議事録 - SPring-8

(様式 2)
議事録番号
提出
2007
年
1
月
17
日
会合議事録
研究会名:高圧物質科学研究会・地球惑星科学研究会
日
時:2007 年 1 月 9 日 13 時 10 日 12 時 30 分
場
所:SPring-8
・地球惑星科学研究会
放射光普及棟
大講堂・中講堂
総会
出席者:(議事録記載者に下線)
入舩徹男、廣瀬敬、瀬戸雄介、大谷栄治、寺崎英紀、坂巻竜也、佐藤一永、
八木健彦、岡田卓、末田有一郎、鍵裕之、中島陽一、西原遊、奥部真樹、
鈴木勝彦、小木曽哲、佐多永吉、奥地拓生、山中高光、近藤忠、大高理、
小林寿夫、松井正典、青木勝敏、服部高典、大石泰生、平尾直久、朝原友紀、
伊藤英司、神崎正美、桂智男、山崎大輔、村上元彦、森嘉久、井上徹、
新名亨、肥後祐司、河野義生、丹下慶範、國本健広、山田明寛、岡本真琴、
川本竜彦、西山宣正、横山綾子、上田安紘、長柄一誠、石河孝洋、舟越賢一
計 49 名
議題: 1. 地球惑星科学分野(研究会)設置の経緯と現状説明
議事内容:
入舩研究会代表から、利用者懇談会の大幅な組織改革の経緯と、改組後の体
制の概略について説明があった。特にビームラインサブグループが廃止され、
新設された利用促進委員会のもとに、各サイエンスに対応した「研究会」およ
びそれらをまとめる「分野」が設立された点について、資料をもとに詳しく説
明された。この変化に対応して、従来の高圧地球科学サブグループを母体とし
て「地球惑星科学研究会」を申請し、これが承認された旨の報告があった。
この研究会は「地球惑星科学分野」と一対一に対応し、入舩代表が分野から
の利用促進委員に指名されたことが報告された。また、廣瀬副代表、事務局の
佐多、山崎、 また JASRI 側担当者の舟越を中心に、本研究会の運営をおこなう
旨の説明があった。 なお、本研究会は申請時には 100 名を越える最大規模のも
のであったが、現在の利用者懇談会の正式メンバーは 80 名余りであり、未入会
の方は入会をお願いしたいとする要請があった。
議題: 2. 分野(研究会)の今後のありかた
議事内容:
入舩研究会代表から、研究会の活動として当面 ML を活用した情報交換と研究
交流をおこなうとともに、今回と同様の形態の合同研究会を年1回開催したい
旨の説明があった。その後会員からの本研究会の今後のあり方についての意見
を求めた結果、
「本研究会でサイエンスの方向性を考える中で、今後のビームラ
インの高度化や新設等の具体的な描像を作っていくべきである」、「技術を共通
基盤とした他分野の研究会活動にも参加しているが、地球惑星科学の接点でも
積極的な連携を図りたい」、 「SPring-8 でてきることが出そろってきて落ち着
きつつあるが、ここでもう一度新しいアイデア出した上で、研究会として集約
していく必要がある」等の意見が出された。
議題: 3. 施設側への要望
議事内容:
具体的要望については、特に意見は出されなかった。利用者懇談会の新しい
体制がスタートしたばかりであり、どのような要求をだすべきなのか、会員お
よび世話人が必ずしも理解していないのがその一つの原因であると考えられる。
従って施設側への会員の意見は、今後の研究会活動の中で集約していくことと
した。
・研究交流会
出席者:(議事録記載者に下線)
瀬戸雄介、大谷栄治、寺崎英紀、坂巻竜也、佐藤一永、竹村謙一、遊佐斉、
八木健彦、岡田卓、末田有一郎、鍵裕之、高橋栄一、中島陽一、廣瀬敬、
西原遊、奥部真樹、鈴木勝彦、小木曽哲、佐多永吉、奥地拓生、久米徹二、
山中高光、清水克哉、中本有紀、土`山明、近藤忠、大高理、草部浩一、
森本正太郎、角谷均、小林寿夫、松井正典、赤浜裕一、萩谷健治、青木勝敏、
綿貫徹、三井隆也、町田晃彦、服部高典、大和田謙二、大石泰生、平尾直久、
朝原友紀、伊藤英司、神崎正美、桂智男、山崎大輔、村上元彦、森嘉久、
石松直樹、入舩徹男、井上徹、新名亨、肥後祐司、河野義生、丹下慶範、
土屋旬、國本健広、山田明寛、岡本真琴、川本竜彦、西山宣正、横山綾子、
上田安紘、金子洋、齋藤寛之、長柄一誠、西村学、川村春樹、舟越賢一
計 70 名
議題・議事内容:別紙のプログラム・要旨集を参照
・高圧物質科学研究会
総会
出席者:(議事録記載者に下線)
青木勝敏、小林寿夫、竹村謙一、遊佐斉、八木健彦、岡田卓、末田有一郎、
高橋栄一、中島陽一、西原遊、奥部真樹、鈴木勝彦、佐多永吉、奥地拓生、
久米徹二、草部浩一、赤浜裕一、三井隆也、町田晃彦、服部高典、朝原友紀、
森嘉久、入舩徹男、齋藤寛之、舟越賢一
他
計 52 名
議題:1)世話人挨拶(JAEA:青木)
議事内容:
研究会発足 1 年目にあたり、役員の紹介・研究会の目的等が説明された。今
後の活動において重要な関わりを持つ PF の BL 再編や、J-PARK への高圧 G の取
り組みの紹介がなされ、2 名の先生に詳細を説明いただくことになった。
議題:2)PF の BL 再編構想について(NIMS:竹村)
議事内容:
PF では先の外部評価委員会で BL スタッフの数が BL 数に対して少ないとの指
摘を受け、半数程度に減らす方向で検討している。現在、高圧関連の BL として
DAC2 本(18C,13A),プレス 2 本(14C2,NE5C)の 4 本の BL が存在するが、それ
を今後どのように運営(削減)していくかが議論なされている。詳細は PF-BL18C
利用者連絡会 ML をご覧ください。
議題:3)J-PARK における特定領域申請の説明(物性研:八木)
議事内容:
中性子で拓く地球と惑星の高圧物質科学と題して特定領域の科研費申請をし
ています。東大の鍵先生を中心に平均 40 台前半の若手中心に構想を練り上げ実
現に向けて頑張っていますが、特定領域を確保するには通常は数年要している
ようで資金獲得が大変である旨が紹介された。
議題:4)その他
議事内容:
その他施設側等に要望がある場合は事務局(岡理大:森)まで連絡していただ
きたい。
以上。
高圧物質科学・地球惑星科学研究会合同研究交流会
第 1 日目(1月9日)
13:00-13:40
地球惑星科学研究会総会
[司会:入舩
徹男]
14:00-15:30
合同研究交流会(前半)
[座長:八木
健彦]
・ 竹村
謙一(物質・材料研究機構)良質な粉末回折データを得るための実験方法と金属の高圧構造
・ 草部
浩一(大阪大学)高圧下物質構造の理論予測-構造と電子状態の相関
・ 中本
有紀(大阪大学極限量子科学研究センター)信頼性の高い高圧単結晶構造解析
15:30-16:00
休憩
16:00-17:30
合同研究交流会(後半)
[座長:大谷
栄治]
・ 土屋
旬(愛媛大学地球深部ダイナミクス研究センター)含水鉱物の水素結合対称化と弾性定数変化
・ 村上
元彦(岡山大学地球物質科学研究センター)高温高圧下でのブリルアン散乱測定と今後の展開
・ 土`山
18:30
明(大阪大学)放射光を用いたスターダストサンプルの初期分析
懇親会(場所:SPring-8 食堂)
[乾杯の音頭:山中
高光]
第 2 日目(1月10日)
高圧物質科学研究会の部
9:00-10:20
高圧物質科学研究会発表会(前半)
[座長:小林
寿夫]
・ 西村
学(兵庫県立大学)X 線回折とラマンスペクトル同時測定-固体水素 III の構造解明を目指して-
・ 清水
克哉(大阪大学極限量子科学研究センター)X 線回折と電気伝導度の同時測定
-Li の電子転移機構の解明を目指して-
・ 綿貫
徹(日本原子力研究開発機構)チューブスリットを用いた角度分散測定
・ 三井
隆也(日本原子力研究開発機構)マルチメガバールでのメスバウワースペクトル測定
10:20-10:30
休憩
10:30-11:50
高圧物質科学研究会発表会(後半)
・ 森
[座長:森
嘉久]
嘉久(岡山理科大学)高圧下における BaSi2 のアモルファス解析
・ 久米
徹二(岐阜大学)高圧力下における半導体クラスレート化合物の構造相転移
・ 遊佐
斉(物質・材料研究機構)凍結できない高圧合成ペロブスカイトについて
・ 大石
泰生(JASRI)BL10XU の現状と近未来構想
12:00-12:30 高圧物質科学研究会総会
[司会:青木
勝敏]
地球惑星科学研究会の部
9:00-10:20
地球惑星科学研究会発表会(前半)
[座長:大高
理]
・ 入舩
徹男(愛媛大学地球深部ダイナミクス研究センター)多結晶ダイヤモンドによる高圧発生
・ 高橋
栄一(東京工業大学)
・ 神崎
正美(岡山大学地球物質科学研究センター)
Fe-C
Fe-H 系の相平衡と熱物性
マルチアンビル高圧実験用の新しいヒーター:BN コンポジットヒーター
・ 小木曽
哲(IFREE)イメージングによるカンラン岩からの白金族元素含有ナゲットの探索
10:20-10:30
休憩
10:30-11:50
地球惑星科学研究会発表会(後半)
・ 坂巻
竜也(東北大学)
[座長:山崎
大輔]
X線吸収法による玄武岩マグマの密度測定
・ 末田有一郎(東京大学物性研究所)カルシウムフェライト型 NaAlSiO4 の高圧安定性
・ 瀬戸
雄介(北海道大学)X線回折用解析プログラム(IPAnalyzer,PDIndexer)の紹介
・ 奥地
拓生(名古屋大学)SiO2 ガラスの高圧 X 線ラマン散乱
良質な粉末回折デー タを得るため の実験方法と金属の 高圧
構造
竹村謙一(物質・材料研究機構)
放射光を用いた X 線回折実験の進歩はめ
ざましく、以前では考えられなかったような微
量な試料からでも X 線回折データが得られる
ようになった。このことは、高圧になるほど加
圧できる試料の量を減らさざるを得ない高圧
実験科学にとってたいへん有益である。その
結果、多くの研究者によって膨大な数の高圧
X 線回折データが報告されるようになってき
た。また、数々の高圧相転移が発見されて論
文誌上をにぎわしている。
しかしわれわれはここでひとつのことに注意
する必要がある。それはどんなに測定技術が
進歩しても、試料そのものが悪ければ意味の
ある結果が得られないということである。これ
はごく当たり前のことに思えるが、実際の実験
にあたって理想的な試料と理想的な高圧条
件を準備することは実は生やさしいことでは
ない。X 線回折は結晶構造に関する揺るぎな
い 事 実 を 提 供 する の で、 高 圧下 に おけ る
様々な物性変化を議論するための一番の基
礎となる。そうであるだけに、できる限り良質
な(つまり間違った結論に導かれることのな
い)データを取ることは理論も含めた幅広い
分野の研究にたいへん重要な意味を持つ。
また、回折パターンから構造相転移が起きて
いることはわかっても、良質な回折データが
得られないために高圧相の構造が解けない
例は多くの高圧研究者が経験することであ
る。
講演では高圧粉末回折実験に特有の問題
である粒子サイズ、選択配向、非静水圧性な
どを取り上げて問題点と改善策を議論する。
また具体例として最近行った水銀γ相の構
造決定を紹介し、高圧下であらわれる準最密
充填構造を解説する。
参考文献:
