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ご参考資料
2016年
6月10日
Vol. 11
欧州クレジット市場の最前線
欧州クレジット・レター
欧州公益セクター
欧州中央銀行(ECB)による社債購入や、原油価格の変動など欧州公益セクターを巡るトピックが増えている印
象です。そこで当セクターの動向を中長期的に見る上でのポイントを再確認します。
欧州公益セクター:欧州社債市場に占める
公益セクターの割合は米国より大きい
欧州と米国の社債全体と各公益セクターの市場特性を図
表2にまとめています。欧米で市場規模の違いはあります
が、国際的に巨大な規模の市場となっています。
格付け構成比を見ると、欧州公益ではBBB格が約6割とな
っています。2010年以降、ドイツやイタリアの主な公益会
社の格付けがA格からBBB格へと引き下げられたことなど
が相対的にBBB格の構成比が高い理由と見られます。
なお、ムーディーズ・インベスターズ・サービスは石油価格
の下落や電力価格動向を踏まえ2016年2月に欧州公益セ
クター30社(グループ)の格付けレビューを発表しました。
その結果、19社を据え置き、10社にネガティブウォッチ(格
下げ方向で検討)を付与、1社を格下げとしました。しかし
ながらネガティブウォッチとなった会社は大半が5月頃に
据え置きが表明されています。
自動車
公益
エネルギー
ヘルスケア
資本財
公益
エネルギー
資本財 ヘルスケア
原材料
金融
20%
その他
通信等
自動車
0%
通信等
原材料
金融
米国
欧州公益セクター:
米国の公益セクターとの比較
(時点:2016年5月27日現在)
欧州
欧州公益セクターの特色や動向を振り返りながら、基本
的なポイントを再確認します。その上で、今後の欧州社債
投資で公益セクターを見るうえで重要と思われるテーマを
ご紹介します。
まず、欧州公益セクターの市場規模、セクターの構成割
合などをバンク・オブ・アメリカ(BofA)メリルリンチ社債イ
ンデックスを社債市場全体の代替とし、社債市場の構成
とテーマである公益セクターの構成割合を確認をします
(図表1参照)。
公益セクターに注目すると、欧州の公益セクターの割合
は欧州社債市場全体に対し12%程度です。一方米国の公
益セクターは7%程度です。ただし、公益セクターに「近い」
エネルギーセクターを合計すると、欧州、米国共に2割弱
の割合となります。欧州の公益セクターではフランス電力
やイタリア電力公社など国を代表する規模の大きい公益
企業が資本市場を活用していることが背景と見られます。
一方で、米国エネルギーセクターにはBPやスタトイルなど
巨大な石油会社が指数に含まれていることが背景と見ら
れます。
図表1:欧州と米国の社債市場セクター構成
40%
60%
その他
80%
100%
※投資適格社債指数「BofA(バンク・オブ・アメリカ)メリルリンチ社債」のEMU
社債と米国債インデックスでセクター別構成割合を表示
※その他には不動産、サービス、テクノロジー、運輸、小売、飲料・タバコ・食
品等が含まれる
出所:BofAメリルリンチのデータを使用しピクテ投信投資顧問作成
図表2:欧州と米国の社債市場と公益セクター比較
(時点:2016年5月27日現在)
欧州社債
市場規模
(現地通貨)
市場規模
(円換算)
米国社債
2兆474億 5兆7,463億
欧州公益
米国公益
2,479億
4,288億
約253.5兆円 約638.4兆円 約30.7兆円 約47.6兆円
銘柄数
2,211
6,939
292
866
格付け構成比
AAA
0.5%
1.6%
0.2%
0.2%
AA
12.2%
11.1%
0.7%
8.7%
A
42.6%
43.5%
39.0%
52.6%
BBB
44.7%
43.8%
60.1%
38.4%
実効デュレー
ション(年)
5.17
6.93
5.29
8.96
実効利回り
0.99%
3.13%
1.01%
3.30%
OAS
1.27%
1.54%
1.25%
1.50%
出所: BofAメリルリンチのデータを使用しピクテ投信投資顧問作成
ピクテ投信投資顧問株式会社 4ページ目の「当資料をご利用にあたっての注意事項等」を必ずお読みください。
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ご参考資料
欧州クレジット市場の最前線
欧州クレジット・レター
欧州公益セクター:欧州投資適格社債市場
に占める割合(シェア)の推移
