これは使えるディジタルコンテンツ小学校活用事例 小学校生活科の ディジタルコンテンツ実践事例 ―知的好奇心や探究心を高める微速度撮影ソフトウェアの活用― 岸本 抄 録 生活科の栽培活動において,子どもが「世話をしている のに花がしぼんだ。 」という思いから始まった実践である。 今まで見えなかった花の連続的な開閉の様子を,IP カメラ と微速度撮影ソフトを使うことで見せることができた。子 どもが育てているアサガオを使った「マイコンテンツ」を 作って見せることで, どのコンテンツよりも興味を引いた。 また,観察に視点を持たせることができ,知的好奇心・ 探求心を高めることができた。 祐子 それを翌日子どもたちに見せた。A児のアサガオを中心に 追うカメラと友達のアサガオを中心に追うカメラ2台で同 時撮影を行った。子どもたちのすぐそばで撮影しているこ とでこの映像に信憑性をもたせることができた。 <キーワード> 情報教育,学習情報研究,生活科,栽培,アサガオ, 微速度撮影 写真2 アサガオ 1 アサガオがしぼんだ! 1年生の生活科で アサガオを育てていた ところ,Aくんが「花 が咲いたよ。先生,咲 いたよ」と喜んで伝え た。しかし,お昼にア サガオを見るとしぼん でおり,Aくんは驚き, 5時間目に絵を描いて, 写真1 説明の板書 みんなにその驚きと疑 問を説明した。みんなで,なぜしぼんだのだろうかと話し 合い,教師も咲いているアサガオとしぼんでいるアサガオ の写真を撮影して子どもたちに見せたが,「水をあげなか ったからじゃない?」と友達からいわれてしまった。具体 的に写真と写真の間のところの変化がわからないので,子 どもたちは納得することができなかった。この部分の植物 の変化は,従来の写真では経過を伝えることが難しく,ビ デオでは長時間にわたっての撮影になり,子どもたちが納 得する見せ方をすることが大変難しい部分だったが,IP カメラと微速度撮影ソフト(SKY株式会社 Watching Eye) をうまく使えば,今までできなかったことが可能になって くる。 2 子どもたちのそばで撮影 A児のアサガオの微速度撮影を行うことになった。Aく んのアサガオと明日咲きそうな友達のアサガオを2つ用意 し, カメラなどを設置し, 朝から晩まで1日中撮影をして, 3 気づきと新たな疑問 映像の右下には時 刻を表示しており, 花が開いてしぼんで いく様子を見た後に 時刻を意識させ見せ ることができる。時 刻の表示と映像を同 時に捉えることが苦 手な子どものために, 写真4 ソフトの映像 「今,みんなが学校に 来た時間だね。」などと言いながら見せていくと次のよう なことに気づいた。「花は同じ時間に咲いたよ。」「昼に なったらしぼんでいくよ。」「つるがダンスしているよ。」 「巻きつくところを探しているよ。」というふうに子ども たちは話していた。そして,時間が12時を過ぎて1時にな りしぼんでくる様子を見て,子どもたちはアサガオが昼に しぼむということを実感したようだった。映像をみた後, 子どもたちは「先生, 咲いていた花が,昼に なったらしぼんでい くよ。」などと,驚き を次々に感想を教師 に伝えた。この映像を 見てこれで納得する と考えていたが,子ど もたちは本当に花が 写真5 確かめる子どもたち いつしぼむのか,つる KISHIMOTO Yuko:松山市立睦月小学校(愛媛県松山市睦月甲 1068-6) - 20 学習情報研究 2007.7 写真3 撮影の様子 はどのぐらい動くのかという疑問をさらに持って,本当に その時間にしぼむのか,実際に自分の目で確かめようと考 え始めた。 4 科学的な視点 アサガオのしぼむ瞬間に立ち会いたいとずっと見守り, 映像に映された変化を自分の目で確かめた。本当にツルが 動くのかどうかアサガオに張り付いたようにして観察し, 「花がしぼみ始めた。」「ツルが動いた。」と教師に伝え た。今までは花がいくつ咲いたとか,何となくつるが伸び てきたと感じながら栽培を行っていた子どもたちは,ツル の動きや花の変化という科学的な視点を明確に持って観察 をすることができた。