K. Takemura, J. Appl. Phys. 89, 662 (2001).
竹村謙一、放射光、14(2), 134 (2001).
高圧下物質構造の理論予測 :構 造と電子状態の相関
草部浩一・大阪大学大学院基礎工学 研究 科
1. は じ めに
見いだそうとする試みは様々なされているが、近年注
物質の構造決定を理論的に可能にする所謂第一
目されている方法に、メタダイナミクス計算という方法
原理分子動力学法では、Born-Oppenheimer(BO)近似
がある。[1] この計算では、BO 面を変化させてしまう
により、原子核の運動は古典化されたものとして扱い、
人工的ポテンシャルを加えることで、もともとのポテンシ
核が与える静電場中の量子的電子状態を決定し、得
ャル障壁を越える運動を系に起こさせる。実際に、この
られるエネルギーの核位置微分から核に働く力の決
方法が高圧燐 IV 相の同定のための理論研究に用い
定を行って、全体として物質構造と電子状態を同時に
られた。[2] なお、計算規模の制限からメタダイナミク
最適化することが行われる。この近似的表現方法に依
ス計算単独では最終的な構造にたどり着くことは出来
拠して結晶を扱うと、強相関極限にあるため空間配置
ていないが、BO 面上での安定構造へ至る中間的な不
が古典秩序化する原子核集団と、量子気体や量子液
安定構造から系の安定化の方向を推定する試みも行
体としても存在しうる多電子状態を同時に最低エネル
われている。ここでも、2次微分量の探索と、そこに電
ギー状態にする解が、安定な物質構造を与える。ここ
子状態のどのような特徴が影響しているのかを考察す
で問題とすることは、圧力誘起構造相転移でも発生す
ることが鍵となる。
る結晶の一次相転移点近傍で、この方法から未知の
5. 考察
物質構造の予測を行う際に、構造と電子状態のどこに、
孤立系であるため粒子数固定条件下での BO 面の
どの様に着目するべきであるか、という問題である。
みの情報から、まだ到達していない局所安定点の存
2. 計算方法
在を探索し、知られている別の局所安定点から未知の
Kohn-Sham 理論に局所密度近似を導入した範囲の
構造へと系を至らしめることが困難な場合でも、外場
密度汎関数法を用いるものとする。計算事例から議論
の導入や粒子注入などにより BO 面の構造を変えるこ
を行うために、VASP 及び Quantum Espresso (PWscf)
とが出来れば、系が自発的に求める安定点に向かっ
と呼ばれるコンピュータコードを用いて、平面波基底展
て運動することは充分に考えられる。その際には、条
開と擬ポテンシャル法による、高圧下物質の電子状態
件を変化させる前の原子核配置は、新たな BO 面上で
計算を行った。
は不安定配置となるため、まず電子状態にその影響
3. 圧力による 構造の不安定化
が発生する。鞍点の発生を捉え、対称性の破れる方
BO 面の最小点は圧力等の外的要因により変化しう
向が特定された後には、引き続いて原子間力の発生
る。しかし、極小点近傍にある系をシミュレーションして
が起こることになる。この様な視点での探索に対して、
いる限りは、この大域的な変化は微少体積・短時間・
理論的シミュレーションは人工的な条件設定が容易か
非エルゴード的シミュレーションでは見つけ出し得ない。
つ広範に可能となってきているため、今後も未知構造
しかし、極小点自体が不安定点に変化する相転移で
探索にとっては重要なツールであり続けるものと考えら
あれば、シミュレーションでもその不安定化を、電子状
れる。
態変化として捉えられうる。ただし、対称性の高い構造
参考文献:
として実現していた局所安定点は、鞍点へと変化する
[1] R. Martoňák, A. Laio and M. Parrinello, Phys. Rev.
ことが通常であるため、電子状態変化を探る際には、
Lett. 90, 075503 (2003).
原子核配置に関するヘシアン行列など2次微分量に
[2] T. Ishikawa, H. Nagara, K. Kusakabe and N. Suzuki,
よってその変化を捉える必要がある。
Phys. Rev. Lett. 96, 095502 (2006).
しかし、勿論この不安定化が起こる前に、熱平衡が
達成されている現実の系では一次相転移の発生が、
熱揺らぎによる核形成、構造緩和を伴って起こるが、
シミュレーションではバイアスが掛かっているためにそ
の発生を捉えられないことが多くある。
4. 局所安定構造の探索
安定点における配置を離れて、BO 面の大域構造を
信頼性の高い高圧単結晶構造解析
中本有紀、山中高光、清水克哉
大阪大学
極限量子科学研究センター
1. 緒言
誘電体、半導体、金属などの構造やその
物性は温度、圧力に即応して変化するが、そ
れらは電子状態の格子力学的効果、格子振
動、金属原子間の電子密度、電子状態の変
化に起因している。これまでに高圧状態で単
結晶構造解析から、電子状態、余剰電子、有
効電荷、電子密度、原子変位、原子間距離、
原子熱振動、格子歪などについて圧力を関
数として明確にできるようになった。また一方
では第一原理計算,分子軌道計算から電子
状態密度、さらに分子動力学計算によって弾
性安定性も解明され、理論と実験の相互理
解がなされている。弾性定数の相互間の関
係から格子変形や構造相転移を議論もなさ
れている。加圧に伴う Mott 転移、Jahn-Teller
効果、電荷不均化反応,分子乖離、電子状
態変化(s—d 転移、d—f 転移)、スピン状態
変化、スピン Peierls 転移、磁気転移、誘電異
常など、格子—電子相互作用、格子—スピン
相互作用の圧力効果の構造研究は高圧物
性研究と相補的でますます重要になってきて
いると考えられる。
2. 測定方法
高圧単結晶回折強度を用いて精密な構造
解析を行なうためには、精度の高い強度デー
タを得ることが必要不可欠である。ダイヤモン
ドアンビル・セル(DAC)のバッキングプレート
にアンビルと同一の材質である単結晶ダイヤ
モンドを用いることにより X 線の吸収補正が
容易となり、また開口角を広く、さらに 50 GPa
までの高圧実験が可能である。また大きな Q
値が得られる波長の短いしかも強度の強い
放射光 X 線を用いることで精度の高い、デー
タを得ることが可能となる。四軸回折計に
DAC を装着するために回折強度測定はφ
-fix ω-scan で行なう。また試料に結晶性の
高い単結晶試料をもちいるため、消衰効果の
補正が必要である。
3. 実験結果の例
構造解析
原子位置座標や原子の異方性熱振動、席
占有率が求められる。これにより原子間結合
距離、格子歪、秩序度などの情報を得ること
ができる。
電子密度分布解析
従来電子密度分布の解析はフーリエ法で
は行なってきた。高圧実験で DAC を用いた
場合回折角度に制限があり、そのため級数
展開するフーリエ法では打ち切り効果が大き
く意味のある精度での解析ができない。
MEM では初期モデルを用いず位相付きの
Fobs(hkl)に対して総電子数、結晶空間群の対
称性だけを考慮して行い、統計数学的に回
折強度と一致する電子分布を求める。本実
験では多くの逆空間領域の、また精度の高
い回折強度データが望まれ、放射光の利点
を負うことが大きい。図に FeTiO3 イルメナイト
の常圧と 8.2 GPa の電子密度分布の例を示し
ている。荷電分布 Fe-O、Ti-O の結合電子状
態の変化が明白である。加圧に伴う電子の局
在化や電気伝導異方性の変化が明らかにな
った。
O
O
Fe
Fe
O
O
Ti
Ti
O
O
0.1MPa
8.2GPa
図 Electron density map by MEM on the (010) plane
参考文献:
T. Yamanaka et al., Rev.Sci. Instrum. 72,
(2001)1458.
