05-01011 携帯コンテンツ・ビジネスの進化とイノベーションの実証的研究 小 見 志 郎 1 県立広島大学経営情報学部教授 研究の目的と対象領域 1-1 研究の目的 携帯電話の普及に伴い,新しい技術やサービスが次々に生み出されている。とりわけ,iモードなどを活 用した携帯コンテンツ・サービスの成長は目覚しい。ショッピング,遊び・レジャー、交通旅行,金融,く らし情報など,日常生活に欠かせない情報コミュニケーション手段として定着してきている。 本研究は,iモードを活用した携帯コンテンツをサービス提供するビジネス(携帯コンテンツ・ビジネス) のiモード開始以降のビジネス動態を時系列的に分析し,ビジネスモデルの進化過程を解析し,そこにおけ るイノベーション・システムを明らかにすることを目的としている。携帯電話関連のコンテンツ・ビジネス の進化は日本特有のものであり,その研究は,今後とも成長が期待されるコンテンツ・ビジネスの支援や政 策立案に欠かせないものと考える。 1-2 ケータイ・コンテンツ市場の特殊性と研究対象領域 携帯電話の普及の早い段階からiモードの投入により,ケータイ・コンテンツ市場は拡大を早めてきた。 しかしながら,その市場の実態は全貌が把握しにくい状況にある。その主要な要因は,通信キャリアの事業 戦略に大きく依存した構造になっているからであるとともに,携帯端末の機種によってコンテンツへのアク セスが制約されるからでもある。とりわけ,日本のケータイ・コンテンツ市場は次のような特殊性を有して いる。 ① 通信キャリアによって仕様や提供方式が異なり,ケータイ・コンテンツ市場そのものの全貌が把握し にくい ② 携帯端末の世代ばかりか機種変更のスピードが速く,コンテンツへのアクセスに制約がある(端末を 買い替えてはじめてサービスが享受できる) ③ 公式メニュー・サイトが優先で市場競争に一定の制約がある ④ 通信キャリアの事業戦略の変更に左右され,コンテンツ事業の構造変化が著しい このようなケータイ・コンテンツ市場の特殊性のもとで,コンテンツ市場の構造を把握するためには,ケ ータイ・コンテンツ市場をリードしてきたNTTドコモのiモード・コンテンツ・サイトを研究対象領域と することが最も全体の構造を反映しうると考える。 本研究は, 1999 年 3・4 月号を初版とする「iモードメニューブック」(NTTドコモ)の経年的な収 集と活用をもととしている。iモードの事業開始以降のコンテンツ・サイトを時系列的に整理し,サイト名, サービス提供企業等をもととしたデータベースを構築した。このデータベースから,コンテンツの変遷と広 がりを分析することで,ケータイ・コンテンツ市場の構造を把握した。ただし,iモードメニューブックは 2005 年 5 月号(地方版)で最終的に公表されていないので,研究対象期間もこの範囲である。また,コン テンツ毎のアクセス状況や課金回収状況等も公表されていないので,市場の数量的な分析は不可能であるが, サイトの広がり・拡大は市場の成長を反映するとみられることから,コンテンツ市場の構造は把握可能であ ると考えた。 2 iモード・サイト数の推移とコンテンツ市場のビジネス類型 2-1iモード開始以降のコンテンツ・サイト数の推移 コンテンツ・サイトの推移をみると,数値が公表されている 2001 年以降でみると,公式サイトでは,2001 年 1,700 サイト(mova)が 2003 年に倍増の 3,532 サイト,2006 年に 5,043 サイトになっている(FOMA 対応 では 2006 年 6,028 サイト)。わずか 6 年で約 3 倍のサイトが市場に参入したことになる。 これに対し,一般サイトは,2001 年の 41,790 サイトから 2006 年 93,507 サイトと 2.2 倍になっている。 実に公式サイトの約 20 倍から 25 倍のサイトが存在することになる。 88 このサイトの伸びとiモード契約数とを 比較すると,2001 年 2,300 万契約から 2006 図表1 コンテンツ・サイト数の変化 年に 2 倍の 4,636 万契約になっていること から,一般サイトの伸びと同じ程度に増加 (サイト数) (千契約) 120000 50000 していることが確認できる。 