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第 12 回:ニュージーランド
ニュージーランドにおける
教員の職能開発の実際
たかはし のぞむ
●
東北大学大学院教育学研究科
博士課程後期3年。
専攻は比較教育学、教育行政学。
日本学術振興会特別研究員。
─ 学校間連携と教員評価 ─
●
高橋 望[東北大学大学院教育学研究科博士課程後期 3 年]
1980 年代後半に実施された教育改革は、ニュージーランド
図表[1]ニュージーランドの教育行政制度
の教育制度に大きな変革をもたらした。100 年以上続いた教
教育大臣
(ERO)
教育大臣
育委員会制度の廃止に伴い、各学校に権限委譲がなされ、現
Minister responsible
for the Education
Review Office
Minister
of Education
在では自律的な学校経営が推進されている。学校経営の主体
が行政から学校段階へと転換された中で、教員の職能開発・
職能成長はどのように実施されているのだろうか。本稿では、
各学校を基盤に展開されるニュージーランドの教員の職能開
教育省
Ministry
of Education
NZ資格局
New Zealand
Qualification
Authority
教員審議会
教育機関評価局
New Zealand
Teachers Council
Education
Review Office
発に対する取り組みを、現地への訪問調査を基に報告する。
学校/学校理事会
School / Boards of Trustees
はじめに
ニュージーランドは世界の国々の中においても、ニュー・
保護者/地域
パブリック・マネジメント(New Public Management :
Parents and the Community
NPM)* 1 に基づいた改革を、忠実に実施した国として知られ
*各学校は、保護者や地域住民を中心に構成されるBOTによって運営される。外
部評価機関である教育機関評価局は、教育省から独立して設置されており、BOT
の教育活動に対して評価を実施する。
* http://www.minedu.govt.nz/web/downloadable/dl6169_v1/schooling-in-nz--final-july-2003.pdf(2008 年 7 月 25 日確認)
ている。1980 年代後半、公的部門へと市場原理を導入した大
規模な行財政改革が断行された。改革の基本理念である NPM
は教育分野へも同様に適用され、教育委員会制度の廃止を導
36
き、同時に、学校理事会(Boards of Trustees : BOT)を設
に、近年多くの学校で見ることのできる二つの実践(ICTPD、
置することによって自律的な学校経営が導入された(図表 1)
。
及び EHSAS)に焦点を当て、学校間の連携に基づく職能開発
学校段階への権限委譲に伴い、教員の職能開発についても、
について報告する。第二に、教員評価がどのように職能開発
その実施の中心が行政から各学校へと転換されている。学校
に結びついているのかについて報告し、各学校を基盤とした
ごとの取り組みが推進されるため、重要な手段として位置付
教員の職能開発の取り組みの実際をレポートしたい。
けられたのが、学校間の連携・交流である。複数の学校によ
稿を進める前に、ニュージーランドの学校制度について概
ってクラスター(Cluster、学校群)が組織され、クラスター
観しておく。図表 2 に示したように、先住民族マオリのための
間での交流を通じてお互いの実践を共有し、教員のキャリア
学校を含め(クラ・カウパパ・マオリ等)* 2、多様な形態が
アップが図られている。一方で、各学校は独自の教員評価シ
準備されていることが特徴である。地域によって、初等学校
ステムを構築することが求められ、教員評価もまた、職能開
は 6 年制(1 ∼ 6 年生)と 8 年制(1 ∼ 8 年生)が存在し、初等
発のための手段として位置付けられている。本稿では、第一
学校が 6 年制の場合は中等学校との間に 2 年制(7 ∼ 8 年生)
● 調査概要
調査時期
2008 年 3 月 2 日∼ 14 日
調査方法
教育省担当者へのインタビュー調査
学校訪問を通じた校長、教員へのインタビュー調査
調査場所
オークランド、ウェリントン
訪問先及び取材対象者等
① Neil Melhuish 氏
Ministry of Education, Project Leader: e-learning Capability,
e-learning Schooling
② Sylvia Burch 氏
Ministry of Education, Project Manager, Extending High Standards Across
Schools, Resourcing Division
③ Paul Wright 校長
Clayton Park Primary School(於:オークランド)
④ Cherie Taylor-Patel 校長
Flanshaw Road Primary School(於:オークランド)
⑤ Wendy Esera 校長
Evans Bay Intermediate School(於:ウェリントン)
⑥ Janice E Shramka 校長
Karori West Normal School(於:ウェリントン)
図表[2]ニュージーランドの学校制度
高等教育
初等学校及び中等学校
(7∼13年生)
中等学校(9∼13年生)
学年 年齢
ファレクラ
統合学校
中間学校(7∼8年生)
初等学校(1∼6年生)
初等学校
(1∼8年生)
クラ・
カウパパ・
マオリ
Composite
/Area School
特殊学校
Special School
通信学校
Correspondence
School
13
..
