第 10 回 IT 革命とニュービジネス、電子商取引と Web2.0

情報化社会と経済
IT 革命と情報化社会
第 10 回
IT 革命とニュービジネス、電子商取引と Web2.0
1、IT 革命と電子商取引
インターネットの普及に代表される IT 革命は新たなビジネスを登場させた。
その代表的なものが、インターネット等の情報ネットワーク上で財やサービス
の売買などの取引を電子的に行う電子商取引であり、Electronic Commerce や
e- Commerce、EC と呼ばれる。これは情報通信産業に止まらず、既存の企業の
取引までも情報化、電子化していく点で情報化社会を象徴するものであろう。
電子商取引は大きく 3 つに分けられ、企業同士の取引を B to B(Business to
Business)または B2B、企業・消費者間の取引を B to C(Business to Consumer)
または B2C と呼び、またネットオークションに見られるような消費者同士の取
引を C to C(Consumer to Consumer)と呼ぶ場合もある1。
インターネット人口の拡大とともに電子商取引市場も急速に拡大しており、特
にブロードバンドの普及とともに B to C の市場規模は急速に拡大している。
2004 年の一般消費者向け(B2C)の電子商取引の市場規模は、5.6 兆円(対前
年比 27.6%増、電子商取引化率は全体で 2.1%と推定されている。2000 年度か
ら見ると、B to C 電子商取引市場規模は、約 7 倍に市場規模が拡大しており(B
to B 電子商取引規模の約 9 倍伸び)、
「e−Japan 重点計画」の目標(3 兆円以上)
を大幅に上回る市場成長を達成している結果となった。
2.50%
2.10%
2.00%
1.60%
1.50%
1.00%
1%
0.60%
0.50%
「平成 16 年・17 年度電子商取引に関
0.30%
0.00%
0.02% 0.10%
1998年
1999年
2000年
2001年
する実態・市場規模調査」により作成
2002年
1
2003年
2004年
このほかに、インターネット上で人材派遣や製品売買の仲介を行なうサービスや、株式な
どの金融商品をインターネット上で売買するオンライントレードなども、B to C の代表的
な例である。C to C 電子商取引は Web サイト上でオークションを行なうオンラインオーク
ションが代表的である。また近年のブログの急成長により、個人がブログ等のホームペー
ジを使って販売をするアフィリエイトと呼ばれるビジネスも登場し、これも C to C の一種
と言えるであろう。
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2、電子商取引=e コマースの拡大と巨大ビジネス
(1)B to C の拡大と e コマースビジネスの拡大
電子商取引、特に B to C の拡大はそのままショッピングモールを開設する e
コマースビジネスの拡大につながる。B to C は流通コスト、広告コストを削減
し、電子決済、電子マネーの普及などによって消費者にとっても支払いなどの
点で利便性が高い。消費者はバーチャル・ショッピングモールの Web ページか
ら目的とする店舗にアクセスし、そこのホームページで購入する「商品」を選
び注文し、代金の支払いのために必要な手続きをするのである。また、インタ
ーネット上の「出店」は、巨大な店舗も広告コストも不要であるため、中小企
業や地理的にハンディのある地方の企業がビジネス・チャンスを拡大する可能
性もあり、実際にも成功したケースは数多くある。
だが、B to C の拡大は出店企業の競争も激化させ、その中で企業が生き残る
ためには Web 上の新しい技術、新しいビジネスモデルへの対応が常に求められ
る2。これはコスト面まで含めて個別の企業には対応不可能なものであり、ただ
単にインターネット上にショッピングモールを開設するだけに止まらず、Web
ページの作成からマーケティング、さらには経営指導まで行う e コマースビジ
ネスの役割と市場を拡大させるのである。
(2)e コマースビジネス(アメリカ)
1995 年に投資銀行化だった Jeff Bezos (1964
−)によって創設されたアマゾン(amazon.com)
は書籍から始まったラインナップを CD・DVD、
家電製品、宝石、衣服、アクセサリと拡大し、また
斬新なビジネスモデルが評価され多額の赤字を IT
バブル全盛期(2000 年)には 100 ドルを超える株
価を記録し、IT バブル崩壊後(株価は一時 10 ドル