45000 したがって,コンテンツ・サイトの市場 100000 40000 iモード契約数 拡大とともに,iモードを利用する層も伸 35000 80000 びたといえることから,ケータイ・コンテ 30000 ンツ市場は,iモード対応の携帯電話の普 60000 25000 一般サイト 及とともに増勢しているといえる。 20000 iモード開始の 1999 年には,本研究では 40000 15000 77 サイトが確認され,iモード契約数は 4 10000 20000 万 8 千契約であった。2000 年は同じく 284 iモードメニューサイト 5000 サイト,560 万 3 千契約であり,いずれも 0 0 対数的な伸びがみられたことになる。 典 2001 2002 2003 2004 2005 2006 (年) 型的な S 字カーブを描いてケータイ・コン テンツ市場の普及が進展している。 2-2 コンテンツ市場のビジネス特性 コンテンツ市場の構造を把握するために,まずそのビジネス特性をみると,つぎのような特性がある。 ①ポータビリティ性 いつでもどこへでも持ち運びができるというポータビリティ性は,アクセスの容易性などユビキタスな 状況を創り出す。交通機関の予約でみると,航空券はパソコンで予約する行動が多く,新幹線は運行本数 が多いのでケータイから移動時に予約するというライフスタイルが定着している。 ②リアルタイム性 リアルタイムで情報を配信することができる。株価情報や天気予報などでは,ケータイで情報収集する 割合が高いといわれている。iモード開始時から参入した波情報はサーフィン愛好者の必須の情報源にな っている。リアルタイムが要求されるオークションでもケータイが競争力のあるツールとなっている。 ③ユーザー認証性 携帯電話保持者のユーザー認証がID,パスワードとともに情報の完全性を付与するところとなってい る。これによって子供でも認証することができ,キッズケータイ等の普及にもつながっている。 ④決済利便性 通信キャリアの課金回収代行サービスによって,公式コンテンツの利用料の決済が利便に行われている。 しかも確実に 100 円,300 円という少額決済が完結するというところが特色である。これによって待受画 像のサイトの運営が急速に拡大した。 2-3 コンテンツの特性を反映したビジネス類型 総務省は「モバイルコンテンツの産業構造実態に関する調査報告」 (平成 18 年 7 月 1 日)で,モバイルビ ジネスは,モバイルコンテンツとモバイルコマースからなると定義している。モバイルコンテンツは,着信 メロディ系,着うた系,モバイルゲーム,静止画(待ち受け画像,グラビア等) ,動画,占い等その他モバイ ルコンテンツに区分している。着メロ,着うた,ゲームがモバイルコンテンツの主流と位置付けている。次 いで,モバイルコマースを,物販系(通販) ,興行チケット,旅行宿泊予約,航空券,鉄道(JR)のサービ ス系,証券取引,オークション,公営競技のトランザクション系の物販,サービス,トランザクションの3 区分である。 (モバイルビジネス市場は 7,224 億円で,モバイルコンテンツ 3,150 億円,モバイルコマース 4,074 億円と推計している。) 本研究では,モバイルコンテンツ,モバイルコマースの区分を活用するが,その内容については一括りに はできないところが多いので,次のような区分にする。 (1)モバイルコンテンツ ①コンテンツ配信型 モバイルバンキング,証券取引をはじめとする金融サービス,ニュース,辞書など便利ツール,グル メなどタウン情報,占い,エンターテイメント,旅行・交通情報といった情報配信を中心とするサイト である。TV情報などから電子図書,スポーツなどエンターテイメントは分類の幅が広いが,コンテン ツ配信とした。 89 ②コンテンツ・ダウンロード型 着メロ,着うたの音楽,待受け画像,ゲームのコンテンツをケータイにダウンロードするサービスで ある。 (2)モバイルコマース ①物販 ②チケット 3 iモード開始以降のコンテンツ・サイトの構造分析 3-1iモード・コンテンツのジャンルと変遷 1999 年のiモード開始以降のコンテンツ市場の構造を分析するうえで,コンテンツ・ジャンルの変化を概 観する。コンテンツ・ジャンルは,当初金融サービス分野で細かくなっているように当分野での活用に期待 があったとみられる。