ZEB を目指したビル用マルチエアコン

ZEB を目指したビル用マルチエアコン
Multiple split air-conditioning system for “net-Zero Energy Building”
ダ イ キ ン工 業 株式 会 社
環 境 技 術研 究 所
Daikin Industries, Ltd. Environmental technology laboratory
松 井 伸 樹、 西 村忠 氏
Nobuki Matsui, Tadafumi Nishimura
キ ー ワ ード : ネッ ト ・ゼロ ・ エ ネル ギ ー・ ビ ル( net zero energy building) 、 ビ ル用 マ ルチ エ アコ ン
( Multiple split air-conditioning system)、潜熱・顕 熱 分離 空 調シ ス テム( Air conditioning system
with individual humidity and temperature control) 、 部分 負 荷効 率 ( Partial load efficiency) 、
冷 媒 蒸 発温 度 ( Refrigerant evaporation temperature )
1 . 開 発の 背 景
近 年 、建 築 物の 省 エネル ギ ー を推 進 する 目 的で、ネ ッ ト・ゼ ロ・エ ネ ルギ ー の 実現 を 目指 す 取組が 実
施 さ れ てい る 。こ の ような 中 、業務 用 建築 物 のエネ ル ギ ー消 費 量の 冷 暖房熱 源 、空調 搬 送用 熱 源が占 め
る 割 合 は 40%を越 え ており 、業 務用 建 築物 の エネル ギ ー 消費 量 削減 に は空調 消 費 エネ ル ギー 削 減 が強 く
求 め ら れて い る。
こ う した 状 況の 中 、ヒー ト ポ ンプ 空 調機 の エネル ギ ー 効率 は 、ト ッ プラン ナ ー 方式 で の省 エ ネ規制 の
下 で 飛 躍的 に 向上 し てきた 。こ こで の エネ ル ギー効 率 の 向上 は 、図 1 に示す よ う に主 に 二つ の 手段で 主
に 実 現 され て いる 。
暖房能力
(2)凝縮温度を下げる
(2)蒸発温度を上げる
冷房能力
図 1
(1)圧縮機効率向上
圧縮機
入力
空 調機 の 省エ ネ ルギ ー 手 法
( 1 ) 圧縮 機 の 効 率 を高く す る こと に よっ て 、冷媒 圧 縮 に必 要 な動 力 を低減 す る 。
( 2 )冷熱・温熱 を 取 り出 す と ころ で ある 熱 交換器 の 効 率を 高 め、冷 媒と空 気 の 温度 差 を小 さ くする こ
と に よ って 圧 縮機 の 必要仕 事 量 を低 減 する 。
一 方 、図 2 に 示す よ うに、( 2 )の 手 段 で冷 房 運転 時 に おけ る エネ ル ギー効 率 を 高め て いく と 冷媒の
蒸 発 温 度が 高 くな る ことに よ っ て 、省 エ ネル ギ ーで は あ るが 除 湿さ れ ないと い っ た快 適 性の 観 点から は
問 題 の ある 空 調機 に なって い く こと が 懸念 さ れる。つ ま り 、除 湿 量と エ ネル ギ ー 効率 は トレ ー ドオフ の
関 係 に あり 、必要 除 湿量確 保 に よる 快 適性 の 維 持を 大 前 提と す ると 、エネル ギ ー 効率 の 向上 に は限界 が
あ っ た。こ の課 題 を解 決す る た めに は、1 台の 機器 で 湿 度と 温 度を 同 時にコ ン ト ロー ル する 現 行の空 調
シ ス テ ムか ら 、湿 度 と温度 を 別 々の 機 器で 制 御する 潜 熱・顕 熱 分離 空 調シス テ ム が期 待 され て いる。潜
熱・顕 熱分 離 空調 を 実現す る た めに は 、高 効 率に湿 度 を 処理 す る機 器 が必要 と な る。こ のよ う な中、吸
着 現 象 を利 用 して 湿 度処理 を 行 うデ シ カン ト 技術を 用 い た外 調 機が 注 目を受 け て いる 。
35%
効率比
30%
潜熱比
25%
20%
15%
潜熱比