含水鉱物の水素結合対称化 と弾 性定数変化
土屋
旬, 土屋卓久 (愛媛大学地球深部ダイナミクス研究センター)
これまで、地球内部に水(酸化鉱物中の水
酸基など)が存在する可能性が指摘されてき
た。水は地球構成鉱物の物性(弾性・粘性・
融点等)を大きく変化させるため、地球深部
の構造やダイナミクス(マントル対流)に影響を
及ぼすと考えられている。低圧安定含水鉱物
が高圧安定含水鉱物へ相転移することにより、
沈み込むプレートとともに数 100km 以深の地
球深部へも水が供給され得る。このため水を
運ぶ役割を担う高圧下における含水鉱物の
安定性に関して、主に実験的手法により多く
の研究が行われている。
我々は高圧安定含水鉱物の構造や高圧
物性を解明するために、第一原理電子状態
計算法を用いて研究を行ってきた。その結果、
最も高圧下まで安定性が確認されている含
水 鉱 物 ( phase D(MgSi2O6H2) : ∼ 50 GPa,
δ-AlOOH(図 1):∼130 GPa)において、水素
結合対称化転移を予言した[1,2]。水素結合
の対称化は氷の高圧相(氷 VII, VIII->氷X
相)でも報告されている現象である。通常、共
有結合による強い O-H 結合と主に静電的な
水素結合からなる非対称(O-H O)結合状
態(図 1)が、高圧下で原子間距離の減少に伴
い水素結合が強まり、二つの結合が等価とな
り、対称(O-H-O)状態へ転移する。我々の計
算結果はこの水素結合対称化転移が、
δ-AlOOH や phase D においては氷の場合
(60∼80 GPa)よりも低い圧力(30∼40 GPa)で
起こることを示している。さらに水素結合対称
化により、体積弾性率を∼20%程度増加さ
せることが分かった。
我々はその後δ-AlOOH の弾性的性質に
水素結合対称化がもたらす影響に関し詳細
に調べている。本発表では、得られている最
新の結果を発表する。高圧下で水素結合対
称化により弾性定数の異常増加が見出され
た(図 2)。これは対称化に伴う水素結合の強
化によるもので、上記の体積弾性率の増加に
対応する。また体積弾性率のみならず剛性
率も弾性定数の増加に伴い増加し、結果的
に地震波速度の異常増加を引き起こすことが
分かった(図 2)。同様の挙動が phase D や氷
の高圧相においても見られると予想される。
図 1 δ-AlOOH の結晶構造(常圧)
図2
体積弾性率B, 剛性率G, 地震波速度(Vp,
Vφ, Vs)の異常増加。破線は低圧下で準安
定な水素結合対称状態を示す。
参考文献:
[1] Tsuchiya et al. (2002) Geophs. Res. Lett.,
29, 1909
[2] Tsuchiya et al. (2005) Am. Mineral. 90,
44-49
高温高圧下でのブリルアン散乱測定と今後の展開
村上元彦(岡山大地球研)、大石泰生、朝原 友紀、平尾直久(JASRI/SPring-8)、
佐 多 永吉(JAMSTEC/IFREE)、杉 村 恵 美子 ( 東 工大 理)、 廣瀬 敬( 東 工大
理/IFREE)、森嘉久(岡山 理大)
高温高圧力条件下における地球深部マン
議論する予定である。
トル物質の弾性波速度の測定データは、近
年、高分解能化著しい地球深部の地震波観
測データとの直接比較が可能であるため、地
球深部の詳細な鉱物学的モデル構築に決
定的な制約を与えることのできる非常に重要
なパラメータであるといえる。今日までの様々
な測定技術により、上部マントル圧力条件に
おける弾性波測定が行われているが[1]、下
部マントル条件下での測定はこれまでほとん
ど報告されていない[2]。
我々は、ダイヤモンドアンビルセルとブリル
アン散乱法を利用した高温高圧その場弾性
Fig. 1, Schematic view of the combined
system at BL10XU/SPring-8
波速度測定を最下部マントルに及ぶ条件ま
で可能にすべく、本装置とレーザー加熱/外
熱式 DAC と X 線回折法を組み合わせた複
合同時測定システムの開発を、現在、廣瀬
(東工大/IFREE)を代表者とするパワーユー
ザ課題(地球深部物質の構造と弾性の研究)
における一つの大きなテーマとして
BL10XU/SPring-8 において進めている。
昨年11月より第一回のビームタイムが施行
され、これまで2回のビームタイムにおいて導
入及び測定を行った。本発表では、装置開
発、導入状況、複合測定システムの詳細及
びこれまでに得られた高温高圧条件下での
データの報告を行い、今後の展開について
Fig. 2, Brillouin scattering measurement
system at BL10XU/SPring-8
参考文献
[1] B. Li et al., PEPI 559, 143-144 (2004)
[2] C. Zha et al., PNAS 97 (2000)
放射光を用いたスターダス トサ ンプルの初期分析
土`山明(阪大・理)、中村智樹(九大・理)、上杉健太朗(SPring8)、中野
司(産総研)、鈴木芳生(SPring8)、竹内晃久(SPring8)、赤木剛(九大・
理)、岡崎隆秀(阪大・理)、飯田洋祐(阪 大・理)、城 後香里( 九大・理)、
野口高明(茨城大・理)
アメリカ NASA のスターダスト探査機は木
星族彗星である Wild-2 に最接近して彗星塵
サンプルを採取し、2006 年 1 月に地球に回
収された。その後約 6 ヶ月間の初期分析が国
際チームによっておこなわれた。
彗星塵は探査機との相対速度が約 6 km/
秒と大きく、エアロジェルと呼ばれる超低密度
多孔質 SiO2 ガラス(約 5mg/cc)を用いて捕獲
された。エアロジェルに突入した彗星塵は衝
突トラックと呼ばれる細長い空隙を作り、最大
数 10µm 以下の多くの破片にわかれて捕獲さ
れていた[1]。このため、突入した彗星塵その
ものを再構成することには困難を伴うが、窒
素に富む有機物を含み[2]、脆くて微細な粒
子の集まりと比較的大きく結晶性のよい粒子
の集合体であり[3]、全体の化学組成は炭素
質コンドライトの CI と大差ないことがわかった
[3]。太陽系の原材料としての星間塵候補で
ある GEMS(金属鉄および硫化鉄包有物を伴
う珪酸塩ガラス)の有無は、サンプルとエアロ
ジェルとの混合のため現在のところ不明であ
る[4]。一方、結晶質粒子の中には、高温凝
縮物(CAI)の類似物や、部分融解を受けた
可能性が高いものが見出された [4]。彗星で
観測される氷は、その化学組成から約 100K
以上の高温は経験せず、常識的にはこのよう
な低温での珪酸塩の結晶化はおこらない。
今回見出された高温生成物質は、原始太陽
系の中心星に近い高温領域で生成されたも
のが、外縁部の低温の彗星形成領域に運搬
され混入したものであると考えられる [1,4]。
我々のグループでは、衝突トラックの3次元
構造と元素分布を SPring-8 の BL47XU にお
いて投射型マイクロトモグラフィーおよび蛍光
X線分析により明らかにした[5]。突入粒子の
全 Fe 量とトラック体積の比は、トラック形状と
相関があり、トラック形成時に蒸発した揮発性
成分(氷?と一部の有機物)の量と関連して
いる可能性が大きい。突入粒子はトラックの
体積の約1万分の1であり、求められた定量
的な衝突トラックの形状は、今後トラック形成
の物理モデルを構築し、突入した彗星塵を再
構成する重要な手がかりとなる。
一方、別の衝突トラックから取り出した彗星
塵粒子の破片について、鉱物組成を PF の
BL-3A においてX線粉末回折実験により、ま
たその3次元構造を SPring-8 の BL47XU に
おいて結像型マイクロトモグラフィーにより明
らかにした[6]。突入粒子破片は結晶質なも
の(2 個)および非晶質珪酸塩に富むもの(22
個)であった。前者は、かんらん石、輝石、ア
ノーサイト、ニッケル鉄、硫化鉄などを含み、
微斑状組織をもつコンドリュールと類似してい
る。今後の詳細研究によりこれがコンドリュー
ルの欠片であることがわかった場合には、原
始太陽系での物質のリサイクルが長期間続
いていたことになる。後者は突入時に融けた
エアロジェルが彗星塵と混合したものと考えら
れる。Fe,Ni の珪化物が含まれるが、これらは
突入時の反応によって生成された[7]。
参考文献:
[1] Brownlee et al., (2006) Science,
1711-1716. [2] Sandford et al. (2006) Science,
1720-1724. [3] Flynn et al. (2006) Science,
1731-1735. [4] Zolensky et al. (2006) Science,
1735-1739. [5] Tsuchiuyama et al. in prep. [6]
Nakamura et al., in prep. [7] Rietmeijer et al.,
Metoritics &Planet. Sci., submitted.
粉末 X 線回折による固体水素Ⅲ相の探索
西村学,木ノ下慧,赤浜裕一,川村春樹(兵庫県立大院物質) 大石泰生,平尾直久(JASRI)
竹村謙一(NIMS)
1. はじめに
誤差によるものとが考えられる。未だ、Ⅲ相の観
固体水素は金属化や相転移に対する興味から多
くの研究がなされ、低温下における分光研究によ
り3つの相が報告さ
しかし、X線による
Ⅱ相、Ⅲ相の構造観
測はまだなされてい
200
4300
D2
H2
Ⅰ
Ⅰ(hcp)
Ⅲ
100
Ⅱ
100
120 140 160
Pressure (GPa)
180
Fig.1 phase diagram of H 2 and D 2
ない[6]。そこで、Ⅲ相の構造観測を行うことを目
Wave number (cm-1 )
相図 Fig.1 [4,5])
。
いるところである。
300
T em perature (K)
れている[1-3](P-T
測には至っていないため、引き続き測定を行って
おけるスペクトルの変化を用いた。
Ⅲ
4200
4100
4000
0
的として低温での 100GPa 以上における粉末 X 線回
折実験を行った。相の同定にはラマン分光測定に
Ⅱ
50
100
Pressure(GPa)
150
Fig.1. Pressure dependence of Raman shift of solid
hydrogen. The symbols are the same as Fig.1.
