決済システムの安全性と効率性の 向上に向けた中央銀行の取組み

一橋大学
出張講座資料
決済システムの安全性と効率性の
向上に向けた中央銀行の取組み
2014年12月8日
日本銀行決済機構局 清水 茂
• 本日の講義の概要
1.はじめに
•
決済、清算、決済システムと日本銀行の役割
2.決済システムの改善に向けた取組み
•
過去30年の成果とリーマンショック後の世界
3.わが国の決済システムの更なる改善に向けて
•
安全性、効率性、利便性の実現に向けた取組み
4.最後に
•
決済システムの設計・実現に必要なもの
1
1.はじめに
(1)決済とは
(2)清算とは
(3)決済システムとは
(4)わが国の決済システム
(5)日本銀行の役割
2
(1) 決済とは
 経済取引では、取引当事者間で、お金を受けとる権利(債権)
または渡す義務(債務)、財・サービスを受けとる権利(債権)
または渡す義務(債務)が発生する。
 「決済」とは、経済取引に伴い発生する資金の受払いや財・
サービスの受渡しを実際に行うことにより、こうした債権・債務
を解消することをいう。
3
(2) 清算とは
 決済に先立って、多数の債権・債務を差し引きすることで、
債権・債務を整理することを「清算(クリアリング)」という。
①元々の取引
30
A
50
B
D
20
C
40
②取引の置換え
③ネッティングの実行
A
B
30
20
30
A
50
清算機関
20
40
C
50
40
20
D
B
10
清算機関
10
D
20
C
取引相手の破綻を意識せずに取引ができるため、金融危機時にも市場が
円滑に機能。ただし、リスクが清算機関に集中。
4
(3) 決済システムとは
 「決済システム」とは、多数の参加者間で行う清算・決済を、
一定の標準化(定式化)された手順にしたがい組織的に処理
する仕組み。
 様々な経済活動は、決済が確実に行われるとの信認のうえ
に成り立っている。
決済を実行する仕組みとしての決済システムが円滑に機能し
ない場合には、経済活動に大きな影響を与えることになる。
 決済システムは、一国の経済活動を支える重要な制度の
一つ。
⇒ その安全性・効率性を確保することが重要。
5
(4)わが国の決済システム
取引・指図・
照合
国庫金
料金収納等
マルチ
ペイメント
ネットワーク
(注)点線で囲まれているシステムは取引の一部で利用されているもの。
清算
振込等
クリアリング
センター
資金決済
CD/ATM
オンライン
提携網
CD/ATM
日本銀行
国庫制度
クリアリング
センター
デビットカード
決済
全国銀行
内国為替制度
全国銀行
資金決済
ネットワーク
口座引落
金融機関
クレジットカード
手形・小切手
短期金融市場
外国為替市場
短資取引
約定確認
システム
各地手形交換制度
日銀ネット
当預系
CLS(円決済分)
SWIFT
外国為替円決済制度
東京金融取引所
取引所
デリバティブ
大阪取引所
店頭
デリバティブ
証券決済
投資信託
一般債
短期社債
国債
決済照合システム
(証券保管振替機構)
株式
東証ほか
証券取引所
日本証券クリアリング機構
ほふりクリアリング
日本証券クリアリング機構
証券保管振替機構
株式等
振替制度
DVP
投資信託
振替制度
DVP
一般債
振替制度
DVP
短期社債
振替制度
DVP
D
V
P
国債登録・振決制度
(日銀ネット国債系)
6 6
資金決済システム
日銀ネット当預系
6.6万件/116.5兆円
短期金融
市場
金融デリバ
ティブ市場
日本証券クリアリング機構、東京金融取引所
