堆積岩中の重金属類の風化と溶出特性に関する考察

堆積岩中の重金属類の風化と溶出特性に関する考察
Weathering and leaching characteristics of toxic heavy metals of sedimentary rock mucks
○田本修一,岡﨑健治,阿南修司,伊東佳彦(寒地土木研究所),五十嵐敏文(北海道大学)
Shuichi Tamoto,Kenji Okazaki,Shuji Anan, Yoshihiko Ito,Toshihumi Igarashi
1.はじめに
変質を受けていないこと,同一のボーリング孔で風化
重金属,揮発性有機化合物等による土壌汚染が顕在
部・未風化部が出現することに留意した.なお,表-2
化してきたことを背景に,平成 15 年 2 月に人為的活動
に示す風化区分のうち,泥岩の未風化部と中風化部お
による土壌汚染を対象に「土壌汚染対策法」が施行さ
よび砂岩の未風化部を試料とした.
れた.これを受けて平成 15 年 7 月に「建設工事で遭遇
X 線粉末回折結果を表-3 に示す.不定方位試料では,
する地盤汚染対応マニュアル(暫定版)」1) が発刊され
泥岩は石英,斜長石を主成分鉱物とし少量の粘土鉱物
た.しかし自然由来の重金属類については,人為由来
を含む.砂岩は泥岩と比べて斜長石を多く含んでいる.
の汚染に準じるとされているのみで,より実態に即し
定方位試料では,泥岩は緑泥石.スメクタイト,雲母/
た自然由来の重金属類についての評価,対策手法の確
スメクタイト混合層鉱物,雲母を含む.未風化試料と
立が急務となっている.
中風化試料を比べるとスメクタイトの相対量の相違が
北海道内の土木工事においても,海成堆積岩や熱水
見られる.砂岩は,粘土鉱物は雲母を主とし,少量の
変質の影響を受けた火山岩分布域を中心として,環境
緑泥石,雲母/スメクタイト混合層鉱物を含むが,泥岩
基準を超過して重金属類が溶出したり,酸性水が流出
試料の比べ膨潤性粘土鉱物が少ない.
したりする事例が確認されている.これらの事例のう
表-1
ち道路建設事業ではシート等による遮水による汚染拡
散防止対策が主体となっているが,費用が高く全体工
事費の大幅な増加の要因となっている.
砒素や鉛などの重金属類は土壌による吸着効果が大
岩種
砂岩
きいため,汚染土を覆土や敷土によって包み込むこと
によって,降雨による水の浸透と酸素の侵入が抑制さ
れ重金属類の溶出が低減されるとともに,土壌から溶
出した重金属類は敷土への吸着により,外部への溶出
濃度の低減が期待される.この方法を実際の対策に適
泥岩
試料の概要
記載
暗灰色のワッケ質中粒砂岩で,変形作用
を受けている。灰白色の鉱物脈がネット
ワーク状に生成。
未風化部が暗灰色、中風化部が褐色を帯
びる灰色を呈するが、顕微鏡観察では構
成物の変化は顕著に見られず、基質部の
褐色化のみである。また、中風化部で
あってもフランボイダル黄鉄鉱が残存し
ている。
表-2
用するには溶出源の特性を適切に評価することが重要
である,現状では岩石ずりからの重金属類の溶出評価
風化区分
には,全量分析値が用いられることがあるが,この方
強風化部
法では重金属類の岩石中の結合形態にかかわらず分析
しており,溶出現象に対しては溶解しにくい成分も含
めた過大な評価となるため,溶出源の合理的な評価を
行うことが求められている.
本報では,岩石ずりからの合理的な重金属類溶出源
中風化部
弱風化部
未風化部
風化区分
特 徴
褐色化が著しく 、岩 組織 は認 めら
れず土砂化している。
岩組織は認めら れる が、 全体 に褐
色化が進行し、軟質化している。
岩 組 織が 明瞭 で岩 芯は 新鮮 であ
る。割目沿いに 褐色 化が 進行 し、
割目面のみ軟質化している。
褐色化は認められない。
評価法の構築を目的に,堆積岩中の重金属類の溶出特
性について,存在形態と風化の影響を検討するため,
表-3
北海道内のトンネル建設現場で採取された試料を用い
て分画抽出試験を行い,重金属類存在形態の変化と連
続溶出試験による重金属類の溶出特性について考察す
る.
2.試験方法
2.1
試料
試料は,北海道内のトンネル建設の事前調査ボーリ
ングコアから採取した砂岩と泥岩(表-1)である.ボ
ーリングコアからの試料採取では,岩種が均質で熱水
石英
斜長石
緑泥石
不定方位
雲母
混合層
鉱物※
緑泥石
スメクタイト
定方位
混合層
鉱物※
雲母
X 線粉末回折結果
泥岩
砂岩
未風化試料 中風化試料 未風化試料
○
○
○
△
△
○
×
×
×
×
×
×
×
×
△
×
△
△
△
△
△
△
○:多量,△:中量,×:少量,空白:不検出
※:雲母/スメクタイト混合層粘土鉱物
△
○
表-4
形 態
吸着態(イオン交換態)
炭酸塩態
鉄・マンガン酸化物態
有機態
難溶性鉱物態
記 載
分画抽出試験
分画抽出試験は,岩石中に含まれている重金属類が
イオン交換で溶出してくる状態で、最も水に溶けや
すい形態。
吸着態よりも強く結びついた状態で、イオンとして存
在しているが吸着態よりも溶出しにくい形態。
非晶質の鉄酸化物に含まれているような状態で、
表流水や雨水のような酸素がある状態ではあまり
溶出しにくい形態。
腐植有機物とキレート化合物を形成している状態
で、化学的に安定しており鉄・マンガン酸化物態よ
りも溶出しにくい形態。
一番溶出しにくい状態であり、様々なものが考えら
れるが、例えば黄鉄鉱などの硫化鉱物の結晶中に
取り込まれており、高濃度の酸等で酸化分解しな
いと溶出しない形態。
表-5
風化の影響によりどのような存在形態の変化をするの
かを把握するために行った.試料は,砂岩では未風化
部の試料を用い,泥岩では未風化部,中風化部の試料
を用いた.抽出試験は,吸着態,炭酸塩態,鉄・マン
ガン酸化物態,有機態及び難溶性鉱物態の5形態の抽
出処理を行った 2).各抽出処理段階の形態については,
表-4 に示す.また,抽出後の検液の分析は ICP-MS を用
いた.
底質調査法による含有量試験結果
泥 岩
中風化部
未風化部
砂 岩
未風化部
分析項目
単位
総硫黄
%
<0.005
0.165
0.019
カドミウム
mg/kg
0.03
0.04
0.02
鉛
mg/kg
19.3
21.3
10.4
ヒ素
mg/kg
6.2
6.3
5.8
鉄
%
3.30
3.06
1.87
セレン
mg/kg
<0.1
0.5
<0.1
フッ素
mg/kg
159
125
99
ホウ素
mg/kg
86.2
66.5
21.6
含水率
%
3.7
2.9
0.1
強熱減量
%
3.1
2.4
0.9
カルシウム
%
0.375
0.599
0.587
表-6
2.2
2.3
各抽出段階における化学的状態
環境省告示第 19 号による含有量試験結果
泥 岩
中風化部
未風化部
砂 岩
未風化部
分析項目
単位
カドミウム
mg/kg
<0.5
<0.5
<0.5
鉛
mg/kg
<10
<10
<10
ヒ素
mg/kg
0.6
1.8
1.6
セレン
mg/kg
<0.5
<0.5
<0.5
フッ素
mg/kg
85
60
<40
ホウ素
mg/kg
<40
<40
<40
カルシウム
%
0.363
0.535
0.303
総硫黄
%
0.014
0.017
0.018
含有量試験及び連続溶出試験
各試料中の重金属類含有量を把握するため,底質調
査法及び環境省告示第 19 号による含有量試験を行った.
3.試験結果と考察
3.1
含有量試験及び連続溶出試験
底質調査法による含有量試験結果を表-5 に示す.泥
また,経時的な重金属類溶出を把握するため,連続溶
岩の未風化部と中風化部を比較すると,総硫黄,カル
出試験を行った.試料は,砂岩では未風化部の試料を
シウム,セレンの減少傾向が見られ,フッ素,ホウ素
用い,泥岩では未風化部,中風化部の試料を用いた.
は増加傾向が見られる.ヒ素,カドミウム,鉛,鉄に
連続溶出試験方法は,環境省告示第 18 号試験に準じて
は大きな差が生じていない.
検液を作成し,回収した上澄み液と同量の純水を残渣
環境省告示第 19 号による含有量試験結果を表-6 に示
に添加し,これを所定回数繰り返すものである.含有
す.全試料で,カドミウム,鉛,セレンおよびホウ素
量試験及び連続溶出試験の各検液の分析は,ICP-MS を
は検出限界値以下を示す.ヒ素は,泥岩の未風化部で
用いた.
1.8mg/kg,中風化部では 0.6mg/kg であり 30%程度低下
(1)
泥
岩
(2)
図-1
砂
岩
砂
岩
連続溶出試験結果
未風化部
砂
岩
未風化部
吸着態
炭酸塩態
鉄・マンガン酸化物態
有機態
難溶性鉱物態
未風化部
未風化部
泥
岩
泥
岩
中風化部
0.00
中風化部
2.00
4.00
6.00
8.00
0.00
0.10
ヒ素含有量(mg/kg)
(1)
ヒ
0.20
0.30
0.40
0.50
セレン含有量(mg/kg)
吸着態セレン
(2)
素
図-2
分画抽出試験結果
3.2
している.カルシウムおよび総硫黄は,泥岩では中風
分画抽出試験
ヒ素,セレンの分画抽出試験結果を図-2 に示す.ヒ
素は,泥岩の未風化部では難溶性鉱物態が 42.2%で最
化部で低下する傾向が認められる.
連続溶出試験において重金属類は泥岩でヒ素とセレ
も高く,続いて鉄マンガン態が 21.1%,吸着態が 20%,
ン,砂岩でヒ素のみが検出された.これらと pH の変化
有機態が 14.4%を示し,炭酸塩態が 2.2%である.中
を図-1 に示す.図のようにヒ素およびセレンについて
風化部では,未風化部と比較して難溶性鉱物が減少し
は溶出回数の増加に伴い溶出量が低下する傾向が見ら
有機態が増加した.また,吸着態と鉄マンガン態の減
れる.ヒ素はアルカリ性で溶出しやすい
3)
ため,泥岩
少も認められる.
では pH の低下に伴い溶出量が低下していると考えられ
セレンの各形態の占める割合は,泥岩の未風化部で
る.一方,砂岩では溶出量は低下するが pH は 9 程度で
は吸着態が 33.3%と最も高く,続いて有機態と難溶性
ほぼ一定であった.
鉱物態が 22.2%,炭酸塩態と鉄マンガン態が 11.1%で
ある.中風化部では全て検出限界値以下となり,風化
によるセレンの形態変化は不明である.なお,砂岩で
は全て検出限界以下を示す.
3.3
考
察
各試験結果から堆積岩の重金属類溶出特性について
風化の影響を考察する.以下に連続溶出試験で検出さ
れたヒ素,セレンについて考察する.
(1)ヒ素
表-5 に示すとおり風化の程度の違いによって底質調
査法による含有量に有意な差はないことがわかる.し
かし,図-1 に示す分画抽出試験の結果からも明らかな
ように,中風化部と未風化部を比較すると,風化によ
って難溶性鉱物態,吸着態,鉄マンガン態が減少し,
有機態が増加する.この結果から,風化によってヒ素
の全含有量は変化しないものの,形態が異なることに
よってヒ素溶出量が変化するものと考えられる.表-6
に示される環境省告示第 19 号による含有量試験での 1
規定塩酸に可溶な量が低下していることも,ヒ素の形
態の変化で溶出特性が変化することを支持する.ただ
し,連続溶出試験結果より,pH は未風化部でアルカリ
性であるが風化部では中性域に低下していることから,
ヒ素溶出量の低下は pH の影響も受けている可能性があ
る.
(2)セレン
泥岩中のセレンは,表-5 より底質調査法による含有
量試験結果から風化によって低下する点と,図-1 に示
す分画抽出試験結果から風化によって吸着態,炭酸塩
態,鉄マンガン態,有機態,難溶性鉱物態の含有量が
全て低下して検出下限値以下となることから,泥岩中
のヒ素と比較してセレンは風化による溶脱を受けやす
い特性であることがわかる.
4.おわりに
トンネル建設現場及びボーリングコアから採取した
堆積岩を用いて重金属類の溶出特性について風化の影
響を検討した.その結果,本試験に用いた試料のヒ素
の溶出特性は,風化を受けると存在形態が変化するこ
とで溶出量が変化するが,セレンの溶出特性はヒ素よ
りも溶出しやすいため溶脱が早く進み,溶出しやすく
なると考えられる.
今後は,データの蓄積や堆積岩の重金属類溶出源評
価のための溶出総量について考察していく予定である.
参考文献
1)
(独)土木研究所:建設工事で遭遇する地盤汚染対
応マニュアル(暫定版),鹿島出版会,2004.5.
2)丸茂克美他:日本各地の土壌中の重金属含有量と
鉛同位体組成,資源地質,Vol.53(2),pp.125-146,2003.
3)吉村尚久、赤井純治:土壌及び堆積物中のヒ素の
挙 動 と 地 下 水 汚 染 - 総 説 - , 地 球 科 学 , Vol.57 ,
pp.137-156,2003.
堆積岩からの重金属等の溶出挙動
Leaching mechanism of heavy metals from various sedimentary rocks
○垣原康之,高橋 良,遠藤祐司,八幡正弘,野呂田晋(道立地質研究所)
駒井 武,原 淳子,川辺能成(産業技術総合研究所)
Yasuyuki Kakihara, Ryo,Takahashi, Yuji Endou, Masahiro Yahata, Susumu Norota
Takeshi Komai, Junko Hara and Yoshishige Kawabe
1. はじめに
堆積岩の分布域で行われる建設工事現場において,
自 然 由来 と判 断さ れ る岩 石か ら 溶出 する ヒ素 ・ セレ
化状態,塩素イオン濃度などの化学的境界である. B)
と C)の境界は波浪による粒子の撹拌の有無に基づく
物理的境界と言える.
ン・ホウ素が土壌溶出基準値を 1~3 倍程度超過する建
調査地域に分布する各層は下位から,上部蝦夷層群
設残土が発生している(丸茂ほか,2003).これらの堆
(C),函淵層群(B,一部 A),不整合を介して,始新
積岩の多くは,鉱床地帯でみられるような熱水変質作
世石狩層群は下位から,厚層砂岩層を特徴とする登川
用を受けていないことから,堆積~続成作用時に上述
層(A),淡水湖底堆積物を特徴とする幌加別層(A),
の元素を含有したものと考えられる.
良質な石炭層を特徴とする夕張層(A),海進期の浅海
現世堆積物~表層堆積物では,堆積場の環境により
堆積物を特徴とする若鍋層(B).さらに不整合を介し
岩石からのヒ素の溶出挙動が異なっている(例えば,
て,塊状無層理のシルト岩を特徴とする始新世幌内層
札幌市,2009).加えて,海成泥岩においてヒ素の溶出
(C)が分布する.
量が高い傾向を示すなど,岩石生成時の堆積場とそれ
らの岩石からのヒ素・セレン・ホウ素などの溶出量と
3. 溶出試験
は相関があるように思われる.この検証のために現在
本報告の岩石試料はすべて地表踏査により露頭から
の堆積場から試料を採取することもひとつの方法であ
採取したものである.各露頭において風化の影響の小
るが,部分的に容易である一方,海底や湖底などの採
さな試料(変色の程度が小さいもの)を採取するよう
取が難しい堆積環境や,立ち入り規制や建造物などの
にした.
