都市計画における地域経済循環と広域性

都市計画における地域経済循環と広域性
{グローバル・リテイラーの出店攻勢に負けない地域活性化}
都市研究センター研究員
久繁
1 .はじめに
哲之介
ル・リテイラー)が淘 汰 ・破 壊 されると、そこへ
納 入 していた川 中 ・川 上 産 業 も淘 汰 ・破 壊 さ
商 業 施 設 の出 店 を都 市 計 画 で調 整 する
れ、その地 元 業 者 の跡 地 にはグローバル・リ
動 きが広 がっている。調 整 の主 な基 準 ・対 象
テイラーが更 に出 店 する。この悪 循 環 を断 ち
は「店 舗 の規 模 、所 在 (立 地 )」である。数 万
切 るキーワードは「ローカリゼーション」である。
㎡の「大規模」SCが「郊外」に出店すると、そ
「大 規 模 店 の郊 外 出 店 調 整 」をキーワードに
の周 囲 に はロードサイド型 店 舗 が あ っと いう
すると、グローバル・リテイラーの小 規 模 店 舗
間 に集 積 して新 しい商 業 核 が形 成 される。し
による中 心 市 街 地 へのドミナント出 店 を加 速
たがって、「大規模」商 業施設の「郊外」出店
させてしまうからである。これは商業施設出店
を調 整 することは確 かに必 要 である。しかし、
調 整 の基 準 ・対 象 が「店 舗 の規 模 、所 在 」に
グローバル・リテイラーの都 市 への出 店 戦 略
固 執 する弊 害 を示 している。そこで本 稿 では、
は実 に巧 みである。郊 外 へ大 規 模 店 を出 店
都市と小 売 業の関係を「店舗の規 模、所在」
する一方、中心市街地には 100 ㎡程の小規
ではなく、小売業の「資本の規模、所在」から
模 で全 国 均 一 な外 観 のコンビニエンスストア
分析し、グローバル・リテイラーの出店攻勢が
やファーストフード店をドミナント出店する。若
都 市 に与 える影 響 とその対 応 策 を考 察 する
者達は「セブン-イレブン」「マクドナルド」等グ
ものである。先ず2章では、グローバル・リテイ
ローバル・リテイラーの 小 規 模 店 舗 を親 しい
ラーの動向やビジネス・モデルを分析する。
友 人 を呼 ぶが如 く「セブン」「マック」と愛 称 で
全 国 的 に均 一 化・画 一 化を進 める「グロー
呼 び、仕 事 後 や放 課 後 に毎 日 のように利 用
バリゼーション」は、インターネット等 IT 分野
している。
では普 及 が必 要 不 可 欠 である。しかし、まち
グローバル・リテイラーの出 店 攻 勢 は消 費
づくりや地 域 活 性 化 分 野 ではグローバル・リ
者 に支 持 される一 方 で、都 市 に以 前 存 在 し
テイラーの出店攻 勢による「グローバリゼーシ
ていたものを破 壊 する一 面 も有 する。景 観 破
ョン」は地 域 の資 源 や経 済 循 環 を破 壊 する。
壊 、 価 格 破 壊 は既 に 顕 在 化 しており、 地 域
そこで「ローカリゼーション」に注 目 し、「ロー
経 済 循 環 破 壊 は潜 在 的 に進 行 している。グ
カリゼーション」をキーワードとした地 域 活 性
ローバル・リテイラーの「郊 外 大 規 模 店 」や
化 は地 域 の資 産 ・資 源 を保 存 ・活 用 、個 性
「中 心 市 街 地 小 規 模 店 」は銀 行 機 能 併 設 や
的 な地 域 創 造 など既 に多 くの都 市 で普 及 し
24時 間 営 業 等 の利 便 性 、低 価 格 を武 器 に
ている。しかし、その多 くが一 過 性 のイベント
商 店街 等のローカル・リテイラーを凌 駕する。
や局 地 的 な事 業 であり、地 域 経 済 循 環 を好
地 域 経 済 の川 下 産 業 (商 店 街 等 のローカ
転させる持続力に欠けている。したがって、ス
カイライン分析など地域経済学手法を活用し
て地 域 経 済 循 環 を好 転 させる仕 組 みを3章
にて見出す。
の出店は北欧3国のみに止まっている。
欧 州 資 本 のグローバル・リテイラーも勿 論
存 在 する。しかし、こちらの店 舗 展 開 は都 市
以 上 の分 析 より、都 市 計 画 には広 域 性 の
型百貨店が主であり、郊外型 SC を主とする
確保が必要だと解る。具体的には、隣接する
アメリカ資 本 とは出 店 戦 略 が異 なる。そして、
自 治 体 の 商 業 政 策 や都 市 政 策 を 調 整 する
出 店 した地 域 に与 える影 響 はそれ以 上 に異
ための 上 位 計 画 を 都 道 府 県 や国 が 広 域 的
なる。
観 点 から示 すことであり、その具 体 例 や最 新
動向を4章にて考察する。
欧 州 がアメリカ型 のグローバル・リテイル文
化に染まらない理由の一つに、地域の文化・
資産の保存を重視する点がある。1989 年、イ
2.グローバル・リテイラー
タリアにアメリカ資 本 のグローバル・リテイラー
が進出した。イタリアでは同年、地域の文化・
グローバル・リテイラーの定 義 を本 稿 では
「大資本による多数・多種の店舗を特定の地
資 産 保 存 を目 的 に以 下 3つの指 針 を主 とし
た「スローフード宣言」を採択した。
域 や国 の枠 を越 えて店 舗 展 開 する小 売 業
者 」、簡 略 的 には「大 資 本 小 売 事 業 者 」と位
置付ける。資本の所在と具体名については、
アメリカの流通誌「STORES」が 2005 年 1 月
に 発 表 し た 「 2005 Global Powers of
Retailing」が参考になる。これは 2003 年度
のグループ売上高の多 い順にランキングして
① 消えてゆくおそれのある伝統的な食材や
料理、質のよい食品、ワインを守る。
② 子 供 達 を含 め、消 費 者 に味 の教 育 を進
める。
③ 質 のよ い素 材 を 提 供 する小 生 産 者 を守
る。
いる。上 位15社のうち、アメリカ資本 は1位の
「ウォルマート」を含 む8社を占 める。これはグ
イタリ アで「 スロ ーフード宣 言 」を 採 択 した
ローバル・リテイラーがアメリカの消 費 文 化 や
時期が、欧州資本のグローバル・リテイラーが
ライフスタイルから発 展 した傾 向を示 している。
店 舗 展 開 していた時 ではなく、その後 にアメ
つまり、グローバル・リテイラーは一 度 に短 時
リカ資 本 のグローバル・リテイラーが進 出 した
間で効率的に大量の消費需要がある場所に、
直 後 であることに注 目 したい。それを考 慮 し
均 一 的 なサービスを提 供 する店 舗 を展 開 す
て、指針の①③を解釈すると、アメリカ資本の
る。換 言 すれば、グローバル・リテイラーが出
グローバル・リテイラー店 舗 普 及 は、地 元 小
店 攻 勢 できる国 はアメリカ型 文 化 が普 及 して
売 業 者 やそこへ納 入 していた地 元 生 産 者 ・
いる。この傾向は日本資本のグローバル・リテ
卸 売 業 者 が淘 汰 されることを予 期 して、「スロ
イラーの出 店 分 布 にも表 れる。例 えば、日 本
ーフード宣 言 」はその対 応 策 の一 つであるこ
を代 表 するグローバル・リテイラー「セブン-イ
とが伺われる。
レブン」の店 舗 は日 本 国 内 に約 10900店 、
この動 向 は今 やアメリカにおいても多 く見
国外に約 2 万店を出店している。国外出店
られる。グローバル・リテイラーの出 店 攻 勢 で
分 布 は北 米 とアジアに集 中 しており、欧 州 へ
地 域 経 済 の破 壊 が進 む地 域 において、グロ
ーバル・リテイラー系 列 に属 さない地 元 の商
分 ではない日 本 では今 、多 くの地 方 都 市 で
業 者 による地 域 経 済 循 環 の維 持 ・発 展 を目
地 元 中 小 資 本 の小 売 業 者 や納 入 業 者 の淘
的 と し た コ ミ ュ ニ テ ィ 「 Independent Business
汰 が進 んでいる。その対 応 策 立 案 には先 ず、
Alliance(以下、IBA)」の設立が 1997 年以降
日本におけるグローバル・リテイラーの動向を
より急速に進んでいる。 各都市 IBA の設立
把握することから始まる。
目的や活動目標を Web で調べると、「Think
「2005 Global Powers of Retailing」に
local first!」のキャッチ・フレーズに代 表 され
日本資本で 50 位内にランキングされたのは
るように「Local」という言 葉 が多 用 されている。
3社 である。20 位 に「イトーヨーカ堂 ・グルー
小売 業の「グローバリゼーション」が地域に与
プ(現 、セブン&アイ)」、22位 に「イオン・グ
える悪 影 響 を最 小 化 し、地 域 経 済 循 環 の好
ループ」、42 位 に「ダイエー・グループ」であ
転 に向 けた「ローカリゼーション」が活 動 目 的
る。以下にこの3社を比較・考察する。
である。この目 的 を達 成 するため、各 都 市 の
IBA メンバーは地元商店街に止まらず、製造
2−1.ダイエー・グループ
業 ・金 融 機 関 ・マスコミなど地 元 企 業 が幅 広
く参 加 している。この点 が日 本 の「商 店 街 組
合連合」とは大きく異なる。
ダイエーは 1972 年から約30年もの間、小
売 業 売 上 高 日 本 一 の座 にあった。ダイエー
IBA の活 動 内 容 とメンバーの連 携 を示 す
の歴 史 は古 く、1957年 に「株 式 会 社 主 婦 の
事 例 を挙 げよう。某 グローバル・リテイラーが
店 ダイエー」を設 立 、同 年 に1号 店 「主 婦 の
オースチンへ出 店 表 明 した時 、オースチン
店ダイエー」を大阪市千林駅前にオープンし
IBA は出 店 反 対 運 動 を行 う一 方 、グローバ
た。会 社 名 であり店 舗 名 でもある「主 婦 の店
ル・リテイラーとローカル・リテイラーのどちらが
ダ イ エ ー 」 から 解 る よ う に 、 顧 客 タ ー ゲ ッ ト は
地域経済に貢献するかの調査を 2002 年に
「価 格 に敏 感 な主 婦 層 」であることを明 確 に
実 施 し た 。 こ の 調 査 (Economic Impact
位 置 付 けていた。 この 顧 客 タ ーゲットはダイ
Analysis: A Case Study Local Merchants vs.