CLS円
外国為替
市場
11.6万件/46.6兆円
SWIFT
手形・小切手
外国為替円決済制度
2.7万件/11.9兆円
決済金額:11.9兆円
各地手形交換制度
決済金額:1.2兆円
東京手形交換所
9.5万件/1.1 兆円
全国銀行内国為替制度
振込・送金
CD/ATM
CD/ATMオンライン
提携網
金融機関
口座引落・
収納代行
クレジットカード
デビットカード
(小口) 600.9万件/3.2兆円
(大口)
1.0万件/8.7兆円
クリアリング
センター
クリアリングセンター
料金収納等
国庫金
(注)計数は、2013年の1営業日平均。
決済金額:9.3兆円
マルチペイメント
ネットワーク
国庫制度
7
証券決済システム
国債登録・振決制度
国債
日銀ネット国債系
1.8万件/90.3兆円
日本証券クリアリング機構
42.8兆円
DVP
決済金額:44.6兆円
一般債振替制度
社債等
証券保管振替機構
DVP
決済金額:0.5兆円
2.0千件/0.8兆円
投資信託振替制度
投資信託
証券保管振替機構
22.1千件/1.1兆円
DVP
決済金額:0.6兆円
短期社債振替制度
電子CP
証券取引所
東証、名証、
札幌証、福岡証
株式
取引所外取引
日本証券
クリアリング機構
3.3兆円
証券保管振替機構
1.2千件/4.9兆円
株式等振替制度
証券保管振替機構
40.0万件
ほふり
クリアリング
1.4兆円
DVP
決済金額:3.4兆円
(発行分)
DVP
決済金額:55億円
日銀ネット当預系
(注)計数は、2013年の1営業日平均。清算機関の計数は債務引受高。 データは決済動向 (http://www.boj.or.jp/statistics/set/kess/index.htm/ )
8
(5)日本銀行の役割
 決済手段(中央銀行マネー)の提供
 日本銀行の当座預金取引先数:538(2014年10月末時点)
 決済システム(日銀ネット)の運営
 資金(JPY)や日本国債(JGB)の決済をオンライン処理
 決済システムへのオーバーサイト
 中央銀行が、各種決済システムの制度設計やリスク管理体制、運営
状況等をモニタリングし、その安全性と効率性を評価するとともに、
必要に応じて改善に向けた働きかけを行うこと
9
2.決済システムの改善に向けた取組み
(決済システムの発展)
わが国の主な動き
70年代
80年代
全銀システム稼動(1973)
金融の自由化・
国際化、国債
発行の増加
効率性向上
(処理量の
拡大)
国債振決制度整備(1980)
安全性向上
(リスクの
削減)
日銀ネット当預系稼動(1988)
90年代
00年代
10年代
20年代
アジア・米欧の
金融危機と国
際規制の強化
一段のグロー
バル化・IT化
日銀ネット国債系稼動(1990)
証券保管振替機構開業(1991)
国債DVP決済開始(1994)
国債ローリング決済へ(1996)
日銀ネットRTGS化(2001)
CLSの外為同時決済開始(2002)
証券清算機関の開業・DVP化
日銀ネットに流動性節約機能導入(2008)
(2003~05)
ASEAN+3が域内決済システムの接続を提言(2014)
全銀システムのあり方に関する検討(2014)
新日銀ネットの全面稼動(2015<候補>)
日銀ネットの稼動時間を21時までに延長(2016<候補>)
(1) 決済の安全性向上に向けた取組み
日本銀行は、1988年に日銀ネットを構築後、決済システ
ムの「安全性」向上を目的とした多くの取組みを実施。
決済システムの「安全性」とは?
