大成建設技術センター報 第 42 号(2009) ゴムボール衝撃源による重量床衝撃音について タイヤ衝撃源との比較と床仕上げ材による影響 田中ひかり*1,田端 淳*1 Keywords : floor impact sound-reduction performance, impact force characteristics (2), A-weighted impact sound pressure level 床衝撃音遮断性能,衝撃力特性(2),最大 A 特性床衝撃音レベル はじめに 1. ート素面の状況で 9 建物 47 室,仕上げ床で 8 建物 40 室(うち,1 建物 3 室は直張床,その他は乾式二重 集合住宅の性能のひとつである重量床衝撃音の測定 床)である。加振点は室の 1 本の対角線を 4 等分する で現在主に使用されている衝撃源はタイヤ(衝撃力特 3 点,受音点は室の 2 本の対角線を 4 等分する 5 点と 性(1))であるが,最近では衝撃源としてゴムボール し,受音高さは日本騒音制御工学会の推奨 (衝撃力特性(2))を積極的に用いていこうとする動き 受音室において衝撃音の録音を行ない,A 特性音圧レ が見られ,今後広く使用されると考えられる 1)2) 4) に従った。 。また, ベル(最大 A 特性床衝撃音レベル(LiA,Fmax))と 1/1 お 現在のタイヤ衝撃源による床衝撃音の測定方法では, よび 1/3 オクターブバンドごとの最大音圧レベルの分 バンド最大音圧レベルを測定して周波数帯域ごとの評 析を行なった。 価基準と比較することにより評価値を求めている(床 表-1 測定対象と測定項目 Table 1 Test rooms. 衝撃音レベル等級(Li,Fmax,r,H(1)))3)。ゴムボールによる 衝撃音の評価をどのように行うかは現在のところ未定 であるが,最大 A 特性床衝撃音レベル(LiA,Fmax)を用 室 建 物 いることが議論されている。ゴムボール衝撃源を用い 数 素面 仕上げ床 A 5 5 5 B 8 8 8 の Li,Fmax,r,H(1)とどのような関係にあるかを把握しておき C 3 2 3 たい。 D 5 4 5 E 7 7 7 た LiA,Fmax 測定値が,従来用いられてきたタイヤ衝撃源 そこで,測定法の移行に先立ち,上記二種類の測定 F 6 3 6 G 2 0 2 また,従来のタイヤ衝撃源による測定ではコンクリ H 4 4 4 ート素面の状態に対し,乾式二重床で仕上げることに I 7 7 0 J 7 7 0 法の比較を行ない両者の関係を調べた。 よって衝撃音が増幅される傾向があるため,ゴムボー ルの場合にも仕上げ床による影響があるのか,またそ の程度を調べた。 実測 2. 3. タイヤ L 数とゴムボール LiA,Fmax の関係 3.1 タイヤ衝撃源との比較 鉄筋コンクリート造の集合住宅 10 建物 54 室を対象 タイヤおよびゴムボール衝撃源による床衝撃音の 2 としてゴムボールおよびタイヤ落下による床衝撃音を 種類の評価値の比較を図-1 に示す。a1,a2 はタイヤ 測定した。測定した室は表-1 に示すとおりコンクリ 衝撃源による L 数(Li,Fmax,r,H の 1 dB ごとの値とする) *1 とゴムボールによる LiA,Fmax の比較を示す。両者の関係 技術センター建築技術研究所環境研究室 は直線的ではないため,簡単な換算はできない。 46-1 大成建設技術センター報 b1~b4 に同じ衝撃源についての L LiA,Fmax の対応は比較的よく(b1),ほぼ 直線的な関係があるが,仕上げ後の床 においては素面よりも対応が悪くなる (b3)。タイヤの場合には素面の条件に おいても仕上げ床においても L 数と 70 素面 (a1) 60 50 40 相関係数 0.77 30 LiA,Fmax の間には直線的傾向が見えるも 30 40 50 60 ると LiA,Fmax 値に対して L 数が大きく 素面 60 50 40 相関係数 ゴムボールの LiA,Fmax 値とタイヤの L 数の関係は直線的ではなく,単純な 値の読みかえを行なうことはできない 40 ベルからゴムボールの LiA,Fmax 推定値を 算出する場合には手法 2 を用いた。 ●手法 1:ゴムボールのバンドごとの 最大音圧レベルにバンド補正値を足し, タイヤのバンドごとの最大音圧レベル 60 30 70 40 70 40 相関係数 (b4) 50 40 相関係数 0.87 0.93 30 40 50 60 30 70 40 50 60 70 タイヤ L数 ゴムボール L数 70 70 (c1) 素面 60 50 40 相関係数 0.78 仕上げ床 (c2) 60 50 40 相関係数 0.70 30 30 30 40 50 60 70 30 タイヤ LiA,Fmax (dB) 音圧レベルからバンド補正値を引き, 加え,LiA,Fmax 推定値を求める。 60 60 ●手法 2:タイヤのバンドごとの最大 ベルとして,これに A 特性の補正値を 50 仕上げ床 (b3) 50 として,これから L 数推定値を求める。 ゴムボールのバンドごとの最大音圧レ 0.79 タイヤ L数 60 30 ゴムボール L iA,Fmax (dB) 逆に,タイヤのバンドごと最大音圧レ 40 相関係数 30 ターブ)に補正を加える手続きを行な によって算出することを試みた。その 50 70 ンドごとの最大音圧レベル(1/1 オク った後にタイヤの L 数推定値を手法1 50 仕上げ床 ことが分かったため,ゴムボールのバ 70 (b2) 0.98 70 ゴムボール L iA,Fmax (dB) L 数の読みかえ 60 60 ゴムボール L数 ルの LiA,Fmax の関係についても周波数成 ゴムボールの LiA,Fmax とタイヤの 50 30 30 色分けするとタイヤの L 数とゴムボー 分の構造が影響していることがわかる。 40 素面 (b1) 30 なる傾向がみられる。a1,a2 を同様に 0.55 タイヤ L数 タイヤ L iA,Fmax (dB) 63 Hz と 125 Hz のレベル差が大きくな 相関係数 70 タイヤ L iA,Fmax (dB) ル差による色分けを行なうと(b2,b4), 40 30 ゴムボール L iA,Fmax (dB) 125Hz の関係に着目し,それらのレベ ゴムボール L iA,Fmax (dB) いて,主な周波数成分である 63Hz と 50 タイヤ L数 b4)。 (a2) 60 70 70 また,タイヤ衝撃源の床衝撃音につ 仕上げ床 30 のの,b1 ほどの対応は見られない(b2, 3.2 ゴムボール L iA,Fmax (dB) の場合,コンクリート素面では L 数と 70 ゴムボール L iA,Fmax (dB) 数と LiA,Fmax の対応を示す。ゴムボール 第 42 号(2009) 図-1 タイヤおよびゴムボール衝撃源による 床衝撃音の評価値の比較 Fig.1 Comparison of impact sources or rating value. 46-2 40 50 60 70 タイヤ LiA,Fmax (dB) L63-L125≦11 L63-L125>11 L63-L125>13 L63-L125>16 L63-L125>18 L63-L125>20 大成建設技術センター報 第 42 号(2009) 図-2 はタイヤのバンド最大音圧レベル測定値から 手法 1 によってゴムボールのバンドごとの最大音圧 ゴムボールの測定値を引いた値を示す。仕上げ床の場 レベルからタイヤの L 数推定値を計算し,図-3 に示 合には室によってばらつきが大きいが,全測定室の平 す。素面の条件では計算値と測定値の対応がよい。仕 均値を手法 1 および 2 に用いる補正値とした。この補 上げ床の場合には素面よりも対応が悪いが(標準偏差 正値は素面ではタイヤとゴムボールの加振源の加振力 で 2.3 dB) ,これはタイヤからゴムボールのバンド最大 レベルの差とほぼ等しい値である。仕上げ床の場合に 音圧レベルを引いた値(図-2,仕上げ床)にばらつき 素面よりも測定室によるばらつきが大きいのは加振力 があることが原因である。しかし,タイヤ L 数を大ま に対する仕上げ床の非線形性によるものと考えられる。 かに推定したい場合であれば推定方法として使用でき る可能性が示唆された。 また,平均値を見ると 125 Hz~500 Hz の帯域で素面よ 手法 2 によってタイヤのバンドレベルからゴムボー りも仕上げ床のほうが大きく,タイヤとゴムボールの ルの LiA,Fmax を計算し図-4 に示す。