アマチュア無線を活用した校内 LAN について

魚津工業高等学校
アマチュア無線を活用した校内 LAN について
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1. はじめに
学校へのインターネット(Internet)の導入が進められていますが、通常の授業でインターネット上の情報
を活用するためには、全ての教室にインターネットに接続されたコンピュータが必要となってきます。そこで
本校では、昨年のインターネット接続にあわせて、校内 LAN の構築・整備を進めてきました。
その結果、職員室を中心に多くの場所・部屋で、Web ページの閲覧や、電子メール(E-Mail)の送受信と
いったインターネットのサービスが利用できるようになっています。
この校内 LAN の構築にあたっては、校舎中の屋根裏や天井に Ethernet 10BASE-T や 10BASE-2i の
LAN ケーブルを張り巡らせましたが、そのケーブルの引き回しには大変苦労しました。しかし、別棟になっ
ている校舎や体育館など、どうしてもケーブルをはわせるのが困難な部屋・場所もあり、現在でもインター
ネットが利用できない場所・部屋がいくつかあります。
このような状況を解決し、校内のすべての場所・部屋でインターネットが利用できるようにするため、電気
通信部の生徒たちと一緒に取り組んでみました。
2. 接続方法の比較検討
まず、LAN ケーブルで接続できない部屋・場所のパソコンをインターネット(校内 LAN)に接続する場合、
どんな方法があるかを調査したところ、次の方法で実現可能であることがわかりました。
そして、これらの接続方法のそれぞれについて、導入コスト、維持費、通信速度、拡張性、の観点で比較
してみました。
① 無線 LAN アダプタを利用して接続する(無線 LAN アダプタ)
教室内 LAN を想定した安価な製品も発売されているが、接続可能な距離が数十 m と短く、LAN 間接
続には使用できない。100m を超える接続や LAN 間接続が可能な製品は、百数十万円と高価。
② 専用線を敷設して接続する(専用線)
既存の校内 LAN をインターネットに接続しているように、追加で専用線を敷設する。学校施設が飛び地
になっている場合にも有効だが、回線使用料(維持費)が倍増してしまう。
③ アマチュア無線による接続(アマチュア無線)
LAN ケーブルをはわせることのできない部分を、アマチュア無線のパケット通信を利用して行う。
表 1 接続方法の比較検討
①無線 LAN アダプタ
②専用線
③アマチュア無線
導入コスト
△ ~ ×
維持費
○
通信速度
○
拡張性
△
(15 万∼百数十万円)
(電気代のみ)
(数 Mbps)
(拡張に制限)
△ ~ ○
○
×
×
(数十万円)
(回線使用料)
(数 kbps∼数 Mbps) (柔軟な拡張が可能)
○
○
△
○
(10 万円程度)
(電気代のみ)
(数十 kbps)
(柔軟な拡張が可能)
表 1 のように、アマチュア無線による接続は、通信速度こそ数十 kbps と他の接続方法より劣るものの、導
入コストや維持費といった観点で勝っていることがわかります。
i
10BASE-T と 10BASE-2 … ともに LAN 構築時に利用するケーブルの種類。10BASE-T は電話線に似た非シールド
のより対線で、10BASE-2 は直径 5 ㎜の同軸ケーブル。取り扱いが容易なこともあって、10BASE-T の方がよく利用さ
れている。ネットワークのセグメント長は、10BASE-T が 100m、10BASE-2 が 50m に制限されている。
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3. アマチュア無線を利用した接続
3.1.ハードウェアの構成
LAN ケーブルでは接続できなかった場所・部屋のパソコンは、アマチュア無線機と 2 台のゲートウェイ端
末を用いて、校内 LAN に接続します。
(下図参照)
この構成では、ゲートウェイ端末間のアマチュア無線機を利用した通信は必要に応じて自動的に行われ
るので、網掛部分の端末はアマチュア無線を利用していることを意識せずに、校内 LAN に接続できます。
新川教育ネットワークへ
(Internet)
校内イントラネットサーバー
アマチュア無線の
430MHz 帯による AX.25
10BASE-T/2
HUB
端末
無線機
無線機
端末 端末 端末 端末
ゲートウェイ端末
端末
端末
10BASE-T
端末
図 1 アマチュア無線を利用した接続図
アマチュア無線を利用してデータ通信を行う場合、無線機(トラン
シーバ)だけでなく TNC という装置が必要になります。TNC とは、
電話回線を利用したデータ通信におけるモデムと同じ役割を果た
すだけでなく、パケット通信プロトコル AX.25ii を使用したパケット通
信を可能にする装置です。
今回の実験では、トランシーバと 19.2Kbps での通信が可能な
TNC が一体型になった東野電気 PMT-192Lを使用しました。
(右図
参照)
図 2 使用したアマチュア無線機
(トランシーバ+TNC)
3.2.ソフトウェアの設定
校内LAN は、インターネットに接続可能な
表 2 各種 OS の機能対応表
なイントラネット(Intranet)として構築されて
AX.25 のサポート TCP/IP の中継
いるので、各端末iii間の通信は TCP/IP プロ
トコルを用いて行われています。
Linux
○
○
ゲートウェイ端末は、校内 LANで使用して
FreeBSD
×
○
いる TCP/IP と無線機間をつなぐ AX.25 を
Windows 95/98
×
×
相互に変換して中継する役割を果たしてい
ます。そのため、ゲートウェイ端末は AX.25
Windows NT
×
○
をサポートしていて、TCP/IP を中継できなけ
Mac OS
×
×
ればなりません。今回の実験では、右表のよ
iv
うに両方の条件を満たしている、Linux をイ
Linux ivをインストールしてゲートウェイ端末を構築しました。