.
9
8
7
6.
..
1
18
16
15
.
.
.
.
.
.
6
就学前教育
*5歳の誕生日を迎えれば初等学校へと入学することができるが、5歳は学校教育の助走期間として捉えられており、6歳から16歳までが義務教育とされる。
*8年制の初等学校を経て中等学校に進学するか、もしくは6年制の初等学校、及び2年制の中間学校を経て中等学校に進学するかは、
児童生徒の自由である(自分の住む地域の学校に進学することが多い)
。
*就学前教育(幼稚園、保育園、プレイセンター等)
、高等教育(大学、教員養成カレッジ、ポリテクニク等)においても、多様な形態を見ることができる。
http://www.minedu.govt.nz/web/downloadable/dl6169_v1/schooling-in-nz---final-july-2003.pdf(2008 年 7 月 25 日確認)
の中間学校(Intermediate school)が設けられている。その
る。すなわち、ICTPD は、教育省による資金援助を基に、教
上に中等教育(9 ∼ 13 年生)
、及び高等教育が整備されている。
員に対して ICT を通じた職能開発の機会を提供するプログラ
ムと理解できる。クラスターを組織することがプログラム申請
ICT 職能開発プログラム(Information and Communi-
つきを重視し、ICT を媒介とした学校間の交流の促進、学校
cation Technologies Professional Development Cluster
間のネットワークの構築が図られているといえる。また、クラ
Programme : ICTPD)は、99 年に教育省によって導入され
スター内での教員同士の交流も促され、他校の教員との交流
た。その目的は、学校における ICT のインフラ整備、教員の
を通じた職能開発の機会提供も同時に行われている。
ICT 利用技術の発展・向上、そして ICT を効果的に活用した
例えば、エバンズ・ベイ・スクール(Evans Bay Inter-
教員の職能開発、それに基づく児童生徒の学習達成度の向上
mediate School)は、小規模な中間学校であることに鑑み、
である* 3。プログラム自体にクラスターと題されているよう
ICTPD を通じてコンピュータ等を整備することに加え、近隣
に、学校群を組織することがプログラム申請への前提条件と
の中・大規模の初等学校、中等学校とクラスターを組織し、
なる。ICTPD への参加を希望する学校は、複数校によってク
ラスターを形成し、独自の ICT 技術向上プラン、及び ICT を
通じた教員の職能開発プランを作成した上で、教育省へと申
請を行う。個々の学校単位では申請を行うことはできない。
教育省は各クラスターからの申請書を基に審査を行い、申請
プランの有効性、実現可能性等を考慮した上で採択の可否を
決定する。3 年間のプログラムであり、採択された場合、年間
最大 12 万 NZD(約 1,000 万円)が各クラスターへと与えられ
*1 NPM理論とは、1980年代半ば、英国・ニュージーランドなどのアングロサ
クソン系諸国を中心に行政実務の現場を通じて形成された革新的な行政運
営理論であり、民間企業における経営理念・手法、さらには成功事例など
を可能なかぎり行政現場に導入することを通じて行政部門の効率化・活性
化を図ることである。大住荘四郎『ニュー・パブリック・マネジメント
∼理念・ビジョン・戦略∼』P.1/日本評論社/1999年
* 2 マオリの文化や価値観に基づき、マオリ語で教育活動が行われる学校であ
る。教育段階ごとにテ・コハンガ・レオ(Te Kohanga Reo〔就学前教育〕
)
、
クラ・カウパパ・マオリ(Kura Kaupapa Maori〔初等教育〕
)
、ファレクラ
(Wharekura〔中等教育〕
)
、ワーナンガ(Wananga〔高等教育〕
)が設置され
ている。
* 3 Ministry of Education, ICT Professional Development Clusters, 2008.
