みんなの教室 みんなの授業

12
9
みんなの教室
みんなの授業
6
教育のユニバーサルデザイン化
12
9
3
6
みんなの教室
みんなの授業
教育のユニバーサルデザイン化
Itami
inclusive
education
伊丹市教育委員会
3
system
発刊にあたって
特別支援教育が平成19年度に本格的にはじまり、7年が経過する中で、学校園では推進体制
や教職員・保護者への理解が徐々に進んでまいりました。そのような中、平成26年1月20日、日
本が「障害者の権利に関する条約」に批准し、平成28年4月には、
「障害を理由とする差別の解
消の推進に関する法律」が施行されることとなっており、共生社会の形成に向けて、インクルーシ
ブ教育システムの構築が急務となっております。
本市においては、平成20年3月に基本方針「今後の特別支援教育のあり方について」を策定
し、平成25年4月には、基本方針を見直した改訂版基本方針を策定し、本市における特別支援
教育の推進、充実を図っているところです。
また、平成25年度から3年間、文部科学省の「インクルーシブ教育システム構築モデル事業」
の委託を受け、各校園おける研修の実施などを通して、全教職員の資質向上を図るともに、基本
方針の実施状況に係る調査や保護者用啓発リーフレットを用いての啓発等に努めてきたところで
す。
この度、教育のユニバーサルデザイン化を推進するにあたって、各学校園の実践事例等を紹介
した教職員用指導資料「みんなの教室みんなの授業」を作成しました。
各学校園において、この教職員用指導資料を有効に活用していただき、一人一人の子どもへの
指導支援が一層充実し、すべての子どもが生き生きと活躍できる社会の実現に向けた取組が進
められることを期待しています。
平成27年4月 伊丹市教育長 木下 誠
目 次
はじめに
この本の使い方、チェックシート
Ⅰ 学級づくり
1 教室の環境を整えよう………………………………………………………………………………1
・黒板周りの掲示について ・予定表やスケジュール表 ・急な予定変更の伝え方
・整理整頓 ・座席配置
2 学習や生活のきまり……………………………………………………………………………… 13
・学習活動のきまり ・学級生活の決まり ・子どもの身のまわりの整頓
3 関係づくり………………………………………………………………………………………… 19
・児童生徒の実態把握 ・話し合いの場の提供
・コミュニケーションやマナーの指導 ・相談と指導
Ⅱ 授業づくり
1 授業の構成………………………………………………………………………………………… 29
・準備の指導 ・学習への見通し ・導入の工夫 ・課題設定の工夫
・展開の工夫 ・学習形態の工夫 ・授業構成の工夫
・満足感、達成感を味わわせる工夫
2 教師の話し方、発問や指示… …………………………………………………………………… 43
・話しかけ ・支援の仕方の工夫 ・興味を引く工夫 ・発問や指示の工夫
・子どもの五感に働きかける工夫
3 板書、ノートやファイル…………………………………………………………………………… 49
・どこからでも見やすい板書の工夫 ・ポイントがわかる授業の工夫
・板書の仕方の工夫 ・板書計画の工夫 ・ノート、ファイルの活用の仕方の指導
4 教材、教具………………………………………………………………………………………… 53
・わかりやすい教材、教具 ・プリントの工夫
Ⅲ 就学前の取組
1 保 育…………………………………………………………………………………………… 59
・製作活動 ・歌 ・表現遊び ・運動・運動遊び
・日常生活の動作 ・教師の話し方・発問や指示
2 保育室の環境を整えよう… ……………………………………………………………………… 73
・保育室環境の整備 ・予定表やスケジュール表
3 関係作り…………………………………………………………………………………………… 75
・安定した気持ちで過ごす ・いろいろな気持ちを知る
・友だちとかかわる ・行事
執筆者一覧・編集協力者
は じ め に
この本の使い方
伊丹市教育委員会では、教職員用の指導資料として平成26年3月「特別支援教育ハンドブックQ&
この冊子は、
「第Ⅰ章 学級づくり」、
「第Ⅱ章 授業づくり」、
「第Ⅲ章 就学前の取組」の3つの章
A」を作成しました。ハンドブックでは、インクルーシブ教育システムの構築に向けた理論推進を図るた
からなっています。第Ⅰ章、第Ⅱ章は主に小中高等学校の先生方に、第Ⅲ章は幼稚園・こども園の先生
め、実践編、理論編、資料編、コラムで構成しています。内容をまとめるにあたっては、伊丹市に関わって
方に活用していただきたい内容としました。しかし、幼小中高のスムーズな接続や連携の観点からも、
くださる専門家や市内の多くの先生方に執筆をいただき、多方面の情報や状況をできるだけ盛り込み、
校種にとらわれず広く目を通していただき、それぞれの発達段階で必要な配慮や手だての参考にしてい
「すぐに役立つハンドブック」となるよう編集したところです。
ただきたいと考えています。
インクルーシブ教育システムは、各学校園の多様な実践や情報が集約されながらボトムアップし、現
場から創りあげていく教育システムです。新たな概念と言われる「合理的配慮」も、その子に応じた個別
本書は、授業づくりや学級づくりについて、すべての子どもが伸びることができる、そしてそれぞれの
化される理にかなった配慮であり、特別支援教育の理念の「教育的ニーズ」がより一層具現化されなけ
子どもにとって充実した学びを実現するために必要な環境整備や配慮を、ユニバーサルデザインの観
ればなりません。前述のハンドブックを編集していく中で、伊丹市内には、特別支援教育の視点を取り
点で取り上げました。支援の必要な子どもにとって分かりやすい、または過ごしやすい支援や工夫は、ク
入れた、どの子も落ち着ける学級経営、どの子にも分かりやすい授業づくりを実践されている多くの先
ラスの中でちょっと困っている、何かしらの苦手意識のある子どもたちにとっても有効な手立てである
生方がおられ、
「困った子」ではなく「困っている子」として指導されている豊富な経験が蓄積されてい
ことが、多くの研究や実践から明らかになっています。
ることがわかりました。これはまさにユニバーサルデザインの考え方を取り入れた教育システムです。ユ
ニバーサルデザインの考え方は、
「すべての子どもにとって、参加しやすい学級をつくり、分かりやすい
授業をする」という発想であり、これは既に、どの学級においても展開されてきた考え方です。特別な支
各項目は次のような構成になっています。
援を要する子どもに配慮した学級づくり、授業づくりの取組は、すべての子どもにとってわかりやすく、
<意 義>
子どもが主体的に学習し、相互理解を深めることのできるユニバーサルデザインの学級、授業に結び
ついていくことが明らかになってきました。
そこで、本書では、ユニバーサルデザインの視点から、
「学級づくり」と「授業づくり」、そして「就学
前の取組」の大きく三つの章を設け、各学校園での先生方の日頃の具体的な事例を紹介した指導資料
として編集していくこととしました。
各項目の意義、取組、ポイントにより概略を説明し、項目に応じて各先生方の実践を紹介していま
す。実践文では、各先生方より寄稿いただいた具体的な記述をほぼ忠実に掲載していますので、項目に
よっては実践内容の一部が重複していることもあります。また、可能な限り画像・図表などを併記してい
ます。
どの取組においても、大切なことは、子どもや学級の実態の正しい把握から始まり、どのように具体
的内容を考え、何のために行い、どのような効果や成果があったかを常にPDCAサイクルで検証してい
くことが大切です。
本書をユニバーサルデザインの視点を取り入れた学級づくり、授業づくりとしての指導資料とするに
は、まだまだ内容を吟味し、さらに実践例を取り入れていくことが必要ですが、本書が指導の一助とな
れば幸いです。
ユニバーサルデザインの観点で、なぜその取組が必要なのか、またその取組をすることによってもた
らされる成果についてまとめました。
<取 組>
それぞれの項目について、一般的に行われている取組やその考え方、具体的な工夫について整理して
います。また、実際にその取組を実践するうえで必要な配慮事項についても触れています。
<ポイント>
<取組>で紹介した内容を実際に行う上でポイントになることや、より個に応じた取組の工夫などを
まとめました。
<実践事例>
取り上げた項目について、実際に伊丹市内の学校で行われている実践を紹介しています。校種や教科
によって取り組み方は異なりますが、実際に行われている取組の中に、様々な工夫やヒントが込められ
ています。ぜひ、参考にしてください。
<チェックシート>
次ページに、ユニバーサルデザインの観点での授業づくり・学級づくりのポイントを一覧表にした
チェックリストを掲載しています。自身の普段の取組を振り返り、ユニバーサルデザイン化度をチェック
伊丹市特別支援連携協議会WG 座長 橋詰和也(伊丹市立伊丹特別支援学校長)
してみましょう。本書は、この一覧表に対応した構成になっています。振り返りの結果をもとに、十分取
り組んでいる項目についてはさらに充実させて自身の「強み」に、取組の不充分な項目については、今後
の課題として取り組んでいけるよう、ぜひ本書を活用してください。
授業づくり・学級づくりのユニバーサルデザイン化 チェックシート
*自分自身の普段の取組をユニバーサルデザイン化度の視点でチェックしてみましょう。
学校【学級づくり】編
1
教 室環 境
を整えよう
学
生
き
習
活
ま
や
の
り
あてはまる
やや
あまりあて あてはまら
あてはまる はまらない ない
子どもが授業に集中しやすいよう、黒板周りの掲示をすっきり
と整えている。
教
師
の
1
子どものよいところをほめ、子どもが自信や意欲を高められる
ようなことばかけをしている。
2
子どもの特性を踏まえた支援や声かけの工夫をしている。
3
子どもの興味を引く話し方や提示の工夫をしている。
4
指示が分かりにくい子どもに、分かりやすく伝わるような工夫を
している。
2
予定表やスケジュール表を提示するようにしている。
話 し方 、
3
予定の変更があるときは、あらかじめ知らせるか、どこがどう変
わったかが分かるように伝えている。
発問や指示
4
子どもが整理整頓をしやすいような工夫や環境整備をしてい
る。
5
子どもの学習意欲を高め効果的に学習できるよう、五感に働き
かける工夫を行っている。
5
子どもの実態に応じて、座席配置の配慮を行っている。
1
どこからでも見やすい板書の工夫をしている。
1
聞き方・話し方など、学習のルールを決めている。
2
授業のポイントがわかる板書の工夫を行っている。
2
学級のルールを決め、子どもに分かりやすく提示している。
3
子どもが理解しやすく、ノートに書き取りやすいように工夫をし
ている。
3
子どもが自分の身の回りの整理整頓ができるよう、具体的な指
導・支援を行っている。
4
板書計画を立て、1時間の授業の流れが分かるような板書を
作っている。
1
個々の子どもの状況や実態を把握するよう努めている。
5
子どもの学習の理解を促すよう、ノートやファイルをを活用して
いる。
2
クラスのことや友だちのことを話し合う時間を設けている。
1
子どもの理解を助ける教材・教具の工夫(ICTの活用、図や
絵、具体物の活用など)をしている。
3
子どもが望ましいコミュニケーションのマナーを身につけられ
るよう指導している。
2
子どもが記入しやすいプリントを作成している。
4
トラブルや問題が起こったとき、カウンセリングマインドで本人
や保護者と話すようにしている。
関 係づくり
学校【授業づくり】編
板書、
ノート や
フ ァイル
教 材、教 具
幼稚園・保育所編
あてはまる
やや
あてはまら 全くあては
あてはまる ない
まらない
1
どんなものを作るのか、子どもがイメージしやすいよう見本や
具体物を示すなどの工夫をしている。
2
作り方の手順を、子どもに分かりやすく伝える工夫をしている。
1
授業の準備をする必要性と準備の仕方について、具体的に指導
している。
2
子どもが見通しを持って授業に参加できるよう、めあてを提示
するとともに学習の流れが分かるようにしている。
3
子どもの発達段階や実態に配慮して道具の使い方を工夫して
いる。
3
子どもの興味・関心を高めるような導入の工夫をしている。
1
子どもが楽しんで歌を歌えるような導入や環境設定の工夫をし
ている。
4
子どもが主体的に学習に取り組めるよう、子どもの実態に合わ
せた課題設定の工夫を行っている。
2
子どもが歌のイメージを持ちやすいよう、絵を示すなどの工夫
をしている。
5
子どもが授業に集中して取り組むことができるよう、展開を工
夫している。
3
歌詞を覚えにくい子どもが歌いやすいような工夫をしている。
6
ペア学習やグループ学習を取り入れるなど、学習形態の工夫を
している。
1
劇遊びでは、全体のイメージが持てるよう紙芝居や絵本を活用
するなど、導入の工夫をしている。
7
学習が効果的に行われるよう、子どもの集中力に配慮して、授
業構成を工夫している。
2
物語や場面の理解の難しい子どもに対して、画像やさし絵、
ペープサートなどを活用して分かりやすい工夫をしている。
8
授業の中で、満足感や達成感を味わわせる工夫、ふりかえりの
活動をしている。
3
子どもが個々に感じたことや思ったことを表現しやすい雰囲気
作りを行っている。
授業の構成
製 作活 動
歌
表 現 遊び
あてはまる
やや
あてはまら 全くあては
あてはまる ない
まらない
運
動
運 動 遊び
日常生 活
の 動 作
教 師 の
話 し方 、
発 問 、指 示
保育室の環
境を整える
1
様々な運動を、遊びや生活の中で取り入れている。
2
運動が苦手な子どもが、苦手意識を持たずに取り組めるよう、
活動や課題の配慮をしている。
3
子どもの発達段階や個々の実態をふまえて、スモールステップ
で取り組めるような工夫をしている。
4
多様な体の動きができるよう、律動やサーキット運動、固定遊
具等での遊びを取り入れている。
1
個々の子どもについて、日常生活の動作の得意、不得意を把握
している。
2
子どもの苦手さに合わせた支援や工夫を行っている。
3
子どもの動線に配慮した教室環境の設定をしている。
4
日々の生活の中に、掃除、水やりなどいろいろな体の使い方が
できるような活動を意図的に取り入れている。
1
話し方や聞き方のルールを決めて、子どもに分かるように伝えて
いる。
2
子どもたちに分かりやすい説明や指示の仕方を心がけてい
る。
3
全体への説明で理解しにくい子どもには、個別に説明するなど
の配慮をしている。
4
必要に応じてことばによる指示や説明だけでなく、絵や画像を
活用し、子どもに伝わりやすいような工夫をしている。
1
子どもが自分の持ち物をどこにどのように片付けたらよいかが
分かるようになっている。
2
毎日使う道具や教材がどこにあるか、またどこに片付けたらよ
いかが、見て分かるようになっている。
3
1日の予定を表やホワイトボードに書くなどして、1日の生活の
流れを子どもが確認できるようにしている。
1
子どもが安心して保育者と信頼関係を築けるよう、子どもの声
に耳を傾けるようにしている。
2
ままごとコーナーや絵本コーナーなど、子どもが落ち着いて過
ごせる場所を作っている。
3
絵本や教材等を活用して、子どもが自分以外の人のいろいろな
気持ちに気づくような取組をしている。
4
子どもが友だちとの関わりを意識して遊ぶ活動を、積極的に取
り入れている。
1
行事や園外保育など、いつもと違う活動をするときは、子どもに
分かりやすい方法を工夫してあらかじめ予定を知らせている。
2
運動会、音楽会、生活発表会では、ふだんの園生活の中で取り
組んでいる内容を発表できるよう工夫している。
3
運動会、音楽会、生活発表会などの練習で、活動の流れが分か
りにくい子どもについては、見て分かる工夫をするなど個別の
配慮をしている。
関 係づくり
行
事
第 1 章
第
1
章
1
学 級 づ くり
学 級 づ くり
教室の環境を整えよう
ア) 意 義
学級の中には目に入る情報量が多いと、どの情報が重要でどこがポイントであるかがわからなくなり授業
に集中できなくなる児童生徒がいます。視覚的な刺激に反応しやすい児童生徒にとっては黒板周辺の掲示物
黒板周りの掲示について
子どもたちの中には、黒板や先生に注目をし、集中して授業を聞くことが苦手な子がいます。
「黒板
学級づくり
1. 黒板周りの掲示について
各校の 実 践 から
に注目しましょう」と言われた直後は注目することができますが、少し時間が経つと周りの掲示物が気
になってしまい、そちらに注意が奪われてしまいます。また、色を敏感に感じてしまう子や、多くの文
字が一斉に飛び込んでくるように感じる子、掲示物の貼り方が気になる子もいます。その子どもたちが、
集中して授業を受けるためにも、できるだけ黒板や黒板の周りには、飾り物や掲示物は控え、きれいに
整理されている方がいいと考えます。
の精選とともに掲示位置の工夫などが有効であり、刺激の低減は学びやすい学習環境づくりにとって非常に
重要な視点です。
① 具体的な取り組みと事例
イ) 取 組
黒板周辺にさまざまな掲示物を貼ることは、学習への集中を妨げる刺激となってしまうことがあります。学
習に集中しやすい環境としては教室の前面の掲示は必要最低限の掲示にとどめ、主な掲示物は廊下側や背
面の掲示板を使うようにすると良いでしょう。黒板には日にち・曜日・今日の時間割を書くくらいにとどめましょ
ウ) ポイント
黒板の周りに掲示や棚がある場合には授業の間だけでも無地のカーテンを掛け視覚的刺激を軽減させる
のも有効的です。
(参考文献 「イラスト版発達障害の子がいるクラスのつくり方 これが基本子どもが困らない35のスキル」 梅
原 厚子 著及び「特別支援教育の視点を取り入れた 校内・教室内の環境づくり」 大阪市教育センター)
黒板の横のスペースは『必ず守ってほしい目標(学級目
標、話し方・聞き方、保健)』や『予定表(時間割、1日
の予定)』
『当番表(掃除、給食)』を掲示するようにして
います。常に子どもたちの意識の中に入れておきたいこ
とを黒板周りに掲示するようにしています。よく、学級
目標の周りに子どもたちの顔を描かせて、掲示すること
があります。子どもによっては、見られている・飛び出て
くると感じてしまうこともあります。掲示物によっては、
このように注意を奪われてしまう結果になるので、でき
るだけシンプルに、且つ大きさや色などを統一する必要
があります。
授業づくり
う。
必要最低限の掲示
カーテンや画用紙で目隠し
学校の配置によっては、前に本棚があったり、教師の
棚が透けていたりすることがあります。その際は、カー
テンや色画用紙などで隠すことにより、目から入る刺激
を軽減することができます。ただし、子どもによっては、カーテンが風に揺れて動くことが気になってし
