パリ協定の実施状況、長期戦略策定に向けて

パリ協定の実施状況、長期戦略策定に向けて
⽥村堅太郎
気候変動とエネルギー領域エリアリーダー
IGES COP22報告セミナー
「動き始めたパリ協定 〜脱炭素化に向けて、問われる⽇本のアクション〜」
2016年12⽉1⽇
アウトライン
1. COP22とは何だったのか?
2. パリ協定実施に向けた取り組みにおける
COP22の位置づけ
3. 短期的⾏動に関する成果
4. 中期的⾏動に関する成果
5. ⻑期的⾏動に関する成果
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1.COP22とは何だったのか?
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マラケシュ会議:いくつかの側面
作業型
(Working)
パリ協定締約国会合(CMA1)
パリ協定実施に向けた準備
 詳細ルールの策定作業の明確化
COP
アクション
脱炭素、気候耐性のある
社会構築に向けたステー
クホルダーの積極的関与
を促進
COP
(政治的)
リアクショ
ン COP
「気候及び持続可能な発展のた
めのマラケシュ⾏動宣⾔」
 パリで形成された国際社会
の団結を⽰す政治的メッ
セージ
パリで培われた政治的意思・機運の保持・加速を目指す
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2.パリ協定実施に向けた取り組みにおける
COP22の位置づけ
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パリ協定が目指すもの
三つの⽬的
 地球の気温上昇を産業⾰命前に⽐べ「2℃よりも⼗分低く」抑え、さらに
は「1.5℃未満に抑えるための努⼒を追求する」(=⻑期気温⽬標)
• 世界の排出量の早期ピークアウト
• 今世紀後半に⼈為的排出量の実質ゼロ
 気候変動の悪影響に対する適応能⼒及び耐性の強化、温室効果ガス
(GHG) 低排出発展の促進
 低GHG排出で気候耐性のある発展と整合性のある資⾦フローの確⽴
• 交渉事としての資⾦問題から、投資を含めたお⾦の流れ全体の変⾰を⽬指す
脱炭素化へ向けたシグナルの発信
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長期気温目標が意味するもの:カーボンバジェット
CO2の累積総排出量とそれに対する気温の応答はほぼ⽐例関係
=「出せば出すほど上がる」
1861〜1880年と⽐較した気温偏差
(GtCO2)
• ⼀定の気温上昇に抑えるために
排出できる総量(カーボンバ
ジェット)が決まる
• 上昇を⽌めたければ、いつかは
排出を正味(ネット)でゼロへ
1850年から⼈為起源により排出されたCO2の累積総量
(GtC) 出典:IPCC AR5
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排出できる総量は決まっている
• 短期の対策の遅れ
 中期的にはより急激な削減
(コスト増)
 ⻑期的にはさらに低⽔準の排出、
ネガティブエミッション技術へ
の依存⼤
短期削減の⽋如
出典:Riahi, Kriegler, et al. (2015)を基に作成
• 2020年⽬標/2030年⽬標に沿った
排出パスは、今世紀末に2℃未満
に抑制する可能性が「どちらも同
程度」のシナリオを既に超過
パリ協定実施に向けては短期の行動も加速させる必要性
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いつネットゼロに?今世紀後半のいつ?
イメージ図
今世紀末の気温上昇を2℃未満に
抑制する可能性が「どちらも同程
度」のシナリオ
2℃より⼗分低い
パリ協定の⻑期気温⽬標達成には、
さらなる前倒しでのネットゼロ達
成が必要
•
•
1.5℃未満
2℃より⼗分低く:2060年〜2075年
1.5℃未満:2045年~2060年
出典:Rogelj, Schaeffer, et al. (2015), IIASA Policy Brief (2016)を基に作成
今世紀後半のなるべく早期のネットゼロ排出を目指す必要性
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パリ協定:野心レベル引き上げプロセス(5年ごとの見直しサイクル)
• 現時点で各国がボトムアップ式に提出している国別⽬標では不⼗分
• 今後、段階的に各国の野⼼レベルを引き上げていくプロセスを組み込む。
野心レベル
高
•次期目標の提出
•次期(2035年?)目標
の提出
•2025年/2030年目標
• グローバル
の提出・更新
•グローバル
ストックテイク
•長期低排出発展戦略 ストックテイク
の提出
•「促進的対話」開催
•IPCC 1.5℃特別報告書
イメージ図
低
2018
2020
2023
2025
2028
2030 年
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野心レベル引き上げプロセスの三要素
国別目標の更新・強化の際
の情報提供
国別⽬標の
5年サイクル
⻑期低GHG
発展戦略
グローバル・
ストックテイク
• 排出目録・国別目標関連情報の
提出・レビュー
(長期低GHG発展戦略の提出)
強化された
透明性枠組み
(5年毎)
他の情報源
グローバル・ストック
への情報提供
各要素に関し、パリ協定の第⼀回締約国会合(CMA1)での採択を⽬指し交渉開始
→三要素の関連を⼗分に認識した、全体としての制度設計が必要
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パリ協定実施に向けた取り組みの中における
COP22の位置づけ
パリ協定の⽬的達成には、国別⽬標が始まる2020年以降のみなら
ず、より短期や⻑期についての取り組みも促進する必要
• 短期(〜2020年頃)
• 中期(2020年頃〜2030年頃)
• ⻑期(2050年、それ以降)
COP22でどのような成果があったか?
