AC・JP ドメイン最初の Web サイト - 檜垣泰彦

電気学会研究会資料
電気技術史研究会 HEE-14 pp.5-10(2014-1-17)から
HEE-14-002
電気学会の許可を得て転載
http://yas.tu.chiba-u.ac.jp/paper/d/HEE-14-002.pdf
AC・JP ドメイン最初の Web サイト
檜垣 泰彦*(千葉大学)
池田 宏明(千葉大学名誉教授)
The first web site in ac.jp domain
Yasuhiko Higaki* (Chiba University)
Hiroaki Ikeda (Professor Emeritus, Chiba University)
Ikeda lab, Chiba University started the first web site in ac.jp domain in Oct. 1993. The main content of the site
was graphical symbol database and multimedia pages. OPAC in University Library, experimental web site of
Chiba City, Educational affairs support system and International conference support system were developed by
Ikeda lab using the same technology as the site.
キーワード:インターネット,ホームページ,WWW,Web ページ,蔵書検索システム,国際標準化,図記号
(Internet, home page, World Wide Web, web page, online public access catalogue, international standardization,
graphical symbol)
が実現したのは 1993 年(平成 5 年)4 月末である。当時の
1. はじめに
海外との接続事情は複雑だったようで,海外まで traceroute
1993 年(平成 5 年)10 月 19 日,筆者らの研究室「千葉
が通るようになったのは,さらにその1ヶ月先の 6 月にな
大学池田研」(当時。以下「池田研」と称す)の Web サイ
ってからであった。その後,グローバルアドレスによる学
トが関係メーリングリストやニューズグループを通じてア
内ネットの時代を経て,2002 年(平成 14 年)にファイア
ナウンスされ,公開された。これは,日本の大学(ac.jp ド
ウォールで囲まれた現在の構成となる。
メイン)では最初のものであった。本稿はこの前後の千葉
3. 池田研 Web サイトの立ち上げ
大学池田研のインターネットに関連した研究活動の記録を
池田研と UNIX 系 OS との関係は 1985 年(昭和 60 年)
掘り起こし,浅いながらすでに失われつつあるインターネ
3 月に導入した TOSBAC UX-300FII から始まる。東芝の
ット黎明期の記録として残すことが目的である。
2.
UNIX 搭 載 の 科 学 技 術 用 デ ス ク ト ッ プ コ ン ピ ュ ー タ
当時のキャンパスネットワーク事情
(16bit/16MHz の CPU,主記憶 1MB,5.25 インチ 30MB
の磁気ディスク,10 個の RS-232C インターフェース,OS
千葉大学では 1990 年(平成 2 年)3 月より,JUNET に
は SystemIII をベースに東芝が日本語化したもの)である。
よ る 電 子 メ ー ル サ ー ビ ス が ス タ ー ト し , ユ ー ザ ID@
~.chiba-u.ac.jp のメールアドレスによるメール交換が可能
1991 年(平成 3 年)5 月に DEC (Digital Equipment
となった。この時点での学内ネットワークはΣネットワー
Corporation)社の DECstatsion(2台)を,さらに年度末
クによるダイヤリングセットを用いた回線であり,パソコ
に1台を追加し,計3台(表1)を導入した。これらは
ンや端末をシリアルインタフェース経由でメールホストに
Ethernet 端子を備えており,これを 1992 年(平成 4 年)2
接続して利用していた。1992 年(平成 4 年)2 月からは FDDI
月に設置された FDDI による学内ネットワークに接続して
系(100Mbps)が導入され,ネームサーバこそないものの,正
利用した。OS は BSD をベースとした Ultrix 4.2a であった。
式に取得したグローバル IP アドレスによる学内の IP 接続
ディスクは RZ55(332MB),RZ56(645MB)等を SCSI で接
が可能となった。
続して利用した。図1は現在保存されている DECstation
学外との IP 接続は未だであったが,総合情報処理センタ
5200 である。学内だけの IP 接続という閉じた世界ではあ
ー(当時)からのダイヤルアップ(uucp)でメール交換す
ったが,学内の拠点サーバから電子メールやネットニュー
る時期がしばらく続いた。また,当時盛んであったネット
スの供給を受け,ネットワークの機能を活用していた。ま
ニュースの交換も外部とのダイヤルアップ接続で開始し
た,檜垣はこれらの DECstation を使って,学内における
た。その間,閉じた世界でのネームサーバの立ち上げや部
DNS の整備やそれを用いたメール配送設定など,来るべき
局内の LAN の整備を進め,待ちに待った学外との IP 接続
外部との IP 接続の準備に積極的に協力した。
―
5 ―
2014/1/17©2014IEEJapan
表 1. 池田研で導入した DECstation の仕様
Table 1. The specifications of the DECstations.