エーの経 営 信条 や出 店 戦略にも明 確に示 さ
Chain Retailers ) によると、消費者が100ドル
れていた。「良 い品 をどんどん安 く」を経 営 信
消 費 する場 合 の地 域 経 済 波 及 効 果 は、グロ
条 に、 出 店 立 地 は中 心 市 街 地 や駅 前 が中
ーバル・リテイラー(Chain Retailers)での100
心 であった。歩 いて行 ける場 で安 い買 物 が
ドル消費が13ドルの地域経済波及 効果であ
出 来 るダイエー店 舗 は消 費 者 に支 持 された。
る の に 対 し て 、 ロ ー カ ル ・ リ テ イ ラ ー (Local
し か し、 地 価 の 高 い 場 所 で 次 々 と 用 地 を 取
Merchants)での100ドル消 費 は約 3.5倍 の
得 して薄 利 多 売 を繰 り返 す拡 大 路 線 の結 果 、
45ドルの地 域 経済 波 及 効 果を創 出 すると報
ダイエーの売 上 高 営 業 利 益 率 は全 盛 期 でも
告 されている。地 元 新 聞 社 がその結 果 を一
例 年 2 %前 後 と 低 く、 外 部 環 境 変 化 に 脆 い
面 に 掲 載 すると、 出 店 反 対 運 動 の認 知 ・支
構図を有していた。
持 率 は急 上 昇 し、グローバル・リテイラーはオ
ースチンへの出店を断念した。
地 元 中 小 資 本 業 者 による対 応 ・連 携 が十
2−2. セブン&アイ・ホールディングス
セブン&アイ・ホールディングス(以 下 、セ
ニエンスストア「ミニストップ」、地 方 都 市 の中
ブン&アイ)はコンビニエンスストア店 舗 数 が
心 市 街 地 で食 品 スーパーを展 開 する「マック
日 本 一 の「セブン-イレブン」、主 に首 都 圏 都
スバリュー」や「ジャスコ」等 がある。更 に最 近
市 部 でSC事 業 を展 開 する「イトーヨーカ堂 」、
では、「カルフール」の国 内 店 舗 や「マイカ
ファミリー・レストラン「デニーズ」の3社 から構
ル」を買収 している。グループとしての業態の
成される。セブン&アイはこの3社の仕入れを
多 さ、店 舗 数 の多 さは現 在 、日 本 一 を誇 る。
一 括 して行 う本 部 と位 置 付 けられる。巨 大 本
例えば、秋田県には 2004 年時点で 1000 ㎡
部による一 括 集 中仕 入 れは安価 な調 達を可
以上の小売店舗が 237 店あるが、うち 51 店
能 にする。そして、安 売 りは基 本 的 には行 わ
がイオン・グループの店舗である。これを店舗
ない。セブン-イレブンでは取り扱い商品の大
面 積 1万 ㎡以 上 に特 化 すると、秋 田 県 内 に
半 が定 価 販 売 である。その結 果 、セブン-イ
ある全 22店 のうち、イオン・グループの店 舗
レブンの売 上 高 営 業 利 益 率 は約 35%、ダイ
は14店 を占 める。秋 田 県 の地 域 経 済 ・地 域
エーの全盛期より約15倍も高い。
社 会のあり方を考 える場 合、もはやイオン・グ
このように利 益 効 率 を重 視 すると、出 店 戦
略 も ダ イ エ ーと は 異 な る。 セブ ン &ア イの 出
ループの流通政策や雇用政策を抜きには語
れない状況にある。
店 戦 略 は堅 実 で、利 益 の出 る地 域 に利 益の
このように、イオン・グループの出店戦略は
出 る店 舗 を出 店 する。「イトーヨーカ堂 」の出
セブン&アイが量 より質 を重 視 したのに対 し
店 は首 都 圏 に偏 重 している。よって、セブン
て拡 大 志 向 である。ただ、ダイエーの拡 大 路
&アイでは地 方 都 市 や郊 外 の出 店 は「セブ
線 と 違 うの は、 イオン・ グ ループ で は郊 外 出
ン-イレブン」が中心となる。これは「セブン-イ
店 に注 力 し、その郊 外 店 が高 い利 益 を生 み
レブン」が海 外 市 場 で欧 州 へ出 店 しないのと
出 す 点 にあ る。 郊 外 大 規 模 S Cの 床 を 賃 貸
同 様 に、国 内 市 場 においても新 市 場 を強 気
する「イオンモール」の売 上 高 営 業 利 益 率 は
に開拓することは控え、確実に利益の出る地
約32%である。この数 字 を都心部 でのオフィ
域 に利 益 の出 る店 舗 を出 している。そして、
ス賃 貸 業 と比 較 すると利 益 効 率 の高 さが解
各 社 の経 営 はプロに任 せ、店 舗 の経 営 と所
る。
有 はフランチャイズのオーナーに任 せ、創 業
者 は堅 実 に利 益 を追 求 する。ダイエーが会
図表 1 各社の売上高営業利益率
社から土地まで全てを「所有」することに固執
企業名
ダイエー
セブン-イレブン
イオンモール
東京建物
三菱地所
したのとは対称的である。
2−3.イオン・グループ
イオン・グループは都 市 部 でSC事 業 を展
開 する「イオン」を始 め、郊 外 大 規 模 SCに特
化 した「ダイヤモンド・シティ」、イオングルー
プSCの床を賃貸する「イオンモール」、コンビ
売上高営業利益率
2.3%
35.3%
32.2%
14.8%
14.9%
注 )各 社 の売 上 高 営 業 利 益 率 は最 近 3年 間
の決算平均値である。
主 に東 京 駅 周 辺 でオフィス賃 貸 業 を営 む
「東 京 建 物 」と「三 菱 地 所 」の売 上 高 営 業 利
価 な)価 格 での納 入 を余 儀 なくされる。大 量
益 率 は例 年 約 15%と非 常 に安 定 している。
かつ安 価 で の 納 入 が 可 能 な納 入 業 者 は大
一方、郊外に大型 SC 出店をこの数年で加
資 本 に限 定 される。つまり、川 下 (小売 業 )が
速 している「イオンモール」の売 上 高 営 業 利
グローバル化 すれば、 川 上 (卸 売 業 者 や生
益率は約32%である。しかも毎年3%ずつ上
産 業 者 )もグローバル化 する。これを地 方 都
昇を続け、2004 年度決算では35%である。
市 における地 域 経 済 循 環 で見 れば、商 店 街
郊 外 に大 型 SCを造 って床を賃 貸 するビジネ
など地元の小売 業がグローバル・リテイラーと
スモデルは、都 心 部 にオフィスを造 って床 を
の競 争 で淘 汰 されると、地 元 の卸 売 業 者 や
賃 貸 するビジネスモデルより2倍 以 上 の利 益
生産業者も淘汰される構図である。
効 率 である。そして、郊 外 型 賃 貸 業 の利 益
具 体 例 を挙 げよう。海 外 事 例 としては、先
効 率 は年 々上 昇 している。この構 図 をグロー
述の 2002 年にオースチンで実施された調査
バル・リテイラー各社が見過ごすわけはない。
が解 り易 い。消 費 者 が100ドルを消 費 した場
日 本 の郊 外 は今 、グローバル・リテイラーにと
合 の地 域 経 済 波 及 効 果 は、グローバル・リテ
って最 も利 益 を生 み出 せる商 圏 と位 置 付 け
イラーでの100ドル消 費 が13ドルの地 域 経
られ、出店攻勢は更に加速している。
済波及効果であるのに対して、ローカル・リテ
イラーでの100ドル消 費 は45ドルの地 域 経
2−4.高利益を生む2つのビジネス・モデル
済波及効果を創出する。
国内事例としては、1998 年 5 月 22 日付日
日 本 を代 表 するグローバル・リテイラー「セ
本 経 済 新 聞 「経 済 教 室 」によると、東 北 地 方
ブン&アイ」と「イオン・グループ」が高 利 益 を
6県から構成される製麺業界が 1998 年春に
生 むビジネス・モデルは若 干 の差 はあるが、
実 施 した調 査 が ある。 地 元 製 麺 業 者 からの
共通項は次の二点である。
仕 入 割 合 は、「地 元 資 本 の中 小 規 模 小 売
店」では60%、「中央資本の大規模小売店」
①巨大組織による一括集中仕入
では25%と報告されている。これは地方都市
②郊外出店攻勢
の小 売 店 が、ローカル・リテイラーからグロー
バル・リテイラーに変 わると、地 元 の納 入 業
両 社 が高 利 益 を生 む2つのビジネス・モデ
ルが、まちづくりに与 える影 響 についてそれ
ぞれ考察する。
者 ・生 産 業 者 の販 売 は半 分 以 下 に減 少 する
ことを示している。
この事 例 は取 り扱 い品 目 の多 い「 大 規 模
小 売 店 」であり、品 揃 えの幅 を揃 えるには地
①巨大組織による一括集中仕入
元 食 材 も必 要 とされる。したがって、地 元 産
業 の取 扱 減 少 率 は半 減 程 度 に止 まる。しか
巨 大組 織 による一 括集 中 仕入 は、仕 入側
し、取 り扱 い品 目 を売 れ筋 に特 化 するコンビ