モバイルバンキング,カード,モバイルトレード,生命保険である。タウン情報も街 の中でのグルメ,タウン情報の検索が拡大していった。旅行・交通分野もエアライン情報がひとつのジャン ルにあげられるようにコンテンツへのアクセスが大きいと期待されたジャンルであった。 コンテンツのダウンロード型では,2001 年以降にジャンルが設定されている。音楽関連,ゲームなどであ る。ショッピング関連も当初はチケットに期待があったようである。その後ファッション・コスメのジャン ルが登場している。同じく英語メニューも 2004 年以降に加わったジャンルである。 3-2 コンテンツ・サイトの構造実態 「iモードメニューブック」をもとに,携帯iモードの事業開始以降のサービス提供されたコンテンツ・ サイトをデータベースとして整理し,動態的な分析を行った。ケータイ・コンテンツ市場の構造を明らかに するためである。iモードメニューブックに記載されたサイトを時系列的に整理し,サイト数をカウントし たものである。 1999 年のサイト数は 77 サイトであり,毎年増加し,2005 年には 2,365 サイトになっている。ただし,公 表されている公式サイト数と比較すると,約40%から50%になっている。その差は,JAや漁協のサイ トが 2001 年末から一挙に公式サイトに設定されたもの(1,000 以上のサイト数)や1サイトに無料コンテン ツや複数の月額料金(100 円・200 円など)のあるコンテンツが包含されていることからの差異である。また 通信キャリアの各種サービスサイトや携帯電話メーカーのサイトなどはカウントしていない。 このサイト実態をみると,1999 年から 2000 年までのサイト数と 2001 年 4 月以降のサイト数とでは大きな 差がある。また着うたなどが投入された 2004 年 10 月以降にも大きな差が観察される。このサイト数の大き 図表2 コンテンツ・サイトの実態 導入 期 1999/3.4 成長 期 2000/4 2001/4 2001/12 2002/4 成熟 期 2002/12.1 2003/4.5 2003/10-12 2004/4-6 2004/10 2005/5 ①金融サービス 40 201 364 431 434 401 433 438 460 460 460 ②ニュース・便利ツール 10 25 50 67 67 71 74 78 80 86 91 9 25 52 60 63 72 73 76 83 86 87 184 200 305 319 368 405 458 529 ⑤旅行・交通 8 12 22 28 30 34 36 38 39 41 42 ⑥占い 2 2 17 26 28 45 48 59 69 80 85 ⑦音楽(着メロ) 1 7 20 48 60 88 98 120 143 156 149 82 114 ③生活情報 ④エンターテイメント ⑧音楽(着うた) ⑨待受画面 44 64 72 115 142 184 214 263 272 ⑩キャラメール 14 15 19 24 27 30 32 57 46 154 163 204 209 276 291 314 323 34 39 46 50 67 84 100 125 46 42 2,229 2,365 ⑪ゲーム ⑫ショッピング・チケット 7 12 26 ⑬英語メニュー 計 (上記外にJA・漁協等) 77 284 609 1,111 1,175 1,405 1,509 1,734 1,900 84 1,009 1,008 1,038 1,015 993 995 90 な増勢変化の節目から,コンテンツ市場を「導入期」 「成長期」「成熟期」と区分することとする。 3-3 コンテンツ市場形成のプロセス 成長段階に応じてどのようなジャンルのサイト がコンテンツ市場を拡大させているかが明らかである。公式サイトの範囲であるから,通信キャリアの事業 戦略にも大きく左右されるが,サイトへのアクセスが大きいコンテンツであるほどサイト数を拡大させてい ると考える。 コンテンツ市場の形成をみてみると,全体のサイト数の増加分のうち当該ジャンルのサイト数の増加分が 占める割合をみると,便宜的に15%以上を示すと,導入期には,金融サービス・ジャンルがコンテンツ市 場を拡大させていることがわかる。