国際政治理論 I

2001 年度 国際政治理論Ⅰ講義録.doc
平成 13 年度
国際政治理論Ⅰ
4/10
国際政治学の理論とは?
● 政治学と国際政治学
違い…視野(政治学のアクターが個人なのに対し、国際政治学のアクターは国家である)
共通点…動作原理
希少な資源の配分.ただし、経済学でいうように合理的に決定されるのではなく、power
によって政治的に決定される
敵対(敵意や宗教的、文化的要因)
● 理論とは?
国際政治は見えない、経験できないもの.不安定なもの
= 雲(G.Almond)
見えるが境界は曖昧
雲のように捉えどころのない国際政治を、どのように研究・分析するか
→①
自分の経験にひきつけて考える…政治学、国際政治学の動作原理は、人間関係にも存在する1
→②
論理の道筋によって把握できる2
この「論理の道筋」(=プラットフォーム)が理論.つまり、
国際政治を見るためのレンズのようなもの
● 国際政治理論のマクロとミクロとは?
Cf. 経済学の場合、ミクロはマクロ(全体)の中の部分であり、ミクロを足していくとマクロになる
国際政治学では、
マクロ…国家のレベルを扱う
ミクロ…政策決定過程が中心
e.g. 農業、環境、技術など
I.ウォーラースティンは、アフリカの部族の研究から世界システムに発展
動作原理が共通なのではないか?
第三の国際政治学…制度、秩序(= 物事が行われるプログラム)がどのように作られるか
規範や制度を扱う、構成主義(constructivism)
● 国際政治学の目的は?
平和
を実現すること
〔文献〕
「雲とからくり時計」については、G.Almond and Stephen Genco “Clouds, Clocks and Study of
Politics”, World Politics, 1977 、薬師寺泰蔵『公共政策』(東大出版会,1989) 参照.
4/17
マクロ国際政治理論で扱う、「国家」と「パワー」とは何か
● 国家(nation state)とは?
1
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1648年
ウエストファリア条約によって、1 民族 1 国家の国際社会ができあがった
それ以前は、戦争の原因は主に宗教だった.
→キリスト教世界を多くの国に分ければ、戦争は起こらないのではないか?
従って、国家を構成する民族とは、共通の宗教、イデオロギー、文化などのアイデンティティを持
つ人々の集団
しかし、国家には独自の特徴、機能もある(国民の総和<国家)
国家の機能とは?
K.ドイッチュ
①
国家とは、国民が持っている従属の習慣を利用しながら決定や命令を強制するための組織
である
…「国家しつけ説」
②
チュープリ&ドース
国家とは、その内部から自発的な能力が生れ、それが他の国との相互作用を受けて存続していく「外
交的能力」を持つ
③
…「国家能力説」
ホプキンス&プチャーラ
国家とは、エリートが動かしている抽象的な存在であって、法的なものではない
④
…「国家抽象説」
薬師寺泰蔵『テクノヘゲモニー』によれば
国家には矛盾した 2 つの性質がある
・共有:他の国と同じものを持ちたい
・差別化:自国のアイデンティティを確保したい
● power とは?
希少な資源の配分は合理的にはできないので、power を用いる
power とは、
K.ドイッチュ
①
relational power
A が B に、自分の思い通りの行動をとらせた場合、
「A は B に relational power を行使した」といえる.
※relational とは?
power
A
(influencer)
B
(influencee)
power がはたらくためには、そもそも
A-B 間に関係(relation)がなくてはならない
R.ダール
②
power base の概念
A は軍事力、経済力などの power base を有する
A が B に対して power を持つかどうかは、使ってみて、B が A に従うかどうかによって決まる
= 相対的なもの
J.ナイ
③
soft power (cooptive power)
魅力、ひきつけるもの
ダールのいう power base を hard power とみなし、もっと曖昧なもの
④
S.ストレンジ
structural power(制度的)
ある国のルール、制度が国際的ルールとして適用される場合、その国は structural power を持つ
…サブナショナル・アクターが国家の枠組みを超えて活動する場合、何らかのルールが必要になる
2
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国内ならば国家がルールを決めるが、国際的ルールは誰が決めるのか?