のグローバル・リテイラーには安 価 な仕 入 れ
ニエンスストアやファースト・フード店 になると、
で高利益を生む要因となる。換言すれば、納
各 品 目 の仕 入 先 は1∼数 社 に限 定 して低 価
入 側 の卸 売 業 者 や生 産 業 者 には厳 しい(安
格 仕 入 れを更 に徹 底 する。例 えば、マクドナ
ルドの「フィレオフィッシュ」の白 身 魚 は水 産
のデータから確かな売れ筋商品を厳選する。
会社大手 N 社がその大半を納入している。
その 商 品 の 仕 入 れは「 中 抜 き( 卸 売 業 者 等
つまり、グローバル・リテイラーのうちコンビニ
中間業者を省く)」により大手メーカーに直接、
エンスストアやファースト・フード店 の業 態 で
大 量 かつ安 価 な納 入 を要 求 する。グローバ
は地元食材も地元業者もほとんど必要とされ
ル・リテイラーの販 売 棚 (流 通 )に乗 せるには
ない。アメリカ資本のグローバル・リテイラー進
価 格 の安 さと数 (大 量 規 格 品 )に適 応 するこ
出を機に、イタリアでは「スローフード宣言」が
とが何 よりも求 められる。それは人 間 関 係 や
採 択 されたこと、その約 10年 後 にはアメリカ
営 業 努 力 に依 存 していた地 元 の卸 売 業 者 ・
においても 「IBA」が 各 都 市 で設 立 され始 め
生 産 業 者 には非 常 に厳 しいビジネスモデル
た理由の一つがここにある。
であり、売 り手 にも買 い手 にも個 性 を許 容 し
ここで、小売業店舗の販売棚にどの商品を
ないビジネスモデルでもある。
どれだけ置 くかの意 思 決 定 プロセスを考 えて
みたい。地 方 都 市 の商 店 街 などローカル・リ
②郊外出店攻勢
テイラーでは、仕 入 れの意 思 決 定 は経 営 者
あるいは仕 入 担 当 者 が行 う。したがって、卸
郊外 SC における賃貸効率は都心部オフィ
売 業 者 ・ 生 産 業 者 の営 業 努 力 や小 売 経 営
スの2倍 以 上 である。とりわけ利 益 効 率 の高
者 との人 間 関 係 、あるいは小 売 経 営 者 の人
い立 地 条 件 がある。それは「大 きな商 圏 (都
間 性 によって、その意 思 決 定 は大 きく変 わり
市 )」に程 近 い「小 さな町 」である。そのような
うる。その結果、売れない商品や仕入値の高
立 地 であるほど、店 舗 規 模 は大 型 化 し、都
い商 品 も販 売 棚 に陳 列 される。効 率 という観
市に与える影響も大きくなる。
点 から言 えば非 効 率 である。しかし、その非
具体例を挙げよう。広島県府中町に 2004
効 率 さは他 店 舗 の販 売 棚 ではまず陳 列 され
年 3 月、64500 ㎡の中四国地方最大規模S
ない個 性 的 で珍 しいモノが置 かれるメリットに
C「ダイヤモンドシティソレイユ」が開 業 した。
なりうる。それは秋 葉 原 に見 られるように、零
府 中 町 は政 令 指 定 都 市 の広 島 市 に囲 まれ
細 店であってもマニアック(個 性的)な品 揃 え
る立 地 にある。「囲 まれる立 地 」との表 現 は、
が共 感 されると同 じマニアの消 費 者 を多 く集
広 島 市 が周 辺 自 治 体 と合 併 を繰 り返 した結
める可 能 性 を秘 めている。また、人 間 関 係 や
果である。
営 業 努 力 で販 売 棚 陳 列 を変 えることが可 能
府 中 町 は四 輪 車 メーカー大 手 「マツダ」の
な社会では、ローカル・リテイラー店舗の販売
本 社 と工 場 があり、税 収 基 盤 が豊 かな工 業
棚 確 保 を 狙 う地 元 納 入 業 者 が 地 元 小 売 業
都 市 である。また、広 島 市 に囲 まれる立 地 ゆ
者 を地 元 ゴルフ場 に連 れ出 しての商 談 を誘
え、広 島 市 のベッドタウンとして宅 地 開 発 は
発する等、地域経済循環という観点からは有
進 んだ。その反 面 、町 の核 となりうる商 業 施
効に機能するビジネスモデルである。
設 や商 業 地 は存 在 しなかった。したがって、
一 方 、グローバル・リテイラーにおける仕 入
府 中 町 にとっては町 役 場 目 前 に立 地 するビ
れの意思決定は POS 等コンピューターに基
ール工場跡地の利活用と、その跡地が JR の
づく。仕 入 れを担 う本 部 では、コンピューター
線 路 沿 いであることから跡 地 前 新 駅 設 置 が
重 要 な都 市 政 策 課 題 であった。そこで府 中
など車 によるアクセス利 便 性 は圧 倒 的 に郊
町 はビール工 場 跡 地 には超 大 型 SCを誘 致 、
外に分がある。
JRには跡 地 前 に新 駅 開 業 を要 望 した。そし
グローバル・リテイラーの出 店 は都 市 の「ス
て、2004 年 3 月にビール工場跡地には中四
トック(都 市 基盤)」の価 値に影 響を与え、「フ
国 地 方 最 大 規 模 SC「ダイヤモンドシティソレ
ロー(地域経済循環)」にも大きな影響を与え
イユ」が開 業 、その目 前 にはJR新 駅 「天 神 川
る。 最 も 影 響 を 受 けるの は前 述 の ように、地
駅 」 が 開 業 した。 隣 駅 の広 島 駅 まで約 2 km
元の中小規模資本事業者である。大資本事
の立 地 であ る。つまり、 広 島 市 にとっては商
業 者 の影 響 は比 較 的 軽 微 である。例 えば、
業 施 設 が集 積 する広 島 駅 から約 2kmの「郊
広 島 市 中 心 市 街 地 に立 地 する既 存 百 貨 店
外」に中四国地方最大規模SCが開業したこ
の 2004 年度売上は対前年度比較で「福屋
とになる。
本 店 」「三 越 広 島 店 」ともに5%減 少 に止 まる。
ここで、関 係 主 体 毎 の損 得 勘 定 を整 理 し
地 元 資 本 の中 小 規 模 事 業 者 が受 ける影 響
よう。中四国地方最大規模SCを出店した「イ
を定 量 分 析 するには、「ダイヤモンドシティソ
オン・グループ」は土 地 代 が安 価 な場 所 に、
レイユ」開 業 から1年 半 の現 在 では未 だ統 計
政令指定都市を含む大きな商圏を手に入れ
が十 分 には出 ていない。したがって、次 章 で
た。しかも、元 は車 でしかアクセスできない場
は「府 中 町 と広 島 市 の関 係 」の類 似 事 例 とし
所が出店後には JR 駅が新設される恩恵も得
て、「群 馬 県 新 田 町 と太 田 市 の関 係 」を定 量
た。「府中町」も同様に、大きな商業核と新駅
的に分析する。太田市で起きたことが近い将
を手 にいれた。しかし、「広 島 市 」には多 くの
来に広島市で実現しないことを願う。
面でマイナスの影響が生じる。
広 島 市 の1世 帯 当 たり乗 用 車 保 有 台 数 は
3.地域経済循環からの定量分析
0.98台、政令指定都市としては非常に高い
モータリゼーションが進んだ都市である。その
3−1.地域経済循環アプローチの必要性
ため、広 島 市 では「新 交 通 システム(総 事 業
費 1744 億円)」の導入、地下駐車場を含む
地域経 済を国際経 済と比較した場 合の顕
「紙屋町地下街整備(総事業費 486 億円)」
著 な特 徴 は「開 放 性 」である。国 外 との経 済
等 に取 り組 み、一 定 の効 果 をあげている。し
収 支 は関 税 や量 的 管 理 、あるいは為 替 によ
かし、広 島 市 中 心 市 街 地 から僅 か2kmの隣
ってバランスを維 持 ・ 管 理 できる。このような
町 郊 外 に出 店 した中 四 国 地 方 最 大 規 模 SC
「入 口 管 理 (何 を何 処 から輸 移 入 )」と「出 口
「ダイヤモンドシティソレイユ」の集 客 力 は、そ
管 理 (何 処 にどれだけ輸 移 出 )」は閉 鎖 的 な
の都 市 基 盤 整 備 効 果 を低 減 させるだろう。
環 境 がそれを可 能 とする。しかし、開 放 的 な
「ダイヤモンドシティソレイユ」の駐 車 場 収 容
国 内 地域 経 済 収 支を維 持・管 理する仕組 み
台 数 は4300台 、利 用 料 金 は平 日 4時 間 迄
は未 だ十 分 には確 立 されていない。また、そ
無 料 、土 日 でも3時 間 迄 無 料 である。同 じ条
の意 識 は極 めて稀 薄 である。その稀 薄 な意
件 で広 島 市 中 心 市 街 地 の駐 車 場 を利 用 す
識がグローバル企 業の店 舗や工 場 の安 易な
れば、千 円 以 上 はかかる。そして、道 路 状 況
誘 致 を生 む。その店 舗 や工 場 での雇 用 増 を
見れば、地域経済はプラスに見える。しかし、