公益セクターはシェアが安定的というイメージがあります。
しかし、市場全体に占める公益セクターのシェアを振り返る
と、2008年後半のように変動が見られた局面もあります。
2008年以前、公益セクターは安定していましたが、欧州投
資適格社債市場の他のセクターが増加したため、シェアは
低下しました。しかし、2008年後半から2010年後半にかけ
欧州公益セクターのシェアは上昇しました(図表3参照)。理
由は主に3点です。
1点目は、金融危機後欧州の銀行が貸し出しに消極的だっ
たことから社債調達を拡大したためです。
2点目は金利が低下、調達コストが下がったことです。
3点目は、送電網の整備や再生エネルギーへの転換に向
け資金調達意欲が高まったためです。
エネルギー政策の変更などで公益セクターのシェアが変動
する局面がある点に注意が必要です。
欧州公益セクター:エネルギー政策に右往
左往
欧州公益セクターの過去1年のパフォーマンスをBofAメリ
ルリンチ公益社債インデックスで見るとローカル通貨建て
で約2.2%と市場全体を0.1%程度上回っています。設備投資
額が多いことから、低金利は一般的に公益セクターに有
利であったと思われます。
しかし、欧州の公益セクターは欧州のエネルギー政策が
企業の業績に影響を与えたと見られます。欧州連合(EU)
のエネルギー政策をホームページで見るとEUはエネルギ
ー政策で2020年までに (1)温室効果ガス排出量を 1990
年比20%削減、(2)再生可能エネルギーの最終エネルギー
消費に占める割合を20%へ拡大する目標を掲げています。
2030年まででは (1)が1990年比40%削減、(2)は 27%以
上と目標が引き上げられています。
しかし、欧州各国の発電電力の状況は国により異なる(図
表4参照)ため政策も異なります。例えば(太陽光や風力な
ど)再生可能エネルギー(及び水力の合計)を見るとドイツ
は2割を越え、スペインは4割近くとなっていますが、フラン
スは約8割が原子力で、再生可能エネルギーの割合は小
さくなっています。フランスには将来的に原子力発電施設
の廃棄と再生可能エネルギー拡大が求められています。
一方、ドイツは石炭を産出するうえ、過去に石炭産業保護
政策や補助金などで保護してきたこともあり、発電に占め
る石炭の割合が高くなっています。二酸化炭素削減の必
要性から対応が求められています。
また、再生可能エネルギーによる発電を拡大するには送
図表3:欧州公益セクターの市場に占める割合の推移
(月次、期間:2006年4月∼2016年4月)
15%
12%
9%
6%
3%
0%
06年4月
欧州投資適格社債に占める公益の割合
欧州投資適格社債に占めるエネルギーの割合
08年4月
10年4月
12年4月
14年4月
16年4月
※投資適格社債指数「BofA(バンク・オブ・アメリカ)メリルリンチ社債」のEMU
社債と米国債インデックスで公益、エネ得るぎーセクターの構成割合を表示
出所:BofAメリルリンチのデータを使用しピクテ投信投資顧問作成
図表4:欧州の主な国の発電電力の構成割合
(期間:日本は2014年実績、欧州は2014年の推定値)
(参考)
100%
再生エネ
(除水力)
80%
水力
60%
石炭
40%
石油
20%
天然ガス
0%
原子力
ドイツ
スペイン イギリス
フランス
日本
出所:エネルギー白書のデータを使用しピクテ投信投資顧問作成
(続き)欧州公益セクター:エネルギー政策に
右往左往
電施設(ネットワーク)の建設も必要です。例えば、ドイツで
大規模な風力発電に適しているのは北部ですが、電力消
費は南西部が多くなっています。風力発電を利用するには
高圧送電網の整備が欠かせません。ただし莫大な送電網
の建設コストや環境への配慮から、新たな送電網建設は
困難を伴うことが予想されます。
エネルギー政策については、主に電力価格への影響(例え
ば、補助金の有無など)と送電量への影響(例えば送電網
などへのインフラ投資負担)の分析が求められます。
ピクテ投信投資顧問株式会社 4ページ目の「当資料をご利用にあたっての注意事項等」を必ずお読みください。
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欧州クレジット市場の最前線
欧州クレジット・レター
欧州公益セクター:エネルギー政策が公益
セクターに与える影響、ドイツ
ドイツの長期的なエネルギー政策の目標は再生エネル
ギー発電の割合を長期的に高め(2050年には8割超)、石
炭など化石燃料の割合を抑えることとしています。原子力
