数
質問番号
調査項目
実施期間
問3
どのくらいの期間コレクションしていますか?
投資金額
問4
コレクションにおよそどのくらいの費用をかけていますか?
達成感
問 5−1
コレクションする理由は、集める事に達成感を感じるから
完璧
問 5−2
コレクションする理由は、集め始めたら完璧に集めたいから
サンク・コスト効果
問 5−3
コレクションする理由は、投資額を考えるとやめられないから
衝動買い
問 5−4
コレクションする理由は、つい衝動的に買ってしまうから
シリーズ性
問 5−5
コレクションする理由は、シリーズ物だから
自己顕示欲
問 5−6
コレクションする理由は、他人に見せたいと思うから
競争心
問 5−7
コレクションする理由は、同じ物を集めている人に負けたくないから
優越感
問 5−8
コレクションする理由は、持っていると優越感を感じるから
希少性
問 5−9
コレクションする理由は、レアものだから
■図表―――12
モデル適合度
GFI
AGFI
CFI
GFI
0.898
0.835
0.843
0.80367
■図表―――13
検証モデルのパス係数
パス図
標準化推定値
有意確率
コレクション行動
<---
自己満足要因
0.179
0.048
仮説 10
有意水準 5%支持
コレクション行動
<---
競争要因
0.04
0.708
仮説 11
棄却
■図表―――14
検証モデル
9
3. 分析結果の考察
本項では分析よりも考察を行う。コレクション行動に影響を
与えると考えられる因子が「自己満足因子」
、
「競争因子」であ
ることを仮説として共分散構造分析を行った。しかし、
「自己満
足因子」はコレクション行動に正の影響を与えることが分かっ
た。さらにその中でも、
「達成感」や「完璧」といった因子がよ
り影響が高い結果となった。つまり、
「いろいろなコレクション
をすることで達成感を得る」
、
「ある一定のシリーズを集め終わ
ることで達成感を得る」
、
「集め始めたら、完璧に集めたい」と
いった感情は、少量の投資金額、短期の実施期間よりも、多額
の投資金額、長期の実施期間の方が達成感や完璧感を知覚しや
すいと考えられる。
「競争因子」は有意水準について有意な結果が出なかったた
め、棄却されてしまった。そのため、今回の調査では、競争因
子はコレクション行動に影響を与えないと考察できる。しかし、
プレ調査を行ったときにコレクション行動をするときに、
「他人
に見せたい」や「同じものを集めている人に負けたくない」
、
「レ
アものを他人に見せたい」
、といった競争因子も観測することが
できた。ではなぜこのように、今回の調査結果は競争因子に関
して有意な結果を導き出すことができなかったのだろうか。こ
の原因はプレ調査時と本調査時の調査対象者のコレクションの
度合に起因すると考察できる。
プレ調査を行った調査対象者は、コレクションをしている意
識が強く、コレクションの度合いが高かったため、競争要因が
強く働いていたと考えられる。例としては、レアなアイドルグ
ッズや貴重なフィギュアなどを集めている人や、周りに競争相
手と呼べるような同じようなものを集めている人がいる、など
の競争要因が強く働いているのがわかる。一方で本調査を行っ
た調査対象者は、コレクションをしている意識が低い、比較的
コレクションする度合が低かったため、競争要因は働かなかっ
たのであると考察できる。例を挙げると、マンガなどの集める
ことが前提となっているようなものをコレクションしている人
が多かった。
したがって、本稿の分析結果では自己満足要因因子がコレク
ション行動に与える影響のみを明らかにすることになったが、
今後の展望としてはプレ調査において、調査対象者としたよう
なコレクションをしている意識の強い人を対象者とした実験法
を行うことを予定している。この実験法で、コレクション行動
における競争要因を刺激することで、さらなる研究を行ってい
くこととする。
⑧―――実務的インプリケーション
1. 既存商品に対する考察
本節では、前章までの分析結果を踏まえて、第 4 章で言及し
たコレクション欲求を利用していると考えられる商品には、実
際にどのような要因が用いられているのかを考察していく。
まず、これまでの分析により、コレクション行動を引き起こ
すのは、
「達成感を得たい」や「完璧に集めたい」といった心理
が大きな要因であることが分かった。本節では、この二つのな
かでも、
「達成感を得たい」という要因に着目して言及すること
とする。ここで、コレクションを行う上で達成感を得させるた
めには、達成することのできる小さな目標をいくつも設け、そ
れを幾度も追加していくことが有効な手段であると我々は考え
る。一つの目標を完了させるごとに達成感を得させ、また次の
目標へと向かわせることができる。具体的に述べると、手頃な
数の種類からなるシリーズものの商品を、定期的にシリーズを
追加して販売するようにすることで、一つのシリーズを全て集
めるたびに達成感を得させることができるようになる。コレク
ションをする人に、定期的に達成感を得させることができれば、
コレクション欲求による継続的な購買行動の誘発につながると
考えた。
この考えをもとに、第 4 章でコレクション欲求を利用した商
品の例として挙げた、江崎グリコの玩具付きキャラメル「グリ
