科 教 研 報 Vol.28 No.7 ISSN 1882-4684
日本科学教育学会
研 究 会 研 究 報 告 2014 年 5 月 31 日
島根大学
一般社団法人 日本科学教育学会
日本科学教育学会研究会研究報告
Vol.28 No.7(2014)
目次
プログラム・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1
特別講演:科学教育の現在・過去・未来-41年の理科教育実践を通して-・・・・3
杉本良一(鳥取大学)
1.地域密着型科学教室における理科教育学的課題認識と試み・・・・・・・・・・7
高須佳奈(島根大学)
2.モノづくりに関する意識調査について・・・・・・・・・・・・・・・・・・13
小林正明、小田浩平(福山大学)
3.A高等学校理数科と普通科における経験の比較・・・・・・・・・・・・・・17
宮地功(岡山理科大学)
4.大学・自治体が実施するノンフォーマル教育の現状と課題・・・・・・・・・21
-住民ニーズ調査の結果から-
前波晴彦、土井康作(鳥取大学)、岸田康正(鳥取県)
5.教師との言語コミュニケーションによる児童の概念形成とイメー化・・・・・27
古川美樹(有田町立有田中部小学校)、角和博(佐賀大学)
6.社員の防災行動とその関連要因の検討・・・・・・・・・・・・・・・・・・33
黒川達矢(㈱両備ヘルシーケア)、岡本辰夫、小山嘉紀、岡部一光、
中嶋和夫(両備介護福祉研究所)
7.「パフォーマンス構成主義」を標榜するTeaching for Understandingの授業モデルの特
徴・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・39
佐々木弘記(中国学園大学)
8.Stamp-ON:博物館展示支援システムの実装と予備的評価・・・・・・・・・・・45
石山琢子(多摩美術大学)、村津啓太(神戸大学)、加藤茂弘(兵庫県立人と自然
の博物館)、先山徹(兵庫県立人と自然の博物館/兵庫県立大学)、楠房子(多摩
美術大学)、稲垣成哲(神戸大学)、寺野隆雄(東京工業大学)
9.論理的思考力評価のための調査問題の開発・・・・・・・・・・・・・・・・・49
御園真史(島根大学)、竹崎修次、西村隆正(島根県立出雲高等学校)、
真玉保浩(島根県教育委員会)
10.中学校理科第一学年「身のまわりの物質」での授業実践・・・・・・・・・・・53
-プラスチックの性質と用途を結びつける実験方法の開発-
秋田幸彦(島根大学大学院)、高橋里美(松江市立湖南中学校)、
西山桂(島根大学)
11.天文分野に関わる教材開発-6年生理科「月と太陽」- ・・・・・・・・・・・59
武田一徹(島根大学大学院)、松本一郎(島根大学)、
伊藤英俊(島根大学教育学部附属幼稚園)
12.課題研究の指導に関する一考察(2)-W型問題解決モデルの意識化を通して-
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・65
岡本弥彦(岡山理科大学)、五島政一(国立教育政策研究所)、
小網晴男(岡山県立岡山朝日高等学校)、山本隆史(岡山県立津山高等学校)
13.中学校理科におけるイオン概念形成を目的とした電気泳動実験の導入とその
教材開発・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・69
勝部翔太郎(島根大学大学院)、園山裕之(島根大学教育学部附属中学校)、
西山桂(島根大学)
14.聴覚障害特別支援学校における理科授業の現状と課題・・・・・・・・・・・・75
塩崎絵理(元岡山大学大学院)、藤井浩樹(岡山大学)
1
日本科学教育学会研究会研究報告
Vol.28 No.7(2014)
15.文系学生を科学好きにする理科教育法の取り組み・・・・・・・・・・・・・・79
福井広和(就実大学)
16.マレーシアの初等,中等教育学校科学における教授言語に関する調査・・・・・83
北川雅直(広島県立安古市高等学校)
17.中海の湖底堆積物を用いた環境学習の実践・・・・・・・・・・・・・・・・・89
辻本彰、瀬戸浩二、野村律夫(島根大学)
18.島根大学教育学部附属中学校における放射線教育の取り組み・・・・・・・・・93
園山裕之(島根大学教育学部附属中学校)、高橋里美(松江市立湖南中学校)、
秋田幸彦、勝部翔太郎(島根大学大学院)、別木政彦(神戸市立上野中学校)、
渡部康弘(松江市立湖南中学校)、栢野彰秀、秦明德(島根大学)
19.教育学部学生の理科学習指導案作成力の向上-単元計画の分析・検討から- ・・99
栢野彰秀(島根大学)
20.数学科教員志望者を対象としたゆとり教育に関する意識調査について・・・・105
野見山真弥(島根大学教育学部数理基礎教育専攻)、御園真史(島根大学)
21.数学における誤概念のリバウンド発生プロセスに関する一考察・・・・・・・111
足立将太(島根大学大学院)、御園真史(島根大学)
22.数学における言語的コミュニケーションに関する基礎的調査・・・・・・・・117
柴原裕(島根大学教育学部数理基礎教育専攻)、御園真史(島根大学)
23.二次関数の課題による自己効力感への影響に関する一考察・・・・・・・・・123
寺本幸平(島根大学教育学部数理基礎教育専攻)、御園真史(島根大学)
24.数学的活動を取り入れた結び目理論の教材研究・・・・・・・・・・・・・・127
-ひねる!ひっぱる!ひっこめる!の実現を目指して-
掘江真由、湯浅里保、新田緑(島根大学教育学部数理基礎教育専攻)、御園真史、
小浪吉史(島根大学)
25.アニメーション教材を利用した中学校数学科第3学年「標本調査」の授業
実践 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・133
佐渡由季子(島根大学大学院)、御園真史(島根大学)
26.表を重視した「変化の割合」の指導のあり方について・・・・・・・・・・・139
柘植守(松江市立美保関中学校)
27.「初等幾何学教科書随伴幾何学講義」に見る菊池大麓の幾何学授業法・・・・・143
小浪吉史(島根大学)
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日本科学教育学会研究会研究報告
Vol.28 No.7(2014)
科学教育の現在・過去・未来
-41年の理科教育実践を通して-
Past,Present and Future of Science Education
-From Viewpoint of Practical Teaching for 41 Years杉本
良一
SUGIMOTO, Ryoichi
鳥取大学地域学部地域教育学科
Faculty of Regional Sciences, Tottori University
[ 要 約 ] 41 年 に 渡 る 筆 者 の 理 科 教 育 研 究 を 振 り 返 り な が ら , 科 学 教 育 の 現 在 ・ 過 去 ・ 未 来
について,その現状や将来の課題について,総括する。特に思考力・表現力を重視した科
学教育実践の研究課題を中心に俯瞰する。
[キ ー ワ ー ド ]科 学 教 育 , 科 学 教 育 の 歴 史 , 科 学 教 育 の 現 状 , 科 学 教 育 の 課 題 , 教 育 実 践
1
はじめに
未来に不安を与えるものとなっている。こ
筆 者 は 40 年 近 く に わ た り , 科 学 教 育 ・
のような問題を解決するためにも,その基
理科教育に携わってきた。9 年間は高校生
礎としての科学教育・理科教育等が重要な
を対象に理科教師として物理・化学・地学
役割を果たすべきものと考える。ここでは
な ど を 教 え , ま た , 7 年 間 は 現 職 の 小 ・中
科学教育の現状や将来について,一つの考
・高校の先生方に研修という形で,教材や
察を試みた。
指 導 法 に つ い て 研 究 ・研 修 を 実 施 し , そ の
2
後,鳥取大学教育学部・地域学部等におい
科学教育の目的
科学教育とりわけ理科教育は,自然や自
て は ,学 生 諸 君 ,現 職 の 小 ・ 中 ・ 高 の 先 生 方 ,
また,教員研修外国人留学生とたくさんの
然科学を教材にして,学校教育の普遍的目
人と関わりながら,もうすぐ定年退職する
標である人間形成を目的にした教育であ
こととなった。また,理科関係の学会や,
る。しかし,少子・高齢化社会の進展に伴
論文の査読,県教委の仕事など学外の活動
って,いままでに生じた環境破壊や人間疎
もいくつかこなしながら過ごしてきた。
外などの社会現象が,理科教育・科学技術
微力ではあるが,今まで努力してきたこ
の非人間的側面に原因があるようにとらえ
とは研究論文や著書にその一端は残ってい
る傾向がある。そこには科学教育の基盤で
ると思うが,理学系や工学部などの研究と
ある自然科学の科学的合理性が,十分に認
は異なって,科学教育学は地味な研究分野
識されていない可能性がある。
であると思う。しかしながら,世界に目を
第二次世界大戦後の日本は,日本国憲法
向けると,いつの間にか日本の科学技術は
にもとづき,民主的で平和な文化国家をめ
かっての世界で先頭に立つほどには至って
ざし,理科教育振興に多くの努力をして来
いないことに気付かされる。また,一昨年
た 。 理 科 の 施 設 ・ 設 備 に つ い て は 昭 和 28
の東北大震災に続く,福島第一原発の事故
年に理科教育振興法いわゆる理振法が制定
が未だ収束していないことも,科学技術の
さ れ , 昭 和 35 年 以 降 , 各 都 道 府 県 に 理 科
3
日本科学教育学会研究会研究報告
Vol.28 No.7(2014)
教育センターを設置することになった。そ
し,人間の創造した科学の価値を認め,そ
のような理科教育の振興策は着実に成果を
れを理解する教養を身に付けるなどであ
あげ,すべての小中学校に理科実験室や理
る。
科器具を整えることで,科学技術の進展に
3
大きく寄与した。
自然科学や科学技術の発展は,工業社会
科学教育の過去
理 科 と い う 教 科 は ,学 校 の 中 で 明 治 以 降 ,
から情報社会への発展など,豊かな現代社
博物学や自然の事物の羅列から始まってい
会の支えとなっている。さらに豊かな未来
る。古くは江戸時代においても,寺子屋の
社会への基礎として,また,現代に生きる
よみ・かき・そろばんの中で,薬草などの
国民の素養として,理科教育は極めて重要
学習から始まっている。
なものである。
明治維新後に学制改革により,小学校な
理科教育が自然や自然科学を教材の基盤
ど,学校制度が充実していく中で,理科も
として,人間形成を目指す教育であるとす
ひとつの教科として確立していった。
ると豊かな人間性に培う自然や自然科学の
はっきりと理科という教科が設置された
もつ教材性とはどのようなものだろう。
の は , 明 治 19 年 の 小 学 校 令 に よ る 。 し か
自然から学ぶものは,環境である自然の
し,その内容は観察・実験を主にしたもの
様々な事物・現象や自然に対する人間のか
ではなく,羅列的な知識のみを伝達する現
かわり方である。また。自然科学の教材性
代の理科教育からはほど遠いものであっ
と は ,「 科 学 的 合 理 性 」・「 創 造 性 」・「 人 間
た。やがて,産業の振興に伴い,具体的知
性」という 3 つが考えられる。
識・技能が要求されるようになり,理科も
そのような教材性を基本とする理科教育
普及していくことになる。
の目的は,自然事象に関する様々な言葉で
戦後は,中学校までが義務教育となり,
表現されるが,理科教育は,自然に学ぶ科
理科という教科は国語・算数・数学,社会
学的な見方や考え方を身に付け,自然を理
科などとともに,今日まで10年ごとにそ
解し,自己を認識しようとする人間的手だ
の内容は少しずつ改訂されながら,日本全
てとして重要である。また,人間と自然と
国で教育され,現在に至っている。
のかかわりを踏まえた科学的自然観の育成
は,理科教育の目的でもある。そのような
4
理科教育の目的には次のようなことが挙げ
科学教育の現在
現 在 の 学 習 指 導 要 領 の 告 示 が 平 成 2 0 年( 2
られる。
008年 ) 3月 28日 に 告 示 さ れ た 。 3年 間 の 移
・日常生活に役立つ科学的な知識・技能・
行 期 間 を 経 て , 小 学 校 は 平 成 23年 度 か ら ,
態度を身に付ける
中 学 校 は 平 成 24年 度 ・ 高 校 は 平 成 25年 度 か
・職業的専門的科学知識・技能を習得する
ら新しい教育課程が実施されている。小学
ための基礎を身に付ける
校 で 約 16% , 中 学 校 で は 30% を 超 え る 時 間
・社会の諸事象を科学的にとらえて理解
数の増加が行われ,学習内容の充実が図ら
し,判断する能力を身に付ける
れている。高校では4単位必修から,6単
・あふれる情報から価値ある知識や概念を
位必修とこれも多く実施されている。
受容し,生きてはたらく力を身に付ける
理科については,これまで国立教育政策
・自然に学ぶ経験を通して,生命の尊重を
研 究 所 に よ る 平 成 13年 度 及 び 15年 度 教 育 課
基本とする科学的自然観・世界観を確立
4
日本科学教育学会研究会研究報告
Vol.28 No.7(2014)
程 実 施 状 況 調 査 , IEA( 国 際 教 育 到 達 度 評
ついて,
価 学 会 )に お け る T I M S S 2 0 0 3 調 査 ,O E C D( 経
①事実を正確に理解し伝達する。
済 協 力 開 発 機 構 ) に お け る PISA2003及 び PI
②概念・法則・意図などを解釈し,説明し
SA2006調 査 な ど が 行 わ れ , そ の 報 告 書 が 作
たり活用したりする。
成されている。
③情報を分析・評価し,論述する。
④課題について,構想を立て実践し,評価
その結果,理科学習に対する意欲は,他
教科と比較して高いが,それが大切だとい
・改善する。
う意識はあまり高くなく,両者に乖離がみ
などが指摘された。
られる。また,国際的にみると,我が国の
思考力については,子どもが既有経験を
子どもの理科の学習に対する意欲は低い状
もとに対象に働きかけ,エピソード記憶か
況がみられた。また科学に対する大人の関
ら,新たな意味を構築していくことが重要
心が低いことが指摘されている。理科の学
であると考える。子どもに思考力を育成す
習の基盤となる自然体験,生活体験が乏し
るためには,子ども自身が自分で目標を設
くなってきている状況がみられ,内容の基
定し,既有の概念と意味付けたり,関係付
礎的な知識・理解が十分ではない状況があ
けたりして,新しい意味を構築していくと
ると報告された。
いう操作が必要である。したがって,子ど
また,科学的思考力・表現力が十分では
もの思考力を育成するために,日常の学習
な い 状 況 が あ る 。「 科 学 的 証 拠 を 用 い る こ
指導において,違いに気付いたり,比較し
と 」 に 比 べ ,「 科 学 的 な 疑 問 を 認 識 す る こ
たり,観察している現象と既有知識を関連
と」や「現象を科学的に説明すること」に
づける操作を獲得するような観察・実験の
課題がみられることなどが指摘された。
工夫が大切となる。
そこで,科学的な思考力・表現力の育成
表現力に関しては,対象に働きかけて得
を図る観点から,学年や発達の段階,指導
られた情報を目的に合わせて,的確に表す
内容に応じて,例えば,観察・実験の結果
ことである。このため,表現活動は,表現
を整理し,考察する学習活動,科学的な概
すべき内容を得るための活動と得られた結
念を使用して考えたり説明したりする学習
果を的確に表出する活動から成立する。し
活動,探究的な学習活動を充実するよう指
たがって,表現力の育成は子どもが,まず
導内容が改善された。
表現すべき内容を獲得し,次にそれを目的
中 央 教 育 審 議 会 が 平 成 20年 1月 17日 に 答
のもとに的確に表す力を育成することが大
申した「幼稚園,小学校,中学校,高等学
切といえる。このような表現力の育成には
校及び特別支援学校の学習指導要領等の改
タブレットPCの活用や電子黒板の活用が
善について」における,学習指導要領改訂
不可欠であると考える。
思 考 力 ,表 現 力 を 育 成 す る 学 習 過 程 で は ,
の 基 本 的 な 考 え 方 に お い て 「( 4 ) 思 考 力
・判断力・表現力の育成」で記載されてい
比べる力としての思考力,関係付ける力と
る学習指導要領改訂の基本的な考え方は,
しての思考力,表現力が重要である。
OECDの PISA調 査 の 読 解 力 や 数 学 的 リ テ ラ シ
理科の問題解決には,問題を見いだす場
ー,科学的リテラシーの評価の枠組みなど
面,仮説を発想する場面,仮説の真偽を確
を参考にし,言語に関する知見も得て検討
かめるための実験方法を立案する場面での
した結果,知識・技能の活用など思考力・
手だてなどが必要となる。
子どもが問題を見いだすために,事象の
判断力・表現力等を育むための学習活動に
5
日本科学教育学会研究会研究報告
Vol.28 No.7(2014)
中から違いを見いだすことができるように
参考文献
したり、子どもが事象を説明できる仮説や
1) 文 部 科 学 省 :「 小 学 校 学 習 指 導 要 領 解 説 - 理
それを検証する実験方法を見いだすため
科 編 - 」, 大 日 本 図 書 , 2008 , (平 成 20 年 8 月 )
に,既習の学習事項のエピソード記憶など
同 :「 中 学 校 学 習 指 導 要 領 解 説 - 理 科 編 - 」,
を想起できるようにする必要がある。そし
大 日 本 図 書 , 2008, ( 平 成 20 年 9 月 )
て ,子 ど も が 仮 説 の 真 偽 を 検 討 す る た め に ,
2)中 央 教 育 審 議 会 「 幼 稚 園 , 小 学 校 , 中 学 扱 高
仮説や実験方法と実験結果の関係から仮説
等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改
や実験を評価できるようにする。さらに,
善 に つ い て ( 答 申 )」, 2008, ( 平 成 2 0 年 1 月 )
子どもが次々と新たな問題を見いだすため
3 ) 理 科 の 教 育 特 集 :「 新 学 習 指 導 要 領 - 小 学 校
に,得た知識や技能とそれらを得る手続き
- 」, 5月 号 東 洋 館 出 版 社 , 2008
を確認し,次に追究する問題を明確にする
4 ) 理 科 教 育 研 究 会 :「 変 わ る 理 科 教 育 の 基 礎 と
などのプロセスが重要な科学教育の内容と
展 望 」, 東 洋 館 出 版 社 , 2002
なると考える。
5) 広 島 県 理 科 教 育 セ ン タ ー 編 :「 実 験 ・ 実 習 の
安 全 ハ ン ド ブ ッ ク - 小 学 校 編 - 」, 1989
5 科学教育の未来
6) 日 本 理 科 教 育 学 会 編 :「 キ ー ワ ー ド か ら 探 る
こ れ か ら の 理 科 教 育 」, 東 洋 館 出 版 社 , 1998
科学教育の将来は一体どうなるのであろ
うか。一つは学校の理科・算数・数学など
7) 杉 本 良 一 :「 理 科 実 験 観 察 に 関 す る 小 学 生 の エ
の教科は小・中・高校において,これから
ピ ソ ー ド 記 憶 」, 科 学 教 育 研 究 , 22 巻 ,
も重要な教育内容として,消滅することは
pp.171-177,1988
ないと考える。残念ながら,小学校では低
8) 杉 本 良 一 ・ 紺 野 昇
学年の理科がなくなり,生活科の中に統合
大 学 教 育 出 版 , 1998
されているが,復活の兆しはないようであ
9) 杉 本 良 一 :「 ア ジ ア の 理 科 学 習 課 程 と 日 本 の
る。それよりも英語教育やICT教育がは
理 科 教 育 の 進 む 方 向 」, 日 本 物 理 教 育 学 会 誌 ,
いり,道徳が必修となり,さらに時間数を
第 49 巻 4 号 pp.374-379 , 2001
増やすゆとりはないかもしれない。
1 0 ) 杉 本 良 一 :「 実 践 的 理 科 教 育 論 」, ふ く ろ う
出 版 , 2 0 11
また,小学校では理科を専門としている
教師が少ないことも,指導の困難を抱えて
いる現状がある。これらは,理科専科をふ
やすなど,今後の取り組みが必要である。
中・高校については,それぞれの理科の
先生方がいるが,生徒指導や校務に忙殺さ
れている現状は昔,筆者が学校現場にいた
ときとほとんど変わっていない。
終わりに,本学会が科学教育・理科教育
等、関連領域の研究者・教育者と協力する
ことより,新たな科学教育の価値や可能性
をさぐるべき努力を継続されることが,科
学教育の未来を希望のあるものに変えてい
くと信ずるしだいである。
6
「 環 境 教 育 と 情 報 活 用 」,
日本科学教育学会研究会研究報告
Vol.28 No.7(2014)
地域密着型科学教室における理科教育学的課題認識と試み
Problem recognition and new initiatives for informal education; The case of science
workshop in local communities
高須 佳奈
TAKASU,Kana
島根大学
Shimane University
[要約]本研究は地域におけるインフォーマルな教育としての科学教室に着目し,その実践にあたって課題を整理し,
それらを克服する試みを行った.本発表では,2013 年度に実施した電気に関する 3 回構成の科学教室における
教材開発と,その実践およびその成果について報告する.一連の取り組みにおける課題設定は,持続性・発展
性のある科学教室を試みるとともに,参加者(小学生親子)の世代バリアの克服またはバリアの活用と学びの
共有とし,科学史などもモチーフとした取り組みを試みた.教材開発から実践においては,科学教室主催者で
ある松江市教育委員会の協力を得て,島根県教育委員会から松江市に派遣されている現職教員らとの協働で,
より理科教育の実情を勘案した科学教室のカリキュラムと内容の構築を行った.実践の成果指標として,参加
者の自由記述を内容分析した結果,実施者の課題認識に呼応させた試みはよい成果をもたらしたと同時に,参
加保護者のニーズ把握と行った新たな課題も見出された.
[キーワード]科学教育,理科教育,インフォーマル,親子科学教室,静電気,科学史,内的バリア,
ユニバーサルデザイン
1.はじめに
今日,教育および「学び」は,初等から高等教
育機関による教授形式,つまりハイン(2010)の
定義による「フォーマルな教育」だけで取り組ま
れるのではなく,社会教育施設さらには企業・研
究機関・自治体による「インフォーマルな教育」
の機会も増えてきている.本発表では,インフォ
ーマルな教育の一つである地域密着型の科学教
室の実践において,地元自治体(松江市教育委員
会)との協働で教材開発にあたり課題の分析とと
もにそれらに対する新たな試みを含んだ取り組
みを行った.本稿では,その成果について分析し,
これを報告する.
併行して,機関の教育対象の範囲を超えてインフ
ォーマルな教育が活発に取り組まれている.例え
ば,大学主催の公開講座や授業公開・サイエンス
カフェなどがこれに相当する.また, 2013 年度
から文部科学省によって新たに取り組まれ始め
た「地(知)の拠点整備事業」
(COC 事業)では,
国としての方針が明確化している.この各地の古
藤教育機関による「社会貢献に主眼を置いた地の
共有化事業」は,インフォーマルな教育にさらな
る多様性と内容の充実化をもたらすだろう.
これら学校教育外の環境におけるインフォー
マルな教育の流れに対し,学校教育機関における
フォーマルな教育でもそれに呼応するかのよう
な流れがある.1970 年代には,科学(Science)
・
技術(Technology)
・社会(Society)の相互関連
性を重視したSTS 教育が欧米で取り組まれ始めた.
現在は,環境(Environment)の要素を取り入れ
た STSE 教育がカナダで先進的に取り組まれ,日
本でも環境等の分野に関わる理科教育に活用さ
れ始めている.近年は,さまざまな社会課題解決
に必要なイノベーションを生み出す人材育成と
して,数学(Mathematics)を取り込んだ STEM 教
育が世界的に注目され,特にアメリカで国家的に
取り組まれているほか,欧州連合やアジア諸国も,
初等教育段階から STEM 教育を導入しつつある.
自然科学と技術・社会という三者を個々に認識
し,それらの相互関係を俯瞰すると同時に,総合
的な知の活用能力の育成姿勢ができたことは,聖
2.研究の目的
1)背景分析
インフォーマルな教育は,博物館や科学館など
の社会教育施設においては,施設の役割として従
来からさまざまに取り組まれてきた.加えて,
1990 年代以降,持続可能な社会を目指すことを目
的として,アメリカを中心に形成された「企業の
社 会 的 責 任 ( CSR : Corporate Social
Responsibility)
」の概念から,企業が CSR 活動
の一環としてインフォーマルな教育に取り組む
ケースも増えてきている.さらに,2010 年に発行
された ISO26000 には,社会的責任(SR:Social
Responsibility)としてガイドライン化されてい
る.高等教育機関においてもフォーマルな教育と
7
日本科学教育学会研究会研究報告
域視されつつ社会の中に内包されていた「教育」
にとって大きな変化といえる.一方で,インフォ
ーマルな教育は,制約がないことで玉石混交の様
相を呈している.社会が一体となって育む学びと
はどうあるべきか,またそこにある課題とは何か
を考えていく必要があるといえる.
Vol.28 No.7(2014)
いて報告している(高須,2014)
.本実践では,
この方向性をさらにすすめ,小学生親子対象の科
学教室という設定において,世代というバリアを
解消または活用した実践を行うという新たな課
題設定を行った.
③理科教育分野での課題認識
インフォーマルな教育としての科学教室では,
参加者の背景把握として学校理科の内容につい
て精通しているほうが望ましいのは明らかであ
る.筆者が担当する科学教室は,松江市教育委員
会との連携で行っており,実施内容についても協
働の上で企画している.特に,担当者が島根県教
育委員会から松江市教育委員会に派遣された現
職教員・社会教育主事であることから,参加対象
者である小学生についてもその実態をよく把握
している有識者である.そういった職員より実際
的な意見を聞きながら,教材開発する環境が得ら
れたと同時に,学校の教科理科の課題解決を共有
することで,科学教育としてさらにすぐれた取り
組みとなるよう推敲を重ねながら内容を吟味し
ている.本実践では,大枠としては,①に挙げた
継続性・発展性の課題を意識して年間1テーマ,
3回完結シリーズでの講座を展開しており,2013
年度は,年間テーマを電気に設定した.
理科教育における電気に関する領域では課題
の一つとして,静電気に関する扱いがある.文部
科学省による学習指導要領上は,静電気について
の学習は,中学校第 2 学年に設定されている.以
下,中学校学習指導要領解説理科編より抜粋する
(文部科学省,2008:p40,43)
.
<内容>
2)問題の所在と課題認識
本実践を行うにあたって,以下のようないくつ
かの課題を整理した
①インフォーマルな教育としての科学教室の課
題
地域で行われる科学教室は,エンターテイメン
ト性の強い科学実験ショーから,参加者が主体的
に活動するワークショップまで講師の講座スタ
イルによってさまざまである.これについて,筆
者は,科学教室総体としては,単発的・イベント
的な傾向が強いものも散見され,単なる消費対象
としての科学となっている点について,昨年度お
よび一昨年度の科学教育学会全国大会にて指摘
し,この点に課題認識をもって実践に取り組んで
いる(高須ほか,2012 および高須・百合田,2013)
.
同様の傾向は,岡田(2007)でも指摘されており,
インフォーマルな科学教育活動全体に対して,そ
の後の継続性や発展性について疑問視している.
インフォーマルな教育は,単なる学習機会の提供
だけでなく,事後の見通しのある取り組みの欠如
が課題といえる.
②科学教育における内的バリアの形成
社会に顕在する事物や現象として表れる障壁
と外的バリアと称するならば,これに対して,筆
者はは,学習者に概念として形成されてしまう学
習・発想の阻害要素を「内的バリア」と表現し,
その存在について報告した(高須・百合田,2013)
.
この内的バリアは,フィリップ・W・ジャクソン
やベンソン・シュナイダーが提唱した「潜在的カ
リキュラム」
(Hidden curriculum)とも共通する
概念である.これは,ある枠組みや道筋の設定が,
それらの設定意図とは別のところで,異なった価
値観や認識・行動パターンを生成することを指す.
高須・百合田(2013)は,この内的バリアが,
学校教育カリキュラムそのものによって生成さ
れている可能性を明らかにした.また,この内的
バリアは学習者だけでなく,指導者にも存在して
いる.この内的バリアの視点をさらに発展させ,
筆者は,教科横断型・クロスカリキュラム型の教
材の開発に,小さな課題解決学習要素を取り込む
ことによる内的バリアの解消,つまり内的なユニ
バーサルデザイン化が有効にはたらくことにつ
(エ) 静電気と電流
異なる物質同士をこすり合わせると静電気が起こり,帯電した物
体間では空間を隔てて力が働くこと及び静電気と電流は関係
があることを見いだすこと.
<内容の取扱い>
(エ) 静電気と電流について
-前略- ここでは,静電気の性質及び静電気と電流は関係
があることを見いださせ,電流が電子の流れであることを理解
させることがねらいである.-中略- また,静電気によってネオ
ン管などを短時間なら発光させられることなど,電流によって起
こる現象と同じ現象が起こる実験を行い,静電気が電流と関係
があることを見いださせる. -後略-
静電気と電流との関連性を見出させることと
あるが,三門(1999)は,静電気と電流は同一の
電気現象だということは初学者にはイメージし
にくく,ギャップが存在すること,その要因とし
て,静電気現象が数十万ボルトにまで及ぶ高電圧
現象であるものの,流れる電流は通常わずかで,
定常的に持続しないことから,電池をつかうよう
な一般的な電流回路との共通性が見いだせない
8
日本科学教育学会研究会研究報告
ことを挙げている.学習指導要領解説での内容の
取扱いでは,ネオン管などを光らせることから電
流や電池との関連性に言及するとあるが,ネオン
管を電池で光らせなければ関係性は明らかとは
いえず,また,静電気では短時間しか点灯しない
理由などが明確に示さなければ,明確な説明をす
ることは難しい.また,徳永(1995)は,三門と
は違った視点で静電気の単元に関する課題を述
べている.すなわち,電流の正体については長い
間不明だった科学史的事実と試行錯誤の過程の
欠如や,学習者にとっての生活実践に依拠した現
象とは何かが検討されるべきだと指摘し,科学史
によって科学概念の発見過程を考察することを
提案している.本実践では,科学史もモチーフに
取り入れながら,第 3 回の静電気に関する取り組
みで,静電気から電池に至るまでをカバーする教
材開発を行う事とした.
2)実践概要
2013 年度の年間テーマ名は,親しみやすさを重
視して「電気博士になっちゃおう!」とし,3 回
シリーズでのカリキュラムを作成した.その概要
を表2に示す.
表2:実践概要
実践内容の概要
【導入:電気・電池についてどんなこと,知っている?】知識の確認や共有,自
分の記憶との関連性確立.
【LEDライトの分解】スイッチ・LED・電池・回路の確認.
【LEDライトの改造】改造で次項の実験に使う道具を自作.
【電気を通すもの調べ】学校理科と似た内容だが,次項の電池の中身および備
1st stageテーマ:
長炭電池に関する考察ポイントと金属の定義についてを含む.
電気をさがそう!電池をつくろう!
【電池のなかみ】人間電池をモチーフとした比較・演示実験.プロジェクタとスク
リーンを用いて行う.
【手作り電池】備長炭電池作成(電子オルゴールで確認).前項の電気を通す
もの・電池のなかみの内容を用い,グループ実験に発展させる.
【いろいろな電池】燃料電池の紹介.会場全体を使った爆鳴気実験.
3.実践の方法および内容
1)実践の方法
本実践は,正式名称を松江市科学教室といい,
2013 年度は,8 月 6 日・7 日,8 月 19 日・22 日,
および 2014 年 1 月 18 日・19 日に松江市内の会場
で行った(表1)
.表1内の①・②は,同じ回の
取り組みを複数会場で行ったことを示している.
1st stageテーマ:
電気をさがそう!電池をつくろう!
2nd stageテーマ:
モーターをつくってまわそう!
3rd stageテーマ:
静電気のひみつ
開催回数
開催会場
子ども
参加者数
保護者
第1回① スティックビル
38
20
58
8月7日(水)
第1回②
城西公民館
36
17
53
8月19日(月)
第2回①
城西公民館
36
19
55
8月22日(木)
第2回② スティックビル
43
21
64
1月18日(土)
第3回① スティックビル
35
22
57
1月18日(土)
第3回②
30
19
49
218
118
336
合計
川津公民館
3rd stageテーマ:
静電気のひみつ
【導入:静電気はいつおこる?】どんなときに,どのようにするとおこる,等多角的
に考察.知識の確認や共有,自分の記憶との関連性確立.
【静電気をおこしてたしかめよう】導入で参加者の回答に出てきたような静電気
の現象を追実験する.静電気をおこすのには,ストロー,ティッシュなど使用.
【静電気の性質】くっつく・はなれるという現象から2種類の帯電があることを導
き,静電気が起こる現象をアニメーションを用いて考える.
【静電気であそぼう!】静電気クラゲ,ミニ静電気シャワーの実験をおこない,
前項の内容をうけてその原理の推理に挑む.
【静電気で回転をおこそう】静電気モーターを作成する.前項までの実験で,静
電気は軽いものを動かせることを経験するが,一般的なモーターと同じ動作を
するものが工作できることに気づき,静電気の活用について発想を広げる.生
活の中に使われている静電気について紹介.
①インフォーマルな教育としての科学教室の課題
②科学教育における内的バリアの形成
③理科教育分野での課題認識
小計
8月6日(火)
2nd stageテーマ:
モーターをつくってまわそう!
【導入:電気ができることって何?】知識の確認や共有,自分の記憶との関連
性確立.電池だけでは何もできないことを導く.
【なんだか変だぞ!磁石と電気】学校理科と似た内容.簡単な回路をつくり,方
位磁針を置く.規模を拡大し,グループ実験に発展させる.
【乾電池テスターづくり】エルステッドの功績を紹介し,電気と磁気の関係性を用
いて乾電池テスターを作成した.
【電気でものをうごかすには】前項の内容をさらに発展させたグループ実験.プ
ラスチックカップやアルミホイルで作成した簡単な実験器を使用し,通電させた
導線が動き出す様子を確認.ファラデーの発見を紹介.
【クリップモーターをつくろう】電気の力を回転の力に変換することに着目して製
作を行う.制作時間は余裕をもち適宜スタッフがサポートする.
3)教材開発における視点
先の問題の所在と課題認識の項のとおり,本実
践では以下の領域について課題認識を行った.
表1:実践日時・場所および参加人数
開催日
Vol.28 No.7(2014)
①の課題(継続性・発展性)については,科学
教室全体を,3 回構成のカリキュラムとすること
で継続性を持たせ,全体として電気について,そ
の発見から活用までが見渡せるように工夫して
いる.一方,参加者が固定でないことから,各回
だけでも完結するように配慮し,継続性と完結性
を両立させた.また,すべての回で工作と実験に
取り組んでいるが,演示で行ったもの以外は,身
近な材料を用いて設計し,オリジナルのテキスト
に実験方法や,応用実験などを掲載することで,
家庭に帰ってからの発展性を意識した.
②の内的バリアの存在認識については,本実践
の科学教室が小学生の親子対象であることを生
かしてバリアの解消を試みた.具体的には,すべ
ての回で,導入として内容に関するごく簡単な質
問を行い,子ども・その保護者とも自信と疑問を
引き出す工夫を行った.会場では,グループ編成
による座席配置にしたが,見知らぬ者同士でもグ
ループ実験が楽しくなるような声かけやスタッ
いずれの実施回でも募集組数を大きく超えて
の参加希望があり,すべて抽選が行われことで,
参加者は各回で固定ではない.
各実践は,2時間の取り組み時間で,これには
最初の挨拶や講師紹介,アンケート回答やまとめ
の挨拶も含むため,実際の活動時間は1時間 45
分程度である.参加者の申込み段階の情報から 5
グループに均等にわけ,親子ともグループの実験
テーブルを囲む形で会場を準備した.機器類は,
液晶プロジェクタ,スクリーン,ビデオカメラ(映
像のライン出力用)を準備し,講座全体の流れを
逐次明示するプレゼンテーションおよび演示実
験や工作手順の説明時など手元を拡大して投影
する環境を整えた.
9
日本科学教育学会研究会研究報告
図2~4は,参加者親子の様子である.図2は
導入のクイズで答えやその表現に迷う子を見守
る親の様子だが,クイズ自体は日常生活に密着し
たもので,答えも複数あるように設定しているの
で,この時点で親には答えがいくつも思い浮かん
でいる.鉛筆を持って悩む我が子を見守り,タイ
ミングを見計らって一緒にプロセスを踏んで考
える親の姿が回を重ねるごとに多くなった.また,
科学講座には母親だけでなく父親の参加が多い
のが特長である.授業参観など母親参加に偏りが
ちな学校行事と違い,父親が子どもの学びの様子
を観察できる貴重な機会となったといえる.子ど
もたちそれぞれ工作の完成や実験の成功は,自然
と親子間で共有され,保護者自身も大いに楽しん
で参加する姿が多く見られた.当たり前のようだ
が,科学実験教室が盛んになり始めた 2000 年頃
は,子どもたちだけが実験テーブルを囲み,保護
者は会場の縁に設置された椅子に座り活動を見
守る講座スタイルが多かったことを考えると,大
きな違いといえる.さらに,工作や実験には,特
殊な演示実験を除き,日常にある素材を利用して
既製の教材セットは材料として使用しないこと
で,追体験に対する敷居を低くし,家庭でも再び
やってみようと保護者自身に思わせるような仕
掛けとなった.
図6~7は,グループ内で子どもたち同士が,
また保護者も参加して複数で協力しながら,実験
で課題を解決している様子である.実験の段階を
経させながら,
「このような工夫を行うためには
どうすればよいか」
(例:備長炭電池をもっとハ
イパワーにするにはどうすれば良いか,長い回路
のなかでも方位磁針の向きは変わらないのか)な
ど,すでに実験で得られた経験を活かす場面をグ
ループ実験に設定することで,知らない者同士の
子どもたちもそれぞれが自信と積極性をもって
参加することができた.
フの配置に努めた.グループ実験では,子どもた
ちが主体的に取り組む一方,やや解決困難な場面
をあらかじめ指導者側が把握し,保護者の知恵を
借りながら皆がいっしょになって実験できる仕
掛けと雰囲気づくりをした.
③については,先に記載のとおり,静電気と一
般的な電気(動電気)の間にある,連絡イメージ
の欠落の改善を課題認識した.説明や理論が先行
するのは不適と判断し,科学史をモチーフとしな
がら人間模様を描く形で展開することにした.こ
こでは,小学生でも保護者でも身近な静電気の発
見の歴史と,科学史における長期の研究空白期間
とその理由,電池の発見と電子の概念に至るまで
を,途中実験を交えて確かめながら解説している.
特に,静電気が電子の移動によるもので,その結
果として軽い物体を動かすことができる現象を
扱った実験や工作(ミニ静電気シャワー,静電気
モーター,静電振り子,静電ベル,静電気クラゲ
など)を重視した.これは,三門(1999)が指摘
した,静電気と電流の間にあるイメージギャップ
を,電気エネルギーが光エネルギーに変換される
様子を観察する事で埋めるのではなく,静電気は
物体に直接作用を及ぼし,一方で電池を用いたモ
ーターと同じような動作機構の観察を行う事で,
電流にはない特性と類似性のどちらにも気づく
ことができるようにしている.静電気をテーマに
扱う科学教室では,通常コンデンサの実験を行う
ことが多い(例:百人おどし,放電現象の確認)
.
今回の実践では時間の制約上それらを省き,静電
気の性質を動きで確認でき,耐電には 2 種類ある
ことなど,より基本的な内容に時間を割いた.
4)調査の実施
各実践後には,アンケートが主催者により実施
された.項目は次の通りである.
Q1 科学教室は楽しかったですか?
Q2 新しい発見はありましたか?
Q3 すすんで取り組みましたか?
Q4 約束やマナーを守りましたか?
Q5 感想 (自由記述)
Vol.28 No.7(2014)
Q1~Q4 は以下からあてはま
るものを選択回答.
とても/まあまあ/あまり
/ぜんぜん
4.結果および考察,今後の課題
1)実践の様子
実践の様子として,図1~7を示す.
図1は,本実践のオリジナルで作成しているテ
キストと,LED ライトを改造して自作した通電チ
ェッカーを用いて実験を行っている様子である.
テキストの大きさやデザインに工夫を重ねた結
果,実験の結果やメモなどを積極的にとる参加者
が非常に多くなった.
図1:実践の記録①
10
日本科学教育学会研究会研究報告
図2:実践の記録②
図3:実践の記録③
図4:実践の記録④
図5:実践の記録⑤
図6:実践の記録⑥
図7:実践の記録⑦
Vol.28 No.7(2014)
図9:アンケート結果(実施回別・保護者のみ)
また,自由記述の感想(Q5)については,文章
量が多いため,原文の掲載は行っていない.主催
者によるアンケート集計が,個別集計ではなく,
全体の数の集計だったため,詳細なテキスト分析
も不可能であったため,全体としての傾向を把握
する内容分析を行った.
結果,子どもたちからは「楽しかった・おもし
ろかった」という感想から「よくわかった」とい
う参加に対する満足感のほか,
「学校でもしない
実験ができたのでよかった」
「スーパーで買える
もので実験や工作ができるのがよかった」
「来年
も参加したい」
「興味がなかったものに興味が持
てた」といった,実施者側の課題認識①の継続性
や発展性に関する感想が多くみられ,工夫の成果
があった.また,感想自体にテキストに記載した
語句(回路・炭・備長炭・乾電池テスター・モー
ターなど)を用い,具体的な事象について振り返
りながら感想を記述できたことがうかがえた.時
間配分や,各回プログラムの静と動,場面の切り
替えなどが,参加者の年齢層にマッチし,心の余
裕をもって学びを得ることができたといえる.
保護者の自由記述には,
「わかりやすかった」
という記述が非常に多く,次いで「楽しみながら
保護者も勉強できた」という趣旨の感想が多い傾
向がある.特に,
「昔習ったことをすっかり忘れ
ているので,子どもと一緒に発見・驚きを感じた」
という記述は,多くの参加者に共通することのよ
うである.保護者が「わかる」ということは,彼
らの知識に対する自信を取り戻すことにもつな
がる.一方で保護者も楽しんで学びを得る姿を子
どもたちが目にすることで,家族の中での知的好
2)実践後のアンケート結果
実施したアンケートについて,有効回答の集計
が主催者の松江市教育委員会によって行われた.
選択回答式のアンケート結果の一部を主催者の
許可を得て図8・9に示す.
図8:アンケート結果①(子ども・保護者合算)
11
日本科学教育学会研究会研究報告
奇心や興味関心の醸成および,実際の行動につな
がるだろう.
「学校では習わない視点で学ぶこと
ができてよかった」という科学教室ならではの取
り組みに対する充実感の傾向の記述からは,実施
者の課題認識②(内的バリアの攻略)は,さきの
わかりやすさに対する感想の多さと合わせて,お
おむね達成できたと考えて良い.一方で課題認識
③に対する成果は,記述の内容分析からはやや伺
うことができないが,少数意見としてあった「目
には見えない電気が,ものを動かすことができ,
そこには電子のはたらきがあるということが,目
で動きとして見えて感動した」などから,電子の
認識という段階までは十分に機能したと考えて
よい.しかし,電子から電流までの段階について
は今後一層の教材開発が必要といえる.そのほか,
保護者の自由記述の傾向で目立ったのは,
「身近
な材料で実験できる事への驚きと家庭での再挑
戦意欲」
「子どもと一緒に体験できる有意義な時
間」といった内容である.前者はすでに子どもた
ちの自由記述の分析結果で考察したとおり,課題
認識①の継続性・発展性を,環境を家庭に置き換
えて実現することにつながる.また後者は,現在
の子育て世代のニーズと,本実践がマッチした結
果といえる.このニーズに関しては別調査が必要
ではあるが,よりよい子育て・教育環境を築いて
いくのに本実践が貢献できていること,またその
領域での展開可能性の大きさを示した.
Vol.28 No.7(2014)
岡田 努:科学史の再現実験の手法を取り入れた科
学教育プログラムの実践--社会科・理科・技術科
との関わり,福島大学総合教育研究センター紀要,
2,17-24,2007.
高須佳奈:鉱物を用いた絵の具作りを題材としたク
ロスカリキュラム型教育-現代的教育課題を見据
えた地学教育の可能性,地学教育と科学運動,
71,64-72,2014.
高須佳奈・百合田真樹人:科学教育における潜在的
カリキュラム:バリアを意識した実践と分析,日本
科学教育学会年会論文集,37,456-457,2013.
高須ほか3名:科学教育におけるバリアフリープログ
ラムの実践と検証.日本科学教育学会年会論文
集,36,422-423,2012.
高須ほか 5 名:かぐやデータの教育利用と教材開発
を目的とした学校教育カリキュラムに関する分析,
第 57 回宇宙科学技術連合講演会講演集,
JSASS-2013-4655,2013.
徳永好治:科学史の観点から見た理科教育の課題,
中学校理科教育実践講座刊行会編「新しい時代
の理科教育」,200-205,ニチブン,1995.
[謝辞]
本実践および本発表は,松江市教育委員会生涯
学習課より,教育実践の機会の提供から実践当日
の人的支援,さらに,写真資料,アンケートデータな
どの報告資料の提供に至るまで多大な支援を頂き,
感謝いたします.
5.まとめ
インフォーマルな教育のひとつである地域密
着型科学教室の実践において,現状把握から認識
すべき課題を掘り起こし,それらに対峙する教材
開発と実践の工夫を試み,その実践成果について
の分析を行った.その結果,実施者の課題認識の
多くについて,行った試みが功を奏し,一定の成
果を得ることができた.一方で,試みとして行っ
た科学教室が,参加保護者のニーズとも一致して
いたことが成功の一要因であるとも考えられ,今
後は別調査でニーズの分析を行い,インフォーマ
ルな教育のさらなる充実を目指す行動の必要性
が明らかになった.
[付記]
本研究には平成 24 年採択の科学研究費若手研
究(B) 24700870(代表者:高須佳奈)の一部を使用し
た.
[文献]
ジョージ・E. ハイン,鷹野光行訳:博物館で学ぶ,
287p,同成社,2010.
三門正吾:静電気と電流を結ぶ教材の開発,物理教
育,47(6),322-324,1999.
文部科学省:中学校学習指導要領解説 理科編,
138p,2008.
12
モノづくりに関する意識調査について
Survey on attitudes of toward manufacturing
○小林 正明*,小田 浩平
KOBAYASHI Masaaki , ODA Kohei
福山大学*
Fukuyama University
要約 本研究
小中高大学生
関
関心 興味
大
違
分
児童 生徒
調査
関
対
関心 興味 着目
結果 工作
関
興味
関心 興味 小学生
中学生 大
工作
関心 男女
変化
工作 意識調査
1.はじめに
工作やモノづくりに関する関心や興味は,性別に
関係なく誰でも同様に幼少時から抱くものである.
しかし,小学校,中学校,高等学校,大学と進学し
大学で工学を学んでいる工学部の学生をみても必ず
しも工作やモノづくりに関心や興味がある学生ばか
りではない.これらは近年問題になっている工学離
れ・理科離れの要因になっていると思われる.国際
教育到達度評価学会(IEA)が数年毎に小学生及び中
学生を対象に国際数学・理科教育調査(TIMSS)を実
施している.公表されている結果を見ると理科,数
学共に近年国際的順位が下がってきている 1).この
ことは,工学系への関心や興味がが低下しているこ
とが要因と思われる.
大学での工学離れ・理科離れを考える場合,小学校
から高等学校までの工作やモノづくりに関する関心
や興味に関する意識調査だけでなく大学生の工作や
モノづくりに関する意識調査を実施することは重要
である.今まで小学校から高等学校までの児童や生
徒を対象にした工作やモノづくりの関心や興味に関
する意識調査を実施してきた.本研究は,この工作
やモノづくりに関する関心や興味に関する意識調査
を大学生を対象に実施し,小学生から大学生までの
工作やモノづくりに関する関心や興味に関する意識
について考察を行った.
2.調査の内容
工作やモノづくりに関する関心や興味は家庭での
影響だけでなく学校での影響も考慮する必要があ
る.家庭での影響は,両親や兄弟親戚などの親族の
影響や家庭での生活習慣などが考えられる.また,
学校での影響は,友人関係や授業科目などが考えら
れる.学校での工作やモノづくりに関する科目は,
小学校,中学校,高等学校,大学とそれぞれ異なっ
ている.小学校での工作やモノづくりに関係する科
目は「図画工作」で,中学校では「技術・家庭科」
である.高等学校は普通科,専門学科,総合学科な
どがあり工作やモノづくりに関する科目は各学科に
よって異なっている.大学でも専攻学科がたくさん
なりそれぞれの専攻学科で工作やモノづくりに関す
る科目も異なっている.
今まで小学校から高等学校までの児童や生徒を対
象に行ったモノづくりに関する関心や興味みかんす
る意識調査は,工作やモノづくりに関する科目を考
慮して小学校低学年用,小学校高学年用,中学校用,
高等学校用の 4 種類のアンケートを作成した.学校
だけの影響だけでなく家庭での影響を考慮して日常
の生活態度のアンケートも作成し実施してきた.
表
調査学年 人数
小学校
小学 年生
名
小学 年生
名
小学 年生
名
小学 年生
名
小学 年生
名
小学 年生
名
中学 年生
名
中学校
中学 年生
名
中学 年生
名
高等学校
高校 年生
名
高校 年生
名
高校 年生
名
大学 福山大学
工学部 電子
工学科
名
工学部 建築建設学科
名
工学部 情報工学科
名
工学部 機械
人間文化学部
工学科
名
情報文化学科
名
本研究では大学生に対しても調査を行うため大学
生用のアンケートを作成した.大学生用のアンケー
トは小学校や中学校でのモノづくりに関する科目に
ついての設問を加えた.対象にした大学生は福山大
学工学部と人間文化学部である.
得意
苦手
3.調査の方法
モノづくりに関する関心や興味に関する意識調査
は無記名のアンケート形式で実施した.小中高等学
校を対象にした工作やモノづくりに関する意識調査
は 2011 年 7 月から 11 月にかけて実施し,大学生に
対する調査は 2013 年 10 月から 2014 年1月にかけ実
施した.小中高等学校への調査は,広島県東部の私
立小学校 2 校,公立中学校 1 校,私立中学校 2 校,
私立高等学校 2 校,公立高等学校 1 校の全 8 校で実
施した.大学生に対する調査は福山大学工学部の電
子ロボット工学科(現:スマートシステム学科),建
築建設学科(現:建築学科),情報工学科,機械シス
テム工学科,人間文化学部のメディア情報文化学科
の 5 学科で実施した.それぞれの学年と児童・生徒・
学生の数は表 1 のとおりである.
図
得意
苦手
面白
4.調査の結果
4.1 小中高校生を対象にした調査結果2),3)
小学校での工作やモノづくりに関する科目は「図
画工作」で中学校では「技術・家庭科」である.高
等学校では普通科,専門学科,総合学科などがあり,
工作やモノづくりに関する共通の科目は特にない.
そこで,小学生には「図画工作」,中高校生には「中
学校での技術・家庭科」に対して「好きか嫌いか」
について質問をした.その結果を図 1 に示す.図 1
より,小学生の児童の 80%以上が「図画工作が好き」
と回答したが,中高校生になると「技術・家庭科が
好き」と回答した生徒の割合は約 60%となった.ま
た,小学生では「図画工作が嫌い」と回答した児童
はほとんどいなかったが中高校生になると約 40%の
生徒が「技術・家庭科が嫌い」と回答した.
次に,
「図画工作,技術・家庭科が得意かどうか」
について質問した結果を図 2 に示す.図 2 より小学
図
面白
器用
普通
不器用
無回答
図
手先
器用
好
好
男子
嫌
好
女子
嫌
図
好
嫌
図
男女別
女子
好
嫌
男子
嫌
校低学年では「得意」と回答した児童の割合が多い
が小学校高学年では「得意」と回答した生徒の割合
は急激に減少している.小学校低学年は「苦手」と
回答した児童の割合は少ないが中高校生になると
60%以上の生徒が「苦手」と回答している.
次に,
「図画工作,技術・家庭科が面白いかどうか」
について質問した結果を図 3 に示す.図 3 より,小
学校の低学年から高等学校にかけ,図画工作や技術・
家庭科に関する興味がだんだん少なくなっているば
かりではなく,
「つまらない」と回答した生徒の割合
が多くなっている.
図 4 に「手先が器用かどうか」の結果を示す.図
4 より「器用」と回答した児童生徒は小学校高学年
で急激に減少している.
図 5 に男女別の「図画工作や技術・家庭科が好き
か嫌いか」の結果を示す.図 5 より男女ともに「好
き」と回答した児童生徒の割合は減少しているが,
女子児童生徒の「好き」と回答した割合は小学校か
ら中学校にかけて急激に減少している.
4.2 大学生を対象にした調査結果
大学生を対象にした意識調査を福山大学工学部と
人間文化学部の学生を対象に実施した.
「モノづくり
や工作 好き or 嫌い」の結果を図 6 に示す.図 6
より「好き」と回答した学生は 56%となり中学1年
生からほぼ同様な値となっている.
「モノづくり関連科目 得意 or 苦手」の設問に
対する結果を図 7 に示す.
図 7 より 66%の学生が「得
意」と回答している.大学生には工学部の学生が多
かったためか図 2 の小中高生よりも多い結果となっ
たと思われる.
「モノづくりや工作に関連する科目 面白い or
つまらない」という設問に対する回答を図 8 に示す.
図 8 より 66%の学生が「面白い」という回答であ
った.これは図 6 より「モノづくりや工作が好き」
と回答した割合とほぼ同じ結果となった.
モノづくりに関する科目は,モノづくりや工作の
興味に関係するものであることを確かめるため「モ
ノづくりや工作 好き or 嫌い」に対する「モノづく
り科目 好き or 嫌い」について整理した.その結果
を図 9,図 10 に示す.図 9,図 10 より「モノづくや
工作が好き」な学生は「モノづくり科目が好き」で
「モノづくりや工作が嫌い」な学生は「モノづくり
科目が嫌い」だということがわかった.
「手先 器用 or 不器用」についても「モノづくり
や工作 好き or 嫌い」に分けて集計した結果を図
11,図 12 に示す.図 11,図 12 より「モノづくりや
工作が好き」と回答した学生のほうが「モノづくり
や工作が嫌いと」と回答した学生より「手先が非常
に器用 and 器用」と回答した割合が多くなった.
これらのことより「モノづくり科目が好きまたは
興味がある学生」はモノづくりや工作が好きである
ことがわかる.また,大学生に対する「モノづくり
好き or 嫌い」は大学生での問題ではなく小学校から
図
工作
図
関連科目
図
関連科目
図
図
好
好
嫌
嫌
得意
面白
苦手
否
関連科目 好
関連科目 好
嫌
嫌
中学校にかけての問題であることがわかった.
モノづくりに関する関心や興味は家庭での環境
にもよるものである.そこで,
「家族や親戚にモノづ
くりや工作が好きな人 いる or いない」について設
問し,「モノづくりや工作が好き or 嫌いか」の別に
集計した結果を図 13,図 14 に示す.
図 13 より「モノづくりが好き」と回答した学生の
うち 58%の学生が「モノづくりや工作が好きな家族
または親族がいる」と回答した.しかし,図 14 より
「モノづくりが嫌い」と回答した学生のうち「モノ
づくりや工作が好きな家族または親族がいる」と回
答した学生は 30%しかいなかった.
図
好
手先
不器用
5.おわりに
以上の結果より,小学校は「図画工作」
,中学校は
「技術・家庭科」と内容は異なるが,
「工作やモノづ
くりに関する関心や興味」は,小学校の低学年から
高等学校にかけて減少していることがわかる.特に,
小学校高学年から中学校にかけて急激に減少してい
る.男女別の結果を見ると,特に女子児童生徒の「工
作やモノづくりに関する興味」が小学校高学年で急
激に減少していることがわかる.
大学生に対するモノづくりや工作に関する意識調
査の結果より,大学生のモノづくりに関する関心や
興味は中学生の時から変化していないことがわか
る.また,モノづくりや工作に関する関心や興味は
家庭における影響も大きいことがわかった.今回の
大学での調査は工学部の学生が中心であった.福山
大学には工学部だけでなく経済学部,人間文化学部,
姓名工学部,薬学部と 5 学部 14 学科あり多くの学生
が在籍している.工学部だけでなく経済学部など他
学部他学科の学生に対しても調査する必要があると
思われる.また,大学での工作や理科離れの対策を
考える場合,大学での教育だけでなく小学校から大
学まで一貫した教育が必要であると思われる.
参考文献
1)IEA 国際数学・理科教育動向調査の 2011 年調
査(TIMSS2011):国立教育政策研究所(英称:
National Institute for Educational Policy
Research)
2)小林,前濱(2012)「児童・生徒を対象とした
モノづくりに関するアンケートの実施につ
いて」日本産業技術教育研究学会中国支部第
41 回大会講演要旨集
3) 小林,前濱(2012)
「小中高生を対象とした工
作やモノづくりに関する意識調査について」
日本産業技術教育研究学会第 55 回全国大会
講演要旨集
図
嫌
図
図
手先
好
嫌
不器用
日本科学教育学会研究会研究報告
Vol.28 No.7(2014)
A高等学校理数科と普通科における経験の比較
Comparison between Experience for Science-Mathematics Course and Ordinary Course
in One Senior High School
宮地 功†
†MIYAJI, Isao
†岡山理科大学総合情報学部
†Faculty of Informatics, Okayama University of Science
[要約]
高等学校のコースによって,経験がどのように異なるかを知るために,A高等学校普通科と理数科にお
ける経験の程度について 11 項目のアンケート調査を実施した.この評定値を用いて,分散分析によってそれぞれの
コースについて3学年の違いと両コースの違いを分析して比較する.ここでは,その分析結果を報告する.
[キーワード] 高等学校普通科,高等学校理数科,経験,分散分析,多重比較
1.
はじめに
高校理数科生徒に対して,生物と数学に関する論述テ
高等学校にはいろいろなコースが設置されている.生
ストを用いた評価の観点の変容について分析して,報告
徒が学校で有意義に学べているかどうか知るために,生
している[10] [11].
徒の勉強に対する意識,理解,興味・関心を知る必要が
野瀬,他は,高大連携による理数科教育の可能性につ
ある.それらについてアンケート調査を実施し,その回
いて報告している[3].
答内容を分析することによって,新しい発見をすること
高等学校の3年間に,コースによって経験にどのよう
ができる.これらの中には,実際に授業を受けている生
な違いがあるか,などについて調査して報告されていな
徒でないと気付かないことが多くあり,その結果を授業
いので,ここでは,理数科と普通科の理系コースの生徒
改善につなげることができる.
の経験の違いについて,調査して分析した結果を報告す
著者は,これまでに,理数科の生徒の意識などについ
る.
て調査して次のような報告をしている.高校入学後の印
2.調 査 方 法
象についての自由記述について報告している[2].理数科
カリキュラムや授業方法を改善するために,高等学校
と普通科の理系コースの生徒の理解度,熱心度,勉強時
にある普通科と理数科のコースに所属する生徒がどのよ
間などの違いについて,報告している [13],[14].
高等学校在学中に,理数科の生徒が成就感をよく感じ
うな意識を持っているかの実態を把握して,それぞれの
ており,2 年次に実施した課題研究においてグループで発
コースの人材の育成の違いを知る.72 項目のアンケート
表する経験によって自信を持ったという結果が報告され
調査用紙を作成し,A高等学校に調査を依頼した.
ている[1]. 理数科の課題研究による生徒の興味・関心の
2.1 調 査 内 容
変容[4] ,課題研究による生徒の力と意識の向上に役立
ここでは,その中で項目(8)の「高等学校の在学中にし
つ活動 [5],課題研究による生徒の力と意識の変容と活
た経験の程度」を取り上げて分析する.その 11 項目を以
動の関係 [6],課題研究に対する生徒のイメージ形成の
下に示す.それぞれの経験の程度を 5 段階で評価し,続
変化[7],理数科の課題研究による力に関連した意識の個
いてその内容を自由記述で記載させた.
人の変容[8],理数科の課題研究における力に関係した意
(8)高等学校の在学中に,以下のような経験をしました
識の変容による生徒の傾向[9]について調査して,分析し
か.
て報告している.理数科における課題研究の効果に関し
1.自分で考えたものを完成させて喜びを感じる経験をし
て,事例的に研究して報告している[12].
ましたか.その経験はどの程度ですか.
17
日本科学教育学会研究会研究報告
Vol.28 No.7(2014)
1.ない 2.あまりない 3.どちらとも言えない
4.少しある 5.ある
3.調査結果の分析
2.自分で何かをして達成感を感じる経験をしましたか.
「高等学校の在学中にした経験の程度」の 11 項目の5
その経験はどの程度ですか.
段階評定値について,項目ごとに分散分析した.有意差
1.ない 2.あまりない 3.どちらとも言えない
が認められた場合,多重比較を実施した.質問に対する
4.少しある 5.ある
回答欄が空白の場合,該当する項目だけを分析から除い
3.自分にどんな能力があると感じる経験をしましたか.
た.
その経験はどの程度ですか.
以下では,分散分析の結果を有意水準 5%で有意差が認
1.ない 2.あまりない 3.どちらとも言えない
められたことにする.記号 m, SD, p は,それぞれ平均,
4.少しある 5.ある
標準偏差,および有意確率を意味している.
4.自分は役に立っていると感じる経験をしましたか.そ
の経験はどの程度ですか.
3.1 理数科の1,2,3年生の経験の程度の比較
1.ない 2.あまりない 3.どちらとも言えない
理数科の3学年の「高等学校の在学中にした経験の程
4.少しある 5.ある
度」について分散分析し,多重比較した結果を表1に示
5.課せられた課題をしていて,自分が課題のレポートを
す.「1.完成した喜びの程度」,「2.達成感の程度」,
書く内容の質が変わったと感じることがありますか.そ
「6.伸びた資質の程度」について,2-3 年生と 3-1 年生の
れはどの程度ですか.
間で有意差が認められた.これは,3 年生が,1, 2 年生
1.ない 2.あまりない 3.どちらとも言えない
よりこれらをよく経験したと感じていることを示してい
4.少しある 5.ある
る.
6.自分のどの資質がどの程度伸びましたか.
「1.完成した喜びの程度」の自由記述において,3 年生
1.全然ない 2.あまりない 3.どちらとも
は,喜びを感じた経験として,2 年生において課題研究を
4.少し伸びた 5.かなり伸びた
しているので,「課題研究」(14 人),「課題研究論文が
7.自主的にどの程度学習していますか.
完成したとき」(2 人)を多くあげている.また,「体育祭
1.全然ない 2.あまりない 3.どちらとも
の応援」,「文化祭」(2 人),「生物の実習」,「考えて
4.少ししている 5.かなりしている
いたことが正しかったこと」,「問題を解いたとき」,
8.学ぶ上でどの程度工夫していますか.
「プラネタリウムの製作」,などをあげている.
1.全然ない 2.あまりない 3.どちらとも
「2.達成感の程度」の自由記述において,達成感を感
4.少ししている 5.かなりしている
じた経験として,「課題研究」(9 人),「風力発電機の製
9.学びに何か変化がありましたか.それはどの程度です
作」,「テストで良い点が取れたとき」(2 人),「偏差値
か.
が 4.3」,「部活で自己新記録を出したとき」,「部活」,
1.全然ない 2.あまりない 3.どちらとも
「SF が終わったとき」,「ソフトウェアの設定を完了し
4.少し変化している 5.かなり変化している
たとき」,などをあげている.
10.最近パソコンをどの程度使いますか.
「6.伸びた資質の程度」の自由記述において,伸びた
1.全然ない 2.あまりない 3.どちらとも
と思う資質として,「自分を客観視できる資質,科学的
4.少し利用している 5.かなり利用している
思考力,得た結末から考察すること,協調性,人をまと
11.インターネットをどの程度使いますか.