人為的な制限も多い.
岩石試料約 50g をボールミルを用いて粉砕した.こ
本研究では,地層として保存されている堆積岩の堆
の粉末3gを純水 30mL を混合し,振とう器を用いて
積場に着目して,現世において採取困難な環境で堆積
200rpm で6時間振とうさせた後,20 分間静置後,遠
した堆積岩からの重金属等の溶出挙動を推定すること
心器で 20 分間懸濁物を沈殿させた.この上澄み液を
を目的とした.北海道空知支庁夕張市真谷地には,下
10cc 取り,メンブランフィルタ(0.42μm)を通した
位から白亜紀(一部,暁新世)の上部蝦夷層群・函淵
ものを検液とした.この検液を産業技術総合研究所に
層群,不整合を介して始新世石狩層群・幌内層群など
設置されている ICP-MS(SHIMADU ICPM-8500)を
の陸域から浅海・海域までの堆積物が分布する.また,
使用して,ヒ素・セレン・ホウ素の含有量を測定した.
この地域は,効率的な石炭採掘のために,複雑な地質
なお今回採用した分析方法は,検体試料の採取法・
構造であるにもかかわらず,層序・古環境の詳細な検
粒径・振とうさせる量(試料:純水比のみ同じ),濃度
討が行われている.
分析法などが公定法とは異なっているため,公定法試
これらの地層から採取した各試料の溶出挙動を明ら
験との単純な比較はできないことを付け加えておく.
かにすれば,陸域から海域にかけての各堆積場で起こ
る重金属等の固定・溶出挙動として,他地域・他時代
の岩石にも適用できる可能性がある.
4. ヒ 素 ・ セレンの
セレン の 溶出挙動
ヒ素の溶出量は,この区分に基づくと,C)外洋性波
浪限界以深の上部蝦夷層群の泥岩において溶出基準を
2. 各層の
各層 の 堆積環境
対象地域に分布する各層の堆積環境を,既報の資料
(下河原ほか,1963 など)に基づいて
超過する試料がみられた.また基準値以下の試料につ
いても,他の堆積岩よりも同区分の岩石は高い価を示
す傾向がみられた.一方,A)に区分される岩石は,概
A)淡水域(汽水を含む)
してヒ素の溶出量は基準値以下であり,かつ値も小さ
B)海域(静穏時波浪限界深度以浅)
い.なお B)に区分される岩石は溶出基準値を超過して
C)海域(静穏時波浪限界深度以深)
いない.
の3つに区分した.A)と B)の境界は,主に pH,酸
セレンの溶出量は,C)内湾性波浪限界以深の幌内層
群シルト岩および中部蝦夷層群泥岩において溶出基準
一方,石炭層周辺の砂岩・泥岩には石炭片が頻繁に
値を超過する試料がみられた.一方,波浪限界以浅の
含まれていることが多い.これらの試料について石炭
海域の地層は,溶出基準値を超過する試料は認められ
片が混在した状態で溶出試験を実施した.その結果,
なかった.
ほとんどの試料で溶出基準を超過するヒ素の溶出量を
5. 考察
粉砕状態の石炭片は,泥岩との混在状態において高い
示した.以上の結果は,通常は溶出基準を超過しない
静穏時波浪限界以浅の地層は常に波浪営力(振動流)
ヒ素の溶出量を示す可能性があることを示す.今後は
により撹拌されている状態にある.このためにヒ素を
溶出に至るメカニズムについて検討していく必要があ
吸着しているであろう細粒粒子が,この営力により海
る.
水との攪拌状態を経て堆積物中から取り去られる.こ
のため B)の堆積環境では相対的にヒ素を吸着している
細粒粒子の割合が小さくなり,溶出基準値を超過する
引用文献
丸茂
ような事例が認められなかったものと考えられる.一
万分の 1 姉崎」. 産業技術総合研究所地質調査
方,細粒粒子はより沖合に浮遊して,静穏時波浪限界
以深に運搬される.この環境では吸着状態のヒ素の割
総合センター(CD-ROM 数値地質図 E-1)
札幌市(2009)札幌市における自然由来ヒ素の判定方
合が高くいため,相対的に高いヒ素の溶出量を示した
ものと考えられる.
法について(答申),13p.
下河原
一方,セレンは海水中で[SeO4]の形態で溶解してい
るが,これが生物中に取り込まれることで有機セレン
克美ほか (2003) 土壌・地質汚染評価基本図「5
寿男(1963)夕張炭田の形成とその地質構造
の発展.石炭地質研究,5,244p.
寺島
滋ほか (2005) 日本海東部の海底堆積物中の
に変化する.この生物遺骸が埋積することで海成堆積
微量セレンの地球化学的研究. 地質調査研究報
物中にセレンが濃集する(寺島ほか,2005).このため
告, 56, 325-340.
に静穏な環境の波浪限界以深の泥岩でセレン溶出量が
高いと判断される.なお,いったん堆積物中に固定さ
れたセレンは,酸化環境にさらされると,海水や地下
水に溶解する可能性がある.堆積物中に固定され続け
るためには還元環境が必要であり,物理的挙動だけで
はなく,酸化還元状態も重要と思われる.
6. 石炭層の
石炭層 の ヒ 素 の 溶出挙動
石狩層群登川層および夕張層中には良質な石炭層が
挟在されており,夕張炭田として 1980 年代中頃まで大
規模に稼行されていた.これらのうち比較的良質な石
炭層について重金属等の溶出試験を行った結果,他の
堆積岩と比して,ヒ素の溶出量は 0.005mg/L 以下と低
かった.そこで石炭試料についてヒ素の逐次抽出試験
を実施した.全量溶解による全岩ヒ素含有量は,石炭
層と炭質砂岩がともに 7.4ppm と上部蝦夷層群の泥岩
(2.1ppm)と幌内層の泥岩(3.4ppm)よりも有意に高
い.しかしながらイオン交換態は,いずれの試料も 2.0
~2.5ppm と変わらなかった.石炭層に含有されるヒ素
の形態は「鉄マンガン酸化物分画」のヒ素の割合が高
く,相対的に「結晶格子分画」が低い.
油汚染事故対策のための北海道立地質研究所の沿岸調査
Coastal research of GSH for oil spill response activity
○濱田誠一(北海道立地質研究所)
Seiichi Hamada
2.油自然残留特性評価のための礫形評価手法
1.はじめに
2008 年 12 月,北海道に隣接するサハリン島ではサハ
1997 年のナホトカ号油流出事故をケーススタディー
リン2石油開発にともなう原油の通年出荷が開始され
に,実際に長期的な油残留が見られた礫浜を地質学的
た.これは我が国への安定的なエネルギー供給をもた
観点から検証し,漂着油が自然に洗い流される作用を
らす一方で,沿岸に油汚染の懸念をもたらしている 1).
評価するための手法を検討した.予察調査の結果,油
特にオホーツク沿岸はサロマ湖や知床などアクセス困
が長期残留する海岸には,礫形が角張るなどの地学的
難で生物環境への影響が深刻な沿岸がみられ,防除作
特徴が見られ,この特徴を定量的に指標化することに
業が困難な場所も多い.地域防災計画では大規模油流
より油の残留特性を客観的に評価する手法を検討した.
出事故時の陸域の活動調整を北海道が担うとされ,適
事故後の油残留年数がモニタリングされた能登海岸
切な調整のための沿岸情報の把握が求められている.
のうち,安山岩質の cobble 礫で形成され,河川の礫供
北海道立地質研究所は,北海道の重点領域研究とし
給をほとんど受けない海岸 11 地点を調査対象に抽出し
てオホーツク沿岸で油防除が困難となるエリアの防除
た.各地点で 50 個の礫を後浜上限部から採取し,礫形
活動を想定した「オホーツク海沿岸環境脆弱域におけ
を撮影した. 撮影は市販の デジタルカメ ラを使用し
る油汚染影響評価とバイオレメディエーション実用化
2048×1536 ピクセルで撮影した(図2①).撮影では,
に関する研究」を実施し,沿岸部における防除活動の
礫の最大投影面を真下に向け,透明の撮影台の下に固
ための情報図等を作成した(図1).ここでは研究のな
定したデジタルカメラから空を背景に撮影した.空が
かで実施した地質学的検討のうち,礫形をもとにした
背景なので礫の周囲に影ができず,シャープで高コン
油残留特性に関する評価手法の概要を報告する.
トラストの輪 郭画像が取得 できた.画像 処理ソフト
ImageJ による画像処理により白黒二値化画像に変換し,
1ピクセルあたり約 0.15-0.18mm の画像を得た(図2
②).その輪郭画像から XY 座標値を抽出し(図2④),
エクセルによる解析を行った.解析では座標データを
重心から輪郭までの距離のグラフとして展開し,この
ピークの鋭さを角度として測定し,礫の角張り具合の
指標値とした(図2⑥).礫の輪郭が円であれば,重心
から輪郭までの距離は一定となりグラフは横一直線と
なる.一方,輪郭に凹凸があれば,凹凸に応じてグラ
フは波打ち,尖ったピークが現れる.エクセルの処理
図1
地域緊急時計画に活用された沿岸情報図
図2
はマクロ機能を用いて自動的な処理を行った.
現地調査におけるデジタルカメラを用いた礫形の収集と評価方法
図3
礫浜の「礫の角張り具合」を示す指標と油残留年数に見られた関連 2)
2.礫の「角張り具合」と油残留年数の関連性
の波の遡上強度を示す一方,礫形指標は「通常時」の
得られた礫形指標値をナホトカ号事故後の油残留年
波の作用を長時間受け,波の作用をより多く「記録」
数と比較したところ,相関係数R2 乗値は 0.858 を示し,
しているためであると考えられる.本研究で検討した
一定の条件をそろえた礫浜では,礫形と油残留年数に
礫形指標は漂着油残留特性の評価や海岸線におよぶ遡
極めて高い相関が見られた(図3)
2)
.
この後,礫形と油残留特性が関連する要因を検討す
るため,海岸に作用する波の作用が関与する「波高」,
上波の強さの評価を行う上で有効な指標になると考え
られる.
岩礁帯の分布幅から求めた指標は,油残留年数との
「後浜上限高度」,
「岩礁帯の幅」の関連性を検討した.
相関がさほど高くなかったものの,空中写真判読によ
調査の結果,漂着油の残留年数が長期化する海岸には,
り求めることが可能であり,知床・枝幸・網走など,
汀線付近に波を遮蔽する岩礁が多く,汀線を遡上する
波食台が広く分布しアクセスが困難な海岸の油残留特
波の作用が弱く(後浜上限高度が低い),礫形が角張っ
性を推定する手法として有用と考えられる.
ていることが明らかとなり,これらに比較的高い相関
が見られた(図4).
参考文献
1) 村上隆 2003:サハリン大陸棚石油・ガス開発と環境
3.考察
保全.北海道大学図書刊行会 pp.430
礫形指標は検討した地学的要素の指標中でも油の残
2) 濱田誠一・沢野伸浩
2009: 漂流油残留年数と海岸
留年数ともっとも相関が高く,後浜上限高度より高い
の礫形の関連性-ナホトカ号事故事例より-.環境情
相関を示した.これは後浜上限高度が,「暴浪時のみ」
報科学論文集 vol.21 p.13-18
図4
礫浜における遡上波-礫形状-油残留時間に見られる関連性
強制乾燥状態および強制湿潤状態における熱水変質岩の
円柱(縦)点載荷強さと一軸圧縮強さとの関係
Relationship between Cylinder (Longitudinal) Point Load Strength and Uniaxial Compression Strength of
Hydrothermally Altered Rocks under the Foced Dry- and Wet-States
○ 河 野 勝 宣 ( 北 見 工 業 大 学 大 学 院 工 学 研 究 科 ), 前 田 寛 之 ( 北 見 工 業 大 学 工 学 部 社 会 環 境 工 学 科 ),
小 竹 純 平 ( 株 式 会 社 開 発 調 査 研 究 所 ), 仁 井 太 陽 ( パナソニック電 工 テクノストラクチャー株 式 会 社 ),
鹿毛一平(久留米地区広域消防組合)
Masanori KOHNO, Hiroyuki MAEDA, Junpei KOTAKE, Motoharu NII and Ippei KAGE
1.緒
言
Sea of Okhotsk
新鮮岩や変質岩の強さは,一般に,一軸圧縮強さに
Abashiri Subprefecture's
Engaru Town
N
よって評価される.しかし,岩体には,断層や節理や
Ikutahara-Minami
Landslide Area
クラックなどがあるため,露頭から一軸圧縮試験片を
作製できる大きさの試料を採集できないこともある.
また,一軸圧縮試験は,供試体の成形の良し悪しや載
Sea of Japan
Kitami
荷方式が大きく影響する試験であるため,必要な量の
供試体を準備できたとしても,試料本来の正確な一軸
Sapporo
圧縮強さが得られない可能性がある.このようなとき
Kushiro Subprefecture's
Teshikaga Town
でも,点載荷試験は,一軸圧縮試験に比べて小さな岩
Okushunbetsu
Landslide Area
石試料で,非成形で,フィールドでもおこなえ,岩石
の強さを迅速に評価できるので,非常に有効である
2)
1),
Pacific Ocean
.それで,点載荷強さから一軸圧縮強さを算出でき
れば非常に便利であるとともに,コスト縮減にもなる.
図-1
ここで,点載荷強さと一軸圧縮強さとの関係は,一
100 km
0
北海道遠軽町生田原南地すべり防止区域およ
び弟子屈町奥春別地すべり地域南部の位置図
2)
軸圧縮強さが点載荷強さの 12.3~15.0 倍 ,20~25 倍
3)
および 24 倍
4), 5)
であることが過去の研究で報告され
ている.しかし,いずれの事例も花崗岩や玄武岩など
Acid alteration
zone group
の硬岩には成立するが,軟岩や中硬岩では全く成立せ
ず,また,載荷方向,供試体の形状や寸法,点載荷強
さの計算方法などが統一されていない.
この研究発表では,代表的な軟岩および中硬岩であ
Neutral alteration
zone group
Alkaline
alteration
zone group
る熱水変質岩の円柱(縦)点載荷強さと一軸圧縮強さと
Silicate series
K series
Ca-Mg series
Alunite - opal
zone
Alunite - quartz
zone
Halloysite
zone
Kaolinite
zone
Stilbite
zone
Na series
Clinoptilolite
zone
Illite
zone
Int. Ill/Smc
zone
Smectite
zone
Ca series
Dickite
zone
Mordenite
zone
K-feldspar
zone
Propylitic
zone
Int. Chl/Smc
zone
Heulandite
zone
Pyrophyllite
zone
Laumontite
zone
Wairakite
zone
Albite
zone
Analcite zone
□ : hydrothermal alteration zones examined in this study.
Int. Ill/Smc: interstratified illite/smectite minerals,
Int. Chl/Smc: interstratified chlorite/smectite minerals.
の関係を明らかにすることを目的としておこなった試
験結果について報告する.
Sulfate series
図-2
熱水変質岩の分類(Utada, 1980 6),一部修正・
加筆)
2.研究試料および試験方法
2.1 研究試料
(2) 奥春別地すべり地域:試料は鮮新統志計礼辺山溶
研究試料である熱水変質岩は,北海道遠軽町生田原
岩に発達する熱水変質帯のアルーナイト-石英帯デイ
南地すべり防止区域(以下,「生田原南地すべり地域」
サイトと,中新統シケレペ層およびハナクシベ層に発
と記す.)および北海道弟子屈町奥春別地すべり地域南
達する熱水変質帯のクローライト/スメクタイト混合
部(以下,「奥春別地すべり地域」と記す.)(図-1)の
層鉱物帯細粒凝灰岩,ヒューランダイト帯火山礫凝灰
露頭や転石からハンマーを使って採集した.熱水変質
岩,モルデナイト帯細粒凝灰岩および軽石凝灰岩,ク
帯は,主に地表踏査および粉末 X 線回折試験によって
リノタイロライト帯細粒凝灰岩およびスメクタイト帯
検討し,Utada (1980)6)に基づいて分類した(図-2).