【具体的な事例】
① DVP(Delivery versus Payment)決済
② 外為取引のPVP(Payment versus Payment)決済(CLS
銀行の設立)
③ 即時グロス決済(Real Time Gross Settlement: RTGS)
④ 国債決済期間の短縮
11
① DVP(Delivery versus Payment)決済
 証券の引渡し(delivery)と資金の支払(payment)とをワン
セットにし、いずれか一方が行われる場合にのみ、他方の決
済を実行する仕組み。
―― 国債決済における「取りはぐれ」の防止。
 日銀ネットでは、1994年に国債のDVP決済を導入。
資金
証券
A
行
A
行
同時に実行
引渡し
(delivery)
B
行
支払
(payment)
B
行
12
②外為取引のPVP決済(CLS 銀行の設立)
 外為決済では、それぞれの通貨について各国の決済システム
で決済を行おうとすると、時差の存在もあり、一方の通貨を取り
はぐれるリスクがある。
―― 1974年、ヘルシュタット銀行がマルクを受け取っていたにも拘わらず、見合いとなるドル
を支払う前に破綻したことにより、その影響の大きさが広く認識された。
西ドイツ
A
行
支払①
(マルク)
ヘルシュタット
銀行
米国
時差に伴う
タイミングのズレ
A
行
支払②
(米ドル)
ヘルシュタット
銀行
 CLS( Continuous Linked Settlement )銀行が2002年から運営す
るクロスボーダーの外為決済システムでは、PVP(Payment
versus Payment)決済を通じて、元本取りはぐれリスクを排除。
 日本銀行は、CLSの協調オーバーサイトに参加。
13
③即時グロス決済(Real Time Gross Settlement)
日銀当座預金
(時点ネット決済方式)
決済システムが受け付けた振替指図を
一定の時刻(時点)まで滞留させておき、
その時点での総受取額と総支払額の差
額のみを決済する方式
A銀行
B証券
C金庫
150
150
150
振替指図 (A→B : 100)
(-100)
(+100)
振替指図 (A→C : 20)
(- 20)
振替指図 (B→A : 50)
(+50)
(-50)
-70
+50
+20
80
200
170
9:00
受払差額の計算
時点ネット決済のリスク:
13:00
個別の金融機関の支払不能が、他の金融
機関や決済システム全体に波及するリスク
(システミック・リスク)
決済
<時点>
日銀ネットでは、2001年に時点
ネット決済から即時グロス決済
に移行
日銀当座預金
9:00
振替指図 (A→B : 100)
(即時グロス決済方式)
決済システムが振替指図を受け付ける
都度、1件ごとに即時にその全額をグ
ロスベースで振り替える方式
(+ 20)
振替指図 (A→C : 20)
A銀行
B証券
C金庫
150
150
150
-100
+100
50
250
-20
振替指図 (B→A : 50)
決済
150
+20
30
250
+50
-50
80
200
決済
170
決済
170
13:00
14
④ 国債決済期間の短縮
【国債決済期間の短縮の意義】
決済期間:T+3
(約定日の3日後決済)
ポジシ ョン 再構築
が必要な額
(フェイル額)
再構築ポジションの
決済までに要する期間
(フェイルの残存期間)
未決済残高
(約定日の翌日決済)
破綻日
3日分の決済が
積み上がる
破綻日
未決済残高
決済期間:T+1
前日取引分の
決済のみ残存
ポジション再構築が
必要な額
(フェイル額)
再構築ポジションの
決済までに要する期間
(フェイルの残存期間)
15
国債決済期間の短縮に向けた検討状況等について
<国債取引(居住者間取引分)における決済期間短縮のフレームワーク>
【アウトライトT+3】
レポ取引(後日の反対売買も約束した取引)
アウトライト取引
T+3標準
SC(special collateral)レポ