効率比
200%
180%
160%
140%
120%
100%
80%
60%
40%
20%
0%
10%
5%
0%
5
8
11
14
17
20
蒸発温度(℃)
図 2
冷 媒蒸 発 温度 と 効率 、 潜 熱処 理 能力 の 関係
図 3 に 業務 用 空調 機 の出荷 総 冷 房能 力 比率 を 示す。図 に 示す よ うに 、ビ ル用 マ ル チエ ア コン の 出荷総
冷 房 能 力割 合 は 4 割 強と業 務 用 空調 機 の中 で 大きな 割 合 を占 め て い る 。従っ て 、業務 用 空調 全 体のエ ネ
ル ギ ー 消費 量 削減 を 実現に は 、 ビル 用 マル チ エアコ ン の エネ ル ギー 消 費量削 減 が 必須 で ある 。
100%
ターボ
冷凍機
90%
出荷総冷房能力比
80%
吸収式
冷凍機
70%
60%
チリング
ユニット
50%
40%
30%
ガス
ヒートポンプ
20%
設備用
10%
2013
2012
2011
2010
2009
2008
2007
2006
2005
2004
2003
2002
2001
2000
0%
ビル用
マルチ
日本冷凍空調工業会の空調機出荷状況調査結果より推測
図3
業務 用 空調 機 におけ る 出 荷総 冷 房能 力 比率
図 4 に ビル 用 マル チ エアコ ン を 用い た 潜熱・顕熱分 離 空 調シ ス テム を 示す。主 と して 潜 熱を 処 理する
ヒ ー ト ポン プ を用 い た調湿 機 能 付外 気 処理 機 ( HP デ シ カン ト ) と 、 顕熱処 理 に 特化 し たビ ル 用マル チ
エ ア コ ンを 組 合せ て 構成 さ れ て いる 。
顕熱処理に特化した
ビル用マルチエアコン
調湿機能付外気処理機
(HPデシカント)
・湿度コントロールを行う
(湿度センサにより湿度処理量を制御)
・温度コントロールを行う
(高い蒸発温度で運転)
冷媒配管
図 4
ドレン排水配管
ビ ル用 マ ルチ エ アコ ン を 用い た 潜熱 ・ 顕熱分 離 空 調シ ス テム
本 報 に おい て は、ビ ル用マ ル チ エア コ ンを 用 いた潜 熱・顕熱 分 離空 調 システ ム の 性能 向 上を 狙 った開
発 を 行 い、実 在の 建 築物に お け る実 証 試験 結 果およ び 省 エネ 建 築物( グリー ン ビ ルデ ィ ング )に本シ ス
テ ム が 採用 さ れた 際 の性能 予 測 結果 に つい て 報告す る 。
2 . 調 湿機 能 付き 外 気処理 機 ( HP デ シ カン ト )
2-1. 従 来の デ シカ ン ト空 調 機 の課 題
図 5 に一 般 的な 2 ロータ ー タ イプ の デシ カ ント除 湿 機 の構 成 図を 示 す。従 来 の デシ カ ント 方 式は、吸
着 材 を 塗布 し たロ ー ターを 回 転 させ て 湿度 を 含んだ 高 湿 度の 空 気を ロ ーター に 流 通し て 除湿 し (①→
② )、水分 を 含ん だ ロータ ー を 熱源 で 温め た 空気( ⑤ → ⑥)で 再生 す る(⑥ → ⑦ )こ と によ っ て乾燥 さ
せ る こ とに よ り調 湿 (除湿 ) 運 転を 実 現し て いる。
顕熱交換ロータ
給気
③
室内空気
④
吸着ロータ
②
⑤
⑥
加熱
コイル
図 5
①
室外空気
⑦
排気
温水
室外空気①
従 来の デ シカ ン ト外
調 機 の構 成 図( 2
⇒ 吸着ロータにより除湿②
⇒ 顕熱交換ロータにより冷却
⇒室内へ給気③
ロータ ー 方 式)
運 転 時 の各 操 作ポ イ ントに お け る空 気 線図 を 図 6 に 示 す 。暑く 湿 った 空 気① が 吸 着ロ ー ター を 流通し 、
水 分 を 吸着 す るこ と によっ て 乾 燥す る とと も に 、水 分 を 吸着 す る際 に 吸着熱 が 発 生す る ため に 温度が 上
昇 し 、熱い 乾 燥し た 空気② が 得 られ る 。こ の 時 、空 気 ② は吸 着 ロー タ ーを再 生 す る空 気 ⑥の 相 対湿度 で
理 論 的 な吸 着 限界 線 が存在 し 、 33℃ , 22.0g/kg の 空 気 を 9.0g/kg ま で除湿 す る ため に は 68℃ の理 論 再
