変貌する名古屋駅前

変貌する名古屋駅前
止まらない「名駅ビッグバン」
、栄の復興・再生はできるのか−
−
1.
はじめに
4.
栄の復興・再生策を考える
(1)栄の復興・再生のカギを握る「名駅との差別化」
2.
タワーズ開業から10年、
止まらない「名駅ビッグバン」
3.
データでみる
「名駅ビッグバン」がもたらした変化
(1)大きく変わった名駅と栄の勢力図
(2)名古屋市周辺地域への波及
(2)栄の強みである「空間」と「文化施設」の有効利用
(3)バスやコミュニティサイクルによる名駅−栄間の交通利便性の強化
(4)
“栄(sakae)
ブランド”の活用
(5)栄にふさわしい拠点の整備
5.
結びに代えて ∼待ったなしの栄・大改造∼
一つで、
タワーズの持つ圧倒的な力をみせつけられた後
1 はじめに
にまとめた2001年のレポートの最後を私はこう結んだ。
今から30年前の1980年。この年に名古屋市内の高校
へ入学した私は、通学のために国鉄(現JR)名古屋駅を
利用するようになった。当時の国鉄名古屋駅は、今の姿
からはとても想像できない。朝夕のラッシュ時を除けば人
影もまばらで、
中央コンコースは東の桜通口から西の太閤
口まできれいに見通すことができた。時々、
中央コンコース
を自転車で走り抜ける人もいて、鉄道公安官に注意され
ていた。私はこんな駅を使うのが嫌で、
ほどなくして通学
経路を変えた覚えがある。
現在のJR名古屋駅は、駅の構造こそ当時とほぼ変わ
らないものの、
あの当時の寂れた雰囲気はどこにもない。
名 古 屋 駅をこれほど大きく変えたのは、いうまでもなく
2000年に開業したJRセントラルタワーズ
(以下タワーズ、
写真1)である(注1)。この建物から今日まで続いている名
古屋駅前(以下名駅)の大発展が始まった。
タワーズ開業以降の名駅の発展については、私は以前
から関心を持ち、
これまで1999年、2001年、2006年の3度
( 注3)
に亘って調査レポートをとりまとめた(注2)
。そのうちの
03
写真1:名駅ビッグバンの起爆点となったJRセントラルタワーズ(筆者撮影2010年3月)
「名古屋圏は2005年の愛知万博、中部国際空港とい
う超大型プロジェクトを控え、
これから大きな変化の時期
①江戸時代の初めに名古屋という人工都市が誕生した
を迎える。
しかし10年後に振り返ってみたとき、万博や空
400年前からずっとその中心であった栄と、明治時代半ばに
港よりも、
『タワーズが名古屋圏を変えた』という評価が与
鉄道が開通して以降、100年あまりの歴史しかない名駅を
えられているかもしれない。」
比べると、栄の優位は圧倒的。
今振り返ると、
この時書いたタワーズに対する私の評価
は決して過大ではなかった。今年はタワーズ開業からちょ
うど10年目にあたる。この10年間でタワーズは、名駅はもと
より、名古屋のもう一つの中心である栄や、名古屋を取り
②1886年の名古屋駅開業以降も栄の優位は約100年続
巻く周辺都市などにさまざまな変化をもたらした。そこで
いたが、国鉄の分割民営化で誕生したJR東海の在来線
本稿では、
タワーズ後の10年間の変化をデータで検証す
強化によりJR名古屋駅の利便性が飛躍的に向上し、名駅
るとともに、名古屋にとって今後大きな課題となることが予
ビッ
グバンの素地が整う。
想される「栄の復興・再生」について、
その具体的な方策
を考えてみることとしたい。
2 タワーズ開業から10年、
止まらない「名駅ビッグバン」
③地元でありながら国鉄が母体で地元色の薄いJR東海と、
非地元資本である高島屋という名古屋にとっての外部資
本連合が、
JR名古屋駅の真上にタワーズという“黒船”を
タワーズの開業を出発点として現在も続く名駅の大変
出現させて名駅ビッグバンがスタート。
貌のことを、私は過去の調査レポートの中で「名駅ビッグ
バン」と呼ぶことにした。元来「ビッグバン」という言葉は、
約140億年前に起こったとされる宇宙誕生の瞬間の大爆
発を意味する。この大爆発から宇宙は膨張し始め、
やが
④タワーズに続いて、
ミッドランドスクエア、名古屋ルーセン
て星や星雲を生み、今日の宇宙を形作ったとされている。
トタワー、モード学園スパイラルタワーと、名駅通に沿って超
一連の名駅の発展を私が「名駅ビッグバン」と呼ぶことに
高層ビルが相次いで誕生し、名駅が大きく発展。
したのは、
タワーズ開業という一つの点で起きた出来事が、
名駅から栄、
さらに名古屋市の周辺都市までを大きく変
えながら影響を拡大させていく様子がビッグバンに例える
のにふさわしいと考えたためである。
名駅ビッグバンについての詳しいことは、2006年に発
という歴史を辿ってきた(図表1)。
これから先も、
名駅では「ささしまライブ24」
(旧国鉄貨物
駅跡地再開発)の本格始動や、
旧名古屋中央郵便局、
大
表した「変貌する名古屋駅前 ∼“名駅ビッグバン”は
名古屋ビルヂング
(写真2)、
名古屋ターミナルビル
(写真3)
名古屋をどう変えるか∼」
(共立総合研究所「レポート2006」
の超高層ビルへの建て替えなどの大型プロジェクトが目白
( 111号 ))にまとめているのでそちらをご参照いただき
押しである
(図表2)。また、2027年には、
リニア中央新幹
たいが(当社ホームページでも公開)、簡単に整理すると、
線の名古屋−東京間の開業も予定され、
当分の間、
名駅ビッ
名駅ビッグバンは、
グバンの勢いは止まりそうにない。
04
図表1 名駅と栄の発展史
名駅
名古屋駅開業(現在の笹島交差点付近)
旧名古屋駅駅舎が開業(1993年まで使用)
関西急行電鉄(近鉄)が乗り入れ
名鉄新名古屋駅(現名鉄名古屋駅)開業
名鉄百貨店開業(名古屋の4M百貨店出揃う)
地下鉄東山線(名古屋−栄)開通
名古屋初の地下街(ナゴヤ地下街)開業
大名古屋ビルヂング竣工
近鉄名古屋ビル竣工
名鉄メルサ開業
ユニモール地下街開業
名鉄セブン、名鉄レジャック開業
松坂屋名古屋駅店開業
テルミナ地下街開業
国鉄の分割民営化によりJR東海発足
地下鉄桜通線(中村区役所−今池)開通
JRセントラルタワーズ竣工
JR名古屋高島屋、マリオットアソシアホテル開業
“名駅ビッグバンの始まり”
あおなみ線開通
名鉄中部国際空港線開通(常滑線を延伸)
ミッドランドスクエア竣工
名古屋ルーセントタワー竣工
モード学園スパイラルタワーズ竣工
愛知県産業労働センター竣工
名古屋三井ビル新館竣工
愛知大学がささしまライブ24に移転
豊田通商がささしまライブにホテル開業(37階・170m)
大名古屋ビルヂング建て替え
旧名古屋中央郵便局建て替え
名古屋ターミナルビル建て替え
名鉄百貨店建て替え
リニア中央新幹線開業(東京−名古屋間)
年
栄
1886(明治19)
1910(明治43)
1915(大正 4 )
1937(昭和12)
1938(昭和13)
1941(昭和16)
1954(昭和29)
1957(昭和32)
1963(昭和38)
1965(昭和40)
1966(昭和41)
1967(昭和42)
1969(昭和44)
1970(昭和45)
1972(昭和47)
1973(昭和48)
1974(昭和49)
1976(昭和51)
1978(昭和53)
1987(昭和62)
1989(平成元)
1991(平成 3 )
1995(平成 7 )
1999(平成11)
2000(平成12)
2001(平成13)
2002(平成14)
2003(平成15)
2004(平成16)
2005(平成17)
2006(平成18)
2007(平成19)
2008(平成20)
2009(平成21)
いとう呉服店(松坂屋)が名古屋初の百貨店開業
十一屋呉服店(丸栄)が栄町に出店
オリエンタル中村(現三越名古屋栄店)開業
テレビ塔竣工
地下鉄東山線(名古屋−栄)開通
地下街開業
久屋大通(100m道路)完成
地下鉄名城線(市役所−栄)開通
中日ビル竣工
サカエチカ開業
松坂屋北館(リビンザ)開業
丸栄スカイル開業
名鉄瀬戸線乗り入れ セントラルパーク地下街開業
名古屋パルコ開業
松坂屋南館開業
ナディアパーク開業
ルイヴィトン路面店出店(大津通へのブランド出店開始)
プラダ路面店出店
オアシス21開業
松坂屋新南館開業。ティファニー路面店出店
三越ラシック館開業。コーチ路面店出店
グッチ路面店出店
2011(平成23)
2012(平成24)
2013(平成25)
2015(平成27)
2016(平成28)
2019∼2024頃?