調達比率を増加させていることが伺われる。
誘 致 したグローバル企 業 が地 元 の中 小 資 本
コンビニエンスストアやファースト・フード大
事 業 者 から仕 入 れを行 わないと地 域 経 済 収
手 各 社 は1店 舗 の商 圏 を中 心 市 街 地 であれ
支はプラスにはならない。
ば半 径 200m前 後 に設 定 している。つまり、
工場が地方 都市 進出 攻 勢をかけた時代、
既存自社店舗から400m離れた地点は新規
地 域 の 環 境 破 壊 は 進 み、 環 境 循 環 型 の工
出 店 対 象 となる。同 業 他 社 も同 様 な出 店 戦
場 立 地 政 策 が求 められた。現 在 、同 様 に地
略を展 開 する結 果、中 心 市 街 地 では駅 前 や
域 経 済 循 環 型 の商 業 店 舗 立 地 政 策 が求 め
大きな交差点の周囲に、コンビニエンスストア
ら れ る。 一 昔 前 で あ れ ば「 大 規 模 店 舗 出 店
が5店 前 後 ある風 景 は今 や珍 しくない。ハン
調 整 」、現 在 では「郊 外 出 店 調 整 」である。し
バーガー店 や牛 丼 店 等 も複 数 店 舗 ある。各
かし、「店 舗 の規 模 、所 在 (立 地 )」 による出
店 舗 は同 業 他 社 店 舗 に集 客 で負 けないよう、
店 調 整 施 策 には抜 け道 がある。グローバル・
価格破 壊を巻き起こす。また、派手な外観の
リテイラーは出 店 調 整 施 策 に適 応 する業 態
店 舗 前 には集 客 用 の旗 やのぼりを置 いて都
開 発 を進 め、立 地 毎 に巧 みな出 店 戦 略 を有
市 景 観 を破 壊 する。グローバル・リテイラーの
している。例 えば、コンビニエンスストアの歴
出店攻勢が都市に与える影響を次項で整理
史は業界最大手の「セブン-イレブン」が
する。
1974 年 5 月に1号店を東京都江東区豊洲に
出店したことに始まる。これは 1974 年 3 月に
3−2.グローバル・リテイラー出店の影響
施行された「大規模小売店舗法」に対応した
グローバル・リテイラーの業 態 開 発 である。こ
れを機に、グローバル・リテイラーは中心市街
地に 100 ㎡程のコンビニエンスストアやディス
カウント店 のドミナント出 店 を進 めている。都
市 が「店 舗 の規 模 、所 在 」を基 準 とした出 店
調整施策を単独で行使すれば、グローバル・
リテイラーは中 心 市 街 地 への小 規 模 店 舗 の
ドミナント出店戦略を更に加速するだろう。
コンビニエンスストア大 手 3社 「セブン-イレ
ブン」「ローソン」「ファミリーマート」は 2005 年
度 中 間 決 算 において、そろって過 去 最 高 益
を記 録 した。その要 因 について、 3社 そろっ
て次の二点を挙げている( 2005 年 10 月 13 日
① 景観破壊
全 国 均 一 で派 手 な外 観 の店 舗 が集 積
した都市景観は画一的で魅力がない。
② 地域経済の川下破壊
グローバル・リテイラーとの競 争 によりロ
ーカル・リテイラーの淘汰が進む。
③ 地域経済の川中・川上破壊
淘汰されたローカル・リテイラーへ納入し
ていたローカルの卸 売 業 者 ・生 産 者 の淘
汰も進む。
④ 土地と労働力の未利用化
淘 汰 されたローカル事 業 者 の土 地 およ
び雇用者は未利用化する。
付 日 本 経 済 新 聞 )。店 舗 数 拡 大 、利 益 率 の
高 い弁 当 ・おにぎり等 のファースト・フードの
地 方 都 市 では未 利 用 となった土 地 ・労 働
売 上 拡 大 である。グローバル・リテイラーは店
力 の有 効 活 用 先 は豊 かではない。未 利 用 と
舗 数 を確 実 に増 加 させ、地 域 外 からの商 品
なった土 地 ・労 働 力 は未 利 用 (その結 果 、中
心市街地は空洞化)のまま、もしくはグローバ
域 外 (京 都 府 外 )へ輸 移 出 されたものである。
ル・リテイラーの新規出店に利用(その結果、
地域経済の出口から見た地域経済循環であ
中 心 市 街 地 は画 一 化 )されることが多 い。次
る。一方、「輸移入額」とは地域の総生産(供
項では、グローバル・リテイラーの出店が都市
給 )額 のうち、地 域 外 から輸 移 入 (仕 入 )され
に与える影響を定量的に分析する。
たものである。地域経済の入口から見た地域
経済循環である。
3−3. グローバル・リテイラー出店の定量分析
図表 2 京都府の産業別スカイライン分析表
都市(地域)の経済力・活力を定量的に見
(単位:億円)
る場 合 、 各 産 業 の売 上 や利 益 の 額 、あるい
は店 舗 の 数 や面 積 を 一 つの 基 準 と して、 そ
の増 減 により成 長 (活 性 化 )の度 合 いを測 定
する見 方 がある。中 心 市 街 地 活 性 化 施 策
(郊 外 出 店 調 整 施 策 )はその代 表 であり、中
心 市 街 地 に店 舗 の集 積 、各 店 舗 の売 上 ・利
益 の向 上 を図 ろうとしている。しかし、売 上 や
利 益 の額 、あるいは店 舗 の数 や面 積 を「総
額」で捉 えることは危 険 である。以 下 に3つの
第一
次
産業
第二
次
産業
第三
次
産業
合計
輸移出額
輸移入額
地域収 支
輸移出額
輸移入額
地域収 支
輸移出額
輸移入額
地域収 支
地域収 支
1995 年 2000 年 増減額
204
184
△ 20
2055
2006
△ 49
△ 1851 △ 1822
29
△2384
49739
47355
45395
40937 △4458
4344
6418
2074
18816
22237
3421
15673
22027
6354
3143
210 △ 2933
5635
4806
△ 49
出典)京都府 Web「きょうとの産業連関表」
ケーススタディを通して定量分析を行う。
スカイライン分 析 から把 握 できる京 都 府 の
ケース1:京都府の産業別スカイライン分析
地 域 経 済 収 支 を捉 える手 法 として、スカイ
ライン分析がある。スカイライン分析は地域に
おける「需要と供給の関係」と「輸移出と輸移
入」を地域経済学の観点から分析するもので、
1973 年にノーベル経済学賞を受賞した「ワシ
リー・W・レオンチェフ(Wasily W. Leontief )
氏」が考案したものである。
京 都 府 では京 都 府 内 各 産 業 のスカイライ
ン分 析 を5年 毎 に実 施 しており、その概 要 を
Web にて「きょうとの産業連関表」として公表
している。以下はそれを産業毎に簡素化して
時系列的に示したものである。
先 ず用 語 を説 明 すると、「輸 移 出 額 」とは
地 域 (京 都 府 )の総 販 売 (需 要 )額 のうち、地
産業別特徴を以下に整理する。
①製造業(第二次産業 )は、輸移出額が5年
間 で2384億 円 の減 額 、マイナス成 長 である。
しかし、輸 移 入 額 を4458億 円 抑 制 (地 域 内
供 給を高 めた)効 果 により、地 域 経 済 収 支は
5年間で 2074 億円のプラス成長である。
京 都 府 内 には京 セラ、ローム、任 天 堂 、島
津 製 作 所 など世 界 的 に著 名 な電 機 ・精 密 企
業 が集 積 している。これら地 元 大 企 業 は急
激 な 円 高 進 展 以 降 、 工 場 の新 設 は 海 外 展
開 することが多 いが、地 元 の工 場 は今 も残 し
ている。それを支 えるのが地 元 納 入 業 者 の
高 い 技 術 力 であ り、 京 都 の 製 造 業 は「 地 域
内 調 達 かつ地 域 外 販 売 」という高 収 益 構 造
が見られる。
赤 坂 町 ではスカイライン分 析 により、町 の
各産業を次のように判断した。
②サービス業(観光や物販など第三次産業)
は、製 造 業 とは逆 に輸 移 出 額 が5年 間 で34
① 赤坂町の主要産業は、販売(生産)額で
21億 円 の増 額 、プラス成 長 である。しかし、
測 ると製 造 業 が 152 億 円 と圧 倒 的 な強 さを
輸 移 入 額 はそ れを はるかに 上 回 る6 354 億
見せる。しかし、製造業は輸移入率が 80%と
円 の増 額 (地 域 外 からの供 給 が高 まった)に
高く、町内経済への波及効果は低い。
より、地 域 収 支 は5年 間 で2933億 円 も悪 化
した。
② 小売・サービス業は販売(生産)額で測る
京 都 においても、グローバル・リテイラーの
と製 造 業 に次 ぐ主 要 産 業 に見 える。しかし、
店 舗 は急 増 している。2章 で考 察 したように、
輸 移 入 率 は高 く、輸 移 出 率 は低 い。これは