まう子もいるので、そのクラスに応じた配慮が必要です。
就学前の取組
② 自分らしい黒板周り
黒板周りは、子どもたちが一番目にする場所であり、クラスを表す顔でもあります。集中させるために
できるだけシンプルにした方がいいですが、その中で個性を出していけるような工夫も必要です。
伊丹市立荻野小学校 教諭 松元 朋歌
1
みんなの教室 みんなの授業
みんなの教室 みんなの授業
2
第 1 章
第
1
章
学 級 づ くり
学 級 づ くり
2. 予定表やスケジュール表
ア) 意 義
イ) 取 組
児童生徒が主体的に判断し、意欲をもって行動するためには生活に見通しを持てることが重要です。朝の
会でその日の時間割とその内容・場所を確認したり、運動会や宿泊行事などの学校行事がある際にはカレン
ダーを活用して気持ちを高めたり、準備等の見通しが持てるように配慮しましょう。
ウ) ポイント
言葉だけの指示では取り組むことが苦手であったり、初めて経験する活動に対して不安やとまどいを感じ
たりする児童生徒に対しては、
「いつ」
「どこで」
「何を」
「どのように」するのかを「見える形」で提示するこ
とが有効です。
(参考文献 平成25年度岩手大学教育学部附属学校ユニバーサルデザイン授業実践事例集)
① 予定を伝える
安心して生活できるように
学級づくり
一日の予定表を活用することによって児童生徒が流れを理解し、見通しを持って学校生活を送ることがで
きます。そのことによって、自発的に学習用具を準備する児童生徒が出てきたり、それをみて学級全体が時
間前行動を出来るようになったりするなど、児童生徒が目的をもって積極的に行動する姿勢につながります。
各校の 実 践 から
先の見通しがたたなかったり、ものごとがいつも通りに進まなかったりすると程度の差こそあれ、誰で
も不安になるものです。
予測することの苦手さやこだわり傾向のある子どもたち、失敗体験を繰り返し、自信を失っている子
どもたちは新しい場面に対して不安が強くなりやすい要因を持っています。
何が起きるかわからない状態が不安と混乱の要因になるので、いつどこで何があるのか、いつまで続
くのかということを前もって伝えておくことが大切です。予定がわかっていると周囲の状況が理解しやす
くなり、不安が軽減し落ち着いて過ごせることが多くなります。
見てわかりやすく
予定はことばで伝えるだけでなく文字や絵、画像など視覚的な手がかりを活用することでよりわかり
やすくなります。
いろいろな予定表
授業づくり
目に見えない時間の流れややるべきことを目に見える形で示したものが予定表です。
ア 1ヶ月の予定表(行事)
(画像 1)と 1 週間の予定表(時間割)
(画像 2)
3. 急な予定変更の伝え方
ア) 意 義
学級の中にはいつもと違うことが起こると次に起こる出来事の予測がしにくくなるため強い不安を感じた
り、パニックを起こしてしまったりする児童生徒がいます。特別な行事の練習や時間割に変更がある場合に
は出来るだけ早く変更事項とその理由を伝えることで、児童生徒は次に起こることが予測でき安心して授業
を受けることが出来ます。
イ) 取 組
ウ) ポイント
どうしても急な時間割の変更がある時があります。そのような時には、時間変更が分かった時点で、でき
るだけ早くまず支援対象の児童生徒に時間割の変更があることを伝えてから、全体に伝えるようにします。
また、教師が一方的に予定表を変更するのではなく、支援対象の児童生徒に、正しく説明し理解させ予定表
を変更・修正してもらうことも効果的な場合があります。
ができます。
イ 1 日の予定表(画像3)
朝の会等で、1 日の予定を知らせます。今は何をして、次は何をするのか 1 日の学習や活動の流れ
がわかります。さらに、黒板に掲示した日程を終わるごとに消していけば、 「後、2 時間勉強したら給
食だ。」
「今日は、後、3 時間でおしまいだ。」等、どれくらい頑張ればよいかという見通しが目に見え
る形でわかり安心感につながります。
ウ 登校してからの流れ(画像 4)と給食の流れ(画像5)
特に低学年では、朝の準備や給食の時間の過ごし方等、特定の時間帯の活動を予定表で示すこと
があります。どんなことをどんな順番でやっていくのか手順を示すとわかりやすくなります。特に朝の
準備が手早くできれば、1 日の生活がスムーズにスタートできます。
エ 行事の予定(画像6)
学校には遠足や宿泊行事等、通常とは異なる場所で異なる活動を行う行事がたくさんあります。事
就学前の取組
予定の変更が決まったら出来るだけ早く児童生徒に知らせしましょう。その際、口頭で説明するだけでな
く視覚的にもわかるように、その日の時間割に変更箇所を明確に表示したり、変更した内容を記したプリン
トを配付したりすると効果的です。また遠足などの日が近づいたら出発時刻、到着時刻などの他、目的地の
写真なども記載しておくと安心して取り組むことが出来ます。
「今日は何があるのか」
「○○はいつあるのか」などがわかり、毎日、見通しを持って生活すること
前に「しおり」で予定を伝えていますが、文字だけでは活動内容をイメージしにくい子どもがいます。
その場合には、個別に予定表を用意します。下見の時に画像やビデオを撮っておいて見せたり、予定
表に画像を添付し視覚的にわかりやすく示したりすることで時間の流れややるべきことがより理解しや
すくなります。
(参考文献 平成25年度岩手大学教育学部附属学校ユニバーサルデザイン授業実践事例集)
3
みんなの教室 みんなの授業
みんなの教室 みんなの授業
4
第 1 章
学 級 づ くり
② 急な予定の変更
できるだけ早く明瞭に伝える
いつもの日課が繰り返されている限り落ち着いて学校生活を過ごしている子どもでも予定が変更に
学級づくり
なったり、予期しないことが発生したりすると不安や苦痛を感じ、十分に対応できなくなるということが
よくあります。予定の変更はできるだけ最小限に、できるだけ早く、わかるように伝えることが大切です。
目で見てわかるように伝える
時間割表に示されたその日の流れに「健康診断」や「避難訓練」が加わったり、運動会や音楽会の練
習で時間割や活動場所が変更になったりすることがよくあります。また、授業の開始や終了時刻が変更
になることもあります。変更する場合には、その場所に変更する内容を書き込むようにすると一目でわか
画像 1
画像 2
り効果的です(画像7)。その際には、ことばだけでなく文字や絵や画像等を使い、視覚的に伝えると変
更した内容や新しい事態がより具体的にイメージでき効果的です。
始まりと終わりの予告をする
「○時○分から○○が始まる」
「10,9,8・・・」とカウントダウンして始まりの合図を予告すること
で気持ちの準備ができ、変更場面への対応がしやすくなります(画像8)。また、始まりの予告だけでな
く終わりがいつか、終わった後どうなるかも伝えておくと「ここまで頑張ればいいんだ。」という見通しが
授業づくり
持て、より安心して過ごすことができます。時計やタイマー
(画像9,画像10)等を有効に使うとよいです。
予告していた終わりはきちんと守ることが大切です。どんなに調子がいいからといってだらだらと延長
するのは望ましくありません。
不安をやわらげるように伝える
通常とは異なる場所で異なる活動を行う行事の場面で、急な変更を余儀なくされることがあります。
行事では指示が全体に向けられていることが多いので、再度個別に指示をして確認することが大切です。
画像 3
場合によっては、大きな声で指示するといたずらに子どもを動揺させることがあるので、そばに近づいて
画像 4
小声で指示をするなど穏やかな口調で対処する方がよいです。
変更を受け入れる力を育てる
現実の社会では突発的なことが起こる可能性があり、予定通りに行かないことがたくさんあります。
新しい場面になじみやすくしたり、挑戦しようとする気持ちを育てたりするために不安になったら楽しい
ことをイメージするなど気持ちを切り替え自己コントロールするスキルを身につけさせていくことも大切
就学前の取組
です。
急な予定の変更では、新しい場面への不安を軽減することがポイントなので、変更したことを十分説
明しますが、予定の変更を受け入れることが困難な時は、急がせずに落ち着くまで待つのがよいでしょ
う。激励や無理強いなどではうまくいかないことがあります。失敗を受け入れる、無理をしないことが大
切です。
画像 5
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みんなの教室 みんなの授業
画像 6
みんなの教室 みんなの授業
6
第 1 章
学 級 づ くり
各校の 実 践 から
教室の環境を整えよう
わかりやすい予定表
学級づくり
子どもたちは、毎日様々な活動に取り組んでいます。学習時間、休み時間、給食時間、清掃時間と、
時間で細かく区切られています。
「もうちょっとしたいのに・・・」
「あっ、チャイムが鳴ってしまった。○
○が始まってしまう!」というような声もよく聞かれます。教師もついつい追いたててしまうことが多くなっ
てしまいます。
画像 7
画像 8
そのような生活の中で、子どもたちが「今、すべきことを理解し」
「目標をもって」取り組むことができ
るようにするためには、
『予定表』の活用がとても有効です。
ア 「月」
「週」の流れ
「月の予定」。主に行事予定ということになりますが、一番役に立つのは「学年通信」です。一つの
行事があれば、事前指導・事後指導など、それに向けての取り組みもあります。
「学年通信」を配布
するだけではなく、配布時に行事予定について説明するだけでも子どもたちが見通しをもつための大
きな手がかりになります。学年通信の中の行事予定の部分だけを拡大して教室に掲示しておくのも一
つの方法です。
「週の予定」。さらに細かい一週間の学習予定を伝えます。前もって知っておかないと不安で仕方が
なく、特に休み明けの月曜日など、登校しにくくなる子どももいます。このような子どもたちにとっては、
早めに予定を知っておくことが大きな安心材料になります。このような場合は、
「週末に次の週の学習
授業づくり
予定を伝える」というようなリズムを作っています。
イ 「一日」の流れ
画像 9
画像 10
どの教室にも週の時間割は掲示されていることと思います。それとは別に、その日の時間割を見え
るところに示しておくことも、子どもたちが見通しをもって活動できるためにとても有効です。一日の
流れがわかり、一つの活動が終わったときに「次は、○○だ」ということがすぐにわかります。
「いつ
伊丹市立桜台小学校 主幹教諭 仁田 洋子
も決められた場所に掲示すること」
「見やすく掲示すること」を大切にしています。
画像の場合は、教室の後ろの黒板に、ラミネートカ
バーをした各時間のプレートをマグネットで貼る形にし
ています。
下校前、連絡帳を書く際に貼り、子どもたちは、そ
れを見て宿題などといっしょに時間割を書くことにな
ります。次に貼りかえるのは、次の日に連絡帳を書く
時ですから、それまでの活動時間には、いつもの場所
にあり、子どもたちは、いつでも確認できます。
ウ 「一時間」の流れ
就学前の取組
1時間の学習の中では、
「個人で」
「ペアで」
「グループで」そして、
「学
級全体で」と様々な学習形態がとられます。机を動かすこともあり、その
都度子どもたちの視界も変わります。集中時間の短い子どもたちや周りに
見えるものにすぐに気持ちが移ってしまう子どもたちにとっては、集中しに
くい状況になります。かといって、いつも前を向いている訳にはいきません。
画像は、ある時間の掲示です。最初に、
「ひとりで○○をする」、次に「ペ
アで○○をする」そして、最後に「みんなで○○をする」というように、
学習形態の移行予定についても、授業のはじめに伝えています。突然、
「は
い、班の形にして!」と指示されるのと、
「これをしたから、次はこれだな。」
と自分で納得して次の段階に進むのとでは全く違います。前向きな姿勢で
取り組むことで、その学習内容の理解・習得も進みます。
7
みんなの教室 みんなの授業
みんなの教室 みんなの授業
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第 1 章
第
1
章
学 級 づ くり
学 級 づ くり
4. 整理整頓
エ 気をつけたいこと
①掲示物を作る際に
基本は、
「シンプル」。
「色がきれいである」
「とにか
ア) 意 義
うことがないようにしなければなりません。それを見
学級経営の基本の一つとしての 「整理整頓」 はプリント類や文具などを探す時間を減らし、学習を効率的
るのは子どもたちです。
大切なのは、
「いろいろやってみる」こと。ただ、子
どもによっては、
「見やすい色」
「見やすい大きさ」が
ありますから、十分にその子どもと話し合い、確かめ
学級づくり
く目立つ」ものを作り、教師だけが満足しているとい
に進める効果があります。児童生徒の中には片付け方を教えても忘れてしまったり、今必要なものとそうで
ないものの区別が付きにくい子どもがいるので、学級会で片付ける場所を決めたり、「使った物は決まった場
所に片付ける」 等ルールを決めたりして片付けられる配慮を行いましょう。
ることも忘れないようにしています。
②前方の掲示は、すっきりと
掲示物がわかりやすいものでも、貼る場所が整理されていなければ、その効果はなくなってしまい
ます。前項の(1)
『黒板まわりの掲示について』にもあるように、学習に集中しやすいように教室の
前方は掲示を少なくし、注目させたいものだけに集中できるように整えています。
③継続すること
いろいろ試して見ると、よい方法がたくさん見つかってきます。
「今度はもっとこうしてみよう」と前
イ) 取 組
片付ける場所にそこにいれる物の画像や絵、文字を表示するとどこに何を収納すれば良いのか分かりやす
くなります。そのような工夫で使ったものを元に戻そうという意識を養うことができます。また、作業の終わ
りはどんな状態になっていればよいかを視覚的に示すことで整理整頓のコツが理解できます。
向きに進むことは大切なことです。でも、
「変わる」こと自体が不安要素になる子どもたちもいるわけ
ですから、ただ「よい方法が見つかったから変える」ということはひかえて、一定期間は継続していく
ようにしています。
④教師の姿勢
全く無意味なものになってしまいます。急な変更はやむを得ませんが、できるだけ変更せずに活動を
進められるように気をつけています。
伊丹市立伊丹小学校 主幹教諭 杉本 浩
発達障害のある児童生徒だけのために片付けさせるのではなく、みんなが分かりやすく片付けるための工
夫であることを学級の児童生徒に伝えるようにすると本人が劣等感を覚えることなく学級全体の意識を高め
授業づくり
計画を丁寧に伝えても、教師の都合での変更が多かったり、教師が時間を守らなかったりしたのでは、
ウ) ポイント
られるでしょう。
(参考文献「特別支援教育の視点を取り入れた 校内・教室内の環境づくり」 大阪市教育センター「教室ででき
る特別支援教育のアイデア172小学校編」 月森久江編集)
就学前の取組
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第 1 章
第
1
章
学 級 づ くり
学 級 づ くり
5. 座席配置
ア) 意 義
を決める上で配慮の必要な子どもがいます。児童生徒が学びやすい学習環境を作るためにも座席を工夫する
ことで刺激の調整・軽減・配慮を行いましょう。
① 座席配置
子どもの実態に合わせて座席の配置を工夫することは、すべての子どもが参加しやすい授業作り
学級づくり
教室には先生の話が聞き取りにくい、外の物音や景色に反応しやすい、周りを見ながら行動するなど座席
各校の 実 践 から
やクラスの一員として認め合える学級作りを考える上で大切です。
座席を配慮することで、子どもの抱えている学習上の困難さや苦手さが軽減され、学びやすさに
つながることが期待できます。さらに、そのことが集団の中で一人ひとりの子どもたちの自己肯定
イ) 取 組
全体指示の後に個別の指示が必要な子どもや集中が苦手な児童生徒は黒板に近い席にすると教師が対応
しやすくなります。外の物音や景色に気をとらわれやすい児童生徒は座席を出入り口や窓から離す工夫も必
要です。また学級全体の児童生徒が「今、何を、どのように」するかを分かりやすくするために行動の基準
になる児童生徒 ( モデル ) を前列に配置することも配慮の一つです。
感を高め、クラスの中に安心できる居場所が作れることにつながります。
まず、個々の子どもが授業中どのような状態にあるか、気になる行動の背景を理解することが座
席の配置を考えていく上で重要になります。
すぐに気が散ってしまう子どもへの対応
周りの音や声にすぐに反応し、じっとするのが苦手な傾向が強い場合は、廊下からの声や窓の外の音
や様子が気になり授業に集中できないため、窓側や廊下側は避けることが望ましいです。合わせて班に
同じような傾向の友だちがいると、反応仕合いさらに落ち着かなくなるため、子ども同士の席の配置に
ウ) ポイント
も配慮が必要です。周りの掲示物や本が気になり落ち着かない子どもは、掲示物からの刺激を減らした
協同学習を進める際のグループ分けでは学習に対する理解度の他、児童生徒の人間関係などにも配慮が
なります。
置などについて貴重なヒントが得られます。
授業づくり
必要です。実際に先生が児童生徒の席に座り、目線を合わせて見ることも大切です。板書や資料提示の位
り本箱にカーテンをつけたり、席を掲示物や本箱から離れた場所にするだけで授業に集中できるように
周りを気にせず全体での指示が聞けない子ども
はじめは、個別に声が掛けやすい前の方の席にすることで、先生からの指示が本人に伝わるようにな
(参考文献 「特別支援教育の視点を取り入れた 校内・教室内の環境づくり」 大阪市教育センター「ユニ
バーサルデザインの視点を取り入れた授業づくり12のポイント」埼玉県立総合教育センター)
ります。その後、少しずつ友だちからの声かけや周りの友だちがしているのをモデルにしながら、行動
できるように座席も配慮していきます。
学習への理解や作業に時間のかかる子ども
基本的には、学習面や作業で個別の指導がしやすい前列の席が望ましいです。読み書きに困難さのあ
る子どもの中には、連絡帳を書いたり板書をノートに写したりするのに時間がかかり困っている子どもも
います。座席を前の方にしたり近くの物を写させたりすることで、本人の負担が減り授業に参加しやすく
なります。
座席の配置を考える上で、本人の意志、周りの友だちや保護者の理解を図ることは、重要なこと
です。そして、学年・学級の実態に合わせて、段階的に子ども同士のつながりが深まるような座席
就学前の取組
を工夫していくことが望ましいです。また、子どもの成長を促すために座席の見直しも必要になっ
てきます。刺激にすぐに反応していた子どもも、座席配置の工夫や友だちとの関わりの中で気持ち
や行動のコントロールができるようになってきます。
このように、座席配置の工夫が一部の子どもだけの特別な支援にとどまらず、お互いの違いを認