発電は脱原子力を方針とし2022年を目処に廃止する方向
です。
再生エネルギーを普及させるため、太陽光など再生エネル
ギーで作られた電気は(発電コストを吸収するため)固定価
格制度を導入しました。導入による再生エネルギー市場拡
大に伴う量産効果でコスト低下というプラス面が見られまし
た。一方で、電気料金が欧州でも最も高い国の一つとなっ
たこと、そもそも電力自由化を歪めるとの懸念から、見直し
を求める声が起きるなど、対応に混乱も見られます。
ドイツの公益会社の対応を振り返ります。
E.ON(エーオン)は会社を2分割
ドイツの大手公益会社E.ONは2014年に会社を2分割すると
公表、2016年1月にスピンオフしました。原子力や石炭、ガ
スなど伝統的な発電事業、エネルギー取引、エネルギー資
源の採掘などの事業を新設の別会社(Uniper)に移管しまし
た。一方、E.ONは、風力・太陽光発電など再生エネルギー
と、分散型発電の時代に適応するためのスマート・グリッド
(「賢い送電網」)、そして顧客のニーズに対応するカスタ
マーソリューションの主に3つに特化しています(図表5参
照)。
RWEは子会社方式
ドイツの公益会社RWEは2015年12月、再生エネルギー、配
電、小売の3事業を統合する子会社を新設し、親会社は従
来型伝統的な発電およびエネルギー取引の2事業に集中
する新たな事業再編計画を発表しました(図表6参照)。計
画では新子会社は2016年末に上場される見込みで、RWE
は新子会社の株式の過半数は長期にわたって保有する模
様です。
ドイツ企業に見るエネルギー政策への対応
ドイツは例えば原子力政策をとってもエネルギー政策の変
更が比較的多く、また再生エネルギーの発電割合など目
標は野心的です。これに対し独公益企業は対応に追われ
ていますが、市場の評価は定まっていないと見られます。
例えば、E.ONが会社分割を公表した2014年11月末から足
元まで、E.ONの株価は4割程度下落しています。主な理由
は原油価格の下落や原子炉の廃炉コストなどです。RWE
の株価も軟調で、ドイツ株式市場(DAX指数)に比べアン
図表5:エーオンの会社分割イメージ
ウニパー
(Uniper)
エーオン
(E.ON)
ガス
再生エネ
ルギー
石炭
スマートグ
リッド
カスタマー
ソリュー
ション
原子力
図表6:RWEの子会社方式のイメージ
RWE
再生エネルギー
子会社
スマートグリッド
(配電)
2016年末を
目処に上場
小売
親会社
伝統的な
電力事業
(発電とエネル
ギー取引)
出所:各種報道を参照しピクテ投信投資顧問作成
(続き)欧州公益セクター:エネルギー政策が
公益セクターに与える影響、ドイツ
ダーパフォームとなっています。ただし、通常株価と社債スプ
レッドの相関は高いものの、ECBの社債購入期待もあり縮小
が見られます。したがって戦術的な保有はともかく、戦略的な
保有には注意も必要です。理由は新会社のコアとなる再生エ
ネルギーは従来のようなドイツ政府からの支援は期待しにく
いこと、スマートグリッドなど新たな配電設備への投資負担が
重荷になると見込まれるためです。さらに、ドイツ政府のエネ
ルギー政策も、例えば原子力の廃止のように、方針変更が多
い傾向があることも投資判断を難しくする可能性があります。
欧州のエネルギー政策は慎重に判断し、注意深く投資する必
要があると見ています。
記載された銘柄はあくまでも参考として紹介したものであり、その銘柄・企
業の売買を推奨するものではありません。
ピクテ投信投資顧問株式会社 4ページ目の「当資料をご利用にあたっての注意事項等」を必ずお読みください。
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欧州クレジット市場の最前線
欧州クレジット・レター
欧州公益セクター:エネルギー政策が公益
セクターに与える影響、フランス
フランスのエネルギー政策の特色は1970年代以降原子力
開発に注力した点です。フランスの発電における原子力の
割合は極めて高くなっています。フランスでは、電力事業で
はフランス電力公社(Electricite de France SA、EDF)、ガ
ス事業では(旧)GDFスエズ、石油・ガス事業ではトタル(To
tal SA)など、各事業を1社に集中させることで世界レベル
のエネルギー企業を形成、EDFやGDFスエズは、民営化後
も依然として政府を最大の株主とし、引き続きフランスのエ
ネルギー政策をリードしています。
フランスの主なエネルギー政策を見ると、2012年の選挙で
