サプリメントとそのリスク - 北海道バスケットボール協会

医科学専門委員会
強化普及委員会
医科学専門委員長
斉
藤
範
之
サプリメントとそのリスク
今年に入って重量挙げの国体選手がドーピング検査で陽性を示し、2 年間の資格停止処分
を受けたとの新聞報道がありました。この選手はインターネットで購入したプロテインを
使用していたので、恐らくそのサプリメントに禁止物質のステロイドが混入していたので
はないかと思われます。このように禁止薬物を使用するつもりがなくても、サプリメント
や市販の医薬品に禁止薬物が混入していて、そのことを知らずに服用しドーピング検査で
陽性となり不本意な罰則を受けてしまう可能性があります。
ドーピング検査は国内大会でも全日本総合バスケットボール大会や国民体育大会におい
て行われるようになりました。検査は参加する選手すべてに受ける可能性があり、抜き打
ちで行われます。国体に出場した北海道のチームも対象となったこともあります。ドーピ
ングはルールを守り、フェアに戦うスポーツの原則に反する極めて悪質な行為です。
また、選手の健康、生命にも影響を及ぼす可能性のある危険な行為であること、また青
少年への影響など社会的悪影響が大きいことなどの理由から厳しい制裁を受けます。
スポーツ選手がサプリメントを求めるのは運動能力を高めるというのが主な目的である
と思いますがサプリメント・健康食品には様々な問題点があり注意が必要です。
まず、規制が医薬品ほど厳格ではないことです。パッケージの成分表示と実際の成分が
異なることもあり、成分表示がなく禁止物質が混入されていることもあるのです。医薬品
成分を添加した健康食品の販売は薬事法違反で摘発されますがネット販売されているので
十分な注意が必要です。
また、ビタミン剤やミネラルでも過剰摂取による副作用が現れ健康を害する事もありま
すので摂取量にも注意が必要です。サプリメントの中には、科学的根拠のない効能、効果
を商品宣伝に掲げ、副作用については明示しないものが見受けられ、問題のある製品ほど
消費者に効果絶大であるような印象を与える広告や表示が多いので注意が必要です。今年
の3月にはゲルマニウムの入った商品で根拠のない効能をうたい誇大広告であるとして公
正取引委員会から処分を受けた商品もありました。
「競技者にとってバランスの良い食事こそが第一に重要である」というのが世界アンチ・
ドーピング機構(WADA)や各国のアンチ・ドーピング機構の見解です。どうしてもサ
プリメントが必要な場合には、まず、スポーツドクターやスポーツ栄養などの専門家に通
常の食事で不足かどうかを相談することが一番です。専門家がサプリメントの摂取を勧め
る場合でも、その必要性を正しく認識し、栄養学的に有効で安全なものを選ぶ、そして、
あくまでも自己責任で服用することが原則です。日頃の食事をきちんと取らずにサプリメ
ントで補うことはできません。サプリメントの摂取については、効能、コスト、健康およ
び競技パフォーマンスへの影響、そしてドーピング検査でのリスクを考えた総合的な判断
が必要です。
国際オリンピック委員会(IOC)は 2001 年にプロホルモン(体内で男性ホルモンに変
化するステロイド)を扱っている企業が販売する栄養サプリメントを調査しました。この
中に非表示で禁止物質を含んでいたものが 20%にも及んだという結果を報告しています。
例えば、減量を目的としてドーピング違反物質である興奮剤、利尿剤を混合させている食
品や滋養・強壮目的にステロイドを含有させた物もあります。食欲抑制作用のあるシブト
ラミン、マジンドール、脂肪燃焼作用のあるエフェドリン、利尿作用のフロセミド、ヒド
ロクロロチアジド、滋養・強壮目的にデキサメサゾン、プレドニンなどのステロイドがあ
ります。これらはすべて禁止薬物であり表示されないまま薬物が添加されていることは事
実のようです。
このことから、禁止薬物混入を知らずにサプリメントを摂取してドーピング違反に問わ
れた例は数多いものと推測されます。
ドーピング禁止物質の蛋白同化ステロイドは筋肉増強剤としてよく知られていますが、
副作用に心臓発作や心筋梗塞、肝障害などを引き起こすことが確認されていて、いずれも
命に係わる病気であり大変危険です。また、日常的に使用される一般大衆薬にも禁止薬物
が使用されているものがあるので注意が必要です。医薬品については次回、具体的に商品
名を挙げ紹介したいと思いますが、エフェドリン、メチルエフェドリンは、漢方薬に使用
されている葛根湯(麻黄)の成分です。この物質もドーピング禁止物質です。気管支を拡