→structural power
〔文献〕
Karl Deutch “The Nerves of Government”
Joseph Nye Jr. Bound to Lead
Susan Strange State and Market
5/1
国際政治学のパラダイム
● パラダイムとは?
科学的現象のセットを説明する概念、法則である
T.クーン
科学の進歩は、科学者の集団により決定される(scientific community revolution)
科学者の集団により採用された概念、法則では説明できない現象(anomaly)が現れる
e.g. 「燃素」では、物が燃えて二酸化炭素ができる現象を説明できなくなる
→説明できるような新たなパラダイムを採用し、新旧のパラダイムの間には革命的な進歩
⇔K.ポパー
科学の進歩とは、漸進的なものである
国際政治学の場合、
e.g. 行動科学(behaviorism)
投票行動は、social attribute(社会的属性)によって規定される
→それだけでは説明できなくなると、ポスト行動科学が登場して issue voting を研究する
冷戦の終結という anomaly
国際政治学は、冷戦の終結を予測できなかった
では、国際政治理論は不必要なのか?また、冷戦終結をも説明できるようなパラダイムはあるのか?
● 国際政治学の 3 つのパラダイム
①勢力均衡論(M.カプラン)
…ホッブズ的世界観
②相互依存論(クーパー、ナイ、コヘイン) …グロティウス的、カント的世界観
③世界システム論(モデルスキー、ウォーラースティン) …マルクス的世界観
〔文献〕
T.Kuhn The Structure of Scientific Revolution
国際政治の新たなパラダイムについては、薬師寺泰蔵「マルチメディア時代の国際政治」(
『国際政治』
113 号)を参照
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column
EU 統合
1950 年 5 月
シューマン・プラン
1952 年
ECSC(欧州石炭鉄鋼同盟)からスタート
…欧州の経済復興のため、石炭を掘る&鉄を作る
を協力
機能主義の考え方(協働したほうが効率的)に基づく
1992 年
スピルオーバー:ある分野での統合が、隣接分野に波及
EU(欧州連合)
統合論(integration theory)
経済統合から政治統合へ
しかし、経済から政治への移行は自動的には起こらない
戦争について
● 国際政治学の目的は、平和を担保する(=実現する)ことですが、
平和は、戦争がないこと?
戦争が平和をつくる?
秩序が乱れると戦争をする
秩序が
失われる
…リアリズムの考え方
戦争
新しい
秩序
では、秩序とは?
H.ブル
order とは、
人々が共通の目標(e.g.保全、富の確保、民族自決)を達成するためのパターン化された行動
↓
行動のパターンを決めるルールが存在する
ルールを破る者がいるので、ルールを enpower(効力化=制度化)
e.g. EU
政治のルール(議員選出など)を政治プロセスによって決める
経済活動の秩序のためにもルールが作られる
経済のルールが政治のルールへと変わる転換点
⇔D.ミトラニー
統合は政治的になり得ない
→G.アーモンド、雲とからくり時計(第1回)に関連
からくり時計(clock) = iron control
雲(cloud)
= plastic control
経済学はこれにあたる
政治学では、ある政策の効果が表れたかどうかが不明確。政治と、
政治でないものの境界も曖昧。例えば、用いられる言語が異なる
…
power の意味は、政治学と物理学では異なる
e.g. ASEAN、APEC のアジア的統合
制度化、構造化(条約のように、明確に存在する状態)の問題
アジアは、構造化しない安全保障秩序を作りたい
成文化せず、頻繁に会議を開き、交流を重ねることで信頼を醸成し、意思疎通しやすくなる