http://www.minedu.govt.nz/index.cfm ? layout = document & documentid =
7383&data=l(2008年7月25日確認)
2008
の条件となっていることから、クラスター内の学校間の結び
NO.14
ICTを通じた連携と交流
37
図表[3]ICTPD の採択分布図(2008 年)
⑳⑲
オークランド
⑮
⑭
ウェリントン
⑨⑧
⑥
③
②
①
図表[4]EHSAS の採択分布図(2008 年)
⑳
⑭
⑳
⑬
⑪
⑳
⑳
⑳
⑰
⑯
⑳
⑮
⑱
⑬
⑫
⑪
⑫
⑪
⑨
⑩
オークランド
⑧
⑦
⑥
⑤
ウェリントン
⑩
クライストチャーチ
⑦
④
⑤
ダニーデン
① Southern Connections ② Southland Rural Secondary schools
③ Hokonui ④ Otepoti ⑤ Royal ICT ⑥ Ashburton Schools ⑦ Te Waihora
⑧ Horizons ⑨ Rakahuri (Ashley River Group)
⑩ Te Kura a tuhi: Future Pathways ⑪ Online Bridges ⑫ Not Quite Feilding
⑬ Feilding ICT PD ⑭ Taranaki Waka ⑮ CentreNet ⑯ Eastside
⑰ Te Whakatipuranga Hou: The New Generation ⑱ Nati ICT PD
⑲ Three Kings ICT PD ⑳ SustainED Maungarei Kaitiakitanga
⑪ Elm Park Cluster ⑳
⑳
⑳Great Barrier Island ICT ⑳
⑬ Twin Coast
⑳
⑭ Whangarei Area ICT PD ⑳
⑮ Convention Centre
*それぞれは、申請されたクラスター名を示す(各クラスターは申請時に特徴
的な名前をつけ、申請を行う)。
http://maps.google.com/maps/ms ? ie=UTF8 & hl=en & msa=0 &
msid=103176634185774309611.000445ea06e5b02807f4b & a mp;ll=
-41.079351,173.320313 & spn=14.697976,29.882812 & z=5(2008 年 7 月 25
日確認)
④
クライストチャーチ
③
ダニーデン
②
①
① Novaflow, South 3 Learning, Taking the Sting out of the Tail
② Big River, Otago Rural, STARS
③ Aoraki, FAST TOI, Linwood
④ Talk to Learn, Te Waikairangi ⑤ Digital Daze, Lighthouse
⑥ Potama Learning ⑦ Oroua, Whanganui
⑧ STePS, Restorative Princps, Thinking Kids, Volcanics, Waimapu
⑨ Kids on thePlains
⑩ Inquiry basedschools, Learners2gether, EPICC, MERGE, Pakuranga West,
REACH, W3BS
⑪ Central Whangarei ⑫ PERLES
*それぞれは、申請されたクラスター名を示す(各クラスターは申請時に特徴
的な名前をつけ、申請を行う)。
http://www.minedu.govt.nz/web/downloadable/dl10278_v1/cluster−map−final.pdf
(2008 年 7 月 25 日確認)
その連携の強化と情報の共有を図っているという。また、ICT
されたクラスター数は、1 回目(06 年)は 30、2 回目(07 年)
専門家をファシリテーターとして雇用することで、クラスター
は 28、3 回目(08 年)は 31、となっている(図表 4)
。学校数
内の学校間の円滑な連携を実現している。
は合計で 500 校に上り、ニュージーランド全体の約 20 %に当
ICTPD は 99 年に 23 のクラスターが採択されたことに始ま
たる。現在 4 度目の申請を受け付けている状況である。
り、毎年その数を増やしている。現在では、ニュージーランド
EHSAS の特徴はそのクラスターの構成の仕方にある。すな
全体の 60 %以上の学校が ICTPD を経験しており、08 年度に
わち、クラスターは一つの「先導的学校」
(initiating school)
は、新たに 25 のクラスターが採択されている(図表 3)
。
を中心に組織され、先導的学校がクラスター内の予算運用、
プログラムの立案・実施等に対して責任を有することとなる。
優れた実践の共有と拡大
