2012年1月26日ロイヤリング講義 講師:弁護士 加藤 昌利先生 文責 沢口 純子 医療過誤事件(患者側代理人の立場から) 今日は医療過誤事件について説明していきたいと思います。私は患者側の弁護をやって いまして、患者側代理人の立場からということで医療事件についてお話をさせていただき ます。 私は平成 16 年 3 月に大阪大学を卒業し、1 年半の司法修習を経た後、17 年 10 月に弁護 士登録し、弁護士事務所に入りました。22 年に事務所を辞め、神戸で独立開業しました。 医療過誤事件を中心に担当しています。 医療過誤事件は他の事件に比べても難しい事件の類型です。どうして医療事件は難しい とされるのかということについてですが、3つの壁があるというように言われております。 専門性、封建制、密室性です。専門性とは皆さんもお分かりの通り医療というのはとても 専門的な知識を扱うものなので、法律以外の、医学的な知識が必要になってきます。難し い病名や、検査数値などを聞いてもわからないということになってしまうので、そこでハ ンディーキャップを背負わなければいけないことになってしまいます。そういう意味で難 しさがあります。封建制と言うのは、医者の世界の体質として封建制があります。医者と いうのはミスについてかばい合う傾向があったり、ある医者の責任を追及しようとして他 の医者に協力を求めようとしても学会の関係で知り合いだから協力してくれないこともあ ります。密室性についてですが、例えば手術なんかは密室で行われますので、実際に何が あったかがわからないということです。 次に、医療過誤被害者の願いについてです。5つあります。原状回復・真相究明・反省 謝罪・再発防止・損害賠償です。1つは原状回復です。元の健康な体に戻してくれと、そ れが一番の願いです。次に真相の究明です。いったい何が起こったのかということを明ら かにしてほしい、 よくわからない密室の中で亡くなったと言われても遺族は納得できない。 医療機関がミスなどについての説明を全然してくれないこともありますので、真相を明ら かにしたいということです。そういう真相究明の中で、ミスが発見されれば、ミスをした んだからきちんとそれを認めて反省して謝ってもらいたいと思うわけです。さらには再発 防止です。自分が被害にあったことはもう取り返しがつかないが、せめてこんなことは自 分で最後にしてほしいということです。最後は損害賠償です。被害に遭ったわけですから、 相応の償いをして欲しいと思うわけです。亡くなってしまったり、後遺症で働けなくなっ てしまったときはこれが必要になってきます。生き返らせるということはできないので、 金銭賠償の原則に則り、もちろんお金を請求するわけです。ただ、お金ではなく謝罪が欲 しいと考えてらっしゃる患者さんもいるので、そういう方には金銭賠償の原則をきっちり 理解してもらって臨むことが大切です。 -1- 抽象的な話をしてもおもしろくないので、具体的な話を通じて医療過誤の問題を理解し て頂きたいと思います。この事例というのは私が過去に扱っていた医療事件をやや抽象化 したものです。 具体例 Xは、糖尿病・アルコール性肝硬変等にて、A病院に通院していたところ、A病院が廃 院となったので、平成16年1月に、Y病院に転院することになった。 その際の、A病院からの紹介状には、「アルコール性肝硬変寛解、主として糖尿病のフ ォロー実施」との記載があった。それを受けて、Y病院のカルテにも、アルコール性肝硬 変、断酒にて寛解との記載がある。ただし、Y病院では、寛解を判断するための検査など は実施していない。Y病院のカルテ上の診断名には、糖尿病とともにアルコール性肝硬変 の記載がある。 その後、Xは、Y病院に、月1~2回のペースで通院をしていた。 この間、主として糖尿病の経過観察(血圧や血糖値の測定等)に重点が置かれ、平成1 6年11月に腹部超音波検査を行った以外は、肝臓に対する画像検査は行われず、AFP あ るいは PIVKAⅡなどの腫瘍マーカー(注1)の測定に至っては、全く行われていない。 平成20年4月になって、GOT・GPT(注2)の値の異常に気づいた主治医が、画 像検査を行い、その結果、肝右葉に15センチ大の巨大な肝臓癌が発見された。 その後、入院となり、肝動脈塞栓術(注3)が行われたが、すでに手遅れの状態であり、 平成20年7月●日に突如心停止となり、死去した。 ※注1 悪性腫瘍から高い特異性をもって産生されるが、正常細胞や良質疾患ではほとん どみられない物質。 ※注 2 GOT及びGPTは、組織障害が生じた際に血液中に流出する逸脱酵素であり、 数値が高いほど、組織障害が示唆される。 ※注 3 腫瘍をゼラチンスポンジ細片等を用いて阻血し、病巣を融解壊死させる治療法 最初に依頼者の方が相談に来られる前に、相手の医療機関はどこか、診療科、診療経過、 被害内容についてだいたい聞いておきます。できるならば事実経過のメモも手に入れられ ればスムーズに相談に入ることができます。特にこの事例などは平成 16 年から 20 年まで の出来事なので、メモがあれば1から確認せずに済みます。後はある程度の医学的知見に ついて調査をしておいた方がいいです。今回だと肝硬変に対してどのような経過観察をす ればいいのかなどを調べます。手持ちの文献や、今はインターネットがありますので、そ れを利用します。それは患者さんも同じですので、弁護士がこのようなことを怠ると、患 者さんの方がよっぽど詳しくて信頼を失ってしまうこともあります。ある程度のことは事 前に勉強しておくべきでしょう。相談当日についてですが、やはり医療事件は専門的であ ったり、事実経過が複雑であることが多いので相談には1時間以上はかかります。 -2- 民事訴訟と言うことであれはやはり金銭賠償ということになるのでそのへんは理解して いただきます。 後は、あまり甘い見通しを話さないようにしています。素人目に見て、これはいかにも 医療ミスじゃないかと思っても、実際に調査をしてみるとなかなか難しかったりします。 これは勝てますよ、などと甘いことを言ってしまうと「話が違うやないか」と自分の方へ 跳ね返ってきますので甘い見通しは話さないようにしています。あとは、いきなり訴訟を 受任しない、調査の重要性ということですが、これは後でお話しします。 次に実際の取り組みについてですが、まずはカルテを入手しなければなりません。医療 過誤事件というのは、カルテがなければどんな診療が行われてきたのかわかりません。こ れなしに事件を進めていくことは不可能です。ではどのようにカルテを入手するのでしょ うか。1つはカルテ開示の手続きがあります。もう1つは証拠保全の手続きです。カルテ 開示とは、患者さんが自分で医療機関にカルテの開示を求めるというものです。メリット は患者さんが自分でできますので、費用が安く済むことです。ただデメリットもあり、カ ルテの改ざん、拒否、一部しか開示されないこともあります。患者さんはどれとどれで全 部だということはわかりませんので、一部だけ開示してくるということもあるのです。証 拠保全については、民訴の 234 条に規定があり、具体的には病院まで言ってカルテのコピ ーを確保するということをやるのですが、医療過誤事件では証拠保全はカルテの改ざんを 防ぐ意味は当然として、事実上の効果として訴訟前に相手方の証拠を見ることができると いう、証拠開示機能が重要です。メリットですが、抜き打ちで病院に行くわけですから、 改ざんするいとまがなく改ざんの可能性は低いです。また裁判所を通す手続きで、裁判官 も来るので拒否されることも少ないです。ただ、デメリットですが、費用が高額になって しまいます。弁護士費用やコピー業者の手配費用などです。もちろん法律上弁護士が申し 立てる必要はありませんが、手続きが専門的ですので事実上患者さんは弁護士に頼まざる を得ないということです。 証拠保全手続きの実際ということで、資料をお付けしたと思うのですが、申し立ての趣 旨として「1 相手方の開設するY病院(大阪府・・・市・・・丁目・番・号)に臨み、 相手方保管にかかる別紙検証物目録記載の物件について検証する。」「2 相手方は、上 記各検証物を本件証拠調べ期日において提示せよ。」といったことを申し立てます。ただ し、2の提示命令については裁判所がいきなり病院に行って提示命令をするのではなく、 一応1を出して、病院がそれに従ってくれれば2の提示命令の必要はなくなります。実際 には提示命令というのは、病院が任意に証拠を提示しない場合に、裁判所としてはこんな こともできるんですよ、という説得材料に使うことが多いです。ですので、拒否されると いうことは今までありませんでした。 申し立てをするにはその理由が必要です。まずは事実経過を書きます。これは当事者か ら話を聞き取り、それをまとめた陳述書として提出します。過失や因果関係についても一 応書くことにはなっているのですが、そこまで高度な疎明は求められません。重要なのは 保全の必要性です。あらかじめ証拠保全の必要性がなければ裁判所としても動けませんの で、この要件が1番重要になってきます。どういったことを書くのかというと、医療過誤 -3- 事件の場合は、「改ざんのおそれがある」と書くのが典型的です。ただ、抽象的な場合は 裁判所としても認めにくくなってきますので、なるべく具体的に記載します。