技術報告 免震層に大きな変形能力を付与した 免震建物の構造設計 Structural Design of Base Isolated Buildings with Large Deformation Capacity in Isolated Layer. 吉田 聡*1、軸丸 久司*2、西村京一郎*3、高達 暁子*4 1. はじめに 検討会において「あらゆる可能性を考慮した最大クラス 近年、南海トラフを震源とする巨大地震や、上町断層 の巨大な地震」について検討がなされており、国総研に 帯の地震に代表される内陸直下型地震など、建築基準法 おいても南海トラフを対象とした地震動について検討が で定める地震荷重のレベルを大きく超える地震動が予測 すすめられている。現状の設計用地震動としては、公表 されている。 されているパラメータをもとに各設計者がそれぞれの手 ここでは、建築基準法で定める地震荷重のレベルを大 きく超える地震動に対応するため、免震層に大きな変形 能力を付与した免震建物の構造設計事例を2例紹介す 法により算出している状況である。 2. 2 基 準法のレベルを超える設計用地震動に 対する免震建物の免震層変位 図2-1に、大震研上町断層波(指針が推奨する3Bレベ る。 ル)、および南海トラフを対象として作成した設計用地 2. 建築基準法のレベルを超える設計用地震動 震動に対する内部粘性減衰定数20%時における変位応 2. 1 設計用地震動の現状 答スペクトルを示す。いずれも大阪市北区周辺を想定し 大阪市周辺の免震建物に対し、建築基準法で定める地 震荷重のレベルを大きく超える地震としては、以下の2 た地震動波形であり、内部粘性減衰定数を20%としたの は免震建物の免震層最大変位を推定するためである。 図2-1によると、通常の免震建物がターゲットとする つの地震が代表的である。 ・上町断層帯の地震 固有周期帯(3 ~ 6秒程度)では、免震層の最大応答変 ・南海トラフを震源とする巨大地震 形は600 mmを超え、800mm超えにもなり得ることが 2つの地震のうち、上町断層帯の地震に関しては、大 分かる。 阪府域内陸直下型地震に対する建築設計用地震動および 大震研指針では、このような免震層の大きな変形に対 設計法に関する研究会(以下、大震研)より2011年7月 し、擁壁への衝突を考慮した設計や、積層ゴム破断時の に発表された「大阪府域内陸直下型地震に対する建築設 フェイルセーフを考慮した設計が示されている。 計用地震動および耐震設計指針(その1 上町断層帯地 図2-1から、通常の免震建物の固有周期帯においては、 震に対する大阪市域編) 」 (以下、大震研指針)として設 南海トラフ地震、上町断層地震ともに免震層の応答変位 計用地震動および耐震設計法が示されている 。 は、概ね固有周期と応答変位が比例関係にある。しかし 1) 一方、南海トラフを震源とする巨大地震に対しては、 ながら、上町断層帯のパルスタイプ(長周期パルス波2) 内閣府に南海トラフの巨大地震に関する協議会、検討 が卓越する地震動によるもので、代表的な地震動波形を 会、ワーキンググループ等が設置され、巨大地震モデル 図2-2に示す)においては、パルス周期近傍より長周期 *1 YOSHIDA Satoshi:株式会社日建設計 構造設計部門 主管 *2 JIKUMARU Hisashi:株式会社日建設計 構造設計部門 主管 *3 NISHIMURA Kyoichirou:株式会社日建設計 構造設計部門 *4 TAKADACHI Akiko :株式会社日建設計 構造設計部門 4 GBRC Vol.39 No.2 2014.4 側において大きな変形が生じる場合があり、図2-1では 免震周期4 ~ 5秒で700 ~ 800mm程度の変形となる。 