め合い、助け合う学級集団を育むことにつながっていることがとても大切なことです。
伊丹市立荻野小学校 教諭 南川 佐都
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みんなの教室 みんなの授業
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第 1 章
第
1
章
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学 級 づ くり
学 級 づ くり
学習や生活のきまり
ア) 意 義
学習活動は学校生活の大半を占め、学習活動の決まりを守ることは小学校や中学校だけでなく、今後の
学習態度の育成にもつながります。しっかりとした態度や姿勢で学習に臨むことができるように、小学校の
早い段階から身につけさせるようにしましょう。
イ) 取 組
代表的な取り組みとして視覚化があげられます。視覚化とは、例えば椅子に座る姿勢を大きく絵に描いて
掲示したり、給食の際にお箸を置く位置やお皿を置く位置を絵にしたりすることです。また、実際には見えな
い時間や音などを視覚化することは、発達につまずきのある子どもにとっても有効であると考えられています。
タイマーを使用したり、声の大きさを① ~ ⑤の段階で表したり、不等号であらわしたりと方法は様々です。
学習活動のきまり
学級づくり
1. 学習活動の決まり
各校の 実 践 から
学級経営は4月が勝負です。しっかりした学級経営をするためには、学習に落ち着いて取り組めるよ
うにすることは不可欠であり、そのためには学級全体で学習のきまりを守っていくことが大切です。また、
教師がぶれることなくきまりを守らせようとすることが大切です。
最初に1年間守るべきこと、大事にすることを明確に子どもに伝え、身につけさせます。私は子ども
の様子に合わせて行動基準を決めるのではなく、担任としてその1年間で子どもに身につけさせたいこ
とにめあてをもって取り組みます。全員がしっかりと学級のきまりを身につけてしまえば、学年やクラス
の状態に応じて応用させていくことは可能ですが、最初にあやふやな指導をし、後から新しいきまりを
身につけさせるのは難しいことです。
きまりは短い言葉で伝え、なぜそのようなきまりが必要なのかも伝えます。短い言葉にすることで、
子どもが覚えやすく、また意識させたい時にも一言の声かけですむようになります。具体的には「姿勢
よく座る」
「文字を丁寧に書く」
「人の発言を聞いて、マイナスの反応をしない(えー、めんどくさい、しょ
うもない…など)」という3つを徹底します。これらを身につけていると、自然に落ち着いた授業態度や
お互いを認め合う雰囲気につながります。
挙手の仕方、発言の仕方、ノートの書き方、宿題の集め方など、きまりとして身につけさせたいこと
ウ) ポイント
学習活動には様々なルールがありますが、その全てを押しつけてしまっては子どもも息苦しく感じてしまう
ことがあります。最低限これだけは身につけてもらいたいといった決まりを明確にしておくと、子どもたちの
決まりを守ろうという意識の芽生えにつながります。
授業づくり
はいろいろとあります。しかし、全てをきまりとして子どもに押しつけていくと、子どもたちは混乱した
り反発したりします。また、教師は守らせるために労力を使うことに疲れてしまいます。学習の中で身
につけさせたいきまりごとは、その都度声をかけ、指示したり、確認したりすることでも自然に身につ
いてきます。きまりとして子どもたちに伝えることは必要最低限のことにし、落ち着いて過ごすと心地よ
いということを子どもたちが実感できるよう、子どもたちに評価等を返すことによって理解を促したり、
机の整理整頓や机上の整理をさせたりするなどの環境作りをどんどんしていくことが大切なのではない
でしょうか。また、
「きまり」は「しばり」ではなく、お互いが気持ち良く過ごすための「約束」である
ことを声かけ、環境作りを通して、子どもたちに実感させると、無理せず身につけていくことができる
ように思います。
伊丹市立南小学校 教諭 村上 英里
就学前の取組
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第 1 章
第
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章
学 級 づ くり
学 級 づ くり
3. 子どもの身のまわりの整頓
ア) 意 義
ア) 意 義
学校生活は学習時間だけではなく、休み時間や掃除時間などさまざまな時間があります。ところが、子ど
身のまわりの整理整頓は自分の物の所有感を持たせるため重要です。家庭での片付けはもちろんのこと、
も達の中には学習以外の時間では自分がどう動けばよいのか、何をすればよいのかわからずに過ごしてしま
身のまわりが片付いていることは、集団生活をする上でとても重要なことです。整理整頓を心がけることで、
う子どももいます。そのため具体的な目標や行動を提示することは子ども達が主体的に行動出来る手助けと
忘れ物や落とし物を少なくなり、落ち着いて学習に向かうことができるようになるでしょう。
学級づくり
2. 学級生活のきまり
なります。
イ) 取 組
イ) 取 組
子ども自身の身のまわりの整理では、どこに何を置いたり、しまったりするのか目印をつけることも有効で
何をすればいいか具体的な指示がなければ動くことが出来ない子どもや、自分から声を掛けることに苦手
す。授業中に机上が煩雑になってしまう子どもがいれば、机の上にテープを貼り、いつも置く場所を決めてお
さがあるなど、人とのコミュニケーションが不得意だと感じる子どもにとっては休み時間は不安でいっぱいで
くことも効果的でしょう。
す。その場合には子どもと教員が一緒に何が出来るかを考えて、安心できる活動を考えていくことが大切です。
また、ノートやプリントを提出する際には子どもたちが整理整頓を意識できるような工夫が必要です。提出
例えば、休み時間にはトイレに行く、次の授業の準備をしておくなど、具体的な目標や行動を提示するように
用のノートに子ども一人ひとりの番号を記入することで番号順に提出出来るようにしたり、提出場所が分かる
しましょう。また、清掃時間なども自分が何の分担でどのように掃除をしてよいのかわからない子どもがいます。
ように整理箱を用意したりするのも一つの手です。その際、上下を揃えたりすることができるように、箱に「上」
、
その際には、掃除時間の始まりに分担を確認したり、同じ掃除場所の子ども同士で掃除の仕方を教え合える
「下」などを提示することも有効でしょう。
ような環境を設定したりすると良いでしょう。
授業づくり
ウ) ポイント
ウ) ポイント
物の形や色を識別する力が弱い子どもは、その時間の教科書やノートを出すのに手間どったり、自分の物
子どもの中には 「何をすると注意されるか」 「何をすると褒められるか」 等、望ましい行動とそうでない行
と他人の物の区別がつかなかったりします。使う時間ごとに道具をひとつにまとめたり、わかりやすい目印を
動がわかりにくい子どももいます。それらをクラスのルールとして具体的に掲示することは、子ども達の自発
つけてマッチングさせたりすることで、必要な物や自分の物に注目させるようにするのもポイントです。
的な行動を増やしたりや行動を抑止したりすることにもつながります。
(参考文献 教室でできる特別支援教育のアイデア172 小学校編 月森久江編集 図書文化)
就学前の取組
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第 1 章
学 級 づ くり
各校の 実 践 から
① 身のまわりの整頓をするということ
学級づくり
「5S」の取組
「5S」という言葉があります。会社などで使用されることの多い言葉ですが、
「整理」
「整頓」
「清掃」
「清
潔」
「躾(しつけ)」の頭文字を取って「5S」。企業などでは業績アップの基礎としてこの「5S」に取り組
むことも多くあるようです。
これは、学校現場でも同じことが言えるのではないかと私は感じています。
「5S」を意識した環境作
りは全ての学習の基本となり、意欲アップや学力アップの礎となるのではないでしょうか。
整頓できる環境のユニバーサルデザイン化
写真1
身のまわりの整頓については、整頓の苦手な児童へのみのアプローチにとどめず、全体へのアプロー
チとして行うことが必要であると考えます。つまり、全体へ向けての手立てを打つことで、個別の支援が
必要な児童を含めた様々な児童がきちんと整頓できるような環境となることを目指します。画像やシー
ルなどで視覚的に示してやることもとても大切であると考えます。また、理想は、手立てを学年や学校
全体で共有できるようにし、専科指導や進級の際にも同じような手立ての中で児童が生活できることで
子どもの机の周りには、
「どこにしまったらよいかわからずに散らかっている」物も多く見られます。
ADHD などの発達障害のある子どもに対する手立てを紹介する本等では、物の「住所」を決めること
授業づくり
あるとも考えます。
整頓できる教室環境作り
が有効である、と紹介されています。
「これはどこに片付けるの?」と質問した時に、子どもが答えられ
るような教室環境を整えておくことが必要であると考えられます。表示を貼って「住所」を示してやる方
②
具体的な取組
机周り、机上の整頓
机周りをすっきりと整頓し、学習環境を整えさせることはとても大切です。しかし、いつの間にか机の
上や下が物だらけになり、今日一日何を学習したのかが机の上や下を見ればわかる…。そのような子ども
に、
「片付けなさい」と言っても、なかなかうまくいかずに困ってしまうことも少なくありません。
机上の整頓に一番有効だと思われるのは「出す物」
「持つ物」
「しまう物」の指示を徹底させることです。
例えば算数の教科書の大事な部分に赤線を引かせる、といった作業の場合には、まず「教科書の○ペー
法や、前述の手立てでも紹介しているように画像やイラストを使って視覚的に示す方法がありますが、後
者の方法のほうが片付けが苦手な子どもたちにとっては有効なようです。
4月には、ぞうきんをかける場所を、子ども
自身が決めて出席番号のシールを貼りました
(写
真2)。
「住所」を教師が指定するだけではなく、
子ども自身や係の子どもに物の置き場所を考え
させることで、片付けをより意識させることが
できました。
ジを開きましょう」と指示します。みんなが開けたら次は
「利き手に赤鉛筆、反対の手に定規を持ちましょ
う」という指示を出します。みんなが終われば、
「赤鉛筆と定規は筆箱の中にしまいましょう」と指示します。
写真2
とにより、できることを増やしていくことができます。そして、そうした指示を出す際には、最後の一人
が準備できるまで「待つ」ことも大切だと感じています。
就学前の取組
片付けが苦手な子どもは、細かな作業が苦手なことも多いですが、ひとつひとつの指示を細かく出すこ
伊丹市立笹原小学校 教諭 寺澤 麻里絵
クラスの実態によっては、
「書く」時には鉛筆のマークを黒板に貼り、それ以外の時には出さない、と
あらかじめ決めておくことで、鉛筆や消しゴムでの手遊びを減らす手立てとなります。机の中の整頓につ
いては、
(写真1)のような一目で分かる表示を作成し、毎週月曜日に黒板に貼っておくことで、整理整
頓を意識できる子どもが多くなりました。
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第 1 章
第
1
章
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学 級 づ くり
学 級 づ くり
関係づくり
ア) 意 義
お互いを認め合い支え合う学級の中では、落ち着き安心して学校生活を送ることができます。安心で安全
ア) 意 義
クラスで決めなければいけないことがある時やトラブルが起こった時、クラス全員や当人同士で話し合いを
学級づくり
1. 児童生徒の実態把握
2. 話し合いの場の提供
することが必要になります。そのとき、意見が違う人が出てきたり、話がまとまらなくなったりすることもある
でしょう。しかし、子ども同士で話し合うことで、折り合ったり、自分の意見を相手に伝えて納得してもらったり、
意見をまとめて整理するためにどうすればよいか考えることが出来ます。さらに、人との関係を作ること、考
えること、語彙を増やすことなどに繋がっていきます。
な学級の中で授業を受けられるという基盤があってこそ、子どもたちは自分の考えを伝えたり、問題に取り
組んだりすることができます。お互いが認め合い支え合う学級づくりには、子ども一人ひとりの理解や子ども
同士の関係を把握することが重要です。
イ) 取 組
話し合いをすることで、様々なことを考え、言葉にして、人に伝えることができます。自分の意見だけではなく、
イ) 取 組
まず、普段の学校生活での様子から実態把握をしましょう。登下校時の様子や挨拶の声の大きさ、授業
中の姿勢など、普段の学校生活の様々な場面で子どもの様子を観察しましょう。
また、Q-Uテストなどの客観的アセスメントの利用も考えられます。Q-Uテストは、表情や態度からは
握するための二つの診断尺度である「学級満足度尺度」、
「学校生活意欲尺度」と、それぞれに対応する「居
「聞く」ことが難しい場合は、ノートや黒板に意見を書きながら話し、必要に応じて指さしなどのポインティ
ングをしながら確認をしたり、復唱をさせたりします。また、
「話す」
「伝える」ことが難しい場合は、自分の
意見を言えるように、先にどんな意見かを教師等に伝えてからみんなに話したり、メモを書いてそれを読んだ
り、失敗しても恥ずかしいことではないことを理解させたりします。
クラスで話し合って決まったことを守ると気持ちよく過ごせるし、みんなで仲良く遊ぶことができます。また、
授業づくり
わかりにくい内面の状態を把握するのに効果的です。このテストは、学級全体と児童・生徒個々の状況を把
他者の意見も聞くことで、新しい見方をすることもでき、折り合いをつけることができます。
教師が中心となって指示をしなくとも、児童・生徒同士で注意をしあったり、教えあったりするようになります。
心地のよいクラスにするためのアンケート」と「やる気のあるクラスをつくるためのアンケート」の二つの心理
テストから構成されています。これらの分析結果から子ども一人ひとりについて理解するとともに、学級集団
の状態も把握することができます。具体的には、子どもの学級や友人に対する感じ方や考え方、学級内での
ウ) ポイント
対人関係を確認でき、学級全体の状態を把握することができます。
話し合いが難しい子だからといって、その子にばかり注目していると本人が嫌がったり、不公平感を感じさ
さらに、個人ノートも活用しましょう。個人ノートを一人ひとりに作成し、毎日やりとりする中で、表面的な
態度からはわかりにくい感情や考えを把握することができます。そして、一人の子どもをなるべく多くの教師
の目で見ることも重要です。
これらの情報を教師間で共有し、子どもが困難を抱えていれば支援につなげ、子ども同士の関係を構築
するきっかけを作るなどの支援を行います。
せたりすることがあります。クラス全体を見ながら、困っているときに「助けて」
「教えて」と言えるような環
境設定が必要です。
(参考文献 高山恵子・松久真実・米田和子 (2009) 発達障害の子どもとあったかクラスづくり-通常の学級
で無理なくできるユニバーサルデザイン- 明治図書)
就学前の取組
ウ) ポイント
実態把握には様々な方法がありますが、それぞれの長所を生かし使い分けることが重要です。先生と子ど
もとの日常の関わりをしっかりともつことが基本となります。
また、子どもの抱える問題が深刻な場合は、経験の多い先輩教員に相談するなどし、一人で抱え込まない
ようにしましょう。
(参考文献 神奈川県立総合教育センター(平成24年5月)
「学校ができる 教員ができる 不登校の未然防
止」粕谷貴志(2013年8月)
「指導と評価」図書文化)
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みんなの教室 みんなの授業
みんなの教室 みんなの授業
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第 1 章
各校の 実 践 から
学 級 づ くり
① 自分にできることは進んで引き受けましょう。
② 「できないこと」ではなく、
「自分にできることは何か」を考えましょう。
③ 友だちの頑張っていることを見つけて、ほめてあげましょう。
①「認める」から始まる「認め合う」関係づくり
④ 困っている友だちや頑張っている友だちには、自分から声をかけましょう。
学級づくり
「認め合う関係づくり」は、教師が一人ひとりの子どもを「認める」ことからスタートします。クラスに
は、身辺整理の苦手な子、ある事柄へのこだわりの強い子、対人関係に課題のある子、きこえに課題
のある子、話すことに課題のある子…様々な特性をもつ子どもがいます。育ってきた家庭環境や生活経
験が違うため、同じことを体験しても、感じ方や理解の程度は一人ひとり違います。
「みんなちがってみ
んないい」の気持ちをもって、一人ひとりに居場所と役割のある学級づくりを心がけています。
② グループ活動を通した、お互いを認め合う関係づくり
認め合う関係は、子ども同士が協力しながら課題を解決していく活動の中で育っていきます。グルー
プの中で「お互いを認め合う」ことは、達成感が増えるとともに、グループでの達成感も得ることができ、
連帯と共感の中で、自分の居場所を再確認する機会となります。活動の際には、可能な限りグループ活
自分の気持ちを伝える子どもを育てる
動を取り入れ、共同作業の中で意図的に子ども同士がかかわり合う場を設けています。どの子も主体的
対人関係を円滑に行うためには、気持ちを伝え合うことが大切です。自分の気持ちが「伝わった」と
に参加できるグループ活動にするために、次のようなことを心がけています。
いう達成感は「人の話に耳を傾ける」という行動につながっていきます。自分の気持ちを伝えることがで
きるようになるために、次のことを指導しています。
一人ひとりに役割をもたせる
① 自分から進んであいさつをしましょう。
② 「ありがとう」の気持ちを伝えましょう。
③ 自分が悪いときは素直に「ごめんなさい」の気持ちを伝えましょう。
④ 落ち着いて自分の気持ちを伝えましょう。
① 司会・記録・報告・計時などの役割を設定し、一人一役で活動させる。
② 活動(学習)の進行表を作成する
⑤ 分からない時やできない時は、先生や友だちに助けてもらいましょう。
の(図2)など、いくつかのパターンの進行表を作成して支援しています。どの役割も経験することが
⑥ 「あったか言葉」や「プラス言葉」をたくさん使いましょう。
(表1)
原則ですが、場面緘黙の場合等、個々の課題に応じて司会を複数にするなどの手立てを取るようにし
「あったか言葉」の例
ありがとう
おめでとう
手伝うことはない?