細粒凝灰岩である(表-1).
(1) 生田原南地すべり地域:試料は上部中新統生田原
これらの岩石試料には,波状葉理や平行葉理が見ら
層に発達する熱水変質帯のクリノタイロライト帯細粒
れるものや,たまねぎ状風化が見られるものがある.
凝灰岩およびこの地域に掘削された垂直ボーリング孔
のコア試料から採集した熱水変質帯のハロイサイト帯
軽石凝灰岩および凝灰質礫岩である(表-1).
2.2 供試体の作製方法
点載荷試験は,本来,非成形でおこなわれるが,非
成形では点載荷強さのばらつきが大きい
7)
ので,強さ
表-1
供試体個数および試験結果
Forced dry-state
Sampling
site
Rock
facies
Ikutahara
Teshikaga
Point load test
Uniaxial compression test
Hydrothermal
Is
qu
Number of
alteration zone Number of
Cv (%)
Cv
(%)
specimen
specimen
(MPa)
(MPa)
Alu-Qtz zone
f Tf Chl/Smc(+) Chl/Smc zone
lap Tf
Smc(+)
Hul zone
Smc(+)
Smc(+)
pm Tf
Smc(+)
Smc(+)
Mor zone
f Tf
pm Tf
Smc(+)
Smc(-)
f Tf
Cpt zone
Smc(+)
Smc(-)
Smc(+)
Smc zone
Smc(+)
Dac
Teshikaga
Forced wet-state
Swelling
clay
mineral
-
14
1.79
10.4
5
23.66
8.7
qu/Is
18
2.01
19.5
2
15.19
9.1
7.56
3.14
4.9
5
36.69
1.8
11.68
5
1.20
7.4
1
15.24
0.0
12.70
9
1.33
9.3
1
14.00
0.0
10.53
19
1.57
10.7
5
16.26
7.3
10.36
22
1.66
6.0
13
17.63
8.0
10.62
7
3.42
14.3
5
31.14
15.0
9.11
11
2.77
8.9
10
26.03
7.2
9.40
8.5
3
29.78
0.9
10.75
2.77
12
1.67
17.1
4
41.56
7.0
24.89
14
1.43
15.8
3
23.32
2.2
16.31
7
1.51
8.3
6
Rock
facies
18.49
2.9
8
0.86
23.2
2
8.93
18.9
10.38
65
1.94
28.0
4
26.44
5.3
13.63
11
0.92
19.1
3
19.86
2.4
21.59
15
1.20
12.1
1
21.47
0.0
17.89
14
0.79
26.4
1
17.35
0.0
21.96
15
1.00
9.7
5
22.10
4.1
22.10
14
2.24
28.6
3
18.09
22.7
8.08
15
0.90
40.8
1
10.67
0.0
11.86
Teshikaga
12.25
Ikutahara
Teshikaga
Ikutahara
Swelling
clay
mineral
Point load test
Uniaxial compression test
Hydrothermal
qu
Is
Number of
alteration zone Number of
Cv (%)
Cv
(%)
specimen
specimen
(MPa)
(MPa)
Alu-Qtz zone
f Tf Chl/Smc(+) Chl/Smc zone
lap Tf
Smc(+)
Hul zone
pm Tf
Smc(+)
f Tf
Mor zone
pm Tf
Smc(+)
Smc(+)
Smc(-)
f Tf
Cpt zone
Smc(+)
Smc(-)
Smc(+)
Smc zone
Smc(+)
tf Cg 10ÅHa(-)
Ha zone
pm Tf 10ÅHa(-)
Dac
13.22
28
19
Sampling
site
-
15
1.51
15.5
5
15.64
21.0
15.0
qu/Is
10.36
19
0.09
45.6
4
1.21
27
0.88
15.0
4
11.47
3.2
13.03
44
0.46
17.8
17
4.73
12.5
10.28
13.44
18
0.94
11.4
10
16.65
19.8
17.71
13
0.69
11.8
5
8.08
9.5
11.71
7
0.48
23.0
5
5.81
14.3
12.10
1
0.51
0.0
1
6.23
0.0
12.22
4
0.53
14.3
1
6.44
0.0
12.15
4
0.33
22.8
4
4.47
10.8
13.55
12
0.15
23.2
3
2.52
12.6
16.80
66
0.50
32.3
3
7.70
29.1
15.40
12
0.39
33.4
4
4.08
11.7
10.46
35
0.52
17.6
2
5.20
1.4
10.00
16
0.35
28.4
4
4.36
3.5
12.46
32
0.46
20.9
3
5.36
3.5
11.65
17
0.44
24.8
1
4.60
0.0
10.45
8
0.73
28.8
1
6.08
0.0
2
0.11
4.8
1
1.08
0.0
9.82
1
0.37
0.0
1
4.22
0.0
11.41
8.33
Relative abundance: (+++) > (++) > (+) > (-)
Abbreviation of rocks: Dac=dacite, f Tf=fine tuff, lap Tuff=lapilli tuff, pm Tf=pumice tuff, tf Cg=tuffaceous conglomerate.
Abbreviation of minerals: Alu=alunite, Chl/Smc=interstratified chlorite/smectite minerals, Cpt=clinoptilolite, Ha=halloysite, Hul=heulandite, Mor=mordenite, Qtz=quartz, Smc=smectite.
Point load test and uniaxial compression test: Is=point load strength, qu=uniaxial compression strength, Cv=coefficient of variation.
A
B
P
D
P
Rock sample
Lamina
A
0.3W<D<W
P
W
h
h/W≒2
Core the rock samples.
A: Point load strength
Is = P/De2
(De2 = 4WD/π)
B: Uniaxial compression strength
qu = P/A
図-3
Cut core samples to a length of 20 mm
and 100 mm using a diamond cutter.
P
W
点載荷試験および一軸圧縮試験の供試体形状
図-4
供試体の作製方法
のばらつきを小さくするため,試料を直径 50 mm 程度,
メクタイトやハロイサイト(10Å)などの結晶水が脱水
高さ 100 mm 程度の円柱に成形し,供試体とした(図-
されないと考えられる 60±3℃で供試体を一定質量に
3A).この形状は,成形が容易で,ボーリングコアを
なるまで乾燥させた状態であり,強制湿潤状態は供試
有効に活用できる.この寸法は図-3A 中の 0.3W<D
体を蒸留水に一定質量になるまで浸した状態である.
<W の条件 8)を満足する.
2.3 円柱(縦)点載荷試験および一軸圧縮試験
一軸圧縮試験における供試体形状は,円柱および正
8)
試験装置は,点載荷試験装置(本間電気製作所)およ
四角柱がある が,試料を直径 50 mm 程度,高さ 100
び万能試験機を使用した(図-5).点載荷試験時には
mm 程度の円柱に成形し,供試体とした(図-3B).こ
ダイヤルゲージを使用して併せて変位の測定をおこな
8)
の寸法は図-3B 中の h/W≒2 の条件 を満足する.
い,一軸圧縮試験時には球座を使用した.また,点載
成形には,室内用ボーリングマシーンおよびダイヤ
荷試験における載荷コーン形状は,様々なものがある
モンドカッターを使用した(図-4).ここで,異方性
が,この研究では ISRM の指針で規定されているもの
を持つ岩石において試験をおこなう場合,層理面に対
と同一である
して垂直および平行に載荷し,それらのデータを区別
~60 秒間で破壊に至る程度 9)とされるが,点載荷強さ
して扱う必要がある
9)
ため,葉理面が確認される試料
8)
.点載荷試験における載荷速度は,10
に大きな影響を与えないように,一定速度(100 N/sec)
については,葉理面に対して垂直および平行にそれぞ
で載荷した.一軸圧縮試験における載荷速度は 0.1~
れ分けて成形した(図-4).
1.0 MPa/sec である.
成形した供試体(点載荷試験用 695 個,一軸圧縮試験
用 162 個)は,試験のばらつきを小さくするため,強さ
3.結果および考察
に大きな影響を与えるようなクラックを含まないもの
3.1 円柱(縦)点載荷強さおよび一軸圧縮強さ
を選び,各試験に必要な分だけ用意した(表-1).な
強制乾燥状態および強制湿潤状態における円柱(縦)
お,ここでの強制乾燥状態は膨潤性粘土鉱物であるス
点載荷強さと一軸圧縮強さを表-1に示す.
強制乾燥状態および強制湿潤状態に
Point load test
おける点載荷強さと一軸圧縮強さは,
Uniaxial compression test
Conical platen
それぞれ,スメクタイトなどの膨潤性
粘土鉱物を含む試料が小さい傾向があ
る.また,強制湿潤状態における点載
Ball seat
荷強さは,ハロイサイト帯凝灰質礫岩
(ボーリングコア)が 0.11 MPa,クロー
Dial gauge
Specimen
ライト/スメクタイト混合層粘土鉱物
帯細粒凝灰岩が 0.09 MPa で小さい.そ
Specimen
Point load testing machine
れで,強制湿潤状態において,スメク
図-5
Universal testing machine
点載荷試験および一軸圧縮試験
タイトやハロイサイト(10Å)などの膨
潤性粘土鉱物を含む試料の強さが小さいのは,これら
の膨潤性粘土鉱物が強制湿潤状態によって膨潤したこ
とが強さ低下に影響を与えたと考えられる.
4.結
言
北海道遠軽町生田原南地すべり地域における上部中
新統生田原層と弟子屈町奥春別地すべり地域における
強制乾燥状態および強制湿潤状態における点載荷強
鮮新統志計礼辺山溶岩,上部中新統シケレペ層および
さと一軸圧縮強さの変動係数(表-1)は,前者の方が
ハナクシベ層に産する熱水変質軟岩および中硬岩の強
大きい傾向があり,ばらつきが大きい.
制乾燥状態および強制湿潤状態における円柱(縦)点載
ここで,点載荷試験における供試体個数の決定であ
荷強さと一軸圧縮強さとの関係についてまとめると次
るが,供試体個数は,点載荷強さの変動係数の大きさ
のとおりである.
に強く影響される.強さの分布が正規分布で近似でき
(1) 強制乾燥状態における円柱(縦)点載荷強さ Is と
ると考えて,信頼度 95 %での片側信頼区間が平均値の
一軸圧縮強さ qu との関係式は qu = 6.8 Is + 10.0 であり,
15 %以内にするために必要な供試体個数 n は,統計的
前者と後者との相関係数が 0.63 であることから,高い
推定の問題として t 分布で求められる.変動係数が
相関が見られる.
10 %前後の場合,n = 3,4 個であるが,20 %前後にな
(2) 強制湿潤状態における円柱(縦)点載荷強さ Is と
ると n = 10 個程度,さらに 30 %前後になると n = 20
一軸圧縮強さ qu との関係式は qu = 11.7 Is + 0.2 であり,
個程度が要求される
2)
.それで,点載荷強さの変動係
前者と後者との相関係数が 0.92 であることから,非常
数と供試体個数(表-1)から,変動係数が大きい値を
に高い相関が見られる.
示しているのにもかかわらず,供試体個数が少ない試
(3) フィールドにおける岩石の含水状態は,ほとんど
料もあるが,ほとんどの試料については変動係数に見
の場合,雨水や融雪水や地下水の影響により湿潤状態
合った供試体個数を用意しているため,平均値の信頼
であることと,強制湿潤状態において円柱(縦)点載荷
区間が狭く,試料における岩石の強さの特徴を正確に
強さと一軸圧縮強さとの関係に非常に高い相関がある
捉えている.供試体個数が少ない試料については,今
ことから,円柱(縦)点載荷強さから一軸圧縮強さを算
後,供試体個数を増やせばよいと考えられる.
出する際には供試体の含水状態は強制湿潤状態の方が
また,従来の一軸圧縮試験によれば,変動係数が 15
より有効であると考えられる.
~20 %である例が比較的多く,特に変動係数が 20 %を
(4) 点載荷試験は,フィールドにおいて岩石の強さを
超える場合には,供試体個数を増やすことが望ましい
迅速に評価できるため,試料採集後の時間短縮と,室
とされる
10)
.それで,一軸圧縮強さの変動係数と供試
体個数(表-1)から,変動係数が 20 %を超える試料も
内試験時のスレーキングなどの影響をなくすことを可
能にし,非常に有効な試験である.
あるが,ほとんどの試料については変動係数が 20 %以
下であるため,試料における岩石の強さの特徴を正確
に捉えている.
5.今後の課題
様々な種類の熱水変質岩についても同様の試験を実
3.2 円柱(縦)点載荷強さと一軸圧縮強さとの関係
施し,より多くのデータを集積すれば,熱水変質岩に
円柱(縦)点載荷試験および一軸圧縮試験結果から,
おける円柱(縦)点載荷強さと一軸圧縮強さとの関係を
これらの相関関係を図-6に示す.
強制乾燥状態および強制湿潤状態における円柱(縦)
明らかにすることができると考えられる.また,熱水
変質岩以外の様々な軟岩および中硬岩,さらに硬岩に
点載荷強さ Is と一軸圧縮強さ qu との関係式は,それ
おけるそれらの関係式が確立されると,点載荷試験は,
ぞれ qu = 6.8 Is + 10.0 および qu = 11.7 Is + 0.2 であり,
一軸圧縮強さ評価や岩盤分類に応用でき,また,地す
また,強制乾燥状態および強制湿潤状態における相関
べり(狭義)や崩壊などのハザードマップを作成する際
係数は,それぞれ 0.63 および 0.92 であり,強制湿潤
にも岩石の強さの面からその精度をより高くすること
状態において非常に高い相関が見られる.
ができると考えられる.
Forced dry-state
1
50
2
3
0
4
50
Uniaxial compression strength:qu (MPa)
Uniaxial compression strength:qu (MPa)
0
qu = 6.8 Is + 10.0
20
Forced wet-state
0.2
0.4
0.6
0.8
20
qu = 11.7 Is + 0.2
40
40
16
16
30
30
12
12
20
8
8
10
4
4
Semi-hard rocks area
20
Soft rocks area
10
Correlation coefficient: R=0.63
0
0
0.0
1.0
2.0
3.0
4.0
Point load strength:Is (MPa)
Correlation coefficient: R=0.92
0
0
0.0
0.4
0.8
1.2
1.6
Point load strength:Is (MPa)
Rock facies:
●●●● fine tuff, ◆◆ pumice tuff, ▲ lapilli tuff, × tuffaceous conglomerate, ■ dacite.
Hydrothermal alteration zone:
■ Alunite-quartz zone, ● Interstratified chlorite/smectite minerals zone, ▲ Heulandite zone,
●◆ Mordenite zone, ● Clinoptilolite zone, ● Smectite zone, ◆× Halloysite zone.
図-6
円柱(縦)点載荷強さと一軸圧縮強さとの関係
謝辞:国立大学法人北見工業大学技術部平松雅宏技術
6) Utada, M. (1980): Hydrothermal alterations related to
16)
員および岡田包儀技術員には室内試験にご協力いただ
igneous
activity
in
Cretaceous
and
Neogene
いた.記して,以上の方々に厚くお礼申し上げる.
formations of Japan. In granitic magmatism and
related mineralization (S. Ishihara and S. Takenouchi,
ed.), Mining Geol. Spe. Issue, No.8, pp. 67-83.
引用文献
11) 平松良雄・岡
1)
行俊・木村英郎(1965):非整形試
17)
7) 前田寛之(2006):熱水変質帯地すべりと熱水変質
験片による岩石の引張強さ迅速試験,日本鉱業会
岩の点載荷強度との関係-東部北海道弟子屈町奥
誌,Vol.81, No.932, pp.1024-1030.
