2012年度「東京財団週末学校」ポートランド研修レポート 全米でもっとも

自治体名 兵庫県三木市
氏
名 戸 田 誠 之
2012年度「東京財団週末学校」ポートランド研修レポート
全米でもっとも住みやすいまちと言われ、市民参加の先進地とされ
るポートランドを訪れ、地方自治に携わるものとして大きな背骨を得
ることができました。
当初、私はこの渡米プログラムに参加するつもりがありませんでし
た。理由は、アメリカとは国の規模や風土、成り立ちや仕組みも違う
ことから、学んだ仕組みや手法を日本で実施することが難しいこと、
また、私自身が自治と向き合って18年間探し続けてきた「行政の本
当の役割は何か」という根本的な問いに対する答えが、当地でも得ら
れないのではないか、という想いがあったからです。
出発の約2か月前、東京でアメリカ特有の州やカウンティ、市など
の行政区割や、コミッショナー制などについてのレクを受けました。
しかし、日本における地域自治区制度を当てはめればこれといって違
いは感じず、仕組みや制度の違いが見つかりませんでした。
では、かぜアメリカにおける住民自治や市民参加は日本よりも進ん
で い る と い う イ メ ー ジ を 抱 い て し ま う の か 、何 に 起 因 す る も の な の か 、
その部分の答えを感じることが出来れば、私が探している「行政の本
当の役割」が見えるように思いました。
私がポートランド研修において、確認した仮説は次の5つ。
① 行 政 の 仕 組 み に 違 い は な い の で は な い か 。( 再 確 認 )
②自治に対する住民意識が日本よりも高いのではないか。
③住民の自治組織が日本よりも活発に活動しているのはないか。
④職員のやる気や能力が日本よりも高いのではないか。
⑤日本よりも行政が住民から信頼されているのではないか。
多くのケーススタディー、サイトビジットを通して、住民や自治組
織、キーマンに直接質問する機会を得ることができたため、それぞれ
の仮説をクリアにしていくのは難しいことではありませんでした。
もちろん、途中、思考の迷路に入った時もありましたが、現地での
ファシリテーターがサポートしてくださいました。現地に足を運んで
いなければ、おそらく私は一生「行政の本当の役割」の答えを見つけ
出せていなかったのではないかと思いっています。
結果として私が得た結論は次のとおりです。
①行政の仕組みに大きな違いはない。ただし監査の力が強い。また
自治体名 兵庫県三木市
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名 戸 田 誠 之
市民による監査、外部監査の義務付けなどガバナンスが行政内部
よりも外部の方にあります。
②自治に対する住民意識の違いは特にない。日本と同様に高い地域
もあれば低い地域もあり、高い人もいれば低い人もいます。相対
的に行政への関心度は低く、行政側が住民の参加を得るのに苦労
しています。
③自治に対する住民組織についても日本でいう自治会や地域協議会
のような組織が存在する程度で特筆すべき違いは感じません。ち
なみに日本の自治会のような組織へは、不動産所有者に参加でき
る権利があり、どちらかというと日本よりも制限的です。議論も
日本と同様、白熱する時もあれば、平静な時もあります。
④職員のモチベーションについても同じ。モチベーションの高い職
員が低い職員をいかに巻き込むのかに苦慮しています。
しかし、大きな違いはスキル面。採用は、各所属ごとに行なわ
れ、日本のような数年経てば部署が変わりスキルがリセットされ
るような人事異動が基本的にないことから、その分野での専門性
が非常に高くなります。
⑤行政は住民から信頼されていません。行政もそれを強く自覚して
いますし、まちづくりのリーダー達も行政を頼らず自分達のまち
は自分達でつくると明言していたのが印象的でした。
全般的には日本と変わりがありません。しかし仮説をクリアにして
いく過程で決定的に違う部分があることに気が付きました。それは職
員が、市民がガバナーであるということを理解していて、さらにその
ガバナーへのアプローチをどのようにするのかを強く意識し、その方
法を深く考えていることです。
つまり、ポートランドの職員が重要視している行政の役割は「住民
がガバナンスできる自治を創りだすこと」と「住民の合意をつくりだ
すこと」だと感じました。
日本では、行政から市民へ提供する直接的なサービスが多い。住民
による自治を創りだす仕事よりも、市民に直接的にサービスを提供す
る仕事がメインとなっています。市民をお客様として扱い、より多く
のサービスを行政側だけで企画立案し提供する、という状況になって
しまっているように思います。
結果的に、サービスの中には住民にとって必要性の薄いもの、効果
自治体名 兵庫県三木市
氏
名 戸 田 誠 之
の低いものが山のように存在してしまうことになり、事業仕分けのよ
うなシステムで市民にガバナンスしてもらいながら事業のスクラップ
をすることが必要になっているように思います。
しかし、本来、市民は主権者で、まちのオーナーなのであり、サー
ビス内容そのものを決めるべき存在です。ポートランド市が全米一住
みやすい町とされるのは、もちろんその歴史的背景や立地、経済規模
であったりとする面も大きいのかもしれません。しかし私は、まちづ
くりの底流にある「つねに市民がガバナンスできる自治を行おうとし
ている」ことが、住みやすいまちを実現する柱となっていると強く感
じています。
今、ポートランドでは、水道にフッ素を入れるかどうかの議論がな
されています。市長が自らツイッターを活用し広く意見を募っていま
す。世界中の人がツイートでき、その議論を市民が見ることができま
す。最終的に市民がその事について決定する。ガバナンスが市民にあ
る状態を保つ工夫をしています。市民が、ガバナーとなっています。
私達の公務員の役割は、いかに市民がガバナーとなるような仕組み
を創りだし、それを維持するのか。そしてガバナーたちの合意をいか
につくりだせるのか、だと確信する視察となりました。
私が今後、公務員として自治に携わっていくための背骨ができた視
察となり、本当に参加して良かったと思っています。