粉末 X 線回折実験は SPring-8 BL10XU において
DAC とイメージングプレートおよびクライオスタ
ットを用いた角度分散法により低温で行った。測
定ではガスケットに Re を用いた。圧力はルビー蛍
光法とダイヤモンドのラマンシフトにより決定し
た。相転移の確認として水素の Vibron ラマンスペ
クトルを測定した。
5
3
2. 実験方法
Volume (cm /mol)
6
4
3
2
0
50
100
Pressure (GPa)
150
Fig.2. Pressure dependence of molar volume. Open
circles, open lozenge and open squares show data at
30K, 100K and 150K, respectively. Solid line and
dashed line is the EOS of this work and ref.6.
3. 結果と考察
実験では過去の実験結果と比較するために圧力
参考文献
をルビースケールに合わせた。その結果、Fig.1 に
[1] R. J. Hemley et al. Phys. Rev. Lett, 61, 857 (1988)
示すようにⅠ相領域内の 110GPa まで測定し、水素
[2] M. Hanfland et al. Phys. Rev. Lett, 70, 3760 (1993)
のラマンシフトにおいて ref.3 に一致する結果が得
[3] P. Loubeyre et al. Nature 416, 613 (2002)
られた。X 線では指数で 100 と 101 のピークを観
[4] I. I. Mazin et al. Phys. Rev. Lett, 78, 1066 (1997)
測することができ、Fig.2 で示すようなモル体積が
[5] H. K. Mao et al. Rev. Mod. Phys, 66, 671 (1994)
得られた。この結果は常温における ref.6 のデータ
[6] P. Loubeyre et al. Nature 383, 702 (1996)
とほぼ一致し、その違いは温度によるものと測定
X 線回折と電気伝導度の同時測定
-Li の電子転移機構の解明を目指して清水克哉、松岡岳洋、中本有紀、加賀山朋子(阪大極限セ) 大石泰生(JASRI/SPring-8)
1. はじめに
2. 実験方法
我々のグループは超高圧下の電子物性-特に絶縁体
SPring-8 の放射光(λ=0.410 Å)をもちいて、BL10XU
金属転移や超伝導に注目して研究を行っているが、当
に低振動の冷凍機を持ち込み、イメージングプレート、
該圧力での結晶構造は別途に実験を行うかまたは他の
ガス駆動式ダイヤモンドアンビルセル(DAC)の組み
研究者による実験結果を参照することになる。これま
合わせで測定した。
(課題番号 2005A2673、2006A1149)
で別々に行われてきた構造変化と電子物性とを詳細に
圧力媒体は使用していない。電気抵抗をダイヤモンド
一対一に対応づけ、高圧下物性の統一的な理解を得る
アンビルのキュレット面に形成した微細電極によって
ことが本開発研究の目的である。我々は数年前から表
測定し T c を決定した。圧力はダイヤモンドアンビルの
題の研究を進めてきた。今回はアルカリ金属リチウム
ラマン散乱からみつもった[4]。
(Li)において得られた研究成果を報告する。
3. 結果と考察
我々は Li が 30 GPa 以上で超伝導を発現し、超伝導
Fig. 1 に同時測定された T c (図中■)と、25 K で測
転移温度 T c は 48 GPa で 20 K に到達することを電気抵
定した Li の結晶構造変化を示す。過去に報告されてい
抗測定から発見した[1]。一方、Li の結晶構造は 8 GPa
る fcc→hR1→cI16 の構造相転移を確認したが、さらに
で bcc から fcc、約 40 GPa で fcc から中間相の hR1 を
69 GPa 以上では新たなピークが観測された(図中 new
経て cI16 構造へと変化すると報告された[2]が、超伝導
phase とした)。観測した T c は Deemyad らによる帯磁
の観測とは異なった条件(圧力媒体の有無や測定温度)
率測定の結果[3]とよい一致を示した。すなわち T c は
で測定されたものであった。さらに別の研究者はヘリ
fcc 相において上昇した後、hR1 相では減少する。cI16
ウム媒体中での帯磁率測定によって我々とは異なる T c
相では T c は再び上昇する。新高圧相では 9 K 以上で T c
の圧力依存性を報告した[3]。これらの不一致は Li が
は観測されなかったことから、T c は低圧相に比べてか
反応性が高くまた低温・超高圧の複合条件を必要とす
なり低いか超伝導が発現しない可能性も考えられる。
るなど実験条件の再現が困難なため見られていると考
以上のように結晶構造変化と超伝導転移温度の変化
えられている。これらの実験事実を整理し、アルカリ
を一対一で対応付けることが可能となった。本研究に
金属の超伝導転移のメカニズムを解明する上で、T c と
誘発され超高圧下におけるリチウムなどの高い T c や特
結晶構造の詳細な対応関係に関心がもたれる。以上の
徴的な結晶構造を理論計算により第一原理的に解明す
背景から、我々は Li の超高圧低温下 X 線回折測定と
る試みも始まっている[5]。高圧下の結晶構造は最も基
電気抵抗測定を同時に行った。
本的かつ重要な情報であるが、同時測定の意義は明確
hR1
でなかった。しかし高圧力下における実験においては
fcc
cI 16
new
phase
20
その環境(静水圧性など)の再現が一般的に難しい。
特に極限的な超高圧実験の信頼性の向上において本研
究開発は意義を持つものと考えている。
Tc (K)
15
lithium
参考文献
10
[1] K. Shimizu et al., Nature 419, (2002) 597.
[2] M. Hanfland et al., Nature 408, (2000) 174.
5
[3] S. Deemyad and J. S. Schilling, Phys. Rev. Lett. 91,
(2003) 167001.
0
10
20
30
40
50
60
70
80
P (GPa)
Fig. 1. P vs. T c and structural sequence.
[4] Y. Akahama and H. Kawamura, J. Appl. Phys. 96,
(2004) 3748.
[5] U. Maheswari et al., J. Phys. Soc. Jpn 74, (2005) 3227.
放射光の超単色化によるマルチメガバール領域の高圧下メスバウアー分光
三井 隆也 ・ 日本原子力研究開発機構
量子ビーム応用研究部門
メスバウアー分光は、スペクトルの超微
法による単結晶育成により、cmサイズの
細構造解析から固体物質のミクロな情報
大型で全体の歪が1秒以下の極めて完全
や格子力学的な情報に関する知見を得ら
性の高い 5 7 FeBO 3 単結晶を得る事に
れる有用な材料分析手法であるが、光源に
成功した。この結晶を用いて放射光(SP
指向性が無い放射性同位元素を利用する
ring−8)の超単色化を試みたところ、
従来法では、マイクロビームによる材料の
鉄の共鳴エネルギーを持つ14.4keV
局所分析は不可能であった。しかしながら、 X線において、エネルギー分解能15.4
SPring−8に代表される第三世代
neVの高輝度超単色X線を12,000
放射光から核の超微細構造を解析可能な
cpsの高出力で生成する事に成功した。
neVバンド幅の超単色のX線を分光し、
これをプローブビームとし、X線集光光学
プローブビームとして利用できれば他の
系を併用した顕微メスバウアー分光の応
X線分光と同様、メスバウアー分光による
用実験として、RIによる従来法では測定
マイクロアナリシスが実現する。このよう
困難なホールサイズφ20μm以下のD
な超単色X線を放射光から分光できる手
AC内で、200GPa以上に加圧された
57
法として、反強磁性体
FeBO3単結晶
鉄含有物質の圧力誘起磁気相転移の観察
をネール温度直前の純核ブラッグ反射で
を行い、短時間でメスバウアー吸収スペク
利用する方法が実証されているが、放射光
トル測定が可能である事を実証した。
から高出力で超単色X線を分光するには
本発表では、放射光の超単色X線分光の
歪が秒程度の完全単結晶を用いた核モノ
原理とメスバウアースペクトル測定法に
クロメーターが必要となり、これまで実用
ついて紹介すると共にマルチメガバール
化されなかった。
領域での超高圧下メスバウアー分析実験
一方、我々は、最近行なったフラックス
への応用とその可能性について紹介する。
高輝度
放射光
V
超単色X線
検出器
X線集光
核モノクロメーター
試料
顕微メスバウアー分光光学系の概念図
高圧下における BaSi2 のアモルファス解析
森嘉久、西井忠(岡山理大) 小原真司(高輝度光セ)
1. はじめに
Zintl 相 BaSi 2 は,室温常圧下では Fig.1 に示すように
orthorhombic 相であるが、高温高圧下(1300 K,10 GPa
Fig.1. Crystal structure of
の領域)では trigonal 相,cubic 相へと順々に構造相転
BaSi 2 at ambient pressure.
移することが報告されている[1]。しかしながら室温高
The structure is orthorhombic
圧下での構造相転移の報告は無いので,それを探索す
and lattice constants of a, b,
るために室温高圧下における X 線回折実験を行った。
and c are 8.92, 6.80, and
その結果,10 GPa 過ぎからアモルファス化が起こり,
11.58Å.
60 GPa ま で ア モル フ ァ ス 相 が安 定 に 存 在 す るこ と を
報告した[2]。高圧下での結晶相の構造変化はリートベ
ルト解析により詳細が明らかとなったが、アモルファ
ス相の構造変化は明らかとなっていない。そこで,高
エネルギーX 線を用いて高圧Ⅹ線実験を行い,アモル
2. 実験方法
実験は,SPring-8 の BL04B2(37 keV)と BL10XU(36
keV)のX線と IP,DAC を用いて,角度分散法で室温高
圧 下の X 線 回 折実 験 を 行 った 。 ハ ロ ーパ タ ー ン は,
high-Q(Q>11)まで収集した。試料は,BaSi 2 の粉末を準
備し,圧力媒体は,ペンタンとイソペンタンの混合液
G ( r)
ファス相の解析を試みた。
10
9
8
7
6
5
4
3
2
1
0
-1
61 GPa
52 GPa
45 GPa
30 GPa
20 GPa
Ba-Si
0
1
2
3
4
5
6
7
r/Å
(1:1)を使用した。圧力は,ルビー蛍光法によって
決定した。また,観測された回折データに対するバッ
Fig.2. Average pair-distribution functions G(r) of
クグラウンド補正は,Eggert ら[3]の方法に従った。
BaSi 2 with increasing pressure. The successive curves
3. 結果と考察
are displaced upward by 2 for clarity.
