公債の負担 - 明治学院大学

11.公債の負担
11-1.租税と比較した公債の特徴
2012年度 春学期 木曜5限

収入調達方法としての任意性:
公債は民間部門が自発的に購入を決定 ・・・ 調達時の反対の少なさ
⇔ 租税は民間部門に負担を強制 ・・・ 増税時に反対も
財政学 1

短期多収性と負担の長期分散性:
公債は短期的に多額の収入を調達可能、利払いや償還も長期に分散可能
⇔ 租税では短期間に多額の徴収を行うのは困難、徴収時に負担が集中
公債の負担

公債による調達は償還という形で負担が将来世代への転嫁される可能性

発行時の景気の影響の受けにくさ:

公債は景気の影響を受けにくい ⇔ 租税は受けやすい
公債は利子率など発行条件面で金融市場の影響を受けやすい

消費・貯蓄への影響:
2012.6.28
担 当: 石 川 達 哉
公債を民間部門が購入すると社会全体の資本蓄積が減少する可能性
⇔ 増税の場合には民間部門の消費が削減される可能性
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11-2.国債管理政策


11-3.公債の負担に関する考え方
国債管理政策:結果として生じた財政黒字・財政赤字をいかに金融的に管理するか
⇒ 財政負担の軽減を図るべく、発行・消化・流通・償還の各局面でコントロール


目標
国債の利払い費の最小化
⇒ 高金利時は早く償還するよう短期債、低金利時は長期債が望ましい

現時点での増税と比較した場合に、公債には特別な負担があるか?
公債発行時と償還時という時点を意識した視点
世代という視点
両立困難

負担の捉え方
景気の安定化(貨幣需要に対する資産効果も考慮)
⇒ 景気過熱時は金利を上昇させる可能性がある長期債が、
景気低迷時は短期債が望ましい
ラーナー・ハンセン
(新正統派)
国債消化の変遷:
 1964年度までは国債は発行せず
 65年度以降、当初は国債募集引受団引受・資金運用部(現在は廃止)引受のみ
流通市場は未発達、日銀の買いオペレーションで既発債を吸収
 国債大量発行が始まると、日銀の買いオペによる貨幣過剰供給を回避するため、
新発債を円滑に市場消化すべく、償還期限と発行方式を多様化。
 78年度に公募入札方式の導入、81年度に直接発行方式の導入
 郵貯資金の自主運用としての引受開始(87年度)、郵便局販売開始(88年度)
⇒ 流通市場の実勢が発行市場に反映 ⇒ 政府は財政投融資資金による売買も

歴史
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Y=C+I +G
C=c0+c1 (Y-T )
Y = Y*
(需要が供給の天井に達していて、増え
る余地がない状況 ならば、Gの増加分
だけCかIが減らなければならない)
・公債発行によるG 拡大のIへの効果は
ΔG =-ΔI ⇔ ΔI=-ΔG
・増税によるG 拡大によるIへの効果は
ΔG =ΔT ⇒ ΔC=-c1ΔT かつ
ΔI=-(1-c1)ΔT =-(1-c1)ΔG
ボーエン・デービス
・コップ
ブキャナン
モディリアーニ
負担の転嫁
民間の利用可能な資 内国債では生じない/
源 の 減 少 → 租 税 と 比 外国債では生じる
べ た負 担 増 は な し(内
国債)
生涯消費の減少
世 代 を 超 え た公 債 発 行
では生じる
強制的な取引
公債 償還 時 の課 税によ
って生じる
貯蓄・資本蓄積の減少 公 債 発 行 で は 租 税 よ り
→将来所得の減少
も大きく生じる
バロー
(合理的期待形成学派)
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生じない(公債の中立命
題)
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11-4.財政赤字と公債残高累増の問題点
[公債の中立命題]
・公債が租税と同じ経済効果を持つ(ための)メカニズム
「公債発行→償還のための増税が将来行われることを予想→貯蓄増加→消費減少」
(裁量的な財政政策の意義
と問題点)
と 「増税による可処分所得の減少→消費減少」 には差がない(中立的)
・本当に経済安定化機能を
果たしているか
・中立命題が成立する場合に意味がなくなる政策・概念
・政策の認知ラグ、実施ラグ
はないか
公債発行による政府支出の効果、クラウディング・アウト 、将来の増税を伴う減税、公
債の持続可能性、国債管理政策、公債の負担、公的年金における世代間所得移転、公
的年金における賦課方式と積立方式の違い
・不況時に財政赤字、好況
時に財政黒字となる運営が
なされているか(不況時に
減税や国債発行による公共
投資拡大を行い、景気が回
復したら、それらをもとに戻
しているか)
・同じ世代の中で公債発行と償還が行われる場合:リカードの中立命題
・公債発行が親の世代に行われ、償還が子の世代に行われる場合:バローの中立命題
~償還時の増税を負担する子のために、親が消費を控え、遺産を残す(利他的家計)


財政の硬直化 ex.予算の相当部分を国債費が占める
国債の持続可能性(財政破綻することなく国債発行を続けら
れる可能性)の低下 cf. プライマリーバランス均衡の意義

インフレーションの可能性(大量の既発債を中央銀行がオペレ
レーションで吸収すれば、貨幣供給は過剰に)

高金利と民間投資のクラウディング・アウト ⇒ 資本蓄積
の抑制 ⇒ 将来の生産能力=所得水準の低下
将来世代の負担増加


放漫な財政運営(政治プロセスとして見た場合の支出増・税収減
への偏向)

政府に対する信頼感低下
(前提)
・合理的期待
☆ 幾つかの点に関して問題視しない立場も存在することに注意(「公債の負担」を参照)
・利他性
・借入制約が存在しない
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モディリアーニの考え方
Y=C+I +G
C=c0+c1 (Y-T )
Y = Y*
⇔
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モディリアーニの考え方
I=Y-C-G
⇒ 需要が供給の天井に達していて、増える余地がない(ΔY=0)ならば、
Gの増加分だけ I (直接影響) か C(Tを通じて影響) が減る
①公債発行によるG 拡大が I へ与える効果
G 拡大後のYとIを それぞれY’, I’とする (Cは不変)
(Y’ = Y+ ΔY, I’= I +ΔI , G’= G +ΔG )
Y=C + I + G という関係は、新しいY’,I’,G’ にも成立するから、
Y’ =C + I’ + G’
⇒ Y+ΔY=C+I +ΔI+G+ΔG =C+I+G +ΔI+ΔG=Y +ΔI+ΔG
⇒ ΔY=ΔI+ΔG
ここで、 ΔY=0であるから、 ΔI=-ΔG
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②増税(ΔG =ΔT)によるG 拡大が I へ与える効果
G 拡大後のCとTをそれぞれ C’, T’とする
(C’ = C+ ΔC, T’= T+ΔT )
消費と税引き後所得の関係はC’, T’にも当てはまるから、
C’= c0+c1(Y-T’)
C +ΔC = c0+c1(Y-T-ΔT)=c0+c1(Y-T) - c1ΔT= C- c1ΔT
⇒ ΔC=-c1ΔT
このとき、 Y’=Y+ΔY=C+ΔC +I +ΔI+G+ΔG であるから、
ΔY=ΔC+ΔI+ΔG = -c1ΔT +ΔI+ΔT
かつ、 ΔY=0
⇒ ΔI=-(1-c1)ΔT
⇒ ΔI= -(1-c1)ΔG
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