No.05 - ケーブルテレビ品川

品川区立荏原第一中学校
学校だより
一千の瞳
平成28年 9月1日 No.5
校長 小宮山 琢磨
http://school.cts.ne.jp/ebara1/index.html
「みんな違って、みんな良い」
夏季休業中は、生徒の活動について、地域や保護者、品川区に関わる方々には大変お世話になりまし
た。特に、7月に小山小学校で行われた荏原第一地区区民まつりでは、吹奏楽部の演奏に加え、社会を
明るくする運動の啓発活動、模擬店運営など30名以上の生徒会ボランティアに活動の場を与えていた
だきました。恒例のかき氷は、天気の後押しもあり、およそ800杯完売でした。本校の生徒会は、売
上金と募金活動の合計50,097円を、熊本にユニセフを通して募金することができました。生徒会
の取組、支えていただいた地域の皆様に、心より感謝いたします。
また、部活動、集団討論練習会、学習計画の立て方講習会などの活動を行いました。特に、部活動に
ついては、保護者の皆様にご支援をいただきました。生徒は、家庭学習など個人としての取組も加えて、
2学期大いに成長していくと確信しています。
さて、私は、24年前に異動したばかりの中学校で演劇部の顧問を引き受けたことがあります。その
夏、演劇部未経験の私は、学校事情とやる気溢れる生徒に引っ張られ、保護者に支えられて、手探りの
状況で舞台づくりに取り組みました。演目はすでに前年度から決まっていて、1961年に出版された
ハンス・ペーター・リヒターの同名小説「あのころはフリードリヒがいた」を舞台演劇用に脚本にした
ものでした。第二次大戦下のユダヤ人迫害により、ドイツ人とユダヤ人の子供の友情が切り裂かれてい
く様子を描きながら、戦争の悲惨さと平和を訴える作品です。1学期から部内でのオーデション、夏季
休業中の練習、校内文化祭での発表と続き、11月の区大会で1月の都大会への参加資格を得ることが
できました。苦難を乗り越えながらも順風と思っていた都大会本番の2週間前、フリードリヒ役のMさ
んが足を骨折してしまいました。2週間で膨大なセリフや動きのある代役を立てるのは容易なことでは
ありません。骨折の設定で作り直すかなど冗談の笑いも続かない、辞退も止む無しという空気の中で、
その危機を救ったのが、裏方で毎日休まず、演劇部全体の練習をサポートしていたTさんでした。Tさ
んはすべてのセリフが頭に入っていました。裏方でずっと練習を支えていたので、舞台上での演出も完
璧に理解していました。とは言え、大会後に、演劇を専門にしている先生方に代役であることを伝えて
も信じてもらえないほどの素晴らしい演技になったのは、Tさんの献身的な努力でした。今から考える
と、中学生のすばらしい可能性と誠実に部活動へ取り組む姿勢に、教員として心が開かれた瞬間でした。
足を骨折したMさんは、現在、劇団に所属し精力的に舞台上で活躍しています。代役を務めたTさんは、
忙しく仕事をしながらも、劇場に足を運んでMさんを応援しています。今年の夏、Tさんと久しぶりに
会う機会があり、Mさんの舞台を観に行く約束をしました。私の教員人生の転機になったすてきな瞬間
だったと改めて伝えることができると楽しみにしています。
不思議なことに、私にとって、「あのころはフリードリヒがいた」のテーマであるユダヤ人迫害政策
を指導した「アドルフ・ヒトラー」が、夏のキーワードになりました。
戦後70年が経過した今年1月、ドイツ国内では、70年間発売禁止となっていたヒトラーの「マイ
ンカンプ(我が闘争)」が、注釈を付けて再び出版され、ベストセラーになったと報道されました。出
版にあたっては、毒に満ちた悪書か、教育の材料とするかなど、世界的な話題にもなりました。私は、
生き方や思想、指針を探していた高校生の時期に、日本語訳を購入して、わからないところは飛ばしな
がら読みました。歴史について門外漢ですが、民主主義国家で、教育に携わる者として、ヒトラーとそ
の時代について、アンテナを立てておく必要があると思っています。
7月26日に、相模原の障害者施設において、凶悪な殺人事件が起きました。亡くなられた方のご冥
福、被害に遭われた方の一日も早い回復を祈るばかりです。また、ご家族や関係の皆様の心痛を思うと、