Fig.2 に高圧下での二体分布関数 G(r)を示す。20 GPa
において r=3.2 Å の第一ピーク(↑)は,Ba-Si の原子
3.6
それと比較して,その他の3つのピーク(↓)は,圧
3.5
力下で形は変化しているが,r はほとんど変化し てい
ない。圧力に対して明らかに変化している Ba-Si の原
子間距離を結晶相の原子間距離とともに圧力依存性と
し て プ ロ ッ ト し た も の が Fig.3 で あ る 。 こ の 結 果 は
Ba-Si 距 離の 距離 が結 晶 相より アモ ルフ ァス 相の 方が
Ba-Si distance / Å
間距離を示し,圧力下で縮んでいることが確認できる。
3.4
3.3
3.2
3.1
3.0
2.9
短いことを意味する。
Crystal
Amorphous
0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 50 55 60 65
参考文献
Pressure / GPa
[1] M. Imai and T. Kikegawa, Chem. Mater. 15, 2543
(2003)
Fig.3. Pressure dependence of the Ba-Si bond distances
th
[2] T. Mizuno et al., Proceedings of the 20 International
for amorphous phase and for crystal phase of BaSi 2 .
Conference on AIRAPT (2005)
Opened squares were obtained by the equation of state
[3] J. H. Eggert et al., Phys. Rev. B. 65, 174105 (2002)
of the crystal phase.
高圧力下における半導体クラスレート化合物の構造相転移
久米徹二,福島卓見,佐々木重雄,清水宏晏(岐阜大工)
飯高敏晃(理研)
福岡宏,山中昭司(広島大院) 佐多永吉(海洋研究開発機構)大石泰生(高輝度光セ)
1. はじめに
半導体クラスレート化合物は,アルカリ金属等のゲス
ト原子を内包した IV 族元素のかご構造から形成され
る。これまでに,Ba8Si46 等の I 型 Si クラスレート(Pm-3n)
では多くの高圧研究が行われ[1],構造不変のまま,
大きな体積変化を伴う特徴的な相転移(同形構造相
転移)と圧力誘起非晶質化が報告されている[2,3]。最
近我々は,ホスト原子である Ge の一部が欠損した I 型
Ge クラスレート(Ba8Ge43□ 3)[4,5]に対して高圧ラマン
散乱実験と X 線回折実験を行った。本講演では結果
の詳細を報告すると共に Si クラスレートで観測されて
いる同形相転移の機構について議論する。
2. 実験方法
Fig. 1. Crystal structure of Ba8Ge43□3. Vacancies
are presented by solid cubes.
Ba と Ge の熱処理により得られる Ba8Ge43□3 は,周
Ba8Ge43
Ba8Si46
1.0
期的な空孔が 6c サイトに入り,通常の I 型構造の 2 倍
のユニットセルを持つとされている[4,5]。(Fig.1 参照)
[3]
0.9
料室に圧力媒体 (Ar) と共に封入し,ラマン散乱実験
および粉末 X 線回折実験を行った。ラマン散乱スペク
V / V0
この試料を ダイヤモンド・アンビル・セル (DAC)の試
0.8
トルは,励起波長 532 nm とし,後方散乱配置で測定し
た。粉末 X 線回折実験(XRD)は,SPring-8 のビームラ
イン BL10XU で行った。ラマン散乱,X 線回折実験共
0.7
に圧力 40 GPa 付近まで行った。
0
3. 結果と考察
図 1 に XRD 実験から求めた Ba8Ge43 の体積の圧力
依存性を示す。これまでに報告されている同形で,欠
損のない Ba8Si46 の結果[3]も同時に示した。Ba8Si46 の
15 GPa 付近(縦矢印)に見られる体積の不連続的な
変化は,Ba8Ge43 では見られず,40 GPa 付近まで連続
的に変化している。また,30 GPa 付近から回折ピーク
は弱くなり,40 GPa ではほとんど観測されない。したが
って,Ba8Ge43 は同形構造相転移[2,3]を示さずに非晶
質になることがわかった。非晶質化は,同じ試料で観
10
20
30
40
Pressure (GPa)
Fig. 2. Pressure dependence of V/Vo of B8Si46[3] and
Ba8Ge43□3.
サイトがこの相転移に深く関与していることを示唆して
いる。最近の第一原理計算結果も合わせて議論する
予定である
参考文献
[1] 清水,他: 日本物理学会誌, 60, 543 (2005).
[2] Kume et al.: Phys. Rev. Lett., 90, 155503 (2003).
測されたラマンスペクトルの弱体化からも支持される。
[3] San-Miguel et al.: Europhys. Lett., 69, 559 (2005).
6c サイトの欠損した Ge クラスレートが,無欠損の Si ク
[4] Okamoto et al.: Acta Materialia, 54, 173 (2006).
ラスレートに共通の同形相転移を示さないことは,6c
[5] Cabrera et al.: Anorg. Allg.Chem., 630, 2267 (2004).
凍結できない高圧合成ペロブスカイトについて
遊佐
斉
(物質・材料研究機構)
はじめに
ペロブスカイト構造は、比較的高密度な構造であ
ることから、高温高圧合成により広く合成され、様々
な組成において存在することが知られている。その
一方で、合成ペロブスカイトが一気圧で準安定であ
るために、減圧時にその痕跡しか残さないことも知
られる。本講演では、その不安定性について
SPring-8でレーザー加熱 DAC 実験により得られた
良質のデータとともに、陽イオン半径、トレランスファ
クター(t)、および配位多面体に着目し系統的に考
察する。
不凍結ペロブスカイトは以下のパターンに大別さ
れる。
I.ペロブスカイト構造からニオブ酸リチウム構造への
転移
ニオブ酸リチウム構造に凍結される場合は、ペロ
ブスカイトにおける斜方歪みが大きな場合に起こる。
Ref(1)は、t<0.84 の ABO3 型ペロブスカイトにおいて
この転移が起こると記述している。しかしながら、トレ
ランスファクターは、一気圧の値であるため、より正
確には高圧下の結晶学データを基に解析されるべ
きである。図は様々なペロブスカイトにおける B4+O6
八面体の回転角(Φ)と 2 価陽イオン半径の相関を
示すが、八面体の回転角が大きくなるとニオブ酸リ
チウム構造へ転移しやすくなる傾向がわかる。
これは、減圧時に八面体がペロブスカイト構造(理
想的にはΦ=0)を維持するよりもΦ~22°のニオブ
酸リチウム構造を選ぶ傾向をよく説明する(ref .2.)。
II.ペロブスカイト構造から非晶質への転移
減圧時にペロブスカイト構造が非晶質化する現象
は CaSiO3 立方晶ペロブスカイトにおいて最初に報
告された(ref. 3)が、最近になって、SrSiO3(ref. 4),
BaSiO3(ref. 5)組成と相次いで、非晶質化する六方
晶ペロブスカイトが見つかっている。これらは全て、
t>1 を示すペロブスカイトであるが、BaSiO3 に見られ
るように、六方晶ペロブスカイトを特徴付ける SiO6 面
共有のフレームワークが圧力とともに9R→6H と減
少し、立方晶ペロブスカイトに近づいてゆくことから、
2 価陽イオンが SiO6 フレームワークに比べ縮みやす
い傾向も示している。翻って考えれば、非晶質化は
減圧過程で、2 価陽イオンが SiO6 フレームワークを
破壊しながら膨張してゆくことにより説明されると考
えられる。
References:
(1)K. Leinenweber et al., Phys. Chem. Minerals, 18: 244-250, (1991).
(2) H. Yusa et al., Phys. Chem. Minerals, 33: 217-226, (2006).
(3) L. Liu and A.E. Ringwood, Earth. Planet. Sci. Lett., 28: 209-211,
(1975).
(4) H. Yusa et al., Am. Mineral., 90: 1017-1020, (2005).
(5)H. Yusa et al., Am. Mineral., 92: in press, (2007).
