PDFダウンロード - ピクテ投信投資顧問株式会社

ご参考資料
2015年9月8日
Vol. 7
“欧州クレジット市場の最前線”
欧州クレジット・レター
コラム:TLACを巡る国際金融規制の動向を見る
大きすぎて潰せない国際的な巨大銀行の救済に公的資金(=税金)が使用されてきた過去への反省から、破綻
を未然に防止する様々な国際金融規制が設けられてきました。一方で、万一巨大銀行が実質的な破綻に陥った
場合の処理においても公的資金注入を回避する対応が今後加速的に進められるものと見られます。
金融安定理事会(FSB):2015年G20に向け
TLAC最終案を提出の見込み
2015年11月トルコのアンタルヤで開催される主要20ヵ国・
地域首脳会議(G20)を控え、金融安定理事会(FSB)は国
際的な巨大銀行(グローバルな金融システム上重要な銀
行(G-SIBs))の「大きすぎて潰せない問題」に対処する
TLAC(Total Loss Absorbency Capacity、G-SIBsに対する
破綻時損失吸収力要件)の最終案を提出する予定です。
日本では日経新聞が2014年9月に「巨大銀に新資本規制
G20 ,16~20%で合意へ」として紹介していたのがTLACに
あたります。TLACのイメージはG-SIBsにバーゼル3で求
められる自己資本規制に上乗せして、劣後債などにより
破綻への備えを厚くすることを求めたものです。
当コラムでは、最近の国際金融規制の枠組みを簡単に
紹介し、 TLACの考え方と、TLACを巡る欧州銀行セク
ターの動向について述べます。
金融危機(リーマン・ショック)後の国際金
融規制の枠組み
グローバルな取引が増えた今日、国による不公平を除き、
規制を逃れる動きを防ぐため、グローバルに統一された
金融規制が望まれます。しかしながら、グローバルに強
制力を持った立法機関はないに等しく、現在は図表1に示
した体制で国際金融規制に対応しています。ただし、図
表1の体制が本格的に整備されたのは比較的最近で、リ
ーマンショック後といっても過言ではありません。
国際的に統一された規制が作られるフローのポイントを
図表1を参考に述べます。例えば、G20の(政治家の)間
で新たな金融規制の作成が合意されたとすると、銀行関
連の規制であればバーゼル銀行監督委員会(BCBS)が
ルールの原則、指針を作成します。各国の当局は指針が
各国の事情に合致するかレビューし、問題があれば指針
の修正等の意見を述べます。その後最終的な指針に各
国で強制力を持たせるため指針を法制化させる手続きを
踏むというのが大まかな流れになります。
図表1の体制が実務的に本格化したのは2009年のG20
(第2回目)ロンドンサミットです。例えば、FSBが前身のFS
F(金融安定化フォーラム)からより強力な国際金融規制
設定主体として役割を拡大させることが合意されました。
TLACに関連して、このロンドンサミットの宣言で金融シス
図表1:金融危機後の国際金融規制の枠組み
G20
提言
合意
FSB
(金融安定理事会)
G20諸国等の財務省、中央銀行、監
督当局、及び国際機関等をメンバー
に国際的な金融安定上の課題を議論
IAIS
IOSCO
BCBS
(バーゼル銀行監督委)
バーゼル3など銀
行に関する原則、
指針等の国際的
ルールを策定
意見
(証券監督者国際機構) (保険監督者国際機構)
証券監督に関す
る原則、指針等
の国際的ルール
を策定
国際的な保険監
督に関する原則、
指針等の国際的
ルールを策定
原則・指針
各国当局
1.当初は提言に対する意見の提出
2.合意後は合意された原則をもとに国内法を制定)
出所:金融庁、国際金融規制の資料を参考にピクテ投信投資顧問作成
テムの強化の点から2つの重要な点が合意されています。1つ
目は金融機関の自己資本と流動性等の強化です。2つ目は
巨大金融機関(G-SIFs)に対する監督強化です。
1つ目の自己資本の強化は(バーゼル1からの)歴史的経緯を
踏まえBCBSが主導してバーゼル3を形作る方向で実現され
ています。例えば、自己資本として普通株式等(CET1)の概念
や、流動性やレバレッジのリスクに対し、流動性カバレッジ比
率(LCR)やレバレッジ比率規制が導入のきっかけとなってい
て、自己資本の充実等が図られています。
一方、G-SIBsにはリスクを取っても最後は救済せざるを得な
いというモラルハザードが重要な反省点となりました。そこで、
G-SIBsに対しては万一破綻した場合でも税金を使わないで
円滑に破綻処理をする仕組みがFSB主導で進められ、TLAC
として具体化する方向となっています。
ピクテ投信投資顧問株式会社 2ページ目の「当資料をご利用にあたっての注意事項等」を必ずお読みください。
1
3
