観光産業とリスクマネジメント

観光産業とリスクマネジメント
近畿日本ツーリスト株式会社
専務取締役 越智良典
2009.12.9
プロフィール
KNT 近畿日本ツーリスト㈱
専務取締役 ・リスク部会長
新型インフルエンザ対策室 室長
JATA (日本旅行業協会)
新型インフルエンザ対策連絡委員会 委員長
外務省
海外邦人安全協会 理事
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1.観光産業をとりまくリスク
2.リスクへの対処の仕方
3.事例研究
4.実学としてのリスクマネジメント
1.観光産業をとりまくリスク:事件で引きこもる日本人
SARS・
イラク戦争
NYCテロ
インド洋津波
中国問題
2000 : 1782万
2001 : 1622万
18,000
2002 : 1652万
16,000
2003 : 1330万
14,000
12,000
2004 : 1680万
10,000
2005 : 1740万
8,000
6,000
2006 : 1754万
4,000
2007 : 1730万
2,000
0
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2008 : 1600万
参考データ:JNTO「日本人出国者数2007確定値」
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邦人死亡者原因別統計 (2007年)
レジャー事故
3%
水難事故
2%
その 他
6%
犯罪
3%
交通事故
8%
自殺
11 %
病気
67 %
参考データ:外務省「海外邦人援護統計2007年」より
2.リスクへの対処の仕方:旅行会社として
1.お客様と社員を守る
・事件(テロ・暴動・自然災害)
・病気(新型インフルエンザ、はしか、
ノロウイルス、アレルギー)
2.自己責任 ⇔ 管理責任の線引き 費用対効果
(情報提供責任→訴訟リスク)
3.過剰反応による旅行需要減退対策
3
危機管理MAP: 頻度と影響度に応じた対策
影響度
ロンドン
ニューヨーク
バリ島・トルコ・スペイン
◆ 費用対効果
◆ 分相応な努力
鳥インフルエンザ
SARS
テロ
バス事故・食中毒・火事
感染症
すり・強盗・詐欺・麻薬
下痢・アレルギー
事故・犯罪
ロングフライト血栓症
高山病
病気・けが
頻度
(1)健康リスク対策~旅行医学の活用
1.主催者(学校)の旅行医学に関する知識の向上
(※KNTでは旅行医学認定添乗員300名)
一般的に頻度の多いもの:下痢
ロングフライト血栓症
ノロウイルス、はしか
狂犬病
若者に多いリスク
アレルギー
2.自己防衛力の向上
常備薬の活用
安全カルテの活用
3.緊急時の対応
病院の使い分け
(重症と軽症)
4
(2)事故リスク対策
1.事故(交通事故、火事、食中毒)
旅行会社の旅程管理の範囲→対策書
シートベルト付のバス手配など
2.一般犯罪
危険な地区や時間をさける(外務省ホームページ)
手口のビデオを見せて啓蒙する
(3)テロ対策~プロの情報でリスクを下げる
1.外務省のスポット情報の活用
2.リスク会社情報(または契約している旅行会社利用)
例)ロビーは安全か?
3.現地関係先(現地住民)の情報
※大使館、英米ユダヤ企業、英米系ホテルを狙った
大規模テロだけでなく、公共機関(地下鉄、列車、
バス)やショッピングセンター・ナイトクラブを狙った
自爆テロにも注意が必要。
中東周辺国、アジアのイスラム圏(インドネシア等)
では、記念日には人ごみに近づかない。
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(4)感染症対策:リスクの軽減と啓蒙
1.情報収集 WHO,厚生労働省
CDC(米国疾病対策センター)
独自の専門家の情報 (日本旅行医学会)
2.拡がらせない対策
お客様の予防・健康管理
関係機関の衛生管理
近づかない(鳥→市場)
3.過剰反応=パニックにならない啓蒙活動
3.事例(1):イラク戦争と対策シナリオ
開戦 3月20日→戦争終結 4月中旬から5月初め(4・9現在)
軍事シナリオ
月
2月
3月
イラク攻撃
5月
6月
7月
8月
9月
20%減まで回復
人数予測グラフ
完全に回復
30%減
注意
警戒レベル
警戒国資料提出
第1~第4信
リスク対策
販売
4月
イラク攻撃
セミナー実
施
最警戒
警戒
注意
全方面
警戒国資料提出
人数把握
調査員派遣
イラク専門情報
TIAS現地情報
方面変更
代案手配
取消料収受
業務渡航マニュ
アル
販売開始
安心の旅
チャーター
ECC
広告展開
販売策
イベント予定
マーケット
シナリオ
安心の旅
広告
夏休み販売イベント
5・25クラブツーリズムまつり(東京)
メイト・ホリデイ販促イベント 6・8東京、6・14、15名古屋、5・31、6・1大阪
湾岸戦争の時をベースに想定
・イラク攻撃後2ヶ月は30%減
・3~5ヶ月は20%減に戻る
・6ヵ月後に元に戻るというシナリオ
SARSは含まず
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事例(2)バリ島爆弾テロ ~事件発生時の対応
