特集 中国地域で取り組む部品サプライヤー 向けのベンチマーキング活動 地域経済部 参事官(産学官連携・産業クラスター担当) TEL 082-224-5760 昨年度は、初夏の日差しが強まる頃、汗だくになって取り組んだ展示商談会の開催対 象メーカー車のベンチマーキング活動でしたが、今年度は吹き下ろす寒風に、少し肩を すくめながら、1月の下旬から2月の初旬にかけて開催されました。 参加人数は延べ200人を越え、参加数は56団体(企業ほか)。広島県内の部品サ プライヤーを中心に、中国地域5県さらには遠く九州地域からも参加があり、会場内は、 次々と分解されていく車体や部品の各所に参加者が群がり、身をすくめる寒さも吹き飛 ぶ熱気の中で行われました。 まず、その開催概要は、以下のとおりです。 1.今年の開催概要 開催期間は、平成27年1月22日(木)~2月3日(火)。 ただし、これに先だち、試走による走行性能、外観・内装等のデータ取り、分析を実施。 (1)粗分解・見学 【1 月 22 日(木) 、23 日(金)】 (2)細分解・見学 【1 月 26 日(月)~1 月 27 日(火)】 (3)分解部品展示見学 【1 月 28 日(水)~1 月 30 日(金)】 (4)部品引取り 【2 月 2 日(月)~2 月 3 日(火)】 なお、粗分解初日には、ベンチマーキング活動の主催者である(公財)ひろしま産業 振興機構カーテクノロジー革新センターの中西コーディネータより、ベンチマーク対象 車両についての解説、ベンチマーキングポイントの紹介が行われ、参加者も熱心に聞き 入っていました。 旬レポ中国地域 2015 年 3 月号 1 粗分解① 車体のリフトアップ ※排気ユニットなど、車体下から取り外す作業 粗分解② 取り外した部品は順次展示へ ※車体の右側には、取り外されたシートや ハーネスなどの部品が並ぶ。 開催場所には、例年、広島県立総合技術研究所西部工業技術センター(広島県呉市) 内に設置されているベンチマーキングセンターが使用されるのですが、今回は、広島国 際学院大学自動車短期大学部のご協力を得て、こちらの実習場を使用し、車の分解も、 広島国際学院大学自動車短期大学部の佐々木先生、楠木先生の指導の下、専攻科2回生 のメンバーに手際よく取り組んでいただきました。 粗分解③ エンジンの取り外し作業 粗分解④ 取り外したエンジンの分解作業 こうした専門教育機関との提携による取り組みは、当地域においても、今年がはじめ てのことでしたが、参加したサプライヤーの担当者と学生さんや先生の交流も、こうし た中で生まれ、今後への手応えを感じる、収穫の大きな開催となりました。 2.地方で取り組むベンチマーキング活動とは ベンチマーキング活動とは、ライバル車の研究において、カーメーカー各社が独自に 行っている重要な取り組みのひとつですから、当然、各カーメーカーがベンチマーキン グセンターを持ち、独自に進めておられます。 一方で、部品のサプライヤー企業にとっては、どうでしょうか。カーメーカーの研究 旬レポ中国地域 2015 年 3 月号 2 開発は日々進化していくわけですから、部品サプライヤー企業にとっても、こうしたベ ンチマーキング活動が重要であることは、想像に難くありません。サプライチェーンの 技術力強化の一環で、カーメーカーとの間で情報の共有化が図られることも、日々の取 引の中で進められている一方、部品サプライヤー企業の主体的な目線から対象の車をベ ンチマーキングする機会も必要で有り、そうしたことが実現できる場が必要となります。 これを推進する上での現状はどうなっているのかについて、目を向けてみますと、ポ イントは以下のようなことになります。 【現状の課題】 ①国際競争が激化する中で、中小企業等も 従来の下請け構造から脱却し、自ら新た な価値提案(新ビジネス提案)をしてい かなければなりませんが、その経営資源 等が十分ではありません。 ②新提案のためには、現状、競合他社等の 製品・技術の把握(ベンチマーキング) が必要ですが、アフターパーツとして流 通する部品を購入していては非常に高く つき、入手しにくい部品もあります。 ③完成車メーカーとは異なり、各部品サプ ライヤーが欲しいのは車両の極一部であ り、そのために一台まるごと車両購入し なくてはならないのでは無駄が多い。 個社で新価値創造するのは大変(左側)であるが、 地域産学官で土台(ベンチマーキング)をつ くり、その上に複数社を乗せて、更に高み(新価 値創造、競争力強化)を目指す(右側) 【地域における政策目的】(地域で車両購入した場合のメリット) ①部品購入コストの低減。 ②車両購入により、部品単体のみでなく、そ の取り付け状況や周辺環境が分かります。 ③複数企業の参加により、車両の中の有価領 域は拡大、無駄領域は縮小し、効率 的になります。 部品メーカーの 小ピラミッドの 新提案力強化や 専門部品(オン リーワン技術) の創出に資する ④複数企業の参加により、自社のみでなく他 社と連携して新価値・ソリューションが検 討できます。 ⑤新しい車両の運転性能等、商品性を評価 することができます。 旬レポ中国地域 2015 年 3 月号 3 【政策効果】 ①ベンチマーキング活動は、地域ものづくり技術の国際競争力強化、進化を加速させる ことができます。 ②中小企業単独では難しい課題に対して、複数企業で取り組むことができ連携体・ネッ トワークの形成を活性化させることができます。自社だけで研究開発するのではなく、 他社と連携してモノづくり、コトづくりを行う政策を展開する上で、そのパートナー 探しとしても地域共同でベンチマーキング活動を行うことは有効といえます。 これらのことを踏まえ、この地域では国内各地に先駆け、広島県及び(公財)ひろし ま産業振構機構により、地域の部品サプライヤーの技術力強化を目的として、平成21 年7月に「ベンチマーキングセンター」が(公財)ひろしま産業振興機構に開設されま した。また、地域のリソースを出し合う形で、このセンターを有効に活用しようと任意 団体「ベンチマーキングセンター利活用協議会」が立ち上がり、以降、年間数台のベン チマークに、毎年取り組んでおられます。 ※ベンチマーキングセンター利活用協議会による過去の活動は、同協議会の著作として日経BP社 から出版されています。 中国経済産業局では、この貴重な取り組みの成果を中国5県のサプライヤー企業に広 げ、国内のカーメーカーにおいて実施している展示商談会の効果向上にもつなげていき たいという狙いから、広島銀行にもご賛同をいただき、このベンチマーキングセンター 利活用協議会及びひろしま産業振興機構カーテクノロジー革新センターによるベンチ マーキング活動のうち、展示商談会対象メーカーの車種に関する取り組みについて協力 させていただいております。 旬レポ中国地域 2015 年 3 月号 4 3.ベンチマーキング活動と今後のサプライヤー支援 今回のベンチマーキング活動では、他地域にはあまり例のない、自動車のベンチマー キング活動が実施できる広島県のリソースを活かしながら、部品サプライヤーの技術提 案力を高めていくという効果に加えて、地域に立地する専門教育機関のポテンシャルを 活用し、人材の発掘、育成、共有といった地方のサプライヤーが抱える「ヒト」の課題 に対するアプローチにもチャンスが広がったといえます。 部品サプライヤーの国際競争力醸成に向けて、系列を越えた国内のカーメーカーやメ ガサプライヤーの技術ニーズ情報の収集と発信、カーメーカーやメガサプライヤーに対 する技術提案の機会づくり、あるいは展示会への出展、展示会の開催などのサポートに つながる最初のきっかけとして、ベンチマーキング活動は重要な意義を持っています。 中国経済産業局では、中国地域の部品サプライヤーが国際競争力を備えた技術提案力 を蓄えていくために、引き続き、関係機関と協力関係を保ちながら、こうしたベンチマ ーキング活動を今後もサポートしていく予定です。 経済産業省 中国経済産業局 広報誌 旬レポ中国地域 2015 年 3 月号 Copyright 2015 Chugoku Bureau of Economy , Trade and Industry. 5
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