38
そして、先導的学校の優れた実践をクラスター内の他校へと
エクステンディング・ハイスタンダード・アクロス・スク
波及させ、クラスター内全学校の教育の質の向上を目指すの
ール( Extending High Standards Across Schools :
である。先導的学校はクラスターにおけるリーダー、かつ調整
EHSAS)は 06 年に開始されたプログラムであり、ICTPD と
役として機能することが求められるといえる* 5。
同様に、各学校はクラスターを組織して教育省へと申請を行
EHSAS は、クラスターを基盤としている点、一つの先導的
い、申請が採択された場合、教育省から 4 年間にわたり年間最
な学校が中心となっている点、そしてその先導的学校の実践
大 20 万 NZD(約 1,600 万円)の資金援助を受けることができ
を他校に波及させることによって全体のボトムアップを図る
る。付与された資金を効果的に運用することで教員の職能開
という点など、英国におけるリーディング・エッジ・パートナ
発を積極的に実施し、プログラム名からも分かるように、優
ー シ ッ プ ・ プ ロ グ ラ ム ( Leading Edge Partnership
れた学校の実践を他校へと波及させ、その拡大を図ることが
Programme : LEPP)
、豪州(ヴィクトリア州)におけるリー
目的である* 4。現在までに
ディング・スクール・ファンド(Leading Schools Fund :
3 度の申請が受け付けられ、採択
[写真2]教育関係の情報誌が豊富に取り揃えられて
いる
[写真3]壁面の掲示物から教員は情報を得る
LSF)と同様の性質を持つものと考えられる。EHSAS のウェ
されている。ICTPD、EHSAS は、教員が職能開発を実施する
ブページには、LEPP と LSF へのリンクがはられている* 6。
ための契機として捉えることができる。
ICTPD と EHSAS の共通点
個々の教員に対する職能開発
することができる。
それでは、個々の教員に対する職能開発の機会はいかに提
供されているのだろうか。
第一に、教育省からの競争的資金を基盤としていることで
ニュージーランドの学校では、日本の学校のような職員室
ある。近年ニュージーランドでは、公立の初等・中等学校にお
は存在しない。初等学校の場合は担当クラスにおいて、中等
いて、学校予算の拡大を図るべく競争的資金獲得の重要度が
学校の場合は教科ごとに区分された部屋に自らの仕事場があ
増加している* 7。学校予算が多いほど、BOT は職能開発のた
る。そして、職員室の代わりとして、校長、事務職員を含めた
めの費用を確保でき、教員にとっては職能開発の機会がより
教職員全員が一堂に会する休憩室のようなものが存在する
多く与えられることとなる。換言すれば、教育省は、教員の職
。学校訪問を行うと、休み時間* 8 やランチタイムな
(写真 1)
能開発のための付加的な費用を競争的環境を介して学校へと
ど、多くの教職員がこの休憩室に集まり、紅茶を飲みながら
付与しているのであり、資金獲得の条件としてクラスターの構
校長からの諸連絡に耳を傾けるといった光景をよく目にする。
築を掲げることで、学校間のネットワーク、協働関係を促進し
休憩室は教職員全員が集まる所であるがゆえ、教職員間の
ていると考えられる。
重要な情報交換・収集の場所となっている。学校のスケジュ
第二に、申請段階でクラスターを組織することが前提とな
ールが示された大きなホワイトボード、事務連絡表の他、教
っていることである。クラスターが基盤となったプログラムで
育省発行の機関紙、教員組合の情報誌といった教員向けの研
あるため、必然的に他校との交流の機会が発生することとな
究雑誌等も豊富に取り揃えられている(写真 2)
。休憩室に入
る。校長だけでなく、教員同士の交流も促され、こうした交
って最初に目につくことは、壁面にさまざまな紙が貼りつけ
流が一種のピア・レビューとしての効果を持ち、教員の職能
られていることである。その一つひとつが教員に対する情報
開発に大きく貢献していると考えられる。また、クラスター内
となっており、教員はそれらを自由に見ることができる(写真
での情報、及び実践の共有が、学校全体だけでなく個々の教
3)。そして、個々の教員に対する職能開発の機会提供も、こ
員にとっても有益に働き、校内に新しい風をもたらすきっか
けとなっている。
第三に、最終的な目標が教員の資質能力の向上、児童生徒
の学習達成度の向上であるということである。クラスターを
組織すること、学校間のネットワークを活用することはあく
まで手段にすぎない。学校間、及び教員間の連携・交流を通
じて、各教員が資質能力の向上を図り、質の高い教授活動を
展開することによって、児童生徒の学習達成度の向上が意図
*4 Ministry of Education, Extending High Standards Across Schools, 2007.