型名
CPU
メモリ
DECstation
R3000
32MB
5200
25MHz
DECstation
R2000
24MB
3100
16.67MHz
Personal
R3000A
DECstation
24MB
25MHz
5000/25
グラフィ
クス
Ethernet
使用開始
24 面
10Base2,
10Base5
1991 年 5 月
8面
10Base5
1991 年 5 月
8面
10Base5
1992 年 3 月
池田はこの間,常にインターネット関係の新しい情報を
内外の関連メーリングリストから収集し,研究に役立ちそ
うないくつかのソフトウェアを DECstation にインストー
図1.当時公開に使われた DECstation 5200
ルするように檜垣に指示していた。この中に 1993 年 1 月に
Fig. 1 DECstation 5200 used for web server.
リリースされた NCSA X Mosaic Ver. 0.5 や CERN httpd
い。図2は Internet Archive(3)により 1996 年(平成 8 年)
0.9b が含まれていた。まだ外部と IP 接続されていなかった
ため,ソースを N1 ネットを利用して東大から千葉大に転送
12 月 21 日に保存されたページを最近のブラウザで表示し
し,インストールしていた。このようにして,1993 年(平
たものである。主なコンテンツは,図記号データベース,
成 5 年)4 月末に外部との IP 接続が実現する前から,閉じ
絵や詩,音楽演奏等のマルチメディア情報,大学案内等で
た世界で Web サイト立ち上げの準備が進んでいた。
あった。図記号データベースとマルチメディア情報につい
海外とも通信が可能となってから約4ヶ月後の 1993 年
ては,以下で詳しく述べる。大学案内についてはそのトッ
プページを図 3 に示す。
(平成 5 年)10 月 19 日,池田研の Web サイトは公開の時
を迎えた。国内では infotalk メーリングリストへ,海外へ
図 4 にローカルのニューズグループに自動投稿されたア
は comp.text, comp.sgml, alt.hypertext ニューズグループ
ナウンス翌日のアクセスログの集計結果の記事を示す。こ
の,ac.jp
れによると,学内からのアクセスの他,海外からのアクセ
(1)
(2)
へアナウンスされた。これは日本では3番目
ドメインでは最初の Web サイトである。まだブラウザ側の
スが多くみられる。
日本語対応が整っていなかったため,コンテンツは英語で
4. 図記号データベース
記述されていた。池田研の Web サイト公開用としては図1
池田研の Web サイトがアナウンスされたときの文面には
に示す DECstation 5200 が使われた。
「国際電気標準会議(IEC, International Electrotechnical
残念ながら公開当時のスクリーンショットは残っていな
Commission, Geneva)で SC3C(Graphical Symbols for Use
図 2.池田研の Web サイト(1996 年 12 月 21 日)
(当時の URL http://www.hike.te.chiba-u.ac.jp/)
Fig. 2 Ikeda lab web site (Dec. 21, 1996)
図 3. 千葉大学概要のトップページ
Fig. 3 Top page of the Chiba University Overview
―
6 ―
Newsgroups: hike.log.www
Path: news.hike.te!higaki
From: [email protected]
Subject: www.hike.te.chiba-u.ac.jp access_log daily report
Message-ID: <[email protected]>
Sender: [email protected] (Yasuhiko Higaki)
Organization: Dept of Electrical and Electronics Engineering, Chiba University
Date: Wed, 20 Oct 1993 15:19:40 GMT
www.hike.te access_log daily report Thu Oct 21 00:19:09 GMT+9:00 1993
From Oct 20 00:34 to Oct 21 00:10
Access freqency sorted by host name Access frequency sorted by directory
7888 /iec417/symbol/iec417gif37/
bang.lanl.gov
4499 /rooms4res/jb/
saddl1.jrc.it
584 /home/satoshi/pics/mosaic/iec417/symbol/iec417gif37/
hike1
578 /iec417/html/doc/
cuphd.nd.chiba-u.ac.jp
547 /iec417/symbol/iec417gif150/
keymaster.crl.dec.com
409 /iec417/html/index/
geos209.oslo.sgp.slb.com
406 /profs/
css.cs.sfu.ca
325 /rooms4res/
yuri.ipc.chiba-u.ac.jp
264 /
lithibm1.epfl.ch
231 /iec417/symbol/chibalogo/
syy.oulu.fi
221 /iec417/symbol/etclogo/
narrow.ntt.jp
188 /iec417/
alan.k.tsukuba-tech.ac.jp
153 /chiba-u/
somosan.educ.cc.keio.ac.jp
146 /iec417/symbol/ieclogo/