ご参考資料
“欧州クレジット市場の最前線”
欧州クレジット・レター
G-SIBsの円滑な破綻処理
TLACの概念について
図表2:バーゼル3とTLACのイメージ
TLACは国際的な巨大銀行であるG-SIBsが万一、実質的
に破綻した際の備え(損失吸収力)を図表2のその他適格
負債の形で保有するよう求める概念です。
以下にTLACのポイントを述べます。
①TLAC(銀行の場合)の対象はG-SIBs:
銀行の中でTLACは(FSBが指定する)世界の主要30行
(日本では3メガバンク)を対象とした規制です。反対に言
えば、G-SIBs以外には適用されません。
次に、TLAC適格負債の要件のポイントは劣後性要件を
満たすことです。そのイメージは、先ほど②の破綻処理の
説明の中で表れた、デリバティブ取引など損失を負わせ
られない負債(非適格負債)より劣後していることが求め
られます。非適格負債より先に損失処理に利用できる必
要があるための要請と考えられます。
一般には残存1年以上の無担保債がTLAC適格負債に該
当するイメージです。ただし、そうなるとバーゼル3の規制
資本であるTier2に該当する劣後債との区別があいまいと
いった点などに課題も見られます。
その他
適格負債
等
8~12%
(TLAC適
格負債)
破綻処理
③TLACの要件:
TLACは破綻処理の備え(図表2右)という色彩であるのに
対しバーゼル3(図表2左)は(継続している)企業の自己
資本の質を高めることが主目的です。とはいえ、別々に
資本を用意するわけではなく、バーゼル3の規制資本(資
本保全バッファー、サーチャージは除く)を例えば9%持っ
ていれば、8%を超える1%はTLACに算入することとなりま
す。つまりバーゼル3の自己資本とTLAC適格負債の合計
が16~20%(FSB最終案で数字は特定される見込み)にな
るよう、破綻処理に必要な備えが求められています。
質の高い自己
資本比率で継
続企業の健全
な運営を確保を
目指す
8%
バーゼル
主に破綻予防
自己資本比率規制
②TLACは「大きすぎて潰せない」といわれていた巨大銀
行の破綻処理に税金を使う(=公的資金)ことなくスムー
スな処理を目指した枠組み:
リーマンショック時の経験等から、銀行の負債には派生
商品取引のように債権者に負担を負わすとスムースに破
綻処理ができない負債(非適格負債)と、損失を負わせる
ことが可能な負債(適格負債)を区分すべきとの考えが生
まれました。非常に大雑把な言い方ですが、過去の救済
スキームである銀行の国有化とは、公的資金で作られた
受け皿銀行がどちらの負債も丸抱えするイメージです。
一方、TLACでは銀行に一定の適格負債を保有させるこ
とで円滑な破綻処理を(税金無しに)行うことを目指す考
えです。
TLACで想定される破綻処理の流れは、実質的な破綻が
認定された場合、ブリッジバンク(承継金融機関)が設立
され、デリバティブ取引など損失を負わせられない負債を
実質破綻の金融機関から承継金融機関に移し、一方で、
承継金融機関に必要な資本は、(以前のように公的資金
=税金の注入でなく)TLAC適格負債を資本に転換するこ
となどでまかなうというのが大まかなイメージです。
16 %~20%
円滑な破綻処
理に利用
3
Tier2
2%
Tier2
2%
その他
Tier1 1.5%
その他
Tier1 1.5%
普通株式
等
Tier1
4.5%
普通株式
Tier1
4.5%
資本保全
バッファー
資本保全
バッファー
G-SIBsサー
チャージ(規模
に応じ上乗せ)
G-SIBsサー
チャージ(規模
に応じ上乗せ)
TLAC
TLACのカウントには
利用できない
※図表2の8%は自己資本の最低所要水準
※資本保全バッファーは最低所要水準に加えて普通株式Tier1で2.5%を上
乗せすることが求められる
※G-SIBsサーチャージ:G-SIBsを5つのリスク要因でスコア付けし、スコア
に応じて(1~2.5%の)普通株式等Tier1による、バーゼル3の自己資本への
上乗せが求められる自己資本
※TLACはもともとはGLAC(Gone-concern Loss Absorbing
Capacity)として(実質的な)破綻企業の処理において損失を吸収できる資
本として議論が始まりました。その後バーゼル3の自己資本と合計(トータ
ル)して損失吸収能力を保有する意味で、TLACという名称となっています。
※FSBによる市中協議文書ではG-SIBsに対し、図表2のTLACに加えて、
バーゼル3基準のレバレッジ比率(3%以上、Tier1ベース)の倍以上のレバ
レッジ比率の維持が求められていますが、ここでは割愛しています。
※破綻処理制度の整備や監督強化は銀行以外の金融機関も含めたGSIFsを対象に対応が進められていますが、当レポートでは銀行(G-SIBs)