ゴムボールのバンド 値はほぼ等しい。 15 20 N = 29 素面 床衝撃音レベルの差 (dB) 床衝撃音レベルの差 (dB) 20 10 5 0 -5 -10 -15 15 N = 37 仕上げ床 10 5 0 -5 -10 床衝撃音レベル差の平均 加振力レベルの差 -15 -20 床衝撃音レベル差の平均 -20 A 16 31.5 63 周波数 (Hz) 125 250 500 A 16 31.5 63 周波数 (Hz) 125 250 70 70 素面 60 50 40 差の平均 標準偏差 相関係数 0.0 0.9 0.98 N 29 30 30 40 50 60 70 ゴムボールデータから計算したタイヤL数推定値 ゴムボールデータから計算したタイヤL数推定値 図-2 タイヤからゴムボールの床衝撃音レベルを引いた値 Fig.2 Difference of sound pressure levels between tire and rubber ball. タイヤ L数 仕上げ床 60 50 差の平均 0.5 標準偏差 2.3 相関係数 0.86 40 N 37 30 30 40 50 60 タイヤ L数 図-3 ゴムボールのバンドレベルから計算したタイヤ L 数推定値とタイヤ L 数 Fig.3 Measured L-value of tire and predicted L-value of tire calculated from band levels of rubber ball. 46-3 70 500 70 素面 60 50 差の平均 標準偏差 40 0.6 1.3 相関係数 0.97 N 31 30 30 40 50 60 70 ゴムボール LiA,Fmax (dB) タイヤデータから計算したゴムボール LiA,Fmax 推定値(dB) タイヤデータから計算したゴムボール LiA,Fmax 推定値(dB) 大成建設技術センター報 第 42 号(2009) 70 仕上げ床 60 50 差の平均 1.4 標準偏差 2.8 相関係数 0.75 40 N 37 30 30 40 50 60 70 ゴムボール LiA,Fmax (dB) 70 素面 60 50 差の平均 1.0 標準偏差 0.8 相関係数 0.99 N 32 40 30 30 40 50 60 70 ゴムボールデータから計算した L iA,Fmax 推定値(dB) ゴムボールデータから計算した L iA,Fmax 推定値(dB) 図-4 タイヤのバンドレベルから計算したゴムボール LiA,Fmax 推定値とゴムボール LiA,Fmax Fig.4 Measured LiA,Fmax of rubber ball and predicted LiA,Fmax of rubber ball calculated from band levels of tire. 70 仕上げ床 60 50 差の平均 1.5 標準偏差 0.9 相関係数 0.98 N 54 40 30 30 ゴムボール LiA,Fmax (dB) 40 50 60 70 ゴムボール LiA,Fmax (dB) 図-5 ゴムボールのバンドレベルから計算したゴムボール LiA,Fmax 推定値とゴムボール LiA,Fmax Fig.5 Measured LiA,Fmax of rubber ball and predicted LiA,Fmax of rubber ball calculated from band levels of rubber ball. レベルからタイヤの L 数を計算する場合と比較してや ールのバンドレベルからタイヤの L 数を計算した値よ やばらつきが大きくなる。これは,床衝撃音の主要な りもばらつく原因であることがわかる。 成分である 63 Hz のバンド内では周波数によって A 特 性重み付けの値が大きく変化し,1/1 オクターブ中心周 波数ごとの値を用いて補正を行なうとバンド内の下限 4. ゴムボールによる床衝撃音の床仕上げ材 による影響 に近い 50 Hz 付近の成分が大きい場合には LiA,Fmax 推定 値が大きくなることが一因となっていると考えられる。 