グローバル・リテイラーは地 域 内 供 給 (仕 入 )
「地 域 外 調 達 かつ地 域 内 販 売 」 という地 域 経
比 率 が低 い。よって、第 三 次 産 業 の地 域 経
済収支に最も波及効果の低いタイプである。
済 収 支 はグローバル・リテイラーの店 舗 が増
③一方、農業は販売(生産)額は小さいが、
えるほどに悪化する。
輸 移 入 率 は低 く、輸 移 出 率 は高 い。これは
日 本 の都 市 は今 、京 都 と同 様 に物 販 ・飲
「地域内調達かつ地域外販売」という地域経
食などサービス業(第三次産業)の地域経済
済収支に最も波及効果の高いタイプである。
収 支 悪 化 が各 地 で進 行 している。その傾 向
は次のケースにも見られる。
上 記 分 析 より、赤 坂 町 では町 の主 要 産 業
を農 業 と位 置 付 ける。そして、町 の主 要 農 作
ケース2:スカイライン分析で再生した赤坂町
物「あさひ米」を柱とした農業育成に取り組む
ことを決 める。しかし、課 題 は多 い。先 ず、あ
岡山県赤坂町(合併により 2005 年より赤
さひ米 は町 の主 要 農 作 物 とはいえ、秋 田 産
磐 市 となるが、以 下 は旧 「赤 坂 町 」として扱
や新 潟 産 のブランド米 と比 べると 固 い。そし
う)では、スカイライン分 析 により町 として力 を
て、ブランド力 も強 くはない。 したがって、米
入 れる産 業 を 明 確 に した。 その 産 業 を 育 成
(原材料)のまま出荷すると商品価値は低く、
すること で 都 市 再 生 を 実 現 した 過 程 を 考 察
地 域 経 済 循 環 効 果 も低 い。そこで、炊 飯 加
する。
工工場を建設して、あさひ米を弁当やおにぎ
りに加 工 生 産 することを決 める。その事 業 主
図表 3 赤坂町の産業別スカイライン分析
農業
製造業
小売業
サービス業
販売額
12 億円
152 億円
9 億円
44 億円
出典)通商白書 2004
輸移入率 輸移出率
24%
87%
80%
92%
43%
46%
74%
0%
体として、「株式会社赤坂天然ライス」を設立
した。資本金 7000 万円、出資比率は赤坂町
51%、民間 事業 者49%の第三 セクターであ
る。工 場 建 設 費 は6億 円 、半 分 は農 水 省 の
補助金、残りは町の起債で賄う。
「株式会社赤坂天然ライス」の最重要経営
方 針 は地 元 産 の 米 と 地 元 労 働 力 を 使 うこと
した。 この新田 SC は新田町役場の目前に
である。それは地域経済循環を好転させるた
立地しており、新田町にとっては中心市街地
めである。地域外にはもっと安い米はあるし、
と位置付けられる。
もっと効 率 よい労 働 力 もある。しかし、それら
を地 域 外 から調 達 すると地 域 経 済 循 環 は好
図表 4 太田市と新田町の商店数推移
転しない。
(単位:所)
「株 式 会 社 赤 坂 天 然 ライス」の事 業 スキー
ム( 管 理 諸 費 を 除 く地 域 経 済 収 支 、 金 額 は
年 間 ベース)は次 の通 りである。地 元 農 協 か
ら正 規 価 格 であさひ米 を仕 入 れる(13億 円)。
地元の町民を雇用する(2億円)。売上(18.
太田市
卸売業
小売業
新田町
卸売業
小売業
1999 年 2002 年 増減数
△147
2173
2320
△91
585
676
△56
1588
1644
46
244
198
3
48
45
43
196
153
6億 円 )のうち5%を配 当 (9300万 円 )、3%
が利益である(5600 万円)。この炊飯加工事
図表 5 太田市の特定産業商店数推移
業 を 始 めた こと で 農 協 に1 3 億 円 、 町 民 に2
(単位:所)
億 円、他 に地 元 企 業 と町 への配 当 や税 収に
1億 円 強 が新 たに地 域 内 循 環 している。また、
炊 飯 加 工 商 品 の配 送 、ラッピングなども地 域
内 調 達 することにより、赤 坂 町 では周 辺 産 業
食料卸売
繊維卸売
食料品小売
コンビニ等
1999 年 2002 年 増減数
54
41
△13
12
8
△4
62
43
△21
180
247
67
の地 域 内 収 支 にもプラスの波 及 効 果 を与 え
ている。
図表 6 太田市と新田町の年間商品販売額
(単位:億円)
ケース3:群馬県太田市と隣接する新田町
太田市
小 さな町 ( 新 田 町 )にグローバル・リテイラ
ーが地域最大規模SCを出店した結果、小さ
な町 とそれに隣 接 する大 きな都 市 (太 田 市 )
卸売業
小売業
新田町
卸売業
小売業
1999 年 2002 年 増減率
△14%
5518
6385
△17%
3737
4491
△6%
1781
1894
57%
587
374
15%
267
233
127%
320
141
の地 域 経 済 構 造 の変 化 を定 量 的 に分 析 す
る。この新田町と太田市の関係は、前述の府
図表 7 太田市の特定産業年間販売額
中 町 と 広 島 市 の 関 係 に 似 て いる。 尚 、 2005
(単位:億円)
年3月に新 田町 と太 田 市 は合 併 しているが、
使用データ(統計)は 1999 年と 2002 年の比
較で行うので、以下は旧「新田町」と旧「太田
市」として扱う。
人口約 3 万人の群馬県新田町に 2000 年
食料卸売
繊維卸売
食料品小売
コンビニ等
1999 年 2002 年 増減率
350
221
△37
47
39
△17
224
151
△33
168
236
41
出典)図表4から7はいずれも「太田市 Web」
4月 、当 時 としては群 馬 県 最 大 規 模 となる
35736 ㎡、駐車場 3500 台の新田SCが開業
新 田 町 に隣 接 する太 田 市 の概 要 を 2000
年 統 計 で 説 明 する。 太 田 市 の 人 口 は約 1 4
る分野の既存小売業は百所以上が閉店した。
万 人 、太 田 駅 北 口 前 には四 輪 車 メーカー大
閉 店 した小 売 業 へ納 入 していた地 元 の卸 売
手 「 富 士 重 工 業 」 の 工 場 があ り、 古 く か ら工
業 者 も仕 事 を失 い、90 所 以 上 が閉 店 した。
業都市として発展してきた。太田駅南口は市
グローバル・リテイラーは地 域 内 既 存 卸 売 業
役 所 など公 共 施 設 や地 元 の商 業 施 設 が集
者からの仕入がほとんど無いことを示す。
積 する中 心 市 街 地 と位 置 付 けられる。太 田
市 の1世 帯 当 たり乗 用 車 保 有 台 数 は1.37
③中 心 市 街 地 の商 店 街 が閉 店 すると、そこ
台 で全 国 21位 、モータリゼーションの影 響 を
はシャッター通 りとなる。しかし、太 田 市 南 口
受 けやすい環 境 にあり、太 田 市 中 心 市 街 地
は「夜は賑わうまち」になった。太田駅北口に
の空 洞 化 は既 に進 んでいた。その太 田 市 中
は自 動 車 工 場 があり、そこは男 性 労 働 者 が
心 市 街 地 は約 8km離 れた隣 町 郊 外 に群 馬
非 常 に 多 い。夜 型 産 業 は太 田 市 中 心 市 街
県最大規模 SC が出店したことにより、以下
地 に新 商 圏 としての高 い可 能 性 を見 出 した
のように大きな影響を受けることになる。
ようである。今、マスコミの一 部では太田 市 南
口 を「北 関 東 の歌 舞 伎 町 」と報 道 している。
①新 田町の商店 数が 3 年間で46増加 した
グ ロ ーバ ル ・リ テイラー 出 店 で 淘 汰 された 中
内 訳 は卸 売 業 が3、小 売 業 が43である。卸
心 市 街 地 商 店 街 が、何 もせず「シャッター通
売 業の増 加 がわずか3店という数 字 は、新 田
り」と化 すか、男 性 が必 要 とする業 種 に店 舗
SCの仕 入 先 はほとんど地 域 外 にあり、地 域
を貸 し出 して「夜 は賑 わうまち」にするかは評
内 卸 売 業 にとって新 田 SC出 店 の波 及 効 果
価 が分 かれるだろう。しかし、当 問 題 の根 源
はほとんど無 いことを示 す。そして、超 大 型 S
は地 主 が要 請 のあった業 種 に貸 すか貸 さず
Cが郊 外 に出 店 すると、その店 舗 周 辺 にグロ
に放 置 するかにあるのではなく、都 市 がグロ
ーバル・リテイラーによるロードサイド店 の出
ーバル・リテイラーの出 店 攻 勢 に如 何 に対 応
店 が相 次 ぐ光 景 が各 地 で見 られるように、新
していくかにある。
田 町 には新 田 SCの周 辺 ロードサイドにグロ