⇔欧米には馴染まない
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● 正戦論
ウエストファリア以前の戦争…聖戦
宗教的対立から戦争が起きる.その頂点が、30 年戦争の大惨事
→戦争に宗教性をなくし、また、小さい国家を多くつくって大戦争を防げば、犠牲者は減るだ
ろう
ウエストファリア体制…各国は正戦(counter attack)を持つ
nation state は、互いに安全保障を確保しようと軍備に励む
が、際限なき軍拡は
自国の安全保障を損なう
→各国は協力する=同盟を組む
同盟内は不戦条約、集団安全保障だが、結局同盟間の戦争が起き、戦争はさらに大規模に
国際連合憲章§7 の集団安全保障…各国には正戦権を認めない
勝手に戦争をしてはいけない
安保理を核にした集団安全保障
⇔冷戦下で機能しない
冷戦後…低強度紛争(Low Intensify Conflict)が増えたといわれる
しかし、これは冷戦下で目立たなかった、あるいは代理戦争化していた紛争が顕在化したに過
ぎない
● Balance of Power :勢力均衡論
by M.カプラン
19 世紀の欧州は、英、仏、独、墺、露の 5 大国が中心になって国際システムは安定していた
勢力均衡論によれば、
5大国間に互いにコミュニケーションがなく、均等な power を有するならば、大戦争は起こらず、
B 黙秘
自白
最適な状態が実現する
⇔コミュニケーションがないと囚人のジレンマに陥るのでは?3
では、協力させる?
→レジーム論
自白
-10,-10
+10,-15
-15,+10
+5,+5
A
黙秘
5/15
column 田中真紀子外相
もしも米国を怒らせても、日米間に戦争が勃発しない
米中間で、飛行機が撃墜されても戦争にならない
…同盟国だから
…コミュニケーションがあるから
● 勢力均衡論
欧州 5 大国の場合、キリスト教文明を共有するため、コミュニケーションはあった
● 勢力均衡論の 6 つの仮説
3
(M.カプラン)
囚人のジレンマ…囚人 A、B に、まったくコミュニケーションを取らせずに、互いに相手の罪を自白するよう迫る。
2 人とも黙秘を貫いた場合には釈放(利得+5)、2 人が同時に自白した場合には懲役 5 年(利得−10)とする。しかし、ど
ちらかが先に自白した場合、自白したほうには釈放したうえで賞金を与え(利得+10)、他方には終身刑(利得−15)とす
る。2 人にとっての最善は、2 人とも釈放されること(合計利得+10)だが、次第に相互不信が募ってきて、相手に先に
自白されるのを恐れるあまり、2 人とも自白してしまう。その結果、2 人の合計利得は−20 と、最も少なくなる。
※このゲームの意味するところは、コミュニケーションがないと相互不信に陥り、それぞれが合理的(自己の防衛)に行
動する結果、second best しか得られない、ということ。
5
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・非軍事的手段仮説
…コミュニケーションのチャネルを持つ
・防衛仮説
…国家は自己の防衛のみを考える
・抑制仮説
…国家は軍事的手段をなるべく使わない
・反覇権仮説
…国家は覇権国の出現を妨げる
・反超国家仮説
・温情仮説
…国家を超えた枠組みはつくらない
…戦争をしても、敗戦国を滅亡に至らせはしない
これに対する批判…単純すぎる、静態的である、西欧型である
など
しかし、理論には、単純化することは必要
単純化した結果、現実から乖離する→解釈として、現実に応用してみる
マクロ理論鳥瞰図解説
● サイバネティクス(ウィーナー)
動物は、外界から情報を得て、自分の目標と現在地とのズレを測り、修正しながら行動を決める
環境とのコミュニケーション、フィードバック
→O.ランゲ
経済学に応用
→K.ドイッチュ
政治学に応用
● システム論