GC(general collateral)レポ
(資金を担保にした特定債券の調達)
(ショートセールのカバー目的中心)
(債券を担保にした資金調達)
(債券在庫のファンディング目的中心)
T+3主流
T+2主流
【現行<アウトライトT+2化>】(2012年4月23日~)
アウトライト取引
T+2標準
レポ取引
SCレポ
GCレポ
T+2主流
T+1主流
【アウトライトT+1化】(2017年以降速やかな実現を目標)
アウトライト取引
T+1標準
レポ取引
SCレポ
GCレポ
T+1主流
T+0主流
16
(2)決済システムへのオーバーサイト
①概要
 「オーバーサイト」とは、中央銀行が、各種決済システムの制度設
計やリスク管理体制、運営状況等をモニタリングし、その安全性と
効率性を評価するとともに、必要に応じて改善に向けた働きかけを
行うことをいう。
 日本銀行も、主要国の中央銀行と同様に、従前より決済システム
に対するオーバーサイトを実施。
【主な活動】
① ヒアリング、資料徴求等を通じたモニタリングと働きかけ
② ペーパーの公表、フォーラムの開催などによる情宣
③ 制度設計への参画
④ 国際基準の適合状況に関する意見交換
⑤ システム構築プロジェクトのフォロー
⑥ 障害対応・再発防止策・業務継続計画に関する意見交換
17
主な対象(国内)
資金決済
支払
指図
証券・デリバティブ決済
取引所
預金取扱
金融機関
東京証券
取引所等
(銀行等)
全国銀行
資金決済
ネットワーク
(全銀ネット)
清算
外国為替
円決済制度
東京金融
取引所
日本証券
クリアリング
機構
(JSCC)
上場デリバ
株式・上場
デリバ
他行間振込
相対取引
取引所
取引
決済照合システム
DTCCデータ
・レポジトリー
・ジャパン
照合
清算
ほふり
クリアリング
(JDCC)
日本証券
クリアリング
機構
(JSCC)
日本証券
クリアリング
機構
(JSCC)
株式
国債
OTCデリバティブ
(CDS・IRS)
クロスボーダー
送金等
資金決済銀行
決済
証券保管振替機構
(JASDEC)
決済
日銀ネット
当預系
日銀ネット
国債系
:金融市場インフラ(FMI)
:資金決済システム
:清算機関
:取引情報蓄積機関
:証券決済システム
金融市場インフラ(FMI)とは、資金決済システム、証券決済システム、清算機関および取引情報蓄積機関の総称
18
② FMI原則の制定(2012年4月)
 BIS支払・決済システム委員会(CPSS)と証券監督者国際機構(IOSCO)
は、決済システム向けの国際基準を統合し、より詳細かつ厳格な新しい国
際基準として「金融市場インフラ(Financial Market Infrastructure<FMI
>)のための原則」(「FMI原則」)を公表。
背 景
•
金融市場インフラ(FMI: Financial Market Infrastructure)は、リーマンショックの際、有効に機能し、市
場取引継続を下支え。しかし、以下の改善の余地も判明。
 想定すべきストレスシナリオの適切性は十分か
 FMIの活用(標準化されたOTCデリバティブについて清算機関の利用を義務付け)は、反面、リスクの集中も
 FMIのガバナンスやオーバーサイトの強化も必要
▽ 基準の強化
狙 い
▽ 実効性の確保
• 基準の位置付けを引上げ
• リスク管理基準の強化
「勧告」(Recommendations)⇒「原則」(Principles)
• 当局間協力の枠組みの強化
• 新たなリスク等に対応した原則の新設
• 基準の適合状況に関する「評価方法」、
「情報開示の枠組み」の整備(付属文書化)
19
③ FMI原則の全体像
金融市場インフラ(FMI)向けの原則
組織全般
信用・資金流動性
リスク管理
決 済
CSD・DVP等
規制当局・監督当局・オーバーシーアー向けの責務
原則1
原則2
原則3
法的基盤
ガバナンス
包括的リスク管理制度
責務A FMIsの規制・監督・オーバーサイト
原則4
原則5
原則6