ファイト
すごいね
助かった
「プラス言葉」の例
ごめんね
うれしい
幸せだ
一緒にやろう
おもしろい
簡単だ
感謝
ついている
大丈夫?
がんばろう
あなたのおかげ
大好き
すばらしい
充実している
授業づくり
どの子も司会ができるように、各教科共通の基本的なもの(図1)、各教科の学習の流れに応じたも
ています。子どもたちは、グループ活動の経験を積むことで、自分たちのグループに合った役割分担の
方法を考えることができるようになってきています。
できる
豊かだ
表1 「あったか言葉」と「プラス言葉」の例
これらのことは、対人関係に課題のある子どもたちにとっては、とても難しいことです。
けれども、関係づくりにおいてとても大切なことと捉え、
「言葉」で伝えることを促したり、付き添って「話
自分にできることを精一杯頑張れる子を育てる
就学前の取組
し合う場」を設定したりしています。
図1 各教科に共通の進行表の例
大人も子どもも「できないこと」に目を向けて考える傾向にあります。できないことが気になると、
「ど
うせ、できないし…」
「もし、できなかったら?」という否定的な考えになりがちです。自分の「できること」
「できそうなこと」に目を向け、できることを増やすことで、自己肯定感を高めます。
「自分にできること
を精一杯頑張ることが大切である」という学級風土をつくるために次のことを指導しています。
21
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図2 教科の学習の流れに応じた進行表の例
みんなの教室 みんなの授業
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第 1 章
③ 見通しのもてない学習は、子どもたちを不安にさせます。何をどのような方法で解決すれば良いの
かを、子どもたちに分かりやすい言葉で示すようにしています。視覚優位の子どもたちにとっては、板
書する等、目に見えるようにすることが支援となっています。また、活動の時間を設定することは、
学 級 づ くり
参考文献:伊丹市教育委員会(2014 年)
『特別支援教育ハンドブック Q & A』
伊丹っ子ルールブック策定委員会(2011 年)
『33の約束』
佐藤 拓(2008 年)
『あったか言葉とちくちく言葉』 宝島社
井上 一郎(2008 年)
『話す力・聞く力の基礎・基本』明治図書
学級づくり
計画的に話し合うための手立てとなります。
伊丹市立伊丹小学校 主幹教諭 小木曽 笑子
一人ひとりが役割を果たすための支援を行う
① 文字による支援
グループの話し合いでは、ミニ黒板を使うことで、お互いの考えを伝え合うことができます。コミュ
ニケーション上の課題のある子は、自分の考えを書くことで伝えることができます。また、きこえに課
題のある子は、書いてもらうことによって自分の考えと比べることができます。ミニ黒板上で視覚確
認しながら議論することは、結果的にグループのメンバー全員の理解を助けることになっています。
② 見通しのもてる学習活動
時計やタイマーをみんなに見えるように拡大して表示しておくことで、活動の残り時間が明確になり、
見通しをもって活動することができます。計時係は、みんなの前で声を発することに課題のある子ど
もが自信をもって取り組める役割となっています。また、学習の流れを板書しておくことも、見通しをもっ
た活動にするための大切な支援だと考えています。
③ 自分の考えをもつ時間の確保
授業づくり
自分の考えがないと同じ立場で話し合うことができないため、グループ活動の前には、必ず一人で
考える時間を設定します。この時間に個別指導を行い、各自が自分の考えをもてるように支援します。
グループに自分の考えを伝えることは、自己肯定感を高め、活動への主体性や学習意欲を育てること
につながっています。
④ 情報の視覚化
クラスには、視覚優位の子どもたちがたくさんいます。書画カメラを使って画像や図表を拡大して示
したりするほか、子どもの発表原稿を映し出して、視覚優位の子どもたちの聞き取りを支援しています。
きこえに課題のある子どもの情報保障のために映像に字幕を入れていますが、多くの子どもたちの理
解を助けています。
グループ活動の具体例
① 朝の会で「今日のめあて」を話し合う
② 終わりの会で「今日の良い行動紹介」を行う
就学前の取組
③ 学級活動などで「友だち紹介」を行う
④ 授業の中で、お互いの考えを説明し合う
⑤ 同じ本を読み、感想を交流する
⑦ グループで一つの作品(新聞、ポスター、合奏など)づくりを行う 等
認め合う関係づくりは、ある特定の時間だけの学習でできるものではありません。一緒にいる時間の
積み重ねによって、少しずつ理解し合えるようになるのだと考えます。子どもたちには、学校生活の中で、
できるだけ多くの友だちとかかわり合い、いろんなことを経験してほしいと願っています。自分との違い
を受け入れ、お互いを大切に思う気持ちを育てています。
23
みんなの教室 みんなの授業
みんなの教室 みんなの授業
24
第 1 章
第
1
章
学 級 づ くり
学 級 づ くり
4. 相談と指導
ア) 意 義
ア) 意 義
学校生活においてコミュニケーションが円滑にとられていたり、マナーが守られたりしていることは、子ど
教師と保護者がコミュニケーションを図れる環境設定が何よりも大切です。そのうえで、教師と保護者が
も相互の交流に大きな役割を果たし、人間関係の形成にも大きく影響します。コミュニケーションに苦手さ
子どものことについて話すことにより、保護者との間に信頼関係がうまれ、保護者が相談をしやすくなります。
のある子どもは早期介入によってソーシャルスキルを身につけられることもあるため、学齢期からコミュニケー
相談をしやすくなることで、指導について具体的に保護者と教師が共に情報を共有し合い考えることができ
ションやマナーについて指導・支援を行うことは重要なことです。
るようになります。
イ) 取 組
イ) 取 組
コミュニケーションやマナーの指導として用いられるものには「SST(ソーシャルスキルトレーニング)」があ
まずは、教師は気になる子どものアセスメントを可能な限り行い、子ども本人の得手不得手を知ることが
ります。SST 指導の内容としては、
「自己のケア(適切な服装や食事作法など)」、
「他者との関わりの基礎(挨
必要です。そして、本人が学校で頑張っていることなどを保護者にお伝えしながら、学校で気になっている
拶や応答の仕方など)」、
「社会生活ルール(時間やお金の知識と利用など)」、
「対人関係上のやりとり(ルー
こともすこしずつお伝えをしていきます。保護者と話す中で、学校での様子と家庭での様子が違うことがわか
ルに則ったゲームなど)」があります。個々の子どもの社会的行動の苦手さをよく把握し、個の実態に応じた
ることがあります。そのときは、家庭での様子はどんな感じかを聞きとります。そのことで、学校で問題となっ
指導を行うことが必要です。
ている行動が、人との関係のなかで起こっているのか、周りの環境のせいで起こっているのかなどを考えるこ
学級づくり
3. コミュニケーションやマナーの指導
とができます。様子が違うからといって、互いにその他の背景があるのか、どうして様子が違うのかというこ
SST は、
子どもがスキルを獲得するために、
教員(指導者)と子どもとが 1 対 1で学ぶ場合もあります。しかし、
社会的行動は、子どもが実際の生活場面で活用できなければならないため、同じような課題を抱える子ども
同士で小集団を形成し、子ども相互のやりとりの中で、より実際の生活場面に近い経験の場を提供すること
も必要です。また、年齢相応の振る舞いや社会的行動にも留意し、子どもの発達段階や年齢に応じた指導
とを含めて共に話すことが大切です。そのときに保護者が家庭でしている支援があればお伝えいただいたり、
保護者に学校でしている支援があればお伝えしていきます。互いに情報交換をしながら、本人への指導・支
授業づくり
ウ) ポイント
援を共に考えていければ良いと思います。保護者と話している中で、保護者が困っていることも出てくると思
います。そのときは受容的に聞くことが大切です。そうしていく中で信頼関係がより生まれてきます。
本人に指導をしていく中で、うまくいったことなども保護者にお伝えをして、家庭での指導にも活かすこと
で子どものできる気持ちが育っていくと考えられます。そして、少しずつ自分で気づき、改善しようと努力す
を行う必要があります。
ることで、より楽しく生活を送ることができるのではないかと思います。
(参考文献 三宅康将・伊藤良子,「発達障害児のコミュニケーション指導における情動的交流遊びの役割」, 特
殊教育学研究39(5),25-32,2002 竹花正剛,「発達障害児のソーシャルスキルトレーニング」,特殊教育学研究
33(5),130-132,1996)
ルソーシャルワーカーなどにも相談し、多数の目と意見を取り入れることで、視野が広がり、協力を得やすく
教師と保護者の他にも、管理職、コーディネーター、養護教諭、専科教諭、スクールカウンセラー、スクー
なります。
ウ) ポイント
本人の気持ちも受けとめながら、
「こうすると出来る」
「これは得意」などのプラスの面をたくさん見つけ、
就学前の取組
保護者に良いことをお伝えしていくことや、保護者の話を受容的に聞くことから始めます。保護者のニーズを
把握することもとても大切です。
また、管理職、特別支援コーディネーター、養護教諭、専科教諭、スクールカウンセラー、スクールソーシャ
ルワーカーなどと連携して、チームとしての共通理解をはかることで、違った意見やこれからの道筋が見えて
くることもあります。
(参考文献 飯塚峻・有村久春 (2006) 信頼で繋がる保護者対応 図書文化社 一丸藤太郎・菅野信夫 (2002) 学校教育相談 ミネルヴァ書房)
25
みんなの教室 みんなの授業
みんなの教室 みんなの授業
26
第 2 章
第
2
章
1
授 業 づ くり
授 業 づ くり
授業の構成
ア) 意 義
単元のはじまりに、単元の全体的な流れを示すことによって児童生徒が「何をどのような順序で行うか」
「何
のためにこの学習活動を行うのか」見通しをもって主体的に学習することができます。単元の学習内容と全
体像が分かることで、単元のゴールを意識しながら学習できるとともに、できるようになったことが自分でわ
学級づくり
1. 準備の指導
2. 学習への見通し
かり、自信をもつことができます。
ア) 意 義
授業の始まりの時間にまだ前時の授業の片付けができていないと、それだけで、授業の活動に乗り遅れて
しまします。また、前時の片付けができていない事を注意されたりしかられたりすると、本人にとっても周り
の子にとっても、心理的にはマイナスからのスタートになります。
授業が始まるまでに、授業の用意をしておくことは、授業に臨む心構えを作る上でも、次の授業にスムー
ズに参加する上でも、とても大切なことです。
イ) 取 組
単元の第1次に、単元計画を示し、それに沿って各時間の学習のめあてをノートやプリントに書き込む方
法があります。単元全体でどのような学習をするのか、大まかな流れが分かり、学習意欲や期待感をもつよ
うになります。また、教室への掲示用として、模造紙などに単元名と学習のめあてを書いておけば、単元の
流れが理解できるとともに、
「単元のゴールの活動のために、今、この力をつける」というように、何のため
にこの学習を行うのかがわかります。必然性をもって学習に取り組むことによって、子どもたちの学ぶ意欲が
イ) 取 組
授業が終わったら、席を立つ前に前時の片付けをして次時の学習の準備をする習慣をつけましょう。年度
初めの学級のルールの一つにするとよいでしょう。
料集等、準備物が多い教科は、
「○点セット」といえば何を準備したらいいかがわかるよう、あらかじめ子ど
もと確認しておきましょう。 また、小学校低学年のクラスや整理整頓が苦手な子どものいるクラスでは、机上に出すものの置き場所を
決めておくと分かりやすいでしょう。置き場所を図で示し掲示しておくと、子どもたちは自分でそれを見て確
確認することができます。時々、必要な物が準備できているか、言葉で確かめることも大切です。
また、教科書・ノート・筆箱を準備するときには、右利きか左利きかによって、教科書とノートの配置が変
わります。適切な場所に学習用具を準備すれば、姿勢のゆがみやノートテイクのしにくさが改善されます。
ウ) ポイント
授業づくり
「この教科では授業の始まりの時間にこれを用意しておく」ということも決めておきましょう。ドリルや資
向上します。
単元計画を拡大して教室に掲示し、終わった学習活動・めあてに「はなまる」
「クリア!」
「ミッション成功」
などのしるしをつけたり、文字を書き入れたりしていくことにより、子どもたちに達成感を味わわせ、次の学
習への意欲をかき立てることができるでしょう。
(参考文献 大阪府教育センター (2012). 学習におけるユニバーサルデザインに関する研究―事例を中心に―
岡山県総合教育センター (2009). 通常学級における特別支援教育の観点からみた学級経営・授業づくり 茨城県教育研修センター (2007・2008). 特別支援教育における授業の実際と評価―通常の学級の授業におけ
る多様な教育的ニーズに応じた指導方法の工夫)
ウ) ポイント
忘れたのは本人の責任なので、貸さないように、というのは逆効果です。
学習用具を忘れたときには、忘れたことにより学習できずに過ごすことがないように配慮する必要があります。
就学前の取組
授業が始まるまでに先生に貸してもらうなど、あらかじめ学級でのルールを作っておきましょう。忘れたこと
については、どうすれば忘れないようにするかを本人と工夫します。連絡帳に赤字で目立つように書き、保
護者にも確認してもらうようにするなどして、家庭との連携も図るようにしましょう。
(参考文献 中尾繁樹 (2013). 通常学級で使える「特別支援教育」ハンドブック これ一冊で基礎知識から実践
スキルまで, 明治図書 岡山県総合教育センター (2009). 通常学級における特別支援教育の観点からみた学級
経営・授業づくり)
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みんなの教室 みんなの授業
みんなの教室 みんなの授業
30
第 2 章
各校の 実 践 から
私たちが日々接している子どもたちの中には,教師や友だちの声がスムーズに入らなかったり,授業
して授業に参加できるようにするために,次のような方法を実践しました。
② 授業展開を定型化する
1時間の授業において,子どもたちが学習に見とおしをもつためには,授業展開を定型化し,それを
子どもたちと共有することが大切だと考えました。そこで,基本的な授業展開として,以下の4つのプロ
セスを子どもたちと共有しました。
学級づくり
の流れについていくことが難しかったりする子がいます。そのような子が,学習に見とおしをもち,安心
授 業 づ くり
(1)前回の学習の確認
前回に学習した内容について,
「新たにわかったこと・できたこと」と,
「疑問に思ったこと・課題となっ
たこと」の2つの視点で見つめ直す時間を設けます。学習内容を想起させるために,場合に応じて書画
カメラ等で前回の板書写真や資料などを提示します。
① 単元全体を見とおす
(1)子どもたちと学習計画を立てる
子どもたちが学習に見とおしをもつためには,まずは単元のレベ
ルで,学習のめあてと,そのために解決すべき課題を明らかにする
ことが有効だと考えました。そこで,単元の導入時に子どもたちが
「解
決したい」
「取り組んでみたい」と思う題材に出合わせ,それを学習
のめあてとしました。そして,そのめあての達成のために必要な学
習を,子どもたちの意見をもとに整理し,学習計画に位置づけまし
その際には,右の画像(学習計画板書)のように,それぞれの意
見を短冊に書くようにし,それを分類・集約することで,視覚的に
理解しやすくしました。また,子どもたちと共有した学習計画を教
室の前面に掲示したり,学習計画表にまとめたりすることで,子ど
もたちが学習状況を常に把握できるようにしました。
(2)単元を構造化する
上に述べたような方法を実践するには,子どもたちの意見を補ったり,学習活動の順序を適切に配置
したりすることが必要です。そのため,教師は子どもたちに出合わせる教材の特性や,単元を通して学
前回の疑問や課題をもとに,本時のめあてを子どもたちと共有します。また,1人学習・グループ学習・
全体学習など,学習の進め方についても併せて確認していきます。
(3)課題の解決
子どもたちと共有しためあてに向けて,
(2)で確認した学習を進めて
いきます。時間配分も事前に確認しておくことで,見とおしをもって活動
に取り組めるようにします。
(4)ふりかえり
授業づくり
た。
(2)今日のめあて・学習の進め方の共有
今回の学習をふりかえる時間を設けます。その際には,
(1)に示した2
つの視点に基づいてふりかえり,子どもたちの問題意識を,次回のめあて
として共有できるようにします。最後に板書写真を撮り,次回の導入で提
示したり,子どもたちに配布したりします。
このような授業展開を定着させるために,右の図(フラッシュカード)のように,それぞれのプロセス
をフラッシュカードにしておき,その順序に沿って黒板上に常時掲示しておくことで,子どもたちが,普
段から学習プロセスを意識できるようにしました。またフラッシュカードの色も,
「前回の学習内容」
「ふ
りかえり」は青系統,
「今日のめあて」
「次回のめあて」は黄系統,
「学習の進め方」
「学習のまとめ」は
緑系統とし,後半に濃色を用いるよう統一することで,1 時間の流れが理解しやすいようにしました。
ばせるべきことを明確にもっておかなくてはなりません。そこで,教材研究を行う際には,左の図(単元
構造図)のように,参考にす
る教材(テキスト)と,めあ
てとなる言語活動との関連性
容を構 造化し,毎時間の指
導計画を立てるようにしまし
展開を十分に吟味し,それを子どもたちと確実に共有することが大切だと感じました。また,フラッシュ
カードや短冊,書画カメラなどの視覚的効果に訴える教具を用いることは,より多くの子どもたちの理
就学前の取組
や,学習の中で指導すべき内
今回の実践を通して,子どもたちが学習に見とおしをもてるようにするには,教師が単元や1時間の
解につながる手立てとなりました。今後も,誰もが安心して学習に参加できる指導・支援のあり方を探っ
ていきたいと考えています。
た。
伊丹市立伊丹小学校 教諭 佐古 賢一
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みんなの教室 みんなの授業
みんなの教室 みんなの授業
32
第 2 章
第
2
章
授 業 づ くり
授 業 づ くり
4. 課題設定の工夫
ア) 意 義
ア) 意 義
導入のキーワードは「意欲と動機付け」です。
児童生徒が主体的に学習活動に取り組むためには、児童生徒の実態に見合う課題や多様な考え方や解決
「それって、何?」
「へえ、どうしてかな。」
「おもしろそう。」