* 5 どの教育領域・分野に焦点を当てるかは各クラスターの自由であり、クラ
スター内の学校の現状やニーズに応じて決定される。先導的学校は、クラ
スターにて展開するプログラムを作成し、申請を行うこととなる。
*6 http://www.minedu.govt.nz/index.cfm ? layout=document & documentid=
10278 & indexid=1004 &(2008 年 7 月 25 日確認)
* 7 例えば、わが国の大学等においても、科学研究費補助金に見られるように
競争的資金の獲得が大学経営の重要な部分を占めるようになってきている
が、それと同様の現象として捉えることができるだろう。
*8 英連邦圏であるニュージーランドではティータイムの習慣が根づいており、
午前と午後に 1度ずつ、20∼30分程度のティータイムがとられている。こ
の時間、教職員は休憩室に集まり、紅茶を片手に時間を過ごす。この時間
が職員会議の役割を果たしており、重要連絡等はここで行われる。その間、
児童生徒は休み時間となっており、校庭で遊んでいる。
2008
上記 ICTPD、EHSAS に共通する点として以下の 3 点を指摘
NO.14
[写真1]教職員全員が一堂に会する休憩室
39
行うのである。
こうした支援・研修プログラムは、当然のことながら、参
加の際には費用が必要となる* 9。もちろん、教員個人が自ら
申請を行い、必要経費を支払えば参加することは可能である
が、各教員の職能開発のための費用は BOT の予算に組み込ま
れており、BOT の承認を得れば、学校予算内で支援・研修プ
[写真4]
「Professional Development」のコーナーには現在
参加者を募集している研修やセミナーの詳細が示
されている
[写真5]
写真4の中の1枚。いじめ
や不登校の対応に関する研
修プログラムの募集要項
ログラムに参加することができる。教員が支援・研修プログ
ラムへの参加を希望した場合、それが当該教員にとって必要
かつ有益かどうか、それを判断するのは校長であり、判断の
基準となっているのが各学校において実施される教員評価で
の掲示を通して周知されている。休憩室の一角には
ある。教員評価と教員の職能開発は密接に結びついており、
「Professional Development」と題されたコーナーが設けられ
教員評価が職能開発の重要な機会として位置付けられている。
ており、現在参加者を募集している研修やセミナーの詳細が
示されている(写真 4 ・ 5)
。
80 年代の教育改革以降、学校への支援、教員への研修とい
自律的な学校経営が推進されているニュージーランドでは、
った支援プログラムは、教育省をはじめとする行政機関だけ
教員評価もまた学校ごとに独自のシステムで実施されている。
ではなく、民間を含めた多様な支援プロバイダーによって提
ここでは、先述のクレイトン・パーク・スクールを例に挙げ、
供されるようになった。各学校は雇用する教員に必要かつ適
特に職能開発と教員評価の関連について見ていきたい*10。
切な支援を選択し、そのサービスを購入する。つまり、NPM
教員評価は 1 年サイクルで行われる。年度当初、教員は校
に基づいた改革の中で、支援プロバイダー間においても競争
長との面談において、自己評価を基に自らの課題点を見つけ
的環境が構築され、より質の高い支援・研修プログラムの提
出し、課題克服のための目標を設定する。あるいは、自分が
供が意図されたのである。
伸ばしたい点のさらなる向上を目指した目標を設定する。そ
例えば、クレイトン・パーク・スクール(Clayton Park
40
教員評価と職能開発
して、目標を達成するための職能開発プラン(以下、プラン)
School )やフランショウ・ロード・スクール(Flanshaw
を校長との相談の下に作成し、年間を通じてプランを実行し
Road School)があるオークランド地域においては、民間コン