その割合は50%を超えている。 次いで,成長期には,エンターテイメント・ジャンルのサイトが20%以上の寄与率で市場の拡大に大き な役割を果たしている。また,ゲーム・ジャンルのコンテンツも市場拡大に有効なジャンルであった。音楽 (着メロ)よりも小額決済の主流だった待受け画面のダウンロードも市場拡大をリードしたジャンルである。 成熟期には,着うたがメジャーなコンテンツとなってきている。市場拡大への寄与率は25%弱となって いる。また,ショッピング・チケットのジャンルも本格的に拡大してきている。 その主要なジャンルについて,2005 年のサイト数 を100としたときどのような成長速度でコンテ 図表3 主要ジャンルの市場形成への役割 ンツ市場を形成していったかをみると,ジャンル 100 ごとに大きな差異がある。金融サービスは,iモー 90 ド・コンテンツの導入期から一気にサイトを開設し 80 金融サービス サービス提供が行われてきた。モバイルバンキング, 70 モバイルトレードの登場である。2001 年には主要な 60 エ ンターテ イメント コンテンツが確立されている。次いで,平均的に順 50 次サイト数を拡大していった市場はエンターテイメ 40 音楽 ント市場である。TVサイトも地方テレビ局のサイ 30 ト開設も含めて番組情報提供がモバイルで提供され 20 たほか,スポーツ速報情報,娯楽情報などが拡大し 10 ている。音楽ジャンルでは,コンテンツ市場全体の 0 1 999 2000 2 001 2002 2 003 2004 2005 伸びと同程度にサイトが拡大していったが,2004 年 の着うたの参入で急拡大している。 4 コンテンツ市場におけるビジネスモデルの動態的分析 4-1 コンテンツ市場の成長とビジネスモデルの確立 コンテンツ市場におけるビジネスモデルは,通 図表4 サイト数の増勢によるビジネスモデルの確立 信キャリア,コンテンツ・プロバイダー,コンテン 1 600 ツ提供者,利用者との関係の中で組み立てられる。 まず,コンテンツ配信モデルは無料サイトのように 1 400 情報配信を主としているモデルである。ニュースや 1 200 テレビ番組情報などである。コンテンツ配信型のジ コンテンツ 1 000 ダウンロードモデル サ ャンルは,金融サービス,ニュース,生活情報,エ イ 800 ト ンターテイメント(スポーツ速報など) 情報である。 数 600 第 2 のコンテンツ・ダウンロード・モデルは,コン コンテンツ 配信モデル 400 テンツ・プロバイダーが運営するサイトで,有料サ 200 イトで月額 100 円から 300 円の少額課金を利用者か コマース・モデル ら通信キャリアが課金回収代行サービスで徴収する 0 1999 2000 2001 2001 2002 2002 2003 2003 2004 2 004 2005 ビジネスモデルである。小額決済に適したモデルで ある。待ち受け画像,着うた,ゲームなどである。 エンターテイメントのサイトでも一部組み合わされている。第 3 に,モバイルコマース・モデルがある。フ ァッション・コスメからオークションなどインターネット・コマース(電子商取引)が確立してきている。 このようなビジネスモデルの確立をサイト数でみると,コンテンツ配信モデルは,ケータイのポータビリテ ィ性,リアルタイム性を訴求したケータイ・コンテンツ市場の特色を反映し,早い段階から市場で確立され 91 ていったプロセスをたどっている。リアルタイムに情報配信されるケータイの訴求である。次いで,ケータ イの認証性,決済利便性をもととしたコンテンツ・ダウンロード・モデルが普及している。そのサイト数の 伸びは顕著である。 モバイルコマース・モデルは,サイト数は少 図表5 市場の成長段階に応じたビジネスモデルの進化 ないものの着実に増加している。TV連動型の ファッション・サイトやコスメ・サイトが一つ のジャンルを形成するまでに着実に成長してき モバイルコマース 100% ている。 90% 導入期,成長期,成熟期の市場の成長段階で コンテンツ 80% ダウンロード型 みても,顕著にビジネスモデルの確立の過程を 70% 読み取ることができる。導入期には,コンテン 60% ツ配信モデルが圧倒的で 90%以上を占めてい 50% る。