「次は何が出てくるんだろう。」といった気づき
方法を想起でき、発展性がある課題を設定するとよいでしょう。
や驚きが、子どもの知的好奇心を沸き立たせます。授業に対する子どもの興味関心や意欲を持たせたり、
また、課題に対して苦手意識がある、自信がない、拒否するなど学習意欲が低下している場合には、課
集中力を高めたりする上で、導入の工夫はとても重要です。
題を細分化し、無理なく取り組め、できたという達成感をもたせる工夫が必要です。個々にあった課題の目
また、学習の始めにめあてを確認することで、学習の見通しと課題意識を持って学習を進めることができ
標や内容を決めることも必要です。
学級づくり
3. 導入の工夫
ます。
イ) 取 組
イ) 取 組
苦手な学習や運動を一朝一夕に上達させる方法はありません。スモールステップで学習を積み上げていく
興味関心や意欲を引き出す工夫… ……………… ①資料や課題を絵や図、具体物を提示する
ことが子どもたちの達成感を育むことにつながります。教科学習の場合には基礎基本の問題には学級全体
で取り組み、理解や作業の早い子どもには追加の課題を用意したり、個別の支援の必要な子どもには丁寧
②発問の工夫
集中力を高める工夫(ウォーミングアップ)
……… ①フラッシュカード等を使って既習事項の復習をする
に声かけを行いながら習得を確認していくと個々に応じた学習を進めていくことができます。体育などの実技
教科の際にも、子どもたちが自分で目標を立てそれぞれの課題をクリアしていくことが出来るよう教材・教具、
②計算や漢字のミニテストの実施
子どもの注意を引きつける工夫… ……………… ①既習事項の○×クイズ
指示を工夫すると意欲を持って学習に取り組むことが出来ます。
ウ) ポイント
授業づくり
気持ちをリフレッシュさせる工夫… ……………… ①身体の一部を動かす活動、例えば、音読、暗唱など
ウ) ポイント
子どもがなかなか課題を達成できない場合にも、小さな進歩を見つけ褒めたり認めたりするよう心がけま
本時のめあてなど大切にしたいことは、枠で囲んで黒板に板書し、子どもがいつでも意識できるように見
しょう。また子どもたちが十分に課題に取り組むことが出来るよう授業の時間数や授業内の活動時間の配分
やすく提示することが大切です。また、本時の課題を解決するために必要な既習事項は、画用紙等に書いて
も考慮しましょう。
掲示しておけば、必要に応じて子どもが自分自身で確認することができます。
(参考文献 北海道教育委員会 (2011). 「分かる喜び できる楽しさを実感できる授業を目指して」 埼玉南
部教育事務所 学力向上のための『授業改善ベーシック』グランドデザイン 中尾繁樹 (2013). 通常学級で使
える「特別支援教育」ハンドブック これ一冊で基礎知識から実践スキルまで, 明治図書)
(参考文献 群馬 添島康夫 (2014). 発達障害のある子の「育ちの力」を引き出す150のサポート術, 明治図書
ケース別発達障害のある子へのサポート実例集 小学校編 上野一彦・月森久江著 ナツメ社(2010))
就学前の取組
33
みんなの教室 みんなの授業
みんなの教室 みんなの授業
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第 2 章
各校の 実 践 から
授 業 づ くり
③ まとめ
基本的には、生徒の立場でわかりやすい授業とは何かを考えることです。そうすることで複雑で余分
「わかりやすい授業をするために」
「わかる」と「できる」
現を心がけ、どんな間違いをするのかということにも注意を払うことが大切です。理解を一層深めるに
は班学習を取り入れるなどの工夫も必要です。日々、生徒の実態を頭に入れながら課題設定を行い、授
学級づくり
① 授業に臨む前に
な内容が省略され、シンプルでわかりやすい授業になります。特に教師の説明は端的でわかりやすい表
業を組み立てることが大切です。
「わかること」と「できること」の順番をどのように考えるかによって授業の進め方が変わってきます。
教師がどちらを先に求めるか、これは生徒の理解に差が出る大きな原因になります。教科書では「わかる」
の後に「できる」を求める内容の構成が多いですが、時にはこれを逆の順番にした方がわかりやすい授
伊丹市立北中学校 教諭 福本 恭
業になる場合が多いです。つまり、生徒の立場にたって思考の流れを捉えることで、教科書の順番を変
更することも必要です。
「授業規律」と「教材研究」
教材研究がしっかりしていれば生徒の意欲や理解が増すと言われますが、そうとも限りません。まず
は基本的な「授業規律」は絶対に必要であり、これがなければわかりやすい授業は成立しません。いく
ら素晴らしい授業をしても、生徒が聞いていなければ意味がありません。理想は「授業規律」が6、
「教
授業づくり
材研究」が4ぐらいの割合が適切でないかと思います。
② 実際の授業で
授業における難易度の設定
生徒によって授業の難易度を適切に変えなければなりません。また、1回の授業の中でも、できれば
難易度を上げたり下げたりする必要があります。そうすればどの学力の生徒にも対応できます。例えば
プリントでも表は標準問題ですが、裏は応用問題とすればすべての生徒に対応できます。また、一部の
生徒にはレポート課題を出すことも発展学習として考えられます。ちょっとした工夫によって簡単に難易
度は変わります。基本的に自分の学力よりも少し難しい内容の方が生徒の意欲はあがります。
適切な課題設定
就学前の取組
課題設定によって生徒の学習意欲は大きく変わります。ひたすら同じことを繰り返すことも短時間であ
れば有効です。また、作業や話し合いを取り入れることも必要です。日常生活に密接に関わっている問題や、
すぐに役立つ問題も生徒の関心をひきます。下に具体的な授業の例を示します。
① 連立方程式などの計算(10分程度)
② 図形で角度を求める
③ 1次関数のグラフから事象を読み取る
④ 実際にサイコロを振り確率を求める
⑤ 資料をもとに自分の考えをまとめる など
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みんなの教室 みんなの授業
みんなの教室 みんなの授業
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第 2 章
第
2
章
授 業 づ くり
授 業 づ くり
6. 学習形態の工夫
ア) 意 義
ア) 意 義
授業をするにあたって、各学年の子どもたちがどれくらいの時間であれば集中して学習に取り組めるかを把
教師が黒板と教科書を使って黒板の前で話す一斉指導型の授業形態では、講義やプリント学習が中心に
握することは大事です。子どもの興味・関心、生活との関連性がある活動や話題を取り入れながら、子ども
なるなど、ワンパターンの教授スタイルになりがちです。また、教師からの一方的な説明や指示が多くなり、
たちが主体的に学習に取り組むことのできるよう、動と静の学習活動を組み合わせたり学びあいの活動を取
児童生徒にとって受身的な授業となってしまいます。1時間の学習の中に、一斉指導と個人学習やペア学習、
り入れたりすることも有効です。
グループ学習などを組み合わせることにより、思考を深めたり、他の児童生徒と交流することにより自身の考
学級づくり
5. 展開の工夫
えを見直したり広げたりして、効果的に学習することができます。また、教師の話を聞き続けることが苦手な
イ) 取 組
学習を習得するには聞いて出来る、見て出来る、して出来る等の方法があります。苦手さのある子どもた
ちの中には 1 時間の授業に聞く、読む、話す、書く、考える、話し合う、発表するなど多様な作業を盛り込
児童生徒も、こうした授業形態を組み合わせることで、学習に参加しやすくなります。
イ) 取 組
むと様々な入力方法で活動を行うことにより、情報を習得しやすくなる子どもたちがいます。また、立って教
本時の学習のねらいにかかわる内容についての学習や、全員で確認や練習したりする必要があることは一
科書を読む、ペアで学習をする等、多様な活動を取り入れることは、じっとしていられない子どもや学習の
斉指導で確実におさえておきましょう。練習問題やドリルなど、繰り返し練習が必要なことは個人学習で、相
習得に不安を感じている子どもの学習環境を整えることにもつながります。
談したり説明したりすることが必要な場合は二人一組によるペア学習で取り組みます。また、テーマに沿って
話し合ったり、調べたりまとめたりする場合はグループ学習を取り入れることにより、多様な視点で考えるこ
とができます。また、自分と友だちの意見を比べて考えたり、自分の意見を修正したり広げたり深めたりする
ことができます。
授業づくり
ウ) ポイント
授業展開では活動の区切りを明確にし、
「今、何をするのか」「今何を考えるのか」 を意識して活動できる
ようにすることが大切です。児童生徒の学ぶ意欲を高められるよう分かりやすい説明や指示を出しましょう。
(参考文献 中尾繁樹 (2013). 通常学級で使える「特別支援教育」ハンドブック これ一冊で基礎知識から実践
スキルまで, 明治図書 埼玉南部教育事務所 学力向上のための『授業改善ベーシック』グランドデザイン)
ウ) ポイント
ペア学習やグループ学習を取り入れる場合は、話し合いのねらいと内容を明確にしておきましょう。また、
グループ学習では、司会や記録などの役割を決めることや話し合いの進め方について、あらかじめ確認した
り練習したりすることも大切です。また、グループの人数が多すぎると十分な話し合いはできません。一般的
には4人前後がよいでしょう。 就学前の取組
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みんなの教室 みんなの授業
みんなの教室 みんなの授業
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第 2 章
第
2
章
授 業 づ くり
授 業 づ くり
8. 満足感・達成感を味わわせる工夫
ア) 意 義
ア) 意 義
活動が単調になると、集中力は落ちていきます。集中力が低くなると意欲や思考力・判断力が低下し、ミ
学ぶ楽しさは、
「できた!」
「わかった!」という、満足感や達成感を味わえるところから始まります。満足
スが多くなります。1時間の授業の中で効果的に学習活動を進めるためには、授業構成を工夫することが重
感や達成感が味わえることで、自信が持て、次の活動や学習の意欲につながります。また、
「もっと知りたい!」
要です。特に、集中の持続力に配慮して、1時間の授業をいくつかに区切って多様な活動を組み合わせるこ
学級づくり
7. 授業構成の工夫
「もっとできるようになりたい!」という知的好奇心や探求心が高まります。日々の生活や毎時間の学習の中
で、満足感・達成感を味わえる仕組みを作っておくことが必要です。
イ) 取 組
イ) 取 組
児童生徒の集中の持続力を考慮し、1時間の授業を10分~15分ずつの活動に区切って組み立ててみま
①毎時間、まとめとふりかえりの時間を設定する
しょう。
1 時間の授業で自分が分かったこと、考えたことをふりかえり、まとめることにより、自らの学びを確認し、
また、その際には、Ⅰ-1-(6)で述べたように、1時間の中で多様な授業形態を取り入れることを意識
実感することができます。そのために、毎時間のねらいを明確にし、授業のはじめに提示しておきましょう。
しながら、次のような活動を組み合わせて授業構成を工夫してみましょう。
②達成感のある活動を取り入れる
① 教師による講義形式の学習活動
個人で、またはグループで「やりきった」と思える活動を取り入れましょう。その際には、時間を保証し、
② フラッシュカードや掲示物を多用した視覚からの情報を活用する活動
最後までやりきらせることが大切です。児童生徒の力でやりきることができるよう、課題設定や取組方法や
③ 唱える、CD の歌などを用いるなど聴覚を活用する活動
手立てを工夫しましょう。
④ ワークシートやドリルなど書く作業によって習得を図る活動
③認められる機会を設定する
⑤ グループでの話し合いやゲームなど具体的な活動を取り入れた学習活動
「ほめられる」ことと同様、
「認められること」で自信が育ちます。授業中の発表も特定の子どもだけでなく、
このように、活動形態を工夫することで、得意不得意のある児童生徒の認知特性を考慮した学習体験を保
机間指導やワークシートを活用し、どの子にも発表の機会を作るよう心がけましょう。また、黒板に書かせる、
証することができます。
ノートや作品を紹介する、ノートやワークシートを掲示するなど、様々な機会を工夫してみましょう。
授業づくり
とにより、多くの児童生徒が授業に取り組みやすくなります。
④励みになる仕掛け
ウ) ポイント
教科や単元によっては、授業を区切ることが難しい場合もあります。その場合には、次のような工夫をし
てみましょう。
①導入の工夫…導入は、授業のウォーミングアップの時間です。導入の 5 分間、既習事項の確認やドリル
的な内容にテンポよく取り組ませることで、集中力や思考力が高まります。
②体を動かす…話を聞く、ノートに書く、といった作業だけでなく、声に出して読む、唱える、立って読む、
シールを集める、がんばり表を作って取り組むなど、数週間から 1 か月単位でこつこつがんばったことが、
本人にとって分かりやすく励みになる仕掛けも有効です。この際も、方法を明確にし、継続して取り組むこと
が苦手な子には声掛けや手助けをするなどして、どの子もやりきることができるようにすることが大切です。
やりきれたときには達成感が味わえる賞賛やご褒美も用意しておきましょう。
ウ) ポイント
子どものやる気を引き出し、自信をもたせるには、
「目に見える賞賛」や「すぐその場でほめること」が大
図ることができます。
切です。机間指導でノートに丸を付ける、スタンプを押す、シールをはるというのはその場でできる効果的な
③「集中できるのは 15 分」を念頭に…教師にとって重要だと思う内容も、多くの子が集中し続けることが
就学前の取組
2人組や4人組の形に机の向きを変えるといった、ちょっとした活動を入れることでも、リフレッシュを
方法です。また、ほめる際は、何がよかったのかを具体的にしかも端的にほめるようにしましょう。
できるのは 15 分程度です。それ以上時間をかける必要があるときは、子どもの興味関心をひきつけ、
思考を深める仕掛けを作っておきましょう。
39
みんなの教室 みんなの授業
みんなの教室 みんなの授業
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第 2 章
各校の 実 践 から
授業構成の工夫
授 業 づ くり
③ 動作確認を行う
授業のあらゆる場面で、しかも事前の準備を必要とせずに行える工夫です。
動作を促すことで子どもの覚醒レベルを上げ授業に集中しやすくします。また、行動を完了していない
子どもが一目でわかるので、確認後に個に応じた支援を行いやすいという良さもあります。
学級づくり
授業におけるユニバーサルデザイン化の視点から授業構成を考える時、子どもの集中力を考慮した学
習活動を展開することが大切です。
集中力を高めたり持続したりする工夫の例を以下に示します。
① 集中しやすいモノを用意する
具体物を用意する
具体物の提示は子どもたちにとってわかりやすいだけではなく、特に授業序盤の子どもたちの集中力
を高めます。見せたいところをわざと隠すなど工夫をするとより効果的です。
(例)・社会「むかしのくらし」の導入として洗濯板を用意する。
・理科で実験器具を示しながら準備物を確認する。
フラッシュカード
授業づくり
具体物は集中力を高めますが毎時間用意できません。それを補うのがフラッシュカードです。注意が
授業以外の事に逸れやすい子どもの中には、動きのあるものに反応しやすい(転導性が高い)子どもも
少なくありません。フラッシュカードはすぐに更新される情報であることから、それらの子どもの注意を
引きやすいという良さがあります。
伊丹市立有岡小学校 教諭 志水 誠司
(例)・国語で漢字を示し読み方やその漢字を使った熟語を答えさせる。
・算数で九九を示し読み方や答えを確かめる。
② 1つの活動を短くする
活動の種類を変える
学習活動は大きく「聞く」
「話す」
「読む」
「書く」の4つに大別できます。同種の学習活動が続くと集
中力が持続しにくくなります。指導案を考える時にはその点に考慮して授業を構成します。上図では国語
の授業における展開の例を示しています。
就学前の取組
活動グループを変える
ただ、子どもたちにしっかりと考えさせたい時には話し合いの時間を長く取らなければならないという
場面も当然出てきます。その場合、活動グループを変えアクセントをつけます。
(例)例・
(全体討論の後に)
「同じ考えの人を探し、意見を交流してみましょう。」
「今のところの考えを隣の人と話し合いましょう。」
41
みんなの教室 みんなの授業
みんなの教室 みんなの授業
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第 2 章
第
2
章
2
授 業 づ くり
授 業 づ くり
教師の話し方、発問や指示
ア) 意 義
教員の子どもへの話しかけ方は、子どもの心理面に大きく影響を与えます。話かけ方によって、教員との
信頼関係ができあがったり、子どもの自尊感情が高まったりする可能性があります。また教師の話しかけ方
によって、子どもがコミュニケーションの方法を実際に見て学ぶ機会にもつながります。
イ) 取 組
子どもの意欲を高める話しかけとして「肯定的な評価(よく頑張ったね等)」、
「助言(自分のペースで頑張
ればいいよ等)」、
「励まし(これからもその調子でね等)」などがあります。それとは反対に、子どもが自尊
感情を低下させたり、学習意欲を低下させたりする話しかけとして、
「制止(○○してはいけない等)
」、
「非受
容(勝手にしなさい等)」、
「他者との比較(□□さんはできるのに等)」などが挙げられます。子どもの意欲
ような声かけや話し方を心がけるようにしましょう。
ウ) ポイント
個々の子どもの状況や背景、パーソナリティを十分に把握した上でことばを選ぶようにしましょう。また、
子どもの自尊感情や意欲を高めるには、話しかけのタイミング、表情や声のトーンも重要です。
話しかけ方については、教員自身のコミュニケーション能力に依るところもあります。そのため、教員自身
がコミュニケーション能力を高めていく必要もあるでしょう。
(参考文献 吉川正剛・三宅真智子,「生徒の学習意欲に及ぼす教師の言葉かけの影響」,鳴門教育大学情報教育
ジャーナル4, 19-27, 2007)
子どもたちは、どの子も先生から話しかけられたい、褒められたいと思っています。話しかけるとい
うことは「あなたのことを見ているよ」というメッセージにもなります。親しみを込めた話しかけは、子
どもたちとの信頼関係を築いていくベースになります。
話しかける時の基本的な姿勢
話しかける時には、ことばだけでなく話す時の表情や声の調子や話す速さなどの体全体の雰囲気が相手に