める,英語ができるようになった,体力,走力,図をキ
1.全然ない 2.あまりない 3.どちらとも
レイに描くこと,部活,観察力,政治・社会・報道など
4.少し利用している 5.かなり利用している
に対する批判能力,やさしさ」などをあげている.
また,「11.インターネット使用程度」は,3-1 年生の
2.2 調査対象者
間で有意差傾向が認められた.これは,3 年生は,1 年生
「高等学校における授業に関するアンケート」の理数
よりインターネットを多く利用した経験がある傾向を示
科生徒の回答者数は,1年生74人,2年生72人,3年生67人
している.自由記述において,インターネットの利用目
の合計213人である.普通科生徒の回答者数は1年生240人
的として,「大学調べ」(6 人),「物事を調べる,課題研
,2年生104人,3年生109人の合計453人である.調査時期
究の情報集め,情報収集,授業,趣味,娯楽・コミュニ
は3学期である.
18
日本科学教育学会研究会研究報告
ケーション,暇つぶし・好奇心,Web 上の小説を読む」,
Vol.28 No.7(2014)
「10.パソコン使用程度」について,理数科と普通科 1
などをあげている.
年生と 2 年生の間で有意差が認められた.これは,理数
11 項目全体の平均について, 3-1 年生の間で有意差が
科 1, 2 年生は,普通科 1, 2 年生よりパソコンをよく利
認められ,2-3 年生の間で有意差傾向が認められた.これ
用していると感じていることを示している.理数科の生
は,3 年生は,全体として 1, 2 年生より在学中に多く経
徒は,1 年生でコンピュータの授業を受けて,2 年生で課
験したと感じていることを示している.2,3 年生になる
題研究をしているために普通科の生徒よりコンピュータ
につれて,経験が多くなっているようである.
を利用する時間や頻度が多くなっているためであると推
測される.しかし,3 年生になると利用の程度に違いがな
3.2 普通科の1,2,3年生の経験の程度の比較
くなっている.
普通科の3学年の「高等学校の在学中にした経験の程
「11.インターネット使用程度」について,理数科と普
度」について分散分析し,多重比較した結果を表1に示
通科 1 年生の間で有意差が認められた.これは,理数科 1
す.
年生は,普通科 1 年生よりインターネットをよく利用し
「7.自主学習の程度」について,1-2 年生の間で有意差
ていると感じていることを示している.理数科の生徒は,
が認められた.これは,2 年生は,1 年生より自主的に学
コンピュータの授業中にインターネットで検索をする学
習していることを示している. しかし,3 年生は,1, 2
習をしているからではないかと推測される.しかし,2, 3
年生と有意差がなく,違いが見られなかった.
年生になると利用の程度に違いがなくなっている.
「9.学びに変化の程度」について,3-1 年生の間で有意
全体平均について,理数科と普通科のいずれの学年の
差傾向が認められた.これは,3 年生は,1 年生より学び
間でも有意差が認められなかった.4 項目について,両学
に変化があった程度が大きいことを示している.
科の間に違いが認められるが,全体としては違いが見ら
れなかった.
「10.パソコン使用程度」と「11.インターネット使用
程度」について,3-1 年生の間で有意差が認められた.こ
れは,3 年生は,1 年生よりパソコンもインターネットも
4.む す び
よく利用していると感じていることを示している.
高等学校の授業アンケート調査の中の「高等学校の在
学中にした経験の程度」を取り上げて分散分析した.こ
3.3 理数科と普通科の1,2,3年生の経験の程度
の間の比較
の分析において次のようなことがわかった.
(1) 「1.完成した喜びの程度」,「2.達成感の程度」お
理数科と普通科の3学年の「高等学校の在学中にした
よび「6.伸びた資質の程度」について,理数科 3 年生は,
経験の程度」について分散分析し,多重比較した結果を
1, 2 年生より多く経験したと感じている.
表1に示す.
(2) 「10.パソコン使用程度」と「11.インターネット使
「1.完成した喜びの程度」について,理数科と普通科 1
用程度」について,普通科 3 年生は,1 年生よりパソコン
年生の間で有意差が認められた.これは, 普通科 1 年生
もインターネットもよく利用していると感じている.
は,理数科 1 年生より完成した喜びをよく経験したと感
(3) 「1.完成した喜びの程度」について,普通科 1 年生
じていることを示している.更に,理数科と普通科 3 年
は,理数科 1 年生より完成した喜びをよく経験したと感
生の間で有意差が認められた.これは,理数科 3 年生は,
じている.理数科 3 年生は,普通科 3 年生より完成した
普通科 3 年生より完成した喜びをよく経験したと感じて
喜びをよく経験したと感じている.
いることを示している.理数科の生徒は,学年が上がる
(4)「2.達成感の程度」について,理数科 3 年生は,普通
につれて,完成した喜びを次第に味わうことが増えてい
科 3 年生より達成感をよく感じている.
るようである.普通科の生徒は,1 年生が最も完成した喜
(5)「10.パソコン使用程度」について,理数科 1, 2 年生
びが多く,2 年生が最も低い.
は,普通科 1, 2 年生よりパソコンをよく利用していると
「2.達成感の程度」について,理数科と普通科 3 年生
感じている.
の間で有意差が認められた.これは,理数科 3 年生は,
(6)「11.インターネット使用程度」について,理数科 1
普通科 3 年生より達成感をよく感じていることを示して
年生は,普通科 1 年生よりインターネットをよく利用し
いる.これは,理数科生徒が課題研究を 2 年生の 3 学期
ていると感じている.
に終えて,満足感や達成感を感じているからではないか
と推測される.
19
日本科学教育学会研究会研究報告
Vol.28 No.7(2014)
(2006) pp.185-186.
[8] 宮地功:理数科の課題研究による力に関連した意識
の個人の変容,日本科学教育学会第 31 回年会講演
論文集 (2007) pp.133-134.
[9] 宮地功:理数科の課題研究における力に関係した意
識の変容による生徒の傾向,日本科学教育学会中国
支部研究発表講演論文集, pp.13-16 (2008).
[10] 宮地功,亀田行平:高校生物に関する論述テストを
用いた評価の観点の変容についての分析,日本科学
教 育 学 会 研 究 報 告 , Vol.24, No.5, pp.14-17
(2009).
[11] 宮地功,亀田行平:高校数学に関する論述テストを
用いた評価の観点の変容についての分析,日本教育
工学会第 25 回全国大会講演論文集, pp.565-566
(2009)
[12] 宮地功:理数科における課題研究の効果に関する事
例的研究,科学教育研究,Vol.34, No.3, pp.280-292
(2010).
[13] Miyaji, I.:Case Study on the Education Practice
and Changes in Consciousness of Students in a
Science-Mathematics Course and Science Class in
an Ordinary Course in a Senior High School,
Proceeding of Hawaii International Conference on
Education, HICE2012, pp.3103-3110, Honolulu,
USA (2012)
[14] Miyaji, I.:Case Study on Difference between
Attitudes of Students in a Science-Mathematics
Course and Science Class in an Ordinary Course
in a Senior High School , Journal of Modern
Education Review, Vol.3, No.1, pp.64-77 (2013)
謝辞
本研究の一部は科学研究費補助金基盤研究 (C)
「25350364」の補助を受けて行なわれた.アンケート調
査に協力していただいたA高等学校の生徒に感謝いたし
ます.
参 考 文 献
[1] 宮地功,野瀬重人, 中山広文:大学と連携する高校
理数科の生徒の意識について,電子情報通信学会技
術研究報告, Vol.101, No.397 (2001) pp.31-38.
[2] 宮地功,野瀬重人, 中山広文:理数科生徒の高校入
学後の印象についての自由記述の分析,日本科学教
育学会第 26 回年会講演論文集 (2002) pp.179-180
[3] 野瀬重人, 進藤明彦, 宮地功:高大連携による理数
科教育の可能性,日本科学教育学会第 27 回年会講
演論文集 (2003) pp.117-120.
[4] 宮地功,平松敦史:A高校理数科の課題研究による
生徒の興味・関心の変容,日本科学教育学会第 27 回
年会講演論文集 (2003) pp.337-338.
[5] 宮地功,平松敦史:課題研究による生徒の力と意識
の向上に役立つ活動-A高校理数科の場合-,日本
科学教育学会第 29 回年会講演論文集 (2005)
pp.559-560.
[6] 宮地功,平松敦史:課題研究による生徒の力と意識
の変容と活動の関係-A高校理数科の場合-,教育
システム情報学会中国支部第 5 回研究発表会講演論
文集 (2005) pp.28-31.
[7] 宮地功:課題研究に対する生徒のイメージ形成の変
化,日本科学教育学会第 30 回年会講演論文集
表1 理数科と普通科1,2,3年生の経験の程度についての分散分析と多重比較の結果
所属
学
年
統
計
量
程1
度 .
完
成
し
た
喜
び
の
m
SD
m
2年
SD
m
3年
SD
m
1年
SD
m
2年
SD
m
3年
SD
平均 条件
平方 誤差
F比
p
2.42
1.38
2.86
1.56
3.81
1.48
3.02
1.46
2.61
1.43
2.79
1.38
17.0
2.10
8.08
0.00
理数普通1年 *
1年
理数
科
普通
科
分散
分析
多重
理数普通2年
比較 理数普通3年
***
2
.
達
成
感
の
程
度
度3
.
有
能
感
経
験
の
程
る4
経 .
験役
のに
程立
度つ
と
感
じ
変5 度6
化 .
.
伸
をレ
び
感ポ
た
じー
資
るト
質
程の
度質
の
の
程
2.88
1.44
3.16
1.47
3.93
1.34
3.33
1.37
2.94
1.42
3.28
1.34
10.5
1.94
5.44
0.00
2.55
1.41
2.48
1.37
2.88
1.42
2.24
1.20
2.27
1.22
2.45
1.19
4.97
1.62
3.07
0.01
2.53
1.31
2.52
1.25
2.78
1.30
2.42
1.15
2.45
1.25
2.50
1.16
1.37
1.48
0.92
0.47
2.16
1.24
2.10
1.16
2.51
1.28
2.14
1.06
1.93
0.96
2.19
1.04
2.76
1.21
2.27
0.05
*
20
2.19
1.17
2.29
1.26
2.92
1.24
2.37
1.10
2.31
1.18
2.58
1.07
4.99
1.32
3.78
0.00
7
.
自
主
学
習
の
程
度
2.80
1.12
2.83
1.25
2.84
1.18
2.60
1.11
3.12
1.06
2.84
1.13
3.48
1.29
2.71
0.02
程8 度9 程1 ト 1
度 .
. 度0 使1
学
学
. 用 .
習
び
パ 程イ
上
に
ソ 度ン
の
変
コ
タ
ー
工
化
ン
夫
の
使
ネ
の
程
用
ッ
2.42
1.16
2.61
1.20
2.62
1.13
2.69
1.11
2.54
1.11
2.55
1.03
1.03
1.25
0.83
0.53
2.46
1.22
2.48
1.18
2.75
1.25
2.48
1.09
2.57
1.13
2.88
1.17
2.97
1.33
2.23
0.05
3.40
1.50
3.54
1.37
3.64
1.43
2.48
1.38
2.89
1.47
3.12
1.36
24.9
1.99
12.5
0.00
***
*
3.15
1.52
3.34
1.39
3.80
1.34
2.56
1.40
2.93
1.46
3.39
1.32
22.9
1.98
11.6
0.00
*
平
均
2.70
0.58
2.81
0.82
3.15
0.76
2.63
0.72
2.65
0.70
2.85
0.73
3.46
0.52
6.68
0.00
日本科学教育学会研究会研究報告
Vol.28 No.7(2014)
大学・自治体が実施するノンフォーマル教育の現状と課題
―住民ニーズ調査の結果から―
Current Situations and Issues of Non-formal Education in Tottori
前波晴彦 1,土井康作 1,岸田康正 2
MAENAMI, Haruhiko1, DOI, Kosaku1, KISHIDA, Yasumasa2
1 鳥取大学,2 鳥取県
1
Tottori University, 2Tottori prefecture
[要約] 鳥取大学と鳥取県教育委員会は,県内で実施している生涯学習事業の見直し
を図るべく,県内在住者を対象とした住民ニーズ調査を実施し 1,147 名から回答を得た。
調査の結果,回答者の 86.1%が過去一年間大学や自治体が実施した生涯学習に参加し
ていないと回答した。鳥取県内で実施されている大学・自治体による個別の生涯学習事
業の認知度についても「いずれの事業も知らない」と回答した者が 55.9%で最も多く,
情報の周知が不充分であることが示された。その一方で,生涯学習に参加していないも
のの図書館を高頻度で利用している層が存在することも明らかになっており,今後はこ
うした学習意欲を持つ層へのアプローチが有効である可能性が示唆された。
[キーワード] ノンフォーマル教育,生涯学習,公開講座,研究アウトリーチ
によれば,
「(この 1 年間に)生涯学習をしたこと
1. はじめに
生涯に渡って学習を継続する生涯学習の重要
がある」と回答した者の割合は 57.1%となってい
性は,近年特に強調されており,地域行政におい
る。生涯学習を受講した者の受講内容をみてみる
ても重要なテーマのひとつとなっている。こうし
と,「健康・スポーツ(健康法,医学,栄養,ジ
た活動は正規の学校教育課程に含まれないいわ
ョギング,水泳など)」
(30.4%)
,
「趣味的なもの
ゆ るノ ンフォ ーマ ル教育 と い えるも ので あり
(音楽,美術,華道,舞踊,書道など)
」
(25.7%)
(Coomds et al., 1973)
,大学等高等教育機関に
が上位 2 項目であり,3 位の「職業上必要な知識・
もそれを支援する役割が求められている。
技能(仕事に関係のある知識の習得や資格の取得
鳥取大学では産学・連携推進機構を中心に大学
など)」
(15.2%)に大きな差をつけている(複数
の持つ知的資源を活用した取組を学外機関や住
回答,上位 4 項目)
。このことから大学等が持つ
民と連携し推進することで,地域再生を図り,住
多様な学術知を活用した生涯学習を実施する余
民の生活向上に貢献することを目指してきた。知
地は大きいと考えられる。
的資源を活用した取組には,公開講座,サイエン
2. 先行調査と本調査の位置付け
ス・アカデミー,講演会,フォーラムなども含ま
れている。これらの事業は,地域住民に対して鳥
調査に先立って本調査チーム内において以下
取大学が有する教育・研究を広く「広報」する役
の認識が共有された。すなわち,鳥取県内で大学
割に加え,生涯学習の機会を提供するという「地
や自治体が実施する生涯学習事業への参加者の
域貢献」としての側面もある。
年齢はシニア層に大きく偏っているように思わ
「生涯学習に関する世論調査」
(内閣府,2012)
れる。また参加者の固定化も観察される。本調査
21
日本科学教育学会研究会研究報告
Vol.28 No.7(2014)
はこうした実践現場の観察を検証するとともに,
るモニターのうち鳥取県内に居住する者を調査
改善策を検討するための基礎データとなると期
対象に設定した。調査を計画した 2013 年 4 月時
待される。
点でマクロミル社が保有していた鳥取県在住の
モニター数は 4,056 人であり,これが調査対象者
鳥取大学の実施する生涯学習事業の現状につ
となった。
いては,前波・清水(前波,清水,2013)や前波
ら(前波ほか 3 名,2014)などの報告がなされて
当初は鳥取県の人口構成比に合わせた回答収
いる。また,鳥取県内の生涯学習全体の状況につ
集を検討したが,本調査の主な目的が生涯学習に
いては,2007 年と 2008 年に鳥取大学生涯教育総
関する県民ニーズの収集であったため,今回の調
合センターによって実施された先行調査がある
査では人口構成比に合わせた調整は行わず,12
(鳥取大学生涯学習センター,
2008 および 2009)
。
歳以上の県民を対象に調査期間中に収集できる
2007 年の調査においては,
「講座型学習」
,
「カル
限りの回答を得ることとした。
チャー型学習」
,
「研修型学習」
,
「何らかの学習活
調査は 2013 年 7 月 9 日から 15 日までの 7 日
動」
,
「趣味的サークル」
,
「社会的活動」といった
間実施した。予備調査を経て確定した調査票をマ
ジャンルそれぞれについて県民の参加状況を調
クロミル社に指示し,マクロミル社から調査対象
査している。この調査でも生涯学習の中でも「講
者に対して電子メールで回答依頼がなされた。そ
座型学習」と「カルチャー型学習」において若者
の結果として 1,147 名の回答を得た。
の参加が少ないことが指摘されている。
4. 調査結果の概要
本調査では先行調査を参考としつつ,特に鳥取
県における生涯学習の県民ニーズを把握するこ
回答者を居住地別でみると鳥取市,米子市,倉
とに注目し,基礎的なデータを取得することを目
吉市,境港市の県内 4 市からの回答が 82.5%を占
指した。
めた。先述の通り人口構成比に沿った調整を加え
ていない点には留意する必要がある。
3. 調査設計と実施内容
図1に示すように,回答者の86.1%が過去1年間
鳥取大学産学・地域連携推進機構地域貢献・生
自治体・大学等が実施する生涯学習講座やイベン
涯学習部門と鳥取県教育委員会家庭・地域教育課
トに参加していない。
で検討会を形成し,共同で調査設計・検討を行う
男女別でみると,男性では20代に生涯学習への
場を設定した。検討会において鳥取県内における
比較的活発な参加層が観察された。これはモニタ
現状を整理し,それに基づいて調査内容の検討を
ーに占める大学生の割合が大きいことによるも
行った。
の推察される。男性の中では35~39才と60才以上
調査実施に先駆けて,調査票案を作成し,鳥取
の年齢層にも全体と比較して比較的活発に参加
大学,鳥取県教育委員会の双方において 30 名程
する層がある。女性では年齢層別に顕著な特徴は
度の予備調査を行い,調査票の意図が誤って伝わ
みられないものの,40代後半と60才以上の年齢層
ることが無いか等の観点から文言や質問順につ
の参加がやや多い。
いての検証を行った。予備調査のフィードバック
生涯学習への参加経験があるとした回答者に
から細かな文言の修正を行ったが,基本的な設問
講座の種類を尋ねると「教養・知識を身につける
の構成に変更は生じなかった。
ための講座」との回答が 75.6%と最も多かった。
調査手法としてウェブ・パネル調査を選択し,
これを男女で比較すると「趣味のための講座」へ
その結果を検討した。ウェブ・パネル調査の実施
の参加度合は女性優位であり,特に 40 才以上で
はマクロミル社に委託し,マクロミル社の保有す
男女間の参加度合が大きくなっていた。
22
日本科学教育学会研究会研究報告
Vol.28 No.7(2014)
54.7%となった。単独で 2 番目に多いのは「時期
100%
や時間が合わない」
(34.3%)であり,
「講座やイ
86.1
ベントの情報が少ない・知らない」(30.8%)が
80%
続いた。30 代では特に「家事(子どもや親の世話
など含む)が忙しい」の割合が高く,これは女性
60%
の回答数の多さが影響していると考えられる。
40%
事前の検討から,生涯学習の目指すべき方向と
して,生涯学習を通して学んだ知識を自ら活用し,
20%
0%
11.8
参
加
し
て
い
な
い
1
~
3
回
社会に還元するサイクルを構築する必要性が指
1.2
0.5
0.4
4
~
5
回
6
~
9
回
1
0
回
以
上
摘された。そこで,過去 1 年間に生涯学習に参加
したと回答した者を対象に,生涯学習において学
んだことを活かしボランティアなどの社会活動
を通じて地域社会へコミットすることを志向し
ているかどうかを尋ねた。その結果,「すでに参
加している」
(3.7%),
「ぜひ参加したい」
(4.3%)
n=
全体
(1,147)
86.1
11.8
1.2
0.5
0.4
に対して「参加したいと思わない」(29.6%)と
図 1 直近 1 年間の生涯学習への参加度
なり,現に生涯学習で得た知識を社会活動に活用
している,もしくはそれを強く志向している回答
者は 8%にとどまった。ただし,参加に否定的な
とはいえ,全体的な傾向では,生涯学習の参加
者は主に教養講座と本人が認識する講座に参加
層が相当程度いる一方で,
「機会があれば」や「時
しており,男女・性別で大きな差異は観察されな
間に余裕ができれば」,
「一緒に参加する仲間がい
かった。
れば」,
「もっと知識や技術を身につけてから」な
鳥取県内で実施されている大学・自治体による
ど,何らかの条件が整えば参加したいという意志
を持つ層は 62.4%と大きかった。
個別の生涯学習事業の認知度を訪ねたところ,
「いずれの事業も知らない」と回答した者が55.
「すでに参加している」と回答したのは男女と
9%で最も多かった。年齢別に各事業の認知を確
もに 60 才以上に多く,リタイア層が社会活動を
認したところ,20代後半から40代前半にかけて個
行っている姿が観察された。「参加したいと思わ
別事業の認知度は全般的に低かった。鳥取県主催
ない」との回答は男女全年齢に一定程度あるが,
の「未来をひらく鳥取学」と鳥取大学の実施する
女性の 20 代前半では比較的多い。とはいえ,何
各事業については20代前半で認知が高かった。そ
らかの条件がそろえば地域社会に貢献する活動
の一方で,40代後半から上の世代では複数の事業
に参加したいと考える層が過半数を占めること
が認知されている。男女別にみると,男性では20
は,地域の活性化を目指す視点から示唆に富む結
代後半から40代前半にかけての認知の低さが比
果といえる。
較的はっきりみられる。女性では20代後半で認知
本調査を通じておおよそ以下のような特徴が
度が低い。
観察された。
10 代から 20 代の若い世代はインターネットか
生涯学習への参加の障害となっている要因を
訪ねたところ,「仕事や家事・学校が忙しい」
ら情報を収集する傾向にあり,生涯学習講座に関
(40.6%)が最も多く,「家事(子どもや親の世
する情報も他の年齢層に比べれば取得している。
話など含む)が忙しい」(14.1%)を合わせると
また一定程度参加もしているように観察される。
23
日本科学教育学会研究会研究報告
Vol.28 No.7(2014)
ただしこれにはモニターに大学生が多く含まれ
ていることのバイアスに留意する必要がある。
30 代から 50 代は,出産や育児,仕事などで多
忙であり,生涯学習に対する意欲も比較的低い様
子が観察される。またマスメディア以外から情報
を能動的に取得する意志も弱い傾向にある。この
年代は生涯学習事業の認知度も低い。ただし地域
貢献への意識は低くないため,こうしたニーズを
汲み取ることができれば参加を促すことができ
る可能性はある。
60 代以上の世代は現状の生涯学習事業に比較
的積極的に参加している。事業の認知では市町村
事業への認知が高い一方で大学事業への認知が
低い。地域貢献にすでに取り組んでいるとの回答
も多かった。
5. 生涯学習不参加層の属性と潜在的需要の
探索
先述の通り,今回の調査から回答者の 86%余り
が過去 1 年間に自治体や大学が実施する生涯学習
図 2 生涯学習不参加者の図書館利用状況
事業に参加しておらず,これらの事業の認知度も
低いことが明らかとなった。そこで,調査結果を
NP に限定して過去 1 年間の図書館利用状況を
も と に 生 涯 学 習 に 参 加 し て い な い 人 々 ( NP:
尋ねた結果,男性よりも女性の方が図書館利用の
Non-Participations)の属性を抽出することを試
頻度が高かった。さらに,年 12 回以上図書館を
みた。
利用していると回答した者の割合に注目すると,
NP を年齢性別でみると,20 代~30 代前半で
20 代から 40 代にかけての女性に図書館を高頻度
は男性よりも女性の方が NP の割合が高く生涯学
で利用している層があることが示された。今回の
習への参加割合が低い。逆に,50 代以上の世代で
調査規模で年代別・性別に分解すると各セクター
は男性の方が消極的である。
の母数が小さくなるため,解釈には注意が必要で
次に生涯学習への参加と図書館の利用を比較
あるものの,20 代後半から 30 代後半の女性に図
した。図書館は自治体や大学等が実施する講座型
書館の高頻度利用者が含まれていることは興味
の生涯学習と異なる形態の生涯学習施設として
深い。こうした図書館利用頻度の高い者は何らか
地域内で機能していると考えられる。図書館を定
の学習意欲があると考えられ,生涯学習事業にと
期的に利用する者は一定の学習意欲を持ってい
っての潜在的な「顧客」である可能性がある。
ることが想定される。したがって NP のうち図書
6. 生涯学習へのニーズ探索の試み
館利用頻度の高い層が見出されれば,潜在的な生
涯学習利用者として有望ではないかと考えられ
「学んでみたい分野」を尋ねたところ「音楽」
る。図 2 は NP のうち過去 1 年間に図書館を利用
や「スポーツ・運動」といった趣味的なものを除
した者の年齢性別である。
くと,「健康」(28.8%)という回答が最も多く,
24
日本科学教育学会研究会研究報告
Vol.28 No.7(2014)
「歴史」
(24.6)
,
「経済」
(20.3)
,
「医療」
(19.9%)
こうした結果を受けた各種施策の実施が望まれ
と続いた。健康や医療に関わるテーマに関心が高
る。
いことは従来の生涯学習事業から経験的に知ら
現在,鳥取大学では生涯学習事業全体の整理を
れており,今回の調査結果でもそれを確認するこ
進めている。従来の公開講座等の受講者は高齢化
とができた。その一方で,「いずれにも興味はな
と固定化が進行しており,学長主催として開講さ
い」との回答が 14.2%(145 名)から寄せられて
れている 3 講座の内容・対象者共に重複がみられ
いることは無視できない。
ている。そこで,3 講座の体制は保持しつつも各
関心分野について世代別・性別に検討すると,
男女ともに 20 代から 30 代にかけて「デザイン」
講座の特色を強く打ち出し,これまでとは異なる
参加者層の獲得を模索している。
分野への関心が高いことや,理工系領域に関心を
示す割合が 40 代の男性に比較的多いこと,
「健康」
謝辞
本調査は,平成 25 年度鳥取大学地域貢献支援
への関心を示す層が必ずしも「先進医療研究」や
「医療」に関心を示しているわけではないこと,
事業の支援を受けた「地域と連携した学術知の共
「経済」に関心を持つ者は 40 代の男性と 30 代女
有場の設定に関する検討」(研究代表者:土井康
性に比較的多いことなどを読み取ることができ
作)の一環として,鳥取大学産学・地域連携推進
る。この結果については検討を継続し,大学・鳥
機構地域貢献・生涯学習部門と鳥取県教育委員会
取県ともに今後の事業企画等に活用していく予
事務局家庭・地域教育課(現社会教育課)との共
定である。
同研究として実施された。
続いて,生涯学習の情報提供についても検討し
た。「生涯学習参加への障害」を尋ねた設問に対
参考文献
して「講座やイベントの情報が少ない・知らない」
1.
Coombs, P.H., Prosser, R.C. and Ahmed,
と回答した者の年代と性別をみると,20 代後半か
M.: New Paths to Learning for Rural
ら 30 代前半では男性に比べて女性の方が「講座
Children and Youth, New York: Prepared
やイベントの情報が少ない」と感じていた。さら
for UNICEF by International Council for
に同じく「生涯学習参加への障害」に対して「希
Educational Development, 1973.
2.
望する内容の講座やイベントがない」と回答した
Field, J.: SOCIAL CAPITAL AND
者についても検討したところ,こちらでも 20 代
LIFELONG LEARNING, The Policy Press,
後半から 30 代にかけての女性で全体と比較して
2005.(矢野裕俊監訳:
『ソーシャルキャピタ
「希望する内容の講座やイベントがない」と回答
)
ルと生涯学習』
,東信堂,2011.
3.
した割合が高かった。この年代の女性が図書館を
金沢大学社会教育研究振興会,金沢大学地域
高い頻度で利用する傾向があることは既に述べ
連携推進センター,石川県立生涯学習センタ
た。したがって,図書館とのタイアップによる企
ー:
「生涯学習に関する県民意識調査」,2011.
4.
画や広報によってこうしたニーズにある程度対
応できる可能性がある。
加納圭,水町衣里,岩崎琢哉 ,磯部洋明,
川人よし恵,前波晴彦:サイエンスカフェ参
加者のセグメンテーションとターゲティン
7. おわりに
グ 〜「科学・技術への関与」という観点か
本調査によって,鳥取県内においては大学や自
ら〜,
『科学技術コミュニケーション』,13
治体が実施する生涯学習への参加が低調であり,
個別事業の認知度も低いことが示された。今後は
25
巻,2013.
日本科学教育学会研究会研究報告
5.
鳥取大学生涯教育総合センター:鳥取県の生
涯学習 2007 年度鳥取大学地域貢献支援事
業「地域生涯学習総合支援に向けた調査」報
告書,2008.
6.
鳥取大学生涯教育総合センター:2008 年度
鳥取大学地域貢献支援事業「地域生涯学習総
合支援に向けた調査(2)
」報告書,2009.
7.
内閣府大臣官房政府広報室:
「生涯学習に関
する世論調査」
,2012.
8.
前波晴彦,清水克彦:アンケート調査に基づい
た公開講座の現状と受講者像,
『教育研究論
集』
,3 巻, 2013.
9.
前波晴彦,三浦政司,三須幸一郎,相本実:宇宙
を題材とした現役世代向け研究アウトリー
チ活動の可能性,
『教育研究論集』
,
4 巻,2014.
10. 丸山英樹,太田美幸(編)
:
『ノンフォーマル
教育の可能性』
,新評論,2013.
26
Vol.28 No.7(2014)
日本科学教育学会研究会研究報告
Vol.28 No.7(2014)
教師との言語コミュニケーションによる児童の概念形成とイメージ化
Imaging and Concept Formation of Children by Language Communication with Teachers
古川 美樹 , 角
和博
FURUKAWA,Yoshiki, SUMI,Kazuhiro
有田町立有田中部小学校
,佐賀大学
Arita Chubu Elementary School, Saga University
[要約] 授業中の教師の発話によって児童の学習概念は,どのような過程を辿って形成されるのかに着目し,
児童が教師の発話を聞く前,聞いた後,認知後の3つの段階で調査した。調査ではこの内,聞いた後と認知
後の 2 つ段階で児童がもつ概念を,絵を描くことでイメージ化させた。次に児童の絵を教師の補足説明等も
含めて正しい概念形成で分類した。今回は小学校で 6 年生の理科で学習する「火山」に関する用語の発話か
らのイメージと正しい漢字との差異等について検討し,児童の正しい概念形成には,イメージの定着が必要
であるとの知見を得ることができた。
[キーワード]言語音,コミュニケーション,認知,イメージ,スキーマ,概念形成
1.はじめに
るコミュニケーションは,最も重要な情報伝達
一般的に学校における授業は,言語音や母語
手段である。図 1 に示す様に我々人間は基本的
を中心とした文字(日本語・英語)によって展開
に言語音によるデータのやり取りによって情報
されている。児童・生徒は教師の発する言語音
を伝達するが,一般的に授業の場合は,受け手
の意味を即時的に理解し学習活動の内容を確認
である児童・生徒の記号処理能力が情報伝達の
して適切に行動することを求められている。こ
鍵となる。
れまでの学習方略は,その前提として児童が教
認知された
A’
言葉
師の言語音をこのように十分に理解しているも
のとして授業の展開がなされていたと言っても
スキーマ 1
A 教師の発
過言ではない。しかしながら,教育現場の実情
する言葉
スキーマ 2
は,教師が話す内容が十分に伝わっていないと
A
A
感じる場面が多く,本当に全ての児童・生徒が
A’
スキーマ 3
教師の発した言語音を十分に理解しているのか
1)
と言えば必ずしもそうではない。
2.調査の目的
2)
3)
図 1 情報伝達の概念図
教師が発した言葉は,音声データとして児童に
伝わる。そこで初めに言語音による授業の問題点
このような問題を議論する時,伝達される情
を指摘し,次にその問題の本質を探るために幾つ
報について時系列で問題を切り分けて考えた方
かの実践を行い解決に向けての方向性を探ること
が分かりやすい。即ち①教師側からの情報が児
にする。
童・生徒の聴覚に入力される時,②聴覚や視覚
学校の授業は,言語音や文字を中心とした情
等の感覚器官に入力された情報が認知された
報を伝達して行われている。その中でも音によ
時,③認知後の3つである。また,本稿の議論
27
日本科学教育学会研究会研究報告
を児童側の問題に焦点化するために,教師側か
Vol.28 No.7(2014)
3) 認知後
ら送られる情報の質については,言語音の明瞭
教師が発した言葉を児童が正しく認知した後
性や意味の明確さは何ら問題がないと仮定す
でも,コミュニケーションが成立しない場合があ
る。そこで,次のような場面を想定し情報の伝
る。それは,認知後にスキーマの検索を行っても
わり方がどのようであるかを考察する。
適切な解を見つけられない場合である。教師の発
1) 聴覚入力前
した言葉を認知した児童は,その意味によって次
教師からの言語音による情報が児童・生徒の
の行動(教師による指示による行動や児童の能動
聴覚に入力される前に情報の入力を阻害する2
的な意思による行動)を決定する。この時,自己の
つの問題が考えられる。即ち外的阻害要因と内
持つスキーマにその意味に関係する解決策がな
的阻害要因である。外的阻害要因とは,教師の
い場合は,コミュニケーションが成立したように
言語音以外の私語等の音データや校内放送等教
は見えない。つまり児童にとっては,教師からの
室外からの音データであり,内的阻害要因と
情報は伝わっているが,その情報による次の行動
は,児童・生徒の聴覚障害及び別の思考(順行抑
が取れない状態に陥ることになる。
制)である。このような時は,児童は正しく教師
例えば次の様な例がそれに該当する。
の言語音を入力する事ができないので,教師と
(1)「ヨーロッパの石橋」
児童の音によるコミュニケーションは成立しな
これは小学校 5 年国語の教科書にある説明文
い。
「森林のおくりもの」に出てくる自立語である。
2) 聴覚入力後
「ヨーロッパ」は,世界地図で確認すれば分か
る言葉であり,
「石橋」は複合語である。児童は,
児童の感覚器官から入力された言語音や文字
は,パターン認識後に短期記憶(作業記憶)に送ら
文字通り石の橋であることは理解する事がで
れ記号処理が行われる。この時,児童の中には言
きるが,具体的にどの様な橋かをイメージする
語音を文字で書き表す事が困難な者がいる。この
事ができず,この後に続く文章の理解に戸惑う
様な場合,教師側からの言語音が正確に児童の脳
ことになる。その他にも「水車」等も同様に意
に入力されても,その意味は正確には伝わらない。
味は理解するが,イメージできない言葉が多く
つまり教師が考えている児童の語彙力と実際の
掲載されている。
語彙力との間に相当の差がある場合であると考
(2)「とける」
えられる。文部科学省の調査によると,小学校1
これも小学校 5 年理科の教科書「もののとけ
学級あたりの児童数は平均 24.4 人(H25 年度)であ
かた」に出てくる自立語である。小学校 5 年生
る。この様に多くの児童を一斉に教育する教師が
の素朴概念としては,
「とける」はほぼ 8 割以上
言語音により授業を行う場合,児童数が増せば互
が融解として捉えているが,学習は溶解現象を
いの語彙力の差に留意する必要性が更に増す事
学ぶことになる。従って学習の初めにおいては,
は当然と言える。ただし,このような差は教師が
教師の「とける」という言葉からは,児童は融
話す内容の全てで起こるわけではなく,その多く
解のイメージを結び付け,その話を聞くことに
が名詞の様な自立語のレベルで起こる場合がほ
なり違和感を持つ児童も少なくないと考えら
とんどである。なぜならば教師は,それぞれの学
れる。
年に応じた言葉で話すからである。教師から発せ
3.調査の方法
られる言語音のほとんどが認知されていても,あ
る言葉の意味が解決できなければ,児童の思考は
6年生にとって未履修の内容を言語音のみで
そこで中断し,結果としてコミュニケーションは
教授し,その内容をどの程度理解したかを調査紙
成立しなくなる。
に自由記述させ調べる。ここで未履修でなければ
28
日本科学教育学会研究会研究報告
Vol.28 No.7(2014)
ならないのは,我々教師が授業を行う場合に発す
2)の聴覚入力後と 3)の認知後に絞って,A の認知
る言語音で構成された内容は,児童が持つ既有の
がどの様になされるのかを明らかにするために,
言葉も含まれるが基本的には未履修の内容であ
既有の概念にない情報が入力された場合の児童
るからである。そこで,次のような本来中学校の
が持つイメージを探るため,それぞれの火山の絵
生徒が履修する内容を用いることにした。
を描かせることにした。従って,「さらさら」や
教師の発話:『火山には,色々なタイプがあり
「ねばねば」等の擬態語のイメージについては評
価しない事にする。
ます。1つは楯状火山です。このタイプの火山の
溶岩は,さらさらしています。2つめは成層火山
4.調査の結果
です。この火山の溶岩は,少しねばねばしている
のが特徴です。3つめは鐘状火山です。この火山
最も多かった記述例としては,図 3 のような結
の溶岩はさらにねばねばしています。』
果であり,全員が火山の形状の区別は勿論,正し
教師は,この説明のみ発話する。この学習にお
く描けなかった。
いて児童が学ばなければならない内容は,火山の
形と溶岩の粘性である。これらの情報において,
児童が認知できないものは,「楯状」「成層」「鐘
状」という自立語である事は明らかであるが,
「溶
岩」に関するスキーマは,児童らはある程度持っ
ている可能性が高いと判断した。この場合,最初
図3
情報提示直後の児童の描く概念図の例
の「火山には,色々なタイプがあります。」の情
報が入力された時点で,火山に対するスキーマを
そこで,どのような情報が正しい概念形成に
持つ児童は,概ね図 2 のようなイメージを持つも
つながるのかを調べるために,それぞれの火山に
のと考えられる。(火山の概要については,6 年理
ついてヒントとなる次の様な言葉等の情報を与
科で学習済み)
えた。
「楯状」については,
「ギリシャの兵士が持っ
ていた盾です。」という説明と,必要に応じて身
振り手振りで,盾で敵の攻撃を防ぐ仕草をする。
「成層」については,漢字の学習において「成」
図2
児童の描く火山の概念図
も「層」も習得済みであったために「成層」と板
書し,その時点で山の形を描く作業を行ったが,
このようなイメージを描きつつ,次の「1つは」
それでも児童は絵が描けなかったために富士山
で「色々なタイプ」の火山が紹介されるという構
の形であることを告げた。「鐘状」については,
えが作られる。そして,
「楯状火山です。」と次に
児童には「鐘」の認知は不可能と判断したので,
続く「このタイプの火山の溶岩は,さらさらして
言語音でのみの認知,即ち「しょう状」が釣鐘の
います。
」で,宣言的命題である「A は B である」
形であることを述べる。
という学習の型である事を理解する。この様に宣
言的命題による説明は,小学校に限らず教育活動
において最も一般的なものであり,A が認知され
た上で B の認知が行われる。今回は,B の認知が
重要であるにも関わらず,A の認知が不可能であ
図4
るという特殊な場面を想定し,調査目的で述べた
29
ヒント提示直後の児童の概念図の例
日本科学教育学会研究会研究報告
Vol.28 No.7(2014)
この追加した情報により,児童の思考が活性
一般的に,言語音の意味を探る時は,習得して
化し,図 4 のような記述が見られるようになって
いる漢字を思い出し,当てはめながらその意味を
きた。
確認していく。それは,漢字という記号に意味情
楯状火山と成層火山については,ほぼ全員が
報が付随しているからである。おそらく児童は,
正しく描くことができたが,鐘状火山だけは
表 2 の漢字を「たて上」「しょう場」の様にして
「釣鐘」のイメージを描けた児童は一人もおら
次々と当てはめたものと考えられる。これに加え,
ず,約 1/3 弱の児童は釣り針の絵を描いた。
児童がこれまでの学習において,液状や病状,形
そこで次に釣鐘の前に「お寺の」という場所
状等の様に「状」が後に付く言葉は,
「ある状態」
を表す言葉を付け加えたところ,ほぼ全員が正
を表すという事を学習した可能性は高い。更に
確に釣鐘の絵を描くことができるようになった。
「たて」という読みは,小学6年生では「立て・
建て・縦」が既習の漢字となる。このような事か
表 1 児童の得た正しい概念形成と対応する補足説明等
補足説明
楯状火山
△ギリシャの兵士が持つ盾
成層火山
◎富士山の形
鐘状火山
×釣鐘の形
追加説明
ら,火山の色々な形を想像する事が学習の内容で
○身振り
ある事を理解している児童は,「たてじょう」を
縦状と解釈したのではないかと考えられる。
ただし,今回の調査では,児童が教師からの言
◎お寺の
語音を聞いた時に,漢字を思い浮かべたかどうか
や,思い浮かべたならばどの漢字を当てはめたか
5.考察
等については調査していない。それは,「たて」
それぞれの火山の形状について,児童がどの様
にして正しい概念形成を得たかを考察する。
を上下の方向と解釈すればよいことで,漢字を覚
1) 「楯状火山」について
えている事とは関係のない事であるからである。
この楯状火山という言葉の中で,明確にイメ
ひらがなとそれに対応する漢字の数によって,児
ージできるのはやはり「火山」である。この時点
童の頭の中で漢字の検索をするかしないかで異
で児童は,話題の中心が火山という山であること
なる。今回の「たて」の様に習得している漢字の
に気づく。それは,「かざん」という言語音によ
種類が極端に少ない場合は,「たて」という言語
る情報が耳から入ってきた時点で,又は,最初に
音だけでも十分にその意味を連携させる事がで
「火山には色々なタイプがある」という情報を得
きる。実際,小学校では「たて・横」と「たて」
た時点で,頭の中に「山」をイメージし,それが
をひらがな表記で授業を進める場合が多い。
また,一部の児童は何も表現できなかったが,
「噴火」をもたらす山である事を意識するからで
「たてじょう」とは何かという疑問を持ったまま
はないかと考えられる。
次に,
「たてじょうかざん」と似た言い回しの
の状態で授業が進行し,教師の言語音が次から次
「しょうじょうかざん」が聴覚に入力された時点
へと聴覚に入力される逆行抑制状態のためにそ
で,「かざん」=「火山」は解決済みであるから,
れを解決しようとする思考そのものが影響を受
「たてじょう」と「しょうじょう」の内,同じ音
ける事は容易に想像できる。この様な事から全部
の「じょう」の解決を探るものと思われる。通常,
の児童が,「たて」に対する正しいイメージを描
児童が「じょう」と聞いて連想する漢字は,表 2
くことができなかったのではないかと考えられ
に示されているものである。
る。
今回の学習の目的はそれぞれの火山の絵を描
表 2 児童が「じょう」で連想する漢字
児童の連想する漢字
くことであることから,どのような形かを思考し
上,情,城,条,場,定,乗,常,蒸,状
ている中で,補足説明で「たて」とは「ギリシャ
の兵士が持っている盾です。」との情報を与えた。
30
日本科学教育学会研究会研究報告
Vol.28 No.7(2014)
この時,数名の児童が「あ~あ」と言う声を出し
は,「せいそう」という言語音に意味づけをする
たり頷いたりして納得している様子を示した。し
過程を表したものである。今回,①は板書で提示
かしながらまだ理解していない児童がいたため
し,外部の作業空間で認知させた。次に認知後の
に更に,身振り手振りを付け加えて「たて」の説
処理について再度絵を描かせたが,今回調査した
明をしたところ,児童のイメージ化が急速に進み,
児童では②や③の検索は起こらなかった。
ほとんどの児童が形こそ様々であったが盾の絵
層に成る
を描くことができたのである。このように「たて」
②
のような同音異義語であっても,言葉による補足
せいそう
的な情報を与える事で児童はその文脈を読み取
①
漢字の読み解
き方に関する
スキーマ
成層
り,「楯状」のような概念がない場合でも正しい
③
イメージに関
するスキーマ
イメージを描くことができるようになると考え
られる。
図 5 言語音の意味づけ過程
ところで,なぜ「ギリシャの兵士が持っている
盾です。」という補足説明では十分ではなかった
のだろうか。またなぜ,身振り手振りを付け加え
実際,ここで大切なことは,火山の代表的な形
る事によって,多くの児童のイメージ化が促進さ
という事であり,「成層」の意味が分かった後で
れたのだろうか。
その構造的な内容を学べばよい。
まず,ギリシャの兵士が持っている盾という言
そこで,
「成層」という言葉だけの情報では全
語音での読み取りの難しさは,ギリシャという国
員が何のイメージも描けなかったことから,「こ
名で思考が止まる児童が存在する事と,兵士とい
の火山の代表的な形は,富士山の形です。」と補
う言葉で思考が停止する児童がいる事が考えら
足的な説明をしたところ,全員が頂上に雪を冠し
れる。この場合は,兵士が持っている物をイメー
ている富士山の絵を描くことができた。これは今
ジする事は困難になる。逆に,ギリシャの兵士又
までの生活の中で,
「富士山」という言葉とその
は兵士のイメージを持てた児童は,映画やゲーム
姿をテレビや本などで映像として見た経験があ
に関するスキーマを活性化させ,兵士が手にして
るからであろうと推測できる。また,目にする頻
いる物を思考の中で見る事ができる。もし,この
度も多く,富士山のイメージとしてはどのような
補足説明でも十分にイメージできなければ,「映
映像もほぼ同様なものであるために,同じような
画や対戦型のゲーム,又は戦闘中(フジテレビの
イメージが児童の全員に定着しているものと考
番組)で見たことはありますか。」という援助を行
えられる。これらから言える事は,学習において
うことで関連するスキーマを呼び出せたのかも
意図的に同様のイメージを定着させるためには,
しれない。盾で敵の攻撃を防ぐ仕草は,動きを伴
映像の見え方として統一性を持たせることが必
うために児童のイメージ化が促進されたものと
要であることを意味している。
3) 「鐘状火山」について
考えられる。
「しょうじょう」という言葉から,そのイメー
2) 「成層火山」について
「せいそう」という言葉を聞いて,
「成層」と
ジを描くことができる児童は,ほとんどいないと
いう漢字をイメージする児童はいないし,また,
思われたので,敢えて「釣鐘(つりがね)」の形に
漢字を教えたところでどのような火山なのか推
似ていると説明し,釣鐘を描くように指示した。
測することが難しい児童がいることは明らかで
ところが,予想に反して全ての児童がそのイメー
ある。この事は,言語音を漢字に変換してもその
ジを描くことができなかった。つまり,「つりが
意味を解する事ができないよい例であろう。図 5
ね」という言葉が彼らの既有概念にはなく,イメ
31
日本科学教育学会研究会研究報告
Vol.28 No.7(2014)
ージしようにもできなかったのである。我々大人
念形成を得るためには,イメージの定着が重要で
からすれば,釣鐘はお寺にある撞木(しゅもく)で
ある事が確認された。また,複数の児童に同様の
鳴らす鐘をすぐにイメージできるのであるが,け
学習指導をしていくためには,全員に対象となる
して都会でもない地方に住む児童の全員が描け
事柄に対する同様なイメージの定着が重要である
なかったことに疑問を持った。ところが,約 1/3
事も分かった。
弱の児童が「釣り針」の絵を描いていた。「つり
更に,児童が教師から受け取った言語音を正確
がね」の「つり」という言葉に反応したものであ
にイメージ化するためには,教師が児童のスキー
るか,
「がね」の聞き取りに失敗したかであろう。
マにあると思われる対象概念の空間的な場所や
いずれにしても教師から発せられる言語音だけ
場面を示すキーワードを適切に提示する事も重
では全くイメージすることができない場合があ
要であることが分かった。
ることを示すと考えられる。
この様な時,
「お寺の」という言葉の追加で児
参考文献
童のイメージ化が促進したのは,おそらく彼らの
1) 佐伯 胖 : イメージ化による 知識と学習,東洋館出版社,
生活経験の中にお寺の場面は確かに存在し,その
1978,pp33-49
中で時を過ごした記憶が存在していたものと思
2) 稲垣佳世子,鈴木宏昭,大浦容子,認知過程研究 -知識の獲
われる。実際に校区内にはお寺があり釣鐘も存在
するのである。これは,「お寺の」という釣鐘が
得とその利用-,放送大学大学院教材,2007
あると思われる場所を表す言語音を正確に理解
3) 西川泰夫 : 認知行動科学 心身の統合科学をめざして,放送
し,その一瞬の間に既有のイメージを探り,釣鐘
大学大学院教材,2006
を記憶の中で見たためであろうと考えられる。こ
のことは,佐伯(佐伯胖,1978)
4) 永江誠司 : 脳と認知の心理学,プレーン出版,1999,p.20
1)
が言うところの
5) 杉浦克己,大橋理枝 : ことばと情報,放送大学大学院教材,
擬人化であり,この場合は,仮想的に小さくした
自分(自己の小人化)をお寺に派遣し確認した事
2009
に合致する。
6) ヴィゴツキー 著,柴田義松訳: 思考と言語,新読書社,2001,
p.133
6.まとめ
7) 中村和夫 : ヴィゴーツキー心理学,新読書社,2004
児童が教師の言葉を理解する時は,言語が音と
して脳に入力されたとき,言語的・音韻的処理や
8) 柴田義松:ヴィゴツキー入門,寺子屋新書,2006
統語処理により,例えば「橋(はし)」や「箸(はし)」
9) J・T・ブルーアー 著,松田文子・森敏昭 訳:授業が変わる,
の様に同音異義語を区別したり,イントネーショ
北大路書房,1997
ンで話者の感情を推測したりすること等の他に,
10) 古川美樹,松野久予,角和博 : 教師の発想力を生かせる学習
文脈から意味を類推したりする。それらはつまり
環境システムに関する研究,佐賀大学教育実践研究第 25 号,
過去の経験から形成されたスキーマの検索によ
2009,pp137-145
り,入力された音に意味をもたせることでもある。
小学校における教師と児童の言語音によるコミ
ュニケーションは,今回の調査の様にそれぞれの
児童の持つスキーマの違いが大きく,教師の考え
とはかけ離れた理解をする場合がある事が分かっ
た。
これらの事から,今回の調査で児童が正しい概
32
11) 多鹿秀継 : 授業過程の理解,北大路書房,1999
日本科学教育学会研究会研究報告
Vol.28 No.7(2014)
社員の防災行動とその関連要因の検討
The disaster prevention action of the employee and examination of the factor concerned
○黒川達矢 2 岡本辰夫 1 小山嘉紀 1 岡部一光 1 中嶋和夫 1
KUROKAWA,tatsuya
OKAMOTO,Tatsuo KOYAMA,Yoshinori
OKABE,kazumitu NAKAJIMA,kazuo
1 両備介護福祉研究所 2 株式会社 両備ヘルシーケア
1 The RYOBI Research Institute of the Well-Being for the Elderly 2 Ryobi Healthy Care Co. Ltd.
[要約] 本研究は企業におけるICTを用いた防災教育の在り方に資する基礎資料を得ることをね
らいとして、防災行動と関連要因を明らかにすることを目的とした。調査内容は、防災行動に加え
て、人口学的要因(性、年齢、勤務年数、)、被災経験、災害観、被災リスク認知、減災対策態度、
組織の安全風土(個人的違反容認の風土、組織的違反容認の風土、安全に対して責任をもつ風土、
事故防止に積極的に取り組む風土)で構成した。その結果、構成概念妥当性が統計的に支持された
防災行動の測定尺度が開発できた。家庭・地域での防災行動に関しては年齢次いで被災経験が関係
していた。会社における防災行動については防災士資格と減災対策態度が関係していた。
[キーワード] 防災教育、
1.はじめに
違反容認の風土、組織的違反容認の風土、安全に対して
[1]
日本は古来より災害の多い地域として元吉らの研究
責任をもつ風土、事故防止に積極的に取り組む風土)と
を始め様々な研究や対策を講じて来た。さらに近年、地
の関連性を検討することを課題とする。
球の地殻変動や温暖化、気候の変化により自然災害が以
前にも増し、また人口の集中と高齢化により、防災の必
2.方法
要性が高まっている。その災害の避難所としては地域の
(1)対象
公的機関はもとより福祉性の高い介護施設もその対象と
本調査研究ではR企業の4事業所に所属する601名を
して地域住民の避難場所として考えられている。また、
対象とした。
指定介護保険施設として法的にも地域福祉に対する備え
(2)調査内容
なければならない義務がある。
調査内容は、防災行動に加えて、人口学的要因(性、年
しかしながら、介護施設及び施設職員においては高齢
齢、勤務年数、
)
、被災経験、災害観、被災リスク認知、
化社会の到来、介護技術や医療の進歩に伴う技術の研鑚、
減災対策態度、組織の安全風土(個人的違反容認の風土、
激務の労働条件によりの防災に関する意識・知識に対し
組織的違反容認の風土、安全に対して責任をもつ風土、
ての関心及び学習時間は不足がちで災害時に対応できる
事故防止に積極的に取り組む風土)で構成した。なお防
水準を満たしているとは言えない状況にある。
災行動においては防災行動の達成度に関する尺度の開
そこで本研究は企業におけるICTを用いた防災教育
発には新井らの研究[2] を参考に家庭・地域における防災
の在り方に資する基礎資料を得ることをねらいとして、
準備行動の 11 項目(表 1―①)
、家庭・地域における防災
防災行動と関連要因を明らかにすることを目的とする。
情報収集行動として 2 項目(表1-②)
、会社における防
具体的には、①防災行動の尺度化、②防災行動と人口学
災準備行動に関して 5 項目(表1-③)
、会社における防
的要因(性、年齢、勤務年数、
)
、被災経験、災害観、被
災情報取集行動として 3 項目(表1-④)
、家庭・地域・
災リスク認知、減災対策態度、組織の安全風土(個人的
会社に共通する防災準備行動とし 2 項目(表1-⑤)
、防
33
日本科学教育学会研究会研究報告
Vol.28 No.7(2014)
災情報収集行動として 4 項目(表1-⑥)
、計 27 項目を
準備した。
個人的違反容認
の雰囲気
表1 独自調査項目
項目
自宅で家具等の耐震対策は行っている
自宅に3日分以上の食料品を備蓄している
自宅に3日分以上の飲料水を備蓄している
自宅にカセットコンロとガスボンベが用意してあ
る
自宅に携帯ラジオが用意してある
自宅に懐中電灯が用意してある
自宅に救急用の医薬品がある
自宅に消火器や消火用バケツがある
自宅に非常用毛布や寝袋などがある
いつも風呂に水をためている
災害発生時に、ご家族との連絡手段・方法を事前
に決めている
自宅で災害が発生した際の避難場所や避難経路を
知っている
自宅周辺のハザードマップを見たことがある
私は会社で災害に備えて備蓄品を用意している
私は会社で災害に備えて防災グッズを用意してい
る
私は会社で家具等の耐震対策を行っている
会社の緊急連絡網で、自分が次に誰に連絡を回す
か、把握している
会社の消火器の使い方を知っている
南海トラフ地震が発生した場合、両備ビルまでの
津波到達時間を知っている
会社で災害が発生した際の避難場所や避難経路を
知っている
会社周辺のハザードマップを見たことがある
AEDの操作方法を知っている
災害伝言ダイヤル(171)の使い方を知っている
避難勧告と避難指示の違いを知っている
災害伝言ダイヤル(171)を試験的に利用できる期
間があることを知っている
南海トラフ巨大地震について関心がある
30年以内に高い確率で南海トラフ巨大地震が発
生することを知っている
尺度開発に関連した調査
内容と要素間の関連性
人口学的要因
組織的違反容
認の雰囲気
分類
防災行動
事故防止に積極的
に取り組む風土
安全に対して責
任を持つ風土
被災リスク認知
減災対策態度
防災観
被災経験
①
図2 防災行動の達成度に関する要因間の関連モデル
前記の関連要因の調査項目のうち、
被災経験は
(表 2―①)
、
災害観に関しては 3 項目(表 2―②)
、被災リスク認知に
関しては 2 項目(表 2―③)
、減災対策態度に関しては 5
②
項目(表 2―④)で回答を求めた。
表2 人口学的要因他の項目
項目
身の危険を感じる程度の災害に遭遇したこ
とがある。
災害がおきたら、自らの命は自ら守れると
思う。
大きな災害が起きても工夫次第で何とか乗
り越えられると思う。
どんな大きな災害でも、防災準備をすれば、
被害を少なくできると思う。
自宅で被災の恐れを感じたことがある
会社で被災の恐れを感じたことがある。
防災訓練は企業と地域が協力して行うべき
だと思う。
BCPの意味を知っている。
トリアージの目的を知っている。
グループ全体の防災訓練は必要だと思う。
被災時にグループの社員として、復旧復興
活動に尽力したいと思う。
③
④
⑤
⑥
分類
①
②
③
④
次いで、その家庭・地域および会社に関連する防災行
組織風土は、鎌田らの研究(2003)[3]に従い「個人的
動達成度測定尺度による個々人の得点と人口学的要因
違反容認の風土」の3項目(表3―①)と「組織的違反容
(性、年齢、勤務年数、
)
、被災経験、災害観、被災リス
認の風土」の3項目(表3―②)を測定した。また、松原
ク認知、減災対策態度、組織の安全風土(個人的違反容
らの研究(2004)[4]を参考に「安全に対して責任をもつ
認の風土、組織的違反容認の風土、安全に対して責任を
風土」の7項目(表3―③)
、事故防止に積極的に取り組む
もつ風土、事故防止に積極的に取り組む風土)との関連
風土は8項目(表3―④)で構成されている。回答は、当
性を、構造方程式モデリングを用いて検討した(図2)
。
てはまる、どちらかといいうと当てはまる、どちらでも
34
日本科学教育学会研究会研究報告
Vol.28 No.7(2014)
(3)解析方法
ない、どちらかというと当てはまらない、当てはまらな
い、の5件法で求めた。
測定尺度の開発においては、ひとつに、1)家庭・地
域における防災準備行動、家庭・地域における防災情報
表 3 組織風土・安全に対して責任を持つ風土・事故防止
収集行動、家庭・地域と会社に共通する防災準備行動、
に取り組む風土についての調査項目
家庭・地域と会社に共通する防災情報収集行動の4領域に
項目
会社の電話を私用に使ってもよしとする雰囲
気がある
出勤時間に少々遅れてもとがめられない雰囲
気がある
勤務時間中にさぼれない雰囲気がある
会社ぐるみの不正が行われている雰囲気があ
る
効率のためなら少々の違反を容認する雰囲気
がある
社会人として誠実であるより組織への貢献を
とる雰囲気がある
顧客に実害のない、ささいなミスであれば、
報告しなくてもいいだろう、という雰囲気が
ある
他の人に知られることがない限り、ミスした
ことを黙っていても許される雰囲気がある
問題さえ起こさなければ、規則と少し違うこ
とをしても、許されるところがある
何か問題を生じない限りは、現状のままでよ
い、という雰囲気がある
業務を引き継いでしまえば、あとで問題が起
こっても私には関係ない、という雰囲気があ
る
何か問題が起こっても、責任の所在がはっき
り特定されず、ぼやけてしまうところがある
顧客に実害のない、ささいなミスであれば、
利用者に説明をしなくてもいいだろう、とい
う雰囲気がある
事故防止のための取り組みに、職場の職員の
意見が反映されている
業務の安全に関して、継続して学ぶ姿勢があ
る
業務上のルールや手順を、より良くしていこ
うとする姿勢がある
事故防止に役立つアイデアを、積極的に取り
入れる姿勢がある
業務の安全について難しい議論もとことん話
し合う、という雰囲気がある
目標をもって業務の安全に取り組むことが奨
励されている
事故防止に役立つことを、自由に提案できる
雰囲気がある
事故防止のための取り組みに、過去に起きた
事故の教訓が活かされている
属する19項目、および2)家庭・地域と会社に共通する防
分類
①
災準備行動、家庭・地域と会社に共通する防災情報収集
行動、会社における防災準備行動、会社における防災情
報収集行動の4領域に属する14項目において、それぞれ項
目間の四分相関係数を算出し、相関係数が0.75以上を示
②
したペアの一方を冗長性の高い項目と判断し任意に削除
するものとした。
その後、項目反応理論(Item Response Theory)を採
用することによって一次元性と順序性を兼ね備えた項目
③
の選定を行い、尺度化を試みた(以下、
「家庭・地域にお
ける防災行動達成度測定尺度(以下、家庭・地域防災行
動達成度測定尺度)
」及び「会社における防災行動達成測
定尺度(以下、会社防災行動達成度測定尺度)
」
)
。項目反
応理論における困難度は当該項目の回答の難しさを、ま
た識別力は当該項目の構成概念(潜在特性)の変化に対
する敏感さを意味している。項目特性関数のモデルは、
本研究で取り上げた調査項目においては当て推量による
反応は起こりにくいという判断から、2パラメタ・ロジス
ティック・モデルを仮定した。このときの項目パラメタ
の推定にはEasy Estimationによる周辺最尤法を用いた。
上記の解析において、識別力が0.5以下、困難度は絶対値
が4.0以上の項目を、一次元順序性が乏しい項目として位
④
置付け除外するものとした。
項目反応理論により選定された項目は、さらに1因子構
造モデルとして構築し、確証的因子分析によって因子構
造の側面から見た構成概念妥当性の検討を行った。因子
構造モデルのデータへの適合性は、Comparative Fit
Index(CFI)とRoot Mean Square Error of Approximation
(RMSEA)で判定した。CFIは一般的に0.9以上、RMSEAは
0.1以下であればモデルがデータに適合していると判断
される。なお、分析モデルの標準化係数(パス係数)の
有意性は、非標準化係数を標準誤差で除した値(以下t値)
の絶対値が1.96以上(5%有意水準)を示したものを統計
学的に有意とした。
35
日本科学教育学会研究会研究報告
なお、前記ふたつの測定尺度の因子構造モデル(二次
Vol.28 No.7(2014)
災行動達成測定尺度を開発した。
因子モデルもしくは斜交モデル)のデータへの適合性は、
構造方程式モデリングで確認するものとした。ただし、
3.1.家庭・地域における防災行動達成度測定尺度
それら因子構造モデルがデータに適合しない場合は、探
回答カテゴリの数量化は「1点:はい」
「0点:いいえ」
索的因子分析によって新たな因子を抽出し、かつそのと
とした後、項目間の四分相関係数を算出したところ、
き抽出される因子を用いて、確証的因子分析で尺度の構
「xa2」と「xa3」間において相関係数0.75以上が示され
成概念妥当性の検討を行うものとした。
た。そのため、
「xa3:自宅に3日分以上の飲料水を備蓄し
前記の因子構造モデルならびに因果関係モデルのデー
ている」は冗長性の高い項目と判断し、尺度項目から削
タへの適合性は、Comparative Fit Index(CFI)とRoot Mean
除した。
Square Error of Approximation(RMSEA)で判定した。
残った18項目を用いて、項目反応理論による項目の選
また、分析モデルの標準化係数(パス係数)の有意性は、
定を行ったところ、識別力>0.5かつ困難度<|4|が算
非標準化係数を標準誤差で除した値(以下t値)の絶対値
出された項目は図5に示した10項目であった。
が1.96以上(5%有意水準)を示したものを統計学的に有
項目反応理論により選定された10項目の家庭・地域に
意とした。なお因果関係モデルの従属変数に関しては、
おける防災行動測定尺度の因子構造の側面から見た構成
防災能力と防災行動を用いるものとした。
概念妥当性を確証的因子分析により検討した結果、モデ
ルのデータに対する適合度指標はχ2=72.373、df=28、
3.結果
CFI=0.937、RMSEA=0.052であり、統計学的許容水準を満
上記の解析により表4,7の結果を得たため、家庭・
たしていた。なお、
「yc2」と「yd2」の誤差間に相関を認
地域における防災行動達成度測地尺度と会社における防
めた(図6)
。
単位: 人( %)
回答カ テ ゴ リ
項目
※
はい
いいえ
xa1
自宅で家具等の耐震対策は行っ ている
106
( 18.2 )
475 (
xa2
自宅に3 日分以上の食料品を 備蓄し ている
175
( 30.1 )
406 (
69.9 )
xa3
自宅に3 日分以上の飲料水を 備蓄し ている
172
( 29.6 )
409 (
70.4 )
①
81.8 )
xa4
自宅にカ セッ ト コ ン ロ と ガスボン ベが用意し てある
338
( 58.2 )
243 (
41.8 )
xa5
自宅に携帯ラ ジ オが用意し てある
319
( 54.9 )
262 (
45.1 )
xa6
自宅に懐中電灯が用意し てある
509
( 87.6 )
xa7
自宅に救急用の医薬品がある
346
( 59.6 )
(
12.4 )
235 (
72
40.4 )
xa8
自宅に消火器や消火用バケツ がある
249
( 42.9 )
332 (
57.1 )
xa9
自宅に非常用毛布や寝袋など がある
126
( 21.7 )
455 (
78.3 )
xa10 いつも 風呂に水を ためている
97
( 16.7 )
484 (
83.3 )
xa11 災害発生時に、 ご 家族と の連絡手段・ 方法を 事前に決めている
127
( 21.9 )
454 (
78.1 )
xb 1
自宅で災害が発生し た際の避難場所や避難経路を 知っ ている
299
( 51.5 )
282 (
48.5 )
xb 2
自宅周辺のハザード マッ プ を 見たこ と がある
237
( 40.8 )
344 (
59.2 )
xc1
AEDの操作方法を 知っ ている
297
( 51.1 )
284 (
48.9 )
xc2
災害伝言ダイ ヤル(171)の使い方を 知っ ている
107
( 18.4 )
474 (
81.6 )
xd 1
避難勧告と 避難指示の違いを 知っ ている
296
( 50.9 )
285 (
49.1 )
xd 2
災害伝言ダイ ヤル(171)を 試験的に利用でき る 期間がある こ と を 知っ ている
62
( 10.7 )
519 (
89.3 )
xd 3
南海ト ラ フ 巨大地震について関心がある
398
( 68.5 )
183 (
31.5 )
xd 4
3 0 年以内に高い確率で南海ト ラ フ 巨大地震が発生する こ と を 知っ ている
460
( 79.2 )
121 (
20.8 )
※① 項目間で算出し た四分相関係数( テ ト ラ コ リ ッ ク 相関係数) が0.75以上を 示し たため削除し た項目
図5 家庭・地域における防災行動を構成する項目の特性曲線
ya2
平均値: 5 .0
標準偏差: 2 .4 4
表4 家庭・地域における防災行動の回答分析
家庭・ 地域
防災行動
n= 5 8 1
χ 2 = 7 2 .3 7 3
d f= 2 8
C FI= 0 .9 3 7
R M S E A = 0 .0 5 2
推定法: W LS M V
ya5
.5 5 2
.5 3 0
.5 7 8
.4 7 9
.6 9 0
.6 8 4
.5 1 3
.6 1 5
.5 2 9
.4 4 2
ya8
ya9
ya1 1
yb1
yb2
yc2
yd1
.6 4 2
yd2
図6 家庭・地域における防災行動達成度測定尺度の構成概念妥当性検討
36
日本科学教育学会研究会研究報告
3.2.会社における防災行動達成度測定尺度
Vol.28 No.7(2014)
減災対策態度、被災経験、防災観および職場風土が影
会社における防災行動に関する回答カテゴリの数量
響すると仮定した因果関係モデルのデータに対する適
化は「1 点:はい」
「0 点:いいえ」とした後、項目間
合度指標 は、χ 2=376.949 、 df=130 、 CFI=0.969 、
の四分相関係数を算出したところ、
「xe1」と「xe2」間
RMSEA=0.057 であり、
統計学的許容水準を満たしていた。
において相関係数 0.75 以上が示された。そのため、
家庭・地域における防災行動と独立変数間の関連性に
「xe2:私は会社で災害に備えて防災グッズを用意して
着目すると、家庭・地域防災行動と年齢、
減災対策態度、
いる」は冗長性の高い項目と判断し、尺度項目から削
被災経験、防災観の間に有意な正の関連性が認められた。
除した。
一方で、家庭・地域防災行動と職場風土に関する変数間
残った 13 項目を用いて、項目反応理論による項目の
に有意な関連性は認められなかった。
選定を行ったところ、識別力>0.5 かつ困難度<|4|
次に構造方程式モデリングを用いた会社防災行動の
が算出された項目は図8に示した 11 項目であった。
達成度に関連する要因の検討結果を図 11 に示した。会
項目反応理論により選定された 11 項目の家庭・地域
社防災行動に人口学的要因、被災リスク認知、減災対策
防災行動測定尺度の因子構造の側面から見た構成概念
態度、被災経験、防災観および職場風土が影響すると仮
妥当性を確証的因子分析により検討した結果、モデル
定した因果関係モデルのデータに対する適合度指標は、
2
のデータに対する適合度指標はχ =88.759、df=29、
χ2=494.680、df=136、CFI=0.955、RMSEA=0.068 であり、
CFI=0.900、RMSEA=0.060 であり、統計学的許容水準を
統計学的許容水準を満たしていた。
満たしていた。なお、
「yc2」と「yd2」
、
「yd1」と「yd4」
、
会社防災行動の達成度と独立変数間の関連性に着目
「ye4」と「yf2」の誤差間に相関を認めた(図9)
。
すると、会社防災行動と年齢の間に有意な負の関連が、
また、事故防止に積極的に取り組む風土、防災士資格の
3.3.防災行動の達成度に関する要因の検討
有無、勤続年数、減災対策態度、被災経験、防災観の間
構造方程式モデリングを用いた家庭・地域防災行動達
に有意な正の関連性が認められた。
成度に関連する要因の検討結果を図 10 に示した。家
庭・地域防災行動に人口学的要因、被災リスク認知、
単位: 人( %)
回答カ テゴリ
項目
※
はい
いいえ
xc1 AEDの操作方法を 知っ ている
298
( 51.2 )
284 (
48.8 )
xc2 災害伝言ダイ ヤル(171)の使い方を 知っ ている
107
( 18.4 )
475 (
81.6 )
xd1 避難勧告と 避難指示の違いを 知っ ている
297
( 51.0 )
285 (
49.0 )
xd2 災害伝言ダイ ヤル(171)を 試験的に利用でき る 期間がある こ と を 知っ ている
62
( 10.7 )
520 (
89.3 )
xd3 南海ト ラ フ 巨大地震について関心がある
398
( 68.4 )
184 (
31.6 )
xd4 3 0 年以内に高い確率で南海ト ラ フ 巨大地震が発生する こ と を 知っ ている
460
( 79.0 )
122 (
21.0 )
xe1 私は会社で災害に備えて備蓄品を 用意し ている
77
( 13.2 )
505 (
86.8 )
74
( 12.7 )
508 (
87.3 )
xe3 私は会社で家具等の耐震対策を 行っ ている
xe2 私は会社で災害に備えて防災グッ ズを 用意し ている
27
(
4.6 )
555 (
95.4 )
xe4 会社の緊急連絡網で、 自分が次に誰に連絡を 回すか、 把握し ている
190
( 32.6 )
392 (
67.4 )
xe5 会社の消火器の使い方を 知っ ている
①
383
( 65.8 )
199 (
34.2 )
xf1
南海ト ラ フ 地震が発生し た場合、 両備ビ ルまでの津波到達時間を 知っ ている
22
(
3.8 )
560 (
96.2 )
xf2
会社で災害が発生し た際の避難場所や避難経路を 知っ ている
184
( 31.6 )
398 (
68.4 )
xf3
会社周辺のハザード マッ プ を 見たこ と がある
163
( 28.0 )
419 (
72.0 )
図8 会社における防災行動を構成する項目の特性曲線
yc2
平均値: 3 .7
標準偏差: 2 .0 7
会社防災行動
n= 5 8 2
χ 2 = 8 8 .7 5 9
d f= 2 9
C FI= 0 .9 0 0
R M S E A = 0 .0 6 0
推定法: W LS M V
※① 項目間で算出し た四分相関係数( テト ラ コ リ ッ ク 相関係数) が0.75以上を 示し たため削除し た項目
表7 会社における防災行動の回答分析
.5 6 3
.4 4 5
.4 9 5
.3 0 4
.7 2 7
.7 5 8
.5 1 1
.5 9 9
.7 5 9
.5 1 9
.6 0 9
yd1
.6 2 3
yd2
.3 9 7
yd4
ye1
ye3
ye4
ye5
y f1
.4 0 8
y f2
y f3
図9 会社における防災行動達成度測定尺度の構成概念妥当性検討
37
日本科学教育学会研究会研究報告
個人的違反
容認の雰囲気
0 : 女性
1 : 男性
0 : 資格なし
1 : 資格あり
性別
防災士資格
2. 女性職員が大半でかつ働き方が多様で離職率が
年齢
高く教育の効果が持続し難いため、手軽に繰り
勤続年数
.2 2 9
.7 7 0
返し研修できる状況が望ましい。
被災リ スク 認知
組織的違反
容認の雰囲気
説明率
家庭・ 地域
防災行動
事故防止に積極的に
取り 組む風土
.1 5 5
所在地にあった内容がより効果的。
.1 7 9
減災対策態度
などの意見が聞かれ、時間的回数的な自由度が高く、
被災経験
遠隔地でも簡単に研修が行えるICTの強みが活か
n= 5 7 8
χ 2 = 3 7 6 .9 4 9
d f= 1 3 0
C FI= 0 .9 6 9
R M S E A = 0 .0 5 7
推定法: W LS M V
防災観
.4 6 6
3. 地域により災害の発生率が大きく変わるため、
2 2 .5 %
.2 1 0
.7 5 6
Vol.28 No.7(2014)
業務に対し て
責任を 持つ風土
せる状況が確認できた。
5.おわりに
図 10 家庭・地域における防災行動の達成度に関する要因の検討
今回、R企業の4事業所に所属する601名を対象と
個人的違反
容認の雰囲気
0 : 資格なし
1 : 資格あり
性別
防災士資格
.8 5 9
.3 2 7
組織的違反
容認の雰囲気
事故防止に積極的に
.1 3 9
取り 組む風土
会社
防災行動
業務に対し て
責任を 持つ風土
(性、年齢、勤務年数、
)
、被災経験、災害観、被災リス
年齢
勤続年数
-.1 3 6
防災観
ク認知、減災対策態度、組織の安全風土(個人的違反容
被災リ スク 認知
.1 6 6
説明率
認の風土、組織的違反容認の風土、安全に対して責任を
4 3 .3 %
もつ風土、事故防止に積極的に取り組む風土)との関連
.2 9 5
減災対策態度
.1 2 9
.1 3 9
.8 4 6
.5 4 0
したと防災行動の尺度化、②防災行動と人口学的要因
0 : 女性
1 : 男性
性を解析し構成概念妥当性が統計的に支持された防災
被災経験
行動の測定尺度が開発できた。今後はこの尺度をもとに
n= 5 7 8
χ 2 = 4 9 4 .6 8 0
d f= 1 3 6
C FI= 0 .9 5 5
R M S E A = 0 .0 6 8
推定法: W LS M V
防災教育のシステムを作成する。
[参考文献]
[1] 元吉忠寛:災害に関する心理学的研究の展望:防災行動
図 11 会社における防災行動の達成度に関する要因の検討
の規定因として,名古屋大学大学院教育発達科学研究科
4.社員教育における意識調査とICTの活用に
紀要,心理発達科学,51,9-33,2004-12-27.