を割り込む)も 2003 年には赤字体質から脱却、欧州や日本に加え中国の卓越網
(joyo.com)を買収し、売上高でも 1 位を堅持している。
供給者と消費者のネットワーク取引においてロングテール現象(第9回参照
*小規模で多様に存在する需要が取引として実現すること)を実現しているの
である。また、アマゾンの成長の要因は扱う商品の拡大だけでなく、創立翌年
例えば特定の検索エンジン(アメリカでは Google、日本では Yahoo)を対象として検索
結果でより上位に現れるようにウェブページを書き換える検索エンジン最適化(SEO:
Search Engine Optimization)や、さらにこれを使って Web 上でいかに集客効果を上げる
かという検索エンジンマーケティング(SEM:Search Engine Marketing)は Web 上での
売上げ拡大には欠かせない。
2
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に開始したアソシエイツ制
度(Associate:インターネ
ット上の広告において,広告
主が広告掲載者に対して,売
上げに応じた手数料を支払
うシステム) 3 、や顧客を囲
い込むために始めた販促サービス(郵送料無料キャンペーンやプライム会員に
対する配送サービス)などである。
グーグル(Google)は 1998 年にスタンフォード大学の博士課程に在籍してい
た 2 人の学生、Lawrence Edward "Larry" Page(1973-)と Sergey Mikhailovich
Brin(1973-)によって 1998 年に創業された4。
今や時価総額が 10 兆円、売上高は 60 億ドル、
営業利益は 20 億ドル(2005 年 12 月期)、前
期の3倍強となる驚異的なスピードで成長し
ている。広告媒体として稼ぎまくると同時に
「グーグルアース」や「グーグルトーク」な
ど斬新なサービスを次々と輩出し、M&A(YouTube の買収など)によってコン
テンツ産業にもその範囲を拡大しつつある。
グーグルはインターネット上にある膨大
な情報を集積し、検索連動型広告サービスを
提供することによって巨額な広告収入を得
るシステムをつくりあげている5。
例えば、Yahoo!などの検索サイトでキーワード検索すると、「amazon.co.jp ○○を探す
代引無料国内配送料無料」というメッセージが表示され、これをクリックするとアマゾン
のウェブページが表示されると具合である。本が売れれば検索サイトは手数料をアマゾン
から受け取ることが出来る。これにより、アマゾンのウェブページへの入り口を多くする
ことが出来るのである。
4 Sun Microsystems の創業者である Andreas von Bechtolscheim(1956-)から 10 万ドル
の資金援助を受け、カリフォルニアのアパートで創業した。
5 その中心は Google アドセンス(クリック回数に応じて参加者に Google の売上げの一部
が報酬として支払われる)と Google アドワーズ広告(Google の検索結果や Google AdSense
を取り入れているサイト、また提携している複数のポータルサイトなどに、サイトの内容
に適した広告を自動的に配信し表示する)であり、Google の収入の大部分はこの広告収入
から成っている。そして Google メールによってサーバに蓄えられた利用者のメール本文か
らキーワードを抽出し、利用者に最適な広告を送るシステムを作り上げている。
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(3)e コマースビジネス(日本)
1997 年に銀行員だった三木谷浩史氏によって設立された
インターネットショッピングモール・楽天市場6は、出店者
にネットショッピングのインフラを提供しさらにネット
ビジネスのサポート行い、インターネットの専門的な知識
がなくても B to C を始められる事業としてスタートした7。
当初は月額 5 万円の出店料をウリに店舗数を拡大し8、
ライバルを引き離すと「固定出店料」と売上げに比例した「従量課金」の 2 本
立てにシフトし、収益を拡大していく。
e コマース以外でも検索サイトのインフォシークやライコスジャパンを次々
と買収、ネット上での認知度を高め、さらに J リーグやプロ野球事業への参入
(そして放送事業への進出)による社会的認知度の上昇が、新規出店の営業に
おいても大きな効果を生み出している。その結果、現在は「ネットショッピン
