がんばれ!マクロファージ君

マンガ ライフサイエンス・第35回
がんばれ!マクロファージ君
−結核菌との闘争−
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萩原 清文 作 多田 富雄 監修
◆マンガシリーズはお陰様で今年10周年を迎える.この間に免疫学の領域では自然免疫や粘膜免疫に関する知識が蓄積
しているが,その一方で新興再興感染症の問題が人類に新たに突きつけられることとなった.なかでも結核は,再興
感染症の代表格として人類に脅威を与えている.結核菌と戦うのは毎度おなじみのマクロファージである.今回は,
その戦いぶりを覗いてみたい.
◆体内に侵入した結核菌は,マクロファージに捕らえられて貪食される.この時にマクロファージが“フォーク”代わりに
使う分子には,CD14や最近脚光を浴びているToll-like receptor(TLR)-2などがある.
CD14やTLR-2などの受容体による結核菌の認識と貪食
ひえ∼∼!
NADPH oxidaseによる
活性酸素シャワー
vs 活性酸素除去
ファゴソーム
リソゾーム
プロトンポンプによるH+のシャワー
vs プロトンポンプ阻害
ファゴソームとリソゾームの融合
vs 融合阻害
ファゴリソゾーム
たすけて∼!
NO!
NO!
誘導性NO合成酵素を
誘導しNOを産生!
NOとリソゾーム由来酵素による殺菌
共刺激分子やIL-12による
ヘルパーT細胞(Th1)の活性化
がんばれ∼!
ヘ
ル
IFN-γ,TNF-α,CD40ライガンド
によるマクロファージの活性化
84(180)医薬の門 2004
パ
ー
T
− 生命のダイナミズム−
*日本赤十字社医療センター内科
**東京大学名誉教授
◆結核菌を飲み込んだばかりの段階の小胞(ファゴソーム)は,マクロファージの“胃”のようなものといえる.私たちの胃
にプロトンポンプがあるように,ファゴソームの膜にもプロトンポンプがあり,ファゴソームの中が酸性になるのである.
しかし,結核菌はアンモニアを産生し,またプロトンポンプを阻害することによって,酸の攻撃をかわす.
◆「負けるものか!」とマクロファージは,NADPH oxidaseを使ってファゴソームの中に活性酸素を注入するのだが,結核
菌はsuperoxide dismutase(SOD)を使って活性酸素を消去する.
◆ところでファゴソームは,やがてリソゾームと癒合してファゴリソゾームになる.ファゴリソゾームはマクロファージの
“腸”ともいえる場所であり,そこでは一酸化窒素やリソゾーム由来の酵素による消化活動が営まれる.しかし,結核
菌は「そうはさせるか!」とファゴソームとリソゾームとの癒合を阻害する.
◆かくして消化不良に陥ったマクロファージは,ヘルパーT 細胞の助けを求める.すなわち,結核菌の断片をヘルパーT細
胞に提示して,ヘルパーT細胞からIFN-γやTNF-αなどの差し入れサイトカインをもらう.元気づいたマクロファージは,
自らTNF-αを出して自分自身を活性化して消化能力を高める.同時にTNF-αは,マクロファージを動員合体させて肉
芽腫を形成し,結核菌を封じ込める.結核性肉芽腫のプレパラートを見るとき,生命体と生命体とのダイナミックな駆
け引きを垣間見ることができるのである.
TNF-α
TNF-αはマクロファージを活性化し殺菌能力を高めるとともに
マクロファージを集めて合体させて肉芽腫をつくる
Vol.44 No.2(181)85