システムとは、「相互に作用しあう部分からなる全体」(定義についてはフォン.バータランティ、チェリーなど)
システムは、外界から情報を得て(input)、それを処理し(process)、外界に影響を与え(output)、変
化した外界から再び情報を得る(feedback)。
● システムズ・アプローチ(O.ヤング)
部分と全体は相互作用する
→還元主義(reductionist)…システムは、個々の部分から構成される。システムを分析するには、部
分に分けてみればよい。
機能主義(D.ミトラニー)…個々の部分のうち、機能が同じところは統合してしまえば効率性、機
能が高まり、福利が向上する
機能とは郵便(⇒UPU,万国郵便連合)や電信(ITU,国際電気通信連合)など
→リンケージ・ポリティクス(J.ロズノー)…国際システムと国内政治が相互に浸透
国家の中のエレメント(サブシステム)が連繋する
● レジーム論
ゲーム論で、コミュニケーションが欠如すると最適解に到達できないことからわかるように、コミ
ュニケーションが重要
⇒そのためのルール、原則、規範、決定手続きのセット
がレジーム
自発的レジーム論…国家はレジームを通じて国益を実現することができるので、自発的に協調
強制的レジーム論…S.ストレンジなどが自発的レジーム論を批判。Power を強調
覇権国が公共財を提供することでレジームを維持する
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5/22 国際政治学の位置付け(22 日後半で相互依存論に触れましたが、29 日の内容に含めました)
○ 社会学、経済学からの影響
国際政治学と社会学との違い…分析単位
L
A
Pattern maintenance
Adoption
社会的パターンの維持
富、文化
G
I
Governance
Integration
安全保障
統合
社会学では個人や集団を対象とするのに対し、
国際政治学では国家が対象
経済学では功利的な人間、合理性が前提となっている
社会学、経済学ともそれぞれに理論化がなされてきた
T.Persons コミュニティの構造と特徴
○ 理論化
理論とは、純粋なもの(理念型)、論理だけで予測、推論ができる
一方で、現実とのズレがある
現実を説明するのが歴史研究、地域研究
⇒理論と現実をどちらも見るのが論理実証主義
経済学では理論化が進んだのに対し、国際関係理論は遅れている
…国際関係は漠としている(初回の雲とカラクリ時計参照)うえ、分析対象が歴史的産物である
○ 国家の 3 つの前提(G.アリソン)
国家の行動に関する 3 つの仮説
・rational
…単一のユニット、合理性
←経済学からの影響
・組織の意思決定
←組織論(社会学)からの影響
・政治的意思決定
←議会、利益集団などの政治的単位
国家を分析単位として考える古典的なマクロ国際関係論に挑戦し、政策決定過程論(ミクロ国際関係
論)を発展させた
5/29 複合相互依存論
●
前提:
・ 国家は一枚岩ではなく、たくさんのチャネル(企業、官僚、NGO など)を持つ
⇔リアリズムでは一枚岩
・ 国家の扱うイシューに、階層はない ⇔リアリズムでは、安全保障は high politics で優先され、経済・
社会問題は low politics
・ 軍事力は最も有効な政策手段ではない(ベトナム戦争以降、軍事力行使のコストが増大した)
⇔リアリズムでは、軍事力を重視
●
相互依存論登場の背景:
第二次大戦後、西側は豊かな社会を迎えた。国家の安定、平和を、富が担保してきた。が、状況は
1971年
ニクソンショックで一変した
米国は超大国として君臨し、1 国主義(世界中に軍事プレゼンス、ドル体制を敷く)
東側ではソ連が 1 国主義(軍事コストを負担し、エネルギーを供給)
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西欧の復興、日本の成長により、競争上のコストが過大になると、
1971年