[2] 新井洋介,元吉忠寛ら:防災意識尺度作成の試み,日本社会
ついて
心理学会大会発表論文集,第 46 回 pp1-2(2005)
次に介護施設において求められている防災教育を
ヒヤリングした。調査対象となる施設はA県内の対
[3] 鎌田晶子ら:組織風土による違反防止-『属人思考』の
象3施設でそれぞれ、3月に開設したばかりの新施
概念の有効性と活用-,社会技術研究論文
設、市と防災に関する協定を結んでいる施設、デイ
集,Vol,239-247,Oct,2003
サービスやショートステイなど在宅サービスに特化
[4] 松原紳一ら:医療安全に関する組織風土尺度の開発-看
した施設で施設経営者及び防災担当者に聞き取りを
護職を対象とした医療機関の安全風土に関する実証的検
行った。
証-,安全医学,1(2)2,78-88,204-10
ヒヤリングではいずれも防災教育の必要性を実感し
ているが如何に行うかに苦慮していた。その問題点とし
ては
1. シフト勤務のため一斉教育が困難
38
日本科学教育学会研究会研究報告
Vol.28 No.7(2014)
「パフォーマンス構成主義」を標榜する“Teaching for Understanding“ の
授業モデルの特徴
Properties of Lesson Model of “Teaching for Understanding” advocates
‘Performance Constructivism’
佐々木
弘記
SASAKI, Hironori
中国学園大学 子ども学部 子ども学科
Chugokugakuen University, Faculty of Children Studies Department of Children Studies
[要約]ハーバード大学の教育学大学院が提唱する Teaching for Understanding(以下,TfU
と略す)の授業モデルの特徴を,理科教育と教育工学における構成主義の授業モデルと対比
させて提示した。更に,それぞれの授業モデルを学習指導法の選択基準表の中に位置付ける
とともに,
「教師の制御-生徒の自主性」と「機能的学力-実体的学力」を二つの軸とする学
習指導法の様式を示すグラフ上への定位を試みた。
[キーワード]
TfU,理科教育,教育工学,構成主義,パフォーマンス構成主義
どのような特徴を持つ学習指導法なのか。
そこで,本稿においては,理科教育と教育工学にお
ける構成主義の授業モデルと対比させる形で,パフォ
ーマンス構成主義に基づく授業モデルの特徴を提示す
ることを目的とする。
1.主題設定の理由と目的
我が国においては,
「生きる力」の育成を目的として,
問題解決的な学習か系統学習かという二分法的な議論
を越え,問題解決的な学習の中で基礎学力を培うこと
ができる学習指導法を追究する必要がある1)。この課題
に対して「パフォーマンス構成主義2)」を標榜するTfU
を用いれば課題を解決できるのではないかと考えた。
TfUは,1967年にハーバード大学が立ち上げたプロ
ジェクト研究であるプロジェクト・ゼロ(Project Zero)
を1972年にH.GardnerとD.Perkinsが引き継ぎ,大学
の研究者や小・中・高等学校の教師が協力して開発し
た学習指導法である。
現在もPZCのコアメンバーであるD.Perkinsは,TfU
は,
「一種の構成主義である」と言っている3)。構成主
義については,R.Osborneらの著書「子ども達はいか
に科学理論を構成するか4)」が日本に紹介されて以降,
1990年代には構成主義学習論が我が国の理科教育に影
響を与えた。この学習論は,認知的葛藤場面などを取
り入れながら,子どもの持つ素朴概念の転換を促す学
習指導を提唱している。一方,2002年の総合的な学習
の時間の導入に伴って,協同的な学習やネットワーク
を用いた学習など,教育工学が主導して社会的構成主
義の学習論が普及していった。学習者の知識はグルー
プ活動等でのコミュニケーションを通して形成される
という考え方に基づく学習指導法である。では,
「パフ
ォーマンス構成」という新機軸を打ち出したTfUとは,
2.学習指導法の様式
水越(1989)は表1に示すような学習指導法の選択基
準表を作っている5)。
学習指導法
授業目標(学力の層)
A
B
C
D
E
全
面
制
御
の
学
習
有
意
味
受
容
学
習
多
項
選
択
学
習
誘
導
発
見
学
習
独
り
立
ち
学
習
○
知 1 基礎的知識の定着
識 2 概念,原理,法則の理解
○
思
3 学び方,調べ方の習得
△
考
4 応用力,推理力の育成
力
5 観察力の育成
○
技
6 測定,操作,制作等の習熟 ○
能
7 コミュニケーション技能の習熟
△
情 8 集中力,協調性の育成
意 9 学習意欲,探索意欲の向上
△ △
○ ○ ○ △
△ ○ ○ ○
△ ○ ○
△ ○ △ ○
△ ○ ○
○ ○
(注)○印は適合,△印はやや問題もあるが適合,空白は不適合
表1 学習指導法の選択基準表
この表の中の「全面制御の学習」とはプログラム学
習,
「多項選択学習」とは分岐型プログラム学習やフレ
39
日本科学教育学会研究会研究報告
3.1 理科における構成主義に基づく授業モデル
理科教育において子どもの科学概念の研究を行い,
現場の教師向けの指導書を作ったR.Osbornらの主張
する授業モデルを採り上げる。R.Osbornらの理科授業
のモデルはM.Wittrockが提起した「生成的学習モデ
ル」が下敷きとなっているので,まず,
「生成的学習モ
デル」の概要を述べ,次に彼らの提案する授業モデル
を概観する。なお,M.Wittrockは個人の知識の構成を
前 提と して いるの で,個人構 成主 義 (individual
consructivism)の範疇に入る。
(1)M.Wittrockの生成的学習モデル
学習者は,環境にある,学習者にとって有用と思わ
れる感覚情報のみを選択的に取り入れ,他は無視する
ことにより,記憶を蓄えたり処理したりする。情報そ
れ自体は,意味を持たない。次に,入力された情報と
彼の記憶内容との間において,関連性が認められた時
これら二つの情報の間に,結びつきを作る。そして,
学習者は,記憶内容にある情報を引き出し,これを用
いて能動的に,入力された感覚情報から意味を構成す
る。更に学習者は,構成された意味を記憶内容及び経
験に照らし合わせて検証し,記憶の中へ包摂する。新
たに構成された考えが,直ちに,既に記憶されている
考え方に,適応されることもあるし,包摂のために,
大幅な考えの再構成や経験の再解釈が必要とされる場
合もある。潜在意識として,記憶の中で,新たに構成
された意味に対して,ある種の位置付けを行うように
なる。すなわち,記憶の中で,新しい考え方と以前よ
りある考え方が,同時に捉えられるようになり,やが
て,一方の考え方がなくなり一つの見方として,統一
されていくのである。過度に理論的でなく,簡潔な考
え方と同様に,わかりやすく,得心がいき,まことし
やかで,有益であるというような要因が,このような
今後の学習状況に影響を与えるのである。
(2)R.Osbornらの授業モデル
R.Osbornらの示した授業のモデルは,四つの段階
(予備,焦点化,挑戦,応用)からなっている。
・
「予備」の段階
教師はまず生徒が授業の内容について持っている素
朴概念,及びそれらの内でどの概念がそのクラスで優
位かを調べる。次に,教師は授業で扱う内容について
調べ,その考え方を理解する。
・
「焦点化」の段階
生徒に特別な現象に対して注意を向けさせたり,彼
ら目身の持つ素朴概念を明らかにしたりする。一方,
ーム型CAIなどを指す。また,
「独り立ち学習」とは
課題学習や自由研究などのことである。A~Eの学習
指導法は,順次に学習者の自主性・創造性が拡大し,
教師からの直接制御が小さくなっていく配列になって
いる。その基準表をもとにして,学習指導法の様式を
図1に示すようにグラフ上に示した。
機能的学力
誘導発見
独り立ち
学習
学習
教師の制御
Vol.28 No.7(2014)
生徒の自主性
多項選択
学習
有意味
受容学習
全面制御
の学習
実体的学力
図1 学習指導法の様式グラフ
横軸に「教師の制御-生徒の自主性」の軸をとり,
A~Eの学習指導法を1目盛り間隔で位置付けた。縦
軸には「機能的学力-実体的学力」の軸をとった。水
越(1993)の「実体的学力観」の立場と「機能的学力観」
の立場によって学力を分類すれば,選択基準表の授業
目標の「思考力」
「情意」が機能的学力にあたり,
「知
6)
識」
「技能」が実体的学力に該当する 。そこで機能的
学力の「思考力」
「情意」の各項目に○印がついていた
ら1点,△印がついていたら0.5点とし,逆に実体的学
力の「知識」
「技能」の○印を-1点,△印を-0.5点
として換算して合計し,縦軸上の座標を求めた。そし
て,その座標上の点を中心として,便宜上半径1目盛
りの円を描き,その学習指導法の様式とした。グラフ
上に位置付けることにより,それぞれの学習指導法の
特徴を視覚的に把握することができる。
3.三つの構成主義に基づく授業の特徴
本節では,まず,理科教育及び教育工学における構
成主義に基づく授業モデルについて検討した後,パフ
ォーマンス構成主義を標榜するTfUについて採り上げ
る。
40
日本科学教育学会研究会研究報告
教師の役割は,動機づけとなる経験を与えること,生
徒達に自分の素朴概念に疑問を持つようにさせること,
などである。
・
「挑戦」の段階
クラスのメンバーによる多様な考え方が発表され,
議論される。この段階は,実際の教室での学習活動を
考える上において,教師の指導によって大きく左右さ
れる。すなわち,クラス全体を対象にした,授業と議
論が要求されるからである。小グルーブでの学習は,
それを維持し,コントロールし,結論を出すために,
教師の一定の援助を必要とする。この局面での学習を
成功させようとするならば,生徒達が新しい考え方を
多様な場面に適応させて,多くの疑問を提起した時点
で,終えるべきである。事実,この局而の成否は,多
くの場合,このような基準により評価されているので
ある。
・
「応用」の段階
問題解決がなされる段階である。理想的には,解決
は,自然科学での考え方,あるいは単純に,この考え
方が使用できるかによりなされる。生徒達によって提
起された多様な解決方法についての議論は,彼らの問
題解決の過程を強化したり,新しい考え方の地位を高
めたりするものでなければならない。
Vol.28 No.7(2014)
るために指導計画を立てるのではなく,状況に応じて,
学習者自身が計画を立てられるようにすることが大切
である。
(3)グループ活動の重視
グループ活動の中での話し合いを通して,学習者が
学習目標を決めたり,他者と協力しながら複雑で高度
な課題を解決したりする。
(4)学習を支援する教師
構成主義では,学習者は,自分の経験や知識の文脈
で解釈し,必要性や興味に応じて知識を構成する存在
として捉えている。授業では,学習者の中に外部のリ
アリティの構造をそのまま移すのではなく,学習者が
有意義で概念的な機能を構成できるように教師が支援
することになる。従って,授業では状況に応じて,教
師がいかに柔軟に対応できるかということが大切にな
ってくる。
(5)ゴール・フリーの評価
学習の目標や過程を学習者が決めるので,到達評価
は構成主義の評価には馴染まない。従って,ゴール・
フリーとなる。しかし,ゴール・フリーでは,評価の
基準が設定されなくなる。そこで,構成主義の評価で
は,生徒が作り出す知的な知識の構成の過程を反映し
ている成果,例えば,
「認知的方略」など,高いレベル
の思考に目を向け,それを評価していく。従って,そ
の評価は独自性の強いものになる。
また,評価は授業の指導過程の中に組み込まれ,学
習者が知識を獲得するにつれ,教師は生徒がどのよう
に知識を獲得しているか,また学習者自身も自分がど
のように知識を獲得しているかわかってくるようにな
る。このメタ認知が授業を改善していく。到達評価だ
と,授業で獲得した知識を一度きり表現できないが,
高いレベルの思考を評価するのであれば,授業の中で
何回も獲得した知識を表現できることになる。更に,
学習の結果を一つの評価方法で調べたり,一つの結果
だけを使って評価したりするのではなく,多くの学習
の出力を対象に評価しなければならない。また,評価
の際に単純化するのではなく,複雑な授業の文脈の中
の評価が行われることが大切だ。また,複数の評価者
によってなされるのが望ましい。
3.2. 教育工学における社会的構成主義に基づく授業モ
デル
日本の教育工学の授業研究に影響を与えているのは,
D.Jonassen(1992)やT.Duffy(1992)らによる,社会的構
成主義の立場である7) 8)。本節では,D.Jonassenらの主
張する授業モデルについて概括する。
(1)Piajetの理論との相違
個人が自然環境と相互作用するだけでは,知識は適
切に構成されるとは考えず,ものを見る見方やシンボ
ル世界を共有したりすることによって,はじめて知識
は科学的にも公的にも更に制度的にも適切なものとし
て構成されるものとする。
(2)学習者による授業の目標設定
授業の目標は,学習が始まる前に,学習目標が学習
者に知らされれば,生徒は先入観を持ってしまい,そ
れに影響される。そうなると,生徒の学習活動が授業
を展開していく代わりに,設定された学習目標が授業
の展開の方向を決定づけることになる。むしろ,学習
者自身が新たな目標や学習方法を創造することを期待
している。教師が学習内容を学習者にうまく移転させ
3.3 パフォーマンス構成主義に基づくTfUの授業モデ
ル
パフォーマンス構成主義は,個人のUnderstanding
の能力の構成に焦点を当てているので,個人的構成主
41
日本科学教育学会研究会研究報告
義の範囲に入ることになる。
TfUでは,Understandingとは,
「自分が知っている
ことを使って,柔軟に考え,パフォーマンスする能力」
のことであるとしている9)。つまり,知識や概念を丸暗
記して再提示することではなく,実際に学習したこと
を用いて,新たな問題に取り組み,解決するパフォー
マンスであると言っている。
(1) Understandingの捉え方
D.Perkinsは,心理学では,Understanding は,ス
キーマやメンタルモデルなどの表象として捉えられて
きたが,次の理由により,Understandingをパフォー
マンス能力であると捉えた方が,適切であると考えて
いる10)。
① メンタルモデルに優先する理由
メンタルモデルなしには物事を理解することはでき
ないが,パフォーマンスをする時には,必ずしもメン
タルモデルを必要としないからである。例えば,スピ
ーチをするときに,いつも文法を参照している訳では
ないこと,また,歌を歌うときに,楽譜が読めなくて
も自分でアレンジできることなどからも分かる。
② アクション・スキーマに優先する理由
アクション・スキーマが,人のパフォーマンスを必
ずしも制御してはいないからである。例えば,言語の
文法は,発話の構造などをルールとして記述したもの
であり,スピーチするときに,心のどこかに居座って,
その人のふるまいを決めるものではないことからも分
かる。
(2)TfUのフレームワーク
TfUのフレームワークとして,4つのパートが上げ
られる11)。
① Generative Topics (生成的な課題)
・一つの教科あるいは複数教科にまたぐ中心課題
・児童生徒にも教師にも興味がある課題
・多様な知識や経験を結びつける機会をもたらす課題
② Understanding Goals (学習目標)
小 単 元 や 単 元 全 体 の 理 解 目 標 (Unit-long
Understanding Goal)と,さらに広い学年での目標
や教科の目標 (Overarching Understanding Goals)
または通し目標(Through Lines)から成る。
これらの目標は,その単元で最も大事なことは何
かを表す文や問いの形式で表記される。
③ Performance of Understanding (活動)
学習目標に対する児童生徒なりの答えをパフォー
マンスとして表現する過程である。TfUの中心的な
Vol.28 No.7(2014)
活動となる。他の人が見ることができるように表現
することで,児童生徒自身のUnderstandingが更に
深まることが期待されている。
④ Ongoing Assessment (評価)
パフォーマンスを改善するためのフィードバック
を得るプロセスである。期末に出す成績表のことで
はない。適切なフィードバックのためには,評価基
準が必要となる。
(3)TfUの学習活動
D.Perkins は,著書 Making Learning Whole 12)の
中で,elementitis と aboutitis という造語で,現在の
学習指導が抱える問題点を提示している。elementitis
は,element(要素)をもじっている。教科の単元の題
材があると,現在の授業では,それを下位の要素に分
割して一つ一つ指導していくので,それが社会のどう
いう場面で活用されて役立っているのかが全体像が分
からないまま,学習が進み,児童生徒にはつまらない
授業になってしまうという。また,aboutitis は,about
(~について)からきている。全体像を最初に学ぶの
は確かに良いことであるが,実際にそれを実践してみ
ることなしにそのことについて理論や概念について学
習するだけになっている場合があるという。その理論
や概念が,どのような実際の文脈の中で使われ,役に
立っているのか,実際に体験することが欠落している
のである。
このことから,TfU で展開する学習活動は,要素を
一つ一つ積み重ねていく形態で行われるのではなく,
あらかじめその課題の有用性を児童生徒が知り,学習
過程でパフォーマンスを行いつつ学習活動が展開され
る。また,TfU の活動の中で扱われる概念は,一般的
な内容ではなく,実際の具体的な文脈に沿って追究さ
れることになる。
TfU における,基礎学力の育成については,次のよ
うに述べられている。
「小数点については,ローンや預
金の利率を計算する中で習う。文法は,年少者向けの
短編物語集を制作する中で習う。こうすることで,ス
キルだけでなく,習ったことがどうして大切なのか,
どう生かされていくかも分かる 13)。
」つまり,問題解決
を実践する文脈の中で基礎学力の定着を図っていくと
いうことである。計算方法を習い,反復する学習が最
終的にどのような問題解決につながるのかを知ってお
くと,学習者の中にその学習の意味付けがなされるこ
とになる。
以上,三つの構成主義に基づく授業の概要を述べた
42
日本科学教育学会研究会研究報告
が,その特徴を表2にまとめた。
R.Osbornらの授業モデル
背景となる構成
主義
個人的構成主義
D.Jonassenらの授業モデ
ル
社会的構成主義
TfUの授業モデル
個人的構成主義
パフォーマンス構成主義
入力された感覚情報から, 経験や文脈で解釈し,社会 学習者が習得するのは,
学習者の捉え方 個人内で能動的に意味を 的相互作用を通して積極 表象ではなく,パフォーマ
構成する
的に知識を構成する
ンス能力である
指導計画
あり(教師用指導書もある) なし(学習者が決定)
授業の重点
科学概念の形成
授業の形態
グループ学習
一斉指導
評価
教師の役割
生徒の多様な考えの導出
素朴概念の変容
動機付けをする人
的確な診断者
道案内人
考え方を刷新する人
主体的な学習活動
ゴール・フリー
グループ学習
徒弟制
生徒の出力結果(複数)
メタ認知(自己評価)
認知的方略などの評価
授業のあらゆる場面に柔
軟に対応できる人
コーチングする人
あり(Graphic Organizer)
理解(パフォーマンス)
グループ学習
一斉指導
オンゴーイング評価
パフォーマンスを改善する
ためのフィードバックを得
る
フレームワークをデザイン
する人
パフォーマンスを促進し,
改善する人
表2 三つの授業モデルの特徴
4.授業モデルの定位
て行われるため,技能の面では「コミュニケーション
技能の習熟」が適合している。更に,学習者に学習の
展開が任され,学習者は責任を持って学習に取り組む
ため,情意の面では,
「集中力,持続力,協調性の育成」
「学習意欲,検索意欲の向上」が適合していると考え
られる。
TfUの学習指導については,教師がフレームワーク
に沿って授業のデザインを行い,生徒が主体的に問題
解決的な学習を進めることになる。よって,教師の指
導が生徒の活動かという二者択一的な指導ではなく,
Osbornらの授業と同様に,教師の指導と生徒の活動が
バランスよく行われる。よって,選択基準表では,
「多
項選択学習」と同じ列に位置することになる。一方,
授業目標(学力の層)については,問題解決的な学習
の展開の中で,基礎学力の定着もねらいとしているの
で,知識の面では,
「基礎的知識の定着」と「概念,原
理,法則の理解」が,技能の面では,
「観察力の育成」
と「測定,操作,制作等の技能の習得」の一部が適合
していると考えられる。また,作品制作や発表などの
パフォーマンスが行われることから,思考力の面では,
「学び方,調べ方の習得」と「応用力,推理力の育成」
が,情意面では「学習意欲,探索意欲の向上」が適合
すると考えられる。
以上の検討を基に,選択基準表の中に三つの学習指
導法を表2のように位置付けた。
B
C
全
面
制
御
の
学
習
有
意
味
受
容
学
習
多
項
選
択
学
習
○ △ △
○ ○ ○
△ △ ○
△
○
○
△ ○
△
△
○
△
○
○
○
△
TfUの授業モデル
授業目標(学力の層)
知 1 基礎的知識の定着
識 2 概念,原理,法則の理解
思
3 学び方,調べ方の習得
考
力
4 応用力,推理力の育成
5 観察力の育成
技
6 測定,操作,制作等の習熟
能
7 コミュニケーション技能の習熟
情 8 集中力,協調性の育成
意 9 学習意欲,探索意欲の向上
A
D
E
誘
導
発
見
学
習
独
り
立
ち
学
習
○
○ ○
○ ○
○ ○
△
△
△
○
○ ○
△
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
(注)○印は適合,△印はやや問題もあるが適合,空白は不適合
出所 水越(1989)に筆者加筆(網掛け部分)
表2 選択基準表への授業モデルの位置付け
更に,この基準表を基に,
「2.学習指導法の様式」
で述べた計算方法でそれぞれの授業の座標を求め,学
習指導法の様式グラフの中に定位した(図3)
。
43
D.Jonassenらの授業モデル
学習指導法
R.Osbornらの授業モデル
4.1. 学習指導法の選択基準表への位置付け
構成主義は,
「学習者が知識を能動的に構成する存在
である」としているため,生徒の活動が尊重される授
業であることが前提となる。
R.Osbornらの授業では,教師が動機付けを行い,生
徒は教師の支援を受けながらグループ活動を行う。す
なわち,教師の指導と生徒の活動が相互に関連して行
われるバランスのとれた授業となっている。従って,
表2に示すように学習指導法の基準選択表では,
「多項
選択学習」と同じ列に位置すると考えられる。
(ここで
は,便宜上,
「多項選択学習」の右側に配置した。
)ま
た,授業目標(学力の層)については,科学概念の形
成を目的としているので,知識の面では,
「概念,原理,
法則などの理解」に適合する。また,応用の局面にお
いて実際的な課題の解決を図っているので,思考力の
面では「応用力,推理力の育成」と一部「学び方,調
べ方の習得」が期待できる。更に,グループ活動を通
して多様な考えを表出させることから,技能の面では
「コミュニケーション技能の習熟」が,情意の面では
「集中力,持続力,協調性の育成」と一部「学習意欲,
探索意欲の向上」が適合していると考えられる。
一方,D.Jonassenらの授業モデルは,生徒が自ら目
標を立て,学習を進めていき,教師はそれを支援する
役割なので,かなり生徒に重心を置いた授業展開とな
る。よって,
「独り立ち学習」と同様の配置となると考
えられる。また,授業目標(学力の層)については,
学習者自身が目標を設定し,学習を展開させることか
ら,思考力の面では「学び方,調べ方の習得」
「応用力,
推理力の育成」が適合し,また,グループ活動を通し
Vol.28 No.7(2014)
日本科学教育学会研究会研究報告
Vol.28 No.7(2014)
今後は,小・中・高等学校の理科教育をはじめとす
る教科教育や総合的な学習の時間等の授業において
TfUを導入するのにふさわしい単元を検討し,単元開
発を進め,授業を実践していくことが課題である。
機能的学力
D.Jonassen
誘導発見 らの授業
独り立ち
学習
学習
R.Osborn
らの授業
TfUの
授業
多項選択
学習
教師の制御
引用・参考文献
1) 拙著(2013),ハーバード教育学大学院が提唱する
Teaching for Understanding を日本の理科教育
へ導入する際の課題,日本科学教育学会第4回研
究会&中国支部研究発表会講演論文集,p.11
2) Perkins,D.,(1998).What is Understanding,
Wiske,M.S.(Eds.) Teaching for Understanding.
San Francisco: Jossy-Bass, p.57
3) Ibid.,p.54
4) Osborne,R.&Freyberg,P.編(1985),森本信也・堀
哲夫訳,子ども達はいかに科学理論を構成するか,
東洋館出版
5) 水越敏行・長谷川忍(1989),学び方の学習,教育出版
6) 水越敏行(1993),新しい学力をめざす教育活動の
組織と展望,教育展望臨時増刊
生徒の自主性
有意味
受容学習
全面制御
の学習
実体的学力
図3 様式グラフへの授業モデルの定位
5.
「生きる力」との整合性
いずれの授業モデルも構成主義の学習論に基づいて
いるが,それぞれ授業モデルの様式は異なっているこ
とが分かる。D.Jonassenらの授業モデルは,課題学習
や自由研究などの独り立ち学習の位置付けに非常に近
い。生徒の自主性を重視し,機能的学力の育成をねら
いとしたものであるだけに,授業運営が難しく,教師
の力量が問われる学習指導法の様式である。一方,
R.Osbornらの授業モデルとTfUの授業モデルは,教師
の制御と生徒の自主性のバランスがよく,教師の指導
と生徒の活動が相互に関連して行われる授業である。
また,実体的学力の育成と機能的学力の育成に偏りが
ない。このことは,問題解決的な学習か系統学習かと
いう二分法的な議論を越え,問題解決的な学習の中で
基礎学力を培うことができる学習指導法を示現してい
ると考えられる。よって,
「生きる力」を育成するのに
ふさわしい授業モデルであることが示唆されたと言え
る。
7) T.M.Duffy&D.H.Jonassen(1992),Constructivism
8)
9)
10)
11)
6.今後の課題
12)
問題解決的な学習の中で基礎学力を培うことができ
る学習指導法を追究するという課題に対して,TfUの
授業モデルは課題解決に有効であることが示唆された。
13)
44
:New Implications for Instructional Technology,
Constructivism &Technology of Instruction,
Lawrence Erlbaum Associates,pp.2-16
D.H.Jonassen(1992),Evaluating
Constructivistic
Learnig,Constructivism
&Technology of Instruction, Lawrence Erlbaum
Associates,pp.137-148
Perkins,D.,op.cit.,p.40
Ibid.,p.47-50
Blyth,T.et al.(1997). The Teaching for
Understanding
Guide.
San
Francisco:
Jossy-Bass
Perkins,D.,(2009). Making Learning Whole San
Francisco: Jossy-Bass, pp.3-7
Blyth,T.et al. op.cit.,p.110
日本科学教育学会研究会研究報告
Vol.28 No.7(2014)
Stamp-On:博物館展示支援システムの実装と予備的評価 Stamp-On : Prototyping and a Preliminary Evaluation of Support System for Museums.
○石山琢子*1, *5 村津啓太*2 加藤茂弘*3 先山徹*3, *4 楠房子*1 稲垣成哲*2 寺野隆雄*5 ISHIYAMA, Ayako*1, *5, MURATSU, Keita*2, KATO, Shigehiro*3, SAKIYAMA, Tohru*3,
KUSUNOKI, Fusako*1, INAGAKI, Shigenori*2, TERANO, Takao*5
*4
,
多摩美術大学情報デザイン学科*1, 神戸大学大学院人間発達環境学研究科*2, 兵庫県立人と自然の博物館*3, 兵庫県立大学*4,東京工業大学大学院 総合理工学研究科*5
Department of Information Design, Tama Art University*1, Graduate School of Human Development
and Environment, Kobe University*2, Museum of Nature and Human Activities, Hyogo*3, University
of Hyogo*4, Interdisciplinary Graduate School of Science and Engineering, Tokyo Institute of
Technology*5.
[要約]本研究は,博物館における展示支援システムとして,Stamp-On システムを提案, 実装し
てきている.Stamp-On システムは,スタンプと呼ばれるタンジブルなインタフェースをiPadなどのモ
バイル端末に物理的に押し付ける事でスタンプに対応した説明コンテンツ画面に切り替えるシステム
である.本稿では小学生を対象とし, 岩石観察に対する実験を行った.評価の結果,Stamp-Onによっ
て参加者の岩石観察が促進されたことが明らかとなった. [キーワード]タンジブル,iPad,博物館,スタンプ
1.問題の所在
従来の音声ガイドやビデオなど来館者の多様
性に対応できない博物館展示支援システムに対
し, センサーと PDA, または携帯電話や iPod な
どのモバイル端末を組み合わせて,来館者の多様
性に応じて柔軟な展示支援を行う研究が数多く
行われてきている. 技術的に様々な方法がある
が, どれも「どの展示物の前にユーザーが立って
いるかをシステム側が認識して対応する説明コ
ンテンツを表示する」という共通の構造を持つ.
システムが展示物を識別する技術的方法は以下
示すように,大きく三つに分類される. 1) WiFi 機 器 や GPS 機 器 を 用 い る も の
(Cahill,2011; Raptis,2005; Suzuki,2009). 2) RFID などの短距離無線機器を用いるもの
(Kusunoki,2005). 3) カメラで QR コード等を読み取らせる方
式(Ceipidor,2009). しかしながら, 1)は機器的限界から 1m 以下
の近距離での展示物の判別が難しい.2)は特別な
受信装置が必要であり開発,コストの面で優れて
いるとは言いがたい.3)は薄暗い展示の場合, 手
ぶれに対応することが難しい.など技術的問題を
抱えている.そこで本研究では簡単な仕組みと技
術によって博物館支援が可能となる Stamp-On シ
ステムを提案,実装し, 評価実験を行った. 2.Stamp-On システム Stamp-On シ ス テ ム の 構 造 は , Ishiyama et 45
al.(2014)と同様である. ハードウェアは iPad mini とスタンプで構成され, スタンプは展示物
に物理的に紐付けされている.iPad mini にはあ
らかじめ説明コンテンツがインストールされて
いる. 操作方法は, ユーザーは iPad mini にスタンプ
を押すだけでよく, その後スタンプが ID を識別
し, ID に対応した説明コンテンツが端末に表示
される, というプロセスになる. 図 1 Stamp-On システム概要 3.Stamp-On シ ス テ ム 構 造 システム構造もIshiyama et al.(2014)で述べ
られている構造を踏襲している. スタンプはモ
バイル端末で広く使用されるマルチタッチ技術
を応用している.スタンプに貼られたアルミテー
プがつながっている部分は通電するため, スタ
ンプをiPad miniに押し付けると端末側からはい
つも同じタッチパターンが認識される.毎回同じ
パターンのマルチタッチを検出することができ
日本科学教育学会研究会研究報告
れば, マルチタッチ技術は展示物識別の為のID
として利用できる.そのためスタンプの底面に図
2のように通電パターンを設定し, これをID と
している. Vol.28 No.7(2014)
3.2.説明コンテンツ 図4,には,説明コンテンツの事例を示している.
説明コンテンツは兵庫県下に産出する代表的な
岩石8種類である.スタンプを押す画面構成も, Ishiyama et al.(2014)とほぼ同様で,iPad mini 側の画面には,スタンプ底面と同じサイズのタッ
チエリア(画面における長方形の「答える」の部
分)が表示されている.そこにスタンプを押すと,
正解不正解が判定される.正解の場合,図5のよ
うに,さらに詳細にその岩石を説明するコンテン
ツが表示される. 図 2 Stamp-On システム構成
ユーザーがスタンプを手に持ち,iPad mini の
画面に押し付けると,iPad mini 側でどのパター
ンがタッチされたかを検出する.iPad mini側で
はタッチされたパターンに応じてデジタルコン
テンツを切り替える.展示物に紐づけられたスタ
ンプとiPad mini内のコンテンツの対応付けをし
ておけばスタンプを押せば対応した説明コンテ
ンツを呼び出すことができる.なお, スタンプの
底面の通電パターンは,最大10通りの設定が可能
であったが説明コンテンツとの関係で今回は8通
り取得している. 図 4 コンテンツ画面
(スタンプを押す画面)
3.1.スタンプ スタンプ本体もIshiyama et al.(2014)で使用
した図3の形状を用いた.スタンプの底面は40mm × 100mm. iPad miniに押し付ける向きを分かり
やすくするために,スタンプに上面に「これだ」
という文字を入れている. 図 5 コンテンツ画面
(スタンプを押した後の正解画面) 4.評 価 実 験
4.1.目的 評価の目的は,(1)参加者の岩石観察の促進,
(2)参加者の岩石に関する興味・関心の向上と
いう観点から,Stamp-On の有効性を明らかにす
ることであった. 図 3 スタンプ
46
日本科学教育学会研究会研究報告
4.2.参加者と実施時期 参加者は,兵庫県内の小学校第 6 学年の児童計
34 名であり,これまでに Stamp-On を利用した経
験がなかった.評価は 2013 年 11 月 2 日に実施さ
れた. 図 6 実験の様子
4.3.手続き 参 加 者 に 1 台 ず つ iPad mini を 配 付 し ,
Stamp-On の利用方法について説明した.その後,
展示された岩石の観察に取り組ませた.展示され
た岩石は合計 8 種類であり,それぞれの岩石には
対応したスタンプが紐付けされていた.観察活動
Vol.28 No.7(2014)
と回答していた.二項検定を実施した結果,どち
らの項目も,「そう思う」と回答した参加者の人
数が「そう思わない」と回答した参加者の人数よ
り有意に多かった(p < .01).表 2 は,その理由
についての事例である.参加者 P1 は,スタンプ
を押すことは指による操作より容易である点や,
スタンプによって即座に正解・不正解を判断でき
る点といったスタンプの利点について言及して
いた.また,参加者 P2 は,実物の石を観察しな
ければクイズに回答できないという Stamp-On の
コンテンツの特徴について言及していた. 次に,興味・関心の向上に関わる結果について
述べる.項目(3)と項目(4)についても,ほぼ
全員が「そう思う」と回答していた.二項検定の
結果,両項目において「そう思う」と回答した参
加者の人数が「そう思わない」と回答した参加者
の人数を有意に上回っていた(p < .01).表 3
は,その理由についての事例である.参加者 P3
は,スタンプを押すことによって正解が表示され
る仕組みや,スタンプを押すという動作そのもの
がおもしろいと言及していた.また,参加者 P4
は,スタンプを利用すれば自力で正解もしくは不
正解を判断することが可能なため,不正解を恐れ
ず気軽に岩石観察できる点について触れていた. 6. 考察
において参加者は,Stamp-On のコンテンツを利
評価の結果,Stamp-On によって参加者の岩石観
察は促進されたことが明らかとなった.このよう
な結果が得られた理由として,
(1)参加者にとっ
てスタンプを押すという動作が容易であった点,
(2)スタンプによって即座に正解・不正解の判
断が可能であった点,(3)Stamp-On のコンテン
ツが岩石観察の視点を参加者に提供できていた
点などを評価実験指摘することができる. 一方,岩石に関する興味・関心についても,そ
の向上が認められた.こうした結果が得られたの
は,
(1)スタンプを押すという動作そのものが参
加者の興味・関心を喚起する点,
(2)スタンプに
よって何度でも自力で正解・不正解を判断できる
ため,気軽に観察活動を楽しめる点などが寄与し
ていたと考えられる. 用して各岩石の名称について同定した.観察活動
の所要時間は約 15 分であった.観察活動の終了
後,個別の面接調査を実施した.面接の所要時間
は,1 人つき約 5 分であった. 4.4.課題 面接調査は,事前に質問項目を設定した構造化
面接法の手法を採用した.質問項目は,2 つの観
点から構成されており, 1 つ目は,観察の促進
に関する「岩石のことが分かったか」及び「実物
の岩石を観察したか」という 2 項目であった. 2
つ目は,興味・関心の向上に関する「岩石を観察
するのは楽しかったか」及び「岩石のことをもっ
と調べたくなったか」という 2 項目であった.こ
7. まとめと今後の課題
れらの項目について,「そう思う」もしくは「そ
う思わない」のどちらかを参加者に選択させ,そ
れらを選択した理由を自由に説明させた. 5. 結果
最初に,観察の促進に関する結果について述べ
る.表 1 は,面接調査における参加者の回答傾向
である.観察の促進に関わる項目(1)と項目(2)
の両者について,大部分の参加者が「そう思う」
47
評価の結果, Stamp-On システムを用いることで
博物館の展示物への観察を促進することができ
た.今後は, 誰でも Stamp-On システムを作って
ワークショップなどができるよう, スタンプの
改良とシステム全体の改良を進めていく予定で
ある. 日本科学教育学会研究会研究報告
Vol.28 No.7(2014)
表 1 面接調査における参加者の回答傾向 観点 項目 そう思う そう思わない 観察の促進 (1)岩石のことが分かった. 34 0 (2)実物の岩石を観察した. 32 2 (3)岩石を観察するのは楽しかった. 34 0 (4)岩石のことをもっと調べたくなった. 32 2 興味・関心の促進 Note. 数字は参加者の人数を表す.N=34 表 2 観察の促進に関わる発言事例 P1: スタンプを使うと,自分の指とかで操作するよりも簡単で,分かりやすかった(下線部筆者)ので, スタンプ使うのがよかったです.石を見つけて,パッと押せるからいい(下線部筆者).知りたいこと
が簡単な操作することで分かるし,石を探すときスタンプを押して,これは違うんだなってことがす
ぐに分かりました(下線部筆者). P2: iPad に書いてあった,石の表面の手触りがザラザラとかツルツルとか,そういう特徴とかも,よく
観察しないとクイズには答えられなかった(下線部筆者)からです. Note. P1:参加者 P1,P2:参加者 P2 表 3 興味・関心に関わる発言事例 P3: スタンプを押して正解が出てくるっていうのがおもしろいからです.スタンプを押したときに正解か
間違っているかがすぐに分かるし,押すという動作が楽しかったので,スタンプを押して,楽しみな
がら学習できました(下線部筆者). P4: スタンプがなかったら,正解なのか人に聞く必要があるけど,スタンプがあれば自分で簡単に知るこ
とができるから,残念でしたを重く受け止めずにたくさん調べることができるからです(下線部筆者). Note. P3:参加者 P3,P4:参加者 P4 the 2nd ACM SIGCHI International Conference
on Advances in Computer Entertainment
Technology, pp.1-8.
Raptis, D., Tselios, N., and Avouris, N. 2005.
Context-based design of mobile applications for
museums: a survey of existing practices. In
Proceedings of ACM MobileHCI’05, the 7th
International Conference on Human Computer
Interaction with Mobile Devices and Services,
pp.153-160.
Suzuki, M., Hatono, I., Ogino, T, Kusunoki, F.
Sakamoto, H. Sawada, K., Hoki, Y., and Ifuku, K.
2009. LEGS system in a zoo: use of mobile phones
to enhance observation of animals. In Proceedings
of IDC’09, the 8th International Conference on
Interaction Design and Children, pp.222-225.
引用文献
Cahill, C., Kuhn, A., Schmoll, S., Lo, W. T.,
McNallu, B., and Quintana, C. 2011. Mobile
Learning in Museums: How Mobile Supports for
Learning Influence Student Behaviour, In
Proceedings of ACM IDC’11, the 10th
International Conference on Interaction Design
and Children, pp.21-28.
Ceipidor, U, B., Medaglia,C, M., Perrone, A.,
Marsico,M, D., Romano, G, D. 2009. A Museum
Mobile Game for Children Using QR-Codes. in
IDC '09 Proceedings of the 8th International
Conference on Interaction Design and Children,
pp.282-283,
Ishiyama, A., Kusunoki, F., Egusa, R., Muratsu, K.,
Inagaki, S., and Terano, T. 2014. Stamp-On: A
Mobile Game for Museum Visitors. Proceedings of
the 6th International Conference on Computer
Supported Education (CSEDU), Vol. 3,
pp.200-205.
Kusunoki, F., Yamaguchi, T., Nishimura, T., and
Sugimoto, M. 2005. Interactive and enjoyable
interface in museum. In Proceedings of ACE’05,
謝辞
本研究は JSPS 科研費 24240100, 24650521, 26540186 の助成を受けたものです.実験コンテ
ンツ制作や実験を手伝ってくれた多摩美術大学
のみなさん, 実験にご協力いただいた神戸大学
のみなさまに深く感謝致します. 48
日本科学教育学会研究会研究報告
Vol.28 No.7(2014)
論理的思考力評価のための調査問題の開発
Development of Test Items for Evaluating Logical Thinking
御園 真史
MISONO,Tadashi
島根大学
Shimane University
竹崎 修次
TAKEZAKI, Shyuji
島根県立出雲高等学校
Izumo Senior High School
西村 隆正
NISHIMURA, Takamasa
島根県立出雲高等学校
Izumo Senior High School
真玉 保浩
MADAMA Yashuhiro
島根県教育委員会
Shimane Prefectural Board of Education
[要約]本研究は,論理的思考力の客観的な評価のためのテスト(論理的思考力診断テスト)の開発とそれ
を用いた調査結果の一部について報告する.この結果,2 年次の受験者は,1 年次の受験者に対し,平均正答
数が多く,SSH の取り組みなどの成果である可能性が示唆された.また,「かつ」や「または」という語の
意味がきちんと理解されていない点,順を追って精密に定義や状況や解析すべきところで,おおまかに捉え
てしまう傾向がある受験者が存在することがわかった.
[キーワード]論理的思考力,問題解決能力,テスト,SSH,SGH,評価
そこで,本研究では,多数の生徒に対し,比較的
1.はじめに
近年,高等学校等において先進的な理数教育を実
短時間で評価が可能なテスト形式での評価について
施するスーパー・サイエンス・ハイスクール(SSH)
検討した.今回は,特に,SSH,SGH どちらにおい
事業や,大学や科学館,NPO 法人等が学校・教育委
ても,生徒が身につけるべき力の一つであると考え
員会と連携して講座の形で学習活動を支援するサイ
られる論理的思考力について評価するテスト「論理
エンス・パートナーシップ・プロジェクト(SPP)
的思考力診断テスト」を開発した.本稿では,その
など,教科指導の枠組みを超えた科学教育プログラ
テストを試行的に実施・分析した結果を示す.
ムが展開されている.
2.開発した「論理的思考力診断テスト」の概要
本年度からは,これらに加え,将来,国際的に活
躍できるグローバル・リーダーの育成を図る(文部
本研究で開発した「論理的思考力診断テスト」は,
科学省,2014)スーパー・グローバル・ハイスクー
大問 8 問からなる.これに,日本を含む世界の国々
ル(SGH)事業も開始された.
や地域と,今回したテストを受験した集団の能力水
一方で,これらの事業の学習成果を的確に評価し
準を知る目安とするため,OECD による PISA 2003
ていくことが求められている.筆者はこれまでも,
調査で出題された問題解決能力の中から抜粋した 1
その評価の在り方について,検討を加えてきている.
問を加えた,計大問 9 問を 40 分間で実施することを
2012 年度に東京理科大学で開催された本学会の年
前提として設計した.
会では,課題研究として「科学教育プログラムにお
さらに,テストは,採点効率の向上を目的として,
ける評価の現状と課題」を企画し,筆者は,パフォ
選択肢を選ぶ方式の問題と,記述して解答する問題
ーマンス評価やルーブリックを用いた評価などを検
の 2 種類に分けて実施することとした.前者を第 1
討してきた(御園,2012).しかし,これらの評価
部とし,大問を 6 問出題した.第 1 部の解答用紙に
は,時間がかかるのが難点である.
はマークシートを使用することとした.一方,後者
49
日本科学教育学会研究会研究報告
Vol.28 No.7(2014)
は第 2 部とし,大問を 3 問出題し,記述式の解答用
答数は高かった.この差が有意な差であるかを検討
紙を使用した.第 1 部,第 2 部はそれぞれ各 20 分で
するためにt検定を行ったところ,第 2 学年の平均
実施することとした.
正答数は,第 1 学年の平均正答数よりも有意に多い
本稿執筆時点においては,記述式問題の採点を行
ことが分かった(t(625)=3.27,p<.01).これは,調
っている最中であるので,本稿については第 1 部の
査実施校における第 2 学年の生徒は,もちろん,様々
マークシート式の問題についての分析結果について
な授業を始めとする,高校での活動の成果や,能力
述べる.第 1 部に含まれる大問数は 6 問であるが,
の学年差による可能性など様々な要因が考えられる
大問 1 は 3 問の小問から構成され,大問 2 は 2 問の
が,SSH 指定校として,1 年間の活動を経たひとつ
小問から構成されているので,小問ベースでの出題
の成果である可能性が示唆された.
数は計 9 問である.
表2
また,作問にあたっては,できるだけ,日常生活
論理的思考力診断テスト第 1 部の結果概要
や社会生活で遭遇しうるような題材を採用した.
表1
論理的思考力診断テスト第 1 部の出題内容
大問
1
出 題 内 容
市町村別の人口と面積の表から,条件を満たす市
町村の数を数える
(1) 人口 30,000 人以上
(2) 人口 10,000 人未満かつ面積 100km2 以上
(3) 人口 20,000 人以上または面積 400km2 以上
アイスクリーム類の定義にしたがって,製品を分
類する
到着順に関する 4 つの条件に基づいて推論する
作業にかかる日数と作業順序に関する条件から
製品の組み立ての最短日数を求める
乗り継ぎを含む国際線航空便の時刻表から,最短
の所要時間の旅程を判断する
架空のプログラミング言語の処理の定義に基づ
き,実行結果を推論する
2
3
4
5
6
平均正答数
正解率
標準偏差
第 1 学年
6.65
73.9%
1.44
第 2 学年
7.02
78.0%
1.43
6.83
75.9%
1.45
全
体
5.設問ごとの分析結果
本章では,正答率が全体に高かった問題は除いて,
比較的正答率の低かった問題を掲げ,その誤りの原
因を考察する.
1)
「かつ」と「または」の区別
大問 1 の「市町村別の人口と面積の表から,条件
を満たす市町村の数を数える」問題は,19 の市町村
についての人口と面積が記載された表から,(1)人口
30,000 人以上,(2) 人 口 10,000 人 未 満 か つ 面 積
100km2 以上,(3) 人口 20,000 人以上または面積
400km2 以上という,それぞれの条件にあてはまる市
3.「論理的思考力診断テスト」の実施
本「論理的思考力診断テスト」は,S 県で SSH,
町村の数を答えるというものである.
SGH ともに採択されている公立の I 高等学校の第 1
正答率は,(1) 98.9%,(2)90.9%,(3)57.1%であっ
学年,第 2 学年の生徒を対象に,2014 年 4 月に実施
た.(1),(2)は多くの受験者が正解することができた
された.受験者数は,第 1 学年 318 名,第 2 学年 309
が,(3)の「または」に関する設問だけが,正答率が
名の計 627 名である.
他に比べて低かった.選択肢の選択状況を調べると,
31.3%の受験者が,「または」を「かつ」の意味で
4.全体の集計結果
捉えた場合の市町村の個数に相当する選択肢を選ん
小問ベースでの 9 問中,
全 627 名の最小値は 2 問,
でいたことが分かった.すなわち,「かつ」の意味
最大値は 9 問であった.全体および学年別の平均正
と「または」の意味が区別できていない受験者が存
答数,標準偏差を表2に示す.
在すると考えられる.
この結果,第 1 学年よりも第 2 学年の方が平均正
この大問 1(3)の正答率は,第 1 学年と第 2 学年の
50
日本科学教育学会研究会研究報告
間にも差となって現れた.第 1 学年の正答率は
51.9%であったのに対し,第 2 学年は 62.5%であっ
た.この差が有意なものであるかを検討するために,
Fisher の直接確率計算法で検定を行ったところ,1%
水準で有意となった.したがって,第 2 学年の受験
生の正答率は,第 1 学年の受験生の正答率よりも高
かったと考えてよい.この理由は,高等学校の数学
I の中で「集合」や「論理」について学ぶが,その
中で「かつ」や「または」といった論理演算に関す
る内容にも触れていることなどが挙げられる.
2)
アイスクリーム類の分類の問題
大問 2 を図1に示す.
この問題に対する正答率は,(1)で 93.5%,(2)で
71.5%と,(2)は(1)に比べて低かった.各選択肢の選
Vol.28 No.7(2014)
わが国では,アイスクリーム類の分類は以下のよ
うに定義されています.
アイス
重量百分率で乳固形分 15.0%以
クリーム
上、うち乳脂肪分 8.0%以上のもの
アイスミルク 重量百分率で乳固形分 10.0%以
上、うち乳脂肪分 3.0%以上のもの
ラクトアイス 重量百分率で乳固形分 3.0%以上
のもの
次のアイスクリーム類製品 A,B のパッケージには,
次のように表示されていました.以上の定義に基
づいて,これらの製品の分類として適切なものを,
①~④の中から 1 つずつ選びマークしなさい.
(1) 製品 A 「乳固形分…16.0%,乳脂肪分 5.0%」
① アイスクリーム
②アイスミルク
③ ラクトアイス
④いずれでもない
(2) 製品 B 「乳固形分…6.1%,植物性脂肪分…
1.8%」
① アイスクリーム
②アイスミルク
③ ラクトアイス
④いずれでもない
択率を調べてみると,④の「いずれでもない」を選
図1
択している受験者が 26.6%存在した.
大問 2 で出題した問題
(2)の製品 B においては,
乳固形分が 6.1%とあり,
乳脂肪分が含まれているので,ラクトアイスに分類
る命令(RETURN),繰り返し処理する命令(LOOP)
される.あくまでも分類の基準は,乳固形分と乳脂
が定義されており,それらが入れ子構造で組み合わ
肪分である.「いずれでもない」を選択したのは,
されて表現された命令について,実行結果を推論す
条件の定義は記述されていない「植物性脂肪分」の
るものである.
表記により惑わされたものと思われる.このような
この問題に対する正答率は 56.0%であった.他の
受験者は,「植物性脂肪分」については定義に記述
選択肢の選択状況をみると,④が 20.7%にのぼって
されていないので,この定義では判断ができないと,
いた.この問題に正解するためには,表記された命
短絡的に考えたものと考えられる.
令の入れ子構造を考慮しつつ,順を追って,丹念に
3)
処理を追うことが必要である.しかし,大まかな捉
国際線航空便の所要時間に関する問題
大問 5 として出題した問題を図 2 に示す.
えでは正解することは難しいと考えられる.
この問題に対する正答率は 64.2%であった.選択
肢の選択率を調べてみると,正解の選択肢である旅
6.本研究のまとめと今後の課題
程①に次いで旅程④が 16.9%と多く選択されていた.
今回の結果は,限られた問題項目での集計に限ら
正解の旅程①の総所要時間は,19 時間 35 分である
れるが,論理的思考力の客観的な評価を試みた.こ
のに対し,旅程④の総所要時間は,19 時間 45 分で
の結果,2 年次の受験者は,1 年次の受験者に対し,
あり,わずかながら旅程①の方が短い.丹念に計算
平均正答数学が多く,SSH の取り組みなどの成果で
せず,概算で計算した場合や計算ミスなどがあった
ある可能性が示唆された.また,大問 1 の結果から,
場合に旅程④を選択した可能性がある.
「かつ」や「または」という語の意味がきちんと理
4)
解されていない点,大問 2,5,6 などの結果から,
架空のプログラミング言語の処理の問題
大問 6 として出題した問題を図3に示す.
順を追って精密に定義や状況や解析すべきところで,
この問題は,架空のプログラミング言語の処理とし
おおまかに捉えてしまう受験者も存在することなど
て,画面に文字を表示する命令(PRINT),改行す
がわかった.このような点は,今後の指導改善に活
51
日本科学教育学会研究会研究報告
Vol.28 No.7(2014)
成田からマイアミまでの飛行機の経路を調べたところ,シカゴ経由,ワシントン D.C.経由,ニューヨーク経由の 3
つが候補に挙がりました.以下は,それらの時刻表です.次の旅程①~④のうち,成田からマイアミまでの所要時
間が最も短い旅程はどれですか.①~④の中から 1 つ選びマークしなさい.
旅程
①
②
旅程
③
旅程
④
便名
AL0026
AL0028
便名
AL0002
便名
AL0014
成田 シカゴ
10:45→8:20
17:10→14:45
成田 ワシントン D.C.
11:05→10:35
成田 ニューヨーク
17:00→17:00
図2
所要時間
11:35
11:35
所要時間
12:35
所要時間
13:00
説明
"文字"を表
示する
RETURN
改行する
LOOP(
回
数){処理}
「処理」の内
容を「回数」
の分だけ繰
り返す
所要時間
3:00
3:00
所要時間
2:40
所要時間
3:15
ただし,記号”;”を用いて命令を 1 文に 2 つ以上続けて
書くことができます.例えば,
PRINT "A"
RETURN
PRINT "B"
と
PRINT "A";RETURN;PRINT "B”
は同じ処理です.
これらの命令を使って,
LOOP(3){PRINT"-";LOOP(2){PRINT"*";RETURN}}
と記述したときの表示結果として適切なものはどれで
すか.①~⑥の中から 1 つ選びなさい.