生 温 度 が必 要 とな る 。実際 の 装 置上 で は熱 伝 達ロス( 熱 交換 器 -空 気、空気 - ロ ータ ー )、ロー ター の
熱 容 量 のロ ス など が 積み重 な る ため 80~100℃の高 温 の 再生 温 度が 必 要とな り 、電気 ヒ ータ ー などの 低
効 率 な 熱源 で の再 生 が必要 と な るた め 、ガス エ ンジ ン の 排熱 な ど高 温 の排熱 発 生 源が 存 在す る 場所や 冷
却 吸 着 では 得 られ な い超低 湿 度 な空 気 を必 要 とする 特 殊 用途 で しか 普 及して こ な かっ た 。
25
7
1
20
絶対湿度(g/kg)
再生理論限界線
15
10
5
4
5
3
6
2
吸着理論限界線
68℃
0
25 30 35 40 45 50 55 60 65 70
温度(℃)
図 6
従 来の デ シカ ン ト外 調 機 空気 線 図( 2 ロータ ー 方 式)
2-2. 直 接冷 却 吸着 、 直接 加 熱 再生
デ シ カン ト 除湿 機 を、一 般 的 な空 調 機と し て普及 さ せ るた め には 大 幅な効 率 向 上が 必 要で あ った。効
率 を 向 上さ せ るた め に吸着 材 の 再生 を ヒー ト ポンプ の 凝 縮熱 ( 約 40℃ )程 度 の 低温 で 実現 可 能とす る
必 要 が あっ た 。そ こ で、吸 着 理 論限 界 の低 温 度化を 実 現 する た めに 、直接冷 却 し なが ら 吸着 、直接加 熱
を し な がら 再 生を 行 った際 の 理 論再 生 温度 の 試算を 行 っ た。
直 接 冷 却吸 着 およ び 直接 加 熱 再 生を 実 施し た 際の各 操 作 ポイ ン トに お ける空 気 線 図を 図 7 に 示 す 。図
に 示 す よう に 、吸着 熱 を吸 着 し なが ら 直接 除 熱する こ と によ っ て図 6 と同じ 空 気 条件 に おい て 理論再 生
温 度 が 36℃ に 低減 し た。 こ れ によ っ て、 直 接冷却 吸 着 ,直 接 加熱 脱 着が実 現 で きれ ば 、ヒ ー トポン プ
の 凝 縮 熱に よ る吸 着 材再生 が 実 現可 能 であ る ことが わ か った 。
25
5
1
絶対湿度(g/kg)
20
再生理論
限界線
15
10
3
4
2
吸着理論
限界線
5
35.7℃
0
25
28
31
34
37
40
温度(℃)
図 7
直 接冷 却 吸着 、 直接 加 熱 再生 空 気線 図
2-3. 熱 交換 器 一体 型 デシ カ ン トデ バ イス
実 際 に直 接 冷却 吸 着 ,直 接 加 熱再 生 を実 現 するた め に 空調 機 の熱 交 換器の フ ィ ン上 に 吸着 材 をコー テ
ィ ン グ した デ バイ ス の開発 を 実 施し た 。開 発 したデ バ イ ス、熱 交換 器 一体型 デ シ カン ト デバ イ スの外 観
図 を 図 8 に 示 す。
室内供給
室内より
伝熱管
室外より
室外放出
図 8
フィン
フィン
(熱交換器一体型
(クロスフィン
デシカントデバイス) 熱交換器)
熱 交換 器 一体 型 デシ カ ン トデ バ イス
図 に 示 す通 り 熱交 換 器一体 型 デ シカ ン トデ バ イスは 、通 常 の空 調 機に 使 用さ れ る クロ ス フィ ン 熱交換
器 の 表 面上 に 吸着 材 の塗膜 を 形 成し た もの で ある。開 発 し たデ バ イス を ヒー ト ポ ンプ サ イク ル に組み 込
ん だ 機 器の 開 発を 実 施した 。二 つ の熱 交 換器 一 体型 デ バ イス を ヒー ト ポンプ 空 調 機の 冷 媒回 路 に接続 す
る こ と によ り 、再 生 を行う 熱 交 換器 一 体型 デ バイス は 凝 縮器 と して 動 作し、吸 着 を行 う 熱交 換 器一体 型
デ バ イ スは 除 湿器 と して動 作 す る。従 って 、直 接冷 却 吸 着に よ って 吸 着熱を 除 熱 する こ とに よ り暑い 湿