原則7
信用リスク
担保
証拠金
資金流動性リスク
責務D FMIs向け原則の適用
責務B 規制・監督・オーバーサイトの権限と資源
責務C FMIsに関するポリシーの開示
責務E 他の当局との協力
原則8 決済のファイナリティ
原則9 資金決済
原則10 現物の受渡し
原則11 証券集中振替機関
原則12 価値交換型決済システム
破綻管理
原則13 参加者破綻規則・手続
原則14 分別管理・勘定移管
ビジネス・オペ
リスク管理
原則15 ビジネスリスク
原則16 保管・投資リスク
原則17 オペレーショナルリスク
アクセス
原則18 アクセス・参加要件
原則19 階層的参加形態
原則20 FMI間リンク
効率性
原則21 効率性・実効性
原則22 通信手順・標準
透明性
原則23 規則・主要手続・市場データの開示
原則24 取引情報蓄積機関によるデータ開示
20
④オーバーサイト基本方針の改訂
 2013年3月、日本銀行は、FMI原則を受けて、「日本銀行によ
る金融市場インフラに対するオーバーサイトの基本方針」を制
定。同年4月より実施。
 2010年5月に制定した「決済システムに対する「オーバーサイト」の基本
方針」と「オフショア円決済システムに対する「オーバーサイト」の基本方
針」を統合し、FMI原則を採用。
 FMI原則は、各国の中央銀行、監督者その他の関係当局に対し、同原
則を採用することを求めており、金融庁でも、新たに監督指針を策定。
 FMI原則の各国における制度化の状況について、CPSS-IOSCOはモニ
タリングを実施。
21
(参考)OTCデリバティブ市場改革
*OTC(over-the-counter:店頭) ⇔ 上場
 金融危機において指摘されたOTCデリバティブ市場の課題。
 担保徴求などカウンターパーティ・リスクの管理が不十分。
 市場実態が不透明。
 2009年ピッツバーグ・サミットでG20は、2012年末までに、以下のOTCデリバ
ティブ市場改革をコミット。
 標準化された全てのOTCデリバティブ取引について、清算機関(CCP)の
利用を義務付け(清算集中)。また、適当な場合には取引所・電子取引
基盤を通じて取引。
―― 清算集中は、カウンターパーティ・リスク管理の一元化・強化や市場
の透明性向上が狙い。
 OTCデリバティブ取引を、取引情報蓄積機関(TR)に報告。
 CCPを利用しない取引に、より高い自己資本を賦課。
―― OTCデリバティブについて、清算集中と標準化を促す狙い。
22
3.わが国決済システムの更なる改善に向けて
(1)新日銀ネットの構築と稼動時間の拡大
(2)クロスボーダー決済改善の検討
(3)リテール決済高度化プラン策定の支援
(4)国債取引の決済期間短縮化の推進
23
(1)新日銀ネットの構築と稼動時間の延長
 日本銀行では、日銀ネットについて、新たなシステム(新日銀
ネット)を構築するための対応を推進。
【基本コンセプト】
 内外の決済システムや金融機関との接続性を改善
 稼動時間の大幅な拡大が可能となるシステム基盤を整備
→ アクセス利便性を向上
第1段階
2014年1月6日
稼動開始
第2段階
2015年10月13日
稼動開始予定
 対象業務はオペと国債の入札関連業務、
国債系オペの受渡関連業務
 対象業務は当座預金取引、国債決済、
与信担保関連業務等
 本年1月より第1段階の稼動を開始。全面稼動は2015年
10月13日を予定。
24
(1)新日銀ネットの構築と稼動時間の延長


「新日銀ネットの有効活用に向けた協議会」の報告書(2014 年 3 月)を踏ま
え、新日銀ネットの稼動時間を当預系・国債系とも、21 時まで拡大する方針
を公表し、意見募集を実施。
2014 年 5 月に、新日銀ネットの稼動時間拡大の実施候補日を、2016 年 2 月と
することを公表。
「新日銀ネットの有効活用に向けた協議会」における議論の概要
<外部環境>
 アジア等への本邦企業の進出
→ クロスボーダーの資金決済ニーズが拡大
 本邦金融機関の海外貸出等の増加