ていくのである。教員はそれぞれにプランを持ち、その実施経
サルタント会社であるマルチ・サーブ(Multi Serve)とオー
過は、教員評価を通じてチェックされる。その際、評価者で
クランド大学付設のチーム・ソリューションズ( Team
ある校長は、各教員が目標達成のために必要な支援を提供す
Solutions)と呼ばれる研修センターが多くの支援・研修プロ
ることが求められる* 11。校長は評価者であると同時に、職能
グラムを提供しており、2 大支援プロバイダーとして認識され
開発を実行するためのアドバイザーとしての役割も担うので
ている。この他、個人経営の教育コンサルタントも存在し、学
ある。教員に対して積極的に職能開発を促し、それに対して
校はこれらの支援プロバイダーから適切なものを選択、契約
最大限のサポートを講ずる責任がある。そのため、外部支援
を結び、必要な支援を受ける。もしくは、各支援プロバイダー
プロバイダーによる支援・研修プログラムがそのツールとし
が定期的に開催する研修・セミナーに必要な費用を支払い、
て利用され、当該教員のプラン遂行のために必要な場合、学
適宜参加するのである。良いサービスがあれば、オークランド
校予算から費用が捻出されるのである。
地域のみならず遠方の支援プロバイダーからそのサービスを
筆者が同校を訪問した際、1 名の教員が外部の支援・研修
購入することもあるという。休憩室に掲示されていたのは、各
プログラムへの参加を希望していた。面談において校長は、
支援プロバイダーが提供する支援・研修プログラムの日時、
なぜそのプログラムに参加する必要があるのか、自分のプラ
内容、費用等が記載された募集要項であり(写真 5)
、教員は、
ンに対してどのような効果が見込まれるのか、等について質
自分が必要と思うもの、興味のあるものに対して参加申請を
問を繰り返していた。
「なぜ」と聞かれたときの理由が大切で
あり、自分が最も知りたい点であると校長は強調し、教員を
出すきっかけとなっているのである。実践を波及させるための
鼓舞する姿勢が非常に印象的であった。
方策として、専用のウェブサイトが設置され、例えば、オンラ
プランの実施経過を確認する年度途中の教員評価において
イン・ラーニング・センター(Te Kete Ipurangi − The
は、学期ごとにある特定の児童グループをモニターし* 12、当
Online Learning Centre : TKI)*13 では、全国の学校の情報
該教員のアプローチがどのような効果を生み出したかチェック
がデータベース化されており、他校で使用された教材等もダ
する。例えば、プランにおいてリテラシー能力の向上を目標と
ウンロードできるようになっている。また、教員評価をベース
して設定した場合、リテラシー関連の試験結果等を収集し、そ
とした職能開発も積極的に実施されており、各教員が独自の
のデータをエビデンスとして教員評価の際の資料として用い
プランを作成・遂行することで、それぞれのニーズに沿った
る。各教員は、現状を示すデータによってプランの進展状況を
職能開発を自らのペースで実施することを可能にしている。
把握し、今後のプランの展開とその方向性を校長と共に決定す
そして、こうした教員の取り組みに対して、校長やチームリー
る。公式の面談だけでも学期に 1 度は実施されるという。また、
ダーといった校内からだけではなく、民間を含めた外部から
校長だけでなく、学校内に組織されたチームのリーダー(主に
のサポート体制も確立されているのである。すなわち、クラス
ベテラン教員)
、副校長も必要に応じて評価者となる。特に、
ターを基盤とした学校同士、教員同士の協働的環境が構築さ
チーム内での活動、チームリーダーとの関係は教員にとって重
れ、その中で各教員は、他校の教員との交流を通じて新たな
要なものとして機能している。クレイトン・パーク・スクール