就任した社会党のオランド大統領のもと、原子力比率の低
減(2025年までに原子力依存度を現状の75%から50%に低
減するグリーン化促進のためのエネルギー移行に関する
法律、2015年8月成立)、最も古いフェッセンハイム原子力
発電所の閉鎖を掲げています。それでもフランスのエネル
ギー政策は変更が少ないことが特色と言えます。
フランス電力公社(EDF)
2005年まで国有企業であったフランス電力公社(EDF)は現
在でも株式の約85%がフランス政府に保有されています。フ
ランスの商業用原子炉58基はEDFが所有しています。
そのためEDFは規模の優位があることや、万一の場合フラ
ンス政府からの援助が見込めることなどから3格付け会社
から(S&P:スタンダード&プアーズ、ムーディーズ:ムーデ
ィーズ・インベスターズ・サービス、フィッチ:フィッチ・レーテ
ィングス)A格を取得しています。
しかし、最近信用力が悪化しており、株価も下落傾向です(
図表7参照)。例えば、S&PはEDFを5月に格下げしましたが、
主な理由は原油価格などの下落に伴い、欧州全般に電力
料金が低下、その結果により収益の低下が懸念されること
です。EDFの収益構造と電力価格との連動が強いためビジ
ネスリスクが高いと判断されています。EDF以外にも同じ理
由で数社格付けのレビューが行われています。ただし、中
にはこのような環境下スペインのイベルドローラのように債
務縮小や長期契約をベースとしたビジネスモデルが評価さ
れ4月に格上げされた会社もあります。
なお、EDFにはエネルギー政策に関連した懸念も見られま
す。例えば、フランスも今後原子炉を廃止する計画で、そ
の費用は基金に積み立てられていますがフランス(EDF)の
額は原子炉数が少ないドイツなどに比べても低くなってお
り、今後の対応に懸念が残ります。
また、EDFの新規原子力発電所建設で、例えば英国のヒン
クリーポイントでプロジェクトを進めていますが、電力料金
上昇の期待が低い中、建設コストが高く採算割れが懸念さ
れていることも信用力にマイナスと見られます。
図表7:フランス電力の株価と主な信用イベント
(日次、期間:2015年6月8日∼2016年6月6日)
24
ユーロ
20
16
12
※2015年9月21日
S&P、EDFの見通しを
弱含み(ネガティブ)
8
15年6月
※2016年2月26日
S&P、EDFにネガティブ
ウォッチ(格下げ方向
で検討)付与
※2016年5月13日
S&P、EDFを格下げ
EDF株価
15年9月
15年12月
16年3月
出所:ブルームバーグのデータを使用しピクテ投信投資顧問作成
記載された銘柄はあくまでも参考として紹介したものであり、その銘柄・企
業の売買を推奨するものではありません。
欧州公益セクター:
今後のポイント
原油などエネルギー価格が下落、その後反転するという市
場環境のもと、またエネルギー政策が大胆に変化するな
か、欧州の公益セクターの対応をとりあげました。
例えばドイツでは再生エネルギーの比重を高めるという方
針に対し、会社を再生エネルギー分野と伝統的な分野に分
けるという対応が見られました。ただし、再生エネルギーに
対し、以前のような政府からの保護が期待薄となっている
こと、一方伝統的なエネルギーは将来的には縮小する運
命にあるという中で、どのようにビジネスモデルを作ってい
くのか。市場は期待と懸念の中評価は分かれる面も見られ
ますが、ドイツのエネルギー政策は野心的であり、公益企
業には今後も変化への対応が求められると思われます。
一方、フランスのEDFはエネルギー政策への対応を進めて
いますが、発電構成の違いや国の関与の違いなどユニー
クな面もあり、別の視点での分析が必要と見ています。
ECBは6月8日より社債購入プログラム(CSPP)による社債
購入を開始します。投資適格となっている社債の取引が活
発化、スプレッドの縮小も見込まれます。
しかしながら、仮に格下げで投資適格から外れた場合のス
プレッドは急拡大することも想定されます。
欧州公益社債セクターにおいては、足元原油価格に落ち
着きが戻ったものの先行きを予想することは困難であるた
め、エネルギー価格との連動が高い銘柄はエネルギー価
格市場と共に注視が必要です。また、エネルギー政策への
対応がどの程度負担になっているかにも注意が必要で、投
資には慎重な姿勢が求められると思われます。
※将来の市場環境の変動等により、上記の内容が変更される場
合があります。
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