ーバル・リテイラーの小売店舗が集積した。
②太 田 市 の商 店 が3年 間 で147減 少 した内
4.都市計画の広域性
2章 では、広 島 県 府 中 町に中 四 国 地 方 最
訳は卸売業が 91、小売業が 56 である。まず、
大 規 模 の商 業 施 設 が開 業 することにより、近
小 売 業 を合 計 で捉 えると卸 売 業 よりもマイナ
隣 自 治 体 に与 えるマイナスの影 響 を考 察 し
スの影 響 度 合 い は小 さ く見 え る。 し かし、 小
た。3章 では、群 馬 県 新 田 町 に群 馬 県 最 大
売 業 のうちコンビニ等 (コンビニエンスストア、
規 模 の商 業 施 設 が開 業 することにより、近 隣
ディスカウント店)が 67 増加している。よって、
自 治 体 に与 えるマイナスの影 響 を考 察 した。
太 田 市 中 心 市 街 地 の既 存 小 売 業 は市 内 に
この よ うに、 個 々自 治 体 の 小 売 業 出 店 に関
新 規 出 店 したコンビニ等 と新 田 SCのグロー
する都市計 画が及ぼす近隣自治 体 へのマイ
バル・リテイラー双方の出店影響を受ける。そ
ナス影 響 は 、 広 域 性 の 観 点 か ら立 案 され る
れら新 規 小 売 店 舗 と取 り扱 い品 目 が重 複 す
上 位 計 画 によって未 然 防 止 または最 小 化 す
ることが望 ましい。その手 法 と最 新 動 向 につ
いて欧州と日本を事例として考察する。
所立地政策」を紹介する。
日本の国あるいは都道府県においても、こ
れら欧 州 の制 度 を参 考 に「商 業 施 設 出 店 の
図表 8 欧州の小売業出店規制(誘導)
国
施策
イタリア
フランス
イギリス
オランダ
商 業 基 ラファラ PPG6
適業適所
本法
ン法
立地政策
主 な 店舗の規模
店舗の所在(立地)
規制
規 制 と 誘 導 に関 する都 市 計 画 」を 導 入 する
動 きが見 られる。その最 新 動 向 としては、福
島県議会が 2005 年 10 月 13 日に「福島県
良 好 な小 売 商 業 機 能 が確 保 された誰 もが暮
らしやすいまちづくりの推 進 に関 する条 例
(仮 称 )」制 定 を可 決 した。当 条 例 は出 店 す
欧 州 における「商 業 施 設 出 店 の規 制 と誘
導 に関 する都 市 計 画 」について、筆 者 は「店
舗 の規 模 、所 在 」の視 点 から2つのタイプに
分類した。先ず、「店舗の規模」を重視し、一
定の店舗規模を超える出店を許可制として、
る「店舗の規模」が 6000 ㎡以上について、出
店 調 整 と店 舗 規 模 縮 小 勧 告 の対 象 としてい
る。これは「店舗の規模」を重視している観点
から、欧 州 の2タイプのうちイタリア・フランス
型に相当する。
それを法律で厳しく運 用するタイプがある。イ
タリアとフランスがこれに相当する。フランスの
4−1.イタリアの「商業基本法」
「商 業 ・手 工 業 の方 向 性 に関 する法 律 (旧 ロ
ワイエ法)」をラファラン内閣時の 1996 年に改
正 した通 称 「ラファラン法 」では,「店 舗 の規
模」ごとに次 の出 店 規 制 がある。300 ㎡以 上
の出店は事前許可制である。更に 1000 ㎡以
上 の出 店 は許 可 申 請 時 に当 出 店 が地 域 内
の経 済 や雇 用 へ与 える影 響 を分 析 した調 査
書類の提出が追加必要となる。更に 6000 ㎡
以上の出店は公聴会開催が追加必要となる。
このように、フランスでは「店舗の規模」が大き
くなるほど出店規制を厳しく運用している。
イタリアは「店舗の規模」を重視した規制を
行いつつ、「各基礎自治体の規模(人口)」と
「小 売 業 の資 本 の規 模 」をも考 慮 した計 画 を
有している。この「商業基本法」については後
述する。
次 に、「店 舗 の所 在 (立 地 )」を重 視 し、ガ
イドラインにより運 用 するタイプがある。イギリ
ス、オランダ、ドイツ等 がこれに相 当 し、本 稿
ではイギリスの「PPG6」とオランダの「適 業 適
商 業 基 本 法 、即 ち「法 律 1971 年 第 426
号 」の視 点 は「複 合 的 かつ戦 略 的 」である。
先 ず、商 業 施 設 の出 店 規 制 は「店 舗 の規
模」と「各 基 礎自 治 体の規模(人口)」の両面
から実施されており、しかも「小売業の資本の
規 模 」 と いう 視 点 か らも 規 定 さ れ て い る 点 に
注 目 したい。これは小 売 業 を「近 接 商 店 (ロ
ーカル・リテイラー)と「大 規 模 店 (グローバ
ル・リテイラー)」とその中 間 の「中 規 模 店 」の
三 つに 分 類 する。 例 え ば、 人 口 1 万 人 未 満
のコムーネ(基 礎 自 治 体 )における出 店 規 制
対象となる店舗規模(面積)は近接商店では
150 ㎡、中規模店では 1500 ㎡、大規模店で
も同じく 1500 ㎡である。このように、出店規
制方法は「複合的」である。
次に、出店申請から許可に至るプロセスは
「戦 略 的 」である。出 店 申 請 できる小 売 業 は
自治体に登録している者に限られる。登録は
容 易 ではなく、高 度 な専 門 性 と公 共 性 が求
められ、国 が認 定 する専 門 学 校 修 了 あるい
者 」であることが多 い日 本 の商 店 街 であれば
は試 験 合 格 等 が要 件 となる。そして、認 定 さ
現 実 離 れした計 画 に思 われる。ここで「小 売
れると専 門 職 として課 税 が適 用 される。イタリ
業 者 登 録 制 度 」が機 能 する。小 売 事 業 意 欲
アでは、この「小 売 業 者 登 録 制 度 」によって
の低 い地 権 者 は小 売 業 者 にはなれず、テナ
小 売 業 を安 易 な意 識 では就 けない業 務 と位
ント経 営 者 になっている。イタリアの「小 売 業
置付けている。それは日本の商店街によく見
者 登 録 制 度 」を日 本 における中 心 市 街 地 活
られる「安 易 な世 襲 制 」を排 除 し、事 業 意 欲
性 化 、特 に商 店 街 活 性 化 に導 入 すると高 い
と専 門 知 識 の高 い者 に 小 売 業 を任 せること
効果が期待できる。
に繋 がる。つまり、小 売 事 業 者 に「親 がやっ
ていたから」あるいは「受身の姿勢で売るだけ
4−2.イギリスの「PPG6」
いい簡 単 な仕 事 だから」という安 易 な意 識 で
はなく、「地 域 経 済 を担 う」意 識 をもたせる狙
イギリスには24の都 市 計 画 分 野 から構 成
いがある。地 域 経 済 の活 性 化 には、事 業 意
さ れ る 「 PPG ( 計 画 政 策 指 針 ) 」 が あ る 。 PPG
欲 の低 い小 資 本 小 売 業 の保 護 でもなく、大
は政 府 が示 す都 市 計 画 ガイダンスであり、基
資 本 小 売 業 の一 律 規 制 でもない戦 略 性 が
礎自治体は PPG に基づいて都市計画を立
必要である。
案 することで、都 市 計 画 の広 域 性 を確 保 ・維
自 治 体 が登 録 小 売 事 業 者 から出 店 申 請
持している。
を 受 けた後 に許 可 を 承 認 するプロ セスは 次
PPG6(タウンセンターと小 売 開 発 ) では、
のとおりである。各自治体は地域内の消費動
既 存 の タ ウ ンセンタ ーの 活 性 化 を 主 要 な目
向を把握し、消費需要予測を行う。その消費
標として、「自動車以外の交通手段を利用す
需 要 を充 たす売 り場 面 積 を4年 毎 に定 める。
る機 会 が最 大 化 されるような位 置 に開 発 、特
この売り場面積は業種別、地区別に定める。
に商 業 開 発 を集 中 させること」を意 図 してい
自治体は申 請を受けた業種、地区に出店可
る。具 体 的 には、小 売 店 舗 を含 む集 客 施 設
能枠がある場合に出店許可を与える。このシ
の立 地 誘 導 に3段 階 の優 先 順 位 を設 けてい
ステムはオーバー・ストア(店 舗 過 剰 )を発 生
る。これを「シーケンシャル・アプローチ」という。
させないメリットがある反 面、各 地 区 が均 一な
優 先 順 位 の基 準 は「中 心 市 街 地 への近 さ」
商店構成になり地域の魅力を損なうデメリット
である。
もある。そのため、自 治 体 によっては特 定 の
集 客 施 設 出 店 は先 ず第 1に、既 存 のタウ
地 区 ・業 種 の売 り場 面 積 を大 きく設 定 するこ
ンセンター内 を最 優 先 する。第 二 に、そのよ
とがある。例えば、観光地のストリート A には
うな敷 地 がない場 合 に、タウンセンターの端