金ドル兌換制と固定相場を廃止し、世界支配から降りた
以後、1 国主義のコストを払えないので、米国は軍事的なへゲモンを握り、コストは同盟国に応分の負
担を求める e.g. 米国通商法に基づくセーフガード(輸入制限)=米国が安全保障のコストを負担してい
るので、貿易の面で見返りを
● 相互依存の問題点:
相互依存のもとでは、(相手の損は自分も損なので)協力、平和が成立すると考えられた。
一方で、相互依存のもとにある国家は、identity、自律性を保つため、そこから脱け出そうとする。
相互依存の脆弱性(vulnerability)…リアリストの捉えかた
財・サービスの供給に関して双務的に依存している場合を相互依存という。
相互依存が全ての国に等しく影響することはなく、従属関係が生じる。 e.g. 日本は中東に石油を依存
相互依存の敏感性(sensitivity)…経済学の概念
国家は、自国が持っていないものを相手から得ようと、対外関係を結ぶ。
国家間、または国家の異なる行為体間で相互的影響を受ける。 e.g. 相手の政策変更から、為替レート
の変動を通じて影響を受ける
他に、水平的(reciprocal)相互依存と階層的相互依存、グローバルな相互依存とローカルな相互依存
…ところで…
リチャードソン・モデル(軍拡モデル、第一次大戦の軍備増強を分析)
○ 軍備増強のスピードは、
・ 敵対国の軍事費
・ 自国の経済
・ もともと持っている相手国(敵対国)への敵意(hostility)
a・敵対国の軍事費
−
b・自国の経済
+
の影響を受ける
c
a…防衛係数
b…疲弊係数
c…敵意、不変とされる
ベトナム戦争の場合、当初は防衛係数と敵意が大きく、疲弊係数が小さかった
→ベトナムへのソ連の援助に敏感に反応した
6/5 前回つづき
○ A-B 国の間で、軍事費の伸びは
A 国=a・B国の軍事費 − b・A国の経済 + A国のB国に対する感情
B国=a・A国の軍事費 − b・B国の経済 + B国のA国に対する感情
→この、A-Bの関係を dual system という
8
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同時に、B国の軍事費は前年のA国の軍事費をもとに決定されている
t 期のA国の軍事費= t-1 期のA国の軍事費 + t-2 期の……
− t-1 期のA国の経済 − t-2 期の……
+ 感情
→このように、現在量が過去の累積であることを、Auto Regressive(自己回帰)モデルという
A-B間では、互いに相手の軍事費を予測する
期待、予想、予測
⇒実際の現象との間には誤差が生じる
○ 相互依存:国家は均等と考える。均質な大国間の勢力均衡に近い。
レジーム:国家は均等ではなく、誰かが公共財を提供する。大国が支配する、非対称な世界。
では、覇権論は?
○ 覇権(hegemony)論
覇権が生まれてくる背景…
1)
期待収斂説:皆が期待を持ってレジームを作る
が、現実には期待通りにいかない
→レジームを維持するためのコストを負担する国が必要。国際公共財論。
2)
政治・経済のモデル:e.g.
・米国大統領の人気は経済(業績)によって決まる
経済を測る指標の失業率とインフレ率は、トレードオフの関係にある
前期の政策の成果が低失業率(=高インフレ)なら、国民へのアピールは、
インフレを抑制します(=失業ふえる)
つまり、
・米国の経済は、大統領の人気によって決まる
この political business cycle は 4 年周期で訪れる。
周期は他にも、
・短期:季節変動
・長期:コンドラチェフ・サイクル(農産物の価格と生産の関係が 50 年周期を描く)
帝国の興亡(ほぼ 100 年周期で交替している)
○
政治のサイクルと経済のサイクル
cf.5/8
経済が悪くなる(財が稀少になる)と、分配のために政治力が求められる。
話は戻って……
レジームと覇権の議論にもサイクルがあるのでは?