グの定番」としての地位を確立、e コマースの事業では売上高、営業利益とも全
社利益の 5 割を稼ぎ出し、他を圧倒している(e コマースをオークションを除く
ネットショッピングに限れば楽天の売上高は 208 億円で 2 位のヤフーは 88 億
円)。
一方、国内最強の検索サイトを持つヤフーはネット上での集客力を武器に広
告収入の他にオークションでの売上げを伸ばしている(ヤフーオークションは
208 億円の売上高で営業利益も 155 億円で同社の最大の収益源である)。また広
告での強みを活かしてアフィリエイト9にも進出している。
1997 年 5 月に楽天市場を立ち上げた時に出店者はわずか 13 社、全体の取扱高も月額 30
万円で、そのうち 20 万円ぐらいは実は社長自身が買って、社員が 5 万円ぐらい買っていた。
7 同社による RMS (Rakuten Merchant Server)システムの開発により、パソコンの基礎知
識と電子メールの使い方さえわかれば、簡単にショップページの開設ができるようになっ
た。さらに RMS は受注管理や顧客管理、電子メールの一斉送信までを網羅する画期的なシ
ステムで、楽天市場の成功は RMS の存在によるところが大きい。RMS システムの使用に
より、これまでショッピングモールヘの出店の障害となっていた「HTML や CGI、データ
ベースの知識がない」、「ネットワーク管埋者の人材がいない」、「特別なソフトウェアを待
っていない」、「情報を更新すると課金されてしまう」、「売上マージンがかかる」、「初期費
用がかかりすぎる」という要素をすべて解消し、担当者自身がページを制作・更新できるよ
うになった。初年度 5 万円ほどしかなかった売上は、たった1年の間に、契約ベースで店
舖数 370、全店舖の売上は 1 ヶ月で 1 億 2000∼3000 万円に達した。
8 97 年当時、大企業のオンライン・モールへの出店料は月額 30 万∼100 万であった。しか
し、楽天市場は月額5万円という破格の価格設定を行った。一定かつ少量の税を払えば誰
でも出店できた安土桃山時代の「楽市楽座」と全く同じ思想であり、これが楽天の「語源」
である。
9 成功報酬型広告またはアフィリエイト・プログラム(Affiliate Program)と呼ばれ、ある
広告媒体のウェブサイトに設置された広告によって Web サイトの閲覧者が広告主の商品・
サービス等を購入し、生じた利益に応じて広告媒体に成功報酬を与える一連の形態をさす。
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IT 革命と情報化社会
国内のこの 2 強に対して、ライブドアもプロ野球参入(失敗)や放送局買収
(和解)で知名度向上を図りながら 2004 年に事業開始したが、買収資金集めの
ために高株価を維持することを続ける経営は破綻した。
さらに通信販売ではノウハウや流通ルートを既に持っているカタログ通販な
どの事業者もネットへの進出を強めている。そして、携帯電話の普及とサービ
スの拡大・多様化によって携帯電話への e コマースは急成長分野である。これ
らの事業者の収益は物販ではなく着メロや・着うたなどのデータ販売が中心で
あり利益率が高いのが特徴である。ただし、携帯電話のコンテンツ市場は成長
分野であると同時に、技術革新、新たなビジネスモデルが常に登場する分野で
あり、競争も激しい。
3、電子商取引の拡大と情報化社会
電子商取引は生産者にとっては流通コスト、広告コストを削減し、電子決済、
電子マネーの普及などによって消費者にとっても支払いなどの点で利便性が高
い。また、インターネット上の「出店」は、巨大な店舗も広告コストも不要で
あるため、中小企業や地理的にハンディのある地方の企業がビジネス・チャン
スを拡大する可能性もあり、実際にも成功したケースは数多くある。
だが、電子商取引の拡大は出店企業の競争も激化させ、その中で企業が生き
残るためには Web 上の新しい技術、新しいビジネスモデルへの対応が常に求め
られる。また、消費者にとっても、コンピュータとインターネットが使いこな
せないと、必要な商品を購入できないことになる。
A.トフラー(第2回)が『第三の波』で描いた新しい生産方式「大量生産を
超えた注文生産」や、生産者と消費者の再融合、「生産消費者」(prosumer)の
登場、市場文明→超市場文明への移行という理想社会論と、現実の「情報化社
会」の実態について、次回以降より具体的に考えてみよう。
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