ground.cs.columbia.edu
79 /htbin/
itami.naka.jaeri.go.jp
74 /eem/
stronsay.aiai.ed.ac.uk
46 /lab/
bang.nta.no
45 /symbol/iec417gif37/
verdandi.ics.es.osaka-u.ac.jp
38 /fe/
verne.cnam.fr
28 /ikeda/IEC/
att-out.att.com
24 /te/
server.uwindsor.ca
20 /iec417/symbol/icon/
garnet.bmr.gov.au
16 /iec417/html/index/ap/av/
maigret.cog.brown.edu
14 /eem/susato/
sun.com
13
camel.on.cs.keio.ac.jp
12 /iec417/symbol/iec417gif75/
hermes.nacsis.ac.jp
9 /symbol/ieclogo/
134.243.110.22
9 /symbol/chibalogo/
hplose.hpl.hp.com
7 /iec417/html/index/ap/appli1/
yom.cerfnet.com
7 /fe/www.hike.te.chiba-u.ac.jp/te/
meta.stanford.edu
6 /ikeda/chiba-u/
wings.nanzan-u.ac.jp
5 /ikeda/
venuti.aa.msen.com
5 /iec417/html/
sandman.lerc.nasa.gov
5 /chiba-u/te/
porgy.jpl.nasa.gov
4 /iec417/html/index/ap/appli2/
silicon.irf.se
2 /usr/local/lib/pictures/xb/
milawa.gh.cs.su.oz.au
2 /ikeda/10036/
void.ncsa.uiuc.edu
2 /home/satoshi/pics/mosaic/iec417symbol/iec417gif37/
shiva.uu.net
2 /home/satoshi/pics/mosaic/iec417/html/doc/
absolut.osf.org
1 /html/index/
nanbu.mt.cs.keio.ac.jp
kejal-9101.pc.helsinki.fi
error_log:
dutigd.twi.tudelft.nl
[Wed Oct 20 00:57:54 1993] httpd: successful restart
brazos.is.rice.edu
-------------------------------------------------nsh.is.titech.ac.jp
[email protected]
purgatory.ecn.purdue.edu
-korint.cmd.uu.se
wcgall.physics.sunysb.edu ↓
↓←←← 桧垣 泰彦@千葉大学工学部電気電子工学科(10b) ←←←←←←
↓
(Higaki, Yasuhiko) [email protected]
↑
(170行省略して折り返し)
→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→←→→
579
516
489
406
395
357
357
353
342
322
314
295
294
293
288
237
211
210
209
205
184
181
178
175
165
164
161
157
155
154
153
153
152
146
145
132
130
123
122
120
120
117
114
113
112
112
110
図 5. 図記号データベースのページ
Fig. 5 Web page of Graphical Symbols
付の詩集「実験物理の部屋」(図 6)は,文字中心のコンテ
ンツが一般的であった中で,美しい絵や詩と出会える数少
ないページの一つであった。ブラウザが日本語に対応して
いなかったため,画像として文字を埋め込んで対応した。
いくつかの作品には檜垣による演奏がBGMとして流れる
ようにマークアップされていた。図 4 のコンテンツ別アク
セス集計において,「rooms4res」が 2 番目にランクされて
図 4.アナウンス翌日のアクセスログのサマリ
いることからもその人気の高さがうかがえる。
Fig. 4 The Access log summary of the web site
その後,檜垣による古い音楽の電子楽器による演奏
「Electronic Early Music」,古楽器やそれらによる演奏を
on Equipment)が国際標準化している、機器や装置に使う図
紹介する「Renaissance Consort」が追加された。これらも
記号(現在までに約 500 ある)に基づいた HTML 文書を暫
オーディオが聴ける珍しいコンテンツとして注目され,海
定的に公開します。」とある。この「図記号データベース(4)」
外からのアクセスも多かった。
は当初 Web とは無関係に,池田が中心となって整備を進め
ていた(5)ものであり,Web の技術の登場を受けて,当時
の研究室所属学生らが HTML でマークアップした。英語と
フランス語で記述されていた。この図記号データベースの
Web による公開は世界中の国際標準化関係者から高い評価
を受け,大きなインパクトを与えた。その後,検索機能の
追加や,言語(日本語)の追加などの改良がおこなわれた。
図 4 のディレクトリ別ログ集計において,図記号データベ
ース関連の「iec417」を含む関係ディレクトリが上位に来て
おり,多くアクセスされていたことがわかる。図 5 に示す
スクリーンショットは 1994 年(平成 6 年)初め頃のもので
ある。
5. マルチメディア情報の提供
図 6.
