6 月 3 日(水)に提出してもらった質問に対する回答です。 試験に関連する部分もあるので、目を通しておいてください。 図の+、-、説明 前回の講義資料にさまざまな動物の脳と+、-の表がありましたが、この+-は、その部 分が特に発達している(++) 、発達している(+)発達していない(―)を意味します。 説明が不十分でした。 ヒトは二次元的な運動が主なのに、なぜ脳が発達しているのか “脳”を脳全体と捕らえると、ヒトの脳は、運動以外のために発達している部分が大きい から。 “脳”を小脳とすると、ヒトは二足歩行になったため、頭の位置が高くなり、細かいバラ ンスの調節が必要となった。二次元運動(地面に足をついている)といっても、かなり複 雑な運動をするようになった。 などが理由として挙げられるでしょう。 視神経はなぜ交差する? なぜ交差するかは、わかっていません。 クリューバー・ビューシー症候群の「口唇傾向」とは 目についたものを何でも口に入れてしまう行為のこと。クリューバー・ビューシー症候群 の特徴的な症状の1つですが、認知症のヒトにも現れる、一種の認知障害です。 クリューバービューシーの人は、どのくらいいる? 知りません。 だれか調べて、わかったら教えて。 脳のある動物、無い動物 授業で出てきた動物では、イヌ・ネコ~魚類まで(脊椎動物)は、ヒトと同じような(大 脳、中脳、小脳・・と分かれた)脳を持っています。コオロギなどの昆虫は、各体節に神 経節という神経細胞が集まってできた塊があり、先頭の部分にさらにたくさんの神経細胞 が集まったものが脳と呼ばれています。ミミズは、各体節に神経節がありますが、昆虫の ような脳はありません。ハマグリにも、口の周りに神経節があります。 というように、「脳」という言葉をどう捕らえるかで、「正答」は違ってきますが、あまり 「正答」にこだわらず、いろいろな動物で、脳―神経系がどのように発達(進化)してき たかを見てください。 ハマグリの分類 ハマグリ(貝類)は、軟体動物(タコ・イカ・カタツムリ・ナメクジ・・・の仲間)です。 (ツブガイ、アカガイ・・・すし屋で食べると、タコ・イカに歯ざわり、似てるでしょう。 ) 虫は痛みを感じるだろうか? “痛み”とは何か、 “脳”は何をやっているのか、を考える上で、非常に重要な問題です。 私たちは、手をたたかれたり、手で熱いなべのフタなどに触れると、無意識のうちに手を 引っ込めます。痛みや熱さは、その少し後に感じます。痛みや熱さを起こす刺激(侵害刺 激)は、皮膚の受容器を興奮させ、この信号は、脊髄を介して、手を引っ込めるという反 射運動を引き起こします。 “痛い”という感覚は、侵害刺激によって起こった神経の興奮が、 脳の“痛覚中枢” (体性感覚野や島皮質)に届いたときに起こります。虫にも、侵害刺激に 反応する神経はあります。侵害刺激に対して、足を引っ込めたり、逃げ出したりします。 けれども、ヒトのような“痛覚中枢”は、ありません。したがって、 “ヒトと同じような痛 み”の感覚があるとは考えられません。ただし、侵害刺激に反応しないわけではないので、 虫の世界に何らかの“痛み”が全くないことは否定できない、とも考えられます。 これは、痛み以外の他の感覚にもいえます。例えば昆虫も視覚系が発達していて、アゲ ハチョウのオスは、メスの羽の模様に惹かれて、メスのところにやってきて、交尾をしま すが、メスの代わりに、黒とクリーム色の縞々模様を見せると、それに近づいてきます。 アゲハチョウのオスは、メスを認識しているわけではなく、メスの身体に備わっている、 ある刺激パターンに反応しているに過ぎないのです。アゲハチョウは、私たちと同じ空間 に住んでいながら、本能行動を引き起こす刺激パターンに囲まれた世界に住んでいるので す。 プラナリアの脳は、どのように再生する? プラナリヤを2つに切断すると、その後方の身体の部分から、前方の体組織が再生してき ます。切断された神経の断端からは神経が再生してきます。再生した神経の先端に神経細 胞がたくさん(分裂して)できて、脳になります。 脳の立体構造 脳の三次元構造を、二次元の紙の上にしかも文字で表すのは、脳の三次元構造を理解する より難しいです。ましてや、それを読んで理解するのは、もっと難しいです。 ので、説明省略。 小山研に、ネズミの脳の二次元切片標本(脳を薄くスライスして染色したもの)や 3 次元 構造標本(実物そのもの)があるので、興味のある人は見にきて。 脳のしわと頭のよさ 高知能ほどしわが多いか?(テレビで、脳のしわは、頭の良さとは関係ないと言っていた) その原理は? 一般的に脳(特に大脳)が大きい(脳全体に占める比率が高い)ほど知能は高い傾向にあ ります。 (これは、魚類―両生類―爬虫類―鳥類―哺乳類の脳を並べてみるとなんとなく納 得できるし、哺乳類の中でも、高等な哺乳類ほど、しわは多くなっています。)