春別地すべり地域および遠軽町生田原南地すべり
12) 疋田貞良・菊地昌博(1988):点載荷試験の実用性
2)
に関する一考察,開発土木研究所月報, No.423,
pp.30-41.
地域の例-,平成 18 年度(社)日本地すべり学会シ
ンポジウム講演集,pp.39-46.
8) ISRM Commission on Testing Methods, Working
18)
13) Brook, N. (1985): The equivalent core diameter
3)
Group on Revision of the Point Load Test Method
method of size and shape correction in point load
(1985): Suggested method for determining point load
testing, Int. J. Rock Mech. Min. Sci. & Geomech.
strength, Int. J. Rock Mech. Min. Sci. & Geomech.
Abstr., Vol.22, No.2, pp.61-70.
Abstr., Vol.22, No.2, pp.51-60.
14) Broch, E. and Franklin, J. A. (1972): The point-load
4)
19)
9) 岩の試験・調査規格・基準検討委員会編(2006):
strength test, Int. J. Rock Mech. Min. Sci., Vol.9, No.6,
岩の試験・調査方法の基準・解説書-平成 18 年度
pp.669-697.
版-,社団法人地盤工学会,256p.
15) Bieniawski, Z.T. (1974): Estimating the strength of
5)
10) 日本鉱業会岩石強度測定法実施基準(案)(1968):
rock materials, J. S. Afr. Inst. Min. and Met., Vol.74,
岩石強度測定法実施基準案,日本鉱業会誌,Vol.84,
No.8, pp.313-320.
No.965, pp.1479-1487.
岩盤斜面の岩盤安全率を求める一手法とした遠心力模型実験の適用例
The Application Experience of Assessment of the Safety Factor in Bedrock by Centrifuge Model Test
○日下部祐基,伊東佳彦,石川博之,表真也(土木研究所寒地土木研究所)
,三浦均也(豊橋技術科学大学)
Yuki Kusakabe, Yoshihiko Ito,Hiroyuki Ishikawa,Shin-ya Omote and Kin-ya Miura
1.はじめに
我が国では,地すべりや岩盤崩壊などの斜面災害が
毎年多数発生しており,土木構造物に多大な被害をも
2.対象岩盤斜面と実験条件
写真-1に対象とした岩盤斜面(以下,実岩盤斜面)
たらし,時には人的被害を伴う重大事故も生じさせて
を示す.実岩盤斜面を含むこの地区の地形は,ほとん
いる.また,このような地盤災害により道路や鉄道な
ど全域が海蝕崖からなる急峻な地形を示し,高さ100m
どの交通機関が遮断されると,その地域住民の生活基
内外の断崖絶壁になっている.道路からの比高差約60
盤に甚大な被害が生じる.そのため,安全・安心でか
~120m(起点側で80~120m、終点側で60~90m)に分布
つ合理的な道路の整備や維持管理に資する,道路防災
するテラスを境に、下部壁面と上部壁面に区分される。
水準向上を目的とした研究が急務となっている.
壁面のところどころに壁面と直交する沢地形が存在し
積雪寒冷地である北海道では,大規模な岩盤崩落と
して 1996 年に一般国道 229 号豊浜トンネル
ている。
1),1997
地質は,下部溶岩と上部溶岩に分けられ,両者の間
2001
には自破砕溶岩よりなる層が分布しており,上下の塊
年に一般国道 333 号北見市北陽 3),2004 年には一般国
状溶岩と比較して相対的に脆弱なため,緩斜面(テラス)
道 336 号えりも町
4)で各道路斜面の崩落事故が発生し
を形成している.自破砕溶岩は,下部溶岩に付随する
ている.これらの崩落事故を受けて,北海道開発局を
岩組織を残す地層と,上部溶岩の基部に相当すると見
はじめ多くの機関で調査研究が実施されている.
なされる赤褐色の地層とがあるが,両者の明瞭な境界
年に同第2白糸トンネルの各崩落事故
2),さらに
筆者らは,大規模岩盤崩落のメカニズム解明や危険
は確認されていない.実岩盤斜面の引張強さとしては,
度評価を目的として,一連の遠心力模型実験を実施し
過去に実施された地質調査の岩石試験結果から,安全
てきた.これまでに,矩形岩体や地形デジタルデータ
側の値として引張強さの小さい自破砕溶岩の引張強さ
を用いて作成した岩盤斜面模型に自重(遠心加速度)
の平均値3.70MN/m2 を,単位体積重量は24.0kN/m3 を
を作用させて崩落に至らせる実験 5)6)を行った.観察し
採用した.
た崩落現象を有限要素法および極限つりあい法によっ
実験では,遠心力載荷装置に設置可能な模型形状と
て解析した.前回の報告 7)では,これまでの研究成果を
して一辺が0.6m以内の立方体を目安とし,同斜面を模
もとに遠心力模型実験を用いた岩盤斜面の安全率評価
擬した縮尺1/60の岩盤模型を3次元地形測量で得たデ
法を提案した.ここでは,モデルケースとして岩盤斜
ジタル地形データを用いて作成した.写真-2は,発
面に安全率評価法を適用したので,その結果を報告す
泡スチロールで作成した岩盤模型を示したものである.
る.
写真-3は,型枠用に作成した岩盤模型に繊維強化プ
写真-1
対象岩盤斜面
写真-2
岩盤斜面模型
写真-3
模型型枠
表-1
実験No.
遠心力模型実験条件
切欠き高さ
浸食深さ
H
Z
模型縮尺
1/n
実斜面(m) 実斜面(m)
1
60
2
60
3
60
4
60
5
60
模型(mm)
模型(mm)
12.33
205
9.33
155
6.33
105
6.33
105
6.33
105
10.00
167
10.00
167
10.00
167
15.00
250
20.00
333
対象岩盤斜面 対象岩盤斜面
引張強さ
単位体積重量
σs
γs
(MN/m2)
(kN/m3)
3.70
24.0
3.70
24.0
3.70
24.0
3.70
24.0
3.70
24.0
切欠き面交角
67.000
切欠き
49.53
3.56
17.61
14.04
40.00
ラスチック(FRP)を貼付して作成した模型型枠である.
岩盤模型を形成する材料モルタルの配合は,遠心力載
崩落岩体
8.40
平面図
荷装置の最大加速度100g以内に岩盤崩落が再現できる
引張強さを設定して,別途実施した室内配合試験によ
14.04
り決定した.
3.56
実験ケースは,表-1に示すように切欠き高さHおよ
び浸食深さZを変化させて5ケース実施した.図-1に
代表実験ケースとして,実験No.4の平面,正面,側面
の3面図を示す.ここで切欠き高さHとは,斜面背面に
53.73
想定した既存亀裂の位置を示すもので,斜面底部に設
定した基準面から切欠き先端の高さを表している.浸
食深さZとは,図-1に示した浸食位置から下部の岩体
切欠き先端
浸食位置
6.33
を,表面から任意の厚さ削り取った深さを示している.
1.94
斜面背面の切欠きは,想定された実岩盤斜面の背面亀
裂を参考に,交角67°で交わる2面を配置した.
切欠き高さ H
17.61
なお,実験条件では,想定した浸食深さを 10.0~
20.0m と大きく設定している.これは,実岩盤斜面底面
正面図
のオーバーハングが狭い範囲にあることから,浸食深
40.00
さが正確に測量されていないおそれがあるため,安全
8.40
切欠き
側を考慮して不安定化させたものである.
3.岩盤斜面の実験パラメータと岩盤安全率
表-2に実験結果を示す.本遠心力模型実験では,
前述したように各岩盤模型の引張強さを 100g 以内に岩
崩落岩体
53.73
盤崩落が再現できる強さに設定したため,実岩盤斜面
の引張強さと異なっている.そこで岩盤模型の引張強
さ σt と実岩盤斜面の引張強さ σs(=3.70MN/m2)の比 α
浸食位置
6.33
1.94
(=σt /σs ),およびもう 1 つの物性値である単位体積重
量のばらつきについても,各岩盤模型の単位体積重量 γt
浸食深さ Z
切欠き高さ H
3
と実岩盤斜面の単位体積重量 γ(=24.0kN/m
)の比 β( =γt
s
49.53
/γs )を用いて極限つり合い式を補正して,実岩盤斜面
15.000
側面図
の岩盤安全率を求める式を導いた.
式の条件としては,模型の崩落加速度 nf g に注目して,
1/n 岩盤模型が nf g の遠心力場で崩落したときの岩盤模
型の岩盤安全率 Fmt が 1.0 になることを用いる.これを
崩落時に発生する亀裂が鉛直方向に進展すると仮定し
て式に示すと,以下のようになる.
図-1
代表断面図(実験 No.4)
表-2
崩落加速度および実験後供試体の
8.0
室内試験結果表
7.0
崩落加速
湿潤密度 一軸圧縮強さ 破壊ひずみ 静弾性係数 ポアソン比 引張強さ
実験No. 度実測値
εf
σc
E 50S
σt
ρt
ν
n f (g ) (g/cm3) (MN/m2)
(%)
(GN/m2)
(MN/m2)
岩盤安全率 Fps
実験後抜き取り試料
6.0
5.0
1
60
1.777
2.23
0.10
2.79
0.276
0.37
2
28
1.800
2.4
0.16
2.20
0.210
0.37
3
30
1.942
6.1
0.24
4.24
0.155
0.88
2.0
4
56
2.267
21.0
0.29
12.70
0.214
1.74
1.0
5
40
2.232
18.5
0.27
12.30
0.215
1.54
0.0
4.0
3.0
0.0
5.0
10.0
15.0
切欠き高さ H (m)
F mt = 1 . 0 =
σ t (B / n − L / n)2
3(n f γ t ) B / n (h / n ) 2
ασ s ( B / n − L / n ) 2
α ⋅n
F ps
=
=
3 ( n f βγ s ) B / n ( h / n ) 2
β ⋅nf
図-2
切欠き高さ(浸食深さ 10.0m 固
定)と岩盤安全率
(1)
2.0
ここに, Fmt:岩盤模型が破壊加速度 nf g 場において引
γt(kN/m3)の場合の岩盤安全率
Fps:実岩盤斜面が引張強さ σs(MN/m2)で単位
体積重量 γs(kN/m3)の場合の岩盤安全率
B:崩落危険岩体の高さ
(m)
1.0
0.5
L:斜面背面の切欠きの深さ (m)
h:崩落危険岩体の幅
1.5
岩盤安全率 Fps
張 強 さ σ t (MN/m2) で 単 位 体 積 重 量
(m)
上式より実岩盤斜面の岩盤安全率 Fps が以下のよ
0.0
0.0
5.0
うに求められる.
F ps
β ⋅nf
=
α ⋅n
10.0
15.0
20.0
25.0
浸食深さ Z (m)
(2)
図-3
実験結果を用いて上式により実岩盤斜面の岩盤安全
浸食深さ(切欠き高さ 6.33m 固
定)と岩盤安全率
率を求めて,各種パラメータとの関係を検討した.図
-2に切欠き高さと岩盤安全率,図-3に浸食深さと
岩盤安全率の関係を示す.両図を見ると,実験に用い
で採用した実岩盤斜面の引張強さと単位体積重量では,
た実岩盤斜面の引張強さ( 3.70MN/m2)と単位体積重量
実験パラメータが最も不安定な状態にある場合におい
( 24.0kN/m3)では,実験パラメータで最も不安定な状
ても,岩盤安全率 Fps=1.0以上を示していることから,実
態にある切欠き高さ H=6.33m および浸食深さ Z=20.0m
岩盤斜面は安定していると評価された.遠心力模型実験
においても,岩盤安全率 Fps=1.0 以上を示していること
による岩盤斜面の安全率評価法は,実岩盤斜面の安定性
から,この条件では実岩盤斜面は安全と評価される.
を定量的に評価できたことから,評価手法として有効で
さらに実験条件でも述べたが,切欠き高さと岩盤安全
あることが示唆されたと考える.
率の関係で固定した浸食深さ 10.0m は,オーバーハン
遠心力模型実験による岩盤斜面の安全率評価法につ
グ深さとして十分不安定な条件を想定したものである.
いては,模型作製や切欠きの設置方法等を含めて,現
その結果は,図-3の関係からわかるように,それ以
在特許出願中である.
上の浸食深さでは岩盤安全率の変化が少なくなってい
ることから,妥当であったと考えられる.
参考文献
1) 豊浜トンネル崩落事故調査委員会:豊浜トンネル崩
4.まとめ
ここでは,遠心力模型実験を用いた岩盤斜面の安全率
評価法を用いて,実岩盤斜面の安定性を検討した.実験
落事故調査報告書,1996.
2) 第2白糸トンネル崩落事故調査委員会:第2白糸ト
ンネル崩落事故調査報告書,1998.
3) 一般国道 333 号北陽土砂崩落調査委員会:一般国道
333 号北陽土砂崩落調査報告書,2002.
4) 一般国道 336 号えりも町斜面崩壊調査委員会:一般
国道 336 号えりも町斜面崩壊調査報告,2004.
5) 池田憲二,中井健司,日下部祐基,原田哲朗:岩盤
亀裂発生装置(大型遠心力載荷装置)の製作,開発
土木研究所月報, No.571, pp.31-39, 2000.
6) 日下部祐基,池田憲二,渡邊一悟,三浦均也:切欠
きを有する岩盤の遠心力場における崩落実験,地盤
工学会,第 47 回地盤工学会シンポジウム論文集,
pp.327-334, 2002.
7) 日下部祐基,伊東佳彦,石川博之,岡田慎哉,三浦
均也:岩盤斜面の安全率を求めるための遠心力模型
実験,日本応用地質学会,北海道支部研究発表会講
演予稿集第 26 号, pp5-8, 2007.
空中電磁法と応用地質分野への最近の適用展開
Latest Application Cases of HEM Survey to Engineering and Environmental Problems
○千田敬二,河戸克志、細倉摂央(大日本コンサルタント(株)),内田秀明((株)エーティック)
Keiji Chida,Katsushi Kawato,Setsuo Hosokura,Hideaki Uchida
1.はじめに
いる.
空中電磁法は電磁探査法の一種で,固定翼機あるい
本稿で紹介する空中電磁法の測定システムは,
はヘリコプターに搭載した電磁探査機器を用いて地盤
DighemV と呼ばれる Dighem type の周波数領域法の測定
の比抵抗を探査する手法である.応用地質分野では,
システムで,使用周波数は 140,000Hz,31,000Hz,
海外において鉱床資源探査の広域概査法として開発さ
6,900Hz,1,500Hz および 340Hz の 5 対の水平同レベル
れ,日本でも 1990 年代前半から土木,防災,環境分野
型の送受信コイルを利用するもので,標準地盤で探査
に多く使用されてきている.
深度は最大 150m である.
空中電磁法は,現在,測定システムや解析ソフトの
(2)測定原理
改良に伴って火山地域の大規模崩壊 1) や大土被りトン
空中電磁法で計測する物性値は,地盤の比抵抗であ
2)
る(単位断面積を通る電流に対する単位長さあたりの
ネルへの地上電磁探査 CSAMT と複合させた地質評価
などで適用の有効性が示されてきている。
電気抵抗:単位は[Ω・m]で,記号は ρ で表す).
本稿では,ここ 2∼3 年で急速な展開がみられる空中
地上で行われる通常の電気探査では,一対の電流電
電磁法の土木分野への適用について,トンネルと地す
極を用いて地表から地盤に直流電流を流し,それによ
べりを対象とした事例を紹介する.
って生ずる電位差を別対の電位電極で測定して,地盤
2.空中電磁法
の比抵抗分布を求めている.これに対して,空中電磁
(1)概要
法は,送・受信センサとして 2 つのコイルを用いて,
空中電磁法のうち固 定翼機 を用い る空中 電磁法は
その間の相互インダクタンスの変化を測定することに
AEM(Airborne Electro-magnetic Method),ヘリコプ
よって地盤の比抵抗分布を求めている.