エレガンス系ブティックを集積、隣 のストリート
や隣 接 部 敷 地 での出 店 を検 討 する。第 三 に
B にはカジュアル系ブティックを集積させる計
初 めて郊 外 出 店 が検 討 される。その郊 外 立
画 をたてる。この計 画 (業 種 別 ゾーニング)は
地 についても、公 共 交 通 手 段 でアクセス可
そこを利 用 する消 費 者 には非 常 に魅 力 的 な
能 な郊 外 立 地 における出 店 を先 ず検 討 する
ものである。しかし、そこを所 有 する地 権 者に
ことが求められる。
は業 種 変 更 となり、「地 権 者 イコール小 売 業
この中 心 市 街 地 立 地 を優 先 する「シーケン
シャル・アプローチ」の考え方は、イギリスでは
特 に 重 要 で あ る。 そ れは日 本 では 、 地 方 都
商 業 開 発 に 止 まらず、 住 宅 地 開 発 に も 取 り
市 の 多 くが 「中 心 市 街 地 活 性 化 施 策 」 の中
入れられている。2000 年3月に改正されたP
で駐 車 場 整 備 を積 極 的 に推 進 しているから
PG3(住 宅 )では、新 規 住 宅 開 発 は既 存 市
である。その理 由 は、中 心 市 街 地 活 性 化 施
街地に 60%以上を集中させ、郊外部での開
策 立 案 を 目 的 に 実 施 された市 民 アンケ ート
発 を 40%以 下 に抑 制 することが意 図 されて
から読みとることができる。
いる。
モータリゼーションが進 展 した日 本 の地 方
都 市 にお い て、 郵 送 選 択 式 ア ンケ ート で市
4−3.オランダの「適業適所立地政策」
民 に「今 後 、中 心 市 街 地 に必 要 な施 設 は何
ですか?」と問いかけ、回答選択肢には現在
「適業適所立地政策」は別名「ABC 立地政
最 も不 足 する施 設 である「駐 車 場 」があれば、
策 」とも呼 ばれ、土 地 (地 区 )と業 務 施 設 (業
駐 車 場 が回 答 上 位 になる結 果 は明 白 である。
種)について、それぞれを3つに分類するもの
これを市 民 に直 接 聞 いてみれば「中 心 市 街
である。3段 階 の優 先 順 位 を設 ける点 で、イ
地 には魅 力 ある施 設 ・イベント、その集 積 が
ギリスの「シーケンシャル・アプローチ」に相当
乏 し い。 も し 今 後 それ が 整 備 さ れる な ら ば、
する概 念 である。優 先 順 位 の基 準 は「公 共
公共交通機関を使ってでも中心市街地へ行
交通の利便性」である。
きたい。そのうえ駐車場があれば尚良い」とい
先 ず、土 地 については公 共 交 通 と自 動 車
う本 音 を聞 くことも可 能 となる。そして、市 民
の利 便 性 から「公 共 交 通 の利 便 性 が高 いA
が中心市街地に来訪しない真の理由を把握
地区」、「自動車利用の必要な C 地区」、「A
することも可能となる。地方自治体はそれをし
と C の中間の B 地区」の3つに分ける。業務
ないで、コンサルタント等 に郵 送 選 択 式 アン
施 設 については、来 訪 者 や就 業 者 のモビリ
ケートを任 せてしまうことが多 い。これが仮 に
ティ・ニーズから「小 売 ・サービス等 の川 下 産
箱 物 ( 駐 車 場 )建 設 に結 びつける為 の誘 導
業を A 業種」、「自動車による運送ニーズの
にしても、あるいは郵 送 選 択 式 アンケート結
高 い運 輸 業 ・製 造 業 など川 上 産 業 を C 業
果 を鵜 呑 みにして駐 車 場 を安 易 に建 設 した
種」、「医療機関など A と C の中間の B 業種」
としても問 題 である。想 定 通 りのアンケート結
の3つに分 ける。そして、駅 に近 く公 共 交 通
果 を得 て、駐 車 場 用 地 の限 られる中 心 市 街
が至便なA地区には A 業種を、同じく C 地区
地に地下駐車場などコストのかかる駐車場を
には C 業種を誘導する。また、A および B 地
建 設 したにも関 わらず、効 果 があまり出 てい
区 では駐 車 場 開 設 の条 件 を厳 しく設 定 する
ないからである。その理 由 を二 つの視 点 から
ことで、C 業種が A および B 地区へ流入する
考 えたい。先 ず、第 一 に前 述 の「中 心 市 街
ことを抑制する機能を果たしている。
地 には魅 力 ある施 設 ・イベント、その集 積 が
乏 しい」からである。第 二 に郊 外 商 業 施 設 の
日 本 の地 方 都 市 はこの「適 業 適 所 立 地 政
策 」を参 考 にするとよい。中 心 市 街 地 におけ
る駐 車 場 開 設 の条 件を厳 しく設 定 することは
駐 車 場 と 比 べる と 、 自 治 体 が 整 備 した 中 心
市街地のそれは利便性が低いことである。
郊 外 商 業 施 設 の駐 車 場 利 用 は原 則 無 料
である。そして、1台 当 たりのスペースが広 い
島県良好な小売商業機 能が確保された誰も
為 、RV車 であっても運 転 技 術 に不 安 があっ
が暮 らしやすいまちづくりの推 進 に関 する条
ても駐 車 場 内 での通 行 や駐 車 に何 ら支 障 は
例(仮称)」制定を県議会で可決した。
ない。一 方 、自 治 体 が整 備 した中 心 市 街 地
従 来 、小 売 事 業 者 に何 らかの対 応 を求 め
の駐車場は1台当たりのスペースが非常に狭
る都 道 府 県 の条 例 としては神 奈 川 県 と兵 庫
い。そのため、車種や運転者の技 術によって
県 で既 に制 定 されている。その内 容 を見 ると、
は駐 車 場 内 での通 行 や駐 車 を困 難 なものに
両 者 ともに「生 活 環 境 配 慮 」を「要 請 」する条
させ る。 そ の結 果 、 駐 車 場 内 で 車 の 行 列 が
例である。つまり、小売事業者への要請事項
発 生する。そして、駐 車 場利 用 は有 料である。
は主 に交 通 渋 滞 や夜 間 騒 音 の防 止 である。
しかも、その利 用 料 金 は駐 車 場 入 口 を通 過
一 方 、福 島 県 が来 年 度 より導 入 する条 例 は
した時 点 から発 生 する。ところが、利 用 者 が
「店 舗 の規 模」を重 視 し、「店 舗 規 模 縮 小」を
駐 車 できるまでに料 金 発 生 から10分 以 上 か
「勧告」する条例である。例えば、2005 年3月
かることは珍 しくない。特 に地 下 駐 車 場 の場
に福 島 県 が 県 民 意 見 募 集 要 領 にて公 開 し
合 は見 通 しが悪 く、空 きスペースを発 見 する
た同条例の前文案一部は次のとおりである。
のは容 易 ではない。空 きスペースを誘 導 する
システムが存 在 する駐 車 場 であっても、行 列
「小 売 商 業 施 設 の更なる大 規 模 化 が進む
で停車していたり駐車 場内をグルグル廻って
中で、その立地による影響が広域化し、立地
いるうちに10分程度はすぐに経過する。その
する市町村以外の市町村のまちづくりにまで
時 間 は消 費 者 にとって無 駄 であるうえ、その
影 響 を及 ぼしていることから、特 に規 模 の大
時 間 まで含 め千 円 前 後 を徴 収 される苦 い経
きな小売商業施設の立地について広域の見
験 をした消 費 者 は次 回 消 費 場 所 に郊 外 商
地から調整を行う必要性が増大している。」
業 施 設 を選 ぶであろう。セブン&アイの鈴 木
敏文 CEO は著書「鈴木敏文の統計心理学」
筆者が福島県の条 例 に注目する理由 は二
のなかで「商売は経済学でなく心理学で考え
つある。まず第 一 に、日 本 における「商 業 施
ろ」と記 している。筆 者 はこのケースの場 合に
設 出 店 の規 制 と誘 導 に関 する都 市 計 画 」の
次 の よ うに解 釈 する。 「 消 費 者 が 探 してい る
視 点 は、かつての「大 規 模 小 売 店 舗 法 」およ
商 品 や駐 車 スペース に 辿 りつく 迄 に 時 間 を
び最新法令である福島県条例前文に代表さ
浪費させ、消費者の心理を損なう経営システ
れるように、小売業の「店舗の規模」が重視さ
ムは失格である。」
れる。「大規模店舗」の出店調整を広域都市
計 画 の観 点 から実 施 することは一 定 の効 用
4−4.福島県の広域都市計画条例
を得られる反面、強い「副作用」を伴なう。
「副 作 用 」とは、グローバル・リテイラーは
日 本 の 国 あ るいは都 道 府 県 に おいても、
「大 規 模 店 舗 」の出 店 を調 整 (規 制 )されると
「商 業 施 設 出 店 の規 制 と誘 導 に関 する都 市