期待をする→政治力が必要
レジームが期待通りに機能すると、そのコストを負担した国は成長(power が増大)して
覇権国になる
期待しない→政治力は求められない
9
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6/12
○ 合理的期待論 (経済学の概念)
政府(政策を行う)と民間(政策の客体)…
従来の前提では、政府は市場についての完全情報を持っており、最適(optimal)政策が可能
民間は政策を事前に知り得ない
=政府と民間は非対称な関係にある
実際には、政府は完全情報を持たない、政府の持つ情報には誤りもある
民間は、政策を事前に知り得る(e.g. 民間人が政策決定に参加する)
⇒
=対等な立場にある
政府は、統計的な政策を行うほかない
統計的とは、成功も失敗もあるが、平均すれば 0 になる…これが rational
○ Hegemonic Dilemma 説 (Arthur Stein)
大国が富を蓄積するには…
1) Absolute wealth accumulation:絶対的(とにかく貯める)
2) Relative wealth accumulation:相対的(他国より豊かならよい)
がある
覇権国は絶対的富を追求して自由貿易主義をとり(e.g. 大英帝国)、相対的富を追求する国は、自国
の富が流失しないよう保護主義、管理貿易に傾く
という説
ジレンマ…この状態が不変であれば覇権安定論だが、覇権国は自由貿易のコストを負担し、その結
果次第に負けてくる(e.g. 戦前の日独や今日の中国など、管理貿易を行う国が向上してくる)。
このことは覇権国にとって脅威と映るので、覇権国は管理貿易へ移行し、相互依存論を唱える。
一方で、政策慣性というものが働くので、相対的に競争力が低下しても直ちに政策変更はできない。
覇権国の登場について、Robert Cox & Harold Jacobson は、経済・社会的要因を主張:
市民社会(civil society)が資本主義をとる場合、必ず膨張主義になる。世界経済の膨張に牽引力を持
つ国が覇権を握る。
Cf. David Lake 「民主主義国は戦争に強い」説
○ 大英帝国の場合
世界で最初に産業革命を経験した
本来、大陸ヨーロッパの方が技術的に先進であった
e.g. オランダ…17c 初め、スペイン
ハプスブルグ家から独立
フランドル地方で毛織物業が発達した。これは、フランスで毛織物技術を持ってい
たユグノー(プロテスタント)が排斥され、ドイツやオランダへ逃れたため。
フランドル地方からイギリスへ、ユグノーと毛織物技術が伝わり、イギリスでつくった半製品をオ
ランダで完成させる
「プロト工業化論」
イギリスは植物製品(綿織物)を生産した…綿は、毛や絹に比べて安価なため、大量に売らないと儲か
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らない
→大量生産、大量販売へ
イギリスでは動力革命(蒸気機関)がおきた…蒸気機関を使うにはインフラ(e.g. 大量の水など)が必
要であり、インフラ整備には投資が必要
→資本主義のきっかけになった
⇒これらの要因が組み合わさって、イギリスはいち早く産業革命を達成した
1805〜15 年
ナポレオン戦争
ナポレオンは、
「大陸封鎖令」で英国製品の締出しを図るが、英国製品は優れていたので封鎖は失敗
英国は、「海上封鎖令」で対仏封鎖を行った
ナポレオン戦争に勝利したことで、イギリスの覇権が確立された
以後、
1846年
穀物法(小麦の輸入禁止)廃止
1849年
航海法(英国製品は英国の船で輸送することとし、オランダなど中継貿易を排除)廃止
:農業よりも都市工業を護る
など、自由貿易体制を築く
一方、機械輸出、職人の移住は禁止、金輸出は許可制とした
1860年
英仏間でコブデン-シュバリエ条約締結…仏に有利な自由貿易の通商条約
この後、英国は絶対的富を追求し、フランスは管理貿易を行う
19c 後半に米ロの安い小麦のためにヨーロッパ農業が停滞すると、英国もやや保護主義的になった
第 1 次世界大戦後、英国はドイツを徹底的に締め上げて資金の流れを止めてしまう
cf. 英国は商標法を制定し、英国本土で作られたものにしか Made in England を使わせないこと
にしたが、気づくとドイツ製品は英国製品より競争力をつけていたので、戦争の一因になった
⇒英国は基軸通貨から離脱し、世界恐慌へ
⇒米国の台頭、英国は 1930 年英連邦特恵関税を採用
この、大英帝国が覇権国になって追随国には有利な交易条件を許しながら自由貿易を行い、次第に
経済力が衰退すると保護主義に回帰して覇権を失うまでのプロセスは、Hegemonic Dilemma 説を
裏付けている
○ では、Hegemonic Dilemma 説の文脈で、戦後の日本の経済成長、技術力はどのように説明できる
のか
6/19 技術論
世界システムの変動のメカニズムは、技術ではないか?