図 A2+ 陽 イ オ ン 半 径 と
B4+O6 八面体の回転角(Φ;
左下図参考))の相関。アル
ファベットは ABO3 ペロブス
カイトのの AB 組成を順に
示す。黒は減圧時にニオブ
酸リチウムに凍結され、白
抜きはペロブスカイトに凍
結されることを示す。実線
はゲルマン酸塩、点線はチ
タン酸塩を各々線形フィット
したものである。
BL10XU の現状と 近未来構想
大石泰生
(高輝度光科学研究セン ター )
2006 年の BL10XU における装置系の
製に置き換えるもので、X 線集光効率をよ
高度化・整備については、 (1)ダイヤモン
り高めることを目的としている。これらは
ドモノクロ(Dia-DCM)への変更(2005 年度
前出の Dia-DCM と同じく 45keV 以上の硬
予算)、(2)短焦点型 X 線屈折レンズの導入
X 線にも対応できるよう設計されている。
(IFREE による設置)、(3)グラッシーカーボ
45keV 以上の硬 X 線の利用は、観測窓
ン(GC)製レンズへの変更(実施は 2007.3 以
が制限されている DAC を用いた時の X 線
降)、(4)実験ハッチ1へのブリルアン散乱
回折実験に有利であり、逆に観測窓を小さ
装置の設置と X 線回折系の装備(岡山大、
くして超高圧の発生を助けることが出来
村上発表)、 (5)ラマン散乱装置導入と圧力
るので、今後進展するのであろう超高圧領
測定系、とそれら周辺機器・設備の整備を
域での精密構造解析研究には不可欠な要
実施した。(1)のダイヤモンド結晶モノクロ
素である。しかしながら BL10XU は、建設
に変更することによって、反射効率が劣る
当初から高輝度 XAFS と併用となった背
ものの完全結晶性に優れたダイヤモンド
景から標準型 Undulator が設置され、3 次
を使用することによって、傾斜型シリコン
光を使っても 40keV 程度迄の X 線領域し
結晶モノクロでの結晶歪を原因とするビ
かカバーできていない。そのため我々は短
ーム拡散を回避して集光光学系に高品位
周期型 Undulator への変更し、高エネルギ
の X 線ビームを通すことが可能となる。
現
ー仕様への移行を提案しているところで
在導入後、DAC への入射 X 線強度は 2 倍
ある。一方、一旦短周期型へと変更された
程度に増加し、同時にダイヤモンドの耐
場合、25keV 以下の X 線を使用することは
熱・高冷却効率の下でのビーム安定性向上
困難となり、例えば X 線回折以外の分光実
と、格子定数が小さいことによる高エネル
験に転用することは不可能となる。高圧物
ギーX 線への利用拡大といった高圧 X 線
質科学研究会が今後 BL10XU をどのよう
回折測定に有利な進展が得られた。(2)につ
に位置付け、また、他のビームラインや施
いては実験ハッチ内に新たに短焦点型レ
設とどう住分けるか、そこで共同利用研究
ンズ(0.5m)を追加したもので、10 ミクロン
を展開すべきか、インハウススタッフを含
以下のビーム集光が可能になり、その領域
めて議論が必要である。
での輝度は 100 倍程度に増大した。(3)は現
状の Be 製レンズを加工精度に優れた GC
多結晶ダイヤモンドによる 超高 圧発生
入舩徹男(愛媛大・地球深部研)
1. はじめに
我々GRC グループでは、Co 等バインダ
ー入りの多結晶焼結ダイヤモンド(SD)を用
いたマルチアンビル装置による高温高圧発
生技術の開発をおこなっている。これに基づ
き、下部マントルの温度圧力条件下での様々
な高圧相の相変化や密度変化の解明に取り
組んでいる。一方で、自ら合成したバインダ
ー レ ス 多 結 晶 ダ イ ヤ モ ン ド ( NPD =
HIME-DIA)を用い、より高い圧力の発生も
試みつつある。本講演では、これら2種類の
多結晶体を用いた高温高圧発生実験の現状
と最近の結果を紹介するとともに、今後の見
通しについて述べる。
1. SD を用いた MA による高温高圧発生
住友電工製 1 辺 14mm, TEL=1.5 mm の
立方体 SD (WD-700) を第2段アンビルとし
て用い、MA による高圧発生および高温高圧
下での MgAl2O4, MnGeO3, phase D, pyrolite,
などの相転移実験をおこなった。現在までの
ところ常温では 70GPa 程度の圧力発生ととも
に、45 GPa 領域では 2500K、60 GPa 領域で
は 1300K 程度の高温高圧下での実験が可
能になっている。この結果、MgAl2O4 の新し
い高圧相の発見など様々な成果がえられて
いる。
2. NPD を用いた MA による高温高圧発生
Ib 単結晶ダイヤモンド(SCD)、SD、および
HIME-DIA を第3段目アンビルとして用い、
6-8-2 方式による高温高圧発生試験をおこな
った。第3段アンビルとして、直径 1.7mm、長
さ 1mm、先端径 0.8mm のテーパー付きピスト
ン(図1)を、第2段アンビルとして TEL=3.0
mm の超硬合金アンビルを用いた。加熱は
TiC ヒーターを用いておこない、W-Re 熱電対
で測温をおこなった。
X 線その場観察実験による発生圧力の評
価の結果、いずれの第3段アンビルを用いて
も 常 温 では 700 トン程 度 のプレ ス 荷重 で
80-90 GPa 程度の圧力発生が確認された。し
かし、荷重一定のまま温度を上昇させると、
SCD および SD の第3段アンビルを用いた
6-8-2 システムでは、800K 程度で圧力の大幅
な低下が見られた。一方 HIME-DIA を用い
た場合には、1200K 程度まではほとんど発生
圧 力 の低 下 は見 られず、1400K 程 度 でも
50-60GPa 程度の圧力が維持可能であった。
現在、更に HIME-DIA の大型化による、より
高温高圧発生に向けた基礎的実験をおこな
いつつある。
3. NPD を用いた DAC による超高圧発生
HIME-DIA を(株)シンテックにより DAC 用
に加工してもらい(図 1)、大阪大学極限研、
住友電工エレ材料研などとの共同研究として
超高圧発生を試みつつある。昨年 12 月に
SPring-8 で実施された予備的実験によると、
200GPa を越える圧力の発生が確認された。
今後、更により高い圧力発生を目指すととも
に、東大物性研などとともに高温下での高圧
発生試験も予定している。
図 1. 6-8-2 型 MA 用(左)および DAC 用の HIME-DIA ア
ンビル
謝辞:本研究は愛媛大学地球深部研(GRC)の
教員・研究員・学生、および住友電工エレ材料研
の角谷均氏、大阪大学極限研の清水克哉・中本
有紀氏らとの共同研究としておこなわれたもので
ある。附記して謝意を表す。
Fe-C
Fe-H 系の相平衡と熱物性
高橋栄一、西原遊、中島陽一、坂巻功一(東京工業大学・理工学・地球惑星科学専攻)
地球中心核に含まれる軽元素を解明することは、
地球形成過程、地球全組成、及び現在の地球ダイ
ナミクスを理解する上で重要である。現在に至る
まで、多くの研究者により様々な元素(H, S, O, Si,
C)が核軽元素として提案されてきた。しかしなが
ら、これまでの研究では S, O を偏重する傾向にあ
った。最近の惑星形成過程の理論研究からは、地
球型惑星の形成時にマグマオーシャンが水素を主
成分とする原始太陽系星雲と連続していた可能性
が指摘されている(Ikoma et al. 2006, Astrophys J)。こ
のような理論研究によれば、S, O に比べ星雲ガス
にはるかに多く含まれる H および C が、原始地球
の金属核に高濃度で取り込まれた可能性が考えら
れる。
Fukai (1982, Nature) は KEK の MAX-80 を用い
た FeH 相の X 線その場観察実験に基づき、地球集
積時に炭素質コンドライトに含まれる H2O が内部
に取り込まれたならば、金属鉄との反応により水
素のほとんどが核に取り込まれたはずであるとす
る仮説を発表した。我々は溶融金属 Fe への水素の
溶解度は東工大のマルチアンビル装置を用いて急
冷実験により研究した (Okuchi & Takahashi 1998;
Okuchi 1998, 2000)。また FeH 相の安定領域は最近
DAC 装置を用いて Ohtani et al. (2005)が 84 GPa の圧
力まで決定した。しかしながら、FeH 融点の圧力
依存性や Fe-FeH 系の相平衡関係は、実験の困難さ
もあり、未解明で残されていた。
H および C が原始地球でどのように金属核に取
り込まれたかを解明するため、我々は、
2005B-2006A 期に SPring-8, BL04B1 において FeHx
の融点を 20 GPa の圧力下までその場測定すること
に成功した。その結果、FeH の融点は Fe に比べて
20 GPa で 700 K 低温であり、且つ融点のクラペイ
ロン勾配が緩やかであるため、外核に水素が多量
に含まれていた場合、その融点は従来の予想(>
4000 K)より大幅に低温であることが明らかになっ
た(Fig. 1 参照)。
Fig. 1 SPring-8, BL04B1 において決定した FeH の融
解曲線
我々はさらに地球中心核における炭素の役割を
解明する目的で 2005B-2006A 期に Fe3C および
Fe7C3 相の圧縮実験を 0-20 GPa、300-1073 K の温
度圧力範囲で行ない、その熱弾性特性を明らかに
した。その結果を地球中心核に外挿すると、内核
の純鉄に対する密度欠損を鉄炭素化合物の存在に
より説明できることがわかる。また Fe3C 相の融解
実験をX線その場観察法で 20 GPa および 30 GPa
で行い、より低圧で行った急冷法による相平衡実
験の結果と合わせて Fe-C 系の融解関係を 30 GPa
までの圧力範囲で解明することに成功した(Fig. 2
参照)。Wood (1993, EPSL) の予想に反して溶融金
属鉄への炭素の溶解度は高圧下でも減少せず、外
核中の炭素溶解度は数 wt%に上昇する可能性があ
ることが判った。
Fig. 2 SPring-8, Bl04B1において決定した Fe3C の融
解関係
マルチアンビル高圧実験用 の新 しいヒーター材料:
BN コンポジットヒ ーター
神崎正美・岡山大学・地球物質科学研究センター
は じ め に : 最近マルチアンビル高圧実験用
の新しいヒーター材料を SPring-8 BL04B1 で
で試しているが,良好な結果が得られている
のでその結果について報告する.
ヒ ー タ ー 材 料 の 考 察 : マルチアンビル用の
加熱ヒーター材料に要求される性質としては
適当な電気抵抗,高融点および加工性のよ
さが挙げられる.さらに放射光での利用を考
えると X 線吸収が低いものが望ましい.これま
で主に1)グラファイト,2)金属箔,3)LaCrO3 ,
4)ダイヤモンド+カーバイトの混合物が使わ
れてきたが,1)はダイヤモンドへの転移,2),
3),4)は X 線吸収,4)は加工性/製作の点
で難がある.上記の要件を全て満足する材
料は現状ではない.もちろんヒーター形状と
その置き方によっては X 線吸収が問題になら
ない場合もあるが,実験によってはそのような
形状,置き方をとれない場合も多い.例えば
落球法による粘性測定では筒状ヒーターをそ
の軸を垂直に置くのが測定上最も都合がい
いが,その場合ヒーターを透過して観察する
ことになり,10GPa 以上で使えるヒーターがな
い.ここでは上記の要件を全てクリアするヒー
ター材料として BN コンポジットヒーターの使
用を提案したい.