を主な対象としています。
出所:日本経済研究所、金融庁資料、各種報道等を参考にピクテ投信投資
顧問作成
ピクテ投信投資顧問株式会社 2ページ目の「当資料をご利用にあたっての注意事項等」を必ずお読みください。
2
3
ご参考資料
“欧州クレジット市場の最前線”
欧州クレジット・レター
欧州クレジット市場におけるTLACの動向
TLAC関連の動きはこれから
欧州市場におけるTLACへの対応はどのようになってい
るか?欧州の巨大銀行(G-SIBs)も同様にTLACへの対
応が求められていますが、現時点では概ね様子見となっ
ているようです。今後対応が加速することも考えられます
が、対応が鈍い背景を列挙すると以下の理由が考えられ
ます。
市場の予想にバラツキはありますが、欧州全体で2019年
の期限までに2,000~3,000億ユーロ程度の債券発行が
TLACの要件を満たすために必要と見られている模様で
す。11月の最終案など金融規制の動きを踏まえ、ある程度
の規模の債券発行が見込まれるだけに、市場並びに当局
の動向に注意が必要です。
◎TLACは2019年の運用開始が予定されていますが、最
終案は2015年11月のG20を目処に公表される予定です。
TLACの対象となる欧州の巨大銀行は、最終案の内容を
確認する姿勢が強いものと考えられます。
◎TLACは持ち株会社の形態で対応することが有利と考
えられています。英国などのように持ち株会社が一般的
な場合を除き、大陸欧州では持ち株会社形態が一般的
でないため、持ち株会社を設立するか、割高なTLAC適格
負債のコストを負うか選択が迫られる中、対応を決めか
ねている可能性が考えられます。
◎大陸欧州のハンディを克服する一つの方法として注目
されているのがドイツの法改正です。この法案が成立す
ればシニア債も破綻時に使える「資本」にカウントすること
が可能となると見られ、その動向が注目されています。法
案は早ければ今月(9月)にも議決が行われる模様です。
◎欧州ではTLAC同様の破綻処理メカニズムであるMREL
(Minimum Requirements for own funds and Eligible Liabili
ties)があります。税金にたよらずに破綻メカニズムを事
前に準備する点で、TLACと同様です。大きな違いは、MR
ELはG-SIBs以外にも幅広い銀行に適用されることです。
その場合、TLACとの棲み分けに不透明な点も指摘され
ています。MRELの最終案は2016年1月が予定されていま
す。
以上の背景が考えられるため対応は鈍いものの、劣後債
の発行体となる欧州の一部の巨大銀行の2015年半期の
決算レポートや会社のプレゼンテーション資料には既に、
TLACへの対応が示唆されています。
例えば、HSBCは2019年までの必要額を125~
440億ドルと見ています。サンタンデール銀行は110億
ユーロと推定しています。BBVAは2019年までに100億
ユーロを必要額とし、毎年30~40億ユーロの発行を見込
んでいます。
TLAC対応の債券を発行しているケースもあります。主な
ところではクレディスイスで既に100億ドル発行していま
す。スイス系のTLAC対応は比較的に積極的です。
記載された銘柄はあくまでも参考として紹介したものであり、その銘
柄・企業の売買を推奨するものではありません。
当資料をご利用にあたっての注意事項等 ●当資料はピクテ投信投資顧問株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的
としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰
属します。●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。●当資料は信頼できると考えられる情報に
基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。●当資料中に示された情報等は、作成日現在
のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。●投資信託は、預金や
保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の対象ではありません。●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の
対象とはなりません。●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。
ピクテ投信投資顧問株式会社
3
3