2027(平成40)
(注)今後の予定の一部は年度。
出所:各種資料をもとに共立総合研究所作成
写真2:2015年度に38階建ての超高層ビルに建て替えられる大名古屋ビルヂング (筆者撮影2010年3月)
05
写真3:2016年度に46階建ての超高層ビルに建て替えられる名古屋ターミナルビル (筆者撮影2010年3月)
図表2 名駅における主な再開発事業
地図番号・建物名
(再開発事業名)
竣
工
済
高さ
内容・進歩状況
竣工時期
(予定含む)
① JRセントラルタワーズ
JR名古屋タカシマヤ、名古屋マリオットアソ
245m/51階
シアホテル、オフィス等が入居する超高層
225m/53階
ツインビル。
「名駅ビッグバン」の起爆点。
1999年
12月
② ミッドランドスクエア
トヨタ自動車の事務部門、高級ブランド商業
247m/47階 施設、
シネマコンプレックス、オフィス等が入
居。
トヨタの在名拠点が栄からここへ移転。
2006年
9月
③ アクアタウン納屋橋
118m/33階 都市再生機構の賃貸マンション。
2006年
11月
名駅地区で3棟目の超高層ビル。オフィス
④ 名古屋ルーセントタワー 180m/40階 が中心 。賃貸オフィス面積は名古屋市内
最大級。
2007年
1月
⑤ モード学園スパイラルタワーズ 170m/36階 モード学園グループの専門学校が入居。
2008年
2月
⑥ 名古屋ビル
ミッドランドスクエア北隣のオフィスビル。
70m/14階 高級ブランドのプラダが入居予定であったが
現在延期中。
2009年
1月
⑦ 名古屋プライムセントラルタワー
106m/23階 旧市バス那古野車庫跡地に建てられたオフ
106m/29階 ィス棟、マンション棟のツインビル。
2009年
4月
愛知県産業労働センター
⑧
(ウインク愛知)
旧愛知県中小企業センターと中経ビル、第二
90m/18階 中経ビルの一体再開発事業。ホール、会議
室等に利用。
2009年
9月
⑨ 名古屋三井ビル新館
62m/14階
笹島交差点南東にある名古屋三井ビル本
館の南隣。オフィス中心。
2011年
5月
⑩ ささしまライブ24(注)
170m/37階
10月に外資系ホテルとオフィスが入居するツインビル「グロー
88m/18階
2012年
4月
中部経済新聞、名古屋鉄道、東和不動産の
3社による共同再開発。オフィスと商業施設
として利用。
2012年
6月
2012年に愛知大学の校舎が開校予定。豊田通商が2013年
バルゲート」を建設予定(当初計画から規模を縮小)。
公
表
済
⑪ 新中経ビル
84m/17階
納屋橋ルネサンスタワーズ
⑫
(仮称)
分譲マンション、ホテル、商業施設、オフィス
170m/38階
2013年秋の
等の複合ツインタワー。ただ不況の影響で
140m/36階
予定を見直し
事業見直しを含め計画を再検討中。
⑬
大名古屋ビルヂング・
ロイヤルパークインホテル
2009年末に三菱地所が計画を発表。オフィ
190m/38階 スと飲食店が中心となろうが、立地等から考 2015年度
えるとホテルも入居する可能性が高い。
⑭
旧名古屋中央郵便局
及び隣接地
日本郵政グループ他が事業主体。オフィス、商業
200m/41階 施設、郵便局、バスターミナル等が入居予定だが 2015年度
詳細未定。当初2013年度の竣工予定が延期。
JR東海が事業主体。当初計画より若干規模が縮小。1階はバス
⑮ 名古屋ターミナルビル跡地 220m/46階 ターミナル、18階まで商業施設、19∼25階はJR東海系ビジネス 2016年度
ホテル、26階以上はオフィス。タワーズとは2階と15階で連絡。
−
東京と名古屋を40分で結ぶ。将来は大阪ま
で延伸。
2027年
三井ビル北館
⑯
(菱信ビル・白川第三ビル)
未定
2002年に名古屋三井ビル北館を所有する三井
不動産が建て替えの意向を表明。隣接する2つ
のビルとの一体開発の可能性が高いとみられる。
未定
⑰ 第二豊田ビル
未定
2009年に明らかになった計画。当初は竣工
目処を2019∼2020年との報道もあったが、
現在は時期・規模とも未定。
未定
未定
名 古 屋 鉄 道 の 中 期 経 営 計 画( 2 0 0 9 ∼
2011年)で検討課題に挙げられる。詳細は 2020年代早々
これから。
リニア中央新幹線
検
討
中
(注)
ささしまライブの高さは豊田通商の「グローバルゲート」。竣工時期は愛知大学の
開校時期。
出所:各種資料、新聞報道、
ヒアリング等をもとに共立総合研究所作成
⑱
名古屋鉄道本社・
名鉄百貨店
06
年度には、名駅と栄の百貨店売上高の比率はおよそ「26
3 データでみる
対74」であったが、
これが2009年度には「43対57」まで差
「名駅ビッグバン」がもたらした変化
が縮小している。タカシマヤの躍進の陰で、
地域一番店で
ある松坂屋名古屋店をはじめ、
タカシマヤ以外の百貨店
(1)大きく変わった名駅と栄の勢力図
は名駅にあるか栄にあるかに関係なく、一様に売上の大
幅な減少とシェアの縮小に見舞われている(注5)。
①商業エリアとしての変化
タワーズ開業からこの10年間で大きく変化したのが名
さらに、売場面積についても、先ほどの年間小売販売
駅と栄の勢力図である。はじめに、商業エリアとしての名
額でみた「商業統計調査」の1997年と2007年のデータで
駅と栄の変化についてデータで検証しておきたい。
図表3 名駅と栄の年間小売販売額の変化
図表3は、経済産業省の「商業統計調査」で、
タワーズ
開業前の1997年と、最新の調査年次である2007年の、
名駅
(億円)
栄
6,000
名駅と栄の年間小売販売額を比較したものである(注4)。
5,109
(▲5.0%)
5,377
年間小売販売額は名駅が1997年の2,694億円から2007
5,000
年には3,254億円へ560億円、
率にして20.8%増加した。560
4,000
3,254
(20.8%)
億円というのは名鉄百貨店の年間売上にほぼ匹敵する大
3,000
きな額である。これに対して栄は5,377億円から5,109億円
へ268億円(5.0%)減少している。その結果、
全体を100とし
2,694
2,000
33
67
39
61
た名駅と栄の年間小売販売額の比率は、
1997年の「33対
1,000
67」から2007年には「39対61」に接近している。
また図表4は、名駅と栄の百貨店売上高を、
タワーズ開
0
業直前の1999年度と、最新データとなる2009年度で比較
1997年
2007年
(注)名駅は中村区の新明学区と牧野学区、栄は中区の栄学区と名城学区。
カッコ内は97年との比較。 棒グラフ内の2ケタの数字は名駅と栄の比率(両地区の合計を100)。
出所:経済産業省「商業統計調査」の名古屋市データである名古屋市「名古屋の
商業」をもとに共立総合研究所作成
したものである。タワーズの中核テナントであるJR名古屋
タカシマヤ(以下タカシマヤ)がまだ存在しなかった1999
図表4 名駅と栄の百貨店売上高シェアの変化
1999年度
2009年度
26.4%
73.6%
名駅 1,062億円
栄 2,960億円
名鉄百貨店
873億円(21.7%)
松坂屋名古屋駅店
189億円(4.7%)
松坂屋名古屋店
1,457億円(36.2%)
42.9%
57.1%
名駅 1,642億円
栄 2,187億円
名鉄百貨店
590億円(15.4%)
JR名古屋タカシマヤ
948億円(24.8%)
松坂屋名古屋店
1,104億円(28.8%)
松坂屋名古屋駅店 105億円(2.7%)
(注)年度は3月から翌年2月まで。各店舗の売上高は億円未満を四捨五入。
出所:日経流通新聞、中部経済新聞をもとに共立総合研究所作成
07
三越名古屋栄店
945億円(23.5%)
丸栄
559億円(13.9%)
三越名古屋栄店
782億円(20.4%)
丸栄 300億円(7.8%)
比べると、名駅、栄とも1997年と2007年の間に売場面積
全体を100とした名駅と栄の売場面積の比率は、年間小
は増えているが、名駅が15.4万 から21.7万 へ40.9%
売販売額と同じく、
1997年の「33対67」から2007年には「39
も増加したのに対して、栄は31.7万 から34.1万 へ
対61」に接近している。
7.6%の増加にとどまっている
(図表5)。タワーズ開業以降、
②オフィスエリアとしての変化
栄では松坂屋南館の増床や三越ラシック館の開業、大津
通への高級ブランド店の出店などで商業規模が拡大した
次に、
オフィスエリアとしての名駅と栄の変化について
みておきたい。
反面、有名インテリアショップや大型書店など閉店や売場
