司法の現状と裁判員制度

(第45回護憲大会第4分科会レジメ)
2009年2月1日
司法の現状と裁判員制度
弁護士
第1
1
中北
龍太郎
実施迫る裁判員制度
09年5月21日から実施。一般市民が刑事裁判に裁判員として参加。市民の司
法参加の一つのかたち。目的―司法に健全な社会常識を反映させ、無実の市民を罰
すること(冤罪)を防止する。
2
一定の重大事件について裁判官3名、裁判員6名が裁判を行い、有罪・無罪、量
刑を判断(多数決、裁判官、裁判員1名以上の賛成必要)。
3
裁判員選定手続
4
公判審理の流れ~冒頭手続→証拠調べ→論告・求刑、弁論→判決
5
公判前整理手続(裁判官・検察官・弁護人で争点と証拠を整理、審理計画)
6
刑事裁判の原則~無罪推定の原則。疑わしきは被告人の利益に。合理的な疑いを
残さない程度の証明がなければ無罪。
7
制度の問題点―①公判前整理手続により審理の方向が公判前に決定、整理結果か
らはみ出る弁護活動・被告人の主張を規制(例)自白の撤回の困難化、②人権保障
が制度の中に組み込まれていない、③大多数は自白事件、量刑が中心、裁判員に重
い負担、死刑判決も、④裁判官がリード、裁判員が追従する危険性、⑤拙速裁判
8
裁判員制度が冤罪をなくす制度として機能することが重要~そのためには、捜
査・公判を通じ冤罪を生み出す構造の改革が重要課題
第2
1
今でも起る冤罪(誤判)の恐怖
周防正行監督の映画「それでもボクはやってない」~無実の市民が逮捕され有罪
判決を受ける恐怖~痴漢冤罪事件
2
富山県氷見市の強姦・強姦未遂事件-*約2年服役後真犯人現われ検察官が再審
1
申立、無罪判決
無実の証拠を無視
*アリバイを証明する電話履歴、足跡の違い、凶器の未発見など
*自白の強要・誘導(親族も犯人と思っているなど嘘の告知、
威嚇、
「ハイ」または「うん」しか言わせない、再逮捕劇、見取図のでっちあげ方)、
詳しい自白調書、公判でも自白維持、*目撃証言の誤導、*無実の証拠を隠す
3
鹿児島県選挙違反(買収)事件-*買収会合を4回開き、11人に計191万円
を供与という罪で13人を起訴、*客観的なアリバイ証拠があり全員無罪
*踏み
字で自白強制(国賠訴訟で勝訴、警官は公務員暴行罪で有罪)。病院で点滴中なのに
長時間取調
*身柄拘束は最長395日(人質司法)
にわたる自白調書、いっせいに同じ方向へ自白変動
第3
*6人が自白、微にいり細
*事件そのものをでっちあげ
冤罪の原因
1
冤罪=捜査機関(警察+検察)+裁判所+マスコミの合作による重大な人権侵害
2
冤罪を生み出す心理-予断と偏見=差別
3
狭山事件と部落差別-*部落への集中見込捜査、別件逮捕、マスコミの偏見報道
4
死刑再審・無罪事件4事件(免田・松山・財田川・島田)
5
冤罪の原因―A
*魔女裁判、自白は証拠の王、拷問
捜査―人権無視で不公正な捜査、自白と証拠のでっちあげ(①
見込捜査―予断と偏見にもとづく別件逮捕、②不正・違法な自白追求、自白の誘導、
③長期の勾留、代用監獄(本来の勾留場所の拘置所に代えて警察留置所で収容)、④
客観的捜査の不備、⑤証拠の捏造―掛布団の血痕(松山)、⑥鑑定の捏造―血痕鑑定)
B
証拠の未開示(公正な裁判は期待できない。無罪の証拠が隠されたまま有罪に)
C
裁判―「疑わしきは被告人の利益に」の鉄則無視
第4
1
狭山事件の場合
冤罪に共通のでっちあげの構造―①見込み捜査―部落への集中捜査+差別報道、
②別件逮捕、③自白の強要、④ニセ秘密の暴露、⑤エセ鑑定
3
自白は架空
2
①
犯行現場から20~30mの畑に犯行時間帯にいた人が悲鳴を聞いていない、
②
犯行現場の血痕反応検査は陰性、③
自白に基づいて万年筆が発見されたのか
―aインクの色の違い、b2回の徹底した捜索で発見されず、3回目に175c
mのかもいの上で発見、cかもいは重点捜索の対象というのが捜索マニュアル、
d捜索した複数の警察官は退職後弁護人にかもいは探したと供述。④
鞄は自白
によって発見されたか-幸浦事件と同じように、発見の元となった図面が未提出、
⑤
第5
1
2
国連勧告を無視して2、3mもある証拠未開示。
えん罪をなくすための司法改革
「疑わしきは被告人の利益に」=刑事裁判の鉄則を生かす-証拠の厳格な判断
取調べ全過程の可視化―自白偏重の捜査・裁判を改める
3
代用監獄の廃止、
6
捜査における人権保障―裁判所によるチェックの強化、物証中心の科学捜査
7
再審の門を広げる
第6
4
人質司法の改善、
5
全面的証拠開示
裁判員が冤罪を作らないために
「疑わしきは被告人の利益に」の原則に則った判断。この原則に基づく普通の
市民の常識的判断を生かす。そのためにも冤罪の構造を知る必要がある
3