どういった ことかというと、例えば、「責任回避的な言動である」だとか「事実を隠ぺいするような 態度がある」というようなことをとらえて「改ざんのおそれがある」とします。病院に行 っても話をしてくれないだとか、弁護士に相談に来る方は多かれ少なかれ医療側の態度に 不信感を持っているわけですから、依頼者から聞き出して具体的に根拠づける事実として 記載します。 検証物目録ということですけども、要するに何を検証するのかというものです。これも 資料をお付けしたと思いますが、診療において作成される書類を網羅的に記載します。事 案に応じてこれは変わっていきます。産婦人科での事件なら分娩監視記録というのが必要 になってきます。事件特有の物も必要となってきます。今回の事例なら、相手方の病院に 行く前に紹介状があったため、そこにアルコール性肝硬変寛解と書いてあったというのが 今後の訴訟をするうえで重要になってきます。事案に応じてどの検証物が必要かを事前に 確認しておく必要があります。 裁判官面談というところですけども、証拠保全の申し立てをすると、その後裁判官との 事前の面談が必ず入ります。申立書に不備などがあれば、補正させられたりします。それ で発令してくれるということになれば、当日待ち合わせどうしましょうか、というような 事務的な段取りについてもその場で話し合います。 では、保全の当日に何をするのかということですが、証拠保全の決定を当然相手方に送 達しなければなりません。時間は執行の1時間前くらいです。なぜなら、1週間も前に決 定の送達をしてしまいますと、改ざんのおそれがあり、証拠保全をした意味が失われてし まうからです。執行官の方に送達してもらうのですが、さすがに1時間では改ざんするの はなかなか難しいと思いますので改ざんの危険性を減少させるためにそのようにしていま す。裁判官、書記官の方も現場に行きます。裁判官はカルテがどうなっているかなどを検 証します。検証物のコピーをコピー業者にお願いして、検証調書にコピーを添付して記録 を残します。また、検証物目録のものがちゃんと全部提出されているかはしっかり見なく てはいけません。場合によっては検証調書にこんな問題がありますということで記録に残 しておかなければなりません。例えば、修正液で変な修正がしてあるのを見つけた場合に それを記録に残したりということです。また、ある書類がない場合にはそれも記録します。 もしも裁判になって出てきた場合に、ないと言っていたのに出てきたということは嘘をつ いていたということにできるからです。 ではカルテを入手したらどうするのかというと、先ほど調査の重要性ということを言い ましたが、医療過誤事件ではカルテを入手したからと言ってすぐに提訴はしません。必ず 調査手続きをする必要があり、これが重要です。医療過誤事件の特色でもあります。医療 事件は医学的な知識がなければ理解もできません。カルテを入手しても、それを見ただけ で医者の処置が法律上の過失といえるのか、過失といえても結果との間に因果関係がある のかについてわかるとは限りません。そういったことも踏まえて、調査の結果責任追及で きると判断すれば、初めて訴訟を引き受けるようにしています。調査を経ずに訴訟をする と、医者の方から反論が出てきて、こちらが医学的には的外れな主張をしていたことが明 らかになったりして、裁判所から訴えを取り下げたらどうかと言われてしまうこともある -4- と聞きます。そういったことにならないようにしなければなりません。 調査とは何をするのかというと、まずカルテをきちんと読むことから始まります。とり あえず読まないことには始まりません。カルテの字は汚い場合が多く、読むのも一苦労で す。英語、略語、医療用語で書かれている場合は辞書や略語辞典で調べます。その後は自 分なりに時系列表を作ってみます。また検査結果を一覧表にしたりもします。 また、医学的知見が必ず必要になります。入手方法ですが、教科書レベルでは大きな書 店に行けばすぐに入手できます。大学の図書館、インターネットでも情報収集が可能です。 患者側代理人の団体の会員であれば文献検索サービスを利用することもできます。投薬ミ スなど医薬品が絡む事件では医薬品の添付文書をチェックする必要がありますが、これも インターネットで入手可能です。なぜ添付文書が大事かというと、平成8年1月23日の 最高裁の判例で、添付文書に従わずに医療事故が起きた場合は、従わなかったことに特段 の合理的な理由がなければ過失が推定されるという判例があるからです。したがって、医 薬品の添付文書にどういう注意が書いてあるのかは非常に重要になります。