縮小を余儀なくされた店舗も目立った(図表6)。その結果、
図表5 名駅と栄の売場面積の変化 名駅
2
(万m )
図表7は、総務省の「事業所・企業統計調査」による名
駅と栄の就業人口である(注6)。タワーズの開業を挟んだ
図表7 名駅と栄の就業人口
栄
名駅
(万人)
34.1
(7.6%)
35
25
栄
23.4
31.7
22.1
(▲5.7%)
(5.7%)
30
20
21.7
(40.9%)
25
15
20
12.3
(1.8%)
12.1
15.4
15
10
33
10
67
39
61
66
34
64
36
5
5
0
1997年
2007年
(注)名駅は中村区の新明学区と牧野学区、栄は中区の栄学区と名城学区。
カッコ内は97年との比較。 棒グラフ内の2ケタの数字は名駅と栄の比率(両地区の合計を100)。
出所:経済産業省「商業統計調査」の名古屋市データである名古屋市「名古屋の
商業」をもとに共立総合研究所作成
0
1996年
2006年
(注)名駅は中村区の新明、六反、牧野学区、栄は中区の栄、名城、御園学区。
カッコ内は前回調査比(就業人口については千人単位で四捨五入して表示を
しているが、前回調査比は四捨五入前の実数で算出)。 棒グラフ内の2ケタの数字は名駅と栄の比率(両地区の合計を100)。
出所:総務省「事業所・企業統計調査」をもとに共立総合研究所作成
図表6 栄における主な商業店舗等の閉鎖・縮小
店舗名
丸栄ハローネ館
種類
現状
閉店年
インテリア
2002
ヤマダ電気
丸栄(売場を約3割縮小)
百貨店
2003
100円ショップ、ユニクロ、書店等
ダイエー栄店
スーパー
2005
更地(パチンコ店となる予定)
紀伊國屋書店
大型書店
2006
ジュンク堂書店
ASBee 栄本店
靴店
2006
中古セレクトショップ
マナハウス
大型書店
2007
空き店舗
さくらアパートメント
クリエーター系テナントショップの集まり
2007
未利用(閉鎖中)
ロボットミュージアム
ロボット関係の博物館とショップ
2007
金融機関
インザルーム(丸井)
インテリア
2009
ユニクロ
アクタス
インテリア
2009
空き店舗
カッシーナ・イクスシー
インテリア
2010
空き店舗
出所:共立総合研究所調べ(2010年3月現在)
08
1996年と2006年を比べると、名駅の就業人口が12.1万人
ことから、
2006年から2007年にかけて名駅で大量に供給さ
から12.3万人へ2千人(1.8%)増加したのに対して、栄の
れたオフィスについてはテナントの入居が進んでおり、
現在
就業人口は23.4万人から22.1万人へと1.3万人(5.7%)減
では名駅と栄の就業人口の比率は、
2006年の事業所企業
少した。名駅と栄の比率は1996年の「34対66」から2006
統計調査の時よりも差が縮小していると思われる(注8)。今後
年には「36対64」
となり、
商業面に比べると僅かではあるが、
に関しても、名駅では超高層ビルの竣工ラッシュでオフィス
名駅と栄の差は縮まっている。
供給の増加が見込まれることから、栄との就業人口はさら
オフィス仲介大手の三鬼商事によると、
名駅の貸室面積は、
に接近すると予想される
(コラム1参照)。
ミッドランドスクエアと名古屋ルーセントタワーが相次いで竣
また、
オフィスエリアとしての名駅と栄の勢力変化は、就
工した2006年と2007年の2年間に3割近く増加し、
2007年
業人口のように数字に表れるものにとどまらず、
オフィスエ
(注7)
には栄を逆転した(図表8−①)
。
ところが、
名駅の貸室
面積がこれほど増えたにもかかわらず、名駅の空室率は
2006年以降も引き続き栄を下回っている
(図表8−②)。この
コラム1 名駅のオフィスは供給過剰にならないか
リアとしての「格」のように、数字では直接測りにくいもの
にも影響を与えている。
オフィスエリアの格は、
オフィスを構える企業の顔ぶれに
まで比較的独自性を保ってきた名古屋経済が、今後は
東京中心の経済に組み込まれていくと考えられるからだ。
今後、名駅に超高層ビルが増えていくと、オフィスの
供給過剰に対する懸念が強まる可能性がある。
の本社が数多く集まっている。しかし、非製造業につい
確かにわが国全体という視点で考えれば、
この先景
ては東海銀行の消滅や松坂屋の大丸との経営統合等
気の低迷や人口(特に就業人口)の減少などによって、
によって中枢機能が名古屋から東京へと次第に移って
オフィス需要は低下していくと考えられる。こうした基本
いる。このため、かつて名古屋(特に栄)にあった名古
的な方向は名古屋市においても例外ではない。
屋企業の本社・本店は、東京本社企業の「一地方拠点」
しかし、名駅に関しては、オフィス需要はむしろ増加
に変わっている。地方拠点であれば東京から便利な立
していくだろう。それは、これから先も栄・伏見・丸の内
地であることが望ましい。さらに、東京と名古屋がリニア
などから名駅へのオフィス移転が見込まれるためだ。
新幹線により40分で結ばれれば、名駅と栄の移動に要
では、なぜオフィスの名駅シフトは今後も続くといえる
する10分が長く感じられるはずだ。
のだろうか。
恐らく将来は、栄・伏見などの「非名駅」には、名古屋
第一の理由は、企業が在名オフィスを名駅に置けば、
市内やその周辺を活動エリアとする地元企業、一方の
岐阜や三重などにある拠点を名古屋に集約できるからだ。
名駅には、
トヨタなどグローバルな地元企業と、東京が
企業の経営環境が厳しさを増す中、企業が地方の支店・
本社の大企業の在名拠点というように、オフィスを置く
支社等を統廃合するニーズは高まっている。名古屋から
企業のタイプが二分されるのではないか。逆説的にいえ
東海地方や中部地方全域をカバーするには、栄・伏見・
ば、名駅へのオフィス集中は名古屋の経済的独立性が
丸の内よりも名駅にオフィスがあった方が便利なことは
低下し、東京に組み込まれた結果の産物といえるのかも
明らかだ。
しれない。
第二の理由は、
リニア中央新幹線の開業を控え、
これ
09
名古屋一帯はトヨタグループを中心として有力な製造業
大きく左右される。図表9は、
長年に亘り名古屋の経済団体
のうち4社の本社・本店が栄にあり、
名駅に本社があったの
のトップを輩出してきた中部電力、東海銀行、東邦ガス、
は名古屋鉄道とJR東海の2社のみであった。
ところが、
栄に
名古屋鉄道、松坂屋の5社(いわゆる「五摂家」)
と、近年
あった東海銀行と松坂屋の本社・本店が他社との合併で
名古屋の経済界において存在感を増してきたトヨタ自動
東京に移転し、
また、
トヨタ自動車が栄から名駅のミッドランド
車とJR東海の2社をあわせた計7社について、本社・本店
スクエアにオフィスを移転したことで、
現在は7社のうち3社の
(トヨタについては在名拠点)の所在地をタワーズが開業
本社が名駅に集まり、
栄に本社を置くのは中部電力1社だ
した10年前と現在で比較したものである。10年前には7社
けとなった。このように名古屋の有力企業が本社・本店等を
栄から名駅などに移転させた結果、
かつては栄が断然上
図表8 名駅と栄の賃貸オフィス市場動向
位と考えられていたオフィスエリアの格は、
現在では名駅が
①貸室面積
(坪)
350,000
栄と同等、
あるいは栄より上にみられるようになった(注9)。
③地下鉄乗降者数にみる名駅と栄の勢力変化
300,000
名駅と栄の勢力変化は、地下鉄乗降者数のデータから
250,000
も読みとることができる。
図表10−①は、
名古屋市交通局の「地下鉄交通量調査」
200,000
をもとに、
1998年と2008年における、
名古屋市営地下鉄の
150,000
名古屋駅から栄地区にある栄・久屋大通・矢場町の3駅ま
での乗車人数(調査日1日の人数)
を比較したものである(注10)。
100,000
図表9 地元有力企業の本社・本店・在名拠点所在地の変化
50,000
名駅
0
1998
2000
2002
(%)
12
2004
2006
栄
2008
本社・本店・在名拠点所在地
2010
10年前
現在
中部電力
栄
栄
東海銀行
栄
(合併で東京へ)
東邦ガス
その他
その他
トヨタ自動車
栄
名駅
名古屋鉄道
名駅
名駅
松坂屋
栄
(合併で東京へ)
JR東海
名駅
名駅
栄
4社
1社
名駅
2社
3社
②空室率
10
8
6
4
2
名駅
0
1998
2000
2002
2004
2006
栄
2008
2010
(注)1998∼2009年は12月末。2010年は3月。
名駅と栄の範囲はデータ出所元の定義による
(名古屋市中心部のオフィスエリア