① -**-**-**
② ---**
③ -*
*
*
-*
*
*
④ -**
⑤ -*
⑥ -*
-**
*
-*
-**
-*
-*
*
-*
-*
-*
*
-*
命令の実行例
・PRINT "A"
→(表示結果)
A
・PRINT "A"
・PRINT "B"
→(表示結果)
AB
・PRINT "A"
RETURN
PRINT "B"
→(表示結果)
A
B
・LOOP(3){PRINT "A"}
→(表示結果)
AAA
図3
シカゴ マイアミ
13:20→17:20
20:15→24:15
ワシントン D.C. マイアミ
17:05→19:45
ニューヨーク マイアミ
20:30→23:45
大問 5 で出題した問題
あるプログラミング言語には次のような命令が定められ
ています.
命令
PRINT "文字"
便名
AL3766
AL3916
便名
AL3441
便名
AL1680
大問 6 で出題した問題
かすことのできる点であると考えられる.
評価を充実させるために,日本科学教育学会年
今後は,第2部の分析を行うほか,出題した問題
会論文集,36,263-264.
についても適切であったのかを再検討し,テストの
2) 文部科学省(2008)平成 26 年度スーパーグロー
質を向上させていきたい.
バルハイスクールの指定について(平成 26 年 3
月 28 日),http://www.mext.go.jp/a_menu/kokusai
謝辞
本研究の一部は,島根大学平成 25 年度「若手教員に対す
る支援」による支援を受けている.
/sgh/1346060.htm.
3) 国立教育政策研究所(2004)生きるための知識
と技能 2 OECD 生徒の学習到達度調査(PISA)
参考文献
2003 年調査結果報告書,ぎょうせい
1) 御園真史(2012)科学教育プログラムにおける
52
日本科学教育学会研究会研究報告
Vol.28 No.7(2014)
中 学 校 理 科 第 一 学 年 「 身 の ま わ り の 物 質 」 で の 授 業 実 践 -プ ラ ス チ ッ ク の 性 質 と 用 途 を 結 び つ け る 実 験 方 法 の 開 発 - Teaching Practices in the Unit "Matter in our Daily Lives" at the Junior High
School Science Class for the First Grade:
Development of Experimental Methods Connecting Properties of Plastic and
their Applications
秋 田 幸 彦 *、 高 橋 里 美 **、 西 山 桂 *** Akita, Yukihiko;* Takahashi, Satomi;** Katsura, Nishiyama***
島 根 大 院 教 育 * 松 江 市 立 湖 南 中 学 校 ** 島 根 大 教 育 *** Graduate School of Education, Shimane University;*
Konan Junior High School;** Faculty of Education, Shimane
University***
[ 要 約 ]平 成 20 年 の 学 習 指 導 要 領 改 訂 に よ り 、中 学 校 第 1 学 年 理 科「 身
の回りの物質」の単元で、全く新しい単元として代表的なプラスチック
の 学 習 が 導 入 さ れ た 。 教 科 書 で も プ ラ ス チ ッ ク の 取 り 扱 い は 様 々 で あ り 、 性 質 を 調 べ る た め
の実験方法にも違いが見られた。そこで本研究では、プラスチックの性
質と用途を結びつけることのできる実験方法として、曲げやすさ、割れ
や す さ 、 薬 品 耐 性 、 熱 耐 性 に 注 目 し た 実 験 を 提 案 し た 。 ま た 、実 験 を 取 り 入 れ た 指 導 計 画 を 作 成 し 、授 業 実 践 を 行 っ た と こ ろ 、
教 科 書 を も と に し た 実 験 方 法 に 比 べ 、 生 徒 の 理 解 度 が 高 く な っ た 。 [ キ — ワ ー ド ] プ ラ ス チ ッ ク 、 身 の 回 り の 物 質 、 性 質 、 用 途 1 . は じ め に 年の学習指導要領改訂により、中学
(1)研究背景
校第1学年理科「身の回りの物質」
普段、我々の身の回りには、アル
の単元で、
「代表的なプラスチックの
ミニウムや鉄、紙やガラスなどの
性質にも触れること」という記述が
様々な種類の物質が様々な物質が存
加 わ っ た (4) 。 中 学 校 理 科 で は 全 く 新
在している。その中でも近年欠かせ
しい単元であり、プラスチックをど
ない材料となっているのがプラスチ
う取り扱うかは検討課題である。
ックである。我々の身の回りにもプ
教科書によっても、プラスチック
ラスチック製品が溢れているにも関
の取り扱いは様々であり、性質を調
わらず、それらのプラスチックの性
べるための実験方法にも違いが見ら
質や用途について、学習する機会は
れ る 。東 京 書 籍『 新 し い 科 学 1 年 』( 2 )
少ない。
に記載されているプラスチックを用
これまで、中学校では非金属の一
いた実験は、密度の違いや燃え方の
種としてプラスチックを取り扱って
違いにより、プラスチックを区別す
おり、具体的な性質や用途について
ることに主眼が置かれ、性質と用途
は 、高 等 学 校「 化 学 Ⅱ 」
「 理 科 総 合 A」
のついては表で触れる程度である。
を 中 心 と し て 学 習 し て い た 。 平 成 20
そこで本研究では、プラスチックの
53
日本科学教育学会研究会研究報告
Vol.28 No.7(2014)
性質と用途を結びつけることのでき
2 . 研 究 目 的 と 方 法 る実験方法を提示し、それを組み込
( 1 ) 研 究 目 的 んだ指導計画と授業実践について報
告する。
本研究では以下の2つを研究目的
とした。
① プ ラ ス チ ッ ク の 性 質 と 用 途 を 結
(2)基礎理論
びつけることのできる実験方法を提
プ ラ ス チ ッ ク は そ の ほ と ん ど が 原
案する。
油由来の高分子化合物である。プラ
② 有 用 な 指 導 計 画 を 作 成 し 、 そ の
スチックは水素、炭素を中心とする
授業実践について報告する。
有機物であり、それらの結合の種類
や結合の順番の違い
( 2 ) 研 究 方 法 によって、強度や色などのプラスチ
1 . 文 献 調 査 ッ ク の 性 質 が 決 ま る 。 ① 教 科 書 比 較 日 本 プ ラ ス チ ッ ク 工 業 連 盟 に よ る
国 内 で 出 版 さ れ て い る 全 て ( 5 社 )
と 、熱 可 塑 性 樹 脂 の 上 位 5 つ は P E( ポ
の 中 学 校 理 科 教 科 書 を 比 較 す る 。 リ エ チ レ ン )、P P( ポ リ プ ロ ピ レ ン )、
② 先 行 研 究 P V C( ポ リ 塩 化 ビ ニ ル )、P S( ポ リ ス
C i N i i 、学 会 誌 な ど に よ り 類 似 の 研
チ レ ン )、 P E T( ポ リ エ チ レ ン テ レ フ
究 を 調 査 す る 。 タラート)である。これら5種類を
代表的なプラスチックとして取り上
2 . 授 業 ・ 生 徒 観 察 げるのが適当であると考えた。これ
授 業 観 察 を 通 し て 生 徒 の 実 態 を 把
らのプラスチック性質と用途につい
握 し 、そ れ に 応 じ た 課 題 を 検 討 す る 。 ては表 1 に示している。
単 元 全 体 の 授 業 の 流 れ を 把 握 す る 。 3 . 事 前 ・ 事 後 ア ン ケ ー ト 調 査 表 1 代 表 的 な プ ラ ス チ ッ ク の 性 質
単 元 に 対 す る 生 徒 の 知 識 や 概 念 を
種類
明らかにし、研究や授業の構築に生
代表的な性質の
利用例
一部
PE
PP
PS
PET
PVC
かす。授業を通しての生徒の知識や
耐 薬 品 性 、電 気 絶
買い物袋、
概念の変容を確認し、授業改善に役
縁性に優れる
非飲料容器
立 て る 。 常 温 、高 温 と も に
バケツ、調
4 . 教 材 研 究 剛性に優れる
理用品
プ ラ ス チ ッ ク の 性 質 と 用 途 を 結 び
熱安定性から形
トレイ、梱
つけることのできる実験方法の検討。
成 加 工 が 容 易 、発
包材、透明
学 習 指 導 案 。 指 導 計 画 の 作 成 を 行
砲性能が良い
コップ
う 。 結晶化させるか
飲 料 ボ ト
5 . 授 業 実 践 ど う か で 強 度 、耐
ル、卵パッ
研 究 内 容 を 授 業 者 の 立 場 で 、 整 合
熱性が異なる
ク
性があったか検討する。生徒の考え
燃 え に く い 。着 色
食品サンプ
方やその変容を、授業内の様子や振
性 、接 着 性 に 優 れ
ル、窓枠
り 返 り シ ー ト に よ り 確 認 す る 。 る
6 . 授 業 反 省 、 改 善 案 の 検 討 54
日本科学教育学会研究会研究報告
Vol.28 No.7(2014)
研 究 の 課 題 を 明 ら か に し 、 今 後 の
次 に 、C i N i i 及 び 島 根 大 学 図 書 館 で
研 究 の 指 針 と す る 。 の先行研究の調査を行った。中学校
理科及び実験教室での「プラスチッ
3 . 研 究 成 果 ク」についての研究事例は数点見ら
( 1 ) 文 献 調 査 れたが、授業の実践事例について記
初 め に 、 国 内 で 使 用 さ れ て い る 啓
載された論文は少なかった。森山正
林館、学校図書、教育出版、大日本
樹 (3) は 、 環 境 問 題 の 視 点 か ら 学 習 で
図書、東京書籍の教科書比較を行っ
きる授業計画を提示しており、発展
た。その結果、プラスチックの取り
事項としてプラスチックの繊維化実
扱いが教科書会社によって異なって
験、油化実験を取り上げた授業実践
いた。また、実験の方法や取り扱わ
に つ い て 報 告 し て い る 。そ の 一 方 で 、
れている実験の量にも違いが見られ
学習指導要領の「プラスチックの性
た。取り扱われているプラスチック
質にも触れる」という記述から、あ
は 5 社 中 4 社 が 1.(2)で 示 し た 5 種 類
まり多くの時間をプラスチックに割
のプラスチックを代表的なプラスチ
く事は難しいと考えられ、授業時数
ックとして取り上げていた。
で 課 題 が 見 ら れ た 。ま た 、鈴 木 勝 浩 ( 1 )
は実験方法として折り曲げる、有機
表 2 教 科 書 に お け る プ ラ ス チ ッ ク
溶媒に浸ける、ドライヤーで加熱す
の取り扱いの違い
るなどの方法を提案しているが、授
教 科 書
ペー
種類
実 験・学 習 方 法
業実践の報告はない。
会社
ジ数
※
2
5
水への浮き沈
( 2 ) 事 前 ・ 事 後 ア ン ケ ー ト み 、燃 え 方 話
4 ク ラ ス 1 3 8 人 に 対 し 、 事 前 調 査
し合い活動
を 2 回、事後調査を1回行った。事
水への浮き沈
前調査の1回目は生徒のプラスチッ
み
クに対する実態把握を目的とし、
水への浮き沈
『「 プ ラ ス チ ッ ク 」に つ い て 知 っ て い
み 、燃 え 方 → に
ることをいくつでもいいので、箇条
お い 、曲 げ る 等
書 き で 書 い て く だ さ い 。』と い う 問 い
水への浮き沈
で自由記述を行った。
( ア ン ケ ー ト 1)
み
ア ン ケ ー ト 1 の 結 果 は 、 生 徒 1 3
水への浮き沈
4 人 の う ち 、プ ラ ス チ ッ ク が「 石 油 」
み 、燃 え 方 → に
あ る い は 、「 原 油 」 に 関 連 し た 記 述 が
お い 、加 熱 、密
1 3 人 、「 ペ ッ ト ボ ト ル 」 と い う 用 語
度、曲げる等
が使われていと記述した生徒が34
啓林館
学 校 図
2
5
書
教 育 出
2
5
版
大 日 本
3
6
図書
東 京 書
籍
4
5
※ 代表的なプラスチックとして取
人、
「燃やすと有害な物質が発生する、
あるいは燃やしてはいけない」と記
り扱っている種類の数
述 し た 生 徒 が 2 2 人 、「 リ サ イ ク ル 」
に関連した言葉を挙げていた生徒が
55
日本科学教育学会研究会研究報告
Vol.28 No.7(2014)
49人、プラスチックには種類があ
薬品耐性、熱耐性の4つに焦点を当
るという記述の生徒は12人であっ
てることとした。曲げやすさについ
た。また、プラスチックが「燃えな
ては手で直接触って観察し、割れや
い 」:「 燃 え る 」 と い う 記 述 の あ っ た
すさについてはチャック付きの透明
生徒は、7人 : 29人であった。
な袋にプラスチック粉末を入れ、金
これらの結果から、ペットボトル、
づちで軽く叩いた。薬品耐性につい
リサイクルなど身近に利用されてい
ては先行研究をもとにアセトンを用
るもののイメージがある生徒が多く、
いるのが適当であると考えられたが、
プラスチックの燃焼や種類について
生徒にとってなじみの薄いものであ
イメージのある生徒は少ないと考え
ると考え、マニュキュアの除光液に
られる。授業構成にあたっては燃焼
使われている薬品であるとして提示
や種類について正しい認識を持たせ
した。熱耐性については、バーナー
るよう授業を構成する必要がある。
2 回 目 の 事 前 調 査 で は 、ま ず 用 途 か
で加熱する方法が東京書籍の教科書
ら性質を考察できるかを調査するた
方法では温度勾配にムラができてし
め,
「プラスチック製品をつくるとき、
まうと考え、今回はプラスチック粉
プラスチックのどんな性質を使用し
末を金属製のカップに入れ、オーブ
て い る か 」、 飲 料 容 器 、 ポ リ 袋 に つ い
ントースターで熱することとした。
て 質 問 し た ( ア ン ケ ー ト 2 )。 授 業 実
なお、加熱しすぎると全てのプラス
施後に 2 回目の調査と同じアンケー
チ ッ ク が 溶 解 し て し ま う た め 、 1200
トを実施し、変化を考察した(アン
W で 40 秒 加 熱 し た 。
ケ ー ト 3 )。ま た 、
「これまでの2時間
で分かったこと」について自由記述
では用いられていた。しかし、この
(a)
(b)
を 行 わ せ た ( ア ン ケ ー ト 4 )。 こ れ ら
の結果は後ほど記述する。
( 3 ) 実 験 方 法 の 検 討 (c)
先 行 研 究 を 踏 ま え 、 実 験 方 法 は 以
( d)
下のように検討することとした。ま
ず、実験で使用する材料は、ケニス
よりプラスチックの性質実験材料、
プラスチックの性質実験材料を購入
し使用した。材料として身近なプラ
図 2. 今 回 考 案 し た 実 験
(a)熱 耐 性 (b)割 れ や す さ
(c)薬 品 耐 性 (d)曲 げ や す さ
スチック材料を利用することも考え
られたが、厚みや色、不純物が含ま
次 に 、 実 験 時 間 の 都 合 上 、 P V C に
れるなどの面で課題があると考え、
ついては生徒実験では取り扱わず、
市販の材料を利用することとした。
2時間目にプラスチックの燃焼と共
次 に 、 実 験 で は 代 表 的 な プ ラ ス チ
に取り上げることとした。今回取り
ックの性質をもとに用途を考察させ
上げる残り4種類のプラスチックは
るため、曲げやすさ、割れやすさ、
56
日本科学教育学会研究会研究報告
Vol.28 No.7(2014)
実 験 が 終 わ る ま で 名 称 ( PP、 PS 等 )
統制群
実験群
を伝えず、付せんにより 4 色の色分
手触り
オーブンで焼
けをして生徒に示した。また、多く
水への浮き沈
く
の教科書に取り上げられていた水に
み
手で少し曲げ
浮かべる実験や、密度を求める実験
密度を調べる
る
も今回は割愛した。
金づちでたた
く
(4)授業実践
アセトンにつ
島 根 大 学 教 育 部 附 属 中 学 校 第 1 学
ける
年4クラスについて、2時間の授業
・そ れ ぞ れ の プ
○実験結果か
を実施した。授業の概要を以下に示
ラスチックの
ら 、ど の 製 品 に
す ( 表 3 )。 授 業 は 2 ク ラ ス ず つ 実 験
種類ごとの性
使われている
群と統制群に分けて比較を行った。
質と用途を示
か考えさせる。
実験群は今回検討した実験方法を、
す。
統制群は実験内容の一番多かった東
・プ ラ ス チ ッ ク
京書籍のものを参考にして実験を構
の 製 品 で 、ど の
成 し た 。な お 、2 時 間 の 授 業 後 に そ れ
性質を一番利
ぞれで実施していない実験の演示実
用しているか
験 を 行 い 、フ ォ ロ ー ア ッ プ を 行 っ た 。
考えさせる。
表 3 授 業 の 構 想 の 目 標 と 内 容
時
時 目標
目標
・プラスチックが燃えることによ
・プラスチックの性質を調べる実
ってどうなるのか理解している。
験を適切に行い、結果を記録する
【知識・理解】
こ と が で き る 。【 観 察 実 験 の 技 能 】
1
2 ・私たちの身の回りで、プラスチ
・プラスチックの性質を調べる実
ックがよく使われている理由を考
験から、どの製品に使われている
え る こ と が で き る 。【 科 学 的 思 考 ・
か考え、表現することができる。
表現】
【科学的思考・表現】
主な学習内容
主な学習内容
・前回の実験結果について復習を
・身の回りのプラスチック製品を
行う。
順番に提示する。
・プラスチックの性質と用途につ
・製品のもととなるものとして、
いて補足説明を行う。
プラスチック粉末を示す。
・プラスチックの燃焼について、
・プラスチックの性質を調べる実
予想と実験を行う。
験を行う。
・私たちの身の回りに多く存在す
る理由を考えさせる。
57
日本科学教育学会研究会研究報告
Vol.28 No.7(2014)
( 4 ) 事 後 ア ン ケ ー ト 方が有用であると考えられる。一方
事 前 に 実 施 し た ア ン ケ ー ト 2 と ア
で、2時間目で行ったプラスチック
ンケート 3 の結果を比較しながら分
の燃焼、身の回りの利用等の印象が
析した。記述された性質のうち、ペ
やや薄かったと考えられる。
ットボトル、ポリ袋に使われている
プラスチック固有の性質がいくつ記
4 . 今 後 の 課 題 述されているか数え、アンケート 2
今 回 の 研 究 で は 、 プ ラ ス チ ッ ク の
に比べアンケート 3 の方が値の大き
性質と用途を結びつけることのでき
くなった生徒数を数えた。なお、記
る実験方法を提案し、その指導計画
述のうち「透明度や色」については
を作成した。また、授業実践につい
それぞれの素材で複雑であるため、
ても報告することができた。その一
今回は除外して考察した。
方で、実験面ではオーブントースタ
分 析 の 結 果 、 統 制 群 で は 6 8 名 中
ーは学校現場で用意が難しいことや、
4 1 名 ( 6 0 . 3 % ) だ っ た の に 対 し 、実 験 群
実験や事前準備に時間を要すること、
で は 6 3 人 中 4 0 人 ( 6 3 . 5 % ) と な り 、や
実験材料を購入するのに費用がかか
や実験群の方が優れているという結
ることに課題が見られた。また、2
果となった。
時間目の授業内容が多く、生徒への
印象も総じて薄くなってしまったと
考えられる。
今 後 は 、誰 で も 実 験 が で き る よ う 、
実験方法や材料をより身近なものを
用いた実験へと改良を行い、授業計
画の再検討を行っていきたい。
一 方 ア ン ケ ー ト 4 で は 、 記 入 さ れ
ていた内容を、性質の多様性、性質
と 用 途 、燃 や す こ と 、有 機 物 、石 油 、
身の回りの利用の 6 点について記述
の 有 無 を 確 認 し た ( 表 4 )。 プ ラ ス チ
ックには種類によって様々な性質が
あ る と い う 記 述 が 統 制 群 で 72.1%、
実 験 群 で は 7 9 . 7 % と な っ た 。中 で も 、
性質と用途が関連した記述は、それ
ぞ れ 30.9% 、 35.0% で 実 験 群 の 方 が
高くなった。アンケートの割合から
も、今回考案した実験を取り入れた
58
引用文献
1 ) 鈴 木 勝 浩 ( 2 0 0 5 )『 発 展 学 習 と し て
の プ ラ ス チ ッ ク の 授 業 』, 理 科 の 教
育 . 2 ) 東 京 書 籍 ( 2 0 1 2 ) , 『 新 し い 科 学 1
年 』 . 3 ) 森 山 正 樹 ( 2 0 1 1 ) ,
『 中 学 校 理 科「 プ
ラスチック」の学習からエネルギー
環 境 問 題 に 迫 る 授 業 実 践 』,エ ネ ル ギ
ー 環 境 教 育 研 究 . 4 ) 文 部 科 学 省 ( 2 0 0 8 ) , 『 中 学 校 学 習
指 導 要 領 解 説 理 科 編 』, 大 日 本 図 書 参考文献
1 ) 日 本 プ ラ ス チ ッ ク 工 業 連 盟
( 2 0 1 1 ) ,『 調 べ て わ か る プ ラ ス チ ッ
ク 』, 大 日 本 図 書 . 2 ) 日 本 プ ラ ス チ ッ ク 工 業 連 盟
(2008)『 2007 年 度 「 プ ラ ス チ ッ ク に
対するイメージ調査」報告書』.
日本科学教育学会研究会研究報告
Vol.28 No.7(2014)
天文分野に関わる教材開発 −6 年生理科「月と太陽」− A development of teaching materials relating to the field of astronomy
−6th grade science “the moon and the sun”−
○武田一徹 松本一郎 伊藤英俊
TAKETA,Ittetsu MATSUMOTO,Ichiro ITO,Hidetoshi
島根大学大学院教育学研究科 島根大学教育学部 島根大学教育学部附属幼稚園
Shimane Graduate School of Education,Shimane University,Shimane University kindergerten
[要約]本研究は、多くの小学校教員が苦手意識を持っているとされる地学分野単元「月と太陽」の授業に
おいて、視点移動を可能とする模型教材やシミュレーションソフトを活用した授業実践を行い、その効果に
ついて明らかにすることを目的としている。また、学習前段階の児童にアンケートを実施し、児童の宇宙に
対しての素朴概念を調査した。
[キーワード]教材開発,視点移動,月の満ち欠け
1 . は じ め に で、本研究では地学分野、特に野外での観察が難し
平成 23 年度から完全実施の新学習指導要領にお
く、教材が重要な役割を果たすと考えられる天体に
いて、小学校理科では 6 年生の学習内容に「月と太
ついての学習を対象として、学習者の観察視点の移
陽」が復活した(学習指導要領理科編,2008)。また、
動を可能とする教材の作成とその活用を行った。 近年では金環日食や小惑星探査機はやぶさの帰還、
イプシロンロケットの打ち上げなど、宇宙に関係す
2 . 研 究 目 的 と 方 法 る報道が多く見られるようになった。一方で、特に
(1)研究目的 小学校現場においては教員が理科への苦手意識を持
学習指導要領によると小学校 6 年生単元「月と太
っていることが指摘(例えば、宮下(2009))されて
陽」では月と太陽を観察し、月の位置や形、太陽の
いる。特に地学分野は多くの教員が苦手としている
位置を調べ、月の満ち欠けや表面の様子について考
分野であることが科学技術振興機構(JST)の調査で
えを持つことができるようにすることが目標である。
も明らかとなっている。武田(2012:卒業研究)で
また、その学習における観察者の視点についても地
は天文分野への意識調査として島根県、鳥取県の公
球の視点を中心として扱うものとされている。しか
立小学校教員へのアンケートを行った。そこで天文
し、中学校 3 年生単元「地球と宇宙」の学習では太
分野を苦手とする多くの教員に見られる共通の苦手
陽系の惑星を俯瞰視点で捉えることを求められる。
意識の原因として「実際に天体観測を行うことが難
また、今回の研究における授業実践に用いられた市
しい」「十分な教材がない」「何を教えていいのかわ
販テストにも月、地球、太陽を俯瞰的な視点で捉え
からない」
「空間的、時間的にスケールが大きく教室
られることを前提とした問題が出題されていたこと
で再現できない」といった回答が挙げられた。そこ
からも、学習指導要領には明記されていないが小学
59
日本科学教育学会研究会研究報告
Vol.28 No.7(2014)
校段階でも視点移動能力は必要であると考えられる。
とした。よって、新たに本実践で児童が使用する模
本研究では視点移動を行う模型教材を活用した授業
型教材を作成した。新たに模型教材を制作するにあ
実践を行い、小学 6 年生に視点移動が可能であるか
たって、月の満ち欠けの再現のみを目的としたより
どうかを検証する。可能であった場合はどのように
簡易な物となるようにした。結果、月の満ち欠けと
して 2 つの視点を関連づけているのかを明らかにす
月、地球、太陽の位置関係の関係を確認することの
ることを目的としている。また、学習の前後で児童
できる模型教材を制作することができた。課題点と
の天体、宇宙に対しての興味・関心がどのように変
して、太陽の役割を果たす電球が月模型と地球模型
化するのかについてもアンケートと毎授業ごとの振
に近すぎる場合や、月模型が離れすぎている場合は
り返りから読み取っていった。 教材使用時に児童の教室での立ち位置と月の満ち欠
けの関係の認識に誤りを生じる可能性があるので、
(2)研究方法 制作時には予備実験を行いながら各模型の位置を調
①事前アンケート 整した。 授業実践前に 3 年生と 6 年生で天文分野について
のアンケート調査を行った。アンケートの内容は天
体観測等の経験、該当学年で学習する内容について
の基礎的な知識、天体への興味・関心・疑問の有無
を問うものに
なっている。6
年生の質問項
図 1 地球視点から見た月模型
目には 4 年生時
図 2 6年生用アンケート用紙 月模型
に学習した内
容についての
問いを用意し
た。また、質問
内容について
はアンケート
対象学級の担
月模型
太陽模型
月模型
(光源)
地球位置
図 3 制作した模型教材 任と児童に質問の意味が理解できるか、調査したい
③授業実践 内容に対して質問内容が適切かということを協議し
島根大学教育学部附属小学校 6 年1組の児童を対象
ながら作成した。 に、6 年生理科単元「月と太陽」の単元を9時間構
②教材の作成 成で授業を行った。研究を進めるにあたり授業実施
当初は武田(2012:卒業研究)において開発した
前に理科の授業を観察し、クラスの児童観をとらえ、
教材を班に1つずつ用意する予定であったが、1 班
児童が持つ課題を整理した。月については単元開始
に1つのノートパソコンが必要になるためカメラを
以前より2週間の観察期間を設定し、なるべく毎日
使用している模型教材は演示用として使用すること
同じ時間帯に月の形と位置を記録するようにした。
60
日本科学教育学会研究会研究報告
2013 年は9月の満月が中秋の名月にあたる年であ
る。 り、また、天候にも恵まれたため授業までに十分な
問 2 どこで観察したのか Vol.28 No.7(2014)
・家 観察ができており、授業導入部において全員で観察
・プラネタリウム した月の様子について共有する場が得られた。導入
・近くの山 部では他にシミュレーションソフト(SolarWalk)を
・隠岐島 用いて太陽系の天体の大きさの比較を教室前方スク
など リーンにおいて視覚的に行い、児童の学習への興
問 4 天体のどのようなこと
・なぜ月はぼこぼこしているのか 味・関心を高められるように工夫した。 を不思議に思うか ・どうやって星はできたのか ・太陽がでるとなぜ影ができるのか 3 . 研 究 成 果 ・星はどのように誕生したのか 3 − 1 学 習 前 の 児 童 を 対 象 と し た ア ン ケ ー ト
など 調査の結果について 表 2 アンケート集計結果(3 年生)②
授業開始前の段階で3年生と 6 年生を対象にアン
ケート調査を行った。それぞれの内容と結果の集計
・6 年生 対象 58 人 については以下の通りである。 問 1 宇宙についての本を読んだり、テレビを見た
・3 年生 対象 57 人 りしたことがあるか ある 57 ない 1 問 1 宇宙についての本を読んだり、テレビを見
ある ない 問 2 月や星を観察したことがあるか ある 57 ない 1 たりしたことがあるか 52 5 問 3−2 星座は時刻とともに並び方が変わるか 変わる 1 変わらない 57 問 2 月や星を観察したことがあるか ある ない 問 4 天体について不思議に思うことがあるか ある 43 ない 15 46 11 問 5 太陽と月の距離はいつも同じか 同じ 12 変化している 46 ある ない 問 6 太陽と月はどちらが地球に近いか 太陽 0 月 58 54 3 問 7 太陽や月、星について
すごくある ある あまりない ない ある ない 興味があるか 17 31 10 0 37 20 表 3 アンケート集計結果(6 年生)①
思う 思わない
40 17 問 2 と問 4 については「ある」を選択した場合、問
問 3 影を使った遊びをしたことがあるか 問 4 天体について不思議に思うことがあるか 問 5 太陽や星は動いていると思うか 問 6 日なたと日陰のどちらが温かいか 日なた 日陰 同じ 2ではどこで観察したのかを、問4ではどのような
55 1 1 ことに疑問を感じているのかを問うようになってい
問 7 太陽や月、星に
すごくある ある あまりない ない る。また、6 年生では問 3−1 において 4 年生時に学
ついて興味があるか 20 21 11 5 習した月の動きについて東西南北を用いて説明する
表 1 アンケート集計結果(3 年生)① 記述問題と問 7 ではなぜ月が満ち欠けするのかを予
問2と問4については「ある」を選択した場合、問
想して記述する設問を用意した。 2ではどこで観察したのかを、問4ではどのような
ことに疑問を感じているのかを問うようになってい
61
日本科学教育学会研究会研究報告
Vol.28 No.7(2014)
また、問 4 では天体について不思議に思うことがあ
・家 る人数に大きな変化は見られなかったが、内容につ
・学校 いては 3 年生の疑問は多様であり、天体そのものの
・プラネタリウム 誕生について触れるものもあった。6 年生は学習の
・サヒメルの屋上 直前ということもあって、月に関連するものが大多
・登下校中 数であったが、いくつかは太陽系の他の惑星につい
など ての疑問があった。問 8 では 3 年生、6 年生ともに
問 3−1 月はどのように動く
・月は東から西に動く(正答) 天体に対して興味・関心を持っている児童が多いこ
のか 方位(東西南北)を ・月は東から昇って南を通って とが伺えた。 使って説明せよ 西に沈む(正答) ・月は東から昇って北を通って
調査結果についての考察 西に沈む(誤概念含む) 今回のアンケート調査は調査数が少ないため、あ
・月は西から昇って東に沈む
くまで予察的なものであるが、3 年生、6 年生どちら
(誤概念) など の学年においても児童は天体に対して興味・関心持
問 4 天体のどのようなことを
・なぜ月はいつも違う時間に出
ち、また何らかの疑問を抱いている傾向が見られた。 不思議に思うか てくるのか また、天体についての時事的な話題に触れる機会が
・色の違う月がある原因は何か 多いことが伺える。今回のアンケートの結果からも、
・なぜ月にウサギの形ができた
やはり、宇宙分野は子どもの興味・関心を引きやす
のか いと考えられる。 ・地球以外に住める星はあるの
6年生を対象としたアンケートに用意した設問
か など 「月はどのように動くのか 方位(東西南北)を使
問 7 なぜ月の形は変化して見
・太陽の向きが変わるから って説明せよ」では、少数ではあったが、誤概念を
えるのか ・何かが影になって月を隠して
含んだものや、誤答があり、4年生時の学習内容に
いる ついて完全には理解、定着していない児童が存在し
・太陽がかぶさって月を隠して
ていた。これらの児童は他の児童と比較して、授業
いる 内容についての理解に時間、もしくは、他の児童と
・太陽が動いて光のあたり方が
の学び合いや教師の補助言が必要になる場面が多か
変わるから った。また、今回の授業実践では月の満ち欠けにつ
問 2 どこで観察したのか ・月と太陽の位置が変わるから いて月・地球・太陽の位置関係を上から捉える俯瞰
的視点と月と太陽の位置関係を地球からの視点で関
など 表 4 アンケート集計結果(6 年生)②
連付けながら考える学習活動を主に行った。授業後
以上が事前アンケートの集計結果である。3 年生と 6
には毎回、振り返りシートを回収したが、4年生時
年生で共通の設問に対しての回答を比較すると問 1、
の学習内容の理解、定着が十分ではないと考えられ
問 2 ではやはり 6 年生の方が天体に関しての情報を
る児童は地球からの視点のみの記述にとどまってい
得る機会や実際に観察した経験が多いことがわかる。
る場合が多かった。
62
日本科学教育学会研究会研究報告
Vol.28 No.7(2014)
3−2 授業実践について 本研究では作成した教材を活用するような授業実践を行った。実際の単元展開(学習活動)と導入、展開、
まとめそれぞれの場面での教師の支援とねらいを合わせて示した。 島根大学教育学部附属小学校 6 年生理科単元「月と太陽」 単元展開(全 3 次、構成9時間) 次 主な学習活動 第 月 と 太 陽 は ど
時間 1〜2 んな星なのか
学習内容 ○ 授業開始前にアンケート調 査を実施する。 1 見てみよう 教師の支援とねらい ・ 学習前の児童の概念を確
認する。 ○ シミュレーションソフト ・ 視覚的に児童の天体に対
(SolarWalk)を用いて月と しての興味・関心を引き出
次 太陽の表面の様子や太陽系 し高める。 の惑星の大きさを予想しな がら確かめていく。 ・ シミュレーションソフト
の映像を見ることで宇宙
を俯瞰的に捉えることに
慣れさせる。 第 月 の 満 ち 欠 け
○ 児童が観察してきた月の満
・ 模型を直接操作すること
ち欠けの様子をシミュレー
で月の満ち欠けには天体
ションソフト(Stellarium)
の位置が関係しているこ
を用いてスクリーンに投影
とに気付く。 次 し、各班1つずつの模型を操
・ 模型の位置関係を俯瞰的
作しながら同じ月を再現す
に捉えることで満ち欠け
る。 の程度と離角の関係に気
3〜7 の仕組みをみ
2 つけよう 第 月 の 満 ち 欠 け
8〜9 の仕組みをま
3 とめよう 次 付く。 ○ 模型の操作と月の満ち欠け
・ 月の満ち欠けと天体の位
の疑似観察を通してわかっ
置関係について離角や距
たことをまとめ全体で共有
離に着目して説明できる
する。 ようにする。 ○ テストを行い、学習した内容
の確認をする。 ・ テストの解答から児童が
どの程度俯瞰的視点で月
の満ち欠けを考えられて
いるかを確認する。 3−3 授業実践の成果の実態 とを検証した。次の図はテストに出題されていた視
今回の授業実践では単元の最後にテストを行い、
点移動を求められる問題を示したものである。 児童の学習到達度と視点移動が可能か否かというこ
63
日本科学教育学会研究会研究報告
Vol.28 No.7(2014)
4 . ま と め 今回の授業実践ではテストの結果から児童全員が
視点移動をできるようにはならなかったと考えられ
る。しかし、模型を操作して月の満ち欠けの仕組み
を考えることで多くの児童が俯瞰的な視点から月、
問題:ボールに光を当てて、明るく見える部分の形を調べます。ボールが(カ)〜(ク)
地球、太陽の位置の関係性を理解し、月と太陽の距
にあるとき中央の人からは①〜④のどれに見えるか。 離の開き方や離角に着目してまとめることができて
テストを受けた人数は 26 人であったが、この問題は
いた。地球からの視点だけではなく、俯瞰的な視点
最も正答率が低く 8 割程度であった。間違えた児童
を取り入れることで、月の満ち欠けの仕組みの理解
になぜ間違えたのかを確認したが、多くの児童は新
のひとつの手立てになり得ると考えられる。また、
月と満月や上限の月と下弦の月の位置を逆に記憶し
教材製作では、活用方法が限定される簡易な模型を
ていたことが原因であることがわかった。模型での
自作し用いることで、教員が感じている「教材がな
模擬観察とそのまとめを理解できていれば、光が当
い」
「何を教えていいのかわからない」という課題の
たっている側が光って見えていることがわかるはず
一助になることが期待できる。 なので、間違えた児童に関しては十分な理解がなさ
れていなかったと考えられる。 5 . 主 要 参 考 文 献 等 テスト結果分析方法 1)文部科学省(2008)『小学校学習指導要領解説 理科
①児童を単元末テストの点数から6群に分ける。 編』,大日本図書 ②授業最終日の振り返りシートの記述に地球視点、
2)文部科学省(2008)『中学校学習指導要領解説 理科
俯瞰的視点があるか確認し、地球視点による記述に
編』,大日本図書 は赤、俯瞰的視点による記述には青でマークをする。 3)科学技術振興機構(2012)『平成 22 年度 小学校理科
③テストの点数と振り返りシートの記述を照らし合
教育実態調査 集計結果』 わせ、俯瞰視点の獲得と児童の知識理解に関連性が
4)宮下治(2010)『実践理科教育法 子どものすごいを
あるのかを考察する 引き出す手作り授業』,関東学院大学出版会 テスト結果(出席者26名,平均点 92.1 点) 5)武田一徹・松本一郎(2013)
『月・地球・太陽 −時間
概念と空間概念を育てる天体教材の開発−』,日本理科教育
学会全国大会(北海道) 6)Ittetsu Taketa and Ichiro Matsumoto(2013):A Development of the astronomical teaching materials which raise a student's time and and space concept by using of movement of the Moon, the Earth and the Sun. Abstract of AGU Fall meeting (San Francisco) 」
図5 俯瞰・地球視点による記述とテスト結果
64
日本科学教育学会研究会研究報告
Vol.28 No.7(2014)
課題研究の指導に関する一考察(2)-W型問題解決モデルの意識化を通して-
A Consideration about the Teaching of Student Research (2)
-Based on Students’ Consciousness about “W-type Problem Solving Model”-
○岡本弥彦・五島政一・小網晴男・山本隆史
OKAMOTO, Yasuhiko ・ GOTO, Masakazu ・ KOAMI, Haruo ・ YAMAMOTO, Takashi
岡山理科大学,国立教育政策研究所,岡山県立岡山朝日高等学校,岡山県立津山高等学校
Okayama University of Science, National Institute for Educational Policy Research,
Okayama Prefectural Okayama Asahi Senior High School, Okayama Prefectural Tsuyama Senior High School
[要約]生徒にW型問題解決モデル(川喜田,1967)を意識させながら課題研究に取り組ませた。
課題研究実施後の生徒の自己評価に基づいて考察したところ,生徒は,課題設定の過程における
仮説設定の大切さ,課題解決の過程における仮説検証の大切さ,各過程におけるチームでの協力
の大切さを実感して行動に移すことができていた。課題研究の指導におけるW型問題解決モデル
の有効性を高めるとともに,協調型問題解決の視点からの可能性を見いだすことができた。
[キーワード]課題研究,問題解決,高等学校,探究活動
1.問題の所在
高等学校では,科学的な思考力や表現力を育成
するために,生徒自身が課題を設定して研究を実
施し,研究報告書の作成や発表などを行う課題研
究(新設科目の「理科課題研究」
,学校設定科目,
科学系の部活動での探究的な学習活動など)に取
り組んでいる。
筆者らは,川喜田(1967)により提示されたW型
問題解決モデルを取り上げ,課題研究の指導の進
め方について考察するとともに,高校生が実施し
た課題研究の過程と結果を,W型問題解決モデル
に基づいて評価することを試みた(岡本ほか,
2013)。その研究では,W型問題解決モデルが課
題研究等の指導と評価の指針となる可能性を示
すことができた。
本研究では,指導者である教師が予めW型問題
解決モデルを意識しながら課題研究の指導に当
たるとともに,W型問題解決モデルに沿って課題
研究を進めていくことを生徒に意識させること
を通して,課題研究の指導に対するW型問題解決
モデルの有効性をさらに深めたいと考えた。
表1 課題研究での留意事項
①文献調査や野外調査で得られた事実を,こまめに
記録すること。
②文献調査や野外調査を通して,様々な情報やデー
タを集めること。
③文献調査や野外調査で得られた事実を,自分の持
っている知識や経験と比較すること。
④研究課題に関する問題点や疑問点を自ら見いだ
すこと。
⑤研究課題に関する問題点や疑問点を自ら解決し
ようとすること。
⑥研究課題に関する問題点や疑問点を,チームでの
話し合いを通して明確にすること。
⑦文献調査や野外調査で得られた情報やデータを
組み合わせて,仮説を設定すること。
⑧自分の持っている知識や経験を手掛かりにして,
仮説を設定すること。
⑨チームでの話し合いを通して,仮説を設定するこ
と。
⑩設定した仮説が正しい場合の結果について,見通
しを持つこと。
⑪仮説を検証するために,現実的な研究計画を立て
ること。
⑫仮説を検証するために,それまでに学んだ調査方
法や実験方法を活用すること。
⑬チームで協力して研究計画の立案や準備をする
こと。
⑭計画に基づいて研究を進めること。
⑮目的を明確に持って,研究を進めること。
⑯チームで協力して研究を進めること。
⑰安全に気を付けて研究を進めること。
⑱仮説が検証できたかどうかを確認すること。
⑲研究計画が適切であったかどうかを確認するこ
と。
⑳研究で得られたことを分かりやすくまとめるこ
と。
㉑研究で得られたことを分かりやすく発表するこ
と。
2.課題研究の実施
今回,課題研究に取り組んだのは,岡山県の県
立高等学校の生徒5人である。平成25年8月から
平成26年2月までの約半年間に,課外活動として
取り組んだ。
1)課題研究を進めるに当たって
生徒が課題研究に取り組む前に,W型問題解決
モデルを紹介し,このモデルを意識しながら研究
を進めていくよう指導した。具体的には,表1に
示す21項目に留意するよう指導するとともに,こ
れらが,図1に示すようにW型問題解決モデルの
各過程に位置付けられることを解説した。
65
日本科学教育学会研究会研究報告
課題発見
Vol.28 No.7(2014)
図2に,生徒の活動の様子を例示する。本稿で
は,課題研究の指導の在り方に焦点を当てている
ため,生徒が実施した課題研究の内容・方法等に
ついては省略する。
課題解決
図1 W型問題解決モデルに位置付けた
課題研究での留意事項
新第三紀層の野外調査
注)①~㉑は,表1の留意事項に対応する。
粉砕した玄武岩の分離
図2 課題研究での生徒の活動
2)課題研究の概要
研究課題は,「吉備高原に残された新第三紀の
火山と海の謎に挑む」で,岡山県高梁市川上町に
ある弥高山火山と玄武岩質溶岩との関係や,岡山
県内に分布する新第三紀の海成層の成因を探る
ことを目的に研究を進めた。
生徒が作成した研究報告書の概要を,表2に示
す。項目1~5は,研究の過程に対応している。
これらをW型問題解決モデルに当てはめると,項
目1~3は課題発見の過程(図1のA→B→C→
D)に,項目3~5は課題解決の過程(図1のD
→E→F→G→H)に対応する。
表2 研究報告書の概要
3.生徒の自己評価に基づく考察
全ての研究計画が終了した時点で,生徒に対し
て質問紙による調査を実施した。調査内容・方法
は,表1に示した留意事項を振り返ってみて,
「た
いへんよくできた」
「だいたいできた」
「どちらと
もいえない」
「あまりできなかった」
「ぜんぜんで
きなかった」の5件法による選択式と,課題研究
を通して自分がどのように成長したかなどの感
想を答える記述式とした。
1)選択式調査の結果と考察
表3は,
「たいへんよくできた」を4点,
「だい
たいできた」を」3点,「どちらともいえない」
を2点,
「あまりできなかった」を1点,
「ぜんぜ
んできなかった」を0点として得点化し,生徒5
人の平均を項目ごとに示したものである。課題発
見と課題解決の各過程に分けて結果を述べる。
課題発見の過程(図1のA→B→C→D)では,
「⑤研究課題に関する問題点や疑問点を自ら解
決しようとすること」「⑥研究課題に関する問題
点や疑問点を,チームでの話し合いを通して明確
にすること」「⑦文献調査や野外調査で得られた
情報やデータを組み合わせて,仮説を設定するこ
と」「⑨チームでの話し合いを通して,仮説を設
定すること」が比較的よくできていた項目である。
これに対して,「①文献調査や野外調査で得られ
た事実を,こまめに記録すること」「④研究課題
に関する問題点や疑問点を自ら見いだすこと」
「⑧自分の持っている知識や経験を手掛かりに
して,仮説を設定すること」は,あまりよくでき
ていなかった項目である。
1
はじめに
先行研究の概要と本研究の目的の設定
2 仮説設定のための研究
研究1 岡山県に分布する新第三紀中新世以降
の玄武岩に関する文献調査
研究2 高梁市川上町弥高山付近の地形・地質の
調査
研究3 津山地域に分布する新第三紀中新世の
海成層の調査
3 仮説
仮説1 前年度に発見した玄武岩溶岩(以降,弥
高山溶岩と称す)は,弥高山火山と同じ時
代に形成された。
仮説2 土懸濁液のpHとECを測定する化学分析
は,地層がおかれている現在の環境に左右
されず海成層の判定に用いることができ
る。
仮説3 弥高山溶岩を発見するきっかけとなっ
た赤色土壌は,玄武岩の風化により形成さ
れた。
4 仮説検証のための研究
研究4 弥高山溶岩の年代測定
研究5 土懸濁液の化学分析の検定
5 考察
仮説1に関して,弥高山火山と弥高山溶岩は,同
じ年代に噴出した可能性が高いが,溶岩の供給
源は弥高山火山と特定できない。
仮説2に関して,土懸濁液の化学分析法は,新第
三紀海成層の判定に有効である。
仮説3に関して,弥高山南側の新第三紀海成層は
弥高山溶岩に保護され,それ以降の侵食をある
程度まぬがれたと推定できる。
6 さいごに(謝辞)
66
日本科学教育学会研究会研究報告
表3 生徒の質問紙調査の結果(n=5)
項目(表1の表記を簡略化)
課
題
発
見
の
過
程
課
題
解
決
の
過
程
平均点
①こまめに記録
1.8
②情報やデータの収集
2.6
③知識や経験との比較
2.6
④自らの課題発見
2.0
⑤課題の解決意欲
3.4
⑥チームによる課題の明確化
3.0
⑦情報の組合せによる仮説設定
3.0
⑧知識や経験による仮説設定
2.0
⑨チームによる仮説設定
3.0
⑩仮説に対する見通し
2.6
⑪現実的な研究計画
2.4
⑫調査方法や実験方法の活用
3.0
⑬チームによる立案や準備
2.6
⑭計画に基づいた研究
2.8
⑮目的を明確にした研究
3.0
⑯チームによる研究
3.2
⑰安全への配慮
3.6
⑱仮説検証の確認
3.6
⑲研究計画の適切さの確認
2.6
⑳研究成果の整理
2.8
㉑研究成果の発表
3.0
これらをW型問題解決モデルに当てはめると,
「発想」「仮説の採択」の過程(図1のC→D)
では,チームでの話し合いがうまく機能していた
り,課題解決の意欲が高まっていたりしていたこ
とが分かる。しかし,「観察」の過程(図1のB
→C)で記録・情報収集することや,「発想」の
過程(図1のC→D)で主体的に発想することに
ついては不十分であったことが分かる。
次に,課題解決の過程(図1のD→E→F→G
→H)では,「⑫仮説を検証するために,それま
でに学んだ調査方法や実験方法を活用すること」
「⑮目的を明確に持って,研究を進めること」
「⑯
チームで協力して研究を進めること」「⑰安全に
気を付けて研究を進めること」「⑱仮説が検証で
きたかどうかを確認すること」「㉑研究で得られ
たことを分かりやすく発表すること」が比較的よ
くできていた項目である。これに対して,「⑩設
定した仮説が正しい場合の結果について,見通し
を持つこと」「⑪仮説を検証するために,現実的
な研究計画を立てること」「⑬チームで協力して
研究計画の立案や準備をすること」「⑲研究計画
が適切であったかどうかを確認すること」は,上
記の項目と比較するとやや低い結果となった。
これらをW型問題解決モデルに当てはめると,
「実験・観察」「検証」の過程(図1のF→G→
H)では,チームの協力がよくできており,仮説
の検証に意識が充分に置かれ,研究結果を自分な
りに表現していたことが分かる。しかし,
「推論」
「実験計画」の過程(図1のD→E→F)では,
見通しを立てることや,自ら実験計画を立案する
ことにやや不十分さがあったと言える。
2)選択式調査の結果の比較
岡本ほか(2013)で報告した前回の課題研究
(H24研究と略す)では,生徒にはW型問題解決
モデルを意識させないで実施したが,そこでも今
回と同じ質問項目による調査を行っていた。そこ
図3 質問紙調査(選択式)の結果の比較
67
Vol.28 No.7(2014)
日本科学教育学会研究会研究報告
で,それらの結果と,今回の課題研究(H25研究
と略す)での質問紙調査の結果とを比較する。そ
の結果を,図3に示す。
課題研究の対象や研究を実施した生徒が異な
るため,単純には比較できないが,21の全ての項
目でH25研究の方が高得点の結果となっている。
特に,「⑦文献調査や野外調査で得られた情報や
データを組み合わせて,仮説を設定すること」と
「⑱仮説が検証できたかどうかを確認すること」
の2項目が,得点も高くH24研究との差も大きい
という結果となっている。生徒にW型問題解決モ
デルを意識させたことにより,課題設定の過程に
おける仮説設定の大切さ,課題解決の過程におけ
る仮説検証の大切さを実感して行動に移すこと
ができたのではないかと推測される。
3)記述式調査の結果
表4は,今回の課題研究を実施して,生徒自身
がどのように成長したかなどについての記述(自
己評価)の一部を示したものである。課題研究を
通して,多様な人との交流ができたこと,チーム
で協力して研究が実施できたこと,その中での自
分の役割や責任を自覚するようなったことを見
いだすことができる。特に,チームでの協力に関
しては,上記の選択式調査の結果とも整合性が高
いものとなっている。
表4 生徒の自己評価(一部抜粋)
S1「課題研究を始めてみると,だんだん楽しくなった。
大学の先生や他校の生徒と交流できたり,自分たち
の研究を多くの人に聞いてもらったりでき,すばら
しい体験ができた。
」
S2「メンバーの得意分野が分かれていたので,協力す
るという点でとてもよかった。人と話し合って物事
を進める力や,自分の分担を丁寧に仕上げる力が身
に付いたと思う。
」
S3「他の人と協力して作業を効率よく進められ,自分
にできることを見つけて積極的に参加することが
できた。チームの一員として協力できたことが自分
の大きな成長になった。
」
S4「多くの地道な作業の連続だったが,一つ一つの作
業を丁寧に行うことの大切さや,チームで協力して
研究を進めることの楽しさが分かった。
」
S5「実際にフィールドワークを行えたことは,とても
よい経験になった。岩石を見分ける力がついたと思
う。来年度は,研究をたくさんして,少しでもチー
ムの力になりたい。
」
Vol.28 No.7(2014)
た上で課題研究に取り組ませたことにより,生徒
は,課題設定の過程においては,課題解決の意欲
を高めるとともに仮説設定の大切さを実感でき
るようになり,課題解決の過程においては,仮説
の検証の大切さに意識を向けるとともに研究結
果を自分なりに表現・発表できたという達成感を
味わうことができたと。また,研究の各過程でチ
ームでの話し合いや協力が充実していたことや,
そのこと自体を自分自身の成長として自己評価
していたことも,本研究の成果の一つである。
しかし,今回取り上げた課題研究では,生徒が
文献調査や野外調査で得られた事実をこまめに
記録すること,研究課題に関する問題点や疑問点
を自ら見いだすこと,自分の持っている知識や経
験を手掛かりにして仮説を設定することなどに
ついては,課題が残った。また,今回も前回と同
様に少人数の生徒による課題研究を取り上げる
に留まったため,より多くの事例を取り上げるな
どして,W型問題解決モデルが課題研究の指導に
有効であることに対する客観性や普遍性を更に
高めていくことも必要である。
国立教育政策研究所(2013)は,21世紀を生き抜
く力の中核として,「一人ひとりが自ら学び判断
し自分の考えを持って,他者と話し合い,考えを
比較吟味して統合し,よりよい解や新しい知識を
創り出し,さらに次の問を見つける力」が重要で
あると提案している。これを課題研究に当てはめ
るならば,単なる問題解決を実施するのではなく,
自律的,協働的な問題解決が大切であると捉える
ことができる。このことは,上述した本研究の成
果にも通じるものがある。この協調型問題解決の
視点からW型問題解決モデルの有効性を探るこ
とも今後の課題としたい。
引用文献
(1) 川喜田二郎(1967)『発想法』.中央公論新書.3-24.
(2) 国立教育政策研究所(2013)『教育課程の編成に
関する基礎的研究報告書5 社会の変化に対応す
る資質や能力を育成する教育課程編成の基本原
理』
.26-30.
(3) 岡本弥彦・小網晴男・五島政一(2013)「課題研
究の指導に関する一考察-W型問題解決モデルの
適用を通して-」
.日本科学教育学会第4回研究会
&中国支部研究発表会講演論文集.7-10.
[謝辞]
本研究の一部は,科学研究費補助金基盤研究A課
題番号23240107「子どもの科学的リテラシーを育成
する教育システムの開発に関する実証的研究」
(研究
代表者:五島政一)の助成を受けて行ったものであ
る。
4.おわりに
前回の研究(岡本ほか,2013)では,W型問題
解決モデルが課題研究等の指導と評価の指針と
なる可能性を示すに留まっていた。しかし,今回
は,事前にW型問題解決モデルを生徒に意識させ
68
日本科学教育学会研究会研究報告
Vol.28 No.7(2014)
中学校理科におけるイオン概念形成を目的とした
電気泳動実験の導入とその教材開発
Application of electrophoretic experiments and development of teaching materials for the purpose of the
“ion concept formation” unit in junior high school science classes
勝部翔太郎*・園山裕之**・西山 桂***
KATSUBE, Shotaro*;SONOYAMA, Hiroyuki**;NISHIYAMA, Katsura***
島根大学大学院教育学研究科*・島根大学教育学部附属中学校**・島根大学教育学部***
Graduate School of Education, Shimane University*;Junior High School attached to Faculty of Education,
Shimane University**;Faculty of Education, Shimane University***
[要約] 平成 20 年度学習指導要領解説理科編においては、
「電極に物質が生成することからイオンの存在を知
ること」と定められている。従って、肉眼で直接観察することが不可能なイオンの存在を生徒に理解さ
せるにためは、水溶液中で実際にイオンが「動いていく様子」と関連づけて指導することが有益である
と考えた。そこで本研究では、電気泳動教材を学習に組み込むことで、イオンの存在をより明確に理解
できるか授業実践を行うとともに、それに必要な電気泳動教材の最適化も行った。その結果、電気泳動
教材を使用することによってイオンの移動現象が明確に演示できた。一方生徒にとっては、電場印加に
伴うイオンの移動理由を正確に考察する端緒となった。
[キーワード] 化学変化とイオン、電気泳動、カラギナンゲル、イオン移動度、塩化銅(II)水溶液
1. はじめに
1) 単元の背景と課題
平成 20 年の学習指導要領解説理科編によると、
イオンの存在を学習するにあたり「電気分解の実
験を行い、電極に物質が生成することからイオン
の存在を知る」ような指導法が求められている。
しかし、肉眼で観察することが不可能なイオンの
存在を生徒に理解させるためには、教材や指導法
に格段の工夫が必要であり、多くの研究が行われ
てきた(宮城, 2012:野田, 2010)
。しかし、指導
要領において求められている「電気分解の実験結
果を解釈する教材」としては、さらに研究の余地
があるものと思われる。電気分解実験においては
水溶液中の「イオンの動き」を理解することで、
実験結果のより的確な分析・解釈につながるから
である。
そこで、我が国で現在使用されている中学校理
科の教科書の全 5 社を比較した。その結果、2 社
で電気泳動の実験を取り入れ、イオンが存在する
ことを見いだすきっかけを与えていることが分
かった。電気泳動実験とは「荷電粒子が溶液中で
69
電位勾配により移動する現象」のことである(日
本化学会編, 2000)
。すなわち溶液中に電極を挿入
し、外部電荷を加えて電位勾配を発生させると、
溶液に含まれるイオンが対応する電極に向かっ
て移動する様子を観察することができる。以上に
基づいて、電気泳動実験を生徒に演示することに
より、イオンの動きを理解させ、電気分解の仕組
み、さらにはイオンの存在を明確に伝えることが
できるのではないかと考えた。
2) 電気泳動教材の背景と課題
(Ⅰ)教科書実験の確認
まず、現行教科書のなかで、塩化銅(II)水溶液の
電気泳動実験が採録されているものを選び、教科
書に掲載されている手法に従って実験を行った
(教育出版, 2011)。すると、以下のような課題
を認識した。
① 電気泳動において反応の空間的な原点(塩化
銅(II)水溶液のろ紙への滴下点)が判別しづ
らいため、反応の進行が分かりにくい。
② 銅(II)イオンの軌跡が、結果として陰極から、
ろ紙の中央(塩化銅水溶液の滴下点)に進む
日本科学教育学会研究会研究報告
ように誤認されやすい。これは電気泳動と、
電圧の印加過程におけるろ紙の乾燥が競争
して進行するため、ろ紙中の銅(II)イオンの
濃度勾配に偏りが生じたためと推定される。
③ 銅(II)イオンの軌跡の視認性に乏しい。現実
には、銅(II)イオンが白色ろ紙中に紛れた色
調であるため、生徒は銅(II)イオンの軌跡が
浮かび上がる様子を極めて注意深く観察す
る必要がある。
電気泳動によってイオンが「移動する」ことを
生徒に認識させるためには、例えば、銅(II)イオン
が反応の空間的な原点から陰極に向かって徐々
に展開し、「進む」イメージをもたせることが必
要であると考えた。
(Ⅱ)電気泳動実験の実際
まず、溶液を保持している媒体を改良した研究
として、電解質水溶液をしみ込ませた凧糸を、ろ
紙の中央部に設置して空間原点とする手法が紹
介されている(坂東ら, 2007)。この手法を用い
ると、イオンの移動を明確に示すことができると
考えられる。一方、現行の指導要領解説理科編に
おいて、取り扱うこととされている「電解質水溶
液の電気分解実験」において使用する装置や器具
が大きく異なり、授業実践において連続性を保つ
ことが困難であると考えられる。従って、電気分
解から電気泳動への実験を無理なく移行できる
教材の開発の余地があると考えた。
一方、ろ紙の代わりに寒天を使用した電気泳動
実験も報告されている(沼口ら, 2013)。つまり、
板状に成形した食用寒天の両端に炭素電極を挿
入し、中央をくり抜いた形状とする。その中央部
分に塩化銅(II)水溶液を注入して電圧を加えるこ
とで、銅(II)イオンの移動を立体的に、すなわち上
方及び側面の両方から観察可能とした。ろ紙を用
いた実験と比較すると、装置の形状が電気分解の
実験と類似しているため、生徒にとっては、電気
泳動と電気分解の実験とを比較対照しやすいと
いう利点がある。なおこの研究(沼口ら, 2013)
では教材の全長を約 3 cm とマイクロスケール化
することによって、電場印加開始後の 5 分程度で
イオンの移動が目視で確認できるようになる。授
業実践においては便利な一方で、教材が小ぶりで
あるため、陽極側において進行する塩素発生反応
Vol.28 No.7(2014)
が不明瞭になると予想される。また、イオンを担
持する媒体として、白色の食用寒天を使用してい
るため、ろ紙を用いた実験の場合と同様、銅(II)
イオンの展開が判別しづらくなる場合もある。
2. 研究目的
本研究の目的は次の 2 点である。
◯ イオンの移動を生徒に明示できるような電気
泳動実験の教材開発を行う。
◯ 電気泳動実験を教材として導入することで、
イオンの存在をより明確に示すことが可能かど
うか、授業実践を通して確かめる。
3. 研究方法と視点
1) 電気泳動実験のための教材開発
前章で課題として挙げた点を改善するため、以
下の視点をもって教材の開発を行う。
(a) 空間原点(反応開始の原点)が明確で、徐々
に進行していくことが分かるものであること
(b) 電気分解の実験をイメージしやすいような系
および媒体であること
(c) 陽極側からの塩素発生を確認できること
(d) 銅(II)イオンの進展が明確であること
2) 授業進行の立案とその実践
電気泳動実験を導入した授業計画を立てると
ともに、その教材を使用して授業実践を行う。
3) 授業実践の評価とアンケートの分析
アンケートを作成して、電気泳動教材を演示す
る前後に実施する。電気泳動教材を導入すること
により、生徒の電気分解の実験に対する考えがど
のように変容したのか、このアンケートにより明
らかにする。また、この集計結果を分析すること
で、電気泳動実験を導入することの効果や、教材
自体の評価を行う。
4. 教材研究
1) 電気泳動教材の構想
電気泳動教材に関して既に述べた課題を改善
するために、前章3-1)に掲げた方針に基づい
て、その具体的な手法を検討した(表 1)。
70
日本科学教育学会研究会研究報告
表1. 教材開発の視点と改善の方法
教材開発の視点
改善の方法
(a) 空間原点(反応開始の原
点)が明確で、徐々に進行して
寒天のようなソフトマテリアルを使
いくことが分かるものである
用した電気泳動装置
こと
➡中央部から電極に向かう方向に進
むことが予想される
(b) 電気分解の実験をイメー
ジしやすいような系および媒
➡電気分解の実験と同じ 3 次元で、
電極付近の状態を観察可能
体であること
フルスケール化(目視及び、嗅覚に
よる確認が容易なスケールの実験器
(c) 陽極側からの塩素発生を
具を使用)
確認できること
➡電気泳動装置の中央部の塩化銅(II)
水溶液を境に、媒体の陽極側でのみ
塩素の発生が確認可能であると予想
(d) 銅(II)イオンの展開が明確
であること
寒天とは別の媒体を使用
➡透明度を高くすることで、明確に
なると予想
2) ソフトマテリアルの選択
水を分散媒としたゲル(ハイドロゲル)の分散
質の主成分は、多糖類とタンパク質に分けること
ができる。タンパク質からなる典型的なゲルとし
て、ゼラチンゲルが知られているが、温度や溶媒
によって容易にゾル–ゲル転移し、力学的に弱い
ことが知られている(エヌ・ティー・エス編, 2003)。
一方、多糖類を主成分とするゲルでは寒天が有
名であるものの、白濁しており、透明度という観
点から課題が残っていた。そこで、寒天と同じ原
料である海藻(紅藻類)から得られるゲルで透明
度が高いことで知られる、カラギナンゲルに着目
した。これは、トイレの芳香剤の多くに用いられ
ている。寒天とカラギナンゲルの違いを表 2 に示
す。
表2. ソフトマテリアルの種類と特徴
種類
原料となる海藻
糖の種類
ツノマタ、スギノリ
カラギナンゲル
カラギナン
キリンサイ
寒天
テングサ
アガロース
オゴノリ
アガロペクチン
寒天に含まれる成分のうち、ゲル化させる能力
が高いのはアガロースである。多糖類の水酸基が
71
Vol.28 No.7(2014)
水素結合するため、安定な二重らせん構造を形成
する。一方カラギナンには、硫酸基を糖の一次構
造に含んでおり、一重らせん構造を有しているこ
とが示唆されている(エヌ・ティー・エス編, 2003)。
これら基本構造が織りなす高次構造の違いによ
り、結果としてカラギナンゲルは透明度を高い状
態を保っていると考えられる。
そこで、
カラギナンを主原料としている PEARL
AGAR-8(富士商事)を使用した。これは食品の
ゲル化剤であり、透明度が高いため製菓などに活
用されている。
3) イオン移動度
電気泳動実験のフルスケール化に伴って、電気
泳動に要する時間を予備実験によって確認して
おく必要がある。すなわち、媒質中のイオンの移
動距離は時間に関して正の相関を持つため、マイ
クロスケール教材に使用した化合物がフルスケ
ール実験にそのまま適用できるとは限らない。ま
ず、ゲル中に分散させる電解質として、教科書(教
育出版, 2011)に紹介されている硫酸ナトリウム
(Na2SO4)を使用した。その結果、銅(II)イオンの
展開を目視で確認できるようになるまで、約 40
分を要した。つまり、一回の授業時間中に演示実
験を完結させるには課題が残る。そのため、イオ
ン移動度を検討することとした。
電場存在下におけるイオンの動き U は、イオ
ン移動度と呼ばれ、次のように定義される。
ここで、Z:イオンの価数、e:電気素量、η:
溶媒(媒体)の粘性率、a:イオン半径、である。
式(1)より、イオン半径はイオン移動度に反比例
することが分かる。つまり、電極近傍に存在する
イオン(ゲルに分散させた電解質のイオン)に、
イオン半径が銅(II)イオンよりも大きな陽イオン
を用いることで、装置中央(反応の空間原点)に
存在する銅(II)イオンの実質的な移動度が相対的
に大きくなると予想した。
そこで本研究では、電解質の陽イオンをナトリ
ウムイオンからカリウムイオンに変更した。文献
によると、Cu2+、Na+、及び K+の a (六配位結晶
中の値)はそれぞれ 87 pm、116 pm、及び 165 pm
であり、K+は Na+よりも a が約 1.4 倍程度大きい
日本科学教育学会研究会研究報告
(日本化学会編, 2004)。水溶液中での実質的な
イオン半径は結晶中とは異なっているものと予
想されるが、K+を用いた場合、式(1)によると少な
くとも定性的には U が小さくなると見積もられ
る。これらを踏まえて、電解質として硫酸カリウ
ム(K2SO4)を使用した。その結果、約 20 分で銅
(II)イオンの移動が確認可能となり、硫酸ナトリウ
ムを用いる従来手法と比べて所要時間が約 20 分
短縮された。
Vol.28 No.7(2014)
ることができた。生徒にとって、これらの現象を
観察すれば、電気分解と電気泳動とを容易に関連
づけて捉えることにつながると考えられる。
4) 開発した電気泳動教材
今回新たに開発した教材を図 1 に示す。
図2. 開発した電気泳動教材(t は時間[min]
を示す)※点線は著者追加 図1. 開発した電気泳動装置の概略図 以下、教材の作成手順を述べる。はじめに
PEARL AGAR-8 を 5%(w/w)蒸留水に分散させ
たのち、沸騰するまで加熱した。次に、電解質と
なる硫酸カリウムを 0.3%(w/w)溶解させた。そ
の後、プラスチック製の容器(15 cm × 7 cm × 4
cm)に移し、炭素電極を容器の端から 3 cm の位
置に入れ、室温まで冷却した。ゲル状態になった
ことを確認したのち、電極間の中央部を長さ 1.5
cm 切除し、得られた空間に 10%(w/w)塩化銅(II)
水溶液を加えた。
今回開発した電気泳動装置は、炭素電極を電源
装置につなぎ、15 V の電場を印加し 20 分程度観
察することで移動を確認できる。教科書(教育出
版, 2011)には、ろ紙の電気泳動実験において使
用する電圧は約 15 V と記載されている。なお、
電圧をさらに高くするとイオンの移動に要する
時間を短縮できる一方、回路の短絡されやすいこ
とや、実験者の安全確保に問題がある。従って、
本研究で用いた電圧も、授業実践には差し支えな
いと判断される。
本教材は、教材開発の視点として掲げた 4 点を
全て満たすものと考えている。特に(c)に関して、
反応の進行に伴って陽極周辺から塩素臭が容易
に確認され、塩素が発生していることを実感させ
72
5. 授業実践と評価方法
1) 授業実践
今回は、S 大学教育学部附属中学校第 3 学年の
4 クラス(計 132 名)を対象に 2 時間の授業を実
践した。期間は 2013 年 9 月上旬であった。授業
単元の学習指導要領に沿った表記は、
「(6)化学変
化とイオン」のうち、
「ア 水溶液とイオン」
、
「
(イ)
原子の成り立ちとイオン」である。表 3 に授業の
概要を示す。
表3. 実践授業の目標と授業の内容
塩化銅(II)水溶液を電気分解する実験を行い、各電極に
よってどのような物質が生成したのか調べさせた。その
第1時
後、陰極から銅、陽極から塩素が発生したという実験結
果から、電気分解の化学反応式を記述させた。さらに原
子モデルを使用しながら、電気分解の様子を表現させた。
前時の塩化銅(II)水溶液の電気分解の実験を復習し、電
場を印加した際の水溶液の様子に注目させた。そこで電
第2時
気泳動の様子を観察させた。その後、ワークシートを用
いて実験をまとめ、なぜ銅や塩素のもとが移動したのか
個人で考察させた。さらに、グループで話し合う機会を
設けた。
2) 評価方法
まずアンケートを実施し、本授業を通して「電
気泳動実験を学習に組み入れることにより、イオ
ンの存在を知ることができるか」どうかを調査し
日本科学教育学会研究会研究報告
た。アンケート内容を図 3 に示す。
Vol.28 No.7(2014)
ゲル装置と従来型のろ紙装置に分けて、電気泳動
実験の授業実践を行う。授業実践を行った全 4 ク
ラスのうち 2 クラスずつ(ゲル法:68 名、ろ紙法:
64 名)に分けた。これによって、教材による差が
見られるのか検証するとともに、開発した教材の
有用性を考察できると考えた。
5. 結果
アンケートの回答を解析したところ、いくつか
のタイプに分類することができた。その内容を以
下に示す(図 4)。
図3. 実施したアンケート 本設問では、電気分解の実験において水溶液中
のイオンの動きに注目させ、図示・説明記述させ
ることを目的としている。
また、生徒の思考の変容を明確にするため、同
様のアンケートを 3 回実施した。また、授業で使
用したワークシートも調査の一環として解析し
た。それぞれの調査の実施時期と目的を示す。
①電気泳動実験前
電気分解の実験を行った直後に調査を行う。こ
の時点ではイオンの動きに関しては触れていな
いため、多くの生徒が電極に生成した原子のモデ
ルを表現すると予想される。
②電気泳動実験直後
電気泳動実験を観察した直後に調査を行う。こ
れは、電気泳動教材によって、どれだけ生徒に移
動を理解させることができたのか、を明らかにす
ることができると予想した。
③個人で移動理由を考察した後
なぜイオンが移動したのかを思考したワーク
シートを調査対象とする。生徒は、移動理由を考
察することによってイオンの存在を知ることが
できると予想した。
④グループで移動理由を考察した後
イオンの移動理由をグループで話した後、調査
を行う。これは、生徒がイオンの移動理由をグル
ープのメンバー(3, 4 人)と意見を交換する中で、
イオンの存在を知ることができると予想した。
以上の 4 つの調査を実施することにより、電気
泳動教材を観察することによる生徒の考察内容
の変容や、移動理由を検討することによる生徒の
イオンの存在の認識を明らかにすることが可能
であると考えた。これらの結果を総合して、電気
泳動実験を導入することの評価を行う。
また本研究は、開発した教材の評価を行うこと
も目的としているため、今回開発したカラギナン
図4. アンケートで生徒が表現したモデル A:電気を帯びた粒子の存在を表現した上で粒子
の動きを表現することができる
B:粒子の動きを表現できる
C:電極の様子を原子モデルで表すことができる
D:塩化銅(II)が動くことを表現、誤答
E:その他
続いて、これらのタイプ別に集計した結果を、
図 5 に示す。
図7. タイプ別に集計したアンケート結果 (横縞:カラギナンゲル、縦縞:ろ紙) 73
日本科学教育学会研究会研究報告
Vol.28 No.7(2014)
している。
その結果、電気泳動実験を学習に組み入れるこ
とによって、生徒が実験結果を自ら解釈しながら、
イオンの存在が導かれるような授業展開が可能
となった。
その一方、今回開発したゲルを用いた電気泳動
教材に関しても、従来のろ紙等を使用する装置と
比較して、電離していない塩化銅(II)そのものが電
極間を動くというような、誤認識を生じさせる余
地が少ない結果が得られた。特に陽極での反応が、
塩素の発生という、電気分解実験と同じ現象であ
ることが大きく影響していると考えられる。
今回、イオン移動度を理論的に予測した結果か
ら硫酸カリウムを用いたので、所要時間を 20 分
と大幅に短縮し、授業に活用しやすくなった。展
開時間のなお一層の短縮には、ハイドロゲルの原
料や電極材料の最適化など、これからの研究が期
待される。
6. 考察
1) 電気泳動実験を組み入れることの評価
アンケートの集計結果から、次のことが明らか
になった。以下、ゲル法、ろ紙法、両電気泳動実
験の結果を述べる。まず、①電気泳動の実験前で
は、電極の様子を原子モデルを用いて表す(C)が最
も多く、70%を超えている。またこの時点では、
粒子の動きに気付く生徒(A, B)は少ない。次に、
②電気泳動実験を観察した直後、粒子の動きを表
現できるようになることが分かった(B)。これらの
ことから、電気泳動実験の観察が多くの生徒に粒
子の動きを捉えさせることが可能であることが
分かった。
その後、③、④個人やグループで移動理由を考え
ることによって、イオンの存在に気付ける子ども
(A)の割合が過半数を超えている。これらのことか
ら、ゲル法、ろ紙法などの方法を問わず、電気泳
動実験を取り入れることで電気分解までのイオ
ンの動きを理解し、移動理由を考えることによっ
て、多くの生徒がイオンの存在に気付くことが可
参考文献
能であることが分かった。
1) 坂東, 芝原 (2007) 「マイクロスケール実験によるイオ
ンの移動」, 『フォーラム理科教育』, 9, 1-8.