→ 安定的な外貨調達のニーズが増大
 非居住者の日本国債保有の増加
→ 日本国債のカストディ・サービスの余地
 店頭デリバティブ等の国際的な規制の導入
→ 優良担保としての日本国債の重要性
<稼動時間拡大の意義>
海外市場との決済時間帯の重なりが増えることで、
クロスボーダーの資金・証券決済が迅速化
決 済 リ ス ク削 減 、資 金 ・ 担 保 効 率 向 上 を 通 じ 、
わが国決済全体の安全性・効率性向上や金融市
場の活性化、金融機関の企業向け決済サービス
等の高度化にも資する。
25
(参考)海外市場の決済時間帯とのオーバーラップの拡大
稼動時間拡大により、アジア時間夕刻や欧州時間午前中とのオーバーラップが拡大
―― アジア地域間での当日中の円建て顧客送金が可能に。
―― 日本・欧州(午前中)間での当日中の円建て顧客送金が可能に(中央ヨーロッパ標準時 13:00 まで)。
―― また、欧州での資金運用・調達、海外清算機関への担保差入をより迅速かつ安全に行うことが可能に。
欧州時間 : 当日午前
稼動時間(現地時刻)
米国
(Fedwire)
欧州
(TARGET2)
NZ
(ESAS)
シンガポール
(MEPS+)
香港
(HK CHATS)
日本
(現行日銀ネット)
16
19
22
1
4
7
10
13
16
22
1
4
7
10
13
16
19
22
10
13
16
19
22
1
4
7
10
5
8
11
14
17
20
23
2
5
5
8
11
14
17
20
23
2
5
6
9
12
15
18
21
0
3
6
前日21:00~18:30
前日19:30~18:00
9:00~翌日8:30
5:00~20:00
8:30~18:30
9:00~19:00
バンコク、ジャカルタ : 19:00
シンガポール : 20:00
(注) 米国、欧州は冬時間、NZ は夏時間。
26
(参考) 拡大される稼動時間の活用策
 メガバンク、大手証券会社等との間で意見交換の場(協議会)を設
置し、新日銀ネットの有効活用のあり方について、議論を継続中。
日本経済新聞
<夜間における有効活用の具体例>
(2014年1月14日付朝刊)
① グローバルベースでのJGBの有効活用
→ 欧州市場での日本国債を担保とした外貨調
達や、欧州の清算機関・取引相手とのデリバティ
ブ担保の機動的な受払等
② 海外との円建て顧客送金の迅速化
→ アジア夕刻や欧州午前中の本邦企業の海
外拠点等からの送金依頼の当日中処理や資金
のプーリング・サービスの提供
27
(2)クロスボーダー決済改善の検討
① 日銀ネットと海外決済システムとの接続(クロスボーダーDVP)
日銀ネット(当預系)
円貨
A 銀行
日本
B 銀行
日銀ネット(国債系)
JGB
A 銀行
B 銀行
接続
接続
DVP
DVP
海外
資金決済システム
証券決済システム
A 銀行
外貨建て
証券
B 銀行
A 銀行
B 銀行
外貨
28
(2)クロスボーダー決済改善の検討
② ASEAN+3で検討中の域内証券決済インフラの3モデル
アジア ICSD
CSD リンク
CSD-RTGS リンク
29
(3)リテール決済高度化プラン策定の支援
 銀行預金を用いたリテール決済サービスと電子マネー
▽ 伝統的な銀行振込み
 安全性が高い
→
預金保険制度
 規制の枠組みが確立
→
銀行への規制・監督
 利便性に課題
→ 即時決済は銀行の
窓口時間に限られる
 資金移動の料金が
相対的に高い
▽ 電子マネー(*)
 利便性が高い
→ いつでもどこでも
アクセス可能
 資金移動の料金が
相対的に低い
 安全性は仕組み次第
→ 発行者の健全性も問題
 規制の枠組みが必ずしも
及ばない
→ 法規制が及ばないものも
存在
(*)ビットコインのように既存通貨を裏付けとしないもの、発行者
が存在しないものもある。
30
(3)リテール決済高度化プラン策定の支援
 銀行振込の高度化を巡る動き
 日本再興戦略」改訂2014-未来への挑戦-(2014年6月24日)