いずれにしても免震周期を4 ~ 6秒程度と設定した場 なお、いずれの建物も、上町断層帯の地震および南海 トラフの地震は、レベル2を超える地震動として余裕度 の確認を行うレベルとして扱っている。 合の免震層の最大変形は800mm程度と推定され、この 大変形にいかに対応するかが設計上の課題となる。 表3-1 免震建物事例2例の免震部分の概要 ච㟈 ච 㒊ᮦ 㒊 ᵓ㐀 ᵓ 㸯 ኳ↛ ↛㺘㺼㺯⣔✚ᒙ㺘㺼㺯㺯 (ᚄ 1200ȭS2=5) ┤ື ື㌿ࡀࡾᨭᢎ ᙎᛶ ᛶࡍࡾᨭᢎ 㗰 㗰ᮦࢲࣥࣃ࣮ ࢜ ࣝࢲࣥࣃ࣮ (1)㟈◊ୖ⏫᩿ᒙ ᒙἼ(A3 ࢰ࣮ࣥ ࣞ࣋ࣝ 3B) ✚ᒙࢦ࣒ 㖄ධࡾ✚ ኳ↛㺘㺼㺯⣔ ⣔✚ᒙ㺘㺼㺯 (ᚄ 1100 0ȭS2=5) ᙎᛶࡍ ࡾᨭᢎ ࢜ࣝࢲ ࢲࣥࣃ࣮ ᇶ♏ච㟈 㐀 S 㐀⪏㟈ࣈ࣮ࣞࢫ ᇶ♏ච㟈 S 㐀⪏㟈ࣈ࣮ࣞࢫ RC,SRC 㐀⪏㟈ቨ 㐀 Tf=7.4s Įy=4.4% Tf=5 5.2s Įy=4 4.8% 850mm ௨ୖ 800mm m ௨ୖ 9600mm(400%ṍ) 880mm(4 400%ṍ) 850mm ௨ୖ 800mm m ௨ୖ * ච㟈ᒙ ච ᇶᮏ ᮏ≉ᛶ 㺖㺶㺏㺵㺻㺛 ✚ᒙ ᒙ㺘㺼㺯 ◚᩿ ᩿ኚ ච㟈 㟈㒊ᮦ 㝈⏺ ⏺ኚᙧ 㸰 *ච㟈 㟈ᒙᇶᮏ≉ᛶ㹒f㸸✚ᒙࢦ࣒ࡢࡳ ࡳࡼࡿᅛ᭷࿘ᮇ ᮇ అ⪏ຊࡢᘓ≀㔜㔞 㔞ᑐࡍࡿẚ Șy㸸ࢲࣥࣃ࣮㝆అ 3. 2 堺市に建つ病院の構造設計事例 -超長周期で大きな変形能力をもつ免震建物- 3. 2. 1 建物概要 建物名称:(仮称)堺市総合医療センター・救命救急 センター ᾏࢺࣛࣇᑐ㇟᪥ᘓ ᘓタィసᡂ 㜰ᕷ༊ᐃ) (2)༡ᾏ 図2-1 h=20%時の変位応答スペクトル 主 用 途:病院・診療所 建 築 主:地方独立行政法人 堺市立病院機構 設計監理:日建・岸本建築設計共同体 施 工:大林組・堺土建・東陽電気商会 建設工事共同企業体 建設場所:大阪府堺市西区津久野町他 10 20 30 40 45 Time in Seec 50 B2EW2 Ἴ(ࣃࣝ ࣝࢫࢱࣉࡢ୍) 図2-2 大震研上町断層波(A3ゾーンレベル3B) 階 数:地上9階、地下1階、塔屋1階 延床面積:約41000m2(免震建物部分のみ) 高 さ:約41m 構 造:鉄骨造、基礎免震 3. 構造設計事例 3. 1 計事例の概要 以下の表3-1に本稿で紹介する免震建物2例について、 本建物は堺市の基幹病院である市立堺病院の移転・新 築計画に基づき計画された建物である。救命救急セン 主として免震部分の概要をまとめて示す。2例ともに大 ターを整備することで、災害拠点病院として救急・災害 震研3B波に対して擁壁に衝突させない設計を行ったも 医療から地域医療まで広範囲の役割を担う医療施設であ ので、800mm以上の変形能力を有する所に特徴がある。 る。 南海トラフの地震に対しては、伊予灘を含まない東海・ 東南海・南海の3連動地震を対象としている。 図3-2-1に外観パースを、図3-2-2に建物の断面構成を、 図3-2-3に基準階平面図を示す。 5 GBRC Vol.39 No.2 2014.4 断面構成としては、B1 ~ 2階の低層部に外来や救急・ サービス部門を、3階に手術部門を、4階には管理部門、 5 ~ 9階には病棟を配置し、屋上には場外離発着場(ヘ リポート)を配置している。 図3-2-4 架構断面図(南北断面) 図3-2-1 外観パース 図3-2-2 建物断面構成 図3-2-5 架構断面図(東西断面) 図3-2-3 基準階平面図(7~9階) 図3-2-6 基準階床梁伏図 3. 2. 2 構造計画概要 本建物は、災害拠点病院として高い耐震性を確保する 本建物の架構断面図を図3-2-4、図3-2-5に示す。 