実験物理の部屋(林聡子)のカタログ(部分)
Fig. 6 Rooms for Researcher by Satoko Hayashi.
池田研の Web サイト公開時の一番の目的は図記号データ
ベースであったが,そのほかにも注目されたコンテンツが
あった。それは当時の Web サイトではまだあまり公開され
ていなかった,絵とそれに付けられた詩や楽器演奏などの
マルチメディアを活用したコンテンツであった。
当時檜垣が趣味として参加していた古楽メーリングリス
図 7. ルネッサンスコンソートのページ(部分)
ト(EMML)の主催者である林聡子氏がメンバーを描いた絵
Fig. 7 Renaissance Consort by Yasuhiko Higaki.
―
7 ―
図 8. gopher による蔵書検索システム
Fig. 8 Online Public Access Catalog by gopher
6. 図書館情報の提供
池田研は檜垣が中心となり,メインフレーム中心の 1985
年(昭和 60 年)ころから,附属図書館と共同で,共同利用
計算機上の蔵書検索システムの開発を行っていた。1989 年
図 9. 附属図書館の Web サイト
(http://www.ll.chiba-u.ac.jp/)
Fig. 9 Web site of the University Library
(平成元年)4 月にはメインフレーム上に構築した蔵書検索
システムを研究室のPCからダイヤリングセット経由のシ
リアル回線で接続して利用する LISICB を構築した。その
が日本語に対応していなかったため, telnet による匿名ロ
後,IP 接続と UNIX 系 OS の時代に入り,これらの環境を
グインや,その頃盛んに使われていた gopher を使っての実
活用した新しい構成のシステムを模索していた。池田研の
装(図 8)を試みた。開発が進むにつれ,Web ブラウザの
Web サイトの立ち上げの頃からこの蔵書検索システムを
日本語対応が実現し,Web による OPAC の実現が可能とな
UNIX 系 OS 上に OPAC(Online Public Access Catalog)と
して構築することを考え着手した。附属図書館の図書目録
った。このようにして 1994 年(平成 6 年)2 月には,匿名
にはもちろん,多くの日本語蔵書が含まれ,それらの書誌
ログインや gopher の機能に加え,CGI を用いた Web ベー
情報は日本語で書かれている。開発開始時は Web ブラウザ
スの日本語 OPAC のひな形(雑誌検索用)が完成した。そ
図 10. 蔵書検索(OPAC)のトップページ
図 11. 検索結果の表示
Fig. 11 Final Page of the OPAC.
Fig. 10 Top page of the Online Public Access Catalog.
