豊かな心を育てるホームルーム活動に関する研究 1 主題設定の理由

豊かな心を育てるホームルーム活動に関する研究
−構成的グループ・エンカウンターの手法を取り入れた指導モデルの作成−
長期研修員 渡辺 哲二郎
研究の概要
本研究は,生徒が,仲間とのふれあいの中で,自分に気づき,豊かな心をはぐくんでいくことを目
標にしている。高等学校のホームルーム活動で,豊かな心を育てるため,構成的グループ・エンカウ
ンターの手法を取り入れた学習活動の指導モデルを開発した。
キーワード
豊かな心
望ましい自我の成長
ホームルーム活動
構成的グループ・エンカウンター
1 主題設定の理由
(1) 現状と課題
①
教育現場から
青年期の子どもは,とかく悩みがちの時期である。ちょっとしたことで,暗い気持ちになったり,
不登校気味になったりする。楽しい気持ちで明るく学校に通ってこられるようにできたらすばらしい。
暗い気持ちのときも明るくすることができる何かよい方法はないだろうか,と思い研究を始めること
にした。学校現場では,人の話を落ち着いて聞いていることができない子どももいれば,人と話をし
たり自分の考えを言ったりすることが苦手だという子どももいる。また,自己中心的にしか考えられ
ない,自分の感情をコントロールできない,おとなしい子どもをいじめる,といった子どももいる。
「どうしてだろう?」と感じる。欲しているものが何かあるのではないだろうか。
このように考えてみると,現代の高校生に大事なことは ,「豊かな心を育てる教育」ではないかと
感じた。
②
最近の子どもをめぐる情勢から
文部科学省は ,『今後の不登校への対応の在り方について(報告 ):不登校問題に関する調査研究
協力者会議(平成15年4月11日 )』の中で ,「不登校の実態について考える際の背景としては,近年
の子どもたちの社会性等をめぐる課題,たとえば,自尊感情に乏しい,人生目標や将来の職業に対す
る夢や希望等を持たず無気力な者が増えている,学力が低下している,耐性がなく未成熟であるとい
った傾向が指摘されている 。」としている。また ,『生活体験や人間関係を豊かなものとする生徒指
導−いきいきとした学校づくりの推進を通じて−中学校・高等学校編』では,最近の生徒の特質とし
て,人間関係が希薄であること,生活体験が不足していること,将来展望を持っていないこと,など
をあげている。学校教育においては,ともすれば,いわゆる学力に偏した生徒の評価が行われ,学校
生活が調和のとれた人間形成をややもすれば歪めていることが考えられる,としている。
−165−
「調和のとれた人間形成のために豊かな心を育てる指導」は,今後ますます重要であることを示し
ている。
(2) 心を育てる教育の必要性
高等学校学習指導要領は,生徒に豊かな人間性や自ら学び,自ら考える力などの「生きる力」の育
成を基本的なねらいとした学校づくりを求めている。
第16期中央教育審議会答申(平成10年6月30日)は,生きる力の核となる「豊かな人間性」を「ⅰ)
美しいものや自然に感動する心などの柔らかな感性
ⅱ)正義感や公正さを重んじる心
大切にし,人権を尊重する心などの基本的な倫理観
ⅳ)他人を思いやる心や社会貢献の精神
自立心,自己抑制力,責任感
ⅲ)生命を
ⅴ)
ⅵ)他者との共生や異質なものへの寛容などの感性や心である」とし
ている。
豊かな人間性の育成をめざすものが,心の教育であるといえる。
文部科学省は,前述の「生活体験や人間関係を豊かなものとする生徒指導」で「現在,生徒指導の
充実強化が強く要請されている背景の一つとして,いじめ・登校拒否等の問題行動に対する対応の充
実の必要性があげられるが,生徒指導の意義は,このような児童生徒の問題行動への対応といった,
いわば消極的な面にだけあるのではなく,積極的にすべての生徒のそれぞれの人格のよりよき発達を
目指すとともに,学校のすべての活動が,生徒一人一人にとって自己実現を援助し,自己存在感を与
えるようになることを目指すところにある。このような生徒指導を学校生活のすべての場に十分作用
させていくことが,ひいては生徒の非行防止にも効果を上げることにつながるのである 。」と述べて
いる。従って,問題等が起こったなら,それに対処するといったこと以前にすべての生徒を対象にし
た心を育てる教育が必要だということ,生徒の人格が育ち,一人一人の自分らしさが尊重されるよう
な学校環境をつくっていくことが重要であると考える。
以上の点から,現代の高校生に,豊かな心を育てる教育が不可欠であると考え,主題を設定した。
2 研究のねらい
豊かな心を育てるための学習活動として,高等学校のホームルームの時間に構成的グループ・エン
カウンターの手法を取り入れた指導モデルを作成することにより,学校現場における心の教育の実践
に役立てる。
3 研究の基本的な考え方
(1) 豊かな心について
本研究において,豊かな心は,「受容」「愛情」「尊重」の心の3つの概念を内容にしている。それ
は ,「自分らしく考え,活動する。人を思いやり,尊重する。社会に適応していく 。」を意味する。
このような豊かな心を育てるために,自分らしく楽しく活動しながら,一人一人がもっている感性を
豊かにして,人や物事のよさを理解できるような学習活動がよいと考えている。
−166−
(2) 高等学校における「生きる力」をはぐくむ心の教育について
①
自我の望ましい成長を助ける−自分らしさを尊重し,自尊感情を育てる−
『青年期の心理
返田健著(教育出版 )』によると,青年期の心の特徴は,自我に目覚め,自分と
は何かを強く意識するようになることである,という。
(自我とは,人間の意識や行動の主体をいう。
さまざまなものを認知し,いろいろ感じたり多くのことを考え,決意して行動するのは自分であると
いうことを直接的に明確に自覚するが,この自覚する主体が自我である。〈新・教育心理学事典
金
子書房 〉)自我には,外界を知覚,認識,判断していく働きがある。これにより,状況を理解し,周
囲の人たちの自分に対する要求,期待,感情,また自分をどう見ているかなどを考えたり,自分はど
う感じるかなどを把握したりするが,青年期にはまだこの機能が未熟であったり,不安や劣等感など
で,歪められたりすることが多いという。また,自我には,知覚,認識した外界に,自分としてどう
かかわり,どう働きかけ,どのように自己を実現していくかという,いわば適応という役割がある。