今なお、適当な言葉が見つかりません。報道によると、容疑者は、犯行を認めた上で、「ヒトラーの思
想が降りてきた」と話し、衆議院議長公邸に犯行予告ともとれる内容の手紙を持参していたとのことで
す。事件発生の一月後、「社会の賛同を得られると思った」という趣旨の供述をし、取り調べに対して
も、障害者への差別的な発言を繰り返していると報道されました。容疑者は、ヒトラーとどのような接
点があったのだろうかと考えます。私のように「マイカンプ(我が闘争)」を斜めに読んだ結果なのだ
ろうか、強烈に突き付けられて心が震えました。容疑者の家族の説得に応じなかったという話も報道さ
れていました。本校の生徒はどのように捉えたのか、生徒の家庭では、どのような会話あったのか、な
かったのか、そして、学校では語るべきか、語るべきでないのか。津田塾大学の萱野稔人教授は、この
事件の背景について、「経済的に厳しい状況で、お荷物の面倒なんて見られない」という功利主義の考
えがうかがえるとし、メディアや知識人がきれい事ばかりでなく、『どうすれば欲求が理想をしのぎ、
憎悪や排除の感情へと傾くのを避けられるのか議論しなければいけない。』と「差別」に目を背けずに
議論をするように提言しています。家庭教育、学校教育の両者に突き付けられた課題と私は考えます。
また、この夏、ヒトラーに関する2つの作品を鑑賞しました。一つは、7月に日本で公開されたドイ
ツ映画「帰ってきたヒトラー」です。ティムール・ウェルメシュ氏の同名小説を原作としています。2
011年のドイツにタイムスリップしたヒトラーが、当時から考えると飛躍的に進歩した情報技術を利
用しながら、魅惑的な演説で人々を惹きつけていく様子を、ドキュメンタリータッチで淡々と描きます。
ヒトラーにやがて魅了されていく国民、本物のヒトラーだと唱える主人公への仕打ち、その恐ろしさに
震えました。
もう一つは、8月に下北沢で上演されたケラリーノ・サンドロビィッチ氏原作・演出の「ヒトラー、
最後の20000年~ほとんど、何もない」です。これは、2004年ドイツ・オーストリア・イタリ
ア共同制作映画「ヒトラー~最後の12日間~」の題名のパロディで、仕掛けがたくさんつまったコメ
ディでした。古田新太氏、大倉孝二氏、賀来賢人氏などファンの多い話題の役者が出演し、舞台上にた
くさんの笑いを作り出していました。その中で、ユダヤ人への迫害から、人種差別、性差別の問題、そ
して組織が極端に動いていく、人間の中に潜むヒトラー的なるものに切り込んでいるようにも感じまし
た。
私は、4月の入学式の式辞の中で「障害者差別解消法」について紹介しました。この法律の理念は、
ユダヤ人や障害者を迫害したヒトラーの思想とは対極にあるものと考えます。障害者と健常者を分けて
いるものは、社会が未整備なためだと考えることです。これまで人が進歩させてきた科学技術を、この
未整備な社会を整備していくことに使っていこうという意志です。そして、障害者を含むすべての人に
とって暮らしやすい場所にしていこうという方向を確認することです。もちろん施設面を考えたとき経
済的な問題が生じ、すぐには対応できないことも多いです。しかし、すでに、多くの企業は、開発する
商品にさまざまな工夫を施しています。障害に目を向けることは、自分自身に目を向けていることとい
う認識は、確実に広がっています。しかし、差別は、今なお、存在しています。差別は偏見から生まれ、
偏見は「ステレオタイプ」から生まれると聞いたことがあります。ステレオタイプとは、根拠が明確で
なく、言い切る文です。紋切型、レッテルと言い替えられます。当時のドイツでいえば「ユダヤ人は○
○だ。」「障害者は○○だ。」というものにあたります。演劇ではこのステレオタイプを使って説明を
省いたり、逆にはぐらかしたりします。我々の身の回りにあるものです。差別や偏見の種は、すぐ側に
存在しているということになります。SNSの登場は、ステレオタイプの発信や受信を安易に、そして
消えないものにしてしまいました。差別を起こさないようにするには、根拠がどこにあるのかを自ら明
確にしようと問い続ける力、それを支える思考力・判断力・表現力が必要です。自制心ややり抜く力も