―
8 ―
と当時の図書館担当者である。有岡圭子氏と加藤晃一氏(写
真)が担当していた。
7. 千葉市市政情報の発信実験
千葉市の市政情報の発信実験の一環として,千葉市の実
験 Web サイト(図 13)が 1995 年(平成 7 年)4 月 20 日
から 1997 年(平成 9 年)2 月まで池田研のサーバで運用(7)
された。千葉市の高度情報化推進室から受け入れた受託研
究員(仲山正志氏)との共同研究として 2 年間実施(8)され
た。千葉市の紹介,ニュース,見どころ等の他,千葉市の
図 12. OPAC を運用していた NEC EWS-4800/330
イメージソングも公開されていた。その後,1997 年(平成
Fig. 12 NEC EWS-4800/330 for OPAC with Mr. Kato
9 年)3 月 1 日より,現在の URL http://www.city.chiba.jp/
にて千葉市による正式サイトとして運用開始された。
の後,単行本の検索にも対応し,同年 3 月に完成,図書館
の Web サイトと(図 9)と共に公開(6)された。図 10 に
8. 授業支援システム
OPAC のトップページ,図 11 に検索結果のページを示す。
1997 年(平成 9 年)から池田研では檜垣が中心となって
この本格的 Web 対応日本語 OPAC は日本の図書館で最初の
大学の授業運営を支援するための時間割やシラバスのため
ものであった。高速な検索を実現するために用いた
のシステムへの取り組みを始めた。工学部では同時期より,
B-TREE によるライブラリは,NEC PC9800 シリーズ上の
業者が solaris 上に開発したキオスク端末を持つオンライン
システムで使用するために独自開発したものを流用した。
シラバスの運用が始まっていた。このシステムはソフトウ
この OPAC は 2001 年(平成 13 年)2 月に富士通の新シス
ェアの維持費が高く 2 年ほどで運用継続が困難となった。
テムが導入されるまでの約 7 年間利用された。ソフトウェ
1998 年(平成 10 年)秋からは同じハードウェアを利用し
アを動作する状態で保存することは難しいが,この OPAC
は別の UNIX 系のハードウェア上に動作する形で保存(非
て,檜垣が独自開発したソフトウェアによる代替システム
公開)されている。
れた形式のテキスト原稿を収集し,それをもとに HTML で
の運用が開始された。これは,フロッピディスクで定めら
OPAC の他にも,お知らせ,利用案内,図書館報などの
記述したオンライン用の Web ページと,TeX で記述した冊
コンテンツを提供した。トップページ(図 9)で聴ける弥生
子印刷用版下を作成するものであった。
の鐘の音色(当時の新館の鐘つき台に設置されていた鐘の
2000 年(平成 12 年)秋からは,Web ページによりシラ
音の録音)も有名になった。
バス原稿を収集し,授業編成支援機能も備えた授業支援シ
図 12 は Web サーバ用として 1994 年(平成 6 年)4月に
ステムを開発し,移行した。このシステムはデータベース
附属図書館に導入された NEC の EWS-4800/330(CPU:
管理システムを使用せず,テキスト形式のファイルのみで
R4400PC 133MHz,メモリ 64MB,ディスク容量約 5GB)
実装されており,その性能と拡張性に限界があった。2001
年度(平成 13 年度)後期には履修登録のオンライン化を試
行した。
(a) シラバス
(b) 時間割
図 14. 時間割とシラバス(授業支援システム)
図 13. 千葉市市政情報の発信実験のサイト
Fig. 14 Educational affairs support system.
Fig. 13 Experimental web site of Chiba City
―
9 ―
これらの試行期間を受け,2002 年(平成 14 年)からは,
データベース管理システム Postgres を用いたシステムを構
築(9)した。シラバス・時間割サブシステム,授業編成・運
用サブシステム,履修登録サブシステム,電子メール連絡
サブシステムからなる本格的なものである(図 14)。本シス
テムの開発にあたっては現場(学務係)担当者であった阿
由葉努氏の尽力によるとことが大きい。
教務系のシステムは業務内容の変化も激しく,必要とさ
れる仕様もはっきりしないため,運用を伴う進化型プロト
タイピングの手法を用いて,反復型のソフトウェア開発を
行った。このシステムは工学系学生約 3000~4000 人に対し
て利用され,必要なメインテナンスを行いながら,現在ま
で 10 年以上に亘って利用され続けている。
図 15. 国際会議支援システム
Fig. 15 International Conference Support System.