自我は自分が抱いている,目標,志向,欲求,自我理想などが可能な限り実現されるよう働きかける。
しかし,自我の力が弱いと,この適応機能は,外界の状況に自分を合わせる順応的な面(後述エゴグ
ラムにおけるACの状態)が多くなる。自我が拡大(自信にもなり,希望や喜び,感動といった肯定
的な感情を生み出す。また,無限の可能性を夢みる,思いあがり,虚栄心になることがある。)した
り,萎縮(自己否定,劣等感,など)したりしながら自己が形成されていく。
教育の過程において,この両面からの望ましい自我の育成を目指すことが肝要であると考える。教
育が超自我の部分,欲求に対し社会的な要請からあるいは自己観察を通して批判的に「これはいけな
い」「こうしなさい」といった部分に強く働くと,子どもの自我は萎縮する。反対に超自我が教育さ
れていないと,自由で自律性はあるが,抑制力(セルフコントロール)をもたない人間に育つことも
ある。心の教育は,自我を拡大させて,自分らしさ,自信をもった安定した自我を育成することをめ
ざしているものと,超自我を育てることの両面からのアプローチが必要であると考える。
自我には,オリジナリティ(個性,独自性)とコンフォミティ(適合性)とを有している。コンフ
ォミティは対人・社会的な自我の領域で,対人欲求(愛情への欲求,所属への欲求,社会的承認の欲
求など)に基づいて働いている。このオリジナリティとコンフォミティの領域は相互に関連している。
他者や文化などと接触したり,交流したり,ときには対決したりして,その成果を取り入れることで
オリジナリティの部分が拡大していく。対人欲求が満たされることによって,我々の自我は心の安定
を得ることができるという。
自我の強さは,人間の心の健康,不健康と密接に関係がある。自我が強さをもち,心の健康が保持
できれば日常生活の中で明るさ,柔軟さ,自発性,適応力などをもち,他者や社会,自然などに対し
ても深い愛をもつこともできる。個人の自我の強さ,成熟は,われわれを取りまく他者や,社会との
関係の中で育っていく。過保護や甘やかしは自我の強さを育てない。自分で考えたり,悩んだり苦し
んだりすることがタフな心をつくるという。
豊かな心は望ましい自我の成長が必要であると考えることができる。健康な自我状態である自我の
強さ(自分らしさ)を育成することは,心の教育の要であると考える。
本研究は,この望ましい自我の成長に,自尊感情が不可欠であると考えている。それは,心の状態
に自己概念が深くかかわっていると思うからである。よりよい自己概念は,自信になり,自分らしさ
が成長していく。自尊感情は,このよりよい自己概念の中心的なものであると考える。自分らしいよ
りよい心の状態は,自尊感情とともにあると考える。
−167−
②
受容,共感する心,思いやりの心を育てる
人間は自分らしく,あるがままに考えたり,話したり,行動できたりするとき,満足感があるもの
である。そしてこの自分らしさを欠いていたら,不健康な状態と考えることができるだろう。自分ら
しさをもっているとは,前述の望ましい自我の現れであると考える。自分らしさの尊重は心の教育の
要である。
『月刊学校教育相談
2002年1月号
(ほんの森出版)』では,周囲の人々の共感する心の働きが
自己肯定感を育てる,と述べている。それは,共感する心の働きは,相手の感情,気持ちを肯定(受
容)していることだからである。周囲にこのような共感の心,受容の心が不足していると,自己肯定
感(自尊感情)は育たない。共感する心,それは愛情の心である。
自分らしさを心の健康の中心的概念であると考えた。自分らしさを形成する力と考えられる自我の
強さと感情と他者からの受容との関係は図1のように考える。
他の人の
心の健康
豊かな心
自我の強さ
・ 受容
・ 共感する心
自分らしさ
・ 思いやり
自尊感情
快い感情
満足感
自分らしさ育成の要因
(図1)
人は,快いこと,楽しいことを好み,欲する。これは健康な心である。このような欲求が満たされ
ないと心は不健康になるだろう。先の対人欲求のところで述べているように,人は人から愛されるこ
とを望む。その欲求が満たされないと望ましい自我が育っていかないだろう。人間は周囲の人々との
かかわりの中で生きている。他者の愛情によって,心が育っているといえる。生徒一人一人に他者受
容,共感のできる思いやりの心が育っていることが,一人一人が健康な心をもてる環境であるといえ
る。
③ 「プラス思考」を育てる
近年「プラス思考」という言葉がよく使われる。同じ物事であっても人によって,受けとめ方や感
じ方が異なる。しかし,受けとめ方や感じ方は,心の健康状態に深くかかわるのである 。「プラス思
考」に気づくことは,課題に取り組む力になり,ストレスを乗り越え,適応していくうえでも生徒た
ちにとって意義があると考える。
図1に示されている快い感情,満足感は,今の自分についての満足感をも含んでいる。現在の自分
が理想としているものになっていないというとき,自分についての受容度,満足度は低下する。心の
状態は,望ましくないものである。このようなとき,視野を広げ,見方を変えたり,柔軟に考えるこ
とによって,より望ましい自分らしさを保てるのではないかと考える。
本研究では ,「プラス思考」ができるためには,肯定的思考(前向きな意欲になる ),柔軟な思考
−168−
(創造力,適応力になる),楽観的思考(明るく考える)を考え,これらの思考力を育成したい。
④
柔らかい感性を育てる
感性は,心の中でもっとも基本的な部分といえる。さまざまな欲求や,美しいものよいものを感じ
るのは感性によると考えられるからである。美しいものよいものに感動するという体験は,価値観や
倫理観の形成にもなっていくものと考えることができ,心が成長するうえできわめて貴い機会である。
豊かな感性があると,周りのもののよさを感じたり,人の気持ちを理解する(感じる)ことができ
るだろう。自分が感じられる分,人の気持ちを理解できるといえる。『生きる力と心の教育
塚野征
編著 (東洋館出版社)』によると,感性豊かな子どもには次のような共通点があるという。それは,
自分のよさに気づいている,肯定的な人間関係を身につけている,ほかに対して援助を求めることが
できる,である。
豊かな心が育つために ,「よさを感じる心」の育成が重要であると考える。人や物事のよさが感じ
られる(他者受容の心)と楽しい感情になる。それは,心の健康に重要である。自尊感情も,こうし