っ た 空 気を 冷 たく 乾 燥した 空 気 にす る と同 時 に 、発 生 す る凝 縮 排熱 を 利用し て 吸 着材 の 再生 を 行うこ と
が 出 来 る。
3 . 潜 熱・ 顕 熱分 離 空調シ ス テ ム
ビ ル 用 マル チ エア コ ンは、冷 媒 を 直接 室 内に 搬 送す る こ とに よ って 冷 暖房を 行 う 直膨 空 調シ ス テムで
あ る 。直膨 空 調シ ス テムの 利 点 とし て 、大 き く以下 の 三 つが 考 えら れ る。一 つ 目 は、エ ネル ギ ー密度 が
高 い 冷 媒を 搬 送し て 空調に 必 要 な熱 量 を供 給 するた め 搬 送に 必 要な 動 力が小 さ い こと 、二 つ目 に 熱交 換
を 行 う 回数 が 少な い ため、潜 熱・顕熱 分 離空 調 シス テ ム のよ う に冷 媒 と空気 の 温 度差 を 小さ く するこ と
に よ っ てエ ネ ルギ ー 効率を 高 め る方 式 に適 し ている こ と 、三 つ 目に 、冷 媒の 膨 張 機構 を 室内 側 に有す る
た め 、オ フィ ス ビル の 空調 負 荷 の大 半 を占 め る冷房 運 転 時に 搬 送途 上 の配管 に お ける 熱 損が 発 生しな い
こ と で ある 。
図 9 に 典型 的 なオ フ ィスビ ル に おけ る 、空 調 機の運 転 負 荷率 と 年間 の 空調負 荷 積 算 値 の 関 係 を 示 す 。
図 の 通 り、負 荷率 30~ 50%程 度 の 比較 的 低い 負 荷率 が 年 間 空 調 負荷 に 占める 割 合 が大 き いこ と がわか っ
た。
図9
典型 的 なオ フ ィスビ ル に おけ る 負荷 率 と負荷 積 算 値の 関 係
そ こ で 、直 膨 空調 シ ステム の 利 点を 生 かし な がら、必 要 な空 調 負荷 に 応じて 冷 媒 圧力 を 制御 す ること
に よ り 、特 に 部分 負 荷時の 効 率 を向 上 させ る ことに よ っ て、年 間で の 空調由 来 の エネ ル ギー 消 費量削 減
を 狙 っ たビ ル 用マ ル チエア コ ン の開 発 を行 っ た。開 発 し たビ ル 用マ ル チエア コ ン の特 性 を、 図 10 に 示
す 。図 に示 す よう に 必要な 空 調 能力 に 応じ て 、冷媒 圧 力 を可 変 にす る 制御を 採 用 する こ とに よ って、従
来 の ビ ル用 マ ルチ エ アコン と 比 較し て 、部 分 負荷時 に お ける 効 率を 大 幅に向 上 さ せ る こ と に 成 功 し た 。
300
開発
開発
開発
既存
既存
既存
250
25℃
30℃
35℃
25℃
30℃
35℃
効率比(%)
200
150
100
50
0
0%
20%
40%
60%
80%
100%
負荷率
図 10
開発 を 行 っ た ビル 用 マ ルチ エ アコ ン の特性
開 発 の ポイ ン トの 一 つ目は 、潜 熱・顕 熱分 離 空 調を 採 用 する こ とに よ って、蒸 発 温度 の 上限 を 大幅に
高 く す るこ と が可 能 となっ た こ とで あ る。二 つ目は 、顕 熱制 御 処理 に 特化し た ビ ル用 マ ルチ エ アコン に
適 し た 圧縮 機 の開 発 である 。ビ ル用 マ ルチ エ アコン に 広 く用 い られ て いるス ク ロ ール 形 圧縮 機 は、固 定
ス ク ロ ール と 作動 ス クロー ル を 差圧 で 押し 付 けあう こ と で、圧 縮室 を 形成し て い るた め 、差 圧 が低下 す
る( 圧 縮機 の 圧縮 比 が低下 す る )と 、冷媒 の 漏 れを 発 生 し運 転 効率 が 大幅に 低 下 する と いう 特 性をも っ
て い た 。従 っ て、高 低 差圧 を あ る程 度 以上 低 下させ る こ とが 出 来な い ため、蒸 発 温度 の 上限 を 大幅に 高
く す る こと が 出来 な かった 。そ こで 低 差圧 ,低 回転 の 領 域で 運 転効 率 が低下 し に くい ス クロ ー ル圧縮 機
を 新 規 開発 し て搭 載 するこ と で 、よ り 低い 高 低差圧 ( 部 分負 荷 運転 ) での高 効 率 運転 を 可能 と した。