を名駅、栄、伏見、丸の内の4つのエリアに区分)。
出所:三鬼商事のデータをもとに共立総合研究所作成
出所:共立総合研究所作成
10
名古屋駅から栄地区3駅までの乗車人数は、1998年の
図表10 地下鉄乗車人数の変化
① 名古屋駅から栄地区(3駅)へ
40,480人から2008年には35,529人へ12%減少した。
ところ
で別の統計データによると、1998年と2008年における名
古屋駅の年間利用者数は、
JR、
名鉄、
近鉄の3社の合計で
名古屋
1億3,929万人から1億4,356万人へ約3%増加している(注11)
(注12)
。これらのデータから、
タワーズ開業前と比べて現在は、
98年:40,480人
08年:35,529人
(▲12%)
「名古屋市外から名駅に来る人は増えたが、
名駅から
(地
下鉄に乗り換えて)栄に行く人は減った」ことがわかる。
また、名古屋市内から栄に行く人も減少している。図表
10−②は、名古屋市内で栄へのアクセスが良好な地下鉄
栄地区(3駅)
東山線東部(池下駅−藤が丘駅間 )から名古屋駅、
なら
びに栄駅までの乗車人数を1998年と2008年で比較した
② 東山線東部(池下∼藤が丘)
から名古屋駅および栄駅へ
ものである。これをみると、地下鉄東山線東部から名古屋
駅までの乗車人数(調査日1日の人数)
は、
1998年と2008年
東山線(池下∼藤が丘間)
で3%の減少(98年:32,223人→08年:31,242人)
にとどまっ
ているのに対して、栄駅までの乗車人数は21%( 98年:
19,590人→08年:15,460人)
と大幅に減少している。地下
98年:19,590人
08年:15,460人
鉄東山線東部から名古屋駅までの地下鉄利用者は、
名駅
(▲21%)
と栄の勢力変化には直接影響されない利用者( 例えば
名駅経由で地下鉄東山線東部の高校・大学に通う学生
栄
図表11 名駅、
栄の最高地価の推移
(万円/坪)
98年:32,223人
(102)
3,000
(104)
08年:31,242人
【栄】
三越名古屋栄店
(中区栄3-5-1)
(▲3%)
(107)
(94)
2,000
名古屋
(82)
(注)栄地区の3駅は、栄、久屋大通、矢場町。カッコ内は98年調査との比較。
調査日、天候、総乗車人数は次の通り。
(73)
1,000
全路線の総乗車人数
調査日・天気
98年
1,177,881人
1998.11.12(木) 晴れ
08年
1,164,629人
2008.11.13(木) 晴れ
出所:名古屋市交通局「地下鉄交通量調査」をもとに共立総合研究所作成
11
0
【名駅】
近鉄パッセ
(中村区名駅1-2-2)
(64)
(65)
2003
2004
2005
2006
2007
(注)
カッコは【栄】
を100とした場合の【名駅】の地価。
出所:国土交通省「地価公示」
(各年1月1日時点)
2008
2009
2010
など)が多く含まれているために減少幅が小さいという側
の社会移動」である。図表12は、名古屋市への通勤率が
面がある。とはいうものの、
タワーズ開業以降、名古屋市
10%を超える愛知県内の市区町村について、1996年度
内の代表的な「栄の後背地」ともいうべき地下鉄東山線
∼1998年度と2006年度∼2008年度の人口千人あたりの
東部からも栄に行く人が減少していることは、栄の地盤沈
転入超過者数(3年間の平均値)で地図を色分けしたも
下の表れということができる。
のである。地図ではオレンジ色が濃い市区町村ほど転入
④地価に現れた名駅と栄の逆転現象
超過が大きく、
青色が濃いほど転出超過が大きい。
商業エリアやオフィスエリアとしての名駅と栄の勢力変
化は地価にも影響している。
これをみると、1996年度∼1998年度は、転入超過が顕
著であったのは日進市、長久手町、尾張旭市、東郷町、三
図表11は、国土交通省「地価公示」による2003年以降
(注13)
の名駅と栄の最高地価の推移を表している
。2003年
好町など、地下鉄東山線や名鉄瀬戸線、名鉄豊田線沿
線で栄に便利な名古屋市の東側の市町に限られ、
これら
と2004年には、名駅の最高地価は栄に比べて30%以上
の市町以外の大部分が転出超過であった(図表12−①)。
低かったが、2005年頃から接近し、2008年には栄を逆転
ところが2006年度∼2008年度になると転入超過のエリア
した。それ以降も名駅と栄の最高地価の差は少しずつ開
は薄く拡大し、名古屋市東側の市町の転入超過は目立
いている。
たなくなった(図表12−②)。また2つの期間を比べると、
名古屋市東側の市町の転入超過幅は大幅に縮小してお
(2)名古屋市周辺地域への波及
り
( 図表12−③ )、
この10年間で栄に便利な市町への人
①人口移動への影響
口流入が急速に勢いを失ったことがわかる。
タワーズ開業以降の名駅の発展(と栄の衰退 )は、名
古屋市の周辺地域にもさまざまな影響を及ぼしている。
特に大きな影響を受けたのが、転入・転出に伴う
「人口
こうした一方で、
大府市や一宮市、
蟹江町など名駅に便
利なJR、
名鉄、
近鉄の沿線市町では、
転入超過幅が拡大(あ
るいは転出超過幅が縮小)
したところが多い(注14)。
また、
JR
図表12 名古屋市通勤率10%超市町村の人口千人あたり転入超過者数
①96年度∼98年度平均 ②06年度∼08年度平均
③変化幅(②−①)
尾張旭市
長久手町
日進市
東郷町
三好町
(現みよし市)
(人/人口千人)
(人/人口千人)
(人/人口千人)
14以上
14以上
14以上
10∼ 14未満
10∼ 14未満
10∼ 14未満
6∼ 10未満
6∼ 10未満
6∼ 10未満
2∼ 6未満
2∼ 6未満
2∼ 6未満
−2∼ 2未満
−2∼ 2未満
−2∼ 2未満
−6∼ −2未満
−6∼ −2未満
−6∼ −2未満
−10∼ −6未満
−10∼ −6未満
−10∼ −6未満
−14∼−10未満
−14∼−10未満
−14∼−10未満
−14未満
−14未満
−14未満
出所:総務省「住民基本台帳人口要覧」をもとに共立総合研究所作成
12
東海道線沿線をはじめ、
名駅に直結する沿線の主要駅周
の2009年の地価の指数はそれぞれ82と68で、
「名駅・栄と
辺では多くのマンションが建設された。図表13は、
2003年か
も便利さが同程度」である赤池駅、
春日井駅の60、
58や、
「栄
ら2009年までの7年間に、
名駅に便利な沿線と栄に便利な
が便利」な三郷駅、
新瀬戸駅の61、
58よりも高くなっており、
沿線の主要駅から徒歩10分圏内の新築マンションの供給
名駅に便利な主要駅周辺の地価の下落幅が相対的に小
戸数を表しているが、
一宮駅、
岐阜駅、
安城駅、
桑名駅など
さいことがわかる。
名駅に便利な沿線の主要駅近くでは、
地下鉄藤が丘駅な
②周辺都市の中心市街地への影響
ど栄に便利な沿線の主要駅に比べて多くのマンションが供
タワーズ開業に伴う名駅の商業発展は、名古屋市の周
給されている(注15)。マンション供給が多い場所はそれだけ
辺都市の中心市街地にも影響を与えている。この点につ
需要も多いと考えられることから地価も高くなる。図表14は「名
いて岐阜市を例にみてみたい。
駅が便利」、
「栄が便利」、
「名駅・栄とも便利さが同程度」
(注16)
な駅のうち、
鉄道駅に近接しており
、
かつ1999年と2009
図表15は、岐阜県商業流通課が2006年に行った「消
費者購買動向調査」をもとに、岐阜市とその周辺地域の
年で同一地点の地価が調査されている6地点について、
住民が主な買い物場所としてどこを利用しているかを、商
2009年の地価を1999年の地価を100とした指数で表したも
品の種類別に調査時点とその10年前で比較した結果で
のである。これをみると、
「名駅が便利」な一宮駅と桑名駅
ある。これをみると10年前に比べて「買回品」
(下着以外
図表13 主要駅徒歩10分圏内の新築マンション戸数
図表14 タワーズ開業前と比べた現在の主要駅前の地価
(1999年を100とした2009年の地価の指数)
(戸)
名駅が便利な沿線
栄が便利な沿線
100
90
683
(6)
700
600
名駅・栄とも
便利さが同程度
栄が便利
70
590
(7)
585
(7)
60
493
(11)
500
50
40
364
(9)
400
291
(1)
300
208
(3)
0
83
(3)
59
(2)
0
一
宮
総
合
駅
︵
J
R
・
名
鉄
︶
稲
沢
駅
︵
J
R
︶
大
府
駅
︵
J
R
︶
刈
谷
駅
︵
J
R
︶
安
城
駅
︵
J
R
︶
