COP21の成果: パリ協定の概要と今後の課題

COP21の成果:
パリ協定の概要と今後の課題
田村 堅太郎
気候変動とエネルギー領域 エリアリーダー
関西研究センター 副所長
地球環境戦略研究機関(IGES)
COP21速報セミナー:地球温暖化対策の今後の展望
主催:神奈川県、公益財団法人地球環境戦略研究機関
2016 年1月13日(水)
COP21の成果:概要
パリ協定=国際条約(法的文書)
前文、定義(1条)、目的(2条)
緩和(4条)
吸収源(5条)、市場メカニズム等(6条)
適応(7条)
損失と被害(8条)
資金(9条)
技術(10条)
能力開発(11条)、教育(12条)
行動と支援の透明性(13条)
グローバル・ストックテイク(14条)
促進・遵守(15条)
組織的・手続き的事項(16~21条)
締約国会議(COP)決定
(法的拘束力なし)
パリ協定の採択
約束草案
合意の発効、実施に向けた諸決定
2020年までの行動強化
非政府主体
行政的・予算的事項
• 全員参加型
 各国の能力に応じた貢献
 先進国の率先的行動を求めるも、先
進国・途上国の二分法は希薄化
• 包括的枠組み
 緩和、適応、資金、技術、能力構築、
透明性をバランスよく包含
• 長期目標と段階的強化の組み合わせ
 化石燃料脱却に向けたシグナル
パリ協定の目的
三つの目的
 地球の気温上昇を産業革命前に比べ「2℃よりも
十分低く」抑え、さらには「1.5℃未満に抑えるため
の努力を追求する」
 気候変動の悪影響に対する適応能力及び耐性
の強化、温室効果ガス (GHG) 低排出発展の促
進
 低GHG排出(低炭素)で気候耐性のある発展と
整合性のある資金フローの確立
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緩和(排出削減・吸収源拡大): (1)
対立点
• 先進国と途上国との間にどのような差異を設けるか?
• 段階的な国別目標引き上げメカニズムの是非
パリ協定の内容
• 長期目標(気温目標(2℃/1.5℃)と今世紀後半に人為的な
GHG排出量と吸収量の均衡を達成)
• 原則、全ての国が「自らが定める貢献」(国別目標)を準備、
提出、維持すること、及び目標達成に向けた国内措置の追求
が義務付けられる
• 先進国は総量削減目標を定め、途上国も将来的に同様の目
標を持つことが奨励
• 継続的、段階的な国別目標引き上げメカニズム
• 各国は長期的な低排出発展戦略の策定・提出
脱化石燃料に向けた、市場への長期的シグナル
緩和(2):段階的な対策強化メカニズム
2020
2018
2025年目標の
国(米国等)
2030年目標の
国(日本等)
2030年目
標の提出
2030年目標
の提出・更新
(update)
全体の削減量評価・
進捗確認
2025
次期目標
の提出
次期目標
の提出
グローバル・
ストックテイク
(2023)
促進的
対話
(2018)
2030
2035
次期目標
の提出
次期目標
の提出
次期目標
の提出
次期目標
の提出
グローバル・
ストックテイク
(2028)
すべての 気温目標を念頭にした
長期低排出発展戦略
締約国
2020年までに策定・提出
真価を問われるのはこれから!
グローバル・
ストックテイク
(2033)
緩和(3)市場メカニズム及びその他
背景
• 世界全体でみて、費用対効果の高い削減手法の必要性
対立点
• 市場メカニズム自体への反発(反資本主義国の存在(ボリビア等))
• 市場メカニズムの運用方法(分散型か国連管理型か)
パリ協定の内容
• 市場メカニズムという名称は使われず
• 二つの仕組み=分散型と国連管理型の併存へ
 協調アプローチ:自主的かつ参加国主体の仕組み
 緩和と持続可能な開発メカニズム:パリ協定締約国会議が管
理・実施
• 二国間クレジット制度(JCM)は協調アプローチの中に位置づけられる
• ダブルカウント回避等のガイダンスやルール・手続き細則は今後の検
討課題
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適応策(1)
背景
• 温暖化による悪影響が顕在化
• 適応策の遅れ(特に途上国)
対立点:グローバル目標を設置するか否か?
中南米諸国(コロンビア、ペルー等)、
小島嶼国、後発発展途上国
• 国内対策を進める上
での必要性
• 支援への期待
VS
先進国
• 支援とリンクされるこ
とへの懸念
• ローカルな課題として
の位置づけ
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適応策(2)
パリ協定の内容
• 適応のグローバル目標の設定
 持続可能な発展の達成
 気温目標の下での適応能力の確保
• すべてのレベル(地方、国家、地域、国際)で直面す
るグローバルな挑戦としての認識
• 適応情報の提出と定期的更新
• グローバル目標が設定されるも、定性的なものとなる
• 他方、今後の取り組み強化への礎となりえる
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「損失と被害」(1)
背景
• 気候変動の悪影響に適応しきれずに発生してしまう
「損失と被害」への注目高まる
• 国連気候変動枠組条約、京都議定書では扱われず
対立点:「損失と被害」をどのように位置づけるか?