た人や物のよさ,すばらしさを感じるとき,それを意識してる自分のよさを感じることで芽生えるの
ではないだろうか。
(3) ホームルーム活動と心の教育
高等学校学習指導要領は,特別活動の目標で「望ましい集団活動を通して,心身の調和のとれた発
達と個性の伸長を図り,集団や社会の一員としてよりよい生活を築こうとする自主的,実践的な態度
を育てるとともに,人間としての在り方生き方についての自覚を深め,自己を生かす能力を養う。」
と掲げている。そして ,「ホームルーム活動においては,学校における生徒の基礎的な生活集団とし
て編成したホームルームを単位として,ホームルームや学校の生活への適応を図るとともに,その充
実と向上,生徒が当面する諸課題への対応及び健全な生活態度の育成に資する活動を行うこと 。」と
している。本研究においても合致する内容のものを検討した。生徒たちの対人欲求が満たされるよう,
あたたかな人間関係を育成すること。自分らしく考え,話したり,書いたりできること。自分を見つ
める機会になること。自分のよさ,友達のよさがわかるようになること。そんな学習のできる機会を
提供したいと考える。
(4) 構成的グループ・エンカウンター
生徒たちに現代の教育の課題である「人間関係づくり」の場を与える活動として,構成的グループ
・エンカウンターがある。これは ,「育てるカウセリング」のグループ・アプローチの一つである。
エンカウンターとは「出会い」という意味である。構成的グループ・エンカウンターにおいてこの「出
会い」とは「自己との出会い」「他者との出会い」を意味する。
構成的とは枠を与えるということである。枠の種類は,①ルール②グループの人数③グループの構
成④時間の制限などである。
構成的グループ・エンカウンターは,多くの理論,哲学がその背景にある折衷主義の教育方法であ
る。その中で,最も基本的で重要な姿勢として考えられることは,自分らしさの尊重である。自分ら
しく考えて,話す,書く。それは周囲の人の受容,共感的な姿勢が重要になる。
心の成長に必要なこととして,このように自分らしさを育てることとともに,望ましい自我の成長
のところで述べた超自我の育成がある。学校で教員が育てることも多いところだが,エンカウンター
−169−
では,友達とふれあう中でそれに気がつくことができる。それは, グループには個人を育てる教育力
(①気づきや洞察のチャンスに恵まれる,②模倣の対象に恵まれる,③欲求不満耐性がつく,④判断
や考え方,受けとめ方,感じ方など他者と比較できる,⑤情報交換ができる,などの働き)があるか
らである。
教員がよいと思うことをすすめても,なかなかそのとおりにならないことがある。それは本人の心
に感じられていないからである。気づくことは,例えば,よさを発見したときの感動のように,心の
奥から感じることができる。気づきは,自覚になる。それまでに知らなかったことやできていなかっ
たことに気づくと,心はさらに成長するのである。
このように構成的グループエンカウンターは,自分らしさを尊重し,そしてさらに自分に気づく,
洞察を促す学習活動として豊かな心の育成に有効であると考える。
4
研究の目標
高等学校のホームルーム活動において,生徒一人一人に豊かな心を育てることを目標に,構成的グ
ループ・エンカウンターの手法を取り入れた学習に関する指導計画,展開例の指導モデルを開発する。
豊かな心
受容
共感する心
思いやり
柔らかな
感性
自分らしさ
自尊感情
プラス思考
構成的グループ・エンカウンターの手法を取り入れたホームルーム活動
○
○
○
○
○
人間としての在り方生き方を考える。
人の気持ちを理解する。
自分のよさ,友達のよさに気づく
協力(努力)してできることの喜びを知る。
プラス思考で課題に取り組む。
ストレスを乗り越える。
受容的共感的なあたたかな人間関係
自己開示
(自分らしく)
自己認識
他者受容
他者理解
傾聴する
(尊重する)
−170−
5
研究の方法と内容
(1) 研究の方法
①
開発の方法及び手順
開発の目標に基づいて試案の作成を行い,本センターの教育工学的研究法により,試行,評価,改
善を行って目標を達成する。
②
試案作成の手順
ア
学級の人間関係の現状把握
エ
指導計画案の作成
オ
イ
指導モデルの目標の検討
指導細案の作成
カ
ウ
対象学年と時数の検討
指導資料,評価資料の作成
キ
評価資料の活
用方法の具体案作成
③
第一次,二次評価の方法
教育工学的研究法による各評価において, 表1の評価項目の観点に基づき,3段階評価 (A:現
状でよい
B:改善の余地あり
C:全面改善)で評価し,すべてがA評価になるように開発する。
試案の評価項目
指導計画
ア
イ
(表1)
主題名は,生徒にとって切実な課題となりうるものであるか。
主題の目標は,ホームルーム活動の時間のねらいと豊かな心を育てるための学習を具体化し
たものであるか。
ねらい
学習活動
ウ
指導計画は,主題の目標を達成できる内容になっているか。
エ
指導計画は,時間的に無理のないものであるか。
オ
本時のねらいは,主題の目標を達成できるものか。
カ
生徒が興味を持って取り組み,ねらいを達成できる学習活動であるか。
キ
生徒の発達・成長段階にあった学習内容であるか。
ク
内容の分量が多くなく,指示の仕方・扱い方が適切か。
ケ
評価の観点と方法は適切であるか。
ワークシート
コ
ワークシートの設問は,各自の活動内容を理解,確認を助け,効果的か。
ふり返り用紙
サ
ふり返り用紙の自己評価観点は,学習内容のふり返りや認識・発見に効果的か。
④
ア
第三次評価の方法
評価の方法
第三次評価は,授業を通して指導モデルを試行し,表1の評価項目とエの資料に基づいて実施する。
イ
試行対象学級
ウ
試行の期間
山梨県立峡南高等学校
計29名)
平成15年10月1日 ∼ 11月30日
授業時間全5時間
エ
電子機械科1年(男子27名,女子2名
事前事後の各調査
1時間ずつ
計7時間
検証資料
(ア)事前に収集する資料
Q−Uアンケート(高等学校用),自己肯定度インヴェントリー調査
(イ)授業中に収集する資料
ワークシート,ふり返り用紙,授業観察記録シート(協力員)
(ウ)事後に収集する資料
Q−Uアンケート(高等学校用),自己肯定度インヴェントリー調査,学習活動アンケート・
感想文
−171−
(2) 研究の内容
①
豊かな心を育てるホームルーム活動の指導計画
ア
主題名 「人にやさしく,自分に誇りをもって」
