政治心理学(亀ヶ谷) 第4回 政党と政党支持(国民の意見を吸い上げろの巻) 1.現代政党の機能 (1)利益の集約:個人・集団の要求を政策のセットにまとめる (2)政治的リーダーの補充・選出:個人を大統領・首相・議員にして政治構造の中に就任さ せる (3)政治的社会化:人々を政治的に洗練化(ソフィスティケート)させる。政治的情報を与 え、意見を形成させ、その政治システムの価値や文化を次の世代に伝える。 (4)決定作成マシーンの組織化:内閣・大統領府を構成したり、議会の委員会・本会議で政 策を決める仕組みを作る (現代政治学事典を元に亀ヶ谷が加筆) 2.政党組織論の変遷 (1)貴族・名望家政党から近代組織政党へ(ウェーバー) もともと政党は貴族に官職任命された従属者集団。貴族が政党を変えると従った →19C 西欧で貴族に変わって名望家(聖職者・大学教授・弁護士・医師・薬剤師・富農・ 工場主など)が支配層になると選挙区ごとに副業としてクラブを作り、公職任命や選挙。 議会運営(貴族・名望家政党) →19C 後半、都市化・工業化・選挙権拡大により、クラブに変わって政党組織や党大会な どの機構が整備。選挙・政党活動を本業とする党職員の登場。党組織の官僚化・合理化(近 代組織政党) (2)幹部政党 vs 大衆政党(デュベルジェ) 幹部政党:19C の名望家政党は制限選挙の下でできたので、地方名士、選挙プロ、資産家 からなる地方幹部会(コーカス)が組織単位。政党構造は分権的で組織結束は弱い。議 会エリートが内部から形成。イギリスの保守党・自由党、アメリカの民主党・共和党な どが例。 大衆政党:19C 末~20C に社会主義者によって考案。組織単位は選挙民が個人加入する支 部(ブランチ)で、労働者を政治教育し政治エリートを補充することを目的とした。党 費をとる。支部は全ての選挙民が参加でき指導者を選挙で選ぶので民主的。政党構造は 集権的で結束力強い。党則で厳格に規定。党員が選出した党指導部が議員をコントロー ルすることになっているが、実際には党指導部と議会指導部が権力を巡って競争する。 これはもともと非政治的な集団や団体が議会の外部から形成した政党だから。西欧社会 主 義政党やカソリック政党が例。 (3)包括政党(キルハイマー) 1960 年代になると、政治の脱イデオロギー化、階級対立の曖昧化、大量消費志向の拡大 といった選挙民の意識変化によって、多くの政党で特定支持者層を対象とする従来の選挙 戦略を変更して、選挙民全体の支持を取り込む努力を始めた。→政党間で政策の差が少な くなる一方、資金調達や投票者動員のためにいろいろな利益団体に接近するので、利益の 調停が重視される。政党は特定集団の目的実現のための組織から、穏健な政策選択肢を提 示し、集団間のコンセンサス(合意)形成を図る組織に変容する。西欧の多くの社会主義 政党、宗教政党、ある程度のブルジョア政党(幹部政党)が例。日本の自民党もこれ。 ※最近はさらに大衆官僚政党から選挙-プロフェッショナル政党への変化も言われる (パネビアンコ) 3.政党システムの分類 政党システム(政党制):政党が選挙において競争し、政権担当において協力する相互 作用の構造全体 →サルトーリの類型 :政党ごとの考え方(イデオロギ-)がどれくらい離れているかで7つに分類 ①1党システム:一党独裁。旧ソ連や中国 ②ヘゲモニー政党システム:優越した1党が支配権を持つ。衛星政党。旧ポーランド -1- ③1党優位政党システム:複数政党間で競争が行われているのに1党が継続的に政権につ き政権交代しない。55 年体制の日本、1952 年以降のインド ④2党システム:いわゆる二大政党制。アメリカ、イギリス ⑤穏健な多党システム:イデオロギー距離の小さい3~5つの政党が選挙で競争しながら 単独もしくは連立して政権交代する。全政党に政権担当機会あ り。旧西ドイツ、スウェーデンなどなど。今の日本もこっちへ ⑥分極的多党システム:イデオロギー距離の大きい6~8つの政党が選挙で競争し、中道 政党が単独もしくは連立して政権を担当する。極右・極左政党は 政権から除外。ワイマール期ドイツ、イタリアなど ⑦原子化政党システム:小党乱立状態 4.はやわかり日本の政党システムの変遷 日本政治が「政治がごちゃごちゃしてわからない」のは政界再編の途中だからです (1)55 年体制 ・戦後沢山できた政党が保守・革新側ともに合同し、企業団体や農業・商業従事者を主な 支持者とする「自由民主党(自民党)」と、労働組合を主な支持者とする「社会党」に まとまった。1955 年の出来事なので「55 年体制」という。 ・社会党は自民党の半分の議員勢力だったので「1と 1/2 政党制」と言われ、政権交代な しに自民党政権がずっと続く「1党優位政党制」の時代が続いた。 (2)中道政党の誕生 ・1960 年代になって有権者の間に「支持なし層」が増えると、民社党や公明党、新自由ク ラブなど新しい政党ができたが、自民党政権は変わらなかった。 ・世の中が豊かになるにつれ、憲法改正や安保といった問題から、景気対策や予算配分の 利益分配といった問題が政治の中心になった。 ・一方、自民党の長期政権下で国会・地方議員が系列化し、派閥(誰を総裁=首相にした いかでまとまった議員グループ)の組織化が広がった。政府と党の人事は当選回数によ る年功序列となり、大臣ポストも派閥推薦による順送り人事が定着した。 (3)55 年体制の終わりと連立政権時代の到来 ・政官業の癒着が進むと、1970 年代のロッキード事件のように田中角栄首相の汚職事件ま でも起こるようになった。また派閥間の確執や締め付けから、人事面を含めた不満が自 民党議員の中にも生まれていた。 ・1993 年、小選挙区制導入を巡って自民党内が割れたことから宮沢首相の不信任決議が通 ってしまい、解散総選挙となった。それを機に自民党を離党した議員によって新党さき がけや新生党が結成された。 ・佐川急便事件、金丸信の脱税事件、仙台ゼネコン汚職事件などの影響で自民党はこの総 選挙で惨敗し初めて政権の座を降りた。一方さきがけと新生党は 1992 年にできた日本新 党とともに「新党ブーム」に乗って選挙に勝利し、細川連立政権を成立させ、55 年体制 成立は終わった。 (4)現在の状況 ・しかし翌 1994 年に細川首相が佐川急便からの借金問題で辞任すると、後継の羽田首相は 「改新」という新党構想を打ち出し、社会党以外で連立を組もうとした。これに反発して 社会党が連立から離脱して少数与党となった。自民党はなんと長年対立関係にあった(実 は裏でつながっていたけど)社会党と連立を組んで「自社さきがけ連立政権」が発足。 社会党の村山首相を首班としながらも政権に返り咲いた。その後も連立相手を変えなが ら政権に残り、現在は自民・公明・保守で連立政権を維持している。 ・一方、沢山できた新党は社会党の一部や公明党を巻き込んで新進党に合同するも再び分 裂。集散離合を重ねながら現在は民主党としてまとまってはいる。 ・上の動きとは別に、共産党は戦後ずっと独自の道を進んでいた。が、最近は独自色を弱 めるなどして政権への模索を始めている。 ・2003 年衆院選では、社共の敗北、保守新党の解党など小政党の衰退が見られ、自民・ 民主の2大政党制へ向かう兆しが見られた。 ※上でみた政党システムの変遷や分類から考えると、日本はどこにいるでしょうか? -2- 5.政党支持(政党帰属意識) ここでは「政党支持」すなわち「どの政党を応援するか」という態度について考えます。 (1)ヨーロッパ型:どの政党を応援するかは「社会的亀裂」によって規定(ロッカン) ①「中心 VS 周辺(文化・言語・民族における支配 VS 従属)」「教会 VS 政府」「都市 VS 農村」「労働者 VS 雇用者」といった利害対立のそれぞれの側に各々の利益を代表 する政党が作られる。有権者はそれぞれ「我々の党」を支持し投票する ②有権者と支持政党の間はかなり固定的(「凍結」)で、支持政党と投票政党の一致度 も高い。「支持政党とはいつも投票する政党」という理解 (2)アメリカ型:どの政党を応援するかは「政党帰属意識」によって規定 ①政党の主張の間にイデオロギー的な差があまりない。全国的な組織度も低い →プロ野球のファンと同じように、自分がどの政党の「支持者集団」に属しているか の自己定義が政党支持になる ②当然その政党に対する感情的な愛着を伴う。また家庭における政治的社会化の過程を 通じて親子間で伝達される。 ③帰属意識を持つ者にとって、政党支持者集団は準拠集団の役割を果たす=政治的な物 の考え方や行動の仕方のモデルとなる (3)日本は:「保革イデオロギー」と「社会的ネットワーク」によって規定(平野) ①政治的価値観・信条・政策的立場をパッケージにした「保守」「革新」2つのイデオ ロギーを両極とした対立軸上に各政党が位置づけられ、有権者は自分の立場に相対的 に近い政党を支持する。 ②一方、お互いが置かれた社会的立場や利益構造の類似性(社会的ネットワーク)によ っても政党支持を決める ③「保革イデオロギー」「社会的ネットワーク」の両モデルとも最近は説明力を徐々に 低下させている。→政治不信や政党イメージの不鮮明さなどもあって無党派層増加へ ④アメリカでは「強い共和党支持者」から「強い民主党支持者」までの 7 点尺度で測る が、日本はたくさん政党があるので一次元尺度でなく、「どの政党を支持するか」と 「支持の強さ」を調べる (4)無党派層の種類 ①無政党的(伝統的)無党派層:政治への知識や関心が低く、政党そのものの意味をあ まり知らない人。しかし選挙に常に行かないわけではなく、地域的組織的動員の対象 となりやすい ②反政党的無党派層:政治全般に批判的な目を持ち、特定の政党の支持から一歩引いた 立場の人。政治に対する知識や関心は持っていることが多いので、自らの批判的態度 の表出になったり自分の一票が有効と考える場合は選挙に来る ③脱政党的無党派層:支持してきた政党が消滅したり、政党や政治家の変化についてい けなくなった人。政党支持に抵抗があるわけではないので、再び特定の政党を支持 する可能性は高い (5)政党支持(政党帰属意識)の特徴(Sears & Levy, 2003) ①先有傾向としての政党帰属意識の方向は、成年期前の人生でたいてい獲得され、しばし ば親の家庭から苦労なしに伝達される ②政党のメリットに関するイデオロギーを伴っている ③生涯にわたって非常に安定的で、候補者評価や政党選挙における投票についての最も強 力な単一の要因 ④政党帰属態度の強さは、政党選挙システムにおける個人の累積的経験としてのライフサ イクルを通して増えると考えられている ⑤政党帰属意識は家族によって伝達される(離婚した親、シングルマザーの家庭でも) ⑥マスメディアは子供と政治の世界を接触させるためにもちろん重要。 -3-
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