先進国
途上国
• 適応とは独立した課題
• 法的責任や補償を求める
• 新メカニズムの設立
VS
• 適応の一部
• 法的責任や補償への反対
 政治的理由
 科学的理由
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「損失と被害」(2)
パリ協定の内容
• 「損失と被害」を独立した問題として認識し、この
問題に対応するための国際的仕組みを整えてい
くことに
• パリ協定における「損失と被害」条項(8条)の規定
は、法的責任、補償の根拠とはならないことに同
意
• 「損失と被害」が国際条約の中で規定されることに。
• ただし、具体的な対応策については今後の検討課題
• 法的責任、補償は議論の対象外へ
=途上国側の譲歩(「1.5℃抑制への努力」を盛り込むこと
とのバーターか?)
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資金(1)
背景
• 気候対策に必要とされる資金と利用可能な額との間の
ギャップ
• 世界経済構造の変化(新興国の台頭)
対立点:誰が、どれだけ 資金供与をおこなうのか?
インド、中国、ベネズエラ等
• 先進国のみが資金供与
の義務を負う
• 公的資金中心
• 具体的な供与額の提示
先進国
VS
• 先進国のみの負担には難色
• 民間資金の重要性
• 具体的な数値目標には難色
• 先進国の率先的役割を前提
に途上国も能力に応じた貢献 中南米諸国(メキシコ、
コロンビア、ペルー等)
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資金(2)
パリ協定の内容
• 先進国の途上国への資金提供を行う義務があらためて
規定される一方、その他の国に対しては提供を奨励
 先進国は、資金動員を率先して行い、その動員規模
は継続的に引き上げられる
• 具体的な数値目標はパリ協定に含まれず、COP決定で
規定
 年間1,000億ドル動員目標を2020年以降も2025年ま
で継続。
 2025年までに年間1,000億ドル以上の新たな全体目
標を設定
「共通だが差異ある責任及び各国の能力」原則の原理主
義的解釈(先進国と途上国の二分論)から離れる
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技術
背景
• 低炭素技術、適応技術の重要性の認識(特に2℃目標達成に
は技術革新が不可欠)
• 技術協力は、枠組条約や京都議定書の下、これまで不十分
対立点
• 知的財産権の扱い(技術普及の障害 vs 技術革新に必要)
パリ協定の内容
• パリ協定で技術革新の重要性を明記し、COP決定では技術メ
カニズムによる研究開発(R&D)や普及への支援強化を決定
• 知的財産権については触れず
技術革新支援と既存技術の普及支援の具体的な取り組み
については今後の検討課題
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グローバル・ストックテイク
• パリ協定の進捗状況を確認するプロセス。
• 国ごとではなく世界全体での削減努力の十分性、適応行動、支援状
況(資金、技術、キャパビル)をチェック。
• 2023年以降、5年毎。
• その結果は、各国の国別目標の更新、強化の際の参考情報となる。
実施・遵守促進メカニズム
• パリ協定の実施・遵守を促進するためのもので、懲罰的な措置を伴う
ものではない
• 委員会の設置。運営細則は第1回パリ協定締約国会議で採択される
べく、検討を開始
透明性を高めることで実施、遵守を促進するというアプローチ
発効要件
• 世界総排出量の55%以上の排出量を占める55カ国以上の締約国が
この協定を締結した日の後30日目の日に効力を生じる。
COP21の成功要因
• 温暖化に関する科学的知見の進展
• 異常な気象現象の頻発による人々の危機感の高まり
• 欧米を中心に、温暖化を「エコ」の問題ではなく、社会
不安につながる問題としてとらえはじめる
• 欧米を中心としたビジネス界や自治体の意欲的な行
動の大きなうねり
• 米国、中国の前向きな姿勢
• EU、小島嶼国、後発途上国に加え、今回は米国も含
め、意欲的取り組みを含む合意の成立を求める大連
合を形成したこと
• 議長国フランスの外交力・采配
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今後の課題
• 交渉上の積み残し課題
 ほぼ全ての項目に関し、実施ルールや指針の作成
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国別目標、その付随情報に関する更なる指針
国別目標登録簿に関するモダリティ・手続き
国別目標のアカウンティングに関する指針
協調的アプローチのアカウンティング指針
緩和・持続可能な開発メカニズムのモダリティ
適応努力の認識方法
適応関連の国際制度の見直し
適応ニーズの評価方法
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資金情報に含めるべく内容の特定
適応基金の取り扱い
動員資金のアカウンティング
技術フレームワークの検討
透明性システムの共通指針
グローバル・ストックテイクで活用する情報源の特定
実施・遵守促進委員会のモダリティ・手続き
 パリ協定作業部会や補助機関等により検討し、第1回パ
リ協定締約国会議での採択を目指す
• 国別目標の引き上げメカニズムが機能するか?
 促進的対話の成果を活かし、2020年までにより踏み込ん
だ2030年目標を打ち出せるか?
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日本の課題
• 2020年に向けた国内準備の加速
 5年毎の目標提出に向けた国内体制の整備
 2030年目標の見直し機会
 ボトムアップ式に「何ができるか」ではなく、バックキャスト的に「何
が必要か」という視点
 気温目標(2℃/1.5℃)を念頭に、低排出発展戦略の策定・提出
 ●年○%削減達成ではなく、累積排出量を如何に減らすかが重要
 第4次環境基本計画の2050年80%削減(閣議決定)
今から経済システム・社会インフラ全体を低炭素なものへ
転換させ始めることが重要
• パリ協定=市場への長期的シグナルの発信
 国内政策措置により、民間企業が中長期にわたる低炭素事業
に安心して投資できるような環境整備
 炭素価格付けの必要性
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ご清聴ありがとうございます
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