伝わります。相手の心をほぐしながら丁寧に伝えたい時には、
① 相手の目線に合わせる。
② 伝えたい気持ちを表情に表す。
③ ゆっくり話す。
④ 声の高さをおとす。
ことに留意し、相手を思いやる気持ちで話しかけることが大事だと考えます。基本的に、相手を心地よい気
持ちにさせる話しかけができたらいいなと思います。
個別に話しかける時
個別に話しかける時には、次のやる気に繋がるようなことばをかけるよう心がけています。はっきり注意す
ることが必要な場面もありますが、
「だめ。」と頭から否定するのではなくて、今の状態を認めたり褒めたりし
てから次のめあてを示す方がやる気に繋がります。例えば、課題に時間のかかる子には「遅い。」
「早くして。」
「まだ?」と言うより、
「ここまでできたね。」
「後これだけだね。」と声をかけた方が明るい表情で取り組んで
います。自分のやり方にこだわる子には、今していることを褒めてから「こうしたらどう?」と話した方が提
案を受け入れようとします。自分のことばかり聞いてほしい子には「順番に聞くからちょっと待ってね。」と声
をかけ、待てたら「待てたね。」とできたことを認めると次から少しずつ待てるようになります。
厳しく注意した時には、その子が注意された訳をちゃんと納得できているか確かめ、反省できた後は「き
ちんと反省したのだから次から気をつけていけばいいんだよ。」と安心して過ごせるような声かけも大切です。
また、子どもたちが他の子に優しく関わる姿を見かけた時は、その場で褒めるだけでなく、みんなに紹介す
ると他の子が同じような関わり合いをするきっかけになります。
授業づくり
を低下させないよう、子どもの問題行動の指摘についても、直接的な指摘ではなく、望ましい行動を伝える
話しかけ
学級づくり
1. 話しかけ
各校の 実 践 から
全体に話しかける時
就学前の取組
全体を見渡しながら話すのは、なかなか難しい面があります。集中していない児童のことが気になり、注
意のことばが多くなりがちです。注意も必要ですが、きちんと聞こうとしている児童の姿勢や視線などを褒
める方が、早く静かになります。また、大きな声と小さな声を使い分けることで話し手に意識を向けさせるこ
ともできます。一人ひとりと目を合わせるつもりで全体を見ながらゆっくり話しかけることが大事だと思いま
す。
伊丹市立南小学校 教諭 藤本 幸子
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みんなの教室 みんなの授業
みんなの教室 みんなの授業
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第 2 章
第
2
章
授 業 づ くり
授 業 づ くり
2. 支援の仕方の工夫
ア) 意 義
い部分を再確認でき安心感を持って学習に望むことができたりする子どもがいます。子ども一人ひとりの実
態に応じた個別の指導を行うことは、子ども自身が自分に合った学習方法を見つけられる手助けにもなりま
す。
イ) 取 組
国語の授業では、物語や詩などを読んで自分の感じた思いを表現したり、作文や日記などを書いたりする
機会があります。自分の感じている感情を文章にすることが苦手な子どもには、「どんな気持ちだったかな ?」
と気持ちを確認しながら、感情を言語化していくことが支援として挙げられます。また、算数や数学の計算
問題などでやる気を失いがちな子どもには、「あと○問ならできるかな ?」 と課題の量の調整したり、「そのや
り方で合ってるよ!」 と自信を持って問題に取り組めるよう声をかけるのも支援の一つです。
口頭でクラス全体に指示・発問を出した時、全員がそれを理解し、次の行動ができるにこしたことは
ありませんが、それはなかなか難しいものです。口頭による全体指示・発問ではイメージがつかめず、何
をしていいのかわからない子どももいます。
そのような子どもに理解しやすい具体的な支援や簡潔な声かけをすることは、子どもに情緒の安定感
や自信を与えることができます。そして、それは教師との信頼関係にも大きく結びつくものとなります。
② 支援の工夫
(1)視覚的な支援
(2)口頭による支援
(3)机間指導
①絵や画像で表示する。
②板書で指示する。
③実演する。
④実物や手本を見せる。
①ゆっくり短い言葉で、具体的に。
②語尾に重要な情報をもってくる。
③一度に出す指示や発問は一つに。
①個別の声かけ(確認・励まし・賞賛)
②個別の支援(一緒に活動・制作)
授業づくり
ウ) ポイント
① 全体指示・発問のあと、個別への声かけをする等の意義について
学級づくり
学級全体への指示を出した後、個別に声かけを行うことで集中力をもって課題に取り組めたり、分からな
各校の 実 践 から
子どもによって得意・苦手な学習方法は異なります。子どもの得意な学習方法を使って苦手を感じている
課題のフォローを行うことも一つの手です。子ども自身が自分の得意な学習方法に気づくことも自己肯定感に
つながるので意欲を持って学習に取り組めるような声かけに努めましょう。
③ 具体的な取組
(1)個別の声かけ
個別の声かけは子どもの実態を捉えて行います。
・
「同じところをもう一度読んでみましょう。」
(場所の確認)
・
「まず、何からするのかな?」
(行動順序の確認)
・
「真似していいから、やってごらん。」
「その調子。」
「写すのも勉強です。」
(励まし)
・
「できたね。」
「がんばったね。」
「すごい。」
「上手。」
(賞賛)
(2)机間指導の留意点
机間指導は個にとどまらず、全体への間接的な支援にもなりますので、クラス全体を見渡して声か
けや支援を行うことが大切です。
就学前の取組
④ 支援の仕方のポイント (山本五十六の言葉より)
やって見せて 言って聞かせて やらせてみて ほめてやらねば 人は動かじ
* 良い行動をした時だけでなく、良い行動をしようとした時にもほめます。
『教えてほめる』ことが大切です。 引用参考文献 (平成 26 年3月)特別支援ハンドブックQ & A 伊丹市教育委員会
(平成 25 年8月)特別支援・場面別対応事例集 東京教育技術研究所
伊丹市立笹原小学校 教諭 林 美幸
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みんなの教室 みんなの授業
みんなの教室 みんなの授業
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第 2 章
第
2
章
授 業 づ くり
授 業 づ くり
3. 興味を引く工夫
ア) 意 義
声の大きさや高低、話す速さを調整することで、子どもたちへの話の伝わり方が変わってきます。聞き手を
意識した話し方は子どもにとっての話し方のモデルにもなります。
ア) 意 義
言葉での指示が覚えられにくい子どもや、指示を受け自分の行う動作に見通しがつかないとパニックを起
こしてしまう子どものためにも、分かりやすく簡潔な指示を伝える必要があります。子どもたちが理解しやすく、
ねらいを達成できるような発問を計画することが大切です。
学級づくり
子どもたちが授業に興味を持つには、教師自身の言動の工夫も重要な要素です。先生の視点の置き方や
4. 発問や指示の工夫
イ) 取 組
イ) 取 組
子どもに問いかける声の大きさは、状況に応じて使い分けることがポイントになります。指示は、子どもに
気付かせるようにする場合は、はっきりと通る 「大」 の声で行い、子どもの説明に対して補足を入れるなど、
考えをより深めさせる場合は 「中」 の声を使います。個別指導の場合は 「小」 の声で子どもに寄り添うような
声かけをするように心がけましょう。また声の出し方には 「強弱」 とともに 「高低」 や 「速さ」 も加味しながら、
聞き手を意識した話し方を身に付けましょう。子どもたちにしっかりと話の内容を理解させたい時は、教師自
身が背筋を伸ばし、凛とした態度で伝えるのも一つの手です。それは、子どもたちの目線が少し上に向くよ
うにするための配慮の1つになります。
授業における個人指導の場面では、子どもが安心して「わからない」と言えるようにするために、子どもと
複数の指示を伝える場合には 「これから○つのお話をします」 など、子どもたちが見通しを持って話を聞く
ことが出来るよう、注意喚起を行うことが有効です。また言葉だけでの指示では説明が難しい場合には絵
や写真を用いながら説明するのも方法の一つでしょう。その他、伝えたい指示を短く、ゆっくり、はっきり伝
えることで子どもたちが頭の中で整理をしながら指示を理解することの手助けが出来ます。
ウ) ポイント
聴覚に苦手さのある子どもの中には、教員の指示に注意を向けていても周りの友達の話し声や外の音に反
応してしまう子どももいます。そのため、教員が指示を出す時は学級全体が静かになってからするようにしま
しょう。また、一斉指示のあとに、個別で声をかけ理解できているか確かめたり、補足の説明を行ったりす
ることは子どもの安心感にもつながります。
授業づくり
同じ目線にするようにしましょう。その際、話しにくそうにしている子どもの思いを聞きたい時は、指導者の
目線を子どもの目線より少し低くしてみることもポイントの1つです。
5. 子どもの五感に働きかける工夫
ウ) ポイント
ア) 意 義
授業中どこを見て話すのか(視点の置き方)、どこに立つのか(立ち位置)を考えたり、子どもの理解度を
教科書やプリントにある視覚情報や、分かりやすい指示といった聴覚情報の他に、実際に自分で物を動か
したり触れたりといった触覚を使った授業、自分の考えを話したり、掛け算九九の様に覚えた事柄を暗唱す
る授業など、子ども達が様々な感覚を使いながら楽しく授業に参加できる環境を作ることは、学習意欲を高
め、思考や理解を深めます。
確認するために目配りをしたりすることも重要な技術です。子どもの視点に立ち、表情や語尾の言い回しな
どによっても、伝わる印象が異なることに留意しましょう。
(引用文献:学習指導の基本を身に付けよう 授業づくりQ&A〜『よい授業』を目指して〜 島根県浜田教育セ
ンター)
イ) 取 組
就学前の取組
課題に取り組む時にはタイマーを使用したり、砂時計を使用したりと、目に見えない「時間」の概念を見た
り聞いたりすることができる形にすることも効果的です。また観察や体験的な学習など五感を使って学習す
る際には、「目」 や 「手」、「鼻」 など五感を示すカードを提示したり絵を描いたりして、使っている感覚を意
識付けさせることも有効です。
ウ) ポイント
多くの感覚を使うことで、子どもたち自身が自分に合った学習を見つけられるよう工夫しましょう。その際、
一度に複数の感覚に意識を向けることが苦手な子どももいることを留意しながら一指示・一動作を意識する
ようにしましょう。
(参考文献 津市立教育研究所 特別支援教育の視点を生かした学校における具体的な支援メニューに関する
研究 平成26年3月)
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みんなの教室 みんなの授業
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第 2 章
第
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章
3
授 業 づ くり
授 業 づ くり
板書、ノートやファイル
ア) 意 義
ア) 意 義
板書は、子どもにとって、学習内容をより確かに理解する手がかりです。視覚に訴えることにより、重要箇
学級づくり
1. どこからでも見やすい板書の工夫
2. ポイントがわかる板書の工夫
所をしっかりと認識することができ、思考を深めることができます。
板書は、子どもが学習内容を理解し、身につけるために有効な教具です。まとまった板書でも見えにくいと、
イ) 取 組
学習効果は低くなります。そのためにも、どこからでも見やすい板書をこころがけましょう。
まず、本時のねらい(目標)を板書に提示する(画像1)ことにより、その授業の中で、何を学ぶのかを
意識づけすることができます。そして、板書の中から、どこが重要な箇
所か分かるようにしましょう。例えば、重要な語句は黄色で書くと良いで
イ) 取 組
しょう。目立つ色で「ポイント」と書いたカードを用意しておき、重要な
まず、黒板は、綺麗にしておきます。教室の一番後ろの座席からも見えるように、文字の大きさに注意しましょ
う。また、行間が詰まっていると一つひとつの文字が認識しにくくなります。そのため、行間を開けることも
重要です。書く際には、楷書で丁寧に書きましょう。
箇所に、そのカードを貼るとわかりやすいです。また、文章としてまとまっ
て覚えてほしい箇所は色チョークで囲むと良いでしょう。
これらの板書のルールは、学年始めの授業で子どもに示し、それに従
い板書を展開するようにします。
ウ) ポイント
聴覚優位の子どもにもポイントが伝わりやすくなります。
また、重要な箇所は、板書した後に、学級全体で音読することにより
の黒板が見にくいことがあります。黒板の両端や下の方を使用する際は、注意しましょう。また、光の反射
により黒板が見えにくいことがあります。カーテンを閉めるなどして対応しましょう。特にICTを利用する際
授業づくり
画像1
授業の際には、机間指導をしながら黒板を確認してみましょう。左右両端の前方の座席からは、逆の方向
ウ) ポイント
には、リハーサルを行うなどして、見え方を確認しましょう。
視写に困難がある子どもには、
ポイントを板書した後に、
口頭で伝えることにより、
理解を促すようにしましょ
(参考文献 山形県教育センター(2013年3月)ユニバーサルデザインの視点を取り入れた授業づくり)
色チョークや色カードを多用すると、情報が多くなりすぎ、どこに注目したらよいか分からなくなります。
う。
そのためにも、色を付ける箇所を精選しましょう。
(参考文献 神奈川県立総合教育センター(平成22年3月)
「明日から使える支援のヒント~教育のユニバーサル
デザインをめざして~」 月森久江 編著(2007年9月)
「教室でできる特別支援教育のアイデア中学校編」)
就学前の取組
中学校・美術科
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みんなの教室 みんなの授業
みんなの教室 みんなの授業
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第 2 章
第
2
章
授 業 づ くり
3. 板書の仕方の工夫
ア) 意 義
イ) 取 組
黒板全体を見て、1 時間の流れがわかるようにします。板書の定型を作ると良いでしょう。これにより、子
どもは学習の見通しが持ちやすくなり、落ち着いて学習に取り組むことができます。例えば、算数・数学で
あれば、黒板の左端上部に、本時のねらいを表示します。まとめを右側の下部にくるように配置し、その間
を左から右へ学習が展開するようにします。国語のように縦書きになる場合は、右端に本時のねらいを書き、
右から左へと展開します。板書量が多い場合は、黒板を半分に区切って使い、半分は消さずにおいておくこ
とで、重要な点を提示することができます。
板書の型とノートが同じようになるようにすることも重要です。ノートと同じマス目の黒板を使用することや、
板書と同じ内容のプリントを作成し、ノートに貼ることも有効です。
板書の際によく使う指示や発問、ポイントを示す矢印などはカードにしておき必要に応じて活用すると良い
でしょう。矢印マークやマグネットで、今、学習している箇所を示すこともできます。
ウ) ポイント
ノート1 行分の文字数に合わせた板書にするなど、ノート指導と関連させた板書になるように心がけましょ
う。板書で使う色チョークと同じ色のペンなどを使用し、色の精選もしましょう。
(参考文献 東京都日野市公立小中学校全教師・教育委員会with小貫悟(2014年4月) 「通常学級での
特別支援教育のスタンダード 自己チェックとユニバーサルデザイン環境の作り方」東京書籍 月森久江 編著
(2007年9月)
「教室でできる特別支援教育のアイデア中学校編」図書文化社)
ウ) ポイント
5. ノートやファイルの活用の仕方の指導
板書を写すことが困難な子どもには、板書が写せるようにワークシートを活用しましょう。
また、一度にたくさんの板書を写すのではなく、授業の流れに沿って、何回かに分けて板書を写す時間を
設定しましょう。
ア) 意 義
(参考文献 東京都日野市公立小中学校全教師・教育委員会with小貫悟(2014年4月) 「通常学級での特
別支援教育のスタンダード 自己チェックとユニバーサルデザイン環境の作り方」 東京書籍 山形県教育セン
ター(2013年3月)ユニバーサルデザインの視点を取り入れた授業づくり)
授業づくり
板書をしっかりと構成しても、板書を写す時間が少ないとノートに書ききれず、学習の理解度を深めること
ができません。また、板書をしながら説明をすると、説明を聞くのか板書を写すのか、どちらをしたら良いの
か分からなくなる子どもがいます。ですから、板書を写す時間、説明をする時間を別にしっかりと取りましょう。
板書を写す際は、
「ノートに書きましょう」
「ここまで書きましょう」等の指示のもと、子どもが書き写せるよ
うに時間を取りましょう。そして、説明をする時には、
「鉛筆を置いて、話を聞きましょう」と指示すると良い
でしょう。
板書の速さは、子どもがノートに書く時の速さと同じと考えると良いでしょう。小学校低学年では、できる
だけゆっくり板書をしましょう。中・高学年になると書字のスピードがあがりますので、それに合わせて板書
のスピードも早くします。
また、説明をする際に、教科書やノートのページを黒板の端に書いておくと、指示を聞き逃した子どもの手
助けになります。
イ) 取 組
学級づくり
板書は、思考の手助けとなるものです。子どもが見返した時に、より理解が深められます。板書の内容がノー
トに書けるように板書の仕方を工夫しましょう。
授 業 づ くり
ノートやファイルを活用することで、子どもたちは頭の中を整理します。復習したり、予習したりすることで
子どもたちの学習は定着します。子どもたちが予習復習をするためには、ノートやファイルが整理されている
ことが大切です。整理されていないノートやファイルでは、見直しても頭の中は整理できません。もしかしたら、
見ることもしないかもしれません。子どもたちがノートやファイルを活用するためには、子どもたちが見直した
い、書きたいと思うようなノートやファイルを作っていくことが大切です。
イ) 取 組
ア) 意 義
学習の流れを構造的に提示するためには、授業の流れとともに、どのタイミングでどこに何を書くのか、ど
んな資料・教材を提示するのか、計画をたてることが重要です。教材研究とともに、板書の計画もしましょう。
具体的にノートに記入する項目(日付、内容、自分の考え)や記入位置について、指導します。その際には、
子どもたちが見やすいように、字が詰まった状態にならないようにするなどの注意が必要です。また、ファイ
ルは子どもたちが1枚1枚整理し、無くならないようにするために、目次の作成などが有効です。子どもたち