知識や情報を得、校長やチームリーダーから支援を受けなが
の場合、1 ∼ 2 年生、3 ∼ 4 年生、5 ∼ 6 年生、7 ∼ 8 年生の学
ら、必要に応じて外部支援プロバイダーからの支援を効果的
年ごとに分けられた 4 チーム、さらに、リテラシー、ニューメ
に活用することで自らの職能開発を図っているのである。こ
ラシー等の教授分野ごとのチームが存在する。各教員は該当す
うした学校間連携や教員評価を基盤とした教員の職能開発の
るチームに属し、チーム内での同僚教員との交流もまた、重要
取り組みは、行政主導の研修を中心としたわが国においても
な職能開発の機会として位置付けられている。普段から行動を
大いに参考となる事例として捉えることができるだろう。
共にするチームリーダーは教員のよき理解者であり、チームリ
ーダーによる評価は非常に建設的なものとなる。
年度末には総括を含めた面談が実施される。教員は、デー
一方、学校間連携の基盤となるクラスターは、競争的資金
を基に組織され、資金はあくまで競争的環境の下に配分され
るのであり、当然のことながら、資金を獲得できる学校もあ
タを示し、年度当初に設定した目標の達成状況、及び達成す
れば、そうでない学校も存在する* 14。また、学校数も多く、
るための自らの実践経緯等を評価者に対して説明する。最終
地理的に近隣に位置する都市部の学校では比較的容易にクラ
面談にて出された課題等は次年度の達成目標となり、年間を
スターを構築することができても、学校数の少ない地方の学
通じた教員評価サイクルが確立しているのである。このサイ
校ではクラスターを組織すること自体が困難である場合が少
クルの中で最も重要であるのは、プランの遂行過程であり、
なくない。こうした相違が格差として働かないよう考慮する
階段を上るようにステップアップしていくことを求めている
ことが課題として挙げられるだろう。各学校を基盤に実施さ
と校長は説明してくれた。
れるニュージーランドの取り組みが、今後いかに展開されて
いくのか、引き続き研究を進めていく所存である。
が推進されているため、教員の職能開発の機会提供も、各学
校が基盤とされている。各学校が主体であるがゆえ、重要視
されているのは、学校間の連携、教員同士の交流である。互
いに協力し合い、相互補完的な関係を構築することで優れた
実践を共有し、同時にそれを拡大することが意図されている。
クラスターを組織することが、学校間のネットワークを生み
*9 支援プロバイダーの中には、学校や教員に対する支援・研修プログラムの
提供に関して、教育省と契約を結んでいるところもある。学校がそのよう
な支援プロバイダーからサービスを受ける場合、教育省からの資金によっ
て費用が賄われるため無料でサービスを受けることができる。教育省との
契約に基づく支援システムについては、福本みちよ「ニュージーランドに
おける学校に対する支援システム∼教育省との契約にもとづく支援プログ
ラムの提供∼」/木岡一明編『学校評価システムの構築に関する開発的研
究(中間報告書2)
』国立教育政策研究所/2006年/P.59-66、に詳しい。
*10 教員評価といった場合、形成的評価と総括的評価の2側面が指摘できるが、
本稿では、職能開発に関連した教員評価(形成的評価)を中心に報告する。
*11 Ministry of Education, Principal Performance Management, 1998.
*12 ニュージーランドは4学期制をとっている。
*13 http://www.tki.org.nz/e/tki/(2008 年 7 月 25 日確認)
*14 基本的に、ICTPDとEHSASは同時期に参加することはできない。
NO.14
ニュージーランドでは BOT を中心とした自律的な学校経営
2008
おわりに
41
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