岡
崎
駅
︵
J
R
︶
桑
名
駅
︵
J
R
・
近
鉄
︶
新
瀬
戸
駅
︵
瀬
戸
市
/
名
鉄
︶
60
58
61
58
︵赤
地池
下駅
鉄
鶴
舞
線
︶
︵春
J 日
R井
中駅
央
本
線
︶
︵三
名郷
鉄駅
瀬
戸
線
︶
︵新
名瀬
鉄戸
瀬駅
戸
線
︶
10
100
岐
阜
駅
︵
J
R
・
名
鉄
︶
68
20
181
(3)
126
(1)
82
30
284
(5)
237
(3)
200
三
郷
駅
︵
尾
張
旭
市
/
名
鉄
︶
杁
ヶ
池
公
園
駅
︵
長
久
手
町
/
リ
ニ
モ
︶
藤
が
丘
駅
︵
名
東
区
/
地
下
鉄
︶
日
進
駅
︵
日
進
市
/
名
鉄
︶
(注)カッコ内の数字は新築マンション棟数。期間は2003年1月∼2009年12月。
出所:マンション検索サイト「Livily(リビリィ)」による02年11月以降竣工の愛知県
1,013物件の検索結果をもとに共立総合研究所作成
13
名駅が便利
80
一
名︵
J 宮
鉄R
総
名東合
古海駅
屋道
本本
線線
︶・
近︵
J 桑
鉄R
名
名関駅
古西
屋本
本線
線・
︶
(注)鉄道駅から150m以内にあり、1999年と2009年の地価が調査・公表されている
次の6地点のデータ。
一宮総合駅:一宮市新生一丁目2番8号
(駅に近接・商業地域)
桑名駅:桑名市寿町2丁目10番
(駅に近接・商業地域)
赤池駅:日進市赤池三丁目706番
(駅から100m・近隣商業地域)
春日井駅:春日井市中央通1丁目90番
三郷駅:尾張旭市三郷町栄42番
新瀬戸駅:瀬戸市東横山町39番外
(駅に近接・商業地域)
(駅から150m・商業地域)
(駅に近接・商業地域)
出所:国土交通省「都道府県地価調査」をもとに共立総合研究所作成
の衣服・くつ・カバン・電化製品など)、
「準買回品」
(下着・
部や南部、各務原市など近年大型商業施設が出店した
医薬品・化粧品)、
「贈答品」については岐阜市の中心市
地域での買い物利用が増えていることがわかる。このこと
街地で主に買い物をする人の割合が大幅に減る一方、
から、岐阜市の中心市街地が衰退した要因に名駅の発
特に買回品や贈答品については名古屋市で買い物する
展があることは否定できないものの、
それ以上に岐阜市
人の割合が増えている。
郊外での大型商業施設の増加の方がより大きな要因と
ただ、
この図表をよくみると、名古屋市以上に岐阜市北
考えるのが妥当であろう(注17)。
図表15 岐阜市とその周辺地域の住民の「主な買い物場所」の変化(10年前と現在の比較)
①買回品
(%)
50 45.8
(%)
50
10年前
②準買回品
現在
10年前
現在
40
40
34.1
28.9
30
30
22.3
23.9
22.1
20
16.9
16.0
12.2
11.5
中岐
心阜
市市
街
地
岐
阜
市
北
部
︵
除岐
く阜
中市
心中
市部
街
地
︶
︵岐
除阜
く
旧市
柳南
津部
町
︶
(%)
50
︵岐
旧阜
柳市
津南
町部
︶
16.5
18.1
14.4
10.2
5.6
5.2
0
20
15.8
10.8
9.5
10
22.1
19.9
9.9 9.9
10
名
古
屋
市
愛名
知古
県屋
市
を
除
く
③最寄品
中岐
心阜
市市
街
地
岐
阜
市
北
部
7.7
︵岐
除阜
く
旧市
柳南
津部
町
︶
︵
除岐
く阜
中市
心中
市部
街
地
︶
(%)
50
10年前
10.6
5.0
0
各
務
原
市
8.4
︵岐
旧阜
柳市
津南
町部
︶
2.3 3.4
名
古
屋
市
愛名
知古
県屋
市
を
除
く
10年前
40
現在
35.7
28.2
30
30
各
務
原
市
3.2 2.9
④贈答品
現在
40
16.0
23.7
20
17.2
18.1
15.1
14.7
9.7
10
11.3
9.5
20
17.2
12.0
10.6
4.1 5.0
1.1 1.1
0
中岐
心阜
市市
街
地
岐
阜
市
北
部
︵
除岐
く阜
中市
心中
市部
街
地
︶
︵岐
除阜
く
旧市
柳南
津部
町
︶
︵岐
旧阜
柳市
津南
町部
︶
2.3 3.2
0
各
務
原
市
名
古
屋
市
愛名
知古
県屋
市
を
除
く
10.2
7.7
10
中岐
心阜
市市
街
地
岐
阜
市
北
部
(注)
・調査時点(=現在)は2006年11月∼12月。
・標本数は岐阜市とその周辺地域の住民443名。
・選択率(%)は、
グラフにある8地域に加えて羽島市、本巣市など27地域のうち、
「主な買い物場所」として2地域を選び、各地域の選択者数を有効回答数で除した割合。
・地域区分の詳細は以下のとおり。
「岐阜市北部」は長良川以北の岐阜市。 「岐阜市中部(除く中心市街地)」は中心市街地を除く長良川以南∼高山線―東海道線以北の岐阜市。
「岐阜市南部(除く旧柳津町)」は旧柳津町を除くJR高山線∼東海道線以南の岐阜市。 「各務原市」は旧川島町を除く。
4.3 3.4
3.6 3.6
︵
除岐
く阜
中市
心中
市部
街
地
︶
︵岐
除阜
く
旧市
柳南
津部
町
︶
12.2
5.4
8.4
5.4
2.5
︵岐
旧阜
柳市
津南
町部
︶
1.1 1.6
各
務
原
市
名
古
屋
市
愛名
知古
県屋
市
を
除
く
・商品の区分は以下のとおり。
買回品
準買回品
紳士服 婦人服 カジュアル衣料品 くつ・カバン 趣味・スポーツ用品 電化製品
下着 医薬品・化粧品
最寄品
食料品 生活雑貨
贈答品
贈答品
出所:岐阜県商業流通課「平成19年度岐阜県消費者購買動向調査」をもとに共立総合研究所作成
14
楽しい街であり、
このような大須の性格は名駅では代替
4 栄の復興・再生策を考える
することができない。それゆえ大須は名古屋市外からも多
くの人を引き寄せるのである。
(1)
栄の復興・再生のカギを握る「名駅との差別化」
名駅との差別化という視点から考えると、今後栄が目指
ここまでみてきたように、
タワーズは名古屋市と名古屋市
すべき方向としては、従来からの東京の銀座に近い“高
の周辺都市に幅広い影響を与えてきた。中でも最も大きな
級で小ぎれい”な街の性格にプラスして、
昼間の原宿・代々
影響を受けたのが、
いわゆる「清洲越し」で名古屋という人
木公園界隈の“縁日的な賑やかさ”と、夜の中州(福岡)、
工都市が誕生して以来約400年間、
一貫してその中心であっ
すすきの(札幌)の“猥雑さ”を合わせ持った街の姿が思
た栄である。タワーズの開業以前には、
わずか10年で栄の
い浮かぶ。栄がこうした街に変われば、面白みがないとい
地位がこれほど低下するとは予想できなかった。
われる観光地としての名古屋の魅力も増すに違いない。
今後、
名古屋市にとって大きな課題となりそうなのが「栄
こうした方向性が適切かどうかについては人により意
の復興・再生」である。この点については今のところあまり
見が分かれるところであろうが、
いずれにせよ栄は何もし
注目されていないが、名駅ビッグバンの止まる気配がない
なくても名古屋の中心でいられた時代の発想を捨てて、
状況の中、栄がこのまま何の対策も講じない場合には、
そ
街を大胆に作り替える必要がある。本章では栄の復興・
の復興・再生は時間の経過とともに困難になっていくと思
再生のための具体策についていくつか示していくことに
われる。それでは、栄の復興・再生のためにはどのような
したい(概要は図表16を参照)。 方策が考えられるのであろうか。
栄の復興・再生策を考えるにあたって最も重要な視点は、
「名駅との差別化」である。利便性において栄が名駅より
劣ることは、
現在の鉄道路線網を考えれば如何ともし難い。
そうであるなら、栄は利便性以外で名駅と勝負していかな
ければならないが、
そのための大きなヒントを与えてくれる
街が「大須」である。
大須は、大須観音の門前町として江戸時代に発展が
15
(2)栄の強みである
「空間」と「文化施設」の有効利用
栄には名駅にはない大きな強みがある。それは公園な
どの「空間の広さ」である。
栄には、久屋大通公園、若宮大通公園、矢場公園、
白
川公園、
オアシス21など、名駅に比べて公園や公共空間
が多い。栄最大の公共空間である久屋大通公園(写真4)
始まった。明治以降は劇場や映画館などが集まり名古屋
では、10月の名古屋まつりや8月の日本ど真ん中祭り、地
の一大歓楽街となると同時に家具街としても栄えた。戦後
元放送局主催の各種イベント、
中日ドラゴンズ優勝時の優
は映画ブームが終わりを告げた1960年過ぎから衰退が
勝パレードなどが行われ、
その際には大勢の人で賑わう。