重要です。これらは、自分の五感と心をもとに、実行する力と考えると、本校が掲げる「文武両道」そ
のものです。生徒会のSNS委員会が中心となり、クラス討議をもとに策定した「エバイチガイドライ
ン」と、家庭で話し合った「家庭SNSルール」には、このような背景があります。また、生徒には、
知識や技能の定着と、対話を大切にして根拠は何かと問うことをバランスよく配置した、授業を進めて
いく必要があると考えています。
ところで、リオデジャネイロオリンピックが終了しました。特に、今年2月に7・8年生対象にシン
クロナイズドスイミング日本代表チーム管理栄養士の花谷遊雲子さんに講演会をしていただいたので、
三大会ぶりのメダル獲得に、特別な感情が湧きました。選手、運営に関わった人、運営に協力したボラ
ンティア、実際にリオデジャネイロの会場で観戦した人、私のようにテレビなどメディアで観戦した人、
それぞれが、ひたむきに競技する選手の美しさに感動し、人は、国、民族、宗教、言語の壁を越えて通
じ合えると感じさせてくれました。IOCのオリンピック憲章は、第1章で「オリンピック競技大会は、
個人種目または団体種目での選手間の競争であり、国家間の競争ではない」と明記しています。しかし、
ヒトラーの生きたドイツの国威発揚、テロや東西冷戦時代のモスクワ大会とロサンゼルス大会への両陣
営のボイコットなどの過去もあります。現在もこの理念を守るためには冷静な判断が必要です。
いよいよ、9月7日からリオデジャネイロパラリンピックが始まります。「障害者差別解消法」の理
念や多様性への理解とその尊重について学びを深めるチャンスです。3月に7年生に講話をしていただ
いた、車いすテニスプレーヤーの二條実穂選手がリオデジャネイロパラリンピックに出場します。ベス
トプレーを期待したいと思います。また、2020年の東京パラリンピックで、品川区内の開催を予定
しているブラインドサッカーを含め、開会式、さまざまな競技を観戦し、応援したいと考えています。
世界ともだちプロジェクトの5か国の選手に注目するなど、メダル争いばかりに視点を置かず、観戦し
てほしいと思います。
さて、「品川区いじめ防止対策推進条例」制定を踏まえ、品川区
内の児童・生徒、教職員、保護者、地域関係者等、子どもの教育に携
わる一人一人が改めていじめ防止に対する意識を高めるとともに、未
然防止、早期発見・解決へ協力して取り組むことを目的とし、全校で
いじめ根絶に向けたバッジ作成を行いました。私は、本校の生徒会が
「エバード」と共に「みんな違って、みんな良い」という言葉を選ん
だことに誇りを感じています。この言葉は、小学校時代に国語科で学
習した金子みすゞ氏の詩「わたしと小鳥とすずと」の中にあります。
26歳の若さで亡くなるまで、たくさんの詩を書き残しました。19
85年の東京大学の入試問題で引用された「積もった雪」「大漁」で
も注目を集めました。今回のリオデジャネイロオリンピック・パラリ
ンピックの理念でもある多様性の理解とも共通する、鋭い感性に心を
打たれます。この言葉は、20校を越える小学校から集い学校生活を
共に送る荏原一中の生徒が心得るべき肝であると考えています。
荏原一中生徒会
いじめ撲滅キャンペーンバッジ
「わたしと小鳥とすずと」
金子みすゞ
最後に、9月17日(土)に実施予定の「地域の方に学ぶ授業」では、
多くの方のご協力により、防災をテーマに命の大切さについて学びま
す。この日に、全校生徒と共に、講師して参加するすべての皆さんにも、
上記デザインのバッジをつけて過ごしていただきたいと思います。ま
た、2学期に向けて、教職員は『信頼を、教師と共に、生徒と共に』を
体罰撲滅スローガンとして指導していこうと確認しました。2学期は、
学習成果発表会を中心に、生徒が力を発揮し、大いに成長できる行事や
取組を設定しています。地域、保護者の皆様には、本校生徒の成長のた
めに、変わらぬご理解とご協力をお願いいたします。
わたしが両手をひろげても、
お空はちっともとべないが、
とべる小鳥はわたしのように、
地面をはやくは走れない。
わたしがからだをゆすっても、
きれいな音はでないけど、