ターを用いる空中電磁法は HEM(Helicopter(-borne)
(3)測定
Electro-magnetic Method)と略称される.HEM は,AEM
トンネルを対象とする場合はトンネルのルート直上
と比較して探査深度
を基本飛行測線とし,両側に飛行測線を複数配置する.
が浅く,コストが割
地すべりなどの斜面を対象とする場合は,斜面の傾斜
高となるものの,空
方向に平行に飛行測線を配置する.測線間隔は 50m が
間的な分解能が高く,
一般的である.測定時の対地速度は 30 km/h,1m 毎に
山岳地での測定作業
全ての周波数のデータを取得する.送信機出力は1周
が容易なため,土木
波あたり約 100 W,受信感度は 200 μV/ppm 程度である.
分野では主流になっ
測定地点の標定は GPS で行う.地上局のデータを用い
ている(図−1参照).
てポストプロセッシング処理を行ない,数 m の決定精
度を確保している.
空中電磁法は,
(4)解析
1950 年代の初めカナ
空中電磁法の比抵抗解析は,数値モデル計算を基に
ダで世界最初の AEM
が開発された.以来,
して作成されたフェーザ図(phaser diagram)と等価
約 30 種類の装置が開
のアルゴリズムを利用した解析ソフトで行う.求めた
発され,現在ではデ
見掛比抵抗は,DEM 化した地形データと併せて GIS ソフ
トを用いて 3 次元比抵抗モデルを構築し,これよって
ジタル信号処理と
測定器の校正処理
図−1
空中電磁法の測定概要
能力を高めた測定システムで運用されている.また,
信号源や測定法によって周波数領域法と時間領域法に
大別される.例えば,Fugro Airborne Survey 社製の周
波数領域のシステムであれば,従来の鉱床資源探査を
目的とした Dighem type や,土木・環境調査に特化し
た Resolve type が登場しており,国内でも導入されて
任意の視点から対象地の比抵抗構造が確認できる.
なお,空中電磁法は,地上の電気探査と比べて地形
の影響を受けにくく,またデータの取得範囲が狭いた
めに 1 次元の断面解析を基本としているが,最近では 2
次元解析が行われている.2 次元解析で信頼性の高い比
抵抗構造を求めるには,十分に高い周波数(例えば
140,000Hz)の測定データが必要である 3).
体とする整然層からなり,チャート,塩基性火山岩類,
(5)地質評価
空中電磁法等の探査結果から得られる比抵抗値は,
酸性凝灰岩および石灰岩が泥質基質中に取り込まれた
地盤の電気的性質に関する物理量であって,粘土など
メランジュ(混在岩)を少量伴う.断層は,STA.16+00 付
の電導性鉱物の含有量,間隙比,飽和度,間隙水の比
近に低角度傾斜の断層があるほか,弾性波探査の低速
抵抗など多くの要因に左右される(表−1 参照).また,
度帯において高角度傾斜の断層が想定されていた.
実際の地盤では,これらの要因が複合して比抵抗値に
影響を与えることが多い.したがって,地質評価では,
トンネル切羽観察記録と空中電磁法の解析結果の対
比を図−2に示す.
個別の地質的要因と比抵抗の関係を勘案しながら,ど
の地質的要因が調査地の比抵抗分布のどの部分にどの
ように影響を与えているかを,調査地の地質分布,地
質構造との関係で判断することが,比抵抗データ解釈
の基本となる.
表−1
比抵抗
要因 乾・湿状態
比抵抗の要因
低比抵抗
高比抵抗
湿潤状態
乾燥状態
(水比抵抗が支配要因)
(電導性鉱物の量が支配要因)
低
高
(イオン濃度大)
(イオン濃度小)
間隙比
大
小
間隙水の飽和度
大
小
多
少
(25%以上影響大)
(5%以下はほとんど影響なし)
間隙水の比抵抗
電導性鉱物の量
粘土鉱物の量
多
少
粘土鉱物の陽イオン交換能
大(特にスメクタイト系)
小
一般的に,土質では,間隙比が大きく飽和度が大き
ければ低い比抵抗を示す.岩盤では,風化や変質作用,
あるいは断層等によって,地下水に飽和された亀裂が
卓越し,岩片が軟質化するほど低い比抵抗を示す.こ
のため,岩盤中の低比抵抗部は,粘土化の著しい地質
図−2
新角谷トンネル事前調査と施工実績対比 6)
(2)焼坂第一トンネル
焼坂第一トンネルは,四国横断自動車道の須崎新荘
IC(仮称)∼中土佐 IC(仮称)間に建設されたトンネ
ル延長 2,040m,最大土被り約 230m のトンネルである.
地質は,白亜紀∼古第三紀にかけて堆積付加した四万
十層群の砂岩,砂岩泥岩互層などの粗粒な砕屑岩を主
体とする整然層からなる.トンネル切羽観察記録と空
中電磁法の解析結果の対比を図−3に示す.
擾乱部などの地質脆弱部や地下水に関する情報を反映
している.
3.トンネル地山への適用
空中電磁法のトンネル地山への適用は,70 事例を越
え,対象とした地山の種類も多岐にわたる.しかし,
探査結果の比較検証では,これまでボーリングや他の
物理探査との比較した事例はあっても,トンネル建設
時に確認された地山とはなされていなかった.トンネ
ルの施工記録に基づく空中電磁法のトンネル地山への
適用効果を検討したのは,長谷川ほか(2008)4) と濱田
ほか(2008)5) が最初である.
ここでは,長谷川ほか(2008)が検討した四国横断自
動車道の新角谷トンネルと焼坂第一トンネルについて,
最近実用化した空中電磁法の解析表示結果を示す.な
お,トンネル切羽観察記録は,長谷川ほか(2008)を引
用した.
(1)新角谷トンネル
新角谷トンネルは,四国横断自動車道の須崎新荘 IC
(仮称)∼中土佐 IC(仮称)間に建設されたトンネル
延長 2,500.5m,最大土被り約 290m のトンネルである.
地質は,白亜紀∼古第三紀にかけて堆積付加した四万
十層群の砂岩,砂岩泥岩互層などの粗粒な砕屑岩を主
図−3
焼坂第一トンネル事前調査と施工実績対比 6)
(3)空中電磁法の適用効果
空中電磁法の適用効果は,トンネルの施工記録をも
とに以下に整理する.
・ 比抵抗コントラスト表示では、比抵抗境界が地山
性状の急変部に該当する.
・ 比抵抗コントラスト表示の低比抵抗領域で,かつ
比抵抗構造解析の表示域は,湧水,風化地山,破
砕帯地山のいずれかに該当する.
・ 比抵抗コントラスト表示の高比抵抗領域で,比抵
抗構造解析の表示域は,湧水あるいは変位の大き
い不良地山に該当する.
従来の比抵抗探査は,比抵抗値の高低に基づく相対
分布域は,異常に低い比抵抗を示している.
的な地山評価であった.しかし,今回の空中電磁法で
は,比抵抗コントラスト表示に加えて微細な比抵抗構
造に着目することで,トンネル不良地山の指標を具体
に表示できるようにした.
4.地すべり
空中電磁法は,広範囲の調査地に対して,現地に立
入らずに均質なデータを短時間で取得できる特徴をも
つことから,地すべりなどの斜面調査の事例は数多く
報告されている 7).近年,地すべりや地下水分布状況
の解析精度が向上したことから,道路防災を目的とし
た道路のり面への適用事例が増加している.ここでは,
その適用事例を紹介する.
(1)概要
図−5
道路周辺比抵抗平面図(等深度 5m表示)8)
地質踏査結果から,泥流堆積物は一般に安山岩礫を
重要な幹線道路であるA道路は,大規模な地すべり
混入するローム質粘性土からなる.地すべり地形が集
地帯を通過している.近年,道路構造物の老朽化に加
中する地域の泥流堆積物は,全体的に粘土化・変質を
え,地すべり災害が頻発しており,被災規模を最小限
受けているために難透水性の地盤をなし,そのために
にとどめるための新たな斜面管理手法が望まれていた.
地下水位も高い状態にある.このことから,泥流堆積
このため,A道路周辺に対してレーザー測量による詳
物が異常に低い比抵抗を示す要因は,地質そのものが
細地形情報の取得に併せて空中電磁法による比抵抗 3
粘土鉱物に富み,かつ,地下水位が高いことによるも
次元情報を利用して,A道路に影響を与える可能性が
のと判断された.また,地すべりが顕在化した斜面ほ
ある地すべりブロックの抽出が行われた.
どその程度が大きいため,より低い比抵抗値を示すも
(2)地形・地質概要
のと考えられた.
調査地は国立公園に位置し,標高 1,000m 級の急峻な
このことから,地すべりの兆候が認められない泥流
山岳地域である.地質は,基盤岩が中生代白亜紀∼古
堆積物分布域においても,比抵抗値およびその分布を
第三紀の花崗岩類と閃緑岩,新生代第三紀中新世の火
基にして,潜在的な不安定斜面の抽出が可能であり,
山砕屑岩からなり,第四紀の火山噴出物や泥流堆積物
斜面の地域的特性の概要を把握するのに適していると
等に覆われている(図−4参照).
考えられる.
2)地すべりの抽出事例と検証
空中電磁法の比抵抗断面解析は,空中写真及び詳細
地形情報から地すべりブロックとして判読された道路
に近接するAブロックとその上方のBブロックに対し
て行った.対象地の比抵抗平面図(等深度 2m 表示)と
比抵抗断面図を図-6に示す.
図−4
A道路周辺の地質図 8)
(3)調査結果および検討
1)広域斜面の比抵抗と地質の対応性
空中電磁法によるA道路周辺の比抵抗平面図(等深
度表層 5m 表示)を図−5に示す.空中電磁法による比
抵抗分布と地質分布とは概ね合致している.すなわち,
花崗岩,安山岩および貫入岩類の分布域は相対的に高
い比抵抗を示すのに対し,第三紀中新世の火山砕屑岩
と泥流堆積物の分布域は低い比抵抗を示す.特に,本
地域で地すべりブロックや変状が集中する泥流堆積物
6)
このような斜面上の土塊に対しては,比抵抗
2 層構
図−6
HEM と詳細地形判読による地すべり抽出例
造解析を行う.これは,対象斜面が 2 層構造であると
をなす領域についても不良地盤を示す傾向にある.こ
仮定してインバージョン解析を行って,2 層構造の境界
の低比抵抗は,粘土含有量,体積含水量(割れ目と含
深度を求めるもので,原理的に深度方向に比抵抗コン
水比の積)などの状態を示しており,一般的に設計・
トラストが最も大きいところで第 1 層と第 2 層とを分
施工上留意すべき不良地盤であり,斜面であれば不安
離する解析手法である.この 2 層構造解析で求めた境
定化の要因の一つである.
界線は図−6の比抵抗断面図に併せて示した.
空中電磁法は,測定システムや解析ソフトの改良に
比抵抗平面図では,Aブロックで低比抵抗を示す粘
伴って、土木,防災,環境分野にさらに有用な調査法
土鉱物の含有量が高い泥流堆積物が分布し,上方のB
として発展する可能性がある。この実現のために、シ
ブロックで相対的に高比抵抗を示す比較的固結度の大
ステムの特徴や測定精度を踏まえ、かつ社会や顧客の
きな泥流堆積物の分布が想定された.比抵抗断面図で
ニーズを把握し、それに見合った精度の向上や他の探
は,深度 20m 以深に当該地の基盤岩である火山砕屑岩
査手法との組み合わせによる複合的な調査方法の確立
の分布が明瞭に確認されたため,その上方に泥流堆積
や結果の検証など,今後とも積極的に行う予定である.
物が被覆していると想定された.泥流堆積物は高標高
謝辞:香川大学の長谷川教授,西日本高速道路エン
部に緩斜面をなして分布する 1 次堆積物と,その下方
ジニアリング四国株式会社の三谷浩二氏には,トンネ
斜面に沿って分布する 2 次堆積物に分かれている.こ
ル地山への適用性の検討に際して数多くの資料のご提
の堆積構造より,Aブロックの斜面上方に分布する低
供と貴重なご意見をいただきました.ここに記して感
比抵抗は,2 次堆積した泥流堆積物と考えられた.この
謝の意を表します.
比抵抗構造と比抵抗 2 層構造解析結果では,地形判読
参考文献
で推定されたBブロックはすべり面が不明瞭である.
1)
Aブロックでは 2 層構造境界線と詳細地形図による微
いて,日本応用地質学会北海道支部平成 18 年度研究発
地形に着目したすべり面が想定された.
表会講演予稿集第 26 号,pp9-11,2006.
当該斜面のボーリングによる検証結果を図−7に示
2)
茂木
透:空中電磁法の防災問題への適用につ
岡崎健治・伊藤佳彦・日外勝仁:土被りの大き
なトンネル地質評価における電磁探査法の適用性に関
す.
する検討∼空中電磁法・CSAMT 法・両手法組み合わせに
よる推定地質の検証∼,物理探査学会第 119 回学術講
演会論文集,pp121-124,2008.
3)
佐々木裕・中里裕臣:地すべり調査における空
中電磁法の高精度インバージョン,物理探査学会第 110
回学術講演会論文集,pp326-329,2004.
4)
長谷川修一・濱田康司・山中
稔・斉藤章彦・
三谷浩二:四万十帯における空中電磁法によるトンネ
図−7
ボーリング結果による検証結果 6)
各ボーリングで確認された基盤層の分布は比抵抗構
ル地山評価,地盤災害・地盤環境問題論文集,No.8,
pp.35-48,2008.(地盤工学会四国支部・愛媛大学防災
造と調和的であり,Aブロックの 2 本のボーリングで
情報研究センター).
著しい擾乱構造が確認された深度は,比抵抗 2 層構造
5)
解析境界線で想定されたすべり面位置に一致した.こ
トンネル施工データに基づく空中電磁探査法による比
のことから概略的ではあるものの,空中電磁法によっ
抵抗構造の検証,平成 20 年度土木学会全国大会 第 63
て地すべりの概要を把握できるものと考えられる.
回年次学術講演会論文集,第 3 部門(トンネル),2008.
5.おわりに
6)
濱田康司・長谷川修一・三谷浩二・山中
稔:
河戸克志・細倉摂央・奥村稔:トンネル施工へ
空中電磁法の応用地質分野における土木分野への適
の空中電磁法の適用性,NPO法人臨床トンネル工学
用として,トンネルと地すべりを対象とした事例を紹
研究所,臨床トンネル工学,平成 21 年度最新トンネル
介した.トンネル調査として,空中電磁法は,断層破
技術講演会,2009(投稿中).
砕帯,湧水,および大変位を伴う地山が抽出できるこ
7)
とを示した.また,斜面の安定度評価においても斜面
法 に よ る 広 域 斜 面 災 害 調 査 , 農 工 研 技 報 , No.205,
内部の地質情報と地下水分布の情報から,すべり面な
pp.95-101,2006.
どがある程度の精度で特定できることを示した.
8)
空中電磁法は,測定原理から理解されるように,低
比抵抗を探知するのに優れている.低比抵抗は,絶対
値としての低比抵抗ばかりでなく,相対的に低比抵抗
中里裕臣・井上敬資・中西憲雄:空中電磁探査
小西尚俊・塚田幸広:空中電磁法による地質評
価への実際的検証,土木学会論文集 NO.680/Ⅲ-55,
pp285-294,2001.
石狩平野の生い立ちを探る-上部更新統~完新統層序と古環境の検討Investigation of geologic history of the Ishikari Plain, based on stratigraphy and
paleoenvironment of the late Pleistocene to the Holocene.
○嵯峨山 積(北海道立地質研究所)・外崎 徳二(株式会社レアックス)・近藤 務(株式会社北海道技術
コンサルタント)・岡村 聰(北海道教育大学札幌校)・佐藤 公則(株式会社ユニオン・コンサルタント)
Tsumoru Sagayama, Tokuji Tonosaki, Tsutomu Kondo, Satoshi Okamura, Kiminori Sato.
