省・脱希土類磁石モータの開発 - レアメタル・グリーンイノベーション研究

レアメタル・グリーンイノベーション研究開発センター成果報告書
(平成27年度)
1.プロジェクト名称ならびに研究組織
1 プロジェクトの
名称
省・脱希土類磁石モータの開発
2 研究代表者
所属部局・
専攻・職名
氏名
3 連絡先
TEL/E-mail
大学院工学研究科
電気エネルギーシステム専攻
教授 一ノ倉理
4 研究期間
平成 26 年 4 月 1 日
~
5 開発項目との
関連(該当部分に
〇を付す)
Ⅰ
Ⅱ
一次資源の確保
使用量低減・代替材 デバイス・シス 未 回 収 レ ア メ タ ル
料開発
テム開発
再生
022-795-7052/[email protected]
平成 31 年 3 月 31 日(5 年
Ⅲ
Ⅳ
モータ
発電機
6 キーワード
7研 究 組 織
○
か月)
 工学研究科電気エネルギーシステム専攻 教授・一ノ倉理
共同研究先企業:(株)日立製作所
 工学研究科電気エネルギーシステム専攻 准教授・中村健二
共同研究先企業:(株)日立製作所
 工学研究科電気エネルギーシステム専攻 講師・後藤博樹
共同研究先企業:(株)日立製作所
2. 研究概要
2.1 研究テーマ概要
Nd-Fe-B 焼結磁石は,現在世界最強の希土類磁石であり,これを用いた永久磁石モータは,他の
モータと比較してトルクが大きく,効率も高いため,様々な分野への適用が進んでいる。特に,今
後急速な普及拡大が予想される,ハイブリッド自動車や電気自動車の駆動用モータとして欠かせな
い存在である。しかしながら,最近,ネオジムや熱特性を改善するために添加されるジスプロシウ
ムの価格高騰および供給不安に対する懸念から,国内外で省・脱希土類磁石モータの研究が活発化
している。ここで,省・脱希土類磁石モータ開発の方策としては,
 希土類磁石を削減し,フェライト磁石などで削減分を補う
 希土類磁石の代替として,Sm-Fe-N 磁石やフェライト磁石などを用いる
 リラクタンスモータや巻線界磁型同期モータに,フェライト磁石などを補助的に付加する
 リラクタンスモータなどの構造を工夫することで,磁石レスのままで性能の向上を図る
以上の 4 つに大別されるが,いずれも一長一短があるため,用途や要求される性能によって,最
も適した方策は異なることが予想される。
そこで本研究では,解析および実験を通じて,上記の省・脱希土類磁石モータの得失を系統的に
まとめることで,次世代モータとして期待されている省・脱希土類磁石モータの設計・開発に資す
る指針を与えることを目的とする。
2.2
本センターの趣旨に合致する点について
- 69 - 65 -
省・脱希土類磁石モータの開発は,本研究開発拠点が掲げる研究開発の一つであり,まさに趣旨
に合致している。
2.3 波及効果について
本研究により省・脱希土類磁石モータの設計・開発に資する指針を与えることにより,希土類磁
石モータに匹敵するかあるいは凌駕する性能のモータを実現する可能性が高く,より高性能なモー
タを安価かつ安定的に供給することが可能となり,それを用いたハイブリッド自動車や電気自動車,
燃料電池自動車等の環境にやさしい自動車の普及に貢献できると考えられる。これにより,二酸化
炭素排出量が削減され,地球温暖化の防止につながると期待される。
2.4 産学連携について
本研究プロジェクトに参画する研究者は電機メーカー,自動車関連メーカー等と多くの共同研究
を行っており,このプロジェクトの推進に当たっても緻密な連携をしている。現時点では企業スペ
ースへの入居は未定であるが,来年度以降の共同研究契約の状況によっては,入居する企業が現れ
る可能性がある。
3.研究成果
(担当:一ノ倉理 共同研究先企業:
(株)
3.1「小型 EV 用アキシャルギャップ SR モータの開発」
日立製作所)
【緒言】
SR モータはレアアース磁石を用いないため安価で構造が単純・堅牢である。しかしながら強力な
永久磁石の起磁力を利用できないため,トルク密度の向上が課題である。これまで筆者らは小型バ
ス用インホイールモータとして,ダブルロータ型アキシャルギャップ構造に着目し,空間利用率の
向上とギャップ面積の拡大により,SR モータであっても,レアアース永久磁石モータに匹敵するト
ルク密度を達成し,十分な走行性能を確認したが,発熱や効率が新たな課題となった。そこで,さ
らなる小型軽量化,低損失化,放熱性の向上を目標に小型 EV 向けのダブルステータ型アキシャル
ギャップ SR モータを設計,試作しその性能を測定した。
【成果】
図 1 に,試作したダブルステータ型アキシャルギャップ型 SR モータを示す。ロータコアはバッ
クヨークなしのセグメント構造とし,内外のリング(SUS303)で支持し,空間は非磁性体(FRP)で埋
めることで剛性を確保した。また,ハウジングには超超ジュラルミン(A7075)を使用した。寸法は
対象の小型 EV にもともと搭載されていたギヤードレアアース磁石モータ(以下,ベース PMSM)と
ほぼ同一とした。
図 1 試作したアキシャルギャップ型 SR モータの構造(左:機構、中:固定子、右:回転子)
図 2 に,試作機の測定結果と有限要素法よる解析結果を示す。左図は巻線電流密度対トルク特性
を示し,解析値,実験値共に,ベース PMSM と同じトルク 100N・m を達成することを確認した。右図
は速度対トルク特性であり,全域でベース PMSM の特性を上回っていることを確認した。
しかしながら,トルクに対する電流密度が計算値より実測値が大きいため,損失が大きいことが
確認された。要因として,ロータリング部やハウジング部の渦電流が考えられる。
- 70 - 66 -
80
80
Torque [N・m]
100
Torque [N・m]
100
60
40
SR motor
(Calc.)
