放送コンテンツの海外展開の促進強化策について

放送コンテンツの海外展開の促進強化策について
その3
【権利処理問題解決に向けて】
一般的な放送番組(ドラマ)を海外番販しようとする際の権利処理のフローチャートを後記したが、
これをみてもわかるように、日本の番組を販売しようとするには、色々な手続きを経て、権利クリア
ランスを行わなければならない。また、出演者との契約の際に一次的な放送(初回放送+α )しか
許諾を得ないケースもたくさんある。このため、二次利用をする際には改めて権利者の許諾を得
なければならず、このことがコンテンツの流通の際に新たに生じる障害の一つとなっている。
中でも、実演家の許諾については、様々な課題もある。これについては、コンテンツ・ホルダーと
実演家との間で問題の所在に関する考え方の不一致が推測される。海外番販に限らず、二次利
用を行う場合、コンテンツ・ホルダー側は当然のことながら、“売る価格”を設定し、権利者にはそ
れに見合った報酬を支払おうと考える。もちろん、コンテンツ・ホルダーもビジネスとして二次利用
するので、得られる額との対比で報酬額を決めることになるが、そもそもその報酬の設定の段階
で折り合わないケースが多々ある。そうすると、権利者からの許諾が得られず、海外番販やネット
流通ができないという結果になる。売る側からみる場合と、権利者側からみる場合とで意見が合
わず、議論が平行線を辿ってしまうこともある。
また、仮に値段で折り合ったとしても、許諾条件が他国に比べて悪く、結果としてビジネスが成
立しないこともある。例えば、ネット権の付与の問題。現代のネット社会において、インターネットを
通じて映像を視聴するスタイルはごく一般的なものであり、諸外国でも当たり前のように流通して
いる。しかし、日本の場合には海外番販の権利処理をするときに、ネット権が付与されないのが大
部分である。実際に取引がうまくいきそうなときでも、これがネックとなり契約できなかったケースも
多いと聞く。放送回数にしても、日本の場合には「2年間で放送3回」などの条件を付けるのが一
般的だが、他国ではそのような制限はしていないことが多いため、これも一つのネックになる。
二次利用の作業が複雑ならば、一次利用の際に二次利用の許諾を取っておけばよい、との考
えもあるが、実際問題として、二次利用によりリクープできるかどうか分からない状況の中で、先
行投資的に二次利用まで権利処理するかというと、“そこまでのリスクは負えない”ということにな
る。
そうすると、解決の方法はかなり絞られてくる。そのうちの一つは、“強制許諾”という形に法制
度を改正することである。“強制”となると、少し乱暴な印象を与えてしまうかもしれないが、例えば、
実演家等の事前許諾を必要とせず、販売後に配分の支払で済むような形への法改正をすれば、
事前許諾で悩むことは基本的にはなくなる。数年前から話題になっている「ネット法」はこうした考
え方である。しかしながら、このような権利者の権利をはく奪するような制度を設けてしまうと、権
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利者の正当な権利を阻害することになり、文化振興に悪影響を及ぼす恐れもある。コンテンツ・ホ
ルダー側にもこのような考えを持つ者も少なからずいるが、こうした乱暴な制度は「最後の手段」で
あり、乱発すべきではないと考える。
もう一つの解決方法は、権利者側が適正だと思うレベルの報酬を生みだす構造を作ることであ
る。これには、コンテンツを流すことによって得られる収益のパイを上げなければならない。それに
は相当な時間がかかるものと思われるが、“現時点で対価が折り合わないからコンテンツは出せ
ない”としてしまえば、一歩も進まない。しかし、コンテンツ・ホルダーが損をしてまでやれというわ
けにもいかない。そこで、将来的には純粋なビジネスと機能させるとして、それまでの間は国がこ
れに支援するスタイルが考えられる。例えば、海外番販の場合、前述したとり、売る側と買う側の
“希望価格”はそれほど大きいわけではない。この差額を国が補てんすることができれば、日本コ
ンテンツの海外番販は飛躍的に増加するだろう。ネット配信についても同様のことが言えよう。
こうした方策について、国が音頭をとり、権利者団体とコンテンツ・ホルダー、プロバイダーといっ
た関係者が協議する場を設け、オール・ジャパンでコンテンツ流通の将来像を議論することが望ま
れる。
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<<権利処理業務の流れ>>
権利処理業務のフローチャート(A社のドラマ販売の場合)
ドラマ出演契約時に
売上分配率の内諾を得る
国内でドラマ放映
◎制作者の方針
◎政治的事情
担当プロデューサーに
販売不可
販売可能かを確認
販売計画せず
販 売
可
クライアントに
作品紹介
具体的に商談が
進められそうになった場合
権利処理業務開始
●権利者団体との協議
●クライアントとの条件調整
(販売額、放送国・局、許諾期間、 許諾下りず
放送回数等の許諾)
許諾OK
商談の最終調整
商談成立
商談成立せず
◎希望する販売額、放送
国・局、許諾期間、放送
回数の相違
◎ネット配信の許諾有無
◎団体で許諾を得られな
い人の追跡の難航
◎手続きの長期化
【まとめ】
・ 日本のコンテンツを海外に販売する場合には、その都度、制作者側がその是非を判断したう
えで、権利処理を行うため、その段階で許諾を得られず流通が止まるケースがままある。
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