コ」の例について述べる。グリコは、小さなおもちゃのおまけ
を付けることで、そのおまけに対してコレクション欲求を発生
させ、連続した購買へと導くものであった。そのおまけとは、
各全 10 種類程度からなるシリーズのもので、その数は販売開始
以来 86 年の間で 2 万数千種類にものぼるという。
グリコの例は、先ほど述べたような、集めやすい数の種類で
構成されたシリーズのものを追加的に発売する手法をとってい
るといえる。このように、全種類集められるようなシリーズの
おまけをいくつも増やしていくことは、コレクションを行う人
に対して達成しやすい小さな目標をいくつも設けることとなり、
人々はその目標を達成することを目的として、継続的な購買行
動を行う。このように、グリコの例は、コレクション欲求を引
き起こす要因の一つである「達成感を得たい」という心理を刺
激し、効果的に用いた例であるということが実際に分かった。
2. 新規提案
本節では、前章の分析結果からコレクション欲求に優位に働
くと考察された「完璧に揃えたい」という要因に着目して、新
規提案を行っていく。
人は、未完成の課題の実行中には、心理的緊張状態に陥り、
緊張状態を脱するために、未完成の課題を完成させようとする、
ということは、先行研究で述べたツァイガルニック効果で証明
されている。
我々は、この「完璧に揃えたい」という欲求を引き起こす手
段として「コレクションの欠乏を認識させる」ことが有効であ
ると考えた。欠乏とは、そのコレクションが欠けている、未完
である、完璧でないことを指し、その欠乏を強調することで、
ツァイガルニック効果を引き起こし、完璧に揃えたいという欲
求を刺激しようとするものである。
そこで、我々が新規提案をしようと試みたのは、映画業界で
ある。我々が新規提案を行う対象として映画業界に着目した理
由は大きく 2 点ある。一点目は、映画業界の低迷である。業界
動向リサーチの調べによると、平成 17 年から平成 24 年まで映
画業界の業績は、ほぼ横ばいを続けている。平成 24 年の国内の
映画興行収入は 1,951 億円(前年比+7.7%増加)と 24 年は前年
から増加に転じたが、長期的には映画興行収入は伸び悩み傾向
にある。
そして二点目は、映画という業界に対して、これまでコレク
ション欲求を利用したマーケティングが行われていないことで
ある。本論文は、第1章の研究意義で述べたとおり、コレクシ
ョン欲求が用いられていない分野に新たにコレクション欲求を
用いたマーケティングを提案し適用することで、新たな購買行
動を生み出し経済の活性化を目指すものである。以上の2点か
ら、映画業界に新規提案をすることは、本研究の意義に則って
いる。
我々は、映画業界における、コレクション欲求を刺激するツ
ールとして、映画を見る際に購入するチケットに着目した。こ
のチケットは、映画館やシネコンに行き、チケット売り場で見
たい映画や上映日時、座席を指定すると料金と引き換えに得る
ことができる。そして購入したチケットは、入場したことの証
明として入り口にて、もぎりというチケットをもぎ取る作業が
なされ、手元には半券が残ることとなる。残った半券は、その
後使用されることはないが、映画を見たという記録や思い出と
して、とっておく人もしばしば見られる。我々は、この映画を
見たという記録や思い出としての役割を果たすチケットの半券
に強くコレクション欲求を働かせることが出来れば、映画の販
促につながるのではないかと考えた。
そこで提案したいのが、
「半券ラリー」である。このラリーと
は、スタンプラリーに由来するものである。スタンプラリーと
は、広辞苑によれば、ある一定のテーマの中でスタンプを集め
る企画のことであり、集めたスタンプに応じて、プレゼントな
10
どの特典が与えられる企画もある、とされている。半券ラリー
の概要は以下のとおりである。
まず、映画館でチケットを購入し入場する際、チケットのも
ぎりが行われると同時にチケットの半券とそれを貼る台紙を渡
される。この台紙には半券を貼る枠が一定数設けられている。
例えば、
「ハリッポッターシリーズ」などのシリーズ映画の台紙
や、
「○月のホラー祭り」や「アクション映画フェア」などと公
開される映画にあわせた台紙を渡し、消費者は、受け取った台
紙に映画の半券を貼ることで半券をコレクションしていく。5
枚の半券を貼ることが出来る台紙に、まだ3枚の半券しか貼ら
れていないとき、何も貼られていない枠、すなわちコレクショ
ンの欠乏を強く認知させることが出来る。また、このときチケ
ットになんらかのデザインをほどこし、台紙にチケットを揃え
終わると、1つの絵柄が出来上がる仕組みにしておけば、1つ
の絵の一部がかけている状態にもなり、コレクションの欠乏を
より強調することが出来る。
「半券ラリー」を実施することで、映画そのものへの興味に
加え、コレクション欲求が刺激され、
「映画を見る」という行動
を促進することが出来、映画業界の低迷の解消につながるので
はないだろうか。
⑨―――結論
我々はコレクション欲求に関する欲求とコレクション行動の
解明の研究を進めてきた。切手やコインを集めるといったコレ
クションという行動ははるか昔から行われてきている。しかし、
過去のコレクションの有様と現在のコレクションの有様は変化
してきている。消費者自身が対象に魅力を感じ自発的にコレク
