第2部 Ⅴ 診断

Ⅴ 診
断
1. 診断基準
下表参照
2. 発達検査
精神科医が使う診断基準として、DSM−Ⅳとギルバーグ
によるものを下に例示しておきます。診断は、基準の各項目
に当てはまるかどうかを観察して行います。
診断に使う検査として、まず発達検査をします。
か い り
● WISC−Ⅲ
言語性では
数唱>理解、類似
動作性では
積木模様、組合せ>絵画配列
WISC−Ⅲでは、言語性IQと動作性IQに乖離があっ
たりしますが、その表れ方は子どもによって違うし、乖離
がない場合もあります。それよりも下位検査に注目します。
「数唱」が非常に高く 、逆に「理解」や「類似」が低い。「積木
模様」や「組合せ」は、パパッとする。速くてうまい。ところ
が「絵画配列」という絵でできたストーリーの組み立ては弱
い。いわゆる全体的なイメージをとらえて、物事をやってい
くということに対しては弱いのです。
● グッドイナフ人物画知能検査
グッドイナフ人物画知能検査は 、人の全身の絵を描く検査
です。人物認知が弱く、ボディイメージをうまく獲得してい
ないことが多く、WISC−Ⅲとの結果に比べて低く出るこ
とが多いようです。
3. 脳画像検査
● MRI検査
磁気共鳴により、脳の構造を詳細に
知ることのできる検査
脳の直接的な画像検査も行います 。しかし、一般的な検査
では大きな異常が見られないことが多いです。
MRI検査では、小脳の形成は小さいが全体の脳の容積は
大きいと一般的には言われています。
診断基準
DSM−Ⅳによるアスペルガー障害の診断基準
ギルバーグ&ギルバーグによる診断基準
(アメリカ精神医学会 1994)
(1989 )
人 との関 わり方 に、質的 に欠陥 があり 、次のうち少なくとも 2項目に 現れる
人 との関 わり 方を 調整す る、 視線の 接触 、表情 、姿 勢、 身ぶりなど、 多様
な 非言語的表現 を用いることが 著しく 欠けている
2 発達レベルに 相応した 友人関係を作 り上げることができない
3 楽しみ 、興味 、できたことなどをほかの人と 自然に 共有しようとしない
( 例: 興味をもったものを他人 に見せたり、もってきたり 、指 さしたりしない)
4 人と社会的・ 感情的なやり取 りを交 わす関係 に欠け る
1 .社会性の欠 如(極端 な自己中心性 )
(次 のうち少 なくとも 2つ )
a 友達と相 互に関 わる能 力に欠け る
b 友達 と相互 に関わろうとする意欲 に欠ける
c 社会的シグナル の理解 に欠ける
d 社会的・感情的に 適切さを 欠く行 動
A
1
B
狭く 限られた反復的 ・固定的な 行動・ 興味 ・活動 のパターンがあり、次 のう
ち少 なくとも1項 目に現れ る
1 一 つまたはいくつかの固 定し た狭い 範囲 に没頭 する 形で 何かに 興味をもち 、
そ の熱中度、または興味 の対象 が普通 ではない
2 明 らかに 柔軟性を 欠いた 、あ る一定 の有用性のない 生活上の決 まりや 儀式
的行動へ の固執
3 いつも決 まった形 で繰り 返される習癖的 な身体 の動 き( 例:手 をパタパタ
させたり 指をひねる、全 身の複 雑な動 き)
4 ものの 一部、 またはもの自体 に、いつまでも 没頭す る
C
その 行動 の偏りのため、そ の人 の活 動する 社会的・職業的 ・その 他重要 な領
域で 、臨床的に問 題となるまでの 支障が 生じている
D
言 語には 、臨床的に問題 となるまでの 全般的遅 れはない(例 :2歳までに単
語を 話したり、3 歳までに 意思を 伝える 語句を用 いる)
E
認知発達 に、つまり 年齢相応の 身辺処理技能や 、適応的行動(人 との関 わり
を除 き)、 また 小児期の 周囲 に対 す る興 味のもち 方に 、臨床的 に問 題となるま
での 遅れはない
F
そ の他の 広汎性発達障害 や精神分裂病 の基準に は、当 てはまらない