◆10月1日
安否確認 798名全員の安否を確認
◆10月2日
前回の経験を踏まえて
ツアーの催行継続を決定
(前回業界で唯一催行を継続)
テロの事前情報の分析
外務省・リスク会社からの情報収集
◆10月2日
本社より現地へ調査員を派遣
独自基準によるホテルの安全を調査
◆10月6日
JATA調査団派遣
リスクコンサルを派遣
行動基準:安否確認は24時間以内で確認、発表
1.事件は時間外に起きる
①生きた緊急連絡網(バリ島事件509名)
②24時間以内に確認する
2.事件はメディアの中でおきる
⇒生死、人数、性別、年齢
3.マスコミと被害者への対応一つでピンチに⇔裁判
①窓口の一本化
②家族の了解なければ非公開(性別、年齢、県)
③場合によってトップの説明(死亡)
④記録をとっておく
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行動基準:速やかに旅行実施の判断をし、発表
1.3点確認(3つの情報源)
①外務省情報(時には大使館)
②リスク会社情報(契約旅行会社を利用)
③現地関係先の情報
2.少数の専門家とトップがすぐ集まり決める
3.簡潔明瞭な説明(説明責任)
バリ島爆弾テロ ~KNTの対策
1.使用している全ホテルの警備状況の調査
→ JATAに調査票公開
→パンフレットへホテル警備資料を掲載
2.専門リスク会社による使用ホテルの警備状況の追加調査
(11月11日~15日)
→ホリデイならさらに安心
お勧めホテルは
〇グローバルにチェーン展開しているホテル
(マリオット・シェラトン等)
〇ウブド地区のホテル
(ビーチ付近の歓楽街・市街地から離れている)
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バリ島 ~ ホテルセキュリティレベル リスト
地
区
調査項目/ ホ
テル名
Name of
Hotel
Address
ヌサドゥア
ヌサドゥア
コンラッド
日航バリ
Conrad
Nikko Bali
Bali
Resort &
Resort &
Spa
Spa
ヌサドゥア ヌサドゥア ヌサドゥア
グランドミ クラブバリミ
ヒルトン
ラージュ
ラージュ
Grand
Mirage
Resort
Jl Pratama Jl.Raya
Jl.Pratama
168,
Nusa Dua
b74,
Tanjung Selatan,Nus
Nusa Dua
Benoa
a Dua,
ヌサドゥア
メリアバリ
ヌサドゥア
ヌサドゥア
ビーチ
ヌサドゥア ヌサドゥア
グランドハ シェラトンラ
イアット
グーナ
Melia Bali
Nusa Dua
Sheraton
Villas &
Grand
Beach
Laguna
Spa
Hyatt Bali
Hotel
Nusa Dua
Resort
Kawasan
Jl Pantai
Kawasan
Kawasan
Wisata
Mengiat
Wisata
Lot North
Wisata
BTDC Lot
P.O. Box 46 BTDC Lot 4, Denpasar P.O.Box 53 2, P.O.Box
Nusa Dua 1, Nusa Dua
Nusa Dua
77,
Nusa Dua
Bali Hilton
Club Bali
Internatio
Mirage
nal
Jl. Prata
72,
Tanjung
Benoa
バリ警察署が
調査したホテ
ル安全対策
金賞
金賞
銀賞
銀賞
金賞
金賞
金賞
金賞
金賞
実施状況評
価
セキュリティマ
MR.GDE
MR.WARDA
MR.LENA
MR.JACK
ネージャー名 MR.MEILING
MR.SANA
MR.DILLA
MR.SUGENG MR.YUDI
KINTAWALI
NA
ARSANA
AGNES
前
セキュリティマ
ASST
CHIEF
CHIEF
ASST
CHIEF
CHIEF
CHIEF
CHIEF
CHIEF
ネージャー経
CHIEF
SECURITY SECURITY SECURITY
SECURITY SECURITY SECURITY SECURITY SECURITY
歴
SECURITY
ホテル警備所 8年、ツーリ
15年、セキュリ 1年、セキュリ 20年、セキュリ 5年、セキュリ 1年、セキュリ
1年、警察 15年、警察
2年、警察
属歴、所属
スト警察
ティ課
ティ課
ティ課
ティ課
ティ課
非常口のサイ
○
○
○
○
○
○
○
○
○
ンの有無
日本の旅行会社有志で警備車両を寄贈
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事例(3)観光立国タイ:空港のセキュリティと
観光客の安全性を保証する対策
• 空港のセキュリティと観光客の安全性を保証す
る対策
• 新たな規制を定める
空港の安全および安全確保に関する法案の可決
タイ国議会は、スワンナプーム空港での安全性を確保
するための法案を是認した。この法案により、エアポート
オブタイランド(AOT)の職員に、デモ隊の排除や逮捕の
権限が与えられ、 最大10,000バーツまでの罰金を課す
ことができるようになった。
タイ国における津波対策:
早期警報システム & 避難訓練
• タイ国の国立災害警報セ
ンターは、2005年5月31
日から稼動
• 津波避難計画は2006年
から施行
• 津波のための避難訓練
は、最低1回は毎年実施
• 2009年8月21日には、
プーケット、パンガー、ラ
ノーン、クラビ、トラン、
サトゥンで本格的な避難
訓練
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事例(4)SARSリカバリー「だから安心」シリーズ
で不安感を払拭
事例(4)SARSリカバリー「だから安心」シリーズで不安感を払拭
事例(5)新型インフルエンザ対策
初動の失敗
想定外の事態
マスク神話
感染者への中傷
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1918年 スペイン風邪の恐怖を想起
KNTの海外旅行対応:メキシコツアー
4月27日
弊社ロサンゼルス駐在員を現地へ派遣
4月28日
外務省の渡航延期勧告→ツアー催行中止
現地(カンクーン)滞在者44名
帰国対策デスクを開設
⇒ 帰国便の手配
経由地・日本到着地での案内
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外務省の新型インフルエンザ判断基準
1.ウイルスの毒性具合
2.医療体制の充実度
3.二国間(日本と対象国)関係を考慮
メキシコのみ : 4月28日~5月21日 渡航延期
その他の国 : 十分注意
(手洗い、うがい、体調管理
=食事、睡眠・サプリメント)
国内の初期流行でパニック発生 修学旅行取消
パニック状態
参考データ:IDSC「発症日別感染動向」
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修学旅行:パニック取り消しから延期実施へ
海外教育旅行 : 外務省の渡航情報に100%準拠
(渡航制限なし)
国内教育旅行 : 国の対策本部の指針に準拠
臨時休校以外では、修学旅行の自粛は不要
+ 教育委員会独自の判断
+ 保護者の声 ← マスコミの論調
航空機の感染症対策:換気とフィルター
機内換気システムの概要
1.3分毎の交換(50%は再換気)
2.上方(天井)から下方(床)への
空気の流れ
3.高性能HEPAフィルターの採用
ウイルス・細菌を殆ど除去する
0.3ミクロン、99.97%の捕捉率
(飛沫核は5ミクロン)
参考画像:WIKIMEDIA COMMONS 「AIRBUS A380 CROSS SECTION]
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4.実学としてのリスクマネージメント
有事対応
管理責任:会社の存亡
守り
危機管理
予防
「安全に配慮した会社」
「危機管理に強い会社」
攻め
事前→有事→事後
有事対応から安心のブランドつくり
トップからフロントまで動く組織つくり
それぞれの幹部が使命感と緊張感をもち
「スピードをもって」事にあたる
トップ
本部
安全を大事にする思想・お墨付き
少数精鋭のプロ・高い使命感と緊張感
中堅幹部
使命感と緊張感を共有する
現場幹部
フロント社員・お客様への説明とフィードバック
当社の使命
「シートベルトつき海外旅行」
「観光を通じた平和の貢献」
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判断を支えるプロの情報収集
外務省
アシスタンス
サービスデスク
(TIAS)
官民合同会議
日本旅行医学会
海外事務所
海外提携代理店
コントロール
・リスクス社
共同通信
メール配信
「シートベルトつき海外旅行」 の実現
事件発生から回復までのパターン
参考データ:TRAVEL JOURNAL 8月24日号より
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プロセスマネジメント:局面ごとの危機管理
1.発生前
予測、リスク回避
2.発生直後: 安否確認、退避ルート確保
現地対策デスク開設
新規ツアーの催行 変更や中止
3.再開期 : 安全確認(外務省情報+独自調査)
4.回復期 : リカバリーキャンペーン
イベントによる需要喚起
業界、国を動かす
リスクマネジメントとコンプライアンスは経営の前提
国際上場基準
PREPAREDNESS &
BUSINESS
MUST GO ON
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リスク標準管理法:マップとエリア別対策
頻度と影響度によるリスク対策の種類
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リスクをビジネスにする産業
z軍、警察、消防、救急
z警備業、探偵業、リスク・コンサルタント
z病院、製薬、健康グッズ
z弁護士
z金融、証券、保険
z高齢者介護事業
zホテル業
これらの産業は・・・・・・
リスクが高いほど繁昌する!
BY リスクコンサルタント山崎正晴氏
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