医者側が添付 文書の指示に従っており、ミスがなかったが患者に副作用が出ていた場合は副作用救済基 金があるのでそこから損害賠償の支払いを受けることもできます。 次に協力医の存在です。医療過誤事件において、患者側弁護士に対して指導援助してく れる医師のことを「協力医」と一般に呼んでいます。なかなか探すのが大変だったりしま す。どう探すのかというと、1つは個人的な伝手です。そうもいかない場合は、患者側代 理人で作っている団体を通じて紹介してもらうということもできます。私はよくこの方法 をとります。いきなり型とはどういうことかというと、問題となっている分野についての 本や論文を書いている先生にいきなり手紙を出す方法です。私はやったことがありません。 そんないきなり手紙を出しても無視されるんじゃないかと思われますが、聞くところによ ると、案外効果があって返事くらいは来るという話です。 医者を探し、面談ができるようになった場合、事前にカルテは当然として、作成した時 系列表や質問事項を送付します。また事前に予習しておくことは当然です。いきなりカル テを送りつけて「問題はありませんか」という丸投げは医者に失礼ですのでしてはいけま せん。そもそも丸投げをすると、せっかく説明をしてくれてもこっちは勉強していません から話が全くわかりません。そして医者の意見を聞いて、その後どういう対応をしていく かを決めます。 交渉及び訴訟についてですが、調査の結果、これはどうも責任追及できそうだというこ とになれば、交渉を始め、それが決裂すれば訴訟を提起します。訴訟の中でどういったこ とを立証しなければならないかというと、過失や結果との因果関係の立証等をします。損 害額については、 損害賠償の基準について載っている赤い本に従って組み立てていきます。 一番重要なのは過失と因果関係です。過失についてですが、誰がどの時点で何を行うべき だったか、あるいは何を行うべきではなかったかを具体的に特定して立証していかなけれ ばなりません。どういったことかというと、当時の医学的知見を文献で調べ、診療当時の 医療水準での過失であったかを判断します。そこに医者側が認識し得た患者の状態を当て はめて行為義務を特定し、義務違反を主張するという順番でやっていきます。この当ては めのときに協力医の先生に意見書を書いていただいて用いるということをします。意見書 を書いてくださる先生もなかなか見つからないんですけどね。 -5- 今回の事案に即して見てみると、日本医師会が発行している肝疾患診療マニュアルによ れば、肝疾患をいくつかに分類しています。肝硬変については超高危険ということで一番 リスクが高いということです。具体的には、肝癌の腫瘍マーカーである AFP 検査などの検 査を定期的に行い、 さらに問題があれば詳しく検査をしなければならないとなっています。 日本医師会が出しているものなので相応の根拠となるものですから、これを医学的知見と して用いて立証していきます。ここからわかることは、定期的な検査を肝硬変の患者には しなければならないということです。なので、定期的な検査の行為義務があるということ です。しかしながら、全然そのようなことはやっていなかったとなると、義務を怠った、 過失があったといえるわけです。 因果関係についてですが、過失がいくら認められたとしても、過失と損害の間に因果関 係がなければ、不法行為責任は認められません。医療事件における因果関係の立証という のは非常に難しいものがあります。過失は立証できても、因果関係の立証がうまくいかな いということで勝てないケースもあります。これは私の印象ですが、患者側の弁護士はみ んなそのように思っているんじゃないかと思います。どうして難しいかというと、専門的 であるというのもそうですし、人の体の中で起こったことなので体質等もありますし、医 学的にすべての病気がどんなメカニズムで起きているのか、というようなことについてす べてが解明されているわけではありません。私が以前もった事件でも、非常に死亡率が高 いものがあったのですが、なぜその病気になってしまったのかということはよくわかって いないということでした。また、実験をするわけにはいかないですよね。動物とは違うわ けですから。そういった意味で立証していくのは非常に難しいです。 因果関係について有名な判例が2つほどあります。1つはルンバール事件というもので す。これでは、因果関係について「一点の疑義も許されない自然科学的証明ではなく、経 験則に照らして全証拠を総合検討し、特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認 し得る高度の蓋然性を証明することであり、その判定は、通常人が疑いを差し挟まない程 度に真実性の確信を持ち得るものであることを必要とし、かつ、それで足りるものである。」 