にプリントをはさむ際に目次に新しい項目を記入させ、今後の授業で振り返るなどの取組が有効な活用に繋
がるでしょう。
就学前の取組
4. 板書計画の工夫
ウ) ポイント
これらのことは授業開きの際に子どもたちにわかりやすく、丁寧に指導することが大切です。そして、定期
的にノート点検、ファイル点検をすることで、子どもたちの整理状況の確認ができます。その際、上手にノー
ト活用をしている例を印刷して子どもたちに配付すると、子どもたちがお互いに良いところを学び合い良いで
しょう。
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みんなの教室 みんなの授業
みんなの教室 みんなの授業
52
第 2 章
第
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章
4
授 業 づ くり
授 業 づ くり
教材、教具
ア) 意 義
子どもの認知特性を把握した上で写真や絵、映像などの視覚教材を有効に使うと分かりやすい授業を展
開することが出来ます。視覚教材は児童生徒の興味関心を引き出すだけでなく、児童生徒の想像力のサポー
教材をどのように扱い、何を教具として活用するかは、具体的な子ども像をイメージすることが欠か
せません。子ども達にとって理解しやすく、子ども達自身が扱いやすいことが、教育効果を高めるから
です。視覚的な情報を得意とする子もいれば、聴覚で情報を認識している子もいます。子ども達の認
学級づくり
1. 分かりやすい教材、教具
各校の 実 践 から
知特性に着目し、得意な情報処理の仕方を取り入れながら教材教具を工夫することは、学習への興味・
関心を高め、わかる授業へとつながります。子ども達自身が「おもしろそう!」
「やってみたい!」と思う
こと、実際にやってみたら「できた!」という喜びを得ることの積み重ねが自尊感情を高めることにもな
ります。
トにつながり、理解を促す上での補助ともなります。また、ICT機器を使うことで写真や表などの拡大表示
を行うことができ画面から席の離れた児童生徒にも見て分かるような授業になります。
イ) 取 組
算数の時間であれば、児童生徒が算数ブロックの操作を机上で行いながら、教師が黒板で拡大のブロッ
ク教具を使用することは具体的な操作の共有ができ効果的です。また書画カメラを使うことは作図の位置や
過程を示すのに役立ちます。国語の時間であれば、写真や映像を用いることでその背景を思い浮かべながら
ウ) ポイント
拡大教科書やデジタル教科書、黒板と電子黒板、タブレット端末と紙媒体といったアナログ教材とデジタ
次にどんなことが待ち受けているのか、不安に思っ
ている子どもも少なくありません。見通しが持てるこ
とで、落ち着いて学習することができるようになりま
す。
タイマーの活用とゴールの提示
授業づくり
作品を読むことができます。
① 見通しが持てる工夫の例
数字で表される物や色で表される物など、タイマー
を使うことで“時間が減ること”を見て確認すること
ができます。また、何ができればゴールなのか、到
達点がわかることで、意欲を持って学習に取り組むこ
とができます。
ル教材を授業の中で使い分けることが重要です。児童生徒がその視覚教材を使って自分の意見を発表する
ことができたり、視覚教材によって理解を促すことが出来るよう工夫しましょう。
② 学習への抵抗感を和らげる工夫の例
子ども達それぞれが興味・関心を持っていること
を探り、授業に活用します。また、コンピュータなど
情報機器により、提示する教材を拡大、強調し、文
字を読むことへの抵抗感を和らげることもあります。
デジタル教材の活用
就学前の取組
コンピュータなどの情報機器があふれる環境の中
にいる子ども達。動画を含むデジタル教材は、子ど
も達の興味を引き、集中を促すことも可能にします。
伊丹市立鈴原小学校 教諭 兼田 千春
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みんなの教室 みんなの授業
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第 2 章
第
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章
授 業 づ くり
授 業 づ くり
2. プリントの工夫
ア) 意 義
生徒や、どの部分を作業しているのか分からなくなってしまう児童生徒がいます。また字を書くことや話を聞
くことに苦手さがあり、授業や板書のスピードについて行くことの出来ない児童生徒もおり、プリントの活用
授業中、児童は「P35 ⑤の問題をしましょう」という教師からの指示を聞き、読み、考え学習してい
きます。しかし、中には、教科書の問題の漢字が読めなかったり、どの問題をしているのか分からなかっ
たり、内容に入る前のところでつまずいている児童がいます。新しい学習内容に対して、みんなができ
るだけ同じところからスタートできるようにする必要があります。その一つに、授業の流れに合わせたプ
リントを作り活用する方法があります。
学級づくり
学級の中には板書を見てもノートやプリントのどの部分に書き込みを行うのか分からなくなってしまう児童
各校の 実 践 から
はそのような児童生徒に有効です。
プリントの工夫
イ) 取 組
マス目のあるプリントを使うことで、指でどこに書くのかを確かめながら板書をノートに書き写す事ができ
るようになります。また、算数の筆算や長さの学習、作図の際にもマス目のあるプリントが活用できます。文
章を書く際にはプリントに罫線を入れることで記入するべく全体像が捉えやすくなり、文字の大きさや文章の
長さを調整しながら書くことにつながります。
ウ) ポイント
うになります。プリントに授業のポイントとなる部分を明示しておくと児童生徒が要点を理解した上で学習に
望めるようになります。
算数の学習をしているのに漢字が読めないことでつまずいている
児童もいます。問題を読むことができれば解いていけるのにと児童
自身も思っているのではないでしょうか。前もって教科書に読み仮
名を書いたり、支援員の先生に入っていただきサポートしてもらっ
たりすることもありますが、いつもできるとは限りません。そこで
児童が安心して学習に取り組めるように、プリントやテストに読み
仮名を付けることはとても有効です。
学習に集中できるように
算数の時間、教科書の問題をノートに写すことが難しい児童は、
どの問題をどこに書けばよいのか止まってしまうことがあります。
また、ノートのマスに数字が入りきらず、自分で書いた問題が分か
りにくいということもよくあります。すでに筆算の式が書いてあると
スムーズに問題に取りかかることができます。そして、それをノート
に貼ることで学習したことが残り、後からでも振り返ることができ
ます。
図1
授業づくり
板書と同じ流れのプリントを用意することで、児童生徒が見通しを持って授業に取り組むことが出来るよ
学習がスムーズにスタートできるように
学習が深まるように
就学前の取組
わり算の筆算では、数字を手で隠して商を立てる作業を行うこと
があります。その時、黒板ですることと同じようにするために、板
書と同じプリントがあれば、わかりやすく進めることができます。
また、全体学習で示したポイントを、
〈図1の問題④〉のようにプリ
ント内に示すことができます。このように解くときの手がかりにな
り、黒板を見なくても、自分の手元を見るだけでヒントを得ること
ができます。
図2
新しい算数用語が出てきた時、重要な語句だけ穴埋めにしてプリ
ントを作ることができます。
〈図2〉のように、前の時間に分かりにくかったポイントを穴埋め形式で提示し、
穴埋めのところを書いたり、声に出して読んだりすることで、復習しながら学習を積み上げていくことが
できます。
おわりに
クラスの中には、様々なところでつまずいている児童がいます。どの子もやりたくないのではなく、
「分
かりたい」と思っているはずです。児童の実態を把握し、教材研究を進める中でどのような手立てが必
要なのか見極めていくことが大切です。
伊丹市立瑞穂小学校 教諭 小山 恭子
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みんなの教室 みんなの授業
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第 3 章
第
3
章
就学前の取組
就学前の取組
画用紙での製作
1
保 育
意 義
製作活動は、イメージや空間認知、手先の不器用さ等が関係する活動です。
幼児が製作活動を楽しむには、
「やってみたい」という興味や関心を抱くと共に、幼児が「これを作りたい」
というイメージをもつことが大切です。また、イメージしたことを実現できるように、はさみやのり等の用
具を扱う力も必要となります。
「何をするのか」という具体的な活動内容の提示の仕方や、一人一人が自由に用具を扱うことができるよ
うに、個々に応じた支援をしていきます。
ハサミの使用
のりの使用
手先が不器用とい
う場 合 は、 手 先 の
動きだけに注目する
のではなく、全身の
運動発達にも目を向
けてアプローチする
ことも必要です。
ハサミを握ったり、離したりする動作がスムーズに
なるためには、うんていやのぼり棒を通して握る力を
高めたり、いろいろな感触のものに触れて、つかんだ
り、握ったりする感覚を養うとよいでしょう。また、じゃ
んけん遊び等して思い通りに手の形を作る経験をする
ことも手先を器用に使うことにつながっていきます。
のりの感触が嫌な子どもにはのりふきんを用意し、
いつでも手を拭けるようにすると安心して取り組め
ます。のりを嫌がる子どもは、のりだけでなくいろ
いろな感覚に過敏な場合もあるので、日常生活の中
で砂 遊びや泥 遊
び、 小麦 粉 粘 土
等、 い ろい ろな
感 覚に触 れる遊
びをするとよいで
しょう。その際に
は、 そ の 子ど も
の様子に応じて、
無理なくします。
学級づくり
1. 製作活動
「ウサギさんの耳はどんなかな?」
「目はどこにあるかな?」等と作るもののイメージをもちやすいようにと問い
かけてみます。花を作るときなどは、実物を見せたりして、視覚的や嗅覚で作るもののイメージをもつことを助
けます。
取 組
絵 画
★幼児の絵は、表現活動の一環なので子どもの表現を認めていくことがまず、
大切なことですが、不器用さ、イメージのもちにくさがあって描きだせない子
どもには、スキルを教えることも必要な場合があります。その際には、写真
や具体物を見せることも一つの方法です。
セロテープの適切な長さ
授業づくり
イメージをもちやすいように「お顔はどんなかたちかな?丸かな、四角かな、
三角かな?」、
「髪の毛の色は何色かな?」と問いかけてみましょう。
園外保育や運動会の絵等も、クラスの中で経験を思い出すような話をしてか
ら描くようにします。
・セロテープを長く取り過ぎる姿が見られた時にテープ台
にめじるしをつけます。
・わかりやすいようにストローに赤いビニールテープを巻
きます。
・ストローだと、柔らかく、しばらくすると折れてしまう
ものもあったので、ストローより固い材質の方がよいと
思います。
折り紙
折っていく行程を細かく分けて具体的に示します。
就学前の取組
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みんなの教室 みんなの授業
みんなの教室 みんなの授業
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第 3 章
第
3
就学前の取組
就学前の取組
章
2. 歌
3. 表現遊び
意 義
意 義
「表現遊び」は、幼児が自ら感じたことを自由に表現する活動です。広く捉えると、歌や合奏、製作、絵
幼児にとっては、歌詞を覚えることや上手に歌えるようになることではなく、その歌のイメージをもち、さ
画等も含まれますが、ここでは劇遊びや身体表現遊びについてふれます。
らに、歌詞を聴き、曲想、リズム、音の響き等を感じ取って歌うことを楽しむことが大切にされなければ
「劇遊び」は、幼児が心を動かされるような体験を通して、抽象的なことをイメージし、表現する遊びで
なりません。そこで、歌のイメージをよりもてるような支援が必要です。
す。個々がイメージを広げ、感じたことを自由に表現する喜びが味わえるように、実際に体験する場をもた
学級づくり
人にとって歌うことは、楽しいことであり、表現したいという本能から生まれる根源的な活動です。特に
せ、五感(「視覚」
「聴覚」
「嗅覚」
「触覚」
「味覚」)を刺激する活動をさせたり、場面状況を端的に伝えた
りすることでイメージがもちやすくなる幼児もいます。
取 組
また、視覚的に理解をしやすい幼児もいるので、写真や絵本、ペープサート等を用いることも効果的で
す。大勢の友だちと遊ぶ中で、友だちの表現を見合ったり、やりとりする場を繰り返し楽しんだりすることで、
歌
言葉で聞いただけではイメージがわかず、歌が始
まると集中が途切れがちだったが、絵を見て どん
な風景のことを歌っているのかイメージをもてたこと
で、歌うことへの集中が以前よりも高まりました。
イメージがわきやすいように、歌詞と一緒に絵を
入れます。蛇腹折にして絵本のようにすると見やす
いです。歌を歌うときに見ながら歌ったり、空いた
時間に一緒に見たりします。
更にイメージがわいたり、友だちとイメージを共有したりすることができていきます。
取 組
楽 器
61
みんなの教室 みんなの授業
壁面を写真に撮って、子どもたちが作ったペープサートで遊
べる大きさに印刷しました。ペープサートを使ってお話の世界
で遊ぶことでイメージがもちやすくなりました。
就学前の取組
教師の手や目の合図だけでは、鳴らすタイミングが
わかりにくい場合、うちわを挙げてタイミングを知らせ
ます。
授業づくり
保育室に絵本の挿絵をはり、物語
の世界に興味がもてるようにします。
みんなの教室 みんなの授業
62
第 3 章
第
3
就学前の取組
就学前の取組
章
4. 運動・運動遊び
ボール
人間は感覚→粗大運動(全身を使った大きな動き)→巧緻運動(指先等を使った細かな動き)→言語・
認知→社会性という段階で発達していくといわれています。幼児期には発達の基礎である、感覚を刺激す
る活動や運動を、遊びや日常生活の中で楽しみながら沢山経験させることが必要です。
学級づくり
スモールステップの指導が大切です。いきなりボール
を投げ合ったり、受け合いをするのではなく、いろいろ
な大きさ・材質のボールに触れたり、転がしたり、投げ
たりいろいろな遊び方でボールに親しむことを大切にし
ます。
意 義
運動は、
「できる、できない」がはっきりしているため、できたときには達成感が味わえますが、反面、
できないと自尊感情に影響を与えることが懸念されます。指導支援では、思わずやりたくなるような環境
構成や導入による動機づけ、幼児一人一人の発達に応じたスモールステップでの課題設定、できたことの具
体的な認めが重要です。
律 動
縄
就学前の取組
縄跳びをする前段階として、縄を使ったいろいろな遊び
をして縄に親しみましょう。縄を地面においてその上を渡る、
縄を丸く置いて輪を作り、出たり入ったりして遊ぶことも楽
しいです。
次に、へびへび、大波小波、両足とび等いろいろな跳び
かたをしてみることでまず、跳ぶことの楽しさを感じるよう
にしましょう。
連続して跳ぶためには、手で縄をまわせるようになるこ
とが必要です。そのために縄をまわす感覚を経験するよう
にします。縄を短くして片手に持ち、頭の上や腰の位置、
体の前などいろいろな位置でまわしてみることで、縄跳び
をするときの手の動きを経験します。
授業づくり
取 組
歩くこと、走ること、前けり、後ろけり、ケンケン、
スキップなど、いろいろな動きを経験できる幼児に
とっては大切な遊びです。最近では、十分にハイハ
イをしないで歩き出してしまう子どももいるので四
つん這い、高這いなど、いろいろな運動の要素を
取り入れるとよいでしょう。
体操やダンス
体操やダンスで体を動かすこともボディーイメージ
の形成に役立ちます。動かし方がわからないときは、
子どもの体に手を添えて、一緒に動かして、どこがど
のように動いているかの感覚を経験できるようにしま
す。
63
みんなの教室 みんなの授業
みんなの教室 みんなの授業
64
第 3 章
第
3
章
就学前の取組
就学前の取組
固定遊具
うんてい
固定遊具で遊ぶことで、子どもは運動発達に必要ないろいろな感覚を経験しながら、体幹を鍛えていきます。
そのことは、粗大運動の発達だけでなく、手先の巧緻性を育むことにもつながっていきます。
学級づくり
筋肉をしっかり使った気持ちよさを経験する遊
具です。はじめは、手に力をいれ、うんていにつ
かまります。どのくらいぶら下がっていられるか
に挑戦します。それができるようになったら、前
に進んでみましょう。
すべりだい
加速感やスピードなどの動きの感覚を経
験できる遊具です。自分の体を把握したり、
姿勢を保つことが苦手な子どもにとって比較
的取り組みやすい遊具の一つです。安全に
気をつけながら、座って滑ったり、寝た姿勢
で滑ったりしてみることでいろいろな感覚を
感じることができます。
ジャングルジム
授業づくり
身のこなしを育てる遊具です。空間の中
で自分の体を感じ、体を上手に使いこなす
能力を高めます。ボディイメージの発達に
もつながります。高いところが怖い子ども
は低いところから挑戦してみるとよいでしょ
う。
砂場
ブランコ
65
みんなの教室 みんなの授業
みんなの教室 みんなの授業
就学前の取組
揺れ遊びの代表的な遊具で特に前後の揺れを楽しみ、動きの
感覚を経験できる遊具です。繰り返しのある簡単の動きをするこ
とで、体のバランスを取る力をつけます。揺れが苦手な子どもは
揺らされることに敏感で不安になるので自分の足で揺らすことか
ら始めるほうがよいでしょう。
砂遊びは、代表的な感触遊びです。サラサラ、ザラザラ、
水を入れて、べチョべチョ、いろいろな感触が楽しめます。
この様な遊びを通して、子どもは、多くの触覚の刺激を受け
取り、これが自分のボディイメージを高めていきます。
しかし、触覚に過敏のある子どもは、砂遊びを嫌がること
があります。そんなときには、無理にさせることはせず、まま
ごと道具を使うなどして直接、砂に触れることを少なくして、
少しずつ慣れるようにしていきましょう。
砂場遊びは、感触遊びだけでなく、ままごとをしたり、山
を作ったりする中で、イメージをもって構成する力が養われ
たり、友だちと一緒に活動する楽しさを感じられたりする幼
児の発達にとって、とても大切な遊びです。
66
第 3 章
第
3
章
就学前の取組
就学前の取組
サーキット
シーツ運び・ボールはずし
サーキット遊びはいくつかの遊具を組み合わせることでいろいろな運動感覚を経験でき、運動発達を促し、動
きのアンバランスさ、不器用さなどの改善につながっていく遊びです。
シーツの上にボールを置いて運んだり、
マジックテー
プでついているボールをはずしたりすることで力のコ
ントロールを経験します。
