稚内市虐待防止検証報告書 - wakkanai info web

児童虐待防止個別ケース検討会議報告書
平成21年9月
稚内市児童問題連絡会
〔要保護児童対策地域協議会〕
はじめに
この児童虐待防止個別ケース検討会議は、本年 3 月、当市におい
て、4歳男児が保護者(実母・内縁の夫)からの虐待により、幼い生命
が奪われるという痛ましくて残念な死亡事例について、平成20年
3月4日付雇児総発第 0314002 号の厚生労働省雇用均等・児童家庭
局総務課長通知「地方公共団体における児童虐待による死亡事例等
の検証について」の 9「児童相談所又は市町村等による検証」に基づ
き実施されたもので、北海道の検証結果を受けて具体的に実施すべ
き改善策を検討するために、要保護児童対策地域協議会である稚内
市児童問題連絡会が実施したものである。
ケース検討会議では、本件が本児の通所する保育所から旭川児童
相談所稚内分室(以下「児童相談所」とする)へ直接虐待通告があり、
稚内市や稚内市教育委員会の関係機関が少なからず関わりを持ちな
がら、未然に防ぐことができなかった事実を真摯に受け止め、今後、
稚内市における児童虐待を含む困難事例が生じた場合に、その解決
策や予防策をどのように図っていくのかを中心に検討した。
1.本事例の虐待に対する認識について
すでに、北海道社会福祉審議会において本件の概要及び「児童相
談所」の対応等について検証が行われ、その結果が「検証報告書」
として取りまとめられているところである。
稚内市における問題点を整理していくと、本事例については、要
保護児童対策地域協議会としての稚内市児童問題連絡会が、
「児童相
談所」の専門的対応に任せ、地域協議会の本来的な役割である「ケ
ース検討会議の開催による複眼的な判断」を関係機関で共有できな
かった問題が大であるとの認識に至った。
〔1〕
これは、この事例を「児童相談所」が、新しい家族関係を構築し
ていく中での「保護者に対する育児支援」という方針を決定し処遇
したことから、稚内市では「児童相談所」の保護者への助言指導ケ
ースとして扱い、本ケースを「稚内市児童問題連絡会の個別ケース
として捉えなかった」という経過をたどり、結果、関係機関の連携
が十分にとられず、保護者による虐待死事件に発展したとものと受
け止めたところである。
本来は、要保護児童対策地域協議会としての稚内市児童問題連絡
会が、
「児童相談所」と連携をしながらも、地域協議会として独立し
た機関として、関係者から本ケースが児童虐待のリスクの高さがあ
るとの指摘を受けたことを重視し、独自にそのケース検討会議を開
催する必要があった。今後の稚内市児童問題連絡会の運営について
は、この反省に立っての対応が求められる。
2.問題点の整理について
問題点として整理されたことは、
1.要保護児童対策地域協議会の運営が組織的に機能していなか
ったこと
2.関係機関において十分に通報体制の仕組みについての理解が
なされていなかったこと
3.再発防止に向けた取り組みについて
〔1〕稚内市児童問題連絡会の要保護児童対策地域協議会としての自立性確保
稚内市児童問題連絡会については、平成 14 年 6 月に児童問題に関
わる関係機関・団体が虐待相談や養育困難事例に連携してケースを
取り扱い、問題解決に向けて相互協力するという設立主旨であった。
今回の事件で明らかになったように、
「第一受理機関の主導におい
て、ケース検討会議の必要性はない」とした場合、関連する関係機
〔2〕
関からのケース検討会議の開催の提案が実現しなかったという現実
を受けて、今後については、稚内市児童問題連絡会において受理し
た全ケースにおいて個別ケース検討会議を開催し、リスクアセスメ
ント(※注 1)による共通認識の下、関係機関の対応について協議しな
がら問題解決を図っていくべきである。
また、個別ケース検討会議に関わる機関・団体と構成員は、その
知り得た情報について、厳格に守秘義務を守る事を常に念頭に入れ
ながら、お互いが安心と信頼のもとに情報を共有できるよう心がけ
ていく必要がある。
※注 1 リスクアセスメントとは、虐待のリスクを子ども、保護者、養育状況な
どを細分化し多様な側面から、危険度を点数化し評価することです。
〔2〕通告体制の確立について
①児童虐待防止のための通告施設の表示と周知
すべての子どもの健全育成は、私たちの希望と責務である。すべ
ての市民が、児童虐待とその疑いを発見したときは、直ちに児童相
談所、稚内市、警察などへ通告することは勿論のこととして、日々
子どもたちに接する保育所、幼稚園、学童保育所、児童館、小・中
学校、つどいの広場、子育て支援センター、活動拠点センター、病
院等の施設が、子どもに児童虐待と疑われる怪我やネグレクトと思
われる状態の場合、通告義務施設であることを保護者へ強く認識し
てもらうことが必要である。そのために施設等の入り口に大きく、
児童虐待通告義務施設と表示することを全市的に実施すべきであ
る。
このことのねらいは、保護者に対して、子どもに対する虐待を疑
わせる傷・ネグレクトのあった場合などは、見過ごすことなく義務
として通告するという実際を知らしめ、結果として、児童虐待防止