といっています。証明というと数学や物理などでよく使う言葉で、ここでは一点の疑義も 許さないということですが、あくまで訴訟ですので自然科学の証明のような一点の曇りの ないようなものは要りません。社会通念的な経験則で判断していくということです。 今回の事件でも、たとえば肝臓がんについての統計があります。早めに肝臓がんを発見 して切除した場合の生存率は比較的高いということですので、しっかり検査をして入れは がんが小さい時に発見できた可能性があるので、実際に亡くなった時を超えて生存してい たであろう高度の蓋然性が認められるでしょう、という組み立てをすればいいと思います。 また、因果関係は過失と違って当時の医療水準に従って考えるのではなく、客観的に判断 すればいいので、後々から振り返って考える、これをレトロスペクティブに考えるといい ますが、このように考えます。なので、因果関係については最新の医学的知見を用いるこ とができます。 次に損害論です。交通事故の基準を使っている場合が多いです。交通事故で亡くなった -6- らこれくらいの慰謝料が、そして後遺症が残ってしまったらこれくらいといった事例が集 積されています。しかしそれを使うことがいいかどうかといった問題があります。医療過 誤と交通事故は果たして同じ次元でとらえていいのかと。交通事故は、関係ない者どうし がいきなり偶然事故にあって、それについて損害賠償請求するというものです。医療過誤 は、医者のことを信頼してやっていたのに、裏切られるということになる。それを考える と、交通事故の場合より高い慰謝料を認めるべきではないかという話もある。逆に、医者 もミスはあったのかもしれないが患者を救おうとして頑張っていたはずだから、慰謝料を 安くしようという考えもある。しかし今は交通事故の基準を用いている。 因果関係が認められない場合の損害論についてです。高度の蓋然性が認められない場合、 慰謝料は0円なのか。そうではありません。何の救済もされないということはないです。 それについての判例があります。これは高度の蓋然性がなくても、相当程度の可能性があ るといえれば、損害賠償、具体的には相当程度の可能性を侵害した慰謝料をとれるという ことをいいました。 ただ死亡慰謝料と比べれば当然こちらのほうが低くなってしまいます。 数百万円のケースが多いです。ただ絶対にその程度かというとそうでもなく、私が受け持 った事案では、高度の蓋然性までは立証できませんでしたが、相当程度の可能性の中でも 比較的高い可能性と認定されたので、慰謝料を1500万ほどとることができました。 審理手続きについては資料3を見て下さい。フローチャートのような感じで通常の民事 訴訟と同じように流れていくのですが、医療事件に特徴的なのは診療経過一覧表というも のを作成する点です。これは裁判所の雛型ですが見ておいてください。これを判決に添付 したりすることもあります。 尋問については、医者という専門家に対して質問するわけですから、こちらが生半可な 準備で行くと返り討ちにあってしまうなど準備が大変です。準備には時間も使いますし、 神経もすり減らします。争点整理や尋問の段階で和解になることもあります。 鑑定の話です。医療事件は専門的な事件になりますので、鑑定は重要になってきます。 都会の裁判所には医療事件の鑑定を集中して扱う部ができていますので、昔ほどそんなこ とはなくなってきています。むしろ鑑定が行われることも少なくなってきているとされて います。 簡単に鑑定に依拠するのは避けなければなりません。 鑑定書が出てきてもそれを鵜呑みにしてはいけません。不利な鑑定が出た場合、そうだ からといってあきらめるのではなく、そこに書いた注意点のようになにか問題はないかな ど注意深く見ればなにか反論できることもあるのではないかと思います。 支払いの問題については、 交通事故については自賠責保険のようなものがあると思いま すが、医者にもそういった賠償責任保険があります。大きな病院ならどこでも入ってるよ うに思いますが、けっこう入っていない病院も多い。お金がなくて保険にも入っていない と、勝訴してもお金をもらえないということになってしまう。この点は気をつけなければ ならない。 正直、医療事件は儲かるものではないがやりがいは非常にあります。弁護士になりたい と思う人がいたら医療事件にも興味を持って欲しいと思います。 -7-
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