AX.25 … AX.25とは、有線用のリンク層プロトコルである X.25 を、アマチュア無線用に拡張したもの。
校内 LAN に接続されている端末 … TCP/IP プロトコルでデータを送受信できれば、Windows 95/98、Windows NT、
FreeBSD、Linux、Sun、Macintoshと、どんなプラットフォームでも構わない。
iv
Linux … Linux は FreeBSDと同様に、昨年から Windows 95 などが動作する PC/AT 互換機で動作する UNIX と
して注目されています。今回の実験では、Slackware 3.6 を利用しました。
ii
iii
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3.3.運用上の制限
ゲートウェイ端末−ゲートウェイ端末間の通信は必要に応じて自動的に行われますが、アマチュア無線
を利用して行う通信である以上、各種の法令を厳守しなければなりません。そのため、以下のようなことを
注意しなければなりません。
・無線機を稼働させる者は、アマチュア無線の有資格者でなければならない。
ゲートウェイ端末間の通信は、必要に応じて自動的に行われるが、ゲートウェイ端末間の通信
(すなわち、無線による通信)が必要になる行為は、アマチュア無線の有資格者でなければ行
えない。
・アマチュア無線通信には、秘話性がない。
アマチュア無線では、送信内容(通話内容)の暗号化が禁止されている。すなわち、電話回線
のように秘話性が確保されておらず、他人に傍受される可能性vがある。
4. 実験結果
4.1.設置環境
今回の実験では、校内のイントラネットサーバーが設置されている小会議室(右図の左下)と、電気通信
部の活動場所である部室(右図の右上)をアマチュア無線で接続しました。それぞれの部屋は、右図のよう
に直線距離で 60m 離れています。
小会議室と部室の両方に、Linux をインストールしたゲートウェイ端末を設置し、部室側のゲートウェイ端
末に Windows 95 がインストールされたノートパソコンを端末として接続しました。
(図 4 参照)
図 4 部室側の接続図
ゲートウェイ端末
端末
無線機
(ノートパソコン)
10BASE-T
図 3 無線で接続した場所
(クロスケーブル)
図 5 屋上にアンテナを
設置している様子
v
直線距離 60m
図 6 小会議室側の
ゲートウェイ端末
通信内容が傍受可能 … 理論的には、同等の設備を有していれば通信内容を傍受可能です。しかし、アマチュア無線を
利用して行っているデータ通信は、パケット通信であるため簡単には復調できない。
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4.2.利用できたサービス
部室側のゲートウェイ端末と端末で、校内 LAN とインターネットのサービスが利用できるかを確認したと
ころ、以下のように一般的なサービスはすべて利用可能でした。
利用できたサービス:
・
TELNET
・
FTP(アップロード、ダウンロード)
・
電子メールの送受信
・
Web ページの閲覧
表 3 部室側での転送速度
FTP によるダウンロード(1MB)
Web ページの表示(35KB)
要した時間
11 分 53 秒
75 秒
転送速度
1.48KB/Sec
470B/Sec
また、部室側の端末において、FTP によるダウンロード、Web ページの表示に要する時間を測定して、
転送速度を確認しました。
(表 3 参照) 結果からわかるように、FTP のように連続したデータ転送であれば
1.5Kbyte/sec 程度の転送速度が得られています。
4.3.遠距離接続の確認
電気通信部の部室での動作を確認したことで、60m 離れた地点から校内 LAN に接続できることが確認
できました。そこで、校外からも接続できるかを確認するため、学校から 12km 離れた自宅に、電気通信部
の部室と同様に図 4 の機器を設置し、同様に接続できるかを確認したところ、自宅でも電気通信部の部室
と同様に、電子メールの送受信や Web ページの閲覧が行えました。
一般的に、10Wクラスの無線機を使用した場合、430MHz 帯の周波数で通信していれば、数十 km の通
信が可能viです。
5. 今後の課題
今回の実験から、以下のような課題が考えられます。
・データ転送速度の高速化
① 2400MHz 帯の周波数で SS 通信(スペクトラム拡散通信)を行えば、数百 Kbps の転送速度で
データ通信が行う。
② 無線設備を 2 組使用することで、送受信の切り替え時間をなくすとともに、送信と受信を同時に
行えるようにする。
(半二重→全二重)
・ データ転送の効率化
ゲートウェイ端末自身がサーバーの役割を果たすことで、応答時間のボトルネックとなっている
アマチュア無線にデータ通信の回数を減らす。
・ セキュリティの強化
同じ構成の機器を所有している第三者が、校内 LAN に接続できないようにユーザー認証を行
う。
6. おわりに
今回の実験を行ったことで、LAN ケーブルで校内 LAN に接続できない場所・部屋であっても、アマチュ
ア無線を利用して校内 LAN に接続できることが確認できました。転送速度が 1.5Kbyte/Sec とそれほど高
速でなく、利用者はアマチュア無線の資格を持っていなければならない、といった制限もありますが、有資
格者が電子メール用途に限定するのであれば、十分に実用できるレベルにあると言えます。
また、無線 LAN は景観にもやさしく、災害時においてはバックアップ回線としても使用できたり、不登校
生徒への遠隔教育も行えたりと、その利用は広範囲に渡ります。学校へのインターネットの導入に際して
は、このような無線 LAN も有効に活用してゆく必要があるのではないでしょうか。
vi
アマチュア無線の通信可能距離 … 見通し範囲での通信が基本だが、ある程度の障害物があってもさほど問題はない。
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