脳の「しわ」 は、大脳が発達して、表面積が大きくなった結果できたもので、 「しわ」自体に特に秘密が あるわけではありません。 ただし、しわ(脳の表面積の大きさ)は、頭の良さに全く関係ないか、というと、そう断 言もできないでしょう。脳の「ある機能をつかさどる部分の大きさ」は、 「その機能の発達 に密接に関連している」ことは、君たちも、色々なところで見てきています。コウモリの 聴覚野は、大脳皮質においてヒトの聴覚野よりも大きな比率を占めています。ヒトの場合、 体性感覚野では、指や舌からの感覚を処理する領域が大きくなっています。 )同じように「知 能」に関連するのは、大脳皮質の一部(どんな知能によるかによって、関連する脳部位も 少しずつ違ってくるので、一概にどことは言えない)ですので、その部分の大きさと知能 との間には、何らかの関連があるかも知れません。少なくとも、脳全体の大きさ(しわ) との関連よりは明確な何かが。 多分テレビの解説者は、ヒトよりしわの多いイルカやクジラの脳のことを(ヒトのほう がしわは少ないけど賢いと)言っているのでしょうが、イルカやクジラの脳にしわが多い (ヒトよりも表面積が広い)のは、陸から海に戻った哺乳類が海で生き延びていくために、 ヒトにないさまざまな能力を発達させ結果(ヒトに発達していない脳部位が発達していっ た) と考えられます。彼らは彼らなりに、ヒト知れず苦労しているのです。 フィネアス・ゲイジは、脳の損傷によって勤勉だった性格が荒っぽく、粗野になったが、 逆の例はあるのか?動物でもあるのか? 前頭葉の切断によって、性格が穏やかになるという報告もなされ、過去に、治療として、 頻繁におこなわれたことがあります。日本でもかなりの例数がなされています。 前頭葉は、ヒトの理性や、意欲を形成する領域なので、そこが破壊されると、人間的な抑 制が効かなくなるほかに、無気力になったり、単に意識喪失に近いボーッとした状態にな るので、見方によっては、性格が穏やかになったとみることもできるでしょう。この方法 を難治性の精神疾患患者に応用して「成果を挙げた」とされるエガス・モニスは、ノーベ ル医学生理学賞をもらっています。もちろん、現在は禁止されています。 動物では、このような感情・情動を調節する部位は詳しくわかっているので、手術で、凶 暴な動物や穏便な動物、勤勉な動物を作ることは簡単です。 作り方は、脳神経科学の授業の後半で。 延髄の呼吸中枢 図のように、延髄には、呼吸を調節するいくつかの神経集団が存在します。 これらの神経群は、自動的にリズミカルな活動を続け、胸腔を拡げたり、狭めたりする筋 肉(呼吸筋)を規則正しく活動させます。延髄の比較的広い部位に、呼吸調節に関連する ニューロンが分布していますが、それらは、横隔膜、外肋間筋、内肋間筋といった、異な る呼吸筋を調節し、呼吸調節ニューロン群の間でも、複雑なネットワークを形成している ので、その一部でも損傷を受けると、正常な呼吸ができなくなります。 座頭市が悪人を殺すために刺したのは、延髄腹側呼吸ニューロン群の後部です。 脳死を人の死と言っていいのか 「脳死」 、 「人の死」をどう判定するかは、国によって、人によって、異なります。 昔は(今も、多くの場合そうですが)心臓の停止を「人の死」とみなしてきましたが、臓 器移植が可能になると、 (新鮮な臓器を取り出すため)医学的に「死」を判定する必要が出 てきました。医学的に判定した「死」が「脳死」です。(「脳死」の判定基準については、 以下を参照。 )欧米には、 「脳死=人の死」と法律で定めている国もありますが、日本の法 律では、医学的な判定基準を、複数の医師が、定められた手順で検査、確認した場合を、 「脳 死」と定めています。しかし、法律で「脳死=人の死」とは、定められていません。 「脳死 =人の死」と認められて、日本人から臓器の取出しが可能になるのは、遺族(となる人)が 「脳死=人の死」と認めたときに限られます。 脳死を人の死といっていいのか、いつか君たちの意見を聞かせてください。 (追加) 「脳死」の判定基準 非常に細かい、厳密な基準が設けられていますが、主な点は、以下のような脳幹の機能の 消失によって、脳死とみなします。 1.昏睡状態である。 2.瞳孔固定(瞳孔が開ききりになる) 3.以下のような、脳幹反射の消失 ・対光反射:目に光を当てると瞳孔が収縮する ・角膜反射:角膜を刺激すると、目が閉じる反射 ・網様体脊髄反射:首や胸、上肢などに痛み刺激を与えると、(痛みによ って)瞳孔が開く反射 ・その他いくつかの、脳幹を介する反射 4.脳波が平坦になる(記録できなくなる) 5.自発呼吸の消失 コウモリの聴神経はなぜ 30 kHz, 60 kHz, 90kHz に選択性が高いのか。 