ために免震構造を採用している。基本設計の初期段階が 上部構造の構造計画は、大きな免震層の変形能力を確 大震研の指針の発表時期と重なったこと、耐震性に優れ 保することを優先した計画としている。具体的には、上 た病院としたい建築主の意向と合致したことから、大震 部構造を鉄骨造とし、柱スパンをできるだけ大きくとる 研3B波(指針が推奨するレベル)を検討用地震波とし ことで免震支承数を減らし、各免震支承材に大きな軸力 て採用することとした。 を集める計画としている。 6 GBRC Vol.39 No.2 2014.4 上部構造は柱に冷間成形角形鋼管、梁にH形鋼を使用 を長周期化するため、変動軸力が小さい部分には弾性す したラーメン架構を基本とし、建物中央のコア部および べり支承を使用し、外周部で軸力の小さい部分には直動 外周部に設けた耐震ブレースまたは耐震間柱にて水平剛 転がり支承を使用している。これらの支承計画により、 性を補う計画としている。免震層直上のB1階床梁は鉄 積層ゴムのみによる固有周期はT f=7.4秒と、一般的な免 骨鉄筋コンクリート造とし、免震層下部の基礎梁は鉄筋 震建物の固有周期に対して大幅な長周期化を実現してい コンクリート造としている。図3-2-6に基準階伏図を、 る。 表3-2-1に主要部材断面寸法を示す。 大幅な長周期化を指向する理由としては、一般的な固 有周期の場合には、上町断層帯地震に対応するために大 表3-2-1 主要部材断面寸法 㒊 ᩿㠃㗰ᮦ✀) ᰕ෭㛫ᡂᙧゅᙧ᩿㠃) ڧ-600×600×28㹼45%CP325) ᰕᙧ㗰⟶᩿㠃 600ȭ2㹼0STKN490% ᱱపᒙ) ᱱᲷ㝵) ࣈ࣮ࣞࢫ H-900×300×16×22 㹼 H-900×350×19×366N490%) H-600×300×12×19 㹼 H-600×300×16×326N490%) WH-300×250×16×19㸪 WH-350×300×22×226N490%) きなダンパー耐力が必要となり、その結果、レベル2時 にダンパー過多となり、応答加速度や応答層せん断力が 悪化するためである。 超長周期化のターゲットは、地震基盤から表層までの 卓越周期が6秒前後であることから、共振を防ぐ意味で 地盤の卓越周期を上回る周期として設定している。これ により、レベル2地震に対する応答を大幅に改善するこ とができている。 ダンパーは、風荷重に対してトリガーの役割を果たす 基礎構造は杭基礎とし、杭は1柱1杭の場所打ちコン クリート拡底杭としている。杭の支持層はGL-30 ~ 鋼材ダンパーと、粘性体により地震時の揺れに対する大 きな減衰効果を発揮するオイルダンパーを併用している。 35m付近の洪積互層としている。 免震部材の配置図を図3-2-7に示す。免震部材は、支 承材としては天然ゴム系積層ゴムアイソレータ、直動転 がり支承、弾性すべり支承を使用し、ダンパーは鋼材ダ ンパーとオイルダンパーを使用している。 (a)ࣜࢽᆺ (b)ࣂࣜࢽᆺ 図3-2-8 オイルダンパーの速度-減衰力関係 オイルダンパーは、図3-2-8に示す速度-減衰力関係 がリニア型のものとバイリニア型のものを併用してい る。通常の免震建物ではバイリニア型が用いられること が多いが、本建物ではレベル2地震に対して100%の減 衰力を発揮しないリニア型を併用して配置することで、 レベル2地震時、レベル2を超える地震時のそれぞれに 図3-2-7 免震部材配置図 最適なダンパー量となるよう調整している。 鋼材ダンパー、弾性すべり支承の降伏耐力にオイルダ 予備応答解析の結果、免震層の最大変形は大震研上町 ンパーの最大減衰力を足したダンパー降伏耐力は、免震 断層波(3Bレベル)に対して800mmを超えることが想 層が支える重量に対して4.4%としている。 