三 つ 目は 、 目標 温 度に対 し て 制御 を 行う 従 来の空 調 シ ステ ム と異 な り、顕 熱 ( 温度 ) と潜 熱 (湿度 )
を 分 離 して 別 々に 制 御を行 う こ とに よ って 図 11 に 示 す よう に 潜熱 を 過剰処 理 す るこ と がな く なるた め
空 調 処 理熱 量 が低 下 するこ と に よっ て 、エ ネ ルギー 消 費 量の 削 減を 可 能とし た 。
快適範囲
ハイブリッド
空調システム
適切な室内
環境に設定
従来
システム
顕熱負荷に合わせた
運転を行うため、徐湿しすぎ
空調設定
温度
図 11
空調 シ ステ ム の運 転 目 標
4 . 実 証試 験
開 発 シ ステ ム (ハ イ ブリッ ド 空 調シ ス テム ) の効果 を 検 証す る ため に 、実証 試 験 を行 っ た。
実 証 試 験は 、 名古 屋 大学内 の オ フィ ス で行 っ た。 図 12 に 示す よ うに 、 一つ の 部 屋を 実 証試 験 のため
に 二 つ に分 割 して 従 来型の 空 調 シス テ ムと 開 発シス テ ム を併 設 し 、同 時 運転 可 能 とし て 比較 検 証を行 っ
た 。導 入し た 装置 は 、従来 シ ス テム 側 は、通 常のビ ル 用 マル チ エア コ ンと加 湿 機 能+ 加 熱コ イ ル付全 熱
交 の 組 合せ と した 。試験ス ペ ー スの 広 さを 完 全に同 一 に は出 来 なか っ たため 、以 後の エ ネル ギ ー消費 量
の 数 値 は全 て エネ ル ギー消 費 量 を床 面 積で 割 った数 値 で 比較 検 証を 行 う 。床 面 積 で割 っ ても 厳 密にい う
と 使 用 条件 や 方位 に よって 空 調 負荷 に 差が 出 る可能 性 が ある た め 、実 運 転状 態 を 模擬 可 能と す るエネ ル
ギ ー シ ミュ レ ーシ ョ ンを作 成 し て比 較 検証 を 行った 。
従来システム
ハイブリッド空調システム
151.2㎡
12人在席
226.9㎡
22人在席
室外機:開発ビルマル12HP
室内機:7.1kW×4
外調機:DESICA×2 (換気量:375m3/h)
図 12
室外機:標準ビルマル14HP
室内機:FXYFP80B×4
外調機:VKMP50GAM×2 (換気量:500m3/h)
熱回収+温調+加湿
実証 試 験サ イ トの 設 備 据付 け 概要
4.1
夏 季試 験 結果
6 月 ~ 9 月の 間 運転 を 実施 し 、 室内 環 境と 消 費電力 量 の 計測 を 行っ た 。
従 来 シ ステ ム とハ イ ブリッ ド 空 調シ ス テム の 、運転 期 間 中の 室 外温 湿 度、室 内 温 湿度 の 1 時 間 毎の平
均 値 を 空気 線 図上 に 記した 図 を、図 13,14 に 示す 。図に 示 す通 り 28℃設 定 に おい て、ハ イ ブリッ ド 空
調 シ ス テム は 目標 室 内環境 に 温 度湿 度 共に 制 御出来 て い るが 、従 来シ ス テム は 湿 度が 目 標室 内 環境よ り
も 高 い 部分 に 分布 し ており 、除 湿不 足 を発 生 してい る こ とが わ かっ た 。東日 本 大 震災 以 後、社 会的な 電
力 不 足 を背 景 に、夏 季の設 定 温 度を ク ール ビ ズ設定( 28℃設 定 )で 運 用され て い るこ と が多 い 。しか し
こ の 結 果か ら 、日 本 の様に 夏 季 の湿 度 の高 い 気候で 調 湿 機能 を 持た な い空調 シ ス テム を 28℃ 設 定で 運
24
23
22
21
20
19
18
17
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15
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13
12
11
10
9
8
100%
室内温湿度
70%
室外温湿度
60%
50%
絶対湿度(g/kg)
絶対湿度(g/kg)