BN コ ン ポ ジ ッ ト ヒ ー タ ー と は ? : これは
hBN と TiB2 を反応焼結させたものであり,
「BN コンポジットヒーターEC」の名前で販売さ
れている(1).この材料は蒸発源用のヒーター
等に既に使われており,ニラコのカタログにも
蒸発源として加工品が載っている(2).hBN は
絶縁体であるため TiB2 が電流を流し,電気
抵抗はグラファイト程度であり,常圧で
2000˚C 程度まで加熱できる (2).
高 圧 実 験 で 使 え る か ? : このヒーターの高
圧下での使用についての過去の報告は見つ
からなかったが,hBN が cBN/wBN に転移し
てもバルクの電気伝導にはそれほと影響を及
ぼさないと予想される.また Ti はあるものの
B,N で薄められているため X 線吸収も低いと
考えられ,放射光実験に適しているのではな
いかと思われた.実際サンプルをもらって試
したところ,かなり硬いが加工することも出来
る.結構丈夫でありグラファイトヒーターなみ
の薄い形状に加工することができた.
実際の使用結果:数年前から何度か実際に
試してきたが,2006A の課題から本格的に使
用している.この時は 14M セルに外径 3.3 内
径 2.4 長さ 9.0mm の筒状ヒーターとして使っ
た.9-13GPa, 1300˚C 程度までの実験にこれ
まで7回ほど使用しているが,特に問題は起
きてない.1300˚C までしか上げてないのは含
水系の実験であったためである.ラジオグラ
フィでも回折実験でも問題なく画像や回折線
が測定できている.これらの結果から高圧側
(≥10GPa)でグラファイトヒーターを使ったセル
をそのまま置き換え可能なヒーターとして利
用することができると考えられる.
利 用 へ の ア ド バ イ ス : 最後にこのヒーター
使用時のいくつかの注意点を記す.筒形状
への加工は可能なのだが,超硬だと消耗が
激しいため,焼結ダイヤモンドのバイトとダイ
ヤモンド粒子を電着したドリルを使うことを勧
める.シートヒーターの場合はダイヤモンドカ
ッターで薄く切って,研磨で望みの厚さにす
ればよい.温度一定でも徐々に抵抗が増加
する傾向があるため電力制御にした方が安
定する.条件によっては多分 hBN の転移に
よると思われる急激な抵抗変化も見られた
(当然温度も変わる).このような場合にはで
きれば温度制御にすることが望ましい.B は
熱電対(特に Pt)と反応性が高いためヒータ
ーと直接接触させるのは避けた方が良い.B
は中性子を吸収するため,中性子実験には
向かないだろう.入手方法などは 3 をご覧くだ
さい.
参考資料
1.デンカ BN コンポジット EC(電気化学工業)
2. ニラコカタログ No.29,131 ページ
3. www.misasa.okayama-u.ac.jp/~masami/
イメージングによるカンラン岩からの白金族元素含有ナゲットの探索
小木曽哲・鈴木勝彦・鈴木敏弘(海洋研究開発機構 地球内部変動研究センター)
上杉健太朗・竹内晃久・鈴木芳生(JASRI/SPring-8)
白金族元素(Ru, Rh, Pd, Os, Ir, Pt)
は,地球型惑星の内部ではそのほとんどが金
属核のみに分布しているが,微量ながらケイ
酸塩マントル中にも存在する.ケイ酸塩マン
トル中の白金族元素の濃度や同位体比組成
は,地球形成時の金属核とケイ酸塩マントル
の分離過程や,核とマントルの化学的な相互
作用に大きく影響される.つまり,マントル
中の白金族元素は,地球の最も基本的な層構
造の形成過程と,その後の化学的進化を解明
するうえで重要な鍵となる元素である.しか
し,マントル中の白金族元素の挙動には未知
な部分が多く,特に,白金族元素のホストと
なる相が不明確であることが,白金族元素デ
ータに基づいたマントル進化の議論の障害
となってきた.
マントル中の白金族元素は硫化鉱物相に濃
集していることが多い。しかし硫化鉱物中の
白金族元素濃度は必ずしも均質ではないこ
とが多く,白金族元素が他の微小な相(マイ
クロナゲット)として含まれている可能性が
指摘されている.このような,白金族元素を
含むマイクロナゲットの岩石中での産状を
記載し鉱物学的に同定することは,白金族元
素を用いた惑星内部の進化の議論を進展さ
せる上で必要不可欠である.
我々は,SPring-8 の BL20XU および BL47XU
において,X 線吸収端前後での吸収率の差を
利用した吸収差分イメージングと,マイクロ
ビームを用いた蛍光 X 線(XRF)マッピング
により,マントル由来岩石中から白金族元素
を含むナゲットを非破壊で発見することを
試みている.吸収差分イメージングでは,標
準物質 PTC-1a(硫化鉱物の均質な粉末)か
ら,50µm 大の Pt 濃集相を発見することに成
功した.また,マイクロビーム XRF マッピン
グでは,北海道・幌満岩体のレールゾライト
に含まれる硫化物相の中から,Pt, Ir, Os
等を含むマイクロナゲットを複数発見する
ことに成功した(第1図).発見されたマイ
クロナゲットは,1µm 以下から数 µm,大き
いもので 10µm を超える.元素の組み合わせ
は,Pt-Au,Ir-Os-Pt,Ir-Os, Pt-Bi など
であり,他に,Au のみ,Hg のみのナゲット
も見つかっている.この発見により、白金族
元素が実際に 1µm オーダーのマイクロナゲ
ットとしてカンラン岩中に存在することが
初めて明らかとなった。今後、マイクロビー
ムを用いた X 線回折や XAFS などで、発見さ
れたマイクロナゲットを鉱物学的に同定す
ることにより、マントル中での白金族元素の
ホスト相が解明されると期待できる。
第1図 幌満カンラン岩中の硫化鉱物の蛍
光 X 線マッピング.
白:Pt-Lα, 青:Ni-Kα, 赤:Cu-Kα.
X 線エネルギー:15 keV
ビームサイズ:0.5 x 1.0 µm2
積算時間:20 秒/pixel
X線吸収法による玄武岩マグマの密度測定
坂巻竜也、大谷栄治、鈴木昭夫(東北大学)、浦川啓(岡山大学)、片山芳則(JAEA)
が Fig.3 である。これから非常に縮みやすい水の
性質が見て取れる。
Fig.4 には、マグマと結晶の密度を比較したも
のが示してある。特に斜長石とマグマの密度を比
較することによって、月と地球のマグマオーシャン
の違いが見えてくる。月には地球では見られない
斜長石から成る地殻が存在している。これはマグ
マオーシャン時に斜長石が周囲のマグマより軽く、
浮き上がってきたことを意味する。これを満たすた
めには、月では無水のマグマオーシャンが起きて
いたことを考える必要がある。逆に地球では含水
のマグマオーシャンが起きていた可能性があり、
斜長石が浮き上がれない条件であったと考えら
れる。
3.3
4
Agee (1998)
3.5
3.1
3
2.9
2.8
K=26.5±1.0 GPa
K'=4
2.7
2.6
Dry MORB
K=26.5(10) GPa
3
Density (g/cm )
3
Density (g/cm )
3.2
0
1
2
3
4
5
2.5
Hydrous MORB
K=8.8(4) GPa
2
6
1.5
7
●
3
0
2
4
6
8
10
Pressure (GPa)
Pressure (GPa)
Fig.1(左) 玄武岩マグマの 1400℃における圧縮曲線
Fig.2(右) 無水、含水玄武岩マグマの 1400℃における圧縮曲線
3.6
30
3.4
25
Olivine
3.2
Density (g/cm 3)
Partial Molar Volume (cm3/mol)
玄武岩マグマは地球に最も普遍的に存在して
いるマグマであり、その密度を求めることは地球
のダイナミクスを考察する上で重要である。
本研究で用いたX線吸収法は、金属メルトの密
度測定に用いられていたものであったが (e.g.,
Katayama et al., 1996)、珪酸塩メルトに対して適
用させることによって玄武岩マグマの密度測定に
成功した。
X線吸収法は Lambert-Beer の式
I = I0 exp(-μρt)
で表される関係式を基に密度を求める方法であ
る。この式は、質量吸収係数μと厚さtが既知の
物質に対してX線を当てて、その入射、透過X線
強度I、I0を測定すれば、密度ρを求めることがで
きることを意味している。
高温高圧条件下で試料の厚さ t を求めることは
困難であるため、ダイアモンドカプセルを用いて
試料の厚さを固定することにした。ダイアモンドは
変形しにくく、X線吸収が小さく、珪酸塩メルトと反
応しないため、最適な材質である。
質量吸収係数μは、温度圧力には依存しない
ので、出発試料と同じ組成のガラスを円柱状に成
形し、常温常圧下で予め測定しておく。
実験はBL22XUビームラインで行った。アンジュ
レーター光源で、Si(111)の2結晶モノクロメーター
で単色化し、エネルギーは 23keVを用いた。高圧
発生には 180 トンのキュービックプレスを用い、ア
ンビル先端サイズは 4mmと 6mmのものを使用し
た。X線強度はN2 ガスで満たしたイオンチャンバ
ーで測定した。圧力条件は 0~5GPa、温度条件
は 1400~1600℃で行った
出発試料として、無水と 5wt%の含水玄武岩組
成のガラスを合成して、ダイアモンドカプセルに
封入した。
無水条件下における測定結果は Fig.1 に示して
ある。本研究で測定できた最高圧力 4.6GP での
密度と過去に浮沈法で求められた 5.9GPa での密
度(Agee, 1998)との間には差が見られる。
含水条件下における測定結果は Fig.2 に示して
ある。水によるマグマの密度減少が確認できる。
また無水と含水の結果を基に、各々の圧力条件
での水の部分モル体積を求めてプロットしたもの
20
15
10
2.8
Anorthite
2.6
Olivine
Anorthite
Pyroxene
Dry MORB
Hydrous MORB
(5wt% H2O)
2.4
5
Dry MORB
Pyroxene
3
Hydrous MORB
2.2
0
1
2
3
Pressure (GPa)
4
5
2
0
1
2
3
4
Pressure (GPa)
Fig.3(左)水の部分モル体積の 1400℃における圧力依存性
Fig.4(右)玄武岩マグマと結晶との 1400℃での密度比較
参考文献
Y. Katayama et al., Journal of Non-Crystalline
Solids, 205-207, 451-454 (1996).