イ
主題設定の理由
一人一人が現代の社会に適応していくためには,豊かな心が育っていることが肝要である。心の状
態は,適応していくうえできわめて重要である。自分らしさが成長し,豊かな心が育っていくために
は,友達とふれあいながら自分のよさや友達のよさを感じるような経験が必要であると考える。
青年期は劣等感が強まる時期といわれるが,あまり強いと望ましい自分らしさを歪めてしまうこと
になる。このネガティブな自己概念をよさへ育成するという観点は重要であると思う。そこで,この
主題ではプラス思考に気づく学習活動を考案した。生徒たちが,自分らしく,プラス思考ができるよ
うになることは,受けとめ方や,感じ方,ものの考え方が柔軟になり,快い感情を築くだろう。
学習活動をとおし,友達同士で同じ課題に取り組みながら,それぞれの考えを出し合い,理解し,
友達のよさに気づく。このようにお互いの理解を深めていく。たとえ悩みやストレスを感じることが
あっても,それを聴いてくれる人がいる,理解してくれる人がいると感じると心強い。暗い気持ちを
癒すことができるのである。
このような題材に取り組むことで,生徒一人一人が学校生活に明るく楽しく励んでいくことができ
るのではないかと考える。
あたたかな人間関係の中で,一人一人が自分らしく考え,活動できるホームルームをつくることを
目標に主題を設定した。
ウ
目標
○ 相手の気持ちを理解することができるようになる。
○ 自分のよさ,友達のよさに気づく。
○ 友達の感じ方,考え方に触れながら,視野を広げる中で自分の考えをもてるようにする。
エ
各時間のねらい
(ア)1時間目
自分の感情を洞察する。自分らしく話す。傾聴する。人の気持ちを理解する。
自分のよさ,友達のよさに気づく。
(イ)2時間目
協力(努力)してできることの喜びを知る。
心身のこりをほぐす体操をする。
(ウ)3時間目
エゴグラムを作成して自分のよさに気づく。
人間の自我の状態をCP(厳正さ)NP(やさしさ)A(考える,理性)FC(自然な,自由
さ)AC(従順さ,適応する)の5つの状態に分け,それらの自我状態を表している50個の文か
らなる質問紙法に取り組む。自分たちの自我状態をグラフに描くことによってパーソナリティー
が理解され,自分のよさに気づくことに役立てたい。また,把握された低い自我状態は,それを
高めること,そしてよりよい状態にしていくことである。
(エ)4時間目
悩みや課題に取り組む力をつける。
プラス思考によって,自分の見方や考え方が柔軟になり,悩みや課題に前向きに,明るく取り
組むことができることに気づく。
(オ)5時間目
ストレスについて理解を深める。自分らしいストレスの乗り越え方を考える。
−172−
指導計画
過程
1
(全5時間
ロングホームルームの時間)
学習活動
オリエンテーション
1 学習のテーマを理解する。
◎ 人にやさしく自分に誇りをもって
主な支援
わかりやすく学習目標を理
解できるようにパワーポイ
ントで提示する。
2 エンカウンターについて理解する。
「自分らしく話す,受容・
共感的受けとめ」について
話をする。
欠席の生徒がいる場合,教
員が参加する。
インストラクション
3 2人1組になる
エクササイズ
○人の気持ちを理解する
『 自分の気持ち,あなたの気持ち』
4 ロールプレイを見て活動を理解する。
5 グループで取り組む
この3日間に印象に残ったことを書く。
相手にそれを気持ちを込めて言う。
相手 はそれを繰り返し言って確認する。
そのとき相手がどんな気持ちで言ったか
(うれしかったんですね,など)確認す
る。
○自分のよさ,友達のよさに気づく
『私のコマーシャル』
6 ロールプレイを見て活動を理解する。
7 グループで取り組む。
ワークシートに書く。
ワークシートを相手が見て質問する。
「あなたの好きな言葉は・・・ですね。」
それ に答える。
シェアリング
8 感想を書く,言う。
○協力(努力)してできる喜びを知る。
インストラクション
1 前回の学習をふり返る。
2 学習活動について理解する。
3 準備体操をする。
2
3
4 腹式呼吸をする。
エクササイズ
5 トラストアップを見て理解する。
6 2人1組で取り組む。
7 4人1組で取り組む。
8 上手にできるために大切だと思うこと
を考えて書く。
シェアリング
9 振り返って感想を書く。
10 相手の友達と見せ合う。
11 友達に感想を書く。
12 ペアリラクゼーションを行う。
13 感じたことを書く。
14 活動全体を通して感じたことを書く。
○自分のよさに気づく。
インストラクション
1 学習目標を理解する。
エクササイズ
2 質問紙に答える。
3 採点する。
4 グラフを作成する。
教員が学習活動を説明す
る。
教員と生徒がロールプレイ
をしてデモンストレーショ
ンを行う。
エクササイズの活動を生徒
が理解したか把握する。
教員が学習活動を説明する
学習中の評価の観点
・学習目標を理解したか。
・ エ ン カ ウ ン タ ー に つ い て理
解したか。
・ ロ ー ル プ レ イ を 見 て 活 動を
理解したか。
・自分の感情を洞察できたか。
自分らしく話せたか。
友達の話をよく聴くことが
できたか。
友達の気持ちを理解できた
か。
・自分のよさに気づけたか。
友達のよさに気づくことが
できたか。
・ 自 分 ら し く 言 っ た り 書 いた
りしているか。
教員が説明する。
エクササイズの話をする。
足腰の柔軟体操を教員が行
う。
・ 心 身 の コ リ を ほ ぐ す こ とが
できたか
実際に教員と生徒でトラス
トアップを行い理解させ
る。
できなかったグループに,
どうしたら上手にできるよ
うになるか話し合わせる。
・ 上 手 に で き る た め に 大 切な
ことについて考えているか。
・ で き た 人 が で き な か っ た人
に ア ド バ イ ス な ど し て いる
か。
教員が説明する。
自分のパーソナリティーの
理解に役立てるよう説明す
る。
数値についての説明をす
る。
−173−
・心の状態を理解したか。
・ 自 分 の パ ー ソ ナ リ テ ィ ーを
3
4
5
5 グループになる。
6 各班の厳正さ,やさしさ,理性(思考
する ),自由さ,適応する,の言葉は,
黒板に書いてある言葉のどれのことか考
える。
7 リーダーが黒板に貼る。
8 ワークシートを見て心の状態について
理解を深める。