1. はじめに
試料を用いて珪藻分析と
石狩平野は石狩低地帯
1)
の北部域に位置し,地下には
14
C 年代測定を行い,地層区分
や古環境について検討してきた
22)
.今回, 新たに TKH
最終氷期極盛期(約 2 万年前)以後に堆積した沖積層(最
(北区拓北)の珪藻分析と,SSC-1 および KKT(川北観
上部更新統~完新統)が厚く累重する.地形的には石狩
測井
丘陵や野幌丘陵のほか,標高 10m 以下の平坦面をなす沖
したので報告する.
23)
)の火山灰分析を行い,層序や古環境などを検討
積低地からなる(図-1).沖積層は,未固結な粘土・砂・
礫および泥炭などで構成され,多くの人々や建物が存在
2.ボーリングの概要
する低地を形成することから,最も身近な地層と言える.
珪藻分析を行った 6 井は以下の通りである.
地震時の揺れに敏感に反応し,大きな被害をもたらすた
SSC-1 は 手 稲 山 口 で 濁 川 が 新 川 に 流 入 す る付 近 に 位
置し, 掘削深度は 50m,地盤標高は 8.86m である.孔内
め,防災面からも沖積層研究が必要とされている.
石狩平野の沖積層に関しては 5 万分 1 の地質図幅
4)
,軟弱地盤の検討
5)
,自然貝殻層の検討
ング地質試料の花粉分析
地形の検討
地の研究
,ボーリ
,ボーリング資料の解析
,表層地盤の検討
新篠津村での検討
20)
22)
で述べていることから,省略する(以
下,同様).H16B-7 は札幌大橋の石狩川左岸に位置し,
掘削深度は 44m,地盤標高は 3.11m である.H16B-3 は
,豊平川扇状
札幌大橋の石狩川右岸で,掘削深度は 40m,地盤標高は
12)
14)
,貝化石による地下地質の検討
17)
地質などは前回
,
,地盤地質図作成
15)
質図の作成
6) 7) 8)
9) 10) 11)
13)
2)3)
16)
,地盤地
18)
,表層地質の分類
,札幌市街の地盤断面図
21)
19)
,
などの
調査・研究があるものの,微化石(花粉や珪藻など)や
火山灰,放射性炭素年代測定(以下, 14 C 年代測定と称
す)を用いた研究は少なく, 古環境や形成過程の解明は
東京や大阪,名古屋などに比べて遅れた状態にある.
4.21m である.MHR-1 の掘削位置は当別町や新篠津村に
隣接する江別市美原で,石狩川が約 4 ㎞西方に位置す
る.掘削深度は 18m,地盤標高は 7.5m である.YUB-1
の掘削位置は 南幌町中樹林 自治区で,江 別市との境界
付近および夕張川左岸に位置する.掘削深度は 28.5m,
地盤標高は約 10m である.TKH は北区篠路に位置し,掘
削深度は 36m,地盤標高は 6m である.
火山灰分析は,SSC-1 と KKT について行った.
平成 19 年度から, 1)SSC-1( 西部スラッジセンター),
KKT は,1979 年に北海道白石高等学校敷地内で掘削さ
2)H16B-7(札幌大橋・石狩川左岸),3)H16B-3(札幌
れ,深度は 280m,地盤標高 7.5m である.地質は深度 280
大橋・石狩川右岸),4)MHR-1(江別市美原),5)YUB-1
~108.3m は省略,同 108.3~80m は砂質シルト主体で基
(南幌町夕張川左岸),の各ボーリング(図-1)の地質
底に礫層が認められ,上部には厚さ 10~50cm の泥炭が 3
図-1
掘削井および断面図の位置
●:珪藻分析用ボーリング,左より SSC-1,TKH,
H16B-7, H16B-3, MHR-1, YUB-1. ■ : 既 存 ボ ー リ
ング,左より SKN:札幌市新琴似
大学構内
山
32)
,KKT:川北観測井
8) 10) 11)
31)
,150m:北海道
23)
,KKY:江別市角
,GS-HTB 33),12B-S4:新篠津村武田
20)
.
下線を有する掘削井で Toya(洞爺火山灰)が確認
されている.
図-2
図 -2
TKH(拓北)の地質柱状および珪藻分析の結果
TKH( 北 区 拓 北 ) の 地 質 柱 状 と 珪 藻 分 析 の 結 果
層挟在する.同 80~54.65m は砂質シルトや粘土から
灰について,温度変化型屈折率測定法により火山ガラス
なり 基底に礫が分布し,中間部にはカキの貝殻片を
の屈折率を求めた.火山ガラスはバブル型 25) を呈し,屈
含む.同 54.65~45.3m は細砂~中粒砂主体で最下部
折率は1.497-1.498にピークを示すことから11.2~11.5
に厚さ 1.1m の泥炭,最上部にシルトを挟む.同 45.3
万年前降灰のToya(洞爺火山灰)と推定される.
~40.6m は細粒砂で最下部に貝殻片を含む.同 40.6
~17.67m は砂~粘土からなり最下部に礫,中間部に
4.考察
灰白色の細粒火山灰,最上部に泥炭を挟む.同 17.6
完新世の相対的海面変動は以下の様に要約される.約
~11.6m は軽石および火山灰,同 11.6~8.4m は細~
10,000 年前の海面は標高-40m 前後であったが,その後
中粒砂,同 8.4~1.66m は火山灰や礫の薄層を伴う泥
の温暖化に伴い徐々に上昇し,縄文海進高頂期(以下,
炭,同 1.66~0m は盛土である.
高頂期)の約 6,000 年前には標高+3m 26) となり,海水は
最も内陸にまで到達した.その後は「縄文中期の小海退」
3.珪藻と火山灰の分析結果
TKH の珪藻分析は,シルトや砂質シルトなどの試料
27)
や「弥生の小海退」を経て,徐々に低下し,現在に
至っている
28)
.今回,珪藻分析により得られた指数の変
約 3g を 15%濃度の過酸化水素水と 18%濃度の塩酸で
化曲線は,上記の海面変動と大局的に調和し,これらを
薬品処理し,蒸留水を用いて酸味を抜いた後,200cc
反映していると考えられる.しかし,より詳細には TKH,
の懸濁液から 0.3cc をカバーグラス(18×18mm)上に
H16B-3 および 12B-S4 の指数曲線(図-3)では異なって
広げ,鑑定用プレパ ラー ト を作成 した . 種の同定は
いる.一つは,高頂期以前の曲線が異なることで,最も
1,250 倍の生物用顕微鏡で行い,1 試料につき 100 個体
を目途に算定した.更に海生種,海~汽水生種,汽水
生種,汽水~淡水生種,淡水生種,絶滅種,不定種の
7 つに区分し,これらの割合を求めた.また,絶滅種と
不定種を除いた海生種~淡水生種の 1 個体にそれぞれ
5~1 を与え,平均値を求め海水と淡水の割合の目安と
なる指数
(以下,指数と称す)を求めた.
24)
TKH の結果は,最下部付近では淡水生種が大半を占
め,その上位では海生種が徐々に増加し,深度 16.8m
では最大を示す.その後,海生種は徐々に減少し,最
上部(深度 7.3m)では再び淡水生種が多くを占める.
(図-2).なお,深度 18.79m や 14.79m では海生種の一
時的減少が特徴的に認められる.次に,新篠津村武田
で掘削された 12B-S420) では珪藻分析が行われている
ことから,指数を求め,他のものとの比較を行った.
火山灰分析は,SSC-1の深度42.38~42.25m(標高
-33.52~33.39m)とKKT(川北観測井) の深度36.02
~36.00m(標高-28.52~-28.5m)に挟在する細粒火山
図-3
TKH,H16B-3 および 12B-S4 の指数曲線対比
図-4 石狩平野の南北方
向の地質断面概要
早い時期から海水(海生種)が増加したのは TKH で,
積層が広がり,JR 札幌駅以南には Spfl(支笏火砕流堆
次は H16B-3 で,12B-S4 が最も遅く海水が流入してい
積物)の二次堆積物を挟む札幌扇状地堆積物,紅葉山砂
ったと読み取れる.次に,高頂期やそれ以後の曲線
丘下には前田砂層~生振砂礫相が分布する(図-4).
も異なる変化を示しており,TKH と H16B-3 に比べ,
12B-S4 は大きな変化を示す.これらの違いが,どの
様な原因で生じたのか,今後の検討課題である.
完新世の海面変動は,前述の様に理解されている
ものの,細部は明らかでなく,様々な変動曲線が公表
29)
5.おわりに
地質研究所では,昨年より 3 年計画で独立行政法人産
業技術総合研究所との共同研究「石狩低地の浅層地下地
質・構造の解明」を実施している
33)
(GS-HTB:図-1).
.今回得られた結果からは,高頂期以
また,今年より 3 年計画で科学研究費補助金基盤研究
降に数回の降下と上昇を繰り返す Sakaguchi et al.
(C)「既存掘削井の地質コアを利用した札幌市周辺の軟
されている
の曲線
30)
が比較的調和するものの,今後,更に資料
を蓄積し検討する必要がある.
り,今後も新たなデータを加味し,石狩平野の生い立ち
次に,沖積層の下位に分布する最終間氷期堆積物
について検討する.札幌市新琴似(SKN:図-1)では,
深度 28.1m(標高-25.22m)付近に約 11.2~11.5 万年
24)
31)
を解明する予定である.
本文の要約は以下の通りである.
1)昨年の SSC-1,H16B-7,H16B-3,MHR-1,YUB-1 の分
.また,北海道
析に続いて,今回は TKH の珪藻分析と,SSC-1 および
大学構内の 150m 井(150m:図-1)では,深度 34m(標
KKT の火山灰分析を行い,石狩平野下の上部更新統~
前
に降灰した Toya が存在する
弱地盤の研究」
(研究代表者:嵯峨山 積)を実施してお
高-22.98m)で Toya の存在が確認され
32)
,両地域の
火山灰はほぼ同じ標高(-23~-25m)に挟在する.同
完新統層序と古環境を検討した.
2) TKH では,最下部付近で淡水生種が大半を占め,そ
火山灰直下の地層は,MIS(海洋酸素同位体ステージ)
の上位では海生種が徐々に増加し,その後,海生種
5e(約 13 万年前)の最終間氷期堆積物と推定され,
は徐々に減少し,最上部で再び淡水生種が多くなる.
今回の SSC-1(標高-33.52~33.39m)と KKT(標高
3)SSC-1 の深度 42.38~42.25m(標高-33.52~33.39m)
-28.52~-28.5m)の細粒火山灰が Toya の認定もしく
と KKT の深度 36.02~36.00m(標高-28.52~-28.5m)
は推定は,約 11.5 万年前に形成された堆積面が石狩
の細粒 火山灰 の火山 ガラス 屈折率 から,11.2~ 11.5
平野の地下に存在する可能性を示唆している.
万年前降灰の Toya(洞爺火山灰)と認定・推定した.
14)
によれば,石狩海岸平野下では,形成年代
4)TKH,H16B-3 および 12B-S4 の指数曲線は,数回の降
が 26,000~25,000yBP(ウルム氷期の亜氷期)とされ
下と上昇を繰り返す Sakaguchi et al.の相対的海面
松下
る堆積原面(Bd)が存在し,同面は標高-34~-17m に
変動曲線と比較的調和する.
位置する.一方,SSC-1 と SKN の Toya の層準は同堆
5)Toya は標高-23~-33m に挟在し,石狩平野の地下に
積面とほぼ一致し,同原面が MIS5 の時期に形成され
は約 11.5 万年前の堆積面が存在すると推定した.
た堆積面と推定される.
石狩平野の地質概要は以下の様に解される.最下
謝辞
H16B-7 と H16B-3 の地質試料は北海道開発局札幌
部に鮮新統や中~下部更新統(下野幌層~音江別川
道路事務所,SSC-1 は札幌市下水道河川部,MHR-1,YUB-1
層相当層など)が分布し,その上位にはもみじ台層に
および TKH は田中洋行氏(北海道大学大学院工学研究
相当する最終間氷期堆積物が不整合で累重し,最上
科)より提供していただいた.KKT の火山灰分析用試料
位には Toya が認められる.更に上位には,これらを
は,元北海道立地下資源調査所の松下勝秀氏(故人)に
不整合で覆って Spfa-1(支笏降下火砕堆積物 1)を
より保管されたものである.記して感謝申し上げます.
挟在する最終氷期堆積物が分布する.最上位には沖
本研究の一部は,北海道庁一般試験研究事業の「石狩
低地帯沿岸域における沖積層ボーリングコアの解
析」(平成 18~19 年度)により行われた.
18)二ツ川健二・池田晃一・加藤
誠,1994,2.5 万分
の 1 札幌表層地盤図(2m 深図)および同説明書.北
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直・田近
淳,2001,
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石狩低地帯,新篠津村の沖積層-層序・年代・堆積環
資源調査所,64p.
境-.日本応用地質学会北海道支部平成 13 年度研究
3)垣見俊弘,1958,5 万分の 1 地質図幅「石狩」及
発表会講演予稿集,no.21,9-12.
21)北海道土質コンサルタント株式会社,2006,札幌
び同説明書.地質調査所,47p.
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び同説明書.北海道立地下資源調査所,26p.
地盤図.13p.
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正雄・藤原嘉樹・熊野純男,1972,北海道の
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その下流氾濫原の形成過程.地理学評論,vol.62,
589-603.
16)高木俊男・赤松守雄・高橋輝明,1990,北海道石
of Tokyo, vol.17, 1-17.
31)五十嵐八枝子・山田
治・松下勝秀,1989,札幌市
北部新琴似町における埋没泥炭の 14C 年代-日本の第
四紀層の 14C 年代(171)-.地球科学,vol.43,186-188.
32)嵯峨山 積・五十嵐八枝子・近藤
吉田充夫・地徳
加藤
務・鎌田耕太郎・
力・外崎徳二・工藤千春・岡村
聰・
誠,2007,札幌市街域における 150m 掘削コア
の第四系層序.地質学雑誌,vol.113,391-405.
33)大津
直・川上源太郎・廣瀬
亘・仁科健二・嵯峨
山 積・高清水康博・鈴木隆広・小澤
聡・小松原純
狩低地帯の完世統自然貝殻層と古環境.北海道開
子・木村克己,2009,石狩低地の浅層地下地質・構造
拓記念館研究年報,no.18,1-17.
の解明に関する研究(平成 20 年度研究成果).平成
17)村瀬
正・羽坂俊一・池田国昭・山口昇一,1991,
3 万分の 1 札幌及び周辺部地盤地質図説明書.特
殊地図 30,地質調査所,73p.
21 年度北海道立地質研究所調査研究成果報告会報告
資料集,44-45.
函館平野における温泉の起源と流動状況
Origin and flow system of thermal water in the Hakodate Plane, Hokkaido
○柴田智郎,高橋徹哉,岡崎紀俊,大津 直,鈴木隆広,秋田藤夫(北海道立地質研究所)
Tomo Shibata, Tetsuya Takahashi, Noritoshi Okazaki, Sunao Ohtsu, Takahiro Suzuki, Fujio Akita
されているので 2),このデータも解析に用いた.各測
1.はじめに
函館平野(大野平野)は北海道の南西部に位置し,
定点のブーゲ異常値は,各点から半径 80km の範囲につ
函館市,北斗市および七飯町に拡がっている.南に開
いて,本地域の平均的な密度を 2670kg/m3 としてブー
いた盆地状の地形で,中央部には厚い堆積物が分布し
ゲ補正および地形補正を行って求めた 3).