従来のタイヤ衝撃源による測定ではコンクリート素 図-5 にはゴムボールのバンドレベルから LiA,Fmax 推定 面の状態に対し,乾式二重床仕上げ後の状態では衝撃 値を計算した結果を示すが,この場合にも推定値のほ 音が増幅される傾向がある。ゴムボールによる床衝撃 うが実測した LiA,Fmax よりも大きくなる傾向が見えるこ 音の場合には乾式二重床によってどの程度増減するか とからも A 特性の補正を 1/1 オクターブバンド中心周 を調べた。 波数における値で代表させることが,タイヤのバンド レベルからゴムボールの LiA,Fmax を推定した値がゴムボ 46-4 図-6 に乾式二重床仕上げによる床衝撃音の増幅量 をバンドごとに示した。 大成建設技術センター報 40 床衝撃音レベル増幅量の平均 15 LiA,Fmax の主成分となる割合 (%) 床衝撃音レベル増幅量 (dB) 20 第 42 号(2009) 10 5 0 -5 -10 -15 N = 21 -20 35 30 素面 ( N= 28 ) 仕上げ床 ( N= 38 ) 25 20 15 10 5 0 A 16 31.5 63 125 周波数 (Hz) 250 12.5 16 20 25 31.5 40 50 63 80 100 125 160 200 250 315 400 500 周波数 (Hz) 図-7 ゴムボールによる LiA,Fmax の 主成分となる周波数の割合の分布 Fig.7 Main frequency band of LiA,Fmax of rubber ball. 図-6 ゴムボールによる床衝撃音レベルの 仕上げ床と素面の差 Fig.6 Differnce of impact sound pressure levels of rubber ball between with and without floor coverings. LiA,Fmax の増幅量は±5 dB 程度であり,平均すれば 圧レベルに補正値を加える手続きを行なった後にタイ 約 0 dB である。バンドごとに見ると 16 Hz~80 Hz の ヤの L 数推定値を算出する,あるいは,タイヤのバン 帯域では平均的に 3 dB 程度増幅するが,それよりも高 ドごと最大音圧レベルから補正値を差し引いた後にゴ い周波数帯域では減少する。 ムボールの LiA,Fmax 推定値を算出すると,素面の場合に 床衝撃音のバンド最大音圧レベルに A 特性の補正を は比較的精度良く推定することができた。仕上げ床の 行い,バンドレベルが最大となる周波数の割合をみる 場合には素面よりも精度は悪いがおおよその値を推定 と(図-7),素面では 160 Hz の割合が高いのに対し, したい場合には換算できる可能性が示唆された。 仕上げ床では低域の増幅によって 50 Hz~80 Hz の割合 また,ゴムボールの LiA,Fmax は仕上げ床によって増幅 が大きくなる。素面の状況で最大となるバンドのレベ あるいは減少し,平均的に増幅量は約 0 dB であった。 ル値が床を仕上げた後に最大となるバンドのレベル以 80 Hz 以下の帯域では増幅する傾向にあり,100 Hz 以 上であれば LiA,Fmax は減少する可能性が大きいことを考 上では減少するため,LiA,Fmax を増幅させないためには えると,50 Hz~80 Hz の帯域における増幅を小さくで 80 Hz 以下における増幅を大きくしないことが必要で きれば LiA,Fmax の増幅を小さくできることがわかる。 あることがわかった。 5. 参考文献 まとめ ゴ ムボールを 用いた最大 A 特性床 衝撃音レベ ル (LiA,Fmax)とタイヤを用いた L 数との関係を調べた。 両者の関係は直線的とはいえないため,簡単な換算は できない。しかし,ゴムボールのバンドごとの最大音 46-5 1) 重量床衝撃音の標準衝撃源, 日本建築学会 59 回音シンポ ジウム, 2007.3 2) 床衝撃音の測定・評価法, 日本建築学会 64 回音シンポジ ウム, 2009.3 3) JIS 1419-2:2000, 建築物及び建築部材の遮音性能の評価方 法 - 第 2 部:床衝撃音遮断性 4) 山本他:重量床衝撃音測定法に対する提案,日本騒音制 御工学会秋季研究発表会講演論文集,pp.245-248, 2004
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