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2 .興味 ・関心 の狭さ (次のうち少 なくとも 1 つ)
a ほかの活 動を受 けつけない
b 固執 を繰り 返す
c 固定的で 無目的 な傾向
3.反復的な 決まり
(次のうち少なくとも 1 つ)
a 自分に対 して、 生活上 で
b 他人 に対し て
4 .話し 言葉と 言語の特 質
( 次のうち 少なくとも 3 つ)
a 発達の遅 れ
b 表面的にはよく熟 達した表出言語
c 形式的で 、細かなことにこだわる言語表現
d 韻律 の奇妙 さ、独 特な声の 調子
e 表面的・ 暗示的 な意 味の取 り違えなどの理解 の悪 さ
5 .非言語コミュニケーション の問題
( 次のうち 少なくとも1 つ)
a 身ぶりの 使用が 少ない
b 身体言語 (ボディランゲージ)のぎこちなさ/ 粗雑 さ
c 表情が乏 しい
d 表現 が適切 でない
e 視線が奇 妙、よそよそしい
6 .運動 の無器用さ
神経発達の検査成績が 低い
何か課題を与えたときに脳のどこの部分を使っているのか
● PET検査
放射性同位元素を利用して脳の血流
や代謝を測定し、脳の活性化の状態
を測定する検査
を調べるのがPETという検査です。サリーとアン課題のよ
うなものをさせたときに、健常の子どもとアスペルガー症候
群の子どもでは、活動している場所が違うということが分か
ってきました。健常の子どもは左ブロードマンの第8領域の
ところ(側頭葉、頭頂葉のあたり)、アスペルガー症候群の
場合 、近い場所ではあるけれども第9 、10領域のあたりで
活動しているのです。第8領域のところが活動できないので
代償していると考えられています。そんなことが研究の段階
ですが、分かってきています。
測定時に何か課題を与えて、それを考えているのがどこか
● f-MRI検査
を調べるという使い方をするのが、f− MRI検査です。
磁気共鳴を利用して、課題による脳
の血流の変化を測定できる検査
人は、脳の扁桃体というところで顔の表情などを認知して
いるんですが、自閉的な子どもは、怒っている顔、笑ってる
顔、泣いている顔の絵や写真を見せても 、扁桃体の活性が乏
しいということが分かってきました。
だから顔の表情を認知することが
表情を読み取る練習
「うれしいときにはこんな表情ということを覚えましょ
う。」「今、あなたはどんな感じ?先生はこんな感じだよ。
」
と言って表情のマークを指さしたりして、やり取りします。
相手や自分の“感情や表情を伝える”ということを分
からせるのです。
1
2
3
4
非常に苦手なんだというようなこと
が分かってきました。
5
脳波で分かる?
学校の先生やお母さんに「脳波を撮ってください」とよく言われるんですが…
自閉症のお子さんで非常に多動だったりすると脳波を撮るのが大変なんです。わざわざ前の晩は寝
かさずに、眠らせるシロップを大変な思いをして飲ませて、やっと検査をして、その後すごく不機嫌にな
ってパニックになって、数日、大変な思いをされることがあります。
脳波から得られる情報なんてほとんど
ないんですよ。いわゆるてんかんがあるのか
ないのかということぐらいしか分からないんで
す。自閉症、アスペルガー症候群のお子さん
の1/5くらいが、てんかんを起こすことはありま
事象関連電位
認知や注意の障害を診るため 、脳波の中の特殊な
検査として行われることがあります。奈良医大の
精神科では、ADHD の診断に利用しています 。
す。小さいときからではなくて思春期頃から発症することも多いようです。 脳波を撮っておこうということ
になるけれど、実際にてんかんが起きてからでもいいんです。 別に起こさなかったら、そのままでいい
し、起こったら、脳波を診てお薬を飲みましょうということなんですね。
脳 波 を診て分かるのはそのことくらいで、脳 波で知的 レベルが 分かるとか、発達水準が分かるとか
そんなことはぜんぜんないわけです。
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