C. B. Agee, Physics of the Earth and Planetary
Interiors, 107, 63-74 (1998)
5
6
カルシウ ムフ ェライ ト型 NaAlSiO4 の高圧安定性
末田有一郎、八木健彦(東大物性研)、佐多永吉 (IFREE)、大石泰生 (JASRI)
1. はじめに
3. 結果と考察
アルミナス相は下部マントル条件下の
165 GPa, 2300 K までの NaAlSiO4 のX線その
MORB 組成で形成される主要な高圧相のひと
場観察実験を行った。図 1 に本研究の結果得ら
つであり、Na をはじめとするアルカリ元素の
れた NaAlSiO4 の高圧相関係を示す。NaAlSiO4
主要なホスト相となっている。アルミナス相は
は~30 GPa, 2300 K で CF 相を形成し、165 GPa,
下部マントルにおいてカルシウムフェライト
1800 K まで CF 相が安定であった。しかし、本
型構造(CF 相)を形成し、下部マントル最下部
研究が実施した実験温度圧力領域では Ono ら
に相当する 134 GPa, 2300 K まで安定であると
が報告した CF 相から CT 相への相転移あるい
報告されている[1]。しかし、近年、アルミナ
は他の高圧相への相転移は観察されなかった。
ス相は 143 GPa, 3010 K にてカルシウムチタナ
MORB 組成にお けるア ルミナス 相 は 140
イト型構造(CT 相)へ相転移するという報告も
GPa で CF 相が相転移するのに対し、NaAlSiO4
なされている[2]。MORB 組成のアルミナス相
では 165 GPa まで CF 相が安定であった。これ
において、134~143 GPa の圧力領域で相転移が
らのアルミナス相とそれの端成分である
生じる可能性を踏まえ、アルミナス相の主要な
NaAlSiO4 での相転移圧力の差異は CF 相への
端成分である NaAlSiO4 でも同様の相転移が生
Na の固溶量の増大にともない CF 相の安定性
じるか確かめるため、本研究はレーザー加熱式
をより高圧領域まで高めていると考えられる。
ダイヤモンドアンビルセルを用いたX線回折
実験によって 165 GPa、
2300 K までの NaAlSiO4
の高温高圧相関係を調べた。
2. 実験方法
SPring-8 の BL-10XU ビームラインで高温高
圧下におけるX線その場観察実験を行った。高
温発生には同ビームラインに組み込まれてい
る YLF レーザー加熱システムを用いた。また、
高圧発生にはダイヤモンドアンビルセル(ダイ
ヤモンドキュレット径 100 , 250, 350 µm)を用
Fig. 1
The phase diagram of NaAlSiO4 at
いて実験を行った。出発物質には Na2CO3 、
pressures up to 165 GPa.
Al(OH)3、SiO2 試薬を電気炉で 1000℃、72 時間
calcium ferrite-type NaAlSiO4 and NaAlSi2O6-
保持して合成した NaAlSiO4 -nepheline を用いた。
jadeite, respectively.
CF and Jd represent
この試料にレーザーの吸収剤と同時に圧力測
定用として Pt 粉末、または Pt 箔を用いた。圧
参考文献
力媒体には Pt 粉末を混合していない同一の出
[1] Hirose et al. (2005) Earth Planet. Sci. Lett.,
発試料を用いた。これらの試料をあらかじめ仮
237, 239-251
押しし、穴あけしたレニウムガスケットに封入
[2] Ono et al. (2005) J. Geophys. Res., 110,
した。圧力は Pt の単位格子体積変化をもとに
doi:10.1029/2004JB003196
Holmes et al. (1989)の状態方程式から見積った。
X 線解析用ソフト(PDIndexer, IPAnalyzer)の紹介
瀬戸
雄介
(北海道大学 大学院 理学研究院)
強力な放射光や高感度カメラを利用することに
よって、わずか数分から数秒で十分な強度の X
線回折データが得ることが可能となっている。一
方データ解析時間の比重は相対的に高くなって
きており、レーザー加熱ダイアモンドアンビルセル
(LH-DAC)を用いた SPring-8 での X 線回折実験
においても、圧力を上げるか否か、レーザー過熱
を続けるか次のサンプルに移るか、といった判断
を精確かつ迅速に行う必要がある。限られたビー
ムタイムを効率よく使うためのアプローチとして、
発表者は放射光 X 線データ解析に特化したソフ
トウェアの開発を行った。
プログラムは回折リングの一次元積算化
(IPAnalyzer, IPA)と角度-強度プロファイル解析
(PDIndexer, PDI)に分けられる。両ソフトウェアとも
Microsoft 社の .Net Framework 2.0 環境で動作
し、商用でなければ使用、配布に制限はない。プ
ロ グ ラ ム は http://mineralx.ep.sci.hokudai.ac.jp/seto/
にて配布している。
IPAnalyzer (図1)は回折リングの一次元積算化
のほかに、波長、カメラ長などをほぼ自動で決定
することができる(図 2)。
PDIndexer (図 3)では 2θ-強度プロファイルとと
もに、登録した結晶(図 4)の計算上の回折ピーク
位置を表示あるいはフィッティング(図 5)すること
が出来る。フィッティング結果から格子定数の最
適化を行うことも出来る。また標準的な物質(Au,
NaCl など)の状態方程式を内蔵している。
図 3. PDIndexer の
概観。IPA のデータ
の 他 、 WinPIP や
Fit2D の形式に対
応している。複数の
プロファイルを同時
に表示することが出
来る
図 1. IPAnalyzer の概観。画
像 形 式 は Rigaku R-Axis4,
図 4. 結晶構造入力画面。 CIF および AMC 形式の結晶構
Bruker CCD, Fuji BAS 2000 /
造ファイルを読み込み可能。簡易的なデータベース機能も
2500 に対応している。読み込
備えている。
んだ画像は、中心の検出、ス
図 5. ピークフィッティン
ポットの検出・除去を行った後、
グの結果。マルカール
強度の一次元化を行う。一次
法を用いた逐次近似で
元 化 さ れ た デ ー タ は
ピーク関数(擬フォーク
PDIndexer に 直 接 送 信 さ れ
トあるいはピアソン VII)
る。
に対して最小 2 乗フィッ
ティングを行う。図のよう
図 2. 各パラメータの
計算。スタンダード物
質の回折パターンを
解析することによって、
波長、カメラ長のほか、
IP の傾き、ピクセルの
形状といったパラメー
タをほぼ自動的に決
定することが出来る。
なピーク分離も可能。
プログラムは商用でなく、また現在も一部開発
中であるため、不安定な部分があることを承知の
上ご利用いただきたい。また IPA については藤久
裕司氏(AIST)のご厚意により PIP のソースを参考
にさせていただいており、その設計思想や機能に
大いに影響をうけている。この場を借りて御礼申
し上げます。
[email protected]
SiO2 ガラスの高圧 X 線ラマン散乱
(Electronic bonding transition in compressed SiO2 glass)
Jung-Fu Lin,1 Hiroshi Fukui,2 David Prendergast,3,4 Takuo Okuchi,5 Yong
Q. Cai,6 Nozomu Hiraoka,6 Choong-Shik Yoo,1Andrea Trave,1 Peter Eng,7
Michael Y. Hu,8 and Paul Chow8
(下線は発表者)
1 Lawrence Livermore National Laboratory, USA
2 Institute for Study of the Earth’s Interior, Okayama University, Japan
3 Department of Physics, University of California at Berkeley, USA
4 Chemical Sciences Division, Lawrence Berkeley National Laboratory, USA
5 Institute for Advanced Research, Nagoya University, Japan
6 National Synchrotron Radiation Research Center, Taiwan
7 Consortium for Advanced Radiation Sources, The University of Chicago, USA
8 HPCAT, Carnegie Institution of Washington, Advanced Photon Source, Argonne
National Laboratory, USA
高圧物質科学の新しい手法として応用
が進みつつある,X 線ラマン散乱(XRS)の
SiO2 ガラスへの応用について紹介する[1].
XRS は高圧下で X 線吸収端の観測を可能に
する手法である.以下はその特徴である.
(1) 化学結合状態を直接調べることが可能
(2) 米国 APS に 2 本の BL があり,盛んに実
験が行われている.SPring8 の 12 番に
も BL があり,台湾 NSRRC にプロポーザ
ルを提出して利用ができる
(3) 日本の高圧科学者による利用は少ない
(4) 地球惑星内部科学の手法としては,シ
リケイトのほかに水にも有効
(5) 量子計算のできる理論家との共同研究
が必要
実験は上記の 3 本の BL を全て利用して行
った.ダイヤモンドアンビルセルを用いて圧
縮した試料に 10keV の単色化した X 線を入
射して,酸素原子 K 殻電子による非弾性散
乱のエネルギー損失スペクトルを測定した.
51GPa までの圧力で酸素原子の K 吸収端を
観察することにより,その化学結合状態が SP3
混成の 4 配位型から,よりエネルギー準位の
高い 6 配位型へと変化することを確認した(図
参照.Q が前者,Sが後者を示す).変化は 12
∼22GPa の間で起きている.加圧後に 3GPa
まで減圧して測定したところ,電子状態の変
化は可逆的であることがわかった(図参照).
[1] Lin et al., Phys. Rev. B 75, 012201 (2007)