核融合プラズマ診断用人口ダイヤモンド放射線検出器開発と その現状

核融合プラズマ診断用
人工ダイヤモンド放射線検出器開発とその現状
北海道大学大学院 工学研究科
金子純一
自己紹介(教育・研究暦)
金子 純一(J. H. Kaneko)
大学
名古屋大
原子核工学科
大学院
東京大
原子力工学科
次はロシアか?
日本原子力研究所
H6.4∼H13.3
1997 国際熱核融合炉(ITER) R&Dタスク
1999
SS55TT0696-12-03JF(ダイヤモンド)
同
T499
(水の放射化を用いた核融合出力モニター)
H13(2000).4∼北海道大学 原子*工学科 放射線計測学分野
*史上初(?) 核、力、何も無しの原子力系3学科グランドスラム達成 (だからどうした!)
放射線検出器を中心としたデバイス開発がこれまでの主な仕事。卒業研究から始
まった核融合プラズマ診断用中性子・荷電粒子検出器の開発はいまだ卒業でき
ず(>_<)/核融合実験炉クラス対応の14MeV中性子エネルギースペクトロメータは
人工ダイヤモンドでなにがなんでも完成させるが座右・・・ほとんど執念。
ダイヤモンド放射線検出器の特性及び開発目標
特長
・高耐放射線性(共有結合?)
・高温動作可能(大きなバンドギャップ:5.5eV)
・高速応答(高移動度μe:2000cm2/V・sec)
・可視光不感
・14MeV中性子と炭素の12C(n,α)9Be反応
核融合炉の
ためにある
ような半導
体材料!!
開発目標
・12C(n,α)9Be反応を利用した、D-T核融合炉におけるプラズマイ
オン温度測定用14MeV中性子エネルギースペクトロメータ
・高温・高放射線環境下においてエネルギー分析可能な人工ダイ
ヤモンド放射線検出器の実用化
ダイヤモンド検出器によるプラズマイオン温度測定
飛行時間法に必要な領域
電極
電極
ダイヤモンド
9Be
n
α0
印加電圧
14MeV中性子の測定原理
ダイヤモンド放射線検出器
‘ITER DIAGNOSTICS’,ITER DOCMENTATION SERIES NO.33(1991), IAEA,p.p.42-46 より
測定方法
飛行時間法
検出効率
寸法[m3]
備考
3×10-4
2×5×6
サイズに難
反跳陽子法
10-4∼10-5 0.4×1×2
ダイヤモンド検出器
10-3∼10-5
小さい
実現すれば理想的
10-3
小さい
耐放射線性に難
シリコン表面障壁型検出器
検出効率に難
天然ダイヤモンドと人工ダイヤモンド
14MeV中性子エネルギースペクトロメータとしての性能(エネル
ギー分解能:2%, 検出効率:>10-3, 耐放射線性:Siの100倍以上)
は天然ダイヤモンドによって実証されている
○天然ダイヤモンドから検出器として動作する結晶を得ることは非常に困難
高品質IIa型ダイヤモンドの1/1000程度、エネルギースペクトロメータグレードはさら
にその1/10∼1/30程度
○性能的にも天然ダイヤモンド本来の性能とは程遠い。
1200
部分的ではあるが人工ダイヤ
モンドは、ダイヤモンド本来の
性能を達成している。
5.486MeV
カウント
900
FWHM = 0.39%
600
5.443MeV
300
0
3328
α線に対するエネルギー分解能
5.389MeV
天然 IIa型(トップグレード)
3456
3584
チャンネル
2%
3712
高圧高温合成(HP/HT)IIa型
0.4%
人工ダイヤモンド(HP/HT IIa型)で測定し
たα線エネルギースペクトル*
* J. H. Kaneko et al, Nucl. Instrum. Meth. A422 (1999)p.p.211-215.
これまでの14MeV中性子に対する
ダイヤモンド放射線検出器の性能
200
2500
12
C(n,n)12C
12
C(n,n')12C*
C(n, n) C
2000
12
C(n, n')12C∗
計数率;∼104cps
1500
12
9
C(n,α ) Be
1000
500
150
カウント
カウント
12
12
計数率;∼30cps
12
C(n,α )9Be
12
C(n,n')3α
100
50
12
0
0
C(n,n')3α
2
4
6
0
8
10
エネルギー [MeV]
(a) 最良の天然IIa型ダイヤモンド※1
エネルギー分解能1.95%(連続値)
方法;連続測定
0
2
4
6
8
10
エネルギー [MeV]
(b) 高圧高温合成IIa型ダイヤモンド※2
エネルギー分解能9%
測定方法;最大45分間を複数回測定し積算
プラズマイオン温度測定にはエネルギー分解能2%が必要。
人工ダイヤモンド(HP/HT IIa型)は空間電荷の蓄積による分極
現象が顕著であり、エネルギー分解能も不十分。
※1 A.V.Krasilnikov et al., Rev. Sci. Instrum., 68(4), April (1997) p.1722.