定されるため、免震層には850mm以上の変形能力を確 3. 2. 3 極大地震への対応方針の建築主との協議 保する計画としている。変形能力の確保のため、積層ゴ 大震研の上町断層帯地震に対応する方針については、 ムの径は全て1200φ(S2=5)とすることで破断変位 図3-2-9に示す説明資料により建築主と協議した。本敷 960mm(400%歪)以上を確保している。また固有周期 地は堺市内にあるため、大震研指針が対象とする大阪市 7 GBRC Vol.39 No.2 2014.4 表3-2-2 耐震設計クライテリア 域からは南側にやや外れるものの、敷地は大阪市域の D6ゾーンに含まれており、大震研指針の地震波がその まま使用できると判断している。 説明資料の内容としては、「大震研とは」に始まり、 上町断層帯地震の概略とこれまでの研究成果、大震研指 針の概要等を記述している。レベル3Aへの対応であれ ばこれまでの設計手法が踏襲できるが、3Bへの対応を 行う場合は、免震層に通常よりも一段高い安全性の確保 (積層ゴムの径のアップ、ダンパー量の増)が必要であ る旨を記述している。 懸念される様々な地震動に対する検討を多角的に行 い、高い耐震性能を確保した建物であることを市民にア ピールしたい建築主の意向とも合致したため、レベル 3Bへの対応を行うことで合意した。 ᆅ㟈つᶍ ᑐ㇟ᆅ㟈Ἴ ୖ 㒊 ᵓ 㐀 ච 㟈 ᒙ ᇶ ♏ 㒊ᮦ ᛂຊ ᒙ㛫 ኚᙧ ኚᙧ 㺸㺫㺼㺷 ኚᙧ 㔞 㒊ᮦ ᛂຊ ᨭᣢ ຊ ࣞ࣋ࣝ 1,2 ࿌♧Ἴ ほ Ἴ ࢧࢺἼ ▷ᮇチᐜ ᛂຊᗘ௨ୗ ࣞ࣋ࣝ 2 ㉸ͤ1 ࿌♧Ἴ1.9 ಸ 3 㐃ືᆅ㟈 ୖ⏫ 3B Ἴ ᙎᛶ㝈 ⪏ຊ௨ୗ 1/200 ௨ୗ 1/200 ௨ୗ Ᏻᐃኚᙧ ௨ୗ ࢡࣜࣛࣥࢫ ௨ୗ 500mm ௨ୗ 850mm ௨ୗ ▷ᮇチᐜ ᛂຊᗘ௨ୗ ▷ᮇチᐜ ᨭᣢຊ௨ୗ ̿̿ͤ2 ̿̿ͤ2 ͤ1 ࣞ࣋ࣝ 2 ㉸࠼ࡣᛂ⟅ゎᯒ⤖ᯝࢆ♧ࡍ ͤ2 వ⿱ᗘ᳨ウࡢࡓࡵ☜ㄆࡋ࡚࠸࡞࠸ なお、本合意内容に基づいて作成した基本設計書は、 堺市民病院のWEBページ上に公開され3)、法の想定規 各層最大層間変形角を示す。 模を上回る上町断層帯地震に対する対応を行うこと、上 免震層の最大変形は840mmとなり、クリアランス以 町断層帯地震としては、大震研のレベル3B波を採用す 下となっている。応答層せん断力は弾性限耐力以下、層 ることなどが情報公開されている。 間変形角は1/200以下となっている。 図3-2-9 大震研上町断層帯地震の説明資料(イメージ) 3. 2. 4 設計クライテリア 図3-2-10 大震研3B波に対する応答最大層せん断力 本建物の設計クライテリアを採用地震波とともに表 3-2-2に示す。 レベル1,2に対して上部・基礎構造の各部を短期許容 応力度以下とし、レベル2を超える地震動として設定す る3地震波に対しては弾性限耐力以下と設定している。 免震層の変形は、レベル2に対して積層ゴムの安定変形 である500mm以下、レベル2を超える3地震波に対して 免震層のクリアランスである850mm以下としている。 3. 2. 5 レベル2を超える地震波に対する応答解析結果 レベル2を超える地震動のうち、大震研上町断層波に 対する応答解析結果の一例として、図3-2-10に応答層せ ん断力を、図3-2-11に各層最大層間変形を、図3-2-12に 8 図3-2-11 大震研3B波に対する応答最大層間変形 GBRC Vol.39 No.2 2014.4 境配慮・省エネ」に重点を置いた計画としている。免震 構造の採用や非常用発電機の増強、大容量オイルタンク や断水時にも利用可能なトイレを備えるなど、高い防災 機能を有するビルとして計画している。 