ている.また,それを取り囲むように第四紀更新世の
広域的なブーゲ異常の特徴は,①函館平野西側の上
堆積物が露出している.この平野の南を除く周辺を丘
磯山地や東側の横津岳山地では 7~8×10-4m/s2 の高異
陵地帯,山地地帯が取り囲んでいる.この地域ではか
常が分布し,断層帯に向かって値は 3.5~4.5×10-4m/s2
つて火山活動が活発に起きている.南部の函館山と北
程度と小さくなる盆状構造を示す,②低異常の中心部
東部の横津岳は第四紀の初頭に,南東部の津軽海峡銭
は地形的に最も低い平野中央部には一致せずそれより
亀沢沖の海底火口は 3~4 万年前にそれぞれ活動して
も西側にずれている,③ブーゲ異常の勾配は西側に比
いた.さらに,1978~80 年には,函館山南部海域から
べて東側のほうが緩やかである.このブーゲ異常分布
銭亀沢海底火口かけての地域で群発地震が発生してい
と本地域の地質分布を比較すると,断層帯周辺の低異
る.
常は堆積岩類の分布に,さらに西部に分布する高異常
日本では 1960 年代から温泉を目的とした深部地下
は先第三紀層の上磯層群の分布に対応している.一方,
水の開発が行われるようになり,これまで温泉がなか
東部は函館市鉄山や戸井町で先第三紀層の戸井層群が
った地域にも広がりつつある.深部地下水の供給機構
地表に露出していることから,高異常は先第三紀基盤
は各地域で異なるものの,概して,天水等が地下に浸
岩類に対応している.このため,ブーゲ異常は基本的
透したものと考えられている.函館平野においても,
には基盤岩上面の構造を反映していると思われる.
1980 年頃から深度 500m 以深を対象とした深部地下水
の開発が進められ,現在ではその数は 60 井を越えてい
3.化学組成と温度構造
る.開発深度は 800~1000m の井戸が多く,湧出温度は
深部地下水および湯川・谷地頭温泉の 49 ヶ所の水試
高いもので 70℃を越えるものがある.現在,利用され
料 を 採 取 し た . 採 取 し 使 用 し た 井 戸 の 深 度 は 45 ~
3
ている 30 泉源の湧出量を総計すると約 0.2m /s,放出
1500m である.試料採取後,イオンクロマトグラフ(横
熱量は 3.9×107J/s(基準温度を 10℃とする)となる.
河アナリティカルシステム社製 IC7000S)を用いて主
この放出熱量は熱階級「V」に属し,このクラスの放出
成分イオンの分析を行った.炭酸水素イオン濃度につ
熱量を持つ道内の温泉地は登別地獄谷・定山渓温泉な
いては容量法によって総アルカリ度を算出し,それを
どがある
1)
.この地域には南東部に湯の川温泉,函館
もとに求めた.
山東部に谷地頭温泉があるが,これらの温泉と深部地
成分濃度は各試料により大きくばらつくが,トリリ
下水との関係は不明である.そこで,本研究では,函
ニアダイヤグラムにプロットすると,多くの試料はア
館平野部における重力調査や深部地下水の化学組成,
ルカリ炭酸塩型やアルカリ非炭酸塩型の化学組成の領
温度構造および水位観測などから深部地下水の特徴や
域に分布する.硫酸イオン濃度は,一部の試料を除き,
平野部の地下構造を明らかにし,本地域の熱水流動系
0.7~2.4kg/m3 と比較的高い値を示す.陽イオン濃度の
についてまとめる.
相関関係を図―1 に示す.多くの試料は,海水,湯川
温泉,濃度の低い地下水を頂点とする三角形および周
2.重力調査
本調査における重力調査は 144 点で行い,測定には
辺上に分布する.また,得られた化学組成を多変量解
析法の主成分分析で解析した.その結果,化学組成に
Scintrex 社製 CG-3M 自動重力計を用い,測定点の座標
ついては各イオンの相関関係から 3 成分の混合であり,
は GPS(TOPCON 社製 LEGACY-H)を用いて決定した.測
その 3 成分が海水,被圧地下水,火山に関連した物質
定点の重力値は函館海洋気象台の一等重力点
の影響を受けた地下水と推測される.この火山に関連
(9.8040055m/s2,現在は亡失)に準拠して求めた.な
した物質の影響を受けた地下水は平野部を北西―南東
お,本調査地域の西縁部は,1997~1998 年に函館平野
方向に直線的に分布し,南東延長上には銭亀沢の海底
西縁断層帯の地下構造を調べるための重力調査が実施
火口がある.函館山南部海域~銭亀沢の海底火口では
行った.谷地頭温泉と深部地下水の2ヶ所の水位は多
少の変動があるが,ほぼ一定に推移している.しかし,
湯の川温泉と深部地下水の 1 ヶ所は,年周期変化を示
しながら水位低下を示す.また,残りの深部地下水の
1 ヶ所は 2006 年 1 月以前にはほぼ一定に推移していた
が,その後,湯の川温泉の水位変動と同じように年周
期変化を示しながら水位低下を示すようになった.つ
まり,深部地下水の貯留層は 2006 年 1 月以前までは供
給源からの流入と流出が均衡していたが,それ以降,
図―1
陽イオン相関図
(文献 7 に加筆)
流出量が増加したため供給源の圧力変化ともに水位低
下を示ようになった.この結果より,平野部と湯の川
1978-80 年にかけてマグマ活動とみられる群発地震が
温泉とでは別の貯留層を形成していると考えられる.
発生していたことから,マグマ活動が終息したとは考
これらの調査をもとに考察すると,大局的な地下深
えにくい
4~6)
.そのため,これらの温泉は,火山の影
響を受けている可能性がある 7),8).
部の温泉貯留層は,湯川温泉を南東起点とし,北西―
南東方向に分布していると推定される.この北西―南
深部からの地殻熱による温度構造は,坑井内の温度
東地域の温泉は火山に関連した物質の影響を受けてい
検層によって測定される鉛直温度分布から推測される.
る化学組成を示し,また,他の地域よりも地温勾配が
多くの井戸では一定の割合で温度が上昇する様な温度
高い.そのため,何らかの火山に関連した深部の熱源
分布を示す.一方,湯の川温泉などの一部の温泉では,
から北西―南東方向にそって高温の温泉が供給され,
地下の浅部で温度勾配が大きく,深部では小さくなる
温泉貯留層を形成していると考えられる.その貯留層
ような温度分布を示す.透水性の高い地層や亀裂など
は湯川温泉では地表から 100m 前後の深さと考えられ,
では比較的水が流れやすく,その水の流動によって熱
それから離れるに従い徐々に地温勾配が低くなること
移動が支配されるため,鉛直方向に対する温度勾配は
から,貯留層の深度が増加し,平野中心部では 1000m
小さくなる.そのため,湯の川温泉などで示される温
程度の深さであろうと思われる.
度分布は,深部から温度の高い水が上昇していると考
えられる.鉛直温度勾配(℃/100m)を,坑底(検層最
文献
深)温度と基準(地表)温度(10℃)の差を坑底(検
1)福富孝治(1966):北海道の温泉について.火山,
層最深)深度で割って算定した.得られた鉛直温度分
布は,5℃~7.5℃/100m の温度勾配を持つ泉源が最も
11,127-144.
2)田近
淳・大津
直・岡崎紀俊・鈴木隆広・平川
多く,次の 2.5~5.0℃/100m の温度勾配をもつ泉源と
一臣・伏島祐一郎(1999):北海道活断層図
あわせると,全体の 80%以上を占める.また,これら
函館平野西縁断層帯
の高い温度勾配を持つ泉源は,化学組成で示した火山
65pp.
に関連した物質の影響を受けた地下水分布と同じ,平
野部を北西―南東方向に位置する.
3 ) Yamamoto, A.,
corrections
for
No2
活断層図とその解説.北海道,
(2002):
Spherical terrain
gravity
using
a
digital
elevation model gridded with nodes at every 50
4.水位変化と熱水流動状況
深部地下水の水位変化は,地下水が胚胎している貯
m. J. Fac. Sci., Hokkaido Univ., 11, 845-880.
4)笠原
稔(1978)
:函館付近の地震活動(I).北海
留層内の圧力変化を示している.温泉開発が行われて
道大学理学部地震観測センター速報,4,31-33
いない状態での貯留層内の圧力は,供給源からの流入
5)本谷義信(1979)
:函館群発地震について(速報 2).
と周りの地層への拡散により,ほぼ一定に保たれてい
る.しかし,ボーリングによる温泉開発などで貯留層
北海道大学理学部地震観測センター速報,5,20-25.
6)本谷義信(1980)
:函館群発地震について(速報 3).
から地下水を汲上げた場合,供給量が汲上げ量よりも
北海道大学理学部地震観測センター速報,6,20-22.
多い場合は,地層内への拡散量が減少するだけで,貯
7)柴田智郎・丸岡照幸・高橋徹哉・松田准一(2008a)
:
留層内の圧力はほぼ一定で保たれるため,水位変化も
多変量解析法を用いた北海道函館平野における深
一定であると考えられる.しかし,貯留層からの汲上
部地下水の供給源の推定.地球化学,42,13-21.
げ量が供給量よりも多くなった場合,貯留層の圧力が
8)柴田智郎・高橋徹哉・岡崎紀俊・大津
直・鈴木
減少し,水位低下を示すとともに,供給源の圧力変化
隆広・秋田藤夫(2009):函館平野の熱水系.北海
を直接示すようになる.
道立地質研究所報告,80,27-37.
平野部の深部地下水の 4 ヶ所,湯の川温泉の2ヶ所,
谷地頭温泉の 1 ヶ所,合計7ヶ所において水位観測を
泥岩を基岩とする地すべり地における実効雨量と
地すべり変位・孔内水位の関係
Displacement characteristics based on relationship between ground-water level and working rain in
mudstone landslide area
○鈴木 俊司((株)ドーコン)
Shunji Suzuki
1.はじめに
3.孔内水位の測定結果と地すべり変位
地すべりの誘因の 1 つに地下水位の変動がある.これは,地下
対象とした地すべり周辺に設置されたボーリング孔の観測孔
水位の上昇によりすべり面に作用する間隙水圧が上昇し,
地すべ
の内,13 本のデータを用いて検討した.検討に用いた観測孔は,
りの安全率を低下させるからである.しかし,実務においてはす
パイプ歪み計と水位計が設置されており,かつ,パイプ歪み計に
べり面に作用する間隙水圧を計測することは困難で,
全孔ストレ
よって地すべりの変位を捉えた観測孔である(図-1)
.
ナー加工した孔の孔内水位を計測している場合が多い.
図-2にパイプ歪み計と孔内水位の関係を示す.
図-2では臨
本検討は,
全孔ストレナー加工した孔の孔内水位と地すべり変
界水位(GL-1.4m)を超えると歪み変位が発生している.対
位に関連が認められる地すべり地において,
実効雨量と孔内水位
象とした観測孔は,
すべての孔で歪み変位が確認されるとともに
の相関を検討した事例を報告する.また,簡易的な見積により融
臨界水位設定することができ,
歪み変位と孔内水位には明瞭な相
雪量を推定し,相関を検討した結果も合わせて報告する.
関が認められる.
2.検討対象の地すべり
検討対象とした地区は,北海道夕張市富野地区である.富野地
区は,夕張山地の北西部に位置し,古第三紀幌内層を基盤岩とす
る.幌内層は暗灰色を呈す塊状泥岩を主体とし,ところどころに
凝灰岩層を挟む.
深
度
( m)
柱 状 図
記
地
号
質
クである.地すべりの規模は,A ブロックが幅 100m,長さ 160
m,B ブロックが幅 50m,長さ 80m,C ブロックが幅 200m,長
さ 200mの多丘状地すべりブロックの一部である.
A ブロックと B ブロックは,主に泥岩内に挟在する凝灰岩をす
べり面とする地すべりである.移動土塊は,ともに,10~13mの
厚さを持ち,移動体は主に風化した岩屑土により構成される.
C ブロックは,泥岩内にすべり面を持つ地すべりである.C ブ
パイ プ 式歪計変動図
2 0 0 0 μs t r a i n
H B -7
5. 0
Pu3(h)
Pu3(m)
10. 0
12.5m
Pu3(w)
Pu2(w)
15. 0
P u 2
17. 5
5
年
深
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
2 3 4 5 6 7 8 9 101112 1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112 1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112 1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112 1 2 3 4 5
2001
2002
2003
2004
2005
月
対象とした地すべりは,図-1に示す A~C の地すべりブロッ
H B -7 号孔
Pu3(h)
0 孔
1
2
3
別
-3000 水
4
歪-4000
5
位
6
量-5000
-6000 ( m) 7
( μ st r ai n)
度-1000
臨界水位G L -1 . 4 m
内
1 2 .5 m
-2000
日
H B -7
孔内水位
臨界水位( G L -1 . 4 m)
歪み変位( G L -1 2 . 5 m)
最
80
160
深
60
120
水
積
40
80
量
雪
20
40
( mm) ( c m)
降
月
年
2 3 4 5 6 7 8 9 101112 1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112 1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112 1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112 1 2 3 4 5
2001
2002
2003
2004
2005
図-2 歪み変位,孔内水位の観測結果と臨界水位(HB-7 の例)
ロックの移動土塊は,12~16mの厚さを持ち,主に風化した破砕
岩から構成される.
4.検討対象期間と融雪量の推定
融雪水の影響を受ける期間と受けない期間では相関が異なる
ことが予想されることから,期間を分けて検討を行った.融雪水
の影響がない期間を6月1日から10月31日
(以下,
夏期と呼ぶ)
,
融雪の影響がある期間を 3 月 1 日から 5 月 31 日(以下融雪期と
呼ぶ)とした.また,対象の地すべりは地下水排除工による対策
が実施されたことから,対策の影響がない期間として,夏期は A
ブロックとBブロックで2001年から2004年,
Cブロックでは2001
年から 2003 年,融雪期は A ブロックで 2002 年から 2005 年,B
ブロックでは 2001 年から 2004 年,C ブロックでは 2002 年から
2003 年を検討期間とした.
雨量のデータはアメダス(夕張)を使用した.夏期の降雨量は
図-1 検討対象の地すべりブロックとボーリング配置
日降水量を用い,
融雪期の降雨量は日降水量+日融雪量を用いた.
日融雪量は,
積雪がある期間の日平均気温がプラスの時に日平均
気温×5mmと推定した(図-3)
.
日 80 最 160
70
140
融 60 深 120
50
100
雪
積
40
80
30
量
雪 60
20
40
10 ( c m)
20
( mm)
日融雪量
HB-7(2001~2004年 6/1-10/31)
a=0.92、T=8日
最深積雪
0
1
年
150 日 150
140
140
降
130
130
120 水 120
降 110
110
量
100
100
90 + 90
水 80
80
70 日 70
60
60
融
50
量 50
40 雪 40
30
30
量
20
20
( mm)
10 ( mm)
10
日
月
年
2
孔内水位
1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112 1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112 1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112 1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112 1 2 3 4 5
2001
2002
2003
2004
2005
月
3
4
5
6
日降水量
y = -0.0102x + 3.0354
R2 = 0.5514
7
日融雪量
8
0
50
100
150
200
250
実効雨量
300
350
400
図-4 実効雨量と孔内水位の関係(HB-7 夏期の例)
1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112 1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112 1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112 1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112 1 2 3 4 5
2001
2002
2003
2004
2005
HB-7(2002~2005年 3/1-5/31)
a=0.94、T=11日
図-3 検討期間の降雨量と融雪量
5.実効雨量と孔内水位の関係
0
降雨と孔内水位の変動の相関を得るため,
実効雨量を指標とし,
1
2
孔内水位
検討対象としたボーリング孔内水位を用いて両者の相関を求め
た.
実効雨量Rは,以下の式で求められる.
3
4
5
R=aR0+a2R1+.
.