9 グラフを見て自分のパーソナリティー
について理解を深める。
10 努力していきたいと思うことを考える。
シェアリング
11 本時の振り返りを行う。
○課題に取り組む中で,さまざまな受け取
り方感じ方,考え方があることに気づく。
○プラス思考を理解する。
インストラクション
1 人により受け取り方,感じ方,考え方
が異なることに気づく。
2 認知の仕方によって,明るくも,暗く
もなることに気づく。
エクササイズ
3 課題を理解し,取り組む 。「前の試験で
赤点が3つを超えてしまった。どれも得
意でないから次の試験に自信がない。」
4 プラス思考を理解する。
5 プラス思考を活用して課題に取り組む。
6 発表する。友達の発表を聴く。
7「仲のよかった友達が口をきかなくなっ
てしまった。」
8 プラス思考を活用して課題に取り組む。
9 発表する。友達の発表を聴く。
シェアリング
10 本時の振り返りを行う。
11 友達のよかったこと,わかったことを
をメッセージに書く。
12 メッセージを読んで感想を書く。
○ストレスについて理解し,それを乗り越
えることについて学ぶ。
アイスブレイキング
1 顔の絵はどんな表情か。
インストラクション
2 学習の目標を理解する。
・ストレス
・ほほえむ
エクササイズ
3 イライラ,不快だと思うこと。につい
て考える。
4 グループごとのシートに書いて,友達
がストレスに思うことを理解する。
5 ワークシートに書く。
6 ストレスについての資料を読む。
7 ストレスを乗り越える方法について学
ぶ。
8 よいと思ったことを書く。
9 腹式呼吸をする。
シェアリング
10 振り返り話し合う。
気づいたこと,感じたことを書く。
理解したか。
CP,NP,A,FC,ACの5つの言
葉を板書する。
パワーポイントを使って,
受け取り方,感じ方につい
て気づかせる。
・ 努 力 し て い く こ と を 認 識で
きたか。
・ 受 け 取 り 方 , 感 じ 方 に つい
て理解できたか。
課題を提示する。
・ 課 題 を 認 識 し て , 積 極 的に
取り組んでいるか。
プラス思考について提示す
る。 黒板に例を示す。
ワークシートで,場面ごと
にプラス思考を活用させ
る。
黒板に絵を提示する。
本時に扱う絵を示す。
ヒント・ stressを示す。
・ smile を示す。
学習目標がストレスにつ
いてと,それを乗り越える
ことについて考えることで
あることを理解させる。
・ 黒 板 に 示 さ れ た こ と を 理解
できたか。
・ プ ラ ス 思 考 の 考 え 方 が でき
ているか。
・ さ ま ざ ま な 感 じ 方 , 考 え方
を理解したか。
・友達のよさを認識できたか。
・ 自 分 の よ さ に 気 づ く こ とが
できたか。
・2つの目標を理解したか。
教員が,自分の場合はどう
か話をする。
・ ス ト レ ス に 思 う こ と も 人そ
れ ぞ れ で あ る こ と に 気 づい
たか。
・ 読 ん だ 資 料 を 含 め 自 分 にあ
っ た ス ト レ ス の 乗 り 越 え方
について考察できたか。
−174−
③
本指導モデルで開発した豊かな心を育てる学習シート例
5つの心について
感じたことを伝えよう
厳正さ,やさしさ,理性(思考する),自由さ,適応する心はそれぞれ大事です。
細かな数値は気にしないでよい。5つの面で,あなたが最も高いところはどこか,
反対に最も低いところはどこかわかりましたか。最も低いところは,そこが弱いか
もしれない。最も高いところは,そこが強すぎるかもしれない,と考えてみて,
自分を見てみます。
ペアの友だちからあなたへ
弱い場合,強すぎる場合,次のような傾向が考えられています。
弱いところは次の(例)のようなことをこころがけていくのもよいです。
ひとりの人が立ってください。ペアの人は座っています。
ペアの友だちの両肩に両手を置きます。「今日はご苦労様,一緒にありがとう。」と
いう気持ちで,友だちがリラックスできるようにしてください。
CP
弱いと・・・理想や信念に欠ける,自分の思うことがはっきり言えない,人に寛大という
ことあり。
強すぎると ・・・人に厳しい,口うるさい場合がある。
ペアの友だちからあなたへ
(
(例)・自分の考えをはっきり言う
・これで本当に満足していいのだろうかと,要求水準を少し上げてみる。
・自分の立場や年齢にふさわしいことかを考え,自分に厳しくなる。
・時間やルールに厳格になる。
)
交代してやってみましょう。
NP
弱いと・・・やさしさや温かみを欠いていることあり。
強すぎると・・・おせっかい,過保護になる場合がある。
あなたが今日思ったこと感じたことを書いてください。
(例)・よい面を中心に相手を見るようにする。
・相手の気持ちや感情を理解するよう心がける。
・自分からすすんであいさつをする。
・人の話をよく聴いてあげる。
・ほめたり激励する言葉を言う。
A
弱いと ・・・ よく考えずに気楽にする,厳密さに欠けることあり。
強すぎると・・・冷静。情緒的なあたたかさに欠ける場合がある。
あなたは (
ペアの友だちは(
(例)・ 日記をつける。
・ 本を読む。
・ ニュースを聞く
・ わからないことに関心をもち,自分で調べるようにする。
・ 物事を分析的によく考えて決める。
)
)
ス ト レ ス に つ い て
こんなときがイライラ,不快だ
(自由に書こう)
(
)班
名前 (
)
ストレスとは,体の中に生ずる生理的,心理的ゆがみです。
ストレスをつくるもの(原因)をストレッサーと呼ぶ。 (セリエ)
ストレッサーには,物理的なもの(寒冷,騒音など),生理的なもの(過労,疾病など),
心理的なもの(人間関係でのストレスなど)があります。
ストレスのプラス面,マイナス面
ストレスは体内の自律神経に働きかけ,交感神経の働きを高め,血圧を高め,やる気を高め
る。 適度のものは精神力を高めるプラス面である場合が多い。しかし,過剰なストレス,
長く続くストレスは,心身のバランスがうまくいかなくなり,病気(高血圧症,胃潰瘍など)
の原因になることがある。 不快なことであっても我慢しなくてはならないことは多いもの
だよね。でもこういったことが長く続いていると,精神力が弱くなったり,体調が悪くなっ
たりということにもなるのです。
ストレスを乗り越えるために (次のようなことも参考に)
(1) 緊張して気分悪い,焦っていらいらする ときには