また,「朝咲くから『アサガオ』っ ていうんだね。 」 「アサガオだけじゃなくて夕顔もあるよ。 」 と今まで花の名前として捉えていたものが,そこには意味 があるのだと感じることができた。 1学期の 最後に生活 科の活動の 感想を子ど もに書かせ たところ, このよう な感想が出 写真6 児童の感想 てきた。「ぼ くは学校でアサガオのビデオをみたんだよ。ツルがダンス をしていたんだよ。おもしろかったよ。」「アサガオのむ ちがまわっておどっていました。びっくりしたよ。それは 学校でずっとカメラでとっていたからだよ。」「生活科で アサガオがダンスしていた。ダンスしていたのは,明るい 空のときだよ。」などあり,最後の子どもは天候と植物の 関係に気づいていたようだ。 5 気づきを生活に生かす また,このクラスの 子どもたちはつるに も関心を持っている ので,朝の水遣りをす るときに他の鉢の支 柱に巻き付いていた ら自分で直したり,離 したりしていたので, つるが巻き付くこと 写真7 他のクラスのアサガオ がなくなった。学習し たことが生活に生かされた,よい例であると考えられる。 2年生の子どもにも,同様にアサガオの花の様子を見せ た。2年生の子どもたちもつるの動きに大変驚いていた。 さらに,葉が太陽の動きに合わせて動いている様子に着目 し,「こんなに動くんだからカラカラになっちゃうよ。水 遣りをしっかりとしないといけないね。」「葉っぱは太陽 の光が必要なんだね。」と発言する子どもたちもいた。1 年生で天候との関係に気づいている子どももいたが,これ らは 5年生理科で学習 する植物と日光につい ての学習や6年生の光 合成にもつながってい くと考えられる。そして この気づきや思いは栽 培活動を活発にさせ,毎 日水を遣るのはもちろ ん休みの友達の 写真8 映像を見せたクラスのアサガオ 分も教師が何も いわなくてもあげるようになった。科学的な理解だけでは なく,植物そのものにより深い愛情を持つことができたの ではないかと考えられる。 6 My コンテンツのよさ 本実践で撮影したようなコンテンツは,今ではたくさん 存在している。しかし,子どもたちの思いに沿って撮影し た自分または友達の映像「My コンテンツ」は,どのコン テンツよりも興味関心を引き,成長を実感させることがで きたのではないかと考える。また,2つの鉢を同時に撮影 することで,自分だけではなく他のアサガオも同じように なるという一般化を図ることができたと思う。植物が1日 であんなに動くという驚きから,植物も生きているという ことを実感させることができた。 そして,このような実践でしばしば「視覚化することで わかったつもりになっている。」ということがあるが,今 回の実践は理解させるだけでなく新しい疑問から五感を使 って再検証を進んで行う知的好奇心・探究心の高まりを生 むことができた。これが,「My コンテンツ」のよさだと考 える。 7 微速度撮影ソフトのよさ 微速度撮影ソフトのよさは,子どもたちの疑問や願いに 寄り添いながら「My コンテンツ」を作成できることがあげ られる。そして,花のしぼむ時刻やツルの動きなど観察す る明確な視点を持たせることができたこと,時間を早める ことで今まで見ることができなかった少しずつゆっくり動 く様子に気づき,新たな発見を生むことができることだと 考える。何より手軽にできるという利点がある。 6 生活科のディジタルコンテンツ 生活科は特に子ども一人ひとりを見取り,思いに寄り添 うことが必要になってくる。子どもにこだわりを持たせて 活動していくと,抱いた疑問に対してなかなか簡単には納 得してくれない。 今まで見せることができなかったものが, 技術の発達とともにそれが可能になってきている。子ども の疑問を正面から捉え,支援していくことで,こだわりが 強ければ強いほど,その疑問が解けたときの感動は大きな ものになってくると考える。一般化を図ることが難しい低 学年にこそ,My コンテンツが有効であると感じている。 - 21 岸本祐子:小学校生活科のディジタルコンテンツ実践事例
© Copyright 2024 Paperzz