3. 3. 2 構造計画概要 本建物は事業継続性(BCP)に優れたテナントオフィ スというコンセプトで計画され、高い耐震性能を付与す るために、免震構造を採用している。前項の事例と同様 に、免震化を検討する段階が、大震研指針の発表時期と 図3-2-12 大震研3B波に対する応答最大層間変形角 3. 3 大阪市に建つ事務所ビルの構造設計事例 -既存躯体の中で大きな変形能力を確保した免震建物- 3. 3. 1 建物概要 建物名称:淀屋橋ミッドキューブ 主 用 途:事務所 建 築 主:株式会社住友倉庫 設計監理:株式会社日建設計 施 工:鹿島建設株式会社 建設場所:大阪市中央区北浜 階 数:地上10階、地下1階、塔屋1階 延床面積:約12000m2 高 さ:約47m 構 造:鉄骨造・鉄筋コンクリート造、基礎免震 本建物は近代建築が点在し、大阪市役所や大手金融機 関なども立地する淀屋橋地区に建設される事務所ビルで ある。外観は、重厚な建物が集積する地区にふさわしい 図3-3-1 外観パース 品格をそなえながら、集約した柱型とオフィスフロアの 特徴が現れたコーナー部の表情によって、街角の景観を 印象的なものとすることを意図して計画している。図 3-3-1に外観パースを示す。 基準階は、北・西・南に開口部を持つ一辺30mの正方 形状の無柱空間とし、開口部は床から天井までの2.9m ົᐊ 高さのフルハイトサッシュ、外周部の柱も集約配置する ことで開放感があり、明るいオフィススペースを実現し ている。 主な建物構成としては地下1階に駐車場を、1階にオ フィスエントランス・店舗を、2階~ 10階に基準階オ フ ィ ス を 配 し て い る。図3-3-2に 基 準 階 平 面 図を、図 3-3-3に断面図を示す。 本建物は「ゆとりあるオフィス」「防災機能強化」「環 図3-3-2 基準階平面図 9 GBRC Vol.39 No.2 2014.4 を細径500φの円形鋼管柱とすることで、建築計画と合 致した明るく開放的なオフィス空間に寄与している。 基礎構造は直接基礎(べた基礎)とし、厚さ850およ Ҹm び1650mmのマットスラブにより建物を支持している。 ົᐊ ㈚ᐊ 㥔㌴ሙ 図3-3-3 建物断面図(東西断面) 重なったこと、将来に渡って高い耐震性を維持したい建 築主の意向から、大震研3B波(指針が推奨するレベル) を検討用地震波として採用することとしている。 本建物の架構断面図を図3-3-4、図3-3-5に示す。主要 図3-3-4 架構断面図(1通り) な部材断面寸法と鋼材種を表3-3-1に示す。 表3-3-1 主要部材断面寸法 㒊 ᩿㠃㗰ᮦ✀) ᰕ⁐᥋⟽ᙧ᩿㠃) BX-750×750×25㹼606N490C) ᰕᙧ㗰⟶᩿㠃) ᱱእ࿘) ᱱ᱁Ꮚᱱ) ࣈ࣮ࣞࢫ 500ȭ2㹼06TKN490B) H-800×14×22 㹼 H-800×16×66N490B) WH-950×450×16×2 㹼 WH-950×500×16×406N490B) WH-5000×19×19㸪 WH-0000×25×256N490B) ڧ-00×00×㸪 ڧ500×9BCR295) 免震層上部は、地下階を鉄筋コンクリート造および鉄 骨鉄筋コンクリート造で耐震壁付きラーメン架構とし、 1階より上部を鉄骨造の耐震ブレース付きラーメン架構 としている。図3-3-6に示す基準階伏図のように、コア 側を除く建物外周の3辺中央部に750×750mmの箱形断 面を有する2本の組柱を配し、950mmせいの2組の格子 梁によりオフィス内部を無柱空間としているところに特 徴がある。