始まり、1970年代に入ると衰退が顕著となったが、1970年
若宮大通公園や白川公園は、週末を中心にダンスの練習
代終わりから家電、電子パーツ、パソコンなどの店が集ま
や市民サークル、
クラブ活動などに広く利用されている。
る電気街として生まれ変わった。その後は古着、
外国料理、
こうしたイベントや市民活動は、空間にゆとりのない名駅
「オタク系」など多種多様な店舗が集まるようになり、若者
で行うことは難しい。それゆえ、栄が公園や公共空間をフ
から高齢者、
カップル、家族連れ、外国人などあらゆる人
リーマーケットや音楽・ダンスなどのイベント、
オープンカフェ、
が楽しめる街となった。現在の大須は東京でいうと浅草、
屋台村などとしてこれまで以上に積極的に活用すれば、
秋葉原、巣鴨、下北沢、裏原宿などの性格を併せ持った
名駅では味わうことができない「街歩きの楽しさ」を来街
街に例えられる。恐らく大須は名古屋で最も歩いていて
者に提供できるはずである。
図表16 栄の復興・再生のための具体策
栄をさらに街歩きの楽しい街にするためには、1970年
から1984年まで栄交差点以南の大津通(写真5)で毎週
栄の強みである「空間」と「文化施設」の有効利用
日曜日に行われていた歩行者天国の復活や、名古屋市
が数年前から検討してきた栄と伏見の間の広小路通の
・久屋大通公園など都市公園等のイベント・商業利用の促進
車線削減と歩道拡張を行う
「広小路ルネサンス」
(コラム2
・大津通での歩行者天国実施
参照)の実現が望まれる。
・
「広小路ルネサンス」の実現
( →将来は完全なトランジットモール化)
・街なかのイベント等とのつながりを考慮した栄の文化施設の活用
また、
空間以外に栄が名駅に対して優位にあるものが「文
化施設」の多さである。機能や効率が重視され、文化施
設のようなゆとりに欠ける名駅とは対照的に、
栄には、
愛知
名駅−栄間の交通利便性の強化
・名駅−栄間のバス輸送の強化
( 市バス都心ループ線のシャトル運行)
県美術館と愛知県芸術劇場が入居する愛知県芸術文
化センター(写真6)
をはじめ、
名古屋市美術館、
松坂屋美
術館、御園座、
中日劇場、名古屋市科学館、
でんきの科学
館などの文化施設が集まっている。こうした文化施設は、
・都心でのコミュニティサイクル事業(名チャリ)の実施
・三蔵通の片側車線の自転車専用道路化
“栄(sakae)
ブランド”の活用
・若い女性との関連で力を発揮する“栄(sakae)”のブランド力を 活かしたまちづくりの方向性の検討
栄にふさわしい拠点の整備
・栄交差点北東角地(錦三丁目25番街区)の開発
・・・例:大学の共同利用施設
写真5:1984年まで歩行者天国が行われていた大津通(筆者撮影2010年3月)
写真4:緑と空間に恵まれた久屋大通公園(筆者撮影2010年3月)
写真6:愛知県芸術文化センター
(右奥)
とオアシス21(左手前)
(筆者撮影2010年3月)
16
コラム2 広小路ルネサンスで“広ブラ”復活を
だけに渋滞も多い。このため車線削減への抵抗感が強
いことは十分理解できる。ただ、
自動車での名古屋市内
「広小路ルネサンス」とは、名古屋市を東西に貫くメイ
の東西移動については、広小路通から1km以内の範囲
ンストリート・広小路通の大改造計画のことだ。この計画
だけでも、外堀通、桜通、錦通、若宮大通、都市高速と
( 1)
は、広小路通の栄−伏見間約900m(写真7)
* の車道
複数の大きな道路が存在する。ゆえに、広小路通の車
を片側2車線から1車線に減らすことで歩道を拡げ、
そこ
線を削減しても、必ずしも不便が生じるとはいえない。
に街路樹やせせらぎを整備し、
オープンカフェなどを設け
むしろ広小路通については車道1車線の削減からさら
ることで賑わいのある通りにしようというものだ。広小路
に踏み込んで、バスとタクシー以外の一般車両の乗り入
ルネサンスは環境にやさしい街づくりを目指す立場から名
れを禁止して完全なトランジットモール( *3)にすることも考
古屋市の松原前市長が推進してきたが、市民の間に渋
えられる。広小路通への一般車両の乗り入れが規制さ
滞の増加や物流面での不便を懸念する声が拡がって、
れれば、名駅−栄間のバスの所要時間が短くなり名駅
市議会も2009年度予算で関連予算を大幅に減額修正
から栄への利便性が向上する。また排気ガスが減ること
したことで現在は事実上ストップしている。
で人々が気持ちよく栄を歩けるようになる
(バスの車両を
ただ、栄の復興・再生策として考えた場合、広小路ル
電気自動車や燃料電池車にすれば一層効果が上がる)。
ネサンスは非常に有効な施策といえる。16ページでも述
私が広小路ルネサンスを支持するのは、栄の復興・再
べたように、栄の街歩きの魅力を高めるためには、都市公
生には街の性格を劇的に変える荒療治が必要と考える
園や歩行者天国、歩道、近隣の文化施設などをフルに
からだ。広小路ルネサンスが名古屋市民の支持を得ら
活用して、
イベントや露天・屋台的な商業行為を恒常的
れなかったのは市民の間に栄の衰退についての認識や
に行っていく必要がある * 。広小路通では昭和30年代
危機意識が共有されていなかったためで、文字通り広小
頃までみられた“広ブラ”
(かつて広小路通にあった屋
路通(≒栄)のルネサンス(復興)のための計画として
台街をブラブラ歩くこと)の復活が強く望まれるところだ。
改めて市民に問い直せば市民の理解も得られるのでは
( 2)
名古屋市の東端から西端までを一本で貫いている広
小路通は名古屋市にとって非常に重要な道路で、
それ
ないだろうか。いずれにしろ「今まで通り」の先には栄の
復興・再生は見えてこない。
(*1)最終的には名駅の笹島交差点から栄の東新町交差点までの約
2.7kmが対象区間。
(*2)広小路通り沿いには昔から銀行や証券会社が多い。ところが金
融機関の再編や証券のネット取引の普及により、金融機関で働く
人が減り、店舗も余り気味になっている。とりわけ金融機関の集ま
る広小路通沿いは、金融街からの脱皮が課題になっている。広小
路ルネサンスが実現して広小路通の人通りが増えれば、東京の「裏
原宿」のように、広小路通と大津通に挟まれた裏通りに人の流れ
が拡がる可能性がある。
写真7:
「広小路ルネサンス」で車線削減と歩道拡張が検討されてきた広小路通
(筆者撮影2010年3月)
17
(*3)都市の中心繁華街にある公共交通機関以外の自動車の通行を
抑制した街路のこと。
周辺の公園や公共空間等で行われるイベントなどと面的
移動する場合にも自転車は非常に適している。さらに、
自
につながりを持つことで、栄の街歩きの楽しさ向上に大き
転車の往来が増えれば栄に視覚的な賑わいを創出する
な役割を果たすことが期待できる。
ことにもつながる。 名古屋都心部の交通手段としての自転車の活用につ
(3)バスやコミュニティサイクルによる
名駅−栄間の交通利便性の強化
いて、名古屋市は2007年から毎年、名古屋大学の協力を
得て、
市内の放置自転車を再利用したコミュニティサイクル
名駅と栄の間は地下鉄の東山線と桜通線で結ばれて
の社 会 実 験を行っている(コラム3参 照 )。最も新しい
おり、
両方の路線を合わせると平日のラッシュ時には1時間
2009年の社会実験では、過去2年の実験に比べて、実施
に45本、昼間の時間帯でも20本が運転されている。また、
日数、
自転車台数、
貸し出し・返却を受け付けるステーション
市バスも都心ループ線(栄758系統)
と他の1路線を合わ
数を大幅に増やした結果、60日間で延べ10万回近く利用
せて、平日昼間には1時間あたり8∼9本が運転されている。
された。新聞報道によれば、名古屋市は2010年秋に同市
名駅−栄間は2つの地下鉄路線が利用できるためバス
で開 催される「 生 物 多 様 性 条 約 第 十 回 締 約 国 会 議 」
利用者は少ないように思われるかもしれないが、実はこの
(COP10)に合わせてコミュニティサイクルの事業化に向
区間はバス利用者もかなり多い。バス利用者の多くは高
けた実験を行い、
2012年からは有料のコミュニティサイクル
齢者である。これは、高齢者にとって地下鉄に乗るための
事業として本格的に実施される予定である(注18)。
地下への上り下りが負担になるからである。またバスは停
コミュニティサイクル事業が成功するためには、
適切な料
留所の間隔が短く、
目的地の近くまで乗っていけることも
金設定と十分な自転車台数およびステーション数の確保以
高齢者には便利である。今後高齢化が進んでいくと、地
外に、
歩行者や自動車との棲み分けをどう行うかという点も