あの鳴るすずはわたしのように、
たくさんのうたは知らないよ。
すずと、小鳥と、それからわたし、
みんなちがって、みんないい
【荏原一中9月のお知らせ】
長かった夏休みが終わり、今日からいよいよ2学期が始まります。まずは、9月いいスタートを切って、充実した2
学期にしていきましょう。生徒諸君の活躍を祈念いたします。
《第2回校区外部評価委員開催》
8月26日(金)第2回校区外部表委員会を行いました。1学期の本校の教育活動につきまして委員の方々に中間報告
をいたしました。概ねいい評価をいただきました。今後の課題として指摘いただいた点を改善しながら質の高い教育を
行い、開かれた学校を目指したいと思います。
《学習計画の立て方講習会》
7月29日(金)数学室において、希望者に上記の講習会を家庭教師派遣会社のスタッフに来いただいて行いました。
学力向上に向け、計画を立てて実行することはとても大切なことです。今から習慣付けを行うと良いでしょう。計画と
は時間を有効に使い無駄を省き生活にリズムを作ることです。各自の個性を生かしてよい計画を。
《集団討論講習会》
7月25日(月)、会議室において、9時から12時まで9年生希望者を対象に3グループに分け、来年2月に行わ
れる都立高校の集団討論試験を想定して、第1回目の討論練習を行いました。日本の伝統文化について討論し自分の考
えを相手に分かるように発信する学習を行いました。JETにも参加していただき、英語でも自国の伝統文化の良さを
発揮する練習も同時に行いました。テーマは色々あるかと思いますが、どんなテーマが設定されても討論できるよう日
頃から知識を蓄え、自分の考えを簡潔に相手に分かりやすく発信できる能力が不可欠です。毎日の授業でも身に付きま
す。日頃の心掛けを大切にしてください。
これらの取り組み以外に、生徒は連日、部活動の練習に取り組んでいました。また、学校では、校内のエアコン新機
入れ替え工事、防災・消火設備の点検、校内ワックス掛け、校庭照明清掃など、2学期以降全校生徒が安全で快適な生
活が送れるよう、手を入れました。
《部活動都大会等結果》
柔道部 7月22日 第35回東京都中学校体重別柔道選手権大会 50㎏級 8年男子ベスト16
バドミントン部
6月26日
7月 3日
7月17日
7月28日
品川区バドミントン選手権大会男子ダブルス準優勝
女子シングルス優勝
品川区中学校バドミントン選手権大会女子団体準優勝 男子団体3位
第63回東京都中学校バドミントン選手権Aブロック大会 女子シングルス優勝
第63回東京都中学校バドミントン選手権大会 女子シングルスベスト16
卓球部 7月 3日 品川区中学校卓球選手権大会 8年男子 ベスト8
7月24日 都大会8年男子出場
ソフトテニス部
7月23日 第66回東京都中学校ソフトテニス選手権大会女子団体ベスト64
バレーボール部
6月26日 品川区中学校バレーボール夏季大会3位
陸上部
7月26日 第62回全日本中学校通信陸上競技大会東京都大会 3年男子100m6位
剣道部
6月26日 第1ブロック夏季剣道大会 8年男子、9年生男子 2回戦進出
硬式テニス部
7月25日 品川区民大会男子ダブルス準優勝
吹奏楽部
8月 7日 東京都中学校吹奏楽コンクール銀賞
《9月の行事》
9月1日(木)避難訓練【引き渡し訓練】
防災の日にちなみ、震度5の地震がきたことを想定し、保護者の方の引き取り訓練を行いました。
9月9日(金)生徒会役員選挙投票日
次期の新生徒会役員を選ぶ大事な選挙です。荏原一中の生徒の代表として活躍し、一中の伝統を守りつつ発展につ
なげるに相応しい人を、真剣に選んでください。
9月17日(土)地域の人に学ぶ授業
学年ごとに防災のための知識、心構えを学ぶ大切な授業です。大勢の地域の方々にもお世話になります。これを機
に、地域の有能な人材として災害時にその能力をいかんなく発揮できる人になってください。
9月27日(火)連合体育大会
今年も本校から優秀な選手が多く出場します。今後練習にますます力を入れ、当日最高のパフォーマンスを発揮し
てください。
9月30日(金)
一日で5教科の学力診断テストを行います。成功に向けて、早めに計画を立てましょう。
副校長 金子 芳郎