用 す る と、 除 湿不 足 を発生 し て 快適 な 室内 環 境を維 持 で きな い こと が わかっ た 。
40%
15
17
19
21
23 25
温度(℃)
27
図 13
29
31
33
35
24
23
22
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20
19
18
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8
100%
室内温湿度
70%
室外温湿度
60%
50%
40%
15
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23 25
温度(℃)
27
29
31
33
35
28℃ 設 定時 の 室内 温 湿 度環 境
ま た 、 26℃ 設 定に お いて、 ハ イ ブリ ッ ド空 調 システ ム は 28℃ 設 定時 と 同様 に 目 標室 内 環境 に 温湿度
共 に 制 御出 来 てい る のに対 し 、従来 シ ステ ム は湿度 が 低 めに 制 御さ れ ており 、過 除湿 を 発生 し ている こ
と が わ かっ た 。
室内温湿度
ハイブリッド空調システム
100%
70%
室外温湿度
60%
50%
40%
17
19
21
23
25
27
温度(℃)
図 14
29
31
33
35
絶対湿度(g/kg)
絶対湿度(g/kg)
従来空調システム
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8
100%
室内温湿度
70%
室外温湿度
60%
50%
40%
17
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27
温度(℃)
29
31
33
35
26℃ 設 定時 の 室内 温 湿 度環 境
室 内 の 執務 者 に対 す るアン ケ ー ト結 果 を 図 15 に示 す 。 執務 者 の体 感 におい て も ハイ ブ リッ ド 空調シ
ス テ ム の方 が より 快 適であ る と の結 果 を得 た 。
温冷感
快適性
100%
80%
寒い
60%
中間
40%
暑い
快適
80%
回答率
回答率
100%
60%
40%
不快
20%
20%
0%
0%
ハイブリッド
空調システム
図 15
ハイブリッド
空調システム
従来空調
システム
従来空調
システム
夏季 運 転時 に おけ る 在 籍者 の アン ケ ート結 果
夏 季 試 験期 間 中の 空 調消費 電 力 を積 算 した 値 を、運 転 時 間を 1 日 12 時 間と し て 1 日 の 消費 電 力量に
換 算 し た値 を 図 16( 28℃ 設 定 時) に 示す 。 消費電 力 量 を約 半 減で き ること が 確 認さ れ た。
換気装置
(ファン)
従来空調
システム
換気装置
(熱源)
換気装置
(待機電力)
空調機
(室内機)
ハイブリッド
空調システム
空調機
(室外機)
0.00
0.05
0.10
0.15
0.20
空調機
(待機電力)
0.25
日平均消費電力量(kWh/m2・day)
図 16
4.2
28℃ 設 定時 の 日平 均 消 費電 力 量
冬 季試 験 結果
冬 季 試 験と し て、 12 月~ 2 月 の間 運 転を 実 施した 。 冬 季試 験 期間 中 の空調 消 費 電 力 を 積 算 し た 値 を 、
運 転 時 間を 1 日 12 時 間と し て 1 日 の 消費 電 力量に 換 算 した 値 を 図 17 に示 す 。図に 示 す通 り 、消費 電 力
量 を 30%弱 削 減で き ること が 確 認さ れ た。
換気装置
(ファン)
従来空調
システム
換気装置
(熱源)
換気装置
(待機電力)
空調機
(室内機)
ハイブリッド
空調システム
0.00
空調機
(室外機)
0.05
0.10
0.15
0.20
0.25
0.30
0.35
0.40
空調機
(待機電力)
日平均消費電力量(kWhu/m2・day)
図 17
冬季 運 転時 の 日平 均 消 費電 力 量
5 . 省 エネ 建 築物 ( グリー ン ビ ルデ ィ ング ) 設置時 の 性 能予 測