※2 J. Kaneko et al., Rev. Sci. Instrum., 70(1) (1999) p.1102
HP/HT IIa型ダイヤモンドの問題点
α線
カウント
カウント/チャンネル
100
結晶厚さ:
0.1mm
結晶厚さ:100μm
電界強度: ±33kV/cm
80
−
+
印可電圧:±330V
計数率:0.01cps程度
60
H.V.
+
−
オーミック 電極(Pt)
正孔
電子
40
正孔が信号形成の主体
α線
20
0
+
+
−
0
256
512
768
H.V.
1024 −
誘導電荷量(チャンネル)
チャンネル
+
−
オーミック 電極(Pt)
電子が信号形成の主体
電子に対する著しい捕獲 → 除去が必須!!!!
徹底した結晶の
キャラクタリゼーション
結晶合成の改善
いつの間にか、キャラクタリゼーションのプロに・・・NEDO ダイヤモンド極限機能プロジェクト
CVD単結晶ダイヤモンド検出器の現状と問題点
スペクトロメータグレードCVD単結晶の合成
1997
住友電気工業
2002 デ・ビアスダイヤモンド
高いエネルギー分解能と計数率を達成。しかし、
歩留まりが非常に悪い
500
カウント
400
印加電圧: 400V (5.71kV/cm)
Gain:0.40×1k,
ST:2μs
300
200
100
0
736
768
800
832
864
チャンネル
住友電気工業製CVD単結晶ダイヤモンドを用いた
α線エネルギースペクトル測定例 *1
*1 J. H. Kaneko et al., Nucl. Instrum. Meth. A505 (2003) p.p. 187-190.
*2 G. J. Schmid et al., Nucl. Instrum. Meth. A527(2004)p.p.554-561.
デ・ビアス製CVD単結晶ダイヤ
モンドを用いた放射線検出器に
よる14MeV中性子応答関数測
定例 図(b) *2
人工ダイヤモンドの現状(まとめ)
人工ダイヤモンドによる14MeV中性子エネルギースペクトロメータを
実現するには極めて電気特性の良い理想的なダイヤモンドのバル
ク結晶が必要になる
HP/HT IIa単結晶
CVD単結晶※
窒素:1∼0.1ppm
窒素・ホウ素:0.1ppm未満
不純物
ホウ素:0.1ppm
水素:∼100ppm
結晶性
非常に優れている
やや劣る(転位欠陥)
厚さ制御 薄くても100μmが限界
容易に可能
歩留まり
良い
極めて悪い
HP/HT
不純物をいかにして低減するか
CVD
結晶性と歩留まりをいかに
してあげるか
※ J. H. Kaneko et al., Nucl. Instrum. Meth. A505 (2003) p.p. 187-190.
積層型CVD単結晶ダイヤモンド放射線検出器
Ti/Au電極
(30/20nm)
グランド
ライン
ボロンドープ
Al電極 CVDダイヤモンド
(50nm) (500ppm, 数μm)
ノンドープ
CVDダイヤモンド
HP/HT Ib型(100)
ダイヤモンド基板
金属マウント
20μm
1200
カウント / チャンネル
信号読み出し線
(正印加電圧)
1000
800
600
測定環境:真空中、室温
線源:241Am線源
shaping time:10μs
gain:0.8×500
ΔE/E=2.6%
400
200
0
0
100
200
300
チャンネル
試作検出器の構造図(断面)
5.486MeVα線に対する
エネルギースペクトル測定例
積層型構造(金属-絶縁体-半導体構造)を導入
高圧高温合成ダイヤモンドでは極めて困難な、有感層膜厚20μmでかつ歩留まり
の良いエネルギースペクトロメータグレードのダイヤモンド放射線検出器を実現
14MeV中性子応答関数測定結果2
140
120
100
カウント
「20分間測定し、一
旦印加電圧を反転
させ蓄積した空間
電荷を除去後再度
20分測定する」 →繰り返し行った。
印加電圧:+25V(12.5kV/cm)
gain:0.6×500
shaping time:6μs
エネルギー分解能:6.0%程度
12
80
60
C(n、n')3α
12
40
C(n、α0)9Be
20
0
0
2
4
6
8
10
エネルギー[MeV]
12
14
14MeV中性子応答関数測定例(積算結果)
エネルギー分解能:6%、検出効率:3.2×10-7[counts/(n/cm2)]
これまでの人工ダイヤモンド放射線検出器の中で最良値
多結晶高配向ダイヤモンドを用いた位置検出器
位置検出器動作実験測定体系
5mm
Oscilloscope
電極1
50Ω
電極2
レーザー
Ch1
50Ω
Ch2
ボロンドープダイヤモンド
高配向膜ダイヤモンド
YAGレーザ
パルス幅:100psec 波長:213nm
周波数 :10Hz
強度 :1.8mW
検出器写真
位置検出の原理と測定結果
位置検出原理
電極1
電極2
1.0
ボロンドープダイヤモンドによる抵抗
R
a b
bI
② ①
R
aI
aR’ bR’
① aI ③
② bI ④
③
④
3
⑤ 4aI
1
⑥ 4aI
1
1
+ ⑥ = 4aI + 2bI
1
3
+ ⑤ = 2bI + 4aI
1
bI
2
1
bI