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3. 短期的⾏動に関する成果
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2020年以前の⾏動強化
COP22決定における該当項⽬
• 京都議定書第⼆約束期間(ドーハ改定)の早期発効を要請
 現在、72カ国が批准(発効に必要な数は144カ国)
• ICAO(国際⺠間航空機関)決議、モントリオール議定書キガリ改定
書に留意
 ICAO:国際⺠間航空のためのカーボンオフセット及び削減スキーム
 キガリ改定書:HFC⽣産・消費の段階的削減
• グローバル気候⾏動マラケシュ・パートナーシップを歓迎
 さらなる⾏動を引き起こすための国家政府と⾮国家主体(地⽅政府、企
業、NGO)との協働を促進
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2020年以前の⾏動強化
その他
• 新たな資⾦誓約




能⼒開発⽀援へ$5000万 (豪、加、独)
技術移転へ$2300万
適応基⾦へ$8000万以上 (独)
先進国は2020年までに年間 $1000億動員⽬標を再確認
• 「気候脆弱性フォーラム」参加48カ国による声明





早期の再⽣可能エネルギー100%の達成
⻑期低GHG排出開発戦略を2020年までの策定
2020年より前に国別⽬標を更新
モントリオール議定書キガリ改定書の実施、ICAO⾃主的取り組みへの参加
ただし、上記取り組みには⽀援が前提
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2020年以前の⾏動強化:まとめ
• 脆弱国から⾃発的、積極的な⾏動強化(国別
⽬標の2020年前引き上げ)の動きが⾒られる
• ⼤排出国へのプレッシャーになるかは未知数
• ⾏動強化への実質的な動きは、交渉の場から、
幅広いステークホルダーとの協働を通したも
のへ
→さらなる強化、促進が必要
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4. 中期的⾏動に関する成果
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パリ協定の詳細ルール策定の作業プロセス(全体)
• COPに対し、パリ協定の作業計画の実施を引き続き監督し、
CMA1.3(2018年COP24と同時開催)での検討・採択を⽬指して、
その作業を加速することを要請。
• 2017年にCOP・CMAの合同会合を開催し、実施細則の策定作業の
進捗状況を確認
交渉期限の明確化
(パリ協定の未批准国を含む)すべての国に開かれたプロセスとな
る
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パリ協定詳細ルール策定に向けた作業
パリ協定準備作業部会
実施に関する作業部会
科学上及び技術上の助⾔に
関する補助機関
その他(適応委員会等)
国別約束の特徴に関するさら
なるガイダンス
国別約束を記録する公開登録簿 協定6条2に規定する国際的に
途上国の適応努⼒を承認する⽅
の運営と利⽤に関する⽅法及び 移転される緩和成果の使⽤を伴
法の作成
⼿続き
う協⼒アプローチのガイダンス
国別約束について提出される
べき情報に関するガイダンス
協定6条4に規定する削減を⽀
枠組条約に基づく適応関連の制
技術メカニズムに与えられる⽀
援し持続可能な発展を促進する 度的措置のレビュー及び適応
援の有効性と⼗分性についての
メカニズムの規則、⽅法及び⼿ ニーズ評価のための⽅法論の勧
定期的評価の範囲と⽅法
続き
告
国別約束の計上に関するガイ
ダンス
⾮市場アプローチの枠組みに基 適応⽀援資⾦の動員を容易化に
能⼒開発に関するパリ委員会の
づく作業計画に関するCMA決
必要な措置、及び⽀援の⼗分
権限事項の作成
定草案の作成
性・有効性のレビューの⽅法論
透明性枠組みの⽅法、⼿続、
指針に関する勧告と、最初の
及びその後の⾒直し年の決定
公的関与を通じて提供・動員さ
れる資⾦の計上⽅法
グローバルストックテイクへ
の情報源の特定
IPCCの評価をいかにグローバ
ルストックテイクの指針としう
るかの助⾔
グローバルストックテイクの
⽅法の作成と勧告
遵守促進委員会の効果的運営
の⽅法及び⼿続き
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パリ協定詳細ルール策定に向けた作業
• パリ協定実施に関する問題でまだ議論されていない項⽬、特に議論す
る場が特定されていないもの
交渉中に挙がった項⽬例
国別約束の共通の時間枠の検討
資⾦メカニズムの実施主体へのCMAガイダンス
国別約束の引き上げのための調整に関するガイ
ダンス
後発発展途上国基⾦、特別気候変動基⾦に対する
CMAガイダンス
対応措置実施の影響に関するフォーラムのパリ
協定への貢献に向けた⼿続き
新たな定量的な資⾦⽬標の設定に向けたプロセス
途上国の適応努⼒を承認する⽅法
教育、訓練、公衆の認識向上に関するCMAガイダ
ンス
追加的に検討が必要となりうる事項についての検討を継続へ
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パリ協定の下での適応基⾦の役割
• 背景