2)開発した教材の評価
次に、開発した教材の評価を行うため、ゲル法
とろ紙法の比較を行う。それぞれの調査で大差な
いように思われる。しかし、③個人で移動理由考
察後の塩化銅(II)が動くことを表現(D)に該当する
項目に、ろ紙法 17%、ゲル法 4%という差が見ら
れた。すなわち、ろ紙法では塩化銅(II)が移動する
という誤認識がやや多いことが言える。これは、
個人で考察しているため、移動理由を考えるにあ
たり困難な点が存在していることが示唆される。
この原因として考えられることは、ゲル法では、
銅(II)イオンの移動と、塩素のにおい発生が同時に
進行していくのに対し、ろ紙法では陽極側に嗅覚
的に反応が起こらないためと考えられる。これら
のことから今回開発した教材は、従来のろ紙法に
比べ誤認識をしにくい教材であると結論づけた。
2) 宮城 (2012) 「化学変化とイオンの関係性の理解を深め
させる教材の工夫−イオンのモデルの教材化を通して−」,
『沖縄県立総合教育センター研究集録』, 52, 1-10.
3) 沼口, 中山, 中林 (2013) 「マイクロスケール化学実験
による銅イオン(II)の移動」, 『理科教育学研究』, 54, 61-69.
4) 野田 (2010) 「イオンに関する科学的概念を観察、実験
を通して身につけさせる指導」, 『日本科学教育学会研究
会要旨』, 39-44.
5) 文部科学省 (2008) 『中学校学習指導要領解説理科編』,
大日本図書.
6) 大日本図書 (2011) 『理科の世界 3 年』.
7) 学校図書 (2011) 『中学校科学 3』.
8) 啓林館 (2011) 『未来ひろがるサイエンス 3』.
9) 教育出版 (2011) 『自然の探究 中学校理科 3』.
10) 東京書籍 (2011) 『新しい科学 3 年生』.
11) シーエムシー出版編 (2009) 『高分子ゲルの動向』.
12) 日本化学会編 (2000) 『標準化学用語辞典 第 2 版』,
7. おわりに
本研究は、電気泳動教材を学習内容に組み入れ
ることで、生徒がイオンの存在を理解できるかど
うか検討するとともに、授業実践に用いる電気泳
動装置として最適なものを開発することを目指
丸善.
13) 日本化学会編 (2004) 『化学便覧 改訂 5 版』, 丸善.
14) エヌ・ティー・エス編 (2003) 『普及版 ゲルハンドブ
ック』.
74
日本科学教育学会研究会研究報告
Vol.28 No.7(2014)
聴覚障害特別支援学校における理科授業の現状と課題
Present Situation and Task of Science Class in Special Needs Education School for the Deaf
塩崎絵理A,藤井浩樹B
SHIOZAKI Eri and FUJII Hiroki
元岡山大学大学院教育学研究科A,岡山大学大学院教育学研究科B
Graduate School of Education, Okayama University
[要約] 全国の聴覚障害特別支援学校(聾学校)教員を対象に質問紙調査を実施し,理科指導の現状と課
題を把握した。調査結果において注目される点は,以下のようになる。
(1) 手話を主なコミュニケーション手段としている同学校では,理科用語や科学概念を表現するために,
児童生徒が自ら手話を作るという活動が有効な指導法の1つとなっている。
(2) 理科指導における表現力の育成を比較的強く意識している教員は,観察・実験などの活動において児
童生徒自身が表現する場面を意図的に設けている。
(3) 小学部・中学部・高等部を比較すると,小学部・中学部では高等部に比べて観察・実験がひんぱんに
行われていること,また,少数の回答に基づくものではあるが,小学部では「話す」から「書く」,中学
部・高等部では「書く」から「話す」という活動の流れに違いがある。
[キーワード] 聴覚障害特別支援学校,聾学校,理科指導,表現力の育成
表1
1.問題の所在と目的
聴覚障害教育の分野においては,言語指導は従来
から重要な研究課題の1つである(金子ら,1994;
Yore,2000;Lang & Albertini,2001;林田ら,2010)。
金子ら(1994)によれば,聴覚に困難があることに
よって音が入りにくく,音声の認識が困難な点が生
じてくること(一次的障害),さらに言語発達の遅
れ,概念形成や抽象的思考の伸び悩みが現れてくる
こと(二次的障害)が広く知られているという。そ
して,生活言語はある程度獲得できたとしても,教
科学習において学習言語の理解が進まないために,
学習の遅れが生じることも指摘されている。このこ
とは理科学習においても例外ではなく,観察や実験
で得た情報を言葉で表現することが容易でないため
に,自然事象の理解や科学概念の理解が促進されな
いということが考えられる。
したがって,聴覚障害を持つ児童生徒に対して,
理科での言語による表現力をどのように身につけさ
せていくのか,このことは重要な研究課題であるが,
従来,その方面の研究の蓄積は乏しい。
そこで本研究では,上記の課題に取り組むための
基礎的資料を得るために,全国の聴覚障害特別支援
学校(聾学校)教員を対象に質問紙調査を実施し,
理科指導の現状と課題を把握する。
2.研究方法
1)対象者
75
調査項目
項目1 基本属性
性別,経験年数,理科を担当している部(小学部・中
学部・高等部),コミュニケーション手段
項目2 理科指導の全般的状況
観察・実験の実施状況,視覚教材の使用状況,指導が
難しい分野や場面とそれらへの対応など
項目3 理科指導における表現力の育成の状況
表現力の育成に対する意識,表現力の育成に向けて取
り組んでいることなど
全国 103 校の聴覚障害特別支援学校(聾学校)小
学部,
中学部,
高等部の理科担当教員を対象とした。
2)調査項目
林田ら(2010)などの先行研究を参考にして,調
査項目を作成した。また,聴覚障害特別支援学校(聾
学校)2校の理科担当教員と面談し,調査項目を精
査した。
調査項目は表1のようになる。項目2は,理科で
特徴的な観察・実験の実施状況や配慮点といった理
科指導の全般的な状況を探るための項目である。ま
た,項目3は,理科指導のなかでも表現力の育成に
かかわる状況を探るための項目である。
各項目の設問において,選択式あるいは自由記述
式で回答を求めた。
3)調査の手続き
調査は,郵送法による無記名式のアンケート調査
であった。2013 年 12 月に実施した。
4)分析方法
選択式の設問においては単純集計を行った。その
日本科学教育学会研究会研究報告
後,表現力の育成に対する意識についての設問と他
の設問との関係については一元配置分散分析を,理
科を担当している部による指導状況の違いについて
はクロス集計を行った。自由記述の設問においては
KJ 法を用いて,回答を分類した。
3.結果
103 校中 63 校(145 名)より有効な回答が得られ
た。回収率は 61.2%であった。
1)基本属性
問 1-1「男性教員・女性教員」については,男性
教員は 68%(99 名),女性教員は 32%(46 名)で
あった。問 1-2「聴覚障害特別支援学校(聾学校)
経験年数」については,1~5年が 55%(80 名),
6~15 年が 30%(43 名),16~25 年が 11%(16
名),26 年以上が4%(6名)であった。問 1-3「理
科を担当している部」については,小学部担当 34%
(49 名),中学部担当 30%(44 名),高等部担当
25%(36 名),小学部及び中学部担当3%(4名),
中学部及び高等部担当6%(9名),小学部及び高
等部担当1%(1名),未回答 2 名であった。
問 1-4「児童生徒との主なコミュニケーション手
段」については,手話 95%(138 名),口話 94%(136
名),指文字 92%(133 名),筆談 36%(52 名),
FM 補聴システム 21%(30 名),赤外線補聴システ
ム9%(13 名),その他 12%(17 名)であった。
その他では,集団補聴システム(5名),キュード
スピーチ(3名),キューサイン(2名),タブレ
ット端末(2名)という回答があった。
2)理科指導の全般的状況
問 2-1「授業での観察・実験の実施状況」につい
ては,分野を問わず週1回以上実施している教員が
60%(87 名)いた。
問 2-2「観察・実験で特に配慮していること」に
ついては,自由記述で得られた回答を分類したとこ
ろ,「観察・実験の手順」「安全」「言葉」「体験
活動」「内容の選択」「シュミレーション」という
内容が見られた。最も回答が多かった内容は「観察・
実験の手順」(32%,47 名)で,「観察・実験の手
順について事前に十分説明する」という回答が見ら
れた。
問 2-3「授業で使用している視覚教材」について
は,パソコン 88%(128 名),テレビ 57%(82 名),
プロジェクター42%(61 名)という回答が多かった。
その他としては,iPad などのタブレット端末 13%
(19 名)という回答があった。
問 2-4「視覚教材の使用頻度」については,「ほ
ぼ毎時間使用している」という回答が最も多かった。
問 2-5「指導が難しい分野」については,物理を
筆頭に,地学,化学,生物の順に回答が多かった。
76
Vol.28 No.7(2014)
「その理由」については,自由記述の回答を分類し
たところ,どの分野にも共通して,「観察・実験を
行うのが難しいため,イメージ化が難しい」「計算
が苦手な子どもが多い」
「子どもの語彙数が少なく,
表現力に欠ける」という回答が多かった。
問 2-6「問 2-5 で回答した分野で取り組んでいる
こと」については,自由記述の回答を分類したとこ
ろ,「インターネットや DVD などを用いて,イメー
ジ化を図る」23%(34 名)という内容が最も多かっ
た。また,「繰り返し説明する」「実生活と結びつ
ける」という内容も見られた。
問 2-7「指導が難しい場面」については,2つ選
択してもらった。
「説明や理解に時間がかかる」74%
(107 名)という回答が最も多く,次いで「授業の
進度が遅れてしまう」47%(68 名),「理科用語を
手話で表せないことがある」34%(49 名),「観察・
実験が行いにくい」19%(28 名)という回答が多か
った。
問 2-8「問 2-7 で回答した場面で取り組んでいる
こと」については,自由記述の回答を分類したとこ
ろ,まず「説明や理解に時間がかかる」という場面
では「視覚教材の利用」38%(55 名),「わかりや
すい手話や言い換え」10%(14 名),「繰り返しの
学習」7%(10 名),「実感を伴った学習」7%(10
名),「内容の精選」5%(7名)という取り組み
が見られた。「授業の進度が遅れてしまう」という
場面では,「指導内容の精選」16%(23 名),「授
業時間外の指導」8%(12 名),「視覚教材を用い
た時間の短縮」8%(12 名)という取り組みが見ら
れた。「理科用語を手話で表せないことがある」と
いう場面では,「手話の作成や指文字の使用」30%
(43 名),「視覚教材の利用」6%(9名)という
取り組みが見られた。そして「観察・実験が行いに
くい」という場面では,「説明の工夫」(5名),
「シュミレーション,演示実験」(3名),「内容
の精選」(2名)という取り組みが見られた。
3)理科指導における表現力の育成の状況
問 3-1「話す活動や書く活動をどの程度意識して
いるか」については,話す活動では「強く意識して
いる」50%(73 名),「やや意識している」39%(57
名),「あまり意識していない」8%(12 名),「全
く意識していない」1%(1名)であった。同様に,
書く活動では,「強く意識している」から順に 48%
(69 名),42%(61 名),8%(11 名),0%(0
名)であった。
問 3-2「表現活動を多く取り入れている分野」に
ついては,化学と生物の分野との回答が多かった。
問 3-3「表現活動を取り入れている場面において
意識していること」については,すべての小問にお
いて「強く意識している」という回答と「やや意識
している」という回答を合わせた割合が 70%を越え
日本科学教育学会研究会研究報告
ていた。特に問 3-3-2「学習した用語を正しく理解
し,適切に用いて表現する」,問 3-3-3「観察して
わかったことや,実験の結果や現象を正しく記述す
る」では,「強く意識している」という回答の割合
はそれぞれ 49%(71 名),52%(76 名)と,教員
のおよそ半数を占めた。
また,問 3-3-10「児童生徒の表現力の育成のため
に意識して行っていること」については,自由記述
で得られた回答を分類したところ,「書く」「話す」
「書く⇔話す」「読む」の内容が見られた。「書く」
の内容は,「児童生徒自身の言葉や文章で書かせる」
18%(26 名),レポートやノート,書かせるタイミ
ングなどの「書くものや時期」10%(14 名),「児
童生徒が書いた文を添削する」6%(8 名)という
内容が見られた。そして「児童生徒自身の言葉や文
章で書かせる」では,「児童生徒に文章で書かせる」
10%(15 名),定型文や穴埋め式のノートやワーク
シートを用いるなどの「ある程度書き方を示す」
8%
(11 名)という回答があった。
4)表現力の育成に対する意識と指導状況との関係
理科指導における表現力の育成に対する意識と指
導状況との関係を調べるために,問 3-1,問 3-3 の
選択肢のある設問の回答を点数化した。総得点が平
均より高い群
(高得点群)
を意識の比較的高い教員,
平均より低い群(低得点群)を意識の比較的低い教
員とした。両群と他の設問とのクロス集計表を作成
し,カイ二乗検定を行った。自由記述の設問につい
ては,KJ 法で分類した項目ごとに数字に変換した。
その結果,問 2-2「観察・実験で特に配慮してい
ること」で「言葉」に分類された回答,並びに問
3-3-10「児童生徒の表現力の育成のために意識して
行っていること」で「児童生徒自身の言葉や文章で
書かせる」に分類された回答において,両群の間に
有意な差が見られた(表2,3)。表現力の育成に
対する意識の比較的高い教員の方が,観察・実験の
ときに「言葉」の指導(児童生徒が自分の言葉でま
とめる時間を設ける,新出の用語や理科用語を確認
するなど)や「児童生徒自身の言葉や文章で書かせ
る」という指導を行っているといえる。
5)小学部・中学部・高等部における指導の違い
問 2-1「授業での観察・実験の実施状況」,問 2-4
「視覚教材の使用頻度」,問 3-1「話す活動や書く
活動をどの程度意識しているか」,及び問 3-3「表
現活動を取り入れている場面において意識している
こと」について,理科を担当している部(小学部・
中学部・高等部)ごとに集計した。
問 2-1 については,小学部や中学部担当の教員で
は観察・実験を「毎時間」あるいは「週1回程度」
行っているという回答が 60%を占めた。一方,高等
部担当の教員では「月に1~3回」あるいは「ほと
んど行っていない」という回答が 80%を占めた。観
77
表2
Vol.28 No.7(2014)
理科指導における表現力の育成に対する意識と
「言葉」の指導との関係
高得点群
低得点群
計
記述あり
21 人
9人
30 人
記述なし
53 人
62 人
115 人
計
74 人
表3
71 人
145 人
χ2=5.44,df=1,p<.01
理科指導における表現力の育成に対する意識と
「児童生徒自身の言葉や文章で書かせる」指導との関係
記述あり
高得点群
低得点群
計
42 人
23 人
65 人
48 人
80 人
記述なし
32 人
計
74 人
71 人
145 人
2
χ =8.70,df=1,p<.05
察・実験の実施状況を点数化し,算出した平均につ
いて一元配置分散分析を行った。その結果,小学部
と高等部の間,並びに中学部と高等部の間に1%水
準で有意な差が見られた。
問 3-3-10 において,「話す」から「書く」と回答
した3名は小学部担当の教員であったのに対し,
「書
く」から「話す」と回答した3名は中学部担当の教
員(2名),高等部担当の教員(1名)であった。
4.考察
1)各調査項目について
聴覚障害特別支援学校(聾学校)では,手話は最
大のコミュニケーション手段であり,回答者の 95%
が手話を用いていた。一方,「説明に時間がかかる」
「手話で表せない理科用語がある」といった困難さ
も見られる。その対応策として「視覚教材」の使用
が不可欠となっている。最近の動向としては,「タ
ブレット端末」を使用しているという回答が多く見
られた。その利点として,持ち運びやすい,無線で
データが送信できるなどが挙げられていた。図やグ
ラフ,動画の提示だけでなく,その時間に行った観
察・実験を写真や動画に撮っておき,授業の振り返
りにも使用できるという回答もあった。
用途が広く,
使いやすい点が支持されていると考えられる。
また,「手話にない理科用語について,児童生徒
と一緒にオリジナルな手話を考える」という回答が
数多く見られた。
手話を自分たちで作っていくには,
その言葉の意味や概念を正確に捉えることが求めら
れる。したがって,そうした活動は,児童生徒の自
然事象についての理解や科学概念の理解を図る上で
有効であると考えられる。
指導が難しい分野については「目に見えない抽象
的な内容を扱う単元」「観察・実験を行うのが難し
日本科学教育学会研究会研究報告
い単元」など,事象のイメージ化が難しい単元を挙
げる回答が大多数であった。金子ら(1994)や林田
ら(2010)が指摘するように,このことは聴覚障害
の児童生徒に見られる抽象概念の理解の困難さを表
している。そこで,シュミレーションやモデルなど
の「見える教材」を用いて観察・実験を行うことが
一層必要となる。
2)表現力の育成に対する意識と指導状況との関係
理科指導における表現力の育成に対する意識と指
導状況との関係を分析した結果,表現力の育成を強
く意識している教員は,観察・実験で「言葉」の指
導に配慮しており,児童生徒自身の言葉や文章で書
かせるといった指導をしていることがわかった。
Yore(2000)は,観察・実験などのハンズオン活動
おいて,児童生徒が自分の言葉で説明することが重
要であると述べている。このことを参考にするなら,
観察・実験を行う際には,わかったこと,考えたこ
となどを児童生徒がしっかりと自分の言葉で表現す
る活動を取り入れていくことが大切である。
また,児童生徒の表現力を促進するために,特に
「言葉や文章を書かせる」という活動をスモールス
テップにし,①最初は穴埋め式で書かせる,②キー
ワードを挙げ,それを用いて文章で書かせる,③自
分の文章で書かせる,というステップを踏んで指導
しているという回答も見られた。具体的な指導方法
として参考になる。
3)小学部・中学部・高等部における指導の違い
観察・実験の実施状況,視覚教材の使用頻度,及
び表現力の育成に対する意識について,小学部・中
学部・高等部ごとに集計した。
観察・実験を最もひんぱんに行っているのは小学
部,次いで中等部,高等部であった。少人数の授業
であるため,「一人ひとりに観察・実験を行わさせ
ている」という回答も多かった。また,観察・実験
に関する設問以外の自由記述においても,「観察・
実験を通してまずは児童生徒に体験させる」という
回答は数多く見られ,小・中・高等学校と同様に聴
覚障害特別支援学校(聾学校)においても,体験活
動が重視されていることがうかがえた。このことは
林田ら(2010)
の調査結果と一致するものであった。
体験活動は抽象概念の理解や実感を伴った理解の促
進に有効であるという意識を,多くの教員が抱いて
いると考えられる。
また,児童生徒の表現力の育成のために意識して
行っていることでは,小学部では「話す」から「書
く」,中学部・高等部では「書く」から「話す」と
いう違いが見られた。青柳(2010)はヴィゴツキー
の言語発達論に則して,話すことが思考することに
直接つながり,話すことの蓄積が頭の内側で話す(頭
の内側で思考する)ことにつながり,そして,頭の
内側で話すことが書くことを可能にすると同時に,
78
Vol.28 No.7(2014)
心の内なる情動を言葉化していくことにつながる,
と述べている。このことに基づくと,「書く」こと
は「話す」ことよりも高次のものである。小学部で
は「話す」ことから,中学部・高等部では「書く」
ことから指導されているという実態は,児童生徒の
発達特性に対応していると考えられる。
4)まとめ
調査結果において注目すべき点を,以下に示す。
(1) 手話を主なコミュニケーション手段とする聴覚
障害特別支援学校(聾学校)では,理科用語や科学
概念を表現するために,児童生徒が自ら手話を作る
という活動が有効な指導法の1つとなっている。
(2) 理科指導における表現力の育成を比較的強く意
識している教員は,観察・実験などの活動において
児童生徒自身が表現する場面を意図的に設けている。
(3) 小学部・中学部・高等部を比較すると,小学部・
中学部では高等部に比べて観察・実験がひんぱんに
行われていること,また,少数の回答に基づくもの
ではあるが,小学部では「話す」から「書く」,中
学部・高等部では「書く」から「話す」という活動
の流れに違いがある。
謝辞
本調査では全国の聴覚障害特別支援学校(聾学校)
の先生方にご協力をいただきました。ここに記して
深く感謝申し上げます。
引用文献
青柳宏(2010)「言語活動の充実」のために-L.S.
ヴィゴツキーの言語発達論に則して-,『宇都宮
大学教育学部紀要』,60(1),1-14.
林田真志・谷本忠明・川合紀宗(2010) 特別支援学
校(聴覚障害)中等部における理科教育上の取り
組みについて:担当教員に対する質問紙調査をと
おして,『広島大学大学院教育学研究科附属特別
支援教育実践センター研究紀要』,8,15-20.
金子敏明・永野哲郎・芳賀和夫(1994)理科の学習
に関する聴覚障害生徒の興味・関心と知識理解,
『筑波大学学校教育論集』,17,145-162.
Lang, H. and Albertini, J. (2001) Construction of
Meaning in the Authentic Science Writing of
Deaf Students, Journal of Deaf Studies and Deaf
Education, 6(4), 258-284.
Yore, L. (2000) Enhancing Science Literacy for
All Students with Embedded Reading Instruction
and Writing-to-Learn Activities, Journal of
Deaf Studies and Deaf Education, 5(1), 105-122.
日本科学教育学会研究会研究報告
Vol.28 No.7(2014)
文系学生を科学好きにする理科教育法の取り組み
Teaching practice of science education for Humanistic Students
福井広和
HIROKAZU,Fukui
就実大学教育学部
Shujitsu University of Education
[要約]一般に小学校教員養成課程の学生は人文系であり,理科に対する苦手意識がある
というイメージで捉えられている。もしそれが本当であれば,生涯を通して自然
を愛好し合理的に行動する人間育成の初期に科学に対するネガティブなイメージ
を子どもたちにもたせてしまう危険性がある。本研究では,調査紙により学生の
理科に対する好感度を調べ,実態をもとに将来の教え子に理科の楽しさを伝える
ことのできる教師を育成する方法について検討し,実践の一端を紹介する。
[キーワード]小学校教員養成,理科好感度調査,理科教育法,科学好き
1.はじめに
(3)調査内容および方法
平成 23 年 3 月に独立行政法人国立科学博物館が
①理科に対する好感度(調査紙,5件法)
作成した「小学校教員をめざす文系学生のための
②理科に対する自信
理科講座」の実施報告に次のような記述がある。
③高校3年間での理科履修科目(自由記述)
「小学校教員の多くは文系出身であり,理科の指導
④小中高で好きだった理科学習(自由記述)
に苦手意識がある」1)
⑤小中高で嫌いだった理科学習(自由記述)
小学校教員養成課程学生
に対する世間一般のイメージは確かにそのような
(調査紙,5件法)
⑥子どもたちを理科好きにする方法(自由記述)
ものであろう。もしそれが本当であれば,理科の
嫌いな先生から科学好きな子どもが育つとは考え
(4)調査結果
がたく,科学技術立国を標榜する我が国にとって,
①理科に対する好感度(調査紙,5件法)
また自然を愛好し,合理的に考えることのできる
予想に反し理科に対する好感度は決して低くは
市民を育てる観点からも看過できることではない。
なかった。一方で,男子2名が「理科は嫌い」と
以下では,本当に小学校教員養成課程の学生が
回答したことについては,教員になるまでに何ら
理科に苦手意識をもっているか調査を行い,理科
かの手だてが必要であることを痛感した。
教育法の授業改善の方策について検討する。
2.理科好感度調査
(1)調査の目的
小学校教員養成課程の学生が理科に苦手意識を
もっているのかどうかを明らかにする。
(2)調査の対象および人数
S大学教育学部初等教育学科3年生45名
(男子15名,女子30名)
79
日本科学教育学会研究会研究報告
②理科に対する自信(調査紙,5件法)
中学校
中学校
中学校
中学校
中学校
中学校
中学校
中学校
中学校
中学校
中学校
中学校
中学校
中学校
高校
高校
高校
高校
高校
高校
高校
高校
高校
高校
高校
理科に対する好感度が高かったことに比べて,
得意かどうかという質問に対しては低めの回答が
多かった。
③高校3年間での理科履修科目(自由記述)
少々乱暴なやり方であるが,学生が高校3年間
で履修した科目数を延べ人数にすると以下のよう
Vol.28 No.7(2014)
電気回路の組み立て
電圧電流を調べる実験
液体窒素でゴムボールを凍らせたこと
気体の上方・下方・水上置換の実験(3人)
酸化の実験(3人)
炎色反応の実験(2人)
アルコールランプの操作
顕微鏡を使った微生物の観察(2人)
細胞の顕微鏡観察
植物の分野
宇宙についての授業
実験は全部面白かった
先生が教えてくれる豆知識
カルメ焼き作り(2人)
万有引力の授業
ボールの放物線運動
化学の分子式の組み合わせ
液体窒素の実験
カイロ作り
生物の遺伝や細胞
細胞分裂の過程の観察
消化・ホルモン・神経系の授業
鶏の心臓の解剖
鶏の頭で視交差の観察
豚の目(角膜)の解剖(3人)
になった。
小学校で好きだった理科の学習には実験や観察
物理…23人,化学…44人,生物…90人
地学…2人,理科総合…32人
など体を使ったものが多く,器具の操作や食べ物
作りなど授業のコアではない活動に関する記述も
高校によっては教員配置の都合で選択すること
多く見られた。一方,高校になっても理科が好き
ができなかった場合もあり,学生本人の希望だと
だと回答した学生は,実習だけではなく化学式の
は言い切れないが,生物を履修した学生が多い。
意味や遺伝について考える科学的内容そのものに
なお,高校2・3年で理系科目を履修しなかった
対する関心が高い傾向が見られた。
学生は1名のみであった。
⑤小中高で嫌いだった理科学習(自由記述)
④小中高で好きだった理科学習(自由記述)
小学校
小学校
小学校
小学校
小学校
小学校
小学校
小学校
小学校
小学校
小学校
小学校
小学校
小学校
小学校
小学校
小学校
小学校
小学校
中学校
中学校
中学校
中学校
中学校
中学校
中学校
中学校
中学校
中学校
中学校
中学校
モーターカー・ソーラーカー作り(7人)
虫眼鏡や鏡で紙を焼く実験(2人)
リトマス紙で水溶液の性質調べ
スチールウールの燃焼実験
食塩の溶解度・食塩水の蒸発乾固(2人)
ろ過の実験
ガスバーナーの操作
生き物の生態調べ・虫捕り(2人)
植物の観察 蒸散の実験(2人)
米の栽培
ヨウ素デンプン反応
寒剤によるシャーベット作り(2人)
たんぽぽコーヒーを作り
スライムづくり(2人)
ベッコウあめ作り
80
植物の栽培・観察
虫の観察
マッチでアルコールランプに点火する
ソーラーカーがうまく動かなかった
電気コイル・電圧電流の計算(3人)
等速直線運動の実験(2人)
力などの計算問題の授業
物理や化学の実験や計算
モルの計算(3人)
化学反応がうまくいかなかったこと
イオン
アンモニアや硫黄の匂い
実験器具の使い方や手順が難しかった
顕微鏡を使っての花粉の観察(2人)
カエルの実験
フナの解剖
日本科学教育学会研究会研究報告
高校
高校
高校
高校
高校
高校
高校
高校
高校
高校
高校
高校
高校
高校
高校
高校
ずっと
ずっと
理科総合Aの計算問題
物理ができませんでした
計算をする内容(2人)
公式が複雑になり理解できなかった
物理・化学のただひたすら座学(3人)
化学式 モルの計算(5人)
化学の無機の授業
イオン
遺伝の授業(4人)
小さな赤い幼虫を使った染色体の実験
耳の各部分の名称や働きの記憶学習
動物のペーパークラフト作り
実験を全くしない講義型の授業(3人)
覚えることが多かった
授業全般ほとんどわからなかった
発展内容の説明が理解できなかった
暗記教科
全体的に意味がわからなかった
Vol.28 No.7(2014)
3.理科教育法での取り組み
理科好感度調査の結果を参考に,理科教育法で
以下の方針を立てて授業を行っている。
(1)指導方針
・メタ認知の促進
・身近な題材の活用
・演習(実験・観察)の導入
・協同学習による問題解決力の育成
(2)授業の実際
3年生
昆虫の成長と体のつくり
①アリを思い出して描いてみよう
A4の用紙と油性ペンを渡し,何も見ずにアリ
の絵を描かせ,黒板に掲示した。
理科についてのネガティブなイメージは,年齢
が上がるほど強くなる傾向が見られる。しかし,
これは高校の記憶の方が新しいという時間的要因
も考えられるため早計に断定することはできない。
全体的傾向として,
「座学」
「難しい計算」
「解剖
などの生理的嫌悪」
「実験の失敗」が理科が嫌いに
なるきっかけとして挙げられている。
図1.学生が描いたアリ
⑥子どもたちを理科好きにする方法(自由記述)
小学校3年生の教科書を見せ,昆虫の体は,頭・
【学習内容】
胸・腹の3つからなり,脚は6本ですべて胸から
・身近なものや現象から問題をつくる
出ていることを確認する。
・理科が生活の中で活用されていること
②校内に何種類のアリがいるか予想を立てよう
・他の教科の学習内容と関連付けて教える
まず調査の条件(大学構内・30分間)を設定
・ゲーム性を取り入れる
し,自由に予想を発表させ,その中から選択肢を
・カルメ焼きなどのお楽しみ実験をする
作り,再度全員に選択肢を選ばせた。今回の授業
【指導方法】
では5~9種類と予想する学生が多かった。
・予想を立てながら授業作りをする
③何種類のアリがいるか探してこよう
・実験や観察を多く取り入れる
全員が2枚ずつ小型のチャック付きビニール袋
・みんなで協力して問題を解決させる
を持ち,調査に出た。2匹捕まえたら,それらが
・自分たちでたくさん気づかせ発見させる
違う種類であるか観察し,もし同じ種類であれば
・子どもが達成感や成長を感じられるようにする
1匹は逃がす。2種類捕まえた学生は他の学生の
【教員研修】
捕まえたアリと比較して同じ種類であればどちら
・難しい実験でも成功できるように準備をする
かを逃がす。このようなルールをつくり,30 分間
・教師自身が科学に興味を持ち知識を増やす
屋外で活動した。その後教室に戻り,グループ内
・子供の興味や関心をひく話を盛り込む
で何種類捕れたか確認した。同定が難しいものに
・先生のパフォーマンス
ついては双眼実態顕微鏡で詳細に観察させた。
81
日本科学教育学会研究会研究報告
Vol.28 No.7(2014)
・今回の授業はアリを題材として教師の声かけの
大切さを学びました。
「アリをたくさん捕ってこよ
うね」という声かけでは,子供たちはすぐに遊具
やオタマジャクシに気が散ってしまいます。また,
たくさん捕ることだけに気が向いてアリを詳しく
観察しません。しかし,
「何種類見つけられるかな」
と言う声かけだとアリの細かい部分まで注目して
見るようになります。別の種類はいないかなと時
間いっぱい探し続けました。ほんの少しの言い方
図2.何種類のアリが採集できるか
の違いで子供たちの集中度が違い,魔法の言葉の
ように感じられました。
4.おわりに
前半の理科好感度調査についてはサンプル数が
少なく,統計処理をしたわけでもない。しかし,
文系だから理科が苦手でも仕方ないと思われがち
な小学校教員養成課程の学生について,客観的な
実態を明らかにすることの必要性を感じた。今後
他の教員養成学部と協力し,どの分野で苦手意識
図3.双眼実態顕微鏡でのアリの同定
④指導者として気づいたことを話し合おう
を持っているのか明らかにしていきたい。そして
その結果をもとに将来間接的に理科嫌いが再生産
アリの種類数を同定した後は,児童の視点から
されぬよう対策を講じていきたいと考えている。
教師の視点に切りかえてグループでの話し合いを
後半の理科教育法での授業実践についても,再
行った。フリートークで中心になった話題をキー
現性が高まるよう,客観的な手法での授業分析を
ワードとしてホワイトボードに書き,クラス全体
進めていきたいと考えている。
で発表した。
(3)学生の感想
引用文献
・今日の授業で,まず最初にアリの絵を思い出し
1)独立行政法人国立科学博物館(2011)
,小学校
ながら描いたら大学3年生の私の絵と小学3年生
教員をめざす文系学生のための理科講座「明日の
の絵が大差なかった。小学3年生より長く生きて
先生へおくる理科のコツ」実施報告,p.1
たくさんアリを見ているのに同じだった。つまり
参考文献
特に意識せずに見ているものは実は見えていない
(1) 板倉聖宣(1979)『足はなんぼん? 』,国土社,
のと同じなのだと気づいた。見ていると言うより
pp.1-40
「視界に入っている」程度なんだ。授業の初めに
このことに気付いてから観察をすると,ただ単に
アリを見つけて捕ってくるのではなく,詳しく観
察しようとする気持ちが生じた。前回の「雑草」
には一つひとつ名前があり,それを知ると友達に
なれるという話と同じだった。
82
日本科学教育学会研究会研究報告
Vol.28 No.7(2014)
マレーシアの初等,中等教育学校科学における教授言語に関する調査
Study of the Science instruction language of Primary and Secondary schools in Malaysia
北川 雅直
KITAGAWA,Masanao
広島県立安古市高等学校
Hiroshima
Prefectural High School
【要約】マレーシアは,マレー系,中華系,インド系民族が混在する国家で,1957 年の
独立以来, 多民族国家の統一と各民族のアイデンティティー維持との間で苦悩してきた。
学校教育における教授言語を何語にするかは,国家の統一に大きく関わる問題である。マ
レーシアは 2003 年 1 月,全国一斉に科学と数学の授業を段階的にマレー語から英語に移
行した。しかし,2008 年に全ての学年での移行が完成したが,教育効果が上がらないと
の理由で,2012 年に再び教授言語を段階的にマレー語に戻している。学校現場で,教授言
語の変更をどのように受け止めているかを調査した。
【キーワード】マレーシア, 理科教育, 教授言語
1.はじめに
多民族国家,マレーシアにとって教育は多文化主
就職
大学
義を実践する空間である。それだけに,教育システ
ムの改善は国民統合に向けた重要な問題である。
就職
マトリキュレイションコース
外国留学
中
学校教育においては,1970 年代から民族学校によ
り様々であった教授言語をマレー語に統一とするこ
とを段階的に進め,1983 年には小学校から大学にい
たるまですべての学校でマレー語が教授言語となっ
Ⅵ Upper 等
後
Ⅵ Lower
教
19
18
20
19
17
18
16
15
17
16
ⅴ
Ⅳ
14
13
12
15
14
13
Ⅲ
Ⅱ
Ⅰ
育
ⅴ
Ⅳ
た。教授言語をマレー語にするにあたり,様々な学
後中
期等
学
校
術用語をマレー語化することも積極的に推し進めら
れ,英語・マレー語科学用語辞典なども作成されて
いる。
P
12
しかし,1990 年代に入り世界のグローバル化が進
前中
期等
学
校
むにつれて,共通語としての英語の必要性が求めら
れるようになった。とりわけ大学での科学技術分野
においては英語の必要性が増し,教授言語を英語に
することが徐々に認められるようになった。
6
5
4
3
2
1
︶
︶
階的に始まり,2008 年にすべての学年において英語
国
民タ
型ミ
学
校ル
語
ー
ー
大学予備教育で数学と理科の教授言語の英語化が段
国
民中
型国
学語
校
初
等
学
校
︵
国
民マ
学レ
校
語
︶
右列は移行学
級経由生徒
6
5
4
3
2
1
︵
おいて,
2003 年に初等学校 1 年生,
中等学校 1 年生,
6
5
4
3
2
1
︵
さらに右図のようなマレーシアの教育システムに
11 11
10 10
9
9
8
8
7
7
6
6
年齢
化が完成した。
マレーシアの学校教育システム(マレーシア教育省 HP より)
図1
83
教育システム
日本科学教育学会研究会研究報告
Vol.28 No.7(2014)
and Energy)
,C.物質を探究する(Investigating
2.研究の目的
多民族国家マレーシアの教授言語については,社
Materials ), D . 地 球 と 宇 宙 を 探 究 す る
会的ニーズや教育効果の問題だけではなく,民族
(Investigating the Earth and Universe)
,E.技
的・政治的な問題である。しかし,ここでは 2003
術を探究する(
(Investigating Technology)
年からの理科授業教授言語の英語化,すなわち,母
の 5 つの項目が求められている。
前期中等教育では科学を,後期中等教育では,進
国語以外の言語で理科を学習することが生徒のどの
路に応じて科学,物理,化学,生物から選択する(地
ような影響をしたかを調べた。
学は科目にない)
。中等教育については,英語で書か
3.研究の方法
れたテキストを使用するようになったが,学習内容
マレーシア教育省が出した通達,生徒へのアンケ
については大きな変化はない。化学の学習内容につ
ート,
理科教育動向調査(TIMSS)を比較することで,
いては,日本の高等学校化学とほぼ同様な内容であ
理科教授言語の英語化が生徒に及ぼした影響を調査
る。
した。
4.初等,中等学校における理科・数学教授言
2)教員研修
語の英語化
教師の現職再教育,特に教授言語転換訓練は,教
育省教員教育局の英語教育センター(The English
1)教育課程の変更
Language Teaching Center Malaysia ELTCM)が
2002 年 11 月 27 日,マレーシア教育省は,2003
年から初等教育学校 1 年生および前期中等教育学
担当した。
校 1 年生から,段階的に科学と数学は英語の教授
6 ヶ月(2002 年 6 月から 12 月)という短い間に
言語を英語に転換し,2008 年にすべての学校での
研修の企画,実施は非常に困難であった。国内の科
科学と数学の教授言語の英語化が完成するよう
学教師が教授言語を英語に転換するために必要とし
通達を出した。
ていることを調査し把握することは難しいので,教
2002 年までは,初等教育学校 4 年生から科学の学
育省内でのいくつかの仮定を基に研修計画が立てら
習が始まっていたが,2003 年の教授言語の英語化に
れた。その仮定は,①全ての理数科教員は 何らか
ともなって,1 年生から科学の学習が始められるこ
の形で再研修を必要としている,②全ての理数科教
とになった。したがって,2002 年までのカリキュラ
員は英語の基礎力は持っている,③ての理数科教員
ムと 2003 年からのカリキュラムでは大きく変わっ
は,自分の指導している科目についての英語の参考
ている。2003 年までの理科カリキュラムはマレー語
書を読むことができる,④全ての教員はその指導経
で記述されているのに対して,2003 年からの理科カ
験と指導レベルが異なっている,の4つであった。
リキュラムは英語で記述されている。
これらの想定の検証は全国レベルでは行なわれず,
2003 年から実施されたカリキュラムでは,1 年生
セランゴール州とクアラルンプールのいくつかの学
~3 年生までを「レベル1」とし,A.生物についての
校をサンプリングして行なわれた。これらの分析を
学習(Learning about Living things)と B.身の回
も と に し た 再 教 育 プ ロ グ ラ ム は , English for
り の 世 界に つ いて の 学習 ( Learning about the
Teaching Mathematics and Science(ETeMS)と
World around us)を柱に進められる。4 年生~6 年
してまとめられた。この再教育プログラムで重視さ
生までを「レベル2」として探究(Investigating)
れたのは,
英語による情報収集および利用スキルと,
することが求められている。レベル2は,A.生物
クラス内での英語による指導スキルである。プログ
について探究する(Investigating Living Things)
,
ラムの中の 30%を情報収集利用スキに,70%を指導
B.力とエネルギーを探究する(Investigating Force
スキルの向上にあてている。また,プログラムは
84
日本科学教育学会研究会研究報告
Vol.28 No.7(2014)
phase1と phase2に分かれており,phase1では英
学習内容は 2002 年までのものとほぼ同じであった。
語自体の習得を,phase2 では英語による伝達を主に
カリキュラム開発センターは,英語による科学指
研修する。研修時間は,phase1,phase2 それぞれ
導をサポートするために,コンピュータ支援ソフト
120 時間である。
を開発し,各学校へ配布した。この支援ソフトは,
3)予算措置
各単元をアニメーションで説明するもので,教育省
教育省は,2003 年から 2008 年の間に 50 億マレーシアリ
のホームページからもダウンロードできる。
ンギット(およそ 150 億円)の予算を準備した。理数
教科書は,マレー語のものを英語に翻訳した。後
科教員と英語教員のすべてにラプトップコンピュー
期中等教育の化学については,2002 年までのマ
タを支給し,すべての学校に電源装置とプロジェク
レー語の教科書を単純に翻訳したのではなく,教科
ター,スクリーン,スピーカーおよび電源装置
書とプラクティカルブックに分けられた。プラクテ
(UPS)を設置した。
ィカルブックには,演習や実験などがまとめられて
いて,2002 年までのマレー語の教科書より使い易く
なっている。
5)移行途中学年の生徒
2003 年から実施された教授言語変更措置は表
3-1及び3-1に示したように,小学校 1 年生,
図2
前期中等学校 1 年生および中等後 6 年生で実施さ
配付されたコンピュータ
れた。2003 年では,それ以外(初等教育学校 2
年生から 6 年生,中等教育学校 2 年生から 5 年生
まだ)のそれぞれの学年での教授言語の転換は,
それぞれの学校にまかされた。教育省は,これら
の学年については,人事面,教科書等において支
援措置はとらなかった。
5.生徒から見た教授言語の英語化
マラヤ大学科学基礎教育センター(Center for
Foundation Studies in Science)に設置された 2
図
年間の日本留学特別コース(Special Preparation
3 スクリーンとプロジェクター
Program to Enter Japanese University マレー語
4)カリキュラムと教科書
で RPKJ)に在学する 204 名に対して,小学校および
初等教育におけるカリキュラムは,1 年生から
中等学校における理科教育に関するンケート調査を
6 年生まで新しくつくられた。
おこなった。
中等教育のマレー語による科学カリキュラムは
2003 年において 204 名の学生のうち,87 名が小学
2000 年に見直しが始まり,2002 年から実施された
校 5 年生,117 名が小学校 6 年生であった。したが
ばかりであった。そこで,教育省内のカリキュラム
って,基本的には,小学 4 年生から 6 年生までの 3
開発センター(Curriculum Development Center)
年間マレー語で科学を学習し,下級中等学校 1 年生
の科学部門(Science Unit)が英語に翻訳したもの
から上級中等学校修了までの 5 年間,英語で科学を
を使用した。したがって,2003 年からの中等教育の
学習したことになる。学生はマレーシアの全ての州
85
日本科学教育学会研究会研究報告
Vol.28 No.7(2014)
(13 州と連邦特別区)から集っており,それぞれの
英語,マレー語あるいは両方の言語で答えてよいこ
学生が卒業した小学校は 203 校,中等学校は 167 校
とになっている。
である。
「あなたは何語で UPSR に解答しましたか」
という
1)小学校
質問に対し,
「マレー語で解答した」81.9%,
「英語で
小学校において,2003 年までのカリキュラムでは
解答した」10.8%,
「両方で解答した」7.4%であった。
小学校 4 年生からいわゆる「科学」の学習が始まる。
これらより,生徒はおもに教授言語で試験に解答す
学生たちは,何年生から科学を学習し始めたのを確
ることが分かる。
認する質問の結果を図4に示す。
2)前期中等学校
科学の学習が始まった学年
前期中等学校は3年間(Form1~Form3)で,日本
の中学校にあたる。調査対象の学生が中等学校に在
学したのは 2004 年~2007 年である。
中等学校では,
理科の授業は基本的には全て英語で学習することに
4年生
なっている。教育省の方針である教授言語の英語化
がどの程度実施されていたかを,
「Form1~Form3 で
図4
科学の学習を始めた学年
は,何語で科学を学習しましたか」の質問で見るこ
とができる。
「英語だけを使った」59.8%,
「英語だが
カリキュラムどおり小学校4年生からが最も多い
時々マレー語も使った」34.3%と多いが,
「マレー語
が,1年生からと答えた生徒が12名(10校)
,3
だけ」1.0%,
「英語とマレー語の両方を使った」4.4%
年生からと答えた生徒が7名(7校)
,6年生のとき
であり,教育省の方針が完全に実施されたわけでは
と答えた生徒が1名いた。
ないことがわかる。
2003 年 1 月から小学校 1 年生,下級中等学校 1 年
「授業中に先生が話す英語は理解できましたか」
生および上級中等学校 4 年生で英語による理科の授
という質問に対し,93.5%の学生が「たいへんよく理
業が始まったが,そのほかの学年は英語で指導する
解できた」
「理解できた」と回答している。アンケー
必要はなかった。アンケートに回答した学生が小学
ト対象の学生にとっては,英語での授業に問題はな
校の時には英語で学習する必要はなかったことにな
かったと考えられる。授業中のクラスの状況を推測
る。教授言語についての質問「科学は何語で習いま
するために,その学生の友人について,
「授業中,先
したか」に対して,77.5%の学生が「マレー語で学習
生の英語が理解できなかった友人はいますか」とい
した」と回答した。しかし,
「英語だけで学習した」
う質問をした。
「理解できない生徒がたくさんいた」
と回答した学生が 1.5%,さらに何らかの形で英語を
7.8%,
「理解できてない生徒が少しいた」74.5%であ
使用した学生は 20,6%におよんだ。教科書や副教材
った。じつに,調査対象の生徒の学校,167 校のう
はマレー語のものを用い英語で教えたことになるの
ち,82.3%の学校では,先生の話す英語が理解できて
で,教師と生徒はかなり努力が必要だったと推測で
いなかったことが分かる。ここに教授言語を英語に
きる。
したことの問題もあると考えられる。
前期中等学校修了の年に全国統一試験を受験する。
マレーシアでは,小学校修了の年に全国統一試験
(UPSR)が実施される。2003 年までは,試験問題は
この試験の成績によって上級中等学校の進路(進学
マレー語で作成されていたが,2003 年以降は,同じ
(理系,文系)コース,職業コース,技術コース)
問題を英語とマレー語の 2 言語で作成され,生徒は
が決められる。この試験を英語で解答した生徒は
89.2%,マレー語は 1.5%,両方が 9.3%であった。
86
日本科学教育学会研究会研究報告
Vol.28 No.7(2014)
英語で科学を学習したにもかかわらず,1 割の生徒
は英語及びマレー語で解答している。
前期中等学校では多くの学校では,科学は英語で教
えられているにもかかわらず,PMR 試験にマレー語
で解答している生徒がかなりいたことがわかる。
3)後期中等学校
前期中等学校終了後の統一試験の結果により,進
学コース(理系,文系)
,技術コース,職業コースの
図5
TIMSS 8th Grade Science の点数
3つのコースのどれかに入学する。訪問した中等学
校の教師へのインタビューによると,全て試験の結
この結果を見ると,2003 年から始まった科学教授
果をもとに進級コースが決められる。後期中等学校
言語の英語化で,
全体として理解度が下がっている。
理系進学コースにおいて,英語だけで学習した割合
実際の学校現場で教師へのインタビューによると,
は物理が 57.4%,化学が 56.9%,生物が 57.7%で
生徒間で格差が大きくなっているようである。
あった。これに対して,
「英語だが時々マレー語で説
6.おわりに
明した」と答えた生徒は物理で 38.7%,化学で
39.7%,生物が 39.0%であった。4 割の学校では,
マレーシア政府は,国の発展のために理科教授言
英語で指導するものの,マレー語で補足をしていた
語の英語化という大きな改革を図ろうとした。学校
ことが分かる。母国語でない英語で科学を指導する
現場では,教員の努力と工夫で政府の方針に従おう
ことの難しさと,教員の努力がうかがえる。
としたが,結果的に生徒たちの理科への興味と学力
クラスの中で,英語が分からない友人がいたかの
は向上しなかったと判断された。その結果,2012 年
質問に対し,
「たくさんいた」が 3.4%,
「少しいた」
から,段階的に理科教授言語をマレー語に戻してい
57.4%,
「いなかった」21.4%であった。後期中等学
る。学校現場では,英語の教科書を使ってマレー語
校においても,英語自体が分からない生徒がかなり
で学習している学年や,マレー語の教科書を使って
いたことが分かる。
いる学年があるなど,混乱が続いている。
後期中等学校終了後にも,全国統一試験を受験す
る必要がある。この試験は,将来の進路を決める,
参考文献
最も重要な試験とされる。したがって,最も点の取
1)Integrated Curriculum for Secondary School
れる言語で受験するはずである。アンケートに答え
2005,2006
た学生の 92.6%は英語で解答しているが,7.4%の
Ministry of Education Malaysia
学生は,5 年間英語で科学を学んだにもかかわらず
2)TIMSS 1999,2003,2007,2011 International
英語とマレー語の両方で解答している。さらに,友
Results in Science
人についての質問では,34.3%の生徒がマレー語で解
答していたと答えている。
4)TIMSS の結果
マレーシアは 1999 年から国際教育到達度学会が
実施している数学・理科教育動向調査(TIMSS)に参
加している。TIMSS の点の変化は図5のようである。
87
Curriculum
Development
Center
日本科学教育学会研究会研究報告
空白ページ
88
Vol.28 No.7(2014)
日本科学教育学会研究会研究報告
Vol.28 No.7(2014)
中海の湖底堆積物を用いた環境学習の実践
Environmental education based on Nakaumi lagoon sediments
辻本
彰・瀬戸浩二・野村律夫
TSUJIMOTO, Akira SETO, Koji NOMURA, Ritsuo
島根大学教育学部・島根大学汽水域研究センター・島根大学教育学部
Shimane University
[要約]地学教育においては,地域の自然環境を利用した教育活動が重要である.中海は島根県の東部と鳥取
県の西部にまたがって存在する日本を代表する汽水湖であり,近隣の生徒にとってはなじみの深い身近な自
然である.本プログラムでは,中学生を対象として,野外船上実習および船上実習で得られた堆積物試料の
室内観察(貝化石や微化石,堆積物の層相変化)を行った.その結果をもとに,生徒に過去の中海と現在の
中海の環境の変化について考察させた.直接的な自然体験によって,自然科学に対する子供の驚きや興味関
心を引き出すことができる.地学分野では,直接体験によって様々な気づきや探究心を得ることができる.
普段は見ることのできない湖底のヘドロの臭いや手ざわりは,生徒にとって大変な驚きであった.このよう
な体験から,身近な環境問題への関心を引き出すことができた.また,微化石(有孔虫)の地層学習への有
効性についても検討することができた.
[キーワード]地学教育,地域教材,有孔虫,微化石,堆積物,中海,時間概念
1.はじめに
徳岡,1993).中海は他の多くの汽水湖と同様に成因
以下の中学校学習指導要領理科編の記述にもある
的に海跡湖に含められ,完新世以降の海面変動に支
ように,地学教育においては,地域の自然環境を利
配されてできた湖である(高安・徳岡,1993)
.堆積
用した教育活動が重要である.
物は地層累重の法則に従って下から上に向かって堆
「自然に直接触れることによって自然の営みや自然
積するため,湖底堆積物を採取してそこに残されて
の偉大さを感じ取り,自然に対する興味・関心を高
いる様々な記録を地質学的方法を用いて解読するこ
めることができる.自然を直接観察し,自然の事物・
とで,湖やその周辺地域の環境変遷を知ることがで
現象の中から生徒自身で問題を発見することにより,
きる.地学で扱う時間スケールには,1 回の地震の
探究する活動を意欲的なものとすることができる.
ような数秒~数分スケールのものや,地殻変動や山
野外での探究する活動を効果的なものとするために
脈形成のような数百万年~数千万年スケールのもの
は,生徒の生活の場である地域の自然環境の実態を
が存在し,このような時間概念の育成が地学教育に
よく把握し,その特性を十分に生かすことが重要で
求められている.本実践では,時間概念形成の一助
ある.」
(文部科学省,2008)
となるように,人間の歴史的な感覚で理解できる過
中海は島根県の東部と鳥取県の西部にまたがって
去数百年程度の時間スケールを対象とした.具体的
存在する汽水湖であり,近隣の生徒にとってはなじ
には,中海の湖底から採取された堆積物(コア試料
みの深い身近な自然である.中海の湖水面積は約
を含む)を実験室内で処理・観察し,含有化石の観
86km2,周囲長は 105km,平均水深は 8.4m であり,
察を行った.その結果をもとに,生徒に過去の中海
日本の湖沼の中で 5 番目の広さを誇っている.中海
と現在の中海の環境の変化について考察させること
は,砂洲の先端と島根半島の間にある幅 200~400m,
を主な目的とした.
長さ約 7km の境水道で日本海に通じている(高安・
89
日本科学教育学会研究会研究報告
2.実施内容
Vol.28 No.7(2014)
このように,現在の中海にはヘドロが堆積してい
本プログラムは日本学術振興会「ひらめきときめ
ることを理解した上で,コア試料の採取を行った.
きサイエンス」として,2013 年 8 月 10 日に行った
コア試料の採取にあたっては押し込み式採泥器を使
(プログラム名;100 年・1000 年前の中海へ潜って
用し,結果としてコア長約 1.6m のコア試料が採取で
みよう:時間を旅する地質学への誘い).対象は中学
きた(図 2).船上での簡易的なコア試料の観察から
1 年~3 年生の生徒で,参加者の合計は 13 名であっ
過去の時代へとさかのぼり,ヘドロはいつからどの
た.本プログラムは野外観察と室内観察の 2 構成で
ようにしてたまるようになったのか問いかけを行い,
行った.すなわち,宍道湖遊覧船はくちょう号を利
実験室での詳細な観察に移った.
用した野外船上実習と,船上実習で得られた試料の
【室内実習】過去の研究例と比較し,採取したコア
実験室内観察である.
試料は過去 500 年程度の環境を保存していると推察
【船上実習】現在の中海の環境を理解するため,水
した.コア試料最上部は含水率が高く黒色を呈する
質測定実習および水中カメラによる水中観察,湖底
ヘドロであり,下位に向うにつれて含水率は低下し
堆積物の観察実習を行った.中海のような汽水湖で
た.深度約 30cm で黒色から灰色に色調が変化し,
は,塩分の低い水が表層に,塩分の高い水が底層に
貝殻片が散在するようになった.コア試料の下部で
流入するため塩分躍層が形成される.その結果底層
は,保存状態の良い貝化石が産出した.堆積物の観
水には酸素が供給されず,貧酸素環境になる.この
察ではワークシートを配布し,観察の視点を明確化
ような場合,有機物負荷が高く富栄養な環境下にお
した(図 2,3)
.