.+an+1Rn・・・・・・・
(1)
y = -0.0079x + 2.9521
R2 = 0.6672
6
1/T
a=0.5 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(2)
7
0
ここで,aは減少係数で 1 日の降雨の影響の程度を表す係数,
50
100
150
200
250
実効雨量
300
350
400
Rnはn日前の日雨量である.T は半減期(日)で雨量の影響が
半分になる期間である.
図-5 実効雨量と孔内水位の関係(HB-7 融雪期の例)
表層崩壊や土石流など,
地表面から比較的浅い土砂災害を対象
として 1.5 時間や 72 時間半減期の実効雨量が用いられる.本検
6.まとめ
本検討では,
全孔ストレナー加工された孔内水位と実効雨量の
討の対象は地すべり地であるため,
表層崩壊などで対象としてい
相関について検討した.以下に結果をまとめる.
る浅い深度の水分の変化ではなく,
さらに深い深度での水分の変
1)夏期における検討で得られた最適半減期は 4 日~34 日(平均
化が対象であるため,
孔内水位と相関の高い半減期は 1.5 時間や
値は 13 日,34 日のデータを除くと 11 日)
,相関係数R2 は 0.10
72 時間よりも長い可能性が高い.そこで,相関解析の最大半減
期は 34 日とした解析結果を表-1および図-4~5に示す.
~0.74 である.
2)融雪期における検討で得られた最適半減期は,4 日~34 日(平
均値は11 日,
34 日のデータを除くと9 日)
,
相関係数R2 は0.41
表-1 解析結果一覧
ブロック 孔番号
2001-2004 06/01~10/31
2002-2005 03/01~05/31
2001-2004 06/01~10/31
HB-3
2002-2005 03/01~05/31
2001-2004 06/01~10/31
HB-5
2002-2005 03/01~05/31
2001-2004 06/01~10/31
HB-6
2002-2005 03/01~05/31
2001-2004 06/01~10/31
HB-7
2002-2005 03/01~05/31
2001-2004 06/01~10/31
HB-8
2002-2005 03/01~05/31
2001-2004 06/01~10/31
HB-10
2002-2005 03/01~05/31
2001-2004 06/01~10/31
HB-11'
2002-2004 03/01~05/31
2001-2004 06/01~10/31
HB-12
2002-2004 03/01~05/31
2001-2003 06/01~10/31
HB-14
2002-2003 03/01~05/31
2001-2003 06/01~10/31
HB-18
2002-2003 03/01~05/31
2001-2003 06/01~10/31
HB-20
2002-2003 03/01~05/31
2001-2003 06/01~10/31
HB-21
2002-2003 03/01~05/31
HB-2
A
B
C
解析期間
回帰直線式
臨界水位 半減期
Y=AX+B
(C.W.L) T(日)
A
B
1.10
10
-8.6 × 10-3 2.39
-3
1.10
8
-5.8 × 10
2.15
2.50
5
-8.7 × 10-3 4.11
2.50
5 -12.3 × 10-3 4.19
5.00
7
-3.8 × 10-3 5.78
5.00
7
-5.5 × 10-3 5.78
7.80
23
-4.9 × 10-3 9.10
7.80
23
-4.2 × 10-3 9.09
1.40
8 -10.2 × 10-3 3.04
1.40
11
-7.9 × 10-3 2.95
4.90
7 -12.0 × 10-3 6.45
4.90
8 -13.9 × 10-3 6.41
7.20
34
-2.8 × 10-3 8.02
7.20
34
-4.0 × 10-3 8.01
5.80
23
-3.2 × 10-3 6.39
5.80
4
-5.4 × 10-3 5.97
2.00
4
-3.0 × 10-3 2.11
2.00
4
-3.3 × 10-3 2.06
4.30
8
-6.7 × 10-3 5.00
4.30
7
-7.1 × 10-3 4.89
8.50
14
10.7 × 10-3 10.40
8.50
11
12.6 × 10-3 10.12
6.30
14
-6.9 × 10-3 7.50
6.30
10
-6.6 × 10-3 7.32
13.50
8
-2.3 × 10-3 14.14
13.50
5
-2.3 × 10-3 14.07
~0.82 である.
相関
係数
R2
0.622
0.697
0.545
0.743
0.525
0.816
0.575
0.677
0.551
0.667
0.490
0.685
0.280
0.457
0.104
0.405
0.269
0.418
0.734
0.792
0.564
0.716
0.591
0.758
0.209
0.492
3)融雪期の検討は,融雪量を簡易的な見積方法により換算した
値を用いたが,相関係数は夏期よりも高く,この換算方法を用
いても有効な結果が得られる.
4)泥岩地帯の地すべり地内で計測される孔内水位は,実効雨量
との相関が認められ,地区における降雨と孔内水位のおおよそ
の関係を得ることができる.孔内水位と地すべり変位の関係が
把握できていれば,実効雨量から地すべり変位の発生を予測す
ることが可能である.
謝辞
北海道札幌土木現業所より計測データの提供と公表を許可し
ていただきました.記して厚く御礼申し上げます.
参考文献
海野ほか(2008)
:破砕帯地すべり地区における地下水位計測
と実効雨量に基づく地下水位の降雨応答特性.
日本地すべり学会
誌,Vol.45,No.3
超簡易型ボアホールカメラを用いた地質解析の将来性
太田保(株式会社復建技術コンサルタント)
,金秀俊(株式会社ドーコン)
Tamotu Ota,Hidetoshi Kon
1.はじめに
この論文は当社で開発した超簡易型ボアホールカメラの特徴
レーターの意見を反映して撮影頻度の多い50m以内とし
て撮影可能な深度を余裕を見て40mとした.
を紹介し今までの撮影事例を基に,ボーリングコアのみでは不
・ この可とう管は硬いので全部を巻ききれるドラムを作成し
十分であった地質調査にボーリング外壁の撮影データを加味し
て引き出し,収納作業を簡便にした.尚,この時に発生する
て地質調査を行う事が真の地質調査であると言う事を述べたい.
管の友廻りを防ぐ装置を内蔵する事によりこの問題を解決
尚,このテーマは現在社団法人全国地質調査業連合会(通称
してスムーズな撮影を可能にした.このドラムを収めるケー
全地連)の平成21年度新マーケット創出・提案型事業に応募
スは縦60cm,横70cm,幅40cmのアルミケースと
し認可されたので,今後この事業に参加した委員で手分けをし
し人力で運搬が可能な総重量7キロに抑えた.
て,いろいろな地質調査に用いてデータを集めて標準化も含め
・ 可とう管だけでもほぼまっすぐに挿入できるが,巻き癖があ
た検討を行いこの調査法が JIS 化される事を期待している.こ
り孔壁に接触するためこれを防止しほぼ中央に来るように
れに基づいて全ての地質調査で用いられるとボーリングコアだ
簡易なセンターライザーをカメラゾンデに2箇所にビニー
けの観察では不可能であった地山状況を把握でき,ボーリング
ルテープで止める事で解決した.
孔の付加価値を高め,ボーリング調査における技術経費を向上
・ ビデオ画像をDVDに記録する他,撮影画像を処理ソフトを
させてゆとりのある地質調査業務に発展する事を期待している.
用いて展開図にする事も可能である.この処理は提携してい
2.超簡易型ボアホールカメラの紹介
る会社に委託する他,画像処理会社に委託する事も出来る.
このカメラの最大の特徴としては安価で操作が簡単なため誰
・ このカメラは基本的には前方視型カメラであり,この機能を
でも5分以内で撮影が出来る事である.既存のカメラの機能を
用いたボアホールカメラとして当社では実用新案特許(登録
持たせて開発すると最低でも約10倍の300万円の器械とな
第3119012号)を取得している.このカメラはボーリ
る.
ング掘削中に先掘りした孔の撮影が可能である.
写真―1 超簡易型ボアホールカメラ全景
・ ボアホールゾンデでのカメラの電源は単3電池8本で行い
ビデオテレビはバッテリー内臓であるので基本的にはこれ
だけである.しかし,長時間の撮影現場やモニターテレビで
も観察する場合には12Vのバッテリー又は100V電源
が必要である.
3.撮影方法と簡単な取り扱い方法の説明
操作はビデオとモニターテレビ用端子の2箇所に接続して赤
い電源ボタンを押せば撮影開始で数分の操作である.
カメラのゾンデ部が廻るので画像の上が孔の上になるように
廻して調整し,確定したらビニールテープで固定して挿入する.
記録者は記録用紙に可とう管の1m毎の深度とビデオの撮影時
このカメラの要点を箇条書きで示す.
・ 市販水中カメラ(CCD)を使用し孔壁観察用に拡散皮膜を
貼り,壁を観察するように改良した.
・ この市販カメラには防水の保証が無いために,ジョイント部
4箇所に膜塗剤を塗布して,ダムの湛水湖で40mまでの耐
圧試験を行い耐水圧の保証を行っている.
間を書き込む.挿入時間は10~30cm/秒程度は可能であ
るが10cm程度が観察しやすい.なお,ケーシング内など撮
影の必要の無い箇所は早く挿入しても良い.
最新式のビデオカメラで地質技術者が立ち会う時にはモニタ
ーテレビを見ながら地質情報を音声で挿入が出来る.
ボーリング孔に濁り水が無く空孔の場合は綺麗に撮影が出来
・ 方位センサーは用いず,可とう管にこの機能を持たせ,孔口
るが,濁っている場合は撮影できないのがこの様な光学カメラ
でビデオ又はモニターテレビの画面の上を北に合わせて挿
の常識である.しかし,当社ではこれを解決できる方法につい
入する事で可とう管の左右のブレを極力抑えられた.
て現在実験中でほぼ目処が立ちそうな状況である.
・ 深度センサーは用いず,可とう管にテープで1m毎の表示を
した.画面との位置関係はこの深度とビデオ撮影の表示時間
を記録する事で可能にしこの役目を持たせた.
・ この可とう管を用いて挿入するためどの方向のボーリング
孔にも対応できる.なお,可とう管の長さはボーリングオペ
通常は水中ポンプで除去するか,沈殿剤で濁りを薄める処理
が必要で解決できる.
4.撮影事例
ケース1:郊外の社内倉庫敷地に掘削した深度25mテスト孔
の撮影
この孔は段丘堆積物と新第三紀凝灰質砂岩互層を掘削したも
ーリングでも前方視カメラの特徴を生かし現在開発中の濁水対
ので境界部から多量の湧水がある.貝殻片や火山灰が浮遊して
策方法が確立されれば乱されない孔壁での土質の判断が可能で
濁っており水中では撮影不可能である.沈殿剤や湧水を汲み上
ある.これに対しても今後挑戦して,標準化を図れれば地質調
げて撮影すると地層の互層状況が綺麗に撮影できた.この地層
査の解析の範囲が大幅に拡大される可能性が高い.今後はこの
を展開図として表示を行いほぼ水平層で在る事も確認した.こ
カメラの特性を生かしていろいろな分野に挑戦してその記録を
の孔はカメラ製作時の性能の確認でも使用している.
基に地質調査の標準化を図って行きたい.
現在,この孔を使用して濁り水中での撮影方法の試験を行い,
比較的簡単な操作をする事で綺麗な画像の撮影に成功し,現在
6.問題点及び今後の方針
このカメラの問題点は光学系カメラであれば致し方ない濁り
詳細な詰めを行っている.
に対して弱い点である.これをクリアーするには超音波センサ
ケース2:アンカーボーリングの定着岩盤撮影
ーで行うなど土質,地質の色調を犠牲にする方法しかないのが
斜め30度方向に施工中の直径116mmアンカー孔の定着
現状で高級ボアホールカメラでは実現している.
岩盤を撮影して設計時想定岩盤を確認して後,モルタルを充填
しかし,この超簡易型カメラの特質を生かしてこの問題に対
した.日本ではこの岩盤確認は掘削中のスライムを見て判定す
処する方法として前方視型カメラの利点を活用して清水を送り
れば良いが,間接的なので直接目で視て施工者と発注側とがお
込んで撮影する方法があり,現在研究中である.
互い確認する事が重要と考えて実施した.今回は花崗岩のマサ
また,土質や軟弱地盤での適用にはケーシング前方の不定形
化した岩盤であり亀裂等は認められなかった.
になっているボーリング孔を直接視るための掘削長や掘り方に
ケース3:深礎杭の亀裂の有無の確認撮影
工夫が必要であるがこれについては事例を多くする事が重要で
2008年6月に発生した岩手・宮城内陸地震の被災地にあ
ある.これが実現すれば,土質をありのままに見る事が常識と
る橋梁基礎の深礎杭中でボーリングを行った所,ボーリングコ
なり,より鮮明にあるがままに視た,地質及び土質の解析が可
アに亀裂が認められたがこれは地震時に発生したものかどうか
能となる.
を確認するためにこのカメラで撮影した.所定の所に亀裂は認
空孔での観察が最もこのカメラには適しているがこのカメラ
められない事より,これは掘削後に発生したものと判定してこ
は水中カメラの機能も有しているので各地質に適合した沈殿剤
の深礎杭の健全性が確認された.コンクリートでのボーリング
の開発も有望である.別な方法で現在研究中である.
孔のため,礫や鉄筋の一部も綺麗に撮影できた.
いずれにしても,このカメラは安くて構造も単純でボーリン
ケース4:2008年6月の地震災害で岩盤内に認められた亀
グのオペレーターが最も恐れるジャミングについてはほとんど
裂を撮影
心配が無いのが特徴でいろいろな土質,地質に挑戦できるツー
この亀裂の方向や規模を確認するために行い概要を把握でき
た.ボーリングコアでは開口亀裂の規模性状の概要は判断でき
ルと考えている.
地質解析の補助具として地質調査の原点である直接視る事を
るが方向性や開口幅は判断できない.このカメラを使用するこ
多くの事例を通して可能にする事が出来ると考えられる.
とでこれを確認できた.
7.結論
5.考察
現在はまだ4事例しかないが製作中にテスト孔を利用して問
題点を解消しているので今後は大きな問題は無いと考えて平成
20年の10月から販売している.
このカメラは先に述べたように全地連の事業に応募し,採用
され6月から公募中で参加企業を待っている.
(独)産業技術総
① 開発したボーリング孔の孔壁を撮影する超簡易型ボアホ
ールカメラを用いて多くの土質,地質の観察事例を増やし
て標準化を図る.
② 超簡易型ボアホールカメラは安価,撮影まで数分で準備完
了,全方向に挿入が可能でボーリングオペレーターや地質
技術者の補助具として使用できる.
合研究所の平成20年度中小企業等製品性能評価事業に応募し
③ 前方視型カメラであるので今まで不可能であった土質の
たが市場性が弱いという事で1次で却下された.この他,
(財)
孔壁を掘削中に観察できる可能性があり,地山状況を判断
国土技術研究センターの国土技術開発賞への応募を実施した.
できる.
国土交通省のNETIS事業ても認可され,6月12日より公
開された.
このカメラは安価で操作も簡単であるためボーリングオペレ
④ 水中カメラであるので現在研究中の濁水対策が成功すれ
ば全ての土質・地質に対して孔壁を短時間確保できれば全
ての地山観察が可能となる.
ーターの補助具としてはもちろん地質技術者の観察道具として
⑤ 全地連の新マーケット創出・提案型事業に参加した会員で
ボーリング調査中に使用して今までの地質調査では未開拓の孔
実施例を飛躍的に増やし,事例を積み重ねれば地質調査の
壁を簡単に観察するツールとして開発した.これから得られる
標準化が可能となる可能性がある.
情報を拡大させて地質解析を行う事でボーリング1本当たりの
情報を拡大させ付加価値を高めて地質調査における発注単価の
内,技術経費を高める事が出来る.情報としては亀裂の幅,方
向,亀裂充填物の種類,湧水の有無,量,方向,速度,断層や
地すべり面の直接確認が出来る.
この他,今まではまったく不可能と考えられていた土質のボ