ションする、というような消費者主体のコレクションから、ト
レーディングカードゲームや近年のソーシャルゲームなどの、
製造者が意図的に、消費者によってコレクションをされること
を目的とする商品を製造する、生産者主体のコレクションへと、
時代と共に変化していったと言える。過去に消費者が自発的に
満たしてきたコレクション欲求であるが、現在では、コレクシ
ョン欲求は商品の製造者によって意図的に満たされるようにな
った。しかし現在、実際にさまざまな業界でコレクション欲求
を刺激する意図でのマーケティングが行われているにもかかわ
らず、その具体的な研究が行われていない現状である。そのた
め、本研究のコレクション行動に関する欲求の解明は有意義な
研究であるといえる。
本研究では、コレクション行動時には「達成感」や「完璧を
求める」といった自己を満足させるような要因が存在すること
が解明できた。具体的な根拠のなく実際の市場で行われきてい
る、コレクション欲求を刺激することを意図したマーケティン
グ戦略に一つの根拠を出すことができたため、実務的なもので
あるといえる。
本研究の意義は、不況により物やサービスが売れなくなるこ
とで、衰退してきている企業、業界において、今までの既存の
物やサービスにコレクションという付加価値を加えることで購
買行動を活性化させていくことである。この目標の達成のため
には、本研究の消費者の自己満足要因をふまえた戦略で商品開
発、販促活動を行うことで実現可能である。
従来の消費者の心理学研究で、コレクション欲求に関する学
術的研究は行われてきていない。そのため、この分野はまだま
だ研究の価値がある分野であるといえる。その中で本研究はコ
レクション欲求に関する研究の今後に新たな示唆を与えること
ができたと考える。
従来の研究がなく、現在根拠なく行われている、コレクショ
ン欲求に関するマーケティング戦略の研究を行った本研究は、
実務的にも今後の学術研究にも多くの示唆を与えることができ
た。
⑩―――今後の展望
となった。しかしながら、研究上の限界や課題も認識しておか
なければならない。
今回は母集団をサンプル全体とする場合のみ有意な結果を得
る事ができ、母集団を分割する変数を用いて、より傾向の似通
うと考えられる母集団で検証したところ、有意な結果を得る事
が出来なかった。この原因として考えうるのは、考察でも述べ
たが「サンプルサイズの小ささ」と「辞退理由に傾向が無い」
である。この原因の解消のためにも、サンプルサイズを増やす
事と、より変化にとんだ辞退理由を探る事が必要なのかもしれ
ない。調査法では、実際の行動とかけ離れているために有意な
結果が出なかったとも考えられる。そのために、プレ調査で抽
出された競争要因が棄却されたとも考えられるため、プレ調査
で対象者としたようなコレクションをしている意識の強い人を
対象者とした実験法を行うことを予定している。実際の行動に
より近くなるように実験法を用いて、コレクション行動におけ
る競争要因を刺激することで、コレクション行動における競争
要因の有意性を立証できるように研究を進める。
⑪―――おわりに
今日では、日本国内の長期的な不景気により、人々は日々の
支出を控えるようになっている。そんな中でも、こだわりを持
って集めているものに対しては、たとえそれが高額であろうが
購入する傾向がみられる。人々のコレクション行為が、停滞し
ている消費経済を活性化させるのに良い影響を与えることは確
かであろう。本研究が少しでもその力になることができれば本
望である。
最後になってしまったが、本研究を通じてご指導をして下さ
った鶴見先生、多くのアドバイスをいただいた鶴見ゼミナール
の先輩・同期、他大学の皆様、調査にご協力いただいた調査対
象者の皆様、そしてこのような場を設けてくださった日本マー
ケティング協会ならびに関係者の皆様に、感謝の意を表して本
論文を終わりたいと思う。我々は本大会のみの参加となるが、
これからもこの関東学生マーケティング大会が発展していくこ
とを心から願っている。
参考文献
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E.C. Hirshman and M. Holbrook(Eds.) ” Advances in
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Thorstein Veblen[1899]“The Theory of the Leisure Class”
Macmillan
本研究を通して、コレクション行動の際の心理に関する研究
を深めていくことができ、実務的な応用まで言及する事が可能
11
Leibenstein, Harvey[1950]“Bandwagon, Snob and Veblen
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(http://deagostini.jp/)
江崎グリコ 江崎記念館おもちゃの歴史
(http://www.glico.co.jp/kinenkan/omocha/omocha2.html)
艦隊これくしょん公式ホームページ
(http://www.dmm.com/netgame/feature/kancolle.html)
12
補録
13