いては,硫化物に富むヘドロが形成される.当日は
風が強く明瞭な塩分躍層が観測されなかったものの,
底層水の溶存酸素量が著しく低下している様子が観
察された.湖底堆積物の採取では,現在の中海に堆
積しているヘドロの色やにおい,手触りなどを体験
した.はじめは腐卵臭に躊躇していた生徒も,ヘド
ロのでき方などを解説することによって積極的に感
触などを体験するようになった(図 1)
.
図2
図1
採取したコア試料の観察
船上で採取した湖底堆積物(ヘドロ)
図3
90
使用したコア試料の観察シート
日本科学教育学会研究会研究報告
Vol.28 No.7(2014)
として分類する.
堆積物の肉眼観察というマクロな視点から,堆積
④ 100 個カウントした中に,それぞれの種類
物の構成粒子に注目し,ミクロな視点での観察を行
った.具体的には,1 人 1 層準の位置を決め,堆積
(「Ammonia beccarii」,
「Trochammina hadai」
,
「そ
物中から微化石(有孔虫)の抽出を行い,顕微鏡観
の他の種類」)がどれだけの割合いるか算出する.
⑤ 時代とともに種類がどのように変わるのかを見
察を行った.今回扱った微化石の一種である有孔虫
(原生生物)は硬質の炭酸カルシウムの殻を持つメ
て,中海の環境変化を考察する.
イオベントスであり,様々な環境 (塩分,溶存酸素
量,海底堆積物の粒度など) に適応した多様な種が
Trochammina hadai の方が Ammonia beccarii よりも
存在する.有孔虫は化石として堆積物中に保存され
有機物の多い環境を好むことから,これら 2 種の産
ることから,古くから地質・古生物学者の手によっ
出割合から過去の中海における有機物量の変化を読
てその形態分類学的研究や地理的分布に関する研究
み取ることができる.
が行われてきた.古生代の示準化石であるフズリナ
も有孔虫の一群であるが,有孔虫の名前は一般的に
当日観察結果は生徒たちに黒板に集約してもらっ
はあまり知られていない.しかし,数 mm~数 10µm
たが,ここでは演者がデータとしてまとめたものを
程度の大きさで,少量の試料からたくさんの有孔虫
提示する(表 1).
生徒たちは,貝化石や微化石,堆積物の層相変化
化石を取り出せるため,示相化石や示準化石の学習
の観察結果から,人間活動によって中海にはヘドロ
に適している(図 4)
.
がたまるようになったこと,かつては貝類の豊富な
環境であったことなどを考察した.
表1
図4
生徒によるコア観察結果まとめ
汽水域に代表的な有孔虫
有孔虫化石の観察手順を以下に示す.
① 篩(メッシュクロス)を使って泥分を洗い流し,
粗粒な粒子だけを残す.
② メッシュクロスの上に残った粗粒な粒子を方眼
3.実施結果
シャーレに移す.
③ 方眼シャーレのマス目に沿って実体顕微鏡で有
堆積物の肉眼観察・貝化石の観察というマクロな
孔虫を 100 個体カウントする.
視点からの観察は,生徒にとって直感的に理解しや
※カウントするときは,計測を簡単にするために
すかったようである.一方,堆積物の構成粒子に注
中海に代表的な種類である「Ammonia beccarii」,
目したミクロな視点での,有孔虫という普段見慣れ
「Trochammina hadai」
の 2 種および「その他の種類」
ない微化石の観察は生徒にとってやや難しかったよ
91
日本科学教育学会研究会研究報告
うである.実際,生徒の観察結果まとめからは,有
孔虫化石によって有意な環境の変化を読み取ること
ができなかった(表 1).これには,① 今回のプロ
グラムでは時間の制約上微化石の観察を 1 人 1 層準
と限定したため,有孔虫種の同定に個人差が生じた
② 観察間隔が粗く,有意な変化を検出できなかった,
などの要因が考えられる.一方,アンケートの結果
からは,
「見たことがない化石を見れて面白かった」,
「中海の昔の様子や有孔虫についてわかってよかっ
た」,
「顕微鏡で微化石を観察できておもしろかった」
などの肯定的な感想が得られ,多くの生徒が地学・
微化石観察の面白さについて認識していた.
4.まとめ
直接的な自然体験によって,自然科学に対する子
供の驚きや興味関心を引き出すことができる.地学
分野では,直接体験によって様々な気づきや探究心
を得ることができる.普段は見ることのできない湖
底のヘドロの臭いや手ざわりは,生徒にとって大変
な驚きであった.このような体験から,身近な環境
問題への関心を引き出すことができた.
引用文献
1) 文部科学省(2008)『中学校学習指導要領解説理
科編』
2) 高安克巳・徳岡隆夫(1993)海跡湖の地史-1
中
海・宍道湖,『アーバンクボタ』,32,38-47.
92
Vol.28 No.7(2014)
日本科学教育学会研究会研究報告
Vol.28 No.7(2014)
島根大学教育学部附属中学校における放射線教育の取り組み
The Radiation Education in Junior High School Attached to Shimane University
園山裕之1・高橋里美2・秋田幸彦3・勝部翔太郎3・
別木政彦4・渡部康弘2・栢野彰秀5・秦 明徳5
SONOYAMA, Hiroyuki1;TAKAHASHI, Satomi2;AKITA, Yukihiko3;KATSUBE, Shotaro3
BEKKI, Masahiko4;WATANABE, Yasuhiro2; KAYANO, Akihide5;HADA, Akinori5
島根大学教育学部附属中学校1,松江市立湖南中学校2,
島根大学大学院3,神戸市立上野中学校4,島根大学5
Junior High School attached to Shimane University1;Konan Junior High School2
Graduate School,Shimane University3;Ueno Junior High School4;Shimane University5
[要約]平成 20 年に改訂された中学校学習指導要領では,単元「科学技術と人間」において「放射線の性質
と利用にも触れること」と明記された。中学校第3学年の理科において,
「放射線」
・
「放射能」
・
「放
射性物質」や「放射線の性質」についての知識とそれに基づく理解を生徒に獲得させ,科学的な根拠
に基づいた判断ができる生徒を培うことを目的として,放射線教育を実施した。本研究では,行わ
れた授業の実際を報告するとともに,放射線に関する学習の前後における,生徒の基礎的な知識の
理解の程度や興味・関心の移り変わりについて明らかにした。
[キーワード]中学校理科,放射線教育,カリキュラム,観察・実験,知識・理解
1.はじめに
生徒に放射線に関する知識とそれに基づく理解を獲
『中学校学習指導要領解説理科編』
(2008)では,
得させることに重点を置き, 2年間にわたって放射
「科学技術と人間」の単元で放射線の性質と利用に
線教育のあり方を検討してきた。本稿は,その中で
も触れることと明記された。原子力発電ではウラン
実践してきた第2年次の放射線教育の実際とその授
などの核燃料からエネルギーを取り出していること,
業後における生徒の変容についてまとめたものであ
核燃料は放射線を出していることや放射線は自然界
る。
にも存在すること,放射線は透過性などをもち,医
2.研究の目的
療や製造業などで利用されていることなどにも触れ
ると記載されている。昭和 52 年に改訂された学習
今回の授業は,中学校第3学年「科学技術と人間」
指導要領のもと,中学校理科において放射線に関す
の単元にある「いろいろなエネルギー」の内容にお
る学習が削除されて以降,約 30 年ぶりに学習内容
いて実践を行った。附中で採択する理科教科書には,
として復活した。また,2011 年に起こった東日本大
「放射線の性質」および「利用」に関する記載があ
震災に伴う東京電力福島第一原子力発電所の事故を
るのだが,その内容をいかに理解させるか重要であ
きっかけとし,放射線教育の在り方や防災教育や安
ると考えた。そのため,放射線理解に関するカリキ
全教育の重要性が提言された。そのような中で,放
ュラムを構想し,全4時間の学習時間を設け,
「放射
射線に関する教材や指導方法などの課題に直面し,
線についての実験や観察を通して,放射線の性質に
不安を抱えている教師も少なくない(別木,2013)。
ついての基礎的な知識を身につけ,放射線の利用と
島根県は原子力発電所保有県の一つである。島根
影響について理解すること」を目標として学習を進
大学教育学部附属中学校(以下,附中と略)では,
めた。
93
日本科学教育学会研究会研究報告
Vol.28 No.7(2014)
3.研究の実際
「その他」の内容が1あった。
「基礎的な知識」の主
(1) 学習前調査の実施
な内容には,
“放射線はどのようにしてできるのか”
学習前に,附中第3学年の生徒 138 名を対象にし
や“どうしたら無くすことができるのか”などの回
て,生徒の実態を把握するための学習前調査を行っ
答が多数見られた。
「放射線の影響」に関する内容に
た。学習前調査の項目は,
「放射線について知ってい
は,
“どれくらいまでなら放射線を浴びても大丈夫な
ること」と「放射線について知りたいこと」の2点
のか”や“放射線を浴びるとどのような影響が表れ
である。どちらも自由記述式で調査を実施した。
るのか”といった回答があった。
学習前調査を集計すると,
「放射線について知って
これらのことから,生徒の実態として考えられる
いること」
に関する回答は,
生徒数 131 名で延べ 694
のは,
“目に見えないもの”や“危険”というような
の項目があがり,生徒一人当たり約 5.3 の知ってい
漠然とした放射線についての知識はあるようだが,
る項目があることがわかった。一番多かった内容は,
“どのようにしてできるのか”や“どのように危険
「放射線の基礎的知識」に関する内容で 243,次い
なのか”といった放射線に関する詳しい知識は多く
で「放射線の影響」に関する内容が 222 あった。さ
はないということである。また,
「放射線について知
らに,
「放射線の利用」に関する内容が 86,
「社会問
っていること」の内容には“放射線は体に少しずつ
題」に関する内容が 77,「放射線の測定」に関する
蓄積され,溜まったら体に悪影響が出る”などのよ
内容が 30,
「放射線の防護」に関する内容が5,
「そ
うな不適切な認識をしているものもあった。他にも,
の他」の内容が 31 あった。
「基礎的な知識」に関す
“放射線の中には有害な物質が入っている”や“放
る内容には,
“目に見えないもの”や“自然にもある”
射線とは放射能のことである”,
“放射線は原子力発
といった回答が多く,
「影響」に関する内容には,
“有
電所でつくられているもの”などのような回答もあ
害である”や“危険”などの回答が多く見られた。
り,放射線に関する不適切な知識をもっている生徒
「放射線について知りたいこと」に関する学習前
が存在することが明らかになった。
調査の回答は,述べ 346 の項目があがり,生徒一人
これらの実態を踏まえ,
「科学技術と人間」の単元
当たりでは約 2.6 の知りたいことがあることがわか
において全4時間の放射線に関する授業を実施する
った。その内容は,
「放射線の基礎的知識」に関する
ことにした。
内容が一番多く 212,次いで「放射線の影響」に関
する内容が 92,
「放射線の利用」
に関する内容が 22,
(2) 放射線に関する授業の実施
「社会問題」に関する内容が8,
「放射線の測定」に
学習前調査の結果から,次に示す2つのことを授
関する内容が7,
「放射線の防護」に関する内容が4,
表1
時
間
放射線とは何か
第2時
放射線を出す物質と放射線
第4時
学習計画
学習テーマ
第1時
第3時
業の中心に据え,学習計画を設定した(表1)。
学習内容(太字は生徒による観察・実験)
・原子の構造,放射性同位体
・放射線と放射性物質
観察自然放射線の観察〈霧箱〉
実験物質から出る放射線の測定
観察放射性物質から出る放射線の観察〈霧箱〉
・α線,β線,γ線の性質
放射線の性質と放射線の影響
・放射線の生命への影響
・内部被曝と外部被曝
・半減期
実験線源からの距離と線量〈距離依存性実験〉
放射線と私たちの生活
実験放射線の遮蔽〈遮蔽実験〉
・日常生活と放射線
・放射線の利用
・原子力発電のしくみ
94
日本科学教育学会研究会研究報告
①「放射線」
・「放射能」
・「放射性物質」についての
Vol.28 No.7(2014)
な影響が表れるのか”という疑問。加えて,
“放射線
正しい知識を身につけ,理解をすること。
は体に少しずつ蓄積され,溜まったら体に悪影響が
②「放射線の性質」についての知識を身につけ,放
出る”という不適切な知識をもっている生徒がいる
射線の利用と影響について理解すること。
という実態から,2つ目の学習の柱として中心に据
①については,生徒がもっていた“放射線はどの
えた。そのために,第2時から第4時の学習の中で,
ようにしてできるのか”という疑問に基づく内容を
測定器を用いて放射線量を測定する実験や距離依存
学習できるようにするとともに,
“放射線の中には有
性実験・遮蔽実験など,放射線を定量的にとらえら
害な物質が入っている”や“放射線とは放射能のこ
れる実験を行った。また,知識を得るための学習と
とである”などといった不適切な知識を妥当な知識
して第3時で「内部被曝と外部被曝について知る」
に変容させるための学習の柱として位置づけた。そ
学習や第4時で「放射線の利用について知る」学習
のために,第1時において「原子の構造から放射線
を実施した。これらの学習が,放射線の性質を生活
の種類について知る」学習を設け,第1時及び第2
に利用していること,放射線を浴びる量によって人
時で「霧箱において放射線の観察をする」ことを行
体に影響が及ぶことの理解につながることをねらっ
った。このことで,放射線とは何なのか,放射性物
た。
質とはどのようなものなのかなどについて理解でき
これらのことを踏まえて,評価規準を設定し,
「放
るようになることをねらった。
射線についての基礎的な知識を身につけ,放射線に
②については,
“どれくらいまでなら放射線を浴び
ついて理解すること」を目的とした全4時間の授業
ても大丈夫なのか”や“放射線を浴びるとどのよう
表2
を行った(表2)
。
授業の評価規準
関心・意欲・態度
科学的思考・表現
実験・観察の技能
・放射線について興
味・関心をもち,実
験や観察に意欲的
に取り組んで,積
極的に調べたり,
記録したりしてい
る。
・距離依存性を見出
す実 験や遮蔽実
験をもとに,放射
線の性質について
考え,説明してい
る。
・実験・観察の目的を
理解して,正確に
実験器具の操作を
行い,自然放射線
の観察や,放射線
量を測定し,記録
している。
・放射線について興
味をもち,意欲的
に質問したり,考
えたりしている。
知識・理解
・放射線とは何かに
ついて説明してい
る。
・放射線の性質と影
響について,説明
している。
・放射線は様々な分
野で利用されてい
ることともに,リ
スクも存在するこ
とを,説明してい
る。
95
日本科学教育学会研究会研究報告
Vol.28 No.7(2014)
【第2時】
第2時は,
「放射線を出す物質と放射線」をテーマ
に,授業を行った(表4)
。
【第1時】
第1時は,
「放射線とは何か」をテーマにして,授
業を実施した(表3)
。
表4
表3 第1時の展開
第1時の最後には,霧箱を使った放射線の観察を
行った(図1)。シャーレを用いた自作の簡易霧箱を
使い,観察した。
第2時の展開
第2時では,放射線測定器を使用して,物質から
出る放射線量を測定する実験を行った(図2)。
図2
図1 簡易霧箱を利用した放射線の観察
96
放射線量を測定する実験のようす
日本科学教育学会研究会研究報告
【第4時】
第4時は,
「放射線とわたしたちの生活」をテーマ
に授業を行った(表6)
。
【第3時】
第3時は,
「放射線の性質と放射線の影響」をテー
マに,授業を行った(表5)。
表5
Vol.28 No.7(2014)
表6
第3時の展開
第3時では,距離依存性を見いだす実験を行い,
線源からの距離と放射線量の関係を調べた(図3)。
第4時では,放射線には物質の種類などによって,
通過したり,遮られたりする性質があることを調べ
た(図4)
。
図4
図3 距離依存性を見いだす実験のようす
97
第4時の展開
放射線の遮蔽実験のようす
日本科学教育学会研究会研究報告
4.成果と考察
Vol.28 No.7(2014)
一方,
「社会問題」と「放射線の防護」については
増加している。「社会問題」の項目の記述内容には,
“放射線と同じはたらきをする人体に害はないもの
は発明されないのか”や“放射線が自然にどのよう
な影響を与えているのか”などがあった。
全4時間の学習後,生徒数 125 名において学習前
調査と同様の調査を行った。
「放射線について知っていること」に関する学習
前後の生徒の回答をまとめた(図5)
。学習後は,延
べ 845 の項目があり,生徒一人当たり約 6.8 の項目
を書き出したことがわかる。事前調査から比較する
と一人当たり 1.5 増えていた。
5.おわりに
図5 放射線について知っていること
図5より,知っていることの項目は,
「放射線の基
礎的知識」と「放射線の利用」,
「放射線の防護」に
ついては,学習後の方が多くなっていることがわか
る。一方,
「放射線の影響」と「社会問題」,
「放射線
の測定」については,減少していることがわかる。
加えて,それぞれの回答には,具体例を用いた説
明が多く見られた。例えば,「放射線の基礎的知識」
では,
“自然にも放射線があり,一年で平均的に放射
線を浴びている”などである。
「放射線の利用」では,
“がんの治療などに用いられている”や“トイレッ
トペーパーの厚さを測定するときに放射線が使われ
ている”などであった。
次に,
「放射線について知りたいこと」に関する学
習前後の回答をまとめた(図6)。学習後は,述べ 133
の項目があがった。生徒一人当たりでは約 1.1 であ
り,学習前の一人当たり約 2.6 から減少している。
図6 放射線について知りたいこと
図6より,
「放射線の影響」と「放射線の基礎的知
識」,
「放射線の測定」
,
「放射線の利用」については,
学習後に項目数が減っていることがわかる。これは,
放射線に関するそれぞれの知識が,
「知っていること」
に移行したためであると考えられる。
98
今回の研究では,授業の中心に,①「放射線」
・
「放
射能」
・「放射性物質」についての正しい知識を身に
つけ,理解をすること,②「放射線の性質」につい
ての知識を身につけ,放射線の利用と影響について
理解することを据えた。観察や実験を行いながら,
生徒が知りたいことに沿って行った一連の授業によ
り,放射線の性質や放射線の利用,影響についての
基礎的な知識を生徒に獲得させることはある程度で
きたと考えられる。
放射線に関する知識の獲得によって,学習前にも
っていた“知識を知りたい”という生徒の興味・関
心は,複数の知識を互いにリンクさせなければ対処
が難しい社会問題へと視野が広がってきたこともわ
かった。今後は,社会問題を取り上げ,持続可能な
循環型社会構築のために科学的な根拠に基づいた判
断のために獲得した知識を使うスキルを生徒につけ
ることをめざした放射線教育カリキュラムを構想し
ていきたいと考えている。放射線教育を実施してい
く中で明らかになってきた新たな課題をもとにして,
附中の第3年次の取り組みとしての研究を進めたい。
付記
本研究の一部は,中国地域エネルギーフォーラム
による第1回中国地域エネルギー環境教育実践助成
の資金援助(研究代表者:高橋里美)によって行われ
ている。
参考文献
(1)佐々木敏紘他:「中学校理科における放射線を
扱う学習機会の可能性に関する検討」
,『仙台市科
学館研究報告』
,Vol.23,pp.31-37,2014
(2)別木政彦他:「放射線教育に対する教員の意識
調査と教材」,『島根大学教育臨床総合研究』,
Vol.12,pp.43-51,2013
(3)森健一郎・高橋里美他:「中学生の放射線に対す
る知識の地域差に関する調査」,
『日本エネルギー
環境教育学会第 8 回全国大会論文集』,pp.20-21,
2013
(4)文部科学省:『中学校学習指導要領解説理科編』,
2008,大日本図書
日本科学教育学会研究会研究報告
Vol.28 No.7(2014)
教育学部学生の理科学習指導案作成力の向上
-単元計画の分析・検討から-
Improvement of the Student's "Teaching Plan Making Skill"
- Analysis of the Unit Plan -
栢野彰秀
KAYANO, Akihide
島根大学教育学部
Shimane University
[要約]島根大学教育学部の学生が、理科学習指導案をどのような経路を辿って完成させ、かつ指導案作成
力を身につけていったかを明らかにするため、学生が作成した理科学習指導案における指導計画(単
元計画)の記述に分析・検討を加えた。
学生が作成した指導計画(単元計画)において、1時間の授業における時間配分や探究の流れとい
う単元全体にかかる課題から、各授業における予想やグラフの読み取り、実験計画という1時間の授
業に関連する課題に遷移していった。このことは、指導計画(単元計画)における1時間の授業を構
想する視点が、次第に緻密にかつ連続的になっていったと捉えられる。すなわち、単元を構成する各
時間の授業が次第につながっていくように指導案作成力が向上していったといえる。
[キーワード]理科
教員養成
学習指導案
単元計画
Ⅰ.はじめに
Ⅱ.研究の方法
2006年の中央教育審議会答申「今後の教員養成・免
1.調査対象となった学生と履修した科目
許制度の在り方について」では、教育実習のなお一層
模擬授業を行うための指導案を作成したのは、島根
の充実と、教育実習に臨む学生に対して一定の資質能
大学教育学部2年生14人である。これらの学生は、201
力が求められた(中央教育審議会2006)
。このことは、
3年度前期に筆者が講義する「理科教育法概説」を履
教育実習以前に設けられている教育学部の、とりわけ
修した後、後期に「理科教育臨床研究」を履修し、指
教科教育に関連する科目の重要性が指摘されていると
導案を作成し、模擬授業を行った。
「理科教育法概説」
いえる。教育実習以前に設けられている教科教育関連
では、1コマの授業時間を取って、小・中学校の理科
の科目は、一般的に次のように連続する。教科「理科」
指導案の書き方を学習している。
「理科教育臨床研究」
に限定すると、最初に「理科教育法」を履修する。こ
では、小・中学校の理科指導案の書き方を再度学習し
こで、理科教育の理論と実践を概括的に学ぶ。学習指
た後、1時間分の指導案を作成して模擬授業を行った
導案(以下、指導案と略)の書き方も含まれる。次い
後、授業検討会を持った。
で、模擬授業が実施される科目を履修する。ここで、
教育実習と同様に学生自らが授業を構想し、学習指導
2.理科指導案の作成の仕方
案を作成し、
授業の実施・改善というプロセスを学ぶ。
島根大学教育学部理科では、表1のような書式の指
理科教育の分野において、模擬授業を対象とした研
導案を作成するよう指導を加えている。
究は数多い。だが、学生が模擬授業を行うための指導
表1における「Ⅰ.小単元名」には、教科書に記載さ
案をどのような経路を辿って完成させていくのかとい
れた章名を書く。使用した教科書は、教育出版:『自
う報告は未だ行われていない。そこで本研究では、島
然の探究中学校理科1~3』(2010)及び、教育出版:『小
根大学教育学部の学生が、模擬授業を行うための理科
学理科3~6』(2010)である。
指導案をどのような経路を辿って完成させ、指導案作
「Ⅱ.(1)教材観」には、順にねらい,既習事項,学
成力を身につけていったかを事例的に報告することを
習内容を書く。ねらいには『中学校学習指導要領解説
目的とする。
理科編』(2009)及び、
『小学校学習指導要領解説理科
99
日本科学教育学会研究会研究報告
表1 指導案の書式
「Ⅴ.(2)準備物・資料」には、授業で必要な準備物
や資料等の名称と必要数を書く。
第○学年○組 理科学習指導案
「Ⅴ.(3)学習過程」には、1時間の授業の展開を書
○○○○年○月○日(○)第○校時
指導教員 ○○○○ 印
授業者
○○○○ 印
Ⅰ.小単元名
Ⅱ.基盤
(1) 教材観
(2) 生徒観
(3) 指導観
Ⅲ.小単元の目標
Ⅳ.指導計画
Vol.28 No.7(2014)
く。この時、①授業の各部分(導入、展開等)の所用時
間、②教師の働きかけと発問、③子どもの活動と予想
される子どもの考え、④支援と留意点、⑤評価につい
Ⅴ.本時の学習
(1) 目標
(2) 準備物・資料
(3) 学習過程
(4) ワークシート
(5) 板書計画
ての5点から授業展開を具体的に書く。特に発問につ
いては、子どもに語りかけるセリフとして書く。予想
される子どもの考えは、想定されるものを全て書く。
「Ⅴ.(4)ワークシート」には、授業や観察・実験の
際に子どもに配付するワークシートを載せる。
編』(2009)(以下、双方とも『解説』と略)中の記載
「Ⅴ.(5)板書計画」には、授業の際に行う板書計画
から、Ⅰに記述した章に相当するねらいを抜き出す。
を載せる。
既習事項には『解説』中の記載から、該当の章に相当
する既習事項を抜き出す。学習内容には『解説』中の
3.理科指導案を作成する過程の詳細
記載から、該当の章に相当する学習内容を抜き出す。
学期始めの2コマの授業のうち、1コマ半を使って、
ただし、
『解説』中にあるように「~などが考えられ
小・中学校の理科指導案の書き方を再度詳細に講義し
る。
」のような曖昧な表現にはしない。学生が模擬授
た。その後、模擬授業において担当する小単元と1時
業を行う時に使用したり、学習に取り入れる項目を具
間の授業部分を学生同士が話し合い、決定した。この
体的に記入する。
時、学生に対して示した条件は、
「エネルギー」また
「Ⅱ.(2)生徒観」については、学生を対象とした模
は「粒子」領域の観察・実験を伴う1時間(小学校は45
擬授業用の指導案なので空欄とする。
分、中学校は50分)の指導案を作成する点だけであっ
「Ⅱ.(3)指導観」には、1時間の模擬授業のねらい
た。その後、指導案を作成する猶予を与えるため、翌
や展開,使用教材,授業者の考え等を具体的に記入す
週の授業を延期した。そして、翌々週に締め切り日を
る。
設定して、
電子メールに指導案を添付して提出させた。
「Ⅲ.小単元の目標」には、教科書出版社のHPに掲
学生が分担した観察・実験を含む模擬授業の箇所を表
載されている「観点別評価基準表例」中の記載から、
2に示す。
該当の章を含む小単元に相当する評価基準の例を4観
表2より、小学校の指導案を作成した学生が5人、中
点全て抜き出し、行動目標の形で書き換え、記述する。
学校のそれを作成したのは9人であることが分かる。
ただし、十分満足する基準(A基準)か概ね満足する
担当箇所の指導案を筆者が学生一人ひとりに図1の
基準(B基準)かは、学生が判断する。
ような添削を加えて、
毎回の授業開始時に返却した後、
「Ⅳ.指導計画」には、該当の章の単元計画を書く。
スクリーンに拡大表示して全員に解説を加えた。授業
この時、教科書出版社のHPに掲載されている「年間学
時に解説が加えられなかったり、添削が授業に間にあ
習指導計画案」を参考にしながら、該当の章が何時間
わなかったときは後日手渡した。
扱いになっているかをまず先に調べる。その後、学習
これまでに述べたように、指導案の作成→提出→添
内容を最大、標準時間数+1回の範囲内で授業を割り
削→返却→指導案の作成という繰り返しを指導案完成
ふる。その後、毎回の授業計画を教科書に記載された
まで行った。指導案が完成した学生から、2週間の予
探究の流れに沿って簡潔に記述する。筆者及び教育実
備実験のための猶予期間を経て、模擬授業を行った。
習指導を担当する附属学校教員はこの点を重要視して
模擬授業を行った後は、授業検討会を行なった。従っ
いる。教育実習において授業を行う際、学生が行う授
て、1コマ90分の授業時間のうち模擬授業が45分ない
業が該当の単元や章の中にどのように位置づけられて
し50分、授業検討会が45分ないし40分行われたことに
いるかを明確にした後、授業を行ってほしいからであ
なる。
る。
なお、指導案の作成から模擬授業を行うまでの一連
「Ⅴ.(1)目標」には、模擬授業を行う1時間の授業
の授業は19コマ行っている。うち、16コマは2単位の
の目標を行動目標で書く。
1つの文に1つの目標を書く。
単位認定を行う「理科教育臨床研究」の授業15コマと
観察・実験のスキルに関する目標は必ず含む。
期末試験1コマ分である。残る3コマの授業は、島根大
100
日本科学教育学会研究会研究報告
表2
学生
番号
学
年
担当箇所一覧
小6 5種類の水溶液は、リトマス紙の色をどのように
変えるのだろうか。
2
中1 ばねに働く力の大きさが変わると、ばねののび
はどのように変わるのだろうか。
3
小6 窒素,酸素,二酸化炭素のうち、どの気体にも
のを燃やすはたらきがあるのだろうか。
4
小4 水は、どのようにあたたまるのだろうか。
5
中3 位置エネルギーの大きさは物体の何と関係して
いるのだろうか。
6
中2 導線や磁石を動かして、電流を発生させること
はできないだろうか。
7
中2 電圧と電流の間には、どのような関係があるの
だろうか。
8
小3 どんなものが電気を通すのだろうか。
9
中2 電流は回路をどのように流れているのだろうか。
10
小5 ミョウバンをたくさんとかすには、どうしたら
よいのだろうか。
11
中2 磁界の中で導線に電流を流すと、導線にはどの
ように力がはたらくのだろうか。
12
中3 物体にはたらく力と、運動している物体の速さ
との間には、どのような関係があるのだろうか。
13
中1 物質が水にとけるとは、どのようなことなのだ
ろうか。また、物質が水にとけると、物質はど
うなるのだろうか。
14
実験法」において模擬授業を実施する予定になってい
る。
担当箇所の学習課題
1
Vol.28 No.7(2014)
Ⅲ.学生が作成した指導案の分析・検討
1.全体的傾向の分析・検討
表3に、全体的傾向を検討するための集計表を示し
た。
表3
回数
提出数
Ⅰ
Ⅱ.(1)
Ⅱ.(3)
Ⅲ
Ⅳ
Ⅴ.(1)
Ⅴ.(2)
Ⅴ.(3)
Ⅴ.(4)
Ⅴ.(5)
1
14
1
14
14
10
14
14
12
14
14
14
2
14
0
13
14
4
14
14
9
14
14
13
全体的傾向を示す集計表
3
14
0
5
12
4
13
12
7
14
13
13
4 5 6
13 13 11
0 0 0
5 2 1
12 7 3
2 2 0
12 8 7
9 6 4
4 3 1
13 13 11
10 10 5
9 9 5
7
6
0
1
1
0
4
2
0
5
2
4
8
4
0
1
1
0
1
1
0
4
1
4
9
3
0
1
1
0
1
0
0
3
1
1
10 11 12
2 1 1
0 0 0
1 1 0
1 1 0
0 0 0
1 1 1
0 0 0
0 0 0
2 1 0
1 1 0
1 1 0
表3中の「回数」及び「提出数」とは、指導案完成
までに要した提出回数とそれぞれの回数における提出
数が示されている。表3では、回数3の時の提出数が14
であったが、回数4では提出数が1減少して13になって
いる。このことは、提出回数3回目において1人の学生
中1 2種類の像は、それぞれどんなときに見えるだろ
うか。
の指導案が完成したことを示す。表3から、学生一人
当たりの提出回数の平均値は6.9回であった。また表3
より、提出回数の最頻値は6回であり、5人である。こ
れらのことより、早い学生(1人)は3度目の指導案提
出で完成できた。しかし、多くの学生(5人)は完成
までに6回指導案を提出し、最も遅くなった学生(1人)
は12回指導案を提出したことが分かる。
表3中に「Ⅰ」や「Ⅴ.(1)」のようにローマ数字等
で示されているのは、表1における学習指導案の書式
中の記載事項を示すローマ数字等と一致する。その欄
の横の行に書かれている数値は、筆者から加筆・修正
を要すと添削された学生数である。すなわち、Ⅱ.(3)
を示す横の行と提出回数2回目を示す縦の列の交点の
数値は14である。このことは、指導案を提出した14人
全員が筆者から該当の箇所の記述に加筆・修正等を要
すると添削が加えられたということである。
図1 添削を加えた指導案の例
表3全体を俯瞰してみると、
1回目の提出時には、
「Ⅰ.
小単元名」以外は、ほとんどの学生が筆者から該当の
学教育学部独自の制度である「実習Ⅱ」における時間
箇所の記述に加筆・修正を要すると判断された添削指
認定分に振り分けた。
導案が返却されたことが分かる。その他、
「Ⅰ.小単元
14人の学生のうち、実際に模擬授業を行ったのは7
名」,「Ⅱ.(1)教材観」,「Ⅲ.小単元の目標」欄の横
人であった。表2における学生番号1~7に相当する。
の行に記入された数値の変化からは、これらの項目に
残る7人は、続く第3学年前期の科目「理科教育観察・
ついては比較的早い提出回数で、記述内容が決定でき
101
日本科学教育学会研究会研究報告
Vol.28 No.7(2014)
ていることが分かる。学生が指導案を作成する上で、
残る8人についても、そのうち1人が導入→展開→まと
苦戦しているのは、提出数と同じ程度の数値が書き込
めという流れでまとめていた。7人は、学習項目を具
まれた「Ⅱ.(3)指導観」,「Ⅴ.(3)学習過程」,「Ⅳ.
体的に書いているだけであった。すなわち、14人全員
指導計画」であることが分かる。
が教科書に記載された探究の流れが各時間の指導計画
に書かれていないということである。そこで、14人全
2.
「Ⅳ.指導計画」の分析・検討
員に、課題(はてな)→観察・実験→結果→結論とい
本来ならば、表3に示されたⅠ~Ⅴ.(5)それぞれの
う教科書に記載された探究の流れを明確にするような
項目について検討を加えなければならない。しかし本
添削を行った。
稿では紙幅の都合により、
「Ⅳ.指導計画」のみに分析
このことから、教科書に記載された探究の流れを不
・検討を加えた結果を報告する。
明確に学生が捉えている点が明らかになった。この点
表3において、筆者から添削を受けた数は、14→14
を少しでも克服するため、今後は、大学における講義
→13→12→8→7→4→1→1→1→1→1と変化している。
や教育実習における授業観察の場において、何度も繰
り返してこの点を意識させたり観察させたりして、学
(1)1回目の提出時における傾向の分析・検討
生に意識を持たせたい。
1回目の提出時の14の内訳を調査した。
3)その他
1)小単元の授業のふりわけ
その他、
添削を加えた主な内容は下記の通りである。
小単元の学習時間の標準時数に基づいて、授業をど
①石灰水や気体検知管を使って、木を燃やす前後の空
のようにふりわけしようとしているかを検討した。す
気を調べる実験結果を考えさせて、空気中の酸素の一
ると、14人全員が教科書出版社のHPに掲載されている
部が使われることを結論とする授業を行わなくてはな
「年間学習指導計画案」を参考にしながら、小単元の
らない。しかし「ものを燃やす前と、燃やした後では、
学習時間の標準時数に基づいて授業をふりわけてい
空気の中の酸素が減っているということを確認する。
」
「こ
た。しかし、毎回の授業時間の流れを見ていると、
のように、今日の授業の結論を既に子どもが知ってい
れだけで1時間の授業をする?」と筆者から添削され
る前提で授業を行うような記述が見られた(3人)
。②
たのが6人、
「これ全部を1時間の授業でできるの?」
教科書に記載されていない科学的用語を使用している
と添削されたのが3人であった。6人は、学習項目のみ
(2人)
。③教科書に記載されている学習課題を大きく
を記述していたので、筆者が毎回の授業の流れを推し
変更して記述している(3人)などである。
量ることができなかった。
このことから、始めて指導案を提出した段階では小
(2)2回目の提出時における傾向の分析・検討
単元全体の単元計画、すなわち授業時間のふりわけに
2回目の提出時においても、筆者は14人全員に添削
不充分な点が見られることが明らかになった。初めて
を加えている。これらの内訳を調査した。
単元の授業を構想するのであるから、不充分な点が多
いのは予想通りである。この点を少しでも克服するた
1)小単元の授業のふりわけ
めに、今後は、各章における学習内容のまとまりと標
1回目の提出時において14人全員が筆者から指摘さ
準配当時間を熟考して授業時間のふりわけを決めるよ
れた授業のふりわけについては、3人減少して11人が
うな指導を加えたい。加えて、小・中学校での授業の
筆者から添削を受けた。
場面において多くの時間を要する観察・実験や観察・
1時間分の学習内容の量が多く、筆者から1時間の授
実験結果に基づくグラフの作成を大学における講義・
業では無理ではないかと添削を受けたのは2人であっ
演習において実体験させ、教師(大学生)がそれらを行
た。そのうちの1人は、実験に時間を費やすと想定さ
うために要する時間と小学生・中学生が要する時間は
れる実験だけでなく、実験結果を分析・解釈させるよ
大きく異なることを実感を持って理解させたい。
うな学習展開も加えて計画していた。他の1人は、章
の導入部分において、既習事項から子どもの生活と関
2)毎回の授業展開
連させて学習課題を見つけさせ、さらに導入のための
指導計画に記述された毎回の授業展開が、教科書に
演示など、盛りだくさんの導入を行っていた。
記載された探究の流れに沿っているかを検討した。も
1時間分の学習内容の量が少なく、筆者から授業時
ちろん学習項目のみを記述した6人には見られない。
間が余ると添削されたのは5人であった。このうち4人
102
日本科学教育学会研究会研究報告
Vol.28 No.7(2014)
に共通する点は、既習事項を使って自然界で起こる現
る。
「予想」という思考活動は、理科における問題解
象を説明するような授業に時間を多く配当していた。
決の重要なスキルのうちの一つである。今後は、この
例えば、光の屈折の学習の後、屈折による像がなぜず
用語の定義を前に履修する科目の講義において、正確
れて見えるのかに加え、全反射を説明する学習内容で
に教えたい。
あった。残る1人は、実験結果の分析・解釈に過剰な
その他、教科書に記載されているとおりに、これか
時間を配当していた。
ら行う観察や実験の結果を予想はさせている。
しかし、
提出1回目よりも具体的な記述にはなっているが、
教科書には「自分の予想と実験結果を比べて」という
未だ学習項目を書きだして筆者が学習内容を推し量る
記載があるにもかかわらず、観察や実験結果と予想が
ことができなかったのも依然5人いた。
同じであったか異なっていたかを比較させるような子
どもの活動を示す記述が見られないという特徴が3人
2)毎回の授業展開
に見られた。
1回目の提出時において、14人全員に、課題(はて
この点に関しては、これまで学生が受けてきた理科
な)→観察・実験→結果→結論という教科書に記載さ
授業や大学へ入学した後のに教育実習における授業観
れた探究の流れを明確にするように添削を行ったが、
察の場面において、子どもに予想させる場面を思い出
12人が再度添削を受けた。
したり見たりして、授業の形式だけを取り入れたので
このうち8人は、一部または多くの箇所において、
あると思われる。この点の課題の解決のためには、観
学習課題であるはてなが記述されていないかまたは明
察や実験結果を予想させることで、見通しを持った観
確ではないという共通した特徴があった。その他の2
察・実験が可能となることに加え、予想と観察や実験
名は、導入→展開→まとめの流れで1時間の授業の流
結果を子どもに比較させ、検討させるのは、子どもの
れを記述していた。残る2名は、未だ、学習項目のみ
頭の中で予想と結果を内省させることであることを、
を記述していた。
授業において講義する。
これまでのことから、学生なりに課題(はてな)→
二つ目は、独立変数と従属変数が比例関係にあるこ
観察・実験→結果→結論という教科書に記載された探
とをグラフから子どもに読み取らせる時の授業の流れ
究の過程を授業で行おうと考えて単元計画を行ってい
が明確ではない点である。2人の学生がこのような授
ることが分かる。しかし、それが単元計画全てで見ら
業展開を記述していた。例えば、電熱線にかかる電圧
れない。理科授業では探究の流れに沿った授業が必要
と流れる電流の大きさとの関係を調べる実験を行い、
であるということは頭では分かっているが、実際の場
電熱線にかかる電圧を独立変数、流れる電流の大きさ
面を想定するときに未だそのことが忘れられることが
を従属変数としたグラフを書き、そのグラフから電熱
少なからずあるのではないかと思われる。この点を克
線を流れる電流の大きさはかかる電圧に比例している
服するためには、大学における講義や教育実習におけ
ことを捉えさせようとする場面である。ここの授業展
る授業観察の場において、何度も繰り返してこの点を
開に「電熱線aとbに流れる電流の大きさは、どちら
意識させたり観察させたりする取り組みが必要であ
も電熱線にかかる電圧に比例していることをグラフか
る。
ら捉えさせる。
」と記述しているのである。ばねを引
く力の大きさとばねののびをグラフから捉えさせる場
面では、
「実験結果から、ばねののびは、ばねを引く
3)その他
1回目の提出時より、単元計画が具体的に記述され
力の大きさに比例して変化していくことを見いださせ
るようになったため、その他にもいくつか課題が見ら
る。
」と記述している。ここの所に添削を加えるとと
れるようになった。
もに、口頭にて調査を行った。2人ともグラフがまっ
そのうちの一つは、
「予想」という用語の使い方で
すぐだから比例していると回答した。この2名の学生
ある。
「予想」という用語は、これから起こることを
の考えでグラフを分析・解釈させるのは、誤りとはい
考えることである。すなわち、
「これから行う観察や
いきれないが妥当ともいえない。この場面でのグラフ
実験の結果を考える」という文脈で使用しなければな
の解釈は次の2つの段階を踏んだ上、書いたグラフの
らない(Science,2006)。ある学生は「豆電球に明か
独立変数と従属変数が比例しているという解釈をさせ
りがつくつなぎ方を予想する。
」という文脈で使用し
なければならない。ア)比例のグラフは0を通る右上が
ていた。これは、豆電球に明かりがつくつなぎ方、す
りの一直線のグラフになる。イ)この時、どこをとって
なわちこれから行う実験方法を考えさせているのであ
も電熱線にかかる電圧の変化に対応して、流れる電流
103
日本科学教育学会研究会研究報告
Vol.28 No.7(2014)
の変化も一定であること。すなわち、折れ線グラフと
験を全て記述していなかった。この点についても、こ
ちがって直線上のどの点をとっても、対応する電圧と
れから行う観察・実験を頭の中で想定しながら単元計
電流の値があるということ。
画を立てているからであると考えられる。この点の課
この点に関しては、これまで学生が受けてきた理科
題の克服のためには、予備実験を行いながら指導案が
授業で教えられたように教えようとしているのである
作成できるような時間を学生に保証したい。
と思われる。この点の課題の解決のためには、今後は、
グラフの比例関係について、算数・数学の視点からも
Ⅳ.おわりに
この概念を前に履修する科目の講義において、正確に
島根大学教育学部の学生は、まず最初に次の2点に
講義したい。
ついて筆者から添削を加えられながら理科学習指導案
における単元計画を完成させていったといえる。①1
(3)3回目以降の提出時における傾向の検討
時間分の学習内容の量が、多かったり少なかったりす
表3より、3回目以降の提出時に筆者から添削を受け
るような1時間の授業の時間配分。②教科書に記載さ
た数は、13→12→8→7→4→1→1→1→1→1と変化して
れた探究の流れに沿うような授業が必要であることは
いることが分かる。3回目以降の提出時における筆者
分かっているが、単元計画において各観察・実験に伴
からの添削内容を調査したところ、これまでに指摘し
う授業の流れを考えるときに、そのことが忘れられる
た諸点(各授業の時間配分、1時間の授業における探
ことが少なからずある。
究の流れ、今日の授業の結論を既に子どもが知ってい
次いで、単元計画が次第に具体的に記述されるよう
る前提で授業を行う、
「予想」という用語の使い方、
になると、次の4点について筆者から指摘された課題
比例関係をグラフから読み取る手続き、数式として抽
を解決しながら単元計画を完成させていったといえ
象的に表された式を公式と一括りにしている)は依然
る。①「予想」という用語の使い方。②授業中に「予
として、筆者から少なからず添削を加えられていた。
想」させた後の学習展開。③比例関係を表すグラフの
読み取り。④実験計画の妥当性。
その他、実験計画に課題を有す(2人)が目立った
傾向であった。そのうちの1人は、台車にはたらく力
すなわち、1時間の授業における時間配分や探究の
の大きさと速さの関係を調べる実験の際の実験計画で
流れという単元全体にかかわる課題から、各授業にお
あった。この実験は、斜面の角度を変えて調べる。こ
ける予想やグラフの読み取り、実験計画という1時間
の角度を20°と30°と決め、この角度を正確に調節す
の授業に関連する課題に収束していった。
このことは、
るため、コピー用紙を何枚か出し入れするような実験
単元計画における1時間の授業を構想する視点が、次
計画を立てていた。この点について筆者は、本実験は
第に緻密にかつ連続的になっていったと捉えられる。
台車が転がる斜面の角度の違いによる力の大きさと速
すなわち、単元を構成する各時間の授業が、次第につ
さの関係を調べればよいのであって、異なる角度を正
ながっていくように学習指導案作成力が向上していっ
確に表現した上での実験が必要か否かを問うような添
たといえる。
削を加えた。この点については、次の2点が関係して
しかし本稿では、学習指導案に記載された指導計画
いると考えられる。①本講義では、指導案を作成した
(単元計画)に分析・検討を加えただけである。今後
後予備実験を行って、模擬授業するような流れになっ
は、学習指導案に記載された本時の学習にも分析・検
ている。そのため、観察・実験を頭の中で想定しなが
討を加え、学生の理科学習指導案作成力の向上を考察
ら単元計画を立てなければならない。②中学校の観察
し、教員養成段階における学習指導案作成のための講
・実験や学習内容は、小学校のそれに比べて定量的な
義の示唆を得たい。
扱いが増える。定量的な扱いが必要な箇所と、定性的
な扱いでよい箇所との見極めが学生にとって難しい。
参考文献
この点の課題の解決のためには、特に観察や実験の予
中央教育審議会(2006),「今後の教員養成・免許制度
備実験の際に、定量的な扱いが必要なのか、定性的な
の在り方について」.(http://www.mext.go.jp/b_men
扱いでよいのかについて、個別に詳細な指導を加える
u/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/1212707.htm、201
とともに、指導案の解説時において全体に指導を加え
4年2月24日確認)
たい。
残る1名は、光学台を使った凸レンズによってでき
る像を調べる実験において、行わなければならない実
104
日本科学教育学会研究会研究報告
Vol.28 No.7(2014)
数学科教員志望者を対象としたゆとり教育に関する意識調査について
A Survey on Pre-service Teachers’ View of “Yutori”
野見山真弥
御園真史
NOMIYAMA,Maya
MISONO,Tadashi
島根大学
Shimane University
[要約]本研究では,数学の教員志望者を対象に,
「ゆとり教育」に関する質問紙調査を行った。調査対象の
学生は概ね小・中・高で学んだ算数・数学の学習内容の量や難易度については満足しているが,ゆとり世代
だと言われることに約 4 割の学生は抵抗があり,自分が学んだ学習指導要領で教わらなかったことを教える
ことについて不安を感じる学生も少なからず存在することがわかった。また,
「ゆとり教育」についての説明
をさせたところ,約 7 割の学生が単に「学習内容の削減」について記述をしており,当時の学習指導要領の
意図が理解されていないようだった。
[キーワード]ゆとり教育,学習指導要領改訂,PIAAC
1. はじめに
現在の 1 つ前の 1998 年告示の学習指導要領では,
教育課程審議会(1996 年)が示した,次の方針に基
切である」
(文部科学省,2008)と解説されている。
このような学習指導要領の改訂によって,授業時
づき教育課程の基準を改訂することを提言した。
数や指導内容が増加した。中学校の数学では,統計
①豊かな人間性や社会性,国際社会に生きる日本
や確率を指導する「資料の活用」が新設されたり,
人としての自覚を育成すること
高校の内容であった解の公式を用いた二次方程式の
②自ら学び,自ら考える力を育成すること
解法などが前倒しされた。現在教員を目指して教職
③ゆとりある教育活動を展開する中で,基礎・基
課程を履修している学生は前学習指導要領(2002 年
本の確実な定着を図り,個性を生かす教育を充
改訂)により教育を受けてきた。したがって,実際
実すること
に教職についた際に前学習指導要領で教わらなかっ
④各学校が創意工夫を生かし特色ある教育,特色
たことを教える必要がある。
ある学校づくりを進めること
ゆとり教育に関する先行調査としては,東京広告
これらのねらいに基づき,教育課程の編成,授業
協会(2013)では,大学生のゆとり教育に関する意
時数,各教科等の内容の改善方針が示された。
識調査を行っており,ゆとり教育の自覚や抵抗の有
一方,現行の学習指導要領は,
「子どもたちの現状
無で「真性ゆとり層」,
「あせり層」,
「きっちり層」,
をふまえ,引き続き『生きる力』を育むという理念
「つっぱしり層」と判断している。しかし,ゆとり
のもと,知識や技能の習得とともに思考力・判断力・
教育をどのように理解した上で回答しているかは明
表現力の育成を重視する」
(文部科学省,2008)と解
らかではない。
説されている。また,
「これからの教育は,
『ゆとり』
そこで,教職課程を履修し,将来数学の教員を目
でも,
『詰め込み』でもない。次代を担う子どもたち
指す学生が,現時点でゆとり教育に対してどのよう
が,これからの社会において必要となる『生きる力』
な意識をもっているかという点について調査を行う
を育むためには,学校だけではなく,家庭や地域な
こととした。
ど社会全体で子どもたちの教育に取り組むことが大
105
日本科学教育学会研究会研究報告
2. 本研究の目的
Vol.28 No.7(2014)
調査時点での教員志望状況を尋ねている。
本研究の目的は,数学の教員を目指そうとしてい
質問 2~7 は,ゆとり教育の認知度やゆとり世代だ
る学生がゆとり教育に対してどのような意識を持っ
と言われた経験をみる項目である。
ているかについて質問紙を用いて明らかにすること
質問 8~11 は,自身が学んだ学修指導要領におけ
である。
る学習内容の量や難易度についての考えを知る項目
である。
3. 本研究の方法
質問 12 は,学力が高い世代についての認識を尋ね
1)質問紙の開発
る項目であり,OECD による国際成人力調査(PIAAC)
質問紙は,
「ゆとり教育に関する意識調査アンケー
の調査結果の概要(国立教育政策研究所,2013)に
ト」である。このアンケートは,独自に作成したも
掲載されている数的思考力と年齢の関係との分析に
のであり,選択式 11 項目と記述式 3 項目の計 14 項
用いられた同じ世代区分を選択肢とした。
目なる。各項目の内容を表 1 に示す。
質問 13 は,将来についてどのように考えているか
以下に,各質問の意図を示す。質問 1 は,本調査
を知る項目である。
委対象者の特性を把握するために設定した項目で,
表1
質問 1
質問 2
質問 3
質問 4
質問 5
質問 6
質問 7
質問 8
質問 9
質問 10
質問 11
質問 14 は,社会に通用する自信をみる項目である。
ゆとり教育に関する意識調査アンケートの内容
現在あなたは教師になりたいと考えていますか。
①
あまりなりたくない
②なりたくない
③迷っている
④なりたい
⑤とてもなりたい
「ゆとり教育」という言葉を知っていますか。
①
知らない
②あまり知らない
③やや知っている
④知っている
「ゆとり教育」について説明してください。
あなたは「ゆとり世代」だと言われた経験がありますか。
①
ない
②ある
質問 4 で①と答えた人に聞きます。それはどのような場面で言われましたか。
質問 4 で①と答えた人に聞きます。あなたは「ゆとり世代」だと言われることに抵抗がありますか。
①抵抗がある
②やや抵抗がある
③あまり抵抗がない
④抵抗がない
「ゆとり世代」や「ゆとり教育」と言う人はその意味を理解して使っていると思いますか。
①
そう思わない
②あまりそう思わない
③ややそう思う
④そう思う
あなたが小・中・高で学んだ算数・数学の学習指導要領についてどのように感じますか。
①
良くなかった
②あまり良くなかった
③やや良かった
④良かった
質問 8 のように答えた理由を書いてください。
あなたが小・中・高で学んだ算数・数学の学習内容の量についてどのように感じますか。
①
少なかった
②やや少なかった
③ちょうど良かった
④やや多かった
⑤多かった
あなたが小・中・高で学んだ算数・数学の難易度についてどのように感じますか。
①
難しかった
②やや難しかった
③やや易しかった
④易しかった
次の中でどの世代が最も学力が高いと思いますか。
質問 12
質問 13
質問 14
①16~19 歳
②20~24 歳
③25~29 歳
④30~34 歳
⑤35~39 歳
⑥40~44 歳
⑦45~49 歳
⑧50~54 歳
⑨55~59 歳
⑩60~65 歳
あなたは自分が学んだ学習指導要領で教わらなかったことを教えることについて不安を感じますか。
①
不安を感じる
②やや不安を感じる
③あまり不安を感じない
④不安を感じない
卒業後,社会に通用する自信はありますか。
①
自信がない
②あまり自信がない
③やや自信がある
106
④自信がある
日本科学教育学会研究会研究報告
2)調査の実施
Vol.28 No.7(2014)
1)ゆとり教育の認知度
地方国立 S 大学の教職専門科目である数学科教育
まず,質問 2「
『ゆとり教育』という言葉を知って
法を履修している学生に対して質問紙により調査を
いますか」に対し,肯定的な回答をした学生が,96%
行った。この調査の協力者には,教員養成系学部の
にのぼった。また,質問 4「あなたは『ゆとり世代』
学生と理工系学部の学生が含まれ,教員養成系学部
だと言われた経験がありますか」に対しても,肯定
16 名,理工系学部 37 名の計 53 名が回答した。この
的な回答をした学生が,77%であった。一方,質問
質問紙は,2014 年 5 月 9 日に実施したが,調査結果
6「質問 4 で①と答えた人に聞きます。あなたは『ゆ
に授業の影響はないものと考えられる。
とり世代』だと言われることに抵抗がありますか」
と質問 7「『ゆとり世代』や『ゆとり教育』と言う人
3)分析方法
はその意味を理解して使っていると思いますか」は
選択式の 11 項目については,選択した割合につい
肯定的な回答をしている学生は 4 割程度(それぞれ,
て考察する。さらに,質問 12 は,OECD の国際成人
49%,38%)であった。
力調査(PIAAC,2013)の調査結果の概要の数的思
質問 4 に関連して,質問 5 のゆとり世代だと言わ
考力と年齢の関係のグラフと比較する。
れた場面としては,
「授業中に先生から」,
「バイト中
また,質問 3 と質問 9 の分析は,文意によってカ
に目上の人から」、
「成績が悪かったときに親から」,
テゴリ化し,その頻度をカウントし,その学部別の
「知らないことやできないことがあったときに」,
内訳も示した。なお,1 人が複数のカテゴリにまた
「雑誌やテレビで間接的に」などの記述が多かった。
がる内容を書いた場合は,それぞれカウントし延べ
以上のことから,
「ゆとり教育」という言葉を,ほ
数で示した。
とんどの調査対象者は,知っていることがわかった。
また,多くの調査対象者は学生がゆとり世代だと
4. 本研究の結果と考察
言われたことがあるが,それに対して抵抗がある学
選択式の 11 項目の結果を図 1 に示す。
0%
20%
質問 1
12
質問 2
11
40%
6
60%
15
10
1 5
質問11
1
質問13
図1
やや肯定的
肯定的
8
17
30
3
13
42
2 3
32
18
20
22
2
どちらでもない
12
29
質問10
やや否定的
41
4
質問 8
否定的
38
6
質問 7
100%
21
12
質問 6
80%
23
13
質問 4
質問14
生は 21 人であり,回答者数の約 40%であった。
31
2
7
12
4
※質問1と質問10は
それぞれ,
「迷っている」と
「ちょうど良かった」
の選択肢を含む5件
法
それ以外は4件法
8
「ゆとり教育に関する意識調査アンケート」質問紙における各選択肢の分布状況
107
日本科学教育学会研究会研究報告
2)自身が学んだ指導要領についての評価
Vol.28 No.7(2014)
一方,質問 11 の自分が学んだ学習指導要領の難易
まず,質問 8 の自分が学んだ学習指導要領につい
度については,やや易しかったと回答をした学生が
ての項目に対し,肯定的な回答をした学生が,81%
60%であった。
にのぼった。
以上のことから,本調査対象となった数学の教員
質問 9 では,質問 8 のように答えた理由について
を目指す学生は,自身が小・中・高で学んだ算数・
尋ねた。この結果,
「きちんと学べた」,
「ちょうど良
数学のカリキュラムや学習内容の量は満足している
かった」,
「比べることができない」,
「楽に学べた」,
ことがわかった。しかし,内容的にはやや易しいと
「もっと学びたかった」の 5 カテゴリに分類できた
感じていることがわかった。
(表2)
。
最も多くの記述があったのが,「きちんと学べた」
3)学力と年齢の関係
についての記述で,27 件であり,回答者数の約 2
質問 12 の結果と,PIAAC における日本の年代別
分の 1 であった。自身が小・中・高で学んだ算数・
数的思考力の結果(国立教育政策研究所,2013)を
数学について満足しており,発展問題などを作るこ
合わせて図 2 に示した。質問 12 の結果では,16~19
となどで数学の内容をしっかり学ぶことができて良
歳の回答数が最も高く(17 名,32%)
,20~24 歳の
かったという意識を持っている学生がそれなりにい
回答数が次いで高くなっている(9 名,17%)
。しか
ることがわかる。一方で,
「比べることができない」
し,PIAAC の調査結果では,25~29 歳が最も高く,
に属する回答も 9 件あり,次いで多かった。
35~39 歳が次いで高くなっている。
また,
「もっと学びたかった」のカテゴリに分類さ
以上のことから,PIAAC の調査結果と質問 12 の
れる学生も存在している。自身が小・中・高で学ん
回答結果を比較すると,PIAAC の調査結果は,30
だ算数・数学について満足しておらず,もっと多く
歳前後でピークに達した後,徐々に低下しているが,
のことを学びたかったという学生もいた。
本調査における質問 12 の回答結果では,PIAAC の
また,質問 10 の自分が学んだ学習指導要領におけ
結果とは相反するような分布となっており,各世代
る学習内容の量についての項目に対しても,ちょう
のもつ実際の学力と,学生のもつイメージの間には
ど良かったと回答をした学生が 79%であった。
剥離がある可能性があることが明らかになった。
表2
質問 8
質問 9
記述例
きちんと
発展内容を作ることにより,従来通りの教育も場面に応じて出来たから
数学の内容がしっかりと理解できたから
ちょうど
難度もスピードも自分にちょうど良かったから
良かった
自分の学習ペースに合っていてちょうど良かったから
比べることが
できない
楽に
否定的
合計人数
カテゴリ
学べた
肯定的
質問 9 の結果
6(11%)
自分が学んだ学習指導要領しか知らないから
他に比較できないので何ともいえないから
9(17%)
楽だったから
2( 6%)
学べた
楽できで良かったから
もっと
高校の文系でも数ⅢC をやりたかったから
学びたかった
27(51%)
もっと深い内容やはば広い知識を学びたかったから
108
8(15%)
日本科学教育学会研究会研究報告
P
I
A
A
C
の
ス
コ
ア
305
300
295
290
285
280
275
270
265
260
255
250
298.8
17
296
298
295.1
292 290.9
289.3
282
275.3
267.8
9
7
5
4
1
4
1
5
0
18
16
14
12
10
8
6
4
2
0
Vol.28 No.7(2014)
本
調
査
で
の
選
択
肢
回答人数
世代別得点
16-19 20-24 26-29 30-34 36-39 40-44 46-49 50-54 56-59 60-65
世代
※PIAAC のデータは国立教育政策研究所(2013)による
図2
質問 12 の結果と PIAAC の数的思考力と年齢の関係
4)将来に対する不安
留まった。このことは,本調査対象の学生は,必ず
まず,質問 13 の自分が学んだ学習指導要領で教わ
しも自尊感情が低いわけではないことを示唆してい
らなかったことを教えることについての不安を尋ね
ると考えられる。
る項目に対し,肯定的な回答をした学生が 38%であ
った。このことから,本調査対象となった数学の教
5)ゆとり教育についての理解
員を目指す学生は,自分が学んだ学習指導要領で教
質問 3 では,
「学習内容の削減」,
「授業時数の削減」
,
わらなかったことを教えることについて不安を感じ
「完全学校週5日制」
,
「総合的な学習の時間の新設」,
る学生も少なからず存在することがわかった。
「絶対評価の導入」,
「詰め込み教育の脱却」の 6 カ
一方,質問 14 の社会に通用する自信の項目に対し,
テゴリに分類できた(表3)。
肯定的な回答をしている学生は 2 割程度(21%)に
表3
ゆとり教育についての説明
カテゴリ
学習内容
の削減
授業時数
の削減
記述例
学習内容がゆとり教育の前の時より少ない教育
文部科学省が行った,学習指導要領域の削減のこと
授業数が減って,最低限のことしか教えない教育
週休 2 日で残りの 5 日間で授業を行う教育
週5日制
週 5 日制という制度を教育に設けた教育
総合的な学習
総合的な学習の時間などを通して生きる力を身に付けることを目標とした教育
の時間の新設
総合的な学習の時間をつくり,勉強以外の事を学べるようにした取りくみ
絶対評価の導
成績の評価が絶対評価になった
6(11%)
12(23%)
4( 8%)
1( 2%)
入
の脱却
37(70%)
授業数が以前に比べて少ない教育
完全学校
詰め込み教育
合計人数
学業つめこみ型を止めて「生きる力」を育むために行われた教育改革のこと
従来の「つめこみ教育」が脱却したゆとりある学習課程のこと
109
16(11%)
日本科学教育学会研究会研究報告
Vol.28 No.7(2014)
この結果,最も多くの記述があったのが,
「学習内容
だ算数・数学の学習内容の量や難易度については満
の削減」についての記述で,37 件であり,回答者数
足していた。
の約 10 分 7 であった。ゆとり教育が学習内容を減ら
一方,自分が学んだ学習指導要領で教わらなかっ
した教育だという考えを持っている学生がそれなり
たことを教えることについて不安を感じる学生も少
にいるが,当時の学習指導要領の意図が理解されて
なからず存在することがわかった。これに如何にフ
いないことがわかる。一方で,
「完全学校週 5 日制」
ォローするか検討必要があるだろう。
に属する回答も 12 件あり,次いで多かった。
6.今後の課題
また,
「授業時数の削減」,
「総合的な学習の時間の
新設」
,「詰め込み教育の脱却」のカテゴリに分類さ
本研究では,
「ゆとり教育に関する意識調査アンケ
れる学生も存在しているが,
「絶対評価の導入」に属
ート」の結果を紹介したが,それぞれを関連させた
する回答は 1 件だった。
分析,すなわち,ゆとり世代だと言われることへの
質問 2 で 96%の学生がゆとり教育という言葉を知
抵抗感の違いにより将来に対する不安や自信が異な
っていると答えたにも関わらず,ゆとり教育につい
るかなどについては未分析であるので,さらに分析
てきちんと説明できていた学生はほとんどいなかこ
を進めていきたい。
とがわかった。すなわち,ゆとり教育について理解
がなされていないのにも関わらず,ゆとり世代だと
引用文献
言われることに抵抗がある学生が 21 名(40%)いる
1)文部省(1999)
『中学校学習指導要領解説
ことになる。
数学
編』
,大阪書籍株式会社
2)文部科学省(2008)
『中学校学習指導要領解説
5.本研究のまとめ
総
則編』,ぎょうせい
3)東京広告協会(2013)
『大学生のゆとり教育に関
本研究では,
「ゆとり教育に関する意識調査アンケ
ート」を実施した.この結果から,ゆとり教育とい
する意識調査』
4)国立教育政策研究所(2013)
『国際成人力調査の
う言葉を知っていても,きちんと説明できる学生が
ほとんどいない。また,多く学生がゆとり世代だと
調査結果の概要』
言われたことがあるが,抵抗がある学生は 21 人であ
http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/data/Oth
り,回答者数の約 4 割であった。
ers/__icsFiles/afieldfile/2013/11/07/1287165_1.p
df
しかし,調査対象の学生は概ね小・中・高で学ん
110
日本科学教育学会研究会研究報告
Vol.28 No.7(2014)
数学における誤概念のリバウンド発生プロセスに関する一考察
A Study of Processes of Misconception Rebound in Mathematics
足立将太
御園真史
ADACHI, Shota
MISONO,Tadashi
島根大学大学院
島根大学
Graduate School , Shimane University
[要約]
Shimane University
本研究は,大学生を対象に数学の調査問題を行い,一週間後に数学の課題において誤概念のリバウ
ンドが起こるかを調査した.少数ではあるが,一週間で 35 名中 2 名が誤概念のリバウンドを起こした.誤概
念のリバウンド発生プロセスを調査するために,誤概念のリバウンドを起こした調査協力者にインタビュー
を行ったところ,誤概念の修正を図っても,誤概念は正しい情報と統合されない場合があり,統合されない
と誤概念のリバウンドがおこる可能性があること,及び,誤概念は修正されたのではなく,正しい解法を単
に記憶した場合に誤概念のリバウンドが起こる可能性があることの 2 つの可能性が示唆された.