・ ふー,と息を深く吐いてみよう。
(5,6回しても効果がある。)
緊張を和らげるのに効果があるんだ。
スポーツ選手もよくしています。
(2) おもしろくないことが続いてうんざり
というとき
・ いい音楽を聴きます。
気持ちが落ち着き,リフレッシュ
・ 運動をします。
体調を整えながら,気持ちもさっぱりします。
(3) イヤなことが,またある,いつもある という場合
・自分の気持ちがわかってくれる人に相談してみる。
大人は経験が豊富だからいいアドバイスがもらえることも多いよ。
気の合う友達と話をしてみる。
勉強してきたように,友達が,自分が気がつかないことを言ってくれるこ
ともあるし,よい解決法を考えてくれるかもしれない。
一緒に話をしながら,気分が明るくなってくることもある。
・プラス思考をしてみる
同じことでも,どう受け止め,感じ,どう考えるかによって,不快やストレス度
が違ってくる。
・
テストがまた赤点だった。
・・・ 4月からすべて赤点だ,(単位の取得は)無理だろうな。
・・・ いやだな。おもしろくない。 頑張ってもしかたない。
受け止め方や感じ方,考え方が変わってくると,不快やストレスは小さくなったりする。
テストがまた赤点だった。
・
−175−
・・・
あと2回あるから,何とかなるだろう。
・・・
頑張ってみるか。授業をもっとわかるように教科書を読むか。
(プラス思考)
6
研究の結果と考察
(1) 指導モデルの評価と改善の過程
①
第一次,第二次評価における評価結果と改善点
試案の評価項目の観点に基づき,第一次評価は作成者が,第二次評価は研究協力員による評価を実
施した。評価がAにならなかった箇所については問題点を明らかにして,改善を行った。主な改善点
は以下の通りである。
ア
興味を持って授業の最初から生徒が動くことはなかなか難しい。1時間1時間それぞれの導入
部分を考えて取り組む方がよい。ゲーム的なものから入って工夫するようにという指摘があり,
導入時における,アイスブレイキングの検討をした。
イ
「生徒の発達成長段階にあった学習内容であるか。」では,人の話を真剣に聴く傾聴訓練が必
要という指摘があった。人の話をよく聴くことが活動の基本でもあるので,傾聴を目標にした学
習活動を初めに取り入れた。
ウ 「評価の観点と方法は適切か。」では,評価の方法をわかりやすくするよう指摘があったので,
(観察)(ワークシート)と明記した。
エ
「ワークシートの設問は,各自の活動内容を理解,確認を助け効果的か。」では,生徒が楽し
く取り組めるようにイラストや飾り文字を取り入れるとよい,という指摘があった。生徒が学習
内容を理解して興味を持って取り組めるように顔の表情が把握できる絵を取り入れた。また,自
己の認識,発見に効果的であるように,自由に記入できるスペースにするようにした。
②
第三次評価における研究協力員の視点に基づく評価結果と改善点
第三次評価は,研究協力校において指導モデルを試行した。研究協力員による授業観察を通して評
価を行い,そこで出された問題点に対して,検討,修正,改善を実施した。主な改善点は以下のとお
りである。
ア
内容的に多すぎると,生徒たちが他の人の発表や考えに共有するという時間が十分でない,深
まりまでいかないという指摘があったので,学習内容を厳選して,グループでの話し合いの時間
も充実するようにした。
イ
枠を設ける。スムーズに進行できるよう指示の仕方を工夫するようにという指摘があった。一
人一人の学習への取り組み方を教員が把握することは,よい学習の成立に欠かせない。全員が集
中して取り組めるよう,教員は工夫して取り組む努力を忘れないようにする。
③
試行中の生徒の学習活動に基づく改善点
ア
「私の気持ち,あなたの気持ち 」「私のコマーシャル」で,学習について教示(デモンストレ
ーション)が不足していることが感じられた。ロールプレイを取り入れることで,生徒たちが学
習活動を明確に認識できると考える。
イ
学習活動の枠をしっかりつけないと,だらだらしてしまう。インストラクションでは,生徒一
人一人をよく観察し,集中できない子どもに気持ちを落ち着かせ集中力を高めて,レディネスを
高めてやることが重要である。
ウ
エゴグラムの質問紙法の自己採点で,数値を教科の試験と同様に考える生徒がいた。数値が高
ければよいというわけではないことと,時間とともに変動するということを説明する。
−176−
(2) 研究目標の達成状況
①
学習活動から
ワークシート,ふりかえり用紙,学習活動アンケート・感想文の分析から,生徒一人一人の学習活
動中の様子,気がついたことや思ったこと,考え方を理解する。それによって,生徒たちは,自分ら
しく考え,話し,書くという学習活動ができたか,そして新たに気がついたことや学んだことがあっ
たかを考察したい。
ア
自分らしく言ったり書いたりできたか。
授業後のアンケートで「自分らしく言ったり書いたりできましたか。」について,「できた。」と
答えたのは24人,「できなかった。」と答えたのは1人であった。「自分らしく言ったり書いたりで
きました 。」は,満足感が表れている。人格が尊重され,周囲のあたたかさを感じることができた
のだと考える。生徒はふりかえりカードで「自分の話を最後まで聞いてくれて,とてもうれしかっ
た。相手もいっぱい話をしてくれてよかった 。」と書いている。このことは,自尊感情の育成のう
えでも重要なことである 。『ストレスを乗り越えるために』という質問に生徒は次のようにあげて
いる。
「忘れること。」
「全部よい方に考えた方がよい。」
「スポーツ。」
「釣り。」
「大好きな曲を聴く。
すごく気分がハイになるから。」
「相談する。」
「趣味や音楽を聴くなどして気持ちを落ち着かせる。」
「そのストレスのプラス面を見つける 。」「気分転換 。」「できる限りのことをする 。」「いやなこと
でもなるべくプラス思考で考えるのが,ストレスを乗り越えられると思うからよいと思った。」「深
呼吸。」
そして ,『ストレスを乗り越えることについて思ったこと』には ,「がまんするのみ 。」「乗り越
えるだけ強くなれる 。」「とてもよいことだと思った 。」「気合いで乗り切る 。」「ひたすら頑張るし
かないんじゃ 。」「何事もプラス思考で考える 。」「さっぱりする 。」「人に迷惑をかけず自分がすっ
きりすることをする。」
「自分の力が大切。」
「自分の好きなことをする。」
「楽しいことをする。」と,