実 証 試 験に よ り、ハ イブリ ッ ド 空調 シ ステ ム と従来 空 調 シス テ ムの 性 能比較 を 行 った が 、実 際 には建
物 の 方 位や 在 室人 数 の違い な ど の使 わ れ方 の 違いが あ る ため 厳 密に は 同一条 件 で の比 較 とな ら ない。ま
た 、ハ イブ リ ッド 空 調シス テ ム は特 に 低負 荷 、低外 気 の 空調 負 荷率 の 少ない 条 件 であ る 中間 期 に特に 高
い 効 率 を示 す 特性 を 持つ。従 っ て、夏 季 、冬 季 だけ の 評 価で な く、通 年で運 用 す れば よ り従 来 システ ム
と の 消 費電 力 差は 大 きくな る も のと 考 えら れ る。併 せ て 、ハ イ ブリ ッ ド空調 シ ス テム を 用い て 今後普 及
促 進 が 図ら れ る ZEB に対応 す る ため に は、実 証 試験 を 行 った 名 古屋 大 学の建 物 と 比較 し てよ り 気密,断
熱 性 に 優れ た 省エ ネ 建築物 ( グ リー ン ビル デ ィング ) に おけ る 性能 評 価結果 が 重 要で あ る。
そ こ で 、実 測 結果 を 基にし て 開 発し た シミ ュ レーシ ョ ン を用 い て、グ リーン ビ ル ディ ン グに 導 入して
通 年 で 運転 し た場 合 のエネ ル ギ ー消 費 量の 試 算を行 い 、ハ イブ リ ッド 空 調シ ス テ ムと 従 来空 調 システ ム
の 省 エ ネ性 能 の比 較 を行っ た 。空 調シ ス テム の エネ ル ギ ーシ ミ ュレ ー ション は 国 交省 官 庁営 繕 部が作 成
し た Life Cycle Energy Management Simulation Tool(LCEM) を 元に EXCEL 上 で 作成 し 、別 途 建物負 荷
計 算 を 行っ た 結果 を 入力し て 通 年計 算 を行 っ ている 。 実 証試 験 にお け る負荷 を 入 力し 、 消費 電 力を 1
時 間 毎 に計 算 した 結 果と、実 測 値を 比 較し た 。結果 を 図 18,19 に示 す 。季節 中 の 電力 消 費量 の 積算値 に
お け る 誤差 で 約 5%だ った 。 ま た、 1 時間 毎 のトレ ン ド につ い ても 実 測値と 計 算 値 は よ く 合 致 し て い る 。
計算結果
実測結果
3.5
消費電力量(kW)
3.0
2.5
2.0
1.5
1.0
0.5
7/10
7/11
7/12
7/13
7/18
7/20
7/24
7/25
7/26
7/27
8/15
8/16
8/17
8/27
8/28
8/29
8/30
8/31
9/3
9/4
9/5
9/6
9/7
9/12
9/13
9/14
9/15
9/18
9/19
0.0
図 18
実測 結 果と 計 算結 果 の 比較
電力消費量(kWh)
800
外調機
空調機
700
600
500
400
300
200
100
0
実測結果
図 19
計算結果
夏季 消 費電 力 量の 積 算 値
こ の シ ミュ レ ーシ ョ ンを用 い て 、 表 1 の条 件 で年間 消 費 電力 量 の試 算 を行っ た 。 結果 を 、 図 20 に示
す 。 通 年で 74%程 度 の省 エ ネ 効果 が 得ら れ るとい う 試 算結 果 を得 た 。月ご と の 電力 消 費量 を 比較し た
結 果 、 特に 中 間期 の 消費電 力 に 大き な 差が あ ること が わ かっ た 。
表 1
従 来 空 調 システム
ハイブリッド空 調 システム
計 算条 件
建物概要
内部発熱
高断熱
10W/m 2
設 定 温 湿度
冷房
暖房
26℃ ,50%RH
22℃ , 40%
26℃ ,50%RH
26℃ ,50%RH
1,000
外調機(全熱交)
8,000
▲74%
6,000
外調機
(HPデシカント)
空調機(室内機)
空調機(室外機)
4,000
2,000
0
従来空調
システム
ハイブリッド
空調システム
消費電力量
[kWh/Month]
待機電力
10,000
500
0
1
2
3
4
5
6 7
月