60kHz の音に反応するニューロンは、その近くに並んでいる、59kHz の音に反応するニ ューロンや 61kHz に反応するニューロンを抑制する(側方抑制)ことによって、60kHz に 対する反応性を際立たせます。同様に、59Hz の音に対しては、59kHz の音に反応するニュ ーロンからの側方抑制を受け、反応が抑制されます。61kHz の音に対しても、同様です。 このようにして、60kHz の音に対する選択性がさらに高くなります。 なぜ、70kHz でなく 60kHz か、という問いに対しては、生理学はきちんとした解答はで きません。 遺伝的に自分の出す声(60kHz)に反応するニューロンが発達している、と も答えられますが、自分の出す声(60kHz)はいつも聞いているので、60kHz に対する反応性 が高まる、とも考えられます。 なぜ 30kHz、60kHz、90kHz と 3 種類なのか、という点に関しては、コウモリが声を出 すときは、喉にある発声器官(鳴管・・気管の一部)を振動させて出すのですが、30kHz の音を出すと、それが反響して、60kHz、90kHz の音も一緒に出ます。このような現象は、 コウモリの喉に特異的なわけではなく、気管のような筒の中を音が伝わっていくときは、 いつでも起こる、純粋な物理現象です。 なぜ、神経毒を人は見つけることができたのか 必要に駆られて、偶然、といろいろな理由があるのでしょう。 獲物を狩るとき、敵をやっつけるとき、 「毒」は非常に重要なものなので、ヒトは、いつも 毒を探していたのでしょう。フグや毒キノコなどを食べて死んだ人もたくさんいたでしょ うから、そんな事件から、何に毒あるかを、経験的に学んでいったのでしょう。 そんな毒が神経毒であることがわかったのは、もっと後のことです。 ニューロンはどの様に神経伝達物質を識別しているのか さまざまな神経伝達物質は、その受容体にのみ結合します。したがって、その受容体を持 っているニューロンのみ、その神経伝達物質に反応します。 神経毒の症状 神経毒は、ある特定の受容体に作用したり、神経の興奮を起こすイオンチャンネルに作用 したりして、神経の活動を妨げます。たとえば、クラーレは、アセチルコリンの受容体に 結合して、アセチルコリンの作用を阻害して、アセチルコリンニューロンが関与するすべ ての生理現象を抑制します。アセチルコリンは、骨格筋の収縮を起こす作用があるので、 手足が動かなくなります。その前に、呼吸筋も動かなくなるので、呼吸が止まります。 (その他の症状については、次回の授業で説明) 伝達物質を食べると、身体の中で伝達物質は増加するか ご飯を食べると、身体の中でご飯が増えるか、 という問いと同じに考えてください。 ご飯は、消化器官のなかで消化され、細かい成分(ブドウ糖やアミノ酸)に分解されます。 伝達物質も消化酵素で消化され、細かい成分に分解されるので、身体の中で増えることは ありません。消化されずに残った分が脳に取り込まれて、脳で働くことがあるかというと そんなことは、ほとんどありません。脳には、外(脳以外の身体)からの物質が簡単に入 り込まないような構造(脳血管障壁)があって、ブドウ糖(神経細胞のエネルギー源)や 酸素など、ごく一部の物質を除いて、多くの物質は、脳に入ることができません。 味の素が開発されたころ、味の素(グルタミン酸)をたくさん食べると、頭が良くなると いう説を唱えた人がいましたが、効果は全くありませんでした。 脳の中で働いている神経伝達物質は、脳で作られます。 (追)グルタミン酸を神経細胞にたくさん投与すると、神経細胞は破壊されます。 “過ぎたるは及ばざるが如し”です。 電位について 神経の興奮について 静止膜電位について ニューロンの話 神経毒の作用のしくみ、症状 視床下部について 大脳のはたらき などの質問については、次回以降の授業で説明します。 感覚神経の受容野について 神経伝達物質の役割について 第一次体性感覚野における体部位的再現について 神経節細胞の図の見方 ソナグラム 受容野周辺の抑制 復習問題(1) コルチ器について 3野 1 野 2野 複雑な情報が処理されるしくみ 脳神経科学(復習問題)解答(2) ドップラー効果のしくみ 道具の使用で受容野はどう変化したか? ニューロンの第何野のところ全体 視覚の問題 幻視の図の見方 「はじめの一歩」の話 などの質問は、いずれも授業の重要な点で、このような点に疑問を持つのは、非常に大切 なことです。ただし、紙面の都合上、回答は省略します。 試験にはこの辺からの問題も出ます。 解答を知りたい人には、以下の3つの選択枝があります。 1. 自分で(あるいは友達と)考える。 2. 先生に質問する(時間の許す限り対応します) 3. あきらめる。 以上
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