書いている。
自分らしい見方,考え方が書かれている。自分らしく学習活動できたとおおむね理解できる。
イ
自分のよさ,友達のよさは理解できたか。
1時間目の『今日相手の友達についてよかったことわかったこと』には「共通点があった。」「話
しやすかった 。」「好きな人がたくさんいることがわかった 。」「おもしろい人だとわかった 。」「自
分についてどんなふうに思っているかがわかった 。」「好きなものがいろいろあっていいなと思っ
た。」などが書かれている。
協力(努力)してできることの喜びで,トラストアップを行った。そのときの感想を表2に示す。
トラストアップの感想
(表2)
トラストアップは
楽しかった
楽しくなかった
4人でできた
12人
a
10人
d
2人
2人でできた
6人
b
4人
e
2人
できなかった
4人
c
1人
f
3人
理由
a
成功したから。うまく友達と息を合わすことができたから。
b
久し振りに友達と呼吸を合わすことができたから。
c
特になし。
f
できなかったから。
( d,eは無答 )
楽しかった理由として ,「成功したから 。」があがっている 。「できた 。」という体験,満足感。
これは自己効力感を感じさせることができたと思う。課題は,全員がこのようにできたという気持
−177−
ちを感じられるようにすることである。
このトラストアップを上手にできるために思うこととして,「息を合わせること。」「呼吸を合わ
せて同じ力で引き合う。」「やる気。」「気合い。」「二人の力を合わせる。」「協力する。」をあげてい
る。そして後のペアリラクゼーションを行って,相手の友達へのメッセージに「リラックスできま
した。」「よかったありがとう。」「今日は楽しかった。」「よくがんばった。」と,相手の友達をねぎ
らい,ともに活動できた喜びが書かれている。友達のよさを肌で感じることができる体験だった。
エゴグラムを各自作成して自分のパーソナリティーの理解をさせた。自分のよさに気づくことが
できたと答えている生徒は12人であった。「感性豊か。」「たぶん,NPだと思う。自分からあいさ
つをするほうだから 。」などをあげている 。『努力していきたいこと』として,「考えをはっきり言
う。」「新聞を読む。」「もっと冷静になる。」「人に親切になる。」「考えること,趣味を持つ。」など
をあげている。
授業の最後に行われた ,『今日一緒のともだちへのメッセージとしてあなたなりに書く』では,
「ちゃんと発表できていました 。」「欠点を補うという考えがよかった 。」「リーダーとして頑張
った 。」「しっかり者 」「友達思いでやさしいと思った 。」「あんまり気にしない方だなと思った 。」
「友達を信用している。」「まじめだね。」「これからもがんばれよ。」などが書かれていた。
『メッセージを読んで感じたこと』について次のように書いている 。「人の考えはいろいろ 。」
「みんなの気持ちがわかった 。」「メッセージを読んで,いろいろわかった 。」「うれしい 。」「と
てもうれしかったです。」
以上のように,学習活動は,友だちへの気づき,自分への気づきの機会になったと思われる。
ウ
人の気持ちを理解することを学習できたか。
『こんなときイライラ,不快だ』を見て思ったこと,感じたことの中に,「人によって,ストレ
スに感じることが違うことがわかった 。」という感想がある。また対照的に ,「そうそう,と反応
したくなるような感じになった 。」という感想があった。生徒たちは人それぞれの感じ方があるこ
と,また自分と同じことを人も感じるんだということを学ぶことができたと思われる。
『仲のよかった友達が口をきかなくなってしまった』という状況で,どのように対応していくか
で,3人の生徒の回答を表3に示した。
生徒の回答
質問項目
生徒
(表3)
a
生徒
b
生徒
c
どうしたらよいか
相談に乗ってあげたい
後で話しかけてみる
状況の理解
つらい
話を聴く
原因は
自 分 が 悪 いか ,相 手 が 悪い
話を聴けばわかる
わからない
悩 み があるなら相談してほ
ま た話ができるようにした
しい
い
か
希望していること
仲良し
まず何をすべきか
話をする
話しかけてみる
自分から声をかける
自分にできること
やさしくする
明るく話しかけてみる
自分が悪かったのなら謝る,
努力することは
やさしくなる
相手を理解しようと頑張る
慰める
友達の気持ちを慰める
その人の気持ちになった,その人の気持ちに立った見方,考え方が見られる。人の気持ちを理解
する学習に有効であったと考える。
エ
プラス思考は育成できたか。
『前の試験で赤点が3つを超えてしまった。どれも得意でないから,次の試験に自信がない 』と
−178−
いう状況で,生徒たちは次のようなプラス思考を試みている。
「はじめは『あーあ』だなと思った。プラス思考では,次頑張ればいいかなと思い,友達に聞い
たり先生に聞いたりするのがベストだと考えた 。」「はじめは『ダメだな』と思った。プラス思考
では悔やんでもしょうがないと思い,次のテストに向けて勉強するのがベストだと考えた 。」「は
じめは『このままではまた赤点だな』と思った。でもまだ何とかなるかなと思い,授業中には眠ら
ないで,先生の話をよく聞いて,ノートをよくとり,予習復習をするのがベストだと考えた。」「は
じめは『このままでは赤点だな』と思った。プラス思考では,勉強すれば大丈夫かなと思い,苦手
なものを基本から覚えるのがベストだと考えた 。」「はじめは,『うわっ!予想以上,だな』と思っ
た。プラス思考では,頑張る目標ができたかなと思い,30点以上を取るというゴールを作り取り組
むのがベストだと考えた。」
『あなたのプラス思考』として出されたものは ,「何とかなる 。」「点数悪くてもいいように考え
る 。」「仲良くなる 。」「何でもいいことにつながる 。」「マイナスの考えをまったく逆にする 。」「今
を一生懸命頑張ること。」「ポジティブシンキング。」などである。
このように,自分らしいプラス思考に基づいた考えが述べられていることから,プラス思考の育
成に有効であったと考えられる。
以上のように,学習活動から,生徒たちは自己認識や友達のよいところに気づく機会になったと考
えられる。生徒一人一人の柔らかな感性や課題に向かって取り組むという思考力の育成に有効だった。
シート,カードからは,さまざまな気づき,感想,考え方が見られる。そこには,生徒の豊かな心の
状態を含んでいる。
