オンラインゲームの仮想世界が現実対人関係の質に

オンラインゲームの仮想世界が現実対人関係の質に及ぼす影響 ○高田佳輔 (中京大学大学院社会学研究科) キーワード:MMORPG,ソーシャルサポート,愛着 Effects of Online Virtual World on the Quality of Interpersonal Relationships in the Real World Keisuke TAKADA
(Graduate School of Sociology, Chukyo Univ.)
Key Words: MMORPG, social support, attachment
目 的 近年,日本ではオンラインゲームプレイヤーの増加が顕著
である。2012 年のオンラインゲーム市場規模は,2005 年と比
べ 2 倍超となる 1421 億円に達した (日本オンラインゲーム協
会, 2012) 。オンラインゲームとは,インターネットなどの
コンピュータネットワークを経由して,複数の人が同時に同
じゲームの進行を共有できるゲームであり,そのジャンルは
多岐にわたる。 オンラインゲームがより身近なものになった結果,プレイ
ヤーの現実世界の対人関係が希薄になるという問題が顕在化
してきた。たとえば,Lo, Wang, & Fang (2005) は,オンラ
インゲームのプレイ時間が増加すると,現実世界における対
人関係の質が低下することを示している。 また,同じオンラインゲームでも,ゲームジャンルが異な
れば,ゲームの内容も大きく異なるため,その影響にも差異
が生じてこよう。本研究は,ゲーム内に存在するプレイヤー
同士で密なコミュニケーションが可能な世界 (以下,仮想世
界) の及ぼす影響に着目した。仮想世界をもつゲームは,そ
れをもたないゲームと比べ,現実世界の対人関係が疎かにな
ることが予想される。 しかしながら,仮想世界の有無によって,プレイヤーの間
に,現実世界の対人関係の質や量に関して差があったとして
も,因果の有無,あるいは,因果の方向に関する課題は残る。
たとえば,仮想世界をもつオンラインゲームに没頭したため
に対人関係を希薄にしたのか,もともとの対人関係が希薄で
あったために仮想世界にのめり込んだのかは,単なる相関関
係からは明らかにならない。しかし,発達的により早い段階
で成立すると思われる対人関係の個人差の測定が可能であれ
ば,個人がゲームに没頭する以前の対人関係の質を統制して,
ゲームへの没頭による影響を検証するための1つの手段とな
ろう。そのような変数の候補として,愛着 (attachment) が
ある。 したがって,本研究は,元々の対人関係の個人的特性を考
慮した上で,仮想世界の有無が,現実世界の対人関係の質や
量に及ぼす影響を検討することを目的とする。 方 法 仮想世界をもつオンラインゲームをプレイしている 1076
名 (平均 25.74 歳,SD=6.08) ,仮想世界をもたないオンラ
インゲームをプレイしている 922 名 (平均 23.4 歳,SD=
6.57) ,オンラインゲームをプレイしたことがない大学生 231
名 (平均 19.89 歳,SD=0.88)に対して,ソーシャルサポート,
愛着,および,交友関係頻度を尋ねる質問紙に回答を求めた。 η 2
結 果 オンラインゲーム自体が及ぼす影響と,オンラインゲーム
内の仮想世界の存在がプレイヤーの対人関係の質や量に及ぼ
す影響を,比較するために,実験群を2種のオンラインゲー p
ムプレイヤー,統制群をオンラインゲーム未経験の大学生に
設定した,Snedecor & Cochran (1956) による平均値間のあ
らかじめ計画された比較の検定を行った。その際に,有意性
検定のための p 値とともに,効果量 η2 値を同時に算出した。 その結果,仮想世界をもつゲームのプレイヤーは,それを
もたないゲームのプレイヤーと比べ,実質的なサポートおよ
び所属感の獲得につながるサポートを受けられておらず,さ
らに,対人関係の頻度も低かった (Table 1) 。また,この差
の大きさは,オンラインゲームプレイ経験の有無により生じ
る差に匹敵するものであった。 次いで,愛着については,オンラインゲーム経験の有無お
よび仮想世界の有無において,大きな差はみられなかった 。 考 察 本研究は,愛着という側面から元々の対人関係の個人的特
性の差を考慮した上で,仮想世界をもつゲームは,それをも
たないゲームと比べ,現実世界の対人関係が疎かになること
を示した。 仮想世界はもたないゲームは,単にゲームをプレイしてい
る時間分の対人関係機会の損失に留まる一方で,仮想世界を
もつゲームは,ゲーム自体への没頭に加え,仮想世界におけ
るコミュニティへの没頭を生じさせることから,単なる機会
損失だけでなく,仮想世界の対人関係への偏重することによ
る現実世界の対人関係の質の低下が生じていることが窺い知
れる。 引用文献 Lo, S.K., Wang, C.C., & Fang, W. (2005). Physical interpersonal relationships and social anxiety among online game players. Cyberpsychology & Behavior, 8, 15-20. 日本オンラインゲーム協会 (2012). JOGA オンラインゲーム
市場調査レポート 2012 日本オンラインゲーム教会 (Japan online game association) Snedecor, G.W. & Cochran. W.G.(1956). Statistical Methods.
Ames: Iowa State University. (畑村又好・奥村忠一・津村善郎(訳)(1967). スネデカー統
計的方法 岩波書店) 4.83 (1.44)
4.18 (1.53)
4.42 (1.77)
3.61 (1.17)
3.46 (1.02)
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