[キーワード]ミスコンセプション(誤概念)
,誤概念のリバウンド
1.はじめに
ととする.
1)ミスコンセプション(誤概念)
ミスコンセプション(誤概念)による誤りは,子
誤答に関する研究の中に,ミスコンセプション(誤
どもが算数・数学を学習する際によくみられるもの
概念)の研究がある.小山(2006)によると,
「ミス
である.例えば,図 1 は,ある子どもの引き算の筆
コンセプションとは,何らかの一貫した根拠に基づ
算の学習での問題の解答である(小山,2006).この
く誤った(mis-)考えや捉え方(conception)のこ
子どもは,①には正答しているが,②と③には誤答
とである.数学における誤答(error)がでたらめな
している.この誤答の背景には,各位の数の大きい
ものではなく,それを導き出した本人にとっては何
方から小さい方を引くというミスコンセプション
らかの意味のある論拠による場合に,それをミスコ
(誤概念)が存在していると考えられる.
ンセプションによる誤りという」と述べられている.
本研究でも,ミスコンセプション(誤概念)をこの
①
856
②
241
③
736
ように捉えることとする.また,研究領域によって
-212
-126
-597
ミスコンセプション(誤概念)は,素朴概念や,誤
644
125
261
ルールなどと呼ばれているが,diSessa(2009)によ
小山(2006)p.64 より引用
ると,
「学習者の思考に関する用語は多様であり,代
図1
替概念(alternative conceptions),代替枠組み
ある子どもの引き算の筆算の問題の解答
(alternative frameworks),直観理論(intuitive
2)誤概念のリバウンド
theories)または素朴概念(naïve theories),素朴
信念(naïve beliefs)などがあるが,現在では『誤
理科教育の研究で,植松(2008)は,
「一度授業で修
概念』という用語が広く市民権を得ている」と述べ
正された誤概念(misconception)が復活(リバウン
ている.本研究では,代替概念や代替枠組みなども
ド)する危険性がある」と述べている.算数・数学
含めてミスコンセプション(誤概念)として扱うこ
教育の誤概念のリバウンドに関する研究においては,
111
日本科学教育学会研究会研究報告
Vol.28 No.7(2014)
調査問題の実施時間は,
「事前調査」
・
「事後調査」
・
溝口(1992)が概念の進化に関し,子どもは自分た
「遅延調査」のすべてにおいて 12 分間である.
ちにとってより具体的で,より慣れ親しんだものに
「事前調査」では,まず,調査協力者が誤概念を
固執し,既有の知識を捉え直すことに抵抗を示すこ
とがあることを指摘している.もし一定期間後に誤
保持しているかどうかを調査した.
概念のリバウンドが起こるとするならば,教師は教
続いて,誤概念を修正するために,各問題をどの
育活動の成果を授業直後における子どもの反応だけ
ように考えるべきかをまとめた「誤概念の修正を促
からでは,完全に把握できないことになる.つまり,
すための解説」を約 11 分間行った.その際,私語を
授業直後における子どもの反応だけでなく,授業後
しないことと,メモをとっても良いことを指示した.
の長期的な子どもの反応をみていく必要がある.
本調査は,調査協力者の都合により,日時を変え
また,時間の経過とともに,自然に誤概念のリバ
て数回実施した,「誤概念の修正を促すための解説」
ウンドが起こることも予想される.そこで本研究で
の解説内容を統一するために,解説は予めビデオに
は,時間の経過とともに,一度修正された誤概念の
収録して,それを再生する形で行った.このため,
リバウンドは起きるのか,また,リバウンドが起こ
予めどのような誤概念が生じるかを想定する必要が
るとしたら,どのようプロセスを経て起こるのかに
あった.このため,本研究では,この予め想定した
ついて追及していきたい.
誤概念を「事前調査」で保持しているかという観点
で判断を行っている.
2.本研究の目的
「誤概念の修正を促すための解説」の後,
「自習」
本研究の目的は,以下の二つである.
の時間を 10 分間設けた.「自習」中はメモを見て良
第一に,数学に関わる課題において,誤概念が修
いことと,私語をしないことを指示した.また,
「自
正されてから,一定の時間の経過後に誤概念のリバ
習」中は,本調査で使用した教材以外の教材の持ち
ウンドが起こるかどうかを実証的に明らかにするこ
込みを許可していなかったので,調査協力者は自筆
とである.
のメモしかみていない.
第二に,誤概念のリバウンドが起きた調査協力者
その後,メモを回収した上で,
「事後調査」を行い,
を対象にどのようなプロセスで誤概念のリバウンド
「誤概念の修正を促すための解説」により誤概念が
が起こったのかを明らかにすることである.
修正されたかを調査した.
「事後調査」で出題した問
題は,
「誤概念の修正を促すための解説」で解説した
3.本研究の方法
答えを短期的な記憶により答えることが想定された
ため,
「事前調査」の問題と同型ではあるが,数値等
本研究の目的を達成するために,以下に述べる二
を変更した類題を出題した.
つの調査を行った.
1)誤概念のリバウンド発生調査
2 回目の調査である「遅延調査」では,
「事前調査」
ある地方国立大学の大学生計 35 名(男子 19 名,
と同一の問題を出題し,誤概念のリバウンドが起こ
女子 16 名)に対して,数学に関わる課題において,
っているかを調査した.
誤概念のリバウンドが起こるかどうかを調査した.
本研究では,
「事前調査」で誤概念を保持していた
これら 35 名のうち,文科系専攻の大学生は 13 名,
が,
「誤概念の修正を促すための解説」によって誤概
理科系専攻の大学生は 11 名,保健体育専攻の大学生
念が一旦修正されたものの,
「遅延調査」で「事前調
は 12 名であった.調査は 2 回に分けて行った.第 1
査」と同一な誤答を示した調査協力者を,誤概念の
回目の調査では,
「事前調査」,
「誤概念の修正を促す
リバウンドが起こったと判断することとする.
ための解説」,
「自習」
,および,
「事後調査」を行っ
なお,各調査問題は各 6 問である.本調査で用い
た.第 2 回目の調査では,第 1 回目の調査の 1 週間
た調査問題例と想定する誤概念を表 1 に示す.
後(7 日後)に,「遅延調査」を行った(図 1)
.
112
日本科学教育学会研究会研究報告
Vol.28 No.7(2014)
2)インタビュー調査
1 回目
事前調査
解説
自習
事後調査
(12 分)
(11 分)
(10 分)
(12 分)
先に行った数学の調査問題において,誤概念のリ
バウンドが起こった調査協力者 2 名に対し,インタ
ビュー調査を行った.予めインタビューでの基本的
な質問事項を準備し,それらについて調査協力者の
1 週間
回答に応じて,さらに深めた質問を行う半構造化イ
2 回目
遅延調査
ンタビュー法を用いた.
(12 分)
図1
まず,調査協力者に「事前調査」
,「遅延調査」で
出題した問題を提示し,この問題に対してどのよう
誤概念のリバウンド発生調査の流れ
に考えれば良いのかを説明してもらう(質問 1)
.こ
表1
1
2
調査問題
次の式を計算して下さい.
(1) 120 ÷ 15 ÷ 5
(2) 200 ÷ 25 × 4
次の式を計算して下さい.
(3) 𝑎𝑏 ÷ 𝑎 × 𝑏
(4) 𝑥 2 ÷ 𝑥𝑦 2 ÷ 𝑦 2
次の①~③に示された図
3
形は二等辺三角形ですか.
3
二
等辺三角形ではないですか.
3
① 3
A
8
7
B
念を保持しているかを確認するためである.また,
調査協力者に説明してもらうことで,答案での記述
だけではわからなかった調査協力者の考え方がより
明確になるためである.
次に,調査協力者それぞれが書いた「事後調査」
の答案を提示し,どのように考えていたか説明して
もらう(質問 2)
.これは「誤概念を修正するための
解説」後,誤概念が修正されていたのか確認するた
めである.
その後,調査協力者に「事前調査」,
「遅延調査」
の答案をそれぞれ提示し,その問題を解決する際,
D
8
E
どのように考えていたかを尋ねる(質問 3).これは,
修正された誤概念がリバウンドを起こしていること
8
を,調査協力者に気付かせるためである.その際,
「遅延調査」でどのように考えていたかを確認する
F
5
ことで,どうして誤概念のリバウンドが起こったの
G
③
4
H
5
誤概念
乗法の結合法則を除
法にも適用する誤概
念
乗法の結合法則を除
法にも適用する誤概
念
3 辺のうち,2 辺の長
さだけが等しいが,
残りの 1 辺の長さと
は異なる場合のみを
二等辺三角形と呼ぶ
誤概念
C
12
②
4
れはインタビュー調査の時点で,調査協力者が誤概
本調査で用いた調査問題例と想定する誤概念
かを考察する.なお,インタビューの際,調査協力
4
4
者の発話はボイスレコーダーに記録した.
4.誤概念のリバウンド発生調査の結果
I
次の方程式を解いて下さい.
𝑥(𝑥 + 6) = 𝑥
𝑦 = 2𝑥 2 について,𝑥の変域が
−4 ≦ 𝑥 ≦ 1であるとき,𝑦の
変域を求めて下さい.
行きは時速
6
4km,帰りは時速
6km で歩いたとき,平均速度
は時速何 km ですか.
調査協力者 35 名の各調査に対する本調査で想定
等式の性質を過度に
一般化しているとい
う誤概念
関数の値の変化を考
慮せずに,定義域の
両端の値を代入すれ
ば良いと考えてしま
う誤概念
調和平均を用いるの
が適切である場面
に,相加平均を適用
する誤概念
した誤概念保持者数を表 2 に示す.ここで,本調査
で用いた「誤概念の修正を促すための解説」が想定
していた誤概念を修正する目的で制作したため,誤
概念保持者数の中に予め想定していなかった誤概念
については対象に入れていない.解説後,すべての
問題において,誤概念保持者数は減っており,誤概
念は修正されたようにみえる.
一週間後の「遅延調査」での誤概念のリバウンド
状況を表 3 に示す.この結果,問題 2 および,問題
113
日本科学教育学会研究会研究報告
6 のそれぞれ各 1 名ずつ,計 2 名の調査協力者にお
Vol.28 No.7(2014)
いないと考えられる.
いて,誤概念のリバウンドが起こった.この結果か
また,A の「遅延調査」の答案を提示したときの
ら,一週間の経過によって誤概念のリバウンドが起
反応にも注目したい(図 2)
.
こる場合があることが実証的に明らかにされた.
調査協力者 A は,
「遅延調査」の答案を見た際に「あ
れ?」と自分の答案に驚く様子がみられ,
「遅延調査」
表2
誤概念保持者数
の答案で正しく答えられているという自信があった
問題番号
事前調査
事後調査
遅延調査
と考えられる.ここからも,誤概念を修正する機会
1
12 人
1人
2人
を経ても,完全に誤概念は修正されていないと考え
2
10 人
1人
3人
られる.また,最後の「でも,もう覚えました」と
3
13 人
0人
0人
いう発言から,調査協力者 A は記憶に頼ろうとして
4
4人
2人
1人
いると考えられる.さらに,誤りの原因をケアレス
5
11 人
3人
3人
ミスに帰属させようとしているなどの特徴的な反応
6
25 人
0人
0人
もみられた.
表3
[T]「実は・・・」解答を見せる
誤調査協力者の誤概念のリバウンド状況
[A]「あれ?」
想定する
問題番号
誤概念が
リバウン
リバウン
修正され
ドあり
ドなし
[T]「あれ?」
[A]「これ最終ですか?」
[T]「うん.」
た人数
1
11 人
0人
11 人
[A]「なにかの間違いです」
2
10 人
1人
9人
[T]「ここでどうしてこうなったのかな.
」
3
13 人
0人
13 人
[A]「んー数学はボンミスが多いので,ボンミスで
4
3人
0人
3人
5
8人
0人
8人
6
25 人
1人
24 人
す.
」
[T]「ボンミス?」
[A]「はい.すごいあたりまえのこと間違えたりす
るので」
[T]「あーそうなんだ」
5.インタビュー調査の結果
[A]「はい」
以下,問題 2 と問題 6 において誤概念のリバウン
[T]「そうなんだ」
ドを起こした調査協力者をそれぞれ調査協力者 A,
[A]「でも,もう覚えました.
」
調査協力者 B と呼称することとする.
1)調査協力者 A のインタビュー調査の結果
[T]:調査者
調査協力者 A は,質問 1 に対し,正しく説明してお
図2
り,
「遅延調査」の際に保持していた誤概念は,イン
タビュー調査のときには修正されていた.しかし,
[A]:調査協力者 A
調査協力者 A の事例
2)調査協力者 B のインタビュー調査の結果
その後の会話で,質問 1 の問題の解答を指し,
「これ
調査協力者 B は,質問 1 に対して「行きが時速 4
あってますか?」と問題に対して自信がないような
キロで,帰りが時速 6 キロなので,この2つを足し
発言があった.実際,その後の会話で,調査協力者
て普通に平均をだす計算でわる 2 をして,5 キロで
A の解答があっているかどうかわからないと A 自身
す」と説明をしている.
「普通に平均をだす計算」と
が言っている.ここから誤概念は完全に修正されて
いう発言から,相加平均の考え方に頼ろうとする様
114
日本科学教育学会研究会研究報告
Vol.28 No.7(2014)
「遅延調査」で誤概念のリバウンドが起きたように
子が伺える.
その後のインタビューにおいても,調査協力者 B
見える事例であったといえる.
は,
「事後調査」の答案についてどう考えていたのか
6.本研究の考察とまとめ
はっきり覚えていない様子だった(図 3)
.また,
「解
説のときに,何分の何ってのが出てきて,それをち
本研究では,数学において一定の期間の経過によ
ょっとぼんやり覚えてたんですよ」という調査協力
って修正された誤概念がリバウンドすることを明ら
者 B の発言から,
「事後調査」に対する解答は,その
かにすることと,誤概念のリバウンドが起きた調査
直前に行われた「誤概念を修正するための解説」の
協力者を対象に,どのようなプロセスで誤概念のリ
内容を暗記していた可能性があると考えられる.つ
バウンドが起こったのかを明らかにすることを試み
まり,調和平均の式の意味を理解したのではなく,
た.
単にやり方・問題の解き方を暗記していた可能性が
調査の結果,一週間という一定の期間の経過によ
あると考えられる.ここから,
「事後調査」では,誤
って 35 名中 2 名が誤概念のリバウンドを起こした疑
概念は,実質的には修正されておらず,その結果,
いがもたれた.この結果は予想していた人数よりも
少ないが,一定の期間の経過によって誤概念のリバ
[T]「これ(事後調査の答案)どういう風に考えた
ウンドが起こることが実証的に明らかになった.
誤概念のリバウンドが起きた 2 名の調査協力者に
の?」
[B]「これは車だと想定して,1キロの間に時速 40
キロで走る.で帰りは1キロの間に 60 キロ走
対するインタビュー調査からなぜリバウンドが起き
たのかについて 2 つの可能性が示唆された.
る.で,速さ,きはじのところに速さが,
・・・
1 つ目は,誤概念の修正を図っても,誤概念は正
あ、これ関係ないか.あ、あるか.速さ 40
しい情報と統合されない場合があり,統合されない
で・・・・・・・・これ関係ないですよね.な
と誤概念のリバウンドがおこる可能性があるという
んで 40 と 60 が出てきたんですかね.48 キロっ
ことである.日下(1988)は,
「知識の改訂では,ミ
ておかしいですよね.
」「あ,説明のときに」
スコンセプションや古い知識が捨てられ新しい概念
[T]「説明?解説?」
に置き換わると捉えるのではなく,拡大均衡化によ
[B]「あ,解説のこと.解説のときに,何分の何っ
り,両者は新しい概念に統合されると捉えられる」
てのが出てきて,それをちょっとぼんやり覚え
と述べているが,誤概念に対して,解法の暗記など
てたんですよ.それで,1分の 40 じゃないの
低次な方略により修正を試みた場合や,誤りの原因
で,40 分の 1 かなと思って,これは 60 分の 1.」
を単純なケアレスミスに帰属させようとする場合に
[T]「解説をぼんやり覚えてた?」
は.誤概念がリバウンドする可能性もあることが示
[B]「はい」
唆された.また,インタビュー調査の時点では,一
[T]「あーそれでこういう考え方をしたんだ.」
見すると正しい応答をしていることもあるなど,誤
[B]「それでどういう計算・・・なんとなく覚えて
概念の表出も常に起こるわけではない場合もあるこ
いるんですけど・・・えっなんで 48 なんだろ.
とが示唆された.
この 40 と 60 をどう使っても 48 にはならない
2 つ目は,誤概念は修正されたのではなく,正し
ですよね.」
「んー覚えてないですね.なんとな
い解法を単に記憶した場合に誤概念のリバウンドが
く解説を覚えてた感じです.」
起こる可能性があるということである.調査協力者
B の事例において,調査協力者 B は解説を記憶して
[T]:調査者
図3
[B]:調査協力者 B
いるような発言が見受けられた.これはもともとも
調査協力者 B の事例
っていた誤概念は,暗記によって一度は修正された
ように思えるが,記憶の衰退(篠原,1998)によっ
115
日本科学教育学会研究会研究報告
Vol.28 No.7(2014)
て再び誤概念が現れたと解釈できる.調査協力者 B
6) 植松公威(2008)誤概念の修正を促しリバウン
は,
「誤概念を修正するための解説」で誤概念を修正
ドを防ぐためのテキスト情報―過去経験の妥当
することはできず,1 度は正しい考え方を記憶した
性を制限する情報の効果―,科学教育研究,32
が,1 週間の経過によって,利用しなかった記憶を
(2)
,121-129.
衰退させてしまい,忘却してしまったものと考えら
れる.
6.今後の課題
一定の期間の経過により少数ではあるが,誤概念
のリバウンドが起きた.これは教育現場においても
起こる可能性は十分にあると考える.
今回,誤概念のリバウンドが起こった調査協力者
に対するインタビュー調査からは,正しい解法を単
に記憶した場合や,適切でない原因の帰属を行うな
どの行動がみられた.これらのことは,学習者が,
新しい知識に対してどのように,認知的な処理を行
おうとする傾向があるのかといった,学習者のとる
学習方略が,誤概念のリバウンドの発生を防止する
ことに影響していると考えられる.今後は,さらに
多くの誤概念の事例について同様なことが起こる可
能性があるのかを検討するとともに,学習方略との
関係も検証していきたい.
引用文献
1) diSessa, A. A(2006)Cognitive Apprenticeship
(in Sawyer, R. K. (Ed.) The Cambridge
Handbook of the Learning Sciences) (森敏昭・
秋田喜代美(監訳)
(2009)学習科学ハンドブッ
ク,培風館,205-219
2) 小山正孝(2006)算数・数学科重要用語 300 の
基礎知識,東京:明治図書出版株式会社,64.
3) 日下正一(1988)長さの保存のシェムの形成に
おける矛盾の意識化と解決,教育心理学研究,
36(4)
,316-326.
4) 溝口達也(1992)概念の進化に必要な確信の転
換―学習者は事象によってどのように確信を転
換するか―,数学教育論文発表会論文集,25,
249-254.
5) 篠原彰(1998)学習心理学への招待,サイエン
ス社,東京,155-158
116
日本科学教育学会研究会研究報告
Vol.28 No.7(2014)
数学における言語的コミュニケーションに関する基礎的調査
A Fundamental Survey on Linguistic Communication in Mathematics
柴原 裕
御園真史
SHIBAHARA,Yu
MISONO,Tadashi
島根大学
Shimane University
[要約]現行の学習指導要領では「思考力・判断力・表現力」の育成が重要視されている。しかし,数学のコミュニケ
ーションは通常のコミュニケーションとは異なる特性があると考えられる。そこで,本研究では,その基礎的研究
として数学における言語のみによるコミュニケーションについて話者から受け手への伝達が起こるための条件につ
いて調査を行い,考察した。その結果,ある程度の数学の知識がある者同士であれば,送り手の内容の理解度が高
い項目は,理解度の低い項目と比べて,受け手にその知識がない場合であっても,伝達が起こりやすいことが示唆
された。
[キーワード]言語的コミュニケーション,習熟度,概念の伝達
1. 本研究の背景
現行の学習指導要領では「思考力・判断力・表現
一方で数学では概念形成時に特有の構造的な見方
もある.
力を育むために,観察・実験,レポートの作成,論
例えば,森本(1999)は小学生 4 名を対象に送り
述など知識・技能を活用する学習活動を発達段階に
手と受け手が,平面格子を手がかりにして,知覚及
応じて充実させる必要がある」とある。その中でも
び操作的意味を構造化する実験を行い,
「送り手側が
数学については中学校学習指導要領解説数学編
意図した構造的意味が受け手側に想起される場合と,
(2009)で「思考力・判断力・表現力」について「表
送り手側の意図とは異なる構造的意味が受け手側に
現することにより互いに自分の思いや考えを伝え合
想起される場合がある」と報告しており,互いに異
うことが可能となり、それらを共有したり質的に高
なる構造的意味を伝達するのは困難であるとしてい
めたりすることができる。表現することは知的なコ
る。
ミュニケーションを支え、また、知的なコミュニケ
また、同様に数学のコミュニケーションにおける
ーションを通して表現の質が高められ、相互にかか
特徴を御園(2012)は「数学で扱われることばは独
わりあいながら学習を充実させることにつながるこ
特なものであり,日常生活で使う意味や機能とは異
とに留意する必要がある。」とあり,数学の授業にお
なる場合がある」と報告している。
いて数学的コミュニケーションを用いて言語活動を
このように数学でのコミュニケーションは一般的
充実させることが重要だとされている。また、金本
なコミュニケーションとは異なるので、どのような
(2001)によると「コミュニケーションとは,自己
条件で成立するのかを調査する必要がある。
と他者との間で何らかの表現を用いて行われるもの
であり,それぞれの考えや問いの共有,また,新し
2.研究の目的
い考えや問の創発を目指すものと考える」とあり、
本研究では発話者(以下送り手)の話す内容の質
数学的コミュニケーションをすることによって新し
とそれを聞く人(以下受け手)が受け取った内容の
い何かが生まれる可能性がある。
質を評価し,送り手の話す内容の質によってコミュ
117
日本科学教育学会研究会研究報告
ニケ―ション成立への影響について検討し,示唆を
Vol.28 No.7(2014)
のか予想しにくいものを選んだ。
得る。目的を達成するため,以下のような調査及び
分析を行った。
3)分析の方法
調査協力者 4 名(それぞれを P,Q,R,S と呼ぶ)の
3.研究の方法
会話記録の文字起こしを行った.以下では,発言番
1)調査の実施
号を,発言者,遂行課題,発言番号を表す記号や数
調査は 2014 年 5 月に,大学で数学を専門として
2~3 年間,学習してきた学生 4 名(男性 1 名,女性 3
値を並べて表示する。例えば,発言番号 P101 は,発
言者 P が課題①で 01 番目に発言した内容を指す。
名)を対象に行った。
調査協力者を 2 組に分け調査協力者のうち1名が
提示された送り手となり,ある数学の概念について
表1に示す評価基準を作り,送り手については,
文字化された会話記録およびメモ,受け手について
は,メモおよびまとめに基づいて評価を行った。
説明させる課題に対して考えをまとめる時間をとっ
た後,受け手に対して自分の考えを説明した。その
表1 伝達した内容についての評価基準
際,説明されている人はいつでも質問したり,自分
A
の意見を言うことも可能とした。また,両者にメモ
望ましい理解をしている
ややあいまいな点や理由を説明せず事
欄(縦 21 ㎝,横 14 ㎝)を用意し,必要に応じてメ
B
実のみを明確に伝えているが説明は許
モをとれるようにした。時間は最大 15 分とし,調査
容できる
協力者が相互に議論が十分深まったと判断すればそ
関係する知識はあるが統合されておらず
れより短い時間でも終了することとした。1つ目の
C
課題終了後に送り手と受け手の役割を交代して、別
発言に一貫性がないまたは事実を大ま
かに伝えていて具体性がない
の課題を同様に行った。2 つの課題終了後に手元のメ
D
関係する知識がない
モを参考にまとめをメモ欄と同様の大きさのスペー
?
発言やメモからは判断できない
ス(縦 21 ㎝,横 14 ㎝)に書いてもらい,分析の参
×
触れられてないので判断できない
考にした。
今回は言葉による数学的コミュニケーションに限
4.本研究の結果
定して行うために 2 人の調査協力者の間を板(縦 30
課題①および②を遂行した際に,調査協力者間で
㎝,横 40 ㎝)で仕切ってお互いのメモが見えないよ
伝達された,もしく,伝達しようと試みられた内容
うにして実施した。また,調査中の協力者の会話は
及びその評価を,課題①および②のそれぞれについ
ボイスレコーダーで録音した。
て表2,3に示す。
2)調査の内容
まず,「対数とはどのようなものですか」(以下課
また,送り手と受け手の評価別の件数についてま
とめたものが表4である。
題①),
「ベクトルの内積とはどのようなものですか」
調査の結果,送り手から受け手に伝達された内容
(以下課題②)という課題を2題作成した。対数や
は全 18 項目あり,P,Q が触れたのは 15 項目,R,
ベクトルの内積を題材とした意図は,対数ではグラ
S が触れたのは 9 項目,共通に触れている項目につい
フや逆関数,ベクトルの内積に関しては,ベクトル
ては 6 項目であった。
の成分表示や cos を用いた表現,図形的な見方など,
その中で「loga1=0」などのように対数の性質につ
ともに多くの視点があり,論点が多数あること,受
いて述べたもの 4 項目については事実を述べている
け手は,送り手がどのような内容について話をする
だけで,会話記録,メモ等から望ましい理解をして
118
日本科学教育学会研究会研究報告
Vol.28 No.7(2014)
いるかどうかを評価することは困難であると判断し,
になっていることが全 20 件中 1 件もなく,例えば,
今回は分析対象から除外した。
Q219-212 や Q223-225 のように,送り手が望ましい
「対数のグラフの定点」についての会話では,具
理解をしていれば,説明もより具体的になり,仮に
体的に値を代入することによってお互いが(1,0)を
受け手に知識がなくても,伝達が可能であると考え
通ることは確認しているものの,それ以上の理解に
られる。
ついては会話記録やメモ等からは判断できなかった
ので「送り手:?→受け手:?」とした。
評価が「送り手:D→受け手:C」となった内容が
以上より,送り手の理解度が低ければ伝達の起こ
る可能性は低く,理解度が高ければ伝達の起こる可
能性が高いことが示唆される。
2 項目,「送り手:C→受け手:B」となった内容が 1
項目あった。例えば、表 7 の R102R138 が示すよう
表2 表出された内容及びその評価(課題①)
P
に,それぞれ送り手が,その内容について忘れてい
た,もしくは間違って覚えており,送り手から受け
対数の定義
手への伝達が起こったのではなく,受け手が送り手
対数関数は
指数関数の
逆関数に
対数のグラ
フ(底とグラ
フの増加の
より正しい理解をしていたためと考えられる。
また,評価が「送り手:C→受け手:×」となった
内容が 2 項目あった。例えば,Q242「ベクトルって
評価
評価の
理由
評価
評価の
理由
評価
評価の
理由
評価
評価の
理由
評価
評価の
理由
評価
評価の
理由
評価
評価の
理由
対数のグラ
フ(定点)
いうのは平行移動とかして考えることができる」な
対数のグラ
フ(極限)
ど唐突に漠然とした内容を伝達したので,受け手に
対数のグラ
フ(漸近線)
受け流された可能性がある。
さらに,評価が「送り手:C→受け手:C」,「C→
底の変換公
式
受け手:D」となった内容がそれぞれ 1 項目ずつあっ
→
Q
R
B
→
S
A
R103-R104
メモ
B
A
D
C
P109-P117
メモ
R138
S217
B
B
B
Q105Q113
A
?
?
P133-P137
メモ
R146-R148
S225
A
A
P138-P140
Q104
C
C
R111
メモのみ
P143-P150
A
A
P136-P137
メモ
たが,例えば、表8の S219 で内積と予言定理の関係
について言及しているが、S からそれ以上詳しい説明
表3 表出された内容及びその評価(課題②)
はなかった。一方の受け手である R も余弦定理の公
評価
ベクトルの
評価の
内積(図形)
理由
ベクトルの
評価
内積(二次 評価の
元の成分表 理由
ベクトルの
評価
内積(三次 評価の
元の成分表 理由
評価
内積の活用 評価の
理由
評価
ベクトルの
評価の
始点
理由
余弦定理と 評価
ベクトルの 評価の
理由
関係
評価
内積の表し
評価の
方
理由
式を確認しただけで内積と余弦定理の関係について
は触れられていない。つまり、お互いの理解が抽象
的であり,送り手から受け手への伝達が起こったと
は考えにくい。
一方,評価が「送り手:A→受け手:B」となった
内容は 1 項目もなかった。
また,
「送り手:B→受け手:B」となった内容の 1
項目で,例えば、表 5 の Q108、109 で「y の値は常
にプラスである」と誤った理解をしていたにもかか
Q
A
→
P
A
Q203
S
→
R
D
C
S202,
R207S205
R208
C
B
S252(表
R250,R25
23)
7-R258
メモ
A
Q219Q221
A
Q223Q225
C
Q228Q229
C
Q240Q241
A
メモ
A
メモ
×
×
C
S219
A
Q232Q235
A
P202-P203
わらず,その後の P113,114 によって間違った知識
表 4 評価による伝達の結果
が修正され,正しいグラフを書くことができている。
つまり,互いに意思伝達を行い,そのなかで知識の
受け手
伝達が行われたと考えられる。
A B C D ? ×
送
以上の結果より,評価が「A または B→C または D」
り
119
A
6
0
0
0
0
0
D
R212R217
日本科学教育学会研究会研究報告
手 B
3
1
0
0
0
0
Q105
C
0
1
1
1
0
2
D
0
0
2
0
0
0
?
0
0
0
0
1
0
×
0
0
0
0
0
0
Q106
Q107
P142
Q108
Q109
P143
Q110
P144
Q111
P145
Q112
P146
Q113
P147
P148
P149
表5 課題①の P→Q の会話記録
P101
P102
P103
P104
P105
P106
P107
P108
P109
P110
P111
P112
P113
P114
P115
P116
P117
P118
P129
P130
Q102
P131
P132
P133
P134
P135
P136
P137
P138
Q103
P139
Q104
P140
P141
対数っていうのがどんなものかを説明しようと思っています.
対数,教科書でいうと数Ⅱでてくる.
対数、対数関数と出てくると思うけど、式がどんな形かっていうと loga
たとえば logab。
イコール,,,
対数関数っていうと y= logax っておいてあげることができると思うん
ですけど.
この logax の a が底になってて、この x っていうところが真数ってい
う数になってて,その数,,,
底は,底の a は 0 より大きくて 1 ではない数.
真数の x は 0 より大きい正の数っていう制限があって,
この対数がどこからできているかっていうと、もともと指数関数 y=な
んておこう,,,
a の x 乗と対数関数が関わりがあって
さっき言った指数関数 y=a の x 乗の両辺の対数をとるってことは
log,,,
対数をとるっていうんですけど,対数をとるってことは底を考えて両
辺底 a
として考えると y=a の x 乗は logay=logaa の x 乗になって logaa ってい
うのが 1,
x 乗の x は前に出るから結局この式が対数を取ったとき x=logay,っ
ていう形になって
この x とを入れ替えた時にさっきの対数関数の形になるので,
なんていうんですっけ?こういうの.
x と y を入れ替えたらつ.なんだっけ?
逆関数?逆関数になってるっていえます.
(中略)
それを使って計算していったり,グラフを使ってグラフの性質から
いろんなことを導けたりします.
他にありますか?
グラフってどんなグラフですか
x 軸、y 軸の座標平面をとってあげた時に,例えば logax、logax の
とき、例えば a が 0 より大きい,じゃなかった.
1 より大きいときどうなるかっていうと
例えば x に 1 を入れた時さっきも言ったけど底が何であれ 0 にな
るのでまずは(1.0)を通ることが言えます.
今度例えば x に2を入れた時には底より,,,なんぼになるかな
ひとつずつ値をとっていくと,どんどんどんどんでっかくなって
y 軸を漸近線にする(1.0)を通って(1.0)を通ってを y 軸を漸近線
にする放物線が右上がりに書けると思います.
底が0から 1 の時の範囲は(0.1)を通って右下がりで同じように y
軸を漸近線にする.
x を無限大に飛ばすと y も無限大に飛ぶような形になっていると
思います.
0-1 の間だったら 1 が,いや a が,,,
右下がり
極限とったら、マイナス無限大じゃない?
こっちのグラフ。x を無限大に飛ばすとマイナス無限大.
他にありますか?
Vol.28 No.7(2014)
グラフがどいう形をするかっていう話をするのに絶対、値を入れ
るじゃん.
例えば x に2を入れると loga2 が y とかになるわけじゃん.
これって a のy乗が2になればいいんだよね?
そうだね.
a を1よりでかいやつだとすると,,,絶対 y は,,,なんでもね.
プラスじゃないといけないんだよね?
y はプラスか?y はプラスとは限らんよね?
どうやってやるっけ?
たぶん底も具体的に入れると思う.
あそうか。
log2
一番具体的なやつでやるんかな?
もう本当に底も入れて log2 のとか
log2 のとかってやっるっけ?
だってグラフも動くけん底によってだけど,
底が決まったときにこういう傾きだけど,
また底が変わると傾きがが変わるから,具体的にいれんと.
(以下略)
表6 課題②の Q→P の会話記録
Q201
Q202
Q203
Q204
Q205
Q206
Q207
Q213
Q214
P201
Q215
Q216
Q217
Q218
Q219
Q220
Q221
Q222
Q223
Q224
Q225
Q226
Q227
Q228
Q229
Q230
Q231
120
ベクトルの内積とはどのようなものか、またその性質がどのような
ものかをしゃべります.
ベクトルを書いたとき,鋭角で,なす角が,二つのベクトルのなす
角が 0°から 180°の間,
なす角をθとして1個のベクトルを a,もう一個のベクトルを b とす
ると a と b の内積は a の大きさと b の大きさで cos のなす角θの
cosθであらわすことができて,,,
内積があるっていうことは絶対にベクトルの大きさが 0 じゃないっ
ていう性質を使って
cosθ=っていうのもあって,
cosθ=a の大きさかける b の大きさ分の a と b の内積
こいつらは計算するときによくつかわれます.
(中略)
ベクトルの内積っていうのはベクトル今二次元で考えたけどこれ
は 3 次元でも考えれて,
三次元で考えたとき 1 個増えるだけだな.
1個増えたらどうなるんですか?
これはだめだ.座標を考えないといけない.
座標を使っても内積が計算できるっていう話をします.
例えば点 A が(x1.y1)っていう座標にして点 B が,,,
具体的にいこう!よし.
x,y 平面で A を(2.3)、B を(4.1)にすると
原点 O から OA をベクトルとして OB を b であらわすとすると
A と B の内積は各 A の x 座標と B の x 座標をかけたもの足すの
と A の y 座標と B の y 座標をかけたもの足すと内積が出まする.
っていうのがあるから
これが 3 次元になって x,y,z 座標で考えたとしても,
さっきの A、B に Z 座標を加えても
A(2.3.4)B(4.1.5)にしても,内積は同じように x 座標同士をかけ
たものと y 座標同士をかけたもの z 座標同士をかけたものになり
ます.
内積ってなんだっけな?
なんっていうかな?
内積がわかればその時の面積がわかったりして,
あと内積がわかってたらその時の角度もわかったりして便利で
す.
以上です.
何か質問はありますか?
日本科学教育学会研究会研究報告
P202
Q232
Q233
P203
Q234
Q235
P204
Q236
Q237
Q238
Q239
Q240
Q241
Q242
Q243
R145
R146
S124
R147
S125
R148
S126
R149
S127
R150
R151
R152
R153
内積に表し方はどんなものですか?
内積の表し方?
記号的なもの?
記号的な!
ベクトル a と b の内積を表そうと思ったら a の上に小さな矢印,黒
丸...
ドットが真ん中にあるやつと b の上に小さな矢印で表せます表す
ことができます.
なす角ってどこにできる角のことですか?
くぅー.
例えばさっきの xy 平面で考えるた A,B のベクトルってもう矢印を
原
点から伸ばしてもらった時に,
OA っていう矢印,ベクトルと OB っていうベクトルの間にできてい
る角がなす角になります.
なす角っていうのは OA と OB のなす角をθとおくとそのθは 0°
から 180°になります.
必ずベクトルの始点というか,
スタート位置はそろってないといけなくて,,,
ベクトルっていうのは平行移動とかして考えることができるし,
あと,何倍,スカラー倍することもできます.
R102
R103
R104
R109
R110
R111
S104
R112
R113
S105
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R115
R116
R137
S117
R138
R139
R140
S118
R141
S119
S120
S121
R142
S122
R143
R144
S123
y は負の値には、えっと,,,
y が 0 の時,x が 1 だ
あ、そうだ
グラフ的にも通っている
そこは通ってる.
y=0 には,違う x=0 にはならん
x=0 にはならない
こんな感じのグラフは書けた?
書けた!
そもそも対数とはどんなももかっていうのが,,,いまいち...
どんなものか
性質は今みたいなものだろうけど
対数とはどんなものか
(省略)
表8 課題②の S→R の会話記録
表7 課題①の R→S の会話記録
R101
Vol.28 No.7(2014)
対数とはどんなものですかという課題で
対数って いうのは指 数, ,, あんまり 覚えてな いん ですけ
ど,,,
対数は指数のあれを変換,書き換えたものというイメージがざ
っくりとあって
とりあえず ap=b っていうのと,対数 log で表して logab=p
(中略)
あと,思いついたのが,底の変換公式みたいなのがあって
logab が logcb /logca
どっちが分母分子だったか忘れたんだけどみたいなのがあっ
たような気がします。
あった。うん。
グラフを書いっとったんだけど,どんなか思い出せなくて,,,
手が止まっているっていう感じですね
グラフ,,,
漸近線がどれだったかっていうのがどんなのだったかもあんま
り覚えてないし,,,
こんな感じです
対数のグラフを考えるときに
(中略)
y=x のグラフの線対称.それはちがうか?
え?線対称?なんか指数とグラフの逆関数?ちがっけ?だっ
たきがする.
逆関数?いやーわかんねーな.
でも今のところグラフは書けたよ.こんな感じかなっていう,,,
だから y は負の値をとるけど
でも 0 にはな,,,
0 にはならん?
ならんよね.そうそう.
y は負の値をとるけど0にはならん,,,
0 になるか?
とるか
とるか
とった時に
あ
あ
S201
S202
S203
S204
S205
ベクトルの内積についてなんだけど,,,
まず、なんだっけ式があいまい...
どうだっけ?
なんっていうの?
え?式はどんなんだっけ
R201
っていうじょうたい?
S206
R202
内積が 0 だったら角度が 90°みたいな
それは cos がからんできて
R203
cos が 0 になるからっていう感じだったと思うんよ
R204
R205
S207
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S209
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S211
S212
R206
S213
R207
cos90°が0になるからっていう感じだったと思うんよ.
A ベクトルを a1,a2
なんか
角度があったとしたら,その,,,何があいまいって,,,
大きさをそのままかけるのかベクトルをそのままかけるのか
どうだったっけ?
であと cos があったら覚えとったんだけど
A1A2 があったとして
大きさもなんか,,,あった気がする.
あったよね
とりあえず cos はあったよね
A ベクトルと B ベクトルの内積は A ベクトルの大きさ掛ける B ベ
クトルの大きさ掛ける cos なす角 θ
こんな簡単じゃなかったかな?
いや,そんな感じ.
成分のもあったよね
成分?あーあ
成分はそれからあれしたわ.
ベクトルを成分で表したらそのまま計算すればいいんじゃない
かなと,,,
なんだっけ,なんか周辺知識しかばっとでてこない
余弦定理がどうのこうのっていう話を聞いたことがある.
余弦定理?
余弦定理とベクトルの内積の式が関係あるんだよっていう話を
聞いたことがある
余弦定理ってあれだもんね
三角形 ABC で頂点 A のなんていうんだっけ?対辺だっけ?
反対側の辺のやつを abc っておいていったときに、cosA=,,,
あ、こっちが先行してないんか...
2bc,これ b、c な
b2+c2-a2 だったよね?
関係なかったかな?
あー違うかな。違うかもしれん。
bc とか a、b、c は全部大きさのこと言っとるけん
R208
R209
S214
R210
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121
日本科学教育学会研究会研究報告
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S235
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S238
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S239
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S240
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これを全部ばーんって当てはめたらなんか見つかりそうじゃな
い?
これは気のせいじゃないかもしれない
気のせいじゃないかもしれない
気のせいじゃないかもしれない
三平方の定理を勘違いしとったかな,,,
三平方の定理って 90°の時じゃないと無理じゃない?
なんか三平方の定理と余弦定理の関係と勘違いしとったかも
しれん.
余弦定理ってもともと,,,
a2=b2+c2+2bccosθちがうか?
ごめんこれは関係ないかもしれん。関係ないか?ある?
いやー.この形の式じゃない式があるってことでしょ?
てか、余弦定理はこっちが先行しとったっていうか.
そっちがあって cos の形に変形したっていう記憶はある.
確かに.そうだったかもしれない.
でもあんまり関係ないか.
うーん。かな?どうだっかけな?
ベクトルの内積はこれでいいのか?
いっか?
これであっとると思うけど、成分とかはどうだったけ?
成分?
ベクトルを成分で表せるじゃん。
うん.え?
それも大きさに変換して当てはめればいいってこと?
大きさに変換して,,,?
成分だけでやるのがなんかあったよね.
あったね.あーあったね.うわー.
あったことは覚えとるけど中身覚えてない.あったね.
問題どんなんだっけな
チャートのページが思い浮かぶわ.中身が.
cosθを求める式は
変換すれば終わりか、なす角何度ですか。
内積と大きさが与えられとって.
あったね.あったね.
あったねってだけだよね.
内積とは何かって言われてら何かぱって言えん.
内積って高校の頃は外積とかは詳しくやらんよね.
外積って,,,
な ん で× の 記 号 を 使 わ ん の ん だ ろ うっ て 思 っ て た ん だ け
ど,,,
あー外積が×の記号を使うもんね.
当時のイメージとしては掛け算っぽいイメージがあって,,,
あったね,,,
なんかうまいこと内積とは何かっていうのが出てこんよね.
大きさとなす角をかけたものとかなす角と cos をかけたものくら
いしか,,,
R246
式がこれしかないかな?
R247
R248
R249
S244
R250
成分かけるみたいなのがあった気がするんだよな
A ベクトルの成分が A1,A2、B の成分を B1,B2 だとしたら,,,
なんかなかったっけ?あった気がするんだよな.
いや,,,あってきがする,,,よ,,,ある
A1B1+A2B2.違うか?
(中略)
あってるよね?
こっから cos 求めたりできるみたいな感じじゃなかったっけ?
うん。で,,,わかった.
内積じゃけベクトル A ベクトルかけるっていうんかな B ベクトル
=大きさをかけて cos みたいな,,,
じゃなかったけ?わかる?
R254
R255
S248
S249
S250
R256
R257
S251
S252
R258
S253
R259
S254
R260
S255
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R262
S256
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S257
S258
R264
Vol.28 No.7(2014)
いやそれはそうだよね?
それを成分で言ったら?
成分?
え?A1A2+B1B2
A1A2?
え.
A1B1 じゃなくて?
あ,間違えた.そっちだわ.
じゃけ,内積の表し方は二つあってそっから cos 求めるみたい
な.
うん.
cos 求めてなす角求めてみたいな.
あったね.
A ベクトルだけから大きさ求まるもんね.
うん.
そうだそうだ.
成分で表したら A1B1+A2B2 だけんか,ここでかけるけん掛け算
っぽいイメージがあったのか.
うんうん.
5. まとめと今後の課題
本研究では数学における言語的コミュニケーショ
ンの成立する条件を調べるために大学で数学を専攻
している学生を対象に既習事項について調査を行い,
分析を試みた。
調査の結果,送り手が A または B の場合,受け手
が C または D になることはなく,伝達が可能である
と考えられる。
ただし,2 組 4 名の会話記録などからの結論であり,
本研究で得た結論は直ちに一般化することはできな
い。そこで,さらに調査協力者数を増やして検討す
る必要があると考えられる。
さらに,数学的な習熟の程度が低い者同士と習熟
度に差のある者同士が知識の伝達を行った場合など
についても検討を重ねていきたい。
参考文献
文部科学省(2009)中学校学習指導要領 数学編 実
教出版株式会社
御園 真史(2012)ある数学科教科書に使われるこ
とばの機能に関する一考察,日本教育工学会研究論
文集 JSET12-5,199-202
金本 良通(2007)数学的コミュニケーションに関
する基礎的考察,日本数学教育学会誌,89(4),
森本 明(1999)数学的概念の構造的意味の伝達に
おける異なる構造化,数学教育論文発表会論文集
32,95-100
122
日本科学教育学会研究会研究報告
Vol.28 No.7(2014)
二次関数の課題による自己効力感への影響に関する一考察
A Study of the Effect of Problems’ Differences in Quadratic-Function on Self-Efficacy
寺本幸平
御園真史
MISONO,Tadashi
TERAMOTO,Kohei
島根大学
Shimane University
[要約]自己効力感についての質問紙と調査用に作成した調査問題とによる試験を実施した。結果
は難易度が比較的低い問題でも自己効力感が低く判断されることがあった。この原因として自己
効力感を問う時に提示した例題の式中に𝑥と𝑦以外の文字が入っていたことが示唆された。この
ように問題文の中に含まれる文字によって自己効力感が左右されることがあることを考慮し,教
師は指導を行う必要がある。
[キーワード]自己効力感,効力感,効力期待
1. 本研究の背景
わかっていても,あるいは過去に同じような行動に
Bandura(1977)は,期待(expectancy)を結果期待
よって良い結果を得た(過去経験)ことがあったとし
(outcome expectancy)と効力期待(efficacy
ても,現在こう行動することが自分に可能であると
expectancy)の 2 つに分けて考えている。桜井(1994)
いう自信(効力期待)がなければ当の行動は達成され
はそれぞれについて,
「結果期待とは,ある課題を遂
ない」と述べている。このことから,学習場面におい
行することによって,このような結果が得られるで
ても問題を解くにあたり自己効力感が問題を解く行
あろうという期待」,「効力期待とは,ある課題がこ
動に影響してくることが考えられる。
の程度はできるであろうという期待」であると説明
以上を踏まえ,本研究では,数学の課題の違いが自
している。また桜井(1994)は,効力期待の例として
己効力感の判断にどのように影響するのかを調査す
「次のテストでは 80 点くらいは取れるであろうと
ることとした。
いう期待」などを挙げている。
2. 本研究の目的
さらに,Bandura(1994)は「自己効力感とは, ある
結果を得るための能力についての信念を指す」とし,
本研究の目的は,高校で学ぶ数学の課題を用いて,
また,桜井(1994)は「効力期待(効力感)は,ある課題
課題の違いにより,数学の課題に対する自己効力感
遂行に対する「自信」といいかえることもできる」
がどのように変わるのかを明らかにすることである。
と述べている。自己効力感と行動や活動の関係につ
いての指摘として,速水(2012)は「日常生活では様々
3. 本研究の方法
な場面でどれほど活動するか,どれくらい努力する
1)
調査の概要
かという判断が必要で,それを決定するのが自己効
本研究の目的を達成するために,ある高等学校1
力感である」と指摘している。また, 桜井(1994)は
年生 34 名を対象に,数学の調査問題と自己効力感に
「こう行動すればよい結果が得られる(結果期待)と
ついての質問紙への回答による調査を行った,この
123
日本科学教育学会研究会研究報告
うち回答無記入のもの 2 名を除外し,最終的に 32
表1
名(男子 14 名,女子 18 名)から得た回答を分析対象
大
問
1
とした。調査問題の範囲は,問題の種類が豊富で,
類題も多く作問しやすいことを考慮して,数学Ⅰの
「二次関数」に関する問題とした。
大
問
2
調査では,まず事前調査として,調査協力者の勉
強の習慣などをアンケート調査し,単純な四則演算
のドリル教材を行った。その後,大問毎に大問の内
大
問
3
容に対応している例題を提示し,その例題に対する
自己効力感に関する質問紙に回答(手順1)し,その
後実際に大問を解く(手順2)。手順1と手順2を1
Vol.28 No.7(2014)
調査問題の例題
次の関数の最大値と最小値を求めなさい、
またそのときの𝑥の値をそれぞれ書きなさい。
y = −𝑥 2 + 6𝑥 −5 (0 ≦ 𝑥 ≦ 4)
2 次関数𝑦 = 𝑥 2 − 𝑘𝑥 − (𝑘 − 3)の
グラフが𝑥軸と接するように,
定数𝑘の値を定めなさい。
0 ≦ 𝑥 ≦ 8のすべての𝑥の値に対して,
不等式𝑥 2 − 2𝑚𝑥 + 𝑚 + 6 > 0が成り立つよ
うな定数𝑚の値の範囲を求めなさい。
𝑥についての 2 次方程式
セットとし,4つの大問それぞれ1セットずつで計
4セット行った。ただし,解答する大問の順序によ
る効果の影響を相殺するために,調査協力者ごとに,
解答順序をランダムに入れ替えた。
大
問
4
𝑥 2 − 𝑎𝑥 + 𝑎2 − 3𝑎 = 0が
異なる正の 2 つの実数解をもつとき,
定数𝑎のとりうる値の範囲を求めなさい。
3)自己効力感に関する質問紙について
2)調査問題について
各大問の調査問題を実施する前に,それらの問題
本研究で用いた調査問題は,高等学校数学Ⅰ教科
に対する自己効力感を尋ねた。その際,調査問題の
書(川中ら 17 名,2007),および,高等学校向けの参
「例題」を提示した上で,その問題を「解く(答えを
考書(星野,2006)を参考に作成した。
出す)自信はありますか?」という質問項目を設け,
具体的には,与えられた定義域内での二次関数の
「4.自信がある,3.やや自信がある,2.あまり自信
最大・最小値問題(大問1)及び,文字を含む二次関
がない,1.自信がない」の 4 件法で回答を求めた。
数について,𝑥軸との交点の個数が与えられたとき
の,その文字の満たすべき条件を判別式により求め
4. 調査結果
る問題(大問2)を,各 10 問出題した。大問1,大問
1)分析の方法
2はいずれも,教科書の例題レベルであり基本的な
調査結果の分析にあたっては,まず,大問ごとの
問題であると考えられる。また,ある区間で,文字
自己効力感,および,調査問題の「解答欄に記述の
を含む二次式の符号が常に正または負になるときの
あった問題の数」のそれぞれについて,平均値と標
その文字の満たすべき条件を求める問題(大問3)及
準偏差を算出した。
び,文字を含む二次方程式の解の条件が与えられた
次に,大問ごとの自己効力感との平均値と,大問
ときのその文字の満たすべき条件を求める問題(大
ごとの解答欄に記述があった問題の数について,一
問4)を,各 6 問出題した。大問3,大問4はいずれ
元配置の分散分析を行った.その結果,主効果がみ
も場合分けを含み,解決にはより高度な思考が求め
られた場合には Tukey の HSD 法を用いて多重比較を
られる問題であると考えられる。それぞれの問題の
行った。なお,分析に使用したソフトは SPSS(IBM
例を表 1 に示す。なお詳しくは後述するが,調査問
SPSS Statistics 19)である。
題冊子中に,各問題に取り組む前に「例題」を提示
なお,本調査においては,時間の感じ方に関する
した上で,自己効力感について回答する質問項目を
調査(本発表では触れない)も併せて行ったため,
設けているが,表 1 に示した問題はその「例題」と
調査時間は,1 問目に解く問題および 3 問目に解く
して示した問題である。
124
日本科学教育学会研究会研究報告
問題は 4 分,2 問目に解いた問題および 4 問目に解
Vol.28 No.7(2014)
平均値を表3に示す。
いた問題は 8 分と変則的な設定であったが,分析の
次に,回答欄に記述のあった問題数についても対
際は,8 分で解答した大問の「解答欄に記述のあっ
応のある一元配置の分散分析を行った。この結果,
た問題の数」は,4 分で解答した問題とそろえるた
有意な主効果(F(3,124)=13.39,p<0.05)が認められ
め,2 で割った値を用いている。
た。そこでTukeyのHSD法を用いて多重比較を行った
ところ,大問1と大問3・大問4との間,また,大
1)自己効力感についての結果
問2と大問3・大問4との間にそれぞれ有意差がみ
大問ごとの問題に対する自己効力感の平均値,標
られた。
準偏差を表2に示す。
このことから,大問1,大問2の両方が,大問3,
各大問に対する自己効力感の平均値に差があるか
大問4と比べそれぞれ有意に多い問題数に取り組ん
どうかを検討するために,対応のある一元配置の分
でいたことがわかる。回答欄に記述のあった問題数
散分析を行った結果,有意な主効果(F(3,124)=7.73,
の多重比較の結果を図2に示す。
p<0.05)がみられた。そこで Tukey の HSD 法を用い
表3
て多重比較を行ったところ,大問3とその他の問題
大問ごとの回答欄に記述があった問題の数
との間に有意差がみられた。また,大問2,大問3,
の平均値と標準偏差
大問4の間ではどの組み合わせでも有意差はなかっ
平均値
標準偏差
大問1
2.81
1.57
大問2
2.22
1.06
大問3
1.28
0.85
大問4
1.44
0.68
た。自己効力感の多重比較の結果を図1に示す。
表2
大問ごとの自己効力感の平均値と標準偏差
平均値
標準偏差
大問1
3.13
0.75
大問2
2.47
1.02
大問3
2.16
0.63
大問4
2.37
0.94
記述があった問題数の
多重比較の結果 (*p<0.05)
4
自己効力感の
多重比較の結果 ( *p<0.05)
4
3.5
3
*
*
*
*
3.5
3
*
*
*
2.5
2
2.5
1.5
2
1
1.5
1
図1
大問1
大問1
L-1
大問2
L-2
大問3
H-1
大問4
H-2
図2
大問2
大問3
大問4
大問ごとの回答欄に記述のあった問題数の
大問ごとの自己効力感の多重比較の結果
多重比較の結果
2)大問ごとの解答欄に記述があった問題の数
5. 考察
についての結果
これは,各大問で提示した例題のうち,大問1の
大問ごとの「解答欄に記述があった問題の数」の
例題だけは与えられた式中に𝑥, 𝑦以外の文字を含ま
125
日本科学教育学会研究会研究報告
ないため,調査協力者に簡単だと感じられた可能性
Vol.28 No.7(2014)
Press.
が考えられる。また,大問2は,大問3,大問4と
3) 速水敏彦(2012)感情的動機づけ理論の展開
の間に有意差がみられなかった。大問2,大問3,
や
る気の素顔,株式会社ナカニシヤ出版,61-62.
大問4は,与えられた式中に𝑥, 𝑦以外の文字を含み,
4) 桜井茂男(1994)第 3 章 1 人ひとりを理解する
問題を実際に解く前の調査協力者にはやや難しいと
(河野義章(編著)(1994) 教育心理学,48-49,
判断されていることが原因の一つとしてと考えられ
東京:川島書店).
る。 しかし,実際には,
「解答欄に記述があった問
題の数」の結果によれば,学習者じゃ,大問2は問
参考文献
題1と同等の数の問題に取り組めている。
(1) 星野泰也(2006)改訂版 チャート式 基礎から
の数学Ⅰ+A,東京:数研出版.
6.本研究のまとめ
(2) 川中宣明・ほか 16 名(2007)改訂版 数学Ⅰ,
本論文では,高校生に二次関数の単元の調査問題
東京:数研出版.
と,自己効力感を問う質問紙を用いて,数学の問題
の難易度によって自己効力感はどのような影響を受
けるのかを明らかにすることを試みた。
提示した例題の中に𝑥, 𝑦以外の文字が含まれてい
た大問2の自己効力感がやや低めに回答された。し
かし,その問題で解答欄に記述のあった問題数の調
査結果をみると大問1と同様の結果がみられた。こ
のことから, 𝑥, 𝑦以外の文字を含むことが自己効力
感に影響する可能性が示唆された。見た目では問題
を解ける自信はあまりなくても,実際に解いてみれ
ばできる問題もあることを示しているので,できる
という自信を育成し,すぐに諦めないよう指導する
ことが重要である。
7.今後の課題
今回の調査では二次関数の単元の限られた問題の
みに対しての自己効力感を質問紙を用いて調査を行
い,𝑥, 𝑦以外の文字を含むことが自己効力感に影響
を与えることが示唆された。今後は,他の問題でも
同じようなことが言えるのか研究していきたい。
引用文献
1) Bandura, A.(1977)Self-efficacy: Toward a
Unifying Theory of Behavioral Change ,
Psychological Review,84(2),191-215.