SR motor
(Meas.)
20
0
0
5
10
15
Winding current density [A/mm2]
SR motor (Calc.)
SR motor (Meas.)
Base PMSM
60
40
20
20
0
0
500
1000
Rotational speed [r/min.]
図 2 巻線電流密度・トルク・速度特性の解析・実験結果
【参考文献】
H. Goto, S. Murakami, O. Ichinokura, The 41st Annual Conference of the IEEE Industrial
Electronics Society (IECON 2015), YF-024821, (2015)
3.2「熱抵抗回路網によるモータの温度解析」(担当:中村健二 共同研究先企業:(株)日立製
作所)
【緒言】
モータに対する高出力密度化の要求に伴い,巻線電流密度や動作磁束密度は益々高まっている。
例えば,ハイブリット自動車用モータの巻線電流密度は 20 A/mm2 以上に達している。したがって,
このようなモータドライブシステムの設計には,電気‐磁気連成解析に加えて,熱との連成も必要
である。そこで,表面磁石(SPM)モータの熱抵抗回路網モデルを構築し,温度解析を行った。
【成果】
図 3 に,提案する SPM モータの熱抵抗回路網モデルを示す。図中の抵抗は熱抵抗であり,材質の
熱伝導率と寸法から求まる。空気と接する面には,熱対流と熱放射を考慮した熱伝達率から求まる
熱抵抗を接続する。なお,この熱伝達率は,回転速度や対象要素,並びに周囲温度などにより変化
することを考慮する。同図中のコンデンサは熱容量であり,材料の比熱と寸法から求まる。また,
電流源は銅損および鉄損から求まる熱源を表す。温度解析に際しては,まず有限要素法(FEM)に
よる磁場解析から銅損,鉄損,および磁石の渦電流損を算定する。
図 3 SPM モータの熱抵抗回路網モデル(左:全体図、右:拡大図)
次いで,これらの損失を熱源として,図 3 の熱抵抗回路網モデルを解くことで,モータ各部の温度
上昇を算定する。
表 1 に,SPM モータ各部の熱平衡時の温度を示す。運転条件は,巻線電流の振幅が 5 A,回転数
- 71 - 67 -
が 3000 r/min,周囲温度が 20 oC である。また,この時の鉄損は 16.7 W,銅損は 32.6 W,渦電流損は
2.4 W であった。また同表には比較のため,FEM による算定結果も示す。この表を見ると,両者の
結果は良好に一致しており,提案手法の妥当性が了解される。
表 1 SPM モータ各部の熱平衡時の温度
Temperature [oC]
FEM
Proposed model
Winding
105.9
107.2
Stator core
98.5
100.6
Magnet
102.0
101.7
Rotor core
102.0
101.4
【参考文献】
T.A.Lipo(訳 篠原勝治,山本吉郎,飯森健一,高橋身佳,小原木春雄,三上浩幸,島和夫),交流
機設計,電気書院,pp. 395-396(2007)
3.3「SR モータの低騒音化」(担当:後藤博樹 共同研究先企業:(株)日立製作所)
【緒言】
SR モータは安価で頑健であるなど,優れた特性を持っているが,トルクリプルや騒音が大きいた
め,いまだ広く実用に至っていない。トルクリプルに関しては瞬時電流制御により実用レベルまで
低減できることが明らかになっているが,その場合でも,耳障りな高周波成分の騒音が課題であっ
た。その要因として,電流制御に用いられるヒステリシス制御器による電流高調波成分の分散があ
げられる。
そこで新たに固定周波数 PWM 電流制御による SR モータの電流制御法を提案し,騒音の低減効果
について実験により確認した。
【成果】
図 4 のような電圧指令値の演算手法を考案した。まず,電流ルックアップテーブルを用いて目標
とする相トルク指令値 k*に対応した相電流指令値 ik*を求め,ik*を実現する相鎖交磁束指令値k*を
磁束 LUT から求める。k*から現在の磁束k を差し引くことで,磁束の過不足分がわかり,これを
制御時間 Δt で割ることで電圧指令値 vk*を求めることができる。
ω∆t
+
+
τk
*
θk
ik
θk+ω∆t
τk*
Current
Look-Up
Table
+
+
θk+ω∆t
Flux
Look-Up
Table
Flux command
φk*
ik *
θk
+
-
1/∆t
Vk*
φk
ik
Flux
図 4 電圧指令値計算法
キャリア周波数を 10kHz とした場合の提案制御法と,従来のヒステリシス制御器を用いた電流制御
法について,電流波形と騒音を測定した。図 5 に音圧レベルの比較を示す。図より提案制御法につ
いては特に高周波側の広い範囲において従来制御法よりも音圧が低減されていることがわかる。こ
の時,A 特性騒音レベルは従来制御法の場合 80.9dB であったのに対し,提案制御法では 76.5dB ま
で低減できた。
- 72 - 68 -
Level [dB]
60
ITC
PWM
40
20
0
0
1000
2000
3000
Frequency [Hz]
4000
5000
図 5 音圧レベルの比較
【参考文献】
(1)H. Goto, A. Nishimiya, H. J. Guo, O. Ichinokura: Compel, Vol. 29, No. 1, pp. 173-186 (2010).