金融情報などの配信サービスが主流であっ コンテンツ配信型 40% た。成長期には,コンテンツ・ダウンロード・ 30% モデルが増加しコンテンツ配信モデルと二分し 20% たコンテンツ市場となっている。そして,成熟 10% 期には,コンテンツ・ダウンロード・モデルが 0% 導入期 成長期 成熟期 6 割を占めるまでに成長するとともに、モバイ ルコマース・モデルが台頭してきているプロセ スである。 4-2 代表的なケータイ関連IPO企業にみるビジネスモデルの進化 ケータイ・コンテンツ市場の急成長に伴い,ケータイ関連企業の新規上場(IPO)が相次いでいる。I PO企業数は 16 社に及んでいる。その特色は会社設立年がiモード・サービス開始時期に前後して集中して いることである。ケータイ・コンテンツへの期待のなかで数多くのベンチャービジネスの起業化を誘発し, 市場競争のなかで数多くの企業がIPOしたケータイ・イノベーションともいえる現象である。 そのなかで代表的なIPO企業A社の事業成長をみてみると,従来ソリューション事業で,コンテンツ保 持者のシステム開発受託や運営受託,課金システム開発などが大きなウェイトを占めていたが,直近2,3 年はコンテンツ事業に注力するようになってきている。それだけコンテンツ・ビジネスを自ら行ったほうが 利益増大になるほど,コンテンツ市場が急拡大していることでもある。ビジネスモデルをダウンロードモデ ルに大きくシフトさせつつある。また,コマース事業も急拡大しており,新しいビジネスモデルを確立させ つつある。 5 ケータイ・コンテンツのイノベーション・システムの考察 5-1 製品アーキテクチュアの変更等とコンテンツ市場の進化 ケータイ・コンテンツ市場の拡大は,ポータビリティ性,リアルタイム性,ユーザー認証性,決済利便性 のビジネス特性をうまく組み合わせ活用しながら発展してきた。その構造的な変化をもたらしたプッシュ要 因を探ってみると次のようである。 ①導入期 1999 年のiモード開始時にはiモード・メールが訴求され,情報配信端末としての利用にメールが主に取 り扱われた。同時に,着信メロディのダウンロードサービスが投入されたが,乗換案内,ニュース配信など を中心に情報配信を主とするコンテンツ配信モデルがモバイルビジネスで確立されていった。 ②成長期 2001 年には,503iシリーズでJava対応iアプリが投入され,動画サービスiモーションが可能と なったことでゲームが主流のコンテンツになった。さらに,第 3 世代携帯電話FOMAの本格的な採用で待 ち受け画像が市場を拡大させるまでになった。このようなコンテンツ・ダウンロード・モデルが製品アーキ テクチュアによって普及した。 ③成熟期 2004 年のフルブラウザへの移行は携帯端末の見やすさを訴求するものであったが,それ以上にコンテンツ 市場に影響を与えた要因は,パケット定額制(パケ・ホーダイ)の導入であった。これによって,より大き な容量の着うたの音楽ダウンロードが可能となり,iモード契約数を伸ばす,いわゆるネットワーク外部性 92 をもたらすものとなった。 図表6 製品アーキテクチュアの変更等とコンテンツ市場の進化 導入 期 19 99 成長期 2000 2001 2002 成熟期 2003 iモード開始 パケット定額制の導入 (パケ・ホーダイ) フルブラウザ ケータイ・ビジネスの変遷 端末機種の進化と 技術仕様 501iシリーズ 502iシリーズ カラー液晶画面 第2世代携帯電話 503iシリーズ 504iシリーズ Java対応iアプリ カメラ機能付き 第3世代携帯電話FOMA 端末・技術に依拠した コンテンツの主要な変遷 2004 iモード・メール 情報配信端末利用 着信メロディ ダウンロード サービス 乗換案内 ニュース 待受画面 動画サービスiモーション 第3世代携帯電話 900iシリーズ FLASH再生機能 FOMA 2005 2006 ワンセグ 505iシリーズ GPS対応 901iシリーズ PDF対応ビューア ワンセグチューナー搭載 メガピクセル ゲームがアプリサービス 待受アプリ の主流に 3Dポリゴン機能 着うたの音楽配信 動画・マルチメディア情報 iモードFeliCaサービス (おサイフケータイ) 5-2 ビジネスモデルを進化させる外的競争要因 ケータイの製品アーキテクチュアの高度化,フルブラウザ化のようなデザインハイアラーキーの革新,定 額制といった料金の制度改革などによって,ケータイ・コンテンツ市場の進展が図られてきている。