○ Raymond Vernon プロダクト・サイクル論
1)
米国
技術が最初に起こる
当初は生産>消費
で、余剰は外国へ輸出
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2)
他の先進国
米国から輸入して消費
次第に自国で生産し、飽きてくると輸出(米国、後進国へ)
3)
後進国
先進国から輸入して消費
遅れて生産がはじまる
この過程が、雁行形態論(赤松)…アジアの段階的経済発展の説明に用いられる
しかし、中心国-準周辺国-周辺国の関係は固定的ではなく、日中間のように、追い越されることもあ
るのでは?
e.g. ネイサン・ローゼンバーグ
蛙跳び理論
帝国の交替は、こちらで説明できる
均一
○ 技術文化
2
社会によって、技術の扱い方は異なる
4 のクラフト技術(手作り高品質、e.g.ドイツ)から、
1
長持ち
する
長持ち
しない
1(安物を大量生産、e.g.イギリス)へ、米国は 2
3
日本の場合は、英米の影響を受けて、
今は 3(個性的で長持ちしないもの)の領域にいる
4
不均一
=個性
人に見せびらかす技術文化
○ N,ブスケ、技術パラダイム論
ある国で技術革新が成功したとき(差別化)、他国にはまだそれがないためその国は覇権国となり
(創業の利益)、それが流出・波及して(模倣されて)他国もその技術を持つようになる(同質化)と、そ
の優位が失われていく
技術のサイクルと覇権のサイクルが重なる
第 1 ノード 初期条件
第2
イミテーション、第 1 次エミュレーション
○ ステージ・モデル
技術は買わせることによって普及する
→エミュレーション(競争的模倣)が行われる。
模倣に長けた者が秩序を形成し、乗り遅れた人は
新規技術をつくる=イノベーション
第 10
崩れ落ち、ブーメラン効果
第 11 ノード 危機管理、凋落
→これをエミュレートする人。2段階のエミュレーション
模倣の結果、技術が零れ落ち、凋落していく
○ 技術サイクル論…技術の普及に関して
Vernon の説に基づくと、技術は社会に普及し、やがて飽和する
飽和
アノマリー(底をつく)=普及が止まる
普及のサイクルは、鉄、エンジンなどの社会的プロダクトだと長い
12
曲線の傾き=普及の勢
いは、波を描く
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国家に、新しいものをつくろうという勢いがあるかぎり、
新しい製品が出てくる。が、今の日本にはなくなっている…
※ 技術についてはミクロ国際政治学で扱うが、
参考:薬師寺泰蔵『テクノヘゲモニー』
※ 図は、6/26 配布のプリント参照
6/26 世界システム論
○ 世界システム論:ウォーラースティン
近代世界システムは 16 世紀以来、中心、準周辺、周辺の三層構造になっている
構造は恒常的に決められているわけではなく、時代によって変わる
周辺(原材料を持つ) …最初に豊かになる
中心
再び、周辺から新たな秩序が始まる
…所得再分配。次第に工業製品が供給過剰になり、価格低下、不況になる
世界システム論はマルクス主義の影響を受け、2 点を強調
・階級闘争
・覇権国は必ず衰退する
※この点はブスケと同じ。ブスケは技術の役割を強調
技術の中でも、製品の革新と生産方法の革新があり、後者が覇権につながる
○ 覇権安定論:モデルスキー
政治と経済は連動しながら、交互のサイクルを描く
世界全体の財が稀少化すると政治的な決断の重要性が高まり、反対に経済が上向くと政治の需要が
低くなる
(6/5 の内容も参照してください)
○ 世界モデル:ローマクラブ
1972 年『成長の限界』(D&D.メドウ)
世界の動きはダイナミックな、非線形モデルである
世の中は rate と level(フローとストック)で表せる
→人口と食料、農業、工業、環境汚染のモデルを作って人類は滅亡する、と訴えた
⇔批判:モデルが決定論的に、滅亡に向けてつくられている