げることにより咳を止め、鼻粘膜の血管を収縮させて鼻水、鼻づまりを改善する作用を有
するので多くの風邪薬に含まれています。実際に医薬品に含まれている量や通常の服用量
では副作用の発現頻度は少ないですが、高血圧、動悸、息切れ、心臓発作などの副作用が
報告されています。海外のサプリメントの中には代謝を促進したり、発汗させて体重を落
としたりすることを目的としてエフェドリン等が含まれている物もあります。
これらのようにドーピング禁止物質は、スポーツ選手の健康を守るという観点からも禁止
物質として指定されています。サプリメントの正しい知識をもたず使用することは大変危
険な行為と言え、スポーツの世界だけではなく一般の人にとっても危険なことです。
世界のサプリメント市場はアメリカが世界一を誇っていますが、国民一人当たりの年間
サプリメント消費量をみると、日本がアメリカを抜いています。過去 10 年間のサプリメン
ト市場をみると開発、消費ともに拡大を続けていますので、一般の人々だけでなくスポー
ツ選手にとっても、サプリメントがさらに身近なものとなってくるでしょう。
ビタミンや、コエンザイムQ10やL-カルチニンなどのビタミン様物質は禁止されて
いませんが、これらの中に種々の強壮剤を配合した製品には禁止物質を含むものがありま
す。
また、アミノ酸アミノ酸含有のスポーツドリンクが数多く販売されていますがアミノ酸
そのものはドーピング物質ではありません。しかし、スポーツドリンクには製品によって
さまざまな天然物(ホルモン性の天然・合成成分)を添加したものもありますので注意が
必要です。
サプリメントの選定において注意するポイントとして、いくつかあげますと
①「筋肉づくり」や「脂肪燃焼」をうたい文句にするサプリメントには、禁止物質(蛋白
同化薬や興奮薬など)を含む危険性がある
②サプリメントに含まれることの多い禁止物質には次のようなものがある。
1.デヒドロエピアンドロステロン(DHEA)、アンドロステンジオン、アンドロステ
ンジオール
2.エフェドリン
3.アンフェタミン(エクスタシーなどのいわゆ
るストリートドラッグにも含まれる)
③純粋なビタミンやミネラル自体は禁止されていないが、他の物質が配合されているよう
なものは注意を要し、信用のおける商品を選ぶ。
④不法な商品、あるいは成分が表示されていない商品には、特に気をつける
⑤インターネットを利用してサプリメントを購入することは避けるべきであり、所在地を
明示していないような企業の製品は絶対選ばない。
⑥「天然」、「食品」、「副作用が全くない」というようなコピーは必ずしも商品の「安全」
を保証するものではない
⑦海外の製品には禁止薬物を含む物があるので特に注意が必要です。
(2004 年 3 月、米国食品医薬品局(FDA)はアンドロステンジオン配合サプリメン
トの販売を自主的に中止するよう通知し、2004 年 4 月には「エフェドラ(エフェドリ
ン類)」成分を含むサプリメントの販売を禁止しました。しかし、これらがまだ流通
している可能性はあり、また、エフェドラの代わりにダイエットサプリメントとして
登場した「ビターオレンジサプリメント」にはシネフリン(監視プログラム)が含ま
れています。監視プログラムとはその誤用・乱用の状況をモニターする目的でドーピ
ング検査での分析対象となっています。禁止物質ではないので検出されても処罰の対
象とはなりませんが、尿中濃度が規定を超えた場合、意図的使用として報告されます。
中国製ダイエット食品による死亡例を含む肝機能障害が国内で多数報告されました
が、これらには 2007 年禁止リストに掲載された興奮剤のシブトラミンやマジンドー
ルが含まれているものがあったことが判明しています。)
WADA及び各国アンチ・ドーピング機構は、サプリメントの情報提供に関してはかな
り慎重な立場をとっています。その理由は、サプリメントが医薬品のように厳格な規制を
受けていないため、安全性を保証できないからです。JADA(日本アンチ・ドーピング
機構)認定商品を利用するにしても、すべて自己責任という事が原則になります。
参考図書
*:JPNドーピング・データベース((株) じほう社
監修・日本体育協会)
*:サプリメントJISS(国立スポーツ科学センター)
*:薬剤師のためのアンチドーピング・ガイドブック 2007 年版
((社)日本薬剤師会・(社)秋田県薬剤師会・(財)日本体育協会)
沼田
稔「うっかりドーピング」と薬剤師の新職能(医薬ジャーナル、40、
2004)