西ナイル・ハンタ…感染症媒介の恐れ 野放しペット輸入に網 厚労省、規制強化へ 外国で発生している感染症のウイルスなどの病原体を国内に運び込む危険のある野生動 物について、厚生労働省が本格的な輸入規制の強化に乗り出した。近年のペットブーム で外国にしか存在しない“珍種”が流入、ウイルスをまき散らし、未知の感染症を流行 させる可能性があるからだ。米国で200人を超える死者を出した西ナイルウイルス 1 を運ぶ野鳥、やはり死者が出ているハンタウイルス 2 を媒介するネズミやリスなどが対 象となりそうだ。 “珍種” 現在、国内には、世界各地から多数の野生動物が家庭用ペットとして輸入されている。 平成13年の財務省貿易統計によると、海外から輸入された動物は約7億8270万 頭・匹。プレーリードッグ3、フェレット4、ヘビ、ワニ、イグアナ5…など種類も多様だ。 「ペット溺愛(できあい)が生む病気」などの著書がある日大医学部の荒島康友助手(臨床 検査医学)によると、1980年代からアライグマ6、スカンク7といった米国産野生動物 がペット用として輸入され始め、爬虫(はちゅう)類、鳥類、昆虫に広がった。ここ数年 は「ハリー・ポッター」で注目を集めたフクロウ8が人気の的になっている。 「他人の飼っていない動物を飼い誇る」ことができる一方で、こうした動物は、ウイル スの媒介(ベクター)となり、未知の感染症を人にうつしてしまう怖さがある。 後ろ足でヒョコっと立つ姿が愛らしいプレーリードッグ。日本でもペットとして人気が 高いが、実は、伝染性が高い野兎(やと)病9やペストを人にもたらす恐れがある。野兎病 やペストに感染し発症すると、高熱や意識障害を起こし重症化してしまう。 実際に昨夏、日本に輸入されていた米国産プレーリードッグが野兎病にかかっていたこ とが分かり、厚生労働省は今年3月から輸入規制の対象とすることを決めた。 無防備 プレーリードッグの規制が決まるまでは、野生動物に関する国の規制は無防備だった。 感染症法による規制は、エボラ出血熱10を媒介する恐れがある猿だけにしかかかってい なかった。 輸入業者はいつでも好きなだけ多種多様な動物を輸入できるため、米国で死者が出てい る西ナイル熱のウイルスを運び込む野鳥、やはり致死率が高いハンタウイルスを媒介す るネズミやリスなども、これまでは検疫を受けずに国内に入り、すでに国内に潜んでい る可能性もある。 輸入ペット規制が野放しになっていた背景には、国内で動物が感染源となることに対す る危機管理意識が低かったことがあげられる。専門家の間では常識だった動物由来感染 症だが、プレーリードッグやBSE(牛海綿状脳症、狂牛病)パニックで最近、ようやく 動物からの感染対策を強化する必要性が叫ばれるようになってきた。 やっと 厚生労働省は昨年7月、感染症法の改正(来年4月)にあわせ、動物由来感染症対策の作 業班を立ち上げた。今年2月には、感染症法改正案の具体策を話し合う研究班の第1回 会議を開き、今後の方針を決めた。 方針では、西ナイル熱のウイルスを運びかねないオウム11やインコ12など、感染症法の 4類感染症を媒介する恐れがある動物の輸入規制を行い、さらに輸入届け出制を新設し て輸入業者が販売した後も、販売経路を追跡できるようにすることを検討中だ。 研究班班長で東京大学大学院の吉川泰弘教授(農学生命科学)は「日本に比べて外国の危 機管理意識は高く、大半の野生動物は原則、輸入が禁止されている。日本もすべての野 生生物に輸入規制をかけるべきだ」と話している。(by 清水麻子) 1 鳥の体内で増殖し、その鳥の血を吸った蚊に刺されることで人に感染する。突然発熱し、風邪のような症 状が起こるが、1週間ほどで回復する。時に脳炎を発症する 2 ネズミにかまれたり、ネズミの排泄(はいせつ)物の飛沫などを通して人に感染する。発症すると発熱や頭 痛が起き、悪化すると急性腎炎を起こす 3 prairie dog; リス科の哺乳類 4 ferret; イタチの一種 5 iguana; トカゲの一種 6 raccoon; 食肉目の哺乳類 7 skunk; イタチ科の獣 8 owl 9 ノウサギ、ネズミ、リスといった野生動物の細菌性疾患で、人にも感染する。野兎病菌を持ったダニや蚊 に刺されても感染。発症すると突然、風邪のような症状を示す 10 自然界から人への経路は不明だが、サルとの接触でエボラウイルスに感染した例がある。高熱や頭痛など 重いインフルエンザのような症状が出て、下血や吐血を繰り返す。治療方法がなく、致死率は8割。死亡者 の9割以上は消化管出血を起こしている 11 parrot 12 parakeet
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