学級づくり
跳び箱・ろくぼく
高いところから遠くにジャンプする動きを経験
します。目印となるところにビニールテープでし
るしをつけたり、
「山から川に落ちないように飛
ぼう」、
「川にはわにさんがいるよ」などとごっこ
遊びの要素を取り入れ、飛び出したくなるよう
な工夫を入れ、楽しく飛べるようにしましょう。
まと当て
視覚的にまとを見て、そこに向かって手先、腕、肩などを協応的に動かすこと
(遠くに投げる、正確に投げる)を経験します。
はしご、スケートボード
はしごを四つ這いになって渡ったり、スケートーボー
ドでほふく前進することで腕や足、体幹を支持する
感覚を経験します。
はしごやエス棒、並べたフープを両足で跳ぶこ
とでジャンプ移動の体の動かし方を経験します。
ネットやゴムで作った迷路をくぐることで自分の体
の使い方を経験し、ボディイメージの発達を促します。
授業づくり
はしご・島渡り・けんけんぱ
ネット、ゴム
★サーキット遊びは、どの子にも経験してほしい遊びですが、特に、下記のような特徴のある子どもには、たくさ
ん経験させてください。
平均台
・姿勢が不安定
・転びやすい
跳び箱・ろくぼく
・台から飛び降りることができない
(台の上から遠くにジャンプする) ・飛び越す動作をすると片足ずつまたいでしまう(両足とびができない)
ジグザグ走り
コーンをジグザグにおいてその間を走
ることで左右に移動する体の動きを経
験します。
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みんなの教室 みんなの授業
平均台
平衡感覚、体幹のバラ
ンスを養います。狭い平
均台を歩くことは集中力
のアップに役立ちます。
平均台の高さが怖い場合には、ウレタンクッションなどを床に並べて
歩くことから始めましょう。歩行が安定していない子どもの場合はベンチ
など幅の広いものの上を歩いたりしてもよいです。
平均台にブロックを乗せるなどすると、不安定な状況でもバランスを
保つ経験ができます。
はしご、スケートボード
はしご、島渡り・けんけんぱ
シーツ運び・ボールはずし
ネット、ゴム
(くぐる、またぐ)
まと当て
就学前の取組
ジグザグ走り
・狭いところを通り抜けるときにぶつかったりする(空間認知が弱い)
・姿勢が悪い
・姿勢がぐにゃぐにゃしてしまう
・座位から立位に姿勢を変える時に腕や足の力が上手く使えない
・大きくまたぐ動作や跳躍動作が苦手
・動きを急に止める等の、体のコントロールが苦手
・動きのバランスが悪い
・力の加減できない
・狭いところを通り抜けるときにぶつかったりする(空間認知が弱い)
・手足の協応性が低い
・身体部位を協応的に動かすことが不器用
・着替えたりすることに時間がかかる
・物を運ぶことが上手でない
みんなの教室 みんなの授業
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第 3 章
第
3
章
就学前の取組
就学前の取組
着替え・朝の支度
5. 日常生活の動作
意 義
学級づくり
普段、何気なく行っている日常生活における動作はいろいろの動きから成り立っています。個々のつまず
服を持ち上げたり、服を脱ぎやすく体を丸めたり、ボタンをはめたりといくつかの動きをすることで着替えるこ
とができます。それらの動きの中には、筋力や、身体協応性運動、微細運動などの運動要素があり、毎日、着
替えを行うことで自然に訓練されます。
着替えだけでなく、
「自分のことは自分でする」ことは子どもにとって、大きなねらいになります。そのためには、
声かけだけでなく、目で見てわかる支援(視覚支援)があることは、とても大切です。
きを把握し、その要因(方法が理解しにくいのか?運動機能が未発達なのか?など)を探り、方法やコツを
伝えたり繰り返し取り組む場をもたせたりしていくことで、スムーズに行ったり更に意欲をもって取り組んだ
りすることができます。そして「自分でできた」という喜びは、自己肯定感にもつながります。日常生活の
動作は、毎日繰り返されることなので、意識して取り組むことで、あえて、
「訓練」としなくても、自然と力
をつけていくことにつながります。
布巾を絞ったり、片足で立って靴を履いたりするなどの日常生活における動作は、様々な運動機能の発
達につながるので、意識して取り組める様に支援します。
朝の身支度の順番をイラストと文字で示します。で
きたら下のボックスに入れてカードがなくなっていくこ
とで自分がどこまで終わっているかがわかります。
ボードを見ながら一つひとつの身支度に取りかかり、できた
ら下のボックスに入れて次のことをします。
取 組
掃 除
授業づくり
雑巾をしぼるためには両手を上手に使う必要があり
ます。雑巾で床を拭くことで手でしっかり雑巾を押さえ
ながら足を交互に動かすという複雑な手足の運動を経
験できます。
身支度をひとつするごとにカードを裏返していきます。カードの裏は電車になってい
て、全部裏返すと右に図のように電車の写真が完成します。
▶
みずやり
水の入った重いじょうろを持つことで手に力
を入れてしっかり物を持つことを経験します。
立って靴下を履いたり、靴を履いたりすることで片足に体重をかけて
姿勢を保つ力が育ちます。
69
みんなの教室 みんなの授業
就学前の取組
靴や靴下をはくこと
ハンガーに顔の絵を
はり、
「この子にジャ
ンパーを着させてあ
げて」ということで
ハンガーの使い方が
わかりやすくなりま
す。
ことばでいうよ
り一目瞭然、
「ズ
ボンにシャツを
いれる」という
ことが見てわか
ります。
みんなの教室 みんなの授業
70
第 3 章
就学前の取組
6. 教師の話し方・発問や指示
集団生活でのルール
集団生活での約束事を身につけるためには、ことばで伝えるだけでなく、見てわかる支援(視覚支援)を取り
入れると子どもたちにとってわかりやすくなります。
意 義
子どもたちが、教師の指示を聞いていない、聞いているけれど十分に伝わっていないと思われることがあ
ります。例えば、教師の指示をよく聞き間違えたり、聞き漏らしがあったり、個別で指示すると聞き取れる
生活の中で
学級づくり
が、集団の場面では難しい、教師の指示ではなく周りの友だちの様子を見て動く、といった様子が見られ
ることがあります。
このような子どもは、言葉の理解が遅い、選択的聴取(耳に聞こえてくる音の中から必要な音のみを選
択し集中して聞き取ること)が苦手、短期記憶が苦手などの原因が考えられます。
そのような場合、子どもに理解できるように教師の話し方、発問や指示などの伝え方を工夫することは
①ごはんは座って食べる
②おしっこはトイレでする
③友だちに水をかけない
④友だちを叩かない
昼食前や戸外遊びの前などに、事前にイラストを見せながら約束しまし
た。守れた時、守れなかった時にも再びイラストを見せて、ほめたり話し
たりし、イラストと行動が結びつくようにしました。
とても大切なことです。
取 組
・
「話す人」⇔「聞く人」という関係がわかり、
「話す人」のほうを見る態度が身につくよう、教師が話をす
る位置を変えたりして、教師に注目することを意識させます。
今はしゃべってはいけない
・他のものに気がいっているときなどは、さりげなく子どもの体に触れたりして、注目させるようにします。
・全体に指示を出した後、必要に応じて、個別に指示を出します。
・一度にたくさんの指示を出さず、
「これから、3つのことを言うよ」などといって注意を促します。指示は、
自分で考えて行動するように子どもたちの目につくところに表示をし
ておきます。
授業づくり
具体的なことばで簡単にまとめます。
・言葉の説明だけでなく、必要に応じて、絵や具体物を使って、指示の内容をわかりやすく伝えることもあ
ります。
うがいのとき、
「上を向いて」というだけ
でなく、天井のイラストを見るように伝え
ることでどこまであごを挙げるかがわか
りやすくなります。
具体例
「廊下は走りません」→「廊下を歩きます」
「ちゃんと座りなさい」→「手を膝において、背中をピンとしてください」
「えらいね、すごいね」→「大きな声で読めたね」など
就学前の取組
「もえる」
「もやさない」だけでなく、どんな
ものを入れるかをイラストで示すことで自
分で考えて片づけをすることができます。
遊びの中で
椅子に番号を貼っておくことで「順番」を
見て意識することができます。
71
みんなの教室 みんなの授業
足型をしめすことで、スタート位置がわかり、
しっかり立ってからはじめることができます。
みんなの教室 みんなの授業
72
第 3 章
第
3
章
就学前の取組
就学前の取組
持ち物の始末も、どこに何を置くかが見てわかることで自分のことは自分でしようという気持ちが高まります。
2
保育室の環境を整えよう
意 義
着替え袋
すいとう
タオル、コップかけ
1ヶ月の予定表
一日の予定をホワイトボードに書いておきます
学級づくり
1. 保育室環境の整備
細かい教材も、収納ケースを使って分類していれておきます。
園生活では、幼児が 教師にそ
の都度 指示されて動くのではな
2. 予定表やスケジュール表
く、幼児自身が見通しをもち、自
ら生活を進めたり自分の力で活動
意 義
に取り組んだりできるように、幼
児の理解を助けるような環境を整
えておくことが重要です。幼児が
自ら気づき、自分の力で活動に取
り組むことは自立や自信につなが
収納する台に、どこに置くかを写真
に貼って示しておくと、置く場所で
迷いません。
覚えることが苦手で次に何をす
るのかがわからない、次にするこ
とを指示されないと行動に移れな
い、見通しがもてないと次に何を
ります。
するのか不安になり次の活動に移
取 組
毎日使う教材、どこに何がある
か、見てわかるようにすることで
ズに移行しづらい幼児がいます。
カップ、ラップの芯などの廃材も仲間ごとにかごや箱に入れ、かごに表示をして
おくと使いたいものが一目でわかり、片づけも、自分たちで考えながらできます。
授業づくり
れない、など、次の活動へスムー
そこで、見通しを持つことで落
ち着いて活動し、指示されなくて
も自分でできることが増えるため
遊びたい意欲が高まり、自分から
に、一日の予定表やカレンダーで
遊びだします。片付けも、表示が
一日の流れや一ヶ月の流れを知ら
あるとわかりやすいので子どもた
せることが支援として有効です。
ちだけでできるようになります。
今日のところに印をつけてわかりやすくします
取 組
一日のスケジュールを表にして
おくことで一日の生活の流れがわ
就学前の取組
かり、見通しがもてることで安心
して過ごすことができます。朝、
クラスのみんなで確認したり、表
たなに置く場所を写真で示すことでどこに片づけるかがわかりやすくなります。
を見ながら個別に伝えたりしてお
くとより、安心することができま
一日の予定を写真やイラストで示すこと
で今日、何をするのかがよりわかりやす
くなります
す。
「あと何分で終わる」
「~まであと何分」
ということを赤い表示が減っていくことで
示します。これを見ることによって、子ど
もたちは見通しをもって活動することが
できます。
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みんなの教室 みんなの授業
みんなの教室 みんなの授業
74
第 3 章
第
3
章
3
就学前の取組
就学前の取組
関係作り
3. 友だちとかかわる
意 義
幼児期は自分以外の幼児の存在に気づくことで、友だちと遊びたい気持ちが高まり、次第に友だちとの
1. 安定した気持ちで過ごす
学級づくり
かかわりが盛んになります。
友だちとかかわることを通して、幼児は自己の存在感を確認し、自己と他者との違いに気づき、他者へ
意 義
の思いやりを深めます。また友だちとのかかわりは、集団への参加意識を高め、自律性を身につけること
幼児期は、自分の存在が周囲の大人に認められ、守られているという安心感から生まれる安定した情緒
が支えとなって、次第に自分の世界を広げ、自立した生活へと向
にもつながっていきます。そこで、幼児が友だちと十分にかかわって生活を展開していけるように意図的に
保育を工夫していくことが大切です。
かっていく時期です。また、園が初めての集団生活の場である子
どもが多くいることも踏まえ、家庭的な雰囲気作りや教師の温か
取 組
いかかわりなどを通して、安定して過ごせるような信頼関係を築
くことが重要です。
音楽に合わせて二人組になってするダンス、なべなべそこぬけなど、まずは二人からはじめて、友だちと
一緒にする楽しい遊びをします。
グループでの共同製作、友だちと一緒に考えを出し合い、話し合い、折り合いをつけながらひとつのも
取 組
のを完成させます。
ままごとコーナーや絵本コーナーなど落ち着いて過ごすことができる
4. 行事
2. いろいろな気持ちを知る
意 義
意 義
人間の感情は、発達初期(乳児期)の快・不快という単純、未分化な
授業づくり
場所を作ります。
いたみっこおやくそくカード
ものから、次第に分化していき、複雑になっていきます。幼児期 の感情
行事は、幼児が大きく成長するきっかけとなります。反面、行事に向けての取り組みにおいては、保育の
流れが普段とは違い、流動的になる、集団活動の時間が長くなる、初めての活動や慣れない活動等で見通
しが持ちにくくなるなど、幼児によっては精神的な負担となる場合があります。そこで、見通しを持ち、安
発達の特徴は、他者の感情を理解できるようになることと、自分の感情
心して取り組めるような配慮や、負担をかけすぎないような配慮が必要です。
を調整できるようになることといわれています。
そこで、幼児期において、他者と良好な関係が築けるような自己調整
力や社会性を育てるためには、日常のあらゆる場面で他者や自分の気持
取 組
幼稚園用教育資料『ほほえみ』
就学前の取組
取 組
ちに気づかせ、いろいろな気持ちがあることを知らせることが必要です。
運動会
運動会では、子どもたちが園で楽しく運動遊びをしながら身につけた力をたくさんの人に見ていただきます。
演技については、日頃、子どもが遊びの中で経験している内容から構成していくと、子どもたちは無理なく、楽
しんで運動会に向けての練習に取り組むことができるでしょう。
運動会当日は万国旗がはためき、テントがあり、大勢のお客さんがいる、いつもとは違う状況です。本番前
に昨年の運動会の様子を写真や映像で見ておくと、見通しをもって、安心して参加することができます。
毎日の絵本の読み聞かせの中で登場人物の気持ちを感じるような語り
かけをします。
「いたみっこおやくそくカード」や幼稚園用教育資料『ほ
ほえみ』
(兵庫県教育委員会事務局人権教育課)を使ったカード学習で
友だちの気持ちを考えます。
友だちの素敵なところ見つけ、誕生児へのプレゼント作りなどの活動
で、自分以外の友だちの存在を意識させます。
幼稚園用教育資料『ほほえみ』
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みんなの教室 みんなの授業
みんなの教室 みんなの授業
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園外保育
園を離れて、徒歩やバスで行く園外保育は子どもたちにとって、楽し
みであるとともに、どこで、何をするのか見通しがたたず不安になってし
まうことがあります。あらかじめ下見に行って、子どもたちが活動する場
所、お弁当を食べる場所、トイレのある場所などを確認し、それを写真
やイラスト地図にして示し、どこで、どんなことをするかを事前に知らせ
ることで見通しをもち、安心して、期待して行くことができます。
執筆者一覧
編集協力者
(所属等は平成26年度現在)
(所属等は平成26年度現在)
はじめに
平成26年度伊丹市特別支援連携協議会ワーキンググループ
橋詰 和也 伊丹市立伊丹特別支援学校長
橋詰 和也 伊丹市立伊丹特別支援学校長・座長
礒田かおり 伊丹市立伊丹小学校教頭・副座長
音楽会
七夕参観、楽しい集いなど大勢の前で歌や合奏を披露する参観日に
は、いつもと違う状況で不安になってしまう子どももいます。演奏する
曲の順番をカードに書いて示したり、立つ場所にテープを貼ったりして、
不安を和らげるようにしましょう。また、参加の仕方や内容について、
事前に保護者に伝え、一緒に考えることができるとよいでしょう。
合奏や歌の練習に参加するのが難しかったとき、参加できた日に絵を
描き、がんばったことを目に見える形にすることで意欲を持って参加する
ことができました。
劇遊び
いくつかの場面がある劇遊びでは、場面ごとに自分のせりふや動き、持つ道具、道具の出し入れなどカードに
書いておくと、練習のときにも今日はどこの場面で遊ぶのかがわかりやすくなりますし、参観日当日も必要なと
きに見せるようにすると今、どの場面をしているかがわかり、見通しをもって、安心して、参加できるでしょう。
また、待機場所がわかりやすいように、ビニールテープを床に貼って示します。場合によっては椅子を置いても
よいでしょう。
参観日当日は、いつもと遊戯室の様子が違い、落ち着かなくなることがあります。そのためにも前もって参観
日当日に近い状況で遊んだり、前の年の様子の写真や映像を見せておくとよいでしょう。暗幕の使用などは子
どもたちの様子を見ながら考えます。
<参考文献>
・月刊「実践障害児教育」2010.10~ Vol,448,449,450,452,453
・「できた!わかった!たのしいよ!」大阪市子ども青少年局子育て支援部保育所運営課
・楽しさから始めよう~感覚統合を促す遊びと生活のレシピ~ 遊び心サポートセンター
・すべての子どもが「分かる」
「できる」授業づくりガイドブック 高知県教育委員会 平成25.3
渡邊 真美 伊丹市立伊丹特別支援学校
実践事例 執筆順
吉田 紀子 伊丹市立伊丹特別支援学校
松元 朋歌 伊丹市立荻野小学校
山本 容子 教育委員会事務局総合教育センター
仁田 洋子 伊丹市立桜台小学校
杉本 浩 伊丹市立伊丹小学校
南川 佐都 伊丹市立荻野小学校
事務局
村上 英里 伊丹市立南小学校
春名 潤一 教育委員会事務局学校指導課長
寺澤麻里絵 伊丹市立笹原小学校
廣重久美子 教育委員会事務局学校指導課
小木曽恵美子 伊丹市立伊丹小学校
八束 伸明 教育委員会事務局学校指導課
佐古 賢一 伊丹市立伊丹小学校
杉本 浩美 教育委員会事務局総合教育センター
福本 恭 伊丹市立北中学校
盛田妃香莉 教育委員会事務局学校指導課
志水 誠司 伊丹市立有岡小学校
藤本 幸子 伊丹市立南小学校
林 美幸 伊丹市立笹原小学校
兼田 千春 伊丹市立鈴原小学校
小山 恭子 伊丹市立瑞穂小学校
福本 恵美 伊丹市立南幼稚園
大川 織雅 伊丹市立みずほ幼稚園
実践事例協力
平成26年度グループ研究「幼児教育における特別支援」研究会
合理的配慮協力員
盛田妃香莉 教育委員会事務局学校指導課
山本 容子 教育委員会事務局総合教育センター
江原 鮎美 伊丹市立伊丹特別支援学校
堀本 真先 伊丹市立桜台小学校
江戸明日香 伊丹市立有岡小学校
宮城 真理 伊丹市立南中学校
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