と予防の抑止力としての役割を期待してのことである。
また、この種の問題で「なぜ通告した」という保護者からの苦情・
トラブルが実際にあることから、児童虐待の通告は「子どもの側に
〔3〕
たって判断する」ことを保護者及び関係者に明確に周知し、地域ぐ
るみで虐待防止に取り組む意識の啓発を図るべきである。
②児童虐待対応マニュアル、児童虐待等要保護児童問題の通告票の作成
これまで、国及び北海道の作成した「子どもへの虐待対応マニュ
アル」(関係機関初期対応実践編)を学校、保育所、幼稚園等に配布
して理解を促してきましたが、このたびの事件を教訓化し、稚内市
の通告票及びアセスメントシート(※注 2)を作成して関係機関・団
体に配布する必要がある。
これは稚内市の児童虐待への対応を情報として共有するととも
に、虐待通告と迅速な対応をマニュアルとして関係機関・団体に
周知し積極的に活用してもらうためである。
※注2
アセスメントシートとは、各関係機関・団体が個別に有する要保護
児童の情報を集約し、危険度等を評価し対策の手立てを考えるため
の文書様式のことです。
〔3〕研修会の充実について
児童虐待、養育困難事例について積極的な研修会を実施し、児童問
題連絡会の活動の意味や意義についても理解を深める活動が必要で
ある。そのために開催される研修会は、通告や対応、地域における
見守りのあり方、虐待マニュアル、アセスメントシートの活用等具
体的な研修内容で実施する必要がある。
児童虐待についていえば、保護者の親権が現実的には強く、保護
しつけ
者の 躾 としての懲戒権や子どもに対する扱いについて、「虐待」と
指摘し対応するには、一歩間違えれば、個人情報の保護・人権問題
にまで発展しかねない局面に立ちながら対応しているのが現実であ
る。そうした現実問題も包含した実践的研修会を関係機関と連携し
て実施していく必要がある。
〔4〕
〔4〕児童保護に対する社会的資源の充実について
稚内市には従前から一時保護施設や児童養護施設、児童家庭支援
センター(※注 3)、ファミリーホーム(※注 4)といった社会資源がない
ため、一時保護の実施については、市内の里親の協力や近いところ
でも美深、旭川といった遠隔地の施設を活用せざるを得ない状況で
す。このために、要保護児童やその家族に対する負担も大きいこと
から、児童の自立や家族の再統合を考えた場合には、是非とも稚内
の地域における児童保護に係る社会資源を早急に確保すべきである。
しつけ
※注3
児童家庭支援センター24時間体制で児童虐待、育児、 躾 、ひきこ
もり、思春期等の相談に対応するほか、市や児童相談所と連携して
児童問題を取り扱い、一時保護も可能な施設のことです。
(養護施設などに併設される施設)
※注4
ファミリーホーム(小規模住居型児童養育事業)とは、家庭的な環境
の下での5~6人程度の子どもを受託し養育者の住居で生活しなが
ら養育する事業のことです。
むすびに
本検討会議では、稚内市における今後の児童問題について、各委
員が二度と再びこうした悲しい事例が起きないように再発防止を強
く願って、北海道社会福祉審議会の報告書を読み解き、要保護児童
地域協議会としての稚内市児童問題連絡会の組織運営や虐待防止に
向けた具体的な取り組みについて、微力ながら提案させていただき
ました。
これらの提案事項の実施にあたり、関係機関・団体の皆様のご理
解とご協力をお願い致します。
今後、児童問題に取り組む関係機関・団体及び全ての子育てに関
係する団体の皆様が一層の連携と情報共有を果し、地域ぐるみで児
童虐待や困難事例の解決に取り組まれることを強く要望します。
稚内市児童問題連絡会 児童虐待防止個別ケース検討会議
委員長 稚内市教育相談所 所長 平間 信雄
〔5〕
稚内市児童問題連絡会〔要保護児童対策地域協議会〕
・児童虐待防止個別ケース検討会議
検討委員名簿
区
分
関係機関名
児童福祉関係
保健医療関係
教育関係
役
氏
名
摘
要
稚内市民生児童委員連絡協議会
児童福祉部会長
中村
佳臣
稚内私立保育園協会
会長
橋本
智恵子
旭川児童相談所稚内分室
分室長
野沢
修一
稚内市保健課
主幹
笠川
利枝子
稚内市校長会
事務局長
但田
勝義
稚内市教育相談所
所長
平間
信雄
稚内私立幼稚園協会
会長
根本
綾子
稚内人権擁護委員協議会
子ども人権委員会
委員長
中村
祐美子
副委員長
事務局長
五井
道義
起草委員
教授
中村
正人
起草委員
施設長
吉田
一栄
北海道子どもの虐待防止協会
道北支部宗谷地区
会長が指定する者
(稚内北星学園大学)
会長が指定する者
(オアシス保育園)
警察・司法
その他関係機関
職
検討経過
平成21年7月23日
平成21年8月 6日
平成21年8月11日
平成21年8月24日
平成21年9月 7日
平成21年9月11日
平成21年9月28日
第1回児童虐待防止個別ケース検討会議
委員長、副委員長、起草委員会議
第2回児童虐待防止個別ケース検討会議
第3回児童虐待防止個別ケース検討会議
第4回児童虐待防止個別ケース検討会議
委員長、副委員長、起草委員会議
報告 (関係機関・団体に検討結果報告書配布)
〔6〕
委員長