下鉄よりもバスを利用しようという人は増えると見込まれる。
大変重要である。自転車と歩行者・自動車との棲み分けに
名駅−栄間のバス輸送力を強化してもその分地下鉄の
ついては、
「広小路ルネサンス」を実現させて、
削減された
利用者が減るだけという考えもあろうが、地下鉄に乗るの
車道の一部に自転車専用道を設ける方法や、
広小路通の
は面倒という高齢者に栄への来街を促すには、名駅−栄
約200m南を広小路通と平行に走る片側1車線の“裏道”
間のバス輸送力を強化することは有効な手段と思われる。
(注19)
である三蔵通(写真8)
の片方車線を自転車専用道(残
バス輸送力の強化と利用促進の具体策としては、現在
る1車線は一方通行)
にするなどの方法が考えられる。
10分となっている市バス都心ループ線の運行間隔を5分程
度に短縮することや、
ルート上何度でも乗り降り自由な1日乗
車券をワンコイン
(500円)程度で導入することなどが考えら
れる。これ以外にも、
(タクシー業界との調整が必要となるが)
市バス都心ループ線をJR名古屋駅前のロータリーに乗り
入れできるようにすれば、名駅と栄の時間的・心理的距離
は相当に縮まり、
栄への来街者の増加につながると思われる。
名駅−栄間の移動手段としては、
自転車の活用も考え
られる。名駅−栄間はおよそ2.5kmで歩くにはやや遠いが、
地下鉄やバスに片道200円払うのはもったいない距離で
ある。また、栄のように広い範囲の中にある複数の場所を
写真8:広小路通の少し南を広小路通と平行に走り名駅と栄を結ぶ三蔵通
(写真はプリンセス大通との交差点から大津通方向を望む)
(筆者撮影2010年3月)
18
(4)
“栄(sakae)
ブランド”の活用
図表17 インターネットのキーワード検索でのヒット数比率
現在のように名駅が発展する以前は、地元テレビ局の
栄
【検索キーワード】
栄の比率が特に高い
情報番組や、
「東海ウォーカー」、
「KELLY」、
「Cheek」
といった地元タウン誌・ファッション誌に取り上げられる機
会は、栄の方が名駅より断然多かった。しかし、
タワーズ
が開業してからはこれらのメディアも名駅を頻繁に取り上
げるようになり、反対に栄のメディア露出は次第に減少し
ている。
名駅
女子大生
53
47
女子高生
51
49
61
39
(キーワード無し)
OL
30
70
高齢者
29
71
男子高校生
28
72
とはいうものの、
長い歴史の中で栄が築き上げたブランド
男子大学生
25
75
力は今も一定の力を保っている。栄のブランド力は特に若
サラリーマン
24
76
い女性との関連で強みを発揮する。このことを示すデータ
専門学校生
が図表17である。この図表は、
「女子高生」、
「サラリー
ビジネスマン
マン」、
「高齢者」、
「こども」、
「主婦」など人の属性を表
主婦
す言葉が栄と名駅のどちらの地名とよく使われているか
こども
を表している。
もう少し細かく説明すると、
インターネット検索エンジン
78
22
81
19
16
12
84
88
(注)検索キーワードを「“名古屋”+“栄”または“名駅”+“キーワード”」とした場合
のヒット数の比率
出所:Googleでの検索結果(検索日:2010年3月24日)
をもとに共立総合研究所作成
排出量の削減」、
「街のにぎわい創出」の3点だ。名チャ
コラム3 名チャリって何?
リのようなコミュニティサイクルは観光地にあるようなレ
「名チャリ」
(めいちゃり)
とは、名古屋市が名古屋大学
ンタサイクルとは異なり、貸出・返却を行うステーション
の協力を得て、市内の放置自転車を再生・活用したコミュ
が複数あって、基本的にどのステーションで借りてどこ
ニティサイクルの愛称だ。ちなみに名チャリの「名」は名
へ返しても構わない。従って、
コミュニティサイクルは短
古屋の「名」、
チャリは「ちゃりんこ」
(自転車を意味する
時間・短距離の利用に向いており、
レンタサイクルに比
俗語)のチャリからきている。
べて1台の自転車をより多くの人が利用することができる。
名チャリの大きな目的は、
「放置自転車の削減」、
「CO2
「名チャリ」社会実験の結果
実施年(月)
2007年(12月)
ステーションの設置場所(2009年)
2008年(9月)
2009年
(10∼12月)
日数
13日間
2日間
60日間
自転車台数
124台
201台
300台
ステーション数
5ヵ所
10ヵ所
30ヵ所(右の地図参照)
登録者数
1,432名
764名
30,794名
利用回数
1,872回
952回
98,846回
回転率(注)
1.16回
2.37回
5.49回
(注)回転率…自転車1台あたりの1日の利用回数
出所:名古屋大学大学院竹内研究室「名チャリプロジェクト」ホームページ
19
「Google」で、
第一の検索キーワードに“名古屋”、
第二に
ちの活動の拠点が名駅に置かれていたならば「MEK48」
“栄”または“名駅”、
第三に“女子高生”、
“サラリーマン”、
という名前になったのかもしれないが、SKE48を企画した
“こども”、
“主婦”など人の属性を表す11の言葉のうちの
人たちの頭には恐らく
「名駅」という発想はなかったので
1つを選び、
これら3つのキーワードをすべて含むサイト数を
はないだろうか。名駅が発展した現在でも、名古屋発の
調べて、
例えば「“名古屋”、
“栄”、
“女子高生”」
と
「“名古屋”、
女性アイドルユニットというのは、理屈ではなく名駅より栄
“名駅”、
“女子高生”」
というように、
第三のキーワードが同
の方が似合いそうである(注20)。これこそが栄のブランド力
一(この例で“女子高生”)で、
第二のキーワードを“栄”
と
であり、
このようなブランド力を最大限活かすという視点か
した場合と“名駅”
とした場合の検索されたサイト数の比率
ら街づくりを考えていくことが、今後の栄には重要になって
(両者の合計を100)
をグラフにしたものである
(第一のキー
いくと思われる。
ワードの“名古屋”は不変)。
これをみると、
第三のキーワードの中で“栄”の比率が最
も高かったのが“女子大生”で、
次が“女子高生”であった。
(5)栄にふさわしい拠点の整備
栄の復興・再生には、
賑わい創出のための拠点、
いわゆ
この2語に限っては、第三のキーワードとした11語の中で
る「ハコモノ」の整備も必要になるかもしれない。拠点整
“栄”の比率が飛び抜けて高い。すなわち、栄という地名
備については現在の厳しい経済状況や過去のハコモノ
は名駅に比べて若い女性を表す“女子高生”や“女子
行政への反省から慎重の上にも慎重を期して検討される
大生”という言葉とそれだけよくマッチしているということ
べきであるが、栄の衰退回避につながり、
かつ名古屋市
ができる。
にとって有用なものであれば、必ずしも一切の拠点整備を
若い女性との関連で栄のブランド力を示す好例として、
否定すべきではない。
名 古 屋 発 、栄 発の女 性アイドルユニット、
「 S K E 4 8 」を
広小路通と大津通が交わる栄交差点の北東角にあり、
挙げることができる。SKE48は東京の秋葉原を活動拠
名古屋市と松坂屋などが所有する「錦三丁目25番街区」
点とする人気アイドルユニット「AKB48」の姉妹ユニッ
(写真10)は、栄で最も有望な再開発用地としてかねてか
トとして2 0 0 8 年に
ら利用方法が議論されている。現在この土地は大手金融
名 古 屋 で 結 成さ
機関がセミナーなどを行う施設、
および広場となっているが、
れた 。S K E 4 8は 、
彼 女 たちの 活 動
拠点が栄の複合
エンターテインメン
トビル「SUNSHINE
SAKAE」
(写真9)
内の劇場であること
から、栄(sakae)の
一部とAKB48の48
をとってこのユニット
名になったとされて
いる。仮に 彼 女た
写真9:人気アイドルユニット・SKE48の活動拠点
があるエンターテイメントビル
「SUNSHINE SAKAE」
(筆者撮影2010年3月)
写真10:栄に残された唯一最大の再開発候補地といわれる「錦三丁目25番街区」
(錦通を挟んで三越の向かい側)
(筆者撮影2010年3月)
20
恒久的な利用方法については決まっていない。2004年度
役割以上に、
そこから生まれる知的成果を産学連携事業
には名古屋市はこの土地の有効利用の提案を民間から
やセミナー、講演などの形で地域に還元する役割を担うこ
受け付け、120件の応募の中から優秀賞6件が選ばれた。
とも期待できる。大学共同利用施設は高級ホテルや商業
優秀賞を受賞した提案は、建物に関してはユニークでは