 緑の気候基⾦(GCF)での⼩規模案件への対応に対する途上国の不満
 パリ会議にて、パリ協定準備作業部会(APA)に対し、(京都議定書の
下設置された)適応基⾦がパリ協定に貢献するかどうかについての「必
要な準備作業」を実施するよう要請(決定 1/CMP.11 para9)
→「必要な準備作業」の解釈に相違
 途上国:「適応基⾦がパリ協定に貢献する」との⼿続き的な決定
 先進国:「適応基⾦がパリ協定に貢献するかどうか」についての検討作業
 ガバナンス、組織的アレンジメント、セーフガード、運⽤体制について
の決定に基づき、適応基⾦がパリ協定に貢献することに
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パリ協定実施に向けた合意事項:2018年促進的対話
• パリ協定の⻑期⽬標に向けた全体の進捗評価
 「野⼼引き上げプロセス」の重要要素であるグローバルストックテイク
の前⾝としての位置づけ
 各国が2020年に国別約束を提出・更新する際の参考となる
• 当初、交渉議題とならず
⼩島嶼諸国連合(AOSIS)等から検討を求める意⾒
環境NGOからも検討を求める意⾒
COP議⻑・次期COP議⻑が協⼒し、2018年促進的対話のモダリ
ティについて、締約国との包摂的で透明性のある協議を補助機関会
合(2017年5⽉)及びCOP23(2017年11⽉)で実施し、COP23で
報告
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中期的⾏動の強化に向けたCOP22の成果
• ⼿続きの議論にとどまり、具体的内容には踏み込めず
• 2018年が次の⼭場へ
 パリ協定のルール採択の期限
 野⼼引き上げプロセスの制度設計が決まることに
 交渉の難航も
 2018年促進的対話
 2020年以降の国別約束の5年サイクルの先例
 ただし、各国政府がどの程度準備が整うかは不明
 研究機関の役割の重要性
 各国の取り組み状況に対する測定・評価する⽅法論、指標づくり
 補完的情報提供を⽬指す
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5. ⻑期的⾏動に関する成果
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長期戦略
• ⻑期気温⽬標を念頭に、⻑期低GHG排出発展戦略(⻑期戦略)を
2020年までに策定、提出することを求める(パリ協定4条19項、COP21決定パラ
35,36)
• G7各国は2020年の期限に⼗分に先⽴って⻑期戦略を策定・提出す
ることにコミット(G7伊勢志摩サミット⾸脳宣⾔)
日本もこの夏に長期ビジョンの検討開始
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長期戦略の役割と重要性
⻑期戦略の重要性
• ⻑期的な視点から費⽤対効果の
⾼い短期・中期の政策を⽴案・
実施していくことが可能に
• ⻑期的展望を⽰すことで、⺠間
企業や投資家による脱炭素化に
向けた⻑期的視点を伴う経営判
断、投資を促す
最終目的地: 脱炭素化
道筋
設定
踏み⽯: NDCs ⻑期戦略
• 国別⽬標の5年サイクルにおいて
何が「前進的」なのかを明確化
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各国の長期戦略の策定状況
• 4カ国がCOP22中にUNFCCC事務局に提出
 ドイツ:1990年⽐80〜95%削減
 ⽶国:2005年⽐80%削減
 カナダ:2005年⽐80%削減
 メキシコ:2000年⽐50%削減
• フランス、英国、中国等でも準備が進む
• 「2050パスウェイ・プラットフォーム」の発⾜:22ヶ国、15都市、17
州・地域、196企業が参加
→相互学習の場へ
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各国の長期戦略の策定状況
• いくつかの特徴
 国家の発展戦略、経済成⻑戦略としての位置づけ
 パリ協定によって世界が⽬指す未来の中で⾃国がどうありたいか
(want)、どうあるべきか(should)、またどう実現できるのか
(can)を発信していく積極性
 シナリオ分析の実施と国⺠的対話の実施(後者は独、仏、英)
 ⻑期的に導⼊すべき優先的な政策措置を提⽰
 技術発展・普及など、現実の変化に合わせて、⻑期戦略を定期的
に⾒直すことを前提
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⻑期戦略策定に向けた提⾔
基本的な考え⽅
• 「今の産業構造や社会システムを前提として何ができるか」という発想ではな
く、「今世紀後半までにどのような社会を構築すべきか」という発想で策定す
ることが必要
提⾔
• 「気候変動は社会への脅威であり、対応が不可避である」ことのメッセージの
発信
• 複数の選択肢の提⽰と多様なステークホルダーの関与による共通意識の醸成
• 脱炭素社会の実現に向けた炭素価格付けの活⽤
• ⺠間セクターの潜在⼒の具現化
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ご清聴ありがとうございました
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