中 心 市 街 地 には小 規 模 店 舗 の出 店 を、郊
計 画 」の 導 入 検 討 が 進 んでいる。福 島 県 で
外 ロ ードサイドに は中 規 模 店 舗 の 出 店 を 加
は 2005 年 10 月 13 日、全国に先駆けて「福
速 する。また、前 述 したようにグローバル・リテ
イラーは行 政が打ち出 す出店 調整 施策に適
る。しかし、深 夜 営 業 が定 着 したグローバル・
応する業態開発を行う。例えば、福島県の条
リテイラー店 舗 における労 働 は深 夜 におよぶ
例 は出 店 調 整 と店 舗 規 模 縮 小 勧 告 の対 象
など過 酷 でありながら、極 度 にマニュアル化
となるのは店舗規模が 6000 ㎡以上である。
されている。よって、そこでの 雇 用 形 態 は短
よって、グローバル・リテイラーは取 り扱 い品
期 かつ流 動 的 なものとなりやすく、フリーター
目を厳選した 5900 ㎡前後の業態で出店して
を増殖する一つの要因になっている。換言す
くる可 能 性 がある。グローバル・リテイラーが
れば、 低 コストで雇 用 調 整 に 便 利 な労 動 力
取り扱い品目を厳選(減少)することは、仕入
であるフリーター人 口 の多 さが、全 国 均 一 な
れ先 の厳 選 (減 少 ) と同 義 であ り、 それは地
店 舗 で全 国 均 一 のマニュアル的 なオペレー
域経済循環悪化に直結する。
ション・便 利 なサービスを提 供 するシステムを
この副 作 用 を押 さえるには、小 売 業 の「資
成立させている。
本の規模、所在」に着眼しつつ、イタリアの事
大阪市信用金庫は 2004 年2月に大阪府
例 に見 られる戦 略 性 を導 入 することが求 めら
内1240社を対象に「フリーターの雇用状況・
れる。
評 価 について」という調 査 (「フリーター」の定
第 二 の理 由 は、都 市 にグローバル・リテイ
義 は労 働 経 済 白 書 の 定 義 によ る)を 実 施 し
ラーの店 舗 が様 々な業 態 で集 積 する結 果 、
た。調査結果(有効回答数1153社)によると、
誰 が幸 せになっているかについて私 見 を次
業 種 別 の「全 雇 用 者 に占 めるフリーター比
項で述べたい。
率 」は小 売 業 が36%と際 立 って高 い。この
「全 雇 用 者 に占 めるフリーター比 率 」を小 売
4−5.多くの弱者を生むシステム
企業従業員別で見ると、従業員 10 人未満は
13%、従業員 10∼49人では27%である。こ
現 代 のグローバル・リテイラー店 舗 は消 費
れが従業員 50 人以上になると41%に上昇
者 にとって利 便 性 が高 い反 面 、薄 利 多 売 政
する。大資本小売事業者では全雇用者の半
策はとっておらず、かつてダイエーが「良い品
分近くがフリーターである。
をどんどん安く」を経営信条に安売りしていた
こうし て、 グ ロ ーバ ル ・リ テイ ラーの 店 舗 が
ことと比 べると消 費 者 にはあまり利 益 分 配 さ
都 市 に集 積 する結 果 、満 足 感 や利 益 を得 て
れていない。しかしながら、現 代 消 費 者 は中
いるのは実 は大 資 本 家 等 ごく一 部 の人 に限
小 資 本 小 売 店 よりもグローバル・リテイラー店
られているように感じられる。そういう観点から、
舗 を 強 く支 持 する。 そ の結 果 、 中 小 資 本 小
小 売 事 業 者 に何 らかの対 応 を求 める都 道 府
売 店 舗 の淘 汰 は確 実 に進 行 している。それ
県 の条 例 名 称 に「誰 もが暮 らしやすいまちづ
は中 小 資 本 小 売 店 舗 に納 入 していた中 小
くりの推 進 」という言 葉 を選 んだ福 島 県 の視
資本の納入業者・生産者の淘汰を伴なう。
点に強い共感を覚える。
この ように、グローバル・リテイラーの出 店
攻勢は雇用問題と密接に関係してくる。雇用
5.おわりに
という視 点 から見 ると、グローバル・リテイラー
が出 店 した地 域 では雇 用 者 数 は確 かに増 え
都 市 は地 域 経 済 循 環 を高 めることで活 性
化 する。都 市 は主 要 産 業 を位 置 付 ける場 合 、
経済循環の場として強かに「利用」するとよい。
販 売 (需 要 )額 の多 寡 だけで判 断 せず、スカ
具 体 的 に は 、 グ ロ ーバ ル ・リ テ イ ラ ーの 大 規
イライン分 析 など地 域 経 済 循 環 の 視 点 から
模店の一定区画をローカル(地域固有)の資
捉 えることが重 要 である。本 稿 事 例 では、京
源 ・資 本 を活 性 化 して地 域 経 済 循 環 を高 め
都 府 が第 二 次 産 業 を、赤 坂 町 が第 一 次 産
る為の「ローカリゼーション・コーナー」とする。
業 を 都 市 の 主 要 産 業 と して位 置 付 け、そ の
そこで地 元 中 小 資 本 の農 業 事 業 者 ・工 業 事
産業を育成するまでの過程に触れた。
業 者 は自 らの生 産 品 を自 ら販 売 する。所 謂
小 売 業 に代 表 される第 三 次 産 業 の地 域
「地 産 地 消 」を、生 産 者 の顔 が見 える手 段 で
経 済 循 環 は、地 方 都 市 では芳 しくない。しか
実 現 する。その場 は「地 域 経 済 循 環 」を高 め
も、悪化する傾向にある。グローバル・リテイラ
る場となり、地元生産者と地元消費者が交流
ーへの納 入 先 は大 資 本 業 者 が主 で、地 元
する「地 域 コミュニティ」の場 となることが期 待
中 小 資 本 の卸 売 事 業 者 ・生 産 事 業 者 には
される。
納入機会がほとんど無いからである。
都 市 が第 三 次 産 業 で経 済 循 環 を高 める
には、出 店 する「店 舗 の規 模 、所 在 (立 地 )」
を広域 都市 計画の観 点 から調整 する手 法が
【参考資料】
ある。この出 店 調 整 施 策 には一 定 の効 果 が
京都府(公式 Web)
期 待 される。しかし、その出 店 調 整 基 準 を
群馬県太田市(公式 Web)
「 店 舗 の 規 模 、 所 在 」 だ けに 求 め ると 、 大 資
広島県広島市(公式 Web)
本 小 売 業 者 である「グローバル・リテイラー」
広島県府中町(公式 Web)
は中心市街地には小規模店舗の出店を、郊
福島県(公式 Web)
外 ロ ードサイドに は中 規 模 店 舗 の 出 店 を 加
秋田県(公式 Web)
速 する。したがって、第 三 次 産 業 において地
大阪市信用金庫(公式 Web)
域 経 済 循 環 を真 に高 めるには、小 売 業 を
イオン(公式 Web)
「店舗の規 模、所在」の視点からの出店調 整
セブン&アイ・ホールディングス(公式 Web)
に止まらず、「資本の規模、所在」の視点から
ダイエー(公式 Web)
対応策を講じたい。
The American Independent Business Alliance
その対応策は「地域と小売業の関係」のあ
(Official Web)
り方 から見 て、「敵 対 的 関 係 」と「友 好 的 関
The Boulder Independent Business Alliance
係 」の2つが考 えられる。「敵 対 的 関 係 」の具
(Official Web)
体例は、アメリカにおける IBA の出店反対運
The Austin Independent Business Alliance
動に見られるグローバル・リテイラー店舗の出
(Official Web)
店阻止である。「友好的関係」とは地域とグロ
Economic Impact Analysis: A Case Study
ーバル・リテイラー店 舗 が「共存」することであ
Local Merchants vs. Chain Retailers
る。 言 葉 は「 共 存 」 ではあ るが 、 都 市 は集 客
STORES 2005 Global Powers of Retailing
力 の高 いグローバル・リテイラー店 舗 を地 域
経済産業省(公式 Web)、「通商白書 2004」
全 国 建 設 研 修 センター「個 々の都 市 計 画 の広
域性と国の関わり方に関する調査研究」
環境省「環境への負荷の少ない交通報告書」
日本経済新聞 1998.5.22「経済教室」
日経流通新聞 2005.8.17「百貨店 2004 年
度調査」
三井物産業務部「町おこしの経営学」
東洋経済「会社四季報」
溝上幸伸「 イオンVSヨーカ堂」
鈴木敏文「鈴木敏文の統計心理学」
宗田好史「にぎわいを呼ぶイタリアのまちづく
り」
久 繁 哲 之 介 「スロー・シティ、少 子 高 齢 社 会
に向けて」