施設のような派手さには欠けるものの、栄の長所を活か
あるもののバブル的なものが目立ち、中身についてはほと
したハコモノといえるのではないだろうか。
んどの提案が高級ホテル、
マンション、商業施設、
オフィス、
公共サービス施設を組み合わせた複合施設であった。
5 結びに代えて しかし、
今後名駅で予定されている大型再開発を考えると、
∼待ったなしの栄・大改造∼
栄に高級ホテルや商業施設、
オフィスなどを増やすという
のは無理があるといわざるをえない。
2017年春のある日、
名古屋駅前の名古屋ターミナルビル
それでは、
ここにふさわしい“ハコモノ”
とは何であろうか。
文化施設が集まり、名古屋市内の大学からのアクセスが
がオープンした。ビルの周りには開店前から数千人が列を
よく、女子高生や女子大生が似合うという栄の特徴から
作っている。周囲を見渡すと、視界に入る超高層ビルの
考えて候補に挙げたいのが、
大学の共同利用施設である。
数は2ケタに迫り、近頃は“名駅摩天楼”という言葉も決し
名古屋市の市有地が含まれているということから名古屋
て誇張ではなくなった。リニア中央新幹線も10年後の開
市立大学を中心に、名大、名工大、愛知県立大など愛知
業を目指して本格的に工事が始まり、
マスコミは名駅を主
県の国公立大学や、南山大、金城学院大、愛知淑徳大な
役にいよいよ名古屋新時代の幕開けと伝えている。一方、
どの私立大学にも声をかけて、授業やセミナーなどに広く
栄はといえば・
・
・。
利用できる施設にするというのはどうであろうか。さらに岐
今回の調査レポートでは、
タワーズ後10年間の名駅の
阜県や三重県にある大学の名古屋でのサテライトキャン
発展の検証と、栄の復興・再生策について取り上げた。
パスとしての機能を持たせることも考えられる。
現在の栄をみれば、
「これだけ人で賑わっているのに、
全国における大学共同利用施設の例としては、神戸市
なぜ栄の復興・再生が必要なのか?」と疑問を感じる人も
西部の研究学園都市にある「UNITY」
(ユニティ)がある。
多いに違いない。
しかし、
今の延長線上に見えてくる5年後、
UNITYは、神戸芸術工科大学、神戸市外国語大学、兵
10年後の栄についても、復興・再生など必要ないと断言で
庫県立大学、流通科学大学、神戸市立工業高等専門学
きるであろうか。
校、神戸市看護大学の6校が加盟する神戸研究学園都
街づくりというのは大変に時間がかかる。また、街づくり
市大学交流推進協議会が運営する施設で、加盟大学間
の主役は民間である。民間という存在は、基本的に損得
の単位互換授業や学生向けの就職対策講座、市民向け
で動くものである。それゆえ、本当に街が廃れてしまって
(注21)
の公開講座などが行われている
。UNITYは繁華街
再生が難しくなってからでは民間の投資は呼び込めない。
から離れているために、学生は授業や講座を受けるとす
だからこそ、廃れきっていない今のうちに打てる手は打っ
ぐに三宮などの繁華街へ行ってしまい、施設の周辺に賑
ていくべきではないか。
わいはないが、栄であればこうした問題を心配する必要
はない。
21
跡に誕生した超高層ビルに中核テナントとなる商業施設
今から議論を始めても、実際に動き始めるまでに数年、
目にみえて街が変わるまでにさらに数年が必要となる。
衰退しつつあるとはいえ、名古屋都心の一等地である
そうなると、
名駅が名古屋ターミナルビルや大名古屋ビルヂ
栄にこうした施設ができれば、単に来街者を集めるという
ングなどの再開発でもう一段スケールアップする2017年頃
までの間に残された時間は決して長くはない。
名古屋市、
そして名古屋都市圏にとって望ましいのは、
名駅と栄の両方が発展することである。
「効率・機能の名
駅」に対して「ゆとり・遊びの栄」というように、
それぞれが
持ち味を活かすことによって名古屋という都市に彩りと深
みをもたらすよう、栄の復興・再生について正面から議論
が行われることを望みたい。
(注12)データ出所は名古屋市統計年鑑。
( 注13 )名駅の最高地価は近鉄パッセ、栄は三越名古屋栄店(なお両
地点がともに公示地価の調査対象地点となったのは2003年から)。
(注14)但し、名駅に便利な市町にみられる転入超過幅の拡大(転出超
過幅の縮小)はそれほど大幅なものではない。これは、名駅に便
利なエリアは非常に範囲が広いため、名駅へのオフィス集積等
の効果も広範囲に分散されるためと考えられる。
(注15)2009年末時点でマンション検索サイト「Livily」に登録されてい
た2003年以降竣工の愛知県内1,013物件、岐阜県内92物件の
検索結果。
(注16)駅から150m以内。
( 注1 )
タワーズは1999年12月に建物が竣工し、竣工と同時にオフィスへ
の入居が始まった。ただ、
中核テナントであるJR名古屋タカシマヤ
(注17)2009年10∼12月に岐阜経済大学が岐阜県の委託を受けて岐阜・
西濃地域の主に若者を対象に行ったアンケート調査(有効回答
の開業は2000年3月、名古屋マリオットアソシアホテルは同年5月
数5,722件 )でも、
おしゃれ着を購入する時に最もよく行く場所と
であることから、
本稿ではタワーズの開業を2000年としている。
して「名古屋の繁華街」をあげた割合は20.6%で、
「ショッピング
(注2)1本目は「変貌する名古屋駅前∼JRセントラルタワーズ開業による
モール」の53.0%の半分以下にとどまっている。
名古屋駅前商業集積の拡大とその影響」
(「レポート1999」
(67号))、
(注18)2010年1月4日付中日新聞夕刊。
2本目は「タワーズが変える名古屋圏の地域構造」
(「レポート2001」
(注19)三蔵通は、桜通以南で若宮大通以北の東西方向の道路として
(79号))、3本目は「変貌する名古屋駅前 ∼“名駅ビッグバン”
は名古屋をどう変えるか∼」
(「レポート2006」
( 111号))。
( 注3 )シリーズタイトルの“変貌する名古屋駅前”はシリーズ2本目で
ある2001年のレポートでは用いていないが、内容的には“変貌
する名古屋駅前 ”と呼んで差し支えないものであることから、
本稿のシリーズナンバーを「 」とした。
( 注4 )
ここでの名駅は中村区の新明学区と牧野学区、栄地区は中区
の栄学区と名城学区。
(注5)栄の百貨店の衰退は名駅の影響だけではない。共立総合研究
は、桜通、錦通、広小路通、若宮大通以外では唯一一方通行で
はない片側1車線道路で、名駅の名駅通( 笹島交差点南の下
広井町)
と栄の久屋大通(三越ラシック館の南)
を一本で結んで
いる。
(注20)それではなぜ栄は女子高生や女子大生が似合うのであろう。こ
れは、名古屋市内の高校や大学の大部分が市内東部の地下
鉄沿線にあるため、学校の行き帰りに栄へ 立ち寄りやすいこと
が大きな理由と考えられる。この点は男子高校生・大学生でも
変わらないが、男性はショッピングなどで繁華街を歩く頻度が女
所が毎年実施している主婦の消費行動に関するアンケート調
性より少ないので必然的に栄では女子高生、女子大生の姿が
査によると、百貨店の利用が年々減る一方、複合型SCや通信
目立ち、栄は女子高生、女子大生が似合うイメージになるのでは
販売(ネット通販を含む)の利用が増えており、百貨店売上のか
なりの部分がこれらの業態に奪われているとみられる。
(注6)
オフィスエリアについては名駅が中村区の新明、六反、牧野学区、
栄が中区の栄、御園、名城学区としており、注4の商業エリアより
ないだろうか。
(注21)
この他にUNITYよりも営利色が強く、
オープンな施設として幅広
く利用できる施設として、札幌市のJR札幌駅前に「大学共同利
用施設ACU」がある。
範囲が広い。
(注7)三鬼商事は名古屋市中心部のオフィスエリアを名駅、栄、伏見、
丸の内の4つに分けている。このため、特に栄の範囲は図表3、
図表5、図表7
(注4、注6)
よりも狭い。
(注8)2006年の事業所・企業統計調査は調査時期が10月1日でミッドランド
スクエア
(2006年11月竣工)や名古屋ルーセントタワー(2007年1月
竣工)
ができる前のデータである。
(注9)特に名古屋の金融の中心的存在であった東海銀行が合併によっ
て消滅し、栄から本店機能が消えたことが栄に与えた影響は非
常に大きい。
(注10)調査が行われた11月第2木曜日の一日の乗車人数。
(注11)鉄道はA駅とB駅の間の往復乗車がほとんどであることから、
「JR、
名鉄、
近鉄の名古屋駅の年間利用者数(乗車人数)の合計」は、
「JR、名鉄、近鉄を利用して名古屋駅に来た人数」にほぼ等しい。
(2010.5.6) 共立総合研究所 調査部 江口 忍
22