2
電極1に流れる電流量 : 電極2に流れる電流量
=電極2から照射位置:電極1から照射位置
= (2b+a) : (2b+3a)
0.9
0.8
Ideal
0.7
Total current
R
⑤ ⑥
Current flowing to terminal 1
R
③ ④
0.6
0.5
0.4
0.3
0.2
0.1
0.0
0
1
2
3
4
Distance from the left edge of
sensitive area(mm)
5
各照射位置における端子1に流れる電流と
端子1、2に流れる総電流との比
高圧高温合成法によるダイヤモンドの合成
加圧
超硬合金製
ピストン
黒鉛 溶媒金属
高温
低温
圧力媒体
種結晶
合成したダイヤモンド
ヒーター
(1300℃)
加圧
(5GPa)
μ波プラズマCVD法によるダイヤモンドの合成
合成条件
マイクロ波出力:3800W
反応圧力:1.6×104Pa
ガス組成: CH4 4sccm
H2 96sccm
基板温度: 960℃
成長速度: 2μm/h
マイクロ波
発振器
(2.45GHz)
プラズマ
従来と比べ10倍
程度の高速合成
ホルダー
基板
ダイヤモンド放射線検出器の動作原理
ダイヤモンド
α線
+
−
+
×
中性子
捕獲
+
−
−
正孔
電子
誘導電荷Q
誘導電荷Q
q0
q0
電子と正孔
のドリフト
正孔のドリフト
時間
Q=q0
(電子のドリフト距離+正孔のドリフト距離)
電極間距離
q0:生成した電子(正孔)の電荷量
誘導電荷
(電流パルス)
電子のドリフト
時間
結晶を薄くすることにより
電荷収集率向上可能
試作したダイヤモンド放射線検出器
ノンドープCVD
ダイヤモンド
Al電極
(0.02μm)
Ti/Au電極
(0.03/0.02μm)
1mm
α線エネルギースペクトル測定
ダイヤモンド
13μm
α線
×
+ ++
−−−
カウント / チャンネル
Al電極
Bドープ
ダイヤモンド電極
1200
1000
800
測定環境:真空中、室温
線源:241Am線源
shaping time:10μs
gain:0.8×500
600
400
200
正孔
− 電子
+
0
0
100
200
チャンネル
20μm
α線エネルギースペクトル測定例
積層型CVD単結晶ダイヤモンド放射線検出器の動作に世界
で初めて成功し、歩留まりも良好。電子への電荷捕獲が顕著
であったためα線のエネルギー分解能は2.6%であった。
300
カソードルミネッセンス(CL)スペクトル測定
70
発光強度 [arb.u.]
60 自由励起子発光
バンドA発光
(∼430nm)
(235nm)
50
40
電子線加速電圧:15kV
プローブ電流:2×10-6A
30
20
10
200
300
400
500
600
700
800
波長[nm]
CLスペクトル測定例
完全性の高い結晶に見られるバンド間遷移による自由励起子発光
と転位欠陥に起因すると考えられているバンドA発光が観測された
結晶品質に問題がある
試作検出器の動作のまとめ
・電荷捕獲を低減する目的でCVD単結晶ダイヤモンドを採用した
・採用したCVD単結晶ダイヤモンドの歩留まり悪さを改善する目
的で、厚さ20μmの積層型CVD単結晶ダイヤモンドを用い放射
線検出器を試作した
・α線エネルギースペクトル測定において積層型CVD単結晶ダ
イヤモンド放射線検出器の動作に初めて成功。エネルギー分
解能は2.6%であった。
・CL測定では完全性の高い結晶に見られる自由励起子発光と
転位欠陥に起因するバンドA発光が観測された
・
今回の試作検出器は歩留まりが良く、更に高速合成・
低コスト化の可能性もある
How to improve the crystalline quarity
2. Brush up growth condition of
non doped layer.
3. Luck !!!!
We have an
answer.
We believe that we can
realize a practical energy
spectrometer in near future.
FE
CL Intensity [arb.units]
1. Improve the fabrication process
of the B-doped layer.
100 µm
CL (235nm)
200
400
600
Wavelength [nm]
800
An example of CL spectrum of CVD
single-crystalline diamond on HP/HT
diamond substrate.
D-T核融合炉におけるプラズマイオン温度測定
D-T反応以前のプラズマイオン
温度を反映したエネルギー広が
りを持つ(ドップラー効果)
プラズマイオン温度が等温
マクスウェル分布と仮定
ΔE = 177√
Ti
ΔE [keV]:ピーク半値幅
Ti [keV]:プラズマイオン温度
中性子強度
核融合炉内で発生する
D-T反応14MeV中性子
ΔE
中性子エネルギー
検出器に要求される性能
エネルギー分解能:2%
検出効率:10-5
ダイヤモンド放射線検出器の使用可能範囲
*2001年3月原研ニュースより転載