4.成果資料(代表的な成果)
4.1 特許関連
なし
4.2 著書、論文
(1)著書
なし
(2)論文
番号
1
2
査
読
K.
of
the ○
東 北 大 Basic Characteristics of Journal
Nakamura,
( 工 学 In-Wheel Magnetic-geared Magnetics Society of
K. Akimoto, 研究科) Motors
Japan, Vol. 39, No. 1,
T. Takemae,
pp. 29-32
O.
Ichinokura,
中村健二, 東 北 大 リ ラ ク タ ン ス ネ ッ ト 電気学会論文誌 D, ○
一ノ倉理
( 工 学 ワ ー ク 解 析 に お け る Vol. 135,No. 11,pp.
1063-1069
研究科)
発表者
所属
タイトル
発表誌名、ページ番号
発表年
2015
2015
モータトルクの統一
的算定手法
4.3 招待講演、口頭発表、ポスター発表等
(1)招待講演等
番号
発表者
所属
タイトル
1
後藤博樹
東北 磁石レスモータの挑戦
大(工 ~スイッチトリラクタンスモ
学研 ータの電気自動車への応用~
究科)
2
後藤博樹
東北 インホイールダイレクトドラ
大(工 イブ用アキシャルギャップ型
学研 SR モータの開発
究科)
- 73 - 69 -
発表学会名称等
国外
国内
国内
JABM 日本ボンド
磁性材料協会主催
2015BM シンポジウ
ムプログラム「最先
端磁性材料の発展
と応用」
日本能率協会主催
国内
TECHNO-FRONTIE
R2015 第 35 回 モ
ータ技術シンポジ
ウム
発表年
月日
2015 年
12 月 4
日
2015 年
5月2
日
(2)口頭発表、ポスター発表等
番号
発表者
所属
タイトル
1
H. Goto, S. 東 北 大 Design
to
Murakami, O. ( 工 学 研 Maximize
Torque-Volume
Ichinokura
究科)
Density
of
Axial-Flux
SRM
for
In-Wheel EV
2
菅井悠史,中村 ( 工 学 研 熱回路網解析
健二,一ノ倉理 究科)
による表面磁
石モータの温
度上昇算定
3
伊東宏祐,後藤 ( 工 学 研 アキシャルギ
博樹,一ノ倉理 究科)
ャ ッ プ 型 SR
モータの騒音
に関する実験
的研究
他 17 件
4.4 受賞等
番号
発表者
所属
1
磯部開太 東 北 大
郎
(工学研
究科)
2
秋本一輝 東 北 大
(工学研
究科)
3
後藤博樹 東 北 大
(工学研
究科)
賞名
優秀論文発
表賞(東北支
部大会)
学生講演賞
(桜井講演
賞)
Best
Presentation
Recognition
発表学会名称等
形式
発表年月日
The 41st Annual 国内,口 2015 年 11
Conference of the 頭
月 12 日
IEEE
Industrial
Electronics Society
電気学会マグネテ 国内,口 2015 年 11
ィックス研究会
頭
月5日
日本磁気学会学術 国内,口 2015 年 9 月
講演会
頭
11 日
対象研究
動工具用高速 SR モー
タの極数に関する検
討
インホイール型磁気
ギアードモータの基
礎特性
Design to Maximize
Torque-Volume Density
of Axial-Flux SRM for
In-Wheel EV
4.5 その他(イベント出展、プレス発表等)
なし
- 74 - 70 -
授与機関
電気学会
発表年月日
2015 年 4 月
28 日
日 本 磁 気 学 2015 年 9 月
会
9日
41st Annual 2015 年 11
Conference
月 12 日
on the IEEE
Industrial
Electronics
Society