②
授業前後の検査から
Q−Uアンケート調査では,学校生活意欲尺度については事前と事後に大差は認められない。学級
満足度尺度の領域で,承認得点は,周囲の人からの受容度が現れると考えられ,学級全体の生徒たち
の受容,共感する心,思いやりの様子を把握する手がかりになる。7月に要支援だった3人について
は,いずれも11月には承認得点が大幅に上っている。彼らは学習活動でも熱心に取り組んでいた。学
級全体では,7人の生徒の承認得点が上昇している。承認得点が上昇している7人の生徒は自己肯定
度インヴェントリー検査においても11月実施のものが上昇している。自己肯定度インヴェントリー検
査は,学級全体の平均点7月の30.5点に対して,11月は36.9点であった。
今回の学習活動によって,友達との人間関係がよくなり,自己の認識を促していると考えられる。
しかし,確実だと断定することはできない。検査値の変動は,はたしてこの学習活動によるものなの
か。それは,この学習活動をしない対照群に対して,同じ時期にこれらの検査を実施してみることで,
より明確に判断できると思う。
学習活動を通して積極的でまじめに取り組んでいると思われた生徒がみな学級満足群になっている
わけではないことがわかった。日常自分らしく話すことができる生徒は,学級満足度も高いと言える
のかもしれない。
今回,承認得点が上がっていなかった生徒たちについては,HR担任と連携して,生徒の理解をさ
らに深め,より望ましい状態になるような援助について考えていきたいと思う。
−179−
(3) 本指導モデルの活用の仕方と留意点
本指導モデルは,豊かな心を育てることを目標にした,心の教育の授業実践モデルである。自己認
識を深め,友達のよさに気づく。自分らしく考えて取り組む。お互いに思いやる気持ちを育てる。学
習活動は毎時細かな目標が掲げられているが,どの回にも共通して取り入れた活動は,自分らしく考
え,話し,書くということである。実践するにあたっては,楽しく取り組めるような場づくりには特
に留意していただきたいと思う。
構成的グループ・エンカウンターの学習活動に,書くことを取り入れたことはよかった。アンケー
トの「自分らしく話したり,書いたりできましたか 。」の問いに ,「自分らしく話すことはできなか
ったけれど,自分らしく書くことはできた 。」という意見があった。自分を表出することができにく
い生徒もこのように書くことによって学習に取り組みやすくなることが可能になる。シェアリングで
は,いきなり話し合おうと言っても思うように話し合いができにくいこともあるが,思ったことを書
いてみる。そこには自分の心がある。そしてそれを友達が見る。そのときに,気づきがあり,そこで
言葉が出る,本音が出る。友達と話ができる。このような過程は学習活動に効果的であると考える。
そこで,楽しい,おもしろいと感じられると,後の学習にも効果がある。
生徒たちの「書く学習活動」は,学習を促すという効果とともに,生徒たちを見る教員の理解を助
ける。書かれたシートは心のノートであり,生徒の心情の理解に大きな力になるのである。これらの
ワークシート類を,生徒に返却するようにすると,彼らは,自分でそれをふり返ることができる。そ
こでまた,心の学習ができるのである。
本指導モデルは,5時間の学習を基本に作成したものであるが,実際に行った授業では忙しく感じ
たことが多かった。可能な範囲で,多くの時間を費やして取り組むと,さらに楽しく,学習を深める
ことができるだろうと考える。
7
研究の成果と今後の課題
豊かな心を育てるホームルーム活動における学習活動の研究をとおして,認識したことがある。
学習活動の中で生徒たちが書いたものの例は,真剣に取り組んだ結果,感じられたこと,思ったこ
とである。ワークシートの中には ,「わからない 。」「つまらない 。」といった否定的な,また意欲が
ないと感じられるものもあった。教員が望んでいたように取り組むことができない生徒もいた。学習
の成果も,生徒の学習活動への取り組み方によって大きく変わってくる。今回,Q−Uアンケートで
承認得点が上がっている生徒たちは,皆,学習活動が積極的で,楽しんで取り組んでいた。授業後に,
「今日の資料をください 。」と言ってきた生徒。授業後の感想文で「いろいろ勉強になりました。あ
りがとうございました。」と書いてくれた生徒。生徒たちの気持ちは尊い,大切にしたいと思う。
教員の働きかけが重要である。生徒たち全員が学習活動に積極的に取り組むことを目指したい。1
回1回のワークシートが心のノートであるならば,教員はそれをもとに生徒の理解に努めることがで
きる。授業後に話を聴いてみるなど重要なことである。その話には,これまでに気づくことのなかっ
たその生徒のよさが感じ取れることもあるだろう。
「人間は善くなる力が内在している 。(ロジャーズ )」一人一人のよさを大きくしてあげるのが教
員の役割であろう。
−180−
参考文献
研究協力校
・高等学校学習指導要領 改訂の基本方針/総則
文部科学省
峡南高等学校
校長
武川
研究協力員
・生活体験や人間関係を豊かなものとする生徒指
入倉
淳一
甲運小学校教諭
導-いきいきとした学校づくりの推進を通じて-
小林
淳二
増穂中学校教諭
中学校・高等学校編
文部省(現文部科学省)
・学校における教育相談の考え方・進め方
−中学校・高等学校編−文部省(現文部科学省)
・新しい時代を拓く心を育てるために
和彦
長谷川
和子
甲府東中学校教諭
笠井
幹彦
峡南高等学校教諭
佐野
和規
中央高等学校教諭
益子
邦子
大月短期大学付属高等学校教諭
中央教育審議会(答申)平成10年6月30日
・生きる力と心の教育
塚野征編著
・シリーズやさしい心理学
東洋館出版社
青年期の心理
返田健著
研究指導者
依田
勝芳
教育相談部研修主事
教育出版
・エンカウンターで学級が変わる
高等学校編
國分康孝監修
図書文化社
・交流分析とエゴグラム
新里里春他
・月刊学校教育相談
チーム医療
2002年1月号
学校教育相談研究所編
・自分を見つめ好きになる本
する授業実践プラン
ほんの森出版
人間関係を豊かに
小学館
・新・教育心理学事典
依田新監修
金子書房
・教育相談事典
金子書房
平成15年度
山梨県総合教育センター
長期研修員研究報告書
執
筆
者
長期研修員
渡辺
哲二郎
本研究で開発した指導モデルについては,本センターの研究開発部までお問い合わせください。
−181−