人間は政策によって、または技術によって対応できるが、それが含まれていない
cf. 世界モデルには他に、オランダ政府のモデル、ラテンアメリカ・モデル、レオンチェフのモデル、
メサロヴィッチのモデル、アメリカ政府のモデルがある
7/3 まとめ
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2001 年度 国際政治理論Ⅰ講義録.doc
マクロ国際政治理論は、ここのイシューではなく全体を見るためのレンズである
○ システムの定義
システムとは、
・ 「相互作用する諸要素の複合体(a set of elements standing in interaction)、バータランフィ」
・ 「対象の集合に、対象間ならびに対象の属性を合わせたもの(a set of objects together with
relationships between objects and that between their attributes)」
・ 「多数の部分の複合した全体、諸属性の集合体(a whole which is compounding many parts …
ensemble their attributes)、チェリー」
○ ゲーム理論
構造主義(静的なパワーの分布をみる)から修正構造主義への発展に影響を及ぼした
回避
「囚人のジレンマ」ゲームについては、5/8 参照
回避
チキン・ゲーム
+5,+5
B
直進
+10,-15
A
自動車で向き合って全力疾走する弱虫ゲームから
直進
双方が直進すれば衝突して死んでしまうが、回避した者は弱虫といわれる
-15,+10
+15,+15
先に回避したほうが負け
キューバ危機の分析などに使われる
○ レジーム論
レジームとは、原則(principle)、規範(norm)、ルール(rule)、手続き(decision-making procedures)
から成る、参加者の行動を規定するひとつの了解事項
自発的レジーム論(国家は理性に従って自発的に協力に向かう)に対し、
O.ヤング…レジーム形成には、期待がある
期待に関しては、6/5、6/12 を参照
○ 機能主義
EU 統合に先立ち、19 世紀に郵便や電信、度量衡など、国境を越えて共有することで利便性がます
と思われる分野での協力が進展した
統合論については、5/8 参照
○ 相互依存論
相互依存とは…要素利得の差を激減するために国家は敏感に反応し、対外経済関係を結ぶ(クーパー)
脆弱性と敏感性の議論は、5/29 参照
最近の潮流
国家中心の従来の国際関係理論に対し、コミュニティの考え方が登場
これまでのように、大国が動かす国際政治でよいのか?
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2001 年度 国際政治理論Ⅰ講義録.doc
e.g. David Held Global Democracy
《参考文献》
・ 石井貫太郎 『現代国際政治理論』
・ 有賀貞
『講座国際政治
・ J.フランケル『国際関係論
(ミネルヴァ書房、1993)
①国際政治の理論』
新版』
(東京大学出版会、1989)
(東京大学出版会、1980)
…国際政治理論の変遷を捉えるのに向いています
第二版』
(東京大学出版会、1989)
・ 江藤瀋吉
『国際関係論
・ 初瀬龍平
『国際関係キーワード』
・ 高坂正尭
『国際政治経済の基礎知識』
(有斐閣双書、1997)
(有斐閣ブックス、1993)
…「民族」や「パワー」といった項目ごとに説明されているので、概念の整理に向いています
・ Karl W. Deutsch “The Analysis of International Relations” ,1968
…残念ながら、翻訳は出ていません。3rd edition が 88 年にでています。
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