それと ともに,コンテンツ市場の構造変化をもたらしているのが,ビジネスモデルの革新である。 このようなビジネスモデルの進展は,今後ともさらに拡大していくものとみられる。とりわけ,ケータイ・ ビジネスの特性であるリアルタイム性を生かしたオークションは,ケータイならではの市場を創りつつある。 決済メディア(電子チケット等)のビジネスモデルにも新しい機能が登場してきている。とりわけ,iモー ド FeliCa サービスをもとに,おサイフケータイや電子マネー,入場料などの電子チケットといった新しいビ ジネスモデルが構築されつつある。さらに,広告収益モデルによるモバイル広告,モバイルコミュニケーシ ョン(モバイルSNS等)も顕著になってきている。 本研究は,公式メニュー・サイトをもとにコンテンツ市場を分析してきた。しかし,コンテンツ・サイト は一般サイトが公式サイトの約 20 倍を超える規模で拡大している。そこでは待受けなど小額決済に必要な料 金収納代行サービスを通信キャリアから受けることはできないことから,コンテンツ・ダウンロード・モデ ルよりもモバイルコマース・モデルなどのビジネスモデルが主流となっているとみられる。とりわけ,モバ イル広告などのモバイルコマースの新しいビジネスモデルは,これら一般サイトの集客向けに有効なモデル とみられている。一般サイトの課題は,ケータイのポータルにおいて通信キャリアが設定したメニューで制 約され,一般サイトへのアクセスが容易でないことによる。したがって,これまでも顧客データを豊富にも つコンテンツ・プロバイダーほど有利であった。しかしながら,Google のような情報検索機能をもつサイト が参入してきたことから,今後一般サイトの中での競争がより激しくなっていくものとみられる。情報検索 性などの外的競争要因が働いて,ビジネスモデルを一層進化させていくことになる。 5-3 コンテンツ市場を拡大させるイノベーション・システムの考察 ケータイ・コンテンツ市場におけるイノベーションは,携帯端末の高速化や技術仕様の改善といった製品 アーキテクチュアの革新,フルブラウザ化のようなデザインハイアラーキーの革新,定額制といった料金の 制度改革などイノベーションを促進させるシステム要因が有効に働いたものとみられる。それとともに,そ の革新に適応したコンテンツを最適に投入し,市場構造を広げてきたものと解釈できるものである。そして, コンテンツ市場の構造変化にあわせたビジネスモデルが構築されてきた。 このビジネスモデル構築競争が,ケータイ・コンテンツ市場の進展を支えてきたもので,その原動力にな ったのが,マーケット創造力である。iモードが開始された 1999 年からわずか10年に満たない期間のなか で,コンテンツ配信によるモバイルバンキング, ゲームや音楽などダウンロードして楽しむライフスタイル, さらには,おサイフケータイのような電子マネー・サービスによる新しいマーケット,このようなケータイ・ イノベーションこそが,今後とも日本の産業経済の進展を支えるものと期待できる。 【参考文献】 1)小見志郎(2004): 『情報資産のリスクマネジメント』,ぎょうせい. 2)新宅純二郎・田中辰雄・柳川範之編(2003):『ゲーム産業の経済分析―コンテンツ産業発展の構造と戦略』, 東洋経済新報社 3) Chesbrough, H. (2006):“Open Business Models”, Harvard Business School Press. 4) Gawer, A & Cusumano, M. (2002): “Platform Leadership”, Harvard Business School Press, 小林敏男 監訳, 『プラットフォーム リーダーシップ』 ,有斐閣,2005. 93 〈発 題 名 ケータイ・コンテンツ市場の構造と進化 の分析 表 資 料〉 掲載誌・学会名等 日本社会情報学会 94 発表年月 2006 年 9 月
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