8
9
10 11 12
8
9
10 11 12
従来空調システム
1,200
1,000
800
600
400
200
0
消費電力量
[kWh/month]
消費電力量 [kWh/year]
12,000
1
2
3
4
5
6 7
月
ハイブリッド空調システム
図 20
グリ ー ンビ ル ディ ン グ にお け る電 力 消費量 の 比 較( 計 算値 )
6 . お わり に
直 膨 方 式で あ るビ ル 用マル チ エ アコ ン とデ シ カント 外 調 機を 組 み合 わ せ た潜 熱・顕 熱分 離 空調 シ ステ
ム で あ るハ イ ブリ ッ ド空調 シ ス テム に つい て 概説し た 。潜熱 、顕 熱を 分 離し て 処 理す る こと に よって 湿
度 調 節 が可 能 とな る ことに よ る 処理 負 荷の 削 減、潜 熱 処 理性 能 の高 い デシカ ン ト 外調 機 、顕 熱 処理に 特
化 す る こと で 部分 負 荷性能 を 大 幅に 向 上さ せ た高顕 熱 運 転特 化 型ビ ル 用マル チ エ アコ ン の三 つ を組み
合 わ せ るこ と によ っ て、大 幅 な 省エ ネ ルギ ー 性能が 実 現 可能 と なっ た 。
こ の シ ステ ム によ っ て、 2020 年 以降 義 務化 が 進む ZEB の実 現 可能 性 が高ま る も のと 期 待す る 。
<参考文献>
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3) 松 井 伸 樹 , 薮 知 宏 , 池 上 周 司 , 高 橋 隆 , 成 川 嘉 則 , 「 (6)温 度 ・ 湿 度 個 別 コ ン ト ロ ー ル 空 調 シ ス テ ム ( 技 術 ,
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6) 松 井 伸 樹 ,西 村 忠 史 ,林 立 也 ,奥 宮 正 哉 ,丹 羽 英 治 ,「 直 膨 個 別 分 散 空 調 機 を 用 い た 潜 熱 ・顕 熱 分 離 空 調 シ ス
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8) 西 村 忠 史 ,松 井 伸 樹 ,林 立 也 ,奥 宮 正 哉 ,丹 羽 英 治 ,「 直 膨 個 別 分 散 空 調 機 を 用 い た 潜 熱・顕 熱 分 離 空 調 シ ス
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9) 西 村 忠 史 ,松 井 伸 樹 ,奥 宮 正 哉 ,林 立 也 ,佐 藤 孝 輔 ,丹 羽 英 治 ,「 直 膨 個 別 分 散 空 調 機 を 用 い た 潜 熱・顕 熱 分
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10) 林 立 也 , 佐 藤 孝 輔 , 西 村 忠 史 , 松 井 伸 樹 , 奥 宮 正 哉 , 丹 羽 英 治 , 「 直 膨 個 別 分 散 空 調 機 を 用 い た 潜 熱 ・ 顕 熱
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分 離 空 調 シ ス テ ム エ ネ ル ギ ー 性 能 の 実 証・評 価 研 究 : 第 6 報 シ ミ ュ レ ー シ ョ ン に よ る エ ネ ル ギ ー 削 減 効 果 の 算 定 ,
平 成 24 年 空 気 調 和 衛 生 工 学 会 学 術 講 演 会 論 文 集 , 2013
12) Tadafumi Nishimura, Nobuki Matsui, Masaya Okumiya, “ Experimental Evaluation Study of The HVAC System
with Temperature and Humidity Independent Control Using Separate Type Air Conditioners ” , 11thIEA Heat
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