組柱は石貼りの外装に包まれ、外周4隅の柱 10 図3-3-5 架構断面図(B,C通り) GBRC Vol.39 No.2 2014.4 ኵ௵ 500 ኬ௵ 㖄ධࡾ✚ᒙࢦ࣒(110ȭ0 ᇶ) 図3-3-6 基準階伏図 ኳ↛ࢦ࣒⣔✚ᒙࢦ࣒(1ȭ3 ᇶ マットスラブとしたのは、既存建物の最下階床を残置 ᙎᛶࡍࡾᨭᢎ㹼7ڧ8 ᇶ し、また既存建物外壁の中に免震層をおさめるために、 ࢜ࣝࢲࣥࣃ࣮6 ᇶ) できるだけ薄い基礎スラブとするためである。 図3-3-7 免震部材配置図 上部構造を鉄骨造とする等の軽量化により、既存躯体 基礎スラブ下部に作用する接地圧は、解体前よりも小さ くなることを確認している。 震構造に変更した。 敷地内には、ほぼ敷地一杯に拡がる既存建物の地下部 免震部材の配置図を図3-3-7に示す。免震部材は、支 分を残しており、免震化の検討においても既存躯体を残 承材として鉛入り積層ゴム、天然ゴム系積層ゴムおよび 置しつつ大きな変形能力を確保する計画としている。免 弾性すべり支承を、ダンパーは、オイルダンパーおよび 震化に伴う検討の経緯を以下に示す。 鉛入り積層ゴム内に封入された鉛を使用している。 耐震構造における地下部周辺の断面図を図3-3-8に示 予備応答解析の結果、免震層の最大変形は上町断層帯 す。耐震構造においては、既存建物の最下階床スラブと 地震に対して800mm弱となるため、免震層には800mm 地下外壁はすべて残置し、埋戻し土(コンクリートまた 以上の変形能力を確保する計画とした。変形能力の確保 は高規格流動化処理土)の重量により施工中の浮上りを のために積層ゴムの径はすべて1100φ(S2=5)とする 防止する計画としていた。 ことで破断変位880mm(400%歪)以上を確保してい る。また固有周期を長周期化するため、軸力が小さい部 分の支承は弾性すべり支承としている。 積層ゴムのみによる固有周期はTf=5.2秒としている。 オイルダンパーは、前項の図3-2-8に示す速度-減衰力 関係がリニア型のもののみを使用している。これはレベ ル2地震時にオイルダンパーが最大減衰力に達しないこ とでレベル2に対するダンパー量が過大になることを防 ぐためである。 図3-3-8 耐震構造建物としての東西断面図 大震研上町断層波に対する応答変形を800mm以下と するため、弾性すべり支承や鉛の降伏耐力とオイルダン 既存建物の制約の中で免震化による影響が最も少ない パーの最大減衰力を足したダンパー降伏耐力は、地震時 計画としては、地下1階の柱頭位置にて免震化すること 重量の4.8%と一般的な免震建物よりもやや多めとして であった。地下1階柱頭免震とした場合の断面図を図 いる。 3-3-9に示す。 3. 3. 3 既存躯体の制約の中での免震化の検討 本建物は、当初耐震構造で計画を行い、設計途中に免 地下1階柱頭免震とした場合の問題点としては、近年、 年に一度程度の割合で頻発する内水氾濫への対処であ 11 GBRC Vol.39 No.2 2014.4 ᪤タᘓ ᘓ≀ ᪂ ᪂⠏ᘓ≀ 図3-3-9 地下1階柱頭免震とした場合の東西断面図 る。大きな変形に対応したエキスパンションジョイント を使用し、内水氾濫時に地下階への水の侵入を防ぐこと は現状の技術では難しく、結果として図3-3-10に示す基 ᪤Ꮡ Ꮡᘓ≀ᒣ␃ቨ㸦ᆅ ᆅ୰㐃ቨ㸧 礎免震を採用することとなった。 図3-3-11 基礎免震の場合の既存躯体関係図 図3-3-10に示す通り、地下1階下部にある機械式駐車 を二段から一段に変更した上で範囲を拡げ、基礎スラブ 厚さをマットスラブの採用で極力薄くすることにより、 表3-3-2 耐震設計クライテリア 耐震構造とほぼ同様の断面構成でかつ既存躯体内での基 ᆅ㟈つᶍ ᶍ 礎免震構造を実現できた。 