2) Bandura, A.(1994)Self-efficacy,Encyclopedia
of human behavior ,4,71-81,New York:Academic
126
日本科学教育学会研究会研究報告
Vol.28 No.7(2014)
数学的活動を取り入れた結び目理論の教材研究
―ひねる! ひっぱる! ひっこめる! の実現を目指して―
Lesson Study with Mathematical Activities Focused on Knot Theory
掘江真由
HORIE, Mayu
御園真史
湯浅里保
新田緑
YUASA, Riho
NITTA, Midori
小浪吉史
MISONO, Tadashi
KONAMI, Yoshihumi
島根大学
Shimane University
[要約] 本研究では,高校生を対象に結び目理論を題材とした授業を行った。針金入りシリコンチューブで
空間の結び目の教具を製作した。授業ではそれを使い,生徒自身の手でライデマイスター移動(同値変形)を
行い,結び目の分類を行う活動を行った。今回は,結び目の分類に必要な不変量の概念を理解してもらうた
め,まず結び目の分類を自由に行ってもらった。そして,共通な性質を生徒それぞれで考えてもらい,その
後見つけた共通な性質が結び目理論の不変量であることを伝えることで,不変量がどんなものかをきちんと
理解してもらおうと考えた。
[キーワード]
1
結び目理論, 不変量, 数学的活動, 分類
はじめに
変量の多項式の計算は,高校生には十分可能であるとして
いるが,実際,生徒が作業した際には,間違えずに多項式
島根大学教育学部数理基礎教育専攻では,地域の高校生
を求めるのには計算が大変であったり,求める計算の説明
を対象とした Spring School of Mathematics というイベ
に戸惑いが見られる場面があった。そこで,私たちは,不
ントを実施しており,学生で企画した数学の授業を実施す
変量がどんなものかを生徒につかんでもらうために,分類
る活動を行っている。本年は平成 26 年 3 月 8,9 日に島根
を先に行う授業を実施した。分類を先に行うということ
県・鳥取県の高校 1,2 年生を対象に活動を行った。本研究
は,生徒の一つ一つの発見が大事になってくる。そこで,
では,そこで実施した位相幾何学の分野の 1 つである「結
瀬尾 (2008) の研究で重視されていた数学的活動が関わっ
び目理論」を扱った授業について報告する。これまでも,
てくる。
「結び目理論」についてはいくつかの実践事例がある。
高等学校指導要領解説
数学
理数編 [6] では,
例えば,瀬尾 (2008) は,高校で数学的な結び目理論を
教える教育的な重要性を考えること,および数学的な活動
数学的活動とは,数学学習にかかわる目的意識を
を通して結び目理論を教える可能性と利点を議論すること
持った主体的な活動であり,高等学校では特に次
を目的にしている。結び目不変量 (つまり,絡み数,彩色
の活動を重視している。
数,ジョーンズ多項式) の概念を学んだ後に,学生は実験
(1) 自ら課題を見出し,解決するための構想を
または調査によって結び目の様々な特性を見つけ,それら
立て,考察・処理し,その過程を振り返っ
を確かめ,一般化し,研究結果を発表するという活動につ
て得られた結果の意義を考えたり,それを
いて報告している。2 時間 ×5 回で構成されている。[4]
発展させたりすること。
大島 (2013) では,2 つの結び目が異なることをいうに
(2) 学習した内容を生活と関連付け,具体的な
事象の考察に活用すること。
はどうしたらよいかをジョーンズ多項式を用いて考える。
結び目を変形してもジョーンズ多項式が変わらないことか
(3) 自らの考えを数学的に表現し根拠を明らか
ら,図形に対して変形しても変わらない量,つまり不変量
にして説明したり,議論したりすること。
があることを学ぶ。[2]
(文部科学省,2009)
柳本,他 3 名 (2014) では,数学や文字などの知識を必
要としない結び目理論による ipad ゲーム「領域選択ゲー
ム」を用いて,ゲームが及ぼす幼児の能力開発への影響を
分類を先に行うことで,生徒自身が主体的な活動をし,
新たな発見をするという,数学的活動も重視していく。
検証している。その結果,最小手数でクリアした子どもは
24 名中 21 名に達するなど,文字や数字の知識がなくても
数学的思考が可能であることが示唆された。[7]
2
瀬尾 (2008) の研究では,不変量を先に定義し,そこか
授業の目的
1. 空間の結び目,平面の結び目を教具として使うことに
よって,生徒主体的な活動を促す
ら結び目の分類を考える活動を行っていた。そこでは,不
127
日本科学教育学会研究会研究報告
2. 結び目を分類するために必要な不変量という概念に生
徒自身が気づくように仕向ける
Vol.28 No.7(2014)
同型:2 つの与えられた結び目が同じ (同型) であるとは,
それらを(伸び縮みや変形可能なひもとみなして) あやと
りの要領で同じ形に変形できるということである。言いか
ような授業を構成することを本研究の目的とする。
結び目理論に限らず,気付かないうちに自分の視点で身
の回りの様々なものを分類していることがある。その時に
は,必ず自分なりの視点で共通する性質を見出そうとして
いる。そこで,結び目を分類したときには,その共通する
性質が不変量であることを伝えることによって,結び目理
論における不変量の概念をきちんと理解してもらおうと考
えた。上記のことからも,私たちの目的である生徒自身が
気づく授業をする為の活動として,数学的活動が有効だと
思われる。
えると, それらを(伸び縮みや変形可能なひもとみなして)
有限回のライデマイスター移動により移りあうことである
(河内 2010[3] )
。
ライデマイスター移動 (同値変形):2つの結び目図
式が同じ結び目を表わす必要十分条件は、本質的に「ひね
る,ひっぱる,ひっこめる」の言葉で表現できるような 3
つの局所変形を有限回施すと移りあうことである。この局
所変形をライデマイスター移動という(今井 (2008)[1] )。
不変量:結び目全体の集合からある集合,たとえば,数
の集合とか,多項式の集合とか,群などへの写像で,同じ結
び目には同じ値を対応させるものをいう(今井 (2008)[1] )
。
3
結び目理論とは
私たちが今回扱った結び目理論とは,位相幾何学 (トポ
4
ロジー) の一分野であり,現在活発に研究されている分野
である。
河合 (2010) によると,「結び目とは, 3 次元空間内に置
かれた 1 本のひもの状態のことである。数学では結び目は
閉じたひもとして考える。数学研究としての結び目理論の
主要目的は,(1) どのような結び目があるかを研究し,そ
れらを重複なしにリストアップすること,(2) 2 つの与え
られた結び目が,同じ (同型) かどうかを判定することが
この授業では,結び目を 3 次元空間の中で捉えやすくす
るために, 針金入りシリコンチューブで空間の結び目を作
成した (図 1)。このような具体物を操作することで,「ひ
ねる,ひっぱる,ひっこめる」のライデマイスター移動が
しやすくなる。針金入りシリコンチューブの作り方を付録
7.1 に示す。
授業は 3 時間構成とした,本授業の学習指導案は付録 7.2
に示す。
挙げられる」[3] とある。今回の授業では,(2) の活動を一
部行ってもらうことで,結び目理論という生徒にとって新
学習指導案を作るにあたり,目的達成のため,留意した
点を以下にいくつか挙げる。
たな分野に触れてもらいたいと考えた。
同型というのは,同値関係の一種であるが,一方で「同
値」ということばは,数学 I の「集合と命題」の単元で取り
上げられている。それとの違いを意識しながら結び目理論
第 1 時に「4. 分類する結び目を射影図に表す」という活
動を行っている。これは空間ではそれぞれの特徴が見えに
くい結び目を見やすくし,分類をしやすくするために行っ
た活動である。
での「同型」の理解を深めさせたい。これらのことより,
結び目理論は高校生が今まで学んだことにも結びついてお
第 1 時の「5. 結び目を自由に動かしてみる」という活動
では,結び目が変形できることを知る。
り,また,数学的活動を取り入れやすい題材となっている
と考えられる。
このような授業を展開するメリットは以下の 3 つである。
第 1 時の「6. 結び目を分類する」という活動では,生徒
に自由に分類させることによって,生徒それぞれで様々な
意見が出ることを意識した。
第 2 時において「9. 語句についてまとめる」という活動
1. 結び目理論という新たな分野に触れることができる
こと
2. 数学への興味・関心を高めることができること
3. 自分で調べてみようという意欲を引き起こさせる
ここで,結び目理論の用語についていくつか定義して
おく。
結び目:3 次元空間内に置かれた 1 本のひもの状態の
こと。 数学では結び目は閉じたひもとして考える(河内
(2010)[3] )。
射影図:空間内の結び目を平面の上で表したもの(村上
(1990)[5] )。
授業の流れ
があり,ここで語句の定義を行っているが,このように具
体物による操作活動のあとに定義を学習することでその意
味を体験と結びつけて理解することができる。また,新し
い分野を知ってもらうためには,複雑な式ではなく,わか
りやすく,かつ,正確な言葉で話すことが大切であると考
えた。
第 2 時の「11. 結び目を分類し,共通する性質を見つけ
る」という活動で,もう一度分類をやってもらったのは,
第 2 時における 9. の活動で学んだ語句を意識しながら結び
目を分類してほしいからである。5. の活動では自由に動か
していた変形が,ライデマイスター移動の 3 つの変形(ひ
128
日本科学教育学会研究会研究報告
ねる,ひっぱる,ひっこめる)であることを変形一つ一つ
(2) 分類の基準を決めないことで,交点数で分類する生徒
に確認してほしいと考えた。
第 3 時の「14. 共通する性質=不変量だということを説
明する」においては,最後に不変量という言葉を出すこと
Vol.28 No.7(2014)
や,結び目そのものの形で分類する生徒など様々な共
通な性質が出てきた。
(3) 学習指導案の第 1 時の「6. 結び目を分類する」では,
1 回目の分類終了後,今まで出てきた語句の定義の説
明や,自由に動かしてもらっていた動きが,実はライ
デマイスター移動 (同値変形) だということを伝えた。
で,今まで自分が見ていた共通な性質が結び目理論におけ
る不変量だということを理解しやすいと考えた。
そして,学習指導案の第 2 時の「11. 結び目を分類し,
共通する性質を見つける」では,交点数を増やした 2
回目の結び目の分類をしてもらった。そこでの生徒の
活動では,ライデマイスター移動を意識して動かして
いるような様子は見られなかった。
(4) 生徒から授業の最後に,「結び目が 簡単 とはどう
いうことか。どうすれば 簡単 だとわかるのか。そ
れを調べる公式のようなものはあるのか。」という質
図 1: 結び目のモデル
問が出た。自由に変形する段階で,
「結び目を 簡単
にしよう」と言っていた私たちの言葉が曖昧なために
出た質問と思われる。
考察
6
6.1
教具を利用して
今回の授業のように,空間にある結び目の針金入りシリ
コンチューブを教具として配布したことで,興味を持って
すぐに作業に取り掛かることができていた。また,変形し
た形がそのまま残ることから,どう変形したかが視覚化で
図 2: 発表ホワイトボード
きた。射影図も同時に扱うことによって,平面で見る結び
目と空間で見る結び目を比べることができた。今回,そこ
に注目する生徒はいなかったが,空間の結び目を見て,分
類する生徒もいたかもしれない。成果の (2) より,何を同
5
成果
じとみるかは人それぞれであり,それを決めないことで,
様々な観点で見ることができていたと思われる。
当日は,高校生 2 人が参加してくれたが,人数が少な
実際に動かしてみるという点では,結び目は良い教材で
かったため,保護者の方 1 人,大学生 3 人の計 6 人を対象
あると思われる。しかし,語句の説明では,それぞれの定
に授業を行った。2 つの班に分かれてもらい,それぞれの
義を言葉で説明するのには限界があり,私たちはなるべく
班で活動を行ってもらった。
わかりやすい言葉を選んで話していた。その為,授業中に
授業全体や,生徒の活動をビデオで録画し,授業後に協
議を行った。ここでは、その際に気付いた点を主に 4 項目
話す言葉も限定されたため,成果 (4) にあるように,曖昧
な言葉になってしまうことがあった。
あげる。
(1) 学習指導案の第 1 時の「4. 分類する結び目を射影図に
表す」や,第 2 時の「10. 新たに分類する結び目を射影
図に表す」で生徒に渡した結び目は,最小交点数が様々
な結び目を変形させた形で渡していた。そこから,自
由に変形して分類する活動を始めると,生徒たちは自
然に一番簡単な形,つまり交点数が最小になるような
形に変形してそれを分類し始めた。すなわち,無意識
に変形する前と後の形が同じであると自分の中で認め
ていると思われる。
結び目に関連する用語の定義を理解してもらうのは,な
かなか難しいと思われる。成果 (3) より,ライデマイスター
移動,つまり同値変形を意識して結び目を動かしている様
子がなかったのは,成果 (1) より,結び目の変形前と変形
後が同じであると認識しているため,その過程の移動は重
要でないと思っているためではないかと思われる。結び目
の変形がライデマイスター移動だということを意識させる
ためには,変形するときに自分がしている一つ一つの動き
がライデマイスター移動のどれに当てはまるのかを考える
ような授業が必要だと思われる。
129
日本科学教育学会研究会研究報告
6.2
目的の達成
成果 (1) より,ただ教師の説明を聞くだけの授業ではな
Vol.28 No.7(2014)
付録
8
8.1
作り方
く,目的意識を持った活動ができていたように思われる。
◆準備物
また,それぞれの班の考えを発表することによって,自分
燃料用シリコンチューブ (内径 3mm,外径 5mm),針
の考えとは違うものが出てきたときに,なぜそう考えられ
るのかを意識し,自分の考えを発展させることができる。
金 (1.6mm),糸,針,ペンチ,はさみ
このような数学的活動を取り入れた生徒主体の活動ができ
◆作り方
たように思われる。
また,成果 (2) より,生徒自身の手で結び目を分類する
ことによって,生徒それぞれの分類の観点があることに気
付く。それが不変量であることを授業の最後に伝えること
により,生徒が結び目における不変量が何かを知ることが
できた。
7
まとめと今後の課題
1. シリコンチューブを,作りたい結び目の長さの分だけ
切り取る。
2. シリコンチューブの穴に,切る前の針金を通していく。
3. 反対側まで通ったら,両端の針金を少し出しておいて,
ペンチで針金を切る。
4. 作りたい結び目の形を作る。
5. シリコンチューブの両端に,針でそれぞれ 4 つの穴を
開け,両端の針金を反対側のシリコンチューブにそれ
ぞれ入れて,そこに糸を通して縫って閉じる。
結び目理論は,数学的活動を行うのに良い教材であると
いえる。結び目理論は何を取り上げるのかによって,活動
は様々であり,多様性がある。今回は,自分が考えた観点
8.2
で分類してもらったため,不変量が人によって様々であり,
ある不変量に着目して結び目をどう分類できるかを考える
活動は効果的であったと考える。また,それぞれの班で考
えたことを発表する機会があったが,そこからお互いの意
見を聞き,議論する活動を行うことも考えられる。
指導案
ここに Spring School で行った授業の指導案を載せる。
3 時間構成になっており,それぞれの時間の目標を記す。
1/3 時間目目標:結び目を空間から平面に図として表すこ
とができる。
空間の結び目をつくることで,結び目とはどういうもの
1/3 時間目
かを意識できたが,射影図に表した平面図もあり,分類す
学習場面 (・:生徒の取り組み/◎:予想される生徒の反応 ○教師の支援)
る際にはどちらも同じものとして考慮すると,混乱するの
0
ではないかと授業時には心配したが,そのような混乱はな
かった。
1. 結び目の定義を知る。
◎リボン ◎あやとり ◎くつひも
◎ネクタイ
授業の観察者からは,結び目の日常との関連や,由来,
◎アウトドアで用いる結び方
・結び目の定義をワークシート 1 にまとめる。
他の分野との関連など,授業の初めの方でこれらを説明す
○日常生活を思い浮かべて,
「結び目」と言われ
ることで,もっと興味をもってとりかかってくれると思わ
たらどのようなものをイメージするのか問う。
れるという意見があった。
○日常生活の中での「結び目」と数学での「結
以上のことから,今後の課題を以下に述べる。
び目」を比較しながら定義を説明する。
より数学的活動を生徒に行ってもらうためにも,生徒同
○このとき,針金入りシリコンチューブで作っ
士で議論ができるような時間を設けたい。今回は,時間も
た結び目 (交点数 3,0,5,8) を提示し,各グループ
少なかった為,お互いの意見を聞く活動はなかったが,生
にも配布する。
徒同士で話し合うことで,また新たな意見が生まれる可能
10
性があると考えられる。
2. 現在行われている結び目理論の研究について
知る。
また,今回は 1 つの不変量に注目することなく,自由に
○結び目理論やその起源,結び目理論の研究に
結び目を分類してもらったが,どれか 1 つの不変量に注目
ついて話す。
し,同値変形が行われても,本当に不変なのかを確かめる
○結び目理論の研究の一つに,結び目の分類が
ような活動を行いたい。そうすることで,同値変形の一つ
あることを説明し,本時では実際に結び目を分
一つがライデマイスター移動だということを意識しながら
類してみるということを伝える。
変形ができるのではないかと思われる。
130
日本科学教育学会研究会研究報告
Vol.28 No.7(2014)
3. 提示した結び目を平面の射影図に表す。
○射影図の必要性について説明する。
・グループごとにまとめたホワイトボードを見
○ワークシート 1 を使うことを伝える。
とめる。
○空間の結び目を平面の図に表した図が射影図
○発表の前にそれぞれのグループのホワイトボー
であることを説明する。
ドをタブレットで撮影しておく。
・射影図のかき方を学ぶ。
○時間が足りないようであれば,2 時間目の最
・射影図をかくときのルールをワークシート 1
初でも話し合いの時間を設ける。
ながら,各自のワークシート 3 にもそれぞれま
にまとめる。
○以下のルールについてまとめ,射影図のかき
方を全体で確認する。
2/3 時間目目標:結び目を空間で捉え,ライデマイスター
移動を使って同値変形をすることができる。
〈ルール〉
2/3 時間目
(1) ある 1 点から見た図をかく
(2) 2 点の重なりは上下がわかるようにかく
0
(3) 3 点の重なりがないようにかく
(4) 曲線が自分自身と接しないようにかく
けるが,どのグループも発表の準備が整ってい
○射影図をかくときのコツを紹介する。
れば先に進める。
○交点数 3 の結び目を例に,前で実際にかいて
・説明を聞きながら実際に真似してかいてみる。
8. プレゼンを行う。
・グループごとのホワイトボードをスクリーン
に映して,結び目の分類についてグループごと
・結び目 (交点数 0,5,8) をワークシート 2 にか
に発表する。
いて練習する。
○分類に関して、明らかな間違いがないかどう
○ワークシート 2 に各自かいてみるよう促す。
か確認し、間違いがあれば訂正する。
4. 分類する結び目を射影図に表す。
○他の班の分類と比較する場合は,ホワイトボー
○分類で使うカードを結び目の数だけ各グルー
ドを黒板に貼り,話し合う。
10
みせる。
20
プに配布する。
20
9. 語句についてまとめる。
・グループで協力して、配布したカードにすべ
・スクリーンを見ながらワークシート 4,5 にま
ての結び目 (交点数 4,5,6) を 1 枚ずつ射影図に
とめる。
表してカードを完成させる。
○スクリーンを使って説明する。
○前で例を提示しながら,カードの作り方を説
○ライデマイスター移動については,移動のパ
明する。
ターンについて 1 つずつ確認し,実際に結び目
○このとき,カードは表面だけ使うこと,結び
を使って動かしてみる。
目に貼ってあるシールと,カードに貼ってある
〈語句〉同値,同値関係,同値変形,
シールが一致するようにカードを作ることに注
ライデマイスター移動,交点数
意するよう促す。
30
7. 結び目を分類する。
○ 1 時間目の時点で,時間が足りないグループ
があるようであれば,ここでもう一度時間を設
35
10. 新たに分類する結び目を射影図に表す。
○机間支援をして,きちんと射影図に表せてい
○分類で使うカードを結び目の数だけ各グルー
るか確認する。
プに配布する。
5. 結び目を自由に動かしてみる。
・グループごとに結び目を自由に動かしてみる。
・グループで協力して,配布したカードにすべ
○結び目を切らないというルールのもとに,自
してカードを完成させる。
由に変形してみるよう促す。
○ 1 回目の分類のときと同様,結び目を射影図
6. 結び目を分類する。
・グループごとに自由に分類して,カードを使
いながらホワイトボードにまとめる。
○このとき,カードは表面だけ使うこと,結び目
ての結び目 (交点数 6,7) を 1 枚ずつ射影図に表
に表してカードを完成させることを説明する。
に貼ってあるシールとカードに貼ってあるシー
ルが一致するようにカードを作ることに注意す
るよう促す。
131
日本科学教育学会研究会研究報告
○机間支援をして,きちんと射影図に表せてい
45
[2] 大島和幸,女子中高生 夏の学校 2013 〜科学・技術者
るか確認する。
のたまごたち〜ポスターセッション,
「結び方と数学」
,
11. 結び目を分類し,共通する性質を見つける。
・グループごとに自由に分類して,1 回目の分
類のときと同様にホワイトボードにまとめる。
日本数学会,数学通信 18(3),6-11,2013 年
○ 1 回目の分類のときと同様,結び目を切らな
いというルールのもとに変形し,分類するよう
促す。
・分類したあと,それぞれのグループの共通す
[3] 河内明夫,結び目理論の科学への応用‐プリオン分子
モデルとこころのモデルを中心として,2010 年,日本
数学会,数学通信 14(4), 26-45
[4] 瀬尾祐貴,
「結び目の数学」の教材化について―高等学
校の実践を踏まえて―,2008 年,科学教育研究,32(2),
る性質についても考え,ホワイトボードにまと
める。
○また,今回の分類では,分類してできたグルー
プごとに共通する性質についても考えるよう指
72-84
[5] 村上斉,結び目のはなし,西原昌幸,1990 年
[6] 文部科学省,高等学校学習指導要領 数学 理数編,実
教出版株式会社,2009 年
示する。
・グループごとにまとめたホワイトボードを見
ながら,各自のワークシート 6 にもそれぞれま
[7] 柳本朋子,河内明夫,大西慶一,野崎祐子,結び目に
よる数学の幼児教育の試みについて,2014 年,日本教
とめる。
育工学会,研究報告集,JSET14-1,265-269
○発表の前にそれぞれのグループのホワイトボー
ドをタブレットで撮影しておく。
3/3 時間目目標:結び目を分類し,共通する性質を見つけ
ることができる。
3/3 時間目
0
12. 結び目を分類し,共通する性質を見つける。
・前時の活動の続きを行う。
15
13. プレゼンを行う。
・グループごとのホワイトボードをスクリーン
に映して,結び目の分類についてグループごと
に発表する。
○分類に関して,明らかな間違いがないかどう
か確認し,間違いがあれば訂正する。
○他の班の分類と比較する場合は,ホワイトボー
ドを黒板に貼り,話し合う。
35
14. 共通する性質=不変量だということを説明
する。
○不変量については,トランプを例としてとり
あげ,補足説明をする。
40
Vol.28 No.7(2014)
15. まとめる。
○本時の内容が現在の結び目理論の研究に使わ
れていることを紹介し,同値関係について学校
の授業で学習した内容と結びつける話をする。
・今日学習したことや感想をワークシート 7 に
各自記入する。
参考文献
[1] 今井淳,結び目の数学,2008 年,日本数学会 数学通信
13(3), 5-22
132
日本科学教育学会研究会研究報告
Vol.28 No.7(2014)
アニメーション教材を利用した中学校数学科第3学年「標本調査」の授業実践
Practice of a Mathematics Lesson in “Sample Survey” in the Use of Animation
佐渡由季子*
SADO, Yukiko*
御園真史**
MISONO, Tadashi**
島根大学大学院*
島根大学教育学部**
Graduate School, Shimane University*
Faculty of Education, Shimane University**
[要約]平成 22 年の学習指導要領改訂により中学校第 3 学年数学科に復活した「標本調査」の指導は,過去の指導と
は異なり,活用型や問題解決型の学習が求められている.佐渡・御園(2014)は問題解決型の「標本調査」の授業に誰
でも取り組めるようにするために作成したアニメーション教材を作成し,SPECC モデルという数学の問題解決型の授
業モデルに基づいた授業をデザインした.本稿では,その授業デザインに基づいて授業を実施した結果について報告す
る.授業の最後に行った転移課題では高い正答率が示され,多くの生徒が学習内容を理解したと考えられる.一方で,
学習内容を理解していない可能性がある生徒もいたため,そのような生徒への支援が必要であったと考えられる.
[キーワード]標本調査,アンカード・インストラクション,SPECC モデル
1.はじめに
性が示されている.
標本調査は平成 20 年の学習指導要領改訂において,再
また,この「標本調査」の学習においても,
「母集団か
び中学校 3 年生の内容として取り扱われることになった
らその一部を取り出して整理し処理することで,全体の
が,指導と学習について以下の点で異なる.
傾向を推し量れることを体験的に理解できるようにする
2008 年の中央教育審議会(答申)の中で,算数・数学
ことが大切」
(文部科学省,2008:52)であると述べられ
科の改善の基本方針の一つとして,
「子どもたちが算数・
ている.
「現場教師はその適切な対応には苦慮することも
数学を学ぶ意欲を高めたり,学ぶことの意義や有用性を
考えられる」
(景山,2011)以上のように,
「資料の活用」
実感したりできるようにすることが重要である.そのた
の考え方は以前と大きく変わることとなった.したがっ
めに,
(中略)学習し身に付けたものを,日常生活や他教
て,過去に「資料の整理」について指導経験がある教師
科等の学習,より進んだ算数・数学の学習へ活用してい
も,この変更点に留意して指導する必要があると考えら
くことを重視する」と示されている.これを受けて,学
れる.
習指導要領では標本調査の指導について,
「日常生活や
しかし,問題解決型の統計の指導を行う際に,どのよ
社会における事象に関する問題解決を重視し,生徒の
うなデータや題材を用いればよいのか,また,それらを
活動を中心に展開されるようにする」と述べられてい
どう活かして授業をデザインしていけばよいのかという
る(文部科学省,2008:128).
観点での情報が少ない.本研究の前段階として,アニメ
このような流れを受け,現在の学習指導要領では,以
ーション教材の開発とそれを用いた授業のデザインを行
下本研究で扱う「標本調査」の単元を含む領域の名称に
っている(佐渡・御園,2014)
も「資料の活用」が用いられるようになった.これは,
「こ
そこで,本稿では,その授業デザインに基づいて授業
れまでの中学校数学科における確率や統計の内容の指導
を実施した結果について報告する.
が,資料の『整理』に重きをおく傾向があったことを見
2.SPECC モデル
直し,整理した結果を用いて考えたり判断したりするこ
との指導を重視」
(文部科学省,2008:49)した結果であ
上記の視点に基づき,佐渡・御園(2014)は,授業デ
る. つまり,資料の整理のスキルの習得も大切であるが,
ザインに SPECC モデルを用いた.SPECC モデルとは,
それを活かし,主体的な問題解決に取り組むことの重要
御園(2014)が提唱した数学的活動を主体とした問題解
133
日本科学教育学会研究会研究報告
Vol.28 No.7(2014)
の探求」での活動をもとに,グループで結論を出す段階
決学習を実現するための授業モデルである.
である.結論の正しさはさほど重要ではなく,各グルー
SPECC モデルは,
「状況の共有 (situation sharing) 」
,
「問
題の定義 (problem definition) 」
,
「問題空間の探求
プで出した解にどのような違いがあるか,それはどうし
(exploration in the problem space) 」
,
「結論づけ
て生じたのか,問題解決に用いた方法に遡って議論する
(concluding) 」
,
「概念形成 (concept generation) 」の 5 つか
方が好ましいといえる.
第 5 段階の「概念形成」は,学習者にとっては最も重
ら構成される.
第 1 段階の「状況の共有」では,なぜその問題を解決
要な段階である.特に,多くの数学の授業は,必要な用
する必要があるのかをクラス全体で共有する段階である.
や概念を授業の最初に説明し,その後,それを使って問
状況共有の方法としては,教師の口頭による,情報提示
題を考えることが多い.その流れでは,何のためにその
のほか,文書での提示,マンガによる提示,アニメーシ
概念を学ぶのかという目的が見失われてしまう.そこで,
ョンや実写などのビデオ,劇などによる提示が考えられ
SPECC モデルでは,最後の段階に概念形成の場を意図的
る.これらのメディアを駆使することによって,問題解
に設定する.
決のための豊かな情報が,後に学習者が探究する問題空
学習者は,これまでの問題解決過程で考えたことをベ
間に埋め込まれることになる.このような問題空間の構
ースにし,そこで学ぶ概念について,授業の最初で天下
築は,学習の真正性を高めるほか,なぜその問題を解決
り的に概念について説明するよりも,より実感をもち,
しなくてはならないのかという意味がより一層はっきり
深い理解につなげることができると考えられる.
し,問題解決への動機づけを高めることにつながると考
SPECC モデルでは,授業を受ける際の生徒の既有知識,
えられる.
それを受けて課題に対する想定される議論および導かれ
る結論,SPECC モデルの最後の段階で形成される概念に
このような考え方はアンカード・インストラクション
という教授モデル CTGV(the Cognition and Technology
ついて,予めコンセプトマップを書くことが推奨されて
Group at Vanderbilt)による the Jasper project がある.The
いる.これにより,より生徒の実態に即した,現実的な
Jasper プロジェクトでは,
「アンカード・インストラクシ
授業デザインが可能となる.
ョン」に基づく実写によるストーリービデオを開発して
3.アニメーション教材の開発
いる.アンカード・インストラクションとは,ストーリ
佐渡・御園(2014)は,標本調査の単元の 1 時間目(導
ーあるいはビデオというアンカー(錨)で指導と学習を
macrocontexts につなぐ方法である (CTGV,1990).ここで,
入)の授業で扱うことを目的とした「出口調査」を題材
macrocontexts は,microcontexts と対比して使われ,現実
にしたアニメーション教材を開発した.アニメーション
的で興味を引き,教師と生徒が探究することができるよ
は以下の概念形成を促進することを目指している.
うな問題空間であるとされる.一方,microcontexts とは,
・標本調査,全数調査,母集団など,標本抽出に関わる
教科書の文章題のように,一つ一つが切り離された状況
基本的な概念
を持つ問題群のことである.
・標本の選び方に関する概念(標本を選ぶときには,母
第 2 段階の「問題の定義」は,第 1 段階の「状況の共
集団の性質をよく表すように適切に標本選ばなければな
有」を受け,その時間に解決すべき問題を明確にする段
らないことや,いくら多く標本をとっても,標本の抽出
階である.定義の方法は,学習者間で協議の上,何を解
の仕方が適切でなければ,よりよく推測することはでき
決すべきかの合意形成を行ってから,問題を改めて明確
ないことなど)
に定める方法や,第 1 段階の最後に提示する方法など多
アニメーション教材のストーリーを以下に述べる.
数考えられる.
ある日主人公である中学生の誠斗は,お父さんの衆議
第 3 段階の「問題空間の探究」では,問題解決を目指
院選挙の投票について行く.投票後,お父さんがテレビ
して,学習者が議論や作業を通して活動を進める段階で
局の出口調査を受ける.その翌々日に誠斗が通う中学校
あり,主にグループ活動等の協調的な活動を主体とする
で生徒会長選挙が行われる.立候補者は 2 人いて,その
段階である.
うちの 1 人は誠斗が気になっている女子生徒の姫花であ
る.誠斗は出口調査を行うことにより,当選者を予想す
第 4 段階の「結論づけ」では,第 3 段階の「問題空間
134
日本科学教育学会研究会研究報告
Vol.28 No.7(2014)
ることになる.一方,対立候補者である大地の友人・江
相当する.その際に議論の手立てとなるのが,主人公と
川も出口調査を行い,誠斗と江川のそれぞれが行った出
対立候補者の出口調査の集計結果の表である(表1・表
口調査の結果を姫花・大地に報告する.
2)
.
ストーリーの最後に,
「2 人のうち,どちらの結論が実
使用するデータは,各学年 3 クラス,全校(3 学年)で
際の選挙結果をよりよく予測しているでしょうか」と本
9 クラスとし,全てのクラスで男・女 15 名ずつ計 30 名が
時で解決すべき課題が提示される.
在籍し,全校生徒数が 270 名であるとした.主人公であ
以上のアニメ―ション教材のキャラクターや背景など
る誠斗は各クラスから 5 人ずつの計 45 人に調査をした.
は,コミ Po! 製作委員会・ウェブテクノロジ・コム社に
一方,対立候補者の友人である江川は,調査者数の合計
よるマンガ作成ソフト「コミ Po!」を使用し,キャラクタ
では 60 人と,主人公誠斗より標本数が多いが,女子に多
ーおよび背景画像等を書き出した.また,アニメーショ
く調査していたり,調査をしていないクラスがあったり
ンは,サイバーフロント社(解散済み)によるアニメー
する等,偏った抽出をしている.このような議論をもと
ション作成ソフト「かんたん web アニメーション 3」を
にグループで結論に迫っていく.
用いて,パラパラマンガ風に作成し,アフレコを行った.
議論を行った後,グループで結論を出す.これが,
なお,開発したアニメーション教材の長さは約 7 分で
SPECC モデルの第 4 段階「結論づけ」に相当する.ここ
ある.作成したアニメーション教材の画面例を図1に示
では,各グループの結論とその理由をクラスで共有する.
最後に,SPECC モデルの第 5 段階に相当する「概念形
す.
成」を行う.本時で獲得する標本抽出に関わる基本的な
概念は,出口調査等のアニメーション教材中のエピソー
ドと対応させることによって,より実感のある概念形成
を目指す(詳しくは,後述の表3参照)
.
さらに,
「標本の選び方に関する概念」については,
「標
本を選ぶときには,母集団の性質をよく表すように適切
に標本選ばなければならないこと」や「いくら多く標本
をとっても,標本の抽出の仕方が適切でなければ,より
よく推測することはできないこと」という概念の形成に
ついては,議論で得た結論をもとに,他の文脈でも応用
可能なように抽象化して最終的にまとめる必要がある.
図1 アニメーション教材の画面例
以上の概念形成は,
「江川くんは誠斗くんよりも調査し
た人数は多いけど,女子を多く選んだり,1 人も聞いてい
4.本研究で提案する授業のデザイン
ないクラスもあったり,かたよっているのでよくない」
授業は,SPECC モデルに基づいてデザインされた(佐
といった生徒から出た言葉とアニメーション教材の各シ
渡・御園,2014)
.
ーンを結び付けていくことが重要であると考えられる.
まず,授業の始めに,開発したアニメーション教材を
以上を踏まえ,予め想定した本時のコンセプトマップを
クラス全体で観る.これにより,生徒は,設定した問題
図2に,本時の学習指導案を表3に示す.
空間に引き込まれると考えられる.このアニメーション
5.授業実践の評価
教材のビデオを見るという活動がSPECC モデルの第1 段
階「状況の共有」に相当する.
本研究では,ある地方の大学の附属中学校 2 クラスの
その後,アニメーションの最後に提示される授業で解
生徒を対象に,佐渡・御園(2014)がデザインした授業
決すべき問題をもう一度クラス全体で確認する.これが,
の実践を行った.各クラスの生徒数は 31 人と 33 人で,
SPECC モデルの第 2 段階「問題の定義」に相当する.
計 64 名である.授業実践は平成 26 年 2 月 5 日・6 日に行
その後,問題を解決すべく,グループで議論を行う.
った。その際,生徒の議論をボイスレコーダで録音した.
これが,SPECC モデルの第 3 段階「問題空間の探求」に
また,生徒が母集団の設定の仕方と標本の抽出方法につ
135
日本科学教育学会研究会研究報告
Vol.28 No.7(2014)
いて正しい概念形成を行ったか否かを見るために,授業
ことができるかどうかを問う課題である.問(2)は,
の最後に転移課題を行った.授業の最後に行った転移課
標本を適切に選ぶことができるかどうかを問う課題であ
題の内容を図3に示す.問(1)は,母集団が設定する
る.その後,授業の感想を記述する時間を設けた.
表1 誠斗の出口調査の結果
投票された
生徒
姫花
大地
表2 江川の出口調査の結果
クラス
投票された
姫花
大地
クラス
別標本
生徒
性別
男
女
男
女
数
性別
男
女
男
女
数
1-1
2
1
1
1
5
1-1
1
0
0
2
3
1-2
2
0
1
2
5
1-2
1
1
1
5
8
1-3
2
1
1
1
5
1-3
3
3
2
2
10
2-1
1
1
1
2
5
2-1
0
1
1
5
7
2-2
3
2
0
0
5
2-2
0
0
1
2
3
2-3
0
1
2
2
5
2-3
1
4
3
7
15
3-1
2
2
0
1
5
3-1
1
1
1
3
6
3-2
2
2
1
0
5
3-2
0
0
0
0
0
3-3
1
2
1
1
5
3-3
1
3
2
2
8
得票数小計
15
12
8
10
45
得票数小計
8
13
11
28
60
45
得票数合計
得票数合計
27
18
選挙の出口調査
生徒の既有知識
選挙の出口調査
とその仕組みな
どについてはほ
とんど未知
標本調査の考え方
は未知
1 年で資料の整
理,2 年で確率を
既習
21
社会生活に
活かせる課題題材
生徒会選挙に関するア
ニメーション教材を提
示
2 種類(誠斗・江
川)の調査結果
提示
別標本
39
形成される概念
標本抽出に関わる基本
的な概念
具体例との対応
結論
データ数は少な
いが男女比など
のバランスがと
れているデータ
(誠斗)
標本の選び方に関する
概念
抽象化
議論
【課題】誠斗と江川ではどち
データ数は
多いが偏り
のあるデー
タ(江川)
らの結論が実際の選挙結果を
よりよく予測しているか。ま
たその理由は?
図2 予め作成したコンセプトマップ
136
【発問】調査対象を
選ぶときにはどんな
ことに気をつければ
良いか
60
日本科学教育学会研究会研究報告
Vol.28 No.7(2014)
表3 開発した学習指導案
段階
学習場面と生徒の取り組み
S 状況の共
出口調査を題材とするアニメーションを学級全体で
有
観る。
教師の支援と評価
○プロジェクターを使用する。
〔10 分〕
P 問題の定
ストーリーの最後に課題を提示し,本時で解決すべき
○ストーリーの最後に主題される課題を
義
問題を定義する。
確認し,学級全体で共有する。
〔5 分〕
誠斗くんと江川くん,どちらの結論が実際の選挙結果をよりよく予測しているでしょうか。また,その理由も説明し
○全校生徒の数,クラスの人数,男女の
人数はワークシートで提示する。
E 問題空間
出口調査の結果を基に班で議論を行い,結論を出す。 ○班で議論を行う前に,個人で考える時
の探究
間を設ける。
〔10 分〕
C 結論づけ
班で出した結論とその理由を学級全体に発表する。
○まずは全ての班の結論を確認し,その
〔7 分〕
<予想される結論とその理由>
後,理由を聞く。
・誠斗くん
(理由)各学年各クラスから人数のバランスがよくな
るように調査しているから。
○江川くんの方が人数が多いという意見
が出なければ,教師が投げかける。
・江川くん
(理由)江川くんの方が調査した人数が多いからより
実際の投票結果に近い。
C 概念形成
実際の投票結果を知らせる。
〔10 分〕
<投票結果>
○投票結果を配布し,誠斗くんの方が結
姫花ちゃん 169 票(当選)
果をより正しく予測していたことを確認
大地くん
する。
101 票
調査対象を選ぶときにはどんなことに気をつければ良いでしょうか。
<予想される意見>
○必要であれば,誠斗くんと江川くんが
・いくら調査する人数が多くても,うまく調査対象を
調査した人数にも注目するように促す。
選ぶ必要がある
・バランス(学年やクラス,男女の割合)よく調査対
○ストーリーの内容や前の議論で出た意
象を選ぶことに気を付けないといけない
見を概念形成へつなぐ。
・ある集団について何かを調べるとき,その集団
のすべてについて調べることを全数調査という
生徒会選挙の実際の投票結果
・集団の一部を取り出して調査し,全体の性質を
誠斗や江川が行った出口調査
推測する調査を標本調査という
・標本調査をするとき,特徴や傾向などの性質を
調べたい集団全体を母集団という
誠斗や江川の出口調査では全校
・調査のために取り出した一部の資料を
生徒が母集団
誠斗くんや江川くんが調査した生徒
標本という
が標本
137
日本科学教育学会研究会研究報告
Vol.28 No.7(2014)
7.本研究のまとめと今後の課題
附属中学校の 3 年生の生徒全体に朝食についての調査を行いた
いと考えます。
本研究では,
「標本調査・母集団など,標本抽出に関
(1)母集団は何であると考えられますか。
( )に書きましょ
わる基本的な概念」および「標本の選び方に関する概
う。
(2)
そのうち30人程度の人にアンケートを取ろうと思います。
念」の形成を目指したアニメーション教材を使用した
次のア~ウのうち標本の取り方として正しいと思うものに○を
SPECC モデルに基づく授業デザイン(佐渡・御園,2014)
つけましょう。
の実践の結果を報告した.
ア
1 組の生徒全員にアンケートを取る
イ
1 組の生徒 15 人,2 組の生徒 15 人に
母集団の設定の仕方と標本の抽出方法に関する転移
課題では高い正答率が示され,多くの生徒が本時の学
アンケートを取る
ウ
習内容を理解したと考えられる.しかし,本時の学習
各組 7~8 人くらいずつにアンケートを取る
内容を理解していない可能性のある生徒もいた.その
図3 転移課題
一つの理由として,議論の時間が短かったことが挙げ
られる.今後はストーリーのエッセンスを抽出して台
6.本研究の結果と考察
本を短くする必要があると考えられる.
転移課題の正答率は表4の通りであった.母集団の設
アニメーション教材を用いることで,生徒達は問題
定の仕方,標本を抽出するときに気を付けないといけな
空間にのめり込んで考えているような印象だった.今
いことについて,多くの生徒が理解したと考えられる.
後はより詳しい分析を行っていきたい.そして,本研
また,ある班の議論の際,図4のような生徒同士の会
究の最終目標である教師の誰もが利用できる統計デー
話が行われた.図4の班は議論の後,誠斗くんの方が結
タおよび教材の開発,および,成功する可能性の高い
果をよりよく予測していると結論を出した.その後,生
授業デザインの開発へとつなげていきたい.
徒 C は転移課題(1)を間違えていた.また,授業後の
感想に「標本は難しい」と記述していた.このことから,
引用文献
生徒 C は本時で学ぶべき内容を理解していない可能性が
1) 景山三平(2011)小・中・高における統計教育の課
伺える.
題―新学習指導要領から見えるもの―,
『広島工業大
学紀要教育編』
,10,37-43.
表4 転移課題の正答率
課題
正答率
(1)母集団の設定
76.6%
(2)標本の抽出方法
93.8%
(1)+(2)
75.0%
2) 御園真史(2014)数学的活動の指導を実現する授業
モデル「SPECC モデル」の提案,
『The proceedings of
international workshop on mathematical literacy of
university level and transition from secondary』
, 136-143.
3) 文部科学省(2008)
『中学校学習指導要領解説 数学
編』
,教育出版,49,52,128.
[A] 誰だと思いますか.
4) 中央教育審議会 (2008) 幼稚園,小学校,中学校,
[B] 誠斗くん.
[C] じゃあ,
(僕は)江川くん.
高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善
[B] 江川くんは女子ばかりに聞いてる.
について(答申)
,84.
[C] 確かに.
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/information/
[B] 誠斗くんはバランスよく聞いてる.
1290361.htm(参照日 2014.01.20)
[C] 江川くんの方がたくさん聞いてる.
5) The Cognition and Technology Group at Vanderbilt
[B] 江川くんは 3 年 2 組に聞いていないし,女子に
(1990)Anchored instruction and its relationship to
ばかり聞いてるし,一部にしか聞いてない.
situated cognition, 『Educational Researcher』, 19(6),
図4 ある班の議論の一部
2-10.
6) 佐渡由季子・御園真史(2014),SPECC モデルに基
づいた標本調査における授業デザイン,
『日本教育工
学会研究報告集』
,14(1),143-148.
138
日本科学教育学会研究会研究報告
Vol.28 No.7(2014)
表を重視した「変化の割合」の指導のあり方について
Suggestion for Teaching of “Ratio of Change” Focused on Utilizing “Tables”
柘植
守
Tsuge,Mamoru
松江市立美保関中学校
Matsue Mihonoseki Junior High School
[要約]平成21年度の全国学力学習状況調査 数学 A 問 11(3)の結果から,一次関数における変化
の割合や対応する x と y をもとに x と y の関係を表すことに課題があることがわかった。この結果を
踏まえて,
「変化の割合」の意味を理解しよさを実感できるような授業展開を実施し,直線の式を,表
を活用して求める指導のあり方を考え実施した。その結果,生徒はいったん単位量あたり量の大きさ
の見方に気づくとその考えに自信をもつことや直線の式を求めるとき表を考える手立てとする生徒が
増えた。直線の式を,表を活用して求める方法は,数学を苦手に感じている生徒にとっては取り組み
やすい傾向が見られた。
[キーワード]全国学力学習状況調査, 一次関数,変化の割合,単位量あたりの大きさ,傾き
1. 研究のねらい
2. 現行の教科書での解き方
平成 21 年度の全国学力・学習状況調査 数学 A
問 11(3)は,一次関数におけるxとyの関係を表
す式を求める問題が出題された。この問題の正答
率の全国平均は 52.3%であり,約半数程度しか正
例題1 傾きと1点の座標がわかるとき
y は x の一次関数で,そのグラフが点(1, 2)
を通り,傾き3 の直線であるとき,この直線
の式を求めなさい。
解できなかった。このことから,一次関数におけ
る変化の割合や,対応する x と y をもとに x と y
の関係を表すことに課題があることがわかった。
<解答>
傾 き は 3 だ か ら , 求 め る 一 次 関 数 の 式 を
y 3 x b ・・・① とする。
この結果の理由として,以下の2点を考えた。
・
「変化の割合」の意味を理解していないのではな
いか。また,変化の割合を考えることのよさをわ
かっていないのではないか。
・直線の式を形式的に求めることができない生徒
この直線は,点 (1, 2) を通るから,x 1, y 2
を①に代入すると,
2 3 1 b
b5
よって,求める式は, y 3x 5
が多いのではないか。
このことを踏まえて,本研究のねらいは,
「変化
の割合」を『x の値が 1 だけ増加したとき,対応
する y の値がどれだけ増加するかを表している量
と理解し,その考えをもとに,表を使って直線の
式を求めることを指導することをとした。
例題2 2点の座標がわかるとき
y は x の一次関数で,
そのグラフが 2 点(1, 2),
(5, 6)を通る直線であるとき,この一次関数
の式を求めなさい。
139
日本科学教育学会研究会研究報告
Vol.28 No.7(2014)
れ①の方が大きいと答える生徒が多い。しかし,
<解答>
求める一次関数の式を, y ax b とする。
途中で x の増加量に注目し始め, x が1増加した
このグラフは,2 点(1, 2),(5, 6)を通るから,
ときの y の増加量は②の方が大きいという意見が
傾き a は,
出る。以後,クラスの多数の生徒が②の方が大き
(6) 2 8
2
5 1
4
だから, y 2 x b
いという意見になってくる授業場面を数多く経験
グラフは,点 (1, 2)を通るから,
には,1 あたり量に直すと比較しやすいのではな
a
してきた。
これは,生徒にとって変化の仕方を比べるとき
2 2 1 b
b4
いかと考える。その理由は,生徒は変化の割合の
意味を自ら知ることができ,そのよさも実感でき
よって,求める式は, y 2 x 4
るからではないかと考える。
また, 1 あたり量,つまり x が 1 増加ときの y
<別解>
2 点(1, 2),(5, 6) を y ax b に代入して,
の増加量はいくらか問うと,「y の増えた分を, x
の増えた分で割ればよい。
」と答える。変化の割合
2つの式を, a , b の連立方程式として解く。
この別解は,形式的であるのに対し,もとの解
法は途中での操作の意味がとらえやすい
(岡本ら,
の求め方は教科書に記載されているが,生徒自ら
求め方を答えるようになる。
2012)
。
しかしながら,実態として生徒たちの多くは連
4.提案2-直線の式を表を活用して求める
立方程式で解く。それは,形式的に解くことが安
指導
易であるからと考える。結果として,意味も理解
以下,①から⑤までの問題について,表を活用
せずに,
(変化の割合)=(傾き)と覚えていたり,
して求める指導を試みた。
グラフをイメージすることなく連立方程式で解い
1)傾き,切片がわかっている場合
ていたりする生徒が多いのが実態である。
【課題1】傾き 3,切片 2 の直線の式を求めな
さい。
3.提案1-「変化の割合」の意味を理解し,
よさを実感できるような授業展開
表において, x が1増加したときの y の増加が
生徒自ら「変化の割合」の意味やよさ,そして
傾きであること, x 0 のときの y の値が切片で
その求め方を見つけるような授業展開を考えた。
あることを確認する。その上で,求める式は,
y 3x 2 とわかる。
以下のような問題を提示し,取り組ませた。
2)切片と通る 1 点がわかっている場合
① y x 2 は x が1から4まで増加する
【課題2】切片 5,点(2, 1)を通る直線の式を
と, y は3から6まで増加する。
②
y 2 x 3 は x が 2 から 3 まで増加する
求めなさい。
と, y は 7 から 9 まで増加する。
表に,切片 5,つまり x 0 ,y 5 と,x 2 ,
(それぞれの表を見せ) y の変化の仕方は,
y 1 を書く(図 1)。
①と②のどちらの方が大きいだろうか。
そこで,表から x の増加量が 2,y の増加量が4
授業開始の頃は, y の増加量にのみ目が向けら
140
であることがわかるので, x の増加量が 1 のとき
日本科学教育学会研究会研究報告
の y の増加量は2,つまり,傾きがとわかる。
よって,求める式は y 2 x 5 とわかる。
Vol.28 No.7(2014)
であるから,点(1, 2)から点(0, 4)を通ることがわ
かる。これは切片が 4 であることを示すので,求
める式は y 2 x 4 とわかる。
1
4
2
1
x
0
1
2
x
0
1
5
y
5
3
1
y
6
2
4
図3 課題 4 の表を用いた解法
図1 課題 2 の表を用いた解法
5)表と変化の割合がわかっている場合
3)傾きと通る 1 点がわかっている場合
【課題5】変化の割合が3 で,点(2, 5)を
【課題3】傾き 5,点(2, 1)を通る直線の式を
通る直線の式を求めなさい。
求めなさい。
変化の割合が3 より, x の増加量 1 のとき,y
表に, x 2 , y 1 を書く(図2)
。傾き 5
の増加量は3 である。よって,点(2, 5)から点
より, x の増加量 1 のとき,
y の増加量は 5 である。
(1, 2),そして点(0, 1)を通ることがわかる。こ
したがって,表から,点(2, 1)から点(1, 4),そし
れは切片が 1 であることを示すので,求める式は
て,点(0,9)を通ることがわかる。これは切片9
y 3x 1 とわかる。
であることを示すので,求める式は y 5 x 9 と
わかる。
1
1
x
0
1
2
y
9
4
1
1
1
x
0
1
2
y
5
図4 課題 5 の表を用いた解法
図2 課題 3 の表を用いた解法
5.検証結果と考察
1)提案1について
4)通る 2 点がわかっている場合
①
授業後の自己評価表の結果
提案 1 による授業を受けた生徒 94 名に対して,
【課題4】2 点(1, 2),(5,6)を通る直線の式
授業後の自己評価表で,「この授業を通して,
を求めなさい。
『変化の割合』を理解できましたか。」と質問し
表に,x 1, y 2 と x 5 , y 6 を書く。
表から x の増加量が 4 のときの y の増加量が8 で
た。その結果を集計したものを表1に示す。
また,主な感想は以下の通りである。
あることがわかるので, x の増加量が 1 のときの y
・最初は①だと思ったけど,②のような考えも
の増加量は2 である。つまり,傾きは2 である。
あるのが分かった。
また, x の増加量が 1 のとき,y の増加量は2
141
日本科学教育学会研究会研究報告
・y の変化の仕方は多いけど, x の変化の仕方が1
Vol.28 No.7(2014)
6.本提案と小・中・高の比の学習のつながり
「比」には図5のような小・中・高を通した教
ずつではないし・・・。やはり②が大きい。
材のつながりがあるものと考える。
表1 提案1の検証結果
また,変化の割合の意味を「x の増加量が 1 の
(n=94)
度数
割合
ときの y の増加量」であることを意識させること
5 よくわかった
30
31.9%
が,高校で微分を学んだときの生徒の理解を促す
4 わかった
39
41.5%
ものと考える。
3 だいたいわかった
16
17.0%
さらには,表を活用することによって,高校で
2 あまりわからなかった
7
7.4%
学ぶ数学を,グラフを使ってイメージしていくた
1 全くわからなかった
2
2.1%
めの手立てになるものと考える。
選択肢
②
考察
生徒は一度単位量あたりの大きさの見方に気
づくと,その考えに自信を持ち,一方の量だけで
比較する見方に戻らない傾向がある。
また,この実
践後,「変化の割合」を『x が 1 増えたときの y の
小学校5年
↓
小学校6年
↓
中学校1年
↓
中学校2年
↓
高等学校
単位量あたりの大きさ
速さ
比例定数,相対度数
傾き,変化の割合
tanθ,単位円,微分
増えた分』ととらえて考える生徒が多くなった。
さらには,2 点から直線の式を求めるとき,教科書
図5 小・中・高の比の学習のつながり
の例題にあるような解き方だけでなく,自分なり
7.今後の課題
に工夫して解く生徒が増えた。
変化の割合の意味理解の指導は,3 年次におい
2)提案2について
ても行っておく必要があるものと考える。また,
① 検証問題の結果
比を通した小・中・高の教材のつながりは,中学
平成 21 年度全国学力・学習状況調査 数学 A 問
校 1 年の「資料の整理」から,高校1年の「デー
11(3)(課題 5)の確認テストを行ったところ, 実
タ分析」までのつながりあるので,中学校での教
施校での正答率は 62.9%であった。元の問題は選
材開発をする。
択肢式であったが,本問では選択肢を提示せず,
また,他の単元でのつながり見つけ,中学校時
値を求めさせた。よって,より高い成果が出てい
における教材開発,実践をする。それが,生徒た
ると判断してよいと考える。
ちの中学校,高等学校の数学の内容に意味理解の
②
深化につながるものと考える。
考察
代数的な方法で解くことは大切であるが,それ
だけでは,表,式,グラフの関連を考えることは
参考文献
難しいと考える。この実践以後,表を考える手立
文部科学省(2008)中学校学習指導要領解説 数
てとする生徒が増えた。また,表を手立てとして
考えることは,数学に苦手意識をもっている生徒
学編,教育出版
岡本和夫ほか 3 名(2012)未来へひろがる数学 2
指導書 第 2 部詳説 朱註編,新興出版社啓林館
にとっては取り組みやすい傾向が見られた。
142
日本科学教育学会研究会研究報告
Vol.28 No.7(2014)
「初等幾何学教科書 随伴 幾何学講義」に見る
菊池大麓の幾何学授業法
Dairoku Kikuchi’s Teaching Strategy on Elementary Geometry
小浪 吉史
KONAMI, Yoshifumi
島根大学
Shimane University
[要約] 菊池大麓の著した教科書「初等幾何学教科書」(以下単に「教科書」)には,今の指導書に相当する
「随伴 幾何学講義」
(以下「幾何学講義」という)という書が付随している。「幾何学講義」には菊池が何をど
う考えて「教科書」を書いたのか,
「教科書」を用いてどのようにして指導して欲しいと考えたのかが,記さ
れている。その授業法に関連する部分を検討し,効果の期待できる授業法を浮き彫りにする。
[キーワード]
1
菊池大麓,初等幾何学教科書,随伴幾何学講義,幾何学授業法
はじめに
明治 23 年 貴族院議員。
明治 30 年 幾何学講義
カリキュラムから初等幾何学の内容が減って久しい。
しかし中等教育におけるその重要性は変わらない。そ
明治 34 年 文部大臣。
のような中で,図形の証明の指導に教員は頭を痛める。
明治 35 年 男爵。
ところで,菊池大麓の著した「初等幾何学教科書」は
第一巻
刊行
明治 31 年 東京大学総長。
明治 36 年 収賄事件で大臣を辞す。
日本初の本格的な幾何学教科書であり,これを補足す
明治 39 年 幾何学講義
る役目を持つ彼自身が執筆した「幾何学講義」という
明治 41 年〜大正元年 京都大学総長。
解説書が後に刊行されている。この「幾何学講義」で
大正 6 年 死去。享年 61 歳。
第二巻
刊行
は「教科書」でとりあげられている諸定理や問題につ
いて詳しい解説がなされているが,幾何学の授業法に
ついても触れられており,我々の悩みによい示唆を与
えてくれると思われる。本稿では「幾何学講義」の授
業に関連する 3 條を分析し,彼がどのような授業を思
い描いていたのかを探り,現代の我々への示唆を得る
ことを試みる。
2
菊池大麓 (1855–1917) 小伝
(岩田 1971[1] ) より,菊池の略歴を紹介しておく。よ
り詳しい伝記については,(小山 1999[4] ) を参照。
3
菊池の考える幾何学学習の目的
菊池の考える幾何学学習の目的,意義は,第 5 條「幾
何学の教育上の価値:論理学上の関係を教ゆるの時期」
(「幾何学講義」,p.5) によく現れていると考えられる。
そこで彼は
(1) 我々が存在する空間の性質をしっかり理解してお
くことは人生に必要なこと,であり,
(2) (幾何の学習は) 演繹推理の方法を練習するのにもっ
とも適当な場所である。
と述べている。
安政 2 年 江戸生まれ。
これらは,現代においても幾何学を学習する目的と
慶応 2 年 幕府の留学生としてイギリスへ留学 (12 歳)
。
明治 3 年 政府の命令により再びイギリスへ (15 歳)。
して挙げられている。
現代のカリキュラムでは幾何学学習の目的をいくつ
8 年間在留,ケンブリッジ大学卒業。
か設定しているが,これらの目的を対照すると,
「教科
明治 10 年 帰国,東京大学数学科を創設。
書」および「幾何学講義」は大いに参考になると考え
明治 21 年 「初等幾何学教科書」を著す。
られる。
143
日本科学教育学会研究会研究報告
4
「幾何学講義」より
Vol.28 No.7(2014)
たもの,つまり図についての演述。ここで初めて記号
が入ってくる。
本稿では授業法に関連する第 41,42,44 條の 3 つ
をとりあげる。
以下定理 1 ではすぐに証明を述べていて,作図はな
い。「教科書」にはどの定理にも必ず図が添えられて
それぞれには小見出しが付いており,第 41 條は「定
理の形式:図についての注意」(「幾何学講義」
,p.48),
第 42 條は「授業法に付ての注意」(同,p.50),第 43
條は「問題に付て:問題解式を用いる可からず」(同,
p.51) となっている。本文には番号のみかかれている。
見出しは目次のものである。ここには並べて引用する
いる。
また欄外に「定義 10」
「公理 3(a)」のようにその行
で述べたことの根拠を示している。
「教科書」はこの書き方が一貫しており,徹底した
数学書としての体裁もなしている。
ことにする。
「42. 授業法に付ての注意」
それぞれについて順に見ていこう。
42 條は「授業法に付ての注意」である。
ここではまず「最初は丁寧に定義,定理を説明して
生徒に十分了解させるようにする」。後々においても
「41. 定理の形式:図についての注意」
まずは第 41 條を見よう。
「定理の形式:図について
の注意」である。
生徒が独力では簡単に了解できないようなときにはま
ず説明する。
本條では「教科書」で扱われている定理の記述の方
法についての説明と,図の描き方についての注意が述
べられている。ここでは前者のみを取り上げる。前者
次はちょっと特徴的で,
「その後生徒に自修させる」
,
つまり自分で学習させよ,とある。
その上で教室では定義ならそれを述べさせることで,
の「定理の形式」であるが,これは,
「教科書」に掲げ
きちんと頭に入ったかどうかを確認し,定理ならまず
られている定理はここに記しているような形式で書か
一般の演述を言わせる。次に黒板に図を描かせ,図に
れているという説明である。
ついての演述をさせる。作図がある場合には説明しな
その形式は,
がら描かせる(たとえば 2 点 A,B を結びつけよ,と
(1) まず定理を一般の言葉を用いて述べる。これを一
か点 P から RS に垂線を引くなど)。その後証明をさ
般の演述 (general enunciation) という。
(2) 次に図についての説明。これを図についての演述
(particular enunciation) という。
(3) 証明に必要な作図 (construction) を指示する。
(4) そして証明 (demonstration) を与える。
せる。その際にはその各段階においてなぜその陳述が
一般の演述の「一般の言葉を用いる」というのは,
記号や数式を用いない,という意味である(なぜ「一
般の言葉を用い」記号や数式を用いないのかについて
は,21 條 (「幾何学講義」
,p.18) で詳述されているが,
ここでは触れない)。
たとえば定理 I, 1(「教科書」
,p.11) は「任意の平角
は互いに等しい」で,これが定理の演述に相当する部
分であるが,記号は用いられていない。
現代の教科書には,この定理は明示されていないが,
たとえば「対頂角は等しい」といった定理で残っている。
次に「AB,AC を一つの平角の辺 · · · 」から「· · · 等
しかる可し」までのがそこに掲げた図について説明し
144
正しいのかの根拠を聞き,答えさせる。さらにたとえ
ば「同様にして · · · 」などとあるところは詳しく聞い
て,本当に「同様である」ことを確認させる。それに
よって「自修」のときにこういったことを確かめる習
慣をつけさせる。
証明が長い場合には何人かの生徒に分担させてもよ
いし,また証明の各段階における根拠を聞くのは適宜
指名して答えさせるのもよい。
(証明の省略されている)系は必ずその証明を答え
させるようにする。
まず 41 條との対応に気がつく。この手順をきちん
と守ることで一定の理解に到達できるはず,と菊池は
考えているようだ。
授業法についてまとめると,
(1) 教師は定義,定理について説明する。
(2) 生徒に自修させる。
日本科学教育学会研究会研究報告
(3) 生徒が知得したかどうかを,定理の演述を言わせ
たり,黒板に図を描かせ,図についての演述をさ
Vol.28 No.7(2014)
菊池の構想していた授業は「授業法に付ての注意」
の最後にまとめたように 3 つのステップからできてい
せる,証明をさせる。
る。このうち 2 番めの「生徒の自修」と 3 番目の「生
徒に知得したものを言わせる」というところが我々の
の 3 ステップからなっていることがわかる。
目から見ると特徴的であることに気がつく。
実際,現代の多くの授業では「生徒の自修」の時間
は授業中には取らないし,菊池の言う「生徒が知得し
「44. 問題に付て:問題解式を用いる可からず」
たもの」とは「教科書」に書かれていることであって,
続いて「44. 問題に付て:問題解式を用いる可から
そこから生徒自身が考えたことはあまり含まれていな
ず」である。本條は「問題に付て」と「問題解式を用
いように取れる。
いる可からず」の 2 つが述べられている。
彼のいう幾何学学習の意義の 1 番目を参照すると,
ここでは前者「問題に付て」だけとりあげる。
問題は 3 種類ある。(1) 定理の後に掲げたもの,(2)
「我々の住む空間の性質を知る」という意味ではこれ
で十分であろう。
節末のもの,(3) 編末のものである。
しかしもう 1 つの菊池の幾何学学習の目的である「演
このあたりは今も昔も変わらない。また「定理の次
繹推理の方法を練習する」との関連を考えると,これ
に掲げたものはその定理を応用して解くべきもの」
,
「節
だけでは不十分に見える。
(編)末のものはその節(編)までに得られた結果を
応用して解くべき」というのも変わらない。そのため
(2) は (1) より,(3) は (2) よりやや難しい。
「教科書」はそこまで学習した生徒で普通の力のあ
るものならそんなに困難なく解き得るくらいの程度の
ところが,現代の教科書と「教科書」を比べたとき,
「教科書」には例題がないという大きな違いに気がつ
問題を選んでいる(実際若干の問題を除いてそのよう
になっている)。
それでも難しいと感じる生徒がいた場合には,どの
定理を使うかを教えるのではなく,そのヒントを与え,
助けるように教師は行動するように注意されている。
こういったことが特に記されているのは,菊池が思
い描いたようにそれが実践されていなかったからであ
ろう。つまり,問題自身を独立して考え,解こうとす
る生徒がいて,それでは問題演習をする効果が薄れる
からだろう。
く。そして「42 教授法に付ての注意」をよく観察する
と,定理が例題の役割を果たしているように見えてく
るのである。
つまり「演繹推理の方法を練習する」という意味で
は,
「教科書」の定理がその見本となり,
「生徒が知得し
たかどうか」を確かめるのは,この見本を自分のもの
にしたかどうかを確認することに相当することになる。
現代の教科書の例題は問題のための問題になってし
まっているものもままあるので,これは有意義に思え
る。実際,定理は「我々が存在する空間の性質」を表
現したものであるから,それを知ることは幾何学学習
の目的の第一に合致しており,
「例題」としても洗練さ
れた,質の高いものと考えられるので,むしろより直
截的に本質に触れることができる,とも言えるだろう。
5
議
こういったことを念頭に置きながら「44 問題に付
論
て」を読むと,ここで初めて「演繹推理の方法を練習
以上,
「幾何学講義」の授業に関連する條をあげ,内
容を見てきた。本節ではそれを元に菊池の思い描いて
た授業法はどんなものであったのかを検討する。
する」場面が設定されていることがわかる。
「教科書」の問題は「普通の生徒ならそれほど困難
なく解き得る問題が選ばれている」ので—— もちろん
まず,3 節で触れたように菊池は幾何学を学習する
それに取り組んで解くまでかかる時間は生徒によって
意義を「我々が存在する空間の性質をしっかり理解」
異なるであろうが —— 十分に「あれやこれや」を考
すること,および「推理の方法を練習するに最適当」
える機会を提供している。
としている。
現代の(特に高校の)授業が (1) に多くの時間をか
それを実現するためにここで調べた教授法は効果的
と考えられるだろうか?
け,(2) は各自に任せ,(3) は書いたものに偏っていて
口頭での場面が少ないことを鑑みると,菊池の示して
145
日本科学教育学会研究会研究報告
いる授業法にはかなり新鮮なものを感じる。
Vol.28 No.7(2014)
学教授法改良協会のシラバスを参考にして書かれてい
しかしたとえば (1) を省略し,(2) を各自の個別の時
間に任せ,(3) のみを取り上げるなら,
(人数による制
る。これらとの対比,得られる示唆を調べることは興
味深い問題と考えられる。
限は生まれるものの)数学科で伝統的に行われている
セミナーの形式となる。これは面白い符合といえる。
つまり菊池の方法はセミナー形式への発展を準備して
いるとも取れる。こういったことから,菊池の授業法
の効果は肯定的に結論することができるだろう。
では菊池の方法は実地にどれくらい実行が可能だろ
うか。一番の問題は (3) の生徒に言わせる部分にどれ
くらいの時間をかけるか,であろう。現代の授業が (1)
に偏るのは,1 つにはこの部分への授業時間の配分が
難しいからではある。
1 回 50 分という時間制限と年間の授業回数を考える
と,生徒に言わせて知得を確認する時間は取りにくい
参考文献
[1] 岩田至康編,「幾何学大辞典」第 1 巻,槇書店,
1971 年
[2] 菊池大麓,初等幾何学教科書,大日本図書,明治
31 年(第 10 版)
[3] 菊池大麓,初等幾何学教科書 随伴 幾何学講義,
大日本図書,第 1 巻,明治 30 年,第 2 巻,明治
39 年
これらは国会図書館の「近代デジタルライブラリ」
かもしれない。
しかし学習者がこの方法に慣れてくると,この部分
にかかる時間はかなり短縮できると思える。
http://kindai.ndl.go.jp/
で見ることができる。
菊池の方法を採用したとき,どれくらいの効果が期
待できるか,は実際に継続的に指導を実施してみての
判断となるだろう。
6
おわりに
本稿では菊池はどのような授業法を提案しているか
を「幾何学講義」を手がかりに検討した。それによっ
て「授業に付ての注意」の末尾でまとめたように 3 つ
のステップがあることが判明した。
また菊池の幾何学学習の目的と対照させることで,
この授業法と問題演習が一体をなし,その目的を達成
させる方法となっていること,菊池の授業法が伝統的
な数学科のセミナーの方法に発展しうることが明らか
になった。
一方,菊池の授業法は一定の効果をあげうることが
期待できるが,その程度については今後の課題となる。
本稿では授業に関連する條項のみを取り上げたが,
「幾何学講義」には「教科書」で取り上げられている定
理や練習問題の見方や考え方が多数解説されている。
それらは教材研究の際に,現代においても十分注目に
値するものと考えられる。
また当時世界は「数学教育改良運動」の真っ最中で
あり,菊池の「教科書」はその流れをくんだ英国幾何
146
[4] 小山騰,「破天荒<明治留学生>列伝」,講談社,
1999 年
日本科学教育学会研究会研究報告
Vol.28 No.7(2014)
日本科学教育学会研究会研究報告 科教研報 Vol.28 No.7
発行人 〒889-2192 宮崎市学園木花台西 1-1 宮崎大学大学院 日本科学教育学会 会長 中山 迅 発行所 〒602-8048 京都市上京区下立売通小川東入ル 中西印刷株式会社 147
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