9. 国際会議支援システム
1999 年(平成 11 年)に国際電気標準化会議(IEC)の総会
が日本(京都)で開催された。この IT システムを池田研で
担当することとなり,Web を用いた国際会議支援システム
を開発(10)した(図 15)。総会は 51 の IEC メンバー国が毎
年持ち回りで開催する大規模な催しであり,この京都大会
では,参加国 53 カ国から約 1500 人が集い 1999 年 10 月
ページは保存されていないことが多い。その中で,Internet
Archive(3)の存在価値は高い。データベースやプログラム
と連携した Web ページを動作する状態で保存することはさ
らに困難である中,動作環境への依存が少ない OPAC につ
いては,動作する形で保管している。
謝辞:ここで述べたサイトの立ち上げは,本文中に記載した方々
18 日~29 日の 12 日間に約 170 の会議が会場の国立京都国
や当時池田研に所属して研究を行った学生諸氏の協力があってこ
際会館で行われた。
そ実現できた。心より御礼申し上げます。
会議支援システムでは,ドキュメント(標準化策定のた
文
めの会議文書)処理,貸出予約処理,関連情報の提供を行
(1) つくばビジネスネットワーク:
「日本最初のホームページ」,
http://www.tsukuba.gr.jp/ (1999) (2013 年 12 月 19 日確認)
(2) 針谷喜久雄:
「WWW 黎明期の歴史と立役者」,
http://www.ibarakiken.gr.jp/www/history/ (1999)
(2013 年 12 月 19 日確認)
(3) Internet Archive, WayBack Machine, http://archive.org/web/
(2013 年 12 月 19 日確認)
(4) Hiroaki Ikeda, Satoshi Matsumura and Yasuhiko Higaki,“An
International Standard as a Shared Electronic Publication”,
Journal of Faculty of Engineering, Chiba University, Vol.45,No.2
pp.31-37 (1994)
(5) 池田宏明:
「国際標準化における情報・通信技術活用のリーダーシッ
プ」,標準化と品質管理,Vol.63,No.9 pp.81-86 (2010)
(6) Yasuhiko Higaki, Keiko Arioka and Hiroaki Ikeda: “Design and
Implementation of Library Information Systems in Chiba
University”, Digital libraries 2, 50-67 (1994)(in Japanese)
桧垣泰彦・有岡圭子・池田宏明:
「千葉大学附属図書館情報システム
(CULIS)の構築」,ディジタル図書館 2, pp.50-67(1994)
http://www.dl.slis.tsukuba.ac.jp/DLjournal/No_2/ (2013 年 12 月
19 日確認)
(7) 「 イ ン タ ー ネ ッ ト で 市 政 情 報 を 提 供 」, 時 事 通 信 社 官 庁 速 報
(1995-4-17)
(8) 池田宏明:「市政情報のインターネットへの発信の高度化に関する研
究」,千葉市地域連携推進事業報告書(1997)
(9) Yasuhiko Higaki, Tsutomu Ayuha and Syun Tutiya:
“Construction and Operation of Registration System in
University”, The transactions of the Institute of Electronics,
Information and Communication Engineers. D-I, Vol.J88-D-I,
No.2, pp.517-526(2005)(in Japanese)
檜垣泰彦・阿由葉努・土屋 俊:「履修登録システムの構築と運用」, 電
子情報通信学会論文誌, Vol.J88-D-I, No.2, pp.517-526 (2005)
(10) Yasuhiko Higaki, Hiroaki Ikeda, Syun Tutiya and ArletteJosiane Skinner: “Design and Development of International
Conference Support System for IEC General Meetings”,
Proceedings of CCCT 2004, Vol.V, pp.281-288 (2004)
った。標準化策定のための会議を支援するという業務に対
して,要求仕様がはっきりしないため,次々と追加される
要求を実装し,それに修正を加えることの繰り返しで期待
される機能を実装していった。その作業は会期中も続いた。
この会議支援システムは IEC の情報システムとしては初
めての成功例であり,内外から高い評価を得た。それを反
映して 2000 年,2001 年に総会を開催したスウェーデンと
イタリアの国内委員会からもこのシステムを使いたいとの
申し入れがあり,これを受けた。さらに 2003 年のカナダに
おいても利用され,その実績から,2004 年にこのシステム
を IEC 中央事務局に技術移転した。このシステムの成熟に
おいては,総会コーディネータである Mrs. Arlette-Josiane
Skinner の尽力によるところが大きい。これをベースに発展
させたシステムが現在も IEC の総会で用いられている。
10. おわりに
国内の大学で最初に Web サイトを立ち上げた頃の状況
と,その発展としてのその後の WWW 技術とのかかわりに
ついて述べた。特定の研究室や大学のローカルな内容とな
っているが,ac.jp ドメイン最初の Web サーバの立ち上げの
記録であること,細かな点は異なるが他の大学も大筋は似
たような状況であったと考えられることから記録としての
価値があるものと考える。本稿を執筆するにあたり 1991 年
以降保管してある電子メールの内容が役立った。
いくつかの重要なハードウェアは保存してあるが,Web
―
献
10 ―