ᑐ㇟ᆅ㟈Ἴ ୖ 㒊 ᵓ 㐀 ච 㟈 ᒙ ᇶ ♏ 図3-3-10 基礎免震とした場合の東西断面図 㒊ᮦ ᛂຊ ᒙ㛫 ኚᙧ ኚᙧ 㺸㺫㺼㺷 ኚᙧ 㔞 㒊ᮦ ᛂຊ ᨭᣢ ຊ ࣞ࣋ ࣋ࣝ 1,2 ࿌ ࿌♧Ἴ ほ ほ Ἴ ࢧࢺἼ(L2) ▷ ▷ᮇチᐜ ᛂຊ ຊᗘ௨ୗ ࣞ࣋ࣝ 2 ㉸ͤ1 ࿌ ࿌♧Ἴ1.9 ಸ 3 㐃ືᆅ㟈 ୖ⏫ 3B Ἴ ᙎᛶ㝈 ⪏ຊ௨ୗ 1/2200 ௨ୗ 1/180 ⛬ᗘ Ᏻᐃኚᙧ Ᏻ ௨ୗ ࢡࣜࣛࣥࢫ ௨ୗ 450m mm ௨ୗ 800mm ௨ୗ ▷ ▷ᮇチᐜ ᛂຊ ຊᗘ௨ୗ ▷ ▷ᮇチᐜ ᨭᣢ ᣢຊ௨ୗ ̿̿ͤ2 ̿̿ͤ2 ͤ1 ࣞ࣋ࣝ 2 ㉸࠼ ࠼ࡣᛂ⟅ゎᯒ⤖ᯝࢆ ࢆ♧ࡍ ͤ2 వ⿱ᗘ᳨ウࡢ ࡢࡓࡵ☜ㄆࡋ࡚࠸࡞ ࡞࠸ 基礎免震案における既存建物と新築建物との平面的な 位置関係を図3-3-11に示す。 南側では既存地下外壁を撤去する必要があるが、既存 躯体外部には、既存建物建設時の山留め壁として鉄筋コ 450mm以下、レベル2超える3地震波に対して免震層の クリアランスである800mm以下としている。 3. 3. 5 地震応答解析結果概要 ンクリート地中連壁があることが当時の建設記録および 大震研上町断層波に対する応答解析結果の一例とし 地盤調査の結果分かっており、当該部分の既存建物地下 て、図3-3-12に応答層せん断力を、図3-3-13に各層最大 外壁を撤去することは可能と判断した。 層間変形を、図3-3-14に各層最大層間変形角の逆数を示 3. 3. 4 設計クライテリア す。 本建物の設計クライテリアを採用地震波とともに表 免震層の最大変形は789mmとなり、クリアランス以 3-3-2に示す。レベル1,2に対して各部を短期許容応力度 下となっている。その他、応答層せん断力は弾性限耐力 以下に、レベル2を超える地震動として設定する3地震 以下、各層の最大層間変形角は1/180程度となっている。 波に対して弾性限耐力以下に設定している。免震層の変 形 は、 レ ベ ル2に 対 し て 積 層 ゴ ム の 安 定 変 形 で あ る 12 GBRC Vol.39 No.2 2014.4 きな変形能力を有する免震建物の事例が今後増えていく と考えている。 【参考文献】 1)J SCA大震研:大阪府域内陸直下型地震に対する建築設計用 地震動および耐震設計指針(その1 上町断層帯地震に対 する大阪市域編),2011.7 2)日本建築学会近畿支部耐震構造部会:シンポジウム「上町 断層帯による想定地震動に対する耐震設計を考える」資料, 長周期パルス波が卓越する条件,PP.1 ~ 6,2009.1 図3-3-12 大震研3B波に対する応答最大層せん断力 3)堺市病院機構WEBページ:新病院基本設計図書(PDFファ イル) http://www.sakai-city-hospital.jp/sakaicho/construct/ kihonsekkeitosho120120.pdf,P016,2011.12 【執筆者】 *1 吉田 聡 (YOSHIDA Satoshi) *2 軸丸 久司 *3 西村 京一郎 (JIKUMARU Hisashi) (NISHIMURA Kyoichirou) 図3-3-13 大震研3B波に対する応答最大層間変形 *4 高達 暁子 (TAKADACHI Akiko) 図3-3-14 大震研3B波に対する応答最大層間変形角の逆数 4. おわりに 建築基準法で定める地震荷重のレベルを大きく超える 地震、特に大震研上町断層波に対応するため、免震層に 大きな変形能力を付与した免震建物事例2件を紹介し た。 社会の防災意識の高まりとともに、本事例のような大 13
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