5-2(3)新たに講ずべき具体的施策 i)金融・資本市場の活性化
②資金決済高度化等
・日銀ネットの稼働時間が延長されることを活用しつつ、金融機関・企業等における資金・
証券決済の高度化を図る。即時振込みなどの資金決済高度化については、全国銀行協
会が諸外国の動向も参考に決済の安全性・信頼性の確保に留意しつつ具体的な改善内
容・スケジュール等の検討を行い年内を目途に結論を出すこととされており、政府としても
こうした資金決済の高度化に向けた取組を促す。国内送金における商流情報(EDI情報)
の添付拡張についても、流通業界と金融機関との共同システム実験の結果等も踏まえつ
つ、産業界と金融機関の連携強化による速やかな対応が図られるよう促す。日本銀行と
しても、これらを含め、我が国決済サービスの高度化を図っていく。
 こうした中で、全銀協・全銀ネットでは、本年4月に検討部会を設置し、2019
年に予定されている全銀システムの次期更改に向けて、即時振込の24時間
化を含め、全銀システム改善に向けた検討を開始。年内を目途に方向性に
ついて結論を取りまとめる方針。
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(4)国債取引の決済期間短縮化の推進
 日証協・国債の決済期間の短縮化に関する検討ワーキング・グループは、
国債取引の決済期間の短縮(T+1)化に向けた課題と対応方針を整理し
たグランドデザインを取りまとめ、本年11月に公表。
<国債取引の決済期間短縮化の意義・目的>
① 決済リスクの削減
② 国債市場・短期金融市場の流動性・安定性・効率性の向上
③ 国際的な市場間競争力の維持・強化
<主要国における国債売買取引の決済期間>
米国
英国
フランス
ドイツ
日本
国債決済期間
( )はGCレポ
T+1
(T+0)
T+1
(T+0)
T+2
(T+1)
T+2
(T+1)
T+2
(T+1)
担保割当機能
大手銀2行
決済機関(ユーロクリア、クリアストリーム)
なし
 日本銀行は、財務省や金融庁等と共に、オブザーバーとしてワーキン
グ・グループにおける検討に参加。
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(参考) 国債決済短縮(T+1)化のイメージ
市場参加者全体
(地域金融機関含
む)
現状
(T+2決済)
アウトライト取引
SCレポ取引
T+1日
(S-1日)
T日
約定
T+2日
(S日)
照合
決済
金額等の
合意
GCレポ取引
大手ディーラや
信託銀行等の機関投
資家が中心
銘柄割当
(手作業)
約定・
照合
決済期間短縮化
T+1化実現後
アウトライト取引
SCレポ取引
T+1日
(S日)
T日
約定
GCレポ取引
約定日中にポスト・トレード
処理を完了させる
⇒STP※化、市場慣行(タ
イムスケジュール)を遵守
照合
決済
約定・照合
※STP
銘柄
割当
決済
銘柄割当等を市場インフラ
(JSCC)が行う(銘柄後決め
方式GCレポ取引の導入)
⇒時間短縮、事務負担軽減
Straight Through Processingの略
証券取引の約定から決済までの一連の作業を電子的、かつ、一度
入力されたデータについて人手による再入力等を経ずに行うこと
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4.最後に
<決済システムの設計・実現に必要なもの>
① ミッション:決済インフラ整備を通じた経済活動の基盤の提供
→ 中長期的な視点に立った決済ニーズやリスクの把握が重要
②パッション:既存の制度・システムの改革には熱意が必要
→ 短期的にはコストがメリットを上回ることも
③ ディスカッション:市場参加者との対話を通じた価値の創造
→ 多様な意見に耳を傾け、学び続ける謙虚さ・探究心が重要
ご清聴ありがとうございました
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